説明

アンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末

【課題】送受信信号の利得の向上を図り、周囲に配置される金属部品の影響を受けにくいアンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末を得る。
【解決手段】所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターン20と、ループパターン20の巻回軸に対して略垂直な平面を有し、ループパターン20と対向配置された平面導体25と、平面導体25とループパターン20とを容量的に結合するキャパシタンス素子と、を備えたアンテナ装置。ループパターン20、平面導体25及びキャパシタンス素子は、誘電体素体10に一体的に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末、特に、NFC(Near Field Communication)などに用いられるアンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品や情報の管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付され、所定の情報を記憶したICタグなどの無線通信デバイスとを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報や電力の送受信を行うRFIDシステムが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非接触式ICカードを組み込んだ携帯電話機が開示されている。しかしながら、携帯電話機などの無線通信端末は、小型で多機能であるため、小型の筺体内に高密度に各種金属部品が搭載されている。例えば、マザーボードとなるプリント配線板にはグランド導体などが複数層に配置されており、該プリント配線板の表面にはICチップやコンデンサなどの金属を含む部品が高密度に実装されている。また、筺体内には、電源となるバッテリーパックも配置されており、このバッテリーパックにはフレームなどの金属部品が用いられている。
【0004】
それゆえ、筺体内に搭載されたICカードなどのアンテナ装置は、筺体内に設けられている金属部品の影響で通信性能が劣化するという問題点を有していた。所定の通信性能を確保するには、アンテナのサイズを大型化したり、筺体の形状や金属部品のレイアウトなどを再考する必要があるが、それにも限界があるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−37861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、送受信信号の利得の向上を図り、周囲に配置される金属部品の影響を受けにくいアンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1の形態であるアンテナ装置は、
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の形態である無線通信デバイスは、
高周波信号を処理する無線IC素子と、該無線IC素子と結合されたアンテナ装置と、を備えた無線通信デバイスにおいて、
前記アンテナ装置は、
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、を備えたこと、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第3の形態である無線通信端末は、
高周波信号を処理する給電部に接続されたアンテナ装置を備えた無線通信端末において、
前記アンテナ装置は、
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、を備えたこと、
を特徴とする。
【0010】
前記アンテナ装置においては、ループパターンに平面導体を対向配置し、かつ、平面導体とループパターンとをキャパシタンス素子で容量結合したため、このキャパシタンスとループパターン及び平面導体とで形成される相互インダクタンスとで並列共振回路が形成され、ループパターンは所定の共振周波数で動作する放射素子として機能する。そして、ループパターンから平面導体に誘起される変位電流がループパターンに還流されるので、送受信信号の利得が向上し、通信距離が広がる。また、ループパターンにて励起された誘導磁界は、その大部分が平面導体に吸収されるので、近接配置されている金属部品に影響されることなく送受信が可能である。換言すれば、周囲の金属部品のレイアウトに応じてアンテナ形状などを設計し直す必要がなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送受信信号の利得の向上を図り、周囲に配置される金属部品の影響を受けにくいアンテナ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1であるアンテナ装置を示す分解斜視図である。
