説明

アンテナ装置および通信端末装置

【課題】ブースターアンテナをグランド導体に導通させ、且つブースターアンテナの放射特性を維持できるようにする。
【解決手段】金属カバー2の下面に給電コイルモジュール3が取り付けられている。筐体1の内部にはプリント配線板8が収納されている。このプリント配線板8にはグランド導体81、給電ピン7およびグランド接続導体6が設けられている。給電コイルモジュール3が取り付けられた金属カバー2が筐体1に重ねられた際、給電ピン7が給電コイルモジュール3の接続部に接して電気的に導通する。また、グランド接続導体6が金属カバー2に接して金属カバー2をグランド導体81に接地する。グランド接続導体6の位置は金属カバー2に流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外でスリット部を挟む両側の位置または前記エリア内でスリット部を挟む両側のうち一方の位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離通信用のアンテナ装置およびそれを備えた通信端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物品管理システムや課金・料金徴収管理システムとして、RFID(Radio Frequency Identification)システムが普及している。RFIDシステムでは、リーダ・ライターとRFIDタグとを非接触方式で無線通信させ、これらのデバイス間で情報のやりとりを行う。リーダ・ライターおよびRFIDタグは、信号を処理するためのRFID用ICチップと、無線信号を送受するためのアンテナとをそれぞれ備え、リーダ・ライター側のアンテナとタグ側のアンテナとの間で、磁界や電磁界を介して、所定の情報が送受される。
【0003】
近年、たとえばFeliCa(登録商標)のように、携帯電話等の情報通信端末にRFIDシステムを導入し、端末自体をリーダ・ライターやRFIDタグとして利用することがある。一方、通信端末の小型・高機能化が進められているため、筺体内にはアンテナを設置するための十分なスペースが無い。そこで、たとえば特許文献1に開示されているように、RFID用ICチップに小型のコイル導体を接続し、このコイル導体に隣接配置した大面積の導体層から無線信号を送信する、といった構成がとられることがある。この構成において、導体層は放射素子(ブースターアンテナ)として機能し、導体層に設けられた開口部を介して、コイル導体と磁界結合する。この構成によれば、導体層は薄い金属膜でもよいため、例えばプリント配線板と端末筺体とのわずかな隙間に導体層を設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/122685 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導体層すなわちブースターアンテナとしては、上記のように別途用意した金属膜を利用することもできるが、端末筺体が金属製の筺体である場合は、この金属筺体自体をブースターアンテナとして利用することができる。この場合、金属筺体は、端末筺体内の回路のグランドに接続されていることが好ましい。具体的には筺体内のプリント配線板のグランドに金属筺体が接続されていることが好ましい。すなわち、端末筺体には、例えば電源回路や高周波信号処理回路等が設けられているが、金属筺体をグランドとして利用できれば、端末筺体におけるグランド電位をより安定化させることができ、各種回路の動作をより安定化させることができる。
【0006】
しかし、プリント配線板のグランドと金属筺体とを接続する場合、その接続の仕方によっては、アンテナ特性を悪化させてしまうことが判った。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ブースターアンテナをグランド導体に導通させ、且つブースターアンテナの放射特性を維持できるようにしたアンテナ装置およびそれを備えた通信端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のアンテナ装置は、
給電回路に接続される給電コイルと、
導体開口部、および前記導体開口部と外縁との間を連接するスリット部が形成された導体を有し、前記給電コイルの占有面積よりも面積が大きなブースターアンテナと、
前記ブースターアンテナに対向配置されたグランド導体と、
を備えたアンテナ装置であって、
前記ブースターアンテナを前記グランド導体に導通させるグランド接続導体を備え、
前記導体開口部は前記導体の外縁寄りにオフセットされた位置に形成されていて、
前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電流密度が最大値から80%までの(電流密度の特に高い)エリアにおいて電流の周回経路が形成されないため、損失が小さく、ブースターアンテナを接地したことによるアンテナ特性の悪化が殆ど無い。
