説明

アンテナ装置

【課題】狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナを1つの誘電体基板上に配置してそれぞれで好適な特性が得られるように構成されたアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置100は、誘電体基板130の同一面上に配置された広帯域広覆域な第1アンテナ群110と狭帯域狭覆域な第2アンテナ群120とを備えている。第1アンテナ群110の第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112が誘電体基板130の両端辺の近傍に配置され、その間の誘電体基板130の略中央に第2アンテナ群120が配置されている。誘電体基板130は3層構造を有し、第2の誘電体層132と第3の誘電体層133との間に第1のグランド134が形成され、第1の誘電体層131と第2の誘電体層132との間には第2のグランド135が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用レーダ等に用いられるアンテナ装置に関し、とくに遠距離の観測と近距離の観測のそれぞれに用いられるアンテナを1つの誘電体基板上に搭載したアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載されるレーダとして多様な用途のものが開発されているが、大きく分類して遠距離にある対象物を検知するものと、近距離にある対象物を検知するものに分けられる。遠距離にある対象物を検知する用途では、前方から接近する対向車を早期に発見する、あるいは車線変更時に後方から接近する車両を早期に検知する、といった用途に用いるレーダがある。このような用途のレーダでは、特定の方向(前方、後方、あるいは所定の斜め方向等)にある対象物を遠方から検知できることが重要であり、ビーム幅の狭い狭覆域なナロービームを用いることができる。また、遠方の対象物を検知するときは、比較的高い利得が要求されるがそれほど高い距離分解能は必要ない。従って、遠方の対象物の検知には、狭帯域狭覆域の電磁波を用いるのがよい。
【0003】
一方、近距離にある対象物を検知する用途では、左折時に近傍の対象物を検知したり、駐車時の支援等に用いるレーダがある。このような用途のレーダでは、車両の近傍にある対象物を広角度に検知できることが重要であり、ビーム幅の広い広覆域なワイドビームを用いる必要がある。また、近傍の対象物を検知するときは高い距離分解能が要求される。従って、近傍の対象物の検知には、広帯域広覆域の電磁波を用いるのがよい。
【0004】
上記のように、遠方の対象物を比較的低い距離分解能で検知するレーダ機能と、近傍の対象物を広角度に高い距離分解能で検知するレーダ機能に対するニーズが高いが、両方のレーダ機能を車載レーダに持たせるには、狭帯域狭覆域の電磁波に対応したアンテナと広帯域広覆域の電磁波に対応したアンテナの両方を搭載する必要がある。狭帯域な電磁波と広帯域な電磁波を切り替えて用いるレーダ装置が、特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1には、車両に搭載して対象物までの距離、相対速度、及び方向を測定するレーダ装置が記載されている。ここでは、第1の測定方式で対象物を検知すると、より範囲の狭い再測定範囲を決定し、その範囲を第1の測定方式よりも分解能の高い第2の測定方式で測定する、2段階の測定方式が用いられている。第2の測定方式では、第1の測定方式で用いられる電磁波より広帯域な、例えばUWB(Ultra Wide Band)の電磁波を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−192359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遠方の対象物を検知するレーダ機能と近傍の広範囲にある対象物を検知するレーダ機能の両方を有するレーダ装置では、狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナの両方が必要となる。車載用レーダあるいは車載用アンテナは、設置スペースが限られることから小型化が強く望まれるが、それぞれのアンテナを別々の基板上に形成するとアンテナ装置が大型化してしまい、コストアップにもなってしまう。そこで、2つのアンテナを1つの基板上に配置するのが望ましいが、狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナを1つの基板上に搭載すると、いずれか一方のアンテナで好適な特性が得られない、あるいは両方のアンテナである程度の特性が得られるように調整することでともに好適な特性が得られなくなる、といった問題が生じていた。
