説明

アンテナ装置、通信装置、アンテナ装置の製造方法

【課題】通信特性を維持しつつ、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化、薄型化を図ることが可能な通信装置を提供する。
【解決手段】リーダライタ120と誘導結合されるアンテナコイル11aが形成されたアンテナ基板11と、アンテナ基板11に形成されたアンテナコイル11aと重畳した位置に配置され、アンテナコイル11aにリーダライタ120から発信される磁界を引き込む磁性シート13と、磁性シート13とアンテナコイル11aとが重畳されている面以外の面に積層され、磁性シート13の端部13a、13bを全てを覆うフィルム状の保護部材15とを備え、磁性シート13は、アンテナ基板11上に形成されたアンテナコイル11aの中心部分11cに差し込まれることで、アンテナコイル11aと磁性シート13とが互いに重畳されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置、通信装置、アンテナ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの電子機器において、近距離非接触通信の機能を搭載するため、RFID(Radio Frequency Identification)用のアンテナモジュールが用いられている。
【0003】
このアンテナモジュールは、リーダライタなどの発信器に搭載されたアンテナコイルと誘導結合を利用して通信を行っている。すなわち、このアンテナモジュールは、リーダライタからの磁界をアンテナコイルが受けることによって、それを電力に変換して通信処理部として機能するICを駆動させることができる。
【0004】
アンテナモジュールは、確実に通信を行うため、リーダライタからのある値以上の磁束をアンテナコイルで受ける必要がある。そのために、従来例に係るアンテナモジュールでは、携帯電話機の筐体にループコイルを設け、このコイルでリーダライタからの磁束を受けている。
【0005】
ところが、携帯電話機などの電子機器に組み込まれたアンテナモジュールは、機器内部の基板やバッテリーパックなどの金属が、リーダライタからの磁界を受けることによって発生する渦電流のために、リーダライタからの磁束が跳ね返されてしまうため、ループコイルに届く磁束が少なくなってしまった。このようにしてループコイルに届く磁束が少なくなってしまうため、アンテナモジュールは、必要な磁束を集めるためにある程度の大きさのループコイルが必要となり、さらに、磁性シートを用いて磁束を増やすことも必要となる。
【0006】
上述したように、携帯電話機などの電子機器の基板に流れる渦電流によってリーダライタからの磁束が跳ね返されるが、電子機器の筐体表面には、基板の面方向に向いている磁界の成分があり、この成分を受けることによってアンテナとして機能するというものが特許文献1において提案されている。具体的に、特許文献1では、コイルの占有面積を少なくするため、フェライトコアにコイルを巻いたアンテナ構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−35464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、携帯電話機などの電子機器は基板などの比較的電気をよく流すものが使われているので、磁界を受けた基板に渦電流が発生することにより、磁界を跳ね返してしまう。例えば、携帯電話機の筐体表面で考えると、リーダライタからくる磁界は、筐体表面の外周部分が強くなり、筐体表面の真ん中付近が弱くなる傾向にある。
【0009】
通常のループコイルを用いるアンテナの場合、ループコイルは、その開口部が、上述した筐体表面の外周部分を通過する磁界をあまり受けることができない携帯電話機の中央部分に位置している。このため、通常のループコイルを用いるアンテナでは、磁界を受ける効率が悪くなっている。
【0010】
また、特許文献1に記載されたフェライトコアにコイルを巻いて、そのコイルを携帯電話機に組み込んだアンテナ構造では、フェライトコアの断面が磁束を集める面積になるので、フェライトコアの厚みが例えば1mm以上必要になり、携帯電話機の筐体が比較的厚い構造となってしまう。このため、比較的薄型の携帯電話機では、その内部に実装するのが難しい構造である。また、折りたたみ式の携帯電話機に搭載された液晶ディスプレイの裏側に、このアンテナモジュールを組み込む場合には、やはり薄いことが必要となるので、特許文献1に記載のアンテナ構造ではスペースを確保するのが難しい。
【0011】
