説明

アントラサイクリン−抗体複合体

【課題】種々の抗原をターゲッティングする能力を有する治療複合体の提供。
【解決手段】本発明による複合体は、ターゲッティング抗体またはその抗原結合フラグメント、およびアントラサイクリン化学療法薬を含む。このターゲッティング抗体と化学療法薬は、ヒドラジド部分を含んでなるリンカーを介して連結されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、種々の抗原をターゲッティングできる治療複合体に関する。これらの複合体はターゲッティング部分と化学療法薬を含む。このターゲッティング部分と化学療法薬は、細胞内で切断可能な部分を含んでなるリンカーを介して連結されている。
【0002】
背景技術
長年、ヒトの癌に化学療法薬を特異的に送達するために抗体が使用できるということが、特異的にターゲッティングされた薬物療法の分野の科学者の目標であった。このような目標の実現はついに、癌の化学療法に魔法の弾丸の概念をもたらすことができた。この目標の達成に向けた著しい進歩は、Kohler and Milstein in 1975のハイブリドーマ技術の到来、および、その後、モノクローナル抗体(mAb)の作製が可能となったこととともに現実のものとなった。過去25年の間、mAbは癌細胞で過剰発現される多くの抗原性標的に対して惹起されてきた。単独、または薬物、毒素、放射性核種もしくはその他の治療薬との複合体として、多くのmAbが、前臨床試験、そして次に臨床試験に供されてきた。一般に、mAb自体(裸のmAbと呼ばれる)は、長期間の生存を固形腫瘍を有する患者の標準とするには不十分であったが、後に、乳癌および結腸癌の双方に向けられたmAb治療(それぞれHER2−neuおよび17−1Aに対するmAb)において生存の優位性が認められた。血液悪性疾患では、とりわけB細胞リンパ腫に対する裸のmAb(B細胞の表面上のCD20およびCD22に対するmAb)を用いてより大きな成功が達せられつつある。
【0003】
しかし、腫瘍関連mAbと好適な有毒薬との複合体の使用が、癌のほとんどの臨床例に対して裸のmAbよりも効果が高いのは自明である。この場合、mAbは、メカニズムを細胞溶解を招く作用へと向かわせる本来の毒性、すなわち、補体結合およびADCC(抗体依存性細胞傷害性)などの、mAbのFc部分によってもたらされる天然または再操作されたエフェクター機能による毒性に加え、罹患組織へ特異的に有毒薬を運ぶ。しかし、mAbフラグメントの場合のように、アポトーシス、脈管形成の阻害、転移活性の阻害、および/または腫瘍細胞接着への影響などの他のメカニズムは働き得るので、Fc部分は治療機能には必要でない可能性がある。有毒薬は、最も一般的には化学療法薬、粒子放出放射性核種、または細菌もしくは植物毒素である。各種複合体は特定の独自の利点を有する。透過性放射性核種ならびに細菌および植物毒素は極めて毒性が高く、通常、標準的な化学療法薬よりも数オーダー毒性が高い。臨床の状況下ではmAbの罹患組織への取り込みは極めて低いので、前者2つはmAbとともに用いるのが有用となる。臨床現場で腫瘍のmAb取り込みが低いことと、癌の化学療法薬の毒性特性が比較的低いことは、これまでmAb−薬物複合体がなぜその有望性に応えることができなかったかという主な理由となっている。
【0004】
ヒトの癌を研究するために設定された前臨床動物異種移植モデルでは、それらの腫瘍を完全に退縮させ、あるいは動物を治癒させることもできる多くのmAb複合体が報告されている。しかし、これらの動物異種移植モデルの多くでは腫瘍のmAb複合体取り込みは組織1グラム当たり注射量の10〜50%の範囲である場合が多く、一方、臨床状況下では、腫瘍の取り込みは組織1グラム当たり注射量の0.1〜0.0001%というのが通常である。通常、より毒性の高い放射性核種および毒素を用いて作製したmAb複合体は、標準的な化学療法薬を用いた、対応するmAb−薬物複合体よりも臨床上いくらかよい成果をもたらしてきたのも驚くことではない。しかしながら、放射性核種mAb複合体は、腫瘍局在活性に比べて大過剰の循環中の崩壊放射活性の存在のために、甚大な毒性をもたらす可能性がしばしばある。毒素−mAb複合体には、非標的組織の損傷が大きいことと、通常用いられる植物または細菌のタンパク質に対する免疫反応性が大きいことの二重の欠点がある。mAbは現在、ヒトまたはヒト化(相補性決定領域がグラフト化されている)形態で作製することができるが、どんな複合体であれ、毒素部分の脱感作は依然として進展が著しく阻まれているものと思われる。
【0005】
これまで臨床の場では必要な効力を欠くことが分かっているにもかかわらず、mAb−薬物複合体はなお、注目に値する理論的利点を有する。薬物自体は構造的に十分に定義されており、イソ型では存在せず、十分に定義された複合化化学を用いて、mAbタンパク質と、多くの場合mAbの抗原結合領域から離れた特定の部位で連結させることができる。MAb−薬物複合体はmAbと毒素を含む化学複合体よりも再現性よく作製することができ、それ自体、商業的開発および規制認可に従いやすい。このような理由で、mAbの薬物複合体への関心は不利なことに出くわすにもかかわらず、継続してきた。しかし、最近のいくつかの例では、前臨床結果が極めて有望となってきた。複合化化学の改良を継続し、mAbの免疫原性を除去または軽減することができれば、臨床癌治療に有用なmAb−薬物複合体のとらえどころのない有望性が新たに考えられる。
【0006】
mAb−薬物複合体に関する関連の初期の研究では、in vitroおよびin vivo前臨床試験中に、用いた化学結合が薬物の効力の欠如を招く場合が多いことが分かった。従って、何年も前に、有用な治療薬とするためには、mAb成分により標的細胞によってひと度インターナライズされた後に、薬物をもとの形で放出させる必要があるということが分かっていた。そして、1980年代と1990年代のはじめの研究は、主として薬物とmAbの間の化学リンカーの性質に注がれた。腫瘍内のpHが通常の生理学的pHよりも低い場合が多いという所見に基づき、弱酸で切断可能なリンカーを用いて作製された複合体が開発されたことは注目に値する(米国特許第4,542,225号;同第4,569,789号;同第4,618,492号;および同第4,952,394号)。このアプローチは、好適なリンカーを用いて作製されたmAb−ドキソルビシン(DOX)複合体を用いて、前臨床試験で種々のヒト腫瘍異種移植片を有するマウスを治癒させることができたことを示すTrail et al. (Science 261 : 212-215 (1993))の画期的な論文で最高潮に達した。この有望な結果はターゲッティングされる腫瘍細胞上に非常に多数の受容体を持った抗体(BR96と呼ばれる)を用いて達成され、このmAb−薬物複合体は高度に置換されており(mAb1単位当たりDOX残基6〜8個)、この複合体は反復して多量に投与された。
【0007】
臨床状況下では、腫瘍のmAb取り込みはずっと低く、この変動には必ず取り組まねばならなかったので、望みの治療作用を得るためには、より毒性の高い薬物が必要となった。数種の異なるmAb−薬物複合体の開発に、より毒性の高い薬物が使用された(米国特許第5,208,020号;同第5,416,064号;同第5,877,296号;および同第6,015,562号)。これらの試みでは、標準的な化学療法では本質的に毒性が高すぎて使用できないマイタンシノイドおよびカリチェアミシンの誘導体などの薬物を用いる。mAbとの複合化により、化学療法単独の場合に非特異的細胞−タンパク質結合がしばしば見られるのに対し、比較的多くの薬物が腫瘍にターゲッティングできる。これらのもののような薬物の強い毒性は、通常腫瘍標的上には低いレベルの抗原結合部位しか見られないがために臨床上腫瘍にターゲッティングされるmAbのレベルが低いという点を克服する可能性がある。前臨床試験では、ヒト腫瘍異種移殖を有するマウスの治癒は、従前にDOXなどの標準的な薬物を用いたmAb−薬物複合体で見られたものより遙かに低用量のmAb−薬物複合体で見られた(Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:8616-8623 (1996) and Hinman et al., Cancer Res. 53:3336-3342 (1993))。メイタンシノイド−mAb複合体(Liu)の場合、治療に必要な複合体の量は、DOX複合体で従前に必要であったものの50分の1を超えるものであった(Trail, 前掲)。
【0008】
これらの複合体の開発の際、in vitroおよびin vivoの双方で良好な抗腫瘍活性を保持するには、薬物とmAbとの間のリンカーが重要であると思われた。例に挙げられた複合体は細胞内で切断可能な部分(ヒドラゾン)と、還元の影響を受けやすい薬物とmAbの間の(ジスルフィド)結合を用いて作製されたものであった。ヒドラゾン結合はin vivo血清条件において明らかに安定であるが、通常のジスルフィド結合は実用に耐えるほど安定でないことが分かった。標準的なジスルフィド結合を、カルチェアミシンの場合には障害型(ジェミナルジメチル)ジスルフィド結合で、あるいはメイタンシノイドの場合にはメチルジスルフィドで置換した複合体が作製された。この研究とは別に、新たなアントラサイクリン置換mAb複合体についての別の研究が継続された。新たなDOX複合mAbの場合では、切断可能な単位としてまさにヒドラゾンを組み込み、ジスルフィドの代わりにチオエーテル基を介してDOXをmAbに結合させることにより、優れた結果が得られることが分かった(米国特許第5,708,146号)。このような方法で、しかも、MAb置換部位1カ所当たりのDOX単位の数を二倍にし得る分枝型リンカーを用いて連結させれば、新たなDOX−MAb複合体の効力にほぼ1オーダーの増強が得られた(King et al., Bioconjugate Chem. 10:279-288, (1999))。
【発明の概要】
【0009】
本発明はアントラサイクリン薬の新規なインターナライジング(internalizing)抗体複合体に関するものである。特定の実施態様の例を挙げると、ドキソルビシン(DOX)、エピルビシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ−DOX)、シアノモルホリノ−ドキソルビシン(シアノモルホリノ−DOX)、および2−ピロリノ−ドキソルビシン(2−PDOX)がある。2−PDOXは特に有毒で、その構造中にエナミンを含み、インターカレーターおよびトポイソメラーゼ阻害剤として作用するだけでなく、高い毒性を有するアルキル化剤としても働く。DOX同様、2−PDOXも比較的優れた水溶性を持ち、これはmAbを沈殿させることなく置換量を倍増させてmAbと結合させることができることを意味する。以下に詳細に記載する薬物は一貫して、mAb1分子当たり平均8(通常、7〜9と評価される)の薬物部分で置換される。しかし、薬物数はmAb1分子当たり6〜10分子の間であり得る。
【0010】
一つの態様では、本発明は、ターゲッティング部分、アントラサイクリン薬、およびチオール基を介してターゲッティング部分と結合し、かつ、細胞内で切断可能な部分を介してアントラサイクリン化学療法薬と結合するリンカーを含んでなる免疫複合体に関する。
【0011】
本発明の好ましい実施態様では、ターゲッティング部分はmAbであり、アントラサイクリン化学療法薬はDOX、2−PDOX、モルホリノ−DOXおよびモルホリノシアノ−DOXであり、細胞内で切断可能な部分はヒドラゾンである。
【0012】