【0008】
特許文献1には、狭帯域な電磁波と広帯域な電磁波を切り替えて用いることが記載されているものの、アンテナの構造は開示されておらず、狭帯域なアンテナと広帯域なアンテナを1つの基板上に搭載したものではない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナを1つの誘電体基板上に配置してそれぞれで好適な特性が得られるように構成されたアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のアンテナ装置の第1の態様は、広帯域なアンテナをそれぞれ1以上配置して広覆域で動作する第1の送信アンテナ部及び第1の受信アンテナ部を有する第1のアンテナ群と、狭帯域なアンテナをそれぞれ1以上配置して狭覆域で動作する少なくとも第2の受信アンテナ部を有する第2のアンテナ群と、前記第1のアンテナ群及び前記第2のアンテナ群を表面または内部に配置する誘電体基板と、を備え、前記誘電体基板が2以上の誘電体層からなる多層構造を有し、前記誘電体層のいずれかの面に形成されて前記第1のアンテナ群に対するグランドとなる第1のグランドと、前記誘電体層のいずれかの面に形成されて前記第2のアンテナ群に対するグランドとなる第2のグランドと、をさらに備え、前記第1のアンテナ群と前記第1のグランドとの間の前記誘電体層の厚さが、前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間の前記誘電体層の厚さと異なっていることを特徴とする。
【0011】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1のアンテナ群と前記第1のグランドとの間の前記誘電体層の厚さが、前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間の前記誘電体層の厚さよりも厚くなっていることを特徴とする。
【0012】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1のアンテナ群と前記第2のアンテナ群とが前記誘電体層の同一面上に配置され、前記第2のグランドが形成されている前記誘電体層の面が、前記第2のアンテナ群が形成されている前記誘電体層の別の面と前記第1のグランドが形成されている前記誘電体層のさらに別の面との間に位置していることを特徴とする。
【0013】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第2のアンテナ群の開口面積が前記第1のアンテナ群の開口面積より広く形成されて前記第2のアンテナ群の放射パターンが前記第1のアンテナ群の放射パターンよりビーム幅が狭くなっていることを特徴とする。
【0014】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間に配置される前記誘電体層は、前記第1のグランドと前記第2のグランドとの間に配置される別の前記誘電体層よりも高い高周波特性を有していることを特徴とする。
【0015】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1のアンテナ群は、広帯域なアンテナを2以上配置して形成されたアレーアンテナであり、前記第2のアンテナ群は、狭帯域なアンテナを2以上配置して形成されたアレーアンテナであることを特徴とする。
【0016】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1のアンテナ群及び前記第2のアンテナ群は、中心周波数が略等しい電磁波を送受信することを特徴とする。
【0017】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1の受信アンテナ部と前記第2の受信アンテナ部は、それぞれの受信動作を時分割で切り替えて行うことを特徴とする。
【0018】
本発明のアンテナ装置の他の態様は、前記第1のアンテナ群は、マイクロストリップアンテナ、プリント化ダイポールアンテナ、プリント化モノポールアンテナのいずれか1つで形成され、前記第2のアンテナ群は、マイクロストリップアンテナ、スロットアンテナのいずれか1つで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナを1つの誘電体基板上に配置してそれぞれで好適な特性が得られるように構成されたアンテナ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】誘電体基板の厚さと距離分解能との間の関係を示す説明図である。
