説明

アンテナ装置およびそれを備えた受信機

【課題】所望波の電力レベルをできる限り大きくすることが可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】パワーインバージョン手段30は、判定手段60によって干渉波が検出されると、干渉波の周波数帯を有する受信電波に基づいて、干渉波の方向にヌルを形成するときのウェイトを演算し、その演算したウェイトが得られるときの振幅A(1≦i≦K)および位相φを演算する。スイッチ制御手段40は、閾値Ithよりも大きい振幅A〜Aのウェイトを有するアンテナ1〜nに対応付けられたn個のスイッチをオンし、(K−n)個のスイッチをオフする。最適位相生成手段50は、振幅A〜Aに対応する位相φ〜φを初期位相値として開始し、所望波の到来方向から受信した受信電波の希望信号対干渉雑音電力比が基準値以上になるようにn個の可変移相器に設定するn個の位相を最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナ装置およびそれを備えた受信機に関し、特に、干渉波を除去するアンテナ装置およびそれを備えた受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、帯域外からの干渉波対策は、RF(Radio Frequency)フロントエンドへ加わる信号を減衰させるアッテネータ、または帯域外の干渉信号を減衰させるフィルタを用いて行なわれていた。
【0003】
しかし、前者では、所望波よりも干渉波の信号レベルが大きいときに、RFフロントエンドにおいて干渉波に歪みが生じない程度にRF信号を減衰させると、所望の信号が減衰することによりSNR(Signal to Noise Ratio)が不足するという問題がある。
【0004】
また、後者では、比較的近い周波数にある干渉波を十分に減衰させることが困難であったり、フィルタの挿入損失が問題となったり、その挿入損失を低減し、かつ、干渉波に対する減衰量を大きくすると、フィルタが大きくなり、コストが増大するという問題がある。
【0005】
更に、干渉波自体の強入力によるRFフロントエンドの歪みではなく、干渉波のスプリアス信号が問題となるときには、上述した2つの方式では、干渉を抑圧することができないという問題がある。
【0006】
干渉波自体のスプリアス信号の干渉に対して、干渉波の歪スペクトルのみの信号レベルを検出することによって干渉波のスプリアスに対するヌルステアリングを実現している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤元,堀,“ITS通信における干渉抑圧のためのBPF付きPIアダプティブアレー”,電子情報通信学会技術報告,vol.109,no.31,AP2009−31,pp.117−122,May 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に記載された方法では、ヌルステアリングの精度が低いために所望波の電力レベルをできる限り大きくすることが困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、所望波の電力レベルをできる限り大きくすることが可能なアンテナ装置を提供することである。
【0010】
また、この発明の別の目的は、所望波の電力レベルをできる限り大きくすることが可能なアンテナ装置を備えた受信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によれば、アンテナ装置は、K(Kは2以上の整数)本のアンテナと、K個の可変移相器と、検出手段と、最適位相生成手段とを備える。K個の可変移相器は、K本のアンテナに対応して設けられる。検出手段は、所望波の周波数帯以外の周波数帯を有する干渉波が検出されると、K本のアンテナが受信した受信電波に基づいて、干渉波の方向にヌルを形成したときのK本のアンテナの重み係数の振幅および位相であるK個の振幅およびK個の位相を検出する。最適位相生成手段は、干渉波が検出されると、K本のアンテナのうち、振幅が閾値以上であるn(nは1≦n≦Kを満たす整数)本のアンテナに対応するn個の可変移相器に検出手段によって検出されたn個の位相をn個の初期位相としてそれぞれ設定して所望波の到来方向から受信した受信電波の希望信号対干渉雑音電力比が基準値以上になるようにn個の可変移相器のn個の最適位相を演算し、その演算したn個の最適位相をn個の可変移相器に設定する。
【0012】
好ましくは、アンテナ装置は、K個のスイッチと、スイッチ制御手段とを更に備える。K個のスイッチは、K本のアンテナに対応して設けられ、各々がアンテナと可変移相器との間に接続される。スイッチ制御手段は、K個の振幅のうち、閾値以上の強度を有するn個の振幅を選択し、その選択したn個の振幅を有するn個のアンテナに接続されたn個のスイッチをオンし、K−n個のスイッチをオフする。
【0013】
好ましくは、K個の可変移相器の各々は、位相が任意の角度ステップで変えられる移相器である。
【0014】
好ましくは、アンテナ装置は、送信手段を更に備える。送信手段は、n個の最適位相がn個の可変移相器に設定された状態でn本のアンテナを用いて送信電波を送信する。
【0015】
また、この発明によれば、受信機は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のアンテナ装置と、信号処理部とを備える。信号処理部は、n個の最適位相がn個の可変移相器に設定された状態でn本のアンテナが受信した受信電波をアナログ信号からデジタル信号に変換して受信信号処理を行なう。
【発明の効果】
【0016】
この発明の実施の形態によるアンテナ装置においては、所望波の周波数帯以外の周波数帯を有する干渉波の方向にヌルを形成したときのアンテナのウェイトの位相を初期位相として検出し、その検出した初期位相から出発して、所望波の到来方向から受信した受信電波の希望信号対干渉雑音電力比が基準値以上になるように可変移相器の位相を最適化する。その結果、可変移相器に設定される位相は、徐々に、所望波の到来方向に向けられた放射ビームを形成するための位相になる。
【0017】
従って、所望波の電力レベルをできる限り大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態によるアンテナ装置の概略図である。
【図2】周波数帯域の概念図である。
【図3】図1に示すアンテナ装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3に示すステップS3の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4に示すステップS31の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】ウェイトの振幅の一部が閾値よりも大きいときの最適位相の生成を示す概念図である。
【図7】この発明の実施の形態による他のアンテナ装置の概略図である。
【図8】この発明の実施の形態による更に他のアンテナ装置の概略図である。
