説明

アンテナ配置算出装置

【課題】アンテナを2次元空間や3次元空間に配置する場合でも、サイドローブレベルが最小に近いアンテナ配置を効率よく算出することができるようにする。
【解決手段】アンテナ配置保持部3に記録されている評価値が最も良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のグループに属しているアンテナを選択するアンテナ選択部6や、アンテナ選択部6により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置をアンテナ配置保持部3に記録するアンテナ移動部7などを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を用いて目標を探知、追尾或いは標定するレーダ装置におけるアンテナの最良な配置を算出するアンテナ配置算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置の探知性能を向上させる場合、送信電力やアンテナの大型化が試みられることが一般的である。
しかし、送信電力やアンテナの大型化を図ると、装置規模が増大して、費用対効果の低下や抗たん性の劣化などの問題が生じる。
この問題を回避するため、小規模のアンテナを複数個分散して配置し、各アンテナの出力を合成することで、全体の探知性能を向上させる方式が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
上記の方式を採用しているレーダ装置は「分散型レーダ」と呼ばれる。
分散型レーダの設計においては、サイドローブと呼ばれる不要な放射パターンを低減することが重要であり、非特許文献1では、アンテナをランダムに配置することで、サイドローブを低減する方法について述べている。
【0004】
また、以下の非特許文献2,3には、最大サイドローブに関するサイドローブレベル(メインローブに対するサイドローブの利得の比)が小さいアンテナ配置を導出するために、最適化技術を適用している。
非特許文献2,3では、1次元のアンテナ配置において、アンテナの配置可能な位置を最小ステップ幅の間隔で離散化して、可能なアンテナ配置数を有限個としており、非特許文献2では、可能な全てのアンテナ配置についてサイドローブレベルを評価することで、最良のアンテナ配置を抽出するようにしている。
非特許文献3では、局所探索法(現在解を初期化後、「現在解に基づき近傍解を生成し、条件を満たすなら、現在解を近傍解で置き換える」との処理を反復する最適化アルゴリズムの枠組み)を実施することで、サイドローブレベルの観点で比較的良いアンテナ配置を得るようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R.C. Heimiller、J.E. Belyea and P.G. Tomlinson著、“Distributed array radar”、IEEE Transaction on Aerospace and Electronics systems, vol.19, no.6, pp.831-839, Nov. 1983
【非特許文献2】Darren Leigh、Kathy Ryall、Tom Lanning、Neal Lesh、Hiroaki Miyashita、Kazufumi Hirata、Yoshihisa Hara and Takeshi Sakura著、“Sidelobe Minimization of Uniformly-Excited Sparse Linear Arrays using Exhaustive Search and Visual Browsing”、IEEE Antennas and Propagation Society International Symposium (AP-S International Symposium), Vol. 1B, pp. 763-766, July 2005
【非特許文献3】Christopher Lee、Darren Leigh、Kathy Ryall、Hiroaki Miyashita and Kazufumi Hirata著、“Very Fast Subarray Position Calculation for Minimizing Sidelobes in Sparse Linear Phased Arrays”、European Conference on Antennas and Propagation (EuCAP), November 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のアンテナ配置算出装置は以上のように構成されているので、非特許文献1の場合、アンテナをランダムに配置することで、サイドローブが低減されるが、サイドローブレベルの最適化が図られるわけではなく、サイドローブレベルが最小となるアンテナ配置を得ることができない課題があった。
また、非特許文献2の場合、アンテナの設置位置が離散化されている制約の範囲内では、サイドローブレベルが最小のアンテナ配置が得られるが、可能な全てのアンテナ配置を評価する必要があるため、膨大な処理を実施する必要がある課題があった。特に、アンテナの2次元配置や3次元配置を行う場合、可能な全てのアンテナ配置の数が膨大となり、それらを全て評価することは非現実的である。
また、非特許文献3の場合、サイドローブレベルの観点で比較的良いアンテナ配置が得られるが、最適化処理において、個々のアンテナを自由に移動してよいとすると、アンテナの2次元配置や3次元配置を行う場合、アンテナ配置の自由度が高くなり過ぎるため、最良に近いアンテナ配置を得ることが困難になる課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アンテナを2次元空間や3次元空間に配置する場合でも、サイドローブレベルが最小に近いアンテナ配置を効率よく算出することができるアンテナ配置算出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るアンテナ配置算出装置は、分散型レーダを構成する複数のアンテナがグループ単位で管理されており、複数のアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約の下で、複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置と複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性を保持する位置特性保持手段と、位置特性保持手段により保持されているアンテナ配置及びアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す分散型レーダのアンテナパターンを算出するアンテナパターン算出手段と、アンテナパターン算出手段により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルからアンテナ配置の評価値を算出し、その評価値を位置特性保持手段に記録する評価値算出手段と、位置特性保持手段に記録されている評価値が良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のグループに属しているアンテナを選択するアンテナ選択手段とを設け、アンテナ移動手段が、特定