【図3】シミュレーション解析に用いた第1実施形態のアンテナ装置の構成を示す構成図である。
【図4】シミュレーション解析による放射パターンを示すグラフである。
【図5】本発明の別の実施形態に係るアンテナ装置の構成を示す概略構成図である。
【図6】比較例のアンテナ装置の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態におけるアンテナ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0022】
車載レーダでは、遠方の対象物を検知するときは、高い利得を必要とする一方精度の高い距離分解能を必要としないことから、狭帯域なアンテナを用いる事が可能である。また、遠方の対象物として、特定の方向(前方、後方、あるいは所定の斜め方向等)の限られた角度範囲にあるものを対象とすることから、ビーム幅の狭い狭覆域なアンテナとすることができる。高い利得が得られてビーム幅の狭いアンテナは、開口面積を大きくすることで実現することができる。従って、狭帯域狭覆域なアンテナは、開口面積の大きい狭帯域なアンテナとすることができる。
【0023】
これに対し、車両近傍の広い角度範囲にある対象物を検知するときは、精度の高い距離分解能を必要とするので、広帯域なアンテナを用いる必要がある。また、検知可能な角度範囲を広くするには、ビーム幅の広い広覆域なアンテナとする必要がある。ビーム幅の広い広覆域なアンテナは、アンテナの開口面積を小さくすることで実現することができる。
【0024】
遠方の対象物を検知するレーダ機能と近傍の広角度範囲にある対象物を検知するレーダ機能の両方を実現するには、上記説明の狭帯域狭覆域なアンテナと広帯域広覆域なアンテナの両方が必要となる。本発明のアンテナ装置は、特性の大きく異なる広帯域広覆域なアンテナと狭帯域狭覆域なアンテナとが、1つの誘電体基板の同一面(アンテナ面)上に配置されたアンテナ素子と、アンテナ面とは別の面上に形成された地板とで構成される。そして、それぞれで好適な特性が得られるように構成されたものであり、これによりアンテナ装置の小型化と低コスト化を図っている。以下では、広帯域広覆域なアンテナを第1のアンテナ群と称し、狭帯域狭覆域なアンテナを第2のアンテナ群と称することとする。
【0025】
広帯域広覆域な第1のアンテナ群では、広帯域なパルス信号を用いることで距離分解能を高めることができるが、広帯域パルス信号に対するアンテナ特性を良くするには誘電体基板を厚くする必要がある。また、送信アンテナと受信アンテナとを近くに配置すると、その間のアイソレーションを確保できなくなるおそれがある。そこで、広帯域広覆域な第1のアンテナ群では、基板厚さの厚い誘電体基板上に送信アンテナと受信アンテナとをその間の距離を十分離して配置する必要がある。
【0026】
これに対し、狭帯域狭覆域な第2のアンテナ群では、少なくとも対象物で反射された反射波を狭帯域で受信する受信アンテナが必要となる。また、狭覆域で高い利得が得られるようにするために、開口面積を大きくするのがよいが、そのためにはアンテナ素子を誘電体基板上に広く配置する必要がある。
第1のアンテナ群である広帯域、広覆域の送受アンテナ間は前述したようにアイソレーション確保の為に送受アンテナ間の距離が必要となる。本発明ではスペースファクターの改善の為に上記送受アンテナ間のスペースを有効に活用して第2のアンテナ群である狭帯域、狭覆域のアンテナを配置している。
グランドを挟んだ基板裏面はレーダ送受信用MIC(Microwave integrated circuit)等のアンテナ以外の回路が配置される為に上記第2のアンテナ群は第1のアンテナ群のように基板厚さ全体を使う事ができない制約がある。従って放射部が配置される側の基板厚みの一部を利用して形成する必要があり、薄い基板厚みで成立するアンテナを選択する必要がある。
【0027】
上記説明のように、誘電体基板の一方の面上に配置されたアンテナ素子と他方の面上に形成された地板とで構成されるアンテナでは、誘電体基板の厚さと距離分解能との間には、図2に示すような関係がある。すなわち、基板厚さと距離分解能(符号12)との間には、基板厚さが厚いと精度の高い距離分解能が得られ、基板厚さが薄くなるにつれて距離分解能が低下していく。このように、精度の高い距離分解能を必要とする第1のアンテナ群と長い検知距離を必要とする開口面積の大きな第2のアンテナ群とを同一の誘電体基板上に配置するには、基板厚さに対する工夫が少なからず必要となる。
