説明

アーチ形ロックシェッド及びその構築方法

【課題】交通遮断時間を最小限に止めることができると共に高強度、高耐衝撃性を有するプレキャストコンクリートロックシェッドを提供する。
【解決手段】ロックシェッド10は軸方向及び周方向に分割した円弧板状プレキャストコンクリート部材21、22、23からなり、この部材21、22、23は周方向に並列した主鋼管列及びこれらを貫通する軸方向補助鋼管を内蔵し、隣接部材との間にはフランジ結合部を備えている。コンクリートは高靱性複合セメント系材料を用いると耐衝撃性が高く、好ましい。車輌運行を妨げない位置でこのアーチ形ロックシェッド10を門形支保工上で組立てて、構築位置に搬送すると、交通遮断時間は最小限となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂の崩落、落石又は雪害等に対して交通路を被覆保護するアーチ形ロックシェッド及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山地や渓谷等に設けられる交通路では、土砂の崩落、落石又は雪害等に対して人や車両等を保護するために交通路上を覆うロックシェッドを設ける場合がある。ロックシェッドは、落石等により大きな衝撃を受けるため、高い強度を要すると共に、すぐれた耐衝撃性や緩衝性能が望まれている。
【0003】
コンクリート構造のロックシェッドでは、必要な柱等を立設して支持部を形成し、この支持部に梁やスラブの両端を支持させ、その上に緩衝材料を載置した構造などがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このようなロックシェッドでは、現場打ちコンクリート施工が主体となるため、交通路の長時間の交通遮断が必要となるという問題がある。プレキャストPC梁を用いたロックシェッドは、高強度で弾力性に富み、復元性も高いので好ましく、交通遮断時間も現場打コンクリートで施工する場合に比し短時間でよいが、さらに交通遮断時間を減少させる技術が望まれている。
【0005】
また高強度、高靭性、高剛性、高捩り剛性を有する複合材料から成る構造用部材がある(例えば引用文献2参照。)。
【0006】
この技術は鋼材と短繊維補強コンクリートとの二層一体構造の部材である。短繊維補強コンクリートはポリビニールアルコール、ポリエチレン、鋼繊維等の短繊維を混入したコンクリートである。
【特許文献1】特許第2667101号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献2】特開2003−41708号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、現場で構築するときに、交通遮断時間を最小限に止めることができると共に高強度、高耐衝撃性を有するプレキャストコンクリート部材から成るアーチ形ロックシェッドを開発し、これを提供することを目的とするものである。
【0008】
また本発明は、このようなアーチ形ロックシェッドを用い、交通遮断時間を最小限に留めることができるロックシェッドの構築方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とするアーチ形ロックシェッドである。すなわち、本発明は、軸方向及び周方向に分割した円弧板状プレキャストコンクリート部材を組立てて構成され、該部材は周方向に並列した複数列の主鋼管及び該主鋼管列を貫通する軸方向補助鋼管を内蔵し、周方向隣接部材との結合端部にフランジ結合部を備え、基礎との結合端部に基礎に着脱自在に固定する構造を備えたことを特徴とするアーチ形ロックシェッドである。
【0010】
このロックシェッドの円弧板状プレキャストコンクリート部材は、例えば、アーチを3分割するセグメントピースから成り、そのセグメントピースのロックシェッド軸方向の寸法は作業性を考慮した適宜の寸法とする。この円弧板状プレキャストコンクリート部材を構成する骨組は複数列の湾曲した主鋼管とし、その端部に隣接部材との結合フランジ等を備えている。またこの円弧板状プレキャストコンクリート部材の基礎との結合端部には基礎に着脱自在に固定する固定構造を備えている。
【0011】
なお、この円弧板状プレキャストコンクリート部材は、主鋼管列を横に貫通する補助鋼管を内蔵している。さらに主鋼管の表面に溶接固定され、主鋼管群を囲繞する鉄筋を内蔵することとすると、好適である。
【0012】
また、この円弧板状プレキャストコンクリート部材は、コンクリートとして高靱性複合セメント系材料を用いると、高強度、高耐衝撃性及び高靱性となるので、好ましい。
【0013】
