説明

アントラピリドン化合物又はその塩、インクジェット記録方法及び着色体

【課題】インクジェット記録に適する色相を有し、且つ記録物の耐水性に優れたマゼンタ色素となる化合物の提供。
【解決手段】式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩。


[式中、R1は水素原子、又はアルキル基を、R2は水素原子、又はアルキル基を、R3は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を、R4は水素原子、又はアルキル基を、nは1又は2の整数をそれぞれ表し、nが2のとき、R4は同一でも異なっていても良い。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアントラピリドン化合物又はその塩、該化合物を色素として含有するインク組成物、インクジェット記録方法、及びこれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法、すなわちインクジェット記録方法に用いるインクの1つとして、水溶性染料を水性媒体に溶解した水性インクが使用されている。水性インクに求められる性能としては、十分な濃度の記録画像を与えること;吐出ノズルの目詰まりを生じないこと;被記録材上での乾燥性がよいこと;滲みが少ないこと;保存安定性に優れること;等が要求される。また、コンピューターのカラーディスプレイ上の画像又は文字情報を、できるだけ忠実にフルカラーで再現するために、インクジェット記録に用いるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)のそれぞれのインクは、できるだけそれぞれの標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。さらに、インクジェット記録により得られる画像には、耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性(SOx、NOx、特にオゾンガスが挙げられる)等の画像の堅牢性が求められている。
【0003】
水性インクジェットインクに用いられるマゼンタ色素としては、キサンテン系色素と、1−アミノ−8−ヒドロキシ−ナフタレン−3,6−ジスルホン酸を用いたアゾ系色素が代表的である。しかし、前者は色相及び鮮明性は非常に優れるが耐光性が非常に劣る。また、後者は色相及び耐水性の点では良いものがあるが、耐光性及び耐オゾンガス性が劣る。また耐光性の向上を目的とし、アゾ系色素の金属錯体も提案されているが、鮮明性及び耐オゾンガス性が極めて劣る。
【0004】
鮮明性、耐酸化性ガス性及び耐光性に優れるマゼンタ色素としては、アントラピリドン系色素(例えば、特許文献1〜13参照)が挙げられる。しかし、色相、鮮明性、耐光性、耐湿性、耐水性、耐酸化性ガス性、及び該色素を含有するインク(組成物)の保存安定性の全てを満足させるものは依然として得られていない。
特許文献9、12及び13には、2分子のアントラピリドン化合物を架橋基により架橋した構造を有するマゼンタ色素、及び該色素を含有するインク組成物が開示されている。
近年ではインクジェット記録によりビジネス文書を記録(印刷)する機会も増しており、この際には普通紙を用いたときの耐水性が重要視されているが、十分な性能を有するマゼンタ色素は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−306221号公報
【特許文献2】特開2000−109464号公報
【特許文献3】特開2000−169776号公報
【特許文献4】特開2000−191660号公報
【特許文献5】特開2000−256587号公報
【特許文献6】特開2001−72884号公報
【特許文献7】特開2001−139836号公報
【特許文献8】国際公開2004/104108号パンフレット
【特許文献9】特開2003−192930号公報
【特許文献10】特開2005−8868号公報
【特許文献11】特開2005−314514号公報
【特許文献12】国際公開2006/075706号パンフレット
【特許文献13】国際公開2008/066062号パンフレット
【特許文献14】国際公開2009/093433号パンフレット
【特許文献15】特許−3957450
【特許文献16】特許−4018353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は耐水性、特に普通紙における耐水性に優れた記録画像を与える、マゼンタ色素を含有するインク組成物、特にインクジェット記録用のインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、特定の式(1)で表わされる化合物を色素として含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち本発明は、以下の1)〜15)に関する。
1)
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩、
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、
1は水素原子、又はアルキル基を表し、
2は水素原子、又はアルキル基を表し、
3は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、
4は水素原子、又はアルキル基を表し、
nは1又は2の整数を表し、
nが2のとき、R4は同一でも異なっていても良い。]。
【0010】
2)
3が水素原子、又はハロゲン原子である前記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
3)
1が水素原子、又はアルキル基であり、
2が水素原子、又はアルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はアルキル基であり、
nが1である、
前記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
また、この構成として、特に好ましくはR1が水素原子、又はC1−C4アルキル基であり、
2が水素原子、又はC1−C4アルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はC1−C4アルキル基であり、
nが1である前記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩が挙げられる。
4)
1がアルキル基であり、
2が水素原子、又はアルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はアルキル基であり、
nが1である、
前記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