【0028】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ装置を、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態のアンテナ装置100の構成を示す概略構成図である。同図(a)はアンテナ装置100の平面図を示し、同図(b)は同図(a)に示すA−A線における断面図を示している。アンテナ装置100は、広帯域広覆域な第1アンテナ群110と狭帯域狭覆域な第2アンテナ群120と誘電体基板130とを備えている。第1アンテナ群110及び第2アンテナ群120は、誘電体基板130の同一面上に配置されている。
【0029】
広帯域広覆域な第1アンテナ群110は、送信アンテナ部(第1の送信アンテナ部とする)111と受信アンテナ部(第1の受信アンテナ部とする)112とを備えており、それぞれ広帯域なアンテナ113を複数配列して構成されている。第1の送信アンテナ部111は、広帯域なアンテナ113を誘電体基板130の一方の端辺に沿って2以上配列し、これを誘電体基板130の長手方向(端辺に直交する方向)に1列配列したアレーアンテナとしている。また、第1の受信アンテナ部112は、広帯域なアンテナ113を誘電体基板130の他方の端辺に沿って2以上配列し、これを誘電体基板130の長手方向に2列配列したアレーアンテナとしている。第1の受信アンテナ部112は、対象物までの距離に加えて、対象物の方位角を検知することが可能な構成となっている。
【0030】
狭帯域狭覆域な第2アンテナ群120は、第2の受信アンテナ部122を備えており、狭帯域なアンテナ123を誘電体基板130の端辺方向及び長手方向に2以上配列したアレーアンテナとしている。狭帯域なアンテナ123を多数配列することで、第2の受信アンテナ部122の開口面積を大きくしている。誘電体基板130は、第1アンテナ群110及び第2アンテナ群120が配置された面(アンテナ面)側から順に、第1の誘電体層131、第2の誘電体層132及び第3の誘電体層133からなる多層構造の基板としている。第2の誘電体層132と第3の誘電体層133との間に第1のグランド134が形成され、第1の誘電体層131と第2の誘電体層132との間には第2のグランド135が形成されている。なお、本発明のアンテナ装置は、少なくとも2層の誘電体層からなる誘電体基板を用いて構成することができる。
【0031】
第1アンテナ群110を構成する広帯域なアンテナ113のそれぞれに接続される給電線路は、誘電体基板130のアンテナ面とは反対側の面に配置されている。すなわち、第1の送信アンテナ部111を構成する複数の広帯域なアンテナ113は、アンテナ面とは反対側の面に配置された送信用給電線路114に給電用スルーホール116でそれぞれ接続されている。同様に第1の受信アンテナ部112を構成する複数の広帯域なアンテナ113は、アンテナ面とは反対側の面に配置された受信用給電線路115に給電用スルーホール116でそれぞれ接続されている。送信用給電線路114及び受信用給電線路115は、第3の誘電体層133を挟んで第1のグランド134との間でマイクロストリップライン(MSL)を形成している。
【0032】
一方、第2アンテナ群120では、第2の受信アンテナ部122を構成する狭帯域なアンテナ123のそれぞれに接続される受信用給電線路125は、誘電体基板130のアンテナ面上に配索されている。受信用給電線路125は、第1の誘電体層131を挟んで第2のグランド135との間でMSLを形成している。また第2のグランド135は隔壁141を経由して第1のグランド134に接続されている。
【0033】
本実施形態では、第1のアンテナ群110の各広帯域なアンテナ113が第2の誘電体層132と第3の誘電体層133との間に形成された第1のグランド134をグランドに用いるように構成されている。これにより第1のアンテナ群110は、第1のグランド134との間に誘電体基板130の第1の誘電体層131と第2の誘電体層132の2層を挟むことになり、誘電体層を厚くして良好な広帯域特性が得られるようにすることができる。広帯域広覆域な第1のアンテナ群110に用いる誘電体層の厚さは、第1の誘電体層131と第2の誘電体層132のそれぞれの厚さを調整することで好適に設定することができる。
【0034】
これに対し、第1のアンテナ群110の各広帯域なアンテナ113に給電するための給電線路114、115は、第3の誘電体層133を挟んで第1のグランド134との間でMSLを形成するように構成されていることから、第3の誘電体層133の厚さを好適に設定することで、送信用給電線路114及び受信用給電線路115による給電ロスを低減させることができる。
【0035】
給電線路114、115がMSLを形成するのに用いる第3の誘電体層133には、高周波特性の高い(tanδが低い)基板材を用いるのがよく、たとえばRogers社製などのフッ素系ないし類似性能の高周波基板を用いることができる。高周波特性の高い基板材を第3の誘電体層133に用いることで、給電線路114、115における給電ロスを低減することができる。また、給電線路114、115が配置されている第3の誘電体層133の面上には、別の高周波回路やベースバンド(BB)回路等を配置することができる。
