説明

アークおよび火炎保護および収縮率減少のためのモダクリル/アラミド繊維混紡

アークおよび火炎保護に用いるのに好適な糸、布帛および衣類は、モダクリル、p−アラミドおよびm−アラミド繊維を含有しており、m−アラミド繊維の結晶化度が少なくとも20%である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との関係】
【0001】
本発明は、2004年3月18日出願の米国特許出願第10/803,383号明細書の一部係属出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、アークおよび火炎保護特性を有し、収縮率の減少した、布帛の製造に有用な混紡糸に関する。本発明はまた、かかる布帛で製造した衣類にも関する。
【背景技術】
【0003】
稼動中の電気機器近くで作業する人や、電気機器近くの事故に対応する救急隊員は、アーク放電による電気アークおよび火炎の危険に晒されている。電気アークは、典型的に、数千ボルト、数千アンペアの電気を伴う非常に激変的現象である。2つの電極間での電位差(すなわち、電圧)によって、空気中の原子がイオン化され、電気が流れると、電気アークは空気中で形成される。
【0004】
イチボリ(Ichibori)らによる特許文献1には、大量のアンチモン化合物を有するハロゲン含有繊維と、天然繊維および化学繊維よりなる一覧から選択される少なくとも1種類の繊維とを含んでなる難燃性複合体繊維混紡が開示されている。繊維混紡は、布帛へと製織され、その難燃性の尺度として、限界酸素指数が試験される。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,208,105号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
必要とされているのは、高レベルのアークおよび火炎保護を有する糸、布帛および衣類である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(a)40〜70重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)結晶化度が少なくとも20%の10〜40重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなり、前記パーセンテージは成分(a)、(b)および(c)を基準とするものであるアークおよび火炎保護布帛および衣類に用いる糸に関する。
【0008】
さらに、布帛および衣類は、耐破断開放性および耐摩耗性を与えることができる。好ましいモードにおいて、布帛および衣類は、アモルファスである(すなわち、結晶化度が低い)m−アラミド繊維を用いることが唯一の変更点である布帛に比べて、収縮率が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、アーク保護と難燃性の両方を提供する布帛および衣類が製造される糸を提供することに関する。低引張り強さの難燃性繊維を含んでなる布帛および衣類は、電気アークの強い熱応力に晒されると、破断開放され、入射エネルギーの結果として、着用者がさらに負傷する。電気アークは、典型的に、数千ボルト、数千アンペアの電気を伴う。電気アークは、突発的な火事等の入射エネルギーよりもはるかに強い。着用者を保護するために、衣類または布帛は、着用者にエネルギーが伝達されるのを抑えるものでなければならない。これは、入射エネルギーの一部を吸収する布帛および破断開放を抑える布帛の両方によりなされるものと考えられる。破断開放中、布帛に穴が形成され、入射エネルギーに表面または着用者が直接晒される。
【0010】
本発明の糸、布帛および衣類は、電気アークの強い熱応力に晒されると、エネルギーの伝達を抑える。本発明は、入射エネルギーの一部を吸収することによって、エネルギー伝達を減じ、炭化によって、伝達されたエネルギーを減少することができるものと考えられる。
【0011】
本発明の糸は、モダクリル繊維、メタ−アラミド繊維およびパラ−アラミド繊維の混紡を含んでなる。典型的に、本発明の糸は、40〜70重量パーセントのモダクリル繊維と、5〜20重量パーセントのパラ−アラミド繊維、および結晶化度が少なくとも20%の10〜40パーセントのメタ−アラミド繊維を含んでなる。好ましくは、本発明の糸は、55〜65重量パーセントのモダクリル繊維と、5〜15重量パーセントのパラ−アラミド繊維、および20〜30パーセントのメタ−アラミド繊維を含んでなる。上記のパーセンテージは、3つの表記した成分を基準とするものである。さらに、追加の耐摩耗性繊維を糸に添加して、耐摩耗性の改善により耐久性を改善してもよい。同じく、帯電防止繊維は、静電蓄積を減じる。
【0012】
「糸」とは、紡糸したり、撚り合わせて、連続ストランドを形成した繊維の集合を意味し、これを用いて、テキスタイル材料または布帛へと製織したり、編んだり、編組したり、ヒダ加工したり、その他作製することができる。