【図2】実施例1であるアンテナ装置を携帯電話機のプリント配線基板に搭載した状態を示す断面図である。
【図3】(A),(B)ともに実施例1であるアンテナ装置の等価回路図である。
【図4】実施例1であるアンテナ装置の動作原理の説明図である。
【図5】実施例2であるアンテナ装置を示す分解斜視図である。
【図6】実施例2であるアンテナ装置を携帯電話機のプリント配線基板に搭載した状態を示す断面図である。
【図7】実施例3であるアンテナ装置を備えた無線通信デバイス示す分解斜視図である。
【図8】実施例3であるアンテナ装置の等価回路図である。
【図9】実施例3であるアンテナ装置を構成する給電回路基板を示す分解斜視図である。
【図10】前記給電回路基板の動作説明図である。
【図11】実施例4であるアンテナ装置を備えた無線通信デバイスを示す分解斜視図である。
【図12】実施例4であるアンテナ装置を構成するループパターンの動作説明図である。
【図13】実施例5であるアンテナ装置を備えた無線通信デバイスを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るアンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末を具体的な実施例に基づいて説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(実施例1、図1〜図4参照)
実施例1であるアンテナ装置1Aは、HF帯用として使用されるものであり、図1に示すように、所定の高周波信号を放射及び受信するループパターン20と、該ループパターン20の巻回軸に対して略垂直に対向配置された平面導体25と、平面導体25とループパターン20とを容量的に結合するキャパシタンス素子とを備えている。
【0015】
ループパターン20は、複数の誘電体層11a〜11c上にそれぞれ形成したコイルパターン21a〜21cを積層し、複数のコイルパターン21a〜21cの両端部を層間接続導体22aを介して互いに接続した積層型である。1層目の誘電体層11a上に形成されたコイルパターン21aの一端は給電端子31aとされ、該誘電体層11a上にはいま一つの給電端子31bが形成されている。平面導体25は誘電体層11e上にループパターン20の巻回軸に対して略垂直な平面をなし、誘電体層11d上に形成された容量電極32と層間接続導体22cを介して接続されている。この容量電極32は3層目の誘電体層11c上に形成されたコイルパターン21cの一端である容量電極33と対向し、前記キャパシタンス素子を形成している。そして、容量電極33は層間接続導体22bを介して前記給電端子31bに接続されている。
【0016】
即ち、ループパターン20、平面導体25及びキャパシタンス素子は、誘電体層11a〜11eを積層した誘電体素体10に一体的に形成されている。誘電体素体10を構成する誘電体層11a〜11eは、ポリイミドや液晶ポリマなどのフレキシブルな熱可塑性樹脂シートである。各コイルパターン21a〜21cや平面導体25は、銅やアルミなどの金属箔のようなフレキシブルな金属膜をフォトリソ法やエッチング法によってパターニングして形成してもよく、導電性ペーストをスクリーン印刷して形成してもよい。なお、誘電体素体10やコイルパターン21a〜21c、平面導体25はこれらの材料に限定するものではない。
【0017】
なお、誘電体層11a上には、図2に示すように、さらに誘電体層で被覆することが好ましい。この場合、給電端子31a,31bは被覆された誘電体層上に露出するように形成される。
【0018】
前記アンテナ装置1Aにおいては、ループパターン20に平面導体25を対向配置し、かつ、平面導体25とループパターン20とをキャパシタンス素子で容量結合したため、このキャパシタンスCとループパターン20及び平面導体25とで形成される相互インダクタンスLとで並列共振回路が形成され、ループパターン20は所定の共振周波数で動作する。即ち、ループパターン20は給電端子31a,31bから供給される高周波電力を含む信号を放射し、及び/又は、受信した高周波電力を含む信号を給電端子31a,31bに供給する。そして、キャパシタンス素子(容量電極32,33)による容量結合により、ループパターン20から平面導体25に誘起される変位電流がループパターン20に還流されるので、送受信信号の利得が向上し、通信距離が広がる。平面導体25に誘起される変位電流は、通常、渦電流として熱的に消費されてしまうが、本実施例ではループパターン20に還流して有効利用されるのである。
