説明

アンドロゲン受容体結合阻害剤

【課題】シャクヤク成分で、アンドロゲン受容体結合阻害活性を示す化合物の提供。
【解決手段】式(I)で表される化合物。


[式中、Aは以下の構造である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)に含まれるアンドロゲン受容体結合阻害剤、ならびにアンドロゲン受容体結合阻害活性を有する新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
生薬芍薬は、シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)の根であり、主として漢方処方用薬として用いられ、例えば当帰芍薬散、四物湯、桂枝茯苓丸などに用いられている。特に、更年期障害や月経不順などの婦人用漢方処方用薬に使用されている(非特許文献1、2)。一方、シャクヤク抽出物がテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有することが報告されている(特許文献1)が、シャクヤク成分の具体的化合物の男性ホルモン様作用化合物に関する報告は少ない。シャクヤク成分であるペンタガロイルグルコースの5α―リダクターゼ阻害作用およびアンドロゲン受容体発現抑制作用について報告があるのみで、アンドロゲン受容体結合阻害活性については触れられていない(非特許文献3)。
【0003】
アンドロゲン受容体結合阻害剤としては、ステロイド系のクロルマジノンや非ステロイド系のビカルタミド、フルタミドが前立腺癌治療薬として臨床的に使用されており、強い活性を示すが、副作用も多く報告されている。従って、副作用の少ない植物由来のアンドロゲン受容体結合阻害剤も望まれており、種々の植物の抽出物のアンドロゲン受容体結合阻害剤が数多く提案されている(特許文献2、3等およびその引用文献)。しかし、効果の強さなどから、いまだ満足する効果を発揮するものは得られていないし、また、結合阻害活性を有する具体的化合物は、未だ特定されていないものが多く、植物由来のアンドロゲン受容体結合阻害作用を示す化合物として、ノビレチン(特許文献4)、5−ヒドロキシフラボン(特許文献5)などの報告が散見されるだけである。
【0004】
【特許文献1】特開平8−26937号公報
【特許文献2】特開2007−230916号公報
【特許文献3】特開2006−257059号公報
【特許文献4】特開2005−206546号公報
【特許文献5】特開2002−326931号公報
【非特許文献1】Y.Kumagaiら、J.Trad.Med.22巻、228−236頁、2005年
【非特許文献2】K.Watanabeら、J.Trad.Med.23巻、203−207頁、2006年
【非特許文献3】H−H.Leeら、Carcinogenesis、27巻、1109−1118頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シャクヤクの中で、「大和シャクヤク」と称されるものは、古くから奈良県下で栽培、育成され、薬用に用いられる優良品種であり、その生薬は、高品質として高値で取引されているが、生薬芍薬と同様にペオニフロリンやアルビフロリン以外の薬効成分に関する報告は少ない。従って、本発明は、大和シャクヤクを含めたシャクヤク成分の中で、ホルモン様作用、特にアンドロゲン受容体結合阻害活性を示す化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、シャクヤク成分の中に、アンドロゲン受容体阻害活性を示す化合物、ならびにアンドロゲン受容体結合阻害活性を有する新規化合物を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]式(I)
【0008】
【化1】


[式中、
Aは、
【0009】
【化2】


であり、
,R,R,Rは、水素原子または置換されていてもよいベンゾイル基を示し、 R〜Rのうち少なくとも1つは置換されていてもよいベンゾイル基を示し、
は水素原子または水酸基を示す。]で表される化合物、その塩またはそのプロドラッグを含有してなるアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[2]置換されていてもよいベンゾイル基がベンゾイル基またはガロイル基である[1]記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[3]式(I)中、Aが、
【0010】
【化3】


であり、
は前記と同一意味を表し、
,R,R,Rのいずれか1つがベンゾイル基またはガロイル基である[1]または[2]記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[4]式(I)中、Aが、
【0011】
【化4】


であり、
,R,R,Rのうち2つ以上がガロイル基である[1]記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[5]アンドロゲン受容体アンタゴニストである[1]〜[4]いずれかに記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[6]前立腺肥大、前立腺癌、多毛症、男性型脱毛症、にきび(尋常性ざ瘡)の治療・予防剤である[1]記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤;
[7]式(II)
【0012】
【化5】