の基準点を中心とする正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、アンテナ選択手段により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置を位置特性保持手段に記録するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、分散型レーダを構成する複数のアンテナがグループ単位で管理されており、複数のアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約の下で、複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置と複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性を保持する位置特性保持手段と、位置特性保持手段により保持されているアンテナ配置及びアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す分散型レーダのアンテナパターンを算出するアンテナパターン算出手段と、アンテナパターン算出手段により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルからアンテナ配置の評価値を算出し、その評価値を位置特性保持手段に記録する評価値算出手段と、位置特性保持手段に記録されている評価値が良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のグループに属しているアンテナを選択するアンテナ選択手段とを設け、アンテナ移動手段が、特定の基準点を中心とする正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、アンテナ選択手段により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置を位置特性保持手段に記録するように構成したので、アンテナを2次元空間や3次元空間に配置する場合でも、サイドローブレベルが最小になるアンテナ配置を効率よく算出することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1によるアンテナ配置算出装置を示す構成図である。
【図2】アンテナの配置に関する制約を満たしているアンテナ配置の一例を示す説明図である。
【図3】分散型レーダの構成例を示す構成図である。
【図4】分散型レーダのアンテナパターンの一例を示す説明図である。
【図5】アンテナグループがN個(N=3)のアンテナから構成されている場合のアンテナ配置例を示す説明図である。
【図6】新たなアンテナ配置の生成例を示す説明図である。
【図7】アンテナグループがN個(N=5)のアンテナから構成されている場合のアンテナ配置例を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態3によるアンテナ配置算出装置を示す構成図である。
【図9】追加予定の移動アンテナグループの一例を示す説明図である。
【図10】最良アンテナ配置選択部16により選択されたアンテナ配置の移動アンテナグループが固定アンテナグループに追加された様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるアンテナ配置算出装置を示す構成図である。
この実施の形態1では、説明の簡単化のため、アンテナが2次元空間に配置される例を説明する。
図1において、アンテナ配置制約保持部1は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、アンテナの配置に関する制約(例えば、分散型レーダを構成するアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約、アンテナ設置可能領域の範囲内にアンテナが配置される制約、アンテナ同士の重なりが禁止される制約など)を記憶している。なお、アンテナ配置制約保持部1は制約保持手段を構成している。
アンテナ配置初期化部2は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、アンテナ配置制約保持部1により記憶されているアンテナの配置に関する制約を満たす範囲内で、例えば、アンテナをランダムに配置するなどの処理を実施することで、アンテナの初期配置を決定する。
【0012】
アンテナ配置保持部3は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、分散型レーダを構成する複数のアンテナがグループ単位で管理されており、複数のアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約の下で、複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置と複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性を保持する。なお、アンテナ配置保持部3は位置特性保持手段を構成している。
【0013】
アンテナパターン算出部4は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、アンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ配置及びアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す上記分散型レーダのアンテナパターンを算出する処理を実施する。なお、アンテナパターン算出部4はアンテナパターン算出手段を構成している。
【0014】
アンテナ配置評価部5は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、アンテナパターン算出部4により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルから上記アンテナ配置の評価値を算出し、その評価値をアンテナ配置保持部3に記録する処理を実施する。なお、アンテナ配置評価部5は評価値算出手段を構成している。
アンテナ選択部6は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、アンテナ配置保持部3に記録されている評価値が最も良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のアンテナグループに属しているアンテナを選択する処理を実施する。なお、アンテナ選択部6はアンテナ選択手段を構成している。
【0015】
アンテナ移動部7は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、特定の基準点を中心とする正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、アンテナ選択部6により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置をアンテナ配置保持部3に記録する処理を実施する。なお、アンテナ移動部7はアンテナ移動手段を構成している。
【0016】