さらに、フェライトなどの磁性材料を焼結した部材は、リーダライタからくる磁界をアンテナコイルに効率よく引き込むのに使用されるが、衝撃など外力が加わると端部が剥がれ落ちやすいという性質がある。このような剥がれ落ちた粉状の磁性材料は、例えば携帯電話機に組み込まれた他の電子デバイスに悪影響を及ぼす虞がある。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、アンテナコイルに磁界を引き込ませる磁性シートを用いて、通信特性を維持し、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化を図るとともに、物理的な外力に対して高強度なアンテナ装置を提供することを目的とする。さらに、このアンテナ装置を組み込んだ通信装置、及びこのアンテナ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置において、アンテナ基板に形成され発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、アンテナコイルに発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳した積層体と、積層体を、少なくとも磁性シートの端部まで覆うフィルム状の保護部材とを備え、積層体は、アンテナ基板上に形成されたアンテナコイルの中心部分に差し込まれることで、発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置する配置条件と、配向された進行方向の下流側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、アンテナコイルと磁性シートとが互いに重畳されている。
【0014】
また、本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる通信装置において、アンテナ基板に形成され発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、アンテナコイルに発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳した積層体と、積層体を、少なくとも磁性シートの端部まで覆うフィルム状の保護部材と、アンテナコイルに流れる電流により駆動し、発信器との間で通信を行う通信処理部とを備え、積層体は、アンテナ基板上に形成されたアンテナコイルの中心部分に差し込まれることで、発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置する配置条件と、配向された進行方向の下流側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、アンテナコイルと磁性シートとが互いに重畳されている。
【0015】
また、本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置を製造するアンテナ装置の製造方法において、アンテナ基板に形成され、発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、アンテナコイルに発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳させるステップと、磁性シートとアンテナコイルとを重畳した積層体を、フィルム状の保護部材により、少なくとも磁性シートの端部まで覆うステップとを有し、重畳させるステップでは、磁性シートを、アンテナ基板上に形成されたアンテナコイルの中心部分に差し込ませることで、発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置する配置条件と、配向された進行方向の下流側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、アンテナコイルと該磁性シートとを互いに重畳させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、アンテナコイルに磁界を引き込ませる磁性シートを用いて、通信特性を維持し、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化を図るとともに、アンテナコイルと磁性シートとを互いに重畳した積層体を、フィルム状の保護部材により、少なくとも該磁性シートの端部まで覆うので物理的な外力に対して高強度である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用された通信装置が組み込まれた無線通信システムの構成について説明するための図である。
【図2】携帯電話機の筐体内部に配置される通信装置の構成について説明するための図である。
【図3】図3(A)は、アンテナモジュールの斜視図であり、図3(B)は、アンテナモジュールの断面図である。
【図4】磁性シートとアンテナコイルとの積層体の両面に、保護部材を積層したアンテナモジュールの構成について説明するための図である。
【図5】磁性シートとアンテナコイルとの積層体の両面に、保護部材を積層したアンテナモジュールの他の実施例について説明するための図である。
【図6】比較例に係るアンテナモジュールの構成について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0019】
