説明

アームカバー

【課題】切替えパーツの数及び縫合部の量が少なく且つ少なくとも上腕部及び前腕部に着圧を加えることができるアームカバーを提供すること。
【解決手段】着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えるアームカバーであって、上記上腕部、肘部及び前腕部の素材が、弾性経編物であること、上記アームカバーが、上記肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有すること、そして着用時に、着用者の少なくとも上腕及び前腕に、着圧が加えられることを特徴とするアームカバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アームカバーに関する。具体的には、本発明は、上腕部、肘部及び前腕部の素材が、弾性経編物であり、肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有し、そして着用時に、着用者の、少なくとも上腕及び前腕に着圧が加えられることを特徴とするアームカバーに関する。本発明はまた、その上端に、滑り止め部を有するアームカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用衣服において、スポーツ中の疲労の軽減、筋振動を抑制することによるパフォーマンスの向上、スポーツ後の疲労回復効果の促進等のために、着用者の体、特に下肢に着圧を加えることができる衣服が提案されている。
【0003】
スポーツ時、日常生活等において、上肢を保護するためのアームカバーが知られており、例えば、株式会社ワコールから、CW−X(商標)の下で市販されるアームカバーが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記アームカバーは、UVカット、吸収速乾、体温調節等を目的とするカバーであり、着用者の上肢に着圧を加えるような設計はなされていない。
また、単に小さめに設計することにより、着用者の上肢に着圧を加えることができるアームカバーを製造しようとすると、上肢が動かしにくいアームカバーとなる問題点が生ずる。
さらに、上肢の形状に沿う立体形状を有するアームカバーを製造しようとすると、切替えパーツの数及び縫合部の量が多くなり、伸縮性に劣り、特に、スポーツ時の上肢の径の変化に追従しにくいアームカバーとなる問題点が生ずる。
従って、本発明は、切替えパーツの数及び縫合部の量が少なく且つ着用者の少なくとも上腕及び前腕に着圧を加えることができるアームカバーを提供することを目的とする。
本発明はまた、着用時にずり落ちにくいアームカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えるアームカバーであって、上記上腕部、肘部及び前腕部の素材が、弾性経編物であること、上記アームカバーが、上記肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有すること、そして着用時に、着用者の少なくとも上腕及び前腕に、着圧が加えられることを特徴とするアームカバーにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えるアームカバーであって、
上記上腕部、肘部及び前腕部の素材が、弾性経編物であること、
上記アームカバーが、上記肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有すること、そして
着用時に、着用者の少なくとも上腕及び前腕に、着圧が加えられること、
を特徴とする、上記アームカバー。
【0007】
[態様2]
上記アームカバーの上端に、上記弾性経編物よりも摩擦係数が高い滑り止め部を有する、態様1に記載のアームカバー。
[態様3]
上記滑り止め部の素材が、丸編みの編物である、態様2に記載のアームカバー。
【0008】
[態様4]
上記滑り止め部の周囲長方向の疲労試験後回復率が、上記上腕部、肘部及び前腕部における弾性経編物の周囲長方向の疲労試験後回復率よりも高い、態様2又は3に記載のアームカバー。
[態様5]
上記滑り止め部の周囲長方向の伸長後回復率が、上記上腕部、肘部及び前腕部における弾性経編物の周囲長方向の伸長後回復率よりも高い、態様2〜4のいずれか一つに記載のアームカバー。
【0009】
[態様6]
前身頃、後身頃、上記三日月形状の切替え部、及び上記滑り止め部から成る、態様2〜5のいずれか一つに記載のアームカバー。
[態様7]
上記アームカバーの上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計されている、態様1〜6のいずれか一つに記載のアームカバー。
【0010】
[態様8]
上記アームカバーの下端が、着用者の手首に位置するように寸法設計されている、態様1〜7のいずれか一つに記載のアームカバー。
[態様9]
上記アームカバーの下端が、着用者の手の甲及び手の平に位置するように寸法設計されている、態様1〜7のいずれか一つに記載のアームカバー。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアームカバーは、肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有するので、切替えパーツの数及び縫合部の量が少なく且つ着用者の少なくとも上腕及び前腕に、着圧を加えることができる。
本発明の、滑り止め部を有するアームカバーは、着用時にずり落ちにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のアームカバーの第1の実施形態を示す図である。
