説明

アーク式イオンプレーティング装置用蒸発源

【課題】処理物である基板の表面に、密着性の良好な、高品質で均一な硬質膜を量産的に形成するように、ターゲットのエロージョン領域を広げることでターゲットの寿命を向上させるアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源を提供。
【解決手段】ターゲット10裏面に取付けた金属プレート16の裏面中心17に磁界を形成するための第1マグネット20を1個配置し、金属プレート16の裏面の外周部18に第1マグネット20とは磁界の反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネット21を均等間隔で配置し、さらに第2マグネット21と同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイル30を隣接させて配置し、かつ電磁コイル30へのコイル電流を可変にしてターゲット10表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク式イオンプレーティング法によって、ドリル・エンドミル等の切削工具、金型、パンチ等の成形用工具、機械部品等の耐摩耗部品の基材の表面に密着性の優れた、高品質の被膜を形成するアーク式イオンプレーティング装置用蒸発源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来TiNなどのセラミック硬質膜を工具などの基材の表面に形成する場合、イオンプレーティング法が一般的に用いられている。特にアーク法イオンプレーティングは、耐熱性に優れるTiAlNなどの多元素の成膜が可能であるため、最近ではドライの表面処理加工技術として広く普及している。図8に示すように、従来の一般的なアーク式イオンプレーティング装置は、真空排気ポンプにつながる真空排気4と真空に排気される真空容器1と、この真空容器1の中に設けられており、処理物である基材9を装着するための回転式装着用治具8と、この基材9に向かって真空容器1の壁面に取り付けられたアーク式蒸発源6が装備されている。また真空容器1には不活性ガスと反応ガスは導入口3から導入される。アーク式蒸発源6には、陰極板である元素の金属板であるターゲット10が取り付けられており、金属板であるターゲットの種類は所望の被膜に応じて選択される。図示していないトリガー電極によりアーク電源13を用い、ターゲット10に負のバイアス電圧を、真空容器1内周に正電圧が印加され、アーク放電を生じることによりターゲット10は局部的に溶解されて、陰極物質を蒸発させる。このときターゲットの近傍にはイオン化した蒸発物質を含むアーク放電部プラズマ11が形成される。基材9は回転式装着治具8に建てられた軸に装着し、直流のバイアス電源12を用いて負のバイアス電源が印加され、真空容器1内周に正電圧が印加される。このバイアス電源は数十Vから数百Vの大きさである。
【0003】
具体的なアーク方式によるTiNの成膜工程を以下に述べる。ターゲット10にはTi金属板を用いる。真空容器1内を真空に排気した後、真空容器内に導入口3から反応性のガスである窒素ガスを導入して、基材9には負のバイアス電圧を印加した状態で、アーク式蒸発源6に取り付けられたターゲット表面に、トリガー電極によりアーク放電を発生、継続させる。ターゲットの前面には溶解金属で生じたアーク放電プラズマ11が発生し、Ti(チタン)の蒸発金属と反応ガス(窒素ガス)のイオン化した状態ができる。そして負のバイアスに印加された基材9にはイオン化した金属蒸発物質と反応ガスイオンが反応してTiN被膜が形成される。
【特許文献1】特開平11−36063号公報
【特許文献2】特開2003−34858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアーク方式イオンプレーティング装置用蒸発源6の詳細について説明する。ターゲット10表面に生じたアーク放電プラズマ11はスポット状にターゲット9表面を移動してターゲット金属を溶融させるが、このときのアーク放電プラズマ11の形態はターゲット9表面の磁界の強さとその分布により決まる。例えばターゲットの背面に電磁コイルなどで10ガウス程度の弱い磁界をターゲット表面に生じさせた場合、アークスポットはランダムにターゲット表面を広範囲に移動(ランダムアーク)して金属を溶融蒸発するが、低いエネルギー密度で移動するため蒸発金属はイオン化が促進されず、基材に成膜されるコーティング被膜は未反応の金属を含んだ、結晶性の悪いものとなる。一方、ターゲット背面に強力なマグネットを配置して、ターゲット表面に 200ガウス程度の強力な磁界を生じさせてアーク放電プラズマを形成するとアークスポットのエネルギー密度は高くイオン化の促進された溶融金属が蒸発する。そしてコーティング被膜も結晶性の良い緻密な膜を得ることができる。しかしながらアークスポットは外周線上に高速回転移動し、狭い領域のみで保持されて(ステアドアーク)、ターゲット背面に強力なマグネットを配置したときは、図7に示すようにターゲット10上のアークスポットの移動範囲は局部的で、ターゲット10のエロージョン領域15も局部的に進み、ターゲット10の寿命は非常に短いものとなる。例えば特許文献1ではターゲットから飛散するドロップレットを低減することができ、かつターゲット寿命の長いアーク式蒸発源を開示しているが、このアーク式蒸発源の磁気形成機構は強力な電磁コイルを用いるものであり、磁力線の方向を、蒸発面に立てた法線と磁力線の方向とがなす角度が0度から30度に規定することでターゲット(陰極)全体を消耗させるとしているが、固定された強力磁場でアークスポットは捕捉された状態になるため全面的な消耗は期待できない。また特許文献2では、磁界形成手段として磁石をターゲットの蒸発面を問い囲むように配置しており、磁石の替わりにコイルとコイル電源を備えた電磁石でも良いとしているが、磁界を固定している点では前者と同じであり、共に図7に示すようにターゲットのエロージョン領域は局部的に進むため、ターゲット寿命は非常に短いものとなる。あるいわ、コイル電流を固定しないで、変動させて磁界を変化させることもできるが、ターゲットを囲むように配置したコイル磁界だけで、強力マグネットで得られる磁力と同じ磁力をターゲット表面に形成するには、かなり大きなコイルとコイル電源が必要となるため、非常に大がかりな装備となる。
【0005】
