説明

アントラサイクリン化合物を生産する微生物

【課題】組織線維化が関与する疾患の予防及び/又は治療剤として有用な化合物を生産する微生物を提供する。
【解決手段】形質転換及び/又は細胞外マトリクス産生亢進を抑制する化合物の探索研究の一環として、天然に存在する微生物について鋭意検討した。その結果、優れた形質転換阻害作用及び/又は細胞外マトリクス産生抑制作用を有し、腎線維症、肺線維症等の組織線維化が関与する疾患の予防及び/又は治療剤として有用なアントラサイクリン化合物を生産するアクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株を見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物、殊に腎線維症、肺線維症などの組織線維化が関与する疾患の予防若しくは治療用医薬組成物の有効成分として有用なアントラサイクリン化合物を生産する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
正常細胞の形質転換は、組織線維症、関節リウマチ、動脈硬化、癌などの疾患で認められる現象であり、また癌転移にも深く関与している(非特許文献1)。高血糖、低酸素状態、活性酸素、形質転換増殖因子β(TGFβ)をはじめとする各種サイトカイン、成長因子などに長期間曝されることにより、腎尿細管上皮細胞、メサンギウム細胞(非特許文献2)、肺胞上皮細胞(非特許文献3)、関節滑膜細胞(非特許文献4)、肝星細胞(非特許文献5)、血管内皮細胞(非特許文献6)などが形質転換を起こすことが知られている。形質転換を起こした細胞は、α平滑筋アクチン(α smooth muscle actin; αSMA)の発現と細胞形態の変化などによって特徴づけられる。最も良く研究されているのは、上皮間葉移行(epithelial- mesenchymal transition; EMT)として知られている上皮細胞の形質転換であり、上記のような病的刺激のもとで、上皮細胞のマーカーであるE-カドヘリンが消失し、αSMAを発現する筋線維芽細胞に分化することが知られている。
組織線維症は、腎線維症、肺線維症、心線維症、腎疾患、糖尿病性腎症、肝硬変、動脈硬化、強皮症などに代表される難治性の慢性疾患である。組織線維症に対する効果的な予防・治療剤は未だ存在しない状況であり、ピルフェニドン(Pirfenidone)が上市されているものの、より強力な薬効を示す組織線維症予防・治療剤が切望されている。
【0003】
組織線維症は、慢性的に炎症・傷害を受けた組織において過剰な修復反応が起こった結果、組織内に線維芽細胞、及びコラーゲンをはじめとする各種細胞外マトリクスが蓄積した状態と考えられている(非特許文献7)。線維化が軽微である場合には、臓器は正常に回復し機能するようになる。しかし組織の障害の程度が大きい、或いは慢性的に持続する場合には、線維化が組織の本来の機能に障害を与える。さらに、それが原因となって新たな線維化を生じるといった悪循環が形成され、上述のような疾患を発症し、臓器の機能低下が生じる(非特許文献8)。
組織線維症の発症には複雑なシグナル経路が関与し、未だ詳細な発症メカニズムは不明であるが、一つの特徴的な現象として上述の形質転換(非特許文献1)が知られている。即ち、正常な腎尿細管上皮細胞、肺胞上皮細胞、肝星細胞などが、高血糖、低酸素状態、活性酸素、TGFβをはじめとする各種サイトカインなどにより刺激を受け、αSMAを発現する筋線維芽細胞に形質転換する。分化した筋線維芽細胞は、CTGF、フィブロネクチン、I型コラーゲン、III型コラーゲンなどの細胞外マトリクスを過剰発現・産生し、これらが組織内に蓄積することが組織線維症の発症に重要な役割を果たしていると考えられている。
従って、形質転換を阻害することにより筋線維芽細胞などの病態細胞の出現を抑制する化合物及び/又は筋線維芽細胞からの細胞外マトリクス産生を抑制する化合物は、組織線維症治療剤として有用であることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Cell Biol. (2006) 172, 973-981
【非特許文献2】Kidney Int. (2007) 71, 846-854
【非特許文献3】Am. J. Physiol. (2007) 293, L525-L534
【非特許文献4】Arthritis. Res. Ther. (2006) 8, 210-220
【非特許文献5】J. Clin. Invest. (2007) 117、524-529
【非特許文献6】Nature Med. (2007) 13, 952-961
【非特許文献7】J. Clin. Invest. (2003) 112, 1776-1786