【図2】図2は、図1に示されるアームカバーを、左腕に着用した状態を説明するための図である。
【図3】図3は、図1に示されるアームカバーを左腕に着用し、左腕を曲げた状態を説明するための図である。
【図4】図4は、本発明のアームカバーの第2の実施形態を示す図である。
【図5】図5は、本発明のアームカバーの第3の実施形態を示す図である。
【図6】図6は、三日月形状の切替え部により、肘頭を頂点として屈曲する立体形状を簡易に形成することができる理由を説明するための図である。
【図7】図7は、本発明のアームカバーの第4の実施形態を示す図である。
【図8】図8は、本発明のアームカバーの第5の実施形態を示す図である。
【図9】図9は、本発明のアームカバーの第6の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアームカバーについて、以下、詳細に説明する。
[アームカバー]
本明細書において、「アームカバー」は、スポーツ、日常生活等において着用される、上肢の少なくとも一部を覆うウェア、より具体的には、着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えるウェアを意味する。
【0014】
上記スポーツは、遊戯、競争、肉体的鍛錬の要素を含む身体運動の総称を意味し、例えば、陸上競技、野球、ソフトボール、テニス、ハンドボール、体操、卓球、バドミントン、サッカー、バスケットボール、バレーボール、自転車、スキー、スノーボード、スケート、水泳、ボートレースだけでなく、持久系スポーツ、ランニング、ウォーキング、トレッキング、登山、ゴルフ等が挙げられる。
上記日常生活には、日常作業、例えば、立ち仕事、デスクワーク等、旅行中の移動、例えば、飛行機及び電車での移動等が含まれる。
【0015】
本発明のアームカバーは、少なくとも、着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えており、且つ右腕用パーツ及び左腕用パーツの2つのパーツに分かれているものであれば、特に制限されないが、例えば、本発明のアームカバーの上端は、着用者の上腕、例えば、上腕の上部、例えば、脇付近、及び上腕の下部、例えば、肘上に位置するように寸法設計されることができ、そして本発明のアームカバーの下端は、着用者の前腕、例えば、前腕の上部、例えば、肘下、及び前腕の下部、例えば、手首、並びに手の甲及び手の平に位置するように寸法設計されることができ、本発明のアームカバーの用途に応じて、適宜設計することができる。
【0016】
なお、本明細書において、「上端」は、着用時に、着用者の頭側に最も近くなる端部を意味し、そして「下端」は、着用者の指先に最も近くなる端部を意味する。例えば、上腕部の上端と称する場合には、着用者の上腕を覆う上腕部の中で、着用者の頭側に最も近くなる端部を意味し、そしてアームカバーの上端と称する場合には、本発明のアームカバーの中で、着用者の頭側に最も近くなる端部を意味し、アームカバーの上端が、滑り止め部に存在する場合もある。
【0017】
本発明のアームカバーの第1の実施形態を、図1に示す。図1(a)及び(b)は、それぞれ、左腕用パーツの左側面図及び右側面図である。図1に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び左右の2つの三日月形状の切替え部5から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図1に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。図1に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の手首に位置するように寸法設計されている。
【0018】
なお、本明細書において、「上腕」は、肩関節と肘関節との間の部分を意味し、「前腕」は、肘関節と手首との間の部分を意味し、そして「肘」は、上腕と前腕とをつなぐ関節を意味し、そして肘頭及び肘窩を含む。また、本明細書において、「上肢」は、上腕、肘、前腕及び手を含み、そして右側の上肢を右腕と称し、左側の上肢を左腕と称する。
【0019】
図1から明らかなように、本発明のアームカバーは、肘頭を頂点として屈曲した立体形状を有する。上記屈曲は、肘頭を頂点とし、前腕及び上腕が形成する角度が180°未満になるような屈曲を意味する。上記屈曲は、本発明のアームカバーが、肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有することにより達成される。その理由は、後述する。
本発明のアームカバーは、肘頭を頂点として屈曲するような立体形状を有するので、スポーツ動作に対する追従性が高く、スポーツ時の肘の屈曲が容易であり、肘窩の生地の余りが抑えられ、不快な圧迫感が少なく、そして快適な着用感を有することができる。
【0020】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図1に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5の4つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図1に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、5つ以上のパーツから構成されていてもよい。
【0021】