【図9】この発明の実施の形態によるアンテナ装置を備えた受信機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態によるアンテナ装置の概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態によるアンテナ装置100は、アンテナ1〜K(Kは2以上の整数)と、スイッチSW〜SWと、可変移相器11〜1Kと、加算器10と、フィルタ21〜2Kと、パワーインバージョン手段30と、スイッチ制御手段40と、最適位相生成手段0と、判定手段60とを備える。
【0021】
アンテナ装置100は、例えば、ITS(Intelligent Transport System)通信に用いられるアンテナ装置である。そして、アンテナ装置100は、例えば、OFDM(Orthogonal Frequency−Division Multiplexing)方式によって変調された電波を送受信する。この場合、電波の周波数帯は、中心周波数が720MHzであり、帯域幅が10MHzである。
【0022】
アンテナ1〜Kは、直線の導体からなり、例えば、距離dの等間隔で直線状に配置される。
【0023】
スイッチSW〜SWは、それぞれ、アンテナ1〜Kに対応して設けられ、アンテナ1〜Kと可変移相器11〜1Kとの間に接続される。そして、スイッチSW〜SWは、スイッチ制御手段40によってオン/オフされる。
【0024】
可変移相器11〜1Kは、それぞれ、アンテナ1〜Kに対応して設けられる。また、可変移相器11〜1Kは、例えば、連続的に位相を可変できる移相器である。そして、可変移相器11〜1Kは、最適位相生成手段50からそれぞれ位相φ〜φを受け、その受けた位相φ〜φを設定する。
【0025】
加算器10は、可変移相器11〜1n(nは、1≦n≦Kを満たす整数)を介してn個の受信電波を受け、その受けたn個の受信電波を加算する。そして、加算器10は、その加算結果を最適位相生成手段50、判定手段60および受信処理回路(図示せず)へ出力する。なお、受信処理回路は、加算器10から受けた加算結果(=受信電波)をAD変換等して復調し、その復調した信号を出力する。
【0026】
フィルタ21〜2Kは、それぞれ、アンテナ1〜Kに対応して設けられる。フィルタ21〜2Kは、受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)をそれぞれアンテナ1〜Kから受ける。そして、フィルタ21〜2Kは、それぞれ、受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)から所望波であるITS信号の周波数帯を除去する。そうすると、フィルタ21〜2Kは、その除去後の受信信号x’(t),x’(t),・・・,x’(t)をパワーインバージョン手段30へ出力する。
【0027】
パワーインバージョン手段30は、受信信号x’(t),x’(t),・・・,x’(t)をフィルタ21〜2Kから受け、干渉波検出信号または干渉波不検出信号を判定手段60から受ける。そして、パワーインバージョン手段30は、干渉波検出信号を受けると、受信信号x’(t),x’(t),・・・,x’(t)に基づいて、所望波の周波数帯以外の周波数帯を有する干渉波を受信するときのアンテナ1〜Kの複素ウェイトW(i=1〜K)を後述する方法によって演算する。
【0028】
その後、パワーインバージョン手段30は、その演算した複素ウェイトWに基づいて、後述する方法によって振幅Aおよび位相φを検出する。そうすると、パワーインバージョン手段30は、その検出した振幅Aをスイッチ制御手段40へ出力し、その検出した位相φを初期位相φi_initialとして最適位相生成手段50へ出力する。
【0029】
一方、パワーインバージョン手段30は、干渉波不検出信号を受けると、動作を停止する。
【0030】
スイッチ制御手段40は、振幅Aをパワーインバージョン手段30から受け、干渉波検出信号または干渉波不検出信号を判定手段60から受ける。また、スイッチ制御手段40は、閾値Ithを保持している。
【0031】
そして、スイッチ制御手段40は、干渉波検出信号を受けると、振幅Aを閾値Ithと比較し、閾値Ithよりも大きい振幅Aを選択する。そうすると、スイッチ制御手段40は、その選択した振幅Aのウェイトを有するn本のアンテナ1〜nに対応するn個のスイッチSW〜SWをオンし、K−n個のスイッチSWn+1〜SWをオフする。また、スイッチ制御手段40は、オンされたn個のスイッチSW〜SWと、オフされた(K−n)個のスイッチSWn+1〜SWとを示すスイッチ制御情報を最適位相生成手段50へ出力する。
【0032】
一方、スイッチ制御手段40は、干渉波不検出信号を受けると、スイッチSW〜SWの全てをオンする。
【0033】
最適位相生成手段50は、初期位相φi_initialをパワーインバージョン手段30から受け、スイッチ制御情報をスイッチ制御手段40から受け、干渉波検出信号または干渉波不検出信号を判定手段60から受ける。
【0034】
そして、最適位相生成手段50は、干渉波検出信号を受けると、スイッチ制御情報に基づいて、オンされたn個のスイッチSW〜SWを検知するとともに、n個のスイッチSW〜SWに対応するn個の可変移相器11〜1nに設定すべき初期位相φ1_initial〜φn_initialを初期位相φi_initialから選択する。その後、最適位相生成手段50は、その選択した初期位相φ1_initial〜φn_initialをそれぞれ可変移相器11〜1nに設定する。
【0035】
引き続いて、最適位相生成手段50は、初期位相φ1_initial〜φn_initialが可変移相器11〜1nに設定された状態でn本のアンテナ1〜nが受信した受信信号の出力信号y(t)を加算器10から受ける。そうすると、最適位相生成手段50は、後述する方法によって、出力信号y(t)の希望信号対干渉雑音電力比SINR(Signal and Interference Noise Ratio)が基準値SINR_std以上になるように最適位相φ1_opt〜φn_optを演算する。そして、最適位相生成手段50は、その演算した最適位相φ1_opt〜φn_optをそれぞれ可変移相器11〜1nに設定する。
【0036】
一方、最適位相生成手段50は、干渉波不検出信号を受けると、アンテナ1〜Kをフェーズドアレーアンテナとして動作させるための位相φ〜φを決定し、その決定した位相φ〜φを可変移相器11〜1Kに設定する。
【0037】
判定手段60は、後述する方法によって、干渉波を検出したか否かを判定する。そして、判定手段60は、干渉波を検出したと判定したとき、干渉波検出信号を生成し、その生成した干渉波検出信号をパワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50へ出力する。一方、判定手段60は、干渉波を検出していないと判定したとき、干渉波不検出信号を生成し、その生成した干渉波不検出信号をパワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50へ出力する。
【0038】
ITS通信の主要パラメータを表1に示す。
【表1】