図1の例では、アンテナ配置算出装置の構成要素であるアンテナ配置制約保持部1、アンテナ配置初期化部2、アンテナ配置保持部3、アンテナパターン算出部4、アンテナ配置評価部5、アンテナ選択部6及びアンテナ移動部7のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、アンテナ配置算出装置がコンピュータで構成されていてもよい。
この場合、アンテナ配置制約保持部1、アンテナ配置初期化部2、アンテナ配置保持部3、アンテナパターン算出部4、アンテナ配置評価部5、アンテナ選択部6及びアンテナ移動部7の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
【0017】
次に動作について説明する。
アンテナ配置算出装置の処理内容を具体的に説明する前に、アンテナ配置算出装置が動作する前提について説明する。
この実施の形態1では、分散型レーダにより受信される信号が十分に狭帯域であり、平面波として到来することを前提とする。
また、信号の波長をλとし、分散型レーダを構成する複数のアンテナが同じ特性を有しているものとする。
各アンテナは、無指向性の素子アンテナでもよいし、複数の素子アンテナから構成されるサブアレイのように指向性を有するアンテナであってもよい。
【0018】
アンテナの配置に関する制約として、分散型レーダを構成する複数のアンテナは、予め定められている2次元水平面上の円(アンテナ設置可能領域)の内部だけに配置が可能であるとし、特に、複数のアンテナの中の数個のアンテナは、その円周上の特定位置に固定されるものとする。
分散型レーダの捜索対象とする方向であるビームを形成する方向(以下、「ビーム形成方向」と称する)は、水平面内の全周方向(方位角が0〜360度、仰角が0度の範囲の方向)に向けることが可能であることが要求されているものとする。具体的には、想定されるビーム形成方向の範囲を細かい角度刻みで離散化し、得られた各々のビーム形成方向を考慮することになる。
複数のアンテナの中の数個のアンテナを円周上の特定位置に固定する理由は、分散型レーダとして、各ビーム形成方向に対して必要な開口径を確保し、ある水準以上の角度分解能等の性能を満たすためである。
【0019】
図2はアンテナの配置に関する制約を満たしているアンテナ配置の一例を示す説明図である。
図2の例では、大きな円で表されるアンテナ設置可能領域内に、アンテナ1、アンテナ2、アンテナ3、アンテナMを配置しており、このうち、アンテナ1とアンテナ2は、アンテナ設置可能領域の境界上に固定されている。
また、ある基準点O(図2では、アンテナ設置可能領域を表す円の中心としている)に対するアンテナ1,2,3,Mの位置ベクトルを、それぞれd1,d2,d3,dMで表している。
図2では、ビーム形成方向も例示されており、ビーム形成方向を示す単位ベクトルをiで表している。
【0020】
図3は分散型レーダの構成例を示す構成図である。
図3において、W1,W2,・・・,WMは各アンテナの重み(一般には、複素数)を表している。
分散型レーダでは、図3に示すように、複数のアンテナにより受信された信号に、それぞれの重み(W1,W2,・・・,WM)が乗算されて、重み乗算後の受信信号の総和が分散型レーダの出力となる。
【0021】
分散型レーダにおいては、ビーム形成方向が決まると、そのビーム形成方向に応じて、各アンテナの重みW1,W2,・・・,WMを適切に設定する必要がある。
具体的には、ビーム形成方向に基づき、アンテナ間の経路長差による位相変化を打ち消すように設定する。
図2の例では、ビーム形成方向iを考えると、基準点Oに対して、位置ベクトルdmのアンテナm(m=1,2,・・・,M)の経路長は、i・dm(ベクトルiとdmの内積)だけ異なる。
したがって、アンテナmの重みWmは、その経路長差による位相変化を打ち消すように、exp(−j(2π/λ)i・dm)と設定すればよい。
【0022】
以下、図2を参照しながら、特定のビーム形成方向iに対するアンテナパターンの算出方法について説明する。
最初に、各アンテナが無指向性である場合について述べる。
想定される電波到来方向を示す単位ベクトルをuで表し、また、電波到来方向uを、ビーム形成方向iを基準とする入射角θで表すものとする。
【0023】
各入射角θについて、利得を算出することを考える。
信号は、各アンテナにおいて、電波到来方向uに関する経路長差と波長λから定まる位相だけ、位相が回転しているものとして受信され、また、アンテナの重みが掛けられることにより、さらに位相が回転する。
ここで、電波到来方向uに関し、基準点Oに対するアンテナmの経路長差はu・dm(ベクトルuとdmの内積)である。
この経路長差u・dmに起因する位相差は、(2π/λ)u・dmとなり、その位相回転は、複素数exp(j(2π/λ)u・dm)で表現される。
この複素数に対して、アンテナ重みWmを掛けた値であるexp(j(2π/λ)(u−i)・dm)を「位相回転複素数」とすると、分散型レーダの振幅利得は、各アンテナの位相回転複素数の総和として計算される。また、各アンテナの位相回転複素数の総和を2乗したものが電力利得となる。
【0024】
上記のようにして求められる入射角θ(電波到来方向)と利得の間の関係を「アンテナパターン」と称する。
図4は分散型レーダのアンテナパターンの一例を示す説明図である。
以下、分散型レーダのアンテナパターンにおいて、利得が極大となるメインローブ以外の箇所及びその近傍を「サイドローブ」と称する。
また、利得が極大となる部分を「サイドローブピーク」と称する。また、メインローブに対するサイドローブピークの利得の比を「サイドローブレベル」と称する。
ただし、単に「サイドローブレベル」と述べた場合、最大サイドローブに関するサイドローブレベルを表すものとする。
この実施の形態1では、様々なビーム形成方向に対して導出されるアンテナパターンにおいて、いずれのサイドローブレベルも小さな値に抑えられるような適切な2次元アンテナ配置を求めることを目的とする。
【0025】
上記の説明では、個々のアンテナが無指向性である場合を例にとっており、この場合、個々のアンテナのアンテナパターンにおいては、電波到来方向に関わらず利得は一定である。
そのため、分散型レーダのアンテナパターンを算出する際、利得は、各アンテナの位相回転複素数の総和から求められる。
しかし、アンテナが無指向性でない場合、分散型レーダのアンテナパターンは、各アンテナの位相回転複素数の総和から算出されるアンテナパターンに対して、さらに、個々のアンテナのアンテナパターンの積を取ることで求められる(個々のアンテナのアンテナパターンが同一の場合)。
以上のように、個々のアンテナが無指向性でない場合、分散型レーダのアンテナパターンの算出においては、個々のアンテナの特性(具体的には、アンテナパターン)が必要になる。
【0026】
なお、一般には、個々のアンテナについて向きを考慮する必要があり、アンテナの向きとビーム形成方向との関係に依存してアンテナパターン形状が変化することが多い。
しかし、この実施の形態1では、アンテナの向きとビーム形成方向との関係によらず、アンテナパターンは同じ形状と見なせるとの前提を置いている。アンテナの向きとビーム形成方向との関係に依存してアンテナパターン形状が変化する場合でも、まずは「代表的な形状のアンテナパターンが存在する」ことを前提としてアンテナ配置を最適化した後に、得られたアンテナ配置を固定して、各アンテナの向きのみを最適化すればよい。
【0027】
以下、図1のアンテナ配置算出装置の処理内容を具体的に説明する。