で表される化合物またはその塩;
[8]式(III)
【0013】
【化6】


で表される化合物またはその塩;
[9]式(IV)
【0014】
【化7】


で表される化合物またはその塩;
[10][7]〜[9]いずれかに記載の化合物のプロドラッグ;
[11][7]〜[9]いずれかに記載の化合物または[10]記載のプロドラッグからなる医薬;
[12] [7]〜[9]いずれかに記載の化合物または[10]記載のプロドラッグを含有するアンドロゲン受容体結合阻害剤;
などを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、シャクヤク成分で、アンドロゲン受容体結合阻害活性を示す置換されていてもよいベンゾイル基で置換されたアルビフロリンまたはペオニフロリン誘導体、ぺンタガロイルグルコース、およびアンドロゲン受容体結合阻害活性を有する新規化合物、ならびにこれらアンドロゲン受容体結合阻害剤を含有する前立腺肥大、前立腺癌、多毛症、男性型脱毛症、にきび(尋常性ざ瘡)の治療・予防剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において、本発明を詳細に説明する。式(I)において、R、R、RまたはRで示される「置換されていてもよいベンゾイル基」における「ベンゾイル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、低級アルキル基(例、メチル、エチル、プロピルなど炭素数1−6の直鎖状または分枝状のアルキル基)、低級アルケニル基(例、ビニル、アリル、イソプロペニルなどの炭素数2−6の直鎖状または分枝状のアルケニル基)、シクロアルキル基(例、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなど炭素数3−6のシクロアルキル基)、置換されていてもよい水酸基(例、水酸基、メトキシ、エトキシ、プロポキシなど炭素数1−4のアルコキシ基など)、置換されていてもよいチオール基(例、メルカプト、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオなど炭素数1−4のアルキルチオなど)、置換されていてもよいアミノ基(例、アミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノなどの炭素数1−4のアルキルアミノ、ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルプロピルアミノ、ジプロピルアミノなどの炭素数2−8のジアルキルアミノなど)、ハロゲン(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)等が挙げられ、これらの置換基を1ないし5個有していてもよく、2個以上を有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。これらの置換基のなかで、水酸基が特に好ましい。
【0017】
式(I)、(II)、(III)または(IV)で表される化合物またはその塩[以下、化合物(I)、(II)、(III)または(IV)と略記することがある]の具体的化合物としては、例えば、6’−O−ガロイルアルビフロリン、6’−O−ベンゾイルアルビフロリン、6’−O−ベンゾイルペオニフロリン、6’−O−ガロイルペオニフロリン、ベンゾイル−オキシペオニフロリン、ガロイル−オキシペオニフロリン、3’−O−ガロイルペオニフロリン、4’−O−ガロイルペオニフロリン、4−O−ガロイルアルビフロリン、トリガロイルグルコース、ペンタガロイルグルコースおよびテトラガロイルグルコース等が挙げられる。
【0018】
式(I)、(II)、(III)または(IV)で表される化合物の塩としては、無機塩基塩あるいは有機塩基塩が挙げられ、該無機塩基塩を生成させうる無機塩基としてはアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム)等が、該有機塩基塩を生成させうる有機塩基としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0019】
化合物(I)、(II)、(III)または(IV)[以下、化合物(I)〜(IV)と略記することがある]が、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体を含有する場合には、これらも化合物(I)〜(IV)として含有されるとともに、自体公知の合成手法、分離手法によりそれぞれを単品として得ることができる。例えば、化合物(I)〜(IV)に光学異性体が存在する場合には、該化合物から分割された光学異性体も化合物(I)〜(IV)に包含される。該光学異性体は、自体公知の方法により製造することができる。
【0020】
化合物(I)〜(IV)のプロドラッグとは、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により、それぞれ化合物(I)〜(IV)に変換する化合物、すなわち酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こして化合物(I)〜(IV)に変化する化合物、胃酸等により加水分解等を起こして化合物(I)〜(IV)に変化する化合物をいう。化合物(I)〜(IV)のプロドラッグとしては、例えば、化合物(I)〜(IV)の水酸基がアシル化、アルキル化、リン酸化またはホウ酸化された化合物[例、化合物(I)〜(IV)の水酸基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、サクシニル化、フマリル化、アラニル化またはジメチルアミノメチルカルボニル化された化合物]等が挙げられる。これらの化合物は、自体公知の方法によって化合物(I)〜(IV)から製造することができる。
【0021】
化合物(I)〜(IV)は、シャクヤクの根を粉砕あるいは細断後、水、有機溶媒、またはその混合溶媒で抽出後、抽出液をカラムクロマトグラフィー等で分離精製して得られる。他方、化合物(I)〜(IV)は、市販のペオニフロリン、アルビフロリンまたはグルコースを、置換されていてもよいベンゾイル反応性誘導体で、それ自体公知の方法でアシル化しても得られる。置換されていてもよいベンゾイル反応性誘導体としては、例えば、酸ハライド(例、酸クロリド、酸ブロミド)、混合酸無水物(炭素数1−6アルキルカルボン酸または炭素数1−6アルキル炭酸との酸無水物)、活性エステル(例、p−ニトロフェノール、ペンタクロロフェノール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールまたはN−ヒドロキシスクシンイミドとのエステル)等が挙げられる。
【0022】
