説明

アーティキュレート式ダンプトラック

【課題】トンネル工事に適した排ガス量が少なく、低騒音、低振動のアーティキュレート式ダンプトラックを提案すること。
【解決手段】アーティキュレート式ダンプトラック1は、走行用の駆動源として走行用電動モータ11を使用すると共に、ステアリングおよびダンプ動作用の油圧ポンプ15の駆動源としてポンプ駆動用電動モータ12を用いている。ディーゼルエンジン17としては、発電機16を駆動して充電式バッテリ13を充電可能な排気量を備えた小型のものでよい。大排気量のディーゼルエンジンを用いて走行およびステアリングのための駆動力を発生させて大型の減速機を備えたパワートレインを介して前後の駆動輪を駆動する場合に比べて、排ガス、振動、騒音を低減でき、トンネルなどの閉ざされた作業空間での作業における環境負荷を大幅に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよび電動モータを備えたハイブリッド方式の作業車両に関し、特に、トンネル、大型地下土木作業などのオフロード作業に使用されるアーティキュレート式ダンプトラックの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトなどの土木、建築工事などに用いられる作業車両としては、駆動源としてエンジンおよび電動モータを備えたハイブリッド方式のものが提案されている。ハイブリッド方式には、電動モータの駆動力を走行用に用い、エンジンの駆動力を電動モータの駆動用電力を発生させるために用いるシリーズ方式と呼ばれるものと、電動モータおよびエンジンの動力を走行力に直接使用するパラレル方式と呼ばれるもの、および、これらの方式が組み合わされたスプリット方式と呼ばれるものが知られている。特許文献1には、エンジンが発生する動力と、電動機が発生する動力との間の配分制御を容易に行うことのできるハイブリッド式作業車両が提案されている。
【0003】
ここで、作業車両としては、山岳トンネル工事などにおいて使用されるアーティキュレート式ダンプトラックが知られている。特許文献2、3にはこの形式ダンプトラックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4072183号公報
【特許文献2】特開2007−186078号公報
【特許文献3】特開2001−151166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アーティキュレート式ダンプトラックは一般に大型のディーゼルエンジンを搭載しており、排ガス、騒音、振動が大きく、閉鎖されたトンネル内などで使用されるので、坑内の作業環境を劣化させる大きな要因となっている。しかしながら、アーティキュレート式ダンプトラックに起因する作業環境負荷低減のための対策、取り組みは何らなされていないのが現状である。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、排ガス、騒音、振動を低減して環境負荷を低減するのに適したアーティキュレート式ダンプトラックを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のアーティキュレート式ダンプトラックは、
運転用キャビンが搭載されている前側車体と、
車体後方へのダンプ動作が可能なベッセルが搭載されている後側車体と、
前記前側車体および前記後側車体の間を連結している車体上下方向に延びる連結軸と、
前記連結軸を中心として前記前側車体および前記後側車体を相対的に車幅方向に揺動させる油圧式ステアリング機構と、
前記ベッセルのダンプ動作を行わせる油圧式ダンプ機構と、
前記油圧式ステアリング機構および前記油圧式ダンプ機構を駆動する油圧ポンプと、
前記前側車体を支持している前側駆動輪および前記後側車体を支持している後側駆動輪を駆動するための走行用電動モータと、
前記油圧ポンプを駆動するポンプ駆動用電動モータと、
前記走行用電動モータおよび前記ポンプ駆動用電動モータに電力を供給する充電式バッテリと、
前記充電式バッテリを充電するために、ディーゼルエンジンによって駆動される発電機と、
前記走行用電動モータおよび前記ポンプ駆動用電動モータに対する給電制御、並びに前記充電式バッテリの充電制御を行う制御装置とを有していることを特徴としている。
【0008】
