アーク溶接方法及びアーク溶接装置
【課題】ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させること。
【解決手段】プラズマトーチ10を用いてワークWにアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、ワークを非磁性体である治具に固定し、プラズマトーチが進行する接合方向に対して直交する方向の磁場Bをワークの内部に生成し、プラズマトーチと前記ワークとの間に流れる電流Iと、磁場とに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側をプラズマトーチの進行方向前方へ曲げて溶接する。この場合、ワークを非磁性体治具に固定しているために、ワークを磁性体治具で固定するよりも、ワーク内に流れる磁束の密度を高めることができる。さらに、溶接部分がキュリー温度を超えて非磁性体になることにより、磁束の流れを溶接部分前方向へ集中できアーク制御の効率を高めることができる。
【解決手段】プラズマトーチ10を用いてワークWにアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、ワークを非磁性体である治具に固定し、プラズマトーチが進行する接合方向に対して直交する方向の磁場Bをワークの内部に生成し、プラズマトーチと前記ワークとの間に流れる電流Iと、磁場とに起因したローレンツ力Fにより、アークAの先端側をプラズマトーチの進行方向前方へ曲げて溶接する。この場合、ワークを非磁性体治具に固定しているために、ワークを磁性体治具で固定するよりも、ワーク内に流れる磁束の密度を高めることができる。さらに、溶接部分がキュリー温度を超えて非磁性体になることにより、磁束の流れを溶接部分前方向へ集中できアーク制御の効率を高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。詳しくは、本発明は、プラズマアーク溶接に用いて好適なアーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アーク溶接が知られている。アーク溶接では、アークトーチの送り速度が高速になると、アークトーチの進行方向の後方にアークが流れることによって、ワークに熱が入らない現象が生ずる。
この現象を解消するため、例えば、図18や図19に示すように、アークトーチ100のノズルの先端からワークWに延びるアークAに磁場Bを作用させることにより、ローレンツ力Fを用いてアークAを前方へ振らせる技術が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−206566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術を適用した場合、図19に示すように、ローレンツ力FがアークAの上端から下端まで全域に作用するため、アークAが根元側から進行方向の前方へ曲がる。
すると、この曲がったアークAがノズルを焼くことなり、ノズルの先端部が消耗していくため、ノズルの先端部のチップの交換頻度が上がる。
また、アークAが根元側から前方へ曲がることで、アークAがワークWから浮いてしまい、入熱領域が浅くなるため、最終的に入熱量が低下する。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、アーク溶接において、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアーク溶接方法は、
アークトーチ(例えば、後述のプラズマトーチ10、40)及び磁場生成機構(例えば、後述の電磁石20)を有するアーク溶接装置(例えば、アーク溶接装置1、2)が、ワーク(例えば、ワークW)に対してアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、
前記ワークは非磁性体の治具(例えば、後述のクランプ31及びベース32)に固定され、
前記磁場生成機構が、前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場(例えば、後述の磁場B)を前記ワークの内部に生成し、
前記アークトーチからのアーク(例えば、後述のアークA)が、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流(例えば、後述の電流I)と、前記磁場とに起因したローレンツ力により、前記接合方向の前方に先端部が曲げられた状態で、前記ワークを溶接する。
【0007】
この発明によれば、ワークを非磁性体の治具に固定することにより、磁場生成機構により生成される磁場における磁束の流れを、磁性体であるワークに集中させることができる。
これにより、磁場が最も強い箇所はワークの内部であり、ワークから離れるにしたがって磁場は弱くなる。したがって、アークを曲げるローレンツ力は、ワークに近いほど強く、アークトーチに近いほど弱くなる。そのため、アークの先端側のみをアークトーチの進行方向前方へ曲げることができ、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることができる。
また、非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することによって、磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、ワーク以外の場所に逃げていくことを防げるので、ワーク内に流れる磁束の磁束密度を効率よく高めることができる。
【0008】
この場合、前記ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されることが望ましい。
【0009】
この発明によれば、ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されているので、溶接部分は非磁性体となり磁束が通り難くなっている。溶接部の両側に配置された磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、キュリー点に達していないために磁性体である溶接部前方部分へ回り込み、磁束が集中するので、磁場生成機構により生成される磁場における磁束がさらに少なくてもよい。
【0010】
本発明のアーク溶接装置は、
ワーク(例えば、後述のワークW)に対してアーク溶接を施すアーク溶接装置(例えば、アーク溶接装置1、2)において、
前記ワークを固定する非磁性体の治具(例えば、後述のクランプ31及びベース32)と、
前記ワークに対してアーク溶接を施すためのアーク(例えば、後述のアークA)を放出するアークトーチ(例えば、後述のプラズマトーチ10、40)と、
前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場(例えば、後述の磁場B)を前記ワークの内部に生成する磁場生成機構(例えば、後述の電磁石20)と、
を備え、
当該磁場と、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流(例えば、後述の電流I)とに起因したローレンツ力が、前記アークの先端部を前記接合方向の前方に曲げる。
【0011】
この発明によれば、前記のアーク溶接方法の場合と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より少ない磁束で、アークの先端側のみを進行方向前方へ曲げることができ、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図2】図1のプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図3】図2に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図4】磁性体の治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図5】ワークWを平面視した図である。
【図6】磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度を示す図である。
【図7】磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークの状態を示す図である。
【図8】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図9】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークを通過する磁束密度を示す。
【図10】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークの状態を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図12】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの断面図である。
【図13】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの第1ノズルの斜視図である。
【図14】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための斜視図である。
【図15】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための平面図である。
【図16】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図17】図16に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図18】従来のプラズマアーク溶接装置の概略的正面図である。
【図19】図18に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置1の斜視図である。
プラズマアーク溶接装置1は、ワークWを突き合わせ溶接することで、テーラードブランク材を形成する。図1では、板厚が比較的薄いワークW(1)と、ワークW(1)よりも板厚が厚いワークW(2)との突き合わせ溶接を示している。
即ち、ワークW(1)とのワークW(2)との突き合わせ部が、プラズマアーク溶接装置1により溶接される。そこで、以下、当該突き合わせ部のうち溶接される部位を、「溶接部」と適宜呼ぶ。
【0015】
プラズマアーク溶接装置1は、アークトーチとしてのプラズマトーチ10と、磁場生成機構としての4つの電磁石20N1,20N1,20S1,20S2と、支持フレーム30と、クランプ31と、ベース32と、を備える。
