説明

アーク溶接の磁場強度調整方法

【課題】磁場を利用したアーク溶接において、コストの増加や装置の大型化を回避しつつ、溶接部の磁場強度の調整が可能な技術を提供すること。
【解決手段】突き合わせたワークWをプラズマトーチ10により溶接するプラズマアーク溶接において、プラズマトーチ10が進行する接合方向に対して直交する方向の磁場BをワークWの内部に生成し、プラズマトーチ10とワークWとの間に流れる電流Iと、磁場Bとに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側をプラズマトーチ10の進行方向前方に曲げてプラズマアーク溶接する際に、溶接部の磁場強度を調整するプラズマアーク溶接の磁場強度調整方法であって、プラズマトーチ10とワークWの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、溶接部の磁場強度を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接の磁場強度調整方法に関する。詳しくは、プラズマアーク溶接の磁場強度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アーク溶接が知られている。アーク溶接では、アークトーチの送り速度が速くなると、アークトーチの進行方向後方にアークが流れ、ワークに熱が入らない現象が生じる。この場合には、ワークが十分に予熱されないまま溶接が行われ、溶接不具合の原因となる。
【0003】
上記の現象を回避するため、例えば図14及び図15に示すように、アークトーチ100のノズルの先端からワークWに延びるアークAに対して、接合方向に直交する方向の磁場(図15にBで示す)を作用させることで生ずるローレンツ力F(図15にFで示す)を用いて、アークAをアークトーチ100の進行方向前方に振らせる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−206566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、進行方向前方に振られるアークAの量は、アークトーチ100の送り速度に応じて変化する。このため、ワークWを十分に予熱するためには、アークトーチ100の送り速度に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。例えばアークトーチ100の送り速度を速くした場合には、進行方向前方に振るアークAの量が減少するため、溶接部の磁場強度を上げる必要がある。
【0006】
また、板厚の異なるワーク同士を突き合わせ溶接する際には、その板厚差に応じて、ワークWの突き合わせ部の表面に漏れる磁束が変化し、進行方向前方に振られるアークAの量が変化する。このため、板厚差に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。例えば板厚差を小さくした場合には、突き合わせ部の表面に漏れる磁束が減少するため、溶接部の磁場強度を上げる必要がある。
【0007】
また、ワークWの板厚に応じて、溶融に必要な溶接電流は異なり、溶接電流の大きさによって進行方向前方に振られるアークAの量が変化する。このため、ワークWの板厚に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。例えばワークWの板厚を厚くした場合には、溶接電流を大きくするため、溶接部の磁場強度を上げる必要がある。
【0008】
磁場強度を調整する方法としては、電磁石、電源及びコントローラ等を設け、励磁電流を調整する方法が一般的である。しかしながら、この方法では、コストが増加するうえ、装置が大型化するという問題があった。特に、これらをアークトーチに付随させた場合には、加工部が大型化して小回りが利かなくなるという問題があった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁場を利用したアーク溶接において、コストの増加や装置の大型化を回避しつつ、溶接部の磁場強度の調整が可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明では、突き合わせたワーク(例えば、後述のワークW)をアークトーチ(例えば、後述のプラズマトーチ10,40)により溶接するアーク溶接(例えば、後述のプラズマアーク溶接装置1,2によるプラズマアーク溶接)において、前記アークトーチが進行する接合方向に対して直交する方向の磁場(例えば、後述の磁場B)を前記ワークの内部に生成し、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流(例えば、後述の電流I)と、前記磁場とに起因したローレンツ力(例えば、後述のローレンツ力F)により、アーク(例えば、後述のアークA)の先端側を前記アークトーチの進行方向前方に曲げてアーク溶接する際に、溶接部の磁場強度を調整する方法を提供する。本発明に係るアーク溶接の磁場強度調整方法は、前記アークトーチと前記ワークの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、前記溶接部の磁場強度を調整することを特徴とする。
【0011】
本発明では、磁場を利用したアーク溶接において、アークトーチとワークの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、溶接部の磁場強度を調整する。すなわち、元磁束の調整は行わないため、電磁石、電源及びコントローラを設ける必要がなく、これらの代わりに小さくて安価な永久磁石を用いることができる。従って、本発明によれば、コストの増加や装置の大型化を回避しつつ、アークトーチとワークの突き合わせ部との相対位置を変更するのみで、容易にアーク溶接部の磁場強度を調整できる。
