説明

アーク溶接機

【課題】 本発明では、可飽和リアクトルの鉄芯を飽和したときに発生する補助巻線間の電圧が低電圧になるアーク溶接機を提供する。
【解決手段】 電源主回路と、電源主回路の出力に接続し中脚部と両側に外脚部とを有する鉄芯の中脚部に主巻線、主巻線の巻線数より多い第1の補助巻線を両側の一方の外脚部、第2の補助巻線を他方の外脚部に設け第1の補助巻線及び第2の補助巻線の巻線方向を逆方向にして極性が逆になるようにした可飽和リアクトルと、定電流回路及び補助スイッチング素子で形成し補助スイッチング素子の導通に応じて第1の補助巻線及び前記第2の補助巻線に定電流回路から補助電流を通電して鉄芯を飽和させる補助電源回路と、電源主回路を制御し、溶接状態に応じて補助電源駆動信号を出力して補助スイッチング素子を導通させる主制御回路と、を備えたアーク溶接機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接機に設けられた、特に可飽和リアクトルの技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアーク溶接機に設けられた直流リアクトルでは、パルス溶接のとき、ピーク電流からベース電流の切り換わり、又は、交流溶接のとき、正極性から負極性の極性が切り換わるとき、アーク切れを抑制するために閉ループの直流リアクトルを使用していた。しかし、直流溶接のとき、炭酸ガス、マグ溶接等において、小電流領域での直流リアクトルのインダクタンス値が大きくなり、溶接ワイヤが短絡からアーク移行するとき短絡電流の立ち上がりに遅れが生じ、溶摘と溶融池との短絡が速やかに破れないのでアーク移行が難しくなる。
【0003】
図5は、従来技術のアーク溶接機の電気接続図である。同図に示す電源主回路PMは、外部からの溶接開始信号Tsに応じて図示省略の商用交流電源(3相200V等)を入力としてインバータ制御、チョッパ制御等による出力制御を行い、溶接状態(溶接法)に応じて、例えば、直流電流、パルス電流、交流電流等に変換して出力する。ワイヤ送給モータ3は、消耗電極である溶接ワイヤ4を送給信号Fwに応じて送給する。
【0004】
図5に示す従来の可飽和リアクトルDLOは、電源主回路PMの出力に直列接続し出力を平滑して溶接電圧Vw及び溶接電流Iwとしてアーク負荷に供給する。図5に示す電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出し溶接電圧検出信号Vdとして出力し、電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出し溶接電流検出信号Idとして出力する。
【0005】
図5に示す主制御回路SCは、溶接法設定信号Mdが直流溶接のとき、補助電源駆動信号SdをHighレベルにし下記に示す補助スイッチング素子TRを導通し、パルス溶接又は交流溶接のとき、補助電源駆動信号SdをLowレベルにし、補助スイッチング素子TRの導通を停止する。
【0006】
図6は、従来技術の可飽和リアクトルDLOの詳細図であり、鉄芯(コア、以後鉄芯という)COの両側に外脚部を有し一方の外脚部に主巻線L1、他方の外脚部に補助巻線L2を設け、補助巻線L2は、図5に示す定電流電源CC及び補助スイッチング素子TRから成る補助電源PCに接続され、定電流電源CCは可飽和リアクトルDLOの鉄心(コア)COが飽和状態になる予め定めた補助電流Icを通電する。このとき、可飽和リアクトルDLOの鉄芯COを飽和状態にするのに、例えば、Iw=100A、L1=10ターンとすると、補助電流Icを、例えば、2AにするにはL2が500ターン必要とする。
【0007】
図7は、例えば、従来技術の溶接法が交流溶接から直流溶接に変化したときの動作を説明する波形図である。図7において、同図(A)は、溶接開始信号Tsを示し、同図(B)は、補助電源駆動信号Sdを示し、同図(C)は、補助電流Icを示し、同図(D)は、送給信号Fwを示し、同図(E)は、補助巻線L2の巻線間に発生する巻線間電圧Dvを示し、同図(F)は、出力電圧Vdを示し、同図(G)は、出力電流Idを示す。
【0008】
つぎに、従来技術の動作について、図7の波形図を参照して説明する。
図7(A)に示す時刻t=t1において、交流溶接のとき、主制御回路SCは、図7(B)に示す補助電源駆動信号SdをLowレベルにして、図5に示す補助スイッチング素子TRを遮断し、定電流電源CCから補助巻線L2に供給する補助電流Icの通電を停止する。