【0036】
一方、本実施形態の第2アンテナ群120は、第2の受信アンテナ部122を構成する各狭帯域なアンテナ123が、第1の誘電体層131と第2の誘電体層132との間に形成された第2のグランド135をグランドに用いるように構成されている。これにより第2のアンテナ群120は、第2のグランド135との間に誘電体基板130の第1の誘電体層131のみを挟む構成となっている。
【0037】
また、各狭帯域なアンテナ123は、アンテナ面上に配索された受信用給電線路125に接続されている。第2の受信アンテナ部122の開口面積を大きくするように狭帯域なアンテナ123を複数配列したことから、受信用給電線路125の距離が長くなっている。そのため、受信用給電線路125による給電ロスをできるだけ低減させる必要がある。
第1の誘電体層131には、高周波特性の良好な(tanδが低い)基板材を用いるのがよく、たとえばRogers社製のフッ素系ないし類似性能の高周波基板を用いることが適している。
なお、第2の受信アンテナは第1の誘電体層131に形成されるため、該当部の第3の誘電体層133側には、136に示すようにレーダ送受信用MIC等のアンテナ以外の回路を形成することができる。
【0038】
第1の誘電体層131の厚さを薄くした場合、第1のアンテナ群110と第1のグランド134との間の誘電体層の厚さが変化して第1のアンテナ群110の広帯域特性が低下してしまうおそれがあるが、第1の誘電体層131の厚さが薄くなった分、第2の誘電体層132を厚くする等、TM表面波を発生させない範囲で均衡を保つことができる。
【0039】
本実施形態の第2のアンテナ群120は、第2の受信アンテナ部122を有し、送信アンテナ部を有さない構成としている。第2の受信アンテナ部122は、第1のアンテナ群110の第1の送信アンテナ部111から放射された電磁波の反射波を受信している。第1の受信アンテナ部112と第2の受信アンテナ部122は、時分割で適宜切り替えて受信動作するように構成されている。すなわち、短距離を広い角度範囲で検知するときは、第1のアンテナ群の第1の送信アンテナ部111から広帯域な電磁波を放射し、これが対象物で反射された反射波を第1の受信アンテナ部112で受信する構成としている。
【0040】
また、限られた角度範囲で遠距離の対象物を検知するときは、第1の送信アンテナ部111から所定の電磁波を放射し、これが対象物で反射された反射波を第2の受信アンテナ部122で受信する構成としている。このとき第1の送信アンテナ部111から放射される電磁波は、短距離を広い角度範囲で検知するときに放射する電磁波と同じ周波数を有するが、帯域幅は異なっていてもよく、例えば狭帯域な電磁波を放射させるようにすることができる。
【0041】
遠距離の対象物を検知する場合には、上記説明のように、第1の送信アンテナ部111から狭帯域広覆域の電磁波あるいは広帯域広覆域の電磁波を放射させるようにしてもよい。
広帯域広覆域の電磁波を放射させる場合には、第2の受信アンテナ部122は、所定の狭帯域の成分のみを受信する。その場合、所定の狭帯域以外の成分であるサイドローブのレベルが低下しないときは、EL方向にEBGを配置してサイドローブレベルを低下させるようにすることができる。
【0042】
上記のように本実施形態のアンテナ装置100は、第1のグランド134との間に第1の誘電体層131及び第2の誘電体層132を挟んで配置された第1の送信アンテナ部111及び第1の受信アンテナ部112を用いて広帯域広覆域な第1のアンテナ群110を構成し、第2のグランド135との間に第1の誘電体層131を挟んで配置された第2の受信アンテナ部122を用いて狭帯域狭覆域な第2のアンテナ群120を構成することができ、広帯域広覆域な第1のアンテナ群110と狭帯域狭覆域な第2のアンテナ群120とを、共通基板である誘電体基板130上に配置することができる。
【0043】
第1の誘電体層131の厚さは、第2のアンテナ群120である第2の受信アンテナ部112において、良好な高周波特性が得られるように決定することができる。また、第2の誘電体層132の厚さは、第1の誘電体層131の厚さと合わせて第1のアンテナ群110で好適な広帯域特性が得られるように決定することができる。なお、第2の誘電体層132は、第1の誘電体層131及び第3の誘電体層133のような良好な高周波特性を有する高価な高周波基板を用いる必要はなく、FR4のような安価な基板を用いることができる。さらに、第3の誘電体層133の厚さは、第1のアンテナ群110に用いられる送信用給電線路114や受信用給電線路115あるいはレーダ送受信用MIC等のアンテナ以外の回路などを勘案し、好適な高周波特性が得られるように決定することができる。