【0019】
ところで、平面導体25は誘電体層11e上に該誘電体層11eのほぼ全面を覆うように形成され、ループパターン20の巻回軸に対して略垂直な平面をなし、巻回軸方向から平面視したとき、ループパターン20をその開口領域を含めて包含している。これによって、ループパターン20によって励起される誘導磁界が平面導体25に効率よく吸収/伝達される。また、ループパターン20は、平面導体25を介して近接配置される金属部品と対向するため、該金属部品に影響されることなく送受信が可能である。換言すれば、周囲の金属部品のレイアウトに応じてアンテナ形状などを設計し直す必要がなくなる。さらに、ループパターン20は、複数のコイルパターン21a〜21cを積層したものであるため、コイルパターン21a〜21cにて励起される誘導磁界の分布に方向性を付与できるとともに、インダクタンス値を向上させることができる。なお、平面導体25は、少なくともループパターン20による磁界エネルギーを受け取ることができればよく、ループパターン20の巻回軸上に開口部を有していてもよい。
【0020】
キャパシタンス素子(容量電極32,33)は、給電端子31a,31bの近傍に配置されている。これにて、ループパターン20による誘導磁界によって平面導体25に生じる変位電流のエネルギーを効率よく給電端子31a,31bに伝えることができる。
【0021】
前記アンテナ装置1Aは、図2に示すように、携帯電話機などの無線通信端末に内蔵されるプリント配線基板40に搭載される。無線通信端末の筺体に搭載されてもよい。給電端子31a,31bには所定の高周波信号を処理する給電部45(図3参照)が接続される。図2に示すように、プリント配線基板40に、ループパターン20に近接する金属膜41(グランド導体)が配置されていても、ループパターン20に生じる誘導磁界は大部分が平面導体25に吸収されるため、金属膜41が近接することによる影響が小さく、特性が大きく劣化することがない。
【0022】
アンテナ装置1Aをプリント配線基板40や筺体に固定するには、接着剤などで貼り付けてもよく、ピンなどの固定具を用いてもよい。なお、アンテナ装置1Aは、平面導体25をプリント配線基板40や筺体に向けて搭載することが好ましい。しかし、平面導体25側も多少は放射/受信作用を有するので、平面導体25が表面側となるように搭載してもよい。
【0023】
前記アンテナ装置1Aは図3(A)に示す等価回路として表現することができる。即ち、ループパターン20によるインダクタンスL1、容量電極32,33によるキャパシタンスC、平面導体25(ループパターン20の誘導磁界によって生じる変位電流)によるインダクタンスL2が給電部45に対して直列に接続された等価回路となる。ここで、ループパターン20における電流と、平面導体25における変位電流とは、互いに逆向きに流れるため、インダクタンスL1,L2はトランス的に結合し、仮想トランスが形成される。よって、等価的には、図3(B)に示すように、ループパターン20と平面導体25とで形成される相互インダクタンスLとキャパシタンスCとのLC並列共振回路が形成される。
【0024】
即ち、図4に示すように、まず、給電部(給電端子31a,31b)から高周波電力が供給されると、ループパターン20に電流I1が流れる。平面導体25には電流I1によって生じる磁界を打ち消す方向に逆向きの変位電流I2が生じる。電流I1と変位電流I2とは互いに逆向きに流れるので、等価的に、ループパターン20と平面導体25とが相互インダクタンスLで結合しているかたちとなる。このように、相互インダクタンスLとキャパシタンスCの並列共振回路が形成されるため、平面導体25にて変位電流が熱として失われようとしていたエネルギーが、ループパターン20(給電端子31a,31b)に還流され、その結果、利得が向上する。
【0025】
なお、前記相互インダクタンスLとキャパシタンスCとの並列共振回路の共振点は、ループパターン20を磁界アンテナとして作用させるために、信号周波数(本実施例では、13.56MHz)より高く設定することが好ましい。
【0026】
(実施例2、図5及び図6参照)
実施例2であるアンテナ装置1Bは、図5に示すように、ループパターン50とキャパシタンス素子を誘電体素体60に一体的に形成し、平面導体を別の基材に形成したものである。平面導体は、例えば、図6に示すプリント配線基板40のグランド導体55として形成されている。プリント配線基板40は携帯電話機などの無線通信端末に内蔵されている。平面導体は、プリント配線基板に代えて無線通信端末の筺体に設けられた平面的な導体であってもよい。
【0027】