電磁石20N1,20N2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20N」と呼ぶ。同様に、電磁石20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20S」と呼ぶ。さらに、電磁石20N1,20N1,20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20」と呼ぶ。
【0016】
図2は、プラズマアーク溶接装置1を概略的に示す正面図である。
図2に示すように、プラズマトーチ10は、棒状の電極11と、この電極11を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル12と、この第1ノズル12を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル14と、を備える。
【0017】
第1ノズル12の先端には、円形状の第1噴出口13が形成されており、この第1噴出口13を通して、プラズマガスが噴出する。
第2ノズル14の先端には、円環形状の第2噴出口15が形成されており、この第2噴出口15を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル14の噴出口15は、第1ノズル12の噴出口13よりも、電極11の軸方向の先端側に位置している。
【0018】
図3は、図2に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
電磁石20N,20Sは、図3に示すように、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に対して略直交する方向の磁場Bを、ワークWの内部に生成する。
すると、図3に示すように、この磁場Bと、プラズマトーチ10とワークWとの間に流れる電流Iとにより生ずるローレンツ力Fにより、アークAの先端側はプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0019】
図1に戻り、4つの電磁石20は、溶接部の上方に位置するプラズマトーチ10を中心にして、当該プラズマトーチ10を囲むように、平面視で前後左右にそれぞれ配置される。
即ち、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に向かって突き合わせ部の一側(本例では左側)には、下端がN極になる電磁石20N1,20N2が、接合方向の前後にそれぞれ配置される。
プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に向かって突き合わせ部の他側(本例では右側)には、下端がS極になる電磁石20S1,20S2が、接合方向の前後にそれぞれ配置される。
【0020】
接合方向前方の電磁石20Nと電磁石20Sは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向前方の電磁石20N1から電磁石20S1へ向かう磁場の方向Bは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
同様に、接合方向後方の電磁石20N2と電磁石20S2は、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向後方の電磁石20N2から電磁石20S2へ向かう磁場の方向Bは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
【0021】
一対のクランプ31はそれぞれ、突き合わせ部側に、接合方向に沿って延設された貫通溝33を備える。貫通溝33は、円柱状の電磁石20N,20Sの径よりも大きい幅で形成されている。
支持フレーム30は、クランプ31との間で、4つの電磁石20及びプラズマトーチ10を支持する。
一対のクランプ31は、ワークW(ワークW(1)及びワークW(2))の上面を保持する。即ち、4つの電磁石20はそれぞれ、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるように、支持フレーム30に支持される。
プラズマトーチ10は、その下端から延びるアークAが、ワークWの突き合わせ部を溶接可能な所定の高さに位置するように、支持フレーム30に支持される。
ベース32は、ワークWの下面を保持する。即ち、ベース32は、クランプ31と共にワークWを挟み込むように固定する治具として機能する。
【0022】
4つの電磁石20とプラズマトーチ10との距離、及び4つの電磁石20とワークWとの間隔は、アークAの基端側にまで磁場が作用してアークAが基端から進行方向前方に曲がるのを回避しつつ、ワークWを十分に磁化して突き合わせ部の表面に大きな漏れ磁場が生成するように、それぞれ設定される。
【0023】
なお、支持フレーム30は、プラズマトーチ10を上昇又は下降させる図示しない第1昇降機構と、プラズマトーチ10を接合方向に水平移動させる図示しない第1移動機構と、を備える。
また、支持フレーム30は、4つの電磁石20を上昇又は下降させる図示しない第2昇降機構と、4つの電磁石20を接合方向に水平移動させる図示しない第2移動機構と、を備える。第2移動機構により、4つの電磁石20は貫通溝33に沿って移動する。
さらにまた、支持フレーム30は、クランプ31をワークWの上面に配置させるクランプ駆動機構を備える。
【0024】
次に、プラズマアーク溶接装置1がプラズマアーク溶接をする場合の動作について、図2及び図3を参照しながら説明する。
具体的には、プラズマアーク溶接装置1が、厚みが薄い板材であるワークW(1)と、ワークW(1)よりも厚みが厚い板材であるワークW(2)を突き合わせ溶接して、テーラードブランク材を形成するまでの動作を説明する。
【0025】
まず、ワークWの下面がベース32に保持されている状態で、第2移動機構及び第2昇降機構が、4つの電磁石20を溶接始端に対応した位置に配置する。このとき、4つの電磁石20は、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるようにして配置される。
この状態で、図示せぬ電磁石制御部が、電磁石20Nに対しては下端がN極となるように、電磁石20Sに対しては下端がS極となるように、それぞれ電流を流す。すると、電磁石20Nから電磁石20Sへ向かう磁場Bが生ずる。
【0026】
また、第1移動機構及び第1昇降機構が、突き合わせ部の溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ10を配置すると共に、クランプ駆動機構が、クランプ31をワークWの上面に配置する。これにより、ワークWが、クランプ31とベース32とにより固定される。
この状態で、図示せぬガス噴出部が、第1ノズル12の第1噴出口13からプラズマガスを噴出させつつ、図示せぬ電源部が、電極11とワークWとの間に電圧を印加することによって、アークAを発生させる。また、図示せぬガス噴出部が、第2ノズル14の第2噴出口15から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。第1移動機構及び第1昇降機構により、突き合わせ部の溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ10を配置する。
【0027】
すると、アークAを流れる電流の方向I(図1参照)と、ワークWの突き合わせ部から漏れる磁場の方向B(図1参照)とに起因したローレンツ力F(図1参照)により、アークAの先端側がプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0028】
この状態で、第1移動機構により、プラズマトーチ10を接合方向に水平移動させるとともに、第2移動機構により、4つの電磁石20を貫通溝に沿って接合方向に水平移動させる。これにより、十分な溶け込み深さが確保された溶融池Pが形成されて、良好な溶接が行われる。
【0029】
次に、以上の動作を実行可能なプラズマアーク溶接装置1のうち、ワークWを固定する治具たるクランプ31及びベース32の材質について説明する。
【0030】
[磁性体ベース及び磁性体クランプを用いた場合]
先ず、図4乃至図7を参照して、クランプ31及びベース32の材質として、鉄等の磁性体を採用した場合について説明する。
【0031】
ここで、クランプ31及びベース32の材質の説明の前提として、キュリー温度の知識が必要になる。そこで、以下、キュリー温度について説明する。
一般に、原子の磁気モーメントは、低温では同一方向に整列しているが、温度が上昇すると熱エネルギーの影響で、その方向が揺らぎ始める。そのため、全体の磁気モーメント(自発磁化)が少しずつ減少する。更に温度が上昇すると自発磁化の減少が急激に進行し、原子の磁気モーメントは、ある温度以上では完全にバラバラな方向になり、自発磁化は0となる。このように、自発磁化が0となる温度がキュリー温度又はキュリー点と呼ばれている。
即ち、キュリー温度未満では磁性体となっている物体でも、キュリー温度以上になると、非磁性体になる。
従って、ワークWが鉄の場合、そのキュリー温度は約770℃であるため、アーク溶接中の溶融部は、キュリー温度(約770℃)を超える温度になっているので、非磁性体となる。
【0032】
図4は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
電磁石20Nから20Sに向かう磁束の経路(以下、「磁気経路」と呼ぶ)としては、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路と、ワークWから漏れた磁束Beがクランプ31やベース32を通過する磁気経路と、が存在する。
なお、ワークWからの漏れ磁束Beは、図4においてはあたかもベース32のみを通過するように図示されているが、これは説明の便宜上のためであって、実際には、一部クランプ31も通過する場合がある。
ここで、ワークWを通る磁気経路には、ワークW(1)とワークW(2)との突き合わせ部Dが存在する。
【0033】
図5は、ワークWを平面視した図である。具体的には、図5(A)は、アーク溶接前のワークWを平面視した図であり、図5(B)は、アーク溶接中のワークWを平面視した図である。
アーク溶接前では、ワークWは何れの場所でもキュリー点未満の温度となっているため、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路における磁気抵抗は、何れの場所でもほぼ均一である。よって、図5(A)に示すように、磁束Bmは、電磁石20Nから電磁石20Sに向けて、ワークW内の何れの場所でも略同一の磁束密度になる。
