説明

アンモニア分解触媒およびその製造方法、ならびに、アンモニア処理方法

【課題】貴金属を用いることなく、広範囲なアンモニア濃度域において、アンモニアを比較的低温で、かつ、高い空間速度で窒素と水素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒およびその製造方法、ならびに、アンモニア処理方法を提供すること。
【解決手段】アンモニア分解触媒は、触媒活性成分が金属窒化物を含有する。このアンモニア分解触媒は、金属窒化物の前駆体をアンモニアまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理して、前記金属窒化物を形成することにより製造される。このアンモニア分解触媒を用いて、アンモニアを含有するガスを処理すれば、前記アンモニアは窒素と水素とに分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを窒素と水素とに分解する触媒およびその製造方法、ならびに、この触媒を用いたアンモニア処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、臭気性、特に刺激性の悪臭を有するので、ガス中に臭気閾値以上含まれる場合には、これを処理することが必要となる。そこで、従来から様々なアンモニア処理方法が検討されてきた。例えば、アンモニアを酸素と接触させて窒素と水とに酸化する方法、アンモニアを窒素と水素とに分解する方法などが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、コークス炉から生じるアンモニアを窒素と水とに酸化するにあたり、例えば、白金−アルミナ触媒、マンガン−アルミナ触媒、コバルト−アルミナ触媒などを用いると共に、コークス炉から生じるアンモニアを窒素と水素とに分解するにあたり、例えば、鉄−アルミナ触媒、ニッケル−アルミナ触媒などを用いるアンモニア処理方法が開示されている。しかし、このアンモニア処理方法は、NOxが副生することが多いことから、新たにNOx処理設備が必要となるので、好ましくない。
【0004】
また、特許文献2には、有機性廃棄物を処理する工程から生じるアンモニアを窒素と水素とに分解するにあたり、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物担体上にニッケルまたはニッケル酸化物を担持させ、さらにアルカリ土類金属およびランタノイド元素の少なくとも一方を金属または酸化物の形で添加した触媒を用いるアンモニア処理方法が開示されている。しかし、このアンモニア処理方法は、アンモニア分解率が低く、実用的ではない。
【0005】
さらに、特許文献3には、コークス炉から生じるアンモニアを窒素と水素とに分解するにあたり、アルミナ担体上のルテニウムにアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基性化合物を添加した触媒を用いるアンモニア処理方法が開示されている。このアンモニア処理方法は、従来の鉄−アルミナなどの触媒に比べて、より低温でアンモニアを分解できるという利点があるにもかかわらず、活性金属種として、希少貴金属であるルテニウムを用いているので、コスト面で大きな問題を抱えており、実用的ではない。
【0006】
その他、アンモニアの分解によって回収された水素を燃料電池用の水素源として利用することが検討されているが、この場合は、高純度の水素を得ることが必要となる。これまでに提案されてきたアンモニア分解触媒を用いて、高純度の水素を得ようとすると、非常に高い反応温度が必要となり、あるいは、高価な触媒を多量に用いる必要があるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、アンモニアを比較的低温(約400〜500℃)で分解できる触媒として、例えば、特許文献4には、鉄−セリア複合体が開示され、特許文献5には、ニッケル−酸化ランタン/アルミナ、ニッケル−イットリア/アルミナ、ニッケル−セリア/アルミナの3元系複合体が開示され、非特許文献1には、鉄−セリア/ジルコニアの3元系複合体が開示されている。
【0008】
しかし、これらの触媒は、いずれも、処理ガスのアンモニア濃度が低い(具体的には、特許文献4は5体積%、特許文献5は50体積%)か、あるいは、アンモニアを基準とした空間速度が低い(具体的には、特許文献4は642h−1、特許文献5は1,000h−1、非特許文献1は430h−1)といった条件下で、アンモニア分解率を測定しているので、たとえ、アンモニア分解率が比較的低温で100%であるからと言っても、必ずしも触媒性能が高いわけではない。
【0009】
このように、従来のアンモニア分解触媒は、いずれも、アンモニアを比較的低温で、かつ、高い空間速度で効率よく分解して高純度の水素を取得することはできないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭64−56301号公報
【特許文献2】特開2004−195454号公報
【特許文献3】特開平1−119341号公報
【特許文献4】特開2001−300314号公報
【特許文献5】特開平2−198639号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】舛田雅裕、外3名,「希土類酸化物−鉄系複合体のアンモニア分解特性」,第18回希土類討論会予稿集「希土類」,主催:日本希土類学会,開催日:2001年5月10〜11日,於中央大学,p.122−123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、コスト面で実用上の問題がある貴金属を用いることなく、低濃度から高濃度までの広範囲なアンモニア濃度域において、アンモニアを比較的低温で、かつ、高い空間速度で窒素と水素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒およびその製造方法、ならびに、アンモニア処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々検討の結果、触媒活性成分に特定の遷移金属(貴金属を除く)の窒化物を含有させれば、アンモニアを比較的低温で、かつ、高い空間速度で窒素と水素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、アンモニアを窒素と水素とに分解する触媒であって、触媒活性成分が金属窒化物を含有することを特徴とするアンモニア分解触媒を提供する。本発明のアンモニア分解触媒において、前記触媒活性成分は、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属の窒化物を含有することが好ましく、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。
