説明

イオンを処理する方法

高エネルギー、中エネルギー、低エネルギーの生成物イオンの混合物を含む生成物イオンスペクトルをもつフラグメントイオンを得る方法。この方法は、(a)イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に、選択したRF場を提供することと;(b)選択したRF場が、イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、このイオン光学素子を通ってイオン封込場へとイオンを移動させ、この選択した運動エネルギープロファイルが、イオンをフラグメント化するとともに複数の生成物イオン群を与えるように選択されることと;(c)この複数の生成物イオン群のそれぞれの生成物イオン群を検出することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する明細書への相互参照
本願は、2009年12月18日に出願された、米国仮特許出願第61/288,045号からの優先権を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
分野
本明細書に記載の実施形態は、イオン封じ込め(containment)デバイスを組み込んだイオンおよび質量分析計を処理する方法、もっと具体的には、このような質量分析計の中でイオンを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
緒言
質量分析計は、サンプルの分子組成および元素組成を分析するのに用いられることが多い。サンプルは、質量分析の前にイオン化されることが多い。質量分析の前に、イオンクラスターを分離してもよい。さらに、イオンをフラグメント化してもよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
以下の概要は、読者にとって、本明細書の導入部であることを意図しており、発明を定義するものではない。以下に記載する装置部品または方法工程の組み合わせまたは副次的な組み合わせによって、または本明細書の他の部分によって、1つ以上の発明が存在するだろう。本願発明者らは、本明細書に開示されている1つ以上の発明に関する権利を、単に、このような発明が特許請求の範囲に記述されていないことによっては、否定したり、放棄したりしない。
【0005】
ある実施形態は、イオンをフラグメント化する方法に関し、この方法は、(a)イオン封込(containment)場の上流にあるイオン光学素子に、選択したRF場を提供する工程と;(b)選択したRF場が、イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、このイオン光学素子を通ってイオン封込場へとイオンを移動させ、この選択した運動エネルギープロファイルが、イオンをフラグメント化するとともに複数の生成物イオン群を与えるように選択される工程と;(c)この複数の生成物イオン群のそれぞれの生成物イオン群を検出する工程とを含む。
【0006】
ある実施形態では、選択した運動エネルギープロファイルは、そのイオンについて、最大運動エネルギーレベルと最小運動エネルギーレベルを含め、複数の運動エネルギーレベルを含み、最大運動エネルギーレベルは、最小運動エネルギーレベルの少なくとも3倍であり、複数の生成物イオン群の中のそれぞれの生成物イオン群は、質量電荷比が同じイオンのみを含み、複数の運動エネルギーレベルの中の前駆運動エネルギーレベルによって作られる。
【0007】
種々の実施形態では、複数の運動エネルギーレベルは、少なくとも3種類の運動エネルギーレベルを含み、複数の生成物イオン群は、少なくとも4種類の生成物イオン群を含む。ある実施形態では、それぞれのイオン群は、(c)で検出された複数のイオン群に含まれるイオンの半分より少ないイオンを含む。ある実施形態では、最大運動エネルギーレベルは、50eVを超える。ある実施形態では、最大運動エネルギーレベルは、100eVを超える。
【0008】
ある実施形態では、この方法は、さらに、(c)の後に、第2の選択したRF場を選び、次いで、第2の選択したRF場が、イオン封込場内にあるイオンの第2の選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、このイオン光学素子を通ってイオン封込場へとイオンを移動させる工程と;イオンをフラグメント化するとともに第2の複数の生成物イオン群を与えることと;この第2の複数の生成物イオン群のそれぞれの生成物イオン群を検出することとを含み、第2の選択したRF場は、前記選択したRF場とは異なり、第2の選択した運動エネルギープロファイルは、選択した運動エネルギープロファイルとは異なり、第2の複数の生成物イオン群は、複数の生成物イオン群とは異なる。
【0009】
ある実施形態では、イオン光学素子は、有孔電極レンズ(aperture lens)を含む。ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズ(interquad lens)、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子(two wire element)、円錐形オリフィス、スキマープレート、平板オリフィスからなる群から選択される素子を含む。
【0010】
ある実施形態では、この方法は、イオン光学素子の上流にあるイオンの少なくとも一部に力を加えることをさらに含み、この力は、実質的にイオン光学素子に向けられる。
【0011】
ある実施形態では、この方法は、イオン光学素子の上流にあるイオンの少なくとも一部に力を加えることをさらに含み、この力は、実質的にイオン光学素子から離れる方向に向けられる。
【0012】
ある実施形態では、選択した運動エネルギープロファイルは、連続した運動エネルギー帯を含む。
【0013】
種々の実施形態では、この方法は、中性物質からイオンを生成するためのイオン源を提供する工程と;イオン源とイオン封込場との間に連続した経路を提供する工程とをさらに含む。
【0014】
ある実施形態では、イオン光学素子は、有孔電極レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマー型のレンズ形状を有するイオン光学レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、平板オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、円錐形オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、ワイヤグリッド(例えば、限定されないが、メッシュ)である。ある実施形態では、イオン光学素子は、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子である。
【0015】
ある実施形態では、イオン光学素子は、孔のあいた板を含む。ある実施形態では、イオン光学素子は、有孔電極レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、オリフィスプレートである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマーである。ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマー型のレンズ形状を有するイオン光学レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、円錐形オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、ワイヤグリッド(すなわち、メッシュ)である。ある実施形態では、イオン光学素子は、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子である。