また、アークトーチとワークの突き合わせ部との相対位置を変更するのみであるため、ワークの板厚や板組み、溶接速度等に応じて、溶接部の磁場強度を容易に調整でき、良好な溶接が可能となる。
また、本発明に係る磁場強度調整方法は、ビード幅が広く板幅方向におけるアークトーチの狙い位置に裕度があるプラズマアーク溶接に対して、特に好ましく適用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁場を利用したアーク溶接において、コストの増加や装置の大型化を回避しつつ、溶接部の磁場強度の調整が可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図3】図2に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図4】厚板と薄板とを突き合わせたワークの板幅方向及び接合方向の磁束密度を示す図である。
【図5】厚板と薄板とを突き合わせたワークの接合方向中央部における板幅方向の磁束密度を示す図である。
【図6】板幅方向におけるプラズマトーチの狙い位置を示す図である。
【図7】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図8】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの断面図である。
【図9】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの第1ノズルの斜視図である。
【図10】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための斜視図である。
【図11】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための平面図である。
【図12】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図13】図12に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図14】従来のプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図15】図14に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の磁場強度調整方法を適用した第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置1の斜視図である。
プラズマアーク溶接装置1は、ワークWを突き合わせ溶接することで、テーラードブランク材を形成する。図1では、板厚が比較的薄いワークW(1)と、ワークW(1)よりも板厚が厚いワークW(2)との突き合わせ溶接を示している。
【0016】
図1に示すように、プラズマアーク溶接装置1は、アークトーチとしてのプラズマトーチ10と、磁場を生成する永久磁石20S,20Nと、支持フレーム30と、を備える。
【0017】
図2は、プラズマアーク溶接装置1を概略的に示す正面図である。
図2に示すように、プラズマトーチ10は、棒状の電極11と、この電極11を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル12と、この第1ノズル12を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル14と、を備える。
【0018】
第1ノズル12の先端には、円形状の第1噴出口13が形成されており、この第1噴出口13を通して、プラズマガスが噴出する。
第2ノズル14の先端には、円環形状の第2噴出口15が形成されており、この第2噴出口15を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル14の第2噴出口15は、第1ノズル12の第1噴出口13よりも、電極11の軸方向の先端側に位置している。
【0019】
図1に戻って、永久磁石20S,20Nは、アークAの先端側をプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げる磁場Bを、ワークWの内部に生成する。
永久磁石20S,20NによってワークWの内部に生成する磁場Bは、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に対して直交する方向の磁場である。プラズマアーク溶接装置1の右側面図である図3に示すように、磁場Bと、プラズマトーチ10とワークWとの間に流れる電流Iとに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側はプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0020】
図1に戻って、永久磁石20S,20Nは、溶接部の上方に位置するプラズマトーチ10を中心として、プラズマトーチ10を囲むように、平面視で前後、左右に配置される。
すなわち、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)前方に向かって突き合わせ部の一方側(例えば左側)には、N極の永久磁石20Nが接合方向の前後に2つ配置される。
プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に向かって突き合わせ部の他方側(例えば右側)には、S極の永久磁石20Sが接合方向の前後に2つ配置される。
【0021】
接合方向前方の永久磁石20Nと永久磁石20Sは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向前方の永久磁石20Nから永久磁石20Sへ向かう磁場Bの方向は、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