【0009】
図7に示す時刻t=t1において、同図(G)に示す出力電流Idの極性がプラス極性からマイナス極性に切り換わるとき、定電流電源CCから補助巻線L2に供給する補助電流Icの通電が停止し可飽和リアクトルDLOの鉄芯COが非飽和状態でインダクタンス値が大きいので、出力電流Idの極性が切り換わるときに可飽和リアクトルDLOから電力が供給されアーク切れが抑制される。このとき、主巻線L1の巻線間電圧が100Vとすると、同図(E)に示す補助巻線L2の巻線間に発生する巻線間電圧Dvは、極性切換時に5000Vもの高電圧が発生し、同図(E)に示す高電圧が補助スイッチング素子TRに印加される。即ち、極性が切り換わるときに高電圧が補助スイッチング素子TRに印加されることになる。
【0010】
時刻t=t2において、交流溶接から直流溶接に切り換わると、主制御回路SCは、図7(B)に示す補助電源駆動信号SdをHighレベルにして、図5に示す補助スイッチング素子TRを導通し、定電流電源CCから補助巻線L2に補助電流Ic(例えば、2A)を通電すると共に電源主回路PMの出力を交流から直流にする。
【0011】
時刻t=t2以後において、定電流電源CCから補助巻線L2に補助電流Icの通電により、可飽和リアクトルDLOの鉄芯COが飽和状態になりインダクタンス値が小さくなる。このとき、直流溶接の小電流領域において、溶接ワイヤ4が短絡からアーク移行するときの短絡電流の立ち上がりが速くなり、溶摘と溶融池の短絡が容易に破れてアークへの移行が良くなり溶接性が向上する。
【0012】
しかし、交流溶接のとき、極性が切り換わる度に高い電圧が補助スイッチング素子に印加されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−43764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のアーク溶接機に使用される閉ループの直流リアクトルでは、溶接法が直流溶接のとき、小電流領域でインダクタンス値が大きくなり、溶接ワイヤが短絡からアーク移行するときの短絡電流の立ち上がりが遅くなり、溶接ワイヤのくびれ成長に遅くれが生じ、溶摘と溶融池との短絡が速やかに破れなくなりアーク移行が難しくなる。
【0015】
この対策として従来では、図6に示す可飽和リアクトルDLOの鉄芯COの一方の外脚部に主巻線L1、他方の外脚部に補助巻線L2を設けて、直流溶接のとき、補助巻線L2に可飽和リアクトルDLOの鉄芯COが飽和状態になる補助電流Icを通電し、可飽和リアクトルDLOのインダクタンス値を小さくして小電流領域での溶接性を向上させていた。
【0016】
しかし、従来の可飽和リアクトルDLOでは、直流溶接において、補助電流Icを小さくするために、例えば、Iw=100A、L1=10ターンの1000ATで飽和するとき、L2の補助電流が2AでDLOを飽和させるには500ターン以上が必要になり、交流溶接において、極性の切換時に主巻線L1の巻線間電圧が100Vのとき、補助巻線L2の巻線間には、極性の切換時に5000Vもの高電圧が発生し、補助スイッチング素子TRでは、極性切換時に高電圧が印加され部品劣化を招いてしまう。さらに、アークスタートを行うとき、可飽和リアクトルDLOのインダクンス値が大きいためスタート電流の立ち上がりが遅くなり、アークのスタート性が悪くなってしまう。
【0017】
そこで、本発明では、上記2つの課題を解決する可飽和リアクトルを備えたアーク溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するために、本発明は、商用交流電源を整流しアーク負荷に適した電圧に変換して出力する電源主回路と、前記電源主回路の出力に接続し中脚部と両側に外脚部とを有する鉄芯の前記中脚部に主巻線、前記主巻線の巻線数より多い第1の補助巻線を前記両側の一方の外脚部、第2の補助巻線を他方の外脚部に設け前記第1の補助巻線及び前記第2の補助巻線の巻線方向を逆方向にして極性が逆になるようにした可飽和リアクトルと、定電流回路及び補助スイッチング素子で形成し前記補助スイッチング素子の導通に応じて前記第1の補助巻線及び前記第2の補助巻線に前記定電流回路から予め定めた補助電流を通電して前記鉄芯を飽和させる補助電源回路と、前記電源主回路を制御し、溶接状態に応じて補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させる主制御回路と、を備えたアーク溶接機である。
