説明

アンモニア検査具、及びアンモニア検査具の感度調整方法

【課題】短時間でかつ簡易な操作で、精度良く、唾液中のアンモニアを検出測定する検査具及び方法を提供。
【解決手段】支持体1上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層2を有するアンモニア検査具であって、前記指示薬層が、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液で形成された皮膜4で被覆されてなり、該皮膜の乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%であり、唾液中のアンモニアを検出又は測定するためのアンモニア検査具。
【効果】試料の唾液を希釈操作することなくそのまま検体として使用して、短時間でかつ簡易な操作で、精度良く、唾液中のアンモニアを検出又は測定でき、安全面や環境面も良好である。更に、唾液中のアンモニアの検出又は測定結果から、口臭や唾液中の内細菌数等が推測でき、これを指標として口腔内清潔度を判断することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液中に含まれるアンモニアの検出又はその濃度の測定を、唾液(検体)の希釈操作を行うことなく迅速かつ簡便に、精度良く行うことができるアンモニア検査具、及びその感度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の清潔度に影響する因子として、プラーク(歯垢)や歯石の存在、舌苔の付着量、唾液の濁度、口腔内の細菌数などが考えられている。これら因子を簡便にチェックできる方法として、例えばプラーク、歯石、舌苔付着量については、歯垢染色剤のエリスロシン、フロキシンなどの色素や、蛍光色素のフルオレセインナトリウム、新しい歯垢と古い歯垢を色分けする2色性歯垢染色剤ツートン(株式会社モリタ製)などを用い、染色の有無等により判別する方法がある。
【0003】
しかし、これらの染色を利用した方法は、使用する色素による着色部位の選択性が低く、唇や粘膜細胞などの染色する必要がない部位も染色されてしまうことや、退色に長時間を要することなどから審美面でも問題があった。
【0004】
唾液の濁度測定による検査方法としては、唾液性状検査用キット及び口腔内疾患判定方法(特許文献1:特開2004−108976号公報参照)が提案され、唾液の濁度が口臭との間に密接な相関があることが示されている。しかし、この方法は唾液中の不溶性物質量を視覚的に判定するものであるが、唾液の成分が均等に分散し難いことが測定値のばらつきの原因となり、精度に劣るものであった。
【0005】
口腔内の細菌数を調べる方法としては、一般に試料を一定倍数に希釈・分散させ、培養後のコロニー数をカウントする方法が行われているが、この方法は希釈倍数に個人差が影響したり、培地調製や培養時間に長時間を要するなど、操作が面倒であるといった問題点があった。
【0006】
特定細菌に対するモノクローナル抗体を用いた口腔内の細菌量の測定(特許文献2:特開昭60−73463号公報、特許文献3:特開昭62−211558号公報参照)、DNAやRNAプローブを用いた細菌や細胞数の測定方法(特許文献4:特開昭61−257200号公報参照)なども提案されている。しかし、これらの方法は、特殊かつ高価な試薬を用いるため集団検診や健康教育などで広範囲の人々が使用するには、経済的に問題があった。
【0007】
一方、アンモニアが口臭や唾液中の細菌数といった因子と高い相関を示すこと(非特許文献1:J.Dent.Res.Abstracts #1830,2006参照)が知られている。そこで、出願人は、唾液中のアンモニアを指標とすることで口腔内の清潔度を推測することが可能であると考え、唾液中のアンモニアを測定する手段について検討した。しかし、公知のアンモニア検査紙などのアンモニアを検出又は測定する検査手段は、水質検査や血中のアンモニア濃度の測定には適しているものの、その感度が高いために唾液中のアンモニアを簡単に精度良く検出又は測定するには不適であった。
【0008】
従って、唾液中のアンモニアを簡便かつ短時間で、精度よく検出又は測定することができ、唾液中のアンモニアを指標として口腔内の清潔度を推測するのに有用な検査手段の開発が望まれる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−108976号公報
【特許文献2】特開昭60−73463号公報
【特許文献3】特開昭62−211558号公報
【特許文献4】特開昭61−257200号公報
【特許文献5】特開昭58−193459号公報
【非特許文献1】J.Dent.Res.Abstracts #1830,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、短時間でかつ簡易な操作で、精度良く、唾液中のアンモニアを検出又はその濃度を測定できるアンモニア検査具、及びその感度調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具であって、前記指示薬層が、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆されてなり、該皮膜の乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%であることにより、指示薬層の感度が調整されて、試料の唾液を希釈操作することなくそのまま検体として使用して、短時間でかつ簡易な操作で、精度良く、唾液中のアンモニアを検出又はその濃度を測定できるアンモニア検査具が得られることを見出した。
