説明

アーク溶接用トーチ

【課題】 シールドガスの噴出特性、フィラーワイヤ狙い位置の調整性、および汎用性が高いアーク溶接用トーチを提供する。
【解決手段】 トーチノズル1の先端部が指向する領域に向けてフィラーワイヤを繰り出すフィラーガイド20を備えたアーク溶接用トーチA1は、トーチ1とフィラーガイド20とを個別に被装し、かつ、これらを連結する連結手段3(ブラケット部材30およびカバー部材31)を備える。ブラケット部材30は、トーチ1およびフィラーガイド20をたとえばクランプ式に連結する。シールドガス供給路は、トーチ1内だけでなく、カバー部材31とトーチ1との間、さらにはカバー部材31とフィラーガイド20との間にも形成され、シールドガスの噴出を安定させる。フィラーワイヤの狙い位置は、トーチ1とフィラーガイド20との相対的な位置変更により調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤとともにフィラーワイヤを用いるアーク溶接用トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアーク溶接用トーチには、消耗電極としての溶接ワイヤ(第1溶接ワイヤ)を繰り出す給電チップと、この給電チップが指向する母材の溶接領域に向けてフィラーワイヤ(第2溶接ワイヤ)を繰り出すガイド部材と、ノズルカバーとを備えたものがある(たとえば、特許文献1を参照)。このトーチにおいては、給電チップおよびガイド部材がノズルカバーによって被装されている。ノズルカバーは、楕円筒状に形成されている。ノズルカバーの内部において給電チップ周辺およびガイド部材周辺の空間は、シールドガス供給路として用いられる。
【0003】
上記アーク溶接用トーチでは、溶接ワイヤと母材との間にアークが発生し、このアークによって母材の溶接領域に溶融池が形成され、この溶融池に対してフィラーワイヤが挿入される。このような溶接中、ノズルカバーの先端開口からは、シールドガスが噴出する。シールドガスは、アークおよび溶融池を覆い、溶接雰囲気を大気から遮蔽する。
【0004】
しかしながら、上記従来のアーク溶接用トーチでは、ノズルカバーの内部に、給電チップおよびガイド部材といった2つの部材を配置した上でシールドガス供給路が形成されるので、ノズルカバー内のシールドガスの流れに対する抵抗が大きく、シールドガスの噴出が安定しないおそれがある。シールドガスの噴出が安定しないと、溶接ビードを高品位に形成することができなくなる。
【0005】
シールドガスの噴出を安定させるには、シールドガスの供給量を増大させればよいが、そうするとランニングコストが高くなる。シールドガスが噴出するノズルカバーの先端開口は、上記2つの部材が配置されるために楕円環状となり、隙間が比較的大きい。これによっても、上記ノズルカバーでは、シールドガスの噴出量が多くなるので、ランニングコストの点で不利である。
【0006】
上記ノズルカバーは、対応する給電チップおよびガイド部材を適切な間隔に保持した上で一体的に被装した構造になるので、汎用部品として用いることができない。また、給電チップおよびガイド部材の間隔を調節して溶接ワイヤに対するフィラーワイヤの狙い位置を調整するには、そのための特別な機構が別途必要となり、フィラーワイヤの狙い位置を簡単に調整することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−55506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情のもとで考え出されたものであって、シールドガスの噴出特性、フィラーワイヤ狙い位置の調整性、および汎用性を高めることができるアーク溶接用トーチを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明により提供されるアーク溶接用トーチは、消耗電極としての溶接ワイヤを先端部から繰り出すトーチノズルと、このトーチノズルの先端部が指向する領域に向けてフィラーワイヤを繰り出すフィラーワイヤ繰り出し手段とを備えたアーク溶接用トーチであって、上記トーチノズルと上記フィラーワイヤ繰り出し手段とを個別に被装し、かつ、これらを連結する連結手段を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記トーチノズルは、上記溶接ワイヤを第1軸線方向に案内するとともに溶接電流を供給する給電チップ部と、この給電チップ部を囲繞するとともに第1軸線方向先端側の開口から上記溶接ワイヤを突出させる円筒状外套部とを有し、上記フィラーワイヤ繰り出し手段は、上記フィラーワイヤを第2軸線方向に案内する管状のフィラーガイドと、このフィラーガイドの第2軸線方向先端側から上記領域に向けて上記フィラーワイヤを突出させるガイドチップとを有する。