説明

アーティキュレート車両における小旋回制御装置

【課題】既存のポンプを利用した安価な回路を用いて、フルアーティキュレート状態でなくても小旋回ブレーキモードを発揮させることで多くのハンドル旋回操作を不要としたアーティキュレート車両における小旋回制御装置を提供する。
【解決手段】小旋回スイッチがオンの状態で後車体に対し前車体を屈折させるハンドル旋回操作があると、コントローラは、電磁弁56A,56Bを閉じて左ブレーキ回路41と右ブレーキ回路42間を遮断するとともに、方向切換弁59を切換えて、ポンプ57を他の回路60aから小旋回圧供給回路60に切換える。旋回内側に対応する左小旋回用比例減圧弁63または右小旋回用比例減圧弁64の一方を弁開状態に制御するとともに、電磁弁66を弁開状態に制御して、アキュームレータ62内に蓄えられた作動油を、左ブレーキ回路41または右ブレーキ回路42の一方に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後車体に対して前車体を屈折可能に連結したアーティキュレート車両における小旋回制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、後車体1に対してアーティキュレート軸2を介して前車体3が屈折可能に連結されたアーティキュレート車両を示し、後車体1は、運転席4および後車輪5などを備え、前車体3は、バケット6および前車輪7などを備えたホイールローダである。
【0003】
図7は、このホイールローダの一般的なブレーキ回路を示し、後差動機11を介して左後車軸12および右後車軸13が設けられ、前差動機14を介して左前車軸15および右前車軸16が設けられ、左後車軸12および左前車軸15にそれぞれ設けられた左車輪ブレーキ17と、右後車軸13および右前車軸16にそれぞれ設けられた右車輪ブレーキ18とに対して、ブレーキ圧を供給する足踏み式のブレーキマスタシリンダ19が設けられている。
【0004】
そして、車両オペレータがブレーキペダル19pを踏むと、ブレーキマスタシリンダ19が作用して作動油を前後の左車輪ブレーキ17および前後の右車輪ブレーキ18に送り、これらの前後左右の車輪ブレーキ17,18のディスクに対しピストンを介して作動油の圧力を負荷し、ブレーキ力を作用させる。
【0005】
このようなブレーキ回路において、車体が最大に屈折する状態で機械的に決まる最も小さい旋回半径に対し、さらに小さい旋回半径が得られるように、旋回内側の前後車輪にブレーキ(例えば左回りの場合は左車輪ブレーキ17)を作用させることで、旋回外側車輪との間に回転速度差を設け、旋回外側車輪を内側車輪より速く回し、そして、このブレーキ(左車輪ブレーキ17)のブレーキ力を制御することにより、旋回半径を旋回半径指令手段で設定された指示値に制御するようにした小旋回型操向装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3198402号公報(第3−4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の小旋回型操向装置は、小旋回用の油圧源となる専用のポンプを用いた高価なブレーキ油圧回路を必要とし、また、後車体1に対して前車体3が最大に屈折したフルアーティキュレート状態において、指示された旋回半径になるように、旋回の内側車輪がブレーキ制御されるので、多くのハンドル旋回操作が必要となる。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、アーティキュレート車両の左右いずれか一方の車輪ブレーキを作動させることで小旋回をさせる小旋回制御装置において、既存のポンプを利用した安価な回路を用いて、フルアーティキュレート状態でなくても小旋回ブレーキモードを発揮させることで多くのハンドル旋回操作を不要としたアーティキュレート車両における小旋回制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、後車体と前車体とをアーティキュレート軸を介し互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両において、後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角および屈折方向を検出するアーティキュレート角センサと、左車輪制動用の左車輪ブレーキおよび右車輪制動用の右車輪ブレーキの両方にブレーキ圧を供給するブレーキマスタシリンダと、ブレーキマスタシリンダとは別にポンプより吐出された作動流体を左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方へ供給する小旋回圧供給回路と、小旋回圧供給回路と共通の上記ポンプを作動流体圧源とする他の回路と、小旋回圧供給回路と他の回路との間で上記ポンプに対する連通を切換える方向切換弁と、ポンプから方向切換弁を経て小旋回圧供給回路に供給された作動流体の圧力を設定圧に制御するリリーフ弁と、リリーフ弁で設定された圧力を維持するアキュームレータと、リリーフ弁およびアキュームレータによりブレーキ圧源として圧力制御された作動流体圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して左車輪ブレーキに供給する左小旋回用比例減圧弁と、リリーフ弁およびアキュームレータによりブレーキ圧源として圧力制御された作動流体圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して右車輪ブレーキに供給する右小旋回用比例減圧弁と、左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方のみに作動流体を供給する小旋回ブレーキモードを選択する小旋回スイッチと、小旋回スイッチがオンの状態で後車体に対し前車体を屈折させるハンドル旋回操作があると、方向切換弁を切換制御してポンプに連通された小旋回圧供給回路内をリリーフ弁およびアキュームレータにより設定圧に維持するとともに、小旋回圧供給回路から左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方に供給される小旋回用内輪ブレーキ圧を、アーティキュレート角センサで検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁の一方によりアーティキュレート角センサで検出されたアーティキュレート角に応じて制御する小旋回ブレーキモードを起動させる機能を備えたコントローラとを具備したアーティキュレート車両における小旋回制御装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