説明

イオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置及び共振周波数調整方法

【課題】イオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置に関し、高精度で効率の良い調整方式を提供する。
【解決手段】搬送用トレー30には圧電共振子2がマトリクス状配列態様でセットされる。イオンガン60の各開口部61,62の間隔は前記配列の行方向間隔dのN倍(Nは2以上の整数)に設定してある。イオンビームはビーム制御板50とマスク板40を介して2列の各圧電共振子2に放射される。制御モジュール70は、ピン21,22を通じて各圧電共振子2の共振周波数を計測しながらビーム制御板50のシャッター51a,52aを開閉制御し、手前側の列の各圧電共振子2を予備的周波数に、前方側の列の各圧電共振子2を目的周波数に調整した後、搬送用トレー30をステップdだけ進める。予備的周波数に調整した各圧電共振子2は自然冷却されて目的周波数の調整段階へ移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置及び共振周波数調整方法に係り、特に、イオンエッチングの際に生じる温度変化が加工段階での周波数測定に影響を与えないようにしながら、粗調整と微調整を効率良く実行しながら高精度に調整した圧電共振子を得ることを目的とした装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電共振子の共振周波数をイオンエッチングによって調整する方法は数十年前から知られている。それらの概要については、1975年の第29回年次周波数調整シンポジウム会報(Proceeding of the 29th Annual Symposium on Frequency Control)における第128〜134頁に掲載されており、同記事はR.N.Castellano等によるイオンビーム技術による圧電素子の製造の研究(A Survey of Ion Beam Techniques for Piezoelectric Device Fabrication)に関するものである。
【0003】
しかしながら、それらの早期に発表された文献があるにも拘わらず、イオンエッチング方式を利用した圧電共振子の共振周波数調整方法は、最近になってようやく実用レベルで実施されるようになってきた。そのイオンエッチング方式による調整方法は、真空中において圧電共振子の電極表面をイオンガンが発生させるイオンビームに晒すことにより行われる。即ち、イオンビームを電極に照射させると、電極の表面が剥ぎ取られて電極の質量が減少し、それによって圧電共振子の共振周波数を目的周波数へ向けて上昇させてゆくものである。
【0004】
また、イオンエッチング方式による調整方法では一般にカウフマン(Kaufman)方式のイオンガンが適用されている。このイオンガンは、フィラメントからグリッドへ向かって加速される電子で不活性ガスの分子をイオン化し、そのイオンを電極表面に当てる方式であるが、フィラメントのメインテナンスを頻繁に行わなければならないという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電共振子の共振周波数をイオンエッチング方法によって調整する工程では、単位時間当りのエッチング量に比例した割合で圧電共振子に熱が発生する。その場合、圧電共振子の共振周波数を計測しながらイオンエッチングを実行するのであるが、圧電共振子の共振周波数には温度依存性があるため、調整後に圧電共振子の温度が下がると共振周波数が変化して調整精度が低下する。
【0006】
