説明

アンモニア性臭気の消臭組成物

【課題】人の排泄物処理などにおいて発生するアンモニア性臭気を効果的に防止する消臭組成物の提供。
【解決手段】Znイオン、Cuイオン、Niイオン、CoイオンおよびAgイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンと、アルコール、クレゾール、二酸化塩素、次亜塩素酸および塩素からなる群から選ばれる少なくとも1種の抗菌成分とを含有し、pHが3.5〜8.4であることを特徴とするアンモニア性臭気の消臭組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア性臭気の消臭組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜、ペットおよび人の排泄物が原因となる悪臭成分としては、アンモニア、アミン等の窒素系化合物と、硫化水素、メルカプタン、チオカルボニル化合物等の硫黄系化合物がある。
悪臭の除去方法として、香料等の香り成分を用いたマスキング方法、活性炭等の吸着能を利用する物理的消臭法、化学反応あるいは化学吸着を利用する化学的消臭法、微生物の活動を利用する生物的消臭法などがある。化学消臭法に含まれるが、空間の消臭用として光触媒法、オゾン法などがある。
これまで特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5の各号証などには排泄物の消臭に関する出願例があるが、家畜、ペット飼育用や糞尿を原料の成分とした肥料製造用などにおいては脱臭性能が十分でない。
特に、窒素成分系の悪臭(例えば、アンモニア性臭気)を防止する従来技術として下記の二つがある。
【0003】
特許文献6には、塩化ニッケルなどを含む、pHが6〜8の液状消臭組成物が開示されている。該消臭組成物による防臭方法は、発生したアンモニアと添加したニッケルイオンとで錯体を形成するものである。しかし、該技術はアンモニアの発生源(雑菌、ウレアーゼ酵素)を絶つ技術ではないので、防臭は十分ではなかった。
特許文献7には、銅、ニッケル含有アルコール水溶液を尿などの防臭に用いる方法が記載されている。該公報には、pH調整剤を添加できるとの記載があるが、必ずしも適正な範囲に調整されたものではないため、使用条件によっては、防臭効果が発現しないことがある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−2754100号公報
【特許文献2】特開2004−208768号公報
【特許文献3】特開昭57−16817号公報
【特許文献4】特公昭64−2378号公報
【特許文献5】特開平5−293363号公報
【特許文献6】特開2002−85537号公報
【特許文献7】特開2006−192127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
家畜用やペット飼育用飼料や糞尿を原料の成分とした肥料製造および人の排泄物処理などにおいて発生するアンモニア性臭気を効果的に防止する消臭組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、以下を提供する。
(1)アンモニアと錯体を形成する金属イオンと、抗菌成分とを含有し、pHが3.5〜8.4であることを特徴とするアンモニア性臭気の消臭組成物。
(2)前記金属イオンが、Znイオン、Cuイオン、Niイオン、CoイオンおよびAgイオンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。
(3)前記抗菌成分が、アルコール、クレゾール、二酸化塩素、次亜塩素酸および塩素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。
(4)前記消臭組成物が、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、りん酸、ほう酸および塩酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の消臭組成物は、糞尿を原料の成分とした肥料製造および人の排泄物処理などにおいて発生するアンモニア性臭気を効果的に防止し、使用に際して安定に効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)液組成
本発明は、雑菌やウレアーゼ酵素を逆性石鹸やアルコール、クレゾール、二酸化塩素、次亜塩素酸、塩素などの殺菌、消毒、抗菌作用を有する抗菌成分により、アンモニアの発生源を絶つ(雑菌の殺菌、ウレアーゼ酵素の変性等)とともに、発生したアンモニアを、Znイオン、Cuイオン、Niイオン、Coイオン、CrイオンおよびAgイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを用い、かつpHを調整することにより、尿などを防臭する技術に関する。