【0010】
(2)更に低損失化を図るために、前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から50%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置に、または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、電流密度が最大値から50%までの(電流密度の比較的高い)エリアにおいて電流の周回経路が形成されないため、損失がより小さく、ブースターアンテナを接地したことによるアンテナ特性の悪化が殆ど無い。
【0012】
(3)前記グランド導体は、組み込み先機器の筺体の内部に配置されたプリント配線板に形成されている各種回路部品のグランドとして利用される導体パターンであって、前記ブースターアンテナは、前記筺体の外表面に設けられる金属層または筐体の一部を構成する金属板であることが好ましい。
【0013】
この構成により、ブースターアンテナをグランド導体に導通させることができるとともにブースターアンテナを別途設ける必要がなくなる。
【0014】
(4)前記グランド導体は、組み込み先機器の筺体の内部に配置されたプリント配線板に形成されているグランド導体パターンであって、前記ブースターアンテナは、前記筺体の内部に設けられ、前記プリント配線板に形成されている回路をシールドする金属板または金属ケースであることが好ましい。
【0015】
この構成により、ブースターアンテナをグランド導体に導通させることができるとともにブースターアンテナを別途設ける必要がなくなる。
【0016】
(5)前記スリット部は、前記導体開口部と前記導体の外縁とを最も近い位置で連接していることが好ましい。
【0017】
この構成により、スリット部に沿ってブースターアンテナに流れる、放射に寄与しない電流の経路長が最短となって低損失化が図れる。
【0018】
(6)本発明の通信端末装置は、
給電回路と、
給電回路に接続される給電コイルと、
導体開口部、および前記導体開口部と外縁との間を連接するスリット部が形成された導体を有し、前記給電コイルの占有面積よりも面積が大きなブースターアンテナと、
前記ブースターアンテナに対向配置されたグランド導体と、
を備えた通信端末装置であって、
前記ブースターアンテナを前記グランド導体に導通させるグランド接続導体を備え、
前記導体開口部は前記導体の外縁寄りにオフセットされた位置に形成されていて、
前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ブースターアンテナの電流密度の高いエリアにおいて電流の周回経路が形成されないため、損失が小さく、ブースターアンテナを接地したことによるアンテナ特性の悪化が殆ど無くて通信距離の大きなアンテナ装置を実現できる。また、電流密度の高いエリア方向へ傾く指向性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(A)は第1の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置201の背面側から見た概略斜視図、図1(B)は第1の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置の背面図である。
【図2】図2(A)は給電コイルモジュール3の平面図、図2(B)はその正面図である。
【図3】図3(A)は、図1(B)におけるA−A部分での断面図、図3(B)は、図1(B)におけるB−B部分での断面図である。
【図4】図4(A),図4(B)は何れも給電コイル31および金属カバー2に流れる電流の経路の例を示す図である。
【図5】図5は第1の実施形態に係るアンテナ装置101の等価回路図である。
【図6】図6はグランド接続導体6の形成位置を規定するための二つのエリアを示す図である。
【図7】図7(A)は第1の実施形態のアンテナ装置101におけるグランド接続導体6に流れる電流の経路の例を示す断面図である。図7(B)は比較例のアンテナ装置におけるグランド接続導体6に流れる電流の経路の例を示す図である。
【図8】図8はプリント配線板8側から見たグランド接続導体の位置の例を示す斜視図である。
【図9】図9はグランド接続導体の数に対するアンテナの結合係数を求めた結果である。
【図10】図10はグランド接続導体の数の違いによる金属カバー2に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。
【図11】図11は図10の部分拡大図である。
【図12】図12(A)、図12(B)はプリント配線板8側から見たグランド接続導体の位置の例を示す斜視図である。
【図13】図13(A)は図12(A)に示したアンテナ装置の特性、図13(B)は図12(B)に示したアンテナ装置の特性をそれぞれ示す図である。
