説明

アンテナ装置

【課題】複数の周波数帯に対応可能なアンテナ装置において、周辺環境による影響を抑制する。
【解決手段】放射電極104は横長形状(y軸方向)に形成され、長軸中央部に給電点110を設置される。放射電極104の給電点110と給電源の間にはトラップ回路が設置される。また、給電点110と給電源の間には位相調整回路も設置される。放射電極104は上面放射電極106と側面放射電極108を含み、側面放射電極108に給電点110が設置される。側面放射電極108は、上面から給電点110へ収束する形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関し、特に、複数の共振周波数を有するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの小型無線端末に内蔵されるチップ型のアンテナ素子は、ブロック型の誘電体の表面に放射電極をプリントすることにより形成される。放射電極に交流電流を供給すると、放射電極から電波が発生する。
【0003】
多くの携帯端末は、グローバル対応となっており、各国、各キャリアで異なる周波数帯に対応する必要がある。携帯端末の小型化の要請に応えつつ、複数の周波数帯に対応するためには、単一のアンテナ素子で複数の周波数帯の電波を発生させることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−368526号公報
【特許文献2】特開2004−228918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
小型無線端末は、逆Fアンテナやモノポールアンテナを搭載することが多い。特許文献1は逆Fアンテナ、特許文献2は折り返しモノポールアンテナを例示する。これらのタイプのアンテナでは、放射電極の長さ、分岐やその折り曲げ方によりインピーダンスを整合させることが多い。しかし、折り返し構造を有する放射電極は電波干渉を生じやすいため、帯域が狭くなりやすい。また、折り返し部分に手が触れるとインピーダンスの整合が崩れてしまう。逆Fアンテナのような折り返し構造を有するアンテナは、使用環境によっては通信品質が劣化しやすいという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて完成された発明であり、その主たる目的は、複数の周波数帯に対応可能なアンテナ装置において、使用環境の影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアンテナ装置は、横長形状に形成され、長軸中央部に給電点を設置される放射電極と、放射電極の給電点と給電源の間に設置されるトラップ回路と、放射電極の給電点と給電源の間に設置される位相調整回路と、を備える。
【0008】
トラップ回路を設置した上で放射電極の中央部から給電することにより、短い電気長と大きな放電面積を両立させやすくなる。
【0009】
放射電極は上面部と側面部を含み、側面部に給電点が設置されてもよい。放射電極の側面部は、上面から給電点へ収束する形状を有してもよい。
【0010】
位相調整回路は、LC回路として、給電ラインに対して並列接続されてもよい。また、トラップ回路は、LC回路として、給電ラインに対して直列接続されてもよい。
【0011】
トラップ回路の共振周波数は、放射電極の共振周波数と等しくなるように設定されてもよい。放射電極の給電点と給電源の間に、更に、フィルタ回路を備えてもよい。
【0012】
放射電極は、導体が並行する部分を含まないように形成されてもよい。放射電極は、誘電体上に設置されてもよいし、アンテナ装置を収める筐体の内側に貼付されてもよい。
【0013】
アンテナ装置は、更に、前記トラップ回路を介して給電点と接続される無線給電回路を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アンテナ装置の斜視図である。
【図2】アンテナ装置の回路図である。
【図3】入力電力の周波数と出力電力の大きさの関係を模式的に示すグラフである。
【図4】側面放射電極の構造の第1例を示す。
【図5】側面放射電極の構造の第2例を示す。
【図6】一般的な折り返し型アンテナにおいて通信品質が劣化する状況を説明するための模式図である。
【図7】非接触時における分岐放射型と逆F放射型のVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)特性を示す。
【図8】接触時における分岐放射型と逆F放射型のVSWR特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。各実施形態においては、携帯電話に内蔵されるアンテナ素子を題材として説明する。アンテナ素子を内蔵する携帯電話としてアンテナ装置が形成される。
【0016】
図1は、アンテナ装置100の斜視図である。本実施形態におけるアンテナ装置100は、携帯電話のプリント基板上に形成される。直方体形状の携帯電話の長軸方向にx軸、短軸方向にy軸、厚み方向にz軸を設定する。以下の図においても同様である。
【0017】
携帯電話端部のプリント基板上には、誘電体102が設置される。誘電体102は、PC(Polycarbonate)/ABS樹脂により形成される。誘電体102の表面に放射電極104がプリントされる。放射電極104はy軸方向に延びる横長形状を有する。放射電極104は、上面放射電極106と側面放射電極108を含む。側面放射電極108の最下端に給電点110が設定され、この給電点110から放射電極104に交流電流が供給され、放射電極104から電波が発生する。側面放射電極108の形状の詳細については、図4、図5に関連して後に詳述する。