また、図1に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。なお、「縫合部」に関しては、後述する。
【0022】
図2は、図1に示されるアームカバー1のうち、左腕用パーツを、左腕に着用した状態を説明するための図である。図2(a)及び(b)は、左腕を、それぞれ、正面及び背面から見た図であり、着用者の上肢が点線で示されている。図2のアームカバー1では、三日月形状の切替え部5が、肘部3の両側部において、肘頭9に向かって突出している。
なお、図1に示されるアームカバー1において、右腕用パーツは、左腕用パーツと左右対称の形状を有し、左右対称の着用状態を有する。
【0023】
図3は、図1に示されるアームカバー1のうち、左腕用パーツを左腕に着用し、さらに左腕を曲げた状態を説明するための図である。図3は、アームカバー1を、着用者の左斜め前方から見た図である。
図3に示されるように、本発明のアームカバーは、肘頭を頂点として屈曲するような立体形状を有するので、スポーツ動作に対する追従性が高く、スポーツ時の肘の屈曲が容易であり、肘窩の生地の余りが抑えられ、不快な圧迫感が少なく、そして快適な着用感を有することができる。
なお、図3に示されるアームカバー1において、右腕用パーツは、左腕用パーツと左右対称の形状を有し、左右対称の着用状態を有する。
【0024】
図4は、本発明のアームカバーの第2の実施形態を示す図である。図4は、アームカバー1(左腕用パーツ)を左腕に着用し、左腕を曲げた状態を、着用者の左斜め前方から見た図であり、着用者の上肢が点線で示されている。図4に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び左右の2つの三日月形状の切替え部5から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図4に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。図4に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の手の甲10及び手の平11に位置するように寸法設計されている。
【0025】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図4に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5の4つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図4に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、5以上のパーツから構成されていてもよい。
【0026】
また、図4に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。
【0027】
図4に示されるアームカバー1では、アームカバー1の下端が着用者の手の甲10及び手の平11に位置するように寸法設計されているので、着用者の手の甲及び手の平に着圧を加えることができ、また、手の甲及び手の平に照射される紫外線の量を、一定量抑制することができる。
なお、図4に示されるアームカバー1において、右腕用パーツは、左腕用パーツと左右対称の形状を有し、左右対称の着用状態を有する。
【0028】
図5は、本発明のアームカバーの第3の実施形態を示す図である。図5は、アームカバー1(左腕用パーツ)を左腕に着用し、左腕を曲げた状態を、着用者の左斜め前方から見た図であり、着用者の上肢が点線で示されている。図5に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8及び左右の2つの三日月形状の切替え部5から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図5に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。図5に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の指先に位置するように寸法設計されている。すなわち、着用者の上腕から手指までがアームカバー1で覆われている。
【0029】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図5に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5の4つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図5に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、5つ以上のパーツから構成されていてもよい。
【0030】
また、図5に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。
【0031】
本発明のアームカバーの上腕部、肘部及び前腕部の素材である弾性経編物としては、例えば、2ウェイトリコットが挙げられる。上記弾性経編物により、スポーツ等に適した、薄く、凹凸感が少なく、肌触りが良好であり、そして耐久性、UVカット性能、接触冷感性能、及びクーリング性能の高いアームカバーを製造することができる。
【0032】
上記弾性経編物は、弾性糸及び非弾性糸から編成されることが好ましい。上記素材に用いられる弾性糸としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸等、若しくは天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、又はこれ等を主体とした他の有機合成樹脂体との複合若しくは混合によって得られる弾性糸が挙げられ、糸自身がゴム状弾性を有するものが好ましい。