また、この構成として、特に好ましくはR1がC1−C4アルキル基であり、
2が水素原子、又はC1−C4アルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はC1−C4アルキル基であり、
nが1である前記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩が挙げられる。
5)
前記1)乃至4)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、及び水を含有するインク組成物。
6)
水溶性有機溶剤をさらに含有する前記5)に記載のインク組成物。
7)
アントラピリドン化合物又はその塩の総質量中に含まれる無機不純物の含有量が、該化合物又はその塩の総質量に対して1質量%以下である前記5)又は6)に記載のインク組成物。
8)
アントラピリドン化合物又はその塩の含有量が、インク組成物の総質量に対して0.1〜20質量%である前記5)乃至7)のいずれか一項に記載のインク組成物。
9)
インクジェット記録に用いる前記5)乃至8)のいずれか一項に記載のインク組成物。
10)
前記9)に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させ、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
11)
被記録材が情報伝達用シートである前記10)に記載のインクジェット記録方法。
12)
情報伝達用シートが普通紙であるか、又は多孔性白色無機物を含有したインク受容層を有するシートである、前記11)に記載のインクジェット記録方法。
13)
前記5)乃至9)のいずれか一項に記載のインク組成物で着色された着色体。
14)
前記10)に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体。
15)
前記9)に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐水性、特に普通紙における耐水性に優れた記録画像を与える、マゼンタ色素及びそれを含有するインク組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書においては煩雑さを避けるため、以下においては特に断りがない限り、本発明の(アントラピリドン)「化合物又はその塩」の両者を含めて、本発明の(アントラピリドン)「化合物」と簡略化して記載し、両者を含めた意味を有するものとする。
【0013】
本発明の化合物は前記式(1)で表される水溶性の色素、すなわち染料である。
【0014】
式(1)中、R1、R2、R3、及びR4におけるアルキル基としては、直鎖、分岐鎖又は環状のものが挙げられ、直鎖又は環状のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。炭素数の範囲としては通常C1−C6、好ましくはC1−C5、より好ましくはC1−C4の範囲が挙げられる。
但し、分岐鎖又は環状のものについてはC3−C6の炭素数の範囲が好ましく挙げられる。
【0015】
1としてはアルキル基が好ましい。
2及びR4としては水素原子が好ましい。
3としては水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0016】
前記アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、といった分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の環状のもの;等が挙げられる。
具体例の中では、メチル、エチル、シクロヘキシルが好ましく挙げられる。
具体例の中ではそれぞれ、
1としてはメチル又はエチルがより好ましく、エチルが特に好ましい、
2としてはメチルが好ましい、
3としてはメチル又はエチルがより好ましく、メチルが特に好ましい、
4としてはメチル又はエチルが特に好ましい。
【0017】
3におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられ、塩素原子又は臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0018】
3におけるアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数の範囲としては通常C1−C6、好ましくはC1−C4の範囲が挙げられる。但し、分岐鎖のとき、炭素数の範囲としては通常C3−C6、好ましくはC3−C4の範囲が挙げられる。その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシロキシ等の直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、tert−ペントキシ、tert−ヘキシロキシ等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。これらの中では、メトキシ、エトキシが好ましく挙げられる。
【0019】
nは置換位置の特定されていない「−(CO24)」基の数を意味し、1又は2の整数を表す。nとしては1の整数が好ましい。nが2のとき、2つの「−(CO24)」基におけるR4は、同一でも異なっていても良い。
【0020】
式(1)中、置換位置の特定されていない「−(CO24)n」基の置換位置は特に制限されないが、これらの基が置換するベンゼン環上の、酸素原子の置換位置を1位として、nが1のとき3位又は4位に(より好ましくは3位に)、nが2のとき3位及び5位に置換するのが好ましい。
【0021】
式(1)中、置換位置の特定されていないR3の置換位置は特に制限されないが、置換するベンゼン環上の窒素原子の置換位置を1位、スルホ基及びカルボキシ基の置換位置をそれぞれ2位及び4位として、3位、5位、又は6位に置換するのが好ましく、5位がより好ましい。
【0022】
式(1)中、R1乃至R4、及び特定されていない置換位置において、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。さらに好ましいもの同士の組み合わせや、好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0023】
前記式(1)で表される化合物の塩は、無機又は有機陽イオンと形成する塩である。無機陽イオンと形成する塩としては、アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムの各陽イオン;又は、アンモニウム(NH);と形成する塩等が好ましく挙げられる。
有機陽イオンと形成する塩としては、下記式(2)で表される有機アンモニウムと形成する塩等が好ましく挙げられる。
【0024】
【化2】

