説明

アンモニアガスセンサ

【課題】特定の金属酸化物を含む検知電極部を覆う保護層のAlに起因して検知電極部中に複合酸化物が形成されて検出特性が変化することを防止し、検出感度の低下を抑制したアンモニアガスセンサを提供する。
【解決手段】酸素イオン伝導性の固体電解質体22Aと、固体電解質体の表面上にそれぞれ設けられる検知電極部2A及び基準電極4Aと、少なくとも検知電極部を覆う保護層7Aと、を備え、固体電解質体及び/又は検知電極部は、Co、Mn、及びGeの群から選ばれる1種以上の金属Mの酸化物M(x、yは0を含まない正の実数)を含み、かつ保護層はMAl(a、b、cは0を含まない正の実数)で表される複合酸化物を含むアンモニアガスセンサ200Aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中のアンモニアガス濃度測定に好適に用いられるアンモニアガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物(NO)の浄化方法として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction、選択還元触媒)方式が開発されている。尿素SCR方式は、SCR触媒に尿素を添加してアンモニアを発生させ、アンモニアによりNOを還元するものであり、尿素SCR方式には、NOを還元するアンモニア濃度が適量かどうかを測定するためのアンモニアガスセンサが用いられている。
【0003】
このようなアンモニアガスセンサとして、酸素イオン伝導性の固体電解質体の表面に基準電極と検知電極とを形成し、電極間の起電力に基づいてアンモニア濃度を検出するものが従来から提案されてきた。具体的には、Zr、Al、In、Fe、Cu、Ta、Ga、Sr、Eu、W、Ce、Ti、Zr、Sn等の金属酸化物と、金とを含有する検知電極を用いたセンサが提案されている(特許文献1参照)。このセンサによれば、酸素濃度の変化が大きいリーンバーンエンジン中でも、酸素濃度の影響を受けずに可燃性ガス(HCガス、COガス、アンモニアガス等)濃度を測定できる(つまり、可燃性ガスの選択性を確保できる)とされている。
又、検知電極として、固体電解質体の表面に金属層(Au)を設け、その表面に金属酸化物層(V)を形成したセンサが提案されている(特許文献2参照)。このセンサによれば、金属酸化物層により他のガスの影響を受けずにアンモニアガスの選択性を確保しつつ、金属層により集電体の能力を確保することで、アンモニアガス濃度を測定するとされている。
さらに、検知電極の被毒防止等を目的として、検知電極や基準電極を保護層で覆う技術が知られており、保護層材料として絶縁性、耐熱安定性に優れるアルミナが多く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-108649号公報
【特許文献2】特開2008-116321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2記載のアンモニアガスセンサのように、検知電極に金属酸化物を添加した場合、アルミナを含む保護層で検知電極を覆うと、アルミナが検知電極中の金属酸化物と反応し、複合酸化物を形成することがある。このように、検知電極に添加した金属酸化物の化学組成が変化することによって、電極の触媒活性が変化し、センサ出力が変化する等の不具合を起こす虞がある。
すなわち、本発明は、固体電解質体及び/又は検知電極部が特定の金属酸化物を含む場合に、検知電極部を覆う保護層中のアルミナに起因して検知電極部(固体電解質体)中に複合酸化物が形成されることを防止し、検出感度の低下を抑制したアンモニアガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のアンモニアガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、前記固体電解質体の表面上にそれぞれ設けられる検知電極部及び基準電極と、少なくとも検知電極部を覆う保護層と、を備え、前記固体電解質体及び/又は検知電極部は、Co、Mn、及びGeの群から選ばれる1種以上の金属Mの酸化物M(x、yは0を含まない正の実数)を含み、かつ前記保護層はMAl(a、b、cは0を含まない正の実数)で表される複合酸化物を含む。
このアンモニアガスセンサによれば、検知電極部と固体電解質体との界面に金属酸化物Mが存在するので、アンモニアガスのみの選択性を確保することができる。これは金属酸化物Mが電極反応場を修飾するためと考えられる。さらに、保護層自身を、アルミナと金属酸化物MとからなりMAlで表される複合酸化物から形成することで、検知電極部(固体電解質体)中の金属酸化物Mと反応するアルミナが少なくなる。このため、保護層中のアルミナに起因して検知電極部(固体電解質体)中に複合酸化物が形成されることを防止し、検出感度の変化を抑制することができる。