シャクヤクの根からの抽出に用いられる溶媒としては、水、ならびにアルコール類、ケトン類、酢酸エステル類、エーテル類、ハロゲン系炭化水素および炭化水素類等の有機溶媒が用いられる。アルコール類としては、炭素数1−4のアルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールおよびイソブタノール等が好ましい。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、酢酸エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましく、エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルが好ましく、ハロゲン系炭化水素としては、クロロホルム、ジクロロメタンが好ましく、炭化水素類としては、ヘキサン、トルエンが好ましい。これら溶媒は、単独でも2種類以上を混合して用いても良い。
【0023】
本発明において、アンドロゲン受容体結合阻害剤とは、内在性、非内在性リガンドとアンドロゲン受容体との結合を妨害するものを意味し、その妨害の方法はいかなるものであってもよい。妨害方法としては、例えば、内在性リガンドの5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)がアンドロゲン受容体に結合するよりも先に阻害剤が結合することでアンドロゲン受容体に5α−DHTが結合できなくするなどが考えられ、具体的には、競合的拮抗薬、非競合的拮抗薬といったアンタゴニストが考えられる。結果として、アンドロゲンの過剰な分泌が軽減されるようであればよい。アンドロゲンの過剰な分泌を抑制することで、アンドロゲン依存性疾患の予防および/または治療ができるので、アンドロゲン受容体結合阻害剤は、アンドロゲン依存性疾患の予防および/または治療剤になり得る。
【0024】
本発明のアンドロゲン受容体結合阻害剤は医薬組成物として、経口または非経口的に投与することができる。例えば、前立腺癌、前立腺肥大等の予防・治療剤として使用する場合には、経口的に投与する製剤が好ましく、経口製剤としては錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、内服液剤等の剤形が好ましい。また、例えば、多毛症、ニキビ(尋常性ざ瘡)、男性型脱毛症等の予防・治療として使用する場合には、非経口的に投与、特に外用剤が好ましく、具体的な外用剤の製剤例としては、エキス剤、硬膏剤、酒精剤、座剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤等を挙げることができる。これらの製剤は、患者の年齢、症状等に応じて適当量を患部などに塗布または噴霧などすればよい。また、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド等の化粧料組成物に本発明のアンドロゲン受容体結合阻害剤を配合してもよい。
【0025】
製剤化は、公知の製剤技術により行うことができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物としては、賦形剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤および香料等を挙げることができる。
【0026】
本発明のアンドロゲン受容体結合阻害剤の含有量は、投与対象、投与ルート、疾患などにより適宜選択することができる。例えば、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約0.01〜100重量%、好ましくは約0.1〜50重量%程度である。本発明の医薬組成物における担体などの添加剤の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約1〜99重量%、好ましくは約10〜90重量%程度である。また、本発明のアンドロゲン受容体結合阻害剤の投与量は、投与対象、症状の軽重、年齢、性別、剤形、投与方法、投与期間等により異なるが、例えば、式(I)で表される化合物の成人に対する投与量としては、経口投与または非経口投与いずれの場合も、一日あたり約0.1〜約2000mg/kg、好ましくは約0.5mg〜約1000mg/kgである。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【0028】
実施例1(6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリンおよび6’−O−ガロイルペオニフロリンの単離)
乾燥したシャクヤク根(200g)を粉末化した後、熱水にて抽出した。抽出液を濃縮後ダイヤイオンHP−20(φ65X45mm)カラムクロマトグラフィーに付し、水、MeOH(20〜100%)にて分離・溶出した[Fr1(水)、Fr2(20%aq.MeOH)、Fr3(30%aq.MeOH)、Fr4(40%aq.MeOH)、Fr5(60%aq.MeOH)、Fr6(80%aq.MeOH)、Fr7(MeOH)]。Fr2〜5の画分を濃縮後、逆相ODS(カラム:cosmosil 140−C18,φ30X65mm、溶出溶媒:MeOH/H2O=10〜100%)カラムクロマトグラフィーで精製し、続いて逆相分取用HPLC(カラム:Inertsil ODS−3、φ20X250mm;溶出溶媒:35%aq.MeOH/0.1%HCOOH)で7フラクションに分離・溶出した。第3フラクションを濃縮後、逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:30%aq.MeOH)で分離・精製すると、6’−O−ガロイルアルビフロリンが淡黄褐色粉末として4.1mgおよびペンタガロイルグルコースが淡黄褐色粉末として12.7mg得られた。同様に上記第6フラクションを逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:15%aq.CH3CN)で分離・精製すると6’−O−ガロイルペオニフロリンが淡黄褐色粉末として26.6mg得られた。上記Fr6,7を濃縮後、ダイヤイオンHP−20(φ10X130mm)カラムクロマトグラフィーに付し、MeOH/H2O(60−100%)で溶出後、逆相分取用HPLC(カラム:Inertsil ODS−3、φ20X250mm;溶出溶媒:50%aq.MeOH/0.1%HCOOH)で分離・精製すると6’−O−ベンゾイルペオニフロリンが白色粉末として35.1mg得られた。
【0029】
6’−O−ガロイルアルビフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 633.18086[(M+H)+,633.18140 for C303315];H−NMR(CDOD):1.84(1H,d,15.6,H3a),1.98(1H,dd,6.4,5.6,H3b),4.02(1H,dd,5.6, 5.6,H4),2.83(1H,m,H5),1.75(1H,d,10.8,H7a),2.72(1H,dd,7.6,10.8,H7b),4.62(1H,d,12.0,H8a),4.72(1H,d,12.0,H8b),1.39(3H,s,H10),4.51(1H,m,H1’),3.26(1H,m,H2’),3.26(1H,m,H3’),3.26(1H,m,H4’),3.53(1H,m,H5’),4.49 (2H,m,H6’a and H6’b),8.06(2H,d,7.6,H2’’ and H6’’),7.49(2H,dd,7.6,7.6,H3’’ and H5’’),7.61(1H,t,7.6,H4’’),7.09(2H,s,H2’’’ and H6’’’)
【0030】
【化8】

