説明

アンモニア含有濾液の再使用によるアミノマロンアミドの製造法

【課題】優れたアミノマロンアミドの製造法を提供すること
【解決手段】本発明の製造法は、(1)アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できる、(2)アミノマロンアミドの純度を低下させることなく、収率を向上させ、さらに(3)アンモニアの遊離および揮発を防ぐことができる、などの優れた特徴を有し、環境負荷が少なく、高純度、高収率なアミノマロンアミドの工業的製造法として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の製造中間体として重要なアミノマロンアミドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノマロンアミドは、医薬および農薬の製造中間体として重要な化合物である。たとえば、抗口蹄疫ウイルス剤として開発されている3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2−ピラジンカルボキサミド[特許文献1]は、アミノマロンアミドから製造される[非特許文献1]。
アミノマロンアミドの工業的製造法は、たとえば、(1)アミノマロン酸ジエステル類をアンモニア水中でアンモニアと反応させる方法[非特許文献2]、(2)クロロマロン酸ジエステル類またはクロロマロン酸ジアミドをアンモニア水中でアンモニアと反応させる方法[特許文献2]などが知られている。
【0003】
しかし、従来の製造法では、(1)反応が進行するにつれてアンモニアの濃度が低下するため、多量のアンモニア水が必要である、(2)アミノマロンアミドは比較的高い水溶性を有するため、濾過単離の際にアミノマロンアミドが濾液へと移行し、収率が低下する、(3)臭気の強いアンモニア含有濾液が廃液として排出される、(4)廃液の処理が煩雑である、などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/139081号パンフレット
【特許文献2】特開昭59−227844号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)、第71巻、第78〜81頁、1949年
【非特許文献2】ブリテン・デ・ラ・ソサエティ・ケミク・デ・フランス(Bulletin de la Societe Chimique de France)、第47巻、第1287〜1289頁、1930年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できる、(2)収率が高い、(3)アンモニアの遊離および揮発を防ぐことができる、より優れたアミノマロンアミドの工業的製造法が、強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況下、本発明者らは鋭意研究を行った結果、一般式[1]
【化1】

「式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基を示す。」で表されるアミノマロン酸誘導体またはその塩を、アンモニアと反応させ、アミノマロンアミドまたはその塩を製造する方法において、(1)アミノマロンアミドの製造時に排出されるアンモニア含有濾液に、反応で消費されたアンモニアを補うことにより、アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できること、(2)アンモニア含有濾液を反応溶媒として再使用することにより、アミノマロンアミドの溶解度が低下し、アミノマロンアミドの収率が向上することを見出した。
さらに(3)反応容器を密閉し、反応容器内にアンモニアおよび/または不活性ガスを加えることによって、アンモニアの遊離および揮発を防ぐことができること、(4)その結果、反応の進行が促進されることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造法は、アミノマロンアミドの製造時に分離されるアンモニア含有濾液に反応で消費されたアンモニアを補うことにより、アミノマロンアミドの純度を低下させることなく、アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できるという特徴を有している。
また、アンモニア含有濾液には、反応で副生するエタノールおよび塩化アンモニウムが含まれる。エタノールおよび塩化アンモニウムは、アミノマロンアミドの溶解度を低下させる。その結果、本発明の製造法は、アミノマロンアミドの収率が向上するという特徴を有している。
さらに、本発明の製造法は、反応容器を密閉し、反応容器内にアンモニアおよび/または不活性ガスを加えることによって、アンモニアの遊離および揮発を防ぐことができ、反応の進行が促進されるという特徴を有している。
すなわち、本発明の製造法は、(1)アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できる、(2)アミノマロンアミドの純度を低下させることなく、収率を向上させ、さらに(3)アンモニアの遊離および揮発を防ぐことができる、などの優れた特徴を有し、環境負荷が少なく、高純度、高収率なアミノマロンアミドの工業的製造法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、特にことわらない限り、各用語は、次の意味を有する。
ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびイソペンチルなどの直鎖状または分枝鎖状のC1−6アルキル基を意味する。
アルコキシ基とは、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシおよびイソペンチルオキシなどの直鎖状または分枝鎖状のC1−6アルキルオキシ基を意味する。
アンモニア含有濾液とは、アミノマロンアミドまたはその塩の濾過単離操作で分離される濾液のことを意味する。
アンモニア濃度を表す%は、重量%である。
一般式[1]の化合物および式[2]の化合物の塩としては、たとえば、塩酸、臭化水素および硫酸などの鉱酸との塩;酒石酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩などが挙げられる。好ましい塩としては、鉱酸との塩が挙げられ、塩酸塩がより好ましい。
【0010】
Rのアルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基およびアルコキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0011】
本発明において、好ましい製造法としては、以下の方法が挙げられる。
Rが、メチル、エチルまたはプロピル基である化合物を用いる方法が好ましく、メチルまたはエチル基である化合物を用いる方法がより好ましく、エチル基である化合物を用いる方法がさらに好ましい。
【0012】
次に、本発明の製造法について説明する。
【0013】
[製造法1]

