説明

アースアンカーおよびその撤去方法

【課題】地下構造物の構築作業の終了後、アースアンカーを撤去しなければならない作業現場においても、アースアンカーを撤去しない場合と同様に、地下構造物構築時のコンクリートの打設を一度で終えることを可能にし、コンクリート打設後でも容易に撤去することができるアースアンカーおよびその撤去方法を提供する。
【解決手段】引張材11を支持する支圧板12と、山留め壁21との間に、前記引張材11を内部に挿通すると共に、前記支圧板12からの荷重を支える筒状部材13を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物を構築する際の、山留め壁の支持に用いられるアースアンカー、およびその撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削して地下構造物を構築するには、周囲に山留め壁を設置するなどして、地盤が崩れるのを防ぎながら作業をしなければならない。その際、山留め壁の壁面に横断方向に腹起しを設置し、山留め壁の背後にアースアンカーを打ち込んで引張材を緊張し、引張材の先端を腹起しの前に固定することによって山留め壁を支持する方法が一般的に用いられている。
【0003】
また、地下構造物の柱や壁は、山留め壁と山留め壁に平行に設けられた型枠との間にコンクリートを打設することで構築される。コンクリートを打設する時に、地山に打込まれているアースアンカーを撤去する必要は必ずしもないため、山留め壁から突出したアースアンカーの先端部を、コンクリートに埋没させた状態で壁や柱を構築してしまうことも可能である。そうすれば、アースアンカーの撤去作業に手間をとられない上に、型枠の上端まで一度にコンクリートを流し込めるので、短い時間で作業を終えることができる。
【0004】
ところが、構築作業を行う場所によっては、土地の境界線等の制約があるため、構築作業終了後にアースアンカーを撤去しなければならない場合がある。ここで、前述したようなコンクリート壁の構築方法を採用すると、アースアンカーがコンクリートに埋まってしまうので撤去することができなくなる。
【0005】
この問題に対処する手段として、山留め壁の横断方向に鉄筋を組み、アースアンカーを通すための筒を配置して、その上からコンクリートを打設することにより、アースアンカーの貫通孔を有すると共に、外壁躯体の一部となる鉄筋コンクリート製の腹起しを構築し、貫通孔からアースアンカーを打込んで山留め壁を支持した後に土砂の掘削を行い、掘り終えたら腹起しの下までコンクリートを打設し、コンクリートが硬化して直接土圧を支えられるようになったらアースアンカーを撤去し、最後に腹起しから上にコンクリートを打設して地下構造物の壁を構築する方法(特許文献1参照)等が従来から用いられている。
【特許文献1】特開平8−302689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、腹起しを鉄筋コンクリートで構築することもさることながら、コンクリートの打設作業を、アースアンカーの撤去の前後で二度に分けて行うことは、アースアンカーを撤去せずに一度にコンクリートを打設する場合と比べ、大変手間やコストがかかるものであった。
【0007】
本発明の課題は、地下構造物の構築作業の終了後、アースアンカーを撤去しなければならない作業現場においても、アースアンカーを撤去しない場合と同様に、地下構造物構築時のコンクリートの打設を一度で終えることを可能にし、コンクリート打設後でも容易に撤去することができるアースアンカーおよびその撤去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、構造物の構築作業終了後に、引張材を引き抜いて撤去することが可能なアースアンカーであって、前記引張材を支持する支圧板と、山留め壁との間に、前記引張材を内部に挿通すると共に、前記支圧板からの荷重を支える筒状部材を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアースアンカーであって、前記筒状部材の側面には孔が設けられることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアースアンカーであって、前記筒状部材は鋼管であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、山留め壁付近の地下構造物構築時に用いられるアースアンカーの撤去方法であって、引張材を支持する支圧板と、山留め壁との間に、前記引張材を内部に挿通すると共に、前記支圧板からの荷重を支える筒状部材を備えるアースアンカーを設置し、前記筒状部材の先端部が露出するようにコンクリートを打設し、前記筒状部材の先端部に設けられる孔から、前記筒状部材内を通る前記引張材を切断して引き抜くことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のアースアンカーの撤去方法であって、前記アースアンカーの設置前に、前記筒状部材に前記孔を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、底部から地上まで一度にコンクリートを打設しても、筒状部材によってアースアンカーの先端部をコンクリート壁面に露出させることが可能となるので、筒状部材の側面に孔を設けて、内側を通る引張材を切断して引き抜くことで、アースアンカーの撤去を容易に行うことができる。また、腹起しには通常のH形鋼等を用いることができ、特殊な作業を要しない。従って、地下構造物の構築作業における手間やコストが大幅に低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したアースアンカーの一実施形態の構成を示すもので、11は引張材、12は支圧板、13は筒状部材である鋼管、14は孔、21は山留め壁、22は腹起し、23はブラケット、24は台座である。図2は地下構造物の構築後のアースアンカーを示す断面図で、31はコンクリート壁である。