【0025】
式(2)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わし、Z1乃至Z4の少なくともいずれか1つは水素原子以外の基である。
【0026】
式(2)中、Z1乃至Z4における具体例としては、メチル、エチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等のC1−C6アルキル基(好ましくはC1−C4アルキル基);ヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルキル基);ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルコキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基);等が挙げられる。
【0027】
これらのうちより好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アンモニウム等の各陽イオンと形成する塩が挙げられる。これらの中で特に好ましいものとしては、リチウム、アンモニウム及びナトリウムの各塩が挙げられる。
【0028】
式(1)で表される化合物の塩は、単一の塩;複数種類の混塩;又は、遊離酸と塩との混合物;等のいずれであってもよい。式(1)で表される化合物は、その塩の種類により溶解性等の物理的な性質;又は、該化合物を含有するインクの性能、特に堅牢性に関する性能;等が変化する場合もある。このため目的とするインクの性能等に応じて、塩の種類を選択することも好ましく行われる。
遊離酸から各種の塩を造塩する方法;各種の塩から遊離酸を得る方法;特定の塩から他の塩へ塩を交換する方法;等については、いずれも当業者であれば周知の方法が使用できる。
【0029】
本発明の前記式(1)で表される化合物の具体例を下記表1に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
各表中、R1乃至R4は、式(1)におけるR1乃至R4に対応する。
また、R3の各基の先頭に数字を付与したものは、前記したこれらの基の置換位置を意味する。一例として、R3の欄における「5−OMe」は、R3が5位に置換したメトキシ基であることを意味する。
また、「R4(置換位置)」の欄は、R4の具体的な基と、括弧内にその置換位置を記載した。一例としてnが2の整数、すなわち「−(CO24)」基が2つあるとき、「H(3),Me(5)」は、一方のR4がHであり、その置換位置が3位、他方のR4がMeであり、その置換位置が5位であることを意味する。置換位置については前記した通りの意味である。
【0030】
表中の略号等の意味は、それぞれ以下の通りである。
H:水素原子。
Me:メチル基。
Et:エチル基。
n−Pr:ノルマルプロピル基。
SO3H:スルホ基。
OMe:メトキシ基。
Cl:塩素原子。
Br:臭素原子。
F:弗素原子。
n−Bu:ノルマルブチル基。
tert−ペンチル:tertiary−ペンチル基
【0031】
【表1】

【0032】
以下に式(1)で表される化合物の製造方法を記載する。なお下記式(101)〜(107)中に記載のR1乃至R4及びnは、前記式(1)におけるのと同じ意味を表す。なお、製造方法中に記載の化合物のモル数等については、代表的な例であり、当業者であれば、必要に応じて適宜増減が可能なことを理解できる。
下記式(101)の化合物1モルに、下記式(102)の化合物1〜5モル、炭酸カリウム等の塩基1〜5モルを加え、ジメチルホルムアミド(DMF)中、80〜130℃で反応することにより、下記式(103)の化合物が得られる。
なお、式(101)及び式(103)中、Xはハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;より好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;特に好ましくは臭素原子)を表す。
【0033】
【化101】

【0034】
【化102】

【0035】
【化103】

【0036】
次いで得られた式(103)の化合物1モルに、下記式(104)であらわされる化合物1.1〜3モルを、キシレン等の極性溶媒中、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物の存在下、130〜180℃で5〜15時間反応を行い、目的とする下記式(105)の化合物を得る。式(104)におけるR104はアルキル基(好ましくはC1−C6アルキル基、より好ましくはC1−C4アルキル基)を表し、具体的にはメチル又はエチルが好ましい。式(104)の化合物は、市販品として入手することもできる。
なお、式(105)中、Xは前記式(101)及び式(103)と同じ意味を表す。
【0037】
【化104】