【0007】
前記保護層においてM/(M+Al)で表されるモル分率が1/10〜1/3であることが好ましい。
上記モル分率が1/10未満であると、保護層中のAl(アルミナ)の割合が高くなり過ぎ、保護層中に金属酸化物Mと反応しないアルミナが残り、このアルミナが検知電極部又は固体電解質体中の金属酸化物Mと反応して検出感度の低下を招く場合がある。
一方、上記モル分率が1/3を超えると、保護層中の金属M(金属酸化物M)の割合が高くなり過ぎ、保護層がアンモニアを燃焼させる触媒効果を強く持つため、固体電解質体に到達するアンモニアガスが減少して検出感度が低下する場合がある。
【0008】
前記検知電極部がAuを70質量%以上含むと、検知電極部が集電体の能力を確保できるので好ましい。
【0009】
前記検知電極部は、Auを70質量%以上含みかつ前記金属酸化物Mを含まない検知電極本体部と、該検知電極本体部と前記固体電解質体との間に配置される中間層であって、酸素イオン伝導性の固体電解質成分を50質量%以上含有すると共に前記金属酸化物Mを含む中間層と、を有することが好ましい。
このアンモニアガスセンサによれば、検知電極部のうち上層となる検知電極本体部には金属酸化物Mを含まないので、検知電極部内でアンモニアガスが燃焼することを抑制し、その下層にある中間層と固体電解質体との界面に到達するアンモニアガスが減少せずに検出感度が向上する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、固体電解質体及び/又は検知電極部が特定の金属酸化物を含む場合に、検知電極部を覆う保護層中のアルミナに起因して検知電極部(固体電解質体)中に複合酸化物が形成されることを防止し、検出感度の低下を抑制したアンモニアガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るアンモニアガスセンサの長手方向に沿う断面図である。
【図2】センサ素子部の構成を示す展開図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】検知電極部の変形例を示す断面図である。
【図5】ガスセンサを連続加熱したときのEMF出力の変化を示す図である。
【図6】保護層の触媒活性を評価する装置を示す図である。
【図7】保護層のM/(M+Al)比に対する触媒活性を示す図である。
【図8】各実施例及び比較例のガスセンサのEMF出力、及び感度変化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアンモニアガスセンサ(アンモニアセンサ)200Aの長手方向に沿う断面図を示す。アンモニアセンサ200Aは、アンモニアを検出するセンサ素子部50Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のセンサ素子部50Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がセンサ素子部50Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、センサ素子部50Aと絶縁コンタクト部材166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0013】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、センサ素子部50Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部40A〜44Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、センサ素子部50Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0014】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0015】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、センサ素子部50Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0016】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、センサ素子部50Aの電極端子部40A〜44Aとそれぞれ電気的に接続される5本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。
【0017】