その問題に対して、1回の調整毎のエッチング率を低下させれば改善できることになるが、当然に目的周波数を得るまでの調整時間が長くなって効率が悪くなる。また、予め共振周波数の変化分を見込んだ目的周波数を設定しておく方法もあるが、個々の圧電共振子で変化分が異なるために高精度な調整が不可能であり、多数の圧電共振子の共振周波数を仕様範囲内に調整することは至難である。そこで、本発明は、多数の圧電共振子の共振周波数をイオンエッチング時の温度変化の影響を受けることなく目的周波数に調整することが可能な装置及び方法を提供し、共振周波数を高精度に設定した圧電共振子を効率良く得ることを目的として創作された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、真空槽内で圧電共振子の共振周波数をイオンエッチングによって調整する装置において、圧電共振子を嵌合させる凹部がマトリクス状配列態様で多数形成されていると共に、その各凹部の底壁には前記圧電共振子が嵌合した際にその電極を露出させる孔が形成されており、前記マトリクス状配列の行方向へ移動可能に支持された搬送用トレーと、2つの直線状の開口部が前記マトリクス状配列に係る行方向間隔のN倍(但し、Nは2以上の整数)だけ離隔させて平行に配置されており、その各開口部を通じて前記搬送用トレーにおける2列の各孔の形成領域に対してイオンビームを放射するイオンガンと、前記搬送用トレーと前記イオンガンの間に設置され、前記搬送用トレーの2列の各孔が前記イオンガンの各開口部と平面的に対応する位置に移動した状態で、前記2列の各孔と平面的に対応する位置にシャッター付きの開口窓が設けられたビーム制御板と、前記搬送用トレーにおける各凹部の形成面側に、その形成面と垂直な方向へ移動可能に支持されており、前記搬送用トレーによって前記イオンガンの各開口部に対応する位置へ搬送された各圧電共振子の電気接続端子に接続せしめられる各コンタクトピンが配設されているコンタクトパッドと、前記コンタクトパッドの各コンタクトピンを介して各圧電共振子の共振周波数を個別に計測する周波数計測手段と、前記搬送用トレーを前記マトリクス状配列の行方向間隔を単位ステップとして移動させる搬送制御手段と、前記コンタクトパッドの位置を制御して各コンタクトピンと各圧電共振子の電気接続端子との接続/非接続状態を構成する接続制御手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて前記ビーム制御板の各シャッターを個別に開閉制御するシャッター制御手段とを具備し、前記コンタクトパッドのコンタクトピンを前記搬送用トレーによって前記イオンガンの各開口部に対応する位置へ搬送された2列の各圧電共振子の電気接続端子に接続せしめ、前記搬送用トレーにおける前記2列の各圧電共振子に対してそれらの共振周波数を計測しながら前記ビーム制御板の各シャッターを開閉制御してイオンビームによるエッチングを実行し、その2列の内、前記搬送用トレーの前進方向に関して後方側の列に属する圧電共振子の共振周波数が目的周波数よりも低く設定された予備的周波数に、また前方側の列に属する圧電共振子の共振周波数が前記目的周波数に達した段階で、前記コンタクトパッドのコンタクトピンと前記2列の各圧電共振子の電気接続端子とを非接続状態にして前記搬送用トレーを前記単位ステップ分だけ前進させる制御動作を繰り返すことを特徴としたイオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置に係る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の「イオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置及び共振周波数調整方法」は、以下の構成を有していることにより、次のような効果を奏する。
【0009】
搬送用トレーにマトリクス状配設態様でセットした圧電共振子の電極を2列分同時にイオンエッチングしながら、一方の列の各圧電共振子の共振周波数を予備的周波数に粗調整し、自然冷却した他方の列の各圧電共振子の共振周波数を目的周波数に微調整することにより、共振周波数を高精度に調整した圧電共振子を効率良く生産することを可能にする。
【0010】
又、一般的に目的周波数への調整時間よりも予備的周波数への調整時間の方が長くなるため、予備的周波数への調整時間を可能な限り短くし、全体としてのスループットを向上させる。
【0011】
