説明

アンテナ装置、レーダ装置、車載レーダシステム

【課題】単一の基板に形成されているにも拘わらず、180°を越えるような広い検知エリアをカバーできるアンテナ装置、そのアンテナ装置を利用したレーダ装置、車載レーダシステムを提供する。
【解決手段】アンテナ基板6の面方向を主放射方向とする平面放射用アンテナ部3と、アンテナ基板6の端方向を主照射方向とする水平放射用アンテナ部4とを、アンテナ基板6の異なるパターン形成層に形成する。これにより、両アンテナ部3,4を同一のパターン形成層に形成する場合と比較して、水平放射用アンテナ部4の指向性をより部品載置面6b側にシフトさせることができる。その結果、単一のアンテナ基板6でカバー可能な検知エリアを広角化(例えば、180°以上)することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の送受信に用いるアンテナ装置、そのアンテナ装置を利用して構成するレーダ装置、そのレーダ装置を利用して構成する車載レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置において広い検知エリアを実現する手法の一つとして、基板のパターン形成面に対して垂直な方向に向けて電磁波を放射する平面放射用アンテナ(ブロードサイドアレーアンテナなど)と、基板のパターン形成面に対して平行な方向に向けて電磁波を放射する水平放射用アンテナ(エンドファイアアレーアンテナ等)とを、同一基板の同一パターン形成面に形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このアンテナ基板上には、複数の平面放射用アンテナ(以下、総称する場合は平面放射用アンテナ群という)が一列に配置されていると共に、その平面放射用アンテナ群の配列方向の両端に水平放射用アンテナが配置されている。そして、平面放射用アンテナ群によって、アンテナの配列方向に沿って放射方向が異なる複数のビームを形成すると共に、水平放射用アンテナは、その平面放射用アンテナ群のビームがカバーする領域(検知エリア)より外側にビームが向く(検知エリアが設定される)ように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−49691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のアンテナ基板では、水平放射用アンテナのビームの向き(放射方向)は、平面放射用アンテナ群の検知エリアより外側を向いてはいるものの、せいぜいパターン形成面に沿った方向に設定することが限度であり、より広い検知エリアをカバーすることができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するために、単一の基板に形成されているにも拘わらず、180°を越えるような広い検知エリアをカバーできるアンテナ装置、そのアンテナ装置を利用したレーダ装置、車載レーダシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明のアンテナ装置は、二層以上のパターン形成層を有する基板を用いて構成される。
そして、パターン形成層のうち、一方の面が絶縁層に接し他方の面が開放されたパターン形成層である外層には、パターン形成層の積層方向(即ち、パターン形成層の面に垂直な方向)に向けて電磁波を放射しかつ一列に配置された複数の平面放射用単位アンテナからなる平面放射用アンテナ部が形成されている。
【0008】
また、平面放射用アンテナ部が形成されたものとは異なるパターン形成層には、平面放射用単位アンテナの配列方向であるアンテナ配列方向の両端部のうち少なくとも一方の端部に、アンテナ配列方向に向けて電磁波を放射する少なくとも一つの水平放射用単位アンテナからなる水平放射用アンテナ部が形成されている。
【0009】
このように構成されたアンテナ装置によれば、水平放射用アンテナ部が、平面放射用アンテナとは異なるパターン形成層に形成されているため、水平放射用アンテナ部の指向性を、平面放射用アンテナと同じパターン形成層に形成した場合と比較して、より平面放射用アンテナ部の形成面に対する裏側方向に向けることができる。
【0010】
なお、水平放射用アンテナ部は、請求項2に記載のように、水平放射用アンテナ部とは異なる外層に形成されていてもよいし、請求項3に記載のように、両面が絶縁層に面するパターン形成層である内層に形成されていてもよい。
【0011】
また、水平放射用アンテナ部への給電は、請求項4に記載のように、水平放射用アンテナ部が形成されたパターン形成層と平面放射用アンテナ部が形成されたパターン形成層との間に位置するパターン形成層(内層)から行うように構成することが望ましい。
【0012】
この場合、給電線からの電波の漏れ放射を少なくできるので、給電線からの漏れ放射による水平放射用アンテナ部の指向性の乱れを抑制することができる。
ところで、平面放射用アンテナ部は、請求項5に記載のように、アンテナ配列方向に沿って配置された送信専用の送信アンテナ部および受信専用の受信アンテナ部からなり、それぞれが複数の平面放射用単位アンテナで構成されていてもよい。
【0013】
また、水平放射用アンテナ部は、請求項6に記載のように、かつ、アンテナ配列方向とは直交する方向に沿って配置された送信専用の送信アンテナ部および受信専用の受信部アンテナ部からなり、それぞれが少なくとも一つの水平放射用単位アンテナで構成されていてもよい。
【0014】
このように電磁波の送信および受信を、それぞれ専用の送信アンテナ部および受信アンテナ部によって行うことにより、送信信号と受信信号とを分離するサーキュレータ等の高価な部品を用いることなく装置を構成することができる。
【0015】
本発明のアンテナ装置において、平面放射用単位アンテナは、請求項7に記載のように、アンテナ配列方向とは直行する方向に沿って一列または複数列に配置された複数のパッチアンテナによって構成されていてもよい。この場合、平面放射用単位アンテナのビーム幅を、パッチアンテナの配列方向に絞ることができる。
【0016】
また、水平放射用単位アンテナには、請求項8に記載のように、例えば、テーパスロットアンテナを用いてもよい。この場合、水平放射用単位アンテナを高帯域化することができるため、超広帯域(UWB)変調にも好適に用いることができる。
【0017】