【0016】
ある実施形態は、クラスターを分離する方法に関し、この方法は、(a)イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に、選択したRF場を提供する工程と;(b)選択したRF場が、イオン封込場内にある被分析物のイオンおよび溶媒のイオンの選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、被分析物のイオンと、溶媒のイオンとを、イオン光学素子を通ってイオン封込場へと移動させる工程を含み、ここで、溶媒のイオンが、被分析物のイオンに非共有結合し、選択した運動エネルギープロファイルが、ほとんどの被分析物のイオンの中にある共有結合を破壊して被分析物のイオンをフラグメント化することなく、被分析物のイオンと溶媒のイオンとの間の非共有結合を破壊することによって、被分析物のイオンおよび溶媒のイオンのほとんどのクラスターを分離するように選択される。
【0017】
ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズ、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子、円錐形オリフィス、スキマープレート、および平板オリフィスからなる群から選択される素子を含む。
【0018】
ある実施形態では、イオン光学素子に直流電圧が加えられる。したがって、ある実施形態では、イオン光学素子に直流電圧とRF場が両方ともかけられる。ある実施形態では、イオン光学素子に直流電圧は加えられない。
【0019】
ある実施形態では、イオン光学素子は、有孔電極レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマー型のレンズ形状を有するイオン光学レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、平板オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、円錐形オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、ワイヤグリッド(例えば、限定されないが、メッシュ)である。ある実施形態では、イオン光学素子は、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子である。
【0020】
ある実施形態では、イオン光学素子は、穴のあいた板を含む。ある実施形態では、イオン光学素子は、有孔電極レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、オリフィスプレートである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマーである。ある実施形態では、イオン光学素子は、四重極間レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、スキマー型のレンズ形状を有するイオン光学レンズである。ある実施形態では、イオン光学素子は、円錐形オリフィスである。ある実施形態では、イオン光学素子は、ワイヤグリッド(すなわち、メッシュ)である。ある実施形態では、イオン光学素子は、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子である。
【0021】
ある実施形態では、振幅および周波数は、被分析物のイオンを実質的にフラグメント化することなく、クラスターイオンの強度を下げ、クラスターを分離するように選択される。ある実施形態では、振幅および周波数は、被分析物のイオンをフラグメント化するように選択される。
【0022】
ある実施形態は、周波数情報をイオンに符号化する方法に関し、この方法は、(a)第1の選択した周波数を決定する工程と;(b)この選択した周波数の第1の選択したRF場を、イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に提供する工程と;(c)イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルが、前記選択した周波数を有するように、第1のイオン群を、イオン光学素子を通ってイオン封込場へと移動させる工程と;(d)前記イオン封込場内のイオンの周波数を測定し、この周波数が、前記選択した周波数であるかどうかを決定する工程とを含む。
【0023】
ある実施形態では、請求項1に定義されるような周波数情報をイオンに符号化する方法は、さらに、(a)第2の選択した周波数を決定する工程と;(b)イオン封込場の上流に、第2の選択した周波数の第2の選択したRF場を与える工程と;(c)第1のイオン群および第2のイオン群がイオン封込場内に両方含まれるように、第2のイオン群を、第2の選択したRF場を通ってイオン封込場へと移動させ、イオン封込場内の第2のイオン群が、第2の選択した周波数の第2の選択した運動エネルギープロファイルを有する工程と;(d)イオン封込場内にある複数のイオンのうち、それぞれのイオンの運動エネルギープロファイルの周波数を測定し、周波数が第1の周波数であるか、第2の周波数であるかを決定し、複数のイオンのうち、それぞれのイオンが、第1群なのか第2群なのかを決定する工程とを含む。
【0024】
本明細書に記載の実施形態をよりよく理解するため、また、どのように実行するかをもっと明確に示すために、少なくとも1つの例である実施形態を示す添付の図面を単なる例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、従来のQTRAP(登録商標)ハイブリッド四重極リニアイオントラップ型質量分析計の模式図である。
【図2】図2は、別の従来のQTRAP(登録商標)ハイブリッド四重極リニアイオントラップ型質量分析計の模式図である。
【図3】図3A〜3Cは、出願人の教示にしたがって操作した、イオン光学素子を通る前および後のイオンの軸方向エネルギーを示すグラフである。
【図4】図4A〜4Cは、エピネフリンをフラグメント化する種々の方法について、正規化されたフラグメント強度を示すグラフである。
【図5】図5A〜5Cは、クレンブテロールをフラグメント化する種々の方法について、正規化されたフラグメント強度を示すグラフである。
【図6】図6A〜6Cは、エリスロマイシンをフラグメント化する種々の方法について、正規化されたフラグメント強度を示すグラフである。
【図7】図7は、出射レンズ32を通った後のイオンビームの強度を示すグラフである。
【図8】図8Aおよび8Bは、種々のRF場がイオン光学素子にかけられたときに、それぞれ、前駆イオンシグナルおよびフラグメントイオンシグナルの正規化された強度を示すグラフである。