【図14】図14(A)は第2の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置202の背面側から見た概略斜視図、図14(B)は第2の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置の背面図である。
【図15】図15は図14(B)におけるA−A部分での断面図である。
【図16】図16は第3の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナに流れる電流の方向を示す図である。
【図17】図17は第3の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナ(金属カバー)に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。
【図18】図18は第3の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナの電流密度(最大電流密度に対する割合)と通信距離(通信可能最大距離)との関係を示す図である。
【図19】図19は第4の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナ(金属カバー)に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。
【図20】図20は第4の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナの電流密度(最大電流密度に対する割合)と通信距離(通信可能最大距離)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係るアンテナ装置および通信端末装置について各図を参照して説明する。
【0022】
図1(A)は第1の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置201の背面側から見た概略斜視図、図1(B)は第1の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置の背面図である。この通信端末装置201は例えばカメラ付き携帯端末装置である。この通信端末装置201は樹脂製の筐体1と金属カバー2を備えている。金属カバー2は、導体開口部CAおよびこの導体開口部CAと外縁とを連接するスリット部SLを有する。導体開口部CAは金属カバー2の外縁寄りの位置(オフセットされた位置)に形成されている。この例では、金属カバー2はほぼ矩形であるので、その一辺寄りの位置に形成されている。
【0023】
金属カバー2の通信端末装置201内部側には、導体開口部CAの周囲に給電コイル31が沿うように給電コイルモジュールが配置されている。金属カバー2は給電コイル31の占有面積より大きく、後述するようにブースターアンテナとして作用する。この金属カバー2が設けられている面(通信端末装置の背面)は通信相手側であるリーダ・ライター側アンテナに向ける面である。
【0024】
筐体1の内側には導体開口部CAに部分的に重なるように給電コイルモジュールが配置されている。すなわち筐体の開口部から外部へ露出させるカメラモジュールのレンズの位置を導体開口部CAの位置に合わせている。但し、図1ではカメラモジュールのレンズは図示を略している。
【0025】
図2(A)は給電コイルモジュール3の平面図、図2(B)はその正面図である。給電コイルモジュール3は、矩形板状のフレキシブル基板33と、同じく矩形板状の磁性体シート39とを備えている。フレキシブル基板33には巻回中心部をコイル開口部CWとする渦巻き状の給電コイル31および外部の回路との接続のために用いられる接続部32が形成されている。磁性体シート39は例えばシート状に成形されたフェライトである。
【0026】
回路基板側には必要に応じて前記接続部32に対して並列接続されるキャパシタが備えられている。そして、給電コイルモジュール3の給電コイル31および磁性体シート39によって定まるインダクタンスと前記キャパシタのキャパシタンスとによって共振周波数が定められる。例えばFelica(登録商標)などのNFC(Near Field Communication:近距離通信)に給電コイルモジュール3を用いて、中心周波数13.56MHzのHF帯を利用する場合には、前記共振周波数を13.56MHzに定める。
【0027】
なお、給電コイル31の巻回数(ターン数)は必要なインダクタンスによって定める。ワンターンであれば単にループ状の給電コイルとなる。
【0028】
図3(A)は、図1(B)におけるA−A部分での断面図、図3(B)は、図1(B)におけるB−B部分での断面図である。
【0029】