ところが、アーク溶接中では、突き合わせ部Dのうちアーク溶接がなされた溶接部Pは、キュリー点を超えた溶融池となっており、非磁性となり磁気抵抗が大きくなる。よって、図5(B)に示すように、磁束Bmは、電磁石20Nから電磁石20Sに向けて、非磁性体たる溶接部Pをほぼ通過せずに、溶接部Pからみて、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)の前方の磁性体の部分(キュリー点未満のため)を通過するか、漏れ磁束Beとなって磁性体たるベース32やクランプ31を通過する。
図4に示すように、この漏れ磁束Beが大きく、その結果、全体の磁束Bmが低下するため、ローレンツ力Fも低下し、アークAを曲げることができなくなる。この様子が、図6及び図7に示されている。
【0034】
図6は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度Bmを示す。
図6において、横軸は、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。即ち、横軸において、0mmはプラズマトーチ10の位置を示し、右側のプラス方向は接合方向を示し、左側のマイナス方向は接合方向の逆方向を示している。
縦軸は、ワークWを通過する磁束密度Bmのうち、各位置における磁束密度を示している。
また、点線は、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布を示しており、実線は、アーク溶接中のワークWの磁束密度Bmの分布を示している。
【0035】
図6の点線に示すように、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布はほぼ一律であることがわかる。ここで、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmが、アークAを前方に曲げるローレンツ力Fを生じさせるために必要な磁束であるものとする。即ち、ここでは、初期状態として、アークAを前方に曲げるローレンツ力Fを生じさせるために必要な磁束が生じているものとする。なお、この場合の4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさは、約30Aであった。
【0036】
その後、4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさを約30Aに保ったまま、アーク溶接が行われると、ワークWの磁束密度Bmは、図6の実線に示すようになる。
【0037】
即ち、図6の実線に示すように、プラズマトーチ10の後方の位置−25mm乃至0mmのワークWの部分は、図5の溶接部Pに相当し、キュリー点を超えて非磁性体となっているために、初期状態(点線)よりも低い磁束密度になっていることがわかる。
【0038】
一方、図6の実線に示すように、プラズマトーチ10の前方の0mm乃至25mmのワークWの部分は、アークAで加熱中ではあるが、キュリー点未満の磁性体であるため、後方の−25mm乃至0mmの非磁性体の分よりも磁束は高くなり、初期状態よりも若干低くなっている。
しかしながら、図6の点線と実線とを比較すると容易にわかることであるが、磁性体のクランプ31やベース32に漏れ磁束Beが通過するため、その分だけ、磁束Bmが減少している。
このため、十分なローレンツ力Fが生じずに、図7に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がらない。
【0039】
図7は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークAの状態を示す図である。
図7の横軸は、図6の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。
縦軸は、プラズマトーチ10からの先端の距離(mm)を示している。即ち、縦軸において、0mmはプラズマトーチ10の先端の位置を示し、下側のプラス方向はワークWに向けた下方向を示し、上側のマイナス方向は上方向を示している。
図7に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がっていないことがわかる。
【0040】
このように、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合には、大量の漏れ磁束Beが生じて、ワークWを通過する全体の磁束Bmが低下する。
このため、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合には、次の第1乃至第3の問題点が生じる。
第1の問題点とは、アークAを接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に曲げるための大きさのローレンツ力Fを生じさせるためには、漏れ磁束Beを考慮して、電磁石20の励磁電流を大きくしなければならない(本例では30A以上にしなければならない)、という問題点である。
第2の問題点とは、漏れ磁束Beを考慮して、アークA前方のワークW内の磁束Bmを制御することは困難である、という問題点である。
第3の問題点とは、クランプ31及びベース32の連続使用に伴う磁化により、ワークW内の磁束Bmを制御することがより困難になる、という問題点である。
【0041】
[非磁性体ベース及び非磁性体クランプを用いた場合]
本発明人らは、これらの第1乃至第3の問題点のうち少なくとも1つを解決したい場合、クランプ31及びベース32の素材を、ステンレス等の非磁性体にすると好適であるという知見を得た。
そこで、以下、図8乃至図10を参照して、クランプ31及びベース32の材質として、ステンレス等の非磁性体を採用した場合について説明する。
【0042】
図8は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
電磁石20Nから20Sに向かう磁気経路としては、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路と、ワークWから漏れた磁束Beがクランプ31やベース32を通過する磁気経路と、が存在する。
ただし、図4と図8とを比較して容易にわかるように、クランプ31やベース32を通過する漏れ磁束Bmは、磁性体である場合(図4の場合)と比較して、非磁性体である場合(図8の場合)の方が圧倒的に小さくなる。
その結果、ワークWを通過する全体の磁束Bmはほぼ低下しない。ただし、図5を参照して上述したように、磁束Bmは、キュリー点を超えている溶接部Pを通過しにくいため、その前方(アークAの前方)に集中して高くなる。これにより、十分な大きさのローレンツ力Fが生じて、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がるようになる。この様子が、図9及び図10に示されている。
【0043】
図9は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度Bmを示す。
図9において、横軸は、図6の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。縦軸も、図6の縦軸と同一、即ちワークWを通過する磁束密度Bmのうち、各位置における磁束密度を示している。
また、点線は、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布を示しており、実線は、アーク溶接中のワークWの磁束密度Bmの分布を示している。
【0044】
図9の点線に示すように、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布はほぼ一律であることがわかる。
ただし、ここで注目すべき点は、アーク溶接前のワークWの各位置の磁束を、図6の初期状態(点線)とほぼ同一にするために必要な電磁石20の励磁電流である。即ち、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図6の場合)には30Aも必要であったのに対して、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)には5Aで済む点に注目すべきである。
【0045】
その後、4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさを約5Aに保ったまま、アーク溶接が行われると、ワークWの磁束密度Bmは、図9の実線に示すようになる。
【0046】
即ち、図9の実線に示すように、プラズマトーチ10の前方の0mm乃至25mmのワークWの部分は、アークAで加熱中ではあるが、キュリー点未満の磁性体であるため、後方の−25mm乃至0mmの非磁性体の分よりも磁束は高くなり、初期状態(点線)よりも遥かに高くなっている。即ち、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図6の場合)における約5.5mT(図6の実線)と比較して、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)にはそれよりも遥かに高くなっている。
このため、十分なローレンツ力Fが生じて、図10に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がるようになる。
【0047】
図10は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークAの状態を示す図である。
図10の横軸は、図7の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。図10の縦軸も、図7の横軸と同一、即ち、プラズマトーチ10からの先端の距離(mm)を示している。
図7と図10とを比較するに、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図7の場合)よりも遥かに、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)の方が、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に曲がっていることがわかる。
【0048】
このように、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合には、漏れ磁束Beがほぼ生じなくなるので、電磁石20の励磁電流を小さくしたままでも、ワークWを通過する全体の磁束Bmを高く維持することができる。
このため、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合に生じる上述した第1乃至第3の問題点を、何れも解決することが可能になる。
【0049】
換言すると、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した本実施形態のプラズマアーク溶接装置1によれば、以下の(1)乃至(8)に示すような効果を奏することが可能になる。