なお、水平放射用アンテナ部とは異なる外層には、請求項9に記載のように、平面放射用アンテナ部および水平放射用アンテナ部を介して電磁波を送受信する送信部および受信部を構成する電子部品が実装されていてもよい。換言すれば、水平放射用アンテナ部は、基板の部品実装面に形成されていてもよい。この場合、アンテナ装置を小型化することができる。
【0018】
次に、請求項10に記載のレーダ装置は、請求項1乃至請求項9のいずれか1項の記載のアンテナ装置を用いて構成されるものであり、送信部が、アンテナ装置を構成する平面放射用アンテナ部および水平放射用アンテナ部のうち、いずれか一方を選択して電磁波を送信し、受信部が、アンテナ装置を構成する平面放射用アンテナ部および水平放射用アンテナ部のうち、いずれか一方を選択して電磁波を受信する。そして、信号処理部が、送受信に使用するアンテナ部を選択し、送信部を介して電磁波を送信すると共に、受信部を介して取得した信号に基づいて、物標を検出する処理を実行する。
【0019】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、上述のアンテナ装置を用いることによって、例えば180°を越えるような広い角度範囲を検知エリアとして物標を検出することができる。
【0020】
なお、請求項11に記載のように、送信部は、電磁波の送信に用いる平面放射用単位アンテナのそれぞれに供給する送信信号の振幅と位相を制御することで、平面放射用アンテナ部が送信する電磁波の指向性を変化させる振幅・位相制御回路を備えていることが望ましい。
【0021】
また、請求項12に記載のように、受信部は、電磁波の受信に用いる平面放射用単位アンテナのそれぞれからの受信信号を、信号処理部に個別に供給し、信号処理部は、各受信信号の位相情報を利用して、電磁波の到来方向を推定する処理(モノパルス,DBF,MUSIC等)を実行(受信指向性を制御)するように構成されていることが望ましい。
【0022】
更に、請求項13に記載のように、送信部が、平面放射用アンテナ部を介して電磁波を送信する場合は、受信部も、平面放射用アンテナ部を介して電磁波を受信し、送信部が、水平放射用アンテナ部を介して電磁波を送信する場合は、受信部も、水平放射用アンテナ部を介して電磁波を受信するように、送信部および受信部の動作を制御してもよい。この場合、各アンテナ部の検知エリアを最大限に利用した物標の検出を行うことができる。
【0023】
これに限らず、送信部が平面放射用アンテナ部を介して電磁波を送信し、受信部が、水平放射用アンテナ部を介して電磁波を受信するか、逆に、送信部が水平放射用アンテナ部を介して電磁波を送信し、受信部が平面放射用アンテナ部を介して電磁波を受信するように、送信部および受信部の動作を制御してもよい。但し、この場合、水平放射用アンテナ部の検知エリアと、水平放射用アンテナ部の検知エリアとが一部重なるように構成する必要があり、この検知エリアが重なり合った領域の検出を行うことになる。
【0024】
本発明のレーダ装置において、送信部および受信部は、請求項14に記載のように、パルス波を送受信する動作モードであるパルス波モードと、連続波を送受信する動作モードである連続波モードとを有していてもよい。
【0025】
この場合、更に請求項15に記載のように、送信部および受信部は、平面放射用アンテナ部を使用する際には連続波モードで動作し、水平放射用アンテナ部を使用する際にはパルス波モードで動作するように制御することが考えられる。
【0026】
そして、パルス波モードで、UWB(超広帯域)変調されたパルスを用いれば、高い距離分解能で物標を検出することができる。また、連続波モードでは、FMCW波や、多周波CW波等を用いることができる。特に、周波数変調しないCW波を用いる場合、自装置との相対速度が0の物標が検出されないため、例えば、自装置を搭載する車両が停止している状態で、周囲の移動物標だけを検出したい場合等の用途において、好適に用いることができる。
【0027】
次に、請求項16に記載の車載レーダシステムは、請求項15に記載のレーダ装置を二備えている。そして、平面放射用アンテナ部の検知エリアを第1エリア、水平放射用アンテナ部の検知エリアを第2エリアとして、二つのレーダ装置のうち、一方は第1エリアが車両の右後方、第2エリアが車両の右側方に位置し、他方は第1エリアが車両の左後方、第2エリアが車両の左側方に位置するように、車両に設置されている。
【0028】
このように、すれば、車両の後方から両側方にわたる広い範囲を、二つのレーダ装置で、カバーすることができ、車載レーダシステムの構成を簡略化することができる。
なお、第1エリアは、例えば、請求項17に記載のように、後方から接近する車両を検知するために設定される後方接近車両検知エリア、または後退時に車両後方を横切ろうとする車両を検知するために設定される後退時横切車両検知エリアとなるようにし、また、第2エリアは、例えば、請求項18に記載のように、ドライバの死角となる位置に存在する車両を検知するために設定される死角車両検知エリアとなるようにすることが考えられる。
【0029】
また、本発明の車載レーダシステムにおいて、二つのレーダ装置は、請求項19に記載のように、互いに異なる動作モードで同時に動作させるシステム制御部を備えることが望ましい。
【0030】
このようにすることで、二つのレーダ装置を効率よく動作させることができるだけでなく、両レーダ装置が互いに干渉し合うことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】レーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】アンテナ基板上に形成された平面放射用アンテナ部および水平放射用アンテナ部のパターンを示す説明図。
【図3】アンテナ基板の構造、およびアンテナ基板に形成されたアンテナのビーム放射方向を示す説明図。
【図4】送信信号の変調パターンを示すグラフ。
【図5】車載レーダシステムの概略構成、アンテナ基板の配置状態を示す説明図。
【図6】車載レーダシステムにおける検知モードの内容を示す一覧表。
【図7】死角車両検知エリアおよび後方接近車両検知エリアの概略位置を示す説明図。
【図8】死角車両検知エリアおよび後退時横切車両検知エリアの概略位置を示す説明図。
【図9】システム制御処理の内容を示すフローチャート。
【図10】死角車両検知警報処理の内容を示すフローチャート。
【図11】後方接近車両検知警報処理の内容を示すフローチャート。