【図9】図9Aおよび9Bは、RF場がイオン光学素子に適用する場合、適用しない場合それぞれについて、前駆イオンシグナルおよびフラグメントイオンシグナルの正規化された強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず図1および図2を参照すると、それぞれ参照番号10および10’で一般的に指定されている2種類の従来の三連四重極質量分析計装置が示されている。この2種類の実施形態はよく似ており、実施形態間で異なる部分を除き、一緒に記載し、異なる部分は、別個に記載する。イオン源12(例えば、エレクトロスプレーイオン源)は、カーテンプレート14に向かってイオンを発生する。カーテンプレート14の後には、従来の様式でオリフィスを規定するオリフィスプレート16が存在する。
【0027】
カーテンチャンバ18は、カーテンプレート14とオリフィスプレート16との間に形成され、カーテンガスの流れによって、質量分析計の分析部に望ましくない中性物質が流れるのを減らす。図1および図2に示される2種類の実施形態は、オリフィスプレートと四重極間障壁(interquad barrier)IQ1との間の構造が異なっており、質量分析計のこの部分は、それぞれの実施形態について別個に記載する。
【0028】
図1の質量分析計10において、オリフィスプレート16の次にスキマープレート20が存在する。オリフィスプレート16とスキマープレート20との間に中間加圧チャンバ22が規定されている。チャンバ22の内圧は、典型的には、2Torr程度である。イオンは、スキマープレート20を通り、質量分析計の第1チャンバ(24と示されている)に流れる。このチャンバ24内に、イオンを集め、一点に集めるために、四重極ロッドセットQ0が与えられている。このチャンバ24は、イオン流から溶媒の残りをさらに抽出する役割があり、典型的には、7mTorrの圧力で作動する。これにより、質量分析計の分析部に界面が生じる。
【0029】
ここで図2を参照すると、質量分析計10’において、オリフィスプレート16の次にイオンガイド21が存在する。イオンガイド21は、内部を流れるイオンを一点に集める。ある実施形態では、イオンガイド21の長さは約55mmであり、直径は約4mmである。それに加え、種々の実施形態では、イオンガイド21には、周波数が約1.1MHz、振幅が0〜300Vの範囲の交流電圧が加えられる。四重極間レンズIQ0は、イオンガイド21とチャンバ24’とを分割している。イオンは、四重極間レンズIQ0を通り、質量分析計の第1チャンバ(24’と示されている)に流れる。このチャンバ24’内に、イオンを集め、一点に集めるために、四重極ロッドセットQ0’が与えられている。このチャンバ24’は、イオン流から溶媒の残りをさらに抽出する役割があり、典型的には、7mTorrの圧力で作動する。これにより、質量分析計の分析部に界面が生じる。
【0030】
質量分析計10’のある実施形態では、四重極ロッドセットQ0’およびチャンバ24’は、それぞれ、質量分析計10の四重極ロッドセットQ0およびチャンバ24よりも短い。特定的には、上述のように、Q0およびQ0’には、イオンを集め、一点に集めるという機能がある。しかし、イオンガイド21にも、Q0’に入る前にイオンを集め、一点に集める役割がある。
【0031】
ここで、図1と図2を両方参照すると、四重極間障壁またはレンズIQ1は、質量分析計の主要チャンバ26と、チャンバ24および24’をそれぞれ分割しており、イオンのための開口部を有する。四重極間レンズIQ1に隣接して、短く「スタビー状の」ロッドセット(すなわち、Brubakerレンズ28)が存在する。前駆イオンの質量を選択するために、チャンバ26に第1の質量分解能をもつ四重極ロッドセットQ1が与えられている。ロッドセットQ1の後に、第2の四重極ロッドセットQ2を備える衝突セル30が存在し、衝突セル30の後に、第2の質量分析工程を行うための第3の四重極ロッドセットQ3が存在する。
【0032】
最後または第3の四重極ロッドセットQ3は、主要四重極チャンバ26内にあり、典型的には、1×10−5Torrの圧力がかけられている。示されているように、第2の四重極ロッドセットQ2は、衝突セル30が形成する囲いの中に入っており、その結果、このロッドセットを高圧に維持することができ、既知の様式で、この圧力は、被分析物によって変わり、5mTorrであってもよい。四重極間レンズIQ2およびIQ3は、衝突セル30の囲いのそれぞれの末端に与えられている。
【0033】
Q3を出たイオンは、出射レンズ32を通って検出器34に流れる。図1および図2の代表例は模式図であり、種々の実施形態において、装置を完成させるために種々の追加の素子が与えられてもよいことが当業者には理解されるだろう。例えば、種々の実施形態では、装置の異なる素子に交流電圧および直流電圧を加えるために種々の電源を利用する。それに加え、ある実施形態では、上述の望ましいレベルの圧力を維持するために、ポンプ配列または配置を利用する。
【0034】
示されているように、第1の四重極ロッドセットQ1にRFおよび直流分解電圧を供給するために、電源36が与えられている。同様に、第2の電源38は、第3の四重極ロッドセットQ3から軸方向に出ていくイオンをスキャンするために、第3の四重極ロッドセットQ3に駆動RFと補助的な交流電圧を供給するために与えられている。衝突セル内を望ましい圧力に維持するために衝突ガス(40と示されている)が衝突セル30に供給され、RF供給部も、衝突セル30内のQ2に接続されているだろう。以下にもっと詳細に説明するつもりだが、交流電圧および/または直流電圧が、種々のイオン光学素子(例えば、四重極間レンズ)にかけられていてもよい。
【0035】
上に質量分析計の2種類の特定の実施形態について記載したが、本明細書に記載したイオンを処理する方法の種々の実施形態を、限定されないが、四重極型(例えば、イオントラップ型または飛行時間型)の質量分析計を含め、任意の適切な質量分析計に適用することができることが理解されるべきである。それに加え、他のイオン封じ込めデバイス(例えば、六重極、八重極、リングガイド)を使用してもよい。特定的には、本明細書に記載した方法の種々の実施形態を、イオンを半径方向に含み、高圧で操作する任意の適切な配置に応用することができる。
【0036】
種々の実施形態では、本明細書に記載のイオンを処理する方法を、限定されないが、イオンのクラスターを分離し、フラグメント化することを含む種々の用途に応用することができる。クラスターの分離は、脱溶媒化と呼ばれることもあり、被分析物のイオンが気体状態で他の粒子(例えば、溶媒粒子またはバッファ粒子)と分離するプロセスであり、バッファは、溶媒に加えられた酸または塩基または塩から構成されていてもよい。特定的には、被分析物は、質量分析される前には、上述のように溶液の状態であってもよく、この場合、分析する前に、イオンから残留する溶媒分子または他の中性物質を除去する必要がある場合がある。これとは対照的に、フラグメント化は、被分析物のイオンをその構成部分に分解することを含む。したがって、フラグメント化とクラスター分離の主な違いは、粒子の結合を破壊するのに必要な運動エネルギーの量である。同じ種類の被分析物の場合、フラグメント化には、通常は、クラスター分離よりも大きなエネルギー量が必要であり、これは、フラグメント化は、一般的に、共有結合している原子から作られている分子を破壊することを含み、一方、クラスター分離は、一般的に、非共有結合によって結合している種を破壊することを含むからである。クラスター分離によって、一般的に、質量スペクトル中のクラスターイオンのピーク強度が下がる。クラスターイオンは、溶媒分子またはバッファ分子とクラスターを形成した溶媒のイオンまたはバッファイオン、または、溶媒分子またはバッファ分子とクラスターを形成した被分析物のイオンから構成されていてもよい。