【0012】
即ち、本発明者らは口腔内の清潔度を判断する指標として、口臭や唾液中の細菌数といった因子と高い相関を示すアンモニアに注目し、唾液中のアンモニアを検出又は測定する検査手段について検討した。
液体試料中のアンモニア又は尿素の濃度を測定するための分析具は、特許文献5:特開昭58−193459号公報等に提案され、水質検査や血中のアンモニア濃度を測定するためのアンモニア検査紙は種々市販されている。
例えば、アミチェック(商品名、(株)京都第一科学製)は、アミノ酸代謝異常、肝機能異常、腎機能異常などの病態把握を目的に血中、血清又は血漿中のアンモニアを測定するものである。これは、その添付文書からアンモニア測定濃度範囲は0.1〜4μg/mLと考えられ、血中アンモニアの基準値が0.18〜0.70μg/mLであることから、適度な測定濃度範囲となる。簡易水質検査試験紙のアクアチェックA(商品名、バイエルメディカル(株)製)は、0.1〜10μg/mLのアンモニアが測定できる。テストスティックアンモニア(商品名、(株)ニッソー製)は、0.1〜5μg/mLのアンモニアが測定でき、熱帯魚や観賞魚の水槽中の水質検査に好ましい測定濃度の範囲となっている。
【0013】
しかしながら、成人唾液中のアンモニア濃度は約10〜1,000μg/mLの範囲(J.Dent.Res.Abstracts #1830,2006参照)であるため、市販検査紙は測定感度が高すぎるために唾液中のアンモニアを精度良く検出又は測定するには不適であった。なお、メルコクアントアンモニウムテスト(商品名、MERCK社製)は、測定範囲が0.1〜400μg/mLで、より高濃度までアンモニア測定が可能ではあるが、有毒なヨウ化水銀(II)を使用することから安全面、環境面で問題があった。
これらの市販アンモニア検査紙のアンモニア測定範囲、更には唾液中のアンモニア濃度は、表1に示すとおりである。
【0014】
【表1】

【0015】
口中から採取した唾液を予め適当濃度まで希釈してこの希釈唾液を検体として使用すれば、上記市販品を用いて唾液中のアンモニアを検出又は測定することは可能であるが、唾液を希釈する操作は手間がかかり面倒であり、工程が煩雑となって処理時間もかかり、これらの要因が測定精度へ悪影響を及ぼす場合もある。集団検診や健康教育事業などで行う検査は、簡便かつ安価で短時間に検査結果が得られることが望ましい。
【0016】
本発明のアンモニア検査具によれば、上記課題を解決でき、検査具の判定部位(指示薬層)を特定の被覆剤水溶液に浸漬し、乾燥することにより得られる皮膜で被覆することにより、アンモニアと指示薬との反応による指示薬層の発色までの展開時間が調整され、判定感度が下がることによって、唾液を希釈することなくそのまま検体として使用して判定部位に直接接触させることで、アンモニアを検出又はその濃度を精度良く、簡単な操作で測定することができる。
【0017】
従って、本発明は、下記のアンモニア検査具及びその感度調整方法を提供する。
(i)支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具であって、前記指示薬層が、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆されてなり、該皮膜の乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%であり、唾液中のアンモニアを検出又は測定するためのものであることを特徴とするアンモニア検査具。
(ii)唾液中のアンモニアを検出又は測定して口腔内の清潔度を推測するためのものである上記アンモニア検査具。
(iii)支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具の前記指示薬層を、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液に浸漬後、乾燥させ、乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%である皮膜で被覆して感度を調整することを特徴とする、唾液中のアンモニアを検出又は測定するためのアンモニア検査具の感度調整方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアンモニア検査具、及びその感度調整方法によれば、試料の唾液を希釈操作することなくそのまま検体として使用して、短時間でかつ簡易な操作で、精度良く、唾液中のアンモニアを検出又は測定でき、安全面や環境面も良好である。更に、本発明によれば、唾液中のアンモニアの検出又は測定結果から、口臭や唾液中の内細菌数等が推測でき、これを指標として口腔内清潔度を判断することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明のアンモニア検査具は、支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具であって、前記指示薬層が、特定の被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆されてなる。
【0020】
ここで、本発明で使用される被覆剤水溶液は、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有する水溶液であり、pH2.0〜5.0(25℃)に調整される。
【0021】