【非特許文献8】FEBS Letters (2001) 506, 11-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医薬組成物、特に腎線維症、肺線維症などの組織線維化が関与する疾患の予防若しくは治療用医薬組成物の有効成分として有用な化合物を生産する微生物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、形質転換及び/又は及び細胞外マトリクス産生亢進を抑制する化合物の探索研究の一環として、天然に存在する微生物について鋭意検討した。その結果、アクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株と称する微生物が、優れた形質転換阻害作用及び/又は及び細胞外マトリクス産生抑制作用を有し腎線維症モデル及び肺線維症モデルで有効なアントラサイクリン化合物を生産することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下に関する。
[1] 式(I)の化合物を生産する菌株。
【化1】

(式中、Meはメチル基である。)
【0008】
[2] 式(I)の化合物を生産する菌株がアクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株(受託番号 FERM BP-11008)又はその変異株である[1]に記載の菌株。
【0009】
なお、本明細書中、式(I)の化合物を化合物Iと表記して説明する場合がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクチノアロムルス エスピー No.645122株は、良好な形質転換抑制作用及び/又は細胞外マトリクス産生抑制作用を有し、組織線維化が関与する疾患の予防及び/又は治療剤となりうる式(I)の化合物を生産することができる。組織線維化が関与する疾患としては、腎線維症、肺線維症、心線維症、腎疾患、肺疾患、糖尿病性腎症、肝硬変、動脈硬化、強皮症などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】TGFβ/AGE共刺激条件下におけるNRK-52E細胞に対する化合物Iのフィブロネクチン分泌抑制作用と細胞毒性を示す図である。
【図2】TGFβ/AGE共刺激条件下におけるNRK-52E細胞に対する化合物Iのフィブロネクチン蓄積阻害作用と形質転換阻害作用(αSMA発現阻害)を示す図である。
【図3】マウスUUOモデルにおける化合物Iの腎αSMA mRNA発現抑制作用を示す図である。
【図4】マウスUUOモデルにおいて、アザン染色による化合物Iの腎線維化抑制作用を示す図である。
【図5】ラット5/6腎臓摘出モデルにおける化合物Iの腎αSMA mRNA発現抑制作用を示す図である。
【図6】ラット5/6腎臓摘出モデルにおいて、アザン染色による化合物Iの腎線維化抑制作用を示す図である。
【図7】ラット5/6腎臓摘出モデルにおける化合物Iの尿中タンパク質排泄抑制作用を示す図である。
【図8】ラット5/6腎臓摘出モデルにおける化合物Iのクレアチニンクリアランス改善作用を示す図である。
【図9】マウスブレオマイシン惹起肺線維症モデルにおける化合物Iの肺機能改善作用を示す。
【図10】マウスブレオマイシン惹起肺線維症モデルにおける化合物Iの肺組織中ヒドロキシプロリンの産生抑制作用を示す。
【図11】化合物Iの1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図12】化合物Iの13C-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
化合物Iは、アクチノアロムルス属に属する当該化合物生産菌を栄養培地にて培養し、当該化合物を蓄積させた培養物から常法によって得られる。当該化合物の製造方法において使用する微生物は、アクチノアロムルス属に属し当該化合物の生産能を有する微生物であればいずれも用いることができる。このような微生物としては、例えばマレーシア国で採集されたアクチノアロムルス属に属する微生物アクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株を挙げることができる。
【0013】
アクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株の菌学的性質
アクチノアロムルス エスピー No.645122株はマレーシアで採集された落葉サンプルから分離された。本菌株の形態、培養性状、生理的性質を調べるための培地、方法は、主にシャーリングとゴットリーブ(引用文献1)、ワックスマン(引用文献2)に従った。それぞれの培養は30℃で14日間行った後、観察した。形態観察は、オートミール寒天で培養後、光学及び走査型電子顕微鏡で観察した。生育温度の判定には、酵母エキス・デンプン寒天を用いた。酵母エキス・デンプン寒天は粉末酵母エキスS(和光純薬、大阪)2.0g、可溶性デンプン10g、寒天16gを水道水1Lに溶解し、1mol/L 水酸化ナトリウム水溶液でpH 7.2に修正した後、オートクレーブ滅菌を行い作製した。炭素源の利用性の判定にはプリドハム・ゴットリーブの培地(引用文献3)を用いた。色名は"メシューエン・ハンドブック・オブ・カラー"(引用文献4)から引用した。細胞壁のアミノ酸の分析はベッカーらの方法(引用文献5)に従った。16SrDNAの塩基配列決定法は中川らの方法(引用文献6)に従った。相同性検索は国立遺伝学研究所のウェブサイト(http://www.ddbj.nig.ac.jp)のFASTA検索(引用文献7、引用文献8)を用い、基準株の16SrDNA塩基配列は国立遺伝学研究所のデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp)より入手した。系統樹作成はClustal X(引用文献9)を用いた。