(1)4つの電磁石20によりに磁場Bを生成することができる。この場合、磁場Bが最も強い箇所はワークWの内部(磁場Bm)であり、ワークWから離れるにしたがって磁場Bは弱くなる。したがって、アークAを曲げるローレンツ力Fは、ワークWに近いほど強く、プラズマトーチ10に近いほど弱くなる。そのため、アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができる。
(2)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが根元側から曲がる場合のように、アークAがワークWから浮いてしまうことがなく、深い入熱領域が得られる。そのため、十分な溶け込み深さを確保することができる。
(3)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げて、しかも十分な溶け込み深さを確保することができるため、アークAの接合方向前方に十分な入熱量を確保することができる。そのため、溶接速度を向上させることができる。
(4)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが根元側から曲がる場合のように、曲がったアークAがノズル自体を焼いてしまうことがなく、ノズルにダメージを及ぼさない。そのため、ノズル先端部の消耗を低減することができる。
(5)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することで、磁性体のものを採用した場合と比較して、漏れ磁束Beを小さくすることができるので、電磁石20に対する励磁電流を小さくしたままで、ワークWを流れる磁束密度Bmを大きくすることができる。
(6)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することで、磁性体のものを採用した場合と比較して、漏れ磁束Beを小さくすることができるので、プラズマトーチ10からみて接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)の前方向へ磁束Bmの集中度が高まるので、磁束Bmの制御が容易となる。
(7)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することによって、クランプ31及びベース32が磁化されないので、クランプ31及びベース32の管理が容易になると共に、磁気Bmの制御がより容易となる。
(8)ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されているので、溶接部分は非磁性体となり磁束が通り難くなっている。磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、キュリー点に達していないためにまだ磁性体である溶接部前方部分へ回り込み、その部分に磁束が集中するので、磁場生成機構により生成される磁場における磁束がさらに少なくてもよい。
【0050】
[第2実施形態]
図11は、本発明の第2実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置2の斜視図である。このプラズマアーク溶接装置2において、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置1と同様の部分には、同一の符号を付けて示し、重複する説明は省略する。
プラズマアーク溶接装置2は、ワークWを突き合わせ溶接することで、テーラードブランク材を形成する。図11では、板厚が比較的薄いワークW(1)と、ワークW(1)よりも板厚が厚いワークW(2)との突き合わせ溶接を示している。
プラズマアーク溶接装置2は、アークトーチとしてのプラズマトーチ40と、磁場生成機構としての4つの電磁石20N1、20N2、20S1、20S2と、クランプ31と、ベース31と、支持フレーム30と、を備える。
電磁石20N1,20N2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20N」と呼ぶ。同様に、電磁石20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20S」と呼ぶ。さらに、電磁石20N1,20N1,20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20」と呼ぶことは、第1実施形態と同様である。
【0051】
図12は、第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの断面図である。
図12に示すように、プラズマトーチ40は、棒状の電極41と、この電極41を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル42と、この第1ノズル42を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル47と、を備える。
【0052】
第1ノズル42の先端には、円形状の第1噴出口43が形成されており、この第1噴出口43を通して、プラズマガスが噴出する。
この第1ノズル42は、筒状の内筒部44と、この内筒部44を囲んで設けられた外筒部45と、を備える。
【0053】
図13は、第1ノズル42の外筒部45の斜視図である。
外筒部45の先端部分は、先端に向かうに従って細くなる略円錐形状であり、この外筒部45の先端部分の外周面には、電極41の軸方向に対して傾斜した複数の溝部46が形成される。この溝部46は、外筒部45の先端まで延びている。
【0054】
図12に戻って、第2ノズル47の先端には、円環形状の第2噴出口48が形成されており、この第2噴出口48を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル47の噴出口48は、電極41から離れる方向に向いている。また、第2ノズル47の噴出口48は、第1ノズル42の噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置している。
また、上述の第1ノズル42の溝部46は、第2ノズル47の噴出口48まで延びている。
【0055】
次に、プラズマアーク溶接装置2を用いたプラズマアーク溶接について、図14〜図17を参照しながら説明する。
【0056】
まず、図11に示される4つの電磁石20N1、20N2、20S1、20S2に通電して、接合方向前方の電磁石20N1から電磁石20S1へ向かう磁場を発生させるとともに、接合方向後方の電磁石20N2から電磁石20S2へ向かう磁場を発生させる。この磁場の方向B(図11参照)は、図16では紙面を左から右へ向かい、図17では紙面と直交して紙面の背後から手前へ向かう。
また、第1ノズル42の第1噴出口43からプラズマガスを噴出させつつ、電極41とワークW(1)、W(2)との間に電圧を印加してアークAを発生させる。また、第2ノズル47の第2噴出口48から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。
【0057】
すると、シールドガスは、複数の溝部46に沿って図14中白抜き矢印の方向に流れて、第2噴出口48から噴出する。この噴出したシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がりながら、アークAの表面に沿って螺旋状に流れて、溶融池Pの表面に対して、アークAを回転中心として回転する方向、即ち図14中黒矢印方向に、吹き付けられる。
具体的には、図15に示すように、ワークW(1)、W(2)の8箇所にシールドガスが吹き付けられ、各箇所でのシールドガスの流れる方向は、図15中黒矢印で示すようになる。
【0058】
この状態で、プラズマトーチ40、即ちアークAを接合方向に移動させると、溶融池Pは、図15に示すように、平面視でアークAの前方、及び後方に向かって延びることになる。したがって、吹き付けるシールドガスにより、アークAの進行方向後側の図15中破線で囲まれた領域の溶融金属が、薄い方のワークW(1)に向かって押されて移動する。そして、この移動した溶融金属により薄い方のワークW(1)の母材の凹んだ部分が埋められる。
【0059】
本実施形態によれば、上記の効果に加えて、以下のような効果がある。
(9)厚みの異なるワークW(1)、W(2)を溶接する場合、螺旋状に流れるシールドガスを溶融池Pの表面に吹き付けて、アークAの進行方向後側の溶融金属を、薄い方のワークW(1)に向かって移動させることができる。これにより、この移動した溶融金属により薄い方のワークW(1)の母材の凹んだ部分を埋めることができる。その結果、薄い方のワークW(1)の板厚がアンダカットにより薄くなるのを抑制して、溶接後のワークWの強度を確保できる。
【0060】
(10)第2ノズル47の噴出口48を電極41から離れる方向に向けたので、この第2ノズル47からシールドガスを噴出させると、噴射されたシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がっていく。よって、シールドガスがアークAに直接当たらないため、アークAが乱れるのを防止でき、溶接が安定する。
【0061】
(11)溝部46を第2ノズル47の第2噴出口48まで延ばした。これにより、シールドガスの流量を少なくしても、プラズマガスを安定させつつ、溶融金属を確実に移動させることができる。
【0062】
(12)第2ノズル47の第2噴出口48を、第1ノズル42の第1噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置させたので、シールドガスが直接アークAに当たるのを防いで、アークAが乱れるのを防止できる。
【0063】
なお、本発明は前記各種実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、ワークW内に磁場を生成する磁場生成機構は、電磁石20である必要は特になく、例えば永久磁石であってもよい。
また例えば、アーク溶接の種類は、プラズマアーク溶接である必要は特になく、例えばTIGアーク溶接であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1、2・・・アーク溶接装置
10、40・・・プラズマトーチ
20N1、20N2、20S1、20S2・・・電磁石
31・・・クランプ
32・・・ベース
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。詳しくは、本発明は、プラズマアーク溶接に用いて好適なアーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アーク溶接が知られている。アーク溶接では、アークトーチの送り速度が高速になると、アークトーチの進行方向の後方にアークが流れることによって、ワークに熱が入らない現象が生ずる。
