説明

アーチコンクリートの養生方法及び養生剤吹き付け装置

【課題】従来のアーチコンクリート養生方法では、アーチコンクリートの内側にシートを張ったり、取り外したりする面倒があった。
【解決手段】セントルに装備した吹き付け装置からアーチコンクリート内面7に養生剤5を吹き付けて付着させ養生剤5が滴下しないようにし、養生剤5でアーチコンクリート内面7側の乾燥を抑制してアーチコンクリート6を効率良く養生するようにした。上方開口樋状のガイド2をアーチコンクリート打設用セントルの後端側又は後端部よりも後方突出位置に設けて配置した。この場合、上方開口部をアーチコンクリート6に向けて配置して、複数のノズル4が設けられた吹き付け管又はホース3を配置して、そのノズル4から養生剤5を噴出すると養生剤5がアーチコンクリート内面7に吹き付けられて付着するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネルの内側に打設した覆工コンクリート(アーチコンクリート)の内面に養生剤を吹き付けてアーチコンクリートの乾燥を抑制しながらアーチコンクリートを養生する方法と、それに使用されるアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルは、通常は、掘削された岩盤、岩盤内面に吹き付けられた一次覆工コンクリート、一次覆工コンクリートの内側に張られた止水シート、止水シートの内側に打設した二次覆工コンクリート(アーチコンクリート)の層構造になっている。アーチコンクリートを打設する場合は止水シートの内側にコンクリート打設用型枠(セントル)を配置し、セントルと止水シートとの間の空間にセントルの窓及び注入口から生コンクリートを注入(打設)している。
【0003】
アーチコンクリートは打設したままではトンネル巻厚方向岩盤側と空気にさらされる内面側の乾燥収縮の相違及びセメントの水和反応過程における収縮により、アーチコンクリート内面にクラックが生じ易い。クラックの発生を抑制するために従来はアーチコンクリート内面に蒸気或いは水を噴射、又、空気でアーチ状に膨らませたバルーンをコンクリート面に密着させ、アーチコンクリートの保湿・保温を確保して養生している(特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−54384
【特許文献2】特開2005−90146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の養生方法では特許文献1に記載のように、アーチコンクリート内面に噴射した水がセントルの上やトンネル内に滴下するため、アーチコンクリートの内側にシートを張ってから水を噴射して前記滴下を受け、水分乾燥後はシートを取り外している。この作業は非常に面倒である。又、特許文献2ではバルーンの移動、設置に手間がかかり、又、バルーンの固定には固定設備が必要となりコストがかかる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はシートを張らなくても吹き付けた液体が滴下せず、作業性に優れた養生方法と、それに使用する養生剤吹き付け装置を提供することにある。
【0007】
本発明のアーチコンクリート養生方法は、セントルに装備した吹き付け装置からトンネルのアーチコンクリート内面に養生剤を吹き付けて付着させ養生剤が滴下しないようにし、養生剤でアーチコンクリート内面側の乾燥を抑制してアーチコンクリートを養生するようにした。この場合、請求項1記載のアーチコンクリートの養生方法において、コンクリート打設後に次のコンクリート打設区間にセントルを移動させるときに、先に打設されたアーチコンクリートにセントルに装備した吹き付け装置から養生剤を吹き付けて養生剤をセントルの移動に合わせてアーチコンクリート内面に連続的に付着させる。
【0008】