【0014】
(1)形態的特徴
基生菌糸はよく発達し、不規則に分枝する。胞子連鎖は気菌糸上に着生し、胞子10個程度の密ならせん状となる。胞子の表面は平滑、形状は楕円状、サイズは1.2×0.7μmであった。菌核、胞子嚢、基生菌糸の断裂、遊走子は観察されなかった。
【0015】
(2)培養性状
結果を表1に示す。気菌糸はオートミール寒天上で中程度の着生、酵母エキス・麦芽エキス寒天、無機塩・デンプン寒天、チロシン寒天上ではまばらな着生、グリセリン・アスパラギン寒天上ではうっすらとした着生が認められた。ペプトン・酵母エキス・鉄寒天上では気菌糸着生は認められなかった。気菌糸の色は白色であった。生育裏面の色は橙色味赤色、濃橙色、橙色味白色、橙色、淡黄色を呈する。トリプトン・酵母エキス培地及びペプトン・酵母エキス・鉄寒天上で、メラノイド色素の産生は認められない。可溶性色素の産生は酵母エキス・麦芽エキス寒天、オートミール寒天、グリセリン・アスパラギン寒天チロシン寒天上で認められ、褐色、橙色、赤褐色であった。菌体内色素はpHにより変化しない。
【0016】
(3)細胞壁タイプ
全菌体分解物の分析の結果、アミノ酸ではmeso-ジアミノピメリン酸が検出された。特徴となる糖としてマジュロースが検出され、全菌体糖パターンのBタイプと判定された。
【0017】
(4)生理的性質
表2に示すようにD-グルコース、シュークロース、D-キシロース、D-フルクトース、L-ラムノース、ラフィノース、D-マンニトールの利用性は陽性、L-アラビノース、イノシトールの利用性は陰性であった。
【0018】
(5)16SrDNA塩基配列による解析
アクチノアロムルス エスピー No.645122株の16SrDNA部分塩基配列(配列番号1)を用いた相同性検索の結果、もっとも近縁な種はアクチノアロムルス イリオモテンシス TT 02-47株(Accession No: AB364586)で、相同値は99.6%であった。また、アクチノアロムルス属の基準種であるアクチノアロムルス スパディックス IMSNU20015株(Accession No: AJ293712)との相同値は96.8%であり、アクチノアロムルス属の各種との相同値は96.8-99.6%であった。また、16SrDNA部分塩基配列により作成した系統樹では、アクチノアロムルス属の各種と同一のクラスターを形成した。
【0019】
(6)同定
形態観察、化学分析及び16SrDNA塩基配列による解析の結果からNo.645122株はアクチノアロムルス属に属すると考えられる(引用文献10)。そこで本菌株をアクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株と命名した。本菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(あて名:〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM BP-11008(受託日2008年9月3日)として寄託されている。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
なお、微生物は人工的に又は自然に変異を起こしやすいので、本発明は天然から分離されたアクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株の他に、これに紫外線、放射線、化学薬剤などで人工的に変異させたもの及びそれらの天然変異株についても、式(I)の化合物を生産する能力を有する限りにおいて包含する。
【0023】
(引用文献)
1) Shirling, E. B. and D. Gottlieb: Methods for characterization of Streptomyces species. Int. J. Syst. Bacteriol. 16, 313-340. (1966)
2) Waksman, S. A.: The actinomycetes Vol. 2: Classification, identification and description of genera and species: The Williams and Wilkins Co., Baltimore, 1961
3) Pridoham,T.G. and D. Gottlieb: The utilization of carbon compounds by some Actinomycetales as an acid for species determination: J. Bacteriol. 56: 107-114. (1948)
4) Kornerup, A. and J. H. Wanscher: Methuen Handbook of Colour, Methuen, London, 1978