他の態様では、本発明は、疾病ターゲッティング抗体とアントラサイクリン化学療法薬とを含んでなる免疫複合体に関する。ここ30〜40年のうちに何百もの例のアントラサイクリン薬が合成されており、それらについては他所で述べられている(Anthracycline Antibiotics; New Analogs, methods of Delivery, and Mechanisms of Action, Waldemar Priebe, Editor, ACS Symposium Series 574, American Chemical Society, Washington DC, 1994参照)。このような類似体も本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0013】
好ましい実施態様では、本発明は、疾病ターゲッティング抗体、式IおよびII:
【化1】

[式中、Aは存在しないか、またはNH、N−アルキル、N−シクロアルキル、0、S、およびCHからなる群から選択されてよく;波線は単結合または二重結合を表し;かつ、RはHまたはCNである]のアントラサイクリン化学療法薬、およびスルフィド基を介してターゲッティング部分と結合し、かつ、細胞内で切断可能な部分を介してアントラサイクリン化学療法薬と結合するリンカーを含んでなる免疫複合体に関する。Aが「存在しない」場合、各側でAに隣接する炭素原子は単結合で連結されて5員環となっている。
【0014】
本明細書において「アルキル」とは、1〜20個の炭素原子からなる直鎖および分枝鎖基を含む飽和脂肪族炭化水素基をさす(本明細書で数値の範囲、例えば1〜20という場合、その基、この場合にはアルキル基が炭素原子1個、炭素原子2個、炭素原子3個など、炭素原子20個までの(20個を含む)を含み得ることを意味する)。1〜4個の炭素原子を含むアルキル基は低級アルキル基と呼ぶ。より好ましくは、アルキル基は1〜10個の炭素原子を有する中程度の大きさのアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、tert−ブチル、ペンチルなどである。最も好ましくは、それは1〜4個の炭素原子を有する低級アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、またはtert−ブチルなどである。
【0015】
本明細書において「シクロアルキル」とは、3〜8員が全て炭素の単環式環、全て炭素の5員/6員または6員/6員が縮合した二環式環、または1以上の環が1以上の二重結合を含み得るが、完全に共役されたpi電子系を有する環がない多環式縮合環(「縮合環系」は、系内の各環が系内の互いの環と隣接する炭素原子対を共有していることを意味する)基をさす。シクロアルキル基の例としては、限定されるものではないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、アダマンタン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエンなどがある。シクロアルキル基は置換されていてもされていなくともよい。
【0016】
他の好ましい実施態様では、細胞内で切断可能な部分はヒドラゾンである。
【0017】
好ましい実施態様では、mAbは腫瘍関連抗原をターゲッティングするmAbである。腫瘍関連抗原は腫瘍細胞またはそれらの血管構造によって、正常細胞におけるよりも高い量で発現される抗原と定義される(なお、正常細胞は患者の生存に不可欠な細胞機能が活発である)。腫瘍関連抗原は、造血系細胞、B細胞、T細胞または骨髄細胞の系列抗原など、種々の正常細胞に関連する抗原であってもよく、それにより該正常細胞の一時的、選択的低下により患者が生存でき、一方、同じ抗原を発現する悪性細胞は、患者の症候を軽減し、患者の症状を改善するために十分に破壊される。また、mAbは造血系悪性疾患に関連する抗原と反応性を有するものであってもよい。
【0018】
さらに別の実施態様では、mAbはB細胞、T細胞、骨髄細胞、およびその他の造血細胞関連抗原、例えばB細胞のCD19、CD20、CD21、CD22、CD23;骨髄細胞のCD33、CD45、およびCD66;T細胞のIL−2(TACまたはCD25);種々の造血系腫瘍のMUC1、テネイシン、CD74、HLA−DR、CD80; 種々の癌腫のCEA、CSAp、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、PAM4、EGP−1、EGP−2、AFP、HCG、HER2/neu、EGFR、VEGF、PlGF、Le (y)、炭酸脱水酵素IX、PAP、PSMA、MAGE、S100、テネイシン、およびTAG−72;神経膠腫のテネイシン、ならびに血管細胞および内皮細胞によって発現される抗原、およびある種の癌の支持間質からなる群から選択される。
【0019】
さらに別の実施態様では、mAbはLL1(抗CD74)、LL2(抗CD22)、hA20およびリツキシマブ(抗CD20)、M195(抗CD33)、RS7(抗上皮糖タンパク質−1(EGP−1))、17−1A(抗EGP−2)、PAM−4、BrE3、およびKC4(総て抗MUC1)、MN−14(抗癌胎児性抗原(CEA))、Mu−9(抗結腸特異的抗原−p)、Immu31(抗αフェトタンパク質)、抗TAG−72(例えば、CC49)抗Tn、J591(抗PSMA)、BC−2(抗テネイシン抗体)およびG250(抗炭酸脱水酵素IX mAb)からなる群から選択される。これらの複合体を用いてターゲティングされ得る他の有用な抗原としては、HER−2/neu、CD19、CD20(例えば、C2B8、hA20、cA20、1F5 Mabs)CD21、CD23、CD33、CD40、CD80、α−フェトタンパク質(AFP)、VEGF、EGF受容体、PlGF(胎盤増殖因子)、ILGF−1(インスリン様増殖因子−1)、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、PSMA、ガングリオシド、HCG、EGP−2(例えば、17−1A)、CD37、HLA−DR、CD30、Ia、Ii、A3、A33、Ep−CAM、KS−1、Le(y)、S100、PSA、テネイシン、葉酸受容体、Thomas−Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、腫瘍脈管形成抗原、Ga733、IL−2(CD25)、T101、MAGE、CD66、CEA、NCA95、NCA90またはこれらの組合せが挙げられる。
【0020】
特に好ましい実施態様では、ターゲッティングmAbは表面抗原に対するものとされ、この表面抗原は次にその抗体とともに速やかにインターナライズされる。
【0021】
特に好ましい実施態様では、ターゲッティングmAbはCD74抗原に対するものとされる。
【0022】
さらに別の好ましい実施態様では、リンカーは4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−l−カルボキシルヒドラジド基である。
【0023】
また、本発明の組成物の製造方法も、該組成物の使用方法とともに記載する。
【好ましい実施態様の詳細な説明】
【0024】
本明細書において特に断りのない限り、単数形で表される用語は「1以上」のものを意味する。
【0025】
緒論
上述のような化学療法薬は、いくつかの方法により抗体と結合させてmAb−薬物複合体を形成することができる。例えば、化学療法薬は、mAb分子内(inter-chain)ジスルフィド結合を還元した後、mAbまたはそのフラグメントと結合させることができる。このアプローチにより抗体1分子当たり平均8〜10個(IgGのタイプによる)の遊離チオール基が生じ、これは、還元反応で用いられるチオールの制限レベルにおいて再現性のある様式でなされる。この化学療法薬の結合方法は以下のような理由で有利である。第一に、結合された化学療法薬はmAbまたはそのフラグメントの分子内または半分子内に配置され、親水性リジン残基上に露出していない。これにより、化学療法薬が配置されているmAbの領域がより疎水性が高いために、それらはより安定に維持される。第二に、このような部位はmAb、またはそのフラグメント全体の電荷を変えない。第三に、分子内チオール上に配置されていることによってADCCおよび補体作用が妨害されにくくなり、このことは裸のmAbを用いる場合には特に重要である。このように、結合部位は、薬物送達ビヒクルとしての役割を妨害しないように、従って、ADCCおよび補体結合がmAbまたはmAbフラグメントと相補的となるように選択される。第四に、分子内のチオール位置に配置されると、露出したリジン基上に多数の化学療法薬分子が配置されている場合に比べ、化学療法薬に対する免疫応答に至りにくくなる。いくつかの実施態様では、Ab−薬物複合体における抗体の全体の電荷は、複合化する前の抗体の電荷に比べて変化していない。これがリジン残基を複合体形成反応に用いない理由であり、従って、遊離の正電荷アミノ酸基を改変して、例えば中性アミド結合を形成させることはない。
【0026】
抗体
本明細書において抗体とは、全長(すなわち、天然に存在する、または通常の免疫グロブリン遺伝子フラグメント組換えプロセスにより形成される)免疫グロブリン分子(例えばIgG抗体)、または抗体フラグメントのような、免疫グロブリン分子の免疫学的に有効な(すなわち、特異的に結合する)部分をいう。
【0027】
抗体フラグメントとは、F(ab')、F(ab)、Fab’、Fab、Fv、scFv(単鎖Fv)などのような抗体の部分をいう。構造に関係なく、抗体フラグメントは完全な抗体により認識される同じ抗原と結合し、従って、その抗体の抗原結合フラグメントである。
【0028】
「抗体フラグメント」はまた、特定の抗原に結合して複合体を形成することにより抗体のようにふるまういずれの合成または遺伝子操作タンパク質をも含む。例えば、抗体フラグメントとしては、重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」フラグメントのような可変領域からなる単離されたフラグメント、軽鎖および重鎖可変領域がペプチドリンカーにより接続されている組換え単鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)、および超可変領域を模倣したアミノ酸残基からなる最小認識ユニットが挙げられる。Fvフラグメントは多価および/または多重特異性結合型を得るために種々の方法で構築することができる。多価結合型は特定のエピトープに対して1を超える結合部位において反応するが、多重特異性型は1を超えるエピトープ(その抗原の、または特定の抗原および異なる抗原に対してさえ)と結合する。
【0029】
本明細書において、抗体融合タンパク質とは、特異性が同じかまたは異なる二以上の同じかまたは異なる天然抗体、単鎖抗体もしくは抗体フラグメントのセグメントが連結されている、組換え生産された抗原結合分子である。融合タンパク質は少なくとも1つの特異的結合部位を含んでなる。
【0030】
融合タンパク質の価数は、この融合タンパク質が抗原またはエピトープに対して有している結合アームまたは結合部位の総数を示し、すなわち、一価、二価、三価または多価などである。抗体融合タンパク質が多価であるということは、抗原に対する結合において複数の相互作用を利用できることを意味し、従って、その抗原に、または異なる抗原に結合する結合力が高まる。特異性は、抗体融合タンパク質がいくつの異なるタイプの抗原またはエピトープに結合できるかを示し、すなわち、一重特異性、二重特異性、三重特異性、多重特異性などである。これらの定義により、例えばIgGのような天然の抗体は、結合腕を二本持つために二価であるといえるが、この抗体は一つのタイプの抗原またはエピトープにしか結合しないので一重特異性である。一重特異性、多価融合タンパク質は、同じ抗原またはエピトープに対して一を超える結合部位を有する。例えば、一重特異性ダイアボディーは同じ抗原と反応性のある二つの結合部位を有する融合タンパク質である。この融合タンパク質は、異なる抗体成分の多価もしくは多重特異性の組合せ、または同じ抗体成分の複数のコピーを含んでもよい。