【0033】
上記弾性糸としては、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれであってもよい。また、弾性糸は、そのまま生糸として使用してもよく、非弾性糸又は弾性糸で被覆した加工糸として使用してもよい。本発明で使用する弾性糸として、特にポリウレタン弾性糸が好ましい。弾性糸の繊度は、約44デシテックス(dtex)〜約78デシテックスが好ましい。
【0034】
上記非弾性糸は、フィラメント糸又は紡績糸のいずれであることができる。具体的には、フィラメント糸として、レーヨン、アセテート、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル等の化合繊又は絹(生糸)等が好ましく用いられ、原糸、仮ヨリ加工糸、若しくは先染糸等又はこれらの複合糸であることができる。これらは、いずれも撚糸加工のし易い、安定した糸条であることが好ましい。また、紡績糸は、木綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン、塩化ビニル系等の化合繊からなるステープルであって、これらが単独若しくは混紡された紡績糸であればよい。非弾性糸がフィラメント糸である場合、約22〜約78デシテックスの範囲が好ましく、約22〜約55デシテックスの範囲がより好ましい。
【0035】
上記素材として、例えば、一般的なトリコット編機を用いて、オサL1としてのナイロン、オサL2としてのポリウレタン弾性繊維を配し、双方をフルセットで使用し、デンビ組織であるL1が1023、L2が1210の組織とし、ポリウレタン混率が約20〜約40%となるよう編み上げた弾性経編物を挙げることができる。
【0036】
本発明に用いられる弾性経編物は、当該弾性経編物の周囲長方向の最大伸長率が、丈方向の最大伸長率よりも大きいことが好ましい。上記素材の丈方向よりも、前腕部(存在する場合には、特に、手首部)において、上記素材の周囲長方向の最大伸長率を大きくすることにより、着脱性を確保しつつ、着用時に一定の着圧を加えることができるからである。
【0037】
ここで、本明細書において、「丈方向」とは、着用時に着用者の身長方向となるような方向を意味し、そして「周囲長方向」とは、上記丈方向と垂直の方向を意味する。
また、本明細書において、「伸長率」は、伸び長さ(A)の、元の長さ(B)との差を、元の長さで割った値の百分率を意味する。
上記伸長率は、次の式:
伸長率(%)=100×(A−B)/B
で表すことができる。
【0038】
本明細書において、「最大伸長率」は、荷重と伸びとが比例関係を保つ、最大の伸長率を意味する。
最大伸長率は、以下の方法により測定することができる。幅5cm及び長さ15cmの試験片を、テンシロン型の定速伸長型引張試験機にセットし、治具の間隔(つかみ間隔)を5cmとし、引張速度5cm/分にて、試験片が破断するまで試験を行う。試験後、横軸を伸び、縦軸を荷重とするグラフを作図し、荷重と伸びとが比例関係を外れる地点の最大伸び長さから、最大伸長率を算出する。テンシロン型の定速伸長型引張試験機としては、例えば、オリエンテック製RTC−1210Aを挙げることができる。
【0039】
本発明に用いられる弾性経編物の周囲長方向の最大伸長率は、好ましくは約150%〜約500%、より好ましくは約150%〜約300%であることが、前腕部(存在する場合には、特に、手首部)の着脱性を確保するため、適応サイズ範囲を拡大するため、そして前腕部(存在する場合には、特に、手首部)に所望の着圧を加えるために好ましい。
また、本発明に用いられる弾性経編物は、最大伸長率が高いので、例えば、筋肉が肥大した場合、又は肘を大きく屈曲させた場合であっても、着圧の変化が少ない。
【0040】
[三日月形状の切替え部]
本発明のアームカバーは、肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有する。
上腕部、肘部及び前腕部の素材が弾性経編物であるアームカバーに、三日月形状の切替え部を採用することにより、切替えパーツの数及び縫合部の量を少なくしながら、肘頭を頂点として、前腕、肘窩及び上腕がなす角度が180°未満になるように屈曲した立体形状を簡易に形成することができる。
三日月形状の切替え部により、上記立体形状を簡易に形成することができる理由を、図6を用いて説明する。
【0041】
図6のアームカバー1は、前身頃7と、後身頃8とを有する。後身頃8の、前身頃7と接する部分のうち、着用者の肘に相当する領域(高さL)に、一定の三日月形状の切替え部5を想定する仮想線を引き、三日月形状の切替え部5を切り出す。三日月形状の切替え部5の短弧及び長弧を、それぞれ、x及びyとし、そしてその高さ及び突出部分の幅を、それぞれ、L及びaとする。
【0042】
次いで、三日月形状の切替え部5において、高さL及び突出部分の幅aを保持したまま、長弧yを、y’,y’’,及びy’’’(yの長さ<y’の長さ<y’’の長さ<y’’’の長さ)へと変化させ、さらに短弧xを、x’,x’’,及びx’’’(xの長さ<x’の長さ<x’’の長さ<x’’’の長さ)と変化させた、それぞれ、三日月形状の切替え部5’,5’’及び5’’’を準備する。次いで、前身頃7と、三日月形状の切替え部5を切り出した後の後身頃と、三日月形状の切替え部(5’,5’’及び5’’’)とを縫合すると、肘頭を頂点とし、屈曲の度合いの異なるアームカバーを形成することができる。屈曲の度合いを大きくしたい場合には、三日月形状の切替え部の短弧x及び長弧yの長さの両方を長くしてやればよい。例えば、三日月形状の切替え部5’’’を有するアームカバー1は、三日月形状の切替え部5’’を有するアームカバーよりも屈曲の度合いが大きい。