更に、前記の予備的周波数へ調整時間と目的周波数への調整時間の時間差を利用して、目的周波数への調整のためのイオンビームの強度を低くすることにより、最終的に得られる圧電共振子の共振周波数の調整精度を高める。また、それらの発明の適用は、全体としてのスループットを低下させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の「イオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置及び共振周波数調整方法」の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。先ず、図5(A)は底部が閉じたSMD(surface-mounted device)パッケージ1に圧電共振子2が装着されている状態を示し、そのSMDパッケージ1には蓋がなく、圧電共振子2の一方の電極3が表側に露出されている。また、図5(B)はSMDパッケージ1の裏側面を図示したものであり、圧電共振子2の各電極の電気接続端子4,5はSMDパッケージ1の裏側に導かれて離隔した態様で配設されている。
【0013】
次に、図1は実施形態に係る共振周波数調整装置の概略的構成図であり、図2はイオンガンと搬送用トレーの相対的位置関係(但し、調整開始前の状態)を示す平面図である。各図において、真空槽10には上側から順にコンタクトバッド20と搬送用トレー30とマスク板40とビーム制御板50とイオンガン60が平行な設置条件で内蔵されている。
【0014】
ここに、搬送用トレー30は真空槽10内で水平方向へ可動な状態で支持されており、電動モータ11によって駆動される減速機構等12を介して水平方向へ移動されるものである。そして、搬送用トレー30の上側面には前記のSMDパッケージ1を嵌合させる多数の凹部31がマトリクス状に形成されていると共に、その各凹部31の底壁には孔32が穿設されており、各凹部31に対してSMDパッケージ1を圧電共振子2の露出側を伏せてセットした状態で、水平方向へ移動できるようになっている。尚、この実施形態の搬送用トレー30では、図2に示すように、凹部31が8行×16列のマトリクス状に形成されており、その行方向間隔は”d”とされ、列方向間隔は”w”とされている。
【0015】
コンタクトバッド20は昇降装置13によって支持されており、搬送用トレー30との対向面側には、その搬送用トレー30における凹部31の配設条件で2列分隔てた各列に属する凹部31の配設領域に対応する位置に、それぞれ一対のコンタクトピン21,22が設けられている。即ち、各コンタクトピン21,22の列間の距離はD=3dとされており、各列について列方向間隔wで8組の各コンタクトピン21,22が整列せしめられている。そして、各対のコンタクトピン21,22におけるピンの間隔は前記のSMDパッケージ1における各電気接続端子4,5の略中心の間隔a(図5参照)とほぼ同等に設定されており、また各対のコンタクトピン21,22はバネ付勢機構(図示せず)によって下側へ付勢した状態で突出せしめられている。
【0016】
マスク板40は、真空槽10内において搬送用トレー30の下側面に密接した態様で固定されており、前記のコンタクトパッド20における各対のコンタクトピン21,22の配設位置と平面的に対応する位置に開口窓41,42が形成されている。また、その各開口窓41,42はイオンガン60のイオンビームを各圧電共振子2の電極3にだけ当てるためのものであり、電極3と同等の大きさか、又は誤差を考慮して電極3よりも僅かに大きく設定されている。ビーム制御板50には、マスク板40と同様に、真空槽10内で固定されており、またマスク板40における各開口窓41,42の配設位置と同一条件で各開口窓51,52が形成されているが、その各開口窓51,52には開閉制御されるシャッター51a,52aが設けられている。即ち、マスク板40の開口窓41,42とビーム制御板50の開口窓51,52は、それぞれ列間の距離をD=3dとして、各列について列方向間隔wで8個形成されており、コンタクトバッド20の各対のコンタクトピン21,22の中間から降ろした垂線上に位置していることになる。
【0017】