「式中、Rは、前記と同様の意味を有する。」
【0014】
式[2]の化合物またはその塩は、アンモニア含有濾液中、一般式[1]の化合物またはその塩をアンモニアと反応させることによって製造することができる。
【0015】
この反応で使用されるアンモニア含有濾液は、そのまま溶媒として使用することもできるが、水および/またはアンモニア水を加えて溶媒量を調整することもできる。
アンモニア含有濾液にアンモニアを加え、アンモニア濃度を15〜50%に調整する方法が好ましく、20〜30%に調整する方法がより好ましい。
アンモニアを加える方法としては、アンモニアをアンモニア含有濾液に導入する方法、アンモニア水を加える方法などが挙げられ、アンモニアをアンモニア含有濾液に導入する方法が好ましい。
アンモニア含有濾液には、反応で副生するエタノールおよび塩化アンモニウムが含まれる。エタノールおよび塩化アンモニウムは、アミノマロンアミドの溶解度を低下させ、その結果、アミノマロンアミドの収率が向上する。
アンモニア含有濾液の再使用の回数は、特に限定されないが、1〜10回が好ましい。
アンモニア含有濾液の使用量は、特に限定されないが、一般式[1]の化合物に対して、1〜20倍量(v/w)が好ましく、1〜5倍量(v/w)がより好ましい。
【0016】
反応温度は、溶媒の沸点以下であればよいが、−10〜50℃が好ましく、0〜20℃がより好ましい。
反応時間は特に限定されないが、5分間〜50時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。
【0017】
この反応は、反応容器を密閉し、反応容器内にアンモニアおよび/または不活性ガスを加える方法が好ましい。
不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素またはアルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
反応容器内の圧力は、0.05〜0.50MPaが好ましく、0.05〜0.20MPaがより好ましく、0.05〜0.18MPaがさらに好ましく、0.05〜0.07MPaがよりさらに好ましい。
【0018】
次に、本発明の製造法に用いられるアンモニア含有濾液について説明する。
[製造法A]
【0019】

「式中、Rは、前記と同様の意味を有する。」
アンモニア水中、一般式[1]の化合物またはその塩をアンモニアと反応させることによって式[2]の化合物またはその塩を製造する工程において、アンモニア含有濾液を得ることができる。
この反応は、製造法1に準じて、アンモニア含有濾液の代わりにアンモニア水を用いて行えばよい。
【0020】
次に、本発明の製造法の有用性を説明する。
【0021】
試験例1 アンモニア含有濾液の再使用
反応で消費されたアンモニアを補うことにより、アンモニア含有濾液を4回再使用して反応を行った。アミノマロンアミドの収率および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によってピーク面積比から純度を求めた。
純度(HPLC面積%)=(アミノマロンアミドのピーク面積/全ピーク面積)×100
また、アンモニアを補わないアンモニア含有濾液を用いて、同様に反応を行った。
結果を表1に示す。
【0022】
HPLC測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:210nm
カラム:Atlantis dC18、内径4.6mm×長さ250mm(Waters)
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル:水:1.0mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0):1−デカンスルホン酸ナトリウム=200mL:750mL:50mL:1.22g
流量:1mL/分
【0023】
【表1】

【0024】
2回目以降の反応(実施例1〜4)で得られたアミノマロンアミドの収率は、初回の反応(参考例1)の収率よりも向上した。
2回目以降の反応(実施例1〜4)で得られたアミノマロンアミドの純度は、初回の反応(参考例1)と同等であった。
アンモニアを補わないアンモニア含有濾液を用いた反応例(比較例1)の収率は、低かった。
アンモニア含有濾液に、反応で消費されたアンモニアを補うことにより、アンモニア含有濾液を繰り返し製造に使用できた。
【0025】
試験例2 加圧下の反応
窒素によって反応容器内を0.15MPaとし、反応を行い、反応率を測定した。一方、常圧で反応を行い、反応率を測定した。
反応率は、次式で求めた。
反応率(%)=[S1/(S1+S2)]×100
S1=アミノマロンアミドのピーク面積
S2=2,3−ジアミノ−3−オキソプロピオン酸エチルのピーク面積
結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
加圧下での反応(実施例5)は、常圧下での反応(比較例2)よりも反応の進行が速やかであった。反応容器を密閉し、反応容器内に窒素を加えることによって、反応の進行が促進された。
また、反応容器を密閉し、反応容器内に窒素を加えることによって、アンモニア遊離および揮発を防ぐことができ、アンモニア臭の拡散を防ぐことができた。
【0028】
つぎに、本発明を参考例、実施例および比較例で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
Et:エチル
DMSO-d6:重ジメチルスルホキシド
【0029】
参考例1