本発明の課題は、アーク式イオンプレーティング装置において、処理物である基板の表面に、密着性の良好な、高品質で均一な硬質膜を量産的に形成するように、ターゲットのエロージョン領域を広げることでターゲットの寿命を向上させ、かつ蒸発源の構成を簡素にし、製作も安価にできるアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明の第1発明は、真空容器内に処理物である基材に向けて取り付けられ陰極物質であるターゲットを有するアーク放電プラズマを生成するアーク式蒸発源において、前記ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、前記金属プレートの裏面の外周部に前記第1マグネットとは磁界が反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネットを均等間隔で配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性が反転されるようにし、さらに前記第2マグネットと同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、前記電磁コイルが発生させる磁界の極性は前記第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ前記電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことを特徴とするアーク方式イオンプレーティング装置用蒸発源によって上述の本発明の課題を解決した。
本発明の第2発明は、真空容器内に処理物である基材に向けて取り付けられ陰極物質であるターゲットを有するアーク放電プラズマを生成するアーク式蒸発源において、前記ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、前記金属プレートの裏面の外周部に前記第1マグネットとは磁界が反極性かつほぼ同倍の磁力を有する環状シート形の第3マグネットを配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性を反転させるようにし、さらに前記第3マグネットと同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、前記電磁コイルが発生させる磁界の極性は前記第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ前記電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことを特徴とするアーク方式イオンプレーティング装置用蒸発源によって上述の本発明の課題を解決した。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、金属プレートの裏面の外周部に、第1マグネットとは磁界が反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネットを均等間隔で配置するか、又は、金属プレートの裏面の外周部に第1マグネットとは磁界が反極性かつほぼ同倍の磁力を有する環状シート形の第3マグネットを配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性を反転させるようにし、さらに第2マグネット又は第3マグネットと、同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、電磁コイルが発生させる磁界の極性は第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことにより、エネルギー密度の高いアーク放電プラズマを、ターゲット表面に生じる磁界を制御することで、ターゲット表面のアークスポットを広範囲にわたって形成させ、エロージョン領域を拡大させて、使用ターゲットの歩留まりを向上させ、処理物である基板の表面に密着性の良好な、高品質で均一な硬質膜を量産的に形成させて、ターゲットのエロージョン領域を広げることでターゲットの寿命を向上させ、かつ蒸発源の構成を簡素にし、製作も安価にできるアーク式イオンプレーティング装置用アーク式蒸発源を提供するものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1(a)は本発明の第1の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置用蒸発源の概略断面ブロック図、(b)は(a)のB方向から見た右側面図、図2(a)は本発明の第2の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置の蒸発源の概略断面ブロック図、(b)は(a)のB方向から見た右側面図、図3(a)は図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの磁力線を示す説明図、(b)は(a)のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの組み合わせによるターゲット上のアークスポットの移動範囲とターゲットのエロージョン領域を示す説明図、(c)は(b)のターゲットの上面図、図4は図3のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの磁力線の向きとターゲット上のアークスポットの移動方向を示す説明図、図5は図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルによる磁束密度をターゲット中心からの距離に対応した分布で示すグラフ、図6は図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットのみの磁力線を示す説明図である。
【0009】