同様に、接合方向後方の永久磁石20Nと永久磁石20Sは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向後方の永久磁石20Nから永久磁石20Sへ向かう磁場Bの方向は、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
【0022】
支持フレーム30は、ワークWの上面を保持する一対のクランプ31を備える。一対のクランプ31はそれぞれ、突き合わせ部側に、接合方向に沿って延設された貫通溝33を備える。貫通溝33は、円柱状の永久磁石20S,20Nの径よりも大きい幅で形成されている。
支持フレーム30は、永久磁石20S,20N及びこれらの中心に位置するプラズマトーチ10を支持する。
【0023】
プラズマトーチ10は、その下端から延びるアークAが、ワークWの突き合わせ部を溶接可能な所定の高さに位置するように、支持フレーム30に支持される。
永久磁石20S,20Nはそれぞれ、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるように、支持フレーム30に支持される。
【0024】
永久磁石20S,20Nとプラズマトーチ10との距離、及び永久磁石20S,20NとワークWとの間隔は、アークAの基端側にまで磁場Bが作用してアークAが基端から進行方向前方に曲がるのを回避しつつ、ワークWを十分に磁化して突き合わせ部の表面に大きな漏れ磁場が生成するように、それぞれ設定される。
【0025】
なお、支持フレーム30は、プラズマトーチ10を上昇又は下降させる図示しない第1昇降機構と、プラズマトーチ10を水平移動させる図示しない第1移動機構と、を備える。
また、支持フレーム30は、永久磁石20S,20Nを上昇又は下降させる図示しない第2昇降機構と、永久磁石20S,20Nを水平移動させる図示しない第2移動機構と、を備える。
【0026】
ここで、プラズマアーク溶接装置1によるプラズマアーク溶接において、溶接部の磁場強度を調整する方法について、図4〜図6を参照しながら説明する。なお、本明細書において溶接部の磁場強度とは、プラズマトーチ10の真下でアークAに対向する部分の磁場強度を意味する。
【0027】
図4は、薄板のワークW(1)と厚板のワークW(2)とを突き合わせたワークWにおいて、接合方向に対して直交する方向の磁場BをワークWの内部に生成させたときの、接合方向に直交する板幅方向と接合方向の磁束密度(ワークの上面から2mmの高さ位置における磁束密度)を示す図である。
なお、図4では、突き合わせ部を板幅方向の基準点(0)とし、厚板側における基準点からの距離をプラスで表し、薄板側における基準点からの距離をマイナスで表している。また、接合方向の中央部を接合方向の基準点(0)とし、始端側における基準点からの距離をプラスで表し、終端側における基準点からの距離をマイナスで表している。
【0028】
図4に示すように、板幅方向では、突き合わせ部が最も磁束密度が高く、突き合わせ部から離れるに従って磁束密度が低下する。これは、板厚差によって、厚板側の突き合わせ面から大きな漏れ磁場が生じているためである。これに対して、接合方向では、磁束密度はほぼ一定である。
また、図5は、接合方向の中央部における板幅方向の磁束密度を示す図である。この図5からも明らかなように、突き合わせ部が最も磁束密度が高く、突き合わせ部から離れるに従って磁束密度が低下する。
【0029】
このように、薄板のワークW(1)と厚板のワークW(2)とを突き合わせたワークWでは、接合方向に対して直交する方向の磁場BをワークWの内部に生成させた場合に、板幅方向で磁束密度に差が生じる特性がある。この特性は、板厚差の無い突き合わせワークにおいても同様に確認されるが、板厚差のある突き合わせワークの方がより顕著である。
そこで、本実施形態の磁場強度調整方法は、この特性を利用して、必要な磁束密度に応じて板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を調整する。すなわち、プラズマトーチ10とワークWの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、溶接部の磁場強度を調整する。
【0030】
本実施形態の磁場強度調整方法について、具体例を挙げて詳しく説明する。
例えば、プラズマトーチ10の送り速度(溶接速度)に応じて、進行方向前方に振られるアークAの量は変化する。このため、ワークWを十分に予熱するためには、プラズマトーチ10の送り速度に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。
【0031】
そこで、本実施形態の磁場強度調整方法では、プラズマトーチ10の送り速度を速くした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部により近く磁束密度の高い位置に変更する。例えば図6に示すように、通常、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置は、突き合わせ部から厚板側に0.5mm離れた位置(図6のP2)であるところ、送り速度を20%速くした場合には、最も磁束密度の高い突き合わせ部(図6のP1)に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が上がるため、プラズマトーチ10の送り速度を速くすることによって進行方向前方に振られるアークAの量が減少するのを抑制できる。
【0032】