【0018】
給電点110と給電源116(後述)は給電ライン112を介して接続される。給電ライン112上には回路114が設けられる。回路114は、後述の位相調整回路118、トラップ回路120およびフィルタ回路122を一体として含む。
【0019】
図2は、アンテナ装置100の回路図である。給電源116は、フィルタ回路122、トラップ回路120および位相調整回路118を経由して放射電極104と接続される。位相調整回路118は、インダクタL1とキャパシタC1の並列回路であり、インピーダンス整合のために設置される。位相調整回路118は、給電ライン112に対して並列に接続される。トラップ回路120は、インダクタL2とキャパシタC2の並列回路であり、複共振化のために設置される。トラップ回路120の機能の詳細については、図3に関連して後に詳述する。フィルタ回路122は、インダクタL3とキャパシタC3を含む。フィルタ回路122は、アンテナ装置100の帯域を拡大するために挿入される既知構成の回路である。トラップ回路120等を介して給電点110と接続される給電源116は、一種の無線給電回路であり、通信制御部、メモリ、入出力インタフェース等と接続される。これらの回路ブロックは、プリント基板の主回路領域に設置される。
【0020】
図3は、入力電力の周波数と出力電力の大きさの関係を模式的に示すグラフである。横軸は給電源116から放射電極104に入力される交流電力の周波数、縦軸は放射電極104から電波として出力される交流電力の大きさを示す。非トラップ特性124はトラップ回路120がないときの出力特性を示し、トラップ特性126はトラップ回路120があるときの出力特性を示す。
【0021】
放射電極104の共振周波数をfr0とする。したがって、非トラップ特性124においては共振周波数fr0にて交流電力を供給するとき、放射電極104から放射される出力電力も最大になる。
【0022】
トラップ回路120の共振周波数がfr0となるように、インダクタL2とキャパシタC2を設定する。このような共振周波数fr0のトラップ回路120を設置すると、周波数fr0にて供給される交流電力(入力電力)はトラップ回路120によって全反射されるため、出力電力は最低となる。この結果、アンテナ装置100は、周波数fr1、fr2の2点にて最大出力となる(fr1<fr0<fr2)。トラップ回路120により、アンテナ装置100を複共振化できる。
【0023】
図4は、側面放射電極108の構造の第1例を示す。第1例における側面放射電極108は、部分的な楕円形状として、上面から給電点110に収束する形状を有する。給電点110から側面放射電極108を通過して放射電極104の開放端に至る経路130は、給電点110から放射電極104に電力を供給する場合の経路128よりも短くなる。いいかえれば、楕円形状の側面放射電極108により、給電点110から開放端までの電気長を短くできる。このように、上面から給電点110に収束する形状として側面放射電極108を形成することにより、電力供給経路の電気長を適切に設定しやすくなる。
【0024】
図5は、側面放射電極108の構造の第2例を示す。第2例における側面放射電極108は、三角形状として、やはり上面から給電点110に収束する形状を有している。この場合にも、給電点110から開放端までの電気長の長さを経路128よりも短く調整できる。側面放射電極108の形状は楕円や三角等に限定されるものではなく、上面から給電点110に収束する形状であれば任意である。
【0025】
図6は、一般的な折り返し型アンテナ132において通信品質が劣化する状況を説明するための模式図である。アンテナ132は、放射電極の一部が折り返す形状を有している。いいかえれば、放射電極となる2本の導体が並行する部分を含んでいる。この並行部分に指134などの外部物体が添えられると、アンテナ132のインピーダンスが大きく変化する。これは、並行する放射電極が指134により実質的にショートされてしまうためである。このような使用環境を起因とするインピーダンスの不整合が生じると、通信品質が大きく劣化してしまう可能性がある。
【0026】
本実施形態におけるアンテナ装置100の場合、折り返し構造を含まないため、具体的には、2本の導体が並行する部分を含まないシンプルな構造であるため、指134などの外部物体による影響を受けにくい。具体的な実験結果については、図8に関連して詳述する。
【0027】
携帯電話内蔵の小型アンテナにトラップ回路120を設置しない場合、アンテナ(放射電極)の長さを確保する必要がある。このため、放射電極の構造として折り返し構造を採用せざるを得ないことが多い。トラップ回路120を設置すればアンテナの長さを短くできるが、放射電極104が短くなりすぎると出力電力が小さくなってしまう。本実施形態における放射電極104は、給電点110から2つの開放端に向かって電流が流れる二股型構造を有する。給電点110から開放端までの距離(電気長)が短くとも、放射電極104の面積を大きく確保できる構造となっている。したがって、指134などによる外乱に強く、かつ、充分な出力を確保しやすいというメリットがある。
【0028】