本発明が適用された通信装置は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる装置であって、例えば図1に示すようなRFID(Radio Frequency Identification)用の無線通信システム100に組み込まれて使用される。
【0020】
無線通信システム100は、本発明が適用された通信装置1と、通信装置1に対するアクセスを行うリーダライタ120とからなる。ここで、通信装置1とリーダライタ120とは、三次元直交座標系xyzのxy平面において互いに対向するように配置されているものとする。
【0021】
リーダライタ120は、xy平面において互いに対向する通信装置1に対して、z軸方向に磁界を発信する発信器として機能し、具体的には、通信装置1に向けて磁界を発信するアンテナ121と、アンテナ121を介して誘導結合された通信装置1と通信を行う制御基板122とを備える。
【0022】
すなわち、リーダライタ120は、アンテナ121と電気的に接続された制御基板122が配設されている。この制御基板122には、一又は複数の集積回路チップ等の電子部品からなる制御回路が実装されている。この制御回路は、通信装置1から受信されたデータに基づいて、各種の処理を実行する。例えば、制御回路は、通信装置1に対してデータを送信する場合、データを符号化し、符号化したデータに基づいて、所定の周波数(例えば、13.56MHz)の搬送波を変調し、変調した変調信号を増幅し、増幅した変調信号でアンテナ121を駆動する。また、制御回路は、通信装置1からデータを読み出す場合、アンテナ121で受信されたデータの変調信号を増幅し、増幅したデータの変調信号を復調し、復調したデータを復号する。なお、制御回路では、一般的なリーダライタで用いられる符号化方式及び変調方式が用いられ、例えば、マンチェスタ符号化方式やASK(Amplitude Shift Keying)変調方式が用いられている。
【0023】
通信装置1は、例えばリーダライタ120とxy平面において対向するように配置される携帯電話機130の筐体131の内部に組み込まれ、誘導結合されたリーダライタ120との間で通信可能となるアンテナコイル11aが実装されたアンテナ基板11を有するアンテナモジュール1aと、アンテナコイル11aに流れる電流により駆動し、リーダライタ120との間で通信を行う通信処理部12とを備える。
【0024】
アンテナ基板11には、例えばフレキシブルプリント配線板などの可撓性の導線をパターンニング処理などをすることによって形成されるアンテナコイル11aと、アンテナコイル11aと通信処理部12とを電気的に接続する端子部11bとが実装されている。
【0025】
アンテナコイル11aは、リーダライタ120から発信される磁界を受けると、リーダライタ120と誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受信して、端子部11bを介して受信信号を通信処理部12に供給する。
【0026】
通信処理部12は、アンテナコイル11aに流れる電流により駆動し、リーダライタ120との間で通信を行う。具体的に、通信処理部12は、受信された変調信号を復調し、復調したデータを復号して、復号したデータを、当該通信処理部12が有する内部メモリに書き込む。また、通信処理部12は、リーダライタ120に送信するデータを内部メモリから読み出し、読み出したデータを符号化し、符号化したデータに基づいて搬送波を変調し、誘導結合によって磁気的に結合されたアンテナコイル11aを介して変調された電波をリーダライタ120に送信する。
【0027】
以上のような構成からなる無線通信システム100において、以下では、アンテナモジュール1aの構成について説明する。
【0028】
アンテナモジュール1aのアンテナコイル11aは、携帯電話機130などの電子機器に組み込んだ際に当該電子機器の小型化を図りつつ、リーダライタ120との間で良好な通信特性を実現する観点から、例えば、図2(A)に示すような三次元直交座標系xyzのxy平面上であって、携帯電話機130の筐体131内部に設けられたバッテリパック133と、筐体131の内周壁131aとの隙間132に配置される。
【0029】
なお、アンテナモジュール1aは、上述したようにバッテリパック133と筐体131の内周壁131aとの隙間132だけでなく、例えば集積回路基板などの筐体131内部に配置された導電体と筐体の内周壁との隙間に設けるようにしてもよい。本実施例では、アンテナモジュール1aが、便宜上、板状の導電体として、図2(B)に示すようなバッテリパック133の金属筐体であるリーダライタ120に対向した金属板133aの端部133bと、筐体131の内周壁131aとの間に配置されているものとして説明する。
【0030】