一方、プラズマトーチ10の送り速度を遅くした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部からより離れた磁束密度の低い位置に変更する。例えば図6に示すように、送り速度を10%遅くした場合には、通常の位置(図6のP2)よりも厚板側に0.5mm離れた位置(図6のP3)に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が下がるため、プラズマトーチ10の送り速度を遅くすることによって進行方向前方に振られるアークAの量が過剰となるのを抑制できる。
【0033】
また、例えば板厚の異なるワーク同士を突き合わせ溶接する際には、その板厚差に応じて、ワークWの表面に漏れる磁束が変化し、進行方向前方に振られるアークAの量は変化する。このため、板厚差に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。
【0034】
そこで、本実施形態の磁場強度調整方法では、板厚差を小さくした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部により近く磁束密度の高い位置に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が上がるため、板厚差を小さくしたことによって進行方向前方に振られるアークAの量が減少するのを抑制できる。
【0035】
一方、板厚差を大きくした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部からより離れた磁束密度の低い位置に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が下がるため、板厚差を大きくしたことによって進行方向前方に振られるアークAの量が過剰となるのを抑制できる。
【0036】
また、例えばワークWの板厚に応じて、溶融に必要な溶接電流は異なり、溶接電流の大きさによって進行方向前方に振られるアークAの量は変化する。このため、ワークWの板厚に応じて、溶接部の磁場強度を調整する必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態の磁場強度調整方法では、ワークWの板厚を厚くした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部により近く磁束密度の高い位置に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が上がるため、板厚を厚くしたことによって溶接電流が大きくなり進行方向前方に振られるアークAの量が減少するのを抑制できる。
【0038】
一方、ワークWの板厚を薄くした場合には、板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、突き合わせ部からより離れた磁束密度の低い位置に変更する。これにより、溶接部の磁場強度が下がるため、板厚が薄いことによって溶接電流が小さくなり進行方向前方に振られるアークAの量が過剰となるのを抑制できる。
【0039】
本実施形態の磁場強度調整方法を適用したプラズマアーク溶接装置1の動作について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0040】
先ず、本実施形態の磁場強度調整方法に従って、ワークWの板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置を、ワークWの板厚、板厚差、及び溶接速度等に応じて決定する。決定後、支持フレーム30に支持されたプラズマトーチ10の真下に、決定した狙い位置が配置されるように、ワークWを一対のクランプ31でクランプする。
【0041】
次いで、第2移動機構及び第2昇降機構により、永久磁石20S,20Nを溶接始端に対応した位置に配置する。このとき、永久磁石20S,20Nは、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるようにして配置される。これにより、N極の永久磁石20Nから、ワークWを通ってS極の永久磁石20Sへ向かう磁場Bが形成されるとともに、溶接部の磁場強度が所望の強度に設定される。
【0042】
次いで、第1移動機構及び第1昇降機構により、溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ10を配置する。
【0043】
次いで、第1ノズル12の第1噴出口13からプラズマガスを噴出させつつ、電極11とワークWとの間に電圧を印加して、アークAを発生させる。また、第2ノズル14の第2噴出口15から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。
【0044】
すると、アークAを流れる電流Iの方向(図1参照)と、ワークWの突き合わせ部から漏れる磁場Bとに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側がプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0045】
この状態で、第1移動機構により、プラズマトーチ10を接合方向に水平移動させる。また、第2移動機構により、永久磁石20S,20Nを貫通溝33に沿って接合方向に水平移動させる。これにより、十分な溶け込み深さが確保された溶融池Pが形成されて、良好な溶接が行われる。
【0046】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
(1)ワークWの内部に磁場Bを生成することにより、磁場Bが最も強い箇所はワークWの内部であり、ワークWから離れるに従って磁場Bは弱くなる。従って、アークAを曲げるローレンツ力Fは、ワークWに近いほど強く、プラズマトーチ10に近いほど弱くなる。このため、アークAの先端側のみをプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げることができる。