アンテナ配置制約保持部1は、予め、アンテナの配置に関する制約を記憶している。
アンテナの配置に関する制約としては、例えば、以下の制約が挙げられる。
(1)分散型レーダを構成するアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約
(2)アンテナ設置可能領域の範囲内にアンテナが配置される制約
(3)アンテナ同士の重なりが禁止される制約
以上の制約の他に、例えば、「アンテナ間の距離が予め定めた固定値以上である制約」等を付加することも考えられる。
【0028】
アンテナ配置初期化部2は、アンテナ配置制約保持部1により記憶されているアンテナの配置に関する制約を満たす範囲内で、例えば、アンテナをランダムに配置することで、アンテナの初期配置(初期状態のアンテナ配置)を決定し、その初期配置をアンテナ配置保持部3に記録する。
アンテナ配置保持部3は、分散型レーダを構成するアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置されるなどの制約(アンテナ配置制約保持部1により記憶されている制約)の下で、複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置、複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性及び当該アンテナ配置の評価値を保持するものであるが、この実施の形態1では、アンテナ設置可能領域が2次元平面であることを想定しているので、個々のアンテナの位置情報は2次元で表現される。また、アンテナ特性は、分散型レーダのアンテナパターンの算出において考慮すべきアンテナ独自の特性のことであり、具体的には、個々のアンテナに関するアンテナパターンを表すものである。
【0029】
なお、アンテナ配置保持部3により保持されるアンテナ配置は、分散型レーダを構成する複数のアンテナが配置される位置を示すものであるが、分散型レーダを構成する複数のアンテナはグループ単位で管理される。
同一のアンテナグループに属しているアンテナは、その位置に関して「特定の基準点Oを中心とする正N角形の頂点上に位置する」との制約を常に満たしているものとする。
複数のアンテナグループの中には、アンテナ設置可能領域の境界上にアンテナが固定されるアンテナグループ(以下、「固定アンテナグループ」と称する)と、アンテナ設置可能領域の境界上にアンテナが固定されないアンテナグループ(以下、「移動アンテナグループ」と称する)とに分けられる。
固定アンテナグループにおいて、アンテナがアンテナ設置可能領域の境界上に固定される理由は、分散型レーダとして、必要な開口径を確保するためである。
【0030】
移動アンテナグループに関する自由度は、基準点Oを中心とする回転、拡大及び縮小である。
図5はアンテナグループがN個(N=3)のアンテナから構成されている場合のアンテナ配置例を示す説明図である。
図5の例では、図の見易さのために、移動アンテナグループを1つだけ表記しているが、一般には、複数個の移動アンテナグループが存在する。
【0031】
アンテナパターン算出部4は、アンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ配置の中で、未評価のアンテナ配置を選択する。
初期段階では、通常、アンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ配置は1つであり、そのアンテナ配置は未評価である。ただし、初期段階から未評価のアンテナ配置がアンテナ配置保持部3に2以上保持されていてもよい。
アンテナパターン算出部4は、未評価のアンテナ配置を1つ選択すると、そのアンテナ配置とアンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す分散型レーダのアンテナパターンを算出する。
【0032】
即ち、アンテナパターン算出部4は、図5に示すように、分散型レーダを構成するアンテナの個数が6個である場合、電波到来方向uに関し、基準点Oに対する6個のアンテナm(m=1,2,・・・,6)の経路長差u・dmに起因する位相差(2π/λ)u・dmを算出し、その位相回転を複素数exp(j(2π/λ)u・dm)で表現する。
そして、アンテナパターン算出部4は、その複素数exp(j(2π/λ)u・dm)に対して、アンテナ重みWmを乗算することで、6個のアンテナの位相回転複素数を求め、さらに、6個のアンテナの位相回転複素数の総和を2乗することで、電力利得である分散型レーダのアンテナパターンを算出する。
この実施の形態1では、複数のビーム形成方向を考慮することを想定しているので、それぞれのビーム形成方向に応じて、複数のアンテナパターンが算出されることになる。
【0033】
アンテナ配置評価部5は、アンテナパターン算出部4がアンテナパターンを算出すると、そのアンテナパターン内のサイドローブレベルから、アンテナパターン算出部4により選択されたアンテナ配置の評価値を算出し、その評価値をアンテナ配置保持部3に記録する。
即ち、アンテナ配置評価部5は、アンテナパターン算出部4により算出されたアンテナパターン内に存在している複数のサイドローブの中で最大のサイドローブを特定して、最大のサイドローブのサイドローブレベルを算出する。
アンテナ配置評価部5は、各ビーム形成方向に対応する複数アンテナパターンに関し、それぞれ最大のサイドローブのサイドローブレベルを算出すると、それらのサイドローブレベルを統合することにより単一の値を算出し、その値を、当該アンテナ配置の評価値として、アンテナ配置保持部3に記録する。評価に関しては、例えば、各アンテナパターンから算出されるサイドローブレベルのうち、最悪のサイドローブレベル(最大のサイドローブレベル)を評価値とすればよい。
ここでは、アンテナ配置の評価値として、最大のサイドローブレベルを記録するものを示したが、例えば、複数のサイドローブレベルの平均値や標準偏差値をアンテナ配置の評価値として、アンテナ配置保持部3に記録するようにしてもよい。
【0034】
アンテナ選択部6は、アンテナ配置保持部3に記録されている評価値が最も良いアンテナ配置を選択する。
初期段階では、通常、アンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ配置は1つであるため、そのアンテナ配置を選択する。後述するアンテナ移動部7により新たなアンテナ配置が生成されて、複数のアンテナ配置がアンテナ配置保持部3に保持されると、複数のアンテナ配置の中から評価値が最も良いアンテナ配置を選択する。
ここでは、アンテナ配置の評価値が最も良いアンテナ配置を選択するものを示しているが、アンテナ配置の評価値が所定の閾値より良いアンテナ配置を選択するようにしてもよい。この場合、2以上のアンテナ配置が選択される可能性がある。
アンテナ選択部6は、評価値が最も良いアンテナ配置を選択すると、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、移動アンテナグループに属している複数のアンテナを選択する。
なお、2以上の移動アンテナグループがある場合、いずれかの移動アンテナグループを1つ選択し、その移動アンテナグループに属している複数のアンテナを選択する。
【0035】