【0013】
モダクリル系繊維とは、主にアクリロニトリルを含んでなるポリマーから作製されたアクリル合成繊維のことを意味する。ポリマーは、30〜70重量パーセントのアクリロニトリルと70〜30重量パーセントのハロゲン含有ビニルモノマーとを含んでなるコポリマーであるのが好ましい。ハロゲン含有ビニルモノマーは、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等から選択される少なくとも1種類のモノマーである。共重合可能なビニルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、かかる酸の塩またはエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル等が例示される。
【0014】
本発明の好ましいモダクリル繊維は、塩化ビニリデンと組み合わせたアクリロニトリルのコポリマーであり、コポリマーは、難燃性を改善するために、更に1つの酸化アンチモンまたは複数の酸化アンチモンを有している。かかる有用なモダクリル繊維としては、2重量パーセントの三酸化アンチモンを有する米国特許第3,193,602号明細書に開示された繊維、少なくとも2重量パーセント、好ましくは8重量パーセント以下の量で存在する様々な酸化アンチモンで作製した米国特許第3,748,302号明細書に開示された繊維、および8〜40重量パーセントのアンチモン化合物を有する米国特許第5,208,105号明細書および第5,506,042号明細書に開示された繊維が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0015】
本発明の糸内で、モダクリル繊維は、アンチモン誘導体のドーピングレベルに応じて、典型的に少なくとも28のLOIの難燃性の炭化形成繊維を提供する。モダクリル繊維はまた、火炎に晒されたことによる繊維に対する損傷が広がるのに対する抵抗性もある。モダクリル繊維は、極めて難燃性であるが、電気アークに晒されたときに、所望レベルの耐破断開放性を提供するだけの適正な引張り強さを糸または糸から製造された布帛にそれ自体が与えるものではない。
【0016】
本明細書で用いる「アラミド」とは、少なくとも85%のアミド(−CONH−)結合が2つの芳香環に直接付加しているポリアミドのことを意味する。アラミドと共に添加剤を用いることができ、実際、10重量%までのその他のポリマー材料をアラミドと混紡でき、あるいはアラミドのジアミンに代えて10パーセントのその他のジアミン、またはアラミドの二酸塩化物に代えて10パーセントのその他の二酸塩化物を有するコポリマーを用いることができることが分かっている。好適なアラミド繊維は、人工繊維科学技術、第2巻、繊維形成芳香族ポリアミドセクション(Man−Made Fibers−−Science and Technology,Volume 2,Section titled Fiber−Forming Aromatic Polyamides)、297ページ、W.ブラック(W.Black)ら、インターサイエンスパブリッシャーズ(Interscience Publishers)、1968年に記載されている。アラミド繊維はまた、米国特許第4,172,938号明細書、同第3,869,429号明細書、同第3,819,587号明細書、同第3,673,143号明細書、同第3,354,127号明細書および同第3,094,511号明細書に開示されている。m−アラミドは、アミド結合が互いにメタ位にあるようなアラミドであり、p−アラミドは、アミド結合が互いにパラ位にあるようなアラミドである。本発明の実施に際して、最も頻繁に用いられるアラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)およびポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0017】
本発明の糸内で、m−アラミド繊維は、LOIが約26の難燃性炭化形成繊維が提供される。m−アラミド繊維はまた、火炎に晒されたことによる繊維に対する損傷が広がるのに対する抵抗性もある。m−アラミド繊維はまた、本発明の糸を含んでなる繊維で形成された布帛に快適さも付与する。
【0018】
m−アラミド繊維は、糸および糸から形成された布帛に追加の引張り強さを与える。モダクリル繊維とm−アラミド繊維の組み合わせは、極めて難燃性であるが、電気アークに晒されたときに、所望レベルの耐破断開放性を提供するだけの適正な引張り強さを糸または糸から製造された布帛にそれ自体が与えるものではない。
【0019】
本発明は、親出願である米国特許出願第10/803,383号明細書の範囲内である。しかしながら、用いるm−アラミド繊維の種類においては、臨界が存在している。意外にも、m−アラミド繊維が、特定の最低限の結晶化度を有している場合には、アーク保護がさらに改善されることが見出された。
【0020】