図1、図3(a)に示す、本発明を実施するための第1の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源は、例えば図8に示したようなアーク式イオンプレーティング装置の真空容器1内に処理物である基材9に向けて取り付けられた陰極物質であるターゲット10を有するアーク放電プラズマ11を生成するアーク式蒸発源6として使用され、ターゲット10裏面に取付けた金属プレート16の裏面中心17に磁界を形成するための第1マグネット20を1個配置し、金属プレート16の裏面の外周部18に第1マグネット20とは磁界が反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネット21を均等間隔で配置し、ターゲット10表面の中心 10cから外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面 10a上で極性が反転されるようにし、さらに第2マグネット21と同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイル30を隣接させて配置し、電磁コイル30が発生させる磁界の極性は第1マグネット20によるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ図示しない装置により電磁コイル30へのコイル電流を可変にしてターゲット10表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにした。第2マグネット21の分割配置は、図1では8分割の例を示しているが、6分割以上であるならばターゲット円周上に均等なエロージョンが形成される(図3(c))。
【0010】
図2に示す、本発明を実施するための第2の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源は、図1に示す6個以上の第2マグネット21を均等間隔で配置する替わりに、金属プレート16の裏面の外周部17に第1マグネット20とは磁界が反極性かつほぼ同倍の磁力を有する連続的な環状シート形の第3マグネット23を配置したものであるが、図1、図3(a)の第1の実施形態のアーク式蒸発源と同様な効果を奏する。
【実施例1】
【0011】
図1、図3(a)に示す、本発明の第1の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源として、直径 100mmのターゲット10裏面に取付けた金属プレート16の裏面中心17に磁界を形成するための第1マグネット20である、4000〜5000ガウスを有するネオ磁鉄ボロン製の強力マグネット20を1個配置し、磁界の向きはS極をターゲット10側に向け、ターゲット表面が50〜100 ガウスになるように、第1マグネット 20 とターゲット10の距離を変えることで第1マグネットの強さを調整する。またターゲット裏面の金属プレート16の外周部18には、第1マグネット20の極性と反対の向きに、第1マグネット20の磁束密度の 0.5〜1.0 の第2マグネット21を円周上に8分割に等配置して並べる。このとき第2マグネット21を円周上に配置するマグネットの位置は、ターゲット表面で図5に示すような磁束密度の分布、すなわち中心の磁界は50〜200 ガウスであり、中心から外周に向かって垂直磁界(磁束密度)が減少し、ターゲット外周面 10a上で極性が反転するように配置する。第2マグネット21は8分割して均等に配置する。
【0012】
次に環状電磁コイル30の配置について説明する。環状電磁コイル30は第2マグネット21と同軸かつほぼ同じ外径の隣接させて配置する。環状電磁コイル30によって発生させる磁界の極性は、中心に配置した第1マグネット20によるターゲット表面磁界の極性と同じ方向(この場合はターゲット側がS極)になるようにする。このように、蒸発源であるターゲット10と、アークスポット11を発生させるための第1、第2マグネット 20、21と、電流の制御が可能な環状電磁コイル30の組み合わせで、図3(a)に示すように、電磁コイル30へのコイル電流を可変にしてターゲット10表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲット表面の磁界の分布を自在に変えることができ、ターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにした。アーク放電プラズマのアークスポットは、ターゲット表面で磁力線に沿って電子が絡み、ターゲット表面上で図3(b)のアークスポットの移動範囲40とターゲットのエロージョン領域 150を示す説明図に示すアークスポットを形成する。図5に示すように、磁界の分布は電磁コイルで生じた磁界で20ガウス強くなり、分布はY軸方向により立った状態になる。図3(a)は磁力線の重なり状態を示すが、磁力線の重なりで磁力線の強さと向きが変わり、その結果アークスポットも外周方向に広がってエロージョン領域が拡大する。コイル電流を強くすると磁力線が強くなり、ターゲット外側にターゲットスポットが広がる。このように電磁コイルによる磁力線の変化でアークスポットが移動する特性を利用してコイル電流を定値の幅で変化させることでエロージョン領域を幅広くとることができる。コイル電流を定電流で行うばあいは、処理バッチ毎にコイル電流値を少しずつ変えることでも同じ効果を得る(エロージョン領域を拡大する)ことができる。また図4に示すようにアークスポットの移動方向41はターゲット10表面において磁力線31が傾く方向に移動しやすい性質があることが知られている。図3(b)(c)に示すように、アークスポットの移動範囲40がターゲット金属が溶融蒸発するのエロージョン領域 150となる。図6は図1のアーク式蒸発源の第1マグネット20及び第2マグネット21のみの磁界とエロージョンの様子を図3に示す説明図である。アークスポットの移動範囲40はターゲット表面のアークスポットの移動点を中心に狭い幅でエロージョン領域15が狭く減っているのがわかる。このように第1、第2マグネットを固定して配置しただけではアークスポットの移動は狭い領域で固定されるため、同じ場所にだけしかアークスポットが発生しないので、図7に示すような、局所的にエロージョン領域15が深く掘れることになる。ターゲットの寿命はターゲットの厚さに規定されるので、局所的にエロージョン領域15が深く掘れたターゲットは未使用の領域を多く残したまま(歩留まりの悪い状態で)早期に寿命となる。
【0013】