【0039】
データサブキャリア数は、64本のサブキャリア数のうちの52本である。また、データの占有周波数帯域幅は、約8.3MHzである。
【0040】
図2は、周波数帯域の概念図である。図2を参照して、周波数帯Band1は、ITS通信に割り当てられた周波数帯(10MHz)であり、周波数帯Band2は、データの占有周波数帯(8.3MHz)である。従って、周波数帯Band3,Band4は、干渉波が存在する周波数帯である。この場合、周波数帯Band3,Band4の各々の帯域幅は、0.85MHzである。
【0041】
この発明の実施の形態においては、干渉波の受信電力レベルが所望波の受信電力レベルよりも大きい干渉波を「強入力干渉波」と定義する。
【0042】
強入力干渉波が到来していない場合、ヌルサブキャリア周波数帯(=Band3,Band4)におけるパワースペクトルは、熱雑音レベルである(図2の(a)参照)。
【0043】
一方、強入力干渉波が到来した場合、干渉波の帯域外漏洩電力によって所望波の帯域内で干渉波の信号が観測される。即ち、強入力干渉波が到来した場合、ヌルサブキャリア周波数帯(=Band3,Band4)において、干渉波の信号が観測される(図2の(b)参照)。
【0044】
従来、所望波の周波数帯と同じ周波数帯で送受信される電波を干渉波として捉えることが多いが、この発明の実施の形態においては、所望波の周波数と異なる周波数を有する電波を干渉波と言う。
【0045】
なお、強入力干渉波は、例えば、ITS通信の隣接帯域にある地上デジタル放送の電波からなる。
【0046】
パワーインバージョン手段30における振幅Aおよび位相φの求め方について説明する。
【0047】
パワーインバージョン手段30がフィルタ21〜2Kから受ける受信信号<X>を<X>=[x’(t),x’(t),・・・,x’(t)]とすると、相関関数Rxxは、次式によって表わされる。
【数1】

【0048】
なお、この明細書においては、表記<A>は、行列AまたはベクトルAを表す。また、式(1)において、Hは、複素共役転置を表し、E[・]は、アンサンブル平均を表す。
【0049】
パワーインバージョンによって強入力干渉波の到来方向にヌルを形成する複素ウェイトを<W>とすると、複素ウェイト<W>は、次式によって与えられる。
【数2】

【0050】
なお、式(2)において、行列<C>は、拘束行列であり、<C>=[1,0,・・・,0]である。ここで、Tは、行列の転置を表す。
【0051】
複素ウェイト<W>の各要素W(i=1〜K)は、次式によって表される。
【数3】