【0015】
また、本発明は、金属窒化物の前駆体をアンモニアまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理して、前記金属窒化物を形成することを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法を提供する。本発明によるアンモニア分解触媒の製造方法において、前記前駆体は、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属またはその化合物であることが好ましい。また、前記前駆体に、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加してもよい。
【0016】
さらに、本発明は、上記のようなアンモニア分解触媒を用いて、アンモニアを含有するガスを処理して、前記アンモニアを窒素と水素とに分解して水素を取得することを特徴とするアンモニア処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、貴金属を用いることなく、低濃度から高濃度までの広範囲なアンモニア濃度域において、アンモニアを比較的低温で、かつ、高い空間速度で窒素と水素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒、この触媒を簡便に製造する方法、ならびに、この触媒を用いて、アンモニアを窒素と水素とに分解して水素を取得する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実験例8で製造された触媒のX線回折パターンである。
【図2】実験例12で製造された触媒のX線回折パターンである。
【図3】実験例16で製造された触媒のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪アンモニア分解触媒≫
本発明のアンモニア分解触媒(以下「本発明の触媒」ということがある)は、アンモニアを窒素と水素とに分解する触媒であって、触媒活性成分が金属窒化物を含有することを特徴とする。
【0020】
本発明の触媒において、金属窒化物は、遷移金属の窒化物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、周期律表の第4〜8族に属する遷移金属の窒化物が挙げられる。これらの金属窒化物のうち、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属の窒化物であることが好ましく、モリブデン、コバルト、ニッケルおよび鉄よりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属の窒化物がより好ましい。
【0021】
金属窒化物は、それ自体を用いてもよいし、その前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理することにより形成してもよい。金属窒化物の前駆体としては、遷移金属、その酸化物および塩などが挙げられる。これらの前駆体のうち、遷移金属の酸化物が好ましい。遷移金属については、上記したとおりである。
【0022】
窒化処理により触媒活性成分が窒化物に変化した割合は、X線回折で触媒の結晶構造を調べることにより確認することができる。触媒活性成分の全部が窒化物に変化していることが好ましいが、必ずしもその必要はなく、触媒活性成分の一部が窒化物に変化している場合であっても、充分な触媒活性を有する。触媒中における窒化物の割合(X線回折パターンにおける酸化物のピークと窒化物のピークとの積算値の和を100%としたときの割合)は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
【0023】
本発明の触媒において、触媒活性成分は、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。これらの添加成分のうち、アルカリ金属が好ましい。
【0024】
これらの添加成分の量(酸化物換算)は、金属窒化物に対して、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0.2〜20質量%である。なお、酸化物換算は、希土類金属は3価金属の酸化物、アルカリ金属は1価金属の酸化物、アルカリ土類金属は2価金属の酸化物として換算する。
【0025】
<物性>
本発明の触媒は、比表面積が好ましくは1〜300m/g、より好ましくは5〜260m/g、さらに好ましくは18〜200m/gである。
【0026】
<触媒の形状>
本発明の触媒は、触媒活性成分をそのまま触媒とするか、あるいは、従来公知の方法を用いて、触媒活性成分を担体に担持してもよい。担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリアなどの金属酸化物が挙げられる。
【0027】
本発明の触媒は、従来公知の方法を用いて、所望の形状に成形して用いてもよい。触媒の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粒状、球状、ペレット状、破砕状、サドル状、リング状、ハニカム状、モノリス状、網状、円柱状、円筒状などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の触媒は、構造体の表面に層状にコートして用いてもよい。構造体としては、特に限定されるものではないが、例えば、コージェライト、ムライト、炭化珪素、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリアなどのセラミックスからなる構造体;フェライト系ステンレスなどの金属からなる構造体;などが挙げられる。構造体の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハニカム状、コルゲート状、網状、円柱状、円筒状などが挙げられる。
