説明

アンテナ用布帛

【課題】本発明は、通常の生地と同様に薄地で柔軟性及び伸縮性を有するアンテナ用布帛を提供することを目的とするものである。
【解決手段】アンテナ用布帛は、比誘電率が4以下の繊維材料からなる地組織1と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに地組織1に密着させるように保持されたアンテナ線2とを備えている。地組織1は、経糸及び緯糸を二重織により織成した織物からなり、アンテナ線2は、上面側の織地に緯糸とともに配列されて交差する経糸により上下から挟持されるように密着保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信用のアンテナとして使用することができる布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年RFID等の無線IDタグの小型化が進み、無線IDタグを様々な移動体に取り付けて識別するシステムが開発されている。無線IDタグを認識するためには、無線IDタグとの間で情報を送受信するためのアンテナが必要となる。
【0003】
無線IDタグの小型化により移動体に対する取付位置の制約が少なくなり、例えば人間に取り付ける場合でも衣服、身の回り品、所持品といった既存の身に付ける物に無線IDタグを取り付けて人間の識別や位置認識が可能となっている。そのため、無線IDタグと送受信するアンテナについても人間が移動する際に無線IDタグに近接する様々な既存の物品に取り付けて、人間の移動を制約することなく自然な動作の中で識別や位置認識を行うことが望まれている。
【0004】
こうした要望に対して、例えば、特許文献1では、フェルト生地等の柔軟性のある生地を誘電体基板とし、誘電体基板に取り付けるグランド板、マイクロストリップパッチ及び給電胴体を導電性布で構成したマイクロストリップアンテナが記載されており、こうしたアンテナを用いることで、軽量かつ柔軟でしわが生じにくく平面でない場所にも取り付けることが容易で、服や帽子等にも縫い付けることができるとされている。また、特許文献2では、銅線等の金属線をコイル状にしたり、銅箔等を合成樹脂フィルムへ貼り合わせるか、真空蒸着した金属被膜をエッチングしてコイル状として得られるアンテナ部分を、布地等の帯状体に取り付けて構成した手首装着用アンテナが記載されている。
【0005】
このように布地に対して電気的な特性を担持させる方法としては、例えば、特許文献3では、めっき、金属蒸着、スパッタリング、導電塗料のいずれか一つの方法で導電性を持たせた合成繊維で伸縮性を持つ糸をカバーリングした複合糸を用いて製編された伸縮性導電繊維材料が記載されている。また、特許文献4では、経糸として、ポリエステル繊維等からなる非電気的伝導性の糸を用い、緯糸として、金属繊維等からなる電気的伝導性の糸を用いて織成された織物アンテナが記載されている。また、特許文献5では、少なくとも一部又は全部に導電性を示す導電部を有する金銀糸と絶縁性を示す絹糸とによって構成した織物に、導電部の配置パターンにより形成される導電性領域及び絶縁性を有するスロットを具備するアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−258539号公報
【特許文献2】特開2002−352199号公報
【特許文献3】特開2007−191811号公報
【特許文献4】特開2008−546209号公報
【特許文献5】特開2009−044439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1のように、アンテナとなる導電性布を生地に縫い付ける場合、全体の厚みが通常の生地よりも厚くなり、しわが生じにくいものの通常の生地のような伸縮性に欠けるものとなる。また、特許文献2のように、布地にコイル状の金属線を張り付ける場合やコイルを形成した合成樹脂フィルムを張り付ける場合、柔軟性及び伸縮性の点で通常の生地とは劣ったものとなる。
【0008】
特許文献3では、メッキ等により導電性を持たせた合成繊維を用いてカバーリングしているが、金属被膜を有するこうした繊維は電気抵抗が高く、湾曲したり伸縮することで導電性を有する金属被膜が破断しやすいといった欠点があり、アンテナの素材としては好ましくない。
【0009】
また、特許文献4では金属繊維を用いているが、金属繊維は伸縮性に乏しく、合成繊維と組み合わせて織物にすると、合成繊維の伸縮に追随せずに断線したり、撓んでしまうといった欠点があり、アンテナの素材としてはそのまま用いることは難しい。
【0010】