本発明のアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置は、上方開口樋状のガイドをアーチコンクリート打設用セントルの後端側又は後端部よりも後方突出位置に設け、ガイドはその上方開口部をアーチコンクリートに向けてセントルの周方向に配置し、ガイドに複数のノズルが設けられた吹き付け管又はホースを配置して、そのノズルから養生剤を噴出すると養生剤がアーチコンクリート内面に吹き付けられて付着するようにした。養生剤噴出終了後にノズルから洗浄液(例えば水)を噴射してノズルを洗浄しノズルの詰まりを防止することができる。この場合、ガイドにノズルの上方を開閉可能なシャッターを設けて、ノズル洗浄時にシャッターでノズル上方を閉じて洗浄液がアーチコンクリート内面にかかり、付着した養生剤が落ちないようにし、養生剤噴出時にはシャッターを開いて養生剤がアーチコンクリート内面に吹き付けられて付着するようにしてある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の養生方法は次のような効果がある。
1.養生剤がアーチコンクリート内面に吹き付けられて付着するので滴下せず、アーチコンクリートの下にシートを張る必要がなく、シートを張ったり取り外したりする面倒がない。
2.コンクリート打設後に次のコンクリート打設区間にセントルを移動させるときに、先に打設されたアーチコンクリートにセントルに装備した吹き付け装置から養生剤を吹き付けるので、養生剤をセントルの移動時に容易に連続噴射することができ、吹き付け作業効率が向上する。
【0010】
本発明の養生剤吹き付け装置は次のような効果がある。
1.複数のノズル付き吹き付け管又はホースを、セントルの後端部又は後端部後方突出位置にセントルの周方向に沿って配置したガイドに沿って配管したので次のような効果がある。
(1)ノズルから噴出する養生剤をセントルに装備した吹き付け装置からアーチコンクリート内面に吹き付けることができ、セントル移動時にアーチコンクリート内面に連続吹き付けするのに適する。
(2)吹き付け管又はホースはセントル移動時にガイドと共に移動するので絡まったり折れ曲がったりせず養生剤が円滑に噴射される。
2.上方開口樋状のガイドを、上方開口部をアーチコンクリート側に向けて配置したので、アーチコンクリート内面まで届かずに途中から落下する養生剤をガイドで回収することができ、養生剤のリサイクルで無駄が低減し、コストダウンになる。
3.ノズルの上方を開閉可能なカバーを設けたので、カバーを開いてノズル上方を開放すれば養生剤をアーチコンクリート内面周に吹き付けることができ、カバーでノズル上方を閉じればノズルから洗浄液を噴射しても洗浄液はアーチコンクリート内面周にかからず、アーチコンクリート内面周に吹き付けた養生剤を洗い流すことなくノズルを洗浄して目詰りを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(アーチコンクリートへの養生剤吹き付け方法の一実施例)
本発明のアーチコンクリートへの養生剤吹き付け方法の一例を図面に基づいて説明する。この養生剤吹き付け方法は図1のようにセントル1の後端部周方向に配置した4つのガイド2内に配管されたホース3(図5)のノズル4(図4、図5)から、養生剤5をアーチコンクリート6の内面7(図4)に吹き付けて付着させるようにしてある。この吹き付けはコンクリート打設後に次のコンクリート打設区間にセントル1を移動させるときに、先に打設されたアーチコンクリート6の内面7打設進行方向に養生剤を連続的に吹き付けることができる。
【0012】
前記ノズル4は図5のようにアーチコンクリート6の周方向に横広がりに噴射できるものであり、隣接するノズル4から噴射される養生剤5が横方向両端部でオーバーラップしてアーチコンクリート6の内面7の周方向に切れ目なく付着できるようにしてある。養生剤5は、アーチコンクリート6の内面7に付着し易い性質のものが適し、例えば、コンクリート表面養生剤として市販されているバーティキュア((株)ノックス製)とか、フィニッシュコート(花王(株)製)等が適する。ノズル4から噴出される養生剤5の吐出圧、吐出量、吐出時間等はアーチコンクリート6内径とか養生剤5の軟らかさといった各種噴射条件により選択される。
【0013】
(養生剤吹き付け装置の一実施例)
本発明のアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置の一実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置は、アーチコンクリート6の内面7の周方向に沿って配置した横長弧状のガイド2と、ガイド2内に配管したホース3(図5)と、ホース3に取り付けられているノズル4(図5)を備えている。
【0014】