【0052】
従って、パワーインバージョン手段30は、フィルタ21〜2Kから受けた受信信号x’(t),x’(t),・・・,x’(t)に基づいて、上述した式(1)〜(3)を用いて振幅Aおよび位相φを検出する。
【0053】
最適位相生成手段50における最適位相の生成方法について説明する。最適位相生成手段50は、共役勾配法によって最適位相φ1_opt〜φn_optを生成する。そして、共役勾配法は、次の手順からなる。
【0054】
(手順1)パワーインバージョン手段30によって生成された位相φi_initialを共役勾配法の初期位相値(=初期ウェイト<W>)とする。
【0055】
(手順2)所望波の到来方向θを推定するため、初期ウェイト<W>を次式に代入して所定の角度間隔毎にσ(<W>)を演算する。σ(<W>)は、次式によって定義される希望信号対干渉雑音電力比SINRである。
【数4】

【0056】
式(4)における<S>は、次式によって表わされる。
【数5】

【0057】
なお、式(5)において、<ν>は、ステアリングベクトルである。アンテナ1〜Kは、距離dで等間隔に配置されているので、位相の基準を第1アンテナ1とすると、ν(m=0,1,2,・・・)は、次式によって表される。
【数6】

【0058】
なお、式(6)において、λは、アンテナ装置100が送受信する電波の波長である。
【0059】
式(4)において、行列<R>は、干渉波+雑音の信号<n>の相関行列であり、次式によって表わされる。
【数7】

【0060】
なお、相関行列<R>は、手順(1)における初期位相値(=初期ウェイト<W>)を用いて取得された出力信号y(t)を用いて生成される。
【0061】
複数の方向のうち、σ(<W>)が最大である方向を所望波の到来方向θと推定する。
【0062】
(手順3)m=0を設定し、次式を演算する。
【数8】

【0063】
ここで、次式が成立する。
【数9】

【0064】
なお、式(9)において、Imは、複素数の虚数部であり、diagは、行列の対角成分を意味する。
【0065】
(手順4)t≧0に対して、次式が成立するようにtを決定する。
【数10】