【0038】
【化105】

【0039】
次いで、得られた式(105)の化合物1モルに、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中、炭酸ナトリウムのような塩基及び酢酸銅のような銅触媒の存在下、下記式(106)で表される化合物1.1〜3モルを、110〜150℃で1〜60時間反応させることにより、下記式(107)で表される化合物を得る。
【0040】
【化106】

【0041】
【化107】

【0042】
得られた式(107)の化合物を5〜20%発煙硫酸中、0〜120℃でスルホ化することにより、前記式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0043】
前記式(1)で表される化合物は、該化合物の総質量中に不純物として含有される金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム等)及び硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム等)等の無機不純物の少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は、例えば式(1)で表される化合物の総質量に対して1質量%以下程度である。無機不純物の少ない本発明の化合物を製造する方法としては、例えば逆浸透膜を用いる公知の方法;C1−C4アルコール(又は場合により含水の該アルコール)等に懸濁させて精製する方法;又は、陰及び陽イオン交換樹脂を適宜用いる公知の方法;等により脱塩処理する方法が挙げられる。
【0044】
本発明のインク組成物は、前記式(1)で表される化合物を色素成分とし、該化合物を水又は水性溶媒(後記する水溶性有機溶剤を含有する水)に溶解したものである。本発明のインク組成物は、例えば前記式(1)で表される化合物の合成工程における、最終工程終了後の反応液等を、インク組成物の製造に直接使用することが出来る。また前記反応液から目的物を例えば晶析;又はスプレー乾燥;等の操作により単離し、これを乾燥させた後、インク組成物に使用することもできる。
本発明のインク組成物は、前記式(1)で表される化合物を通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有する。本発明のインク組成物は、水溶性有機溶剤を0〜30質量%、好ましくは5〜20質量%;またインク調製剤を0〜10重量%;それぞれ含有してもよい。水溶性有機溶剤は染料の溶解、インク組成物の乾燥の防止、粘度の調整、被記録材への浸透の促進、表面張力の調整、消泡等の効果を期待して使用され、インク組成物中に含有する方が好ましい。
【0045】
本発明のインク組成物は、少なくとも1種類の前記式(1)で表される化合物を含有する組成物であり、化合物の種類、及びその数は特に制限されない。例えばインク組成物の色相や印字(記録)濃度等を、望みのものに(微)調整する等の目的で、複数の化合物を配合してもよい。
【0046】
本発明のインク組成物に使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール(アルコール);N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル又はエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γ−ブチロラクトン;又はジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
【0047】
前記のうち好ましいものとしては、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0048】
以下、本発明のインク組成物の調製に使用しうるインク調製剤について記載する。インク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤及び界面活性剤等が挙げられる。
【0049】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤としてソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、無水酢酸ナトリウム、及びアベシア社製、商品名:プロクセルRTMGXL(S)、プロクセルRTMXL−2(S)等が挙げられる。
なお、本明細書において上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0050】
pH調整剤としては、調製されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを7.5〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;等が挙げられる。
【0051】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0052】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0053】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン、スルホ化されたベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0054】
水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0055】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0056】
界面活性剤としては、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0058】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0059】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他としてイミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0060】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレンアルコール系;他の具体例として、日信化学社製、商品名サーフィノールRTM104E、同104PG50、同82、同465、商品名オルフィンRTMSTG等;等が挙げられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0061】
本発明のインク組成物は水性インク組成物であり、前記式(1)で表される化合物を水又は前記水性溶媒(水溶性有機溶剤を含有する水)に前記インク調製剤等と共に溶解させることによって製造できる。
【0062】