【0043】
なお、高さLを高くすることにより、屈曲する範囲が広くなる傾向があり、そして突出部分の幅aを大きくすることにより、本発明のアームカバーの肘部の断面積を大きくすることができる。
【0044】
本明細書において、「三日月形状の切替え部」には、一般的な三日月形状を意味する、2つの円弧(長弧及び短弧)から形成される形状だけではなく、2つの楕円弧から形成される形状、円弧及び楕円弧から形成される形状、これらの一部又は全部が直線で置換された形状、例えば、短弧の全部が直線で置換された形状等、略三日月形状を有する切替え部が含まれる。
【0045】
肘部の両側部の三日月形状の切替え部において、内側の三日月形状の切替え部の形状と、外側の三日月形状の切替え部の形状とは、同一、例えば、対称形、又は非同一、例えば、相似形であることができる。例えば、内側の三日月形状の切替え部が、外側の三日月形状の切替え部よりも小さくてもよい。
なお、本明細書において、「内側」は、着用時に上肢の内側、すなわち、右腕の左側及び左腕の右側となる側を意味し、そして「外側」は、着用時に上肢の外側、すなわち、右腕の右側及び左腕の左側となる側を意味する。
【0046】
本発明に用いられる三日月形状の切替え部の高さ(図6のLに相当する)は、本発明のアームカバーに所望の立体的形状を形成することができれば、特に制限されるものではなく、サイズ等によっても変化するが、例えば、約8cm〜約30cmであることができる。
本発明に用いられる三日月形状の切替え部の突出部分の幅(図6のaに相当する)は、本発明のアームカバーに所望の立体的形状を形成することができれば、特に制限されるものではなく、サイズ等によっても変化するが、例えば、約1cm〜約6cmであることができる。
【0047】
上記三日月形状の切替え部の素材は、上記上腕部、肘部及び前腕部の素材と同一若しくは異なる素材、例えば、通気性を有する素材であることができる。例えば、上記三日月形状の切替え部の素材は、上記上腕部、肘部及び前腕部の素材と同一の弾性経編物であることができ、又は上記上腕部、肘部及び前腕部の素材よりも最大伸長率の高い弾性経編物であることができ、あるいは通気性を有するメッシュ素材であることができる。
【0048】
本明細書において、「通気性」は、通気度を意味する。「通気性を有する素材」としては、運動時に蒸れを感じない等の、当業界で通気性を有する素材又は通気性のある素材として一般的に用いられている素材であれば、特に問題なく用いることができるが、例えば、JIS L1018(フラジール形試験機を用いた測定法)の測定法に従って、約100cm3/cm2・s以上の通気度を有するような素材であることができる。さらに、夏季における運動時の蒸れを効果的に防止するために、上記素材は、例えば、約300cm3/cm2・s以上の通気度を有するような素材であることができる。
【0049】
[縫合部]
本発明のアームカバーにおいて、三日月形状の切替え部と、他のパーツ、例えば、前身頃及び後身頃とを固定するために用いられうる縫合部は、特に制限されず、種々の縫製方法により形成することができ、例えば、4本針フラットシーマ(両面飾り扁平縫いミシン)、2本針両面飾り扁平縫いミシン、3本針両面飾り扁平縫いミシンを用いて形成することができる。上記縫合部としては、特に、フラットシーマにより形成されるフラットシームが好ましい。これにより、切替え部分の厚みを薄くし、且つ素材の伸びを妨げないようにすることができるからである。上記フラットシームは、肌に当たる縫い糸が立体的にならないよう、生地の裏側を見て縫う「裏使い」で用いることができる。これにより、肌触りがさらに向上する。
【0050】
本発明では、シンプルな三日月形状の切替え部を採用することにより、立体設計が行われた。従って、本発明のアームカバーは、切替え部の数及び縫合部の量が少なく、下記の利点をさらに有することができる;
(1)素材の伸びが阻害されないので、運動時に上腕及び/又は前腕等の周囲長が変化した場合であっても、着圧が変わりにくい;
(2)素材の伸びが阻害されないので、運動動作が阻害されにくい;そして
(3)皮膚感触が柔らかくなり、不快なアタリ感がない。
【0051】
[着圧]
本明細書において、「着圧」とは、着用時に、着用者の各部位に加えられる圧力を意味する。着用時に、上記着圧を加えることにより、スポーツ中の疲労を軽減することができ、筋振動を抑制することによるパフォーマンスの向上をはかることができ、そしてスポーツ後の疲労回復効果を促進することができる。
上記着圧は、上腕、前腕等の筋ポンプ作用を効果的に補助し、静脈還流量を増加させるような圧力であることが望ましい。
【0052】
[滑り止め部]
本発明のアームカバーは、その上端、例えば、上腕の上部、例えば、脇付近、及び上腕の下部、例えば、肘上に、滑り止め部を有していてもよい。
本発明に用いられる弾性経編物は、薄く、凹凸感が少なく、肌触りが良い生地であるが、生地自体の摩擦抵抗が小さい傾向がある。さらに、本発明のアームカバーは、上腕部から前腕部にかけて、段階的に径が細くなることに加え、着圧が加えられているので、着用時に、より指先方向への力がはたらきやすい。
従って、着用者の上肢の形状、特に上腕の形状等によっては、着用時にずり下がりやすい場合がある。
【0053】