前記給電コイルモジュール3は、図3(A)に表れているように金属カバー2の下面に取り付けられている。筐体1の内部にはプリント配線板8が収納されている。このプリント配線板8にはグランド導体81、給電ピン7およびグランド接続導体6が設けられている。給電コイルモジュール3が取り付けられた金属カバー2が筐体1に重ねられた際、給電ピン7が給電コイルモジュール3の接続部(図2中の接続部32)に接して電気的に導通する。また、グランド接続導体6が金属カバー2に接して電気的に導通する。給電コイルモジュール3、金属カバー2およびグランド導体81によってアンテナ装置101が構成されている。
【0030】
給電コイル31を平面視したとき、コイル開口部CWと導体開口部CAとが少なくとも一部で重なっていることにより、給電コイル31と相手側アンテナとに鎖交しようとする磁束がコイル開口部CWおよび導体開口部CAを通り周回できる。特に、給電コイル31を平面視したときに、コイル開口部CWと導体開口部CAとが全周にわたってほぼ重なっていれば、金属カバー2は給電コイル31による磁界を効率よく放射させることができる。
【0031】
図4(A),図4(B)は何れも前記給電コイル31および金属カバー2に流れる電流の経路の例を示す図である。給電コイル31および金属カバー2を平面視したとき、コイル開口部CWと導体開口部CAとが同軸で全周にわたってほぼ重なっている。このような構成により、給電コイル31を平面視したときに、給電コイル31の全部を金属カバー2に重ねることができる。これによって、給電コイル31から生じる磁束が全て金属カバー2に鎖交しようとするので、その磁束を遮るように金属カバー2に、給電コイル31に流れる電流の向きとは反対方向の大きな電流が生じる。導体開口部CAの周囲に流れる大きな電流Iは、スリット部SLの周囲を通り、金属カバー2の周囲に沿うように流れる。これにより、金属カバー2から強い磁界が生じ、通信距離をさらに広げることができる。また、導体開口部CAおよびコイル開口部CWを通過し、金属カバー2を周回する磁束のループがより効果的に広がる。金属カバー2に流れる電流Iは金属カバー2が相対的に大きい場合には、図4(B)に示すように、金属カバー2の外縁のうち給電コイル31および導体開口部CAから遠い部分を流れる電流より内部を近回りする経路の電流の密度が高い場合もある。
【0032】
図5は第1の実施形態に係るアンテナ装置101の等価回路図である。図4においてインダクタL1は給電コイル31、インダクタL2は導体開口部CA、スリット部SLを備える金属カバー2に相当する。
【0033】
本発明の特徴は、金属カバー2(ブースターアンテナ)に流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%(または50%)までの値となる高電流密度エリアの外でスリット部SLを挟む両側の位置または前記高電流密度エリア内でスリット部SLを挟む両側のうち一方の位置にグランド接続導体が設けられていることであるが、先ずは、高電流密度エリアを構造上の範囲で簡易的に規定する。
【0034】
図6はグランド接続導体6の形成位置を規定するための二つのエリアを示す図である。グランド接続導体6の形成位置を規定するために、平面視で前記導体開口部、前記スリット部および前記給電コイルを含むエリアであって、前記導体の外縁のうち前記スリットが連接する外縁に対して平行な直線で区切られる第1エリアと、この第1エリア以外の第2エリアとに前記導体のエリアを分ける。ここで第1エリアが前記高電流密度エリアである。
【0035】
金属カバー2をグランド導体81に接地するグランド接続導体6は第1エリアのスリット部SLを挟む両側のうち一方の位置に設けられている。
【0036】
図7(A)は第1の実施形態のアンテナ装置101におけるグランド接続導体6に流れる電流の経路の例を示す断面図である。この断面位置は図1(B)におけるB−B部分である。図7(B)は比較例のアンテナ装置におけるグランド接続導体6に流れる電流の経路の例を示す図である。この比較例のアンテナ装置はスリット部SLを挟む両側のそれぞれにグランド接続導体6を設けたものである。図7(B)に示す比較例では、金属カバー2に流れる電流の一部はグランド接続導体6およびグランド導体81を介して流れる。このような周回経路が生じるため、導体開口部CAに沿って流れようとする電流が減少し、金属カバー2のブースターアンテナとしての作用効果が小さくなってしまう。図7(A)に示す本発明の実施形態によれば、上記バイパス経路が生じないので、金属カバー2を回路のグランド電位に導通(接地)しつつも、金属カバー2のブースターアンテナとしての作用効果を維持できる。
【0037】
ここで、金属カバー2のグランド導体への接続箇所すなわちグランド接続導体の形成位置とその数を定めたときのアンテナ特性について示す。図8はグランド接続導体の位置の例を示す斜視図である。金属カバー2をグランド接続導体でプリント配線板のグランド導体81にP1〜P6で示す位置で接続する場合、グランド接続導体の位置および接続数によってアンテナの放射効率が変化する。ここで、位置P1〜P4は第2エリア内である。位置P5,P6は第1エリア内で且つスリット部SLを挟む両側の位置である。