【0031】
本発明の好ましい実施態様では、標的細胞において高いレベルで発現し、かつ、正常細胞に比べて罹患細胞で優先的に発現するか、罹患細胞でしか発現しないマーカーまたは腫瘍関連抗原を認識する、またはそれと結合するモノクローナル抗体(mAb)などの抗体、および速やかにインターナライズされる抗体を用いる。本発明の範囲内で有用な抗体としては、上記のような特性を有する(かつ、細胞および微生物への種々のレベルのインターナリゼーションの識別可能な特性を示す)抗体などの、腫瘍関連抗原に対する抗体が挙げられ、限定されるものではないが、癌における、以下のmAb:LL1(抗CD74)、LL2(抗CD22)、M195(抗CD33)、MN3(抗NCA90)、RS7(抗上皮糖タンパク質−1(EGP−1))、PAM−4、BrE3およびKC4(総て抗MUCl)、MN−14(抗癌胎児性抗原(CEA))、Mu−9(抗結腸特異的抗原−p)、Immu31(抗α−フェトタンパク質)、抗TAG−72(例えば、CC49)、抗Tn、J591(抗PSMA)、M195(抗CD33)およびG250(抗炭酸脱水酵素IX mAb)の使用を意図する。これらの複合体を用いてターゲッティングできる他の有用な抗原およびそれら抗原の種々のエピトープとしては、HER−2/neu、CD19、CD20(例えば、C2B8、hA20、1F5 Mab)CD21、CD23、CD25、CD30、CD33、CD37、CD40、CD74、CD80、α−フェトタンパク質(AFP)、VEGF、EGF受容体、PlGF、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、PSMA、PAP、炭酸脱水酵素IX、TAG−72、GD2、GD3、HCG、EGP−2(例えば、17−1A)、HLA−DR、CD30、Ia、A3、A33、Ep−CAM、KS−1、Le(y)、S100、PSA、テネイシン、葉酸受容体、TnまたはThomas−Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、腫瘍脈管形成抗原、Ga733、T101、MAGE、またはそれらの組合せが挙げられる。上述の抗原のいくつかは、2002年11月15日出願の「治療薬のターゲッティング送達のための多重特異性非共有結合複合体の使用」と題された米国仮出願第60/426,379号に開示されている。
【0032】
本発明のもう一つの好ましい実施態様では、速やかにインターナライズされ、次に細胞表面で再発現する抗体を用いて、細胞による循環中の抗体−化学療法薬複合体の取り込みと融合を可能とする。好ましい実施態様では、薬物はアントラサイクリンであり、抗体−アントラサイクリン複合体が標的細胞中にインターナライズされ、次に、その細胞表面上に再発現される。最も好ましい抗体/抗原対の一例はLL1とCD74(定常鎖、クラスII特異的シャペロン、Ii)である。CD74抗原はB細胞リンパ腫、ある種のT細胞リンパ腫、黒色腫およびある種の他の癌で高度に発現される(Ong et al., Immunology 98:296-302 (1999))。
【0033】
好ましい実施態様では、ヒト疾病の治療に用いる抗体は、ヒトまたはヒト化(ヒト枠組み構造にCDRをグラフト化したもの)型の抗体であるが、マウス、キメラおよび霊長類化型の抗体も使用できる。獣医学的使用では、同種IgGが最も有効なベクターである可能性があるが、イヌにおけるマウス抗体の使用(例えば、イヌリンパ腫を治療するためのL243抗HLA−DR mAb)などの交差種IgGもなお有用である。送達因子としての同種免疫グロブリン(IgG)分子は免疫応答を最小とするのに最も好ましい。これは反復処置を考えた場合に特に重要である。ヒトのためのヒトまたはヒト化IgG抗体は患者の抗IgG免疫応答を生じにくい。インターナライズする抗原をターゲッティングすると、hLLlおよびhLL2などの抗体が標的細胞との結合後に速やかにインターナライズするが、これは結合した化学療法薬が速やかに細胞にインターナライズされることを意味する。
【0034】
サイトカインなどの免疫調節剤もまたモノクローナル抗体−アントラサイクリン薬に結合させることができるし、あるいは本発明の好ましい実施態様のキメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体に結合させずに投与することもできる。免疫調節剤は本発明の好ましい実施態様のモノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体を投与する前、投与と同時、または投与した後に投与することができる。免疫調節剤はまた、異なる抗原に結合する1以上の抗体からなるハイブリッド抗体と結合させることができる。このような抗原もまた、免疫調節剤であり得る。例えば、CD40またはその他の免疫調節剤は、抗CSApまたは抗CSAp/非CSAp抗体の組合せと組み合わせて、抗体の組合せとともに、または前に、または後に投与する。このモノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体はまた、CD40に対するものなどと組み合わせて、または結合させて、または融合タンパク質として使用できる。
【0035】
本明細書において「免疫調節剤」としては、サイトカイン、幹細胞増殖因子、リンホトキシン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)、および造血因子、例えばインターロイキン(例えば、インターロイキン−1(IL−1)、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、およびIL−21)、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF))、インターフェロン(例えば、インターフェロン−α、−βおよび−γ)、「S1因子」と呼ばれる幹細胞増殖因子、エリスロポエチンおよびトロンボポエチンが挙げられる。好適な免疫調節剤部分の例としては、IL−2、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、IL−21、インターフェロン−γ、TNF−αなどが挙げられる。
【0036】
本発明における免疫調節剤は、存在する場合に身体の免疫系を変更、抑制または刺激するものとして定義される治療薬である。通常、本発明で有用な免疫調節剤は、マクロファージ、B細胞、および/またはT細胞などの免疫応答カスケードにおいて免疫細胞を刺激して増殖または活性化させる。本明細書に記載の免疫調節剤の例としてはサイトカインがあり、これは特定の抗原と接触した際にある細胞集団(例えば、刺激されたTリンパ球)によって放出される約5〜20kDの可溶性の小タンパク質であり、細胞と細胞の間で細胞間メディエーターとして働く。当業者ならば分かるであろうが、サイトカインの例としては、リンホカイン、モノカイン、インターロイキン、およびいくつかの関連のシグナル伝達分子、例えば腫瘍壊死因子(TNF)およびインターフェロンが挙げられる。ケモカインはサイトカインの一種である。ある種のインターロイキンおよびインターフェロンはT細胞またはその他の免疫細胞増殖を刺激するサイトカインの例である。
【0037】
本発明の好ましい実施態様では、免疫調節剤はアントラサイクリン薬−抗体複合体の有効性を高めるが、いくつかの例ではこれは宿主の刺激因子であるエフェクター細胞による。
【0038】
抗体−化学療法薬複合体
本発明はアントラサイクリン薬と抗体との複合体に関するものであり、ここで、アントラサイクリン薬と抗体とは、ヒドラジドおよびマレイミドを含んでなるリンカーを介して連結されている。このリンカーは、好ましくは4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジドである。複合体は、好ましくは式:
【化2】

(式中、nは6〜10である)
を有する。
【0039】
さらに、この抗体は腫瘍関連抗原に対するものであるか、またはそれを認識する。抗体はモノクローナル抗体であっても、その抗原結合フラグメントであっても、あるいは抗体融合タンパク質であってもよい。抗体融合タンパク質は、多価かつ/または多重特異性である。複合体中の抗体融合タンパク質は2以上の同じもしくは異なる天然または合成の抗体、単鎖抗体、または特異性が同じもしくは異なる抗体フラグメントセグメントを含んでなってもよい。融合タンパク質の抗体または抗体フラグメントは、LL1、LL2、M195、MN−3、RS7、17−1A、RS11、PAM−4、KC4、BrE3、MN−14、Mu−9、Immu31、CC49、Tn抗体、J591、Le(y)抗体およびG250からなる群から選択することができる。
【0040】
この腫瘍関連抗原はインターナライジング抗体によりターゲッティングできる。この複合体は癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、神経膠腫または皮膚癌(例えば、黒色腫)を治療するのに有用である。腫瘍関連抗原は、好ましくはCD74、CD22、EPG−1、CEA、結腸特異的抗原−pムチン(CSAp)、炭酸脱水素酵素IX、HER−2/neu、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD30、CD33、CD40、CD45、CD66、NCA90、NCA95、CD80、α−フェトタンパク質(AFP)、VEGF、EGF受容体、PlGF,MUC1、MUC2、MUC3,MUC4、PSMA、GD2、GD3ガングリオシド、HCG、EGP−2、CD37、HLA−D−DR、CD30,Ia、Ii、A3、A33、Ep−CAM、KS−1、Le(y)、S100、PSA、テネイシン、葉酸受容体、TnおよびThomas−Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、腫瘍脈管形成抗原、Ga 733、IL−2、MAGE、およびそれらの組合せからなる群から選択される。より好ましくは、腫瘍関連抗原はCD74、CD19、CD20、CD22、CD33、EPG−1、MUC1、CEAおよびAFPからなる群から選択される。これらの腫瘍関連抗原はB細胞、T細胞、骨髄細胞の系列抗体(CD)、または血液悪性疾患に関連する抗原であり得る。
【0041】
複合体の抗体部分はマウス、キメラ、霊長類化、ヒト化、またはヒト抗体とすることができる。抗体は、IgGまたはそのフラグメントなど、完全な免疫グロブリンまたはその抗原結合フラグメントであってよい。好ましくは、抗体は、CD19、CD20、CD21,CD22、CD23、CD30、CD37、CD40、CD52、CD74、CD80、およびHLA−DRからなる群から選択される抗原など、B細胞に対するものである。抗体、その抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質は、好ましくは、LL1、LL2、L243、C2B8、A20、MN−3、M195、MN−14、抗AFP、Mu−9、PAM−4、RS7、RS11および17−1Aからなる群から選択される。より好ましくは、抗体はLL1、LL2、L243、C2B8、またはhA20である。さらには、この抗体は、抗体上の分子内ジスルフィド結合であり得る、抗体上の還元されたジスルフィド結合と結合するリンカーを介して薬物と連結される。
【0042】