ポリビニルピロリドンは、皮膜形成成分としての高分子物質であり、平均分子量が1万〜36万、特に1万〜16万のものが好ましく、平均分子量が1万に満たないと粘度安定性が低く、36万を超えると粘度安定性は高いものの、沈殿が起こるなどの品質上の問題が発生する場合がある。
なお、上記平均分子量の測定は、分子量と相関する粘度特性値(K)で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscher(フィケンチャー)の式に適用して計算した値である。
【数1】

【0022】
ポリビニルピロリドンは市販品を使用でき、例えばルビスコールK15(平均分子量1万)、K30(平均分子量4万)、K60(平均分子量16万)、K90(平均分子量36万)(いずれもBASFジャパン(株)製)が挙げられ、これらの1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
ポリビニルピロリドンの配合量は、被覆剤水溶液全体の10〜40%、特に25〜40%(質量%、以下同様。)、とりわけ26〜38%が好ましい。10%に満たないと、唾液のアンモニア判定時の濃度差が見づらく、40%を超えると、検査紙の指示薬層とアンモニアの反応に時間が3分以上かかり、迅速な判定ができない場合がある。
【0024】
被覆剤には更に界面活性剤を配合する。界面活性剤を配合することで、アンモニア検査紙の指示薬層の被覆が行いやすくなり有利である。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を使用できる。例えば、ラウリル硫酸塩等のアルキル硫酸塩、ラウロイルサルコシン酸塩、アルキルアリールポリエチレングリコール、アミノ酸糖エステル化合物、脂肪酸糖エステル、塩化セチルピリジニウム塩などが挙げられる
【0025】
これらの中では、特にアルキル硫酸塩、ラルロイルサルコシン酸塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルアリールポリエチレングリコール等のノニオン性界面活性剤が、被覆剤及び界面活性剤の安定性を保つ上で好ましい。
【0026】
界面活性剤の配合量は、被覆剤水溶液全体の0.3〜1.2%、特に0.5〜1.0%が好ましい。0.3%に満たないと、被覆剤による膜が形成しにくく、1.2%を超えると被覆剤の安定性に問題が発生する場合がある。
【0027】
被覆剤には、更に必要に応じて、ゲルろ過剤であるセファデックスG−25、G−50、G−100(GEヘルスケア バイオサイエンス(株)製)等の公知成分を適宜添加してもよい。
【0028】
本発明において、被覆剤水溶液のpHは2.0〜5.0、好ましくは2.0〜4.6の範囲に設定する。この範囲にpH調整することで、指示薬層に含まれる試薬の変色を効果的に抑えることができる。pHが5.0を超えると指示薬層の安定性の低下により変色が生じ、pHが2.0に満たないと、指示薬層の発色度が低下しアンモニア判定が行いにくくなる場合がある。
なお、pH調整には必要に応じてpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、酢酸、リン酸、塩酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸等の酸又はその塩が使用できる。
【0029】
本発明のアンモニア検査具は、支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具の前記指示薬層が、上記被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆され、皮膜の乾燥質量が指示薬層の乾燥質量の25〜50%であるものである。
【0030】
ここで、支持体上にアンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具としては、紙、プラスチック等の支持体の表面上の一部又は全面に指示薬を含む層を有するものであればその材質や成分、構造などに特に制限はなく、支持体上に指示薬層と、唾液中のアンモニアをガス化するアルカリ性緩衝液を含む担体とを有するアンモニア検査具であってもよく、公知のアンモニア検査紙等のアンモニア検査具で、安全面や環境面に問題のないものを使用することができる。
【0031】
上記アンモニア検査具として具体的には、市販品を使用でき、アミチェック(商品名、(株)京都第一科学製)、アクアチェックA(商品名、バイエルメディカル(株)製)、テストスティックアンモニア(商品名、(株)ニッソー製)等が挙げられる。
【0032】
なお、アンモニア検査具の支持体の形状は、使用性の点から通常スティック状で幅3〜7mm、長さ50〜100mm、厚さ0.2〜0.4mmのものが望ましく、特に幅5mm、長さ82mm、厚さ0.25mmのものが好適である。
【0033】
指示薬層に含まれる指示薬は、例えばブロムチモールブルー、チモールブルー、ブロムフェノールレット、フェノールレッド、ブロムクレゾールグリーンなどが使用可能であり、市販のアンモニア検査具に使用されている指示薬を用いることができる。
指示薬層の形状は全面積9〜49mm2のものが好ましく、特に25mm2のものが好適である。
【0034】
本発明において、支持体上の指示薬層を被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆する方法は、特に限定されず、前記指示薬層を被覆剤水溶液中に60〜600秒間浸漬し、引き上げた後、室温下で24〜72時間風乾し作製する方法、あるいは、被覆剤水溶液を指示薬層上に滴下して指示薬層表面の全面がコートされたのを確認後、室温下で5〜60分間放置し、その後、室温下で24〜72時間風乾し作製する方法などを採用できる。