イオンガン60は、アノードレイヤー(Anode Layer)ガンを使用したものであって、その外部筐体には図2に示すような長円状の開口部60aが形成されているが、開口部60aの円弧状部分は閉鎖されており、その直線部分の開口区間61,62だけからイオンビームを放射するようになっている。そして、開口区間61,62の間隔はD=3dに、それぞれの長さは搬送用トレー30の幅に相当するように設定されており、イオンガン60はその各開口区間61,62がマスク板40とビーム制御板50における開口窓(41,51)と(42,52)の各形成領域に対して平面的に対応するように設置されている。尚、アノードレイヤー方式のイオンガンはこの種の装置に用いられてこなかったが、放電現象と磁界を利用しているためにフィラメントが不要であり、カウフマン方式のイオンガンを用いる場合と比較して、頻繁にメインテナンスを施さなくてもよいという利点がある。
【0018】
また、真空槽10の外部に設けられた制御モジュール70の入力端子にはコンタクトパッド20の各コンタクトピン21,22から導かれたケーブルが接続されており、コンタクトバッド20を降ろしてコンタクトピン21,22をSMDパッケージ1の電気接続端子4,5に接続させた状態で圧電共振子2の共振周波数を計測できるようになっている。そして、制御モジュール70は少なくとも共振周波数の計測回路とマイクロコンピュータ回路を内蔵しており、計測回路が求めた各圧電共振子2の共振周波数データに基づいて、[搬送用トレー30を移動させる電動モータ11]と[コンタクトパッド20を移動させる昇降装置13]と[ビーム制御板50の各シャッター51a,52a]と[イオンガン60]に対して制御信号を出力してそれらの動作をシーケンス制御する。
【0019】
次に、前記の共振周波数調整装置による圧電共振子2の共振周波数の調整手順を順次説明する。先ず、図2は調整手順を開始する前におけるイオンガン60の開口区間61,62と搬送用トレー30の平面的位置関係を示しており、搬送用トレー30の各凹部31にはSMDパッケージ1が圧電共振子2の露出側を伏せた態様でセットされている。従って、搬送用トレー30には合計128個のSMDパッケージ1を搭載させることができ、それらを以下の手順によって列単位で調整してゆく。
【0020】
制御モジュール70に対して開始指示を与えると、制御モジュール70は電動モータ11を駆動させて搬送用トレー30を水平移動させ、その第1列目にセットされている8個のSMDパッケージ1をイオンガン60の開口区間61の上側に配置させる。即ち、搬送用トレー30とイオンガン60との平面的な関係は図3(A)に示すSTEP1の状態になる。また、開始指示に基づいて、制御モジュール70はイオンガン60を起動させて、各開口区間61,62からイオンビームが放射された状態にする。尚、この段階ではビーム制御板50のシャッター51a,52aは閉じた状態になっている。
【0021】
搬送用トレー30の移動が完了すると、制御モジュール70は昇降装置13を駆動させてコンタクトパッド20を下降させ、8組のコンタクトピン21が第1列目の各SMDパッケージ1の圧電共振子2に形成されている電気接続端子4,5に圧接した状態でコンタクトパッド20の下降を停止させる。
【0022】
そして、制御モジュール70は第1列目の全ての圧電共振子2の共振周波数を計測し、そのデータを内部メモリにセーブする。また、その段階で、制御モジュール70はビーム制御板50の全てのシャッター51a,52aを開放させる。従って、イオンガン60のイオンビームはビーム制御板50の開口窓51,52からマスク板40の開口窓41,42を通じて上側へ放射されることになり、第1列目の8個の圧電共振子2に対してイオンガン60の開口区間61から放射されているイオンビームによるエッチングが開始される。
【0023】
ところで、制御モジュール70は前記の計測結果に基づいて8個の圧電共振子2の内で最高の共振周波数を呈したものを確認することができる。この実施形態では、先ず、制御モジュール70がその最高の共振周波数を呈した圧電共振子2に着目してエッチング継続中の共振周波数を継続的に計測する。そして、エッチングの継続によって前記の圧電共振子2の共振周波数が予め設定された予備的周波数FPに達した段階で、制御モジュール70はその圧電共振子2に対応しているビーム制御板50のシャッター51aを閉じるようにする。
【0024】