【0019】
第2の発明は、前記主制御回路は、溶接開始信号が入力されると前記補助スイッチング素子を導通させ、予め定めたアークスタート時間が終了すると前記補助スイッチング素子の導通を停止させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機である。
【0020】
第3の発明は、前記主制御回路は、前記溶接状態が直流溶接のとき補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させ、前記溶接状態がパルス溶接のとき前記補助電源駆動信号の出力を停止させて前記補助スイッチング素子を遮断させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機である。
【0021】
第4の発明は、前記主制御回路は、前記溶接状態が直流溶接のとき補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させ、前記溶接状態が交流溶接のとき前記補助電源駆動信号の出力を停止させて前記補助スイッチング素子を遮断させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機である。
【0022】
第5の発明は、請求項1に記載のアーク溶接機を構成すること、を特徴とする可飽和リアクトルである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、中脚部と両側に外脚部とを有する鉄芯の中脚部に主巻線、両側の一方の外脚部に第1の補助巻線、他方の外脚部に第2の補助巻線設けて第1の補助巻線及び第2の補助巻線の巻線方向を逆方向にすることで、第1の補助巻線及び第2の補助巻線の巻線電圧の極性が逆になり、第1の補助巻線及び第2の補助巻線が直列接続された補助巻線間の電圧が略零になり、補助スイッチング素子のコレクタ、エミッタ間に印加される電圧が大きく減少するので、部品の劣化が抑制でき製品の耐久性が大きく向上する。
【0024】
第2の発明によれば、アークスタートを行うときの可飽和リアクトルの鉄芯を飽和状態にしてインダクンス値を小さくすることで、スタート電流の立ち上がりが速くなり、可飽和リアクトルを使用した溶接機のアークスタート性が大きく向上する。
【0025】
第3の発明及び第4の発明によれば、溶接方法に応じて可飽和リアクトルのインダクタンス値を最適な値に制御するので、直流溶接の小電流領域での溶接性を向上、パルス溶接又は交流溶接での出力電流が切り換えるときのアーク切れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態1に係るアーク溶接機の電気接続図である。
【図2】実施形態1の動作を説明する波形図である。
【図3】実施形態2の動作を説明する波形図である。
【図4】本発明の可飽和リアクトルの詳細図である。
【図5】従来技術のアーク溶接機の電気接続図である。
【図6】従来技術の可飽和リアクトルの詳細図である。
【図7】従来技術の動作を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1、図2及び図4を参照して本発明の実施形態1の動作について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るアーク溶接機の電気接続図である。同図において、図5に示す従来技術のアーク溶接機の電気接続図と同一符号の構成物は、同一動作を行うので説明は省略し、符号の相違する構成物についてのみ説明する。
【0028】
図4は、本発明の可飽和リアクトルDLNの詳細図であり、図4に示す鉄芯CO2の中脚部に予め定めた巻数の主巻線L1、鉄芯CO2の両側の外脚部に主巻線L1の巻数より多い、同一巻数の第1の補助巻線L2、第2の補助巻線L3を設け、この2つの補助巻線の引き出し線を直列接続し、極性が逆になるように第1の補助巻線L2、第2の補助巻線L3の巻線方向を逆方向にする。そして、直列接続された第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3に、補助電流Icを通電することで鉄芯CO2は飽和状態になり可飽和リアクトルDLNのインダクタンス値を減少させる。また、鉄芯CO2は図4に示すように単一鉄心でなく、Uコア2を2つ組み合わせてもよい。