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1軸線は直線状であり、上記フィラーガイドの上記第2軸線方向基端側は、上記第1軸線に対して平行に配置される一方、上記フィラーガイドの上記第2軸線方向先端側は、先端に近づくにつれて上記第1軸線に近づくように延びている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記連結手段は、上記円筒状外套部に対してクランプ式に連結されるのと同時に、上記フィラーガイドに対してクランプ式に連結されるブラケット部材を含む。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記ブラケット部材は、上記円筒状外套部が上記第1軸線方向に内挿される第1の孔と、この第1の孔に対して径方向に位置し、上記フィラーガイドが上記第2軸線方向に内挿される第2の孔と、上記第1の孔と上記第2の孔との間に形成され、これら第1および第2の孔に連通するとともにネジ孔が設けられたスリットとを有し、このブラケット部材は、上記ネジ孔にネジを締結すると、上記スリットが押圧されて上記第1および第2の孔が縮径するように構成されている。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記円筒状外套部および上記フィラーガイドのうち少なくともいずれか一方は、上記ブラケット部材に対して軸線方向の位置調節が可能である。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記連結手段はさらに、上記円筒状外套部および上記フィラーガイドの双方を全体的に囲繞するカバー部材を含む。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記カバー部材は、上記第1軸線および上記第2軸線を含む面を境界として分割可能な第1部材および第2部材を有し、上記第1部材および上記第2部材は、上記ブラケット部材に取り付けられることにより互いに合体し、上記円筒状外套部および上記フィラーガイドのそれぞれを個別に囲う第1および第2の円柱状内面部を有する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記給電チップ部と上記円筒状外套部との間には、第1シールドガス供給路が形成されるとともに、上記円筒状外套部とこれに対応する上記第1の円柱状内面部との間には、第2シールドガス供給路が形成される。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記フィラーガイドとこれに対応する上記第2の円柱状内面部との間にはさらに、第3シールドガス供給路が形成される。
【0020】
本発明によれば、一般的なシングルトーチに対し、たとえばカバー部材が取り付けられたブラケット部材を介してフィラーワイヤ繰り出し手段をクランプ式に連結することができる。カバー部材は、たとえばブラケット部材に取り付けられて互いに合体し、トーチノズルおよびフィラーワイヤ繰り出し手段を個別に被装する第1部材と第2部材とによって構成することができる。このようなブラケット部材およびカバー部材は、様々な寸法のトーチノズルおよびフィラーワイヤ繰り出し手段に対応し、汎用的に用いることができる。シールドガスは、たとえばトーチノズルの円筒状外套部と給電チップ部との間に形成された第1シールドガス供給路から噴出するとともに、これとは別にカバー部材とトーチノズルとの間に形成された第2シールドガス供給路からも噴出可能である。これにより、シールドガスは、十分な噴出量で安定して噴出させられる。フィラーワイヤの狙い位置を調整するには、たとえばブラケット部材に対してトーチノズルあるいはフィラーワイヤ繰り出し手段の連結する位置を調整しながらこれらをクランプ式に連結すればよい。
【0021】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るアーク溶接用トーチの第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のアーク溶接用トーチに含まれるトーチノズルの断面図である。
【図3】図1のアーク溶接用トーチに含まれるフィラーワイヤ繰り出し手段の断面図である。
【図4】図1のアーク溶接用トーチに含まれるブラケット部材の上面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】図1のアーク溶接用トーチに含まれるカバー部材の上面図である。
【図7】図6に示すカバー部材の側面図である。
【図8】本発明に係るアーク溶接用トーチの第2実施形態を示す断面図である。
【図9】図8のアーク溶接用トーチに含まれるカバー部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1〜7は、本発明に係るアーク溶接用トーチの第1実施形態を示している。本実施形態のアーク溶接用トーチA1は、いわゆるMIG溶接あるいはMAG溶接といった消耗電極式のガスシールドアーク溶接に適用される。