【0037】
種々の実施形態では、この方法は、イオン封込場内にあるイオンの運動エネルギープロファイルを決定するか、または選択する工程を含む。以下に説明するつもりだが、この工程は、必ずしも第1の工程ではなく、ある実施形態では、運動エネルギーは間接的に選択される。運動エネルギープロファイルとは、イオン封込場内にあるイオンの運動エネルギーのプロファイルを指す。種々の実施形態では、選択した運動エネルギープロファイルは、イオンをフラグメント化し、複数の生成物イオン群を同時に与えるように選択される。
【0038】
種々の実施形態では、運動エネルギープロファイルは、連続した関数である。それに加え、ある実施形態では、運動エネルギープロファイルは、幅広い運動エネルギー帯を含む連続した関数である。このことは、別個の運動エネルギー値を使用してイオンをフラグメント化する既知の方法とは対照的である。イオンをフラグメント化する方法のうち、ある実施形態では、運動エネルギープロファイルの最大運動エネルギーレベルは、その運動エネルギープロファイルの最小運動エネルギーレベルの少なくとも3倍である。イオンをフラグメント化する方法のうち、ある実施形態では、最大運動エネルギーレベルは、50eVを超える。種々の実施形態では、最大運動エネルギーレベルは、100eVを超える。
【0039】
フラグメント化に応用されるイオンを処理する方法の種々の実施形態において、運動エネルギープロファイルは、イオンをフラグメント化したときに望ましいフラグメント化スペクトルが得られるように選択することができる。種々の実施形態では、イオンは、衝突セル(例えば、衝突セル30)内でフラグメント化される。したがって、この種のある実施形態では、内部でイオンが処理されるか、またはフラグメント化されるイオン封込場は、Q2によって作られるイオン封込場である。選択される特定の運動エネルギープロファイルは、限定されないが、フラグメント化する特定のイオン種、望ましいフラグメント化スペクトルを含む種々の因子によって決定することができる。「フラグメント化スペクトル」との用語は、本明細書で使用される場合、被分析物の前駆イオンのフラグメント化から作られるイオンスペクトルを指す。
【0040】
ある実施形態では、この方法は、選択した運動エネルギープロファイルに基づいて、RF場の少なくとも1つの特徴を決定する工程をさらに含む。少なくとも1つの特徴としては、限定されないが、RF場の振幅および周波数が挙げられる。以下にもっと詳細に説明するつもりであるが、RF場は、達成される運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定する。
【0041】
種々の実施形態では、選択したRF場は、イオン封込場の上流にあるイオン光学素子にかけられる。イオン封込場に入る前に、イオンは、イオン光学素子を通り、イオン光学素子にかけられているRF場と相互作用する。イオン光学素子は、任意の適切なイオン光学素子であってもよい。したがって、例えば、イオン光学素子は、限定されないが、任意の適切な有孔電極レンズ(例えば、四重極間レンズ)、スキマー型のレンズ形状を有するイオン光学レンズ、平板オリフィス、円錐形オリフィス、ワイヤグリッド(すなわち、メッシュ)、またはイオン流を横断するように取り付けられた二線素子であってもよい。したがって、例えば、イオン封込場がQ2のイオン封込場であり、イオン光学素子が四重極間レンズである実施形態では、選択したRF場を、IQ2、IQ1またはIQ0にかけられてもよい。
【0042】
ある実施形態では、RF場に加え、イオン光学素子に直流オフセット電圧も加えられる。イオン光学素子を通って移動するイオンビームの運動エネルギープロファイルは、この素子にかけられるRFおよび直流電圧によって主に決定される。ある場合には、イオン光学素子に引き寄せられる直流電圧または反発する直流電圧を加え、移動するイオンビームから得られる運動エネルギープロファイルを制御することが望ましい。引き寄せられる直流電圧は、イオン光学素子を通って移動するイオンにオフセットエネルギーを加えるだろう。反発する直流電圧は、イオン光学素子を通って移動するイオンの平均イオンエネルギーを下げるだろう。ある実施形態では、ある種のイオンが全く移動しないようにしてもよい。
【0043】
一般的に、イオン光学素子は、限定されないが、上述の任意のイオン光学素子を含め、任意の適切なイオン光学素子であってもよい。しかし、ある実施形態では、質量分析器の上流にはないイオン光学素子のみを、RF場を加えるために選択する。例えば、ある実施形態では、Q1を質量分析器として操作する。したがって、このようなある種の実施形態では、IQ1は、典型的には、RF場を本明細書に記載した様式で加えるイオン光学素子としては使用しない。この理由は、質量分析器に入る被分析物のイオンエネルギーが十分に定義されていることが望ましい場合があるからである。RF場をかけると、イオンビームのエネルギーを以下に記載するように変化させることができる。しかし、ある実施形態では、Q1を質量分析器として操作せず、このようなある種の実施形態では、選択したRF場は、例えば、IQ1に加えられる。
【0044】
イオン源12によって発生するイオンビームは、選択したRF場がかけられたイオン光学素子を通って移動し、イオン封込場まで流れる。イオンがイオン光学素子を通って移動するにつれて、イオンは、イオン光学素子に加えられたRF場と相互作用する。具体的には、選択したRF場は、イオン光学素子を通って移動し、イオン封込場に入るイオンの運動エネルギーに影響を及ぼす。したがって、選択したRF場は、イオン封込場内にあるイオンの運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定する。
【0045】
種々の実施形態では、イオンは、イオン封込場に中性ガス流を導入することによって、イオン封込場の中で処理される。このことは、衝突セル30および衝突ガス40に関して上述のように行うことができる。イオンは、イオン封込場の中で、運動エネルギープロファイルによって決定される衝突エネルギーを有する中性ガス流と衝突する。選択した運動エネルギープロファイルおよびイオンの種類に依存して、これらの衝突を使用し、イオンをフラグメント化するか、またはクラスター分離することができる。
【0046】
上述のように、種々の実施形態では、選択した運動エネルギープロファイルは、イオンをフラグメント化すると同時に、複数の生成物イオン群を得るように選択される。例えば、ある実施形態では、運動エネルギープロファイルは、所与の数の生成物イオン群が作られるように選択される。ある実施形態では、運動エネルギープロファイルは、運動エネルギープロファイル中に3種類のエネルギーレベルが存在し、3種類の別個のフラグメントイオン群が作られるように選択される。これら3種類のエネルギーレベルは、それぞれ、前駆運動エネルギーレベルと呼ばれてもよい。種々の実施形態では、運動エネルギープロファイルは、生成物イオンが少なくとも4種類の群を含み、少なくとも3種類のフラグメントイオン群と、1種類の前駆体イオン群が存在するように選択される。これは単なる一例であり、限定する意図はないことを理解すべきである。例えば、ある実施形態は、3種類より多いフラグメントイオン群を含む。
【0047】