【図12】後退時横切車両検知警報処理の内容を示すフローチャート。
【図13】第2実施形態におけるシステム制御処理の内容を示すフローチャート。
【図14】アンテナ基板に形成された平面放射用アンテナ部および水平放射用アンテナ部のパターンの他の形成例を示す説明図。
【図15】水平放射用単位アンテナの他の構成例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1は、実施形態のレーダ装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0033】
図1に示すように、レーダ装置1は、m(mは2以上の整数)個の平面放射用単位アンテナSBi(i=1〜m)で構成された平面放射用送信アンテナ群31、n(nは2以上の整数)個の平面放射用単位アンテナRBj(j=1〜n)で構成された平面放射用受信アンテナ群32からなる平面放射用アンテナ部3と、単一の水平放射用単位アンテナSEで構成された水平放射用送信アンテナ41、単一の水平放射用単位アンテナREで構成された水平放射用受信アンテナ42からなり、平面放射用アンテナ部3とは主放射方向が異なるように構成された水平放射用アンテナ部4とを備えている。
【0034】
また、レーダ装置1は、平面放射用送信アンテナ群31および水平放射用送信アンテナ41を介して電磁波(レーダ波)を送信する送信機10と、平面放射用受信アンテナ群32および水平放射用受信アンテナ42を介して電磁波(反射波)を受信する受信機20と、周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、送信機10および受信機20に対して、後述する変調信号M,送信制御信号CS,受信制御信号CR,送信側パルス制御信号CPs,受信側パルス制御信号CPrを供給し、その結果、受信機20にて生成されるビート信号Bに基づいて各種信号処理を行う制御回路5とを備えている。
【0035】
<アンテナ基板>
図2は、平面放射用アンテナ部3および水平放射用アンテナ部4が形成されたアンテナ基板6上のパターンの配置を示す説明図であり、(a)がアンテナ形成面6a、(b)が部品載置面6bを表す。図3は、(a)がアンテナ基板6の断面を、板厚方向(図中の上下方向)に拡大して示した模式図であり、(b)が各アンテナ部の主放射方向を示す説明図である。
【0036】
アンテナ基板6は、図3(a)に示すように、6層のパターン形成層と各パターン形成層間を絶縁する5層の絶縁(誘電体)層とを有した、所謂多層基板として構成されている。
【0037】
以下、両面ともに絶縁層と接する四つのパターン形成層を内層、一方の面のみ絶縁層と接し、他方の面が外部に開放された二つのパターン形成層を外層という。また、外層が形成されたアンテナ基板6の二つの面のうち、一方をアンテナ形成面6a、他方を部品載置面6bという。
【0038】
また、アンテナ基板6のパターン形成層のうち、アンテナ形成面6aに形成された外層に対して、一層の絶縁層を挟んで対向する内層には、平面放射用アンテナ部3を構成するパッチアンテナ用のグランドパターン61が形成されている。また、部品載置面6bに形成された外層に対して、一層の絶縁層を挟んで対向する内層には、水平放射用アンテナ部4への給電線(マイクロストリップライン)62が形成され、更に、給電線62が形成された内層に対し一層の絶縁層を挟んでアンテナ形成面側6aに位置する内層には、給電線(マイクロストリップライン)62用のグランドパターン63が、少なくとも部品載置面6bの部品実装エリアと対向する位置に形成されている。
【0039】
そして、アンテナ基板6のアンテナ形成面6aには、図2(a)に示すように、平面放射用アンテナ部3を構成する平面放射用送信アンテナ群31および平面放射用受信アンテナ群32が並べて配置されている。以下では、両アンテナ群31,32の配列方向をアンテナ配列方向と称する。
【0040】
また、アンテナ基板6の部品載置面6bには、図2(b)に示すように、アンテナ基板6のアンテナ配列方向の一端に、水平放射用アンテナ部4を構成する水平放射用送信アンテナ41および水平放射用受信アンテナ42が、アンテナ配列方向とは直行する方向に沿って並んで配置されている。
【0041】
そして、平面放射用送信アンテナ群31を構成する各平面放射用単位アンテナSB1〜SBmおよび平面放射用受信アンテナ群32を構成する各平面放射用単位アンテナRB1〜RBnは、アンテナ配列方向に沿って一列に配置されている。
【0042】
但し、各平面放射用単位アンテナSBi,RBjは、アンテナ配列方向とは直交する方向(図中上下方向)に沿って等間隔で1列に配置された複数のパッチアンテナからなる。そして、同一の平面放射用単位アンテナSBi,RBjを構成するパッチアンテナには同一位相の信号が給電されるように、給電線の配線が行われている。
【0043】
なお、平面放射用単位アンテナSBi,RBjを構成するパッチアンテナは、ここでは1列に設定されているが、これに限るものではなく複数列に配置されていてもよい。
つまり、平面放射用アンテナ部3は、図3(b)に示すように、アンテナ基板6のアンテナ形成面6aに垂直な方向(以下「面方向」という)が主放射方向となる所謂ブロードサイドビームアレーアンテナとして構成されている。
【0044】
一方、水平放射用アンテナ部4を構成する水平放射用送信アンテナ41および水平放射用受信アンテナ42は、いずれも、テーパ状のスロットを象ったパターンからなるテーパスロットアンテナにより構成され、スロットの間隔が広い側の端部がアンテナ基板6の端辺にて開放されるように形成されている。
【0045】
つまり、水平放射用アンテナ部4は、図3(b)に示すように、アンテナ基板6の部品載置面6bに平行かつアンテナ配列方向とは直交する方向(以下「端方向」という)が主放射方向となる所謂エンドファイアアンテナとして構成されている。
【0046】
なお、平面放射用アンテナ部3および水平放射用アンテナ部4は、いずれも超広帯域(UWB)変調が可能となるように、広い周波数範囲に渡ってアンテナ利得が一定値となるように設計されている。
【0047】
<送信機>