【0025】
図1に示すように、アーク溶接用トーチA1は、消耗電極としての溶接ワイヤ(図示略)を繰り出すトーチ1と、これとは別にフィラーワイヤ(図示略)を繰り出すフィラーワイヤ繰り出し手段2と、これらトーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2を連結する連結手段3とを備える。図2に示すように、トーチ1は、既知のシングルトーチと同一の構成要素を有し、給電チップ部10を円筒状外套部11の内部に備えて構成される。図3に示すように、フィラーワイヤ繰り出し手段2は、フィラーガイド20の先端にガイドチップ21を備えて構成される。図4〜7に示すように、連結手段3は、ブラケット部材30およびカバー部材31を備えて構成される。カバー部材31は、互いに分割可能な第1部材31Aおよび第2部材31Bからなる。
【0026】
トーチ1は、円管状のトーチボディ12の先端に接続されており、このトーチボディ12内を通って送給されてくる溶接ワイヤを直線状の第1軸線S1に沿って案内しながら溶接点P1に向けて繰り出す。
【0027】
図2に示すように、トーチ1の給電チップ部10は、第1チップボディ100、オリフィス部材101、第2チップボディ102、および給電チップ103を備えて構成される。
【0028】
第1チップボディ100は、銅などの導電性材料からなり、円管状に形成されている。第1チップボディ100の基端は、螺合締結によってトーチボディ12の先端に固定される。これにより、第1チップボディ100の内部には、トーチボディ12から送給されてくる溶接ワイヤが挿通する。第1チップボディ100の第1軸線S1方向中心部には、その第1軸線S1周りに並んで複数のガス噴出口100Aが形成されている。図示しないガスボンベから供給されたシールドガスは、トーチボディ12から第1チップボディ100の内部を通り、ガス噴出口100Aから第1チップボディ100の外部に噴出する。
【0029】
オリフィス部材101は、略円筒状に形成されており、ガス噴出口100Aを外方から覆うように第1チップボディ100の第1軸線S1方向中心部に固定される。オリフィス部材101には、ガス噴出口100Aに通じる内部空間101Aが形成される。オリフィス部材101の第1軸線S1方向中心部には、内部空間101Aと外部とに連通する複数のオリフィス101Bが第1軸線S1周りに並んで形成されている。これにより、ガス噴出口100Aから噴出したシールドガスは、オリフィス部材101の内部空間101Aおよびオリフィス101Bを通って外部に噴出する。
【0030】
第2チップボディ102は、銅などの導電性材料からなり、円筒状に形成されている。第2チップボディ102の基端は、螺合締結によって第1チップボディ100の先端に固定される。
【0031】
給電チップ103は、たとえば銅タングステン、クローム銅、ベリリウム銅、導電性セラミックス、あるいはステンレスといった導電性材料からなり、円筒状に形成されている。給電チップ103の第1軸線S1方向基端側には、テーパ孔103Aが形成されており、その第1軸線S1方向中心部から先端までの内径は、第2チップボディ102の内径より小さくなっている。給電チップ103の基端は、螺合締結によって第2チップボディ102の先端に固定される。この給電チップ103には、図示しない電源装置から所定レベルの電圧が印加される。これにより、給電チップ103の内部においては、第2チップボディ102からの溶接ワイヤが縮径して給電チップ103の内面に接しながら挿通し、給電チップ103の先端からは、第1軸線S1に合致して溶接ワイヤが突出する。溶接ワイヤには、給電チップ103を介してアーク発生のための溶接電流が流れる。
【0032】
図2に示すように、トーチ1の円筒状外套部11は、絶縁ブッシュ110およびノズル111を備えて構成される。
【0033】
絶縁ブッシュ110は、電気絶縁性の材料を用いて円筒状に形成されており、その内部に第1チップボディ100が通挿される。絶縁ブッシュ110は、連結手段3に対して直接固定される固定部110Aと、この固定部110Aと第1軸線S1の方向に隣接し、固定部110Aよりも大径の外周をもつフランジ部110Bと、固定部110Aに対してフランジ部110Bとは反対側に設けられ、ノズル111が接続される接続部110Cとを有する。固定部110Aは、所定の外径寸法をもち、外周面が円柱面状に形成されている。フランジ部110Bは、螺合締結によってトーチボディ12の先端に固定される。固定部110A側となるフランジ部110Bの端面には、固定部110Aに固定された連結手段3の一部が当接する。これにより、トーチ1は、連結手段3に対して第1軸線S1方向に位置決め固定される。接続部110Cには、螺合締結によってノズル111の基端側が固定される。
