説明

アンテナ

【課題】二つの周波数帯域を対象とする小型で高利得なアンテナを構成する。
【解決手段】アンテナ101は、放射素子RE、直列インダクタL2、インダクタL1及びキャパシタC1を備えている。直列インダクタL2は放射素子REに直列接続されている。インダクタL1とキャパシタC1は並列共振回路を構成している。直列インダクタL2のインダクタンスは、その直列インダクタL2と放射素子REとによる共振周波数が、第1の周波数帯であるVHFハイバンド(207.5〜222MHz)と第2の周波数帯であるワンセグ放送周波数帯(470〜770MHz)との間の周波数f0になる値である。並列共振回路は、直列インダクタL2と放射素子REとによる共振点を、並列共振回路の共振周波数を境にして、給電端FPから放射素子RE側を見た回路の共振周波数f0を、第1の周波数帯の中心周波数f1と第2の周波数帯の中心周波数f2とに分裂させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの周波数帯域を対象とする小型で高利得なアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射素子に可変容量性素子を含む整合回路を付加して所定の周波数帯域に対応させるようにしたアンテナが特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0003】
ここで特許文献1のアンテナの構成を、図1を基に説明する。図1に示すアンテナは、放射素子1、第1誘導性素子11、第2誘導性素子13、及び可変容量性素子14で構成されている。第1誘導性素子11は、放射素子1のリアクタンス成分を増加させることにより放射素子1の基本共振周波数を放射素子1単体での周波数よりも低い周波数に変位させる。第2誘導性素子13と可変容量性素子14は可変リアクタンス回路を構成していて、可変容量性素子14は、印加電圧に応じてキャパシタンスが変化して、放射素子1と第1誘導性素子11との合成リアクタンスを低減し、放射素子1の基本共振周波数を所定の周波数を含む範囲で変動させる。
【0004】
特許文献2に示されているアンテナは、2つの離れた共振周波数f1,f2で動作させたい場合に、その二つの共振周波数f1,f2の間に共振周波数が来るように放射素子(ホイップアンテナ)長を調整し、その放射素子の途中にLC並列共振回路を挿入し、前記共振周波数をf1とf2とに分裂させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−113233号公報
【特許文献2】実公平07−046969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のアンテナは、単一の周波数帯に対して同調させる同調回路を付加するものであり、離れた2つの周波数帯域をカバーするものではない。また、並列共振回路の設計方法が明確には示されていない。
【0007】
特許文献2のアンテナは、集中定数回路を直接放射素子に挿入するため、組立工程が煩雑で、バラツキが発生しやすい。また、並列共振回路の設計方法が明確に示されていない。
【0008】
本発明の目的は、二つの周波数帯域を対象とする小型で高利得なアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、放射素子と、当該放射素子と給電端との間に接続された整合回路とを備え、第1の周波数帯であるVHFハイバンド(207.5〜222MHz)と第2の周波数帯であるワンセグ放送周波数帯(470〜770MHz)の二つの周波数帯域を対象とするアンテナであって、
前記整合回路は、前記放射素子に直列接続された直列インダクタ(L2)と、このインダクタ(L2)に対して直列接続された、インダクタ(L1)とキャパシタ(C1)の並列共振回路と、を備え、
前記直列インダクタ(L2)のインダクタンスは、当該直列インダクタ(L2)と前記放射素子とによる共振周波数が、前記第1の周波数帯と前記第2の周波数帯との間の周波数(f0)になる値であり、
前記並列共振回路は、前記直列インダクタ(L2)と前記放射素子とによる共振点を前記並列共振回路の共振周波数(反共振点)を境にして二つに分裂させて、前記給電端から放射素子側を見た回路の共振周波数が、前記第1の周波数帯の中心周波数(f1)と第2の周波数帯の中心周波数(f2)とする回路であり、
前記並列共振回路の、前記第1の周波数帯の中心周波数(215MHz)でのリアクタンスの変化率dX/dfは2.5以下であり、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でのリアクタンス変化率dX/dfは1以下の範囲になるように、前記直列インダクタ(L2)のインダクタンスを選択したことを特徴としている。