【0066】
(手順5)次式によってウェイト<W>を更新する。
【数11】

【0067】
(手順6)次式によって、gおよびhを更新する。
【数12】

【0068】
なお、式(12)においては、m=n−1(mod n)の場合、<hm+1>=<gm+1>とおき、リセットする。
【0069】
(手順7)mを増やして(手順4)〜(手順6)を繰り返す。
【0070】
(手順8)(手順4)〜(手順6)を繰り返しても、希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上にならない場合、または希望信号対干渉雑音電力比SINRが所定のCRCエラー以下にならない場合には、(手順2)に戻り、所望波の到来方向θを再推定する。そして、到来方向θの再推定後、(手順3)以降を実行する。
【0071】
最適位相生成手段50は、上述した(手順1)〜(手順8)に従って、最適位相φ1_opt〜φn_optを生成する。
【0072】
このように、最適位相生成手段50は、所定の角度間隔ごとに希望信号対干渉雑音電力比SINRを求め、その求めた複数の希望信号対干渉雑音電力比SINRの中で希望信号対干渉雑音電力比SINRが最大になるときの角度を所望波の到来方向θとして推定する。そして、最適位相生成手段50は、その推定した到来方向θで希望信号対干渉雑音電力比SINRが向上するように共役勾配法を用いて最適位相φ1_opt〜φn_optを生成する。
【0073】
推定方向が所望波の到来方向から大きく外れている場合には、希望信号対干渉雑音電力比SINRが劣化し、CRCエラー等が多発するので、所定のSN比または所定のCRCエラーを確保できなくなる。その場合には、最適位相生成手段50は、到来方向の推定をやり直す。そして、最適位相生成手段50は、再推定後に、再び、共役勾配法を用いて最適位相φ1_opt〜φn_optを生成する。
【0074】
干渉波を検出したか否かを判定する方法について説明する。判定手段60は、次の3つの方法のいずれかを用いて干渉波を検出したか否かを判定する。
【0075】
(MTH1)
【0076】
復調精度の指標として誤差ベクトル強度EVM(Error Vector Magnitude)がある。強入力干渉がない場合には、誤差ベクトル強度EVMは、閾値EVM_thよりも小さくなり、強入力干渉がある場合には、誤差ベクトル強度EVMは、閾値EVM_th以上なる。
【0077】
そこで、判定手段60は、加算器10からの出力信号y(t)を受け、その受けた出力信号y(t)に基づいて、誤差ベクトル強度EVMをモニタリングし、誤差ベクトル強度EVMが閾値EVM_th以上であるとき、干渉波を検出したと判定する。一方、判定手段60は、誤差ベクトル強度EVMが閾値EVM_thよりも小さいとき、干渉波を検出しなかったと判定する。
【0078】
(MTH2)
【0079】
所望波よりも強い入力信号が到来した場合、受信機のAGC(Automatic Gain Control)が飽和し、動作しなくなる。
【0080】
そこで、判定手段60は、AGCにおける電力レベルをモニタリングし、電力レベルが飽和状態となったとき、干渉波を検出したと判定し、電力レベルが飽和しなかったとき、干渉波を検出しなかったと判定する。
【0081】
(MTH3)
【0082】
強入力干渉波が到来した場合には、アンテナ装置100の個々のアンテナ1〜Kにおける受信レベルが急激に上昇する。
【0083】
そこで、判定手段60は、各アンテナ1〜Kの受信電力レベルをモニタリングし、少なくとも1本のアンテナの受信電力レベルが所定の電力レベルIRSSI_th以上に変化したとき、干渉波を検出したと判定する。一方、判定手段60は、受信電力レベルが所定の電力レベルIRSSI_thよりも小さいとき、干渉波を検出しなかったと判定する。
【0084】
図3は、図1に示すアンテナ装置100の動作を説明するためのフローチャートである。図3を参照して、アンテナ装置100の動作が開始されると、判定手段60は、上述した(MTH1)〜(MTH3)のいずれかの方法を用いて干渉波を検出したか否かを判定する(ステップS1)。
【0085】
ステップS1において、干渉波が検出されなかったと判定されたとき、判定手段60は、干渉波不検出信号を生成し、その生成した干渉波不検出信号をパワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50へ出力する。
【0086】
パワーインバージョン手段30は、干渉波不検出信号に応じて、動作を停止する。また、スイッチ制御手段40は、干渉波不検出信号に応じて、スイッチSW〜SWの全てをオンする。更に、最適位相生成手段50は、干渉波不検出信号に応じて、アンテナ1〜Kをフェーズドアレーアンテナとして動作させるための位相φ〜φを決定し、その決定した位相φ〜φをそれぞれ可変移相器11〜1Kに設定する。これによって、アンテナ装置100は、アンテナ1〜Kをフェーズドアレーアンテナとして動作させ、電波を受信する(ステップS2)。
【0087】
一方、ステップS1において、干渉波が検出されたと判定されたとき、判定手段60は、干渉波検出信号をパワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50へ出力する。そして、パワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50は、受信電波の希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上になるように位相φ〜φを決定する(ステップS3)。
【0088】
そして、最適位相生成手段50は、アンテナ1〜nに対応付けられたn個の可変移相器に位相φ〜φを設定する。そうすると、アンテナ装置100は、アンテナ1〜nに対応付けられたn個の可変移相器に位相φ〜φが設定された状態で電波を受信する(ステップS4)。
【0089】
そして、ステップS2またはステップS4の後、一連の動作が終了する。
【0090】
図4は、図3に示すステップS3の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。図4を参照して、図3のステップS1において、干渉波が検出されたと判定された後、パワーインバージョン手段30は、パワーインバージョン(PI:Power Inversion)によって、初期位相値(初期ウェイト)を検出し、スイッチ制御手段40は、使用するアンテナ1〜nを決定する(ステップS31)。
【0091】
パワーインバージョン手段30は、その検出した初期位相値(初期ウェイト)を最適位相生成手段50へ出力する。そして、最適位相生成手段50は、初期位相値(初期ウェイト)をアンテナ1〜nに対応付けられたn個の可変移相器に設定して受信信号y(t)を加算器10から取得する(ステップS32)。
【0092】