本発明のアーティキュレート式ダンプトラックは、走行用の駆動源として電動モータを使用すると共にステアリング用の油圧ポンプの駆動源としてポンプ駆動用電動モータを用いている。ディーゼルエンジンとしては、発電機を駆動して充電式バッテリを充電可能な排気量を備えた小型のものでよい。したがって、大きな排気量のディーゼルエンジンを用いて走行、ステアリングおよびダンプ動作のための駆動力を発生させ、駆動力を大型の減速機を備えたパワートレインを介して前後の駆動輪に伝達している場合に比べて、排ガス、振動、騒音を低減できる。よって、トンネルなどの閉ざされた作業空間での作業において使用する場合の環境負荷を大幅に低減できる。
【0009】
また、ステアリング用、ダンプ動作用の駆動源として独立したポンプ駆動用電動モータが搭載されているので、ディーゼルエンジンの回転出力を油圧ポンプに伝達するための機械式の動力伝達機構が不要になるので、重量の軽量化、振動騒音の低減化に有利である。また、走行用電動モータとは別個のポンプ駆動用モータを独立に駆動制御すればよいので、駆動制御も簡単になる。
【0010】
次に、本発明において、前記制御装置は、加速走行時には、前記発電機の発電電力および前記充電式バッテリの放電電力によって前記走行用電動モータを駆動し、減速走行時には、前記発電機の発電電力および前記走行用電動モータによる回生電力を用いて前記充電式バッテリを充電し、定速走行時には、前記発電機の発電電力によって前記走行用電動モータを駆動することを特徴としている。
【0011】
このように、本発明ではシリーズ方式により駆動源のハイブリッド化を図っており、降坂時には発電機として機能する走行用電動モータの回生電力を利用して充電式バッテリを充電している。したがって、電池切れになるまでの作業時間を十分に長くすることができる。山岳トンネル工事などでは商用電力などの充電設備を利用できないので作業時間が長いことは極めて有効である。
【0012】
ここで、充電用バッテリとしては、鉛蓄電池などに比べて重量に対する充電容量が大きなリチウムイオン二次電池を用いることが望ましい。
【0013】
また、充電式バッテリを適正充電状態に維持するために、前記制御装置は、前記ディーゼルエンジン、前記ポンプ駆動用電動モータ、および前記走行用電動モータの出力をそれぞれ予め設定されている上限出力以下に制限することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアーティキュレート式ダンプトラックでは、走行用電動モータとステアリング用・ダンプ動作用のポンプ駆動用電動モータとを搭載し、ディーゼルエンジンを発電用の小排気量のものとして、駆動源のハイブリッド化を図っている。これにより、トンネル内で使用されるアーティキュレート式ダンプトラックの排ガス、騒音、振動を低減でき、トンネル工事などの閉ざされた作業環境を大幅に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用したアーティキュレート式ダンプトラックを示す側面図である。
【図2】図1のアーティキュレート式ダンプトラックにおけるハイブリッド化された駆動系の模式図である。
【図3】図1のアーティキュレート式ダンプトラックの制御系を中心に示す機能ブロック図である。
【図4】図1のアーティキュレート式ダンプトラックにおける各走行状態での発電・充電動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明を適用したアーティキュレート式ダンプトラックの実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るアーティキュレート式ダンプトラック(以下、単に、「ダンプトラック」と呼ぶ。)を示す側面図である。ダンプトラック1は、運転用キャビン2が搭載されている前側車体3と、車体後方へのダンプ動作が可能なベッセル4が搭載されている後側車体5とを備えている。前側車体3は左右の前側駆動輪6によって支持されており、後側車体5は、前側に位置する左右の後側駆動輪7と、後側に位置する左右の後側従動輪8とによって支持されている。
【0018】
前側車体3と後側車体5は、それらの車幅方向の中心に位置する車体上下方向に延びる連結軸9を介して連結されており、当該連結軸9を中心として前側車体3および後側車体5は車幅方向に相対的に揺動可能である。前側車体3および後側車体5の間には、連結軸9を挟み、油圧式ステアリング機構の構成部品である左右一対の油圧シリンダ10が架け渡されている。油圧シリンダ10を伸縮させることにより、連結軸9を中心として前側車体3および後側車体5を相対的に車幅方向に揺動させることによるダンプトラック1を左右に操舵することができる。
【0019】
後側車体5とベッセル4との間にも、油圧式ダンプ機構の構成部品である油圧シリンダ(図示せず)が架け渡されており、当該油圧シリンダの伸縮によってベッセル4が後端部を中心として上方に旋回するダンプ動作が行われるようになっている。