図7は、本発明のアームカバーの第4の実施形態を示す図である。図7は、アームカバー1(左腕用パーツ)を左腕に着用し、左腕を曲げた状態を説明するための図である。図7は、アームカバー1を、着用者の左斜め前方から見た図である。図7に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び左右の2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図7に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。滑り止め部12は、上腕部2の上端に、縫合部6により縫合されている。
図7に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の手首に位置するように寸法設計されている。
【0054】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図7に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12の5つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図7に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、6つ以上のパーツから構成されていてもよい。
【0055】
また、図7に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。
なお、図7に示されるアームカバー1において、右腕用パーツは、左腕用パーツと左右対称の形状を有し、左右対称の着用状態を有する。
【0056】
図8は、本発明のアームカバーの第5の実施形態を示す図である。図8は、アームカバー1(左腕用パーツ)を左腕に着用し、左腕を曲げた状態を、着用者の左斜め前方から見た図であり、着用者の上肢が点線で示されている。図8に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び左右の2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図8に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。滑り止め部12は、上腕部2の上端に、縫合部6により縫合されている。
図8に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の手の甲10及び手の平11に位置するように寸法設計されている。
【0057】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図8に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12の5つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図8に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、6つ以上のパーツから構成されていてもよい。
【0058】
また、図8に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。
なお、図8に示されるアームカバー1において、右腕用パーツは、左腕用パーツと左右対称の形状を有し、左右対称の着用状態を有する。
【0059】
図9は、本発明のアームカバーの第6の実施形態を示す図である。図9は、アームカバー1(左腕用パーツ)を左腕に着用し、左腕を曲げた状態を、着用者の左斜め前方から見た図であり、着用者の上肢が点線で示されている。図9に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び左右の2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12から構成され、これらのパーツが、縫合部6により縫合されている。図8に示されるアームカバー1は、着用者の上腕を覆う上腕部2と、着用者の肘を覆う肘部3と、着用者の前腕を覆う前腕部4とを有し、そして肘部3の両側部に、三日月形状の切替え部5が、肘頭9に向かって突出するように配置されている。滑り止め部12は、上腕部2の上端に、縫合部6により縫合されている。
【0060】
図9に示されるアームカバー1では、その上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計され、そしてその下端が、着用者の指先に位置するように寸法設計されている。すなわち、着用者の上腕から手指までがアームカバー1で覆われておる。
【0061】
縫合部6としては、当技術分野で通常用いられている縫合手段であれば、特に制限されずに用いることができるが、例えば、フラットシームを挙げることができる。
また、図9に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12の5つのパーツから構成されているが、本発明において、パーツ数は、特に制限されるものではなく、図9に示されるようなアームカバーは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、6つ以上のパーツから構成されていてもよい。
【0062】
また、図9に示されるアームカバー1は、前身頃7、後身頃8、及び2つの三日月形状の切替え部5、並びに滑り止め部12が、縫合部6により縫合されているが、本発明において、各パーツの連結手段は、縫合部に制限されず、他の連結手段、例えば、接着により形成される接着部、融着により形成される融着部等であってもよい。