アンテナ移動部7は、アンテナ選択部6が移動アンテナグループに属している複数のアンテナを選択すると、その移動アンテナグループに属している複数のアンテナが頂点に配置されている正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、その移動アンテナグループに属している複数のアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置をアンテナ配置保持部3に記録する。
新たなアンテナ配置の生成は、アンテナ配置制約保持部1により保持されているアンテナ配置に関する制約情報を満たすように行われる。
ここで、図6は新たなアンテナ配置の生成例を示す説明図である。
図6に示すように、アンテナ選択部6により選択された移動アンテナグループに関し、基準点Oを中心とする回転や拡大・縮小操作を施すことで、新たなアンテナ配置が生成される。
【0036】
このように、新たなアンテナ配置が生成されると、アンテナパターン算出部4及びアンテナ配置評価部5の処理によって、新たなアンテナ配置の評価値が算出される。
この実施の形態1では、アンテナパターン算出部4、アンテナ配置評価部5、アンテナ選択部6及びアンテナ移動部7の処理が、例えば、規定回数だけ繰り返し実施され、アンテナ配置保持部3が保持するアンテナ配置のうち、評価値が最良のアンテナ配置が、最良なアンテナ配置として出力される。
【0037】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、分散型レーダを構成する複数のアンテナがグループ単位で管理されており、複数のアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約の下で、複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置と複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性を保持するアンテナ配置保持部3と、アンテナ配置保持部3により保持されているアンテナ配置及びアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す分散型レーダのアンテナパターンを算出するアンテナパターン算出部4と、アンテナパターン算出部4により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルからアンテナ配置の評価値を算出し、その評価値をアンテナ配置保持部3に記録するアンテナ配置評価部5と、アンテナ配置保持部3に記録されている評価値が最も良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のグループに属しているアンテナを選択するアンテナ選択部6とを設け、アンテナ移動部7が、特定の基準点を中心とする正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、アンテナ選択部6により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、そのアンテナ配置をアンテナ配置保持部3に記録するように構成したので、アンテナを2次元空間や3次元空間に配置する場合でも、サイドローブレベルが最小になるアンテナ配置を効率よく算出することができる効果を奏する。
【0038】
即ち、この実施の形態1によれば、評価値の良いアンテナ配置を選択して、そのアンテナ配置の移動処理を反復することにより、評価値が最適に近いアンテナ配置が得られるが、アンテナ配置の移動処理をアンテナグループ単位で行うことにより、短時間で最良に近いアンテナ配置に到達することができる。その主な理由は以下の2つである。
(1)同一のアンテナグループに属する複数のアンテナの位置に関する制約によって、アンテナ配置の自由度が大幅に下がるため、最適化の対象となるアンテナ配置の探索空間が狭くなり、その結果として、最適化が容易になる。
(2)アンテナ配置が基準点Oに関する回転対称性を有するため(例えば、図5の場合、基準点Oを中心としてアンテナ配置が120度回転すると、元のアンテナ配置と一致する)ため、複数のビーム形成方向についてのアンテナパターンが同一となる。このアンテナパターンの算出に関する冗長性を利用することで、最適化の処理時間を短縮することができる。
【0039】
また、アンテナグループを構成するアンテナの数がN個の場合、全アンテナ数はNの整数倍となる。また、基準点Oに追加のアンテナを固定しても、アンテナ配置の回転対称性は損なわれず、この実施の形態1で述べたアンテナ配置の最適化は適用可能である。この場合、全アンテナ数はNの整数倍に1を足した値となる。
即ち、この実施の形態1で述べたアンテナ配置の最適化を適用できるのは、利用するアンテナ数が「k×N」又は「k×N+1」の場合である(ただし、kは整数)。つまり、Nの値が3の場合は、Nがより大きい値である場合と比較して、広い範囲の利用アンテナ数に対して適用できるという効果がある。
【0040】
この実施の形態1では、アンテナを2次元配置するものを示したが、アンテナの3次元配置を行う場合、この実施の形態で述べた方式によって2次元配置を最適化した後、その2次元配置を固定して、各アンテナの高さのみを最適化すればよい。
【0041】
なお、本実施の形態1では、図4に示すように、アンテナパターンにおいて、利得が極大となるメインローブ以外の箇所のうち、利得が最大である部分を「最大サイドローブ」として、これに基づいてサイドローブレベルを算出して、最適化で利用する例を示している。しかし、サイドローブの大きさに関する別の考え方に基づいてサイドローブレベルを算出して、最適化の評価値として用いてもよい。
具体的には、例えば、アンテナパターンにおいて、メインローブ方向を中心とした一定幅の入射角範囲がメインローブに属するものとし、それ以外の入射角範囲に関し、利得が最大となる箇所を「最大サイドローブ」とすることが考えられる。これに基づいてサイドローブレベルを算出して、最適化で利用してもよい。
【0042】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、図5に示すように、移動アンテナグループを構成するアンテナの個数がN=3である例を示したが、分散型レーダを構成するアンテナの個数が多くなると、移動アンテナグループの数も多くなり、アンテナ配置の自由度が上がる。そのため、最良のアンテナ配置に到達することが困難になる可能性がある。
そこで、この実施の形態2では、分散型レーダを構成するアンテナの個数が多い程、移動アンテナグループを構成するアンテナの数が多い値に設定されるようにする。
【0043】
例えば、分散型レーダを構成するアンテナの個数が増えると、移動アンテナグループを構成するアンテナの個数を3個から5個に増やす態様が考えられる。
図7はアンテナグループがN個(N=5)のアンテナから構成されている場合のアンテナ配置例を示す説明図である。
このような場合でも、上記実施の形態1と同様に適用でき、かつ、アンテナ配置の自由度が下がるため、最適化の処理時間を短縮することができる。
【0044】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、アンテナ配置初期化部2が、アンテナ配置制約保持部1により記憶されているアンテナの配置に関する制約を満たす範囲内で、アンテナをランダムに配置するなどの処理を実施することで、アンテナの初期配置を決定するものを示したが、アンテナの初期配置を最適化することで、より効率的に最良のアンテナ配置が得られるようにしてもよい。