m−アラミド繊維の結晶化度は少なくとも20%以上、好ましくは少なくとも25%である。例示として、最終繊維を形成し易くするには、結晶化度の実用上限は50%である(ただし、これより多いパーセンテージも好適と考えられる)。通常、結晶化度は、25〜40%の範囲内となり得る。この結晶化度を有する市販のm−アラミド繊維の一例は、ノーメックス(Nomex)(登録商標)T−450である。
【0021】
m−アラミド繊維の結晶化度は、2つの方法のうち1つにより求められる。第1の方法は、空隙のない繊維を用いるものであり、第2は完全に空隙がないわけではない繊維でのものである。
【0022】
第1の方法におけるメタ−アラミドのパーセント結晶化度は、まず、良好な実質的に空隙のない試料を用いて、線形較正曲線を生成することにより求められる。かかる空隙のない試料については、比容積(1/密度)は、2相モデルを用いて結晶化度に直接関連付けることができる。試料の密度は、密度勾配カラムで測定される。x線回折法により非結晶と判断されたメタ−アラミドフィルムを測定したところ、平均密度は1.3356g/cm3であった。完全に結晶のメタ−アラミド試料の密度を、x線単位格子の寸法から求めたところ、1.4699g/cm3であった。これらの0%および100%結晶化度終点が確定されたら、密度が公知の空隙のない実験試料の結晶化度を、この線形の関係から求めることができる。
【0023】
【数1】

【0024】
多くの繊維試料は、完全に空隙がないわけではないため、結晶化度を求めるには、ラマン分光法が好ましい方法である。ラマン測定は、空隙量に感度がないため、1650−1cmでのカルボニル伸縮の相対強度を用いて、空隙の有無に係らず、任意の形態でのメタ−アラミドの結晶化度を求めることができる。これを行うには、結晶化度と、1002cm−1での環伸縮モードの強度まで正規化された1650cm−1でのカルボニル伸縮の強度との間の線形の関係を、最小空隙試料を用いて構築した。この試料の結晶化度は予め求めておき、上述した密度測定から分かる。密度較正曲線に依存している以下の経験的な関係を、ニコレット(Nicolet)モデル910FT−ラマン分光計を用いてパーセント結晶化度について構築した。
【0025】
【数2】

【0026】
式中、l(1650cm−1)は、その点でのメタ−アラミド試料のラマン強度である。この強度を用いて、実験試料のパーセント結晶化度を式から計算する。
【0027】
溶液から紡糸し、冷却し、追加の加熱や化学処理をせずに、ガラス転移温度より低い温度を用いて乾燥すると、メタ−アラミド繊維は、僅かのレベルの結晶化度を構築するに過ぎない。かかる繊維は、繊維の結晶化度を、ラマン散乱技術を用いて測定するとき、15パーセント未満のパーセント結晶化度を有する。低度の結晶化度を有するこれらの繊維は、加熱または化学的手段を用いることにより結晶化可能なアモルファスメタ−アラミド繊維と考えられる。結晶化度のレベルは、ポリマーのガラス転移温度で、またはそれ以上で熱処理することにより増加させることができる。かかる熱は、典型的には、所望量の結晶化度を繊維に付与するのに十分な時間にわたって張力下で加熱ロールと、繊維を接触させることにより適用される。
【0028】
本発明の糸内で、p−アラミド繊維は、高引張り強さの繊維を提供する。適量で添加すると、糸から形成された布帛の耐破断開放性が改善される。糸に大量のp−アラミド繊維があると、糸を含んでなる衣類を着用者にとって不快なものとなる。
【0029】
引張り強さという用語は、破断または破損前の材料に印加できる最大量の応力のことを指す。引裂き強さは、布帛を引裂くのに必要な力の量である。通常、布帛の引張り強さは、布帛の引裂き易さ、または裂け易さに関係している。引張り強さはまた、永久伸張または変形するのを回避する布帛の能力にも関連している。布帛の引張りおよび引裂き強さは、衣類の目的とするレベルの保護を大幅に損なわないような方法で、衣類が裂けたり、引裂かれたり、または永久変形を防ぐのに十分に大きなものでなければならない。
【0030】
さらに、耐摩耗性繊維を糸に添加して、耐摩耗性の改善により耐久性を改善してもよい。耐摩耗性とは、表面摩耗および摩擦に耐える繊維または布帛の能力のことを意味する。耐摩耗性繊維は、ナイロンであるのが好ましい。ナイロンとは、脂肪族ポリアミドポリマーで作製された繊維のことを意味し、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)が好ましいナイロンポリマーである。ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリブチロラクタム(ナイロン4)、ポリ(9−アミノノナン酸)(ナイロン9)、ポリエナントラクタム(ナイロン7)、ポリカプリルラクタム(ナイロン8)、ポリヘキサメチレンセバクアミド(ナイロン6、10)等といったその他のナイロンが好適である。
【0031】