【0034】
ノズル111は、円筒状に形成されており、第1チップボディ100、オリフィス部材101のオリフィス101Bが設けられた部分、第2チップボディ102、および給電チップ103といった給電チップ部10の大部分の外径よりも大きな内径をもつ。これにより、ノズル111の内周面と給電チップ部10との間には、断面円環状の第1シールドガス供給路G1が形成される。第1シールドガス供給路G1には、オリフィス101Bを介してシールドガスが供給される。ノズル111の先端開口には、給電チップ103の先端が位置する。これにより、ノズル111の先端開口には、第1シールドガス供給路G1から外部に通じる円環状の隙間111Aが形成され、シールドガス供給路G1を通ってきたシールドガスは、その円環状の隙間111Aから噴出する。
【0035】
フィラーワイヤ繰り出し手段2は、たとえば図示しないコンジットチューブの先端に接続されており、このチューブ内を通って送給されてくるフィラーワイヤを屈曲した第2軸線S2に沿って案内する。このフィラーワイヤ繰り出し手段2は、母材に対してアーク溶接用トーチA1が移動する方向を溶接方向Fとした場合、溶接点P1より溶接方向F後方側の狙い位置P2に向けてフィラーワイヤを繰り出す。
【0036】
図3に示すように、フィラーワイヤ繰り出し手段2のフィラーガイド20は、ガイドアダプタ200およびガイド部材201を備えて構成される。
【0037】
ガイドアダプタ200は、円筒状の第1接続部材200Aおよび第2接続部材200Bからなる。第1接続部材200Aは、螺合締結によりガイド部材201の第2軸線S2方向基端側に対して直接固定される。第2接続部材200Bは、螺合締結によって第1接続部材200Aの第2軸線S2方向基端側に固定され、図示しないコンジットチューブの先端を第1接続部材200Aに接続している。これにより、ガイドアダプタ200の内部には、コンジットチューブから送給されてくるフィラーワイヤが挿通する。
【0038】
ガイド部材201は、たとえばステンレス製であり、第2軸線S2に沿って屈曲した管からなる。ガイド部材201の第2軸線S2方向基端側には、テーパ孔201Aが形成されており、そのテーパ孔201Aから第2軸線S2方向先端までの内径は、ガイドアダプタ200の内径より小さくなっている。ガイド部材201の第2軸線S2方向先端には、螺合締結によってガイドチップ21が接続される。
【0039】
ガイドチップ21は、電気絶縁性の材料を用いて円筒状に形成されている。ガイドチップ21の内部には、第2軸線S2方向基端側から先端側へと進むにつれて漸次小径となるテーパ孔210が形成されている。これにより、ガイドチップ21の内部には、ガイド部材201からのフィラーワイヤが縮径しながら挿通し、ガイドチップ21の先端からは、第2軸線S2に合致してフィラーワイヤが突出する。
【0040】
図1に示すように、連結手段3のブラケット部材30は、円筒状外套部11の絶縁ブッシュ110およびフィラーガイド20のガイドアダプタ200をクランプ式に連結するものである。図4に示すように、ブラケット部材30は、絶縁ブッシュ110の固定部110Aを第1軸線S1方向に内挿可能な第1の孔300と、ガイドアダプタ200の第1接続部材200Aを第2軸線S2方向に内挿可能な第2の孔301と、これら第1および第2の孔300,301に対して連通するスリット302と、スリット302を貫くように形成されたネジ孔303と、カバー部材31が取り付けられる一対の延出部304(図1および図5参照)とを備えて構成される。
【0041】
第1および第2の孔300,301は、固定部110Aおよび第1接続部材200Aの外径に応じた筒状の孔であり、互いに径方向に離れている。ネジ孔303に対してネジ305が締結されない状態において、第1および第2の孔300,301の内径は、固定部110Aおよび第1接続部材200Aの外径よりも若干大きくなっている。スリット302は、第1および第2の孔300,301の間に形成され、これらの中心同士を結ぶ径方向に延びている。スリット302の両端は、第1および第2の孔300,301の内面一部を切り開くようにして形成されている。一対の延出部304は、スリット302の近傍から第1および第2の孔300,301の中心軸方向に延出している。これらの延出部304には、図6に示すネジ306を締結してカバー部材31(第1部材31Aおよび第2部材31B)を取り付けるためのネジ孔304Aが設けられている。
【0042】