図1に戻り、送信機10は、ミリ波帯の高周波信号を生成する発振器を中心に構成され、制御回路5からの変調信号Mに従って発振周波数が変化するように構成された電圧制御発振器(VCO)11と、VCO11からの出力を増幅する増幅器12と、増幅器12の出力を、送信信号Ssとローカル信号Lとに分岐する分岐線路13と、分岐線路13を介して供給される送信信号Ssを、平面放射用送信アンテナ群31および水平放射用送信アンテナ41を構成する各単位アンテナSB1〜SBm,SEに接続された各伝送線路に分配する分配器15と、制御回路5からの送信側パルス制御信号CPsに従って、分岐線路13から分配器15に至る伝送経路を導通,遮断することにより、パルス信号を発生させるパルス生成器14と、分配器15から単位アンテナSB1〜SBm,SEに至る各伝送線路にて伝送される送信信号Ssの振幅や位相を、送信制御信号CSに従って制御する信号制御部16とを備えている。なお、信号制御部16は、単位アンテナSB1〜SBm,SEに接続される伝送経路毎に移相器および増幅器を備えており、特に増幅器は、増幅率をゼロに設定することで、伝送線路を遮断するスイッチとしても機能するように構成されている。
【0048】
<受信機>
受信機20は、平面放射用受信アンテナ群32および水平放射用受信アンテナ42を構成する各単位アンテナRB1〜RBn,REからの受信信号を個別に増幅する増幅部21と、制御回路5からの受信制御信号CRに従って、単位アンテナRB1〜RBn,REに接続された伝送線路のいずれかを選択して、選択された伝送線路からの受信信号を出力する受信スイッチ回路22と、受信スイッチ回路22からの受信信号Srに、分岐線路13からのローカル信号Lを混合しビート信号Bを生成するミキサ24と、ミキサ24が出力するビート信号Bを増幅して制御回路5に供給する増幅器25と、分岐線路13からミキサ24に至るローカル信号Lの伝送経路を、制御回路5からの受信側パルス制御信号CPrに従って導通,遮断することにより、パルス状のローカル信号Lを発生させるパルス生成器23とを備えている。
【0049】
なお、送信機10および受信機20は、パルス幅が1ns程度のパルス信号、所謂、超広帯域(UWB)変調パルスの生成や伝送が可能となるように設計されている。
<動作モード>
次に、レーダ装置1の動作モードについて説明する。
【0050】
ここでは、平面放射用アンテナ部3を介して、電磁波を送受信する動作モードを平面放射モード、水平放射用アンテナ部4を介して、電磁波を送受信する動作モードを水平放射モード、送受信する電磁波としてパルス波を用いる動作モードをパルス波モード、送受信する電磁波として連続波(FMCW波やCW波)を用いる動作モードを連続波モードという。
【0051】
但し、レーダ装置1は、平面放射モードまたは水平放射モードのいずれかの動作モードと、パルス波モードまたは連続波モードのいずれかの動作モードとを組み合わせた二つの動作モードに従って動作する。
【0052】
そして、動作モードが平面放射モードの場合、送信機10では、送信制御信号CSに従って、平面放射用送信アンテナ群31(単位アンテナSB1〜SBm)にだけ送信信号Ssが供給されるように信号制御部16の増幅器が制御される共に、平面放射用送信アンテナ群31によって形成されるビームが、送信制御信号CSによって指定された放射方向を指向するように、信号制御部16の移相器が制御される。また、受信機20では、受信制御信号CRに従って、平面放射用受信アンテナ群32(単位アンテナRB1〜RBn)からの受信信号を順次かつ繰り返し選択することによって、各単位アンテナRB1〜RBnからの受信信号を、時分割でミキサ24に供給するように受信スイッチ回路22が制御される。
【0053】
また、動作モードが水平放射モードの場合、送信機10では、送信制御信号CSに従って、水平放射用送信アンテナ41(単位アンテナSE)だけに送信信号Ssが供給されるように信号制御部16の増幅器が制御される。また、受信機20では、受信制御信号CRに従って、水平放射用受信アンテナ42(単位アンテナRE)からの受信信号だけをミキサ24に供給するように受信スイッチ回路22が制御される。
【0054】
一方、動作モードが連続波モードの場合、送信機10のパルス生成器14および受信機20のパルス生成器23は、いずれも、送信信号Ssやローカル信号Lをそのまま通過させるように動作する。
【0055】
また、動作モードがパルス波モードの場合、送信機10のパルス生成器14は、送信側パルス制御信号CPsに従って、電磁波がレーダ装置1の最大検知距離を往復するのに要する時間より長くなるように設定された一定時間間隔毎に、分岐線路13から分配器15に至る伝送経路を、一定時間(例えば1ns)だけ導通させることにより、パルス状の送信信号Ssを生成する。
【0056】
更に、受信機20のパルス生成器23は、受信側パルス制御信号CPrに従って、分岐線路13からミキサ24に至る伝送経路を、一定時間だけ導通させるように制御され、これにより、パルス状のローカル信号Lを生成する。但し、このパルス状のローカル信号Lは、パルス波の送信タイミングに同期し、かつ、パルス波の送信を繰り返す毎に、パルス幅分だけ発生タイミングが遅延するように制御される。また、パルス幅は、固定値に設定されていてもよいし、条件によって可変設定されてもよい。
【0057】
<制御回路>
制御回路5は、送信機10および受信機20を、指定した動作モードで動作させることで、受信機20から得られるビート信号Bに基づき、物標の検出を行う物標検出処理を実行する。
【0058】
但し、動作モードがパルス波モードの時に、制御回路5は、図4(a)に示すように、VCO11にて生成される送信信号Ssの周波数が一定となるような変調信号MをVCO11に供給する。
【0059】
また、動作モードが連続波モードの時に、制御回路5は、図4(b)に示すように、VCO11にて生成される送信信号Ssの周波数が三角波状に増減を繰り返すFMCW波を生成するための変調信号M、または、図4(c)に示すように、送信信号Ssの周波数が2段階で交互に切り替わる2周波CW波を生成するための変調信号Mを、VCO11に供給する。
【0060】
そして、動作モードがパルス波モード(パルス波による測定)の場合、受信機20からは、パルス波の受信タイミングと、パルス状のローカル信号の送信タイミングとが一致した時に、その一致度合いに応じた振幅を有するビート信号Bが出力される。このため、制御回路5では、物標検出処理として、最も強度(相関値)の大きいビート信号Bが得られた時のパルス状のローカル信号Lの発生タイミングから、パルス波を反射した物標までの距離を算出する処理を実行する。なお、この処理は、パルスレーダにおける周知の処理であるため、その詳細については説明を省略する。