【0029】
図4に示す可飽和リアクトルDLNの両側の外脚部に設けられた第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3に通電する補助電流Icを小さくするために、Ic・(L2+L3)=Iw・L1の式より、例えば、Iw=100A、L1=10ターンのとき、L2=250ターン、L3=250ターンとして補助電流を2Aにすると、主巻線L1の主巻線間に、例えば、100Vが印加されると、第1の補助巻線L2の巻線間、第2の補助巻線L3の各巻線間に2500Vに電圧が発生する。しかし、第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3の各巻線間に発生する電圧の極性が逆になり、直列接続された第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3の巻線間電圧は略零電圧になる。
【0030】
図2は、本発明の実施形態1の動作を説明する波形図である。図2において、同図(A)は、溶接開始信号Tsを示し、同図(B)は、補助電源駆動信号Dvcを示し、同図(C)は、補助電流Icを示し、同図(D)は、送給信号Fwを示し、同図(E)は、第1の補助巻線L2の巻線間に発生する巻線間電圧V2を示し、同図(F)は、第2の補助巻線L3の巻線間に発生する巻線間電圧V3を示し、同図(G)は、第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3が直列接続された補助巻線の巻線間に発生する巻線間電圧Dvを示し、同図(H)は、出力電圧Vdを示し、同図(I)は、出力電流Idを示す。
【0031】
つぎに、本発明の実施形態1の動作について、図2の波形図を参照して説明する。
図2(A)に示す時刻t=t1において、交流溶接のとき、主制御回路SCは、図1(B)に示す補助電源駆動信号SdをLowレベルにして、図1に示す補助スイッチング素子TRを遮断し、定電流電源CCから直列接続された第1の補助巻線L2、第2の補助巻線L3に図2(C)に示す補助電流Icの通電を停止する。
【0032】
図4に示す主巻線L1の巻数Nm、第1の補助巻線L2の巻数Nl2、第2の補助巻線L3の巻数Nl3とし、例えば、Nm:Nl2=1:25とすると、Vm×Nm=V2×Nl2より V2=(Nm/Nl2)×Vmとなり、第1の補助巻線L2の巻数Nl2の巻線間には、V2=25Vm巻線間電圧は発生する。同様に第2の補助巻線L3の巻線間電圧も、V3=25Vmが発生する。
【0033】
このとき、第1の補助巻線L2と第2の補助巻線L3との巻線方向を逆方向にして極性が逆になるので、直列に接続した第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3からなる補助巻線の巻線間電圧Dvは、V2+V3=(25Vm)+(−25Vm)より、略零Vになる。
【0034】
図2に示す時刻t=t1において、同図(I)に示す出力電流Idの極性がプラス極性からマイナス極性に切り換わるとき、定電流電源CCから補第1の補助巻線L2、第2の補助巻線L3に供給する補助電流Icの通電が停止しているので、可飽和リアクトルDLNの鉄芯CO2が非飽和状態でインダクタンス値が大きいので、出力電流Idの極性が切り換わるときに可飽和リアクトルDLNから電力が供給されアーク切れが抑制される。そして、極性が切り換わるとき、同図(E)に示す第1の補助巻線L2の巻線間電圧V2には、例えば、−2500Vの高電圧が発生し、同図(F)に示す第2の補助巻線L3の巻線間電圧V3には、例えば、+2500Vの高電圧が発生する。このとき、第2の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3の各巻線間に発生する電圧の極性が逆になり、直列接続された第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3の巻線間電圧Dvは、同図(G)に示すように略零電圧になり、補助スイッチング素子TRでは、極性切換時に高電圧は印加されない。
【0035】
時刻t=t2において、交流溶接から直流溶接に切り換わると、主制御回路SCは、図2(B)に示す補助電源駆動信号SdをHighレベルにして、図1に示す補助スイッチング素子TRを導通し、定電流電源CCから直列接続された第1の補助巻線L2、第2の補助巻線L3に図2(C)に示す補助電流Icの通電を開始する。
