説明

アンモニア分解用触媒及び該触媒の製造方法、並びに該触媒を用いた水素製造方法

【課題】コスト的にも実用性の高い非貴金属系金属を活性成分とし、高活性な触媒を提供する。
【解決手段】本発明のアンモニア分解用触媒は、コバルトと、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族の金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である添加物質とを含む触媒であって、コバルトの算出比表面積(S2)と当該触媒の比表面積(S1)との比(S2/S1)が、0.15〜0.85であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解用触媒及びその製造方法、並びに、当該触媒を用いた水素製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
アンモニア分解による水素製造技術は古くから提案されているが、本格的に実用されることは少ないのが現状である。例えば、コークス炉から生じるアンモニアを分解し水素を得る技術が提案されている(特許文献1)。当該触媒は白金族を必須とするものであり、コストが高くなることが実用上の問題点である。一方、白金族を必須成分とする貴金属系触媒の問題点を克服するために、非貴金属系触媒が提案されている。非貴金属系の触媒として、銅族元素、クロム族元素及び鉄族元素のうちから選ばれる少なくとも1種の金属又は化合物とニッケルを触媒成分として用いる触媒が提案されている(特許文献2)。当該触媒は、ニッケルにコバルト、銅、クロム等各成分を組み合わせることにより、ニッケル単独成分からなる触媒に比べて、触媒性能を向上させたものである。また希土類とニッケルを組み合わせた触媒も提案されている(特許文献3)。
【0003】
これらの触媒は比表面積の高い担体に各触媒成分の溶液を含浸して調製したものであり、比表面積の高い酸化物表面を利用して当該表面に触媒成分を分散して担持することで触媒活性点を物理的に増加させて触媒全体として活性を向上させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−329372号公報
【特許文献2】特開平02−198638号公報
【特許文献3】特開平02−198639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
比表面積の高い担体を用いることで触媒活性点の数を増加させた形態の触媒系では、熱劣下による担体材料の比表面積低下に伴い、触媒活性点も減少し、触媒活性が低下することとなる。また、触媒活性点を増加させるために担体成分に対して多量の触媒成分を含浸担持しても触媒成分からなる粒子が凝集しやすくなるため、結果として触媒活性比表面積が増加しない。そのため、担体成分に含浸する触媒成分の含有量を増加させても含有量増加に見合った活性向上が得られず、含有量増加によりかえって触媒活性が低下し、十分な触媒活性を有する触媒を製造することが困難となっていた。このような従来触媒にみられる問題点を克服し、かつ、コスト面でも実用性に優れる高活性な触媒を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができた本発明のアンモニア分解用触媒は、コバルトと、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族の金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である添加物質とを含む触媒であって、コバルトの算出比表面積(S2)と当該触媒の比表面積(S1)との比(S2/S1)が、0.15〜0.85であることを特徴とする。前記添加物質はアルミナ、シリカ、ジルコニア、アルカリ土類金属酸化物及びランタノイド系金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物及び/又は複合酸化物が好ましい。前記触媒は、コバルトを触媒全量に対して55〜95質量%含有することが好ましい。
【0007】
本発明のアンモニア分解用触媒の製造方法の態様は、コバルトの水溶性塩と添加物質前駆体の水溶性塩とを水に溶解し、アルカリ性化合物によりコバルト及び添加物質前駆体の沈殿物を生成させた後、ろ過、水洗、乾燥、熱処理する態様;コバルト塩を水に加え水溶液を調製し、この水溶液にアルカリ性化合物を加えてコバルトを含有する微粒子を析出させて微粒子分散液を調製し、当該微粒子分散液を撹拌しながら前記添加物質の微粒子分散ゾル溶液を添加して、コバルトを含有する微粒子と添加物質微粒子からなる沈殿物を生成させた後、この沈殿物をろ過、水洗、乾燥、熱処理する態様;が好ましい。本発明には、上記アンモニア分解用触媒を用いて、アンモニアを分解し水素を得る水素製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアンモニア分解用触媒は、活性成分であるコバルトの含有量を高めた場合であっても、コバルトの算出比表面積(S2)が当該触媒の比表面積(S1)に対して0.15〜0.85(S2/S1)とコバルトの算出比表面積(S2)が高く保持できる。そのため、コスト面で実用上の問題を抱える貴金属系触媒を用いることなく、アンモニア分解反応に対して高活性を示し、効率良くアンモニアを水素と窒素に分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にかかる触媒はアンモニアを分解し水素を製造するために用いる触媒である。当該触媒はコバルトと、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族の金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である添加物質とを含む。