【0044】
本実施形態のアンテナ装置100では、広帯域広覆域な第1のアンテナ群110において、第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112との間のアイソレーションを高めるような構成としている。ビーム幅の広い広覆域なアンテナでは、送信アンテナと受信アンテナとの間で結合が生じやすくなることから、両者間の距離をできるだけ大きくして結合しにくくするのがよい。そこで、本実施形態のアンテナ装置100では、第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112とを、それぞれ誘電体基板130の両端辺の近傍に配置しており、第2の受信アンテナ部122を第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112との間の誘電体基板130の略中央に配置する構成としている。
【0045】
さらに、第1の送信アンテナ部111と第2の受信アンテナ部122との間、及び第1の受信アンテナ部112と第2の受信アンテナ部122との間、のそれぞれに隔壁141、142を設けている。本実施形態では、第1のアンテナ群110と第2のアンテナ群120で略等しい周波数の電磁波を送受信させており、隔壁141、142を設けることで、第2の受信アンテナ部122と第1の送信アンテナ部111及び第1の受信アンテナ部112との間の結合を低減させるとともに、第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112との間の結合をさらに低減させることができる。
【0046】
隔壁141、142は、誘電体基板130を貫通して誘電体基板130の端辺に平行な方向に所定の間隔で配列されたスルーホールで形成することができる。隔壁141、142を形成するスルーホールは、第1のグランド134及び第2のグランド135に電気的に接続される。隔壁141、142に代えて、第2のグランド135をグランドに用いて構成される不要波抑圧用EBGを用いることができる。
【0047】
本実施形態のアンテナ装置100の放射パターンをシミュレーション解析により求めた一例を図4に示す。図4に示す放射パターンは、図3に示す構成のアンテナ装置100’についてシミュレーションを行った結果である。図3に示すアンテナ装置100’は、広帯域なアンテナ113を4×1に配列して第1の送信アンテナ部111を構成し、広帯域なアンテナ113を4×2に配列して第1の受信アンテナ部112を構成し、さらに狭帯域なアンテナ123を6×6に配列して第2の受信アンテナ部122を構成している。広帯域なアンテナ113及び狭帯域なアンテナ123は、動作帯域幅は異なるが同一の中心周波数で動作している。アンテナ装置100’では、図1に示したアンテナ装置100と比較して、誘電体基板130の両端辺にリム151、152を追加し、誘電体基板130の両側辺にはEBG153、154を追加した構成としている。
【0048】
図4は、横軸を方位角とし縦軸を利得としたときの放射パターンを示している。広帯域広覆域な第1のアンテナ群110の放射パターンを符号21で示し、狭帯域狭覆域な第2のアンテナ群120の放射パターンを符号22で示している。放射パターン21は、広角度にわたって高い対称性を有して高い利得が得られており、広角度にわたって対象物を検知できる広覆域な特性が得られている。これに対し、放射パターン22は、狭い角度範囲で高い利得が得られており、狭い範囲の対象物を検知できる狭帯域特性を有していることが示されている。特に、狭い角度範囲において放射パターン21より高い利得が得られており、第1のアンテナ群110より遠方の対象物を検知できることが示されている。
【0049】
第1のアンテナ群110に用いられる広帯域なアンテナ113は、マイクロストリップアンテナ、プリント化ダイポールアンテナ、プリント化モノポールアンテナのいずれか1つとすることができる。また、第2のアンテナ群120に用いられる狭帯域なアンテナ123は、マイクロストリップアンテナ、スロットアンテナのいずれか1つとすることができる。
【0050】
上記説明のように、本実施形態のアンテナ装置100(及び100’)では、広帯域広覆域な第1のアンテナ群110と狭帯域狭覆域な第2のアンテナ群120とを1つの誘電体基板上に配置し、それぞれで好適な特性が得られるようにすることが可能となる。これにより、広帯域広覆域な特性と狭帯域狭覆域な特性を有して低コストで小型のアンテナ装置を提供することができる。
【0051】
(第2実施形態、第3実施形態)