【0029】
≪アンモニア分解触媒の製造方法≫
以下に、本発明のアンモニア分解触媒を製造する方法の好適な具体例を示すが、本発明の課題が達成される限り、下記の製造方法に限定されるものではない。
【0030】
(1)金属窒化物の前駆体をアンモニアガスで窒化処理する方法;
(2)金属窒化物の前駆体を窒素−水素混合ガスで窒化処理する方法;
(3)金属窒化物の前駆体に、添加成分を混合して含有させた後、アンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理する方法;
(4)金属窒化物の前駆体に、添加成分を含有する水溶液または水性懸濁液を混合し、乾燥させ、必要に応じて、焼成した後、アンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理する方法;
(5)金属窒化物の前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理した後、添加成分を混合して含有させる方法;
(6)金属窒化物の前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理した後、添加成分を含有する水溶液または水性懸濁液を混合し、乾燥させ、必要に応じて、さらに焼成する方法。
【0031】
本発明によるアンモニア分解触媒の製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある)は、例えば、金属窒化物の前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理して、前記金属窒化物を形成することを特徴とする。
【0032】
金属窒化物の前駆体は、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属またはその化合物であることが好ましい。また、金属窒化物の前駆体に、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加してもよい。これらの添加成分のうち、アルカリ金属が好ましい。
【0033】
金属窒化物は、それ自体を用いるか、あるいは、その前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理することにより形成する。金属窒化物の前駆体としては、遷移金属、その酸化物および塩などが挙げられる。これらの前駆体のうち、遷移金属の酸化物が好ましい。遷移金属については、上記したとおりである。
【0034】
窒化処理の温度は、通常は300〜800℃、好ましくは400〜750℃、より好ましくは500〜720℃である。アンモニアを用いる場合、アンモニアの濃度は、好ましくは10〜100体積%、より好ましくは50〜100体積%である。窒素−水素混合ガスを用いる場合、窒素の濃度は、好ましくは2〜95体積%、より好ましくは20〜90体積%である。水素の濃度は、好ましくは5〜98体積%、より好ましくは10〜80体積%である。
【0035】
ガスの流量(体積)は、アンモニアまたは窒素−水素混合ガスのいずれの場合も、1分間あたり、触媒の体積に対して、好ましくは80〜250倍、より好ましくは100〜200倍である。
【0036】
なお、窒化処理に先立って、窒素を流しながら300〜400℃まで昇温することがより好ましい。この場合、窒素の流量(体積)は、1分間あたり、触媒の体積に対して、好ましくは50〜120倍、より好ましくは60〜100倍である。
【0037】
≪アンモニア処理方法≫
本発明のアンモニア処理方法は、上記のようなアンモニア分解触媒を用いて、アンモニアを含有するガスを処理して、前記アンモニアを窒素と水素とに分解して取得することを特徴とする。処理対象となる「アンモニアを含有するガス」としては、特に限定されるものではないが、アンモニアガスやアンモニア含有ガスだけでなく、尿素などのように熱分解によりアンモニアを生じる物質を含有するガスであってもよい。また、アンモニアを含有するガスは、触媒毒にならない程度であれば、他の成分を含有していてもよい。
【0038】
触媒あたりの「アンモニアを含有するガス」の流量は、空間速度で、好ましくは1,000〜200,000h−1、より好ましくは2,000〜150,000h−1、さらに好ましくは3,000〜100,000h−1である。ここで、触媒あたりの「アンモニアを含有するガス」の流量とは、触媒を反応器に充填した際に触媒が占める体積あたりの単位時間あたりに触媒を通過する「アンモニアを含有するガス」の体積を意味する。
【0039】
反応温度は、好ましくは180〜950℃、より好ましくは300〜900℃、さらに好ましくは400〜800℃である。反応圧力は、好ましくは0.002〜2MPa、より好ましくは0.004〜1MPaである。
【0040】
本発明のアンモニア処理方法によれば、アンモニアを分解して得られた窒素および水素を、従来公知の方法を用いて、窒素と水素とに分離することにより、高純度の水素を取得することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実験例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
なお、X線回折測定には、X線回折装置(製品名「RINT−2400」、株式会社リガク製)を用いた。X線源には、CuKα(0.154nm)を用い、測定条件として、X線出力50kV、300mA、発散スリット1.0mm、発散縦制限スリット10mmで、スキャンスピード毎分5度、サンプリング幅0.02度、走査範囲5〜90度で実施した。
【0043】
≪実験例1≫
硝酸コバルト六水和物80.00gを蒸留水400.00gに溶解させた。別途、沸騰させた蒸留水250gにモリブデン酸アンモニウム48.53gを徐々に添加して溶解させた。両方の水溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。X線回折測定により、α−CoMoOであることを確認した(表1を参照)。なお、表1に示すピークは、すべて、CoMoO由来のピークである。
【0044】
【表1】

