説明

アンモニア分解触媒

【解決手段】一般式ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物のAサイトまたはBサイトの一部を遷移金属で置換してなる化合物からなることを特徴とするアンモニア分解触媒である。式中、AおよびBはペロブスカイト型複合酸化物のAサイトおよびBサイト、Oは酸素原子を意味する。
【効果】高温たとえば900℃においても遷移金属は結晶格子内に固定化されており、凝集することがなく、触媒性能は長期に亘って低下することがなく、安定した触媒活性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解方法またはアンモニアからの水素製造に用いられる遷移金属担持アンモニア分解触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、活性金属としてルテニウムを担体に担持した触媒は、担体として酸化マグネシウムなどの塩基性酸化物や活性炭を使用し、この担体にルテニウムを含浸担持法などにより担持したものである(特許文献1および特許文献2参照)。このような構造の触媒では、ルテニウムと担体の相互作用はあまり強くないため、ルテニウムは担体にうまく固定化されない。したがって、これを高温で使用するとルテニウムの凝集が容易に起こり、分散性が低下する。一般に、担持金属触媒の触媒反応は担持された金属粒子の表面で起こるため、担持金属粒子が凝集し粒子径が大きくなると担持金属の表面積が低下し、そのため活性は低下する。
【0003】
特許文献3には、γ-アルミナにルテニウムを担持した触媒の存在下でアンモニア分解を行うと、600℃で150時間も出口アンモニア濃度が変化しないことが記載されている。しかし、この反応では、空間速度が約770/hと低いため、反応温度が500℃で既に99.9%の分解率が得られている。したがって、600℃においては触媒量が十分に足りている状態であるため、たとえ150時間後に触媒活性が低下していても分解率には現れない可能性が高い。また、耐熱性の条件としてより厳しい800℃での耐熱性については説明がない。
【特許文献1】特公平06−015041号公報
【特許文献2】特許第03760257号公報
【特許文献3】特開平08−0848910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車用固体高分子型燃料電池の燃料として水素が用いられているが、一回の燃料補給による走行距離を500km以上にするためには、水素を70MPaの圧力容器に充填する必要がある。そのためには、水素を供給するためのインフラストラクチュア(水素ステーション)を全国に設置する必要があり、さらに圧力容器にもコストがかかるので、これらが燃料電池車の普及を阻害している一つの原因となっている。
【0005】
一方、アンモニアは1MPa以下の圧力で液化するので、オンボードでアンモニアを分解して水素を発生させることができる。したがって、優れたアンモニア分解触媒を開発できれば、自動車用燃料電池の燃料としてアンモニアを使用でき、上記課題の解決が図れる。
【0006】
アンモニアエンジン用の助燃剤である水素をオンボードで作るためには、エンジン排ガスとアンモニアガスを熱交換して触媒層を加熱するシステムがもっとも望ましい。エンジン排ガスの温度は高負荷時には900℃まで達するため、触媒活性は900℃でも長期間低下しないことが求められる。
【0007】
従来のルテニウムを活性金属に用いた触媒は、担体として酸化マグネシウムなどの塩基性酸化物や活性炭を使用しており、ルテニウムはこの担体上に含浸担持法などにより担持されている。この触媒では、ルテニウムと担体の相互作用はあまり強くないため、ルテニウムは担体に良好に固定化されない。したがって、これを高温下で使用するとルテニウムの凝集が起こり易く、分散性が低下し、触媒性能が低下する。また、担体である酸化物も高温下においてはシンタリングや相転移が起きるため、ルテニウムが担持されている細孔が閉塞し、触媒性能が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく検討を重ねた結果、ルテニウムの凝集が起きず、高温下で長期間に亘って安定した活性を示す触媒を見出した。
【0009】
本発明は、一般式[I]