また、特許文献5では、PETからなる基材にアルミニウムを蒸着した金銀糸を導電性糸に用いているが、金銀糸は断線しやすく電気抵抗が高いといった欠点がある。そして、金銀糸を捻れた状態で使用すると、捻れた部分では所定の方向からみて導電性を有する部分が不均一となるためアンテナ特性が一定しないといった問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、通常の生地と同様に薄地で柔軟性及び伸縮性を有するアンテナ用布帛を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るアンテナ用布帛は、比誘電率が4以下の繊維材料からなる地組織と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記地組織に密着させるように保持されたアンテナ線とを備えていることを特徴とする。さらに、前記地組織は、比誘電率が4以下の地糸により織成された織物であることを特徴とする。さらに、前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、前記地組織の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記地組織に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記導電糸は、前記金属繊維を撚り数3000以上でカバーリング加工していることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差して保持する糸の本数に基づいて長さが設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記のような構成を有することで、比誘電率が4以下の繊維材料からなる地組織に対して抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるアンテナ線を密着保持させているので、絶縁体の地組織に低抵抗のアンテナ線を用いることで感度のよいアンテナとして使用することができる。
【0014】
また、アンテナ線として芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸を用いているので、アンテナ線が柔軟性及び伸縮性に優れたものなり、地組織に密着保持させた状態で地組織が湾曲変形した場合でも地組織の変形に追従することができる。そして、金属線が芯糸に巻き付くようにカバーリング加工されているので、合成繊維からなる糸と同様の力学特性を有しており、アンテナ線が湾曲した場合でも断線することがなく、かつ金属繊維が撓むこともない。
【0015】
そのため、本発明のアンテナ用布帛は、衣服やカーテンといった既存の繊維製品に使用される生地と同様の柔軟性及び伸縮性を有しているので、繊維製品に取り付けた場合でも繊維製品の変形に対してアンテナの特性を損なうことなく追従することができる。
【0016】
また、導電糸の芯糸を地組織の地糸と同一の糸を用いることで、導電糸を地糸と同様の柔軟性及び伸縮性を持たせることができ、地組織にアンテナ線を密着保持した状態で両者がずれることなく同じように変形させることが可能となる。
【0017】
そして、アンテナ線を地組織の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入して交差する地糸により保持するようにすれば、アンテナ線を地組織に確実に密着保持することができる。また、アンテナ線を当該アンテナ線に交差するように地組織に縫い込まれた縫糸により保持するようにしても、アンテナ線を地組織に確実に密着保持することができる。
【0018】
また、導電糸を撚り数3000以上で金属繊維をカバーリング加工すれば、芯糸の有する柔軟性及び伸縮性とほぼ同じ特性を導電糸に持たせることができる。
【0019】
また、アンテナ線の長さを当該アンテナ線に交差して保持する糸の本数に基づいて設定すれば、アンテナ特性を決める際のアンテナ線の長さを精度よく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施形態に関する概略平面図である。
【図2】導電糸に関する一部拡大図である。
【図3】導電糸の撚り数と強伸度との関係を示すグラフである。
【図4】導電糸の撚り数と弾性率との関係を示すグラフである。
【図5】図1に示す部分Aに関する部分拡大平面図である。
【図6】縫製の場合の部分Aに関する部分拡大平面図である。
【図7】本発明に係る別の実施形態に関する概略平面図である。
【図8】共振周波数とアンテナエレメント長との関係を示すグラフである。
【図9】リターンロスとアンテナエレメント長との関係を示すグラフである。
【図10】八木アンテナ形状のアンテナ用布帛の認識距離に関する測定結果を示すマップである。