詳しくは、ループパターン50は、複数の誘電体層61a〜61c上にそれぞれ形成したコイルパターン51a〜51cを積層し、複数のコイルパターン51a〜51cの両端部を層間接続導体52aを介して互いに接続した積層型である。3層目の誘電体層61cの裏面に形成された給電端子55aはコイルパターン51cの一端に層間接続導体52bを介して接続され、給電端子55bは層間接続導体52cを介して1層目の誘電体層61a上に形成されたコイルパターン51aの一端に接続されている。キャパシタンス素子は、2層目及び3層目の誘電体層61b,61c上に形成された容量電極56,57によって形成されている。容量電極56はコイルパターン51bの中間部分に接続されており、容量電極57は誘電体層61cの裏面に形成されたグランド端子58に層間接続導体52dを介して接続されている。
【0028】
図6に示すように、誘電体素体60の裏面に形成した実装用電極54がプリント配線基板40上に形成したランド42に半田付けされるとともに、給電端子55a,55bが給電用ランド43に半田付けされ、かつ、グランド端子58が、グランド導体55(平面導体)と層間接続導体44を介して接続されているランド45に半田付けされる。これにて、誘電体素体60がプリント配線基板40上に搭載される。
【0029】
アンテナ装置1Bがプリント配線基板40に搭載された状態において、グランド導体55が前記実施例1で示した平面導体25として機能する。従って、実施例2の作用効果は実施例1と同様である。特に、実施例2においては、キャパシタンス素子をループパターン50の中間部分に接続したため、バランス給電にあっては、ループパターン50での電圧変動が最も小さい位置での接続になるので、平面導体(グランド導体55)にて生じたエネルギーを効率よくループパターン50に還流することができる。
【0030】
(実施例3、図7〜図10参照)
実施例3であるアンテナ装置1Cは、図7に示すように、無線ICチップ71と給電回路基板75とからなる無線IC素子70を備えた無線通信デバイスとして構成したものである。この場合、アンテナ装置1Cはブーストアンテナとして機能する。なお、無線IC素子70としては、無線ICチップ71単独でも使用することができる。無線ICチップ71は、高周波信号を処理するもので、クロック回路、ロジック回路、メモリ回路などを含み、必要な情報がメモリされている。
【0031】
ループパターン80とキャパシタンス素子とは誘電体素体90に一体的に形成されている。即ち、ループパターン80は、誘電体層91a上に形成した両端に容量電極86,87を有するコイルパターン81aと、誘電体層91b上に形成した両端に容量電極88,89を有するコイルパターン81bとからなり、それぞれのコイルパターン81a,81bは互いに逆方向に巻回されている。即ち、それぞれのコイルパターン81a,81bは、電流が同一方向に流れるように、平面視で互いに逆方向に巻回されている。容量電極86,88と容量電極87,89はそれぞれ互いに対向してキャパシタンスC1,C2を形成している。平面導体85は、誘電体層91c上に形成され、容量電極89との間でキャパシタンスCを形成し、ループパターン80と容量的に結合している。平面導体85はループパターン80の巻回軸に対して略垂直な平面を有し、ループパターン80と対向配置されていることは前記実施例1と同様である。
【0032】
このアンテナ装置1Cは、図8に示す等価回路を形成している。即ち、コイルパターン81aで形成されるインダクタンスL1、容量電極86,88によるキャパシタンスC1、コイルパターン81bで形成されるインダクタンスL2、容量電極87,89によるキャパシタンスC2、の直列共振回路を有し、さらに、容量電極89と平面導体85によるキャパシタンスCを有している。
【0033】
給電回路基板75は、図9に示すように、複数の基材層76a〜76eを積層、圧着、必要に応じて焼成したもので、コイルパターン78a〜78dからなる給電回路が内蔵されている。基材層76a〜76eは、絶縁体(誘電体、磁性体)あるいは液晶ポリマなどのような熱可塑性樹脂やエポキシ系ポリマなどのような熱可塑性樹脂であってもよい。基材層76aには入出力端子77a,77bと実装用端子77c,77dが形成され、基材層76b〜76eにはコイルパターン78a〜78dが形成されている。各コイルパターン78a〜78dの端部は層間接続導体79aを介して接続され、コイルパターン78aの他端は層間接続導体79bを介して入出力端子77aに接続され、コイルパターン78dの他端は層間接続導体79cを介して入出力端子77bに接続されている。入出力端子77a,77bやコイルパターン78a〜78dは、銅やアルミなどの金属箔のようなフレキシブルな金属膜をフォトリソ法やエッチング法によってパターニングして形成してもよく、導電性ペーストをスクリーン印刷して形成してもよい。
【0034】