【0063】
本発明に用いられる滑り止め部は、上記弾性経編物よりも摩擦係数が高いものであれば、特に制限されないが、例えば、丸編みの編物、特に、小口径の丸編機で編んだ丸編みの編物であることが好ましい。上記滑り止め部としての丸編みの編物は、例えば、ポリウレタン繊維又はポリウレタンを芯としたカバーリング繊維を含むことができる。ポリウレタン繊維又はポリウレタンを芯としたカバーリング繊維を用いることにより、周囲長方向の最大伸長率、並びに後述の伸長後回復率及び疲労試験後回復率が高くなり、適正な着圧が得られやすく、繰り返しの着用によるへたりが軽減され、そして滑り止め効果が高くなる。また、ポリウレタンを芯としたカバーリング繊維を用いることにより、上記に加えて、上記滑り止め部を伸長した際の引張強度の増大を抑制することができ、さらに、ポリウレタン部分が外部から見えにくくなり、本発明のアームカバーの外観が向上する。
本発明の滑り止め部としては、伸長率60%及び/又は伸長率80%における疲労試験後回復率が、約95%以上であることが好ましく、約97%以上であることがより好ましく、そして約98%以上であることがさらに好ましい。
【0064】
また、上記丸編みの編物は、例えば、ポリウレタン繊維又はポリウレタンを芯としたカバーリング繊維を挿入糸として含むインレイ編みであることができる。上記丸編みの編物がインレイ編みであることにより、周囲長方向の最大伸長率、並びに周囲長方向の伸長後回復率及び疲労試験後回復率がさらに高くなり、適正な着圧がさらに得られやすく、繰り返しの着用によるへたりがさらに軽減され、そして滑り止め効果がさらに高くなる。
【0065】
摩擦係数の高さを利用して、本発明のアームカバーを滑りにくくすることにより、滑り止め部部分の着圧を、所定の範囲内に保持することができる。例えば、従来公知の、ゴムで締め付けることにより滑り止めを行う方法では、滑り止めの効果を得るために、ゴム部分を高い圧力で締め付ける、すなわち、高い着圧を加える必要があるので、最も心臓に近い上端の着圧が高くなってしまう。本発明のアームカバーの中で、上端は、本来最も低い着圧とすべき箇所である。
【0066】
上記滑り止め部の高さは、特に制限されるものではないが、約1.0cm〜約6.0cm、好ましくは、約2.5〜約5.0cm程度である。上記滑り止め部の高さが約1.0cmを下回ると、滑り止め効果が少なくなる傾向があり、そして上記滑り止め部の高さが約6.0cmを上回ると、弾性経編物を用いることによる利点が少なくなる傾向がある。
【0067】
また、上記滑り止め部を構成する素材、例えば、丸編みの編物は、上腕部、肘部及び前腕部を構成する弾性経編物よりも、周囲長方向の最大伸長率、並びに周囲長方向の伸長後回復率及び疲労試験後回復率が高いことが好ましい。繰り返しの着用において、周囲長方向のへたりが少なく、適正な着圧と滑り止め効果とを保持できるからである。
【0068】
なお、本明細書において、「伸長後回復率」は、以下のように測定することができる。幅5cm及び長さ20cmの試験片を、テンシロン型の定速伸長型引張試験機にセットし、治具の間隔(つかみ間隔)を10cmとし、引張速度20cm/分にて、伸長率80%まで伸長させる。次いで、上記試験片を、速度20cm/分にて収縮させ、元の位置付近まで戻し、そして荷重を取り除いた後の、上記試験片の伸長率x(%)を測定し、以下の計算式に従って、伸長後回復率を測定する。
伸長後回復率(%)=100×(80−x)/80
上記テンシロン型の定速伸長型引張試験機としては、例えば、オリエンテック製RTC−1210Aを挙げることができる。
【0069】
さらに、上記滑り止め部を構成する素材、例えば、丸編みの編物は、上腕部、肘部及び前腕部を構成する弾性経編物よりも、疲労試験後回復率が高いことが好ましい。繰り返しの着用において、周囲長方向のへたりが少なく、適正な着圧と滑り止め効果とを保持できるからである。
【0070】
なお、疲労試験は、大栄科学精器製作所のデマッチャー型疲労試験器、DC−3を用いて、以下のように実施することができる。
幅40mm及び長さ200mmの試験片を、治具の間隔(つかみ間隔)を100mmとしてDC−3にセットし、当初の治具の間隔が分かるように2つの目印を付ける。次いで、試験片を、伸長率0%から、伸長率60%(又は80%)まで、複数回にわたって伸長させる。単位時間当りの伸長回数及び総伸長回数は、例えば、それぞれ、122回/分及び10,000回とすることができる。試験終了後、試験片を治具から外し、一定時間経過後、例えば、20時間経過後に、2つの目印の間隔y(mm)を測定する。
疲労試験後回復率(%)は、下記式に従って算出することができる。
伸長率60%における疲労試験後回復率(%)
=100×[160−y]/[160−100]
伸長率80%における疲労試験後回復率(%)
=100×[180−y]/[180−100]
【0071】
本発明のアームカバーは、着用時のずり下がりを防止するために、着用者に接する任意の場所、特に、上腕部の、着用者と接する側に、摩擦係数の高い材料、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等のコーティング部をさらに有していてもよい。
上記コーティング部は、着用者の周囲長方向に連続して配置されていてもよく、又は丈方向及び周囲長方向に、断続的、例えば、千鳥状に配置されていてもよい。
ただし、上記コーティング部は、一般的に通気性が低いため、着用時のムレ、カブレ等に注意する必要がある。
【0072】