その後、最適位相生成手段50は、上述した式(4)〜(7)を用いて、所望波の到来方向θを推定する(ステップS33)。この場合、相関行列<R>は、パワーインバージョンによって検出された初期位相値をn個の可変移相器に設定して受信された受信信号y(t)に基づいて演算される。また、最適位相生成手段50は、例えば、45度の角度間隔で角度θを変えて複数のσ(W)を演算し、その複数のσ(W)のうち、最大のσ(W)が得られるときの角度θを所望波の推定方向θと推定する。
【0093】
そして、最適位相生成手段50は、m=0を設定し(ステップS34)、上述した式(8),(9)を用いてg,hを演算する(ステップS35)。この場合、ステップS33において推定された到来方向θが式(6)のθに代入されてステアリングベクトルνが演算され、その演算されたステアリングベクトルνを用いて行列<S>が演算される。
【0094】
引き続いて、最適位相生成手段50は、t≧0に対して、式(10)を満たすようにtを決定する(ステップS36)。
【0095】
そして、最適位相生成手段50は、ステップS35において演算したg,h、およびステップS36において決定したtを式(11)に代入してウェイト<Wm+1>を演算する(ステップS37)。
【0096】
その後、最適位相生成手段50は、式(12)を用いて<gm+1>,<hm+1>を演算する(ステップS38)。
【0097】
そして、最適位相生成手段50は、式(4)を用いて希望信号対干渉雑音電力比SINR=σ(Wm+1)を演算する(ステップS39)。
【0098】
そうすると、最適位相生成手段50は、mが所定回数に達したか否かを判定する(ステップS40)。
【0099】
ステップS40において、mが所定回数に達していないと判定されたとき、最適位相生成手段50は、m=n−1(mod n)が成立するか否かを更に判定する(ステップS41)。
【0100】
ステップS41において、m=n−1(mod n)が成立しなかったと判定されたとき、最適位相生成手段50は、m=m+1を設定する(ステップS42)。そして、一連の動作は、ステップS36へ戻り、ステップS36〜ステップS42が繰り返し実行される。
【0101】
一方、ステップS41において、m=n−1(mod n)が成立したと判定されたとき、最適位相生成手段50は、<gm+1>=<hm+1>と設定し、リセットする(ステップS43)。そして、一連の動作は、ステップS34へ戻り、ステップS34〜ステップS43が繰り返し実行される。
【0102】
一方、ステップS40において、mが所定回数に達したと判定されたとき、最適位相生成手段50は、ステップS39において演算した希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上であるか否かを更に判定する(ステップS45)。
【0103】
ステップS45において、希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上でないと判定されたとき、一連の動作は、ステップS33へ戻り、ステップS33〜ステップS45が再実行される。
【0104】
一方、ステップS45において、希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上であると判定されたとき、最適位相生成手段50は、最終的に演算したウェイトWm+1=ejφm+1を満たす位相φm+1を位相φ〜φとして決定する(ステップS46)。そして、一連の動作は、図3のステップS4へ移行する。
【0105】
図5は、図4に示すステップS31の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。図5を参照して、図3のステップS1において、干渉波が検出されたと判定された後、パワーインバージョン手段30は、上述した式(1),(2)を用いて、パワーインバージョンによるウェイトを生成する(ステップS311)。
【0106】
そして、パワーインバージョン手段30は、その生成したウェイトおよび式(3)に基づいて、振幅Aおよび位相φを演算し(ステップS312)、その演算した振幅Aをスイッチ制御手段40へ出力し、その演算した位相φを最適位相生成手段50へ出力する。
【0107】
その後、スイッチ制御手段40は、振幅Aの全てが閾値Ithよりも大きいか否かを判定する(ステップS313)。
【0108】
ステップS313において、振幅Aの全てが閾値Ithよりも大きいと判定されたとき、スイッチ制御手段40は、スイッチSW〜SWの全てをオンするための制御電圧をスイッチSW〜SWへ出力し、全てのアンテナ1〜KのスイッチSW〜SWをオンする(ステップS314)。
【0109】
その後、最適位相生成手段50は、スイッチ制御手段40から受けたスイッチ制御情報に基づいて、スイッチSW〜SWの全てがオンされたことを検知し、ウェイトの振幅Aを全て1とし、パワーインバージョン手段30から受けた位相φをフェーズドアレーアンテナの可変移相器11〜2Kの位相φ〜φとする(ステップS315)。
【0110】
一方、ステップS313において、振幅Aの少なくとも1つが閾値Ith以下であると判定されたとき、スイッチ制御手段40は、振幅Aが閾値Ithよりも大きいアンテナをオンし、振幅Aが閾値Ith以下であるアンテナをオフする(ステップS316)。即ち、スイッチ制御手段40は、閾値Ithよりも大きい振幅Aを有するn個のアンテナ1〜nに対応付けられたn個のスイッチをオンし、閾値Ith以下の振幅Aを有する(K−n)個のアンテナn+1〜Kに対応付けられた(K−n)個のスイッチをオフする。
【0111】
その後、最適位相生成手段50は、オン状態のn個のアンテナのウェイトの振幅A〜Aを全て1とし、ウェイトの位相φ〜φをフェーズドアレーアンテナのn個の可変移相器の位相とする(ステップS317)。
【0112】
そして、ステップS315またはステップS317の後、スイッチ制御手段40は、スイッチSW〜SWの全てをオンするための制御電圧をスイッチSW〜SWの全てをオンしたことを示すスイッチ制御情報として最適位相生成手段50へ出力し、またはn個のスイッチをオンするための制御電圧と(K−n)個のスイッチをオフするための制御電圧とを、オンされたn個のスイッチと、オフされた(K−n)個のスイッチとを示すスイッチ制御情報として適位相生成手段50へ出力する。また、最適位相生成手段50は、パワーインバージョン手段30から受けた位相φを初期位相とする(ステップS318)。即ち、最適位相生成手段50は、ステップS315からステップS318へ移行した場合、スイッチ制御情報に基づいて、スイッチSW〜SWの全てがオンされたことを検知し、パワーインバージョン手段30から受けた位相φの全て(=φ〜φ)を初期位相φ1_initial〜φK_initialとする。一方、最適位相生成手段50は、ステップS317からステップS318へ移行した場合、スイッチ制御情報に基づいて、パワーインバージョン手段30から受けた位相φの全て(=φ〜φ)のうち、オンされたn個のスイッチに対応付けられたn個の可変移相器の位相φ〜φを初期位相φ1_initial〜φn_initialとする。