この現象を解消するため、例えば、図18や図19に示すように、アークトーチ100のノズルの先端からワークWに延びるアークAに磁場Bを作用させることにより、ローレンツ力Fを用いてアークAを前方へ振らせる技術が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−206566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術を適用した場合、図19に示すように、ローレンツ力FがアークAの上端から下端まで全域に作用するため、アークAが根元側から進行方向の前方へ曲がる。
すると、この曲がったアークAがノズルを焼くことなり、ノズルの先端部が消耗していくため、ノズルの先端部のチップの交換頻度が上がる。
また、アークAが根元側から前方へ曲がることで、アークAがワークWから浮いてしまい、入熱領域が浅くなるため、最終的に入熱量が低下する。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、アーク溶接において、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアーク溶接方法は、
アークトーチ(例えば、後述のプラズマトーチ10、40)及び磁場生成機構(例えば、後述の電磁石20)を有するアーク溶接装置(例えば、アーク溶接装置1、2)が、ワーク(例えば、ワークW)に対してアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、
前記ワークは非磁性体の治具(例えば、後述のクランプ31及びベース32)に固定され、
前記磁場生成機構が、前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場(例えば、後述の磁場B)を前記ワークの内部に生成し、
前記アークトーチからのアーク(例えば、後述のアークA)が、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流(例えば、後述の電流I)と、前記磁場とに起因したローレンツ力により、前記接合方向の前方に先端部が曲げられた状態で、前記ワークを溶接する。
【0007】
この発明によれば、ワークを非磁性体の治具に固定することにより、磁場生成機構により生成される磁場における磁束の流れを、磁性体であるワークに集中させることができる。
これにより、磁場が最も強い箇所はワークの内部であり、ワークから離れるにしたがって磁場は弱くなる。したがって、アークを曲げるローレンツ力は、ワークに近いほど強く、アークトーチに近いほど弱くなる。そのため、アークの先端側のみをアークトーチの進行方向前方へ曲げることができ、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることができる。
また、非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することによって、磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、ワーク以外の場所に逃げていくことを防げるので、ワーク内に流れる磁束の磁束密度を効率よく高めることができる。
【0008】
この場合、前記ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されることが望ましい。
【0009】
この発明によれば、ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されているので、溶接部分は非磁性体となり磁束が通り難くなっている。溶接部の両側に配置された磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、キュリー点に達していないために磁性体である溶接部前方部分へ回り込み、磁束が集中するので、磁場生成機構により生成される磁場における磁束がさらに少なくてもよい。
【0010】
本発明のアーク溶接装置は、
ワーク(例えば、後述のワークW)に対してアーク溶接を施すアーク溶接装置(例えば、アーク溶接装置1、2)において、
前記ワークを固定する非磁性体の治具(例えば、後述のクランプ31及びベース32)と、
前記ワークに対してアーク溶接を施すためのアーク(例えば、後述のアークA)を放出するアークトーチ(例えば、後述のプラズマトーチ10、40)と、
前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場(例えば、後述の磁場B)を前記ワークの内部に生成する磁場生成機構(例えば、後述の電磁石20)と、
を備え、
当該磁場と、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流(例えば、後述の電流I)とに起因したローレンツ力が、前記アークの先端部を前記接合方向の前方に曲げる。
【0011】
この発明によれば、前記のアーク溶接方法の場合と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より少ない磁束で、アークの先端側のみを進行方向前方へ曲げることができ、ノズル先端部の消耗を低減しながらワークへの必要な入熱量を確保して、溶接速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図2】図1のプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図3】図2に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図4】磁性体の治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図5】ワークWを平面視した図である。
【図6】磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度を示す図である。
【図7】磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークの状態を示す図である。
【図8】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図9】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークを通過する磁束密度を示す。
【図10】非磁性体治具を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークの状態を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置の斜視図である。
【図12】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの断面図である。
【図13】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの第1ノズルの斜視図である。
【図14】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための斜視図である。
【図15】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの動作を説明するための平面図である。
【図16】第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
【図17】図16に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【図18】従来のプラズマアーク溶接装置の概略的正面図である。
【図19】図18に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置1の斜視図である。
プラズマアーク溶接装置1は、ワークWを突き合わせ溶接することで、テーラードブランク材を形成する。図1では、板厚が比較的薄いワークW(1)と、ワークW(1)よりも板厚が厚いワークW(2)との突き合わせ溶接を示している。
即ち、ワークW(1)とのワークW(2)との突き合わせ部が、プラズマアーク溶接装置1により溶接される。そこで、以下、当該突き合わせ部のうち溶接される部位を、「溶接部」と適宜呼ぶ。
【0015】
プラズマアーク溶接装置1は、アークトーチとしてのプラズマトーチ10と、磁場生成機構としての4つの電磁石20N1,20N1,20S1,20S2と、支持フレーム30と、クランプ31と、ベース32と、を備える。
電磁石20N1,20N2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20N」と呼ぶ。同様に、電磁石20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20S」と呼ぶ。さらに、電磁石20N1,20N1,20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20」と呼ぶ。
【0016】
図2は、プラズマアーク溶接装置1を概略的に示す正面図である。
図2に示すように、プラズマトーチ10は、棒状の電極11と、この電極11を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル12と、この第1ノズル12を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル14と、を備える。
【0017】
第1ノズル12の先端には、円形状の第1噴出口13が形成されており、この第1噴出口13を通して、プラズマガスが噴出する。
第2ノズル14の先端には、円環形状の第2噴出口15が形成されており、この第2噴出口15を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル14の噴出口15は、第1ノズル12の噴出口13よりも、電極11の軸方向の先端側に位置している。
【0018】
図3は、図2に示すプラズマアーク溶接装置の右側面図である。
電磁石20N,20Sは、図3に示すように、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に対して略直交する方向の磁場Bを、ワークWの内部に生成する。
すると、図3に示すように、この磁場Bと、プラズマトーチ10とワークWとの間に流れる電流Iとにより生ずるローレンツ力Fにより、アークAの先端側はプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0019】
図1に戻り、4つの電磁石20は、溶接部の上方に位置するプラズマトーチ10を中心にして、当該プラズマトーチ10を囲むように、平面視で前後左右にそれぞれ配置される。