複合体のアントラサイクリン薬部分は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、2−ピロリノドキソルビシン、モルホリノ−ドキソルビシン、およびシアノモルホリノ−ドキソルビシンからなる群から選択される。さらに、このアントラサイクリン薬は13−ケト部分を介して抗体と連結させることができる。好ましくは、抗体1分子につき6〜10分子のアントラサイクリン薬が存在する。さらに、この抗体−アントラサイクリン複合体は標的細胞中にインターナライズされ、次にその抗原はその細胞表面で再発現される。
【0043】
本発明は本明細書に記載の複合体の製造方法に関するものであり、該方法では、まず、リンカーをアントラサイクリン薬と結合させ、それにより、アントラサイクリン薬−リンカー複合体を製造し、次にこのアントラサイクリン薬−リンカー複合体をチオール還元モノクローナル抗体または抗体フラグメントと結合させる。このアントラサイクリン薬−リンカー複合体はチオール還元モノクローナル抗体または抗体フラグメントと結合させる前に精製してもよいが、必ずしもその必要はない。従って、好ましくは、チオール還元モノクローナル抗体または抗体フラグメントとの結合の前にアントラサイクリン薬−リンカー複合体を精製する必要はない。この複合体の製造方法では、アントラサイクリン薬上の第二の反応性官能基が影響を受けないようにしなければならない。さらに、この複合体の製造方法では、アントラサイクリン薬のアルキル化基が影響を受けないようにしなければならない。この複合体のアントラサイクリン薬は、好ましくは2−ピロリノ−ドキソルビシン、モルホリノ−ドキソルビシンまたはシアノモルホリノ−ドキソルビシンである。
【0044】
これらの化学療法薬分子は中性pHでチオール反応に特異的な遊離マレイミド基を含むよう、抗体との結合のために個々に活性化させる。化学療法薬が反応性ケトンを有する場合、このケトンは、以下のスキームIに示すように、市販のリンカー4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジド(MH; Pierce Chemical Co., Rockford. IL)[また、Molecular Biosciences, Inc., Boulder, COによりトリフルオロ酢酸塩としても供給されている]を用いてヒドラゾンに変換することができる。
【0045】
スキームIでは、DRUGは化学療法薬、好ましくはアントラサイクリン薬であり、R基は水素原子か、または所望によりヒドロキシル基(−OH)で置換されていてもよいC〜Cアルキル基のいずれかである。
【化3】

【0046】
特定の理論に縛られるものではないが、リンカーMHは、2つの理由から、本発明の好ましい実施態様に関して特に有用なリンカーであると考えられる。第一に、リンカー中のシクロヘキシル基はヒドラゾン官能基を安定化させると考えられる。用いるヒドラゾン結合は血清条件に対して実質的に安定であるのが重要で、形成されたヒドラゾンに近接するシクロヘキシル基は、より標準的な直鎖アルキル基に比べ、より安定なヒドラゾン結合をもたらす。第二に、ケトンとこのカルボキシルヒドラジドとの反応から生じたヒドラゾンは、化学療法薬−mAb複合体がひと度細胞内にインターナライズされると切断される
【0047】
マレイミド置換化学療法薬は、還元型mAb上の利用可能なチオール基に対して若干過剰量(1〜5倍モル)で、還元型mAbと水溶液中で混合する。この反応は中性、中性付近または中性より低いpH、好ましくは約pH4〜約pH7で行う。これらの成分を約5〜約30分の短い反応時間で反応させる。しかし、当業者ならば、反応条件が反応時間およびpHに関して至適化できることが分かるであろう。以下に模式的に示されている化学療法薬−mAb複合体(nは1〜10、好ましくは1〜8の整数である)を、サイズ排除および疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムによるクロマトグラフィーにより化学療法薬およびその他のバッファー成分から分離する。好ましい実施態様では、この薬物はアントラサイクリンであり、nは6〜10の整数である。
【化4】

【0048】
上記の条件は2−PDOXの場合に最適である。この反応条件は、遊離型として生じたmAbのチオール基のみがマレイミド活性化化学療法薬と反応し、一方、2−PDOXのエナミンはこの反応条件に影響を受けないことが保証されるので最適である。驚くことに、エナミン基によって本明細書で例示されるように、チオール−マレイミドカップリングはアルキル化可能な基の存在下で行うことができる。
【0049】
本発明の好ましい実施態様では、用いる化学療法薬はアントラサイクリン薬である。これらの薬物は、その群のもとのメンバーの1つ、ドキソルビシン(以下に示されるDOX)、およびその異性体であるエピルビシンに代表される大きな誘導体種を含む。
【化5】

【0050】
ドキソルビシンおよびエピルビシンは癌治療に広く用いられている。本発明の他の好ましい実施態様では、化学療法薬は毒性の高い2−PDOXの類似体、すなわちモルホリノ−およびシアノモルホリノ−ドキソルビシン(それぞれモルホリノ−DOXおよびシアノモルホリノDOX)を含む。他の実施態様では、化学療法薬はダウノルビシンを含む。
【0051】
当業者ならば、本発明の好ましい実施態様のアントラサイクリン薬は反応性基のいくつかを含み、これは、この薬物とリンカーとの結合の前、かつ/または薬物−リンカー複合体とmAbの結合の前に当技術分野で周知の保護基で保護する必要のある場合がある第二の反応性官能基と呼ぶことがあり;保護は反応性基の完全性を損なわないために必要となる。Greene and Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis (John Wiley & Sons 2d ed. 1991)参照。反応性基としては、特定の条件下で求核試薬と反応し得る基である、アントラサイクリン薬のアントラキノンコア中のカルボニル基が挙げられる。他の反応性基としては、特定の条件下で求核試薬と反応し得る基である、アントラサイクリン薬分子の至る所にある種々のアルコール基が挙げられる。最後に、他の反応性基としては、DOX中に存在するアミン基および2−PDOX中のエナミン基が挙げられ、双方とも求電子試薬と反応し得る。アルキル化基(例えば、2−PDOXのエナミン)を有するアントラサイクリン薬の場合、アルキル化基の完全性を損なわないように反応条件を制御する必要があり得る。
【化6】

【0052】
アントラサイクリン薬では、個々の薬物の毒性は1〜10,000倍(3〜4オーダー)の範囲で様々であり、それらの毒性の違いに基づき相互変化して多かれ少なかれ有毒な免疫複合体を得ることができる。アントラサイクリンは、DNAトポイソメラーゼ2(top2)の阻害、DNA中へのインターカレーション、酸化還元反応およびある種の細胞内タンパク質または膜タンパク質への結合をはじめとするいくつかのメカニズムにより、標的細胞に対して有毒作用を発揮する。さらに、類似体は、アルキル化の潜在能など、細胞死滅の付加的メカニズムを有するように設計することができる。類似体の例としては、2−PDOX類似体の場合などのように、アルキル化部分を有するアントラサイクリンがある。この場合、アルキル化部分はエナミン基である。2−PDOX類似体では、ピロリノ環のエナミン基は生理条件下で求核試薬と反応性が高い。
【0053】
医薬組成物および投与方法
本発明のいくつかの実施態様は、本発明のmAb−薬物複合体と医薬上許容される担体または賦形剤とを含んでなる医薬組成物に関する。「医薬上許容される担体」とは、限定されるものではないが、無毒の固体、半固体または液体の増量剤、希釈剤、カプセル化剤または当業者に公知のいずれかの種の製剤補助剤を意図する。ポリオール、ポリエチレングリコールおよびデキストランなどの希釈剤を用いて複合体の生体半減期を引き延ばすこともできる。
【0054】
本発明はまた、本明細書に記載のような抗体とアントラサイクリン薬との複合体を投与することを含む哺乳類の疾病の治療方法に関するものである。本発明はまた、他の標準的な治療法の前、同時または後にその総ての組合せで本明細書に記載の抗体−アントラサイクリン複合体を投与することを含み、ここで、該標準的な治療法は放射線療法、外科術および化学療法からなる群から選択される。
【0055】
本発明は、同じ罹患細胞上の異なる抗原または同じ抗原上の異なるエピトープをターゲッティングする抗体とアントラサイクリン薬の2種以上の複合体を投与することを含む哺乳類の疾病の治療方法を包含するものとする。さらに本発明は、第二の抗体治療における第二の抗体が罹患細胞上の、複合体の抗体とは異なる抗原または同じ抗原上の異なるエピトープをターゲッティングするように、第二の抗体治療の前、同時または後に抗体とアントラサイクリン薬との複合体を投与することを含む、哺乳類の疾病の治療方法も包含するものとする。
【0056】
いくつかの実施態様では、治療上有効な量の本発明のmAb−薬物複合体を投与することを含む被験体の治療法において、mAb−薬物複合体単独、または本発明のmAb−薬物複合体と医薬上許容される担体または賦形剤を含んでなる医薬上許容される医薬組成物を用いることができる。
【0057】
好ましい実施態様では、被験体は哺乳類である。哺乳類の例としては、ヒト、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、マウス、イヌ、ネコ、ウシなどが挙げられる。本発明のmAb−薬物複合体で治療できる疾病としては癌が挙げられ、例えば皮膚癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頚癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌、脳癌、胃癌、膵臓癌、リンパ系癌が治療できる。BまたはT細胞癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、リンパ性または骨髄性白血病、多発性骨髄腫、肉腫および黒色腫の患者が、治療用量の本発明のmAb−薬物複合体の投与により治療することができる。
【0058】
本発明のmAb−薬物複合体は、静脈内、腹腔内、動脈内、髄腔内、嚢内、または腫瘍内投与することができる。この複合体は反復および/または周期的にボーラスとして、または点滴として投与してもよい。点滴は薬物用量および副作用に関する複合体の許容度にもよるが、2回以上反復することができ、担当医師により決定される。当業者ならば、本発明のmAb−薬物複合体の有効量が経験的に決定できることが分かるであろう。これらの薬剤は、癌の治療を必要とする被験体に、1以上の医薬上許容される賦形剤と組み合わせた医薬組成物として投与することができる。ヒト患者に投与する場合、本発明の薬剤または組成物の1日あたりの総使用量は、妥当な医学的判断内で主治医によって決定される。特定の患者の具体的な治療上有効な用量レベルは種々の因子:達成される細胞応答の種類および程度;用いる特定のmAb−薬物複合体または組成物の活性;用いる特定のmAb−薬物複合体または組成物;患者の年齢、体重、健康状態、性別および食生活;投与時間、投与経路および薬剤の排泄速度;治療期間;特定の薬剤と組み合わせて、または同時に用いる薬物;ならびに医療分野で周知の因子によって異なる。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要なものよりも低レベルの薬剤用量で開始し、所望の治療効果が達成されるまで徐々に用量を増すことは十分当技術分野の範囲内である。
【0059】
本発明の好ましい実施態様では、抗体−アントラサイクリン複合体は、放射線療法、外科術または化学療法をはじめとする他の標準的な治療法の前、同時または後に投与する。
【0060】