【0038】
図9は前記グランド接続導体の数に対するアンテナの結合係数を求めた結果である。横軸は実験例の番号である。実験例[1]はグランド接続導体が無い場合、実験例[2]は図8に示したグランド接続導体P1,P2を設けた場合、実験例[3]は図8に示したグランド接続導体P1,P2,P3,P4を設けた場合、実験例[4]は図8に示したグランド接続導体P1〜P6のすべてを設けた場合である。縦軸の結合数は、このアンテナ装置とリーダ・ライター側のアンテナとの結合係数である。ここで、金属カバー2の寸法は50mm×80mm、給電コイル31の寸法は15mm×15mm×0.35mmである。またリーダ・ライター側アンテナは直径80mmの複数ターンのループアンテナである。
【0039】
グランド接続導体を第2エリア内にのみ設けた場合には、図9に表れているように、結合係数は約0.044であるが、グランド接続導体を第1エリア内に設けた場合には、結合係数は約0.040を下回る。前記条件で、結合係数が0.040のときリーダ・ライターアンテナとの通信可能最長距離は40mmである。そのため、P1〜P6のすべての位置にグランド接続導体を設けた場合には、リーダ・ライターアンテナとの通信可能最長距離は40mm未満となってしまう。
【0040】
図10は前記グランド接続導体の数の違いによる金属カバー2に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。また、図11は図10の部分拡大図である。
【0041】
実験例[1]、実験例[2]、実験例[3]では金属カバー2に流れる電流の密度分布は殆ど同じであるが、実験例[4]では、図11中に丸印で囲んだ領域に表れているように、グランド導体に流れる電流が生じていることがわかる。すなわち、図7(B)に示したように、スリット部を挟む両側のグランド接続導体およびグランド導体を経由するバイパス経路が生じることがわかる。
【0042】
次に、グランド接続導体の数よりも特に位置に着目して、その位置によるアンテナ特性の変化について示す。
【0043】
図12(A)、図12(B)はグランド接続導体の位置の例を示す斜視図である。プリント配線板のグランド導体81に金属カバー2を導通させるグランド接続導体の位置は六カ所である。図12(A)に示したアンテナ装置の金属カバー2、給電コイル31の寸法およびリーダ・ライター側アンテナの寸法は図8に示したものと同じである。また、図12(B)のアンテナ装置は、図12(A)に比べて長手方向寸法が5mmだけ長いグランド導体81を備えている。
【0044】
図12(A)、図12(B)において、位置(1)〜(4)に設けるグランド接続導体の有無と実験例[5]〜[10]との関係は次の表1のとおりである。
【0045】
【表1】

【0046】
図13(A)は図12(A)に示したアンテナ装置の特性、図13(B)は図12(B)に示したアンテナ装置の特性をそれぞれ示す図である。これらの図から明らかなように、実験例[5][6][7]と、実験例[8][9][10]とでは結合係数がステップ状に変化することがわかる。すなわち、図12(A)、図12(B)に示した位置(1)(2)のいずれか一方にグランド接続導体を設けた場合には結合係数の変化は無く、グランド接続導体による影響が無いが、位置(1)(2)の両方にグランド接続導体を設けた場合には、結合係数が低下する。
【0047】
なお、図13(A)と図13(B)とを比較すると、グランド導体81が金属カバー2よりスリット部形成位置方向へ延びていることで、結合係数が低下することがわかる。したがって、グランド導体81はスリット部形成側の辺よりはみ出ていないことが好ましい。
【0048】
《第2の実施形態》
図14(A)は第2の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置202の背面側から見た概略斜視図、図14(B)は第2の実施形態に係るアンテナ装置を備える通信端末装置の背面図である。この通信端末装置202はプリント配線板8上に構成されている高周波回路を覆うシールド用の金属ケース9を筐体内部に備えている。金属ケース9は、導体開口部CAおよびこの導体開口部CAと外縁とを連接するスリット部SLを有する。導体開口部CAは金属ケース9の外縁寄りの位置(オフセットされた位置)に形成されている。この例では、金属ケース9はほぼ矩形であるので、その一辺寄りの位置に形成されている。
【0049】
金属ケース9の内面には、導体開口部CAの周囲に給電コイル31が沿うように給電コイルモジュール3が配置されている。この給電コイルモジュール3は、第1の実施形態で示したものと同様に、給電コイル31が形成されたフレキシブル基板と磁性体シート(フェライトシート)とで構成されている。金属ケース9は給電コイルモジュールに形成されている給電コイル31の占有面積より大きく、ブースターアンテナとして作用する。この金属ケース9が設けられている面(通信端末装置の背面)は通信相手側であるリーダ・ライター側アンテナに向ける面である。