即ち、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に向かって突き合わせ部の一側(本例では左側)には、下端がN極になる電磁石20N1,20N2が、接合方向の前後にそれぞれ配置される。
プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)に向かって突き合わせ部の他側(本例では右側)には、下端がS極になる電磁石20S1,20S2が、接合方向の前後にそれぞれ配置される。
【0020】
接合方向前方の電磁石20Nと電磁石20Sは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向前方の電磁石20N1から電磁石20S1へ向かう磁場の方向Bは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
同様に、接合方向後方の電磁石20N2と電磁石20S2は、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する平面内で互いに対向して配置される。そのため、接合方向後方の電磁石20N2から電磁石20S2へ向かう磁場の方向Bは、突き合わせ部の延びる方向(接合線)と直交する。
【0021】
一対のクランプ31はそれぞれ、突き合わせ部側に、接合方向に沿って延設された貫通溝33を備える。貫通溝33は、円柱状の電磁石20N,20Sの径よりも大きい幅で形成されている。
支持フレーム30は、クランプ31との間で、4つの電磁石20及びプラズマトーチ10を支持する。
一対のクランプ31は、ワークW(ワークW(1)及びワークW(2))の上面を保持する。即ち、4つの電磁石20はそれぞれ、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるように、支持フレーム30に支持される。
プラズマトーチ10は、その下端から延びるアークAが、ワークWの突き合わせ部を溶接可能な所定の高さに位置するように、支持フレーム30に支持される。
ベース32は、ワークWの下面を保持する。即ち、ベース32は、クランプ31と共にワークWを挟み込むように固定する治具として機能する。
【0022】
4つの電磁石20とプラズマトーチ10との距離、及び4つの電磁石20とワークWとの間隔は、アークAの基端側にまで磁場が作用してアークAが基端から進行方向前方に曲がるのを回避しつつ、ワークWを十分に磁化して突き合わせ部の表面に大きな漏れ磁場が生成するように、それぞれ設定される。
【0023】
なお、支持フレーム30は、プラズマトーチ10を上昇又は下降させる図示しない第1昇降機構と、プラズマトーチ10を接合方向に水平移動させる図示しない第1移動機構と、を備える。
また、支持フレーム30は、4つの電磁石20を上昇又は下降させる図示しない第2昇降機構と、4つの電磁石20を接合方向に水平移動させる図示しない第2移動機構と、を備える。第2移動機構により、4つの電磁石20は貫通溝33に沿って移動する。
さらにまた、支持フレーム30は、クランプ31をワークWの上面に配置させるクランプ駆動機構を備える。
【0024】
次に、プラズマアーク溶接装置1がプラズマアーク溶接をする場合の動作について、図2及び図3を参照しながら説明する。
具体的には、プラズマアーク溶接装置1が、厚みが薄い板材であるワークW(1)と、ワークW(1)よりも厚みが厚い板材であるワークW(2)を突き合わせ溶接して、テーラードブランク材を形成するまでの動作を説明する。
【0025】
まず、ワークWの下面がベース32に保持されている状態で、第2移動機構及び第2昇降機構が、4つの電磁石20を溶接始端に対応した位置に配置する。このとき、4つの電磁石20は、貫通溝33を通って、それらの下端面とワークWの上面との間に微小な間隙が形成されるようにして配置される。
この状態で、図示せぬ電磁石制御部が、電磁石20Nに対しては下端がN極となるように、電磁石20Sに対しては下端がS極となるように、それぞれ電流を流す。すると、電磁石20Nから電磁石20Sへ向かう磁場Bが生ずる。
【0026】
また、第1移動機構及び第1昇降機構が、突き合わせ部の溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ10を配置すると共に、クランプ駆動機構が、クランプ31をワークWの上面に配置する。これにより、ワークWが、クランプ31とベース32とにより固定される。
この状態で、図示せぬガス噴出部が、第1ノズル12の第1噴出口13からプラズマガスを噴出させつつ、図示せぬ電源部が、電極11とワークWとの間に電圧を印加することによって、アークAを発生させる。また、図示せぬガス噴出部が、第2ノズル14の第2噴出口15から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。第1移動機構及び第1昇降機構により、突き合わせ部の溶接始端上の所定の高さ位置に、プラズマトーチ10を配置する。
【0027】
すると、アークAを流れる電流の方向I(図1参照)と、ワークWの突き合わせ部から漏れる磁場の方向B(図1参照)とに起因したローレンツ力F(図1参照)により、アークAの先端側がプラズマトーチ10の進行方向前方へ曲げられる。
【0028】
この状態で、第1移動機構により、プラズマトーチ10を接合方向に水平移動させるとともに、第2移動機構により、4つの電磁石20を貫通溝に沿って接合方向に水平移動させる。これにより、十分な溶け込み深さが確保された溶融池Pが形成されて、良好な溶接が行われる。
【0029】
次に、以上の動作を実行可能なプラズマアーク溶接装置1のうち、ワークWを固定する治具たるクランプ31及びベース32の材質について説明する。
【0030】
[磁性体ベース及び磁性体クランプを用いた場合]
先ず、図4乃至図7を参照して、クランプ31及びベース32の材質として、鉄等の磁性体を採用した場合について説明する。
【0031】
ここで、クランプ31及びベース32の材質の説明の前提として、キュリー温度の知識が必要になる。そこで、以下、キュリー温度について説明する。
一般に、原子の磁気モーメントは、低温では同一方向に整列しているが、温度が上昇すると熱エネルギーの影響で、その方向が揺らぎ始める。そのため、全体の磁気モーメント(自発磁化)が少しずつ減少する。更に温度が上昇すると自発磁化の減少が急激に進行し、原子の磁気モーメントは、ある温度以上では完全にバラバラな方向になり、自発磁化は0となる。このように、自発磁化が0となる温度がキュリー温度又はキュリー点と呼ばれている。
即ち、キュリー温度未満では磁性体となっている物体でも、キュリー温度以上になると、非磁性体になる。
従って、ワークWが鉄の場合、そのキュリー温度は約770℃であるため、アーク溶接中の溶融部は、キュリー温度(約770℃)を超える温度になっているので、非磁性体となる。
【0032】
図4は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
電磁石20Nから20Sに向かう磁束の経路(以下、「磁気経路」と呼ぶ)としては、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路と、ワークWから漏れた磁束Beがクランプ31やベース32を通過する磁気経路と、が存在する。
なお、ワークWからの漏れ磁束Beは、図4においてはあたかもベース32のみを通過するように図示されているが、これは説明の便宜上のためであって、実際には、一部クランプ31も通過する場合がある。
ここで、ワークWを通る磁気経路には、ワークW(1)とワークW(2)との突き合わせ部Dが存在する。
【0033】
図5は、ワークWを平面視した図である。具体的には、図5(A)は、アーク溶接前のワークWを平面視した図であり、図5(B)は、アーク溶接中のワークWを平面視した図である。
アーク溶接前では、ワークWは何れの場所でもキュリー点未満の温度となっているため、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路における磁気抵抗は、何れの場所でもほぼ均一である。よって、図5(A)に示すように、磁束Bmは、電磁石20Nから電磁石20Sに向けて、ワークW内の何れの場所でも略同一の磁束密度になる。
ところが、アーク溶接中では、突き合わせ部Dのうちアーク溶接がなされた溶接部Pは、キュリー点を超えた溶融池となっており、非磁性となり磁気抵抗が大きくなる。よって、図5(B)に示すように、磁束Bmは、電磁石20Nから電磁石20Sに向けて、非磁性体たる溶接部Pをほぼ通過せずに、溶接部Pからみて、プラズマトーチ10の進行方向(接合方向)の前方の磁性体の部分(キュリー点未満のため)を通過するか、漏れ磁束Beとなって磁性体たるベース32やクランプ31を通過する。
図4に示すように、この漏れ磁束Beが大きく、その結果、全体の磁束Bmが低下するため、ローレンツ力Fも低下し、アークAを曲げることができなくなる。この様子が、図6及び図7に示されている。
【0034】
図6は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度Bmを示す。
図6において、横軸は、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。即ち、横軸において、0mmはプラズマトーチ10の位置を示し、右側のプラス方向は接合方向を示し、左側のマイナス方向は接合方向の逆方向を示している。
縦軸は、ワークWを通過する磁束密度Bmのうち、各位置における磁束密度を示している。
また、点線は、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布を示しており、実線は、アーク溶接中のワークWの磁束密度Bmの分布を示している。
【0035】
図6の点線に示すように、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布はほぼ一律であることがわかる。ここで、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmが、アークAを前方に曲げるローレンツ力Fを生じさせるために必要な磁束であるものとする。即ち、ここでは、初期状態として、アークAを前方に曲げるローレンツ力Fを生じさせるために必要な磁束が生じているものとする。なお、この場合の4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさは、約30Aであった。
【0036】
その後、4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさを約30Aに保ったまま、アーク溶接が行われると、ワークWの磁束密度Bmは、図6の実線に示すようになる。
【0037】
即ち、図6の実線に示すように、プラズマトーチ10の後方の位置−25mm乃至0mmのワークWの部分は、図5の溶接部Pに相当し、キュリー点を超えて非磁性体となっているために、初期状態(点線)よりも低い磁束密度になっていることがわかる。