次に、制御モジュール70は前記で予備的周波数FPへの調整が完了した圧電共振子2以外の他の圧電共振子2に係る共振周波数を再度計測し、その内の最高の共振周波数を呈した圧電共振子2に着目して、その圧電共振子2についての計測を行いながらエッチングを継続させて予備的周波数FPへの調整を実行する。以降、制御モジュール70は、1個の圧電共振子の調整が完了する度に残りの圧電共振子2の各共振周波数を再計測し、その計測によって最高の周波数を呈した圧電共振子2について同様の手順で予備的周波数FPに調整してゆく。但し、ここで実行されている調整工程は目標周波数への調整ではなく、その目標周波数より低く設定された予備的周波数FPへ揃えるための第1段階での調整工程である。
【0025】
具体的には、図4は前記の調整過程を詳しく説明するグラフであり、一例として8個の圧電共振子2を最終的な目標周波数FTである20.000MHzに調整する場合を示しており、予備的周波数FPを19.998MHzに設定して第1段階での調整を実行させている。同図における○印は調整前の各圧電共振子2の共振周波数を示しており、最低の共振周波数FL=19.972MHzから最高の共振周波数FH=19.992MHzまで20KHzの拡がりがある。
【0026】
前記の調整過程によれば、先ず、最高の共振周波数FHに係る圧電共振子2について予備的周波数FPに調整されるが、そのΔF=6KHz分の調整過程においてビーム制御板50の全てのシャッター51aは開放されているため、他の圧電共振子2についてもエッチングが進行してそれらの共振周波数もΔF分だけ高くなる。従って、図4に示すように、第1列目の各圧電共振子2の共振周波数はそれぞれ○印の周波数から×印の周波数へ高められることになる。そして、予備的周波数FPへの調整が完了した前記の圧電共振子2に対応するシャッター51aを閉じて、その他の圧電共振子2の共振周波数を計測することになるが、通常は前の計測によって共振周波数が第2番目に該当していた圧電共振子2が次の調整対象となり、図4において”q”で示した×印の周波数から予備的周波数FPへ調整し、その調整の完了によりその圧電共振子2に対応したシャッター51aが閉じられることになる。以降、同様にして、搬送用トレー30の第1列目にセットされている8個のSMDパッケージ1の圧電共振子2が全て予備的周波数FPへ調整される。
【0027】
ところで、前記の調整過程では1個の圧電共振子2の調整が完了する度に残りの圧電共振子2の共振周波数を計測して再確認するようにしている。これは、一般的には当初の計測データに基づいた調整順序を採用することも可能であるが、イオンガン60によるエッチングが各圧電共振子2に対して完全に均等に行われてバラツキがないという保証はないためである。その場合、計測時間中においてもエッチングが継続しているために、調整が完了した段階で圧電共振子2の共振周波数がそのエッチング時間相当分だけ予備的周波数FPからずれている可能性がある。しかし、1つの圧電共振子2の共振周波数を計測するために必要な時間は約10msecであり、最長の計測時間は第2番目の圧電共振子2の調整を実行する前に行われる7個の圧電共振子2を対象とした1サイクルの計測時間であることから、前記の周波数のずれは最大で約70msecのエッチングによるものになる。一方、代表的なエッチング速度は圧電共振子2の目的周波数に対して100ppm/secである。従って、仮に約70msecのエッチングが余分になされたとしても、前記の周波数のずれによる誤差は7ppmであり、この誤差は予備的周波数FPへの調整の後に実行される後記の目標周波数への調整量(目的周波数に対する約50ppm分)と比較しても十分に小さい値である。
【0028】
以上のようにして搬送用トレー30の第1列目の圧電共振子2が予備的周波数FPに調整されると、制御モジュール70は昇降装置13を駆動させてコンタクトパッド20を上側へ引き上げ、また電動モータ11を駆動させて搬送用トレー30が距離dだけ前方へ移動した段階で停止させる。従って、搬送用トレー30とイオンガン60の開口区間61,62との平面的関係は図3(B)のSTEP2に示す状態となり、その移動が完了した段階で昇降装置13が逆駆動されてコンタクトパッド20が下降せしめられ、8組のコンタクトピン21が第2列目の各SMDパッケージ1の圧電共振子2に形成されている電気接続端子4,5に圧接した状態になる。また、第1列目の各圧電共振子2に対する調整が完了した段階ではビーム制御板50の全てのシャッター51aが閉じた状態になっているが、搬送用トレー30は前記の準備が完了した段階で全てのシャッター51aを開放させる。そして、その後に第1列目の各圧電共振子2に対する調整手順と同様の手順で第2列目の各圧電共振子2の共振周波数を予備的周波数FPに調整する。
