説明

アンモニウム氷晶石の製造方法

【課題】 クリーニングガスとして有用な三フッ化窒素の製造原料であるアンモニウム氷晶石の製造方法を提供する。
【解決手段】 テトラフルオロアンモニウムアルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させること、またはフッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させること、またはテトラフルオロアンモニウムアルミニウムとフッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーニングガスとして有用な三フッ化窒素の製造原料であるアンモニウム氷晶石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニウム氷晶石((NH)AlF)の製造方法としては、水酸化アルミニウム、フッ酸(フッ化水素水溶液)、アンモニア水溶液を原料として湿式法で製造する方法やテトラフルオロアンモニウムアルミニウム(NHAlF)のフッ酸スラリーとアンモニアから製造する方法(特許文献1、2)、さらにはヘキサフルオロアルミン酸(HAlF)とアンモニア水溶液から溶液反応で製造する方法(特許文献1、2、3)などが知られている。しかし、これらの方法は何れも水溶液系での反応であり、フッ酸を使用するため設備が煩雑であることや安全確保が困難という問題があった。特に乾燥機などの付帯設備が必要であり設備コストが乾式法より高くなる問題があった。
【0003】
乾式法によるアンモニウム氷晶石の合成法については、アルミナ粉とフッ化アンモニウム(NHF)との固−固反応に関する示差熱重量分析の結果から180℃でアンモニウム氷晶石が生成することが、A.M.ABDEL REHIMによって報告されている(非特許文献1)。また300℃での熱分解によりアンモニウム氷晶石からより安定なテトラフルオロアンモニウムアルミニウムが生成することが記載されている。A.K.TYAGIは、金属Alの削り屑もしくは板と二フッ化水素アンモニウム(NHHF)とを140℃、8時間あるいは室温で4日間反応させると白色のアンモニウム氷晶石皮膜が生成すると報告している(非特許文献2)。また本出願人は、ガス状の四フッ化シリコンとフッ化アンモニウムとの反応で珪フッ化アンモニウムが得られることを開示している(特許文献4)。これらの研究で固体同士の反応や気体フッ化物と固体フッ化アンモニウムの反応でアンモニウム氷晶石や珪フッ化アンモニウムの生成が報告はされているが、収率その他については不明であり工業的に適応可能な純度、収率でアンモニウム氷晶石が選択的に得られるか否かは不明であった。
【0004】
またアンモニウム氷晶石は、三フッ化窒素(NF)の合成に利用できることが開示されている(特許文献5)。しかし、三フッ化窒素の製造にアンモニウム氷晶石を用いるとテトラフルオロアンモニウムアルミニウムが反応残渣として生成する。さらに反応温度が170℃以上になるとフッ化アルミニウム(AlF)も残渣として生成する。現在、これらの残渣は廃棄物として処理されているのみで有効利用がされていない。環境負荷の低減のためにも廃棄物量の削減、すなわち残渣の有効利用が望まれる。
【特許文献1】特開平6−64917号公報
【特許文献2】特開平6−345421号公報
【特許文献3】米国特許第3773905号
【特許文献4】特開平12−297377号公報
【特許文献5】特開昭60−71503号公報
【非特許文献1】THERMAl ANALYSIS., 6th, 1, 357-362(1980)
【非特許文献2】Synth. React. Inorg. Met.org. Chem., 26(1), 139-146(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、三フッ化窒素の製造で使用されたアンモニウム氷晶石の残渣であるテトラフルオロアンモニウムアルミニウム、フッ化アルミニウムからアンモニウム氷晶石を簡便にかつ容易に再生させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題点に鑑み鋭意検討の結果、テトラフルオロアンモニウムアルミニウム、フッ化アルミニウムとフッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させることによりアンモニウム氷晶石を製造できることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、テトラフルオロアンモニウムアルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させること、またはフッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させること、またはテトラフルオロアンモニウムアルミニウムとフッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させることを特徴とするアンモニウム氷晶石の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、三フッ化窒素の製造原料になるアンモニウム氷晶石を簡便に合成することができる。また不要物として廃棄されていたテトラフルオロアンモニウムアルミニウム等をアンモニウム氷晶石に再生するため廃棄物を削減し環境保全に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、テトラフルオロアンモニウムアルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを加える比率は、反応がほぼ化学量論的に進行するため1当量加えるだけでよい。該化合物等は、固体状粉体であり、その大きさは、特に限定されないが、テトラフルオロアンモニウムアルミニウムは、平均粒径1〜100μm、フッ化アンモニウムおよび二フッ化水素アンモニウムは、平均粒径500〜5000μm程度である。固体状で反応させる時の温度に特に制限はないが、15℃以上250℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上150℃以下が良い。15℃未満では反応が進むのに時間がかかり、250℃を超える温度ではアンモニウム氷晶石の分解が顕著になるため好ましくなく、また、金属反応器の腐蝕が顕著になるためである。
【0010】
また、余剰のフッ化アンモニウム、二フッ化水素アンモニウムが存在すると製造した三フッ化窒素中の窒素量が増加するため好ましくない。そのため、これらの余剰の原料を除く必要がある。発明者らは鋭意検討の結果、50℃〜190℃の温度範囲で真空引きすることにより、余剰のフッ化アンモニウム、二フッ化水素アンモニウムを除去できることを見出した。真空引きの圧力条件は、大気圧以下であれば、特に限定されない。
【実施例】
【0011】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0012】
実施例1〜21
テトラフルオロアンモニウムアルミニウム粉体とフッ化アンモニウム粉体を50CCのステンレス鋼製シリンダ内に入れて混合し一定時間放置した後、粉体をX線回折分析を行いアンモニウム氷晶石への反応収率を算出した。反応条件と収率の算出結果を表1に記す。試料は、表1中の温度まで昇温させ、取り出し時に室温(15℃)まで冷却した後、容器から取り出して分析を行った。表1の結果から、粉体のテトラフルオロアンモニウムアルミニウムとフッ化アンモニウムを混合することによりアンモニウム氷晶石に再生できることが解る。
【0013】
【表1】