【0010】
このことにより、一般的なワンセグ用の100〜120mm程度のモノポール放射素子(GND電極面積、約45×100mm)に対して、比帯域の大きく異なるISDB−Tmm(VHFハイバンド、207.5〜222MHz)、ワンセグ帯(UHF帯、470〜770MHz)のそれぞれの帯域について、整合回路の通過損失を抑えつつバランス良く同時に整合できる。
【0011】
前記放射素子は、例えば長さが100mm乃至120mmの範囲内の線状アンテナである。
【0012】
前記放射素子は、先端に放射電極の折り返し部が形成されたものとすることができる。このことにより、直列インダクタL2値を低減でき、直列インダクタL2でのロスが低減でき、アンテナ効率が向上する。また、整合回路のバラツキが低減できる。
【0013】
前記放射素子が、伸縮可能な多段式放射素子であり、放射素子の1段目にヘリカル状の放射電極が形成された構造とすれば、直列インダクタL2のインダクタンス値を低減でき、直列インダクタL2でのロスが低減でき、アンテナ効率が向上する。また、整合回路のバラツキが低減できる。
【0014】
前記放射素子が、円筒状の樹脂基材の表面に放射電極が形成されたものであれば、アンテナ自体の製造が容易で、無線装置への組立も容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の使用周波数で共振させるのに必要なλ/4長よりも短い放射素子を用いながらも第1の周波数帯と第2の周波数帯の両帯域について同時に整合でき、且つ整合回路の通過損失を抑えることができる。そのため、小型で高利得なアンテナが構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】特許文献1のアンテナの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るアンテナ101のブロック図である。
【図3】図3(A)は、図2に示した放射素子RE単体で実測した反射係数(S11)の周波数特性を示す図である。図3(B)は、図2に示した放射素子REに対して直列インダクタL2を接続した状態での反射係数(S11)の周波数特性図である。図3(C)は、放射素子REに、第1の周波数帯の帯域端(207.5MHzと222MHz)で均等な整合がとれるに要するインダクタンスを計算により求めた反射係数(S11)の周波数特性図である。図3(D)は、放射素子に、第2の周波数帯の帯域端(470MHzと770MHz)で均等な整合がとれるに要するコンデンサを計算により求めた反射係数(S11)の周波数特性図である。図3(E)は、第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)でインダクタL0のインダクタンスとなり、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でキャパシタC0のキャパシタンスとなるような、インダクタL1のインダクタンス及びキャパシタC1のキャパシタンスを決定し、その状態での図2に示したアンテナ101の反射係数(S11)の周波数特性図である。
【図4】インダクタL1及びキャパシタC1による並列共振回路のリアクタンスXとその変化率dX/dfを示す図である。
【図5】図5(A)は、アンテナの反射係数(S11)の周波数特性図、図5(B)は、アンテナへの順方向伝送係数(S21)の周波数特性図である。
【図6】リアクタンス変化率dX/dfに対する帯域内損失平均値の関係を示す図である。
【図7】並列共振回路のインダクタL1とキャパシタC1の組み合わせによるリアクタンスの周波数特性を示す図である。
【図8】図8(A)はそれぞれ異なる3つのホイップアンテナを用いたときのアンテナの反射係数(S11)の周波数特性図、図8(B)はそのアンテナの順方向伝送係数(S21)の周波数特性図である。
【図9】第3の実施形態に係るアンテナで用いる放射素子(ホイップアンテナ)の形状を示す図である。
【図10】折り返しの有無による、アンテナの反射係数(S11)の周波数特性図である。
【図11】図11(A)はアンテナ効率の周波数特性図、図11(B)は図11(A)の207〜222MHz部分の拡大図である。
【図12】第4の実施形態に係るアンテナに用いる放射素子の平面図である。
【図13】第5の実施形態に係るアンテナに用いる放射素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係るアンテナについて、図2〜図7を参照して説明する。