【0010】
コバルトの状態は、金属、酸化物、それらの混合物の何れであってもよく、好ましくは金属状態である。触媒中のコバルトの含有率は、コバルト(金属換算)と添加物質(酸化物換算)との合計質量(合計100質量%)に対して55〜95質量%が好ましく、より好ましくは60〜90質量%、さらに好ましくは65〜85質量%である。コバルトの含有率が、55質量%未満では十分なアンモニア分解活性が得られないことがあり、95質量%を超えるとコバルト量に対して添加物質が不足し、コバルトの凝集が進み耐熱性が低下する恐れがある。
【0011】
前記添加物質は、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族の金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物であり、好ましくはアルミナ、シリカ、ジルコニア、アルカリ土類金属酸化物及びランタノイド系金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である。当該複合酸化物とは、個々の金属酸化物の単純な物理混合物でなく、セリア・ジルコニア固溶体、シリカ・アルミナ等に例示されるように各構成金属元素が原子レベルで複合化し、個々の金属酸化物の単純物理混合物と比較して構造及び物性面で異なる特性を示す状態にあるものを指す。
【0012】
本発明のアンモニア分解用触媒は、前記コバルトの算出比表面積(S2)の触媒の比表面積(S1)に対する比(S2/S1)は0.15以上、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.22以上であり、0.85以下、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.75以下である。前記比(S2/S1)が0.15未満では、触媒におけるコバルトの算出比表面積が少なく十分な活性が得られないことがあり、0.85を超えると耐熱性が低下し、耐久性が低下する場合がある。
【0013】
前記コバルトの算出比表面積(S2)は、当該触媒の比表面積から添加物質由来の比表面積分を減じることにより算出される。添加物質のみからなる粉体は、添加物質前駆体から当該触媒調製手順と同様に作製する。得られた添加物質のみからなる粉体について、窒素ガスを用いたBET法により比表面積(S(b))を測定する。当該触媒の比表面積(S1)から当該触媒に含まれる添加物質由来の比表面積分(S(b)×当該触媒中の添加物質の質量含有率)を減じて当該コバルトの算出比表面積(S2)を得ることができる。
【0014】
本発明のアンモニア分解用触媒は、前記コバルトの算出比表面積(S2)が、20m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは25m2/g以上、さらに好ましくは30m2/g以上である。前記コバルトの算出比表面積が20m2/g以上であれば、アンモニア分解用触媒の触媒活性がより向上する。コバルトの算出比表面積(S2)は大きいほど好ましいが、触媒調製法の改良等によって増加できる値にも限界があり、実際的には250m2/g以下が好ましく、より好ましくは200m2/g以下、さらに好ましくは150m2/g以下である。
【0015】
本発明のアンモニア分解用触媒の比表面積(S1)は、10〜500m2/gが好ましく、より好ましくは20〜450m2/g、さらに好ましくは、25〜400m2/g、さらに好ましくは、30〜350m2/gである。触媒の比表面積(S1)が10m2/g以上であれば、触媒性能がより向上し、500m2/g以下であれば、触媒の強度が良好となる。アンモニア分解用触媒の比表面積は、窒素ガスを用いたBET法により測定する。
【0016】
本発明のアンモニア分解用触媒の形状は、粉体、球状、ペレット、サドル型、円筒型、板状、ハニカム状等、種々の形状のものを用いることができる。
【0017】