【0113】
そして、ステップS318の後、一連の動作は、図4のステップS32へ移行する。
【0114】
上述したように、この発明の実施の形態においては、最適位相生成手段50は、位相のみの共役勾配法を用いて最適位相を求める。この場合、所望波の到来方向が既知であることが必要であるが、この発明の実施の形態においては、式(4)〜(7)を用いて所望波の到来方向θを推定し、その推定した到来方向θが間違っているとき、再度、所望波の到来方向θを推定する(図4のステップS45の“NO”→S33参照)。
【0115】
図6は、ウェイトの振幅の一部が閾値よりも大きいときの最適位相の生成を示す概念図である。図6を参照して、パワーインバージョンによって求められた振幅Aのうち、n個の振幅が閾値Ithよりも大きいとき、その閾値Ithよりも大きいn個の振幅を有するn個のアンテナがオンされる。
【0116】
また、閾値Ith以下の(K−n)個の振幅を有する(K−n)個のアンテナがオフされる。そして、オフされた(K−n)個のアンテナの(K−n)個のウェイトは、無視される。
【0117】
オンされるアンテナが決定されると、パワーインバージョンによって検出された初期位相φ1_initial〜φn_initialを、オンされたn個のアンテナに対応付けられたn個の可変移相器の位相φ〜φとして引き込む。
【0118】
その後、n個の可変移相器の初期位相φ1_initial〜φn_initialを用いて最適位相が生成され、ヌル形成によって干渉波が抑圧される。
【0119】
このように、アンテナ1〜Kの一部がオンされた場合、そのオンされた一部のアンテナに対応付けられた可変移相器の位相を最適化して干渉波が抑圧される。
【0120】
上述したように、干渉波が検出されたとき、最適位相生成手段50は、干渉波の方向にヌルを形成したときの初期位相値(φ1_initial〜φK_initialまたはφ1_initial〜φn_initial)から出発して、推定した所望波の到来方向θから受信した電波の希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上になるように可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)の位相(φ〜φまたはφ〜φ)を決定する。そして、最適位相生成手段50は、その決定した位相(φ〜φまたはφ〜φ)を可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)に設定する。その結果、アンテナ装置100は、その決定された位相(φ〜φまたはφ〜φ)が可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)に設定された状態で電波を受信する。即ち、アンテナ装置100は、干渉波の方向にヌルが形成された状態で電波を受信する。
【0121】
従って、受信電波の希望信号対干渉雑音電力比SINRをできる限り大きくできる。即ち、干渉波を抑圧できる。
【0122】
なお、上記においては、可変移相器11〜1Kは、連続的に移相を可変できる移相器であると説明したが、この発明の実施の形態においては、可変移相器11〜1Kは、任意の角度ステップで位相を可変できる移相器からなっていてもよい。これによって、可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)の位相(φ〜φまたはφ〜φ)を最適化するときに可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)が取り得る位相値が限定される。
【0123】
従って、可変移相器(可変移相器11〜1Kの全てまたはn個の可変移相器)の位相(φ〜φまたはφ〜φ)を、より速く収束できる。
【0124】
図7は、この発明の実施の形態による他のアンテナ装置の概略図である。この発明の実施の形態によるアンテナ装置は、図7に示すアンテナ装置100Aであってもよい。
【0125】
図7を参照して、アンテナ装置100Aは、図1に示すアンテナ装置100に可変減衰器31〜3Kを追加したものであり、その他は、アンテナ装置100と同じである。
【0126】
可変減衰器31〜3Kは、それぞれ、アンテナ1〜Kに対応して、アンテナ1〜Kとフィルタ21〜2Kとの間に設けられる。そして、可変減衰器31〜3Kは、それぞれ、アンテナ1〜Kから受けた受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)の受信電力レベルを減衰し、その減衰後の受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)をそれぞれフィルタ21〜2Kへ出力する。
【0127】
強入力干渉によってフェーズドアレーアンテナの移相器制御のための制御部(パワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50)が動作しない場合がある。
【0128】
従って、アンテナ装置100Aにおいては、強入力干渉が生じても、制御部(パワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50)が動作するようにするために、可変減衰器31〜3Kが設けられた。
【0129】
なお、可変減衰器31〜3Kは、受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)の受信電力レベルを相互に同じ減衰量だけ減衰させてもよく、強入力干渉波の受信電力レベルに応じた減衰量だけ受信信号x(t),x(t),・・・,x(t)の受信電力レベルを減衰してもよい。
【0130】
図8は、この発明の実施の形態による更に他のアンテナ装置の概略図である。この発明の実施の形態によるアンテナ装置は、図8に示すアンテナ装置100Bであってもよい。
【0131】
図8を参照して、アンテナ装置100Bは、図1に示すアンテナ装置100に送信手段70を追加したものであり、その他は、アンテナ装置100と同じである。
【0132】
アンテナ装置100Bにおいては、パワーインバージョン手段30、スイッチ制御手段40および最適位相生成手段50は、干渉波が検出されると、上述した方法によって、所望波の到来方向における受信電波の希望信号対干渉雑音電力比SINRが基準値SINR_std以上になるように可変移相器(K個の可変移相器11〜1Kまたはn個の可変移相器)の位相を最適化し、その最適化した位相を可変移相器(K個の可変移相器11〜1Kまたはn個の可変移相器)に設定する。即ち、アンテナ装置100Bにおいては、干渉波の方向にヌルが形成される。