【0061】
つまり、動作モードがパルス波モードの時には、物標検出処理によって、検知エリア内に存在する物標の情報として、その物標との距離を得ることができる。
また、動作モードが連続波モード(FMCW波または2周波CW波による測定)の場合、受信機20からは、受信信号Srとローカル信号Lとを混合したビート信号Bが出力される。このため、制御回路5では、物標検出処理として、FMCWレーダ、2周波CWレーダにおける周知の手法を用いて、物標との相対速度および距離を求める処理を実行する。
【0062】
つまり、動作モードが連続波モードの時には、物標検出処理によって、検知エリア内に存在する物標の情報として、その物標との相対速度および距離を得ることができる。
なお、動作モードが連続波モードの場合、上述したFMCW波,2周波CW波に限らず、例えば、図4(d)に示すように、送信信号Ssの周波数が3段階以上(図では5段階)で、増減を繰り返すような変調信号Mを出力することによって、多周波CW波による測定を行うようにしてもよい。
【0063】
また、動作モードが平面波放射モードの場合、平面放射用受信アンテナ群32から、単位アンテナRB1〜RBn毎にビート信号Bが得られる。このため、制御回路5では、物標検出処理として、これらビート信号B同士の位相差から、反射波の到来方向、即ち、物標の存在する方位角度を求める処理も実行する。なお、位相差の情報を利用した方位検出には、モノパルス、DBF、MUSIC等の周知の手法を用いることができる。
【0064】
<車載レーダシステム>
図5は、(a)が上述のレーダ装置1用いて構成された車載レーダシステムの概略を示すブロック図、(b)が車両におけるアンテナ基板6の配置状態を示す説明図である。
【0065】
図5(a)に示すように、車載レーダシステムは、二つのレーダ装置1(1a,1b)を用いて構成され、これらレーダ装置1a,1bは、車載ネットワークを介して、相互に通信可能に接続されている。なお、車載ネットワークを介した通信を実現する機能(通信制御部)は、制御回路5の一機能として含まれているものとする。
【0066】
そして、レーダ装置1a,1bのうち一方をマスタ(ここでは1a)、他方をスレーブ(ここでは1b)として、マスタの制御回路5では、上述した物標検出処理に加えて、両レーダ装置1a,1bの動作モードや動作タイミングを制御するシステム制御処理と、両レーダ装置1a,1bの物標検出処理の処理結果に基づいて、各種警報を発生させる警報処理を実行する。
【0067】
また、マスタ1aは、車載ネットワークを介して、動作モードや動作タイミングを制御するための信号をスレーブ1bに供給し、物標検出処理の検出結果をスレーブ1bから取得すると共に、車載ネットワークに接続された他の車載装置から、処理に必要な各種情報(例えば、車速,シフトレバーの位置,方向指示器の状態など)を取得するように構成されている。
【0068】
なお、ここでは、マスタ−スレーブ間の通信と、他の車載装置との通信とを同じ車載ネットワークで行うものとして説明しているが、両通信を別々の車載ネットワークで行うように構成してもよい。その場合、他の車載装置との通信を行う車載ネットワークは、マスタにだけ接続されていてもよい。
【0069】
そして、図5(b)に示すように、レーダ装置1aは、車両の右後隅に配置され、平面放射用アンテナ部3の検知エリアが車両右後方を指向し、水平放射用アンテナ部4の検知エリアが車両右側方を指向するように、アンテナ基板6の面方向が、車両から車両の後方を見た時に、車両の後方直進方向から約30°左に傾くように設置されている。
【0070】
また、レーダ装置1bは、左後隅に配置され、平面放射用アンテナ部3の検知エリアが車両左後方を指向し、水平放射用アンテナ部4の検知エリアが車両左側方を指向するように、アンテナ基板6の面方向が、車両から車両の後方を見た時に、車両の後方直進方向から約30°右に傾くように設置されている。
【0071】
<検知モード>
ここで、図6は、車載レーダシステムが物標検出を行う時に、レーダ装置1を如何に動作させるかを規定する検知モードの一覧表である。また、図7および図8は、各検知モードで使用される検知エリアの概略位置を示す説明図である。
【0072】
図6に示すように、車載レーダシステムでは、車両の死角に存在する車両を検知するための検知モードである死角車両検知モードと、後方から接近する車両を検知するための検知モードである後方接近車両検知モードと、車両の後退時に車両後方を横切ろうとしている車両を検知するための検知モードである後退時横切車両検知モードを有している。
【0073】
このうち、死角車両検知モードでは、レーダ装置1を、水平放射モードかつパルス波モードに設定して動作させることにより、車両側方に設定された死角車両検知エリア(図7,8参照)に存在する車両との距離を高精度に求める。
【0074】
後方接近車両検知モードでは、レーダ装置1を平面放射モードかつ連続波モード(但しFMCW波)で動作させることにより、車両後方に設定された後方車両検知エリア(図7参照)に存在する車両との距離、相対速度、方位角度を求める。
【0075】
後退時横切車両検知モードでは、レーダ装置1を平面放射モードかつ連続波モード(但し2周波CW波)で動作させることにより、車両後方に設定された後退時横切車両検知エリア(図8参照)に存在する車両との距離、相対速度、方位角度を求める。
【0076】
但し、後方車両検知エリアは、隣接車線の車両等を好適に検出できるように、アンテナ基板6の端方向を中心したエリアが設定され、一方、後退時横切車両検知エリアは、車両に比較的接近した位置で、車幅方向に広い範囲で車両等を好適に検出できるように、アンテナ基板6の面方向から端方向に大きく傾いた方向を中心としたエリアが設定される。
【0077】
なお、平面放射用アンテナ部3が使用される後方接近車両検知モードと後退時横切車両検知モードとで異なる検知エリア(アンテナの指向性)は、信号制御部16の移相器を制御することによって適宜設定される。
【0078】
<システム制御処理>
次に、マスタ1aの制御回路5が実行するシステム制御処理の内容を、図9に示すフローチャートに沿って説明する。
【0079】
なお、本処理は、マスタ1aが起動すると、予め設定された一定時間毎に繰り返し実行される。