本発明のインク組成物の製造方法において、各成分を溶解させる順序には特に制限はない。あらかじめ水又は前記水性溶媒に本発明の化合物を溶解させ、インク調製剤を添加してもよいし、該化合物を水に溶解させた後、水溶性有機溶剤、インク調製剤を添加してもよい。またこれと順序が異なっていてもよい。さらに、本発明の化合物の合成反応における最終工程終了後の反応液;又は本発明の化合物に対して逆浸透膜による脱塩処理を行うことにより得られた水溶液;等に、水溶性有機溶剤、インク調製剤等を添加してインク組成物を製造してもよい。
インク組成物の調製に用いる水は、イオン交換水又は蒸留水等の不純物の少ないものが好ましい。このようにして調製されたインク組成物は、必要に応じてメンブランフィルター等を用いた精密濾過を行って夾雑物を除いてもよい。該インク組成物をインクジェット記録に用いるときは、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは0.8μm〜0.1μmである。
【0063】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、該インク組成物の(小)液滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させ、記録を行う方法である。本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物をマゼンタインクとして単独で使用することもできるが、例えばイエロー、シアン、グリーン、オレンジ、ブルー(又はバイオレット)及び必要に応じてブラック等の各色のインク組成物とを併用し、フルカラーの記録画像を得ることもできる。この際には、前記の各色から適宜選択されるインク組成物をそれぞれ含有する容器を、インクジェットプリンタの所定の位置にそれぞれ装填して使用すればよい。
インクジェットプリンタの吐出方式としては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生じる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等が挙げられる。本発明のインク組成物は、これらのいずれの吐出方式においても使用することが可能である。
【0064】
本発明のインクジェット記録方法に用いられる被記録材としては、例えば、紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、及びカラーフィルター用基材等が挙げられる。
情報伝達用シートとしては表面処理されたもの、具体的には基材(例えば前記の被記録材)にインク受容層を設けたもの等が好ましい。インク受容層は、例えば基材にカチオンポリマーを含浸あるいは塗工すること;多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等、インク中の色素を吸着し得る多孔性白色無機物を、ポリビニルアルコールやポリビニールピロリドン等の親水性ポリマーと共に基材表面に塗工すること;等により設けられる。このようなインク受容層を設けたものは、通常インクジェット専用紙(フィルム)や光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。市販品としては例えば、(株)ピクトリコ製、商品名ピクトリコRTMプロ;キヤノン社製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー;エプソン(株)製、商品名クリスピアRTM、写真用紙(光沢)、フォトマット紙、スーパーファイン専用光沢フィルム;日本ヒューレットパッカード(株)製、商品名アドバンスフォトペーパー、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙;コニカミノルタフォトイメージング(株)製、商品名フォトライクQP;等が挙げられる。
なお、インク受容層を特に設けていない情報伝達用シート、例えばPPC(プレインペーパーコピー)用紙等の普通紙も、被記録材として当然使用できる。
【0065】
前記の多孔性白色無機物としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられる。
【0066】
本発明の着色体とは、本発明の化合物又は該化合物を含有するインク組成物により着色された物質を意味する。着色される物質には特に制限はなく、例えば前記の被記録材等が挙げられるが、着色することができる物質であればこれらに限定されない。
着色方法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェット記録方法等が挙げられる。本発明の着色体としては、本発明のインクジェット記録方法により着色された着色体が好ましい。
【0067】
本発明のインク組成物は鮮明なマゼンタ色であり、特に光沢紙において鮮明性の高い色相を有し、記録画像の堅牢性も高い。又、人に対する安全性も高い。
【0068】
本発明のインク組成物は、例えば印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング等の各種の記録や印刷用途に用いることが可能であり、特にインクジェット記録用インクとして好適に用いられる。本発明のインク組成物は、インクジェット専用紙や光沢紙に記録した画像の印字濃度が高く、インクジェット記録に適した色相を有する。
また、その記録画像の耐水性、耐光性、耐オゾン性、耐摩擦性、及び耐湿性等の各種堅牢性が非常に高いという特徴を有する。
特に、本発明の化合物及びこれを含有するインク組成物により普通紙に記録された画像は耐水性が高いため、例えばビジネス文書の記録等のように、普通紙に記録する際にも極めて有用である。
本発明のインク組成物は貯蔵中に沈殿、分離することがなく、保存安定性が極めて高い。また、本発明の化合物は水溶解性に優れるため、これを含有する本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出は非常に起こりにくく、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は、連続式インクジェットプリンタにおける比較的長時間の一定の再循環下での使用;又は、オンデマンド式インクジェットプリンタにおける断続的な使用;等の使用環境においても物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。また、各反応及び晶析等の操作は、特に断りのない限り攪拌下に行った。
また実施例中の各化合物又は混合物の最大吸収波長(λmax)は、特に断りの無い限り、pH5〜8の水溶液中での測定値を記載した。
なお、一回の合成反応で目的化合物の必要量が得られなかったときは、必要量が得られるまで同じ合成反応を繰り返し行った。
【0070】
[実施例1]
(工程1)
N,N−ジメチルホルムアミド96.0部中に、1−アミノ−2,4−ジブロモアントラキノン30.5部、炭酸カリウム8.6部、3−ヒドロキシ安息香酸エチル24.0部を添加し、115〜120℃で23時間反応させた。この反応液を80℃まで冷却し、メタノール150mlを滴下、析出した固体を濾過分取し、乾燥させることにより下記式(3)で表される化合物の赤色粉末22.7部を得た。
【0071】
【化3】