【0036】
時刻t=t2において、交流溶接から直流溶接に切り換わると、電源主回路PMは、図2(I)に示す出力電流Idが交流から直流に変化してアーク負荷に供給する。このとき、可飽和リアクトルの鉄芯DLNが飽和状態になりインダクタンス値が小さくなるので、図示省略の溶接ワイヤが短絡からアーク移行するときの短絡電流の立ち上がりが速くなり、溶摘と溶融池の短絡が速やかに破れアークへ容易に移行する。
【0037】
図2に示す時刻t=t2以後は、補助電源PCから第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3に補助電流Icが通電し飽和しているので、同図(E)に示す第1の補助巻線L2の巻線間電圧V2及び同図(F)に示す第2の補助巻線L3の巻線間電圧V3が略零Vになる。
【0038】
上述より、補助電源回路PCを形成する補助スイッチング素子のコレクタ、エミッタ間に印加される電圧が大きく減少し、補助スイッチング素子の劣化を抑制できる。
また、可飽和リアクトルDLNの鉄芯CO2の両端部に設けた第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3を同一巻線数にすることにより、第1の補助巻線及び第2の補助巻線が直列接続されて形成されている補助巻線間の電圧が略零電圧にしているが、第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3を巻線数が若干違ってもよい。例えば、第1の補助巻線と第2の補助巻線との比が、10:9でも良い。
【0039】
「実施形態2」
図3は、本発明の実施形態2のアークスタート時の動作を説明する波形図である。図3において、同図(A)は、溶接開始信号Tsを示し、同図(B)は、補助電源駆動信号Sdを示し、同図(C)は、補助電流Icを示し、同図(D)は、送給信号Fwを示し、同図(E)は、第1の補助巻線L2の巻線間に発生する巻線間電圧V2を示し、同図(F)は、第2の補助巻線L3の巻線間に発生する巻線間電圧V3を示し、同図(G)は、第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3が直列接続された補助巻線の巻線間に発生する巻線間電圧Dvを示し、同図(H)は、出力電圧Vdを示し、同図(I)は、出力電流Idを示す。
【0040】
つぎに、本発明の実施形態2の交流溶接でアークスタートのときの動作について、図3の波形図を参照して説明する。
図3(A)に示す溶接開始信号Tsが時刻t=t1のとき、電源主回路PMに入力されると、電源主回路PMは、同図(D)に示す送給信号Fwを出力し、溶接ワイヤ4は初期送給速度での送給が開始されると共に、図1に示す補助スイッチング素子TRを同図(B)に示す補助電源駆動信号SdをHighレベルにして導通し、補助電源PCから第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3に同図(C)に示す補助電流Icの通電を開始する。
【0041】
時刻t=t1のとき、補助電源PCから第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3に補助電流Icを通電して可飽和リアクトルDLNの鉄心CO2を飽和させるので、同図(E)に示す第1の補助巻線L2の巻線間電圧V2及び同図(F)に示す第2の補助巻線L3の巻線間電圧V3が略零電圧になる。
【0042】
上記に加えて、時刻t=t1〜t2の初期送給時間のとき無負荷状態のため、図4に示す主巻線L1に主電流が通電しないので、直列に接続した第1の補助巻線L2及び第2の補助巻線L3からなる補助巻線の巻線間電圧Dvは略零電圧になる。
【0043】
図3に示す時刻t=t2において、溶接ワイヤ4が被加工物2に接触すると、出力電圧Vdは無負荷電圧(例えば、100V)から短絡電圧(略零電圧)へと変化する。このとき、電源主回路PMは、図3(I)に示す出力電圧Vdの値が短絡基準電圧値Vrf未満になると溶接ワイヤ4が被溶接物2に接触したと判別し、図3(I)に示す予め定めた値の初期電流を通電する。このとき、可飽和リアクトルDLNの鉄芯CO2は、補助電流Icの通電によって飽和状態になりインダクタンス値が小さくなっているので、時刻t=t2からのスタート電流の上昇率が非常に大きくアークが容易に発生する。
【0044】