種々の実施形態では、それぞれの生成物イオン群は、同じ質量電荷比のイオンのみを含む。言い換えると、種々の実施形態では、それぞれの生成物イオン群とは、特定のフラグメントイオンの発生または前駆イオンの発生を指す。それに加え、ある実施形態では、これらの生成物イオン群は、それぞれ、イオン封込場で作られる合計イオンの半分に満たないイオンを含む。
【0048】
イオンについて、選択した運動エネルギープロファイルを決定する工程と、次いで、選択した運動エネルギープロファイルに基づいてRF場を選択する工程を含むものとして、この方法のある種の実施形態を記載したが、ある実施形態では、一般的に、一連の独立した別個の工程を実施せずに、繰り返しの様式で実施する場合もある。具体的には、ある実施形態では、RF場を選択し、イオン光学素子に加えてもよく、得られるフラグメント化を観察してもよい。得られたフラグメント化から、フラグメント化の前のイオンの運動エネルギープロファイルを推定することができる。観察したフラグメント化レベルに基づいて、望ましいフラグメント化スペクトルが得られるまで、RF場を調節することができる。「フラグメント化スペクトル」との用語は、本明細書で使用する場合、被分析物の前駆イオンをフラグメント化して作られるイオンのスペクトルを指す。
【0049】
言い換えると、第2のRF場を選択し、イオン光学素子に加えてもよい。次いで、イオンを、イオン光学素子を通り、RFを含む場に移動させることができ、ある実施形態では、RFを含む場で、イオンがフラグメント化し、同時に、第2の複数の生成物イオン群が生成する。種々の実施形態では、第2の複数の生成物イオン群は、第1の複数の生成物イオン群とは異なっていてもよい。ある実施形態では、第2の複数のイオン群は、第1の複数のイオン群を全て含んでいてもよく、逆に、第1の複数のイオン群が、第2の複数のイオン群を全て含んでいてもよい。したがって、ある実施形態では、第2の複数のイオン群は、より多くのフラグメントイオンの発生を含んでいてもよく、より少ないフラグメントイオンの発生を含んでいてもよい。ある実施形態では、第2の複数のイオン群と、第1の複数のイオン群は、重複しない。種々の実施形態では、生成物イオンを検出器34によって検出することができる。
【0050】
または、RF場は、処理されるイオンに基づいて選択することができる。例えば、ある実施形態では、所与のRF場が所与のフラグメント化スペクトルを作り出すことが知られていてもよく、このRF場を選択することができる。
【0051】
同様に、クラスターを分離する方法について、RF場を選択し、イオン光学素子に加えることができる。非共有結合によって結合した被分析物のイオンは、イオン光学素子を通り、イオン封込場へと移動する。RF場は、被分析物のイオンの運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定する。種々の実施形態では、イオン封込場の中でイオンのクラスターが分離する。RF場は、被分析物のイオンおよび溶媒のイオンをクラスター分離するとき、被分析物のイオン自体のほとんどの共有結合を破壊することなく、ほとんどの被分析物のイオンと溶媒のイオンとの間の非共有結合が破壊されるように選択される。言い換えると、種々の実施形態では、RF場が、被分析物のイオンの顕著なフラグメント化は起こらず、クラスターの分離が起こるように選択される。
【0052】
被分析物のイオンの運動エネルギープロファイルを種々の様式で調節し、影響を与えることができる。例えば、限定されないが、RF場の振幅、RF場の周波数を含め、イオン光学素子に加えられるRF場の種々の特徴を変えることができる。それに加え、直流電圧も加える場合、直流電圧を調節し、運動エネルギープロファイルに影響を与えることもできる。上に列挙した1つ以上の変数を変えると、例えば、運動エネルギープロファイル中の平均エネルギー、運動エネルギープロファイル中の運動エネルギー範囲のような事項を調節することができる。
【0053】
ここで、図3A〜3Cを参照し、これらの図は、50イオンについて、コンピューターシミュレーションを用い、イオン光学素子に異なるRF場をかけた場合の軸方向の位置の関数として、軸方向のエネルギーを示す。この場合、イオン光学素子は、四重極間レンズIQ2内にある。点線の垂直線は、IQ2の軸方向の範囲を定めている。各3枚の図において、レンズは、20mmの位置に配置されている。1つの例外を除き、すべてのイオンはこのレンズを通過している。その1つの例外は、図3Bで起こっており、イオンの1つがIQ2から反射している。図3Aにおいて、レンズにかけられたRF場は、周波数が50kHzであり、振幅が200Vppである。図3Bにおいて、レンズにかけられたRF場は、周波数が200kHzであり、振幅が200Vppである。図3Cにおいて、レンズにRF場はかけられていない。それに加え、図3A〜3Cそれぞれにおいて、引き寄せる40Vの直流オフセットがレンズに加えられている。
【0054】
図を比較したらわかると思われるが、レンズを通って移動するイオンは、図3Aおよび3Bの場合には、図3Cの場合よりもかなり高い平均エネルギーを有している。より具体的には、レンズからいずれかの方向に距離5mmの位置で眺めると、イオンの軸方向のエネルギーは、レンズを通った後に顕著に増加している。それに加え、この同じイオンは、レンズにRF場を加えない場合よりも、軸方向のエネルギーが大きな分布または幅広い部分布を有する。具体的には、図3Cにおいて、イオンの軸方向のエネルギーは、クラスター化しており、一方、図3Aおよび3Bにおいて、軸方向のエネルギーは、ほぼ100eV以上の範囲にまで広がっている。
【0055】
種々の実施形態では、本明細書に記載の方法は、幅広いフラグメント化スペクトルを作り出すことができ、同時に、前駆イオンおよび複数のフラグメントの発生を観察することができる。この理由のひとつは、上述のように、イオンが幅広い運動エネルギープロファイルを有し、したがって、同時に、広範囲の衝突エネルギーを達成することができるからである。さらに、かなり大きな平均運動エネルギーも達成することができ、したがって、この範囲のエネルギーは、フラグメント化に有用であろう。
【0056】
レンズにかけられるRF場は、任意の適切な電圧であってもよい。ある実施形態では、このレンズにかけられる電圧は、10Vpp〜200Vppの範囲である。それに加え、任意の適切な周波数をRF場に使用することができる。例えば、ある実施形態では、1kHz〜500kHzの周波数範囲を使用する。ある種の他の実施形態では、使用する周波数範囲は、10kHz〜200kHzである。これらは、振幅および周波数の範囲の単なる例にすぎず、限定する意図はない。ある他の実施形態は、これらの範囲から外れた振幅および周波数をもつRF場を用いて操作する。種々の実施形態では、望ましいイオンの運動エネルギープロファイルおよび1つ以上の特徴、例えば、処理される特定のイオンの質量電荷比(m/z)に部分的に基づいて、適切なRF場を選択することができる。
【0057】
ある実施形態では、イオン源12によって作られるイオンビームは、RF場が適用されるレンズを通り、イオン封込場(例えば、衝突セル内)を通り、検出器までのイオン源12から広がる連続的または途切れのないイオンビームである。言い換えると、種々の実施形態では、操作中、ビームは、上述の質量分析計の部分の間で途切れることなく、むしろ、イオン源12から出発し、上のそれぞれの構成要素を通り、検出器34までの連続した経路であり、イオンビームは、質量分析計のそれぞれの構成要素に同時または一緒に存在する。
【0058】