本処理が起動すると、S110では、マスタ1aを死角車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両右側の死角車両検知エリアに存在する物標との距離を算出する。
【0080】
S120では、マスタ1aを後方接近車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両右側の後方接近車両検知エリアに存在する物標との距離,相対速度,方位角度を算出する。
【0081】
S130では、マスタ1aを後退時横切車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両右側の後退時横切車両検知エリアに存在する物標との距離,相対速度,方位角度を算出する。
【0082】
S140では、スレーブ1bを死角車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両左側の死角車両検知エリアに存在する物標との距離を算出する。
【0083】
S150では、スレーブ1bを後方接近車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両左側の後方接近車両検知エリアに存在する物標との距離,相対速度,方位角度を算出する。
【0084】
S160では、スレーブ1bを後退時横切車両検知モードで動作させ、その測定結果に従って物標検出処理を実行することで、車両左側の後退時横切車両検知エリアに存在する物標との距離,相対速度,方位角度を算出する。
【0085】
<警報処理>
次に、システム制御処理を実行することによって得られた各検知エリアに存在する物標の情報に基づいて実行する死角車両検知警報処理、後方接近車両検知警報処理、後退時横切車両検知警報処理について説明する。なお、これらの処理は、マスタ1aが起動によって実行が開始される。
【0086】
まず、死角車両検知警報処理を、図10に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が起動すると、まず、S210では、自車両が停止状態にあるか否かを判断する。
【0087】
なお、停止状態であるか否かは、車載ネットワークを介して取得する車速、シフトレバー位置の情報に基づいて判断し、具体的には、車速がゼロであり、かつ、シフトレバーがパーキングの位置にある場合に停止状態であると判断する。
【0088】
S220では、先のS110およびS140での検出結果に基づき、死角車両検知エリアで車両(物標)が検知されたか否かを判断し、検知されていれば、S230に移行し、警報をONにして、S210に戻る。なお、警報は、検出された物標との距離に応じて鳴動の態様が変化するように構成してもよい。
【0089】
一方、死角車両検知エリアで車両が検知されていなければ、S240に移行し、警報がONになっていれば、これをOFFに切り替え、警報がOFFになっていれば、何もしないで、S210に戻る。
【0090】
次に、後方接近車両検知警報処理を、図11に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が起動すると、まず、S310では、自車両が前進状態であり、かつ方向指示器の状態がONであるか否かを判断する。
【0091】
なお、前進状態であるか否かは、車載ネットワークを介して取得する車速およびシフトレバーの位置の情報に基づいて判断し、具体的には、車速が正値を有しているか、またはシフトレバーの位置が前進に用いるギアの位置にある場合に前進状態であると判断する。また、方向指示器の状態も、車載ネットワークを介して取得する。
【0092】
S320では、先のS120およびS150での検出結果に基づき、後方接近車両検知エリアで車両(物標)が検知されたか否かを判断し、検知されていれば、S330に移行し、警報をONにしてS310に戻る。なお、警報は、検出された物標との距離,相対速度,方位角度に応じて鳴動の態様が変化するように構成してもよい。
【0093】
一方、後方接近車両検知エリアで車両が検知されていなければ、S340に移行し、警報がONになっていれば、これをOFFに切り替え、警報がOFFになっていれば、何もしないで、S310に戻る。
【0094】
次に、後退時横切車両検知警報処理を、図12に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が起動すると、まず、S410では、自車両が後退状態でありか否かを判断する。
【0095】
なお、後退状態であるか否かは、車載ネットワークを介して取得する車速およびシフトレバーの位置の情報に基づいて判断し、具体的には、車速が負値を有しているか、またはシフトレバーの位置が後退に用いるギアの位置にある場合に後退状態であると判断する。
【0096】
S420では、先のS130およびS160での検出結果に基づき、後退時横切車両検知エリアで車両(物標)が検知されたか否かを判断し、検知されていれば、S430に移行し、警報をONにしてS410に戻る。なお、警報は、検出された物標との距離,相対速度,方位角度に応じて鳴動の態様が変化するように構成してもよい。
【0097】
一方、後退時横切車両検知エリアで車両が検知されていなければ、S440に移行し、警報がONになっていれば、これをOFFに切り替え、警報がOFFになっていれば、何もしないで、S410に戻る。
【0098】
<効果>
以上説明したように、レーダ装置1では、アンテナ基板6の面方向を主放射方向とする平面放射用アンテナ部3と、アンテナ基板6の端方向を主照射方向とする水平放射用アンテナ部4とが、アンテナ基板6の異なるパターン形成層に形成されているため、両アンテナ部3,4を同一のパターン形成層に形成した場合と比較して、水平放射用アンテナ部4の指向性を、平面放射用アンテナ部3の形成面に対する裏側方向により向けることができる。その結果、単一のアンテナ基板6でカバー可能な検知エリアを広角化(例えば、180°以上)することができる。
【0099】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
本実施形態では、マスタとなるレーダ装置1aが実行するシステム制御処理の内容が、第1実施形態の場合とは異なるだけであるため、この異なる点を中心に説明する。
【0100】
<システム制御処理>
図13は、本実施形態におけるシステム制御処理の内容を示すフローチャートである。