図7は、非接触時における分岐放射型136と逆F放射型138のVSWR特性を示す。分岐放射型136は、本実施形態におけるアンテナ装置100のVSWR特性を示す。逆F放射型138は、本実施形態におけるアンテナ装置100と同サイズにて作成した逆FアンテナのVSWR特性を示す。図7に示すように、分岐放射型136の方が逆F放射型138よりも帯域が広くなっている。これは、主としてフィルタ回路122の有無に起因する。
【0029】
図8は、接触時における分岐放射型136と逆F放射型138のVSWR特性を示す。具体的には、図8は、Index SAR社のハンド・ファントムIXB-052Rにより携帯電話を把持した状態におけるVSWR特性を示す。ハンド・ファントムは、人間の手を模した模型である。図7(非接触時)とくらべて、分岐放射型136と逆F放射型138の双方の特性が変化している。しかし、VSWRが3以下となる帯域(高効率帯域)について図7と図8を比較してみると、分岐放射型136の方が逆F放射型138よりも高効率帯域のずれが小さいことがわかる。たとえば、逆F放射型138の場合、特に低周波数帯において、接触・非接触によって高効率帯域が大きく変化しているが、分岐放射型136における変化は比較的小さい。
【0030】
以上、本実施形態におけるアンテナ装置100は、指134の位置のような使用環境の変化に影響を受けにくい構成となっている。また、回路で共振周波数を制御するため、放射電極の再調整回数を減らすことができる。本実施形態において放射電極104は誘電体上に形成されるとして説明したが、放射電極104は携帯電話の筐体の裏面などにプリントされてもよい。この場合には、放射電極104が大きくても、携帯電話における回路設計領域を大きく確保できるというメリットがある。
【0031】
また、放射電極104の中央部の給電点110から、放射電極104に給電することにより、放射電極104には2方向に電流が流れている。このような構成には、放射電極104の大きさを確保し、出力電力を大きくしやすいというメリットがある。なお、中央部とは、かならずしも、放射電極104の長軸(y軸)中点に給電点110が設置されるという意味ではない。2つの開放端の中間に給電点110が設置されればよい。
【0032】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0033】
100 アンテナ装置、102 誘電体、104 放射電極、106 上面放射電極、108 側面放射電極、110 給電点、112 給電ライン、114 回路、116 給電源、118 位相調整回路、120 トラップ回路、122 フィルタ回路、124 非トラップ特性、126 トラップ特性、128、130 経路、132 アンテナ、134 指、136 分岐放射型、138 逆F放射型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横長形状に形成され、長軸中央部に給電点を設置される放射電極と、
前記放射電極の前記給電点と給電源の間に設置されるトラップ回路と、
前記放射電極の前記給電点と前記給電源の間に設置される位相調整回路と、を備えることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記放射電極は上面部と側面部を含み、前記側面部に前記給電点が設置されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記放射電極の前記側面部は、上面から前記給電点へ収束する形状を有することを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記位相調整回路は、LC回路であって、給電ラインに対して並列接続されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記トラップ回路は、LC回路であって、給電ラインに対して直列接続されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記トラップ回路の共振周波数は、前記放射電極の共振周波数と等しいことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記放射電極の前記給電点と前記給電源の間に、更に、フィルタ回路を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記放射電極は、導体が並行する部分を含まないように形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記放射電極は、誘電体上に設置されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記放射電極は、筐体の内側に貼付されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項11】
更に、前記トラップ回路を介して前記給電点と接続される無線給電回路を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−58934(P2013−58934A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196405(P2011−196405)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】