前記補助鋼管の隣接部材との接続目地部には充填材を充填する凹部を設けると、ロックシェッドの軸方向の継目の接続、組立が容易で隣接部材と一体化することができる。充填材としては、例えば有機ファイバ混入モルタルなどを用いるとよい。
【0014】
本発明のアーチ形ロックシェッドの構築方法は、ロックシェッド施工交通路の両側部に軌条を敷設し、車輌が通行可能な内法寸法を有する門形支保工を該軌条上に移動可能に載置し、該門形支保工上でアーチ形ロックシェッドを組立てることを特徴とするアーチ形ロックシェッドの構築方法である。
【0015】
この門形支保工は交通路上を跨ぎ、その内法寸法は、車輌が通行できる寸法を有し、上記ロックシェッドの構築作業中でも交通遮断をすることなく、交通遮断時間を最小限に留めることができる。
【0016】
また、車輌通行を妨げない位置にロックシェッド組立位置を設け、前記軌条を組立位置まで延設し、ロックシェッド組立位置で門形支保工上に自由にアーチ形ロックシェッドを高能率で組立て、組立体を載せた門形支保工をロックシェッド構築位置まで移動して据付けるようにすると、交通遮断時間をさらに短縮することができ、好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアーチ形ロックシェッドは、以上のように、円弧板状プレキャストコンクリート部材の組合せ体から構成されているので、組立、据付が容易で、高強度、高耐衝撃性であるから、極めて有用である。
【0018】
本発明方法によれば、現場でロックシェッドを構築するときに、交通遮断時間を最小限に留めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は本発明の実施例のアーチ形ロックシェッドを示す斜視図、図2はその正面図である。
【0021】
本発明のアーチ形ロックシェッド10は、図1、図2に示すように、周方向に分割した円弧板状プレキャストコンクリート部材21、22、23を周方向に結合してアーチ形とし、その両脚を基礎31、32に結合して自立している。図1、図2では一方の脚は基礎31上に埋込固定し、他方の脚は基礎32とブラケット33、34を介して着脱自在に結合している。この円弧板状プレキャスト部材21、22、23からなるアーチをロックシェッド軸方向で隣接する部材21a,22a,23aからなるアーチなど先行するアーチに順次連接してロックシエッド10を構成する。
【0022】
図3にこれらプレキャストコンクリート部材20(21、22、23)の横断面図を示した。プレキャストコンクリート部材20(21、22、23)はそれぞれ周方向に沿って湾曲した複数列(図3では4列)の主鋼管から成る骨組を内蔵している。また、主鋼管51の列をロックシェッド軸方向に貫通する補助鋼管52を内蔵している。
【0023】
主鋼管51の外周に接する位置で溶接して主鋼管51を囲繞する鉄筋53及び補助鉄筋54を取付け、コンクリート55を打設して、これらを内蔵するプレキャストコンクリート部材20を容易に製造することができる。このプレキャストコンクリート部材20は主鋼管51を周方向主構とするアーチ形なので、落石、崩落物又は積雪等によって加えられる外力に対して強度が大きく、耐衝撃性に富み、ロックシェッドとして優れた性能を有する。
【0024】
なお、図3において、コンクリート55として高靱性複合セメント系材料を用いてもよい。高靱性複合セメント系材料は、短繊維補強コンクリートからなるもので、例えば、繊維径600μm程度×繊維長30mm程度の鋼繊維、繊維径40μm程度×繊維長12mm程度のポリビニールアルコール繊維又は繊維径12μm程度×繊維長12mm程度のポリエチレン繊維等を混入したコンクリートである。この高靭性複合セメント系材料を用いた円弧板状プレキャストコンクリート部材20は、すぐれた高強度を有し、高靭性、高剛性を併有する。
【0025】
また、高靭性複合セメント系材料は一時的にひび割れが発生したとしても、マイクロクラックとして分散し、除荷後は鋼材の弾性により復元する特性を有する。なお、主鋼管51は内部にコンクリートを充填して強度向上を図ってもよく、また補強のためにまち受け型アンボンドPC鋼材を設置することも可能である。また図3に示す技術は斜面崩壊防止施策に応用することも可能である。
【0026】
図4は隣接するプレキャストコンクリート部材、例えば、部材22、23の結合部を示した説明図である。主鋼管51は、図4に示すように、周方向隣接部材との継手部60にはフランジ継手62を備えている。フランジ継手62はロックシェッドの組立時に容易に強固に部材同士を結合することができる。
【0027】