【図11】ループアンテナ形状のアンテナ用布帛の認識距離に関する測定結果を示すマップである。
【図12】アンテナ用布帛の変形状態における認識距離を測定した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明に係る実施形態に関する概略平面図である。アンテナ用布帛は、地組織1にアンテナ線2が密着して保持されている。アンテナ線2は、直線状に配列された一対の導電糸を組み合せたダイポールアンテナ形状に設定されている。アンテナ線2を構成する導電糸の近接する端部は所定の間隔が空けられており、離間する端部の間の間隔Lに基づいてアンテナの周波数特性が決定される。また、導電糸の対向する端部には直交する方向に導電糸が配列されて外部回路との接続線3となっている。この例では、一方の接続線3がアンテナ線2に接続されずにそれに沿って平行に配列されている。接続線3とアンテナ線2との間を電気的に接続する位置は、実際にアンテナ線の特性を測定して最適位置を探索して決定する。なお、上述した間隔Lは、導電糸の実際の長さではなく平面視での端部の間の直線距離である。
【0023】
地組織1は、織物、編物、不織布等の繊維材料からなる生地であり、繊維材料としては、比誘電率が4以下の電気的に絶縁性の材料で、具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維が挙げられる。また、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維を用いてもよい。
【0024】
アンテナ線2に用いる導電糸は、銅繊維、錫青銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維を芯糸の周囲にカバーリング加工したものである。芯糸としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維といった繊維からなる糸を用いるとよく、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維からなる糸を用いてもよい。
【0025】
カバーリング加工としては、シングルカバーリング加工及びダブルカバーリング加工があり、図2には、芯糸2aの周囲に金属繊維2bを2重に巻き付けたダブルカバーリング加工を施した導電糸を示している。
【0026】
導電糸は、電気的に低抵抗のものが望ましく、電気抵抗が5Ω/m〜15Ω/m(測定方法;○○○)に設定するとよい。電気抵抗が15Ω/mを超えると、アンテナとしての感度が悪化する。
【0027】
導電糸の力学特性は、カバーリング加工する金属繊維の撚り数が3000T/m以上になると、芯糸とほぼ同じ特性を有するようになる。図3は、芯糸としてPETからなる糸(84dtex/36f)を用い、金属繊維として銅繊維(径50μm)を用いてダブルカバーリング加工により作成した導電糸の強伸度を示すグラフであり、金属繊維の撚り数を500T/m、1000T/m、2000T/m、3000T/m、3500T/mに設定して作成した導電糸を作成し、引張強度試験(JIS L 1013 8.5.1)を行った試験結果を示している。図3に示すグラフからわかるように、撚り数が3000T/m以上になると、芯糸とほぼ同じ特性を有するようになる。図4は、図3で行った試験結果に基づく撚り数による導電糸の弾性率の変化を示すグラフである。このグラフをみると、撚り数が3000T/m以上で芯糸とほぼ同じ弾性率を有するようになる。
【0028】
このように芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸をアンテナ線に用いることで、柔軟性及び伸縮性を有するアンテナ線2を得ることができ、地組織1にアンテナ線2を密着保持した場合に地組織1が湾曲又は伸縮しても、アンテナ線2が断線したりずれることなく地組織1の変形に追従することが可能となる。したがって、衣服やカーテンといった既存の繊維製品に取り付けた場合でもアンテナの特性に影響を受けることがなく無線通信を行うことができる。
【0029】
図5は、二重織により織成された地組織1にアンテナ線2を密着保持した場合の図1の部分Aに関する拡大平面図である。アンテナ線2は、二重に織成された織地の上面側の織地に密着保持されている。アンテナ線2である導電糸が緯糸3bの間に配列されており、経糸3aが導電糸の上下に交互に交差して緯糸3bと同様に挟持されている。そのため、アンテナ線2が地組織1に密着保持されて抜け落ちることはない。また、導電糸が柔軟性及び伸縮性を有しているため、地組織1が変形してもそれに追従して変形することができ、断線等のトラブルが生じることはない。導電糸の芯糸として緯糸3bと同じものを使用すれば、導電糸の力学特性を経糸とほぼ同様に設定することができ、地組織1の変形に対して導電糸がよりスムーズに追従することが可能となる。