本発明にかかる触媒の製造方法の一例を示す。なお、本発明の効果を奏するものであれば以下の触媒製造方法に限定されるものではない。本発明の触媒の製造方法としては、例えば、(1)コバルト塩を水に加え水溶液を調製し、この水溶液にアルカリ性化合物を加えてコバルトを含有する微粒子(例えば、コバルト水酸化物微粒子)を析出させ微粒子分散液を調製する。この微粒子分散液を撹拌しながら、添加物質の微粒子分散ゾル溶液を添加して、コバルトを含有する微粒子(例えば、コバルト水酸化物微粒子)と添加物質微粒子からなる沈殿物を生成させる。その後、この沈殿物を、ろ過により取り出し、水洗、乾燥、熱処理(例えば、還元性雰囲気下での熱処理)して触媒を得る方法;(2)添加物質前駆体の水溶性塩とコバルトの水溶性塩とを水に加え十分に混合した後、アルカリ性化合物を加えコバルトと添加物質前駆体とを含有する微粒子(例えば、水酸化物微粒子)の沈殿物を生成させる。その後、この沈殿物をろ過により取り出し、ろ過、水洗、乾燥、熱処理(例えば、還元性雰囲気下での熱処理)して触媒を得る方法;(3)アルカリ性化合物を加えたアルカリ性水溶液を調製する。撹拌したアルカリ性水溶液中に添加物質前駆体の水溶性塩とコバルトの水溶性塩を含む混合水溶液を追加して、コバルトを含む微粒子(例えば、コバルト水酸化物微粒子)と添加物質前駆体の微粒子からなる沈殿物を生成させる。その後、この沈殿物をろ過により取り出し、水洗、乾燥、熱処理(例えば、還元性雰囲気下での熱処理)して触媒を得る方法;が挙げられる。
【0018】
上記製造方法において、熱処理は、空気雰囲気下での焼成;窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下での熱処理;水素等の還元性ガスを含む還元性ガス雰囲気下での還元を含む。また、触媒は使用に際して還元処理をすることが好ましい。還元方法としては、水素ガス等の還元性ガスと接触させる通常の方法を採用することができる。水素ガスを用いた還元処理を行う場合、還元条件は300〜750℃、好ましくは400〜650℃で、30分〜2時間処理するものである。なお、水素製造時、原料ガスが酸素ガスを含む場合、アンモニア分解反応とともにアンモニア燃焼反応が進行するが、このアンモニア燃焼反応によって触媒温度が直ちに上昇し、アンモニア分解により生成した水素によって触媒が還元される。そのため、原料ガスが酸素ガスを含む場合には、アンモニア分解用触媒について、使用前の還元処理を施さなくとも使用できる場合がある。
【0019】
コバルトの原料は、最終的に還元処理により金属コバルトを生成するものであれば何れの化合物でも使用することが可能であるが、好ましくは水溶性の化合物である硝酸コバルト六水和物、酢酸コバルト四水和物、塩化コバルト六水和物である。
【0020】
添加物質の原料は最終的に熱処理により金属酸化物及び/又は複合酸化物を生成するものであれば何れの化合物でも使用することが可能であり、好ましくは水溶性の化合物である各種金属の硝酸塩、酢酸塩、塩化物、硫酸塩を使用することができる。
【0021】
前記アルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア、炭酸アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアンモニア系化合物;水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等が挙げられる。
【0022】
本発明にかかるアンモニア分解用触媒を用いた水素製造方法は、当該触媒を用いてアンモニアガスを分解し水素を製造するものである。原料ガスは、アンモニアガスであるが、本発明の効果を阻害しないものであれば、他のガスを加えることができ、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、一酸化炭素、酸素である。特に、原料ガスが酸素を含む場合、アンモニアガスやアンモニア分解反応で生成した水素の一部を燃焼し、その燃焼熱をアンモニア分解反応の反応熱として使用するオートサーマルリフォーマーによるアンモニア分解を行うことができる。この場合、アンモニアに対する酸素のモル比(酸素/アンモニア)は、0.75未満とする必要がある。また、アンモニア分解により得られる水素量と、燃焼反応による燃焼熱とを両立させる観点から、モル比(酸素/アンモニア)は0.05以上が好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.12以上であり、0.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以下である。
【0023】
アンモニアの分解反応は、反応温度が300〜900℃、好ましくは400〜700℃であり、反応圧力は0.002〜2MPa、好ましくは0.004〜1MPaである。反応ガス(原料ガス)導入時の空間速度(SV)は1,000〜500,000hr-1、好ましくは1,000〜200,000hr-1である。
【0024】
また、触媒を使用するに際して、事前に前処理することもできる。適した処理条件で前処理することにより触媒の状態を反応中の状態に近いものとすることができ、本前処理を施すことにより当初から定常的な反応状態での運転が可能になる。前処理としては、例えば、窒素ガスを反応条件で一定時間触媒に流通させることである。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0026】
製造例1