また、主体金具138の後端部140より突出されたセンサ素子部50Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、センサ素子部50Aの後端側の表面に形成される電極端子部40A〜44Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、センサ素子部50Aの電極端子部40A〜44Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0018】
次に、センサ素子部50Aの構成について展開図2を参照して説明する。センサ素子部50Aは長尺板状であり、排気ガス中のアンモニアガスを検出する検知部が先端部に露出し、センサ素子部50Aの後端部には、電極端子部40A〜44Aがそれぞれ露出している。
図2において、絶縁層6Aの上面には、長手方向に沿ってリード31Aが延び、リード31Aの末端が電極端子部41Aを形成している。さらに、絶縁層6A上には、リード31Aと平行にリード30Aが延び、リード30Aの末端(絶縁層6Aの右端部)が電極端子部40Aを形成している。なお、リード30A、31Aは絶縁層6Aの中央部分から末端にかけて長手方向に延びている。さらに、リード30A,31Aを覆うように絶縁層20Aが形成されている。但し、絶縁層6Aの先端側(リード30A、31Aが形成されていない部位)、リード30A、31Aの先端側及び電極端子部40A、41Aは、絶縁層20Aで被覆されずに露出している。
【0019】
一方、絶縁層6Aのうち絶縁層20Aに覆われていない部位には、固体電解質体22Aが積層される。さらに、固体電解質体22A上には、基準電極4Aが形成されると共に、基準電極と平行に検知電極部2Aが形成されている。基準電極4Aは、リード31Aと接続し、検知電極部2Aは、リード30Aと接続している。
このように、基準電極4Aと検知電極部2Aは固体電解質体22Aの同じ面側に露出し、被測定ガスに曝される。又、固体電解質体22A、基準電極4A、及び検知電極部2Aがセル70を構成している。
【0020】
一方、絶縁層26Aの下面(図2の下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14A及びリード32A、34Aが形成されている。そして、リード34Aの末端が電極端子部44Aを形成している。また、リード34Aと平行にリード32Aが延び、リード32Aの末端が電極端子部42Aを形成している。絶縁層26Aの上面には、発熱抵抗体16A、及び発熱抵抗体16Aから延長するリード35A,36Aが形成されている。温度検出手段14A及びリード32A、34Aは、絶縁層11Aで被覆されており、発熱抵抗体16A、及びリード35A,36Aは絶縁層6Aで被覆されている。さらに、絶縁層26Aの右端にはそれぞれスルーホール26x、26yが開口している。そして、リード35A,36Aは、それぞれスルーホール26x、26yを介して、絶縁層26Aの下面に配置された電極端子部42A、43Aにそれぞれ接続されている。
そして、検出電極部2A及び基準電極4Aの両方の上にガス透過性の保護層7Aが設けられている。なお、保護層7Aは、少なくとも検出電極部2Aを覆っていればよい。
【0021】
図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。なお、図3では、セル70以外の構成については簡略化して図示している。
検知電極部2Aは、可燃性ガスが電極表面では燃焼し難い電極であり、Co、Mn、及びGeの群から選ばれる1種以上の金属Mの酸化物M(x、yは0を含まない正の実数)を含む。
アンモニアは検知電極部2Aを通って固体電解質体22Aとの界面で酸素イオンと反応(電極反応)するので、アンモニアガスの検知電極部として機能する。ここで、検知電極部2Aが金属酸化物Mを含むと、この金属酸化物Mが検知電極部2Aと固体電解質体22Aとの界面に存在し、アンモニアガス以外のガス(HCガス等)に対する感度が低下し、アンモニアガスのみの選択性が向上する。この原因は明確ではないが、界面に介在する金属酸化物Mが電極反応場を修飾するためと考えられる。又、金属酸化物Mは、酸の性質を有するために塩基性分子であるNH3と強く相互作用し、他のガスよりもNH3に対する電極反応を有利に進めるため、アンモニアのみの選択性が向上すると考えられる。
特に、金属酸化物MがCoであると、被検出ガス中に含まれるHO濃度がアンモニアガスセンサにもたらすアンモニアの感度の変動を少なくするので好ましい。
【0022】
なお、検知電極部2Aに代え(又は検知電極部2Aに加えて)、固体電解質体22Aに金属酸化物Mを含有させることによっても、アンモニアガスの選択性を向上させることができる。
検知電極部2A又は固体電解質体22Aに金属酸化物Mが含まれることは、アンモニアガスセンサの断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で分析(通常、3か所分析した平均値)することで確認することができる。
【0023】