他の好ましい実施態様では、抗体とアントラサイクリン薬との2種以上の複合体を投与するが、これらの複合体は、同じ罹患細胞上の異なる抗原または同じ抗原上の異なるエピトープをターゲッティングする。さらに別の好ましい実施態様では、抗体とアントラサイクリン薬との複合体は、別の抗体治療の前、同時、または後に投与される。このさらなる抗体治療は2種以上の抗体治療の適用を含み、抗体が、単独で、または抗体と複合化されて、または複合化されずに投与される別の治療薬と組み合わせて投与される裸の治療法を含む。この複合体には、今回開示されているリンカーまたは別のタイプのリンカーを用いてよい。2つの抗体治療が適用される場合、これらの治療は、どの抗体が投与される場合でも、第二のものが罹患細胞上の異なる抗原または同じ抗原上の異なるエピトープをターゲッティングする。この第二の抗体はまた、別の(異なる)薬物または治療用同位元素と結合させ、抗体に基づく組合せ療法を提供することができる。この治療法は抗腫瘍作用を高めるか、または治療複合体の骨髄抑制作用を防止または緩和するサイトカインの投与前、投与と同時、または投与後に組み合わせることができることも分かるであろう。
【0061】
上記で示される治療方法の各々は、1種以上の免疫調節剤の投与をさらに含んでよい。これらの免疫調節剤はインターフェロン、サイトカイン、幹細胞増殖因子、結腸刺激因子、リンホトキシンおよび他の造血因子からなる群から選択される。インターフェロンは好ましくは、α−インターフェロン、β−インターフェロンまたはγ−インターフェロンであり、造血因子はエリスロポエチン、トロンボポエチン、インターロイキン(IL)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)からなる群から選択することができる。インターロイキンはIL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、およびIL−21からなる群から選択することができる。免疫調節剤または造血因子は、免疫複合体療法の前、同時または後に投与し得る。免疫調節剤は投与される本発明の複合体の有効性を高めるために投与される。
【0062】
キット
本発明の好ましい実施態様はまた、好適な容器内にモノクローナル抗体とアントラサイクリン薬との複合体を含んでなるキットに関する。この複合体は、好ましくはヒドラジドとマレイミドを含んでなるリンカーを含む。モノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体は、液体、冷凍または凍結乾燥形態にて無菌容器で提供される。モノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体は、それを必要とする患者に投与する前に希釈または再構成することができる。
【0063】
さらなる実施態様では、アントラサイクリン薬と抗体との複合体は、アントラサイクリン薬と抗体とがヒドラジドおよびマレイミドを含んでなるリンカーを介して連結されており、この抗体に少なくとも1つの免疫調節剤がさらに結合されている。この複合体は次に、本明細書に記載のような治療法を必要とする患者に、複合体単独または他の治療法と組み合わせて投与することができる。
【0064】
以下、本発明の範囲を限定するものではないが、実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0065】
全般
2−ピロリノ−ドキソルビシンはNagy et al. (Proc. Natl. Acad. Sci, U.S.A. 93:2464-2469 (1996))の原著論文を基にした改良法を用いて製造した。モルホリノ−DOXおよびシアノモルホリノ−DOXはいずれも、公開されている方法(Acton et al., J. Med. Chem. 27:638-645 (1984))を用いてドキソルビシンから合成した。
【0066】
実施例1:2−PDOXの合成
2−ピロリノ−ドキソルビシン(2−PDOX)の合成:4−ヨードブチルアルデヒド:2−(3−クロロプロピル)−1,3−ジオキソラン(1.3mL;10mM)を、30gのヨウ化ナトリウム(200mmol;20倍過剰)を含有する200mLのアセトンに溶解した。この溶液を24時間還流した後、蒸発乾固させた。この粗混合物を次の反応で用いる。塩酸ドキソルビシン(550mg,946μmol)を6.5mLのDMFに溶解し、3.86g(19.48mmol、20倍過剰)の4−ヨードブチルアルデヒド、次いで500μLのN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を加える。5分後、この材料を、勾配溶出を用い、Waters NovaPak C−18カラムでの逆相HPLCにより精製する。勾配は90:10溶離液A〜70:30溶離液B、1分当たり75mL、40分間とし、ここで、溶離液Aは0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)であり、溶離液Bは0.1%TFAを含有する90%アセトニトリルである。生成物の同定はエレクトロスプレー質量分析 M+H=596により行った。
【0067】
実施例2:2−PDOXの、抗CD22抗体ヒト化LL2(hLL2)への結合
a)2−PDOXの活性化:2−PDOX(5.95mg;1×10−5mol)を、0.5mLのジメチルスルホキシド(DMSO)中、1モル当量の市販のリンカー4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジド(MH; Pierce Chemical Co., Rockford, IL) (2.88mg;1×10−5mol)と混合する。この反応混合物を減圧下50〜60℃で30分間加熱する。目的生成物を、0.3%酢酸アンモニウムおよび90%アセトニトリル中0.3%酢酸アンモニウム,pH4.4からなる勾配を用い、分取RP−HPLCにより精製し、大部分の反応していない2−PDOX(0.5分速く溶出)から、および反応していないMH(かなり速く溶出)から目的生成物を分離する。回収された量はサンプル(496nm)とアセトニトリル/酢酸アンモニウムバッファー中の2−PDOX標準溶液のUV吸収レベルを参照して評価する。マレイミド活性化2−PDOXは、すぐに使用しない場合には冷凍および凍結乾燥する。抗体とのさらなる反応に必要な場合は、これを最少量のDMSOにとる。
【0068】
b)hLL2 IgGの還元:4℃のLL2抗体の1mLサンプル(8〜12mg/mL)を100μLの1.8M Tris HClバッファーで、次いで3μLの2−メルカプトエタノールで処理する。還元反応を10分間進行させ、還元された抗体を、抗酸化剤として1mM EDTAを含有する0.1M酢酸ナトリウム、pH5.5中で平衡化した2本の連続したG−50−80 Sephadexスピンカラムを通して精製する。生成物は280nmでのUV吸光度により、また、抗体1分子当たりのチオール基の数を求めるために410nmで検出するエルマン反応によりアッセイする。これらの還元条件で1抗体当たりおよそ8〜12個のチオール基が生成されるが、これは抗体の分子内ジスルフィド結合の完全な還元に相当する。
【0069】
c)活性型2−PDOXと還元型hLL2との結合:上記のb)から得られたチオール還元抗体を、DMSOの終濃度が水性/DMSO混合物中25%を超えないように、マレイミド活性化2−PDOXで処理する。4℃で15分間反応させた後、0.2M酢酸アンモニウム、pH4.4中で平衡化したG−50−80スピンカラムで溶出し、その後、同じバッファー中で平衡化したSM−2 Bio−ビーズに浸透させることにより、反応していない遊離型のマレイミド−DOXを含まない目的生成物が得られる。生成物をUVスキャンにより280および496nmにて分析し、それによりmAbに対する2−PDOXのモル比を評価する。絶対的2−PDOX/MAb比を、MALDI−TOF質量スペクトル分析により決定する。UVおよびMS分析の双方は、この反応条件のセットでは、hLL2抗体1モルにつき7〜8単位の2−PDOXの置換比が得られることを示す。UV検出器セットを用い、496nmにて、0.2M酢酸バッファー、pH5.0中1mL/分で行うサイズ排除HPLC(GF−250カラム、Bio-Rad, Hercules CA)により分析したところ、実質的に総てのピークがLL2抗体の保持時間付近に溶出する。これは、生成物中に極めてわずかな遊離薬物しか存在していないことを示す。2−PDOX−hLL2複合体のサンプルは単一画分、通常0.1〜1.0mgに分割し、使用時まで冷凍するか、あるいは凍結乾燥させる。それらはさらなる試験のための必要に応じて解凍または再構成する。
【0070】
実施例3:2−PDOXと抗CD74抗体ヒト化LL1(hLL1)との結合
a)2−PDOXの活性化:2−PDOX(5.95mg;1×10−5mol)を、0.5mLのDMSO中、1モル当量の市販のリンカー4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジド(MH; Pierce Chemical Co., Rockford, IL) (2.88mg;1×10−5mol)と混合する。この反応混合物を減圧下50〜60℃で30分間加熱する。目的生成物を、0.3%酢酸アンモニウムおよび90%アセトニトリル中0.3%酢酸アンモニウム,pH4.4からなる勾配を用い、分取RP−HPLCにより精製し、大部分の反応していない2−PDOX(0.5分速く溶出)から、および反応していないMH(かなり速く溶出)から目的生成物を分離する。回収された量はサンプル(496nm)とアセトニトリル/酢酸アンモニウムバッファー中の2−PDOX標準溶液のUV吸収レベルを参照して評価する。マレイミド活性化2−PDOXは、すぐに使用しない場合には冷凍および凍結乾燥する。抗体とのさらなる反応に必要な場合は、これを最少量のジメチルホルムアミド(DMF)またはDMSOにとる。
【0071】
b)hLL1 IgGの還元:4℃のLL1抗体の1mLサンプル(8〜12mg/mL)を100μLの1.8M Tris HClバッファーで、次いで3μLの2−メルカプトエタノールで処理する。還元反応を10分間進行させ、還元された抗体を、抗酸化剤として1mM EDTAを含有する0.1M酢酸ナトリウム、pH5.5中で平衡化した2本の連続したG−50−80 Sephadexスピンカラムを通して精製する。生成物は280nmでのUV吸光度により、また、抗体1分子当たりのチオール基の数を求めるために410nmで検出するエルマン反応によりアッセイする。これらの還元条件で1抗体当たりおよそ8〜10個のチオール基が生成されるが、これは抗体の分子内ジスルフィド結合の完全な還元に相当する。
【0072】
c)活性型2−PDOXと還元型hLL1との結合:上記のb)から得られたチオール還元抗体を、上記a)から得られたマレイミド活性化2−PDOXで、水性/DMSO混合物中DMSOの終濃度が15%となるように処理する。4℃で15分間反応させた後、0.2M酢酸アンモニウム、pH4.4中で平衡化したG−50−80スピンカラムで溶出し、その後、同じバッファー中で平衡化したSM−2 Bio−ビーズに浸透させることにより、反応していない遊離型のマレイミド−DOXを含まない目的生成物が得られる。生成物をUVスキャンにより280および496nmにて分析し、それによりmAbに対する2−PDOXのモル比を評価する。絶対的2−PDOX/MAb比を、MALDI−TOF質量スペクトル分析により決定する。UVおよびMS分析の双方は、この反応条件のセットでは、hLL1抗体1モルにつき7〜8単位の2−PDOXの置換比が得られることを示す。UV検出器セットを用い、496nmにて、0.2M酢酸バッファー、pH5.0中1mL/分で行うサイズ排除HPLC(GF−250カラム、Bio-Rad, Hercules CA)により分析したところ、実質的に1つのピークがLL1抗体の保持時間付近に溶出する。これは、生成物中に極めてわずかな量の遊離薬物しか存在しないか、あるいは全く存在しないことを示す。2−PDOX−hLL1複合体のサンプルは単一画分、通常0.1〜1.0mgに分割し、使用時まで冷凍するか、あるいは凍結乾燥させる。それらはさらなる試験のための必要に応じて解凍または再構成する。