本発明の第2の実施の形態及び第3実施形態に係るアンテナ装置を、図5を用いて以下に説明する。図5は、本発明の第2実施形態及び第3実施形態のアンテナ装置の概略構成を示す平面図である。図5(a)に示す第2実施形態のアンテナ装置200は、第2のアンテナ群220が第2の受信アンテナ部222に加えて狭帯域狭覆域な電磁波を放射する第2の送信アンテナ部221を備えた構成となっている。第2の送信アンテナ部221は、第2の受信アンテナ部222に用いている第2のグランドを共有して用いている。本実施形態のアンテナ装置200では、第2の送信アンテナ部221を用いて送信を行うようにすることで、好適な狭帯域狭覆域の電磁波を送信することができ、第2の受信アンテナ部222による狭帯域狭覆域な受信特性をさらに好適にすることが可能となる。
【0052】
第1の送信アンテナ部111と第1の受信アンテナ部112とができるだけ離して配置されるのに対し、第2の送信アンテナ部221と第2の受信アンテナ部222は近接して配置されている。第2の送信アンテナ部221と第2の受信アンテナ部222のようにビーム幅の狭い狭覆域な電磁波を送受信するアンテナでは、送信アンテナと受信アンテナとを近接させて配置しても高いアイソレーションを得ることができる。
【0053】
また、図5(b)に示す第3実施形態のアンテナ装置300は、第2のアンテナ群320のアンテナ部321が送信動作と受信動作を切り替えて行う送受信共用アンテナとなっている。本実施形態のアンテナ装置300でも、アンテナ部321を用いて送信を行うようにすることで、好適な狭帯域狭覆域特性を有する電磁波を送信することができ、アンテナ部321による狭帯域狭覆域な受信特性をさらに好適にすることが可能となる。
【0054】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施形態に係るアンテナ装置を、図6を用いて以下に説明する。図6は、第4実施形態のアンテナ装置400の構成を示す断面図を示しており、図1(b)と同様の断面で見たものである。アンテナ装置400は、第1実施形態のアンテナ装置100と比較して、誘電体基板430が第1実施形態の誘電体基板130の第1の誘電体層131を削除した構成となっている。すなわち、誘電体基板430は、高い高周波特性を必要としない第2の誘電体層432と高い高周波特性を有する第3の誘電体層433とで構成された多層構造となっている。
【0055】
第1の誘電体層を削除するのに伴い、第1のアンテナ群410の第1の送信アンテナ部411及び第1の受信アンテナ部412は、いずれも第2の誘電体層432の上面に形成された広帯域なアンテナ413で形成されている。また、第2のアンテナ群420の第2の受信アンテナ部422は、第2の誘電体層432と第3の誘電体層433との間に形成された狭帯域なアンテナ423で形成されている。本実施形態では、第1のグランド434が、第1の実施形態と同様に、第2の誘電体層432と第3の誘電体層433との間に形成されているが、隔壁441と442との間の第2のアンテナ群420が配置される領域には第1のグランド434は形成されない。そして、第1のアンテナ群410の送信用給電線路414及び受信用給電線路415が形成されている第3の誘電体層433の面上に、第2のアンテナ群420と対向させて第2のグランド435が形成されている。
【0056】
上記のように構成された本実施形態のアンテナ装置400では、高周波特性の高い基板を1枚とするために、第1のアンテナ群410の送信用給電線路414及び受信用給電線路415が形成されている第3の誘電体層433の面上に第2のアンテナ群420と第2のグランド435を対向させて配置している。その結果、本実施形態では第1のアンテナ群410と第2のアンテナ群420が同一の基板面上に形成されない。また、第3の誘電体層433の送信用給電線路414及び受信用給電線路415が形成されている面上に第2のグランド435が形成されるため、この面上に高周波回路を設けることができなくなる。しかしながら、高周波特性の高い高価な基板材を用いる第1の誘電体層を不要とすることができることから、アンテナ装置400を低コストで提供することが可能となる。
【0057】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るアンテナ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるアンテナ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
100,100’、200、300、400 アンテナ装置
110、410 第1のアンテナ群
111、411 第1の送信アンテナ部
112、412 第1の受信アンテナ部
113、413 広帯域なアンテナ
114、414 送信用給電線路
115、415 受信用給電線路