検知電極部2AはAuを70質量%以上含有することが好ましい。これにより、検知電極が集電体の能力を確保できる。なお、Auを70質量%未満とすると、集電体としての能力が得られず、アンモニアガスが検出できない場合がある。又、検知電極2Aは、Au以外の他の成分(例えば、共素地となる固体電解質体22Aの成分)を更に含んでもよい。
【0024】
一方、保護層7Aは、上記した金属Mに対し、MAl(a、b、cは0を含まない正の実数)で表される複合酸化物を含む。
金属酸化物MOを含む検知電極部2A(又は固体電解質体22A)を、アルミナを含む保護層で覆うと、経時によりアルミナが金属酸化物Mと反応し、検知電極部2A(固体電解質体22A)中に複合酸化物を形成することがある。この複合酸化物は検知対象ガスに対して触媒活性が低くなる場合があり、センサの検出感度を上昇させる。逆に、触媒活性が高くなる場合もあり、この場合はセンサの検出感度を低下させる。何れにしても、検知電極2A中の金属Mが複合酸化物に変化することで、センサの検出感度が変動する虞がある。
そこで、予め保護層7A自身を、アルミナと金属酸化物MとからなりMAlで表される複合酸化物から形成することで保護層7Aが化学的に安定化し、検知電極部2A(固体電解質体22A)中の金属Mの酸化物と反応するアルミナが少なくなる。このため、保護層中のアルミナにより検知電極部2A(固体電解質体22A)中に複合酸化物が形成されて検出特性が変化することを防止し、検出感度の変化を抑制することができる。
【0025】
Alで表される複合酸化物の例としては、CoとAlを混合して得られる複合酸化物、MnO2とAlを混合して得られる複合酸化物、GeO2とAlを混合して得られる複合酸化物が挙げられる。
保護層7Aにおいて、M/(M+Al)で表されるモル分率が1/10〜1/3であることが好ましい。
上記モル分率が1/10未満であると、保護層7A中のAl(アルミナ)の割合が高くなり過ぎ、保護層7A中に金属酸化物Mと反応しないアルミナが残り、このアルミナが検知電極部2A又は固体電解質体22A中の金属酸化物Mと反応する場合がある。
一方、上記モル分率が1/3を超えると、保護層7A中のM(金属酸化物M)の割合が高くなり過ぎ、保護層7Aがアンモニアを燃焼させる触媒効果を強く持つため、固体電解質体に到達するアンモニアガスが減少して検出感度が低下する場合がある。
【0026】
図4は、検知電極部2Bの変形例を示す断面図である。この例では、検知電極部2Bは検知電極本体部2B1と、検知電極本体部2B1及び固体電解質体22Aの間に配置される中間層2B2との2層からなる。
検知電極本体部2B1はAuを70質量%以上含み、かつ金属酸化物Mを含まない。一方、中間層2B2は、酸素イオン伝導性の固体電解質成分を50質量%以上含有すると共に金属酸化物Mを含む。
図4の検知電極部2Bにおいて、アンモニアは検知電極本体部2B1を通って、検知電極本体2B1とその下の中間層2B2との界面で酸素イオンと反応(電極反応)する。ここで、金属酸化物Mが検知電極本体2B1と中間層2B2との界面に存在すると、上記したようにアンモニアガス以外のガス(HCガス等)に対する感度が低下し、アンモニアガスのみの選択性が向上する。
さらに、検知電極本体部2B1中には金属酸化物Mを含まないので、検知電極2B内でアンモニアガスが燃焼することを抑制し、中間層2B2と固体電解質体22Aとの界面に到達するアンモニアガスが減少せずに検出感度が向上する。特に〜10ppm付近の低濃度のアンモニアを高精度で検出できる。
【0027】
中間層2B2に含まれる固体電解質成分は、本発明のガスセンサを構成する固体電解質体22Aと同一の組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
又、中間層2B2に金属酸化物Mが1〜50質量%の割合で含有されていることが好ましい。金属酸化物Mの含有割合が1質量%未満であると上記したアンモニアガスに対する選択性が十分に得られないことがある。一方、金属酸化物Mの含有割合が50質量%を超えると中間層2B2中の固体電解質成分の割合が少なくなり、中間層2B2の酸素イオン伝導性が低下することがある。
又、中間層2B2が多孔質であると、アンモニアガスの検出感度及びアンモニアガスに対する感度が向上するので好ましい。
【0028】
一方、基準電極4Aは、その電極表面で可燃性ガスが燃焼する電極であり、例えばPt単体であるか、又はPtを主成分とする材料で構成されている。
各リード30A、31A、32A、34A、35A,36A、電極端子部40A〜44A、温度検出手段14A及び発熱抵抗体16Aは、例えばPt、Pd又はこれらの合金を主成分とする材料で構成されている。
各絶縁層6A、11A、20A及び26Aは、例えばアルミナ等の絶縁性セラミックで構成されている。
【0029】
固体電解質体22Aは、例えば部分安定化ジルコニアで構成されている。そして、固体電解質体22Aは、発熱抵抗体16Aによって活性化温度に制御される。
【0030】