図2は第1の実施形態に係るアンテナ101のブロック図である。このアンテナ101は、放射素子RE、直列インダクタL2、インダクタL1及びキャパシタC1を備えている。直列インダクタL2は放射素子REに直列接続されている。インダクタL1とキャパシタC1は並列共振回路を構成し、この並列共振回路が直列インダクタL2と給電端FPとの間に直列に挿入されている。
【0018】
前記直列インダクタL2のインダクタンスは、この直列インダクタL2と放射素子REとによる共振周波数が、第1の周波数帯と第2の周波数帯との間の周波数f0になる値である。
【0019】
前記並列共振回路は、直列インダクタL2と放射素子REとによる共振点を、並列共振回路の共振周波数(反共振点)を境にして、給電端FPから放射素子RE側を見た回路の共振周波数f0を、第1の周波数帯の中心周波数f1と第2の周波数帯の中心周波数f2とに分裂させる回路である。
【0020】
なお、直列インダクタL2は放射素子REに対して電気的に直列接続されていればよく、また、インダクタL1とキャパシタC1との並列共振回路はインダクタL2に対して直列接続されていればよいので、インダクタL1とキャパシタC1との並列共振回路が放射素子RE側に接続され、直列インダクタL2が給電端FP側に接続されていてもよい。すなわち、並列共振回路と直列インダクタL2の順は逆であってもよい。
【0021】
直列インダクタL2及び前記並列共振回路の設計は、次に述べる順序で行う。
(1)放射素子REに、第1の周波数帯の帯域端(207.5MHzと222MHz)で均等な整合がとれるに要する、直列インダクタL2に対して直列に追加すべきインダクタL0のインダクタンスを求める。
【0022】
ここで、「均等な整合」とは、暗室での測定誤差程度であり、通常、入力電力で±5%以内である。
【0023】
(2)放射素子REに、第2の周波数帯の帯域端(470MHzと770MHz)で均等な整合がとれるに要する、直列インダクタL2に対して直列に追加すべきキャパシタC0のキャパシタンスを求める。
【0024】
(3)第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)で前記インダクタL0のインダクタンスとなり、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でキャパシタC0のキャパシタンスとなるような、インダクタL1のインダクタンス及びキャパシタC1キャパシタンスを、後に示す式3,式4から決定する。
【0025】
但し、第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)での、並列共振回路のリアクタンスの変化率dX/dfが2.5以下であり、且つ第2の周波数帯の低域端周波数(470MHz)でのリアクタンス変化率dX/dfが1以下となるように、直列インダクタL2のインダクタンスを選択する。
【0026】
以上の手順で直列インダクタL2及び並列共振回路の設計を行う。
【0027】
次に、インダクタL1、キャパシタC1による並列共振回路と直列インダクタL2の作用とそれぞれの値の決定方法について、図3を参照して具体的に示す。
図3(A)は、図2に示した放射素子RE単体で実測した反射係数(S11)の周波数特性を示す図である。ここで放射素子REはいわゆる多段式アンテナであり、最も伸張した120mmの状態である。この放射素子REでは、第1の周波数帯と第2の周波数帯の間の周波数である480MHz付近でリターンロスのディップが生じている。
【0028】
図3(B)は、図2に示した放射素子REに対して直列インダクタL2を接続した状態での反射係数(S11)の周波数特性図である。曲線Cは計算結果、曲線Mは実測値である。直列インダクタL2と放射素子REとによる共振周波数が、第1の周波数帯と第2の周波数帯との間の周波数f0(約350MHz)になるように直列インダクタL2のインダクタンス値を求める。ここで、直列インダクタL2のインダクタンスは39nHである。この直列インダクタL2の作用により、前記周波数f0を中心としてリターンロスが生じる。
【0029】
図3(C)は、放射素子REに、第1の周波数帯の帯域端(207.5MHzと222MHz)で均等な整合がとれるに要するインダクタンスを計算により求めた反射係数(S11)の周波数特性図である。具体的には、直列インダクタL2に対してさらに直列に追加すべきインダクタL0のインダクタンスを求める。ここではL2のインダクタンスは39nH、L0のインダクタンスは82nHである。この状態で、207.5MHzと222MHzで均等なリターンロスが生じている。
【0030】
図3(D)は、放射素子REに、第2の周波数帯の帯域端(470MHzと770MHz)で均等な整合がとれるに要するキャパシタンスを計算により求めた反射係数(S11)の周波数特性図である。具体的には、直列インダクタL2に対して直列に追加すべきキャパシタC0のキャパシタンスを求める。ここではL2のインダクタンスは39nH、C0のキャパシタンスは3pFである。この状態で、470MHzと770MHzで均等なリターンロスが生じている。