ここで、図2(B)の断面図で示すように、携帯電話機130に配置されたバッテリパック133の金属筐体である金属板133aは、電気を比較的よく流すので、外部から交流磁界が加わると渦電流が発生し、磁界を跳ね返してしまう。このような外部から交流磁界が加わるときの磁界分布を調べると、リーダライタ120と対向したバッテリパック133の金属板133aの端部133bの磁界が強いという特性を有する。具体的に、アンテナモジュール1aが配置される隙間132の磁界は、y軸方向の成分が大きい。アンテナモジュール1aは、このようなy軸方向に成分が大きい磁界を効率よくアンテナコイル11aに引き込ませるため、図3に示すようにして配置され、アンテナコイル11aに重畳される磁性シート13を備える。
【0031】
ここで、図3(A)は、xy平面上において磁性シート13が差し込まれたアンテナ基板11の斜視図であり、図3(B)は、xy平面上において磁性シート13が差し込まれたアンテナ基板11の断面図である。
【0032】
図3(B)に示すように、アンテナモジュール1aでは、リーダライタ120に対向する金属板133aにより配向された磁界の進行方向の上流側では磁性シート13がアンテナコイル11aよりもリーダライタ120側に位置するように配置され、この配向された磁界の進行方向の下流側ではアンテナコイル11aが磁性シート13よりもリーダライタ120側に位置するように配置されるように、磁性シート13が、アンテナ基板11上に形成されたアンテナコイル11aの中心部分11cに差し込まれたものである。
【0033】
ここで、アンテナ基板11は、上述したようにフレキシブルプリント基板やリジットプリント基板などが用いられるが、特にフレキシブルプリント基板を用いることで、アンテナコイル11aの中央部に切れ込み部を容易に形成することができ、この切れ込み部に磁性シート13を容易に差し込めることができる。アンテナモジュール1aは、容易に磁性シート13をアンテナ基板11に差し込むという観点から、フレキシブルプリント基板を用いてアンテナ基板11とすることが好ましい。また、フレキシブルプリント基板を用いることで、当該アンテナモジュール1aを容易に製造することができる。
【0034】
このようにして、アンテナモジュール1aは、リーダライタ120に対向する金属板133aにより配向された磁界の進行方向の上流側では磁性シート13がアンテナコイル11aよりもリーダライタ120側に位置するように配置され、この配向された磁界の進行方向の下流側ではアンテナコイル11aが磁性シート13よりもリーダライタ120側に位置するように配置されることで、隙間132に生じる磁界を効率よくアンテナコイル11aに引き込ませることができる。
【0035】
さらに、アンテナモジュール1aは、隙間132に、アンテナコイル11aの開口部、すなわち中心部分11cが位置するように巻回されているので、携帯電話機130などの電子機器に組み込んだ際に筐体131の小型化を図ることができる。
【0036】
隙間132に生じる磁界を効率よくアンテナコイル11aに引き込ませることができるのは、上述したようにして磁性シート13を配置することによって、金属板133aの端部133bから筐体131の内周壁131aへの磁界成分が、アンテナコイル11aの開口部を効率よく通過するようになるからである。
【0037】
さらに、アンテナモジュール1aは、物理的な外力に対する強度を維持するため、図4に示すような、磁性シート13とアンテナコイル11aとを重畳した積層体14全体を、フィルム状の保護部材15で覆ったものである。ここで、保護部材15は、積層体14の上下面を覆う2つのシート151、152からなる。このシート151、152は、それぞれアンテナ基板11の両方の端部11d、11eよりも幅広で、結合部15a、15bによって接着されている。
【0038】
このようにして、アンテナモジュール1aは、磁性シート13の端部13a、13bがフィルム状の保護部材15によって覆われているので、例えばアンテナモジュール1aに衝撃が加えられたり、また、磁性シート13をアンテナコイル11aに差し込む際に変形して亀裂が入ったとしても、粉状の磁性部材がモジュール外部に飛散することを防止できる。すなわち、アンテナモジュール1aは、剥がれ落ちた粉状の磁性材料に起因して、携帯電話機130に組み込まれた他の電子デバイスに悪影響が生じることを防止できる。
【0039】
図4に示すような、アンテナモジュール1aは、図4(B)に示すように、アンテナコイル11aが形成されたアンテナ基板11の両方の端部11d、11eも保護部材15で覆っているが、例えば図5に示すような変形例に係るアンテナモジュール1bのように、保護部材15で磁性シート13の端部13a、13bまで覆われていれば、上述した磁性部材の飛散を防止することができる。
【0040】
すなわち、変形例に係るアンテナモジュール1bは、図5(A)に示すように、アンテナコイル11aの中心部分11cに差し込まれるy軸方向において、磁性シート13の両方の端部13a、13bが、それぞれアンテナコイル11aが形成されたアンテナ基板11の両方の端部11d、11eよりも中心部分11cに位置するようにして、アンテナコイル11aに差し込こんだものである。さらに、アンテナモジュール1bは、図5(B)に示すように、保護部材15で磁性シート13の端部13bを覆うが、アンテナ基板11の端部11eが保護部材15によって覆われていないものであり、このような構造を採用することで、アンテナモジュールの寸法が制限されている場合に、できるだけアンテナコイル11aの外形状を大きくすることができ、比較的良好な通信特性を実現することができる。さらに、アンテナモジュール1bは、上述したようなシート151、152とが互いに接着する接合部15a、15bのスペースを省略でき、結果として小スペース化を図ることができる。