スリット302に対応するネジ孔303は、スリット302の内壁面に対して垂直に貫通するように形成されている。このネジ孔303には、スリット302を貫通してネジ305が締結される。そうすると、スリット302の内壁面が互いに近づく方向に、あるいは接触するまで押圧され、その結果、第1および第2の孔300,301の内径が小さくなる。このとき、図1に示すように、第1および第2の孔300,301に対して固定部110Aおよび第1接続部材200Aが内挿されていると、固定部110Aおよび第1接続部材200Aが第1および第2の孔300,301の内面に密接して挟持される。これにより、ブラケット部材30は、トーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2を互いに同時連結する。その際、第1の孔300の縁部周辺には、フランジ部110Bの端面が当接することにより、トーチ1は、ブラケット部材30に対して第1軸線S1方向に位置決めされる。一方、フィラーワイヤ繰り出し手段2は、第1接続部材200Aが第2の孔301に対して強固に固定されるまでは第2軸線S2方向にある程度移動可能である。そのため、フィラーワイヤ繰り出し手段2は、ブラケット部材30に対して第2軸線S2方向に移動調整しながら位置決め可能である。このようなブラケット部材30に対してトーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2が連結されると、トーチ1の第1軸線S1方向に対してフィラーガイド20の第2軸線S2方向基端側が常に一定の間隔で平行に配置される一方、その第2軸線S2方向先端側は、先端に近づくにつれて第1軸線S1に近づくように延びる。
【0043】
連結手段3のカバー部材31は、円筒状外套部11およびフィラーガイド20の双方全体を囲うとともに、これらを個別に分けて囲うものである。カバー部材31は、トーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2をブラケット部材30に連結した後、延出部304に取り付けられる第1部材31Aおよび第2部材31B(図7参照)を備えて構成される。
【0044】
第1部材31Aおよび第2部材31Bは、トーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2がブラケット部材30に連結された状態において、第1軸線S1および第2軸線S2を含む面を境界として分割・合体可能であり、互いに対称的な形状をもつ。図7に示すように、第1部材31Aおよび第2部材31Bのそれぞれは、円筒状外套部11を囲う第1の円柱状内面部310と、フィラーガイド20を囲う第2の円柱状内面部311と、ブラケット部材30の延出部302に対応する段部312と、段部312に形成されたネジ孔313と、第1および第2の円柱状内面部310,311のそれぞれにシールドガスを導く第1および第2のシールドガス導入路314,315とを有する。第1部材31Aには、第1および第2のシールドガス導入路314,315を外部に連通させる連通孔316,317が設けられている。
【0045】
第1の円柱状内面部310は、第1部材31Aおよび第2部材31Bが分割された状態では半円柱状の面をなす。第1の円柱状内面部310は、トーチ1が連結されたブラケット部材30に対して第1部材31Aおよび第2部材31Bを取り付けると、図1に示すように、互いに一体となって第1軸線S1を中心軸とした円筒状の内部空間を形成する。この内部空間には、トーチ1のノズル111の大部分が隙間をあけて収まる。内部空間の第1軸線S1方向基端側は、ブラケット部材30の第1の孔300にトーチ1の固定部110Aが挟持されることで封止される。第1の円柱状内面部310の先端からは、ノズル111の先端が溶接点P1に向けて突出する。これにより、ノズル111の外周面と第1の円柱状内面部310との間には、断面円環状の第2シールドガス供給路G2が形成される。
【0046】
第2の円柱状内面部311は、第1部材31Aおよび第2部材31Bが分割された状態では基端側が半円柱状の面をなし、先端側が半円錐状の面をなす。第2の円柱状内面部311は、フィラーワイヤ繰り出し手段2が連結されたブラケット部材30に対して第1部材31Aおよび第2部材31Bを取り付けると、図1に示すように、互いに一体となって第2軸線S2を中心軸とした略円筒状の内部空間を形成する。この内部空間には、フィラーワイヤ繰り出し手段2のガイド部材201の大部分が隙間をあけて収まる。内部空間の第2軸線S2方向基端側は、ブラケット部材30の第2の孔301にフィラーワイヤ繰り出し手段2の第1接続部材200Aが挟持されることで封止される。第2の円柱状内面部311の先端からは、ガイド部材201の先端がフィラーワイヤの狙い位置P2に向けて突出する。これにより、ガイド部材201の外周面と第2の円柱状内面部311との間には、断面円環状の第3シールドガス供給路G3が形成される。このような第1および第2の円柱状内面部310,311の間には、第1部材31Aおよび第2部材31Bが合体すると互いに当接する端面320が形成されている。この端面320が当接することにより、第1の円柱状内面部310による内部空間と第2の円柱状内面部311による内部空間とが仕切られる。
【0047】