【0050】
図15は図14(B)におけるA−A部分での断面図である。給電コイルモジュール3は金属ケース9の下面に接着剤層10を介して取り付けられている。プリント配線板8にはグランド導体81およびグランド接続導体6が設けられている。給電コイルモジュール3が取り付けられた金属ケース9がプリント配線板8に取り付けられた際、グランド接続導体6が金属ケース9に接して電気的に導通する。給電コイルモジュール3は図外の給電ピン等を介してプリント配線板8に接続される。
【0051】
このようにして、筐体内のプリント配線板8上の金属ケース9をブースターアンテナとして利用することもでき、グランド接続導体6の位置や数を第1の実施形態と同様の位置に配置したときに、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
《第3の実施形態》
以上に示した各実施形態では高電流密度エリアを構造上の範囲で簡易的に規定した。すなわち平面視で導体開口部、スリット部および給電コイルを含むエリアであって、導体の外縁のうちスリットが連接する外縁に対して平行な直線で区切られる第1エリアを高電流密度エリアとして規定した。しかし、この範囲で規定すると制約が大きすぎる場合がある。例えば、図8に示した第1エリア内でも誘導電流の電流密度が最大値の80%(または50%)未満となる部分が分布している場合がある。この第1エリア内の誘導電流の電流密度が最大値から80%(または50%)までの値となる部分以外であれば、スリット部SLを挟む両側にグランド接続導体を設けてもブースターアンテナの放射特性を維持できる。
【0053】
第3の実施形態では、高電流密度エリアをブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度の範囲で定めた例を示す。また、高電流密度エリアの数値範囲と通信距離との関係について示し、そのことで、高電流密度エリアを電流密度の数値範囲で表すことの根拠を示す。
【0054】
図16は第3の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナに流れる電流の方向を示す図である。多数の細かな矢印はそれぞれの位置での電流の方向、太い矢印線は電流の全体的な流れの方向をそれぞれ表している。
【0055】
図16(A)はグランド接続導体を設けない状態、図16(B)は位置(11)(11)にグランド接続導体を設けた状態、図16(C)は位置(22)(22)にグランド接続導体を設けた状態、図16(D)は位置(33)(33)にグランド接続導体を設けた状態である。
【0056】
開口部、スリット部、および給電コイルの構成は第1の実施形態で示したものと同様である。シミュレーションの計算条件は次のとおりである。
【0057】
ブースターアンテナの外形:50mm×80mm
グランド導体の外形:50mm×80mm
ブースターアンテナとグランド導体間の距離:5mm(ブースターアンテナとグランド導体は平面視で重なっている。)
給電コイル:15mm×15mm
給電コイルの端部からブースターアンテナの端部までの距離:5mm
スリット部の間隙:1mm
ブースターアンテナの開口部:φ3mm
図16(A)に表れているように、グランド接続導体の無い場合、電流は全てブースターアンテナに流れる。この図16(A)と図16(B)とを対比すると明らかなように、位置(11)(11)にグランド接続導体が設けられても、グランド接続導体が無い場合と殆ど同じである。したがって、グランド接続導体による影響で放射特性は低下しない。一方、図16(C)に表れているように、電流密度の比較的大きな位置(22)(22)にグランド接続導体を設けると、2つのグランド接続導体間に電流が流れる状態になって、その分ブースターアンテナに流れる電流量が減少する。その結果、ブースターアンテナの放射特性が低下する。また、図16(D)に表れているように、電流密度のさらに大きな位置(33)(33)にグランド接続導体を設けると、2つのグランド接続導体間に電流が流れる状態になって、その分ブースターアンテナに流れる電流量がさらに減少する。その結果、ブースターアンテナの放射特性はさらに低下することになる。
【0058】
以上のことから、ブースターアンテナの広い範囲に亘って複数のグランド接続導体を配置する場合に、グランド接続導体を配置する範囲を電流密度の値で規定することが重要であることが分かる。
【0059】
図17は第3の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナ(金属カバー)に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。電流密度を濃度で表している。ここでは、電流密度の最大値を100%とし、その80%以上、50%未満、50%以上80%未満の3つのエリアの境界を破線で示している。図17中の位置(1)〜(6)はグランド接続導体を設けた位置を示している。