ABO ・・・・・・[I]
(式中、AおよびBはペロブスカイト型複合酸化物のAサイトおよびBサイト、Oは酸素原子を意味する。)
で表されるペロブスカイト型複合酸化物のAサイトまたはBサイトの一部を遷移金属で置換してなる化合物からなることを特徴とするアンモニア分解触媒を提供する。
【0010】
本発明のアンモニア分解触媒において、遷移金属としてはルテニウムが好ましく、触媒の製造に用いるルテニウム化合物としては塩化ルテニウムが好ましい。
【0011】
本発明のアンモニア分解触媒の製造に用いられる遷移金属は、粒径1nm以下の微粒子の形態をなすことが好ましい。遷移金属の粒径は、通常は透過型電子顕微鏡を用いて測定される。
【0012】
本発明のアンモニア分解触媒において、Aサイトは好ましくはバリウムである。Bサイトは好ましくはセリウムである。バリウムおよびセリウムは共にアンモニア分解触媒の促進剤としての効果〈電子供与効果〉を有することが認められている。これらが触媒構造内に存在すると構造内に電子的な偏りができ、活性金属である遷移金属に電子が供与されて触媒活性が向上する。
【0013】
本発明のアンモニア分解触媒の好ましい例は、
AB1−xRuまたはA1−xRuBO
(式中、A、BおよびOは上記定義の通り、Ruはルテニウム原子、xは0.01から0.5である。)
で表される触媒である。ここで、xが0.01未満であると、活性金属であるルテニウムの量が少なすぎて触媒活性が低下する。
【0014】
本発明のアンモニア分解触媒は、促進剤としてストロンチウム、バリウム、カリウム、ロジウムおよび/またはセシウムを含むことが好ましい。
【0015】
本発明のアンモニア分解触媒は、遷移元素、Aサイト、Bサイトの各前駆体化合物を混合し、この混合物を高温、例えば1000℃で所要時間、例えば10時間焼成することで製造することができる。焼成温度はこのように高温であるので、1000℃以下の温度域においては担体のシンタリングが生じる恐れがない。したがって、この触媒を用いるアンモニア分解反応において高温下での活性低下の原因であった遷移金属の凝集および担体のシンタリングの両方の問題が改善され、安定した触媒性能を得ることができる。
【0016】
本発明によるアンモニア分解触媒は、反応温度400〜900℃で同触媒の存在下にアンモニアを分解し水素を製造する方法に好適に使用される。この反応温度が400℃より低いと触媒活性が発現しない。反応温度の上限はアンモニアを燃料とするエンジンの排ガス温度が最高で900℃であるため実用上900℃以下になる。
【0017】
本発明によるアンモニア分解触媒は、ペレット状の形態をなし、粒径は60メッシュ以上40メッシュ以下(すなわち40メッシュの篩いを通過し、60メッシュの篩い上に残る粒子の大きさ)である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるアンモニア分解触媒は、ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトまたはBサイトの一部を遷移金属で置換してなる化合物からなるので、高温たとえば900℃においても遷移金属は結晶格子内に固定化されており、凝集することがなく、触媒性能は長期に亘って低下することがなく、安定した触媒活性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0020】
実施例1
炭酸バリウム19.7(g)、酸化セリウム16.4(g)および塩化ルテニウムl.0(g)を乳鉢で物理混合した。
【0021】
この混合物粉体を電気炉で1000℃で10時間焼成し、BaCe0.95Ru0.05O3からなる触媒を得た。
【0022】
実施例2および3
原料の配合割合を変えた以外、実施例1と同様の操作を行い、BaCe0.75Ru0.25O3からなる触媒、およびBaCe0.5Ru0.5O3からなる触媒を得た。
【0023】
実施例3
実施例1で得られた触媒10(g)を0.1mo1/Lの硝酸ストロンチウム水溶液100mlに浸漬した後、これを水溶液から取り出し、空気中で110℃で乾燥し、Sr/BaCe0.95Ru0.05O3からなる触媒を得た。
【0024】
比較例1
γ-アルミナ 10(g)を10g/1(ルテニウムとして)の塩化ルテニウム水溶液100mlに8時間浸漬した後、これを水溶液から取り出し、空気中で110℃で乾燥した。こうして塩化ルテニウムを担持したγ-アルミナを反応管に充填し、450℃で2時間水素還元雰囲気下で熱処理した後、この処理固体を0.1モル/Lの硝酸バリウム水溶液100mlに2時間浸漬し、濾過により同固体を捕集し、Ba-Ru/γ-Al2O3からなる触媒を得た。
【0025】
性能評価試験
アンモニア分解活性の測定試験
実施例および比較例で得られた各触媒のアンモニア分解活性を、図1に示す試験装置を用いて下記の試験条件で測定した。図1中,(1)はアンモニア分解用の反応器、(2)は反応器(1)に設けられた触媒充填層、(3)は反応器(1)のヒータ、(4)(5)は触媒充填層の上端および下端に配された熱電対、(6)は反応器(1)の頂部に供給されるアンモニア(+ヘリウム)の流量計、(7)は反応器(1)の下端から出るガス中の残存アンモニアを捕捉するトラップ、(8)(9)はアンモニア分解生成ガスの流量計およびガスクロマトクラフィである。
【0026】
試験条件
反応温度 600℃
高温耐久晒し温度 800℃
高温耐久晒し時間 500時間
圧力 常圧
入ロアンモニア濃度 100%
空間速度(m3/h/m3-触媒) 5000/h
【0027】
測定結果は表1に示す通りである。
【表1】

【0028】
実施例と比較例を比較すると、ペロブスカイト構造を有する化合物からなる実施例1〜4の触媒は、500時間後においてもまったく性能低下を示さなかったが、γ-アルミナに担持されたBa-Ruからなる比較例1の触媒は、初期活性は高いものの500時間使用後には性能が大きく低下した。以上の結果より、本発明のペロブスカイト型複合酸化物触媒が耐熱性向上に有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】アンモニア分解活性を測定する試験装置を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0030】
(1) 反応器
(2) 触媒充填層
(3) ヒータ
(4)(5) 熱電対
(6) 流量計
(7) トラップ
(8) 流量計
(9)ガスクロマトクラフィ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]
ABO ・・・・・・[I]
(式中、AおよびBはペロブスカイト型複合酸化物のAサイトおよびBサイト、Oは酸素原子を意味する。)
で表されるペロブスカイト型複合酸化物のAサイトまたはBサイトの一部を遷移金属で置換してなる化合物からなることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
遷移金属がルテニウムであることを特徴とする請求項1記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
Aサイトがバリウムであることを特徴とする請求項1または2記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
Bサイトがセリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
AB1−xRuまたはA1−xRuBO
(式中、A、BおよびOは上記定義の通り、Ruはルテニウム原子、xは0.01から0.5である。)
で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
【請求項6】
促進剤としてストロンチウム、バリウム、カリウム、ロジウムおよび/またはセシウムを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−110697(P2010−110697A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285432(P2008−285432)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】