置のコントローラが、後車体に対し前車体を直進方向に戻すハンドル戻し操作と、小旋回中にブレーキマスタシリンダから左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキに作動流体を供給する通常ブレーキ操作の少なくとも一方があると、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダから供給された作動流体により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を備えたものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置において、アーティキュレート車両の車速を検出する車速センサと、アーティキュレート車両の横すべり角を算出するためのヨー角速度センサとを具備し、コントローラは、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダから供給された作動流体により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、ポンプより吐出された作動流体を小旋回圧供給回路と他の回路との間で切換える方向切換弁と、小旋回圧供給回路の圧力を設定圧に制御するリリーフ弁とアキュームレータとにより、小旋回用ブレーキ圧源を既存のポンプを用いて安価に構成できるとともに、アキュームレータにより小旋回圧供給回路の作動流体を応答性良く左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁に供給でき、これらの左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁によって、左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方に直ちに小旋回用内輪ブレーキ圧を供給できる。
【0013】
さらに、小旋回ブレーキモードを選択する小旋回スイッチがオンの状態で、後車体に対し前車体を屈折させるハンドル旋回操作があると、コントローラによって、小旋回圧供給回路のアキュームレータに蓄圧された作動流体の圧力を、アーティキュレート角センサで検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁の一方により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御するとともに、左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁の他方により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの他方を無負荷状態に制御するので、フルアーティキュレート状態でなくても小旋回ブレーキモードを起動させることができ、車両オペレータの多くのハンドル旋回操作を不要とし、少ない旋回操作での車両小旋回が可能であり、労力を軽減できる。
【0014】
その際、コントローラは、左小旋回用比例減圧弁または右小旋回用比例減圧弁を比例減圧制御して、アーティキュレート角センサで検出されたアーティキュレート角に応じた小旋回用内輪ブレーキ圧の作動油を旋回内輪側の左車輪ブレーキまたは右車輪ブレーキに供給するので、後車体に対する前車体の車体屈折角に応じて制御された適切な小旋回用内輪ブレーキトルクにより、スムーズな旋回挙動が得られ、良好な乗り心地が得られる。
【0015】
また、既存のポンプを有効利用した安価な回路を構成して、小旋回の必要なときに、方向切換弁によりポンプを他の回路から小旋回圧供給回路へと切換えるとともに、アキュームレータとリリーフ弁とによりポンプからの作動流体を設定圧に制御しておいて、その作動流体を小旋回時に左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方へ直ちに供給し、必要な小旋回用内輪ブレーキ圧を得るようにしたので、専用ブレーキポンプを採用した場合と比較して、省エネルギかつ低コストを図れる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、後車体に対し前車体を直進方向に戻すハンドル戻し操作と、小旋回中に全輪ブレーキを利かせる通常ブレーキ操作の少なくとも一方があると、小旋回ブレーキモードを解除するとともに通常ブレーキモードを作動させるので、小旋回ブレーキモードより通常ブレーキモードを優先させて、ブレーキシステムに対する高い信頼性を確保できる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、コントローラは、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、小旋回ブレーキモードを解除するとともに通常ブレーキモードを作動させるので、車体が不安定な走行状態での小旋回ブレーキ制御が自動的に無効化され、車体の安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るアーティキュレート車両における小旋回制御装置の一実施の形態を示す回路図である。
【図2】同上制御装置のコントローラとセンサの関係を示すブロック図である。
【図3】同上制御装置が搭載されたアーティキュレート車両の平面図である。
【図4】同上制御装置のコントローラによる制御手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】同上制御装置の左小旋回状態を示す回路図である。
【図6】アーティキュレート車両の平面図である。
【図7】従来のアーティキュレート車両に搭載されたブレーキ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図1乃至図5に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0020】
図3は、後車体21に対してアーティキュレート軸22を介して前車体23が屈折可能に連結されたアーティキュレート車両を示し、後車体21は、運転席24および後車輪25などを備え、前車体23は、バケット26および前車輪27などを備えたホイールローダである。Vは、アーティキュレート車両の車速、αは、後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角(すなわち車体屈折角)、βは、アーティキュレート車両の横すべり角を示す。
【0021】