【0045】
図8はこの発明の実施の形態3によるアンテナ配置算出装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
途中アンテナ配置保持部11は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、アンテナの配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反していない1つまたは複数のアンテナグループに属している複数のアンテナのアンテナ配置とアンテナパターンを保持している。なお、途中アンテナ配置保持部11は途中アンテナ配置保持手段を構成している。
【0046】
制約違反判定部12は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、追加予定の移動アンテナグループ毎に、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合に、途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナ配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反するか否かを判定する処理を実施する。なお、制約違反判定部12は制約違反判定手段を構成している。
【0047】
アンテナグループ利得保持部13は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、予め、追加予定の移動アンテナグループのアンテナパターンを記憶している。
アンテナグループ利得保持部13は制約違反判定部12により制約に違反しないと判定された移動アンテナグループのアンテナパターンを第2のアンテナパターン算出部14に出力する。
第2のアンテナパターン算出部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、アンテナグループ利得保持部13から出力された移動アンテナグループのアンテナパターンと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、想定されるビーム形成方向のそれぞれについて、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する処理を実施する。
なお、アンテナグループ利得保持部13及び第2のアンテナパターン算出部14から第2のアンテナパターン算出手段が構成されている。
【0048】
第2のアンテナ配置評価部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、第2のアンテナパターン算出部14により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルから新たなアンテナ配置の評価値を算出する処理を実施する。なお、第2のアンテナ配置評価部15は第2の評価値算出手段を構成している。
【0049】
最良アンテナ配置選択部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、追加予定の移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された複数のアンテナ配置の中で、第2のアンテナ配置評価部15により算出された評価値が最も良いアンテナ配置を選択して、そのアンテナ配置を途中アンテナ配置保持部11に記録するとともに、そのアンテナ配置に係るアンテナパターンを途中アンテナ配置保持部11に記録する処理を実施する。なお、最良アンテナ配置選択部16は最良アンテナ配置選択手段を構成している。
【0050】
図8の例では、アンテナ配置算出装置の構成要素であるアンテナ配置制約保持部1、アンテナ配置保持部3、アンテナパターン算出部4、アンテナ配置評価部5、アンテナ選択部6、アンテナ移動部7、途中アンテナ配置保持部11、制約違反判定部12、アンテナグループ利得保持部13、第2のアンテナパターン算出部14、第2のアンテナ配置評価部15及び最良アンテナ配置選択部16のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、アンテナ配置算出装置がコンピュータで構成されていてもよい。
この場合、アンテナ配置制約保持部1、アンテナ配置保持部3、アンテナパターン算出部4、アンテナ配置評価部5、アンテナ選択部6、アンテナ移動部7、途中アンテナ配置保持部11、制約違反判定部12、アンテナグループ利得保持部13、第2のアンテナパターン算出部14、第2のアンテナ配置評価部15及び最良アンテナ配置選択部16の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
【0051】
次に動作について説明する。
アンテナ配置初期化部2の代わりに、途中アンテナ配置保持部11、制約違反判定部12、アンテナグループ利得保持部13、第2のアンテナパターン算出部14、第2のアンテナ配置評価部15及び最良アンテナ配置選択部16を実装している点以外は、上記実施の形態1と同様であるため、ここでは、途中アンテナ配置保持部11、制約違反判定部12、アンテナグループ利得保持部13、第2のアンテナパターン算出部14、第2のアンテナ配置評価部15及び最良アンテナ配置選択部16の処理内容について説明する。
【0052】
この実施の形態3では、自由度(基準点を中心とする回転及び大きさ)が少しずつ異なる値に設定されている複数の移動アンテナグループが、追加予定の移動アンテナグループとして用意されているものとする。ただし、追加予定の移動アンテナグループは、以下の制約(1)(2)を満たすものに限定する。
(1)分散型レーダを構成するアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約
(2)アンテナ設置可能領域の範囲内にアンテナが配置される制約
ここで、図9は追加予定の移動アンテナグループの一例を示す説明図であり、図9の例では、6個の移動アンテナグループを示している。
【0053】
途中アンテナ配置保持部11は、アンテナの配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反していない1つまたは複数のアンテナグループに属しているアンテナのアンテナ配置とアンテナパターンを保持するものであるが、初期状態では、移動アンテナグループは含んでおらず、固定アンテナグループのアンテナ配置とアンテナパターンだけを保持している(初期状態では、アンテナの数が少ないアンテナ配置となっている)。固定アンテナグループのアンテナパターンは、固定アンテナグループのアンテナ配置に基づいて予め計算されているものとする。
後述する最良アンテナ配置選択部16により最良のアンテナ配置が選択されることで、移動アンテナグループに係るアンテナが追加されて、アンテナの数が増えていくようになる。
【0054】
制約違反判定部12は、追加予定の移動アンテナグループ毎に、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合に、途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナ配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反するか否かを判定する。