5) Becker, B., M. P. Lechevalier, R. E. Gordon and H. A. Lechevalier: Rapid differentiation between Nocardia and Streptomyces by paper chromatography of whole-cell hydrolysates: Appl. Microbiol. 12, 421-423. (1964)
6) 中川恭好、川▲崎▼浩子(2001): 放線菌の分類と同定 pp. 83-117. 日本放線菌学会編: 東京、日本学会事務センター
7) D. J. Lipman, W. R. Pearson: Rapid and sensitive protein similarity searches, Science, 227, 1435-1441 (1985)
8) W. R. Pearson, D. J. Lipman: Improved tools for biological sequence comparison, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 2444-2448 (1988)
9) Thompson,J.D., Gibson,T.J., Plewniak,F., Jeanmougin,F. and Higgins,D.G.: The ClustalX windows interface: flexible strategies for multiple sequence alignment aided by quality analysis tools. Nucleic Acids Research, 24:4876-4882. (1997)
10) Tomohiko Tamura, Yuumi Ishida, Yuriko Nozawa, Misa Otoguro and Ken-ichiro Suzuki: Actinoallomurus spadix gen. nov., comb. nov., transfer of Actinomadura spadix Nonomura and Ohara 1971, and Actinoallomurus amamiensis sp. nov., Actinoallomurus caesius sp. nov., Actinoallomurus coprocola sp. nov., Actinoallomurus fulvus sp. nov., Actinoallomurus iriomotensis sp. nov., Actinoallomurus luridus sp. nov., Actinoallomurus purpureus sp. nov. and Actinoallomurus yoronensis sp. nov.: Int. J Syst Evol Microbiol, 59, 1867-1874 (2009)
【0024】
(製造方法)
通常、本発明微生物を一般微生物の培養方法に準じて培養すれば、式(I)の化合物が得られる。
培養に用いられる培地としては、本発明微生物が利用する栄養源を含有する培地であればよく、合成培地、半合成培地または天然培地が用いられる。培地に添加する栄養物として公知のものを使用できる。培地の組成は、例えば炭素源としては、D-グルコース、L-アラビノース、D-キシロース、D-フルクトース、シュークロース、L-ラムノース、ラフィノース、イノシトール、D-マンニトール、ガラクトース、D-マンノース、マルトース、トレハロース、デンプン、ブドウ糖、デキストリン、グリセリン、植物油等が挙げられる。窒素源としては肉エキス、ペプトン、グルテンミール、綿実粕、大豆粉、落花生粉、魚粉、コーンスティープリカー、乾燥酵母、酵母エキス、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿酸その他の有機、無機の窒素源が用いられる。また、金属塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄、コバルトなどの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが必要に応じて添加される。さらに、必要に応じてメチオニン、システイン、シスチン、チオ硫酸塩、オレイン酸メチル、ラード油、シリコン油、界面活性剤などの生成促進物質または消泡剤を添加することもできる。
【0025】
培養条件としては好気的条件下で培養するのが一般的に有利で、培養温度は20〜39℃の範囲、好ましくは25〜37℃付近で行われる。培地のpHは約4〜9、好ましくは約6〜7の範囲に調整すると好結果が得られる。培養期間は培地の組成、温度条件に応じて適宜設定されるが、通常1〜14日程度、好ましくは2〜5日程度である。
【0026】