また、適度な添加剤を含むことで、この消臭効果を一層高める技術に関する。
【0009】
1)金属イオン
Znイオンは水中でウレアーゼなどの作用により生成したアンモニアを配位してアンモニアが気体として発生することを防止する。Znイオン1分子に対しアンモニア1分子から4分子まで配位する。Znイオンを含む液を用いることにより家畜飼育用や肥料製造用、人の排泄物用として消臭効果の高い液を調製できることを見出した。Znイオンは亜鉛めっき鋼板に代表されるように防錆用として広く使われている亜鉛の回収によっても入手でき、資源再利用方法として意義がある。Znイオンのほか、Cuイオン、Niイオン、CoイオンあるいはAgイオンにもアンモニアと配位することができ、アンモニアの発生を防止する特性がある。
【0010】
金属イオン量は、存在または分解により発生する窒素化合物量の10倍以上を保つことで、充分な消臭効果が得られる。
金属イオン量は限定されないが、消臭組成物中で好ましくは0.005〜10質量%、より好ましくは0.05〜1質量%とする。この範囲であると排泄物に共存する成分の影響による錯体形成能の低下が回避できるため、安定性と消臭効果とに優れるからである。
【0011】
金属イオンは、塩として添加するのが好ましい。塩は任意のものを使用できる。Znイオン、Cuイオン、Niイオン、CoイオンおよびAgイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む化合物は、相当するハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、クロム酸塩などの無機金属塩が例示できる。有機酸を対イオンとした有機金属塩は一般に安全性に優れるため、ヒトが触ったりする可能性のある箇所に使うのに好都合である。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸のような飽和脂肪属モノカルボン酸や、マロン酸、コハク酸、アジピン酸のような飽和脂肪属ジカルボン酸、オレイン酸、フマル酸、マレイン酸のような不飽和脂肪属カルボン酸、安息香酸のような炭素環カルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸など、カルボキシル基を含有するものの中から任意に選ぶことができる。中でもグルコン酸銅、グルコン酸亜鉛は、栄養機能食品に使用できる規格基準型の食品添加物に指定されており、日常的に使用するにあたっても安全である。一方、フタロシアニン、ポルフィリンなどとの有機金属錯体などは、これ自身が金属と安定な錯体を形成し、アンモニア錯体の形成を妨害するため、使用には適さない。
【0012】
2)抗菌成分
家畜用やペット飼育用飼料、糞尿を原料の成分とした肥料製造、人の排泄物処理などで発生する悪臭は、例として、尿の成分である尿酸が、雑菌が出すウレアーゼ酵素により分解された際に発生するアンモニアに起因する。雑菌の活動を抑制して、アンモニアの発生を防止するなど、微生物の活動が悪臭の発生を生じやすくする状況を取り除くために、殺菌効果のある物質を加えることが必要である。安全性、衛生性、使いやすさなどを満足している抗菌効果のある物質として、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、クレゾール、二酸化塩素、次亜塩素酸、塩素が好ましい。これらは単独でも複数でも構わない。
抗菌成分は、悪臭物質の発生に起因する微生物の活動抑制に寄与する量を使用する必要がある。このため、温度等の使用環境や微生物量等を考慮して抗菌成分の使用量を制御すると良い。
抗菌成分は、そのままで用いてもよいが、水、アルコール等の溶媒を添加して消臭組成物としてもよい。
抗菌成分量は限定されないが、消臭組成物中で好ましくは0.005質量%以上であるが、抗菌成分の安定性を考えると、より好ましくは0.5質量%以上である。しかし、30質量%を超えると消臭効果のさらなる改善は僅かになり、コスト高となる。
【0013】
3)pH
消臭組成物は安全に使用することができ、また消臭効果が確実に発揮されるための条件として、pHの安定化が必要である。pHは、3.5〜8.4とする。この範囲であると、安全性と消臭効果の両立を得ることができる。本発明の消臭組成物を下水道等に排出する場合には、pHを5.8〜8.4とする。これらの条件を満足させるために、pH緩衝作用のあるアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、りん酸、ほう酸および塩酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することが好ましい。