【0031】
ペンタガロイルグルコースの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 939.11054[(M−H),939.11090 for C413126];H−NMR(CDOD):6.24(1H,d,8.4,H1),5.59(1H,m,H2),5.91(1H,dd,9.6,9.6,H3),5.62(1H,m,H4),4.41(1H,m,H5),4.40(1H,m,H6a),4.51(1H,d,10.8,H6b),7.12,7.08,7.05,6.98,6.95 and 6.90(2HX5,s,H2’ and H6’ in galloyl).
【0032】
【化9】

【0033】
6’−O−ベンゾイルペオニフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 583.18221[(M−H),583.18210 for C303112];H−NMR(CDOD):1.70(1H,m,H3a),1.84(1H,d,12.0,H3b),2.50(1H,m,H5),1.70(1H,m,H7a),2.50(1H,m,H7b),4.71(2H,s,H8),5.38(1H,s,H9),1.24(3H,s,H10),4.57(1H,d,8.0,H1’),3.25(1H,dd,8.0,8.4,H2’),3.35(2H,m,H3’ and H4’),3.60(1H,dd,7.2,7.2,H5’),4.50(1H,dd,7.2,11.6,H6’a),4.65(1H,dd,2.4,11.6,H6’b),8.03(4H,m,H2’’,H6’’,H2’’’ and H6’’’),7.48(4H,dd,6.8,7.2,H3’’,H5’’,H3’’’ and H5’’’),7.61(2H,t,7.2,H4’’ and H4’’’).
【0034】
【化10】