培養物より式(I)の化合物を単離するには、微生物が産生する代謝産物に用いる通常の抽出、精製の手段が適宣利用できる。例えば培養物中の該物質は培養液をそのままか、又は遠心分離あるいは培養物に濾過助剤を加えて濾過して得られた培養液に酢酸エチル等の水と混和しない有機溶媒を加えて抽出する。また、培養液を適宜の坦体に接触させて濾液中の生産物質を吸着させ、次いで適当な溶媒で溶出することにより該物質を抽出することができる。例えば、アンバーライトXAD-2、ダイヤイオンHP-20、ダイヤイオンCHP-20、又はダイヤイオンSP-900のような多孔性吸着樹脂に接触させて該物質を吸着させ、次いでメタノール、エタノール、アセトン、ブタノール、アセトニトリル等の有機溶媒と水の混合液を用いて該物質を溶出させる。このときの有機溶媒の混合比率を段階的に又は連続的に変化させることが有利である。酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒で抽出する場合には、培養濾液にこれらの溶媒を加え、良く振とうし、該物質を抽出する。次に、上記の各操作法を用いて得た該物質含有画分は、シリカゲル、ODS(octadecylsilyl)等を用いたカラムクロマトグラフィー、遠心液々分配クロマトグラフィー、ODSを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の定法により、さらに純粋に分離精製することができる。すなわち、活性を指標として、適当な溶媒に対する溶解性及び溶解度の差等を利用する一般の生理活性物質の製造に用いられる手段によって、分離、精製される。これらの方法は必要に応じて単独に用いられ、又は任意の順序に組合せ、反復して適用できる。
【0027】
式(I)の化合物には、不斉炭素原子が存在するので、これに基づく光学異性体が存在しうる。本発明は、式(I)の化合物の光学異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0028】
また、式(I)の化合物は、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0029】
さらに、本発明は、式(I)の化合物、並びにその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0030】
式(I)の化合物は、遊離化合物、その塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。式(I)の化合物の塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。
単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等、通常の化学操作を適用して行なわれる。
【0031】
後述の試験例1〜5に示すように、式(I)の化合物は組織の形質転換や細胞外マトリクスの蓄積を強力に抑制する作用を有し、動物実験において優れた病態改善作用を示す。したがって、式(I)の化合物又はその塩は、腎線維症、肺線維症、心線維症、腎疾患、肺疾患、糖尿病性腎症、肝硬変、動脈硬化、強皮症などの組織線維化が関与する疾患の治療等に使用できる。
さらに、式(I)の化合物は、強力な形質転換抑制作用を有するので、関節リウマチ、癌などの形質転換が関与する疾患の治療等にも有用であることが期待できる。
【0032】
式(I)の化合物又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0033】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0034】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0035】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0036】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0037】
投与量は病気の種類、症状、年齢、性別など個々の患者によって異なるが、通常、経口投与の場合、成人1日あたり0.001mg/kg〜500mg/kg程度であり、これを1回、あるいは2回から4回に分けて投与する。注射で投与する場合は、成人1日あたり0.0001mg/kg〜10mg/kg程度を1回乃至2回、急速静注するかあるいは点滴静注する。吸入の場合は成人1日あたり0.0001mg/kg〜10mg/kg程度を1回、または複数回投与する。経皮剤の場合は成人1日あたり0.01mg/kg〜10mg/kg程度を1日1回乃至2回貼付する。
【0038】
式(I)の化合物又はその塩は、前述の式(I)の化合物又はその塩が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例にて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(試験例)
式(I)の化合物の薬理活性は、以下の試験により確認した。
試験例1 フィブロネクチン分泌抑制効果、及び細胞毒性
後述の実施例1で取得した化合物Iのラット由来腎尿細管上皮細胞(NRK-52E;ATCC番号 CRL-1571)に対する、フィブロネクチン分泌抑制効果、及び細胞毒性を以下のように評価した。なお、NRK-52E細胞は10%牛胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、37℃、5% CO2存在下で培養した。