【0035】
被覆剤水溶液により形成される被覆剤皮膜は、乾燥質量が指示薬層の25〜50%、好ましくは28〜47%の範囲であり、これにより、1分程度の短時間で唾液中のアンモニアを希釈操作なく判定できる。乾燥質量が25%未満では、ブランクの色調(指示薬層)が、黄色からうす黄緑に変化し、視覚判定し難くなり、50%を超えると判定に要する時間が長くなって短時間での判定が困難になる。
更に、被覆剤皮膜の乾燥質量は1〜3mg、特に1.3〜2.6mgが好ましい。
なお、上記乾燥質量とは、指示薬層又は被覆剤皮膜を40℃で2日間乾燥させた後の質量である。
乾燥質量が上記範囲となる皮膜は、10〜38%の被覆剤(ポリビニルピロリドン)を含有する被覆剤水溶液を用いて皮膜を形成することで得ることができる。
【0036】
本発明のアンモニア検査具の具体例を図1〜3に示す。図1,2は、スティック状の支持体1上に指示薬層2と担体(アルカリ層)3とを有するアンモニア検査紙(市販のアンモニア検査紙、アクアチェックA(商品名、バイエルメディカル(株)製)の指示薬層2が、本発明にかかわる被覆剤水溶液で形成された皮膜4で被覆されたものであり、図1は概略断面図、図2は分解斜視図である。更に、図1,2に示すアンモニア検査紙は、図3の分解斜視図に示すように、皮膜4上を唾液浸入防止カバー5で被覆し、唾液の浸入部位を限定してもよい。
【0037】
本発明のアンモニア検査具は、試料の唾液を、被覆剤皮膜で被覆された指示薬層(判定部位)に滴下し、一定時間経過後に指示薬層の色調を判別することで、唾液中のアンモニアの存在の有無、あるいはアンモニアの濃度を定量することができる。
【0038】
検体に使用する唾液は、人の唾液、あるいは動物等の唾液であってもよく、安静時唾液、刺激唾液(ガムやワックスを咀嚼後、一定時間内に回収した唾液)、吐出唾液(一定量の蒸留水を口腔内に含み一定時間後に吐出した唾液)のいずれをも使用できる。
【0039】
唾液を用いた検査条件は特に制限されないが、本発明のアンモニア検査具と唾液2mLを、30秒間撹拌後、30〜120秒放置し、使用した市販のアンモニア検査具(例えばアクアチェックA等)の色見本を基準に判定することができる。判定は、唾液と接触反応させた後、30秒〜1分間で判定できる。
【実施例】
【0040】
以下、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、下記例に示す%は特にことわらない限り質量%を意味する。
【0041】
〔実験例〕
被覆剤に用いる成分として、表2に示す高分子化合物のカルボキシメチルセルロースナトリウムとポリビニルピロリドンについて、溶解性、溶液のpHを下記方法で調べた。結果を表2に示した。
【0042】
溶解性の評価方法;
被覆剤は、高分子化合物(ポリビニルピロリドン又はカルボキシメチルセルロースナトリウム)の水溶液であり、調製時に、界面活性剤はじめpH調整剤を混合することができる。12時間スターラーで撹拌後、溶解性を視覚で判定し、下記基準で評価した。
○; 完全に溶解した
×; 不溶物が残った
pHの測定方法;
pHは、被覆剤水溶液中にpH電極(HORIBA社製 pHメーター D−51)を入れ、室温下のpH値を測定した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の結果から、唾液中のアンモニアを判定するには、適度な皮膜形成が必要であり、被覆剤の濃度を20%に調整して評価した結果、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、ポリビニルピロリドンに比べ溶解性が悪く、アンモニア検査具の被覆剤に用いる高分子物質としてはポリビニルピロリドンが好適であることがわかった。
【0045】
〔実施例、比較例〕
市販のアンモニア検査紙、アクアチェックA(商品名、バイエルメディカル(株)製)の指示薬層(面積は5.2mm×5.2mm=27mm2、重量は5.2mg)を用い、また、被覆剤成分としてポリビニルピロリドン(BASFジャパン(株)製、ルビスコールK30、表中、PVPと略す。)、ラウリル硫酸ナトリウム(東邦化学工業(株)製、表中、SDSと略す。)、pH調整剤の10%酢酸水溶液又は10%リン酸水溶液を用い、表3に示す組成の被覆剤水溶液を調製し、下記方法で被覆剤処理したアンモニア検査紙を作製して評価した。結果を表4,5に示す。
【0046】
被覆剤処理アンモニア検査紙の調製;
表3に示す成分を水に溶解し、そのまま、あるいは10%酢酸水溶液や10%リン酸水溶液でpH調整して水溶液を調製した。
得られた被覆剤水溶液中に室温でアクアチェックAの指示薬層部分を60秒間浸漬し、その後、室温で2日間乾燥して、被覆剤処理検査紙を作製した。
作製した検査紙(実施例1〜4、比較例1〜5)の被覆剤組成、pHと、判定部位の全乾燥質量、被覆剤質量及び被覆率を表3にまとめて示した。なお、pHの測定法、判定部位の全乾燥質量及び被覆剤質量、被覆率の算出法は、下記のとおりである。
【0047】
pHの測定方法;
pHは、被覆剤水溶液中にpH電極(HORIBA社製 pHメーター D−51)を入れ、室温下のpH値を測定した。
全乾燥質量(B);
検査紙の判定部位(被覆剤皮膜が形成された指示薬層)全体の乾燥質量
被覆剤質量(A);
被覆剤皮膜の乾燥質量
被覆率;
上記の全乾燥質量(B)、被覆剤質量(A)から下記式により検査紙の被覆率(指示薬層に対する被覆剤皮膜の乾燥質量の割合(質量比))を求めた。