種々の他の実施形態では、イオン源12によって作られるイオンビームは、RF場が適用されるレンズを通り、イオン封込場(例えば、衝突セル内)を通り、イオン源12から広がる連続的または途切れのないイオンビームである。言い換えると、種々の実施形態では、操作中、ビームは、上述の質量分析計の部分の間で途切れることなく、むしろ、イオン源12から出発し、上のそれぞれの構成要素を通り、イオン封込場までの連続した経路であり、イオンビームは、質量分析計のそれぞれの構成要素に同時または一緒に存在する。
【0059】
以下のデータは、4000QTRAPを用いて得た。RF/DC四重極のQ1を使用し、前駆イオンのm/zを選択した。選択した前駆イオンは、四重極衝突セルの前側に配置されている有孔電極レンズ(IQ2)を通り、最後に、Q3リニアイオントラップへと移動した。適切な冷却時間の後、リニアイオントラップの内容物を、イオン検出器に対して軸方向に選択的に放出される質量を用いて調べた。ここで、図4A〜4Cを参照し、この図は、エピネフリンをフラグメント化する種々の方法について、生成物イオンの正規化された強度を示す。図4Aおよび4Bにおいて、IQ2有孔電極レンズにはRFがかけられていなかった。図4Cにおいて、IQ2に200kHzのRF場がかけられた。もっと具体的には、図4Aは、最終的な質量分析工程の前に、従来のビーム型衝突誘発解離(CID)を使用してエピネフリンをフラグメント化したとき、衝突エネルギー(eV)に対する生成物イオンの強度を正規化したグラフを示す。このグラフからわかると思われるが、狭い領域420のみが存在し、この中で、前駆体および低分子量フラグメントを同時に観察することができる。図からわかると思われるが、領域420は、幅が5eV未満である。それに加え、前駆体および最も低いフラグメントを同時に観察することができる領域は、グラフ中に存在しない。
【0060】
図4Bは、Q3リニアイオントラップ内のイントラップフラグメント化を用いてエピネフリンをフラグメント化したとき、励起エネルギー(mV)に対する生成物イオンの強度を正規化したグラフを示す。図からわかると思われるが、第1のフラグメント化段階で、たった1個のフラグメントが観察されている。すべての他のフラグメント(430と示されている)は、正規化された強度値が0である。残りのフラグメントを観察するために、複数のフラグメント化工程(MSn)が必要である。したがって、図4Aに関連して記載されるCIDの場合、同じフラグメント化段階で前駆体および低分子量フラグメントを見ることはできない。
【0061】
図4Cは、本明細書に記載の方法の実施形態を適用して得られる生成物イオンの強度を示すグラフを示す。具体的には、図4Cは、振幅が200kHzのRF場をイオン光学レンズにかけたときの生成物イオンの強度を正規化したものを示す。さらに具体的には、x軸に示されている電圧は、四重極間レンズIQ2にかけられた電圧である。図4Cにおいて、周波数は、200kHzの一定値に保持され、IQ2にかけられる直流オフセット電圧は、引き寄せる方向に46Vである。
【0062】
図5A〜5C、図6A〜6Cは、それぞれクレンブテロールおよびエリスロマイシンであることを除き、図4A〜4Cと類似している。この図は、図4A〜4Cに関して記載したのと似た結果を示している。具体的には、図5Aおよび6Aは、従来のCIDを使用すると、クレンブテロールおよびエリスロマイシンについて、衝突エネルギーの狭い領域520および620のみが生じ、前駆体および低分子量フラグメントは、同時に観察されることを示している。図からわかると思われるが、領域520は、幅が約5eVであり、一方、領域620は、幅が約20eVである。図5Bは、Q3リニアイオントラップ内のイントラップフラグメント化を用いてクレンブテロールをフラグメント化したとき、低分子量フラグメント(530と示される)が、第1のフラグメント化段階では観察されず、したがって、複数回のフラグメント化工程が必要であることを示している。同様に、図6Bは、イントラップフラグメント化を用いてエリスロマイシンをフラグメント化したとき、リニアイオントラップの低分子量カットオフ値のために、低分子量フラグメントは観察されないことを示す。
【0063】
最後に、図5Cおよび6Cは、本明細書に記載の方法の実施形態を、それぞれクレンブテロールおよびエリスロマイシンをフラグメント化するのに適用したとき、それぞれ幅広い領域530および630が存在し、前駆イオンおよび低分子量フラグメントが同時に観察されることを示している。
【0064】
上述のように、種々の実施形態では、本明細書に記載の方法は、イオン光学素子にRF場をかける工程と、イオン光学素子を通り、イオン封込場へとイオンを移動させる工程とを含む。イオン光学素子にかけられたRF場は、イオン封込場内にあるイオンの運動エネルギーを少なくとも部分的に決定し、したがって、特定の運動エネルギープロファイルを得るために、RF場を調節することができる。例えば、RF場の種々のパラメータ(限定されないが、振幅および周波数を含む)を調節し、運動エネルギープロファイル中の平均エネルギーおよびエネルギー範囲のような事項を調節することができる。それに加え、イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルは、イオン光学素子にかけられたRFの周波数に調節された軸方向のエネルギープロファイルを有していてもよい。封じ込めデバイスを加圧した場合、バックグラウンドであるガス分子に多数衝突するため、時に、この調節機構が失われる。軸方向の運動エネルギーの調節は、衝突がない状態で観察することができる。
【0065】
ここで、図7を参照し、この図は、出射レンズ32を通った後のイオンビームの強度の2つのグラフを示す。具体的に、周波数が50kHzのRF場を、2ms〜20msでIQ2にかける。それに加え、反復性の20V直流電圧を出射レンズ32に加える。反復性の直流障壁によって、イオンの運動エネルギーによって区別し、あるエネルギー閾値より上の運動エネルギーをもつイオンのみが出射レンズ32を通過することができる。イオンは検出器34で検出され、イオンのエネルギーレベルを検出することができる。右側のプロットは、8ms〜9msの強度を拡大したものである。図7からわかると思われるが、イオンビームの強度は、連続した関数である。この強度の周波数は、50kHzであり、IQ2にかけられたRF場の周波数と一致する。したがって、イオンは、レンズを通りながらエネルギーを吸収し、吸収するエネルギーの量は、IQ2有孔電極レンズにかけられるRF場の状況による。したがって、本明細書に記載の方法を用いると、IQ2有孔電極レンズにかけられたRF場の周波数情報を用い、イオンビームを符号化することが可能である。
【0066】
種々の実施形態では、イオン光学素子にかけられたRF場は、イオンに適切な望ましい情報を符号化するために、任意の適切な様式で変動してもよい。例えば、1種類の別個の周波数および振幅をもつRF場の使用が図7に示されているが、任意の適切なRF場の特徴(限定されないが、周波数および振幅)を用いることができる。それに加え、RF場の任意の1つ以上特徴を、限定されないが、連続的および別個の変動を含む任意の適切な様式で変動させてもよい。
【0067】
イオンを符号化するある実施形態では、この方法は、第1の周波数を決定するか、または選択する工程を含んでいてもよい。次いで、選択した周波数をもつRF場をイオン光学素子に適用してもよい。次いで、イオンをイオン封込場に移動させてもよい。次いで、検出器(例えば、検出器34)によって、イオンを検出し、イオンの運動エネルギープロファイルの周波数を決定してもよい。