図1は、このアーティキュレート車両における小旋回制御装置を示し、左右の後車輪25および前車輪27には、それらの回転数を検出する回転数センサ28がそれぞれ設けられている。後車体21には、後差動機31を介して左後車軸32および右後車軸33が設けられ、前車体23には、前差動機34を介して左前車軸35および右前車軸36が設けられている。
【0022】
左後車軸32および左前車軸35には左車輪制動用の左車輪ブレーキ37,38がそれぞれ設けられ、また、右後車軸33および右前車軸36には右車輪制動用の右車輪ブレーキ39,40がそれぞれ設けられている。これらの左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40は、各車軸32,33,35,36に一体に取付けられたブレーキディスクdに対向して、車体側に取付けられたブレーキピストンPがそれぞれ進退可能に設けられている。
【0023】
左車輪ブレーキ37,38のブレーキピストンPのピストン室間は、左ブレーキ回路41により連通可能であり、右車輪ブレーキ39,40のブレーキピストンPのピストン室間は、右ブレーキ回路42により連通されている。
【0024】
左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全てにブレーキ圧を供給する足踏み式のブレーキマスタシリンダ51が設置されている。このブレーキマスタシリンダ51は、そのピストンロッド52の先端と対向設置されたブレーキペダル53の足踏み操作(通常ブレーキ操作)によりシリンダ内の作動流体としての作動油を通路54A,54Bに吐出し、これらの通路54A,54B中に介在された電磁弁56A,56Bを経て左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42に作動油を供給する。作動油の漏洩などによる不足分は油タンク55より補充する。
【0025】
ブレーキペダル53による足踏み操作があったことは、リミットスイッチなどのスイッチ53sにより検出する。このスイッチ53sは、小旋回中にブレーキペダル53を踏むと、それを検知して小旋回ブレーキモードを解除させるトリガとして機能する。
【0026】
通路54A,54B中に設けられた電磁弁56A,56Bは、これらのソレノイドa,bに接続された電源がオフ時のスプリングリターン位置では、図1に示されるように通路54A,54Bを開通する弁開状態となり、また、電源オンの切換位置では、図5に示されるように通路54A,54Bを閉じて左ブレーキ回路41と右ブレーキ回路42との間を遮断する弁閉状態となる。
【0027】
ブレーキマスタシリンダ51とは別に、図示されない車載エンジンにより駆動されて油タンク55から作動油を吸上げ吐出するポンプ57が設置され、このポンプ57の吐出通路58に方向切換弁59が設けられ、この方向切換弁59により、ポンプ57から吐出された作動油を、左車輪ブレーキ37,38または右車輪ブレーキ39,40の一方へ供給する小旋回圧供給回路60と、バケット26を昇降するリフトシリンダおよび上下方向にチルト動作させるチルトシリンダなどを制御するバケット作業機回路などの他の回路60aとの間で切換えるようにする。要するに、小旋回圧供給回路60と他の回路60aは、共通のポンプ57を作動流体圧源としての作動油圧源とする回路である。他の回路60aは、例えばバケット26を昇降などする作業機用シリンダ回路などに接続されている。
【0028】
小旋回圧供給回路60には、ポンプ57から方向切換弁59を経てこの小旋回圧供給回路60に供給された作動油の圧力を検出する圧力センサ60pと、この小旋回圧供給回路60に供給された作動油の圧力を調整可能な設定圧に制御するリリーフ弁61と、このリリーフ弁61で設定された圧力を維持するアキュームレータ62とが設けられている。
【0029】
小旋回圧供給回路60は、左小旋回用通路60Aと右小旋回用通路60Bとに分岐され、左小旋回用通路60A中には、リリーフ弁61およびアキュームレータ62によりブレーキ圧源として圧力制御された作動油圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して左車輪ブレーキ37,38の左ブレーキ回路41に供給する電磁式の左小旋回用比例減圧弁63が設けられ、右小旋回用通路60B中には、リリーフ弁61およびアキュームレータ62によりブレーキ圧源として圧力制御された作動油圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して右車輪ブレーキ39,40の右ブレーキ回路42に供給する電磁式の右小旋回用比例減圧弁64が設けられている。
【0030】
これらの左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64の左右の車輪ブレーキ側には、圧力センサ63p,64pがそれぞれ設けられ、設定された圧力に減圧制御された作動油を左ブレーキ回路41と右ブレーキ回路42に供給できるように構成されている。
【0031】
これらの左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64には、スプリングリターン位置で左ブレーキ回路41と右ブレーキ回路42のそれぞれを油タンク55に連通するドレン通路65がそれぞれ接続されている。
【0032】
さらに、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64と左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42とを連通する通路中には、電磁弁66が設けられ、電源オフ時のスプリングリターン状態では通路を開通しているが、ブレーキマスタシリンダ51が作動されたときは、ブレーキペダル53などに対して設置されてブレーキペダル53の操作状態を検知するスイッチ53sにより、電磁弁66が電源オンとなって閉位置に切換えられ、ブレーキマスタシリンダ51から吐出された作動油が左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42に供給される際に、オフ状態の左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64を経て油タンク55にドレンされることを、この電磁弁66が防止するように構成されている。
【0033】
左小旋回用通路60Aと油タンク55との間には圧抜き通路67が設けられ、この圧抜き通路67中には手動閉止弁68が設けられている。この手動閉止弁68は、通常は閉じられ、メンテナンス時などに手動で開弁操作される。
【0034】