【0014】
実施例22〜26
フッ化アルミニウム粉体とフッ化アンモニウム粉体を50CCのステンレス鋼製シリンダ内に入れて混合し一定時間放置した後、粉体をX線回折分析を行いアンモニウム氷晶石への反応収率を算出した。反応条件と収率の算出結果を表2に記す。試料は、表2中の温度まで昇温させ、取り出し時に室温(15℃)まで冷却した後、容器から取り出して分析を行った。表2の結果から、粉体のフッ化アルミニウムとフッ化アンモニウムを混合することによりアンモニウム氷晶石に再生できることが解る。
【0015】
【表2】

【0016】
実施例27、28、29、比較例1
水酸化アルミニウムとアンモニア水、フッ化水素酸から合成したアンモニウム氷晶石とフッ素(F)との反応で三フッ化窒素を合成した後の固体残渣を回収した。この残渣は、99wt%のテトラフルオロアンモニウムアルミニウムと1wt%のフッ化アルミニウムを含有する粉体であった。この粉体1kgとフッ化アンモニウム1.2kgをPFA容器中で混合し、70℃で13時間静置した。その後、70℃に加温したまま真空ポンプで0.13kPaまで真空引きし、温度を室温に戻した後、内部の粉体をX線回折分析したところ、ほぼ100%アンモニウム氷晶石であった(実施例27)。また乾燥温度を50℃で120分間(実施例28)もしくは190℃(実施例29)で10分間真空引きした場合でも、ほぼ100%のアンモニウム氷晶石が得られた。しかし、乾燥温度を260℃に上げ10分間真空引きを行うと、アンモニウム氷晶石の分解が進みテトラフルオロアンモニウムアルミニウムが23wt%混合した状態でしか得られなかった(比較例1)。また室温(25℃)で120分間真空引きしても余剰のフッ化アンモニウムは除去できなかった。
【0017】
実施例30〜34
テトラフルオロアンモニウムアルミニウム粉体と二フッ化水素アンモニウム粉体を50CCのステンレス鋼製シリンダ内に入れて混合し一定時間放置した後、粉体をX線回折分析を行いアンモニウム氷晶石への反応収率を算出した。反応条件と収率の算出結果を表3に記す。試料は、表3中の温度まで昇温させ、取り出し時に室温(15℃)まで冷却した後、容器から取り出して分析を行った。表3の結果から、粉体のテトラフルオロアンモニウムアルミニウムと二フッ化水素アンモニウムを混合することによりアンモニウム氷晶石に再生できることが解る。
【0018】
【表3】

【0019】
実施例35、比較例2
水酸化アルミニウムとアンモニア水、フッ化水素酸から合成したアンモニウム氷晶石とフッ素との反応で三フッ化窒素を合成した後の固体残渣を回収した。この残渣は、99wt%のテトラフルオロアンモニウムアルミニウムと1wt%のフッ化アルミニウムを含有する粉体であった。この粉体1kgと1.2kg の二フッ化水素アンモニウムをPFA容器中で混合し、70℃で13時間静置した。その後、70℃に加温したまま真空ポンプで0.13kPaまで真空引きし、温度を室温に戻した後、内部の粉体をX線回折分析したところ、ほぼ100%のアンモニウム氷晶石であった(実施例35)。しかし、乾燥温度を260℃に上げ10分間真空引きを行うと、アンモニウム氷晶石の分解が進みテトラフルオロアンモニウムアルミニウムが16wt%混合した状態でしか得られなかった(比較例2)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロアンモニウムアルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させることを特徴とするアンモニウム氷晶石の製造方法。
【請求項2】
フッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させることを特徴とするアンモニウム氷晶石の製造方法。
【請求項3】
テトラフルオロアンモニウムアルミニウムとフッ化アルミニウムと、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを固体状で反応させることを特徴とするアンモニウム氷晶石の製造方法。