【0045】
さらに、SUS316製の反応管に、α−CoMoOを0.5〜1.0mL充填し、窒素ガス(以下「窒素」と略す)30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニアガス(以下「アンモニア」と略す)50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「CoMoO」と表示する)を得た。X線回折測定により、金属窒化物が形成されていることを確認した(表2を参照)。なお、表2に示すピークのうち、ピーク番号3はMo由来であると思われるが、それ以外は、すべて、CoMoN由来のピークである。
【0046】
【表2】

【0047】
≪実験例2≫
硝酸コバルト六水和物80.00gを蒸留水400.00gに溶解させた。別途、沸騰させた蒸留水250gにモリブデン酸アンモニウム48.53gを徐々に添加して溶解させた。両方の水溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。X線回折測定により、α−CoMoOであることを確認した。
【0048】
次いで、硝酸セシウム0.089gを蒸留水3.23gに溶解させた。この水溶液を、α−CoMoO 6.00gに滴下して均一に浸透させ、90℃で10時間乾燥させた後、X線回折測定により、α−CoMoOであることを確認した(表3を参照)。なお、表3に示すピークは、すべて、CoMoO由来のピークである。ただし、Csを添加したことにより、結晶格子の歪みで、2θの値には、ずれが生じている。
【0049】
【表3】

【0050】
さらに、SUS316製の反応管に、Csを含むα−CoMoOを0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「1%Cs−CoMoO」と表示する)を得た。X線回折測定により、金属窒化物が形成されていることを確認した(表4を参照)。なお、表4に示すピークのうち、ピーク番号4はMo由来であると思われるが、それ以外は、すべて、CoMoN由来のピークである。ただし、Csを添加したことにより、結晶格子の歪みで、2θの値には、ずれが生じている。
【0051】
【表4】

【0052】
≪実験例3≫
実験例2において、硝酸セシウム0.089gを蒸留水3.23gに溶解させた水溶液に代えて、硝酸セシウム0.18gを蒸留水3.21gに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、実験例2と同様にして、アンモニア分解触媒(以下「2%Cs−CoMoO」と表示する)を得た。なお、硝酸セシウムを均一に浸透させ、90℃で10時間乾燥させた後の状態は、X線回折測定により、α−CoMoOであることを確認した(表5を参照)。なお、表5に示すピークは、すべて、CoMoO由来のピークである。
【0053】
【表5】

【0054】
窒化処理後の状態は、X線回折測定により、金属窒化物が形成されていることを確認した(表6を参照)。なお、表6に示すピークのうち、ピーク番号3はMo由来であると思われるが、それ以外は、すべて、CoMoN由来のピークである。ただし、Csを添加したことにより、結晶格子の歪みで、2θの値には、ずれが生じている。
【0055】
【表6】

【0056】
≪実験例4≫
実験例2において、硝酸セシウム0.089gを蒸留水3.23gに溶解させた水溶液に代えて、硝酸セシウム0.46gを蒸留水3.20gに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、実験例2と同様にして、アンモニア分解触媒(以下「5%Cs−CoMoO」と表示する)を得た。なお、硝酸セシウムを均一に浸透させ、90℃で10時間乾燥させた後の状態は、X線回折測定により、α−CoMoOであることを確認した(表7を参照)。なお、表7に示すピークは、すべて、CoMoO由来のピークである。
【0057】
【表7】

【0058】
窒化処理後の状態は、X線回折測定により、金属窒化物が形成されていることを確認した(表8を参照)。なお、表8に示すピークのうち、ピーク番号4はMo由来であると思われるが、それ以外は、すべて、CoMoN由来のピークである。ただし、Csを添加したことにより、結晶格子の歪みで、2θの値には、ずれが生じている。
【0059】
【表8】