116 給電用スルーホール
120、220、320、420 第2のアンテナ群
122、222、422 第2の受信アンテナ部
123、423 狭帯域なアンテナ
125 受信用給電線路
130、430 誘電体基板
131 第1の誘電体層
132、432 第2の誘電体層
133、433 第3の誘電体層
134、434 第1のグランド
135、435 第2のグランド
136 第3の誘電体層上に形成されたアンテナ以外の回路
141、142、441、442 隔壁
221 第2の送信アンテナ部
321 アンテナ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域なアンテナをそれぞれ1以上配置して広覆域で動作する第1の送信アンテナ部及び第1の受信アンテナ部を有する第1のアンテナ群と、
狭帯域なアンテナをそれぞれ1以上配置して狭覆域で動作する少なくとも第2の受信アンテナ部を有する第2のアンテナ群と、
前記第1のアンテナ群及び前記第2のアンテナ群を表面または内部に配置する誘電体基板と、を備え、
前記誘電体基板が2以上の誘電体層からなる多層構造を有し、
前記誘電体層のいずれかの面に形成されて前記第1のアンテナ群に対するグランドとなる第1のグランドと、
前記誘電体層のいずれかの面に形成されて前記第2のアンテナ群に対するグランドとなる第2のグランドと、をさらに備え、
前記第1のアンテナ群と前記第1のグランドとの間の前記誘電体層の厚さが、前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間の前記誘電体層の厚さと異なっている
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1のアンテナ群と前記第1のグランドとの間の前記誘電体層の厚さが、前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間の前記誘電体層の厚さよりも厚くなっている
ことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1のアンテナ群と前記第2のアンテナ群とが前記誘電体層の同一面上に配置され、
前記第2のグランドが形成されている前記誘電体層の面が、前記第2のアンテナ群が形成されている前記誘電体層の別の面と前記第1のグランドが形成されている前記誘電体層のさらに別の面との間に位置している
ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第2のアンテナ群の開口面積が前記第1のアンテナ群の開口面積より広く形成されて前記第2のアンテナ群の放射パターンが前記第1のアンテナ群の放射パターンよりビーム幅が狭くなっている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第2のアンテナ群と前記第2のグランドとの間に配置される前記誘電体層は、前記第1のグランドと前記第2のグランドとの間に配置される別の前記誘電体層よりも高い高周波特性を有している
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記第1のアンテナ群は、広帯域なアンテナを2以上配置して形成されたアレーアンテナであり、前記第2のアンテナ群は、狭帯域なアンテナを2以上配置して形成されたアレーアンテナである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記第1のアンテナ群及び前記第2のアンテナ群は、中心周波数が略等しい電磁波を送受信する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記第1の受信アンテナ部と前記第2の受信アンテナ部は、それぞれの受信動作を時分割で切り替えて行う
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第1のアンテナ群は、マイクロストリップアンテナ、プリント化ダイポールアンテナ、プリント化モノポールアンテナのいずれか1つで形成され、
前記第2のアンテナ群は、マイクロストリップアンテナ、スロットアンテナのいずれか1つで形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のアンテナ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88364(P2013−88364A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231121(P2011−231121)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】