段部312は、第1の円柱状内面部310の基端側と第2の円柱状内面部310の基端側との間に形成されている。段部312は、ブラケット部材30の延出部304に対応し、端面320より段落ちしている。段部312の両端は、第1および第2の円柱状内面部310,311に連続している。図1に示すようにトーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2がブラケット部材30に連結された状態において、第1部材31Aおよび第2部材31Bの段部312は、互いに一体となって一対の延出部304を嵌入可能な凹嵌部を形成する。この凹嵌部に一対の延出部304を嵌入した後、第1部材31Aおよび第2部材31Bのネジ孔313および延出部304のネジ孔304Aにネジ306が締結される。そうすると、第1部材31Aおよび第2部材31Bが第1軸線S1および第2軸線S2を含む面を境界として合体し、第1の円柱状内面部310によってノズル111が覆われるとともに、第2の円柱状内面部311によってガイド部材201が覆われる。
【0048】
第1および第2のシールドガス導入路314,315は、端面320に対して溝状に形成されている。第1のシールドガス導入路314は、第1の円柱状内面部310のみに連通している。第2のシールドガス導入路315は、第2の円柱状内面部311のみに連通している。図1に示すようにトーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2がブラケット部材30に連結された状態において、第1部材31Aおよび第2部材31Bをブラケット部材30に取り付けて合体させると、第1のシールドガス導入路314は、連通孔316から第2シールドガス供給路G2へと続く孔を形成する。これにより、ガスボンベから供給されたシールドガスは、連通孔316から第1のシールドガス導入路314による孔を通り、第2シールドガス供給路G2へと導かれる。一方、第2のシールドガス導入路315は、連通孔317から第3シールドガス供給路G3へと続く孔を形成する。これにより、ガスボンベから供給されたシールドガスは、連通孔317から第2のシールドガス導入路315による孔を通り、第3シールドガス供給路G3へと導かれる。
【0049】
次に、上記アーク溶接用トーチA1の作用について説明する。
【0050】
図1に示すように、トーチ1は、図示しない溶接ロボットにより母材表面に対して溶接ワイヤが所定の突き出し長さyになるように支持され、溶接方向Fに所定の速度で移動させられる。
【0051】
その際、溶接ワイヤと母材との間にアークが発生し、このアークによって母材の溶接点P1周辺に溶融池(溶接ワイヤと母材とが溶けて溜まった部分)が形成される。
【0052】
一方、フィラーワイヤは、連結手段3を介してトーチ1に連結されたフィラーワイヤ繰り出し手段2により狙い位置P2に向けて突き出され、溶接点P1周辺に形成された溶融池に対して挿入される。なお、狙い位置P2は、高速溶接になるほど溶接点P1から溶接方向F反対側の遠い位置に設定され、高溶着溶接になるほど溶接点P1に対して近い位置に設定される。溶接点P1に対する狙い位置P2の設定距離xは、溶接点P1からたとえば2〜5mm程度の範囲内とされる。
【0053】
このとき、トーチ1の先端からは、第1シールドガス供給路G1を通ってきたシールドガスが溶接点P1の周りに噴出する。また、第1の円柱状内面部310に対応するカバー部材31の先端部分からは、第2シールドガス供給路G2を通ってきたシールドガスが溶接点P1の周りに噴出する。これらの第1シールドガス供給路G1および第2シールドガス供給路G2は、断面円環状の空間になっている。そのため、溶接点P1の周りには、円筒状の二重壁をなすようにシールドガスが噴出する。このシールドガスは、アークとともに溶融池を覆い、溶接雰囲気を大気から遮蔽する。これにより、シールドガスが十分な噴出量で安定して噴出させられ、ランニングコストの低減が図られる。この第2シールドガス供給路G2を流れるシールドガスは、ノズル111を冷却する作用も果たす。
【0054】
このときまた、第2の円柱状内面部311に対応するカバー部材31の先端部分からは、第3シールドガス供給路G3を通ってきたシールドガスがフィラーワイヤの狙い位置P2周辺に噴出する。第3シールドガス供給路G3は、第1シールドガス供給路G1や第2シールドガス供給路G2に対して仕切られた比較的狭い空間になっている。この第3シールドガス供給路G3からのシールドガスは、アークが消弧した後でフィラーワイヤが挿入される溶融池の冷却促進部分を大気から遮蔽する。これによっても、シールドガスが無駄なく安定して噴出させられるほか、健全な溶接ビードを形成することができる。この第3シールドガス供給路G3を流れるシールドガスは、フィラーガイド20を冷却する作用も果たす。
【0055】