【0047】
(2)アークAの先端側のみをプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが基端から曲がってワークWから浮いてしまうことがなく、深い入熱領域が得られる。このため、十分な溶け込み深さを確保することができる。
【0048】
(3)アークAの先端側のみをプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げて、しかも十分な溶け込み深さを確保することができるため、進行方向前方に十分な入熱量を確保することができる。このため、溶接速度を向上させることができる。
【0049】
(4)アークAの先端側のみをプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが基端から曲がって、曲がったアークAがノズル自体を焼いてしまうことがなく、ノズルにダメージを及ぼさない。このため、ノズル先端部の消耗を低減することができる。
【0050】
(5)プラズマトーチ10とワークWの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、溶接部の磁場強度を調整できる。すなわち、元磁束の調整は行わないため、電磁石、電源及びコントローラを設ける必要がなく、小さくて安価な永久磁石20S,20Nを用いることができる。従って、コストの増加や装置の大型化を回避しつつ、プラズマトーチ10とワークWの突き合わせ部との相対位置を変更するのみで、容易に溶接部の磁場強度を調整できる。
【0051】
(6)また、プラズマトーチ10とワークWの突き合わせ部との相対位置を変更するのみであるため、ワークWの板厚や板組み、溶接速度等に応じて、溶接部の磁場強度を容易に調整でき、良好な溶接が可能となる。
【0052】
(7)また、プラズマアーク溶接装置1によるプラズマアーク溶接では、ビード幅が広く、ワークWの板幅方向におけるプラズマトーチ10の狙い位置に裕度があるため、本実施形態に係る磁場強度調整方法が特に好ましく適用される。
【0053】
<第2実施形態>
図7は、本発明の磁場強度調整方法を適用した第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置2の斜視図である。以下の説明において、第1実施形態と同様の部分については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
図7に示すように、プラズマアーク溶接装置2は、プラズマトーチ40の構成が第1実施形態のプラズマトーチ10と異なる以外は、同様の構成である。
【0055】
図8は、プラズマトーチ40の断面図である。
図8に示すように、プラズマトーチ40は、棒状の電極41と、この電極41を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル42と、この第1ノズル42を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル47と、を備える。
【0056】
第1ノズル42の先端には、円形状の第1噴出口43が形成されており、この第1噴出口43を通して、プラズマガスが噴出する。
この第1ノズル42は、筒状の内筒部44と、この内筒部44を囲んで設けられた外筒部45と、を備える。
【0057】
図9は、第1ノズル42の外筒部45の斜視図である。
外筒部45の先端部分は、先端に向かうに従って細くなる略円錐形状であり、この外筒部45の先端部分の外周面には、電極41の軸方向に対して傾斜した複数の溝部46が形成されている。この溝部46は、外筒部45の先端まで延びている。
【0058】
図8に戻って、第2ノズル47の先端には、円環形状の第2噴出口48が形成されており、この第2噴出口48を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル47の第2噴出口48は、電極41から離れる方向に向いている。また、第2ノズル47の第2噴出口48は、第1ノズル42の第1噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置している。
また、上述の第1ノズル42の溝部46は、第2ノズル47の第2噴出口48まで延びている。
【0059】
プラズマアーク溶接装置2によるプラズマアーク溶接では、第1実施形態と同様に、上述した磁場強度調整方法が適用される。
【0060】
上述した磁場強度調整方法を適用したプラズマアーク溶接装置1の動作について、図10〜図13を参照しながら説明する。
【0061】
先ず、上述した磁場強度調整方法に従って、ワークWの板幅方向におけるプラズマトーチ40の狙い位置を、ワークWの板厚、板厚差、及び溶接速度等に応じて決定する。決定後、支持フレーム30に支持されたプラズマトーチ40の真下に、決定した狙い位置が配置されるように、ワークWを一対のクランプ31でクランプする。
【0062】
次いで、第2移動機構及び第2昇降機構により、永久磁石20S,20Nを溶接始端に対応した位置に配置する。このとき、永久磁石20S,20Nは、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるようにして配置される。これにより、N極の永久磁石20Nから、ワークWを通ってS極の永久磁石20Sへ向かう磁場Bが形成されるとともに(図12参照)、溶接部の磁場強度が所望の強度に設定される。
【0063】
次いで、第1移動機構及び第1昇降機構により、溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ40を配置する。
【0064】
次いで、第1ノズル42の第1噴出口43からプラズマガスを噴出させつつ、電極41とワークWとの間に電圧を印加して、アークAを発生させる。また、第2ノズル47の第2噴出口48から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。