本発明の実施形態では、ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、金属プレートの裏面の外周部に、第1マグネットとは磁界の反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネットを均等間隔で配置するか、又は、前記金属プレートの裏面の外周部に前記第1マグネットとは磁界の反極性かつほぼ同倍の磁力を有する環状シート形の第3マグネットを配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性を反転させるようにし、さらに第2マグネット又は第3マグネットと、同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、電磁コイルが発生させる磁界の極性は第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことにより、エネルギー密度の高いアーク放電プラズマを、ターゲット表面に生じる磁界を制御することで、アーク放電スポットは、極性の反転部を中心にして連続的に移動し、その軌跡の金属表面で局所に高温部が発生し、ターゲット表面のアークスポットを広範囲にわたって形成させ、エロージョン領域を拡大させて、使用ターゲットの歩留まりを向上させ、処理物である基板の表面に密着性の良好な、高品質で均一な硬質膜を量産的に形成させて、ターゲットのエロージョン領域を広げることでターゲットの寿命を向上させ、かつ蒸発源の構成を簡素にし、製作も安価にできるアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源を提供するものとなった。ターゲット表面の中心の垂直方向の磁界は50〜200 ガウスであり、中心から外周に向かって磁界が減少し、ターゲット面上で極性を反転させた。本発明の構成で使用するマグネットは、特許文献1、2のような特定の用途に合った高価な電磁コイルや特別な仕様のマグネットは必要でなく、市販の強力マグネットと比較的簡単な電磁コイルを組み合わせるだけで構成できるため、アーク式イオンプレーティング装置用蒸発源はとしては非常に安価に作ることができる。また特許文献1で述べられているドロップレットについても高密度のプラズマで、ターゲットである陰極物質の蒸発物を効率よく分解するため、飛散するドロップレットも非常に少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源の概略断面ブロック図、(b)は(a)のB方向から見た右側面図である。
【図2】(a)は本発明の第2の実施形態のアーク式イオンプレーティング装置のアーク式蒸発源の概略断面ブロック図、(b)は(a)のB方向から見た右側面図である。
【図3】(a)は図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの磁力線を示す説明図、(b)は(a)のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの組み合わせによるターゲット上のアークスポットの移動範囲とターゲットのエロージョン領域を示す説明図、(c)は(b)のターゲットの上面図である。
【図4】図3のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルの磁力線の向きとターゲット上のアークスポットの移動方向を示す説明図である。
【図5】図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットと電磁コイルによる磁束密度をターゲット中心からの距離に対応した分布で示すグラフである。
【図6】図1のアーク式蒸発源の第1、第2マグネットのみの磁力線を示す説明図。
【図7】ターゲット背面に強力なマグネットを配置したときの、アークスポットの移動範囲と、ターゲットのエロージョン領域を示す(a)はターゲットの断面図、(b)はターゲットの上面図である。
【図8】従来のアーク式イオンプレーティング装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0015】
1:真空容器 6:アーク式蒸発源 9:基材 10:ターゲット
11:アーク放電プラズマ 16:金属プレート 17:金属プレートの裏面中心
18:金属プレートの裏面の外周部 20:第1マグネット
21:第2マグネット 23:第3マグネット 30:環状電磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に処理物である基材に向けて取り付けられ陰極物質であるターゲットを有するアーク放電プラズマを生成するアーク式蒸発源において、前記ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、前記金属プレートの裏面の外周部に前記第1マグネットとは磁界が反極性かつ 0.5乃至1倍の磁力を有する6個以上の第2マグネットを均等間隔で配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性が反転されるようにし、さらに前記第2マグネットと同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、前記電磁コイルが発生させる磁界の極性は前記第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ前記電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことを特徴とするアーク方式イオンプレーティング装置用蒸発源。
【請求項2】
真空容器内に、処理物である基材に向けて取り付けられた陰極物質であるターゲット、を有するアーク放電プラズマを生成するアーク式蒸発源において、前記ターゲット裏面に取付けた金属プレートの裏面中心に磁界を形成するための第1マグネットを1個配置し、前記金属プレートの裏面の外周部に前記第1マグネットとは磁界が反極性かつほぼ同倍の磁力を有する環状シート形の第3マグネットを配置し、ターゲット表面の中心から外周に向かって磁束密度が減少してゆき、ターゲット外周面上で極性を反転させるようにし、さらに前記第3マグネットと同軸かつほぼ同じ外径の環状電磁コイルを隣接させて配置し、前記電磁コイルが発生させる磁界の極性は前記第1マグネットによるターゲット表面磁界の極性と同じ方向とし、かつ前記電磁コイルへのコイル電流を可変にしてターゲット表面に生じるアーク放電スポットを制御してターゲットの金属溶融領域を拡大させるようにしたことを特徴とするアーク方式イオンプレーティング装置用蒸発源。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアーク式イオンプレーティング装置用蒸発源を搭載したことを特徴とするアーク式イオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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