【0035】
6’−O−ガロイルペオニフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 631.16668[(M−H),631.16684 for C303115];H−NMR(CDOD):1.70(1H,m,H3a),1.84(1H,d,12.0,H3b),2.50(1H,m,H5),1.70(1H,m,H7a),2.50(1H,m,H7b),4.71(2H,s,H8),5.38(1H,s,H9),1.26(3H,s,H10),4.57(1H,d,8.0,H1’),3.25(1H,dd,8.0,8.4,H2’),3.35(2H,m,H3’ and H4’),3.60(1H,dd,7.2,7.2,H5’),4.50(1H,dd 7.2,11.6,H6’a) 4.65(1H,dd,2.4,11.6,H6’b),8.03(2H,d,8.0,H2’’ and H6’’),7.48(2H,dd,7.2,8.0,H3’’’ and H5’’),7.61(1H,t,7.2,H4’’),7.08(2H,s,H2’’’ and H6’’’).
【0036】
【化11】

【0037】
実施例2(3’−O−ガロイルペオニフロリンの単離)
乾燥したシャクヤク根(200g)を粉末化した後、熱水にて抽出した。抽出液を濃縮後ダイヤイオンHP−20(φ65X45mm)カラムクロマトグラフィーに付し、水、MeOH(20〜100%)にて分離・溶出した[Fr1(水)、Fr2(20%aq.MeOH)、Fr3(30%aq.MeOH)、Fr4(40%aq.MeOH)、Fr5(60%aq.MeOH)、Fr6(80%aq.MeOH)、Fr7(MeOH)]。Fr2〜5の画分を濃縮後、逆相ODS(カラム:cosmosil 140−C18,φ30X65mm、溶出溶媒:MeOH/H2O=10〜100%)カラムクロマトグラフィーで精製し、続いて逆相分取用HPLC(カラム:Inertsil ODS−3、φ20X250mm;溶出溶媒:35%aq.MeOH/0.1%HCOOH)で7フラクションに分離・溶出した。第5フラクションを濃縮後、逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:20%aq.MeCN)で分離・精製すると、3’−O−ガロイルペオニフロリンが淡黄褐色粉末として0.6mg得られた。
【0038】
3’−O−ガロイルペオニフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 631.16612[(M−H),631.16684 for C303115];H−NMR(CDOD):1.81(1H,d,11.3,H3a),2.20(1H,d,11.3,H3b),2.59(1H,m,H5),1.98(1H,d,9.0,H7a),2.52(1H,m,H7b),4.75(2H,s,H8),5.43(1H,s,H9),1.40(3H,s,H10),4.67(1H,d,7.6,H1’),3.48(1H,dd,7.6,9.4,H2’), 5.11(1H,dd,9.4,9.4,H3’),3.54(1H,dd,9.4,9.6,H4’),3.38(1H,m,H5’),3.66(1H,dd 5.9,12.0,H6’a),3.87 (1H,dd,1.7,12.0,H6’b),8.06(2H,d,7.4,H2’’ and H6’’),7.49(2H,dd,7.4,7.4,H3’’’ and H5’’),7.61(1H,t,7.4,H4’’),7.12(2H,s,H2’’’ and H6’’’)
【0039】
【化13】

【0040】
実施例3(4’−O−ガロイルペオニフロリンと4−ガロイルアルビフロリンの単離)
乾燥したシャクヤク根(2000g)をチップ化した後、50%アセトンにて抽出した。抽出液を濃縮後、水と酢酸エチルで分配した。酢酸エチル相を濃縮後、セファデックスLH−20(φ20X420mm)カラムクロマトグラフィーに付し、MeOHにて分離・溶出した[Fr1〜Fr7]。Fr2の画分を濃縮後、逆相ODS(カラム:Cosmosil 140−C18,φ30X70mm、溶出溶媒:MeOH/H2O=10〜100%)カラムクロマトグラフィーで精製し、続いて逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:20%aq.MeCN)で20フラクションに分離・溶出した。第13フラクションを濃縮後、逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:15%aq.MeCN)で二回分離・精製すると、4’−O−ガロイルペオニフロリンが淡黄褐色粉末として6.8mg得られた。同様に、上記第15フラクションを濃縮後、逆相分取用HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MSII、φ20X250mm;溶出溶媒:15%aq.MeCN)で分離・精製すると、4−O−ガロイルアルビフロリンが淡黄褐色粉末として5.4mg得られた。
【0041】
4’−O−ガロイルペオニフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 631.16641[(M−H),631.16684 for C303115];H−NMR(CN):2.30(1H,d,12.5,H3a),2.48(1H,d,12.5,H3b),3.09(1H,d,5.4,H5),2.36(1H,d,10.7,H7a),2.97(1H,m,H7b),5.11(1H,d,12.0,H8a),5.28(1H,d,12.0,H8b),5.95(1H,s,H9),1.65(3H,s,H10),5.17(1H,d,7.6,H1’),4.08(1H,m,H2’),4.33(1H,dd,9.0,9.2,H3’),5.79(1H,dd,9.2,9.6,H4’),3.99(1H,m,H5’),4.10(1H,m,H6’a),4.21(1H,d,12.1,H6’b),8.13(2H,d,7.6,H2’’ and H6’’),7.31(2H,dd,7.2,7.6,H3’’ and H5’’),7.49(1H,t,7.2,H4’’),7.20(2H,s,H2’’’ and H6’’’)
【0042】
【化14】