上述したように、アンテナ配置制約保持部1が、アンテナの配置に関する制約として、以下の制約(1)〜(3)を保持している場合には、追加予定の移動アンテナグループに属している複数のアンテナが、以下の制約(3)に違反するか否かを判定する。なお、追加予定の移動アンテナグループに関し、制約(1)(2)については、上述のように予め満たされていることを想定している。
(1)分散型レーダを構成するアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約
(2)アンテナ設置可能領域の範囲内にアンテナが配置される制約
(3)アンテナ同士の重なりが禁止される制約
【0055】
制約違反判定部12は、追加予定の移動アンテナグループの集合の中で、制約に違反しない移動アンテナグループをアンテナグループ利得保持部13に通知する。
アンテナグループ利得保持部13は、予め、追加予定の移動アンテナグループのアンテナパターンを記憶しており、制約違反判定部12から制約に違反しない移動アンテナグループの通知を受けると、その移動アンテナグループのアンテナパターンを第2のアンテナパターン算出部14に出力する。
なお、アンテナグループ利得保持部13により記憶されているアンテナパターンは、想定されるビーム形成方向及び電波到来方向に対する振幅利得であり、予め計算されているものである。
【0056】
第2のアンテナパターン算出部14は、アンテナグループ利得保持部13から制約に違反しない移動アンテナグループのアンテナパターンを受けると、その移動アンテナグループのアンテナパターンと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、想定されるビーム形成方向のそれぞれについて、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する。
なお、ビーム形成方向iに関するアンテナパターンは、アンテナグループ利得保持部13から出力された移動アンテナグループのアンテナパターン(ビーム形成方向iに対するアンテナパターン)と、途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターン(ビーム形成方向iに対するアンテナパターン)とを加算することで算出することができる。
【0057】
アンテナグループ利得保持部13から制約に違反しない移動アンテナグループのアンテナパターンとして、複数の移動アンテナグループのアンテナパターンが出力された場合には、各々のアンテナパターンと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する。
具体的には、制約に違反しない移動アンテナグループのアンテナパターンとして、例えば、2個のアンテナパターン(例えば、アンテナパターンA,B)が出力された場合には、アンテナパターンAと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出するとともに、アンテナパターンBと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する。
【0058】
第2のアンテナ配置評価部15は、第2のアンテナパターン算出部14がアンテナパターンを算出すると、そのアンテナパターン内のサイドローブレベルから、新たなアンテナ配置(追加予定の移動アンテナグループに属しているアンテナが新たに配置された場合のアンテナ配置)の評価値を算出する。
即ち、第2のアンテナ配置評価部15は、第2のアンテナパターン算出部14が複数の移動アンテナグループについて、複数のアンテナパターンを算出すると、移動アンテナグループ毎に、各ビーム形成方向について、対応するアンテナパターン内に存在している複数のサイドローブの中で最大のサイドローブを特定して、最大のサイドローブのサイドローブレベルを算出する。
第2のアンテナ配置評価部15は、各ビーム形成方向に対応する複数アンテナパターンに関し、それぞれ最大のサイドローブのサイドローブレベルを算出するとそれらのサイドローブレベルを統合することにより単一の値を算出し、その値を、当該移動アンテナグループに係る新たなアンテナ配置の評価値に設定する。評価に関しては、例えば、各アンテナパターンから算出されるサイドローブレベルのうち、最悪のサイドローブレベル(最大のサイドローブレベル)を評価値とすればよい。
ここでは、最大のサイドローブレベルを新たなアンテナ配置の評価値に設定するものを示したが、例えば、複数のサイドローブレベルの平均値や標準偏差値を新たなアンテナ配置の評価値として設定するようにしてもよい。
【0059】
最良アンテナ配置選択部16は、第2のアンテナ配置評価部15が、追加予定の移動アンテナグループに係る新たなアンテナ配置の評価値を1以上算出すると、1以上の新たなアンテナ配置の中で、評価値が最も良いアンテナ配置を選択し、そのアンテナ配置を途中アンテナ配置保持部11に記録するとともに、そのアンテナ配置に係るアンテナパターンを途中アンテナ配置保持部11に記録する。
ここでは、評価値が最も良いアンテナ配置を選択するものを示しているが、評価値が所定の閾値より良いアンテナ配置を選択するようにしてもよい。この場合、2以上の移動アンテナグループに係るアンテナ配置が選択される可能性がある。
ここで、図10は最良アンテナ配置選択部16により選択されたアンテナ配置の移動アンテナグループが固定アンテナグループに追加された様子を示す説明図である。
【0060】
この実施の形態3では、上記の処理によって、移動アンテナグループが1つずつ追加されることで、途中アンテナ配置保持部11に保持されている途中アンテナ配置が更新されていき、利用可能なアンテナを全て配置し終わった時点で、アンテナの初期配置の最適化処理が終了する。この最適化処理は、最適化分野において、グリーディ法と呼ばれる枠組みに属するものである。
アンテナの初期配置の最適化処理が終了すると、途中アンテナ配置保持部11に保持されているアンテナ配置が、アンテナの初期配置として、アンテナ配置保持部3に記録され、以降、上記実施の形態1と同様の処理が実施される。
【0061】
以上で明らかになように、この実施の形態3によれば、アンテナの配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反していない1つまたは複数のアンテナグループに属している複数のアンテナのアンテナ配置とアンテナパターンを保持する途中アンテナ配置保持部11と、追加予定の移動アンテナグループ毎に、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合に、途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナ配置がアンテナ配置制約保持部1により保持されている制約に違反するか否かを判定する制約違反判定部12と、制約違反判定部12により違反しないと判定された場合、予め保持している当該移動アンテナグループのアンテナパターンと途中アンテナ配置保持部11により保持されているアンテナパターンから、想定されるビーム形成方向について、当該移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する第2のアンテナパターン算出部14と、第2のアンテナパターン算出部14により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルから新たなアンテナ配置の評価値を算出する第2のアンテナ配置評価部15とを設け、最良アンテナ配置選択部16が、追加予定の移動アンテナグループに属している複数のアンテナが新たに配置された複数のアンテナ配置の中で、第2のアンテナ配置評価部15により算出された評価値が最も良いアンテナ配置を選択して、そのアンテナ配置を途中アンテナ配置保持部11に記録するとともに、そのアンテナ配置に係るアンテナパターンを途中アンテナ配置保持部11に記録するように構成したので、アンテナの初期配置を最適化することができるようになり、その結果、より効率的に最良のアンテナ配置が得られる効果を奏する。