【0038】
一方、図6の実線に示すように、プラズマトーチ10の前方の0mm乃至25mmのワークWの部分は、アークAで加熱中ではあるが、キュリー点未満の磁性体であるため、後方の−25mm乃至0mmの非磁性体の分よりも磁束は高くなり、初期状態よりも若干低くなっている。
しかしながら、図6の点線と実線とを比較すると容易にわかることであるが、磁性体のクランプ31やベース32に漏れ磁束Beが通過するため、その分だけ、磁束Bmが減少している。
このため、十分なローレンツ力Fが生じずに、図7に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がらない。
【0039】
図7は、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークAの状態を示す図である。
図7の横軸は、図6の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。
縦軸は、プラズマトーチ10からの先端の距離(mm)を示している。即ち、縦軸において、0mmはプラズマトーチ10の先端の位置を示し、下側のプラス方向はワークWに向けた下方向を示し、上側のマイナス方向は上方向を示している。
図7に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がっていないことがわかる。
【0040】
このように、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合には、大量の漏れ磁束Beが生じて、ワークWを通過する全体の磁束Bmが低下する。
このため、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合には、次の第1乃至第3の問題点が生じる。
第1の問題点とは、アークAを接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に曲げるための大きさのローレンツ力Fを生じさせるためには、漏れ磁束Beを考慮して、電磁石20の励磁電流を大きくしなければならない(本例では30A以上にしなければならない)、という問題点である。
第2の問題点とは、漏れ磁束Beを考慮して、アークA前方のワークW内の磁束Bmを制御することは困難である、という問題点である。
第3の問題点とは、クランプ31及びベース32の連続使用に伴う磁化により、ワークW内の磁束Bmを制御することがより困難になる、という問題点である。
【0041】
[非磁性体ベース及び非磁性体クランプを用いた場合]
本発明人らは、これらの第1乃至第3の問題点のうち少なくとも1つを解決したい場合、クランプ31及びベース32の素材を、ステンレス等の非磁性体にすると好適であるという知見を得た。
そこで、以下、図8乃至図10を参照して、クランプ31及びベース32の材質として、ステンレス等の非磁性体を採用した場合について説明する。
【0042】
図8は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置を概略的に示す正面図である。
電磁石20Nから20Sに向かう磁気経路としては、磁束BmがワークW内を通過する磁気経路と、ワークWから漏れた磁束Beがクランプ31やベース32を通過する磁気経路と、が存在する。
ただし、図4と図8とを比較して容易にわかるように、クランプ31やベース32を通過する漏れ磁束Bmは、磁性体である場合(図4の場合)と比較して、非磁性体である場合(図8の場合)の方が圧倒的に小さくなる。
その結果、ワークWを通過する全体の磁束Bmはほぼ低下しない。ただし、図5を参照して上述したように、磁束Bmは、キュリー点を超えている溶接部Pを通過しにくいため、その前方(アークAの前方)に集中して高くなる。これにより、十分な大きさのローレンツ力Fが生じて、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がるようになる。この様子が、図9及び図10に示されている。
【0043】
図9は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行う前後の、ワークWを通過する磁束密度Bmを示す。
図9において、横軸は、図6の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。縦軸も、図6の縦軸と同一、即ちワークWを通過する磁束密度Bmのうち、各位置における磁束密度を示している。
また、点線は、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布を示しており、実線は、アーク溶接中のワークWの磁束密度Bmの分布を示している。
【0044】
図9の点線に示すように、アーク溶接前のワークWの磁束密度Bmの分布はほぼ一律であることがわかる。
ただし、ここで注目すべき点は、アーク溶接前のワークWの各位置の磁束を、図6の初期状態(点線)とほぼ同一にするために必要な電磁石20の励磁電流である。即ち、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図6の場合)には30Aも必要であったのに対して、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)には5Aで済む点に注目すべきである。
【0045】
その後、4つの電磁石20のそれぞれの励磁電流の大きさを約5Aに保ったまま、アーク溶接が行われると、ワークWの磁束密度Bmは、図9の実線に示すようになる。
【0046】
即ち、図9の実線に示すように、プラズマトーチ10の前方の0mm乃至25mmのワークWの部分は、アークAで加熱中ではあるが、キュリー点未満の磁性体であるため、後方の−25mm乃至0mmの非磁性体の分よりも磁束は高くなり、初期状態(点線)よりも遥かに高くなっている。即ち、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図6の場合)における約5.5mT(図6の実線)と比較して、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)にはそれよりも遥かに高くなっている。
このため、十分なローレンツ力Fが生じて、図10に示すように、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に十分に曲がるようになる。
【0047】
図10は、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合における、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置がアーク溶接を行っているときの、アークAの状態を示す図である。
図10の横軸は、図7の横軸と同一、即ち、接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)のプラズマトーチ10からの距離(mm)を示している。図10の縦軸も、図7の横軸と同一、即ち、プラズマトーチ10からの先端の距離(mm)を示している。
図7と図10とを比較するに、クランプ31及びベース32の材質として磁性体を採用した場合(図7の場合)よりも遥かに、クランプ31及びベース32の材質として非磁性体を採用した場合(図9の場合)の方が、アークAが接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)に曲がっていることがわかる。
【0048】
このように、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した場合には、漏れ磁束Beがほぼ生じなくなるので、電磁石20の励磁電流を小さくしたままでも、ワークWを通過する全体の磁束Bmを高く維持することができる。
このため、クランプ31及びベース32の材質として鉄等の磁性体を採用した場合に生じる上述した第1乃至第3の問題点を、何れも解決することが可能になる。
【0049】
換言すると、クランプ31及びベース32の材質としてステンレス等の非磁性体を採用した本実施形態のプラズマアーク溶接装置1によれば、以下の(1)乃至(8)に示すような効果を奏することが可能になる。
(1)4つの電磁石20によりに磁場Bを生成することができる。この場合、磁場Bが最も強い箇所はワークWの内部(磁場Bm)であり、ワークWから離れるにしたがって磁場Bは弱くなる。したがって、アークAを曲げるローレンツ力Fは、ワークWに近いほど強く、プラズマトーチ10に近いほど弱くなる。そのため、アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができる。
(2)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが根元側から曲がる場合のように、アークAがワークWから浮いてしまうことがなく、深い入熱領域が得られる。そのため、十分な溶け込み深さを確保することができる。
(3)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げて、しかも十分な溶け込み深さを確保することができるため、アークAの接合方向前方に十分な入熱量を確保することができる。そのため、溶接速度を向上させることができる。
(4)アークAの先端側のみを接合方向前方へ曲げることができるため、例えばアークAが根元側から曲がる場合のように、曲がったアークAがノズル自体を焼いてしまうことがなく、ノズルにダメージを及ぼさない。そのため、ノズル先端部の消耗を低減することができる。
(5)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することで、磁性体のものを採用した場合と比較して、漏れ磁束Beを小さくすることができるので、電磁石20に対する励磁電流を小さくしたままで、ワークWを流れる磁束密度Bmを大きくすることができる。
(6)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することで、磁性体のものを採用した場合と比較して、漏れ磁束Beを小さくすることができるので、プラズマトーチ10からみて接合方向(プラズマトーチ10の進行方向)の前方向へ磁束Bmの集中度が高まるので、磁束Bmの制御が容易となる。
(7)非磁性体のクランプ31及びベース32を採用することによって、クランプ31及びベース32が磁化されないので、クランプ31及びベース32の管理が容易になると共に、磁気Bmの制御がより容易となる。
(8)ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工されているので、溶接部分は非磁性体となり磁束が通り難くなっている。磁場生成機構により生成される磁場における磁束が、キュリー点に達していないためにまだ磁性体である溶接部前方部分へ回り込み、その部分に磁束が集中するので、磁場生成機構により生成される磁場における磁束がさらに少なくてもよい。