100gの硝酸コバルト六水和物と73.4gの硝酸アルミニウム九水和物を750mLの純水に溶解させ、硝酸コバルトと硝酸アルミニウムの混合水溶液を調製した(水溶液A1)。別途、122gの炭酸アンモニウムを2.25Lの純水に溶解させた水溶液B1を調製した。常温下で激しく撹拌した水溶液B1に水溶液A1を一度に加え、さらに一時間撹拌を継続し、沈殿物を生成させた。その後、当該沈殿物をろ過回収し、水洗後、150℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて650℃で一時間還元して触媒1を得た。得られた触媒1のコバルト含有率は、金属換算で触媒全量に対して67質量%であった。
【0027】
製造例2
製造例1における硝酸コバルト六水和物、硝酸アルミニウム九水和物及び炭酸アンモニウムの使用量を122g、42.2g及び113gに変更した以外は製造例1と同様にして触媒2を得た。得られた触媒2のコバルト含有率は、金属換算で触媒全量に対して81質量%であった。
【0028】
製造例3
87.4gの硝酸コバルト六水和物と42.0gの硝酸マグネシウム六水和物を600mLの純水に溶解させ、硝酸コバルトと硝酸マグネシウムの混合水溶液を調製した(水溶液A2)。別途、130gの水酸化カリウムを2.4Lの純水に溶解させた水溶液B2を調製した。常温下で激しく撹拌した水溶液B2に水溶液A2を滴下し、沈殿物を生成させた。当該沈殿物をろ過し、十分に水洗した後、150℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒3を得た。得られた触媒3のコバルト含有率は、金属換算で触媒全量に対して73質量%であった。
【0029】
製造例4
γ−アルミナ(住友化学株式会社製)粉体を、空気雰囲気下、950℃で10時間焼成した後、粉砕した。この熱処理によりアルミナの結晶相は、γ相からκ相に転移していた。この熱処理アルミナ粉体20gに、11.0gの硝酸コバルト六水和物を50mLの純水に溶解させた水溶液を加え、撹拌しながら加熱して水分を蒸発させて乾燥物を得た。得られた乾燥物を、さらに150℃で一晩乾燥後、粉砕して管状炉に充填し、10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒4を得た。得られた触媒4のコバルト含有率は、金属換算で触媒全量に対して10質量%であった。
【0030】
製造例5
150℃で一晩乾燥させたγ−アルミナ(Strem Chemicals Inc.製)粉体を粉砕し、当該粉体20gに、24.8gの硝酸ニッケル六水和物を50mLの純水に溶解させた水溶液を加え、撹拌しながら加熱して水分を蒸発させて乾燥物を得た。得られた乾燥物を、さらに150℃で一晩乾燥後、粉砕して管状炉に充填し、10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒5を得た。得られた触媒5のニッケル含有率は、金属換算で触媒全量に対して20質量%であった。
【0031】
製造例6
105.0gの硝酸アルミニウム九水和物を500mLの純水に溶解させた(水溶液A3)。別途、80.6gの炭酸アンモニウムを1.5Lの純水に溶解させた水溶液B3を調製した。常温下で激しく撹拌した水溶液B3に水溶液A3を一度に加え、さらに一時間撹拌を継続し、沈殿物を生成させた。その後、当該沈殿物をろ過回収し、水洗後、150℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて650℃で一時間還元処理してアルミナからなる粉体1を得た(触媒1及び2の添加物質)。
【0032】
製造例7
102.6gの硝酸マグネシウム六水和物を500mLの純水に溶解させた(水溶液A4)。別途、112.2gの水酸化カリウムを2Lの純水に溶解させた水溶液B4を調製した。常温下で激しく撹拌した水溶液B4に水溶液A4を滴下し、沈殿物を生成させた。当該沈殿物をろ過し、十分に水洗した後、150℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元処理してマグネシアからなる粉体2を得た(触媒3の添加物質)。
【0033】
製造例8
製造例4で調製した熱処理アルミナ粉体を管状炉に充填し、10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元処理してアルミナからなる粉体3を得た(触媒4の添加物質)。
【0034】
製造例9
製造例5で使用したγ−アルミナ(Strem Chemicals Inc.製)を粉砕後、当該粉体を管状炉に充填し、10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元処理してアルミナからなる粉体4を得た(触媒5の添加物質)。
【0035】
<触媒の比表面積測定法>
触媒の比表面積は、窒素ガスを用いたBET法により測定した。
【0036】
<コバルト、ニッケルの比表面積算出法>
コバルト、ニッケルの算出比表面積は、触媒の比表面積から添加物質由来の比表面積分を減じることにより算出した。触媒中の添加物質由来の比表面積は、以下のようにして求めた。具体的には、各製造例で使用した添加物質前駆体のみを用いて、その製造例における触媒調製手順と同様に、添加物質のみからなる粉体を調製した。得られた添加物質のみからなる粉体について、窒素ガスを用いたBET法により比表面積(S(b))を測定した。下記式により触媒中の添加物質由来の比表面積を算出した。