耐摩耗性繊維は、典型的に、2〜15重量パーセントの糸を含んでなる。2重量パーセント未満の耐摩耗性繊維を含有する糸は、耐摩耗性において著しい改善は示さない。15重量パーセントを超える耐摩耗性繊維を含有する糸だと、その糸およびその糸から形成された布帛の難燃性およびアーク保護特性が減少する恐れがある。
【0032】
さらに、本発明の糸、布帛または衣類には、帯電防止成分を添加してもよい。既存の繊維に対して、鋼繊維、炭素繊維または炭素塗膜が例示される。本発明の糸、布帛または衣類に組み込まれると、炭素または鋼等の金属の導電性によって、電気管路が提供され、静電気の蓄積の消失に役に立つ。静電放電は、高感度な電気機器を扱う、または可燃性蒸気近くで作業する作業者にとって危険となり得る。帯電防止成分は、糸全体の1〜5重量パーセントの量で存在していてよい。
【0033】
本発明の糸は、これらに限られるものではないが、リング精紡、コア精紡およびエアジェット精紡、または必要な程度の結晶化度が最終糸に存在するのであれば、空気を用いて、ステープル繊維を糸へと撚る村田エアジェット精紡のような高次エア精紡技術等、業界に一般的に知られた精紡技術のいずれかにより製造してよい。典型的に、一般的な技術のいずれかにより製造された単糸を撚糸して、布帛へと変換する前に、少なくとも2つの単糸を含んでなる双撚糸を形成する。
【0034】
電気アークにより生じる強い熱応力から保護するためには、アーク保護布帛およびその布帛から作製された衣類が、難燃性のために空気中での酸素濃度より高いLOI、布帛に対する損傷の伝わりが遅いことを示す短い炭化長、および保護層下の表面に直接入射エネルギーが衝突することを防ぐための良好な耐破断開放性等の特徴を有しているのが望ましい。
【0035】
消防士の出動装備等の熱保護衣類は、典型的に、直火により生成される対流熱に対する保護を与える。かかる保護衣類は、電気アークにより生成された強いエネルギーに晒されると、破断開放して(すなわち、布帛に開口部が形成されて)、エネルギーが衣類を貫いて、着用者が重傷を負う可能性がある。本発明の布帛は、直火の対流熱に対する保護と、電気アークに晒されたときの、破断開放およびエネルギー伝達に対する増加した抵抗性の両方を与えるのが好ましい。
【0036】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いている布帛という用語は、本発明の糸の1つもしくはそれ以上の異なるタイプを用いて、製織したり、編んだり、別の方法で作った望ましい保護層のことを指す。本発明の布帛は、織布であるのが好ましい。本発明の布帛は、綾織であるのが最も好ましい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、前述した結晶m−アラミド繊維を用いると、収縮率が大幅に減少、さらには収縮率0%となることがさらに知見された。この収縮率の減少は、結晶化度を増加させる処理のされていないm−アラミド繊維に比べて、先に述べた結晶化度を有するm−アラミド繊維を用いることだけが異なる同じ布地に基づくものである。
【0038】
このため、収縮率は、140°Fの水温で20分の洗浄サイクル後に測定される。好ましい布帛は、5回の洗浄サイクル後、より好ましくは10回のサイクル、最も好ましくは20回のサイクル後に収縮を示さない。
【0039】
坪量は、単位面積当たりの布帛の重量の尺度である。典型的な単位としては、1平方ヤード当たりのオンス、1平方センチメートル当たりのグラムが挙げられる。本明細書で記録された坪量は、1平方ヤード当たりのオンス(OPSY)で記録されている。単位面積当たりの布帛の量が増えるにつれて、潜在的な危険と、保護される対象との間の材料の量が増える。材料の坪量の増加は、保護性能においてそれに相当する増加が観察されるであろうことを示唆するものである。本発明の布帛の坪量の増加の結果、耐破断開放性、熱保護因子およびアーク保護が増加する。本発明の布帛の坪量は、典型的に、約8.0opsyを超える、好ましくは約8.7opsyを超える、最も好ましくは約9.5opsyを超える。約12opsyを超える坪量を有する本発明の布帛は、剛性が増加し、かかる布帛で作製された衣類の快適さが減じると考えられる。
【0040】
炭化長は、テキスタイルの難燃性の尺度である。炭化は、熱分解または不完全燃焼の結果として形成された炭素系の燃え殻と定義される。本明細書に記録されたASTM 6413−99の試験条件下での布帛の炭化長は、火炎に直接晒された布帛端部から、所定の引裂き力が印加された後の、目視される布帛損傷の最も遠い点までの距離として定義される。本発明の布帛は、6インチ未満の炭化長を有するのが好ましい。
【0041】
本発明の布帛は、単層または多層保護衣類の一部として用いてもよい。本明細書内で、布帛の保護値は、その布帛の単層について記録されている。本発明にはまた、本発明の布帛から作製された衣類も含まれる。
【0042】
本発明の糸は、布帛の縦糸か横糸のいずれかとして存在していてもよい。本発明の糸は、得られる布帛の縦糸と横糸の両方に存在しているのが好ましい。本発明の糸は、布帛の縦糸と横糸の両方に単独で存在しているのが好ましい。