被覆率(%)=(A/(B−A))×100
【0048】
【表3】

【0049】
唾液検体を用いたアンモニア検査紙によるアンモニア検出における反応時間の検討;
3名の成人被験者から採取した安静時唾液を検体とした。
次に、コントロールのアンモニア検査紙と、被覆剤で処理したアンモニア検査紙(実施例3)を用い、アンモニア検査紙の上に検体の唾液(安静時又は刺激時の唾液)2.0mLを滴下し、滴下から1分後と3分後のアンモニア検査紙の色の変化について、視覚判定した。視覚判定は、アクアチェックAの判定基準に従い、下記の視覚評価基準で行った。結果を表4に示す。
なお、本発明では、塩化アンモニウムのアンモニウムイオンが、アルカリ性で、ガス化により、被覆剤処理した皮膜層を通過し、指示薬層で発色する。その際、皮膜層のpHもガス化に作用しているものと考えられる。指示薬層では、アクアチェックAの中に含まれるpH指示薬がアンモニアガスと反応し、1分後の色の変化を視覚判定することで、唾液中のアンモニアを、希釈操作することなく測定ができる。
【0050】
視覚評価基準(各判定基準におけるアンモニア濃度値、μg/mL);
アンモニア濃度の判定は、アンモニア検査紙とアンモニア標準液又は唾液を1分間反応させた後の色の変化を、アクアチェックAの基準色に従い、下記の6段階で視覚判定した。
− :黄色(0μg/mL) ± :うす黄緑(25μg/mL)
+ :黄緑(50μg/mL) ++ :うす緑(100μg/mL)
+++:緑(400μg/mL) ++++:深緑(900μg/mL)
【0051】
【表4】

【0052】
表4の結果から、被覆剤で処理したアンモニア検査紙は、3分後の判定ではアンモニア濃度400μg/mLと900μg/mLとの差に色の変化が認められず(いずれも++++)、視覚的な判定が難しいが、1分後を判定時間に設定すると、100μg/mLから900μg/mLまで色の変化が認められ、短時間かつ正確にアンモニア濃度を視覚判定できることがわかった。
【0053】
アンモニア検査紙を用いた唾液検体中のアンモニアの検出;
表3に示す組成のアンモニア検査紙(実施例1〜4、比較例1〜5)について、まず、判定評価前のアンモニア検査紙の判定部位(指示薬層)の視覚判定を上記と同様の基準で行った。次に、上記と同様の検体を用いて同様の方法で、判定時間1分でアンモニア検出を行い、同様に評価した。また、検体として水を用いて同様に評価し、その判定結果をブランク値として示した。以上の結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5の結果から、コントロール検査紙(被覆剤処理なし)は、唾液中アンモニアと瞬時に反応し、1分後にはアンモニア濃度100μg/mLでも測定限界を超え、全ての濃度の視覚評価が++++(深緑)となり、判別できなかった。また、比較例1〜5は、被覆剤処理による遅延効果によりアンモニア濃度の違いで発色の変化が認められるが、アンモニア濃度400μg/mLと900μg/mLとの濃度で差が認められず、視覚判定できなかった。比較例1,2,4の検査紙は、検査前に検査紙がすでに着色しており、水を検体として検査した場合のブランク値にも増加が認められ、アンモニア濃度判定の精度に劣ることがわかった。
【0056】
これらに対して、本発明品(実施例)では、唾液検体と接触させて1分後という短時間で唾液中アンモニアの検出及びその濃度の定量判定が可能であり、ブランク値の増加も認められなかった。よって、本発明にかかわる被覆剤水溶液で被覆したアンモニア検査紙は、唾液を希釈することなく検体として用いて、唾液中のアンモニアを簡単かつ短時間で検出又はその濃度を測定して判定できることが確認できた。
【0057】
次に、本発明のアンモニア検査具の他の実施例を示す。いずれの検査具も上記実施例と同様に唾液中のアンモニアの存在の有無又はその濃度を迅速かつ簡単に測定できるものであった。
【0058】
〔実施例5〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK30) 26.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.7g
pH調整剤(10%リン酸) 0.3mL
水 適量
計 100g
(pH2.0)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は6.70mg、被覆剤質量(A)は1.50mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は28.8%であった。
【0059】
〔実施例6〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK30) 31.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.7g
pH調整剤(10%酢酸) 0.3mL
水 適量
計 100g
(pH3.5)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は7.10mg、被覆剤質量(A)は1.90mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は36.5%であった。
【0060】
〔実施例7〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK30) 32.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0g