【0031】
図3(E)は、第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)で前記インダクタL0のインダクタンスとなり、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でキャパシタC0のキャパシタンスとなるような、インダクタL1のインダクタンス及びキャパシタC1のキャパシタンスを決定し、その状態での図2に示したアンテナ101の反射係数(S11)の周波数特性図である。曲線Cは計算結果、曲線Mは実測値である。
【0032】
以上の手順で直列インダクタL2のインダクタンス、並列共振回路のインダクタL1のインダクタンス、キャパシタC1のキャパシタンスをそれぞれ求めることによって、並列共振回路の作用で共振が二つに分裂された結果生じる二つのリターンロスのディップが、第1の周波数帯と第2の周波数帯にそれぞれ現れることになる。
【0033】
次に、前記並列共振回路のリアクタンスとその変化率について示す。
図4は前記インダクタL1及びキャパシタC1による並列共振回路のリアクタンスXとその変化率dX/dfを示す図である。ここで横軸は周波数、縦軸はリアクタンス及びその変化率である。
【0034】
リアクタンスX(ω)は次式で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
ここでωは角周波数、すなわちω=2πfである。
【0037】
また、リアクタンスの変化率dX(ω)/dωは次式で表される。
【0038】
【数2】

【0039】
また、第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)で前記インダクタL0のインダクタンスとなり、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でキャパシタC0のキャパシタンスとなるような、インダクタL1のインダクタンス及びキャパシタC1のキャパシタンスは、次式で表される。
【0040】
【数3】

【0041】
【数4】

【0042】
ここでω1は並列共振回路で実現したいインダクタンスを満たす周波数f1に2πを掛けた値2πf1、ω2は並列共振回路の反共振周波数f2に2πを掛けた値2πf2、である。
【0043】
次に、直列インダクタL2、並列共振回路のインダクタL1及びキャパシタC1の値を変化させたときの、アンテナの反射係数(S11)と順方向伝送係数(S21)について、図5を参照して説明する。
図5(A)は、アンテナの反射係数(S11)の周波数特性図、図5(B)はアンテナの順方向伝送係数(S21)の周波数特性図である。ここで、アンテナの順方向伝送係数(S21)は、アンテナの効率を100%とし、整合回路での損失について求めている。各特性曲線[1],[2],[3]の条件は次のとおりである。
【0044】
これらは何れも上記設計手順(1)〜(3)の条件を満足している。
【0045】
【表1】

【0046】
[1]の条件は、第1の周波数帯の中心周波数(214.75MHz)での、並列共振回路のリアクタンスの変化率dX/dfが2.5以下であり、且つ第2の周波数帯の低域端周波数(470MHz)でのリアクタンス変化率dX/dfは1以下である。図5(A)、図5(B)及び表1から明らかなように、[1]の条件であると、第1の周波数帯と第2の周波数帯の両帯域についてバランス良く整合でき、且つ整合回路の通過損失を抑えることができる。一方、[2],[3]は、214.75MHzでの並列共振回路のリアクタンスの変化率dX/dfが2.50以下、470MHzでの変化率dX/df=1以下の条件が同時に満たせていないため、S21,S11共にバランスが悪くなっている。
【0047】
一般的に並列共振回路は、その反共振点に近づくほどQ値が劣化し、損失が大きくなるが、上記の条件を満たす並列共振回路のリアクタンス(インダクタL1のインピーダンス及びキャパシタC1のキャパシタンス)を選択することで、反共振点の上下に位置するISDB−Tmm帯、ワンセグ帯における反共振点周波数でのロスを最小限に抑えつつ、両帯域の整合をとることができる。
【0048】
なお、ワンセグ帯での並列共振回路のリアクタンスは、470MHzでの変化率が最も急峻であり、それ以上の周波数では低インピーダンス(ショート)に近づくので、第2の周波数帯の「中心周波数」ではなく、上述のとおり、「低域端」である470MHzでのキャパシタンスを考慮すればよい。
【0049】