【0072】
(工程2)
キシレン75ml中に、実施例1(工程1)で得られた式(3)の化合物22.7部、炭酸ナトリウム0.5部、マロン酸ジエチル24.0部を添加し、140〜145℃で8時間反応した。その際、反応で生成するエタノールと水とを、キシレンと共沸させながら系外へ留出させ、反応を完結させた。この反応液を90℃まで冷却し、メタノール100mlを滴下、析出固体を濾過分取し、乾燥させることにより下記式(4)で表される化合物の赤色粉末18.9部を得た。
【0073】
【化4】

【0074】
(工程3)
N,N−ジメチルホルムアミド30部中に、実施例1(工程2)で得られた式(4)の化合物21.0部、4−アミノ安息香酸15.4部、酢酸銅(II)1水和物4.5部及び酢酸ナトリウム3.4部を添加し、125〜120℃で8時間反応した。この反応液を90℃まで冷却し、メタノール100mlを滴下、析出固体を濾過分取し、乾燥することにより、下記式(5)で表される化合物の赤色粉末17.7部を得た。
【0075】
【化5】

【0076】
(工程4)
98%硫酸10.6部に、水冷しながら31.8%発煙硫酸13.5部を加えて、10%発煙硫酸24.1部を調製した。水冷下、実施例1(工程3)で得られた式(5)で表される化合物3.1部を15℃以下で加えた後、18℃で2時間、25℃で2時間反応した。この反応液を氷水50部中に加えた。その間、氷を加えながら発熱による液温の上昇を40℃以下に保持した。得られた液から析出した固体を濾過分離し、この固体を水50部に加えた。得られた液に25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.5に調整して固体を溶解後、塩化ナトリウム1.5部を加えて析出する固体を濾過分取し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを水60部中に加え、60℃で1時間攪拌後、メタノール100mlを加え、析出する固体を濾過分取、乾燥することにより、下記式(6)で表される本発明の化合物の赤色固体1.1部を得た。
【0077】
【化6】

【0078】
[実施例2]
(A)インクの調製
上記実施例1で得られた式(6)で表される化合物を色素として用い、下記表2に示す組成の本発明のインク組成物を得た。得られたインク組成物を0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除き、評価試験用のインクを得た。インク組成物の調製に用いた水はイオン交換水であり、インク組成物のpHがおよそ9.0となるように水酸化ナトリウム水溶液で調整後、総量が100部になるように水を加えた。このインクの調製を実施例2とする。
なお、下記表2中、「サーフィノール104PG50」は商品名であり、日信化学社製のアセチレングリコール系ノニオン界面活性剤である。
【0079】
【表2】

【0080】
[比較例1]
実施例1で得られた上記式(6)で表される化合物のかわりに、特許文献7の実施例1で得られた化合物を色素として用いる以外は実施例2と同様にして、比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例1とする。用いた色素の構造式を下記式(10)に示す。
【0081】
【化10】