【0060】
≪実験例5〜7≫
実験例1において、硝酸コバルト六水和物およびモリブデン酸アンモニウムの量を適宜変更したこと以外は、実験例1と同様にして、コバルトとモリブデンとのモル比(Co/Mo)が、実験例5では、1.05であるアンモニア分解触媒(以下「Co/Mo=1.05」と表示する)、実験例6では、1.10であるアンモニア分解触媒(以下「Co/Mo=1.10」と表示する)、実験例7では、0.90であるアンモニア分解触媒(以下「Co/Mo=0.90」と表示する)を得た。なお、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した後の状態は、X線回折測定により、それぞれ、α−CoMoOであることを確認した。なお、実験例5〜7のアンモニア分解触媒については、ピーク強度などのデータを表で示さないが、実験例1〜4のアンモニア分解触媒とほとんど変わらなかった。
【0061】
≪実験例8≫
実験例1において、硝酸コバルト六水和物を硝酸ニッケル六水和物に変更したこと以外は、実験例1と同様にして、アンモニア分解触媒(以下「NiMoO」と表示する)を得た。なお、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した後の状態は、X線回折測定により、α−CoMoO型を示すNiMoOであることを確認した。得られたアンモニア分解触媒のX線回折パターンを図1に示す。図1から明らかなように、ほぼ全てが窒化物に変化していることがわかる。
【0062】
≪実験例9≫
実験例8において、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した後の状態を、X線回折測定により、α−CoMoO型を示すNiMoOであることを確認してから、このα−CoMoO型を示すNiMoOに、硝酸セシウム0.075gを蒸留水1.55gに溶解させた水溶液を、滴下して均一に浸透させ、90℃で10時間乾燥させた後、窒化処理を行ったこと以外は、実験例8と同様にして、アンモニア分解触媒(以下「1%Cs−NiMoO」と表示する)を得た。なお、窒化処理前の状態は、X線回折測定により、α−CoMoO型を示すNiMoOであることを確認した。得られたアンモニア分解触媒の回折パターンを図で示さないが、実験例8のアンモニア分解触媒と同様であった。
【0063】
≪実験例10および11≫
実験例9において、硝酸セシウム0.075gを蒸留水1.55gに溶解させた水溶液に代えて、実験例10では、硝酸セシウム0.15gを蒸留水1.55gに溶解させた水溶液を用いたこと、実験例11では、硝酸セシウム0.40gを蒸留水1.55gに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、実験例9と同様にして、それぞれ、アンモニア分解触媒(以下「2%Cs−NiMoO」と表示する)およびアンモニア分解触媒(以下「5%Cs−NiMoO」と表示する)を得た。なお、窒化処理前の状態は、それぞれ、X線回折測定により、α−CoMoO型を示すNiMoOであることを確認した。得られたアンモニア分解触媒の回折パターンを図で示さないが、実験例8のアンモニア分解触媒と同様であった。
【0064】
≪実験例12≫
SUS316製の反応管に、市販の酸化モリブデン(MoO)0.5〜1.0mLを充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「MoO」と表示する)を得た。得られたアンモニア分解触媒のX線回折パターンを図2に示す。図1から明らかなように、ほぼ全てが元の酸化物のままで、一部のみ窒化物に変化していることがわかる。
【0065】
≪実験例13≫
硝酸セシウム0.21gを蒸留水1.62gに溶解させた水溶液を、市販の酸化モリブデン(MoO)7.00gに滴下して均一に浸透させ、120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。
【0066】
さらに、SUS316製の反応管に、焼成物を0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「2%Cs−MoO」と表示する)を得た。得られたアンモニア分解触媒の回折パターンを図で示さないが、実験例12のアンモニア分解触媒と同様であった。
【0067】
≪実験例14および15≫
実験例13において、硝酸セシウム0.21gを蒸留水1.62gに溶解させた水溶液に代えて、実験例14では、硝酸セシウム0.54gを蒸留水1.62gに溶解させた水溶液を用いたこと、実験例15では、硝酸セシウム1.14gを蒸留水1.62gに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、実験例13と同様にして、それぞれ、アンモニア分解触媒(以下「5%Cs−MoO」と表示する)およびアンモニア分解触媒(以下「10%Cs−MoO」と表示する)を得た。得られたアンモニア分解触媒の回折パターンを図で示さないが、実験例12のアンモニア分解触媒と同様であった。
【0068】
≪実験例16≫
硝酸コバルト六水和物9.49gを蒸留水41.18gに溶解させ、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(略称「MW−2」、日本無機化学工業株式会社製;酸化タングステンとして、50質量%含有)15.13gを添加した。両方の溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。
【0069】
さらに、SUS316製の反応管に、焼成物を0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「CoWO」と表示する)を得た。得られたアンモニア分解触媒のX線回折パターンを図3に示す。図3から明らかなように、酸化物が部分窒化されたもの(CoWO1.2N)と、酸化物が還元により金属化されたもの(CoW)とに変化していることがわかる。
【0070】
≪実験例17≫
硝酸マンガン六水和物13.36gを蒸留水67.08gに溶解させた。別途、沸騰させた蒸留水41.04gにモリブデン酸アンモニウム8.22gを徐々に添加して溶解させた。両方の水溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。X線回折測定により、α−MnMoOであることを確認した。
【0071】
さらに、SUS316製の反応管に、焼成物を0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「MnMoO」と表示する)を得た。
【0072】
≪実験例18≫
硝酸カルシウム四水和物11.81gを蒸留水60.10gに溶解させた。別途、沸騰させた蒸留水45.06gにモリブデン酸アンモニウム8.83gを徐々に添加して溶解させた。両方の水溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。
【0073】
さらに、SUS316製の反応管に、焼成物を0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「CaMoO」と表示する)を得た。
【0074】
≪実験例19≫
硝酸マグネシウム六水和物13.92gを蒸留水70.02gに溶解させた。別途、沸騰させた蒸留水48.03gにモリブデン酸アンモニウム9.58gを徐々に添加して溶解させた。両方の水溶液を混合した後、加熱攪拌し、蒸発乾固させた。得られた固形物を120℃で10時間乾燥させた後、窒素気流下、350℃で5時間焼成し、空気気流下、500℃で3時間焼成した。
【0075】
さらに、SUS316製の反応管に、焼成物を0.5〜1.0mL充填し、窒素30〜50mL/minを流しながら、400℃まで昇温した。次いで、アンモニア50〜100mL/minを流しながら、700℃まで昇温し、700℃で5時間保持する処理(窒化処理)を行って、アンモニア分解触媒(以下「MgMoO」と表示する)を得た。
【0076】
≪アンモニア分解反応≫
実験例1〜19で得られた各触媒、および、純度99.9体積%以上のアンモニアを用いて、アンモニア分解反応を行い、アンモニアを窒素と水素とに分解した。
【0077】
なお、アンモニア分解率は、アンモニアの空間速度6,000h−1、反応温度400℃、450℃、または、500℃、反応圧力0.101325MPa(常圧)の条件下で測定した(下記式により算出した)。その結果を表9に示す。
【0078】
【数1】