図6は、リアクタンス変化率dX/dfに対する帯域内損失平均値の関係を示す図である。ここで、近似直線LBは第1の周波数帯(207〜222MHz)での特性、近似直線HBは第2の周波数帯(ワンセグ帯で最も整合回路損失が大きい区間である470〜500MHz)での特性である。なお、整合回路の損失は反射電力による損失分を補正して算出している。
【0050】
また図7は、並列共振回路のインダクタL1とキャパシタC1の組み合わせによるリアクタンスの周波数特性を示す図である。
【0051】
例えばL2=56nH、L1=51nH、C1=4pFなら、214.75MHzでの並列共振回路のリアクタンスの変化率は約1.1で、207〜222MHzでの平均損失は約2.0dBであり、470MHzでの変化率は約1.5で、470〜500MHzでの平均損失は約1.0dBである。すなわち、両バンドについての整合にバランスがとれている。
【0052】
また、L2=27nH、L1=33nH、C1=13pFなら、214.75MHzでの並列共振回路のリアクタンスの変化率は約7.7で、207〜222MHzでの平均損失は約3.8dBであり、470MHzでの変化率は約0.1で、470〜500MHzでの平均損失は約0.5dBである。すなわち、207〜222MHzでの損失がやや大きい。
【0053】
このように、215MHzと470MHzでのリアクタンスの変化率dX/dfと損失とはトレード・オフの関係にあることが分かる。
【0054】
このように、アンテナ長120mmでの207〜222MHz間、及び470〜500MHz間(ワンセグ帯で最も整合回路損失が大きい区間)の整合回路による帯域内損失平均値は、リアクタンスの変化率dX/dfが214.75MHzで4.7以下、470MHzで3.7以下であれば、平均損失はそれぞれ−3dB以内に収まる。
【0055】
図6において、横軸をx、縦軸をyで表すと、直線LBは、
y=−0.273x −1.71
直線HBは、
y=−0.689x −0.433
でそれぞれ表される。
【0056】
《第2の実施形態》
第2の実施形態ではホイップアンテナの長さを変化させたときの特性変化について示す。
図8(A)はそれぞれ異なる3つのホイップアンテナを用いたときのアンテナの反射係数(S11)の周波数特性図、図8(B)はそのアンテナの順方向伝送係数(S21)の周波数特性図である。
【0057】
各特性曲線[1][2][3]の条件は次のとおりである。
これらは何れも上記設計手順(1)〜(3)の条件を満足している。
【0058】
【表2】

【0059】
また、上記3つのアンテナについて整合回路の各帯域内損失平均値は次のとおりである。
【0060】
【表3】

【0061】
この結果から明らかなように、ワンセグチューナー用アンテナの平均的な長さである100〜120mmのホイップアンテナであれば、並列共振回路のリアクタンス変化率が、少なくとも214.75MHzで2.5以下、470MHzで1以下の範囲であれば、整合回路の通過損失が3dB以内に十分に収まっている。ここで「3dB」はあくまで目安である。リアクタンスの変化率dX/dfと損失とはトレード・オフの関係にあるので、3dBという数字に大意はない。
【0062】
上述の第2の実施形態で示した結果と、第1の実施形態で図6に示した、変化率に対する帯域内損失平均値の関係とを合わせて、設計範囲と定義する。
【0063】
すなわち、並列共振回路の第1の周波数帯の中心周波数(215MHz)でのリアクタンスの変化率dX/dfが2.5以下、且つ第2の周波数帯の低域端の周波数(470MHz)でのリアクタンス変化率dX/dfが1以下の範囲になるように、直列インダクタL2のインダクタンスを選択すればよい。
【0064】
なお、整合回路に用いるインダクタL1,L2は巻線タイプのインダクタであってもよいし、積層タイプのインダクタであってもよい。損失の絶対値が異なるだけであり、考え方は同じである。
【0065】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、放射素子(ホイップアンテナ)の折り返しの効果について示す。
図9は、第3の実施形態に係るアンテナで用いる放射素子(ホイップアンテナ)の形状を示す図である。この放射素子REは先端の折り返し部TEで所定長だけ折り返している。
【0066】
この折り返しの有無によって、必要となる直列インダクタL2のインダクタンス値は異なる。折り返し無しの場合、第1・第2の実施形態で示したとおり、L2のインダクタンスは33nHである。折り返しを設けると、インダクタンス成分が増大することに伴い、直列インダクタL2のインダクタンス値は24nHとなる。
【0067】