【0020】
図2はダンプトラック1におけるハイブリッド化された駆動系を示す模式図である。この図に示すように、ダンプトラック1には走行用電動モータ11およびポンプ駆動用電動モータ12と、これらに駆動電力を供給する充電式バッテリ13が搭載されている。走行用電動モータ11による駆動力が前後に分配されて前側駆動輪6、後側駆動輪7に伝達される。ポンプ駆動用電動モータ12によって、油圧式ステアリング機構の油圧シリンダ10および油圧式ダンプ機構の油圧シリンダ14を駆動するための油圧ポンプ15が駆動される。充電式バッテリ13は本例では複数個のリチウムイオン二次電池が使用されている。また、ダンプトラック1には、充電式バッテリ13を充電するための発電機16および、当該発電機16を駆動するためのディーゼルエンジン17が搭載されている。
【0021】
図3はダンプトラック1の構成を制御系を中心に示す機能ブロック図である。制御系はCPU、ROM、RAMを備えた制御装置20を中心に構成されている。制御装置20には運転用キャビン2の中に配置されている運転席操作盤21、アクセルペダル22、各種の操作スイッチ23などが接続されている。
【0022】
制御装置20は入力指令に基づき走行指令を生成して出力し、モータドライバ24を介して、走行用電動モータ11を駆動制御する。走行用電動モータ11の駆動電力は充電式バッテリ13から充放電切り替え用のインバータ25を介して供給される。走行用電動モータ11の駆動力は、走行用分配器26を介して、例えば1:1の分配比で前後に分配される。前後に分配された駆動力は、それぞれ、前輪側差動機構27および後輪側差動機構28を介して、左右の前側駆動輪6および後側駆動輪7に伝達される。
【0023】
また、制御装置20は、モータドライバ29を介してポンプ駆動用電動モータ12を駆動制御することにより、油圧式ダンプ機構30、油圧式ステアリング機構31および油圧式ブレーキ機構32を動作させる。ポンプ駆動用電動モータ12の駆動電力も充電式バッテリ13から供給される。さらに、制御装置20は、エンジン駆動回路33を介してディーゼルエンジン17を駆動制御して発電機16による発電を行わせる。発電機16による発電電力により充電式バッテリ13が充電される。
【0024】
ここで、制御装置20にはバッテリマネジメントシステム34が接続されている。制御装置20にバッテリマネジメントシステム34の機能を搭載することも可能である。バッテリマネジメントシステム34は、ディーゼルエンジン17、ポンプ駆動用電動モータ12および走行用電動モータ11の出力をそれぞれ予め設定されている上限出力以下に制限するリミッターとして機能する。これにより、充電式バッテリ13を予め設定した適正充電状態に維持するようにしている。
【0025】
次に、図4(a)〜(d)は、制御装置20の制御の下に行われるダンプトラック1の走行時の発電・充電動作状態を示す説明図である。図4(a)に示すように、充電式バッテリ13の充電電力は、インバータ25を介して走行用電動モータ11に供給される。発電機16の発電電力はインバータ25を介して充電式バッテリ13および走行用電動モータ11の双方に供給可能である。また、減速走行時などにおいては走行用電動モータ11が電磁ブレーキ(発電機)として機能して発生する回生電流を、インバータ25を介して充電式バッテリ13に蓄えることが可能である。
【0026】
通常走行時(定速走行時)においては、図4(b)に示すように、発電機16の発電電力によって走行用電動モータ11が駆動される。余分な発電電力はインバータ25を介して充電式バッテリ13に蓄えられ、発電機16による発電電力では不足する場合には不足分の電力供給が充電式バッテリ13からインバータ25を介して走行用電動モータ11に供給される。
【0027】
加速走行時においては、図4(c)に示すように、発電機16の発電電力および充電式バッテリ13の放電電力によって、走行用電動モータ11の加速駆動制御が行われ、高出力が得られるようになっている。これに対して、減速走行時においては、図4(d)に示すように、発電機16の発電電力および走行用電動モータ11による回生電力が充電式バッテリ13に蓄えられる。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態に係るダンプトラック1においては、走行駆動系をシリーズ式のハイブリッド機構にすると共に、油圧式ステアリング機構、油圧式ダンプ機構の油圧ポンプ駆動もポンプ用駆動モータによって行うようにしている。この結果、ディーゼルエンジン17は発電に用いるだけでよいので排気量の少ない小型のものでよく、ディーゼルエンジンから前後の駆動輪に駆動力を伝達するためのパワートレインも大型の減速歯車などを用いる必要がなく極めて簡単なものにできる。また、油圧ポンプ駆動用の動力を歯車式の動力伝達機構を介して取り出す必要もない。よって、排ガスが少なく、しかも低騒音、低振動のダンプトラックを実現できる。したがって、閉ざされた山岳トンネル工事などにおいて使用した場合の作業環境を大幅に改善できる。