4本のガイド2は長さは異なるが形状はいずれも同じであり、図5、図6(a)、(b)のように底板8と背の低い外壁9と背の高い内壁10で囲まれた上方開口樋状であり、アーチコンクリート6(図3)の周方向に湾曲する細長である。これらガイド2は図4のようにセントル1の後端部11(図4)から後方に張り出した支持台12の上の支柱13の上に配置固定されている。
【0015】
前記支持台12は図1に示すように板状(フロアー材)であり、セントル1の後端部内周面に固定されている支持材14(図1)の上に、セントル1の後端部11(図2、図4)よりも後方に張り出させて(突出させて)取り付けてある。
【0016】
前記支柱13は図1、図5に示すように前記支持台12の上に立設固定してある。支柱13には角パイプ、丸パイプ、他の形状の鋼材等を使用することができる。
【0017】
前記支柱13の上には図4〜図6に示すように支持材14が下向きに配置固定されている。支持材14はガイド2の湾曲に沿って湾曲している。支持材14にはコ字形の鋼材が適するが角材、H型鋼等の他の各種形状鋼材を使用することもできる。
【0018】
前記支持材14の上には板状の支持具15(図5、図6)が縦向きに配置固定されている。支持具15は図5のように前記支持材14の湾曲方向に間隔をあけて多数枚配置固定されている。支持具15の固定にはボルト・ネジ等の固定具16が使用されている。支持具15には板材や他の形状の鋼材等を使用することができる。
【0019】
前記支持具15には支持アーム17(図5、図6)が横向きに固定され、支持具16の先端には方形板状の保持具18(図5、図6)が固定されている。支持アーム16には丸や角のパイプ、棒等を使用することができ、保持具18には板材以外の物を使用することもできる。
【0020】
前記支持具15の上面15a(図6(b))及びガイド2の背の低い外壁9の上面9a(図6(a)、(b))の上にはシャッター19が配置されている。シャッター19にはガイド2の周方向に湾曲するL字状の横長板が使用されている。シャッター19の縦板20にはコ字状の取っ手21(図6(a)、(b))が横向きに取り付けられており、図6(a)の状態で取っ手21を背の高い内壁10側に押すとシャッター19が支持具15の上面15a(図6(b))及びガイド2の外壁9の縦板9aの上を滑って図6(b)のように樋状のガイド2の上に押し出されてガイド2の上方開口部2a(図6(a)、(b))を閉じ、取っ手21を引き戻すとシャッター19がその縦板20の上を滑って図6(a)の位置に引き戻されてガイド2の上方開口部2aが開放されるようにしてある。図6(b)のようにガイド2の上に押出されたシャッター19はその縦板20が図6(b)のように保持具18に突き当たってそれ以上は押出されず、その位置に保持されて安定するようにしてある。
【0021】
前記ホース3(図6(a)、(b))は図1、図3に示す4つのガイド2の夫々の上方開口溝22(図6(a)、(b))の内部に配管されている。ホース3には樹脂製、ゴム製、フレキシブルな金属製のもの等を使用することができる。ホース3の長手方向には間隔を空けて複数のノズル4(図5)が取り付けられている。図1、図3のように4本のガイド2に配管された4本のホース3は図7のように根元側で纏めて1本にして養生剤用ポンプP1に連結してあり、このポンプP1によって養生剤タンクT1から送出される養生剤が夫々のホース3に分配されるようにしてある。夫々のノズル4は図示されていない開閉栓で開閉可能であり、開閉栓の開閉操作によりノズル4から養生剤を噴出・停止させることができるようにしてある。
【0022】
前記ホース3の根元は洗浄液用ポンプP2(図7)にも連結されており、ポンプP2によって洗浄液タンクT2から送出される洗浄液(例えば水)が夫々のホース3に分配されるようにしてある。洗浄液の供給と養生剤の供給は切替栓23の切替えにより行うことができるようにしてある。
【0023】
図1〜図3の24はトンネル内に設置されたセントル用架台であり、打設時のコンクリート圧力を受けると共にセントル1をトンネルの抗口側と切羽側に前後移動させるためのものである。図3の25は生コン車である。
【0024】