上記のようにして溶接方向Fに移動させられるトーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2は、これらの大部分がカバー部材31により保護されるので、変形や損傷を生じるおそれがなく、フィラーワイヤの狙い位置P2を適正に保つことができる。
【0056】
上記アーク溶接用トーチA1は、次のようにして組み立てられる。
【0057】
まず、作業者は、ブラケット部材30の第1の孔300に対してトーチ1を挿入するとともに、このトーチ1の先端側にガイドチップ21が位置するように、ブラケット部材30の第2の孔301に対してフィラーワイヤ繰り出し手段2を挿入する。
【0058】
次に、作業者は、トーチ1のフランジ部110Bをブラケット部材30の端面に当接させ、トーチ1を第1軸線S1方向に位置決めした状態とする。その一方、作業者は、フィラーワイヤの狙い位置P2が溶接点P1に対して所定距離xとなるようにフィラーワイヤ繰り出し手段2を第2の孔301の中心軸方向に移動調整する。
【0059】
上記狙い位置P2に対してフィラーワイヤ繰り出し手段2の第2軸線S2方向の位置が決まると、作業者は、ブラケット部材30のネジ孔303にネジ305を締結する。これにより、トーチ1およびフィラーワイヤ繰り出し手段2は、第1および第2の孔300,301によって同時に狭持され、ブラケット部材30を介して互いに連結される。
【0060】
その際、フィラーワイヤの狙い位置P2を調整するには、ブラケット部材30におけるネジ305の締結を若干緩め、第2の孔301の中心軸方向にフィラーワイヤ繰り出し手段2を移動調整すればよい。たとえば図1においてフィラーワイヤ繰り出し手段2を下側に移動させると、ガイドチップ21が母材に対して近づくとともに、狙い位置P2が溶接点P1に対して遠ざかる。逆に、フィラーワイヤ繰り出し手段2を上側に移動させると、狙い位置P2が溶接点P1に対して近づく。作業者は、上記のようにして狙い位置P2の調整作業を容易に行うことができる。
【0061】
その後、作業者は、ブラケット部材30の延出部304に第1部材31Aおよび第2部材31Bの段部312をつき合わせ、この段部312に設けられたネジ孔313にネジ306を締結する。これにより、第1部材31Aおよび第2部材31Bは、互いに合体し、ノズル111およびフィラーガイド20を個別に覆うカバー部材31が形成され、アーク溶接用トーチA1の組み立てが完成する。ブラケット部材30およびカバー部材31は、上記とは逆の手順で容易に取り外すことができる。
【0062】
このようなブラケット部材30およびカバー部材31は、同種の他のトーチやフィラーワイヤ繰り出し手段に対しても取り付けることができ、汎用的に用いることができる。たとえば、トーチ1の第1シールドガス供給路G1によるシールドガスの噴出量が十分とされ、そのシールドガスによってフィラーワイヤが挿入される溶融池の冷却促進部分も大気から遮蔽される場合、第2シールドガス供給路G2および第3シールドガス供給路G3が不要になるため、カバー部材31を取り付けずにブラケット部材30のみを用いることができる。
【0063】
図8および図9は、本発明に係るアーク溶接用トーチの第2実施形態を示している。なお、本実施形態に示すアーク溶接用トーチA2は、先述した第1実施形態によるものとカバー部材31の構成が異なるだけである。
【0064】
具体的には、図9に示すように、第1部材31Aおよび第2部材31Bには、第1のシールドガス導入路314が形成されている一方、第2のシールドガス導入路が無く、第2の円柱状内面部311は、その先端側略半分がフィラーガイド20の先端側一部を露出させる形状になっている。このようなアーク溶接用トーチA2では、図8に示すように、フィラーガイド20の周囲に第3シールドガス供給路が形成されず、トーチ1の第1シールドガス供給路G1と第1の円柱状内面部310によって形成される第2シールドガス供給路G2とを通じてシールドガスが噴出させられる。このようなアーク溶接用トーチA2は、第1シールドガス供給路G1および第2シールドガス供給路G2からのシールドガスのみによって十分な遮蔽効果がある場合に有効であり、第3シールドガス供給路が設けられない分、シールドガスの噴出量が抑えられ、ランニングコストをより低減することができる。
【0065】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0066】
上記の各実施形態で示した構成は、あくまでも一例にすぎず、各請求項に記載した事項の範囲内での各部の変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0067】
たとえばトーチには、ブラケット部材に対して位置決め可能なフランジ部が設けられていなくてもよい。その場合、フィラーワイヤの狙い位置を調整する際には、トーチおよびフィラーワイヤ繰り出し手段の双方をブラケット部材における第1および第2の孔の中心軸方向に適当に移動調整すればよい。