左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64は、これらのソレノイドA,Bに接続された電源がオフ時のスプリングリターン状態では、左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42を油タンク55に開放して、無負荷状態(0MPa)に制御し、電源がオン時の左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64は、左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42を設定圧に減圧制御する。
【0035】
電磁弁56A,56Bは、それらのソレノイドa,bに接続された電源がオフ時のスプリングリターン状態では、図1に示されるように通路54A,54Bを開通する弁開状態となり、図5に示されるように電源がオン時の電磁弁56A,56Bは通路54A,54Bを閉止する弁閉状態となる。
【0036】
方向切換弁59は、そのソレノイドDに接続された電源がオフ時のスプリングリターン状態では、ポンプ57の吐出通路58を他の回路60aに連通し、電源がオン時の方向切換弁59は、ポンプ57の吐出通路58を小旋回圧供給回路60に連通する。
【0037】
図2に示されるように、前記ブレーキペダル53のスイッチ53sと、圧力センサ60p,63p,64pと、左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方のみに作動油を供給する小旋回ブレーキモードを車両オペレータが容易に選択操作できる場所に設置された小旋回スイッチ69と、ダイアルレベルによって前記左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64による最大制御可能圧を調整することで最大ブレーキ油圧を変更可能とした減圧弁設定ダイアル70と、アーティキュレート車両の車速Vを検出する車速センサ71と、後車体21に対し屈折した前車体23のアーティキュレート角(すなわち車体屈折角)αおよび屈折方向(左回り、右回り)を検出するアーティキュレート角センサ72と、アーティキュレート車両の横すべり角β(車両の速度ベクトルと前車体23の向きとがなす角度)を算出するためのヨー角速度センサ73とが、コントローラ74の信号入力側に接続されている。
【0038】
車速センサ71は、油圧ポンプ・油圧モータ系に接続された車軸駆動用減速機の出力軸部で回転速度を検出できる位置に設置され、アーティキュレート角センサ72は、アーティキュレート軸22の周囲に設置され、ヨー角速度センサ73は、車両に設置された垂直軸回りのジャイロセンサを用いる。
【0039】
コントローラ74の出力側は、各電磁弁56A,56Bのソレノイドa,b、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64のソレノイドA,B、電磁弁66のソレノイドC、方向切換弁59のソレノイドDに接続されている。
【0040】
また、コントローラ74は、アーティキュレート車両の車速Vが車速しきい値より低く、かつ横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回スイッチ69がオンの状態で後車体21に対し前車体23を屈折させるハンドル旋回操作があると、小旋回ブレーキモードを起動させる機能を備えている。
【0041】
この小旋回ブレーキモードは、図5に示されるように電磁弁56A,56Bを閉じ、ポンプ57の吐出通路58が小旋回圧供給回路60に連通するように方向切換弁59を切換制御して、ポンプ57に連通された小旋回圧供給回路60内の圧力をリリーフ弁61およびアキュームレータ62により設定圧に維持するとともに、小旋回圧供給回路60から左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方に供給される小旋回用内輪ブレーキ圧を、アーティキュレート角センサ72で検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64の一方により、アーティキュレート角センサ72で検出されたアーティキュレート角αに応じて(すなわち比例して)制御する。
【0042】
すなわち、コントローラ74は、アーティキュレート角センサ72で検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64のいずれか一方(図5の左小旋回状態では左小旋回用比例減圧弁63)を弁開状態に制御して、左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42のいずれか一方(図5の左小旋回状態では左ブレーキ回路41)を、小旋回用内輪ブレーキ圧が得られる状態に制御する小旋回ブレーキモード機能を備えている。
【0043】
さらに、コントローラ74は、小旋回スイッチ69がオフの場合、または小旋回スイッチ69のオンで選択した小旋回ブレーキモードにおいて後車体21に対し前車体23を直進方向に戻すハンドル戻し操作がある場合、または小旋回中にブレーキマスタシリンダ51から左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキに作動油を供給する通常ブレーキ操作がある場合、または車速Vが車速しきい値を超えた場合、または横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64をスプリングリターン位置に制御するなどして、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダ51から供給された作動油により左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を備えている。
【0044】
横すべり角βは、コントローラ74が、車速センサ71で検出された車速V、ヨー角速度センサ73で検出されたヨー角速度などを用いて、既知の演算手法により算出する。
【0045】
次に、図1乃至図5を参照しながら、図4に示されたコントローラ74の演算手順の一例を説明する。なお、図4中の丸数字は、ステップ番号を示す。
【0046】
(ステップ1)
コントローラ74は、小旋回スイッチ69がオンかオフかを判断する。
【0047】
(ステップ2)
小旋回スイッチ69がオフの場合は、次の通常ブレーキモードが作動する。
【0048】
すなわち、図1に示されるように、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64のソレノイドA,Bの電源をオフに制御して、これらの左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64をスプリングリターン位置に制御する。
【0049】