時刻t=t3のとき、アークが発生し出力電圧Vdの値が短絡基準電圧値Vrf以上、又は図3(J)に示す初期電流が通電し予め定めた基準電流値Irf以上、又は初期電流が基準電流値Irf以上になって予め定めた時間が過ぎたとき、アークスタート時間が終了し補助電源PCから補助電流Icの通電を停止し、鉄芯CO2の飽和状態を解除する。そして、直列に接続した第1の補助巻線L2の巻線間電圧V2及び同図(F)に示す第2の補助巻線L3の巻線間電圧V3は、主巻線L1に通電する初期電流に応じて電圧が発生る。そして、時刻t=t4において、初期電流の時間が終了すると通常の溶接電流の移行に応じて電圧が変化する。
【0045】
時刻t=t5において、アークスタートから通常の交流溶接になり、図3(I)に示す出力電流Idの極性がプラス極性からマイナス極性に切り換わる。このとき、可飽和リアクトルDLNの鉄芯CO2が非飽和状態でインダクタンス値が大きく、極性切り換え時に可飽和リアクトルから電力が供給されアーク切れが抑制される。そして、以後は上述の実施形態1と同一動作を行うので説明は省略する。
【0046】
上述より、アークスタートを行うとき、可飽和リアクトルDLNの鉄芯CO2を飽和状態にしてインダクタンス値を小さくすることで、スタート電流の立ち上がりが速くなり、交流溶接でアークのスタート性が大きく向上する。
【符号の説明】
【0047】
1 トーチ
2 被加工物
3 送給モータ
4 溶接ワイヤ
CC 定電流電源
DLO 可飽和リアクトル(従来)
DLN 可飽和リアクトル(本発明)
Fw 送給信号
PC 補助電源回路
PM 電源主回路
SC 主制御回路
Sd 補助電源駆動信号
Ts 溶接開始信号
TR 補助スイッチング素子
VD 電圧検出回路
Vd 出力電圧信号
ID 電流検出回路
Id 出力電流信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源を整流しアーク負荷に適した電圧に変換して出力する電源主回路と、前記電源主回路の出力に接続し中脚部と両側に外脚部とを有する鉄芯の前記中脚部に主巻線、前記主巻線の巻線数より多い第1の補助巻線を前記両側の一方の外脚部、第2の補助巻線を他方の外脚部に設け前記第1の補助巻線及び前記第2の補助巻線の巻線方向を逆方向にして極性が逆になるようにした可飽和リアクトルと、定電流回路及び補助スイッチング素子で形成し前記補助スイッチング素子の導通に応じて前記第1の補助巻線及び前記第2の補助巻線に前記定電流回路から予め定めた補助電流を通電して前記鉄芯を飽和させる補助電源回路と、前記電源主回路を制御し、溶接状態に応じて補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させる主制御回路と、を備えたアーク溶接機。
【請求項2】
前記主制御回路は、溶接開始信号が入力されると前記補助スイッチング素子を導通させ、予め定めたアークスタート時間が終了すると前記補助スイッチング素子の導通を停止させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機。
【請求項3】
前記主制御回路は、前記溶接状態が直流溶接のとき前記補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させ、前記溶接状態がパルス溶接のとき前記補助電源駆動信号の出力を停止させて前記補助スイッチング素子を遮断させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機。
【請求項4】
前記主制御回路は、前記溶接状態が直流溶接のとき前記補助電源駆動信号を出力して前記補助スイッチング素子を導通させ、前記溶接状態が交流溶接のとき前記補助電源駆動信号の出力を停止させて前記補助スイッチング素子を遮断させる、ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機。
【請求項5】
請求項1に記載のアーク溶接機を構成すること、を特徴とする可飽和リアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−13918(P2013−13918A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148877(P2011−148877)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】