図1〜図4の養生剤吹き付け装置はセントル1の後方に張り出して設置してあるが、養生剤吹き付け装置はセントル1の後端部11(図4)よりも多少内側に設置し、ノズル4をセントル1の後方に向けて設置して、養生剤がノズル4からセントル1の後方のアーチコンクリート6の内面7に向けて噴出されるようにしている。作業上、養生剤吹き付け装置は後端部より張り出した位置に設置してもよい。
【0025】
図1〜図6の養生剤吹き付け装置のノズル4から養生剤を噴出してセントル1の後方のアーチコンクリート内面に付着させるには、養生剤タンクT1(図7)内の養生剤を養生剤用ポンプP1でホース3内に圧送し、ノズル4の開閉栓を開いてノズル4から養生剤をアーチコンクリート6の内面7に向けて噴出する。このとき図5のように隣接するノズル4から噴出される養生剤の幅方向両端側をオーバーラップさせて、養生剤がアーチコンクリート6の内面7全周に切れ目なく吹き付けられるようにする。この噴出をセントル1の移動時に連続的に行えば、養生剤がセントル1の移動に伴ってアーチコンクリートの打設進行方向に連続的に吹き付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の養生剤吹き付け装置を備えたセントルの後端側斜視説明図。
【図2】本発明の養生剤吹き付け装置を備えたセントルの後端側側面図。
【図3】本発明の養生剤吹き付け装置を備えたセントルの後端方向縦断面図。
【図4】本発明の養生剤吹き付け装置を備えたセントルの後端側詳細側面図。
【図5】本発明の養生剤吹き付け装置の一部斜視図。
【図6】(a)は本発明の養生剤吹き付け装置のシャッターを開いた状態の部分説明図、(b)はシャッターを閉じた状態の部分説明図。
【図7】本発明の養生剤吹き付け装置におけるポンプとホースとの配管説明図。
【符号の説明】
【0027】
1 セントル
2 ガイド
2a ガイドの上方開口部
3 ホース
4 ノズル
5 養生剤
6 アーチコンクリート
7 アーチコンクリートの内面
8 底板
9 外壁
9a 外壁の上面
10 内壁
11 セントルの後端部
12 支持台
13 支柱
14 支持材
15 支持具
15a 支持具の上面
16 固定具
17 支持アーム
18 保持具
19 シャッター
20 シャッターの縦板
21 取っ手
22 ガイドの上方開口溝
23 切替栓
24 セントル用架台
25 生コン車
P1 養生剤用ポンプ
T1 養生剤タンク
P2 洗浄液用ポンプ
T2 洗浄液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セントルに装備した吹き付け装置からトンネルのアーチコンクリート内面に養生剤を吹き付けて付着させることにより、アーチコンクリート内面側の乾燥を抑制してアーチコンクリートを養生することを特徴とするアーチコンクリートの養生方法。
【請求項2】
請求項1記載のアーチコンクリートの養生方法において、コンクリート打設後に次のコンクリート打設区間にセントルを移動させるときに、先に打設されたアーチコンクリートにセントルに装備した吹き付け装置から養生剤を吹き付けて付着させて養生することを特徴とするアーチコンクリートの養生方法。
【請求項3】
トンネルのアーチコンクリート内面に養生剤を吹き付けるアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置において、上方開口樋状のガイドがアーチコンクリート打設用セントルの後端部又は後端部よりも後方突出位置に設けられ、ガイドはその上方開口部がアーチコンクリートに向けてセントルの周方向に配置され、ガイドには複数のノズルが設けられた吹き付け管又はホースが配置されたことを特徴とするアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置。
【請求項4】
請求項3記載のアーチコンクリートへの養生剤吹き付け装置において、ガイドにノズルの上方を開閉可能なシャッターを備えたことを特徴とする覆工コンクリートへの養生剤吹き付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−52269(P2009−52269A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219408(P2007−219408)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504302510)株式会社佐賀 (1)
【Fターム(参考)】