本処理が起動すると、まず、S510では、自車両が前進状態であるか否かを判断する。なお、前進状態であるか否かの判断は、S310の場合と同様に行う。
【0101】
自車両が前進状態であれば、S520にて、マスタを死角車両検知モードで動作させると共に、スレーブを後方接近車両検知モードで動作させる。
続くS530では、S520とは逆に、マスタを後方接近車両検知モードで動作させると共に、スレーブを死角車両検知モードで動作させた後、S510に戻る。
【0102】
S510にて、自車両が前進状態ではないと判断した場合、S540に移行し、自車両が後退状態であるか否かを判断し、後退状態でなければS510に戻る。なお、後退状態であるか否かの判断は、S410の場合と同様に行う。
【0103】
S540にて、自車両が後退状態であると判断した場合は、S550にて、マスタを死角車両検知モードで動作させると共に、スレーブを後退時横切車両検知モードで動作させる。
【0104】
続くS560では、S550とは逆に、マスタを後退時横切車両検知モードで動作させ、スレーブを死角車両検知モードで動作させた後、S510に戻る。
<効果>
このように構成された車載制御システムでは、二つのレーダ装置(マスタ,スレーブ)1a,1bを、同時に動作させているため、物標検出を効率よく実行することができる。
【0105】
しかも、両レーダ装置1a,1bの検知モードは、必ず、使用するアンテナ部(ひいては探査する検知エリア)や、探査に用いるレーダ波の方式(パルス波/連続波)が異なるように組み合わせているため、レーダ装置1a,1b間で干渉が生じてしまうことを防止することができる。
【0106】
[他の実施形態]
以上本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0107】
上記実施形態では、水平放射用アンテナ部4が部品載置面6b(外層)に形成されたアンテナ基板6を用いているが、図14に示すように、水平放射用アンテナ部4が、部品載置面7bに対して一層の絶縁層を挟んで対向するパターン形成層(内層)に形成されたアンテナ基板7を用いてもよい。
【0108】
なお、図14は、(a)がアンテナ基板7を部品載置面7b側から見た平面図、(b)がアンテナ基板7の断面図である。
図14に示すように、アンテナ基板7では、平面放射用アンテナ部3は、アンテナ基板6と同様にアンテナ形成面7aに形成され、平面放射用アンテナ部3に対するグランドパターン71,水平放射用アンテナ部4に対する給電線(マイクロストリップライン)72は、それぞれの給電対象となるアンテナ部3,4とは一層の絶縁層を挟んで対向するパターン形成層(内層)に形成され、更に、給電線72が形成された内層に対して一層の絶縁層を挟んでアンテナ形成面側に位置する内層には、給電線72用のグランドパターン73が形成されている。
【0109】
また、上記実施形態では、水平放射用アンテナ部4を構成する水平放射用単位アンテナSE,REとして、テーパスロットアンテナを用いたが、図15に示すように、パターンによって形成したダイポールアンテナを用いてもよい。
【0110】
なお、図15は、(a)がアンテナ基板8を部品載置面8b側から見た平面図、(b)がアンテナ基板8の断面図、(c)は給電線とダイポールアンテナとの位置関係を示す説明図である。
【0111】
図15に示すように、アンテナ基板8のアンテナ形成面8a(外層)には、アンテナ基板6と同様に、平面放射用アンテナ部3が形成され、このアンテナ形成面8aに対して一層の絶縁層を挟んで対向するパターン形成層(内層)には、平面放射用アンテナ部3用のグランドパターン81が形成されている。
【0112】
一方、アンテナ基板8の部品載置面8bには、水平放射用アンテナ部4だけでなく、水平放射用アンテナ部4に対する給電線(マイクロストリップライン)82も形成され、この部品載置面8bに対して一層の絶縁層を挟んで対向するパターン形成層(内層)には、給電線82用のグランドパターン83が形成されている。
【0113】
そして、図15(c)に示すように、給電線82の給電端側は、グランドパターン83が省略され、しかも、そのグランドパターン83の端部と水平放射用アンテナ部4との距離Dが、送受信する電磁波の約1/4波長の長さとなるように形成されている。
【0114】
このような距離Dと位置関係を有するように水平放射用アンテナ部4と給電線82とが形成されたアンテナ基板8では、アンテナ利得を向上させることができると共に、水平放射用アンテナ部4の主放射方向(ビームの向き)を、端方向からアンテナ基板8の部品載置面8b側にシフトさせることができる。
【0115】
上記実施形態では、車載レーダシステムの検知モードとして、平面放射モードかつ連続波モード、または、水平放射モードかつパルス波モードという動作モードの組合せを用いているが、動作モードの組合せはこれに限るものではなく、平面放射モードかつパルス波モードや、水平放射モードかつ連続波モードの組合せを用いてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…レーダ装置 1a…マスタ(レーダ装置) 1b…スレーブ(レーダ装置) 3…平面放射用アンテナ部 4…水平放射用アンテナ部 5…制御回路 6,7,8…アンテナ基板 6a,7a,8a…アンテナ形成面 6b,7b,8b…部品載置面 10…送信機 11…電圧制御発振器(VCO) 2,21,25…増幅器 13…分岐線路 14…パルス生成器 15…分配器 16…信号制御部 20…受信機 21…増幅部 22…受信スイッチ回路 23…パルス生成器 24…ミキサ 31…平面放射用送信アンテナ群 32…平面放射用受信アンテナ群 41…水平放射用送信アンテナ 42…水平放射用受信アンテナ 61,63,71,73,81,83…グランドパターン 62,72,82…給電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層以上のパターン形成層を有する基板と、
一方の面が絶縁層に接し他方の面が開放されたパターン形成層である外層に形成され、前記パターン形成層の積層方向に向けて電磁波を放射しかつ一列に配置された複数の平面放射用単位アンテナからなる平面放射用アンテナ部と、
前記平面放射用アンテナとは異なるパターン形成層に形成され、かつ、前記平面放射用単位アンテナの配列方向であるアンテナ配列方向の両端部のうち少なくとも一方の端部に配置され、前記アンテナ配列方向に向けて電磁波を放射する少なくとも一つの水平放射用単位アンテナからなる水平放射用アンテナ部と、