また図5に示すように、基礎32との結合端部には基礎に着脱自在に固定する構造を備えている。図5の例では、基礎32内に雌ねじを備えた固定金物35を埋設しておき、この固定金物35の雌ねじに螺合するボルト63でプレキャストコンクリート部材23の脚部37を固定した例を示している。これは1例であって、図1、図2に示したブラケットを用いる構造その他公知の着脱自在な固定手段を用いることができる。
【0028】
図6はロックシエッド軸方向の隣接部材21、21a間の目地70の構造を示す説明図である。プレキャストコンクリート部材21、21aの補助鋼管52の端部が露出する対向凹部71を設け、この目地70及び対向凹部71内に充填材72を充填して結合する。
【0029】
次に、本発明のアーチ形ロックシェッド10の構築方法について図2を参照して説明する。
【0030】
アーチ形ロックシェッド10を構築すべき位置の交通路45の両側に軌条43を敷設する。軌条43上に車輪42を介して門形支保工41載置する。門形支保工41上に、円弧状プレキャスト部材22を支持装置44を介して載置固定し、これに結合する円弧状プレキャスト部材21、23を組み合わせ、その周方向継手部60で部材同士を結合する。
【0031】
次いで、アーチ形ロックシェッド10の両脚を基礎31、32と結合する。同時並行的に隣接する既施工ロックシェッドとの結合目地に充填材充填を行う。
【0032】
アーチ形ロックシェッド10の固定が完了したら支持装置44を縮小し、門形支保工41をアーチ形ロックシェッドの次の組立位置に移動させる。
【0033】
以上の繰返しにより、交通路の交通遮断を殆んど行うことなく、本発明のロックシェッドの構築を行うことができる。
【0034】
なお、交通路45の交通を妨げない位置にアーチ形ロックシェッド10の組立位置を設け、そこまで軌条43を延設してもよい。そして、組立位置でアーチ形ロックシェッド10を組立て、これを載置した門形支保工41を軌条43上を車輪42によって移動させてロックシェッド10の構築位置まで搬送して据付けることにより、組立作業設備や場所の制約がなく、また交通遮断時間をさらに短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例のアーチ形ロックシェッドを示す斜視図である。
【図2】実施例のアーチ形ロックシェッドを示す正面図である。
【図3】実施例のアーチ形ロックシェッドの部材の断面図である。
【図4】実施例のアーチ形ロックシェッドの部材の周方向結合部の説明図である。
【図5】実施例のアーチ形ロックシェッドの部材の基礎との結合部の説明図である。
【図6】実施例のアーチ形ロックシェッドの部材の軸方向結合部の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
10 アーチ形ロックシェッド
20、21、22、23、21a、22a 円弧板状プレキャストコンクリート部材
31、32 基礎
33、34 ブラケット
35 固定金物
36 ボルト
37 脚部
41 門形支保工
42 車輪
43 軌条
44 支持装置
45 交通路
51 主鋼管
52 補助鋼管
53、54 鉄筋
55 コンクリート
60 周方向継手部
61 鋼管
62 フランジ継手
70 目地
71 凹部
72 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向及び周方向に分割した円弧板状プレキャストコンクリート部材を組立ててなり、該部材は周方向に並列した複数列の主鋼管及び該主鋼管列を貫通する軸方向補助鋼管を内蔵し、周方向隣接部材との結合端部にフランジ結合部を備え、基礎との結合端部に基礎に着脱自在に固定する構造を備えたことを特徴とするアーチ形ロックシェッド。
【請求項2】
前記補助鋼管の隣接部材との接続目地部には充填材を充填する凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載のアーチ形ロックシェッド。
【請求項3】
ロックシェッド施工交通路の両側部に軌条を敷設し、車輌が通行可能な内法寸法を有する門形支保工を該軌条上に移動可能に載置し、該門形支保工上でアーチ形ロックシェッドを組立てることを特徴とするアーチ形ロックシェッドの構築方法。
【請求項4】
車輌通行を妨げない位置にロックシェッド組立位置を設け、前記軌条を該組立位置まで延設したことを特徴とする請求項3記載のアーチ形ロックシェッドの構築方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−161328(P2006−161328A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351582(P2004−351582)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】