【0029】
また、走行駆動系をシリーズ式のハイブリッド機構にし、充電式バッテリ13として充電効率の高いリチウムイオン電池を使用し、減速走行時には回生電力を利用して充電式バッテリ13を充電するようにしている。したがって、電池切れなどの弊害が発生することがないので作業時間が長くなり、電力供給施設が近くに無い山岳地帯などにおける建設作業に用いるのに適したダンプトラックを実現できる。
【0030】
さらに、バッテリマネジメントシステム34を用いて、出力制限を行っているので、充電式バッテリ13を常に適正充電状態に維持することができ、ダンプトラックの動作信頼性、動作安定性が高いという利点もある。
【符号の説明】
【0031】
1 ダンプトラック
2 運転用キャビン
3 前側車体
4 ベッセル
5 後側車体
6 前側駆動輪
7 後側駆動輪
8 後側従動輪
9 連結軸
10 油圧シリンダ
11 走行用電動モータ
12 ポンプ駆動用電動モータ
13 充電式バッテリ
14 油圧シリンダ
15 油圧ポンプ
16 発電機
17 ディーゼルエンジン
20 制御装置
21 運転席操作盤
22 アクセルペダル
23 操作スイッチ
24 モータドライバ
25 インバータ
26 走行用分配器
27 前輪側差動機構
28 後輪側差動機構
29 モータドライバ
30 油圧式ダンプ機構
31 油圧式ステアリング機構
32 油圧式ブレーキ機構
33 エンジン駆動回路
34 バッテリマネジメントシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転用キャビンが搭載されている前側車体と、
車体後方へのダンプ動作が可能なベッセルが搭載されている後側車体と、
前記前側車体および前記後側車体の間を連結している車体上下方向に延びる連結軸と、
前記連結軸を中心として前記前側車体および前記後側車体を相対的に車幅方向に揺動させる油圧式ステアリング機構と、
前記ベッセルのダンプ動作を行わせる油圧式ダンプ機構と、
前記油圧式ステアリング機構および前記油圧式ダンプ機構を駆動する油圧ポンプと、
前記前側車体を支持している前側駆動輪および前記後側車体を支持している後側駆動輪を駆動するための走行用電動モータと、
前記油圧ポンプを駆動するポンプ駆動用電動モータと、
前記走行用電動モータおよび前記ポンプ駆動用電動モータに電力を供給する充電式バッテリと、
前記充電式バッテリを充電するために、ディーゼルエンジンによって駆動される発電機と、
前記走行用電動モータに対する給電制御および前記充電式バッテリの充電制御を行う制御装置と、
を有していることを特徴とするアーティキュレート式ダンプトラック。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、
加速走行時には、前記発電機の発電電力および前記充電式バッテリの放電電力によって前記走行用電動モータを駆動し、
減速走行時には、前記発電機の発電電力および前記走行用電動モータによる回生電力を用いて前記充電式バッテリを充電し、
定速走行時には、前記発電機の発電電力によって前記走行用電動モータを駆動することを特徴とするアーティキュレート式ダンプトラック。
【請求項3】
請求項2において、
前記充電式バッテリはリチウム電池であることを特徴とするアーティキュレート式ダンプトラック。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御装置は、前記ディーゼルエンジン、前記ポンプ駆動用電動モータ、および前記走行用電動モータの出力をそれぞれ予め設定されている上限出力以下に制限することにより、前記充電式バッテリを予め設定した充電状態に維持することを特徴とするアーティキュレート式ダンプトラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−218920(P2011−218920A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88794(P2010−88794)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(510195032)新トモエ電機工業株式会社 (3)
【出願人】(000148380)株式会社前田製作所 (14)
【Fターム(参考)】