【0073】
実施例4:DOXと抗CD74抗体hLL1との結合
a)DOXの活性化:DOX(1×10−5mol)を、0.5mLのDMSO中、1モル当量の市販のリンカー4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジド(MH; Pierce Chemical Co., Rockford, IL) (2.88mg;1×10−5mol)と混合する。この反応混合物を50〜60℃で30分間加熱する。以下に示す目的中間体を、0.3%酢酸アンモニウムおよび90%アセトニトリル中0.3%酢酸アンモニウム,pH4.4からなる勾配を用い、分取RP−HPLCにより精製し、反応していないDOX(〜0.5分速い溶出)から、および反応していないMH(かなり速く溶出)から目的生成物を分離する。
【0074】
【化7】

【0075】
反応していないDOXの量はサンプル(496nm)とアセトニトリル/酢酸アンモニウムバッファー中のDOX標準溶液のUV吸収レベルを参照して評価する。マレイミド活性化DOXは、すぐに使用しない場合には冷凍および凍結乾燥する。抗体とのさらなる反応に必要な場合は、これを最少量のジメチルホルムアミド(DMF)またはDMSOにとる。
【0076】
b)hLL1 IgGの還元:4℃のLL1抗体の1mLサンプル(10mg/mL)を100μLの1.8M Tris HClバッファーで、次いで3μLの2−メルカプトエタノールで処理する。還元反応を10分間進行させ、還元された抗体を、抗酸化剤として1mM EDTAを含有する0.1M酢酸ナトリウム、pH5.5中で平衡化した2本の連続したG−50−80 Sephadexスピンカラムを通して精製する。生成物は280nmでのUV吸光度により、また、抗体1分子当たりのチオール基の数を求めるために410nmで検出するエルマン反応によりアッセイする。これらの還元条件で1抗体当たりおよそ8〜10個のチオール基が生成されるが、これは抗体の分子内ジスルフィド結合の完全な還元に相当する。
【0077】
c)活性型DOXと還元型hLL1との結合:上記のb)から得られたチオール還元抗体を、上記a)から得られたマレイミド活性化DOXで、水性/DMSO混合物中DMSOの終濃度が15%となるように処理する。4℃で15分間反応させた後、0.2M酢酸アンモニウム、pH4.4中で平衡化したG−50−80スピンカラムで溶出し、その後、同じバッファー中で平衡化したSM−2 Bio−ビーズに浸透させることにより、反応していない遊離型のマレイミド−DOXを含まない目的生成物が得られる。生成物をUVスキャンにより280および496nmにて分析し、それによりmAbに対するDOXのモル比を評価する。絶対的DOX/MAb比を、MALDI−TOF質量スペクトル分析により決定する。UVおよびMS分析の双方は、この反応条件のセットでは、hLL1抗体1モルにつき7〜8単位のDOXの置換比が得られることを示す。UV検出器セットを用い、496nmにて、0.2M酢酸バッファー、pH5.0中1mL/分で行うサイズ排除HPLC(GF−250カラム、Bio-Rad, Hercules CA)により分析したところ、実質的に1つのピークがLL1抗体の保持時間付近に溶出する。この痕跡(図1参照;DOXを検出するために設定した496nmにおけるUV検出器)は、9分前後の保持時間に、タンパク質種または遊離型DOX(保持時間は14分前後)の凝集のない実質的に単一ピークとしてのドキソルビシン−LL1複合体を示す。これは、生成物中に極めてわずかな量の遊離薬物しか存在しないか、あるいは全く存在しないことを示す。DOX−hLL1複合体のサンプルは単一画分、通常0.1〜1.0mgに分割し、使用時まで冷凍するか、あるいは凍結乾燥させる。それらはさらなる試験のための必要に応じて解凍または再構成する。
【0078】
実施例5:ドキソルビシンとhLL1との結合およびdox−hLL1複合体の形成
a)ドキソルビシンとSMCCヒドラジドとの反応
1:2のメタノール:エタノール(無水)13mL中、90mgのドキソルビシン(1.56×10−4mol)および60.23mgのSMCCヒドラジドを混合し、10.4μLのトリフルオロ酢酸を加える。この混合物を暗所、室温で4時間攪拌する。次に、この反応溶液を0.22ミクロンのシリンジフィルターに通し、100mLの丸底フラスコ中へ濾過する。75μLのジイソプロピルエチルアミンを加え、300℃のロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させる。残渣を4×40mLのアセトニトリル、次いで1×40 mLのジエチルエーテルでトリチュレートし、真空下ロータリーエバポレーターで乾燥させて粉末とする。この粉末を5mLの無水メタノールに溶解し、再び上記のように蒸発乾固させた後、必要となるまで−200℃で保存する。
【0079】
b)ジチオトレイトールによるhLL1−IgGの還元
20mLの丸底フラスコ中、8.4mLのhLL1−IgG(10.3mg/mL、5.78×10−7mol)、160μLの0.1Mリン酸ナトリウムバッファーpH7.5、500μLの0.2M EDTA、pH7.0、および290μLの脱イオン水を混合する。真空とアルゴン雰囲気下の間で溶液を6回循環させることにより、混合物を脱酸素化する。新しく調製した水中、40mMのジチオトレイトール(DTT)(水2.4mL中0.015g、2.3×10−5mol;IgGに対して40倍モル過剰)の溶液を、10分間アルゴン気泡を通じることにより脱酸素化し、このDTT水溶液640μLを、先の脱酸素化hLL1抗体溶液に加える。得られた混合物を37℃で1時間インキュベートする。還元抗体は、脱酸素化した10mM PBS/100mM L−ヒスチジンpH7.4バッファーに対して限外ろ過することにより(30K一重フィルター、アルゴン下、4℃)精製する。全濾液量が300mLになるまでバッファーを連続的に加える。還元hLL1溶液(hLL1−SH)の容量を10mLに減少させる。
【0080】
c)ドキソルビシン−SMCCとhLL1−SHとの結合および複合体の精製
活性化ドキソルビシン(1.9mL、2.09×10−5mol、IgGの36倍過剰)をジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に取った後、アルゴン下室温でhLL1−SH 抗体溶液(40mL)にゆっくり加える。DMSOの終濃度は5%である。4℃で40分間穏やかに攪拌しながら反応を進行させる。この反応混合物をバイオビーズTM(Bio-Rad, Richmond CA)カラム(径1.5cm×長さ34cm、10mMPBS/100mM L−ヒスチジンpH7.4バッファーで平衡化)にのせ、2mL/分で流す。生成物複合体をAmicon濾過装置で濃縮し、0.22ミクロンシリンジフィルターで濾過した後、凍結乾燥する。
【0081】
d)複合体の配合および凍結乾燥
40mLの上記hLL1−dox溶液に、8mLの0.5Mマンニトール水溶液および0.48mLの1%ポリソルベート20を加えると、終濃度1.64mg/mLhLL1−dox、82.5mMマンニトール、および0.01%ポリソルベート−20となる。dox−hLL1量1mgおよび10mg(それぞれ3および10mLバイアル)でサンプルを凍結乾燥し、ドライアイス上で凍結させ、真空下で48時間凍結乾燥する。真空下でバイアルに栓をし、使用するまで暗所、−20℃で密閉保存する。
【0082】
実施例6:抗体のモルホリノ−DOXおよびシアノモルホリノ−DOX複合体の製造
モルホリノ−DOXおよびシアノモルホリノ−DOXは、Acton, et al. (J. Med. Chem. 27:638-645 (1984))の手順を用い、2,2’−オキシ−ビス[アセトアルデヒド]によるドキソルビシンの還元的アルキル化により製造する。
【0083】
これらのDOX類似体を、DOXおよび2−PDOX類似体に関して上記したものと同様に、MHとカップリングさせた。シアノモルホリノ−DOXは、室温で一晩、無水メタノール(DMSOの代わり)中にて、10%モル過剰のヒドラジドとカップリングさせた。溶媒を除去した後、フラッシュクロマトグラフィーに付したところ、ヒドラゾンが得られた。エレクトロスプレー質量スペクトル分析:M+H m/e 872、M+Na894;M−H870。同様にして、モルホリノ−DOXは、無水メタノール中で1.5当量の試薬を4時間用い、SMCC−ヒドラジドを用いてそのヒドラゾンへと誘導体化し、生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。エレクトロスプレー質量スペクトル:M+H m/e 847、M−H m/e 845、M+C1 m/e 881。
【0084】
上記実施例2〜4に記載のように、抗体の分子内ジスルフィド結合を還元して遊離チオールとしてジスルフィド還元mAbを生成させ、実施例2、3および4の各々のc)節に記載したものと同じ方法を用い、複合体を製造した。以下のモルホリノ−DOXおよびシアノモルホリノ−DOXのmAb複合体を製造した。
【0085】
モルホリノ−DOX−抗体複合体:
mRS7複合体:薬物対mAb置換比:6.4:1
mMN−14複合体:薬物対mAb置換比:8.9:1
シアノモルホリノ−DOX−抗体複合体:
mRS7複合体:薬物対mAb置換比:5.3:1
mMN−14複合体:薬物対mAb置換比:7.0:1
【0086】
実施例7:アントラサイクリン−抗体複合体のin vitro効力
Raji Bリンパ腫細胞はAmerican Type culture Collection (ATCC, Rockville, MD)から入手し、12.5%ウシ胎児血清(Hyclone, Logan, UT)を含有するRPMI1640培地にグルタミン、ピルビン酸塩、ペニシリンおよびストレプトマイシン(Life Technologies, Grand Island, NY)を添加したもので増殖させた。要するに、3.75×10細胞を、24穴プレートの各ウェルで1.5mL組織培養培地中、示された濃度の薬物−mAb複合体とともに2日間培養した。次に、これらの細胞を培地20mLの入ったT25フラスコに移し、最大21日間、または細胞が16倍に増えるまで培養した。トリパンブルーを用いて生存細胞の総数を0日目、2日目、およびその後は3〜5日おきに計数した。非処理細胞の増殖速度から二倍増殖時間を算出し、処理細胞が16倍に増えるのに要する時間から生存分率を算出したところ、二倍増殖時間は処理によって影響されないものと思われた。単独でまだ生存している細胞は容易に検出できた。薬物−mAb複合体濃度1μg/mLで、DOX−LL1複合体は、DOX−MN−14複合体に比べて生存細胞分率において3オーダーの差を示す。図2参照。
【0087】
実施例8:アントラサイクリン−抗体複合体による腫瘍担持動物の治療
a)固形腫瘍異種移殖モデルにおける治療 無胸腺ヌードマウス群にDU145ヒト 前立腺癌細胞を皮下注射した。およそ2週間後、動物に触知可能な前立腺腫瘍異種移植片が増殖したところで、半分を単回用量の薬物−抗体複合体2−PDOX−RS7で治療し、半分は非治療(対照)とした。図3は非治療マウスにおける腫瘍異種移植片の増殖と2−PDOX−RS7で治療したマウスにおける異種移殖片の増殖を示している。これは、異種移植片の増殖の遅延という点では薬物−抗体複合体で治療した動物で治療効果を示す。
【0088】