図10は、折り返しの有無による、アンテナの反射係数(S11)の周波数特性図である。図11(A)はアンテナ効率の周波数特性図、図11(B)は図11(A)の207〜222MHz部分の拡大図である。図中、特性曲線[1]は折り返し無しの特性、特性曲線[2]は折り返し有りの特性、をそれぞれ示している。
【0068】
これらの特性から明らかなように、放射素子の先端部を折り返すことによって、直列インダクタL2のインダクタンス値を低減でき、直列インダクタL2による損失が低減できる。また、直列インダクタL2のインダクタンス値が小さくなる分、直列インダクタL2のインダクタンス値のバラツキによる特性のばらつきが低減される。
【0069】
《第4の実施形態》
図12は、第4の実施形態に係るアンテナに用いる放射素子の平面図である。この放射素子は2段の引き伸ばし可能な構造を備える。根元側は金属棒51、先端側は円筒状の樹脂成形体であり、この樹脂成形体に沿って折り返し形状の放射電極521が形成されている。放射電極521の一方端521Cは金属棒51に導通し、他方は開放端521Tとなっている
このように二段の引き伸ばし型であっても折り返し部を備えることができ、そのことによって、第3の実施形態で述べたと同様の効果を奏する。しかも、円筒状の樹脂基材の表面に放射電極が形成されたものであれば、アンテナ自体の製造が容易で、無線装置への組立が容易となる。
【0070】
《第5の実施形態》
図13は、第5の実施形態に係るアンテナに用いる放射素子の平面図である。根元側は樹脂成形体61にヘリカル状の放射電極611が形成されている。先端側は金属棒62であり、ヘリカル状の放射電極611の端部と導通している。
【0071】
このように、根元部にヘリカル状の放射電極が形成された構造とすれば、直列インダクタL2のインダクタンス値を低減でき、直列インダクタL2でのロスが低減でき、アンテナ効率が向上する。また、整合回路のバラツキが低減できる。
【0072】
また、このように、円筒状の樹脂基材の表面に放射電極を形成されたものであれば、アンテナ自体の製造が容易で、無線装置への組立が容易となる。
なお、放射電極はインサート成形によって樹脂成形体内に設けてもよい。
【符号の説明】
【0073】
L1…インダクタ
L2…直列インダクタ
RE…放射素子
51…金属棒
62…金属棒
61…樹脂成形体
101…アンテナ
521…放射電極
521C…一方端
521T…開放端
611…放射電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射素子と、当該放射素子と給電端との間に接続された整合回路とを備え、第1の周波数帯であるVHFハイバンドと第2の周波数帯であるワンセグ放送周波数帯の二つの周波数帯域を対象とするアンテナであって、
前記整合回路は、前記放射素子に電気的に直列接続された直列インダクタと、このインダクタに対して直列接続された、インダクタとキャパシタの並列共振回路と、を備え、
前記直列インダクタのインダクタンスは、当該直列インダクタと前記放射素子とによる共振周波数が、前記第1の周波数帯と前記第2の周波数帯との間の周波数になる値であり、
前記並列共振回路は、前記直列インダクタと前記放射素子とによる共振点を前記並列共振回路の共振周波数を境にして二つに分裂させて、前記給電端から放射素子側を見た回路の共振周波数が、前記第1の周波数帯の略中心周波数と前記第2の周波数帯の略中心周波数とする回路であり、
前記並列共振回路の、前記第1の周波数帯の中心周波数でのリアクタンスの変化率dX/dfは2.5以下であり、且つ、第2の周波数帯の低域帯の周波数でのリアクタンスの変化率dX/dfは1以下の範囲になるように、前記直列のインダクタのインダクタンスを選択してなる、アンテナ。
【請求項2】
前記放射素子は、長さが100mm乃至120mmの範囲内の線状アンテナである、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記放射素子は、先端に放射電極の折り返し部が形成された、請求項1又は2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記放射素子は、伸縮可能な多段式放射素子であり、放射素子の1段目にヘリカル状の放射電極が形成された、請求項1乃至3の何れかに記載のアンテナ。
【請求項5】
前記放射素子は、円筒状の樹脂基材の表面に放射電極が形成された、請求項1乃至4の何れかに記載のアンテナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−193362(P2011−193362A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59483(P2010−59483)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)