【0068】
ある実施形態では、異なる時間点で複数の周波数を選択してもよく、検出したら、イオンの運動エネルギープロファイルの周波数を決定してもよい。種々の実施形態では、周波数を使用することによって、検出された特定のイオン群を特定することができる。例えば、異なるイオン群を、異なる周波数のRF場がかけられたイオン光学素子を通して移動させることができる。
【0069】
ある実施形態では、出願人らは、光学素子にかけられる圧力が高いほど、同じ結果を達成するのに必要なRF電圧の振幅が大きくなることを観察した。具体的には、ある実施形態では、すべての他の変数を一定値に保持し、圧力を増加させたとき、所与のフラグメントレベルまたはクラスター分離レベルを維持するために、イオン光学素子にかけられたRF場の振幅が増える。
【0070】
上の議論は、四重極間レンズにRF場を適用して実施された本方法の種々の実施形態の例を示したものである。しかし、上述のように、この方法は、限定されないが、カーテンプレート14、オリフィスプレート16またはIQ0を備える任意の適切なイオン光学素子を用いて実施することができる。したがって、この方法は、コンピューター上で、イオン流のどこかにある任意のイオン光学素子(イオン注入口付近の質量分析計の前工程部分を含む)に適用することができる。
【0071】
以下のデータは、4000QTRAPを用いて得た。前駆イオンは、Q0の前に配置されているオリフィスプレート16を通過した。RF場は、オリフィスプレート16にかけられている。Q0を、前駆イオンのクラスターを分離するために使用することができるように、衝突ガスがチャンバ24に導入される。クラスター分離した後、イオンを4000QTRAPの残りの部分を通過させ、最後に、Q3リニアイオントラップに通した。適切な冷却時間の後、リニアイオントラップの内容物を、イオン検出器に対して軸方向に選択的に放出される質量を用いて調べた。ここで、図8Aおよび8Bを参照し、この図は、それぞれ前駆イオンシグナルおよびフラグメントイオンシグナルの正規化された強度を示すグラフである。
【0072】
もっと具体的には、図8Aは、オリフィスプレート16に種々の周波数のRF場をかけたときに、クラスター分離電位(DP)に対し、クレンブテロール前駆イオン(m/z277)の正規化された強度を示す。すべてのRF場は、ピークからピークまでの振幅が300Vである(すなわち、300Vpp)。DP電圧は、オリフィスプレート16とスキマープレート20の直流電位差である。種々の実施形態では、スキマープレート20は接地されている。
【0073】
また、図8Aにも、オリフィスプレート16にRF場がかけられていない場合に、クレンブテロール前駆イオンの正規化された強度のプロットが示されている。図8Aからわかると思われるが、RF値をかけないとき、前駆イオンの強度は、約110VのDP電位で最大である。
【0074】
図8Aからわかると思われるが、オリフィスプレート16にRF場をかけると、オリフィスプレート16にRF場をかけない場合と比較して、イオンシグナルの最大強度が、もっと小さな電圧で起こる。出願人らは、補助的なRF場が存在することも、オリフィスプレートを通過するにつれて、イオンに運動エネルギーを追加するための方法であることを示すと主張する。
【0075】
ここで、図8Bを参照し、この図は、オリフィスプレートに種々の周波数のRF場をかけたときに、クラスター分離電位(DP)に対し、クレンブテロールフラグメントイオンの正規化された強度を示す。すべてのRF場は、ピークからピークまでの振幅が300Vである(すなわち、300Vpp)。
【0076】
また、図8Bには、オリフィスプレート16にRF場がかけられていない場合に、クレンブテロールフラグメントイオン(m/z203)の正規化された強度のプロットも示されている。図8Bからわかると思われるが、RF場がかけられていないとき、前駆イオンの強度は、200Vを超えるDP電圧で最大である。ここからわかると思われるが、フラグメントイオンシグナルの強度は、前駆イオンの最大値よりも高いDP値で最大になる。このことは、部分的には、フラグメントシグナルが、前駆イオンのフラグメント化に由来し、クラスター分離よりも高いエネルギーを必要とするためである。
【0077】
それに加え、前駆イオンを用いる場合に、オリフィスプレート16にRF場をかけると、オリフィスプレート16にRF場をかけない場合と比較して、フラグメントイオンシグナルの最大強度が、もっと小さな電圧で起こる。上述のように、出願人らは、補助的なRF場が存在することも、フラグメントプロセスに関連するオリフィスプレートを通過するにつれて、イオンに運動エネルギーを追加するための方法であることを示すと主張する。
【0078】
ここで、200kHzの補助的なRF場がオリフィスプレート16にかけられている場合、補助的なRF場がオリフィスプレート16にかけられていない場合、DP電位に対する、前駆イオンシグナルおよびフラグメントイオンシグナルの正規化された強度を示す図9Aおよび9Bを参照する。具体的には、図9Aは、200kHzの補助的なRF場がオリフィスプレート16にかけられているときに、クレンブテロール前駆イオンおよびクレンブテロールフラグメントイオンのシグナルを示す。図9Bは、RF場がオリフィスプレート16にかけられていないときに、クレンブテロール前駆イオンおよびクレンブテロールフラグメントイオンのシグナルを示す。図9Aと9Bを比較するとわかると思われるが、オリフィスプレートに補助的なRFが存在する場合、前駆イオンとフラグメントイオンのDP曲線はかなり重複する。具体的には、図9Aにおいて、フラグメントイオンの強度と、前駆イオンの強度が相対的に高く、それぞれの最大に近いDP電圧値の範囲が存在する。これと対照的に、図9Bにおいて、低い強度で重複が起こっており、重複する範囲が小さくなっている。例えば、図9Aに示したのと似た条件を作り出す本明細書に記載の方法を用いると、前駆イオンおよびフラグメントイオン両方ともの顕著な属性を含む質量スペクトルを作成するオリフィス電圧条件で、装置を動かすことができる。
【0079】
上の記載によって例示的な実施形態を与えているが、本発明は、添付の特許請求の範囲の正しい意味および範囲を逸脱することなく、改変および変化を行うことができることが理解されるだろう。したがって、記載されているのは、本発明の実施形態の局面を適用する単なる具体例であり、本発明の多くの改変および修正が、上の教示の観点で可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンをフラグメント化する方法であって、
(a)イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に、選択したRF場を提供する工程と;
(b)該選択したRF場が、該イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、該イオン光学素子を通って該イオン封込場へと該イオンを移動させる工程であって、該選択した運動エネルギープロファイルが、該イオンをフラグメント化し、同時に複数の生成物イオン群を与えるように選択される工程と;
(c)該複数の生成物イオン群におけるそれぞれの生成物イオン群を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記選択した運動エネルギープロファイルが、前記イオンについて、最大運動エネルギーレベルと最小運動エネルギーレベルを含め、複数の運動エネルギーレベルを含み、