給電回路基板75上には、前記無線ICチップ71の入出力端子電極や実装用端子電極(図示せず)が表面の入出力端子77a,77b及び実装用端子77c,77dに半田バンプなどで接続され、無線IC素子70とされる。無線ICチップ71から高周波信号がコイルパターン78a〜78dに伝達されると、各コイルパターン78a〜78dには同方向に電流が流れ、図10に示す誘導磁界Hが発生する。この誘導磁界Hによってアンテナ装置1Cと給電回路とが磁界結合する。
【0035】
アンテナ装置1Cは、誘導磁界Hをループパターン80で受け、該誘導磁界Hによる誘導電流が前記直流共振回路に流れ、この誘導電流によって生じる磁界エネルギーが外部に放射される。そして、ループパターン80と平面導体85とで形成される相互インダクタンスLとキャパシタンスCの並列共振回路が形成されるため、平面導体85にて生じた変位電流が熱エネルギーとして失われることなく、ループパターン80に還流され、利得が向上する。本実施例3でのその他の作用効果は前記実施例1と同様である。特に、本実施例3では、各誘電体層91a〜91cに層間接続導体を設けていないので、層間接続導体を形成するための工程が不要となり、容易にかつ安価にアンテナ装置1Cを製作できる。
【0036】
ちなみに、給電回路基板75においては、コイルパターン78a〜78dによるインダクタンスとその線間容量とでLC共振回路が形成され、この共振周波数によってアンテナ装置1Cから放射される高周波信号の周波数、及び、アンテナ装置1Cで受信する高周波信号の周波数が実質的に決定される。また、コイルパターン78a〜78dの電気長やパターン幅などを調整することで、共振周波数やインピーダンスが調整される。
【0037】
(実施例4、図11及び図12参照)
実施例4であるアンテナ装置1Dは、図11に示すように、無線ICチップ71と給電回路基板75とからなる無線IC素子70を備えた無線通信デバイスとして構成したものである。この場合、アンテナ装置1Dはブーストアンテナとして機能する。無線ICチップ71及び給電回路基板75の構成及び動作は前記実施例3と同様である。また、無線ICチップ71単独でも使用可能であることは実施例3と同様である。
【0038】
このアンテナ装置1Dにおいて、ループパターン100と平面導体105は誘電体素体110に一体的に形成されている。ループパターン100は、1層目の誘電体層111a上に形成した金属膜であって、その一部(略中央部分)に開口部101を有し、該開口部101に外縁から連通するスリット部102を有し、さらに、容量電極103が形成されている。2層目の誘電体層111bには容量電極104が形成されている。平面導体105は3層目の誘電体層111c上に形成され、該誘電体層111c上には平面導体105と接続された容量電極106が形成されている。容量電極103,104にてキャパシタンスC1が形成され、容量電極104,106にてキャパシタンスC2が形成されている。即ち、ループパターン100と平面導体105とを結合するキャパシタンス素子はキャパシタンスC1,C2の合成容量として構成されている。
【0039】
無線IC素子70(給電回路基板75)で生じた前記誘導磁界Hをループパターン100で受けると、ループパターン100には図12に示す誘導電流I3がその周縁部に流れる。この誘導電流I3によって生じる磁界エネルギーが外部に放射される。そして、ループパターン100と平面導体105とで形成される相互インダクタンスLとキャパシタンスC(C1とC2との合成容量)の並列共振回路が形成されるため、平面導体105にて生じた変位電流が熱エネルギーとして失われることなく、ループパターン100に還流され、利得が向上する。本実施例4でのその他の作用効果は前記実施例1と同様である。本実施例4でも前記実施例3と同様に、各誘電体層111a〜111cに層間接続導体を設けていないので、層間接続導体を形成するための工程が不要となり、容易にかつ安価にアンテナ装置1Dを製作できる。
【0040】
(実施例5、図13参照)
実施例5であるアンテナ装置1Eは、図13に示すように、基本的には前記実施例1と同様の構成を有し、無線ICチップ71を給電端子31a,31bに接続して無線ICデバイスとして構成したものである。従って、本実施例5の作用効果は実施例1と同様である。
【0041】
(他の実施例)
なお、本発明に係るアンテナ装置、無線通信デバイス及び無線通信端末は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0042】
特に、無線通信端末としての携帯電話機はあくまで例示であって、本発明は様々な無線通信端末に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明は、アンテナ装置、無線通信デバイスや無線通信端末に有用であり、特に、送受信信号の利得の向上を図り、周囲に配置される金属部品の影響を受けにくい点で優れている。