【0062】
即ち、この実施の形態3によれば、固定アンテナグループのみを配置した初期状態から出発して、追加配置の結果、評価値が良の移動アンテナグループを1つずつ追加していくことにより、回転対称性を持つアンテナ配置を生成することができる。そのため、この実施の形態1で得られたアンテナ配置を、上記実施の形態1で述べたアンテナ配置最適化の初期状態として利用することが可能である。
また、この実施の形態3で得られたアンテナ配置は、その生成方法からして、比較的評価値が良いものとなっている。
そのため、この実施の形態3で得られたアンテナ配置を初期配置として、上記実施の形態1で述べたアンテナ配置の最適化処理を適用することにより、より効率的に最良のアンテナ配置に到達できる効果を奏する。
【0063】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 アンテナ配置制約保持部(制約保持手段)、2 アンテナ配置初期化部、3 アンテナ配置保持部(位置特性保持手段)、4 アンテナパターン算出部(アンテナパターン算出手段)、5 アンテナ配置評価部(評価値算出手段)、6 アンテナ選択部(アンテナ選択手段)、7 アンテナ移動部(アンテナ移動手段)、11 途中アンテナ配置保持部(途中アンテナ配置保持手段)、12 制約違反判定部(制約違反判定手段)、13 アンテナグループ利得保持部(第2のアンテナパターン算出手段)、14 第2のアンテナパターン算出部(第2のアンテナパターン算出手段)、15 第2のアンテナ配置評価部(第2の評価値算出手段)、16 最良アンテナ配置選択部(最良アンテナ配置選択手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型レーダを構成する複数のアンテナがグループ単位で管理されており、上記複数のアンテナが特定の基準点を中心とする正多角形の頂点に配置される制約の下で、上記複数のアンテナが配置される位置を示すアンテナ配置と上記複数のアンテナの特性を示すアンテナ特性を保持する位置特性保持手段と、上記位置特性保持手段により保持されているアンテナ配置及びアンテナ特性を用いて、想定されるビーム形成方向について、電波到来方向と利得の関係を表す上記分散型レーダのアンテナパターンを算出するアンテナパターン算出手段と、上記アンテナパターン算出手段により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルから上記アンテナ配置の評価値を算出し、上記評価値を上記位置特性保持手段に記録する評価値算出手段と、上記位置特性保持手段に記録されている評価値が良いアンテナ配置を選択し、上記アンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、任意のグループに属しているアンテナを選択するアンテナ選択手段と、特定の基準点を中心とする正多角形の回転、拡大又は縮小操作を行うことで、上記アンテナ選択手段により選択されたアンテナの位置を変化させて新たなアンテナ配置を生成し、上記アンテナ配置を上記位置特性保持手段に記録するアンテナ移動手段とを備えたアンテナ配置算出装置。
【請求項2】
評価値算出手段は、アンテナパターン算出手段により算出されたアンテナパターン内の複数のサイドローブの中で最大のサイドローブを特定して、最大のサイドローブレベルを算出し、さらに、各ビーム形成方向に対応する複数の上記サイドローブレベルの最大値をアンテナ配置の評価値として、位置特性保持手段に記録することを特徴とする請求項1記載のアンテナ配置算出装置。
【請求項3】
アンテナ選択手段は、評価値が良いアンテナ配置が示す位置に配置される複数のアンテナの中で、アンテナを設置することが可能な領域であるアンテナ設置可能領域の境界上にアンテナが固定されるグループに属しているアンテナを選択対象から除外し、上記アンテナ設置可能領域の境界上にアンテナが固定されないグループに属しているアンテナを選択することを特徴とする請求項1または請求項2記載のアンテナ配置算出装置。
【請求項4】
分散型レーダを構成するアンテナの数が多い程、各グループに属するアンテナの数が多い値に設定されることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のアンテナ配置算出装置。
【請求項5】
各グループに属するアンテナの数が3であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のアンテナ配置算出装置。
【請求項6】
アンテナの配置に関する制約を保持する制約保持手段と、アンテナの配置が制約保持手段により保持されている制約に違反していないグループに属している複数のアンテナのアンテナ配置とアンテナパターンを保持する途中アンテナ配置保持手段と、追加予定のグループ毎に、当該グループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合に、上記途中アンテナ配置保持手段により保持されているアンテナ配置が上記制約保持手段により保持されている制約に違反するか否かを判定する制約違反判定手段と、上記制約違反判定手段により違反しないと判定された場合、予め保持している当該グループのアンテナパターンと上記途中アンテナ配置保持手段により保持されているアンテナパターンから、想定されるビーム形成方向について、当該グループに属している複数のアンテナが新たに配置された場合のアンテナパターンを算出する第2のアンテナパターン算出手段と、上記第2のアンテナパターン算出手段により算出されたアンテナパターン内のサイドローブレベルから新たなアンテナ配置の評価値を算出する第2の評価値算出手段と、追加予定のグループに属している複数のアンテナが新たに配置された複数のアンテナ配置の中で、上記第2の評価値算出手段により算出された評価値が良いアンテナ配置を選択して、上記アンテナ配置を上記途中アンテナ配置保持手段に記録するとともに、上記アンテナ配置に係るアンテナパターンを上記途中アンテナ配置保持手段に記録する最良アンテナ配置選択手段とを設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のアンテナ配置算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−251903(P2012−251903A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125467(P2011−125467)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】