このとき、電磁弁66のソレノイドCの電源をオフに制御して、この電磁弁66をスプリングリターン位置すなわち弁閉位置に制御するとともに、電磁弁56A,56Bのソレノイドa,bの電源をオフに制御して、これらの電磁弁56A,56Bをスプリングリターン位置すなわち弁開位置に制御する。このため、車両オペレータの足踏み操作式のブレーキマスタシリンダ51が作動されると、このブレーキマスタシリンダ51から左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキにブレーキ作動油を同時に供給することができる。
【0050】
同時に、方向切換弁59のソレノイドDの電源もオフに制御され、スプリングリターン位置の方向切換弁59により、ポンプ57の吐出通路58がバケット作業機回路などの他の回路60aと連通されている。
【0051】
このように、コントローラ74は、ブレーキマスタシリンダ51から供給される作動油により左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を有している。
【0052】
(ステップ3)
オペレータは、ブレーキ圧による小旋回機構を働かせたいときは、小旋回スイッチ69をオンとするので、この場合(ステップ1でYESの場合)、コントローラ74は、圧力センサ60pにより検出した小旋回圧供給回路60内の圧力がリリーフ弁61で設定された設定圧より低いか否かを判断する。
【0053】
(ステップ4)
小旋回圧供給回路60内の圧力が設定圧未満であれば、方向切換弁59のソレノイドDの電源をオンに制御してポンプ57からアキュームレータ62に作動油を加圧供給して蓄圧させる。このとき、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64は、スプリングリターン位置にあって、小旋回圧供給回路60を閉止する。
【0054】
(ステップ5)
コントローラ74は、アキュームレータ62に作動油が蓄圧されて、圧力センサ60pにより検出された小旋回圧供給回路60内の圧力が設定圧に達したか否かを判断する。小旋回圧供給回路60内の圧力が設定圧に達しない間は、ステップ4に戻る。
【0055】
(ステップ6)
小旋回圧供給回路60内の圧力がリリーフ弁61の設定圧に達したら、方向切換弁59のソレノイドDの電源をオフに制御してポンプ57の吐出通路58を他の回路60aに戻す。
【0056】
(ステップ7)
小旋回スイッチ69がオンのときは、車両オペレータが減圧弁設定ダイアル70により、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64による最大制御可能圧を任意に設定することで、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64から左ブレーキ回路41と右ブレーキ回路42に供給されるブレーキ油圧すなわち小旋回用内輪ブレーキ圧を限られた範囲内で任意に制御する。これにより、任意に旋回半径を調整できるようにし、小旋回半径を変更可能とする。
【0057】
(ステップ8)
車速センサ71により車速Vを検出し、アーティキュレート角センサ72によりアーティキュレート角αを検出するとともに、車速V、ヨー角速度などから横すべり角βを算出する。
【0058】
(ステップ9)
アーティキュレート角センサ72により検出されたアーティキュレート角αから、旋回方向(左回りなのか右回りなのか)などの屈折状態を判断する。
【0059】
(ステップ10)
スイッチ53sからの検知信号の有無により、ブレーキペダル53による足踏み操作すなわち通常ブレーキ操作があったか否か、言い換えると、ブレーキペダル53が非操作状態か否かが判断され、ブレーキペダル53による足踏み操作があった場合(NO)は、ステップ2に戻る。
【0060】
すなわち、コントローラ74は、小旋回中にブレーキペダル53を踏む通常ブレーキ操作があると、スイッチ53sをトリガーとして、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ステップ2のブレーキマスタシリンダ51から供給される作動油により左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を有する。
【0061】
(ステップ11)
ブレーキペダル53が非操作状態の場合(ステップ10YES)は、車両の操向ハンドルが旋回操作されているか否かを、アーティキュレート角センサ72により判断し、旋回操作されていない場合は、ハンドルを戻す場合も含めて、ステップ2に戻り、上記全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードとなる。
【0062】
(ステップ12)
コントローラ74は、小旋回スイッチ69がオンの状態で、車両の操向ハンドルが旋回操作された場合は、車速センサ71を用いて検出された車速Vが車速しきい値(例えば、10km/h)を超えたか否かを判断する。車速Vが車速しきい値を超えた場合は、高速スピードでの小旋回となり、好ましくないので、ハンドルを戻すときと同様にステップ2に戻る。
【0063】
これにより、車速Vが車速しきい値を超えた場合は、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64は、スプリングリターン位置に制御される。このとき、電磁弁66は閉じ位置に切換えられているため、ブレーキマスタシリンダ51から全車輪ブレーキ37,38,39,40にブレーキ圧を供給することができ、ブレーキ圧が左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64から油タンク55にドレンされることはない。
【0064】
(ステップ13)
アイスバーン上での走行はタイヤの横すべりが大きく好ましくないため、コントローラ74は、ヨー角速度センサ73などにより横すべり角βを算出し、この横すべり角βが横すべり角しきい値(例えば、30°)を超えたか否かを判断する。横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合は、ハンドルを戻すときと同様にステップ2に戻り、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64は、スプリングリターン位置に制御される。このとき、ステップ12と同様に電磁弁66は閉じ位置に切換えられているため、ブレーキマスタシリンダ51から全車輪ブレーキ37,38,39,40にブレーキ圧を供給することができる。
【0065】
(ステップ14)