本発明のアームカバーはまた、弾性経編物、及び所望による滑り止め部の繊維に、摩擦係数の高い繊維、例えば、ナノファイバーを採用することにより、着用時のずり下がりをさらに少なくすることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
図1に示すようなアームカバー(以下、「アームカバーA」と称する)を製造した。アームカバーAの素材は、周囲長方向の最大伸長率が250%である2ウェイトリコット生地であった。
アームカバーAに用いられた三日月形状の切替え部は、高さ約16cm、突出部分の幅約2.5cmであった。
アームカバーAを、複数の被験者に着用してもらったところ、スポーツ時の肘の屈曲が容易であり、そして快適な着用感が得られたとの回答を得た。さらに、従来のアームカバーと比較して、スポーツ中の疲労が軽減され、そしてスポーツ後の疲労の回復が迅速であったとの回答が得られた。
【0074】
[実施例2]
図7に示すようなアームカバー(以下、「アームカバーB」と称する)を製造した。アームカバーBの上腕部、肘部及び前腕部の素材は、周囲長方向の伸長率が250%である2ウェイトリコット生地であり、そして滑り止め部の素材は、丸編みの編物であった。
アームカバーBに用いられた三日月形状の切替えの形状は、アームカバーAに用いられた物と同一であった。
アームカバーBを、複数の被験者に着用してもらったところ、スポーツ時の肘の屈曲が容易であり、そして快適な着用感が得られたとの回答を得た。さらに、従来のアームカバーと比較して、スポーツ中の疲労が軽減され、そしてスポーツ後の疲労の回復が迅速であったとの回答が得られた。さららに、スポーツの際に、ズレ落ちにくかったのと回答が得られた。
【0075】
[実施例3]
実施例2で製造されたアームカバーBに用いられた滑り止め部の素材である丸編みの編物に関して、疲労試験を実施した。試験片は、少なくとも40mmの丈方向長さと、少なくとも200mmの周囲長方向長さを有する丸編みの編物を裁断することにより準備したので、疲労試験後回復率(%)の値は、滑り止め部の周囲長方向の値を評価することに相当する。
単位時間当りの伸長回数及び総伸長回数は、それぞれ、122回/分及び10,000回であり、試験後、20時間経過後に測定した。伸長率60%の試験では、20時間経過後の2つの目印の間隔が101mmであり、疲労試験後回復率(%)は、98%であった。同様に、伸長率80%の試験では、20時間経過後の2つの目印の間隔が102mmであり、疲労試験後回復率(%)は、98%であった。
【0076】
実施例1で製造されたアームカバーAの素材である2ウェイトリコット生地の周囲長方向の疲労試験を行ったところ、伸長率60%及び80%における2つの目印の間隔が、それぞれ、105mm及び108mmとなり、疲労試験後回復率(%)は、それぞれ、93%及び90%であった。
【符号の説明】
【0077】
1 アームカバー
2 上腕部
3 肘部
4 前腕部
5 三日月形状の切替え部
6 縫合部
7 前身頃
8 後身頃
9 肘頭
10 手の甲
11 手の平
12 滑り止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の上腕を覆う上腕部と、着用者の肘を覆う肘部と、着用者の前腕を覆う前腕部とを備えるアームカバーであって、
前記上腕部、肘部及び前腕部の素材が、弾性経編物であること、
前記アームカバーが、前記肘部の両側部に、肘頭に向かって突出する三日月形状の切替え部を有すること、そして
着用時に、着用者の少なくとも上腕及び前腕に、着圧が加えられること、
を特徴とする、前記アームカバー。
【請求項2】
前記アームカバーの上端に、前記弾性経編物よりも摩擦係数が高い滑り止め部を有する、請求項1に記載のアームカバー。
【請求項3】
前記滑り止め部の素材が、丸編みの編物である、請求項2に記載のアームカバー。
【請求項4】
前記滑り止め部の周囲長方向の疲労試験後回復率が、前記上腕部、肘部及び前腕部における弾性経編物の周囲長方向の疲労試験後回復率よりも高い、請求項2又は3に記載のアームカバー。
【請求項5】
前記滑り止め部の周囲長方向の伸長後回復率が、前記上腕部、肘部及び前腕部における弾性経編物の周囲長方向の伸長後回復率よりも高い、請求項2〜4のいずれか一項に記載のアームカバー。
【請求項6】
前身頃、後身頃、前記三日月形状の切替え部、及び前記滑り止め部から成る、請求項2〜5のいずれか一項に記載のアームカバー。
【請求項7】
前記アームカバーの上端が、着用者の上腕に位置するように寸法設計されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアームカバー。
【請求項8】
前記アームカバーの下端が、着用者の手首に位置するように寸法設計されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアームカバー。
【請求項9】
前記アームカバーの下端が、着用者の手の甲及び手の平に位置するように寸法設計されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアームカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−52245(P2012−52245A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193797(P2010−193797)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(594137960)株式会社ゴールドウイン (19)
【出願人】(592019523)株式会社ゴールドウインテクニカルセンター (35)
【Fターム(参考)】