【0060】
図18は電流密度(電流密度[A/m] の最大値を100%としたときの割合)と通信距離(通信可能最大距離)[mm] との関係を示す図である。縦軸はスリット部を挟む両側の位置(1)(4)、(2)(5)、(3)(6)にそれぞれグランド接続導体を配置したときの通信可能最大距離である。位置(1)(4)の位置の電流密度は最大値の97%程度である。このような電流密度の高い位置にグランド接続導体を設けると、ブースターアンテナの放射特性が低下し、通信可能最大距離は20mm程度になる。位置(2)(5)の電流密度は最大値の80%程度であるが、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は30mm程度が確保できる。位置(3)(6)の電流密度は最大値の50%程度と低いため、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は40mmと充分な通信距離を確保できる。
【0061】
上記の結果となる理由は次のとおりである。まず、電流密度が80%以上のエリア内にグランド接続導体を配置すると、給電コイルによって発生したブースターアンテナの電流の殆どがグランド接続導体を介してグランド導体に流れてしまい、ブースターアンテナに流れる電流量が大幅に低下する。また電流密度が80%未満のエリア内にグランド接続導体を配置すると、ブースターアンテナに充分な電流が流れるため、ブースターアンテナの放射効果が大きくなって通信距離が改善される。そして電流密度が50%未満のエリアにグランド接続導体を配置すると、グランド導体への回り込みが殆どないため、ブースターアンテナの放射効果がさらに大きくなって通信距離がさらに改善される。
【0062】
このように、スリット部を挟む両側にグランド接続導体を設ける場合、通信可能最大距離を30mm確保するためには、ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外にグランド接続導体を配置すればよい。また、通信可能最大距離を40mm確保するためには、ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から50%までの値となるエリアの外にグランド接続導体を配置すればよい。
【0063】
ちなみに通信可能最大距離40mmはRFIDで要求されているスペックであり、少なくとも30mm以上あれば実用的なレベルと言える。
【0064】
《第4の実施形態》
図19は第4の実施形態に係るアンテナ装置のブースターアンテナ(金属カバー)に流れる電流の密度分布の変化を示す図である。電流密度を濃度で表している。
【0065】
開口部、スリット部、および給電コイルの構成は第1の実施形態で示したものと同様である。シミュレーションの計算条件は次のとおりである。
【0066】
ブースターアンテナの外形:50mm×100mm
グランド導体の外形:50mm×100mm
ブースターアンテナとグランド導体間の距離:5mm(ブースターアンテナとグランド導体は平面視で重なっている。)
給電コイル:15mm×15mm
給電コイルの端部からブースターアンテナの端部までの距離:1mm
スリット部の間隙:1mm
ブースターアンテナの開口部:φ3mm
図19において、電流密度の最大値を100%としたときの、その80%以上、50%未満、50%以上80%未満の3つのエリアの境界を破線で示している。図19中の位置(A)〜(L)はグランド接続導体を設けた位置を示している。開口部、スリット部、および給電コイルの構成は第1の実施形態で示したものと同様である。
【0067】
図20は電流密度(電流密度[A/m] の最大値を100%としたときの割合)と通信距離(通信可能最大距離)[mm] との関係を示す図である。中心線を基準として左右に等間隔に離れた位置(A)(E)、(B)(F)、(C)(G)、(D)(H)にそれぞれグランド接続導体を配置した場合、および、中心線に平行な線に沿って離れた位置(A)(I)、(B)(J)、(C)(K)、(D)(L) にそれぞれグランド接続導体を配置した場合について示している。
【0068】
位置(A)(E) の電流密度は最大値の86%程度と高いため、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は27mm程度になる。位置(B)(F) の電流密度は最大値の80%程度であるが、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は30mm程度が確保できる。位置(C)(G) の電流密度は最大値の62%程度であるので、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は36mm確保でき、位置(D)(H) の電流密度は50%程度と低いので、この位置にグランド接続導体を設けると通信可能最大距離は40mmと充分な通信距離を確保できる。