(1)4×104 cells/mLの細胞を、200μLずつ96穴マイクロプレートに播種した。
(2)コンフルエントに至るまで3日間培養後、1% FBS、TGFβ 8ng/mL、及びAGE 600μg/mL含有DMEM培地を150μLずつ各ウェルに添加することで形質転換の誘導を開始した。同時に、希釈した化合物Iを各ウェルに添加した。
(3)96時間インキュベーション後、培養上清を新しい96穴マイクロプレートに回収し、ELISA法により培地中に放出されたフィブロネクチンを定量した。
(4)また、細胞には、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホナトフェニル)−2H−テトラゾール−3−イウム(MTS, 0.4mg/mL)を含む1% FBS含有DMEM を各ウェルに100μLずつ添加し、さらに1時間培養後、マイクロプレートリーダーにて450nmにおける吸光度を求め、細胞増殖阻害を観察した。
【0041】
その結果、化合物Iは細胞毒性の認められない濃度域で用量依存的にTGFβ/AGE共刺激によるフィブロネクチン分泌を抑制した。化合物Iのフィブロネクチン分泌阻害曲線及び細胞増殖阻害曲線を図1に示す。
【0042】
試験例2 NRK-52E細胞に対する、形質転換抑制効果、及びフィブロネクチン蓄積抑制効果
化合物IのNRK-52E細胞に対する、形質転換抑制効果、及びフィブロネクチン蓄積抑制効果を以下のように評価した。
(1)4×104 cells/mLの細胞を、1mLずつ24穴プレートに播種した。
(2)コンフルエントに至るまで3日間培養後、1% FBS 、TGFβ 8ng/mL、及びAGE 600μg/mL含有DMEM培地を1mLずつ各ウェルに添加することで形質転換の誘導を開始した。同時に、希釈した化合物Iを各ウェルに添加した。
(3)96時間インキュベーション後、培養上清を除去、細胞をPBS(−)で洗浄し、100μLのRIPAバッファー(組成:20mmol/L Tris-HCl, 150mmol/L NaCl, 2mmol/L EDTA, 1% Nonidet P-40, 1% Sodium deoxycholate, 0.1% SDS, コンプリート プロテアーゼインヒビターカクテル(ロッシュ・アプライド・サイエンス))で細胞を溶解した。
(4)BCA protein assayキット(PIERCE社)を用いて上記細胞溶解液の総タンパク質量を定量後、還元条件下にて2.5μgタンパク質量相当の細胞溶解液をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動した。その後、常法に従ってウエスタンブロットを行い、細胞内に蓄積したフィブロネクチン(220 KDa)、及び筋線維芽細胞マーカーであるαSMA(42 KDa)の発現量を定量した。
【0043】
その結果、化合物Iは、細胞毒性の認められない濃度域で用量依存的にTGFβ/AGE共刺激による細胞内フィブロネクチン蓄積、及びαSMAの発現(形質転換)を抑制し、IC50値は100nmol/Lであった。化合物Iの細胞内フィブロネクチン蓄積抑制効果及びαSMA発現抑制作用を図2に示す。
【0044】
試験例3 UUOマウスモデルを用いた腎疾患及び腎線維症の治療効果
化合物Iの腎疾患及び腎線維症の治療効果を、一側尿管結紮(Unilateral Ureteral Obstruction;UUO)マウスモデルを用いて、以下のように評価した。
(1)6週齢C57-BL6系雄性マウス(チャールズリバー社)をペントバルビタール麻酔下、左腎の尿管を結紮した。
(2)化合物IをUUO処置直後から1日1回、10日間皮下投与した。対照群としては生理食塩水を皮下投与した。実験群は、(a)Sham(偽処置)+生理食塩水皮下投与、(b)UUO処置のみ、(c)UUO処置+ピルフェニドン(Pirfenidone)混餌投与(陽性対照群)、(d)UUO処置+生理食塩水皮下投与、及び(e)UUO処置+化合物I皮下投与で、各群につき10匹のマウスを用いた。
(3)UUO処置10日後に採血、腎摘出を行なった。
(4)摘出した腎組織を10%ホルマリン中性緩衝溶液で固定後、尿細管間質線維化の評価を実施するために、病理組織標本を作製した。また、また、摘出した腎臓皮質の一部をホルマリン固定する前に採取しmRNA発現定量のために液体窒素で凍結保存した。
(5)尿細管間質線維化の程度は、アザン染色後、デジタル画像としてコンピュータに取り込み、アザン染色により青く染まった線維化領域をピクセル数として定量した。
(6)凍結保存した腎臓皮質組織からRNAを抽出し、常法に従ってリアルタイムPCRを行い、I型、III型コラーゲン、及びαSMA mRNA発現量を測定した。
【0045】
その結果、化合物Iは、対照に比べ、I型、III型コラーゲン、及びαSMAのmRNA発現を有意に抑制した。また、アザン染色においても化合物Iは間質の線維化を有意に抑制していた。これらの作用は、陽性対照であるピルフェニドンの効果よりも高いものであった。腎αSMA mRNA発現抑制作用及びアザン染色による化合物Iの腎線維化抑制作用の結果を図3及び図4に示す。