【0133】
送信手段70は、OFDM方式によって変調されたデジタル信号からなる送信信号を信号処理回路(図示せず)から受け、その受けた送信信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。そして、送信手段70は、他の無線システムによって送信された電波の到来方向にヌルが形成された放射ビームがアンテナ(アンテナ1〜Kまたはn個のアンテナ)から放射されている状態で、アナログ信号からなる送信信号をアンテナ(アンテナ1〜Kまたはn個のアンテナ)を介して送信する。
【0134】
その結果、アンテナ装置100Bから送信された電波は、他の無線システムによって電波を送信している無線装置によって受信されない。
【0135】
従って、他の無線システムによって電波を送信している無線装置に干渉を与えることを防止できる。
【0136】
なお、この発明の実施の形態によるアンテナ装置は、図7に示すアンテナ装置100Aに送信手段70を追加したものであってもよい。
【0137】
図9は、この発明の実施の形態によるアンテナ装置100を備えた受信機の概略図である。図9を参照して、受信機200は、アンテナ装置100と、信号処理部80とを備える。
【0138】
信号処理部80は、不要波を含む特定の周波数帯で送信された電波をアンテナ装置100から受け、その受けた電波を一括してA/D変換し、そのA/D変換した信号をFPGA(Field Programmable Gate Array)またはソフトウェアによってデジタル信号処理し、所望波を復調する。
【0139】
この場合、アンテナ装置100は、上述した方法によって不要波の信号レベルを低減し、その不要波の信号レベルを低減した電波を信号処理部80へ出力する。
【0140】
従って、信号処理部80に含まれるAD変換器に要求されるダイナミックレンジを低減できる。
【0141】
なお、このような処理は、所望帯域のみを通過させるバンドパスフィルタを設けて不要波を抑圧すれば同様の効果が得られる。しかし、所望帯域の比帯域が狭帯域(例えば、1%未満)で中心周波数を可変とする場合、このバンドパスフィルタを高周波帯で実現することは困難である。
【0142】
従って、高周波帯において不要波の信号レベルを低減させる方法としてアンテナ装置100を用いて不要波の信号レベルを低減させる方法が有効である。
【0143】
この発明の実施の形態による受信機は、アンテナ装置100に代えてアンテナ装置100A,100Bのいずれかを備えるものであってもよい。
【0144】
上記においては、所望波の到来方向θを推定するとき、45度の角度間隔で方向を変えながら、複数のσ(W)を演算すると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、45度以外の角度間隔で方向を変えながら、複数のσ(W)を演算してもよい。
【0145】
また、上記においては、最適位相生成手段50は、共役勾配法を用いて最適位相を求めると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、最適位相生成手段50は、MMSE(Maximum Mean Square Error)法によって最適位相を求めてもよい。この場合、参照信号は、例えば、パワーインバージョンで強入力干渉を抑圧した後、受信機で受信した信号を復調すること(復調出力値)によって取得される。
【0146】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0147】
この発明は、干渉波を除去するアンテナ装置に適用される。また、この発明は、干渉波を除去するアンテナ装置を備えた受信機に適用される。
【符号の説明】
【0148】
1〜K アンテナ、10 加算器、11〜1K 可変移相器、21〜2K フィルタ、30 パワーインバージョン手段、31〜3K 可変減衰器、40 スイッチ制御手段、50 最適位相生成手段、60 判定手段、70 送信手段、信号処理部、100,100A,100B アンテナ装置、200 受信機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K(Kは2以上の整数)本のアンテナと、
前記K本のアンテナに対応して設けられたK個の可変移相器と、
所望波の周波数帯以外の周波数帯を有する干渉波が検出されると、前記K本のアンテナが受信した受信電波に基づいて、前記干渉波の方向にヌルを形成したときの前記K本のアンテナの重み係数の振幅および位相であるK個の振幅およびK個の位相を検出する検出手段と、
前記干渉波が検出されると、前記K本のアンテナのうち、前記振幅が閾値以上であるn(nは1≦n≦Kを満たす整数)本のアンテナに対応するn個の可変移相器に前記検出手段によって検出されたn個の位相をn個の初期位相としてそれぞれ設定して前記所望波の到来方向から受信した受信電波の希望信号対干渉雑音電力比が基準値以上になるように前記n個の可変移相器のn個の最適位相を演算し、その演算したn個の最適位相を前記n個の可変移相器に設定する最適位相生成手段とを備えるアンテナ装置。
【請求項2】
前記K本のアンテナに対応して設けられ、各々が前記アンテナと前記可変移相器との間に接続されたK個のスイッチと、
前記K個の振幅のうち、前記閾値以上の強度を有するn個の振幅を選択し、その選択したn個の振幅を有するn個のアンテナに接続されたn個のスイッチをオンし、K−n個のスイッチをオフするスイッチ制御手段とを更に備える、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記K個の可変移相器の各々は、前記位相が任意の角度ステップで変えられる移相器である、請求項1または請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記n個の最適位相が前記n個の可変移相器に設定された状態で前記n本のアンテナを用いて送信電波を送信する送信手段を更に備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のアンテナ装置と、
前記n個の最適位相が前記n個の可変移相器に設定された状態で前記n本のアンテナが受信した受信電波をアナログ信号からデジタル信号に変換して受信信号処理を行なう信号処理部とを備える受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−239293(P2011−239293A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110391(P2010−110391)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【Fターム(参考)】