次に、センサ素子部50Aの製造方法の一例を簡単に説明する。まず、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層26Aを用意し、絶縁層26Aの上面にPt、アルミナ(共素地として用いる無機酸化物)バインダ及び有機溶剤を含む電極ペースト(以下、「Pt系ペースト」という)をスクリーン印刷して発熱抵抗体16A(及びこれから延長するリード35A,36A)を、下面に温度検出手段14A(及びこれから延長するリード32A、34A)、電極端子部42A,43A,44Aを形成する。さらに、温度検出手段14Aの下面に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層11Aを形成する。なお、絶縁層26Aのスルーホール26x、26yの内面に適宜スルーホール導体を充填する。
【0031】
次に、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層6Aを、発熱抵抗体16Aに積層する。そして、絶縁層6A上にリード30A、31A、及び電極端子部40A、41Aを形成する。さらに、リード30A,31Aを覆うようにして絶縁層20Aをスクリーン印刷する。なお、絶縁層6Aは、絶縁ペーストをスクリーン印刷して形成してもよい。
【0032】
そして、この積層体を所定温度(例えば、250℃)で脱バインダし、所定温度(例えば、1500℃)で焼成する。
【0033】
次に、固体電解質体の成分となる酸化物粉末、バインダ及び有機溶剤を含むペーストを焼成後の絶縁層6A上にスクリーン印刷して固体電解質体22Aを形成し、所定温度(例えば、1500℃)で焼成する。
【0034】
そして、固体電解質体22A上に、Pt系ペーストをスクリーン印刷して所定温度(例えば、1450℃)で焼成して基準電極4Aを形成するとともに、Au系ペースト(上記金属酸化物を含む)をスクリーン印刷して所定温度(例えば、1000℃)で焼成して検知電極部2Aを形成する。次いで、検知電極部2A及び基準電極4Aを覆い、かつこれら電極の周囲の固体電解質体22Aを覆うようにして、金属酸化物Mとアルミナとを混合してなるペーストをスクリーン印刷して所定温度(例えば、1000℃)で焼成して保護層7Aを形成する。
【0035】
なお、図4のように、検知電極部を2層構造とする場合は、検知電極部2B1を形成する前に、金属酸化物Mと固体電解質と混合して作成したペーストを、固体電解質22A上に形成し、所定温度(例えば1000℃)で焼成し、中間層2B2を形成する。尚、この中間層2B2は検知電極2B1と同時に焼成しても良い。
【0036】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、固体電解質体の表面と裏面とにそれぞれ検知電極部と基準電極とを設け、基準電極を大気雰囲気に曝し、検知電極部を被測定ガスに曝すよう、2室型のセンサ構造としてもよい。
又、固体電解質体を筒状として、筒の外面と内面とにそれぞれ検知電極部と基準電極とを設け、筒内面を大気雰囲気に曝し、筒外面の検知電極部を被測定ガスに曝すようなセンサ構造としてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0038】
図1、図2に示す上記実施形態に係るアンモニアガスセンサを作製した。まず、アルミナ基板(絶縁層)26Aの上面に、Pt系ペーストをスクリーン印刷して発熱抵抗体16A(及びこれから延長するリード35A,36A)を形成し、下面にPt系ペーストをスクリーン印刷して温度検出手段14A(及びこれから延長するリード32A、34A)、電極端子部42A,43A,44Aを形成した。さらに、発熱抵抗体16A上及び温度検出手段14A上に絶縁材料、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層11Aを形成した。
次に、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層6Aを、発熱抵抗体16Aに積層した。そして、絶縁層6Aの上にPtペーストをスクリーン印刷してリード30A、31A、及び電極端子部40A、41Aを形成し、さらにリード30A、31Aを覆うようにして絶縁層20Aをスクリーン印刷した。その後、250℃で脱バインダし、1500℃で60分間焼成した。
次に、絶縁層6A上に固体電解質体22Aの材料となるYSZ(Y安定化ジルコニア)ペーストを印刷した。この積層体を1500℃で60分間焼成した。YSZペーストは、乳鉢にYSZ、有機溶剤、分散剤を入れ、らいかい機で4時間分散混合した後、バインダー、粘度調整剤を所定量添加し、更に4時間湿式混合を行い調製した。
【0039】