pH調整剤(10%酢酸) 0.4mL
水 適量
計 100g
(pH2.8)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は7.10mg、被覆剤質量(A)は1.90mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は36.5%であった。
【0061】
〔実施例8〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK30) 38.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.7g
pH調整剤(10%酢酸) 0.1mL
水 適量
計 100g
(pH4.6)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は7.60mg、被覆剤質量(A)は2.40mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は46.2%であった。
【0062】
〔実施例9〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK30) 18.0g
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK60) 12.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0g
pH調整剤(10%リン酸) 0.2mL
水 適量
計 100g
(pH4.1)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は7.11mg、被覆剤質量(A)は1.91mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は36.7%であった。
【0063】
〔実施例10〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK90) 28.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.8g
pH調整剤(10%酢酸) 0.3mL
水 適量
計 100g
(pH3.5)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は6.80mg、被覆剤質量(A)は1.60mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は30.7%であった。
【0064】
〔実施例11〕
被覆剤水溶液組成
ポリビニルピロリドン(ルビスコールK60) 28.0g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.8g
セファデックスG−25 2.0g
pH調整剤(10%酢酸) 0.3mL
水 適量
計 100g
(pH3.5)
市販アンモニア検査紙(バイエルメディカル(株))の指示薬層(面積27mm2、重量5.2mg)を、上記被覆剤に1分間浸し、室温で2日間乾燥した。このときの全乾燥質量(B)は7.51mg、被覆剤質量(A)は2.31mgであり、指示薬層に対し被覆処理し、室温2日間乾燥したときの被覆率は44.5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のアンモニア検査具の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明のアンモニア検査具の一実施例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明のアンモニア検査具の他の一実施例を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 支持体
2 指示薬層
3 担体(アルカリ層)
4 皮膜(被覆剤)
5 唾液浸入防止カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具であって、前記指示薬層が、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液で形成された皮膜で被覆されてなり、該皮膜の乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%であり、唾液中のアンモニアを検出又は測定するためのものであることを特徴とするアンモニア検査具。
【請求項2】
唾液中のアンモニアを検出又は測定して、口腔内の清潔度を推測するためのものである請求項1記載のアンモニア検査具。
【請求項3】
支持体上に、アンモニアにより呈色反応する指示薬層を有するアンモニア検査具の前記指示薬層を、ポリビニルピロリドンと界面活性剤とを含有しpH2.0〜5.0(25℃)に調整された被覆剤水溶液に浸漬後、乾燥させ、乾燥質量が指示薬層の25〜50質量%である皮膜で被覆して感度を調整することを特徴とする、唾液中のアンモニアを検出又は測定するためのアンモニア検査具の感度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−38666(P2010−38666A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200338(P2008−200338)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】