【0069】
また位置(A)(I)、(B)(J)、(C)(K)、(D)(L) のそれぞれにグランド接続導体を設けた場合については、グランド接続導体がスリット部を跨がないので通信可能最大距離への影響は殆ど無い。
【0070】
図18に示した結果と対比すれば明らかなように、スリット部がブースターアンテナの長辺に接してしても短辺に接していても、電流密度で規定した範囲へのグランド接続導体の配置と通信可能最大距離との関係はほぼ同じである。
【0071】
なお、以上に示した各実施形態では金属カバーや金属ケースをブースターアンテナとして用いたが、これに限らず、ブースターアンテナは、筺体の外面、内面または内部に設けられる金属層であってもよい。また、筐体の一部を構成する金属板(金属筐体)であってもよい。さらには、プリント配線板に形成されている回路をシールドする金属ケースは単なる金属板であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
CA…導体開口部
CW…コイル開口部
I…電流
P1〜P6…グランド接続導体の位置
SL…スリット部
VL…仮想直線
1…筐体
2…金属カバー(導体)
3…給電コイルモジュール
6…グランド接続導体
7…給電ピン
8…プリント配線板
9…金属ケース
10…接着剤層
31…給電コイル
32…接続部
33…フレキシブル基板
39…磁性体シート
81…グランド導体
101,102…アンテナ装置
201,202…通信端末装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電回路に接続される給電コイルと、
導体開口部、および前記導体開口部と外縁との間を連接するスリット部が形成された導体を有し、前記給電コイルの占有面積よりも面積が大きなブースターアンテナと、
前記ブースターアンテナに対向配置されたグランド導体と、
を備えたアンテナ装置であって、
前記ブースターアンテナを前記グランド導体に導通させるグランド接続導体を備え、
前記導体開口部は前記導体の外縁寄りにオフセットされた位置に形成されていて、
前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から50%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置に、または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記グランド導体は、組み込み先機器の筺体の内部に配置されたプリント配線板に形成されているグランド導体パターンであって、前記ブースターアンテナは、前記筺体に設けられる金属層または筐体の一部を構成する金属板である、請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記グランド導体は、組み込み先機器の筺体の内部に配置されたプリント配線板に形成されているグランド導体パターンであって、前記ブースターアンテナは、前記筺体の内部に設けられ、前記プリント配線板に形成されている回路をシールドする金属板または金属ケースである、請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記スリット部は、前記導体開口部と前記導体の外縁とを最も近い位置で連接している、請求項1〜4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
給電回路と、
給電回路に接続される給電コイルと、
導体開口部、および前記導体開口部と外縁との間を連接するスリット部が形成された導体を有し、前記給電コイルの占有面積よりも面積が大きなブースターアンテナと、
前記ブースターアンテナに対向配置されたグランド導体と、
を備えた通信端末装置であって、
前記ブースターアンテナを前記グランド導体に導通させるグランド接続導体を備え、
前記導体開口部は前記導体の外縁寄りにオフセットされた位置に形成されていて、
前記グランド接続導体は、前記ブースターアンテナに流れる誘導電流の電流密度が最大値から80%までの値となるエリアの外で前記スリット部を挟む両側の位置または前記エリア内で前記スリット部を挟む両側のうち一方の位置に設けられていることを特徴とする通信端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図20】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−55637(P2013−55637A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126395(P2012−126395)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】