そして、固体電解質体22A上に、Pt系ペーストをスクリーン印刷して基準電極4Aを形成して1450℃で焼成した後、表1に示した成分にて形成されたAu系ペーストをスクリーン印刷して検知電極部2Aを形成し、1000℃で焼成した。さらに、検知電極部2A及び基準電極4Aを覆うようにして保護層ペーストを印刷し1000℃で焼成した。得られたセンサ素子部を主体金具等に組み付け、アンモニアガスセンサを作製した。
なお、上記Au系ペーストは、市販のAuペーストに対し、それぞれ表1に記載した金属酸化物(Co)の粉末を混入し、均一になるよう10分以上、混ぜることで調製した。
保護層ペーストは、表1に示す金属Mの酸化物(それぞれ、Co、MnO2、GeO2)粉末とAl粉末を混合し、さらに有機溶剤、分散剤を入れ、らいかい機で4時間分散混合した。この混合物にバインダー、粘度調整剤を所定量添加し、更に4時間湿式混合を行いペーストを調製した。金属Mの酸化物とAl粉末を混合する際、M/(M+Al)で表されるモル分率を表1に示すように調整した。
なお、比較例1は金属Mの酸化物を配合せず、Alのみからなる保護層を作成した。又、比較例4はAlを配合せず、金属Mの酸化物のみからなる保護層を作成した。
【0040】
上記Au系ペースト中の金属酸化物粉末の含有割合、及び保護層ペースト中の金属酸化物の種類及び含有割合を、表1に示すように変化させて実施例1〜3、5、6、及び比較例1〜4の各アンモニアガスセンサを作製した。
一方、実施例4のアンモニアガスセンサにおいては、固体電解質体22Aの材料となるYSZペーストに表1に示す割合で金属酸化物(Co)の粉末を混合すると共に、図4に示すように検知電極部2Bの構成を2層とした。ここで、検知電極部2Bは、表1に示す組成のCoとYSZとの混合ペーストを固体電解質体22A上にスクリーン印刷して中間層2B2を形成した後、中間層2B2の上に市販のAuペースト(Au100質量%)をスクリーン印刷して検知電極本体部2B1を形成し、全体を1000℃で焼成した。次に、実施例1と同様にして保護層ペーストを印刷し1000℃で焼成し、得られたセンサ素子部を主体金具等に組み付け、アンモニアガスセンサを作製した。なお、表1にて、実施例4の検知電極部については、検知電極本体部と中間層のそれぞれの組成を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
<評価>
1.ガスセンサの経時変化(耐久性)の評価
実施例1、及び比較例1のアンモニアガスセンサを大気中に配置し、センサ素子部50Aのヒータを700℃に制御して連続加熱した。そして、100時間毎のNH3感度の経時変化を次のようにして測定した。
まず、モデルガスのガス温度280℃、ガス組成をO2=10% H2O=5% N2=bal.とした。センサ素子部の制御温度(ヒータ加熱)600℃とし、モデルガス発生装置から上記ガスを流したとき、基準電極と検知電極の間の電位差を測定し、ベース起電力とした。
次に、モデルガスにNH3を50ppm加えてガスを流したときの基準電極と検知電極の間の電位差を測定し、測定時のアンモニア起電力とした。そして、(測定時のアンモニア起電力)−(ベース起電力)でNH3濃度に対するアンモニアガスセンサのEMF出力を定義した。なお、上記した連続加熱の間の100時間毎に、アンモニア起電力を測定した。
【0043】
得られた結果を図5に示す。なお、図5では、初期のアンモニアガスセンサのEMF出力を100としたときの、各時間毎のアンモニアガスセンサのEMF出力をNH3感度変化率として規格化している。
保護層がMAlで表される複合酸化物を含む実施例1の場合、3500時間加熱後のNH3感度が初期値(加熱前)からほとんど変化せず、加熱による経時変化が少なかった。これは、保護層が化学的に安定でアルミナの含有量が少ないため、検知電極部2A中の金属酸化物Mが複合酸化物に変化しなかったためと考えられる。
一方、保護層がAlのみからなる比較例1の場合、経時によりNH3感度が初期値(加熱前)より20%程度上昇し、経時変化が顕著に見られた。これは、保護層中のAlが検知電極部2A中の金属酸化物Mと反応して複合酸化物を形成した結果、感度が変化したためと考えられる。
なお、実施例2〜6のアンモニアガスセンサについても同様に耐久性の評価を行い、3500時間加熱後のNH3感度が初期値(加熱前)からほとんど変化しないことを確認した。
又、表1の経時変化の評価として、いずれの時間においてもNH3感度変化率が±10%以内(90〜110%)であれば○とし、±10%を超えた場合を×とした。
【0044】
2.保護層の触媒活性の評価
まず、アルミナディスク(直径10.5mm、厚み1mm)の表面に、各実施例及び比較例と同一組成の保護層を直径10mm、膜厚20μmで形成し、触媒活性評価用の試料520を作成した。
次に、図6に示す石英製の二重管500を用意した。この二重管の外管500eは有底円筒状であり、この外管500eの内側に底部が開口する内管500iを配置してなる。外管500eの底部にガラスウール510を介して試料520を設置し、内管500iの開口端と試料520の距離が約1mmになるように調整した。次に、二重管500全体を管状炉で600℃に昇温し、NH3を含む試験ガス(O2=10% NH3 =1000ppm N2=bal.)を内管500iから内部に流量500cc/minで導入した。そして、外管500eから排出される出口ガスのNH3濃度をガスクロマトグラフィにて測定した。