コントローラ74は、小旋回スイッチ69がオンに操作された状態で、ブレーキペダル53が非操作状態にあり、車両の操向ハンドルが旋回操作され、車速Vが車速しきい値より低く、かつ横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、アーティキュレート車両が、図3に示されるように左回りの姿勢にあるか否かを判断する。
【0066】
(ステップ15)
左回りの場合は、次の左回りの小旋回ブレーキモードが作動する。
【0067】
すなわち、図5に示されるように、左小旋回用比例減圧弁63のソレノイドAの電源をオンに制御して、この左小旋回用比例減圧弁63をアーティキュレート角αに比例した小旋回用内輪ブレーキ圧が得られる弁開位置に比例減圧制御し、一方、右小旋回用比例減圧弁64のソレノイドBの電源はオフのままにして、この右小旋回用比例減圧弁64をスプリングリターン位置すなわちドレン位置に維持し、また、電磁弁66のソレノイドCの電源をオンに制御して、この電磁弁66を弁開位置に制御し、さらに、方向切換弁59のソレノイドDの電源をオンに制御して、ポンプ57の吐出通路58を他の回路60aから小旋回圧供給回路60に切り換え、また、電磁弁56Aのソレノイドaおよび電磁弁56Bのソレノイドbの電源をオンに制御して、これらの電磁弁56A,56Bを弁閉位置に制御する。
【0068】
左小旋回用比例減圧弁63の比例減圧制御は、アーティキュレート角センサ72により検出されたアーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)以下の場合は、アーティキュレート角αに比例する電気信号(電流値)により左小旋回用比例減圧弁63の弁開度を比例制御して、圧力センサ63pで得られる小旋回用内輪ブレーキ圧がアーティキュレート角αに比例した小旋回用内輪ブレーキ圧となるように制御する。
【0069】
すなわち、アーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)以下では、アーティキュレート角αが小さいほど、左小旋回用比例減圧弁63によって左小旋回用通路60Aの小旋回用内輪ブレーキ圧はアーティキュレート角αに比例して小さく制御され、また、アーティキュレート角αが大きいほど、左小旋回用比例減圧弁63によって左小旋回用通路60Aの小旋回用内輪ブレーキ圧はアーティキュレート角αに比例して大きく制御される。
【0070】
これらの制御により、減圧弁設定ダイアル70により設定された設定圧の範囲内で左小旋回用比例減圧弁63によりアーティキュレート角αに比例して制御された小旋回用内輪ブレーキ圧の作動油を、図3に示されるように左小旋回アーティキュレート車両の旋回内側に対応する左車輪ブレーキ37,38へ供給し、左後車軸32および左前車軸35にアーティキュレート角αに比例した内輪ブレーキトルクを作用させることができる。
【0071】
このとき、右車輪ブレーキ39,40から右小旋回用比例減圧弁64を経て作動油の圧抜きがなされるとともに、足踏み操作式のブレーキマスタシリンダ51からの作動油の供給も遮断される。
【0072】
そして、アーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)を超えた場合は、減圧弁設定ダイアル70により設定された設定圧となるように左小旋回用比例減圧弁63により左小旋回用内輪ブレーキ圧が制限制御される。
【0073】
(ステップ16)
右回りの場合は、次の右回りの小旋回ブレーキモードが作動する。
【0074】
すなわち、右小旋回用比例減圧弁64のソレノイドBの電源をオンに制御して、この右小旋回用比例減圧弁64をアーティキュレート角αに比例した小旋回用内輪ブレーキ圧が得られる弁開位置に比例減圧制御し、一方、左小旋回用比例減圧弁63のソレノイドAの電源をオフにして、この左小旋回用比例減圧弁63をスプリングリターン位置すなわちドレン位置に切換え、また、電磁弁66のソレノイドCの電源をオンに制御して、この電磁弁66を弁開位置に制御し、さらに、方向切換弁59のソレノイドDの電源をオンに制御して、ポンプ57の吐出通路58を他の回路60aから小旋回圧供給回路60に切り換え、また、電磁弁56Aのソレノイドaおよび電磁弁56Bのソレノイドbの電源をオンに制御して、これらの電磁弁56A,56Bを弁閉位置に制御する。
【0075】
右小旋回用比例減圧弁64の比例減圧制御は、アーティキュレート角センサ72により検出されたアーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)以下の場合は、アーティキュレート角αに比例する電気信号(電流値)により右小旋回用比例減圧弁64の弁開度を比例制御して、圧力センサ64pで得られる小旋回用内輪ブレーキ圧がアーティキュレート角αに比例した小旋回用内輪ブレーキ圧となるように制御する。
【0076】
すなわち、アーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)以下では、アーティキュレート角αが小さいほど、右小旋回用比例減圧弁64によって右小旋回用通路60Bの小旋回用内輪ブレーキ圧はアーティキュレート角αに比例して小さく制御され、また、アーティキュレート角αが大きいほど、右小旋回用比例減圧弁64によって右小旋回用通路60Bの小旋回用内輪ブレーキ圧はアーティキュレート角αに比例して大きく制御される。
【0077】
これらの制御により、減圧弁設定ダイアル70により設定された設定圧の範囲内で右小旋回用比例減圧弁64によりアーティキュレート角αに比例して制御された小旋回用内輪ブレーキ圧の作動油を、右旋回アーティキュレート車両の旋回内側に対応する右車輪ブレーキ39,40へ供給し、右後車軸33および右前車軸36にアーティキュレート角αに比例した内輪ブレーキトルクを作用させることができる。
【0078】
このとき、左車輪ブレーキ37,38から左小旋回用比例減圧弁63を経て作動油の圧抜きがなされるとともに、足踏み操作式のブレーキマスタシリンダ51からの作動油の供給も遮断される。
【0079】
そして、アーティキュレート角αがしきい値(例えば25°)を超えた場合は、減圧弁設定ダイアル70により設定された設定圧となるように右小旋回用比例減圧弁64により右小旋回用内輪ブレーキ圧が制限制御される。
【0080】
次に、図1乃至図5に示された実施の形態の作用効果を説明する。
【0081】
オペレータは、小旋回ブレーキモードを働かせたくない場合は、小旋回スイッチ69をオフのままにする。コントローラ74は、図1に示される通常ブレーキモードにより、ブレーキマスタシリンダ51から左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキにブレーキ作動油を同時に供給できるように電磁弁56A,56B,66のソレノイドa,bをオフにして、電磁弁56A,56Bを弁開状態に制御するとともに、電磁弁66を弁閉状態に制御する。