【0030】
また、導電糸に対して経糸3aがほぼ等間隔で交差するため、交差する経糸3aの本数に基づいて密着保持する導電糸のながさを設定することが可能となる。したがって、地組織1を織成する際に緯糸として導電糸を所定本数の経糸分だけ挿入して織成し、地組織の織成後に経糸により保持された分だけ残して導電糸を切断し、アンテナ線として用いるようにすることもできる。このようにアンテナ線を形成することで、上述の間隔Lを精度よく設定することができ、アンテナの感度を向上させることが可能となる。
【0031】
この例では、地組織1が二重織により織成されているので、アンテナ線2の下面に織地が配設される構成となっており、地組織1を導電体上に配置した場合でもアンテナ線2が導電体に接触することを防止する。
【0032】
なお、上述した例では、導電糸を緯糸方向に配列しているが、経糸方向に配列して保持することもでき、接続線3のように経糸方向に配列して緯糸により保持するようにしてもよい。
【0033】
図6は、平織りにより織成された地組織1に縫糸4によりアンテナ線2を密着保持した場合の図1の部分Aに関する拡大平面図である。この場合には、地組織1の表面にアンテナ線2を直線状に配置して接着剤等により固定し、ミシン等の縫製機により縫糸4をアンテナ線2の両側に交互に縫い付けていき、アンテナ線2を地組織1に密着保持するようにしている。
【0034】
アンテナ線2を縫製により固定する場合には、地組織1として織地以外に編地や不織布を用いることができる。また、地組織1に後付けでアンテナ線2を取り付けるので、縫い付けた導電糸の長さを測定しながらアンテナ線2の設定どおりの間隔となっているかチェックして取り付けることができ、アンテナ線2を精度よく設定することができる。なお、縫糸4の縫付間隔が等間隔に設定できる場合には、地組織に対する縫付回数に基づいてアンテナ線2の長さを設定するようにしてもよい。
【0035】
図7は、別の実施形態に関する概略平面図である。地組織1に対してアンテナ線10をループ状に密着保持してループアンテナ形状に設定されている。アンテナ線10は、1辺が平面視で長さMの正方形状に設定されており、1つの辺において所定間隔が空けられて接続線11が設けられている。接続線11は、図示せぬ外部回路と接続するようになっており、一方の接続線11がアンテナ線10に接続されずにそれに沿って平行に配列されている。接続線11とアンテナ線10との間を電気的に接続する位置は、実際にアンテナ線の特性を測定して最適位置を探索して決定する。
【0036】
アンテナ線10は、図1に示す例と同様に地組織11に密着保持するように取り付けることができる。
【実施例】
【0037】
アンテナ線に用いる導電糸を、芯糸にPETからなる糸(84dtex/36f)を用い、金属繊維に銅繊維(径50μm)を用いてダブルカバーリングマシン(片岡エンジニアリング社製)によりダブルカバーリング加工して作成した。撚り数は3000T/mに設定した。
【0038】
地組織は、経糸及び緯糸としてPETからなる糸(56dtex/○○f)を用いて平織により織成した。
【0039】
地組織にアンテナ線を密着保持して電波特性試験を行い、2.45GHz帯域に対応するアンテナエレメント長を決定した。アンテナ線を密着保持する方法として、図5に示す織地により保持したもの及び図6に示す縫製により保持したものをそれぞれ2枚ずつ作製して試験した。試験結果を図8及び図9に示す。図8では、共振周波数とアンテナエレメント長との関係を示しており、図9ではリターンロスとアンテナエレメント長との関係を示している。これらのグラフをみると、織地の場合には22mm、縫製の場合には23mmのアンテナエレメント長で2.45GHzのアンテナ設計を行えることがわかった。
【0040】
RFIDに認識性を評価する目的で、両タイプのアンテナの認識エリアを測定した。これはアンテナ上に方眼紙(5mm角)を設置し、RFIDを移動させながら認識領域(RFIDタグの中心にて測定)を測定した。また、作成したアンテナと方眼紙の間に3mm厚のフェルト(ウール100%)を設置して、RFIDとフェルトとの間の距離を0mm,6mm及び9mmに設定し、距離の変化に伴う認識領域の変化を測定した。その測定結果を図10及び11に示す。
【0041】
図10に示すように、八木アンテナ形状のアンテナ用布帛は、近接した状態ではRFIDの認識領域が約50mm×40mmの領域となり、距離が9mmに設定された状態ではRFIDの認識領域が30mm×15mmの領域となる。距離が離れるにしたがい認識領域が小さくなることから、八木アンテナ形状のアンテナ用布帛はスポット的に認識するのに適した性能があることがわかる。