【0065】
すると、シールドガスは、複数の溝部46に沿って図10中白抜き矢印の方向に流れて、第2噴出口48から噴出する。この噴出したシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がりながら、アークAの表面に沿って螺旋状に流れて、溶融池Pの表面に対して、アークAを回転中心として回転する方向すなわち図10中黒矢印方向に、吹き付けられる。
具体的には、図11に示すように、ワークW(1)及びワークW(2)の8箇所にシールドガスが吹き付けられ、各箇所でのシールドガスの流れる方向は、図11中黒矢印で示すようになる。
【0066】
また、アークAを流れる電流Iの方向(図7参照)と、ワークWの突き合わせ部から漏れる磁場Bとに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側がプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0067】
この状態で、第1移動機構により、プラズマトーチ40を接合方向に水平移動させる。また、第2移動機構により、永久磁石20S,20Nを貫通溝33に沿って接合方向に水平移動させる。すると、十分な溶け込み深さが確保された溶融池Pが、図11に示すように、平面視でアークAの前方及び後方に向かって延びるように形成される。
【0068】
また、吹き付けるシールドガスにより、アークAの進行方向後方側の図11中破線で囲まれた領域の溶融金属が、厚板のワークW(2)から薄板のワークW(1)に向かって押されて移動する。これにより、この移動した溶融金属によって薄板のワークW(1)の母材の凹んだ部分が埋められながら、良好な溶接が行われる。
【0069】
本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、以下の効果が奏される。
(8)板厚差のあるワークW(1)とワークW(2)を溶接する場合に、螺旋状に流れるシールドガスを溶融池Pの表面に吹き付けて、アークAの進行方向後側の溶融金属を、薄板のワークW(1)に向かって移動させることができる。これにより、この移動した溶融金属により薄板のワークW(1)の母材の凹んだ部分を埋めることができる。その結果、薄板のワークW(1)の板厚がアンダカットにより薄くなるのを抑制して、溶接後のワークWの強度を確保できる。
【0070】
(9)第2ノズル47の第2噴出口48を電極41から離れる方向に向けたので、この第2ノズル47からシールドガスを噴出させると、噴射されたシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がっていく。よって、シールドガスがアークAに直接当たらないため、アークAが乱れるのを防止でき、溶接が安定する。
【0071】
(10)溝部46を第2ノズル47の第2噴出口48まで延ばしたので、シールドガスの流量を少なくしても、プラズマガスを安定させつつ、溶融金属を確実に移動させることができる。
【0072】
(11)第2ノズル47の第2噴出口48を、第1ノズル42の第1噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置させたので、シールドガスが直接アークAに当たるのを防いで、アークAが乱れるのを防止できる。
【0073】
(12)本実施形態によれば、第2ノズル47の第2噴出口48から噴出して螺旋状に流れるシールドガスによって、さらにビード幅が広くなり、板幅方向におけるプラズマトーチ40の狙い位置にさらに裕度があるため、上述した磁場強度調整方法がさらに好ましく適用される。
【0074】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば上記実施形態では、ワークWのクランプ位置をずらすことにより、溶接部の磁場強度を調整したがこれに限定されない。第1移動機構によって、クランプしたワークWに対してプラズマトーチ10,40の位置を板幅方向にずらすことにより、溶接部の磁場強度を調整してもよい。
また上記実施形態では、本発明の磁場強度調整方法をプラズマアーク溶接に適用したが、これに限定されない。例えば、TIGアーク溶接に適用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,2…プラズマアーク溶接装置
10,40…プラズマトーチ(アークトーチ)
20S,20N…永久磁石
A…アーク
B…磁場
I…電流
F…ローレンツ力
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わせたワークをアークトーチにより溶接するアーク溶接において、前記アークトーチが進行する接合方向に対して直交する方向の磁場を前記ワークの内部に生成し、
前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流と、前記磁場とに起因したローレンツ力により、アークの先端側を前記アークトーチの進行方向前方に曲げてアーク溶接する際に、溶接部の磁場強度を調整するアーク溶接の磁場強度調整方法であって、
前記アークトーチと前記ワークの突き合わせ部との相対位置を変更することにより、前記溶接部の磁場強度を調整することを特徴とするアーク溶接の磁場強度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−139705(P2012−139705A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292983(P2010−292983)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】