【0079】
【表9】

【0080】
表9から明らかなように、実験例1〜19のアンモニア分解触媒は、いずれも、純度99.9体積%以上という高濃度のアンモニアを、400〜500℃という比較的低温で、かつ、6,000h−1という高い空間速度で効率よく窒素と水素とに分解することができる。また、実験例1〜11のアンモニア触媒は、A成分であるモリブデンとB成分であるコバルトまたはニッケルとの複合酸化物であるので、アンモニア分解率が比較的高い。さらに、実験例2〜4のアンモニア分解触媒は、特にA成分であるモリブデンとB成分であるコバルトとの複合酸化物にC成分であるセシウムが添加されているので、アンモニア分解率が非常に高い。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、アンモニアの分解に関するものであり、アンモニアを含有するガスを処理して無臭化する環境分野や、アンモニアを窒素と水素とに分解して水素を取得するエネルギー分野などにおいて、多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを窒素と水素とに分解する触媒であって、触媒活性成分が金属窒化物を含有することを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記触媒活性成分が、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属の窒化物を含有する請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記触媒活性成分が、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
金属窒化物の前駆体をアンモニアガスまたは窒素−水素混合ガスで窒化処理して、前記金属窒化物を形成することを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体が、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タングステン、クロムおよびマンガンよりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属またはその化合物である請求項4に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体に、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加する請求項4または5に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒を用いて、アンモニアを含有するガスを処理して、前記アンモニアを窒素と水素とに分解して水素を取得することを特徴とするアンモニア処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−94669(P2010−94669A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216010(P2009−216010)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】