ガスクロマトグラフィの測定結果から、以下の式によって触媒活性を算出した。
触媒活性={(入口ガスのNH3濃度(1000ppm))-(出口ガスのNH3濃度)}/(入口ガスのNH3濃度(1000ppm)×100
なお、触媒活性は、ガスの燃え易さの指標値が大きい程燃え易く、小さい程燃え難いことを意味する。
【0045】
得られた結果を図7に示す。図7は、各実施例及び比較例の保護層のM/(M+Al)で表されるモル分率を横軸に揃えてプロットした。このモル分率が1/3以下である各実施例の場合、保護層の触媒活性が6%以下となった。この場合、保護層内でアンモニアガスが燃焼することが抑制され、測定に供するアンモニアガスが減少せずに検出感度が向上する。
一方、モル分率が1/3を超えた比較例2〜4の場合、保護層の触媒活性が6%を超えた。これは、保護層中でアルミナと反応せずに残った金属酸化物(Co)が多くなったためと考えられる。そして、この場合、保護層内でアンモニアガスが燃焼して測定に供するアンモニアガスが減少し、検出感度が低下する可能性がある。
【0046】
3.感度の評価
モデルガス発生装置のガス流中に各実施例及び比較例のガスセンサを取り付け、感度の評価を行った。モデルガスのガス温度280℃、ガス組成をO2=10% H2O=5% N2=bal.とした。センサ素子部の制御温度(ヒータ加熱)600℃とし、モデルガス発生装置から上記ガスを流したとき、基準電極と検知電極の間の電位差を測定し、ベース起電力とした。
次に、モデルガスにNH3を100ppm加えてガスを流したときの基準電極と検知電極の間の電位差を測定し、測定時のアンモニア起電力とした。そして、(測定時のアンモニア起電力)−(ベース起電力)でNH3濃度に対するアンモニアガスセンサのEMF出力を定義した。
【0047】
得られた結果を図8に示す。
保護層のM/(M+Al)で表されるモル分率が1/3以下である各実施例の場合、EMF出力がいずれも80mV以上であり、アンモニアの検出感度が良好になった。
一方、モル分率が1/3を超えた比較例2〜4の場合、EMF出力が大幅に低下し、アンモニアの検出感度が低下した。これは、図7に示したように保護層の触媒活性が6%を超え、保護層内でアンモニアガスが燃焼したためと考えられる。
さらに、図8には、保護層に金属酸化物Mを含まない場合(=比較例1)の感度を100とした場合の、各実施例及び比較例の感度比を併せて示した(符号「◆」で示す)。そして、表1の感度の評価基準として、感度比が50%以上は○、50%以下は×とした。
【符号の説明】
【0048】
2A、2B 検知電極部
2B1 検知電極本体部
2B2 中間層
4A 基準電極
7A 保護層
22A 固体電解質体
50A センサ素子部
200A アンモニアガスセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質体と、前記固体電解質体の表面上にそれぞれ設けられる検知電極部及び基準電極と、少なくとも検知電極部を覆う保護層と、を備え、
前記固体電解質体及び/又は検知電極部は、Co、Mn、及びGeの群から選ばれる1種以上の金属Mの酸化物M(x、yは0を含まない正の実数)を含み、かつ前記保護層はMAl(a、b、cは0を含まない正の実数)で表される複合酸化物を含むアンモニアガスセンサ。
【請求項2】
前記保護層においてM/(M+Al)で表されるモル分率が1/10〜1/3である請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項3】
前記検知電極部は、Auを70質量%以上含む請求項1又は2に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項4】
前記検知電極部は、Auを70質量%以上含みかつ前記金属酸化物Mを含まない検知電極本体部と、該検知電極本体部と前記固体電解質体との間に配置される中間層であって、酸素イオン伝導性の固体電解質成分を50質量%以上含有すると共に前記金属酸化物Mを含む中間層と、を有する請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニアガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53940(P2013−53940A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192574(P2011−192574)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)