25%アンモニア水350mLにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩100gを7〜10℃で添加し、10℃で5時間30分間撹拌した。固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド41.2gを得た(収率74%)。
1H-NMR(DMSO-d6)δ値:3.74(1H,s),7.24-7.40(4H,m)
純度(HPLC面積%):94%
【0030】
参考例2
25%アンモニア水35Lにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩10.0kgを0〜20℃で添加し、反応容器を密閉した。窒素によって反応容器内を0.05〜0.07MPaとし、0〜20℃で4時間撹拌した。反応容器内の圧力を常圧に戻し、固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド3.97kgを得た(収率72%)。
純度(HPLC面積%):97%
【0031】
実施例1
参考例1で得られたアンモニア含有濾液350mLに−20〜−10℃でアンモニアを導入し、アンモニア濃度を22%に調整した。この溶液に、アミノマロン酸ジエチル塩酸塩100gを−10〜0℃で添加し、0〜7℃で6時間30分間撹拌した。固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド42.3gを得た(収率76%)。
1H-NMR(DMSO-d6)δ値:3.74(1H,s),7.24-7.40(4H,m)
純度(HPLC面積%):95%
【0032】
実施例2〜4
実施例1と同様な方法で、アンモニア含有濾液を再使用して、反応を行った。
実施例2は、実施例1で得られたアンモニア含有濾液を再使用した反応である。
実施例3は、実施例2で得られたアンモニア含有濾液を再使用した反応である。
実施例4は、実施例3で得られたアンモニア含有濾液を再使用した反応である。
結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
実施例5
アミノマロン酸ジエチル塩酸塩100gに25%アンモニア水350mLを7〜10℃で添加し、反応容器を密閉した。窒素によって反応容器内の圧力を0.15MPaとし、10℃で撹拌した。1、2および3時間後にサンプリングし、サンプリング液をHPLCで分析し、反応率を求めた。
【0035】
実施例6
参考例2の濾液39.3Lにアンモニアガス2.95kgを導入し、アンモニア濃度を22%とした。これにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩10.0kgを0〜20℃で添加し、反応容器を密閉した。窒素によって反応容器内を0.05〜0.07MPaとし、0〜20℃で6時間撹拌した。反応容器内の圧力を常圧に戻し、固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド4.09kgを得た(収率74%)。
純度(HPLC面積%):93%
【0036】
実施例7
実施例6の濾液35.0Lにアンモニアガス3.35kgを導入し、アンモニア濃度を22%とした。これにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩10.0kgを0〜20℃で添加し、反応容器を密閉した。窒素によって反応容器内を0.05〜0.07MPaとし、0〜20℃で6時間撹拌した。反応容器内の圧力を常圧に戻し、固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド4.10kgを得た(収率74%)。
純度(HPLC面積%):93%
【0037】
比較例1
参考例1と同様な方法で反応を行い、アンモニア濃度が15%であるアンモニア含有濾液を得た。この溶液にアミノマロン酸ジエチル塩酸塩100gを5〜10℃で添加し、10℃で8時間撹拌した。固形物を濾取し、冷水で洗浄し、アミノマロンアミド25.1gを得た(収率45%)。
純度(HPLC面積%):95%
【0038】
比較例2
25%アンモニア水350mLにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩100gを7〜10℃で添加し、10℃で撹拌した。1、2および3時間後にサンプリングし、サンプリング液をHPLCで分析し、反応率を求めた。
【0039】
製造例1
25%アンモニア水175Lにアミノマロン酸ジエチル塩酸塩50.0kgを5〜20℃で添加し、反応容器を密閉した。窒素によって反応容器内を0.15MPaとし、20℃で3時間撹拌した。反応容器内の圧力を常圧に戻し、固形物を濾取し、アンモニア含有濾液を分離した。固形物を冷水で洗浄し、アミノマロンアミド21.2kgを得た(収率77%)。
純度(HPLC面積%):98%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

「式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基を示す。」で表されるアミノマロン酸誘導体またはその塩を、アンモニアと反応させ、アミノマロンアミドまたはその塩を製造する方法であって、アンモニア含有濾液を反応溶媒として再使用することを特徴とする製造法。
【請求項2】
Rが、メチル基またはエチル基である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
アンモニアおよび/または不活性ガスを加え、反応容器内の圧力を0.05〜0.20MPaにすることを特徴とする請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
アンモニア濃度を20〜30%に調整したアンモニア含有濾液を再使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造法。

【公開番号】特開2010−241805(P2010−241805A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60853(P2010−60853)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】