【0015】
山留め壁21は掘削箇所を囲むように設置され、周囲の地山からの土圧を支えるものである。山留め壁21の壁面には、二本の腹起し22が水平に、かつ上下並行に取り付けられている。腹起し22は下部に設けられたブラケット23によって数箇所で支えられている。腹起し22の前面には、後述するアースアンカー1を保持すると共に、アースアンカーからの荷重を受ける台座24が、アースアンカー1を打込む箇所に、上下の腹起し22の前面に取り付けられている。
【0016】
アースアンカー1は、台座24を通る引張材11、引張材11を先端部で支持する支圧板12、台座11と支圧板12に挟まれた鋼管13から概略構成されている。アースアンカー1は除去式のものであって、一本の引張材11を図示しない先端の耐荷体で折り曲げてU字状にしたものの両端を、支圧板12で支持しているので、一方を切断し、もう一方を引っ張ることで除去が可能となっている。
【0017】
鋼管13は、後述するコンクリート壁31の壁面から先端部が露出できる程度の長さとなるよう、設計図等であらかじめコンクリート壁の厚さを確認した上で製作し取り付ける。また、鋼管13の内部には引張材11が通されていて、先端部の側面には孔14が設けられているので、孔14から引張材11を目視することができる。
【0018】
次に、地下構造物の構築から、アースアンカーの撤去までの流れを説明する。図1に示すような形にアースアンカーが設置され、山留め壁の内側の掘削が終了すると、地下構造物の構築に入る。地下構造物は鉄筋コンクリート造である。
【0019】
まず、地下構造物の柱や壁となる位置に図示しない鉄筋を組む。地下構造物の柱や壁は山留め壁に隣接して構築されるため、組まれる鉄筋は台座24、腹起し22や鋼管13の一部にかかることになる。
【0020】
鉄筋を組み終わったら、図示しない型枠を組んでコンクリートを打設する。コンクリートは図2に示すように、鋼管13の先端部および孔14を残して、背後の山留め壁21までの間を全て充填する。このとき、孔14からコンクリートが鋼管13内に入り込まないよう注意する。このコンクリートが硬化すると、アースアンカー1に代わりに土圧を受けて地盤を支えることのできる強固なコンクリート壁31となる。
【0021】
コンクリート壁31が、土圧に十分耐えられるものであることが確認できたら、アースアンカー1の撤去作業に入る。孔14から見える引張材11の内、一本を切断する。前述したとおり、本実施例で用いるアースアンカー1は除去式のものであるため、切断しなかったもう一本の引張材11を孔14から手繰り寄せることで引き抜くことができる。この作業を繰り返すことでアースアンカー1の撤去が完了する。
【0022】
アースアンカー1の撤去後に残る鋼管13は不要となるので、先端部を切断して内部を埋め戻し、滑らかな壁面としてもよいし、地下構造物の内側方向に新たな壁を設けて埋めてしまってもよい。
【0023】
なお、以上の実施形態においては、あらかじめ鋼管の側面に孔を設けることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、コンクリートの打設後に孔を設けるようにしても良い。
また、アースアンカーの本数、打込み箇所、打込み角度、腹起しや台座の形状、使用の有無等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した一実施形態の構成を示す断面図である。
【図2】地下構造物構築後で、撤去される前のアースアンカーを示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 アースアンカー
11 引張材
12 支圧板
13 鋼管(筒状部材)
14 孔
21 山留め壁
22 腹起し
23 ブラケット
24 台座
31 コンクリート壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の構築作業終了後に、引張材を引き抜いて撤去することが可能なアースアンカーであって、前記引張材を支持する支圧板と、山留め壁との間に、前記引張材を内部に挿通すると共に、前記支圧板からの荷重を支える筒状部材を備えることを特徴とするアースアンカー。
【請求項2】
前記筒状部材の側面には孔が設けられることを特徴とする請求項1に記載のアースアンカー。
【請求項3】
前記筒状部材は鋼管であることを特徴とする請求項1または2に記載のアースアンカー。
【請求項4】
山留め壁付近の地下構造物構築時に用いられるアースアンカーの撤去方法であって、引張材を支持する支圧板と、山留め壁との間に、前記引張材を内部に挿通すると共に、前記支圧板からの荷重を支える筒状部材を備えるアースアンカーを設置し、前記筒状部材の先端部が露出するようにコンクリートを打設し、前記筒状部材の先端部に設けられる孔から、前記筒状部材内を通る前記引張材を切断して引き抜くことを特徴とするアースアンカーの撤去方法。
【請求項5】
前記アースアンカーの設置前に、前記筒状部材に前記孔を設けることを特徴とする請求項4に記載のアースアンカーの撤去方法。

【図1】
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【図2】
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