【0082】
(B)インクジェット記録
インクジェットプリンタ(キヤノン社製 商品名:PIXUSRTMip4500)により、実施例2及び比較例1で調製したインクを用いて3種類の普通紙にインクジェット記録を行うことにより記録物を得た。記録に用いた3種類の普通紙は、下記の普通紙1〜普通紙3である。
普通紙1:
Hewlett Packard社製
商品名Multipurpose Paper
普通紙2:
Hewlett Packard社製
商品名All−in−One Printing Paper
普通紙3:
キヤノン社製
商品名PB PAPER GF−500
【0083】
なお、下記a)及びb)の2種類のパターンが得られるようにインクジェット記録を行い、これを評価試験の試験片として用いた。
パターンa):
チェック柄のパターン(濃度100%と0%の1.5mm角正方形を交互に組み合わせたパターン)を作成し、コントラストの高いマゼンタ−ホワイトの記録物を得た。なお、該ホワイトの部分は、記録されていない普通紙の生地の部分である。
この試験片は[耐水性試験1](浸漬試験)に用いた。
パターンb):
反射濃度が数段階の階調で得られるように画像パターンを作成し、マゼンタ色のグラデーションを有する記録物を得た。
この試験片は[耐水性試験2](ふき取り試験)に用いた。
【0084】
試験結果の解析で反射濃度を測色したときは、GretagMacbeth社製の測色システムである、商品名「SectroEye」を用いた。
測色条件は、濃度基準にDIN、視野角2°、光源D65の条件で行なった。
【0085】
得られた各試験片について、反射濃度(D値)が1.0付近の画像についてL*、a*、及びb*を測定し、C*を算出した結果、実施例2の試験片はインクジェット記録用のマゼンタ色素として好適な色相及び鮮明性を有していた。
耐水性試験2(ふき取り試験)の色相変化測定は、グラデーションを有する記録物を試験片として用い、試験前の記録物の反射濃度D値が1に最も近い部分についてL*,a*,b*の測定を行った。反射濃度は前記測色システムを用いて測定した。
記録画像の各種試験方法および試験結果の評価方法を以下に記載する。
【0086】
(C)耐水性試験1(浸漬試験)
インクジェット記録した後、24時間放置して乾燥したパターンa)の試験片を、イオン交換水中に1分浸漬した。水中から試験片を取り出した後にこれを放置して乾燥し、試験前後のL*、a*、b*を測色システムで測色し、色相変化ΔEを算出した。
結果を下記表3に示す。
【0087】
(D)耐水性試験2(ふき取り試験)
インクジェット記録した後、24時間放置して乾燥した試験片にイオン交換水を一滴落とし、1分後にこの水滴をふき取った。試験片を放置して乾燥後、試験前後でのL*、a*、b*を測色システムで測色し、色相変化ΔEを算出した。結果を下記表3に示す。
【0088】
ΔEの計算式は下記の通りであり、ΔL*、Δa*及びΔb*は、試験前後のL*、a*及びb*の差をそれぞれ意味する。
なお、ΔEは試験前後の色相変化を意味するため、小さい数値の方が優れた結果である。
ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2
【0089】
【表3】

【0090】
表3の結果より明らかなように、耐水性試験1及び試験2において実施例2は比較例1と比較しすぐれた値を示しており、極めて耐水性が優れる結果となった。特に、試験2の「ふき取り試験」では、比較例1に対して顕著な効果の差が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の化合物はインクジェット記録用のインク組成物を調製するのに適しており、各種の堅牢性、特に普通紙に記録した画像の耐水性に極めて優れ、また水溶解性が高く、マゼンタ色として良好で鮮明な色相を有する。これらの特徴から、本発明の化合物及びこれを含有するインク組成物は各種の記録インク、特にインクジェット記録インクの用途に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩、
【化1】

[式(1)中、
1は水素原子、又はアルキル基を表し、
2は水素原子、又はアルキル基を表し、
3は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、
4は水素原子、又はアルキル基を表し、
nは1又は2の整数を表し、
nが2のとき、R4は同一でも異なっていても良い。]。
【請求項2】
3が水素原子、又はハロゲン原子である請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
【請求項3】
1が水素原子、又はアルキル基であり、
2が水素原子、又はアルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はアルキル基であり、
nが1である、
請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
【請求項4】
1がアルキル基であり、
2が水素原子、又はアルキル基であり、
3が水素原子であり、
4が水素原子、又はアルキル基であり、
nが1である、
請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、及び水を含有するインク組成物。
【請求項6】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
アントラピリドン化合物又はその塩の総質量中に含まれる無機不純物の含有量が、該化合物又はその塩の総質量に対して1質量%以下である請求項5又は6に記載のインク組成物。
【請求項8】
アントラピリドン化合物又はその塩の含有量が、インク組成物の総質量に対して0.1〜20質量%である請求項5乃至7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
インクジェット記録に用いる請求項5乃至8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させ、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項11】
被記録材が情報伝達用シートである請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
情報伝達用シートが普通紙であるか、又は多孔性白色無機物を含有したインク受容層を有するシートである、請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
請求項5乃至9のいずれか一項に記載のインク組成物で着色された着色体。
【請求項14】
請求項10に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体。
【請求項15】
請求項9に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ。

【公開番号】特開2012−236912(P2012−236912A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106798(P2011−106798)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】