【0043】
試験方法
摩耗試験
ASTM D−3884−01「テキスタイル布帛の耐摩耗性についての標準ガイド(Standard Guide for Abrasion Resistance of Textile Fabrics )(ロータリプラットフォーム、ダブルヘッド法(Rotary Platform,Double Head Method))」に従って、本発明の布帛の摩耗性能を求める。
【0044】
耐アーク性試験
ASTM F−1959−99「布帛についての材料のアーク熱性能値を求めるための標準試験法(Standard Test Method for Determining the Arc Thermal Performance Value of Materials for Clothing)」に従って、本発明の布帛の耐アーク性を求める。本発明の布帛の耐アーク性は、好ましくは、opsy当たり1平方センチメートル当たり少なくとも0.8カロリー、より好ましくは少なくとも1.2カロリーである。
【0045】
グラブ試験
ASTM D−5034−95「布帛の破断強度および伸びについての標準試験法(Standard Test Method for Breaking Strength and Elongation of Fabrics)(グラブ試験(Grab Test))」に従って、本発明の布帛の耐グラブ性を求める。
【0046】
限界酸素指数試験
ASTM G−125−00「ガス状酸化剤中での液体および固体材料の防火限界を測定するための標準試験方法(Standard Test Method for Measuring Liquid and Solid Material Fire Limits in Gaseous Oxidants)」に従って、本発明の布帛の限界酸素指数(LOI)を求める。
【0047】
引裂き試験
ASTM D−5587−03「台形手順による布帛の引裂きについての標準試験法(Standard Test Method for Tearing of Fabrics by Trapezoid Procedure)」に従って、本発明の布帛の引裂き抵抗を求める。
【0048】
熱保護性能試験
NFPA2112「突発的な火事に対する工業作業者の保護のための難燃性衣類についての規格(Standard on Flame Resistant Garments for Protection of Industrial Personnel Against Flash Fire)」に従って、本発明の布帛の熱保護性能を求める。
【0049】
垂直火炎試験
ASTM D−6413−99「テキスタイルの難燃性についての標準試験法(垂直法)(Standard Test Method for Flame Resistance of Textiles (Vertical Method))」に従って、本発明の布帛の炭化長を求める。
【0050】
熱保護性能(またはTPP)という用語は、布帛が直火または放射熱に晒されたときに、布帛の下の着用者の皮膚に、連続的かつ信頼性よく保護を与える布帛の能力に関係している。
【0051】
LOI
ASTM G125/D2863より
ASTM D2863の条件下で、最初は室温で材料の火炎燃焼をサポートする酸素と窒素の混合物中、体積パーセントとして表される最低酸素濃度。
【0052】
収縮率の判断
収縮率は、1回もしくはそれ以上の洗浄サイクル後の布帛の単位面積を物理的に測定することにより求める。サイクルとは、140°Fの水温で20分間にわたる工業洗濯機での布帛の洗浄のことである。
【0053】
本発明を例示するために、以下の実施例を行う。特に断りのない限り、部およびパーセンテージはすべて重量基準であり、摂氏度である。
【実施例】
【0054】
実施例1
ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ450、ケブラー(Kevlar)(登録商標)29、モダクリルおよびナイロンの密着混紡のリング精紡糸の縦糸と横糸の両方を有するようにして、熱保護耐久性布帛を作製した。ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ450は、結晶化度が33〜37%のポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)、モダクリルは、アンチモン6.8%のACN/ポリ塩化ビニリデンコポリマー(プロテックス(Protex)(登録商標)Cとして知られている)、ケブラー(Kevlar)(登録商標)29は、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(PPD−T)である。
【0055】