触媒中の添加物質由来の比表面積=(S(b)×当該触媒中の添加物質の質量含有率)
【0037】
<コバルト、ニッケルの個数平均粒子径>
透過型電子顕微鏡観察結果からコバルト粒子(触媒1〜4)又はニッケル粒子(触媒5)の個数平均粒子径を測定した。
【0038】
【表1】

【0039】
<アンモニア分解反応試験>
10mmφのSUS316製反応管を用い、製造例1〜5で調製した触媒1〜5を0.8mL充填してアンモニア分解反応を行った。常圧下、SV=18,000hr-1とし、電気炉で反応管を加熱し、各電気炉設定温度でのアンモニア分解率を測定した。触媒に供給する入口ガス組成は、アンモニア58.3体積%及び残部窒素とした。
アンモニア分解率は、入口に供給しているアンモニア流速V1、窒素流速V2及び触媒層出口ガス中に含まれる未反応アンモニアをトラップした後のガス流速V3から下記式により算出した。なお、触媒の前処理として窒素で希釈した10体積%水素を毎分100mlで流通しながら450℃で1時間還元を行ってからアンモニア分解反応を実施した。反応結果を表2に示す。
アンモニア分解率(%)=100×(V3−V2)×0.5/V1
【0040】
【表2】

【0041】
<酸素共存下でのアンモニア分解反応>
10mmφのSUS316製反応管を用い、製造例1、5で調製した触媒1、5を0.8mL充填して酸素共存下でのアンモニア分解反応を行った。常圧下、SV=18,000hr-1とし、電気炉で反応管を加熱し、電気炉設定温度150℃でのアンモニア分解率を測定した。アンモニア分解反応は、触媒に供給する入口ガス組成をアンモニア58体積%、酸素7.1体積%及び残部窒素として実施した。
アンモニア分解率は、入口に供給しているアンモニア流速F1、触媒出口ガス中の未反応アンモニアをホウ酸水溶液で一定時間捕集し、当該捕集液に含まれるアンモニア濃度を陽イオンクロマトグラフで定量分析して出口ガス中のアンモニア流速F2を求め、下記式により算出した。なお、触媒の前処理として窒素で希釈した10%水素を毎分100mlで流通しながら450℃で1時間還元を行ってから水蒸気共存下でのアンモニア分解反応を実施した。反応結果を表3に示す。
アンモニア分解率(%)=100−{100×(F2/F1)}
【0042】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、アンモニアの分解に関するものであり、本発明を用いることでアンモニアから水素を効率よく得ることができる。本発明は、水素製造技術に関して広く応用することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトと、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族の金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である添加物質とを含む触媒であって、
コバルトの算出比表面積(S2)と当該触媒の比表面積(S1)との比(S2/S1)が、0.15〜0.85であることを特徴とするアンモニア分解用触媒。
【請求項2】
前記添加物質がアルミナ、シリカ、ジルコニア、アルカリ土類金属酸化物及びランタノイド系金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物及び/又は複合酸化物である請求項1記載のアンモニア分解用触媒。
【請求項3】
コバルトを触媒全量に対して55〜95質量%含有する請求項1又は2記載のアンモニア分解用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法であって、
コバルトの水溶性塩と添加物質前駆体の水溶性塩とを水に溶解し、アルカリ性化合物によりコバルト及び添加物質前駆体の沈殿物を生成させた後、ろ過、水洗、乾燥、熱処理することを特徴とするアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法であって、
コバルト塩を水に加え水溶液を調製し、この水溶液にアルカリ性化合物を加えてコバルトを含有する微粒子を析出させて微粒子分散液を調製し、当該微粒子分散液を撹拌しながら前記添加物質の微粒子分散ゾル溶液を添加して、コバルトを含有する微粒子と添加物質微粒子からなる沈殿物を生成させた後、この沈殿物をろ過、水洗、乾燥、熱処理することを特徴とするアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒を用いて、アンモニアを分解し水素を得ることを特徴とする水素製造方法。

【公開番号】特開2011−224554(P2011−224554A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73602(P2011−73602)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】