【0046】
試験例4 ラット5/6腎臓摘出モデルを用いた腎疾患及び慢性腎不全の治療効果
化合物Iの腎疾患及び慢性腎不全の治療効果を、腎不全の一般的なモデルとして汎用されるラット5/6腎臓摘出モデルを用いて、以下のように評価した。
(1)雄性SDラット(チャールズリバー社、7週齢)をペントバルビタール麻酔下にて、左腎を2/3摘出した。その翌週に同麻酔下にて右腎を全摘出し、5/6腎摘ラットモデル(5/6 Nx)を作成した。
(2)モデル作成後2週目から、化合物Iを1日1回、10週間皮下投与した。対照群として生理食塩水を皮下投与、陽性対照群としてエナラプリル(Ena)を5mg/kgの投与量で経口投与した。実験群は、(a)Sham(偽処置)+生理食塩水皮下投与、(b)5/6Nx処置+生理食塩水皮下投与、(c)5/6Nx+エナラプリル経口投与(陽性対照群)、及び(d)5/6Nx処置+化合物I皮下投与で、各群につき12匹のラットを用いた。
(3)10週間の投与期間中、2週ごとに採血、採尿を行い、血清クレアチニン(sCr)、血清尿素窒素(SUN)、尿中クレアチニン(uCr)、及び尿中タンパク質排泄量を求めた。
(4)10週間投与後、ペントバルビタール麻酔下にて解剖し、採血、腎臓採取を行った。
(5)摘出した腎組織を10%ホルマリン中性緩衝溶液で固定後、尿細管間質線維化の評価を実施するために、病理組織標本を作製した。また、摘出した腎臓皮質の一部をホルマリン固定する前に採取しmRNA発現定量のために液体窒素で凍結保存した。
(6)尿細管間質線維化の程度は、アザン染色後、デジタル画像としてコンピュータに取り込み、アザン染色により青く染まった線維化領域をピクセル数として定量した。
(7)凍結保存した腎臓皮質組織からRNAを抽出し、常法に従ってリアルタイムPCRを行い、I型、III型コラーゲン、及びαSMA mRNA発現量を測定した。
【0047】
その結果、化合物Iは、対照に比べ、III型コラーゲン、αSMAのmRNA発現を有意に抑制した。また、糸球体構成タンパク質であるポドシン、ネフリンの発現低下の有意な抑制作用、及び、アザン染色における間質の線維化の有意な抑制作用を示した。さらにクレアチニンクリアランス(CCr)改善作用、用量依存的な尿中タンパク質排泄抑制作用を示した。以上のように化合物Iは形質転換抑制作用に基づき腎線維化を抑制し、腎保護作用を有することが示された。αSMA mRNA発現抑制作用、アザン染色による腎線維化抑制作用、尿中タンパク質排泄抑制作用及びクレアチニンクリアランス改善作用の結果を図5〜8に示す。
【0048】
試験例5 肺疾患及び肺線維症の治療効果
化合物Iの肺疾患及び肺線維症の治療効果を、ブレオマイシン惹起肺線維症モデルを用いて、以下のように評価した。
(1)6週齢C57-BL6系雄性マウス(チャールズリバー社)にブレオマイシン(BLM)15μg/匹を150μL/匹の容量で経肺投与し病態惹起動物を作製した。
(2)化合物IをBLM投与直後から1日1回、21日間皮下へ連続投与した。対照群としては生理食塩水を皮下投与した。実験群は、(a)Intact群(肺無処置+生理食塩水皮下投与)、(b)N.C群(肺へ生理食塩水投与+生理食塩水皮下投与)、(c)D.C群(肺へBLM投与+生理食塩水皮下投与)、及び(d)化合物I投与群(肺へBLM投与+化合物I皮下投与(3doses))で、Intact群はn=6、その他は各群n=12の試験を行った。(ただし(b)及び(d)の中用量群で各1例測定不能動物がおりn=11とした。)
(3)BLM処置21日後に肺組織採取、肺機能評価を行なった。
(4)組織摘出前に肺機能測定システム(Pulmonary Maneuvers System; Buxco Electronics)にて肺機能の解析を行った。
(5)摘出した肺組織(右中葉を除く全肺)はヒドロキシプロリン量測定用および右中葉はmRNA発現定量のために液体窒素で凍結保存した。
(6)凍結保存した肺組織を加水分解処理し組織中のヒドロキシプロリン量(線維化指標)の測定を行った。
【0049】
その結果、化合物Iは、対照に比べ、肺機能の指標である努力肺活量(Forced Vital Capacity(FVC))を用量依存的に改善した。また、肺組織中においても線維化形成の指標であるヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)の産生を抑制する傾向が認められた。化合物Iの肺機能改善効果と肺組織中のヒドロキシプロリン産生抑制作用の結果を図9及び図10に示す。
【0050】
上記試験例1〜5の結果、式(I)の化合物は組織の形質転換や細胞外マトリクスの蓄積を強力に抑制する作用を有し、動物実験において優れた病態改善作用を示すことが確認された。
【0051】
試験例6 好気性菌に対する抗細菌活性
化合物Iのグラム陽性細菌、グラム陰性細菌に対する抗細菌活性を日本化学療法学会寒天平板希釈法に準じて測定した。化合物Iの最小生育阻害濃度MIC(μg/mL)を表3に示す。化合物Iにはグラム陽性細菌特異的な抗細菌活性が認められた。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例1