25wt.%のノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ450、10wt.%のケブラー(Kevlar)(登録商標)29および65wt.%のモダクリルのピッカー混紡スライバーを作製し、従来の綿システムにより、リング精紡機を用いて、3.7多撚の紡績糸へと処理した。このように作製された糸は、21テックス(28番手)単糸であった。2本の単糸を、撚糸機で撚糸して、双撚糸を作製する。同様のプロセス、ならびに同じ撚りおよび混紡比を用いて、21テックス(28番手)の糸を横糸として用いるために作製した。ヤーンを双撚して、撚糸を形成した。
【0056】
3×1の綾織構造で、シャトル織機においてノーメックス(Nomex)(登録商標)/ケブラー(Kevlar)(登録商標)/モダクリル糸を縦糸および横糸として用いた。生綾織布帛の構造は、1cm当たり30エンド×19ピック(1インチ当たり76エンド×47ピック)で、坪量は189g/m(6.5oz/yd)であった。上述したようにして作製された生綾織布帛を、熱水中で洗って、低張力で乾燥した。洗い上げた布帛を、塩基性染料を用いて、ジェット乾燥した。仕上がり布帛198g/m(6.8 oz/yd) の熱および機械的特性を試験した。
【0057】
実施例2(対照)
ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ455、ケブラー(Kevlar)(登録商標)29、モダクリルおよびナイロンの密着混紡のリング精紡糸の縦糸と横糸の両方を有するようにして、熱保護耐久性布帛を作製した。ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ455は、結晶化度が5〜10%のポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)、モダクリルは、アンチモン6.8%のACN/ポリ塩化ビニリデンコポリマー(プロテックス(Protex)(登録商標)Cとして知られている)、ケブラー(Kevlar)(登録商標)29は、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(PPD−T)、P140は帯電防止繊維である。
【0058】
23wt.%のノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプ455、10wt.%のケブラー(Kevlar)(登録商標)29、65wt.%のモダクリルおよび2%P140のピッカー混紡スライバーを作製し、従来の綿システムにより、リング精紡機を用いて、3.7多撚の紡績糸へと処理した。このように作製された糸は、21テックス(28番手)単糸であった。2本の単糸を、撚糸機で撚糸して、双撚糸を作製する。同様のプロセス、ならびに同じ撚りおよび混紡比を用いて、21テックス(28番手)の糸を横糸として用いるために作製した。ヤーンを双撚して、撚糸を形成した。
【0059】
3×1の綾織構造で、シャトル織機においてノーメックス(Nomex)(登録商標)/ケブラー(Kevlar)(登録商標)/モダクリル糸を縦糸および横糸として用いた。生綾織布帛の構造は、1cm当たり31エンド×22ピック(1インチ当たり78エンド×56ピック)で、坪量は209g/m(7.2oz/yd)であった。上述したようにして作製された生綾織布帛を、熱水中で擦って、低張力で乾燥した。洗い上げた布帛を、塩基性染料を用いて、ジェット乾燥した。仕上がり布帛233g/m(8.0oz/yd)の熱および機械的特性を試験した。
【0060】
さらに、実施例1および2の布帛の、様々な洗浄サイクルによる収縮率を試験した。各サイクルは、140°Fの水温および乾燥温度140Fで20分間であった。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1および2でノーメックス(Nomex)462(実施例2)をノーメックス(Nomex)450(実施例1)に変えることにより、16%のアーク/単位重量の改善が得られた。また、実施例1の布帛は収縮がなく、実施例2の布帛は追加の洗浄サイクルにより収縮率が増加した。
【0063】
実施例3
20%ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプN303、10%ケブラー(Kevlar)(登録商標)29、60%モダクリルおよび10%ナイロンの密着混紡のリング精紡糸の縦糸と横糸の両方を有するようにして、熱保護耐久性布帛を作製した。ノーメックス(Nomex)(登録商標)タイプN303は、結晶化度が33〜37%の92%ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)、5%ケブラー(Kevlar)(登録商標)29および3%P140(帯電防止のために炭素で塗膜したナイロン)、モダクリルは、アンチモン2%のACN/ポリ塩化ビニリデンコポリマー、ケブラー(Kevlar)(登録商標)29は、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(PPD−T)であり、用いたナイロンは、ポリヘキサメチレンジアジパミドであった。