【0082】
オペレータは、小旋回ブレーキモードを働かせたいときは、小旋回スイッチ69をオンにする。この小旋回スイッチ69がオンとなれば、コントローラ74は、図5に示される小旋回ブレーキモードにより、方向切換弁59の切換によりポンプ57の吐出圧油を小旋回圧供給回路60に送り、アキュームレータ62に蓄圧する。小旋回圧供給回路60内の圧力がリリーフ弁61の設定圧に達したら、方向切換弁59をオフに制御してポンプ57の吐出通路58を他の回路60aに戻し、小旋回圧供給回路60内の圧力が低下したら、方向切換弁59の切換によりアキュームレータ62への蓄圧を繰り返すことで、小旋回圧供給回路60内をリリーフ弁61の設定圧に維持する。
【0083】
車速Vが、車速しきい値より低いとともに、横すべり角βが横すべり角しきい値より小さい場合は、小旋回スイッチ69をオンにした状態で、車両操向ハンドルを旋回操作すると、アーティキュレート角センサ72で検出されたアーティキュレート角αに比例して、旋回内輪側の左小旋回用比例減圧弁63または右小旋回用比例減圧弁64のいずれか一方により制御された小旋回用内輪ブレーキ圧を左ブレーキ回路41または右ブレーキ回路42のいずれか一方に供給し、旋回内輪側の左車輪ブレーキ37,38または右車輪ブレーキ39,40の一方のブレーキトルクをアーティキュレート角αに比例して作動させる。
【0084】
旋回方向(左回りか右回りか)を判断は、アーティキュレート角センサ72で検出されたアーティキュレート角αによって行ない、左右の小旋回制御弁63,64の一方により左右いずれか一方の小旋回方向指令を行う。
【0085】
上記ハンドルを直進方向に戻すと、コントローラ74は、通常ブレーキモードを作動させて、強制的に左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64を元のスプリングリターン位置すなわち0MPaに減圧する位置に戻し、これらの比例減圧弁63,64を経て左ブレーキ回路41および右ブレーキ回路42内の作動油を油タンク55に戻し、圧抜きを行なう。
【0086】
小旋回スイッチ69をオンにするとともに、車両操向ハンドルを旋回操作したとき、高速スピードでの小旋回は好ましくないので、車速センサ71を用いて検出した車速Vが、車速しきい値、例えば10km/hを超える場合は、上記ハンドルを戻す場合と同様に通常ブレーキモードを作動させる。
【0087】
小旋回スイッチ69をオンにするとともに、車両操向ハンドルを旋回操作したとき、アイスバーン上での走行は、タイヤの横すべりが大きく好ましくないため、ヨー角速度センサ73などを用いて、横すべり角βを算出し、この横すべり角βが横すべり角しきい値、例えば30°を超える場合は、上記ハンドルを戻す場合と同様に通常ブレーキモードを作動させる。
【0088】
そして、左車輪ブレーキ37,38または右車輪ブレーキ39,40の一方を作動させることで、後車体21と前車体23とをアーティキュレート軸22を介し互いに屈折させる最大アーティキュレート角で決まる旋回半径を、さらに小さくすることが可能であるが、小旋回スイッチ69をオンにするとともに、車両操向ハンドルを旋回操作することで、比較的小さなアーティキュレート角での小旋回も可能となる。
【0089】
以上のように、ポンプ57より吐出された作動油を左車輪ブレーキ37,38または右車輪ブレーキ39,40へ供給する小旋回圧供給回路60と他の回路60aとの間で切換える方向切換弁59と、小旋回圧供給回路60の圧力を設定圧に制御するリリーフ弁61とアキュームレータ62とにより、小旋回用ブレーキ圧源を、バケット作業機回路などの他の回路60aで用いられている既存のポンプ57を用いて安価に構成できるとともに、アキュームレータ62により小旋回圧供給回路60の作動油を応答性良く左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64に供給でき、これらの左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64によって、左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方に直ちに小旋回用内輪ブレーキ圧を供給できる。
【0090】
さらに、小旋回ブレーキモードを選択する小旋回スイッチ69がオンの状態で、後車体21に対し前車体23を屈折させるハンドル旋回操作があると、コントローラ74によって、小旋回圧供給回路60のアキュームレータ62に蓄圧された作動油の圧力を、アーティキュレート角センサ72で検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64の一方により左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御するとともに、左小旋回用比例減圧弁63および右小旋回用比例減圧弁64の他方により左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の他方を無負荷状態の0MPaに制御するので、フルアーティキュレート状態でなくても小旋回ブレーキモードを起動させることができ、車両オペレータの多くのハンドル旋回操作を不要とし、少ない旋回操作での車両小旋回が可能であり、労力を軽減できる。
【0091】
その際、コントローラ74は、左小旋回用比例減圧弁63または右小旋回用比例減圧弁64を比例減圧制御して、アーティキュレート角センサ72で検出されたアーティキュレート角αに比例した小旋回用内輪ブレーキ圧の作動油を旋回内輪側の左車輪ブレーキ37,38または右車輪ブレーキ39,40に供給するので、後車体21に対する前車体23の車体屈折角に応じて(すなわちアーティキュレート角αに比例して)制御された適切な小旋回用内輪ブレーキトルクにより、スムーズな旋回挙動が得られ、良好な乗り心地が得られる。
【0092】
また、既存のポンプ57を有効利用した安価な回路を構成して、小旋回の必要なときに、方向切換弁59によりポンプ57をバケット作業機回路などの他の回路60aから小旋回圧供給回路60へと切換えるとともに、アキュームレータ62とリリーフ弁61とにより、ポンプ57からの作動油を設定圧に制御しておいて、その作動油を小旋回時に左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方へ直ちに供給し、必要な小旋回用内輪ブレーキ圧を得るようにしたので、専用ブレーキポンプを採用した場合と比較して、省エネルギかつ低コストを図れる。
【0093】