b)動物モデルにおける全身性癌の治療 各群10個体のNCr−SCIDマウスに、尾静脈注射により、ヒトBurkitt's B細胞リンパ腫細胞系統Raji2.5×10細胞の懸濁液を静注した。5日後、動物を非治療とするか、または単回用量350μgDOX−LL1もしくは150μg2−PDOX−LL1のいずれかで治療した。図4はその試験結果を示している。非治療動物は麻痺を起こし、Raji細胞の注射後23日前後で全身性癌から死に至った。LL1抗体のDOX−および2−PDOX複合体で治療した動物は長期間生存し、これは2−PDOX−LL1治療動物の平均余命では4倍前後の延長、そしてDOX−LL1治療動物ではいっそう長い平均余命に相当した。
【0089】
c)動物モデルにおける全身性癌の治療 各群10個体のNCr−SCIDマウスに、尾静脈注射により、ヒトBurkitt's B細胞リンパ腫細胞系統Raji2.5×10細胞の懸濁液を静注した。5日後、動物を非治療とするか、または単回用量150μg2−PDOX−LL1もしくは150μg2−PDOX−MN−14(非特異的対照抗体複合体)のいずれかで治療した。図5はその試験結果を示している。非治療動物は麻痺を起こし、Raji細胞の注射後23日前後で全身性癌から死に至り、2−PDOX−MN−14複合体で治療した動物も同様であった。2−PDOX−LL1抗体複合体で治療した動物は長期間生存した。
【0090】
以上の記載から、当業者ならば、本発明の本質的な特徴を容易に把握することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、過度な実験を行わずとも、本発明の種々の変更および改変を行って種々の使用および条件に適合させることができよう。本明細書で引用されている特許、特許出願および刊行物は、引用することによりその全開示内が本明細書の一部とされる。
【0091】
参照文献
米国特許公報:
Arcamone et al., 米国特許第4,125,607号明細書
Greenfield et al., 米国特許第5,122,368号明細書
Janaky et al., 米国特許第6,214,969号明細書
Kaneko et al., 米国特許第5,349,066号明細書
Kaneko et al., 米国特許第5,137,877号明細書
McKenzie et al., 米国特許第5,798,097号明細書
King et al., 米国特許第6,307,026号明細書
King et al., 米国特許第5,824,805号明細書
King et al., 米国特許第5,162,512号明細書
Moreland et al., 米国特許第5,241,078号明細書
Schally et al., 米国特許第6,184,374号明細書
Schally et al., 米国特許第5,843,903号明細書
Willner et al., 米国特許第5,708,146号明細書
Willner et al., 米国特許第5,622,929号明細書
Willner et al., 米国特許第5,606,017号明細書
【0092】
その他の参照文献:
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本明細書に記載の方法を用いて製造されたアントラサイクリン−抗体複合体の代表的なサイズ排除HPLCの結果を示す。
【図2】Burkittリンパ腫Raji細胞に対するDOX−LL1複合体と非ターゲッティングMN−14抗体のDOX複合体の、薬物mAb複合体濃度1μg/mLにおけるin vitro効力を示す。DOX−LL1複合体は、DOX−MN−14複合体と比較して生存細胞画分に3オーダーの差を示す。
【図3】ヌードマウスにおけるDU145前立腺異種移殖モデルにおける、単回100μg用量の2−PDOX−RS7複合体の効力を示す。
【図4】急速進行性RAJI/SCIDマウス全身腫瘍モデルにおける、LL1抗体の2−PDOX−およびDOX−複合体単回用量の効力を示す。動物にRaji B細胞リンパ腫細胞を静注し、5日後に図で示した複合体で処理した。
【図5】複合体を投与していない非処置対照または非ターゲッティング対照複合体2−PDOX−MN−14を投与した動物群と比較した、急速進行性RAJI/SCIDマウス全身系腫瘍モデルにおける、単回用量の2−PDOX−LL1抗体の効力を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラサイクリン薬と抗体との複合体であって、該アントラサイクリン薬と該抗体がヒドラジドおよびマレイミドを含んでなるリンカーを介して連結されている、複合体。
【請求項2】
前記リンカーが4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジドである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
式:
【化1】

を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
mAbが腫瘍関連抗原に対するものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記腫瘍関連抗原がインターナライジング抗体によってターゲッティングされるものである、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
前記複合体が、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、神経膠腫または皮膚癌をターゲッティングするものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
前記皮膚癌が黒色腫である、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記腫瘍関連抗原が、CD74、CD22、EPG−1、CEA、結腸特異的抗原−pムチン(CSAp)、炭酸脱水酵素IX、HER−2/neu、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD30、CD33、CD40、CD45、CD66、NCA90、NCA95、CD80、α−フェトタンパク質(AFP)、VEGF、EGF受容体、PlGF、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、PSMA、GD2、GD3ガングリオシド、HCG、EGP−2、CD37、HLA−D−DR、CD30、Ia、Ii、A3、A33、Ep−CAM、KS−1、Le(y)、S100、PSA、テネイシン、葉酸受容体、TnおよびThomas−Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、腫瘍脈管形成抗原、Ga733、IL−2、MAGE、およびそれらの組合せからなる群から選択されるものである、請求項4に記載の複合体。
【請求項9】
前記腫瘍関連抗原が、CD74、CD19、CD20、CD22、CD33、EPG−1、MUC1、CEAおよびAFPからなる群から選択されるものである、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記腫瘍関連抗原が、B細胞、T細胞もしくは骨髄細胞の系列抗原(CD)、または血液悪性疾患に関連する抗原を含んでなる、請求項4に記載の複合体。
【請求項11】
前記抗体が、LL1、LL2、L243、C2B8、A20、MN−3、M195、MN−14、抗AFP、Mu−9、PAM−4、RS7、RS11および17−1Aからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項12】
前記リンカーが抗体上の還元されたジスルフィド結合に結合している、請求項1に記載の複合体。
【請求項13】
前記アントラサイクリン薬が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、2−ピロリノドキソルビシン、モルホリノ−ドキソルビシン、およびシアノモルホリノ−ドキソルビシンからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項14】
前記アントラサイクリン薬が13−ケト部分により抗体と連結されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
前記還元されたジスルフィド結合が抗体上の分子内ジスルフィド結合である、請求項12に記載の複合体。
【請求項16】
前記抗体が、マウス抗体、キメラ抗体、霊長類化抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である、請求項1に記載の複合体。
【請求項17】
前記抗体がIgGのフラグメントである、請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
前記抗体がB細胞に対するものである、請求項16に記載の複合体。
【請求項19】
前記抗体が、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD30、CD37、CD40、CD52、CD74、CD80、およびHLA−DRからなる群から選択される抗原に対するものである、請求項18に記載の複合体。
【請求項20】
前記抗体がLL1、LL2、L243、C2B8、またはhA20である、請求項19に記載の複合体。
【請求項21】
抗体1分子につき6〜10分子のアントラサイクリン薬を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項22】
前記抗体−アントラサイクリン複合体が標的細胞中にインターナライズされるものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項23】
前記抗体−アントラサイクリン複合体が標的細胞中にインターナライズされ、その後、抗原が細胞表面上に再発現する、請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
抗体全体の電荷が変化していない、請求項1に記載の複合体。
【請求項25】
前記アントラサイクリン薬がアルキル化部分を有するものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項26】
前記アルキル化部分がエナミンである、請求項25に記載の複合体。
【請求項27】
前記アントラサイクリン薬が2−ピロリノ−ドキソルビシンである、請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
請求項1に記載の複合体を製造する方法であって、
まず、前記リンカーをアントラサイクリン薬に結合させ、それによりアントラサイクリン薬−リンカー複合体を形成し、次に、該アントラサイクリン薬−リンカー複合体をチオール還元モノクローナル抗体または抗体フラグメントに結合させる、方法。
【請求項29】
前記アントラサイクリン薬−リンカー複合体が、チオール還元モノクローナル抗体または抗体フラグメントとの結合の前に精製されない、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アントラサイクリン薬上の第二の反応性官能基が影響を受けない、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項31】
アントラサイクリン薬上のアルキル化基が影響を受けない、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項32】
前記アントラサイクリン薬が2−ピロリノ−ドキソルビシン、モルホリノ−ドキソルビシンまたはシアノモルホリノ−ドキソルビシンである、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項33】