【0042】
図11に示すように、ループアンテナ形状のアンテナ用布帛は、近接した状態ではRFIDの認識領域が約30mm×40mmの領域となり、距離が9mmに設定された状態ではRFIDの認識領域が60mm×50mmの領域となり、距離が21mmに設定された状態ではRFIDの認識領域が40mm×50mmの領域となる。これらの測定結果をみると、ループアンテナ形状のアンテナ用布帛は、広範囲の領域を認識するのに適した性能があることがわかる。
【0043】
作成したループアンテナ形状のアンテナ用布帛を事務室内の書類ロッカーの引き出し、扉の取っ手、扉のガラスに設置してRFIDの認識が可能か実験を行ったところ、引き出し及び扉のガラスに設置した場合に認識可能であることがわかった。八木アンテナを同様に設置してRFIDの認識が可能か比較実験を行ったところ、本発明のアンテナ用布帛は八木アンテナと同じように認識できることがわかった。
【0044】
作成したアンテナ用布帛を身体の各所に実装した場合を想定して、布帛を湾曲及び伸縮した場合のアンテナ特性の評価を行った。
【0045】
布帛の湾曲状態については、成人男性の身体部位の曲率を曲げセンサー(浅草技研製)で計測したところ、手のひらでは曲率(1/cm)が1/5.8、腕及び二の腕では1/5、もも及びふくらはぎでは1/6であった。そこで、これらの曲率データを参考にして布帛を湾曲させた。また、アンテナ用布帛の伸長性は、通常の衣服に用いられる布帛が要求される伸長性である2%(たて方向及びよこ方向)に設定した。アンテナ特性は、アンテナの中心部分でのRFIDタグの認識距離を計測して評価した。その評価結果を図12に示す。なお、比較のためアンテナ用布帛を平面に静値した通常の状態についても測定した。
【0046】
図12に示すように、八木アンテナ形状のアンテナ用布帛は身体装着程度の曲率を付与してもRFIDの認識特性が低下しないことがわかった。また、アンテナ用布帛が伸長した場合には、RFIDの認識距離が20%〜50%低下することがわかった。
【符号の説明】
【0047】
1 地組織
2 アンテナ線
3 接続線
4 縫糸
10 アンテナ線
11 接続線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比誘電率が4以下の繊維材料からなる地組織と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記地組織に密着させるように保持されたアンテナ線とを備えていることを特徴とするアンテナ用布帛。
【請求項2】
前記地組織は、比誘電率が4以下の地糸により織成された織物であることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ用布帛。
【請求項3】
前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ用布帛。
【請求項4】
前記アンテナ線は、前記地組織の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のアンテナ用布帛。
【請求項5】
前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記地組織に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ用布帛。
【請求項6】
前記導電糸は、前記金属繊維を撚り数3000以上でカバーリング加工していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアンテナ用布帛。
【請求項7】
前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差して保持する糸の本数に基づいて長さが設定されていることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のアンテナ用布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−40919(P2011−40919A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185426(P2009−185426)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省、平成20年度地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】