【0050】
[第2実施形態]
図11は、本発明の第2実施形態に係るアーク溶接装置としてのプラズマアーク溶接装置2の斜視図である。このプラズマアーク溶接装置2において、第1実施形態に係るプラズマアーク溶接装置1と同様の部分には、同一の符号を付けて示し、重複する説明は省略する。
プラズマアーク溶接装置2は、ワークWを突き合わせ溶接することで、テーラードブランク材を形成する。図11では、板厚が比較的薄いワークW(1)と、ワークW(1)よりも板厚が厚いワークW(2)との突き合わせ溶接を示している。
プラズマアーク溶接装置2は、アークトーチとしてのプラズマトーチ40と、磁場生成機構としての4つの電磁石20N1、20N2、20S1、20S2と、クランプ31と、ベース31と、支持フレーム30と、を備える。
電磁石20N1,20N2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20N」と呼ぶ。同様に、電磁石20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20S」と呼ぶ。さらに、電磁石20N1,20N1,20S1,20S2を個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて「電磁石20」と呼ぶことは、第1実施形態と同様である。
【0051】
図12は、第2実施形態に係るプラズマアーク溶接装置におけるプラズマトーチの断面図である。
図12に示すように、プラズマトーチ40は、棒状の電極41と、この電極41を囲んで設けられてプラズマガスを噴出する円筒形状の第1ノズル42と、この第1ノズル42を囲んで設けられてシールドガスを噴出する円筒形状の第2ノズル47と、を備える。
【0052】
第1ノズル42の先端には、円形状の第1噴出口43が形成されており、この第1噴出口43を通して、プラズマガスが噴出する。
この第1ノズル42は、筒状の内筒部44と、この内筒部44を囲んで設けられた外筒部45と、を備える。
【0053】
図13は、第1ノズル42の外筒部45の斜視図である。
外筒部45の先端部分は、先端に向かうに従って細くなる略円錐形状であり、この外筒部45の先端部分の外周面には、電極41の軸方向に対して傾斜した複数の溝部46が形成される。この溝部46は、外筒部45の先端まで延びている。
【0054】
図12に戻って、第2ノズル47の先端には、円環形状の第2噴出口48が形成されており、この第2噴出口48を通して、シールドガスが噴出する。
第2ノズル47の噴出口48は、電極41から離れる方向に向いている。また、第2ノズル47の噴出口48は、第1ノズル42の噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置している。
また、上述の第1ノズル42の溝部46は、第2ノズル47の噴出口48まで延びている。
【0055】
次に、プラズマアーク溶接装置2を用いたプラズマアーク溶接について、図14〜図17を参照しながら説明する。
【0056】
まず、図11に示される4つの電磁石20N1、20N2、20S1、20S2に通電して、接合方向前方の電磁石20N1から電磁石20S1へ向かう磁場を発生させるとともに、接合方向後方の電磁石20N2から電磁石20S2へ向かう磁場を発生させる。この磁場の方向B(図11参照)は、図16では紙面を左から右へ向かい、図17では紙面と直交して紙面の背後から手前へ向かう。
また、第1ノズル42の第1噴出口43からプラズマガスを噴出させつつ、電極41とワークW(1)、W(2)との間に電圧を印加してアークAを発生させる。また、第2ノズル47の第2噴出口48から、アークAの周囲を囲むようにシールドガスを噴出させる。
【0057】
すると、シールドガスは、複数の溝部46に沿って図14中白抜き矢印の方向に流れて、第2噴出口48から噴出する。この噴出したシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がりながら、アークAの表面に沿って螺旋状に流れて、溶融池Pの表面に対して、アークAを回転中心として回転する方向、即ち図14中黒矢印方向に、吹き付けられる。
具体的には、図15に示すように、ワークW(1)、W(2)の8箇所にシールドガスが吹き付けられ、各箇所でのシールドガスの流れる方向は、図15中黒矢印で示すようになる。
【0058】
この状態で、プラズマトーチ40、即ちアークAを接合方向に移動させると、溶融池Pは、図15に示すように、平面視でアークAの前方、及び後方に向かって延びることになる。したがって、吹き付けるシールドガスにより、アークAの進行方向後側の図15中破線で囲まれた領域の溶融金属が、薄い方のワークW(1)に向かって押されて移動する。そして、この移動した溶融金属により薄い方のワークW(1)の母材の凹んだ部分が埋められる。
【0059】
本実施形態によれば、上記の効果に加えて、以下のような効果がある。
(9)厚みの異なるワークW(1)、W(2)を溶接する場合、螺旋状に流れるシールドガスを溶融池Pの表面に吹き付けて、アークAの進行方向後側の溶融金属を、薄い方のワークW(1)に向かって移動させることができる。これにより、この移動した溶融金属により薄い方のワークW(1)の母材の凹んだ部分を埋めることができる。その結果、薄い方のワークW(1)の板厚がアンダカットにより薄くなるのを抑制して、溶接後のワークWの強度を確保できる。
【0060】
(10)第2ノズル47の噴出口48を電極41から離れる方向に向けたので、この第2ノズル47からシールドガスを噴出させると、噴射されたシールドガスは、アークAから離れる方向に拡がっていく。よって、シールドガスがアークAに直接当たらないため、アークAが乱れるのを防止でき、溶接が安定する。
【0061】
(11)溝部46を第2ノズル47の第2噴出口48まで延ばした。これにより、シールドガスの流量を少なくしても、プラズマガスを安定させつつ、溶融金属を確実に移動させることができる。
【0062】
(12)第2ノズル47の第2噴出口48を、第1ノズル42の第1噴出口43よりも、電極41の軸方向の基端側に位置させたので、シールドガスが直接アークAに当たるのを防いで、アークAが乱れるのを防止できる。
【0063】
なお、本発明は前記各種実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、ワークW内に磁場を生成する磁場生成機構は、電磁石20である必要は特になく、例えば永久磁石であってもよい。
また例えば、アーク溶接の種類は、プラズマアーク溶接である必要は特になく、例えばTIGアーク溶接であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1、2・・・アーク溶接装置
10、40・・・プラズマトーチ
20N1、20N2、20S1、20S2・・・電磁石
31・・・クランプ
32・・・ベース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークトーチ及び磁場生成機構を有するアーク溶接装置が、ワークに対してアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、
前記ワークは非磁性体の治具に固定され、
前記磁場生成機構が、前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場を前記ワークの内部に生成し、
前記アークトーチからのアークが、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流と、前記磁場とに起因したローレンツ力により、前記接合方向の前方に先端部が曲げられた状態で、前記ワークを溶接する、
ことを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
前記ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
ワークに対してアーク溶接を施すアーク溶接装置において、
前記ワークを固定する非磁性体の治具と、
前記ワークに対してアーク溶接を施すためのアークを放出するアークトーチと、
前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場を前記ワークの内部に生成する磁場生成機構と、
を備え、
当該磁場と、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流とに起因したローレンツ力が、前記アークの先端部を前記接合方向の前方に曲げる、
ことを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項1】
アークトーチ及び磁場生成機構を有するアーク溶接装置が、ワークに対してアーク溶接を施すアーク溶接方法であって、
前記ワークは非磁性体の治具に固定され、
前記磁場生成機構が、前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場を前記ワークの内部に生成し、
前記アークトーチからのアークが、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流と、前記磁場とに起因したローレンツ力により、前記接合方向の前方に先端部が曲げられた状態で、前記ワークを溶接する、
ことを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
前記ワークの溶接部がキュリー点を超えている温度で加工される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
ワークに対してアーク溶接を施すアーク溶接装置において、
前記ワークを固定する非磁性体の治具と、
前記ワークに対してアーク溶接を施すためのアークを放出するアークトーチと、
前記アークトーチが進行する接合方向に対して略直交する方向の磁場を前記ワークの内部に生成する磁場生成機構と、
を備え、
当該磁場と、前記アークトーチと前記ワークとの間に流れる電流とに起因したローレンツ力が、前記アークの先端部を前記接合方向の前方に曲げる、
ことを特徴とするアーク溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−139706(P2012−139706A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292984(P2010−292984)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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