請求項1に記載の抗体とアントラサイクリン薬の複合体を投与することを含んでなる、哺乳類における疾病を治療する方法。
【請求項34】
前記哺乳類がヒトである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
抗体−薬物複合体が、静脈内、腹腔内、動脈内、髄腔内、嚢内、または腫瘍内投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
抗体−薬物複合体が、ボーラス注射として、または点滴として投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
抗体−薬物複合体が反復かつ/または周期的に投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記哺乳類が癌に罹患している、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記哺乳類が、皮膚癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頚癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌、脳癌、膵臓癌、リンパ系癌、肉腫または黒色腫に罹患している、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記哺乳類がB細胞癌またはT細胞癌に罹患している、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
前記哺乳類が、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、リンパ性白血病、骨髄性白血病または多発性骨髄腫に罹患している、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記哺乳類が黒色腫に罹患している、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体−アントラサイクリン複合体が、他の標準的な療法の前、同時、または後に投与される、請求項33〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記標準的な療法が、放射線療法、外科術および化学療法からなる群から選択されるものである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
同じ罹患細胞上の異なる抗原または同じ抗原の異なるエピトープをターゲッティングする2種以上の抗体とアントラサイクリン薬との複合体を投与することを含んでなる、哺乳類における疾病を治療する方法。
【請求項46】
哺乳類における疾病を治療する方法であって、
抗体とアントラサイクリン薬との複合体を、第二の抗体治療の前、同時、または後に投与することを含んでなり、第二の抗体治療における第二の抗体が、罹患細胞上の、複合体中の抗体とは異なる抗原または同じ抗原の異なるエピトープをターゲッティングするものである、方法。
【請求項47】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の複合体。
【請求項48】
前記抗体が抗体フラグメントである、請求項1に記載の複合体。
【請求項49】
前記抗体が抗体融合タンパク質である、請求項1に記載の複合体。
【請求項50】
前記抗体融合タンパク質が多価である、請求項49に記載の複合体。
【請求項51】
前記抗体融合タンパク質が多重特異性である、請求項49に記載の複合体。
【請求項52】
前記抗体融合タンパク質が、同じかまたは異なる特異性を有する2以上の同じかまたは異なる天然または合成の抗体、単鎖抗体または抗体フラグメントセグメントを含んでなり、該抗体または抗体フラグメントが、LL1、LL2、M195、MN−3、RS7、17−1A、RS11、PAM−4、KC4、BrE3、MN−14、Mu−9,Immu31、CC49、Tn抗体、J591、Le(y)抗体およびG250からなる群から選択されるものである、請求項49に記載の複合体。
【請求項53】
好適な容器中にモノクローナル抗体とアントラサイクリン薬との複合体を含んでなるキットであって、該アントラサイクリン薬と該抗体とがヒドラジドおよびマレイミドを含んでなるリンカーを介して連結されている、キット。
【請求項54】
前記モノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体が、液体、冷凍または凍結乾燥形態で、無菌容器で提供される、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
前記モノクローナル抗体−アントラサイクリン薬複合体が、患者に投与するために希釈または再構成されるものである、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
1種以上の免疫調節剤を投与することをさらに含んでなる、請求項43に記載の方法。
【請求項57】
1種以上の免疫調節剤を投与することをさらに含んでなる、請求項44に記載の方法。
【請求項58】
1種以上の免疫調節剤を投与することをさらに含んでなる、請求項45または46に記載の方法。
【請求項59】
前記免疫調節剤が、インターフェロン、サイトカイン、幹細胞増殖因子、コロニー刺激因子、リンホトキシンおよびその他の造血因子からなる群から選択されるものである、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記インターフェロンがα−インターフェロン、β−インターフェロンまたはγ−インターフェロンである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記造血因子が、インターロイキン、コロニー刺激因子、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子からなる群から選択されるものである、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記インターロイキンが、IL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、およびIL−21からなる群から選択されるものである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記造血因子が、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G−CSFおよびGM−CSFからなる群から選択されるものである、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記免疫調節剤または造血因子が、免疫複合体療法前、免疫複合体療法中、免疫複合体療法後に投与される、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記免疫調節剤が前記複合体の有効性を高めるものである、請求項59に記載の方法。
【請求項66】
前記免疫調節剤が、インターフェロン、サイトカイン、幹細胞増殖因子、コロニー刺激因子、リンホトキシンおよびその他の造血因子からなる群から選択されるものである、請求項57に記載の方法。
【請求項67】
前記インターフェロンがα−インターフェロン、β−インターフェロンまたはγ−インターフェロンである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記造血因子が、インターロイキン、コロニー刺激因子、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子からなる群から選択されるものである、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記インターロイキンが、IL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、およびIL−21からなる群から選択されるものである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記造血因子が、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G−CSFおよびGM−CSFからなる群から選択されるものである、請求項66に記載の方法。
【請求項71】
前記免疫調節剤または造血因子が、免疫複合体療法前、免疫複合体療法中、免疫複合体療法後に投与される、請求項66に記載の方法。
【請求項72】
前記免疫調節剤が前記複合体の有効性を高めるものである、請求項66に記載の方法。
【請求項73】
前記免疫調節剤が、インターフェロン、サイトカイン、幹細胞増殖因子、コロニー刺激因子、リンホトキシンおよびその他の造血因子からなる群から選択されるものである、請求項58に記載の方法。
【請求項74】
前記インターフェロンがα−インターフェロン、β−インターフェロンまたはγ−インターフェロンである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記造血因子が、インターロイキン、コロニー刺激因子、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子からなる群から選択されるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項76】
前記インターロイキンが、IL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、およびIL−21からなる群から選択されるものである、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記造血因子が、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G−CSFおよびGM−CSFからなる群から選択されるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項78】
前記免疫調節剤または造血因子が、免疫複合体療法前、免疫複合体療法中、免疫複合体療法後に投与される、請求項73に記載の方法。
【請求項79】
前記免疫調節剤が前記複合体の有効性を高めるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項80】
アントラサイクリン薬と抗体との複合体であって、該アントラサイクリン薬と該抗体とが、ヒドラジドおよびマレイミドを含んでなるリンカーを介して連結されており、該抗体に免疫調節剤がさらに結合されている、複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12083(P2011−12083A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233918(P2010−233918)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2006−502890(P2006−502890)の分割
【原出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(504149971)イミューノメディクス、インコーポレイテッド (48)
【氏名又は名称原語表記】IMMUNOMEDICS, INC.
【Fターム(参考)】