該最大運動エネルギーレベルが、該最小運動エネルギーレベルの少なくとも3倍であり、
該複数の生成物イオン群の中のそれぞれの生成物イオン群は、質量電荷比が同じイオンのみを含み、複数の運動エネルギーレベルの中の前駆運動エネルギーレベルによって作られる、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項3】
前記複数の運動エネルギーレベルが、少なくとも3種類の運動エネルギーレベルを含み、複数の生成物イオン群は、少なくとも4種類の生成物イオン群を含む、請求項2に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項4】
それぞれのイオン群が、(c)で検出された前記複数のイオン群におけるイオンの半分より少ないイオンを含む、請求項3に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項5】
前記最大運動エネルギーレベルが50eVを超える、請求項2に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項6】
前記最大運動エネルギーレベルが100eVを超える、請求項2に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項7】
さらに、
(c)の後に、第2の選択したRF場を選択し、次いで、該第2の選択したRF場が、前記イオン封込場内にあるイオンの選択した第2の運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、該イオン光学素子を通って該イオン封込場へとイオンを移動させる工程と;
イオンをフラグメント化し、同時に第2の複数の生成物イオン群を提供する工程と;
該第2の複数の生成物イオン群のそれぞれの生成物イオン群を検出する工程と
を含み、該第2の選択したRF場は、前記選択したRF場とは異なり、該第2の選択した運動エネルギープロファイルは、前記選択した運動エネルギープロファイルとは異なり、該第2の複数の生成物イオン群は、前記複数の生成物イオン群とは異なる、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項8】
前記イオン光学素子が有孔電極レンズを含む、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項9】
前記イオン光学素子が、四重極間レンズ、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子、円錐形オリフィス、スキマープレート、および平板オリフィスからなる群から選択される素子を含む、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項10】
前記イオン光学素子の上流にあるイオンの少なくとも一部に力を提供する工程をさらに含み、該力は、該イオン光学素子に実質的に向けられる、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項11】
前記イオン光学素子の上流にあるイオンの少なくとも一部に力を提供する工程をさらに含み、該力は、該イオン光学素子から離れる方向に実質的に向けられる、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項12】
前記選択した運動エネルギープロファイルが、連続した運動エネルギー帯を含む、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項13】
中性物質からイオンを生成するためのイオン源を提供する工程と;該イオン源と前記イオン封込場との間に、該イオンのための連続した経路を提供する工程とをさらに含む、請求項1に記載のイオンをフラグメント化する方法。
【請求項14】
イオンのクラスターを分離する方法であって、該方法は、
(a)イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に、選択したRF場を提供する工程と;
(b)該選択したRF場が、該イオン封込場内にある被分析物のイオンおよび溶媒のイオンの選択した運動エネルギープロファイルを少なくとも部分的に決定するように、該被分析物のイオンと、該溶媒のイオンとを、該イオン光学素子を通って該イオン封込場へと移動させる工程であって、ここで、該溶媒のイオンが、該被分析物のイオンに非共有結合している、工程と、
を含み、
該選択した運動エネルギープロファイルが、ほとんどの該被分析物のイオンの中にある共有結合を破壊して該被分析物のイオンをフラグメント化することなく、該被分析物のイオンと該溶媒のイオンとの間の非共有結合を破壊することによって、該被分析物のイオンおよび該溶媒のイオンのほとんどのクラスターを分離するように選択される、方法。
【請求項15】
前記イオン光学素子が、四重極間レンズ、イオン流を横断するように取り付けられた二線素子、円錐形オリフィス、スキマープレート、および平板オリフィスからなる群から選択される素子を含む、請求項14に記載のイオンをクラスター分離する方法。
【請求項16】
前記イオン光学素子に直流電圧が加えられる、請求項15に記載のイオンをクラスター分離する方法。
【請求項17】
周波数情報をイオンに符号化する方法であって、該方法は、
(a)第1の選択した周波数を決定する工程と;
(b)該選択した周波数の第1の選択したRF場を、イオン封込場の上流にあるイオン光学素子に提供する工程と;
(c)該イオン封込場内にあるイオンの選択した運動エネルギープロファイルが、該選択した周波数を有するように、第1のイオン群を、該イオン光学素子を通って該イオン封込場へと移動させる工程と;
(d)該イオン封込場内のイオンの周波数を測定し、該周波数が、該選択した周波数であるかどうかを決定する工程と
を含む、方法。
【請求項18】
(a)第2の選択した周波数を決定する工程と;
(b)前記イオン封込場の上流に、第2の選択した周波数の第2の選択したRF場を提供する工程と;
(c)該第2のイオン群を、前記第1のイオン群および該第2のイオン群がともに該イオン封込場内に含まれるように、該第2の選択したRF場を通って該イオン封込場へと移動させる工程であって、該イオン封込場内の該第2のイオン群が、該第2の選択した周波数の第2の選択した運動エネルギープロファイルを有する、工程と;
(d)該イオン封込場内にある複数のイオンにおいて、それぞれのイオンの運動エネルギープロファイルの周波数を測定し、該周波数が第1の周波数であるか、または第2の周波数であるかを決定し、該複数のイオンにおいて、それぞれのイオンが、第1群中に存在するか、または第2群中に存在するかを決定する工程と
をさらに含む、請求項17に記載の周波数情報をイオンに符号化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−514531(P2013−514531A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543923(P2012−543923)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2010/003304
【国際公開番号】WO2011/073794
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】