【符号の説明】
【0068】
A1,A2 アーク溶接用トーチ
S1 第1軸線
S2 第2軸線
G1 第1シールドガス供給路
G2 第2シールドガス供給路
G3 第3シールドガス供給路
1 トーチ
10 給電チップ部
11 円筒状外套部
2 フィラーワイヤ繰り出し手段
20 フィラーガイド
21 ガイドチップ
3 連結手段
30 ブラケット部材
300 第1の孔
301 第2の孔
302 スリット
303 ネジ孔
31 カバー部材
31A 第1部材
31B 第2部材
310 第1の円柱状内面部
311 第2の円柱状内面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極としての溶接ワイヤを先端部から繰り出すトーチノズルと、このトーチノズルの先端部が指向する領域に向けてフィラーワイヤを繰り出すフィラーワイヤ繰り出し手段とを備えたアーク溶接用トーチであって、
上記トーチノズルと上記フィラーワイヤ繰り出し手段とを個別に被装し、かつ、これらを連結する連結手段を備えていることを特徴とする、アーク溶接用トーチ。
【請求項2】
上記トーチノズルは、上記溶接ワイヤを第1軸線方向に案内するとともに溶接電流を供給する給電チップ部と、この給電チップ部を囲繞するとともに第1軸線方向先端側の開口から上記溶接ワイヤを突出させる円筒状外套部とを有し、
上記フィラーワイヤ繰り出し手段は、上記フィラーワイヤを第2軸線方向に案内する管状のフィラーガイドと、このフィラーガイドの第2軸線方向先端側から上記領域に向けて上記フィラーワイヤを突出させるガイドチップとを有する、請求項1に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項3】
上記第1軸線は直線状であり、上記フィラーガイドの上記第2軸線方向基端側は、上記第1軸線に対して平行に配置される一方、上記フィラーガイドの上記第2軸線方向先端側は、先端に近づくにつれて上記第1軸線に近づくように延びている、請求項2に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項4】
上記連結手段は、上記円筒状外套部に対してクランプ式に連結されるのと同時に、上記フィラーガイドに対してクランプ式に連結されるブラケット部材を含む、請求項2または3に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項5】
上記ブラケット部材は、上記円筒状外套部が上記第1軸線方向に内挿される第1の孔と、この第1の孔に対して径方向に位置し、上記フィラーガイドが上記第2軸線方向に内挿される第2の孔と、上記第1の孔と上記第2の孔との間に形成され、これら第1および第2の孔に連通するとともにネジ孔が設けられたスリットとを有し、このブラケット部材は、上記ネジ孔にネジを締結すると、上記スリットが押圧されて上記第1および第2の孔が縮径するように構成されている、請求項4に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項6】
上記円筒状外套部および上記フィラーガイドのうち少なくともいずれか一方は、上記ブラケット部材に対して軸線方向の位置調節が可能である、請求項5に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項7】
上記連結手段はさらに、上記円筒状外套部および上記フィラーガイドの双方を全体的に囲繞するカバー部材を含む、請求項4ないし6のいずれかに記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項8】
上記カバー部材は、上記第1軸線および上記第2軸線を含む面を境界として分割可能な第1部材および第2部材を有し、
上記第1部材および上記第2部材は、上記ブラケット部材に取り付けられることにより互いに合体し、上記円筒状外套部および上記フィラーガイドのそれぞれを個別に囲う第1および第2の円柱状内面部を有する、請求項7に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項9】
上記給電チップ部と上記円筒状外套部との間には、第1シールドガス供給路が形成されるとともに、上記円筒状外套部とこれに対応する上記第1の円柱状内面部との間には、第2シールドガス供給路が形成される、請求項8に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項10】
上記フィラーガイドとこれに対応する上記第2の円柱状内面部との間にはさらに、第3シールドガス供給路が形成される、請求項9に記載のアーク溶接用トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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