【符号の説明】
【0044】
1A〜1E…アンテナ装置
10,60,90,110…誘電体素体
11a〜11e,61a〜61c,91a〜91c,111a〜111c…誘電体層
20,50,80,100…ループパターン
21a〜21c,51a〜51c,81a,81b…コイルパターン
25,85,105…平面導体
31a,31b,55a,55b…給電端子
32,33,56,57,86〜89,103,104,106…容量電極
55…グランド導体(平面導体)
70…無線IC素子
71…無線ICチップ
75…給電回路基板
L,L1,L2…インダクタンス
C、C1,C2…キャパシタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、
を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記ループパターン、前記平面導体及び前記キャパシタンス素子は、誘電体素体に形成されていること、を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記誘電体素体は複数の誘電体層を積層してなる積層体であること、を特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記ループパターン及び前記キャパシタンス素子は誘電体素体に形成され、前記平面導体は前記誘電体素体とは別の基材に形成されていること、を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
巻回軸方向から平面視したとき、前記ループパターンはその開口領域を含めて前記平面導体に包含されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記キャパシタンス素子は前記ループパターンへの給電端子の近傍に配置されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記キャパシタンス素子は前記ループパターンの中間部分に接続されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記ループパターンは、複数のコイルパターンを巻回軸方向に積層し、該複数のコイルパターンを互いに接続してなる積層型であること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記ループパターンは積層された第1及び第2コイルパターンを有し、
前記第1コイルパターンと前記第2コイルパターンとは互いに逆方向に巻回されており、かつ、互いの端部が対向して前記キャパシタンス素子を形成していること、
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記ループパターンはその一部に開口部と該開口部に外縁から連通するスリット部とを有していること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項11】
高周波信号を処理する無線IC素子と、該無線IC素子と結合されたアンテナ装置と、を備えた無線通信デバイスにおいて、
前記アンテナ装置は、
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、を備えたこと、
を特徴とする無線通信デバイス。
【請求項12】
前記無線IC素子は無線ICチップであること、を特徴とする請求項11に記載の無線通信デバイス。
【請求項13】
前記無線IC素子は、無線ICチップと該無線ICチップと結合された給電回路を備えた給電回路基板とで構成されていること、を特徴とする請求項11に記載の無線通信デバイス。
【請求項14】
高周波信号を処理する給電部に接続されたアンテナ装置を備えた無線通信端末において、
前記アンテナ装置は、
所定の高周波信号を放射及び/又は受信するループパターンと、
前記ループパターンの巻回軸に対して略垂直な平面を有し、前記ループパターンと対向配置された平面導体と、
前記平面導体と前記ループパターンとを容量的に結合するキャパシタンス素子と、を備えたこと、
を特徴とする無線通信端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−193245(P2011−193245A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57859(P2010−57859)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】