【0064】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)40〜70重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)結晶化度が少なくとも20%の10〜40重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなり、前記パーセンテージは成分(a)、(b)および(c)を基準とするものであるアークおよび火炎保護に用いる糸。
【請求項2】
(a)55〜65重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜15重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)20〜35重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなる請求項1に記載の糸。
【請求項3】
(d)耐摩耗性繊維をさらに含有する請求項1に記載の糸。
【請求項4】
前記耐摩耗性繊維が、成分(a)、(b)、(c)および(d)を基準として2〜15重量パーセントの量で存在している請求項3に記載の糸。
【請求項5】
前記耐摩耗性繊維が、ナイロンである請求項3に記載の糸。
【請求項6】
帯電防止成分をさらに含有する請求項1に記載の糸。
【請求項7】
前記帯電防止成分が、糸全体の1〜5重量パーセントの量で存在している請求項6に記載の糸。
【請求項8】
前記帯電防止成分が、炭素または金属繊維を含んでなる請求項6に記載の糸。
【請求項9】
前記帯電防止成分が、炭素を含んでなる請求項8に記載の糸。
【請求項10】
前記m−アラミド繊維が、20〜50%の範囲の結晶化度を有している請求項1に記載の糸。
【請求項11】
10回の洗浄サイクル後の収縮率が約0%である請求項1に記載の糸。
【請求項12】
糸を含んでなるアークおよび火炎保護に用いるのに好適な布帛であって、さらに該糸が
(a)40〜70重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)結晶化度が少なくとも20%の10〜40重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなり、前記パーセンテージは成分(a)、(b)および(c)を基準とするものである布帛。
【請求項13】
前記糸が、
(a)55〜65重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜15重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)20〜35重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなる請求項12に記載の布帛。
【請求項14】
(d)耐摩耗性繊維をさらに含んでなる請求項12に記載の布帛。
【請求項15】
前記耐摩耗性繊維が、成分(a)、(b)、(c)および(d)を基準として2〜15重量パーセントの量で存在している請求項14に記載の布帛。
【請求項16】
前記耐摩耗性繊維が、ナイロンである請求項14に記載の布帛。
【請求項17】
帯電防止成分をさらに含有する請求項12に記載の布帛。
【請求項18】
ASTM D−6413−99に従った炭化長が、6インチ未満である請求項12に記載の布帛。
【請求項19】
ASTM F−1959−99による耐アーク性が、opsy当たり1平方センチメートル当たり少なくとも0.8カロリーである請求項12記載の布帛。
【請求項20】
前記耐アーク性が、opsy当たり1平方センチメートル当たり少なくとも1.2カロリーである請求項19記載の布帛。
【請求項21】
前記m−アラミド繊維が、20〜50%の範囲の結晶化度を有している請求項12に記載の布帛。
【請求項22】
10回の洗浄サイクル後の収縮率が0%である請求項1に記載の糸。
【請求項23】
(a)40〜70重量パーセントのモダクリル繊維と、
(b)5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維と、
(c)結晶化度が少なくとも20%の10〜40重量パーセントのm−アラミド繊維と
を含んでなり、前記パーセンテージは成分(a)、(b)および(c)を基準とするものであるアークおよび火炎保護に用いるのに好適な衣類。

【公表番号】特表2009−503278(P2009−503278A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524144(P2008−524144)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/029178
【国際公開番号】WO2007/014291
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】