可溶性デンプン2%、グルコース1%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.5%、β-サイクロデキストリン1%、寒天0.3%よりなる培地(滅菌前pH 6.6)を30mLずつ100mL容の三角フラスコに分注し、121℃で20分間滅菌した。この培地に、SY寒天培地によく生育させたアクチノアロムルス エスピー No.645122株をかきとって接種し、30℃、220回転/分の条件で7日間振とう培養し、種培養液とした。次に、グルコース1%、Pinedex#3(松谷化学工業) 6%、きな粉1%、乾燥酵母3%、コーンスティープリカー1%、硫酸マグネシウム7水和物 0.05%、炭酸カルシウム 0.2%、アデカノールLG-109(ADEKA)0.1%、シリコンKM70(信越化学工業) 0.1%よりなる培地(滅菌前pH 6.5)を30L容ジャーファーメンターに20L作製し、121℃で30分滅菌した。この培地に種培養液を400mL接種し、30℃で12日間培養した。
【0054】
培養液(30L)に等量のアセトンを加えて活性物質を抽出した。抽出液に等量の水を添加し、HP-20カラム(1.5L)に吸着させた。カラムを25%アセトンで洗浄した後、活性成分をアセトンで溶出した。溶出液に4倍量の水を加えて希釈し、ODSカラム(DAISOGEL SP-120-40/60-ODS-B, 1L)に吸着させ、40%アセトニトリルで活性成分を溶出した。活性成分を含むフラクションを減圧濃縮、凍結乾燥した。この凍結乾燥粉末を1Lの20%アセトニトリルに溶解し、ODSカラム(YMC-ODS-AM120-S50, 0.5L)に吸着させ、活性成分を37%アセトニトリルで溶出後、減圧濃縮、凍結乾燥し、化合物Iの橙色粉末412mgを得た。
【0055】
化合物Iは下記の物理化学的性状を示した。
色及び形状:橙色粉末
旋光度 [α]D23:+72°(c 0.2, メタノール)
分子式:C69H105NO32
高分解能ESIマススペククトル:
実測値:1459.65817(M+
計算値:1459.66198
赤外吸収スペクトル νmax(KBr)cm-1:3430, 2980, 2940, 2830, 1590, 1430, 1340, 1300, 1210, 1140, 1090, 1040, 910
紫外吸収スペクトル λmax nm (ε):メタノール 238 (35,600), 259 (28,800), 300 (7,100), 494 (15,800)
1H-NMRスペクトル(500MHz、重ピリジン中):図11の通り
13C-NMRスペクトル(125MHz、重ピリジン中):図12の通り
【0056】
上記物理化学的性状から実施例1の化合物(化合物I)はアントラサイクリン系化合物であると考えられた。各種2次元NMRスペクトルの結果を含めて解析し、化合物Iの構造を前記の構造式のように決定した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアクチノアロムルス エスピーNo.645122株は、良好な形質転換抑制作用及び/又は細胞外マトリクス産生抑制作用を有し、腎線維症、肺線維症等の組織線維化が関与する疾患の予防及び/又は治療剤となりうる式(I)の化合物を生産することができる。
【受託番号】
【0058】
アクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(あて名:〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM BP-11008(受託日2008年9月3日)として寄託されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物を生産する菌株。
【化1】

(式中、Meはメチル基である。)
【請求項2】
式(I)の化合物を生産する菌株がアクチノアロムルス エスピー(Actinoallomurus sp.) No.645122株(受託番号 FERM BP-11008)又はその変異株である請求項1に記載の菌株。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−211997(P2011−211997A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86091(P2010−86091)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(508080724)
【氏名又は名称原語表記】SIRIM Berhad
【住所又は居所原語表記】No.1,Persiaran Dato’ Menteri,Section 2,P.O.Box 7035,40911 Shah Alam,Selangor Darul Ehsan,Malaysia
【出願人】(508080735)
【氏名又は名称原語表記】TropBio Research Sdn.Bhd.
【住所又は居所原語表記】Suite 5.05,Wisma Maran,338,Jalan Tuanku Abdul Rahman,50100 Kuala Lumpur,Malaysia
【Fターム(参考)】