これらの酸の量は限定されないが、pHは、3.5〜8.4を保持するための量として消臭組成物中で好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは、0.1〜10質量%が必要となる。
【0014】
本発明の消臭組成物は、必須成分の働きが十分発揮でき、液剤の安全性が確保できる範囲で、付加価値を高めるため任意に選択した成分を添加できる。任意の成分として、消臭液と対象物が効率よく作用するためにアルキル基を有する界面活性剤を添加するとよい。
また、臭い成分と反応して無臭化する消臭剤、臭いを吸着して無臭化する活性炭・ゼオライト・アパタイトなどの多孔吸着脱臭剤、白金やパラジウム、酸化チタン等の臭いを分解消臭する触媒、ミョウバン、微生物の繁殖を抑制する抗菌剤・抗カビ剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤等の添加剤、防腐剤、および各種香料成分等が任意の添加してもよい成分として挙げられる。
【0015】
(2)使用方法
アンモニア臭等の窒素系悪臭物質に対して、当該消臭組成物を作用させることで、悪臭の発生を防止する。
その使用方法には、悪臭物質を含む固体、液体及び気体に対して、当該消臭組成物を液状で混合及び噴霧するなどの方法があり、限定されない。悪臭物質と消臭組成物を接触させることで、消臭効果が得られる。例えば、濃度の高い消臭液を作り、適宜希釈して使用してもよい。希釈溶媒には、水、アルコール等を用いる。消臭液を便器に流して使用(一回毎に流してもよく、循環させてもよい)、消臭液を噴霧したり、塗布したりする等が例示される。
消臭液を乾燥させて粉末とし、そのまま、または水等の溶媒に混合して使用してもよい。
【実施例】
【0016】
以下に実施例によって本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
(実施例1)
Cuイオンとして、CuCl、次亜塩素酸としてナトリウム塩溶液、りん酸を表1に示す濃度となるように水と混合して、消臭剤原液を作成した。この原液を1000倍に水で希釈して使用した。原液のpHおよび希釈後の液のpHを測定して表1に示す。
(実施例2〜9)
金属イオン、抗菌成分およびpH調整剤について、その濃度と種類を変えて、消臭効果を調べ、結果を示した。実施例1と同様にして消臭剤原液を作成した。この原液を希釈して評価し、結果を表1に示す。
(比較例1、2)
比較例1は抗菌成分を含まない例であり、比較例2はpHが低い例である。比較例1,2は、実施例1と同様にして消臭剤原液を作成した。この原液を希釈して評価し、結果を表1に示す。比較例2は、十分な消臭効果は得られたものの、下水道法での規制の対象となるため、その使用が困難な例である。
【0017】
<消臭性能評価>
トイレ空間内にはっきりと分る不快な臭いがあると答えたモニター20人による液剤の消臭性能評価を実施した。表1の組成の液剤を、表1に示す希釈液とし、トイレ使用後にその消臭液を噴霧し、消臭性能として噴霧後の空間の不快感を感じる臭気強度変化を評価した。結果を表1に示す。
臭気強度は以下のように評価した。
臭気強度5:はっきりと分かる臭い
臭気強度4:よく嗅ぐとわかる臭い
臭気強度3:なんとなくわかる臭い
臭気強度2:ほぼ臭わない
臭気強度1:まったく臭わない
液剤を噴霧する前の対象臭気の臭気強度と比較して、噴霧後の対象臭気の臭気強度が2ポイント以上低減している場合の判定を「◎」とし、「○」1ポイント低減、それより劣る場合「×」とした。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと錯体を形成する金属イオンと、抗菌成分とを含有し、pHが3.5〜8.4であることを特徴とするアンモニア性臭気の消臭組成物。
【請求項2】
前記金属イオンが、Znイオン、Cuイオン、Niイオン、CoイオンおよびAgイオンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。
【請求項3】
前記抗菌成分が、アルコール、クレゾール、二酸化塩素、次亜塩素酸および塩素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。
【請求項4】
前記消臭組成物が、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、りん酸、ほう酸および塩酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア性臭気の消臭組成物。

【公開番号】特開2008−278941(P2008−278941A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123499(P2007−123499)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】