を備えることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記水平放射用アンテナ部は、前記水平放射用アンテナ部とは異なる外層に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記水平放射用アンテナ部は、両面が絶縁層に面するパターン形成層である内層に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記水平放射用アンテナ部への給電を、該水平放射用アンテナ部が形成されたパターン形成層と前記平面放射用アンテナ部が形成されたパターン形成層との間に位置するパターン形成層から行うように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記平面放射用アンテナ部は、前記アンテナ配列方向に沿って配置された送信専用の送信アンテナ部および受信専用の受信アンテナ部からなり、それぞれが複数の平面放射用単位アンテナで構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記水平放射用アンテナ部は、前記アンテナ配列方向とは直交する方向に沿って配置された送信専用の送信アンテナ部および受信専用の受信部アンテナ部からなり、それぞれが少なくとも一つの水平放射用単位アンテナで構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記平面放射用単位アンテナは、前記アンテナ配列方向とは直行する方向に沿って一列または複数列に配置された複数のパッチアンテナからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記水平放射用単位アンテナは、テーパスロットアンテナからなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記平面放射用アンテナ部および前記水平放射用アンテナ部を介して電磁波を送受信する送信部および受信部を構成する電子部品が、前記水平放射用アンテナ部とは異なる外層に実装されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項の記載のアンテナ装置と、
前記アンテナ装置を構成する前記平面放射用アンテナ部および前記水平放射用アンテナ部のうち、いずれか一方を選択して電磁波を送信する送信部と、
前記アンテナ装置を構成する前記平面放射用アンテナ部および前記水平放射用アンテナ部のうち、いずれか一方を選択して電磁波を受信する受信部と、
送受信に使用するアンテナ部を選択し、前記送信部を介して電磁波を送信すると共に、前記受信部を介して取得した信号に基づいて、物標を検出する処理を実行する信号処理部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
前記送信部は、電磁波の送信に用いる前記平面放射用単位アンテナのそれぞれに供給する送信信号の振幅と位相を制御することで、前記平面放射用アンテナ部が送信する電磁波の指向性を変化させる振幅・位相制御回路を備えることを特徴とする請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記受信部は、電磁波の受信に用いる前記平面放射用単位アンテナのそれぞれからの受信信号を、前記信号処理部に個別に供給し、
前記信号処理部は、各受信信号の位相情報を利用して、電磁波の到来方向を推定する処理を実行することを特徴とする請求項10または請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記送信部が、前記平面放射用アンテナ部を介して電磁波を送信する場合は、前記受信部も、前記平面放射用アンテナ部を介して電磁波を受信し、前記送信部が、前記水平放射用アンテナ部を介して電磁波を送信する場合は、前記受信部も、前記水平放射用アンテナ部を介して電磁波を受信するように、前記送信部および受信部の動作を制御することを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記送信部および受信部は、パルス波を送受信する動作モードであるパルス波モードと、連続波を送受信する動作モードである連続波モードとを有することを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記送信部および受信部は、前記平面放射用アンテナ部を使用する際には連続波モードで動作し、前記水平放射用アンテナ部を使用する際にはパルス波モードで動作することを特徴とする請求項14に記載の車載レーダシステム。
【請求項16】
請求項15に記載のレーダ装置を二つ備え、
前記平面放射用アンテナ部の検知エリアを第1エリア、前記水平放射用アンテナ部の検知エリアを第2エリアとして、
前記二つのレーダ装置のうち、一方は第1エリアが車両の右後方、第2エリアが車両の右側方に位置し、他方は第1エリアが車両の左後方、第2エリアが車両の左側方に位置するように、車両に設置されていることを特徴とする車載レーダシステム。
【請求項17】
第1エリアは、後方から接近する車両を検知するために設定される後方接近車両検知エリア、または後退時に車両後方を横切ろうとする車両を検知するために設定される後退時横切車両検知エリアであることを特徴とする請求項16に記載の車載レーダシステム。
【請求項18】
第2エリアは、ドライバの死角となる位置に存在する車両を検知するために設定される死角車両検知エリアであることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の車載レーダシステム。
【請求項19】
前記二つのレーダ装置を、互いに異なる動作モードで同時に動作させるシステム制御部を備えることを特徴とする請求項16乃至請求項18のいずれか1項に記載の車載レーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−159349(P2012−159349A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18102(P2011−18102)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】