【0041】
次に、本発明が適用されたアンテナモジュール1a、1bに係る物理的な外力に対する強度特性と、後述するような製造工程に関する環境性について、図6に示すような比較例1、2に係るアンテナモジュール2a、2bと比較して評価する。
【0042】
ここで、比較例1に係るアンテナモジュール2aは、図6(A)に示すように、フィルム状の保護部材25が、互いに重畳した位置に配置された磁性シート23とアンテナコイル21aとの積層体の両面に積層されているが、アンテナコイル21aが形成されているアンテナ基板21の端部21eと、磁性シート23の端部23bとが保護部材25によって覆われていないものである。
【0043】
また、比較例2に係るアンテナモジュール2bは、フィルム状の保護部材25が、互いに重畳した位置に配置された磁性シート23とアンテナコイル21aとの積層体の両面に積層されており、アンテナコイル21aが形成されているアンテナ基板21の端部21eが保護部材25に覆われているが、磁性シート23の端部23bが保護部材25に覆われていないものである。すなわち、アンテナモジュール2bは、アンテナ基板21の端部21eが磁性シート23の端部23bよりもアンテナモジュール2bの中心側に位置するものである。
【0044】
また、具体的な評価条件として、次のような部材を用いた。
【0045】
すなわち、アンテナコイルが実装されるプリント基板として、厚さ25μmのPI層と厚さ35μmのCu層とからなるフレキシブルプリント基板を用いた。
【0046】
また、磁性シートとして、複素透磁率μ’が100である厚さ200μmのフェライトを用いた。ここで、磁性シートは、150μm〜400μmの厚みがよく、特に180μm〜300μmがトータルとして良い。つまり、良好な特性を目指すにはフェライト厚みは最低でも200μm程度以上が必要である。
【0047】
200μm以上のフェライト材料はシートタイプまたは、バルクタイプがある。シートタイプは、両面に保護フィルムがありフェライトの軟化処理等による欠け部の脱落を防止するものであるが、金型による外形加工を行うと外形加工端面部に粉落ちが発生する。バルクタイプは、フェライトブロックから所定の厚み、例えば200μmにスライス加工をスライサーまたはワイヤー加工で行うものであって粉落ちはないが、外力によっては粉落ちが発生する。
【0048】
また、このバルクタイプのフェライトをアンテナコイルの中央部分に差し込むことでアンテナモジュールを構成するが、差込後にフェライトが割れるとアンテナのインダクタンスが変化する。よって、この予防として上述したフィルム状の保護部材で被覆してから、ローラ等でフェライトに割れ目をいれる。その場合割ったフェライトの粉落ちは保護部材によって防ぐことができる。また、この工法であれば、シートタイプのフェライト外形加工品においても端面部の粉落ちを防ぐことができる。
【0049】
保護部材としては、厚さ30μmの絶縁材料のフィルムとして、例えば寺岡製作所製、633S等のポリエステル/アクリル粘着剤、又は、日栄化工製GLシリーズのポリエステル/アクリル粘着剤を用いた。なお、保護部材は、5μm〜50μmで適宜選択可能であり、他の部材として、ポリイミド/アクリル粘着剤、PEN/アクリル粘着剤、ポリイミド/シリコーン系、フッ素系樹脂フィルム/シリコーン系のフィルムを用いることができる。
【0050】
このような条件の下、実施例1、2及び比較例1、2に係る特性について、下記の表1の通り評価した。
【0051】
【表1】

なお、表において、「保護部材無し」とは、図示しない比較例3に係るアンテナモジュールであって、保護部材が、互いに重畳した位置に配置された磁性シートとアンテナコイルとの積層体の両面に積層されていないアンテナモジュールに当たる。また、「フェライト幅」、「FPC幅」、「保護部材の幅」は、それぞれy軸方向で規定される磁性シート、アンテナ基板、保護部材の幅を示す。ここで、保護部材の幅がアンテナモジュールの幅に相当する。
【0052】
表1で示す結果から明らかなように、アンテナモジュール1a、1bは、アンテナコイル11aと重畳していない磁性シート13の全てが保護部材で全て覆われているので、「粉落ち」がなく、磁性部材の飛散を防止することができる。
【0053】
また、フェライト種類として、バルクとシートの環境負荷の観点で評価すると、シートタイプは焼成工程前にグリーンシートにする混合工程があり、その工程でフェライト材料に対して溶剤を重量比として20〜60%程度使用する。これに対してバルクタイプはフェライト材料を型に入れて成型加工し、その後、焼成工程でフェライトにするので、溶剤を使用しないため環境負荷的には良いという利点がある。
【符号の説明】
【0054】