また、後車体21に対し前車体23を直進方向に戻すハンドル戻し操作か、またはブレーキマスタシリンダ51から左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全輪ブレーキに作動油を供給する通常ブレーキ操作があると、小旋回中でもステップ2の制御により、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させるので、小旋回ブレーキモードより通常ブレーキモードを優先させて、ブレーキシステムに対する高い信頼性を確保できる。
【0094】
コントローラ74は、車速センサ71により検出されたアーティキュレート車両の車速Vが車速しきい値より低く、かつヨー角速度センサ73からのデータにより算出されたアーティキュレート車両の横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキモードに制御可能であるが、車速Vが車速しきい値を超えた場合と、横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合は、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダ51から供給された作動油により全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させるので、車体が不安定な走行状態での小旋回ブレーキ制御が自動的に無効化され、車体の安定性を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、ホイールローダなどのアーティキュレート車両の製造産業に利用される。
【符号の説明】
【0096】
21 後車体
22 アーティキュレート軸
23 前車体
37,38 左車輪ブレーキ
39,40 右車輪ブレーキ
51 ブレーキマスタシリンダ
57 ポンプ
59 方向切換弁
60 小旋回圧供給回路
60a 他の回路
61 リリーフ弁
62 アキュームレータ
63 左小旋回用比例減圧弁
64 右小旋回用比例減圧弁
69 小旋回スイッチ
71 車速センサ
72 アーティキュレート角センサ
73 ヨー角速度センサ
74 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後車体と前車体とをアーティキュレート軸を介し互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両において、
後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角および屈折方向を検出するアーティキュレート角センサと、
左車輪制動用の左車輪ブレーキおよび右車輪制動用の右車輪ブレーキの両方にブレーキ圧を供給するブレーキマスタシリンダと、
ブレーキマスタシリンダとは別にポンプより吐出された作動流体を左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方へ供給する小旋回圧供給回路と、
小旋回圧供給回路と共通の上記ポンプを作動流体圧源とする他の回路と、
小旋回圧供給回路と他の回路との間で上記ポンプに対する連通を切換える方向切換弁と、
ポンプから方向切換弁を経て小旋回圧供給回路に供給された作動流体の圧力を設定圧に制御するリリーフ弁と、
リリーフ弁で設定された圧力を維持するアキュームレータと、
リリーフ弁およびアキュームレータによりブレーキ圧源として圧力制御された作動流体圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して左車輪ブレーキに供給する左小旋回用比例減圧弁と、
リリーフ弁およびアキュームレータによりブレーキ圧源として圧力制御された作動流体圧を小旋回用内輪ブレーキ圧に減圧制御して右車輪ブレーキに供給する右小旋回用比例減圧弁と、
左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方のみに作動流体を供給する小旋回ブレーキモードを選択する小旋回スイッチと、
小旋回スイッチがオンの状態で後車体に対し前車体を屈折させるハンドル旋回操作があると、方向切換弁を切換制御してポンプに連通された小旋回圧供給回路内をリリーフ弁およびアキュームレータにより設定圧に維持するとともに、小旋回圧供給回路から左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方に供給される小旋回用内輪ブレーキ圧を、アーティキュレート角センサで検出された旋回方向の内側に対応する左小旋回用比例減圧弁および右小旋回用比例減圧弁の一方によりアーティキュレート角センサで検出されたアーティキュレート角に応じて制御する小旋回ブレーキモードを起動させる機能を備えたコントローラと
を具備したことを特徴とするアーティキュレート車両における小旋回制御装置。
【請求項2】
コントローラは、
後車体に対し前車体を直進方向に戻すハンドル戻し操作と、小旋回中にブレーキマスタシリンダから左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキに作動流体を供給する通常ブレーキ操作の少なくとも一方があると、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダから供給された作動流体により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を備えた
ことを特徴とする請求項1記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置。
【請求項3】
アーティキュレート車両の車速を検出する車速センサと、
アーティキュレート車両の横すべり角を算出するためのヨー角速度センサとを具備し、
コントローラは、
車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、小旋回ブレーキモードを解除するとともに、ブレーキマスタシリンダから供給された作動流体により左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの全輪ブレーキを利かせることが可能となる通常ブレーキモードを作動させる機能を備えた
ことを特徴とする請求項1または2記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86619(P2012−86619A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233432(P2010−233432)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】