【0043】
4−O−ガロイルアルビフロリンの物理化学的分析データ:HR−ESI−MS m/z 631.16681[(M−H),631.16684 for C303115];H−NMR(CDOD):2.21(1H,d,16.0,H3a),2.68(1H,dd,7.0,16.0,H3b),5.44(1H,m,H4),3.19(1H,m,H5),2.22(1H,d,11.1,H7a),2.92(1H,dd,8.0,11.1,H7b),4.68(1H,d,12.0,H8a),4.79(1H,d,12.0,H8b),1.58(3H,s,H10),4.55(1H,d,7.7,H1’),3.23(1H,m,H2’),3.33(1H,m,H3’),3.25(1H,m,H4’),3.27(1H,m,H5’),3.62(1H,dd,5.9,12.0,H6’a),3.87(1H,d,12.0,H6’b),7.90(2H,d,7.3,H2’’ and H6’’),7.33(2H,dd,7.3,7.4,H3’’ and H5’’),7.53(1H,t,7.4,H4’’),7.05(2H,s,H2’’’ and H6’’’)
【0044】
【化15】

【0045】
実施例4(アンドロゲン受容体結合活性試験)
(1)試験方法
6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリン、6’−O−ガロイルペオニフロリン、ペオニフロリンおよびアルビフロリンのアンドロゲン受容体(AR)結合活性を以下のようにして測定した。本アッセイは、H−ミボレロン(Mibolerone;標準リガンド)のARへの結合を測定した。Panvera社(カタログ番号P279)から購入したラットAR組成物は、通常の方法を用いてpH7.4リン酸緩衝液中で調製した。ラットAR(78ng)を1.5nMH−ミボレロンと試験サンプル(各試験サンプル120,60,30,15,7.5および3.8μg/mL)といっしょに4℃4時間インキュベーションした。非特異的結合量は10μMミボレロン存在下で測定した。各反応混合物はハイドロキシアパタイトスラリーと15分間インキュベートした後ろ過した。フィルターを3回洗浄した後、ARに特異的に結合したH−ミボレロンのラベルカウントをMicrobeta Trilux 1450 シンチレーションカウンター (Wallac社)を用いて測定し、各試験サンプルのAR結合活性を下式より算出した。結果を図1に示す。
【0046】
【数1】