1 通信装置、1a、1b、2a、2b アンテナモジュール、11、21 アンテナ基板、11a、21a アンテナコイル、11b 端子部、11c 中心部分、11d、11e、13a、13b、21e、23b、133b 端部、12 通信処理部、13、23 磁性シート、15、25 保護部材、100 無線通信システム、120 リーダライタ、121 アンテナ、122 制御基板、130 携帯電話機、131 筐体、131a 内周壁、132 隙間、133 バッテリパック、133a 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置において、
アンテナ基板に形成され上記発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、該アンテナコイルに上記発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳した積層体と、
上記積層体を、少なくとも上記磁性シートの端部まで覆うフィルム状の保護部材とを備え、
上記積層体は、上記アンテナ基板上に形成された上記アンテナコイルの中心部分に差し込まれることで、上記発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では上記磁性シートが上記アンテナコイルよりも上記発信器側に位置する配置条件と、該配向された進行方向の下流側では該アンテナコイルが該磁性シートよりも該発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、該アンテナコイルと該磁性シートとが互いに重畳されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
上記磁性シートは、上記アンテナコイルの中心部分に差し込まれる方向において、該磁性シートの両端が、該アンテナコイルが形成されたアンテナ基板の両端に対して該中心部分寄りに位置することを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる通信装置において、
アンテナ基板に形成され上記発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、該アンテナコイルに上記発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳した積層体と、
上記積層体を、少なくとも上記磁性シートの端部まで覆うフィルム状の保護部材と、
上記アンテナコイルに流れる電流により駆動し、上記発信器との間で通信を行う通信処理部とを備え、
上記積層体は、上記アンテナ基板上に形成された上記アンテナコイルの中心部分に差し込まれることで、上記発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では上記磁性シートが上記アンテナコイルよりも上記発信器側に位置する配置条件と、該配向された進行方向の下流側では該アンテナコイルが該磁性シートよりも該発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、該アンテナコイルと該磁性シートとが互いに重畳されていることを特徴とする通信装置。
【請求項4】
上記アンテナコイルは、上記電子機器の筐体内部の発信器に対向した導電体の端部と該筐体の内周壁との隙間に該アンテナコイルの開口部が位置するように、巻回されることを特徴とする請求項3記載の通信装置。
【請求項5】
電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置を製造するアンテナ装置の製造方法において、
アンテナ基板に形成され、上記発信器と誘導結合されるアンテナコイルと、該アンテナコイルに上記発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを互いに重畳させるステップと、
上記磁性シートと上記アンテナコイルとを重畳した積層体を、フィルム状の保護部材により、少なくとも該磁性シートの端部まで覆うステップとを有し、
上記重畳させるステップでは、上記磁性シートを、上記アンテナ基板上に形成された上記アンテナコイルの中心部分に差し込ませることで、上記発信器と対向する筐体面により配向された磁界の進行方向の上流側では上記磁性シートが上記アンテナコイルよりも上記発信器側に位置する配置条件と、該配向された進行方向の下流側では該アンテナコイルが該磁性シートよりも該発信器側に位置する配置条件との両方の配置条件を満たすようにして、該アンテナコイルと該磁性シートとを互いに重畳させることを特徴とするアンテナ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−115647(P2013−115647A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260639(P2011−260639)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】