【0047】
(2)試験結果
図1に示すごとく、6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコースは強いAR結合活性を示し、6’−O−ベンゾイルペオニフロリンおよび6’−O−ガロイルペオニフロリンもペオニフロリンやアルビフロリンよりも強い活性を示した。
【0048】
実施例5(前立腺癌細胞の増殖抑制試験)
(1)試験方法
6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリン、6’−O−ガロイルペオニフロリン、ペオニフロリンおよびアルビフロリンのアンドロゲン感受性ヒト前立腺癌細胞のLNCaP−FGC細胞(ATCCより購入)にて増殖抑制活性を調べた。LNCaP−FGC細胞(2.5X10/ウェル;10%FBSを添加した90%RPMI−1640培地中)を96ウエルプレート上で、5%CO2雰囲気中、37℃24時間プレインキュベーションした。各ウェルに試験サンプルおよび/またはベヒクル(コントロール)を最終濃度が0.4%DMSO/DWになるようにFBS添加RPMI−1640培地中に加えて、さらに72時間反応した。試験サンプルは各々、200,160,120,100,80,60,40および20μg/mLを用いた。インキュベーション終了後アラマールブルー(Alamar Blue)を各ウェルに添加し、さらに6時間インキュベーションした後、蛍光強度(励起波長530nm、蛍光波長590nm)をスペクトルフロー プラス プレイトリーダーで測定することにより、各ウェル中の細胞数を測定し、ベヒクル(コントロール)の蛍光強度と比較して細胞増殖抑制活性を算出した。なお、結果は図2に示す
【0049】
(2)試験結果
図2より、6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリンおよび6’−O−ガロイルペオニフロリンは、ペオニフロリンおよびアルビフロリンより強い前立腺癌細胞増殖抑制作用を示した。また、この結果から、これら化合物のアンドロゲン受容体結合活性は、受容体アンタゴニスト活性であることが判明した。
【0050】
実施例6
実施例3と同様にして、3’−O−ガロイルペオニフロリンのAR結合活性を調べた結果、120μg/mLで20%のAR結合活性を示した。
【0051】
実施例7
実施例3と同様にして、4’−O−ガロイルペオニフロリンおよび4−O−ガロイルアルビフロリンのAR結合活性を調べた結果、それぞれ100μg/mLで22%、50μg/mLで18%の結合活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、シャクヤク成分で、アンドロゲン受容体結合阻害活性を示すガロイル基またはベンゾイル基で置換されたアルビフロリンまたはペオニフロリン誘導体、ペンタガロイルグルコース、およびアンドロゲン受容体結合阻害活性を有する新規化合物、ならびにこれらアンドロゲン受容体結合阻害剤を含有する前立腺肥大、前立腺癌、多毛症、男性型脱毛症、にきび(尋常性ざ瘡)の治療・予防剤が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリン、6’−O−ガロイルペオニフロリン、ペオニフロリンおよびアルビフロリンのアンドロゲン受容体(AR)結合活性を示す。
【図2】6’−O−ガロイルアルビフロリン、ペンタガロイルグルコース、6’−O−ベンゾイルペオニフロリン、6’−O−ガロイルペオニフロリン、ペオニフロリンおよびアルビフロリンのヒト前立腺癌細胞(LNCaP−FGC)の増殖抑制活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


[式中、
Aは、
【化2】


であり;
,R,R,Rは、水素原子または置換されていてもよいベンゾイル基を示し、
〜Rのうち少なくとも1つは置換されていてもよいベンゾイル基を示し;
は水素原子または水酸基を示す。]で表される化合物、その塩またはそのプロドラッグを含有してなるアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項2】
置換されていてもよいベンゾイル基がベンゾイル基またはガロイル基である請求項1記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項3】
式(I)中、
Aが、
【化3】


であり;
は前記と同一意味を表し;
,R,R,Rのいずれか1つがベンゾイル基またはガロイル基である請求項1または2記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項4】
式(I)中、
Aが、
【化4】


であり;
,R,R,Rのうち2つ以上がガロイル基である請求項1記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項5】
アンドロゲン受容体アンタゴニストである請求項1〜4いずれか1項に記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項6】
前立腺肥大、前立腺癌、多毛症、男性型脱毛症、にきび(尋常性ざ瘡)の治療・予防剤である請求項1記載のアンドロゲン受容体結合阻害剤。
【請求項7】
式(II):
【化5】


で表される化合物またはその塩。
【請求項8】
式(III):
【化6】


で表される化合物またはその塩。
【請求項9】
式(IV):
【化7】


で表される化合物またはその塩。
【請求項10】
請求項7〜9いずれか1項記載の化合物のプロドラッグ。
【請求項11】
請求項7〜9いずれか1項記載の化合物または請求項10記載のプロドラッグからなる医薬。
【請求項12】
請求項7〜9いずれか1項記載の化合物または請求項10記載のプロドラッグを含有するアンドロゲン受容体結合阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298766(P2009−298766A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288512(P2008−288512)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:日本生薬学会 刊行物:日本生薬学会第55回(2008年)年会講演要旨集、127ページ、平成20年9月1日発行
【出願人】(306023336)財団法人奈良県中小企業支援センター (18)
【Fターム(参考)】