【0029】
更に、その第2列目の各圧電共振子2に対する調整が完了すると、制御モジュール70はコンタクトパッド20と搬送用トレー30の制御を行って図3(C)のSTEP3の状態とし、第3列目の各圧電共振子2に対する調整手順を実行する。
【0030】
また更に、第3列目の各圧電共振子2に対する調整が完了すると、同様にコンタクトパッド20と搬送用トレー30の制御によって図3(D)のSTEP4の状態にして第4列目の各圧電共振子2に対する調整手順を実行する。但し、その段階では搬送用トレー30がD=3dだけ移動せしめられるため、第1列目にセットされている8個のSMDパッケージ1がイオンガン60の開口区間62に対応する位置まで搬送された状態になる。
【0031】
前記のように、図3(A)〜(C)に示したSTEP1〜3の工程では搬送用トレー30がそれぞれ距離dずつ移動せしめられて、第1列目から第3列目までの各圧電共振子2を予備的周波数FPに調整している。従って、図3(D)のSTEP4でイオンガン60の開口区間62に対応する位置に達した第1列目の各圧電共振子2は既にSTEP1で予備的周波数FPに調整されたものである。但し、STEP1においてイオンビームに晒されている状態での各圧電共振子2の温度は上昇しており、計測値として予備的周波数FPが得られていてもその値は常温状態での共振周波数からずれている。
【0032】
一方、第1列目の圧電共振子2は、STEP1でエッチングを受けた後、STEP2とSTEP3の状態を経てSTEP4の位置へ搬送されている。STEP4では、前記のように第4列目の各圧電共振子2に対する予備的周波数FPへの調整手順と第1列目の各圧電共振子2を最終的に目的周波数FTへ調整する手順を同時に実行する。先ず、制御モジュール70は昇降装置13を駆動させてコンタクトパッド20を下降せしめ、各コンタクトピン21を第4列目の各圧電共振子2の電気接続端子4,5に、各コンタクトピン22を第1列目の各圧電共振子2の電気接続端子4,5にそれぞれ圧接させる。
【0033】
そして、制御モジュール70は、ビーム制御板50の各シャッター51aを全て開放して第4列目の各圧電共振子2に対する上記の調整手順を実行させるのであるが、各シャッター52aについては全て閉じた状態とした後、第1列目の8個の圧電共振子2から1個ずつ選択して目的周波数FTへの調整手順を実行する。この第1列目の各圧電共振子2に対する調整は、選択された圧電共振子2に対応するシャッター52aを開放し、その圧電共振子2の共振周波数を計測しながらイオンガン60の開口区間62から放射されているイオンビームでエッチングすることによって実行される。
【0034】
即ち、選択した圧電共振子2の共振周波数はエッチングの進行によってほぼ予備的周波数FPに設定された状態から目的周波数FTへ上昇するが、その圧電共振子2の共振周波数が目的周波数FTになった段階でシャッター52aを閉じるという手順を第1列目の8個の圧電共振子について順次実行する。尚、上記のSTEP1における予備的周波数FPへの調整段階と異なり、この場合における各圧電共振子2の選択順序は任意である。
【0035】
ところで、STEP4の位置へ搬送された第1列目の各圧電共振子2はSTEP2及びSTEP3の非エッチング状態を経ているため、STEP1で上昇した温度は搬送された時点では自然冷却されて低下しており、共振周波数が圧電素子の温度依存性によって変化することは避けられない。また、上記のようにSTEP1での共振周波数の計測時間に基づいたずれもある。しかし、それらの誤差は(目的周波数FT−予備的周波数FP)の値に対して十分に小さいものである。STEP4での調整において重要なことは、STEP1の調整手順でイオンビームによって加熱された各圧電共振子2がSTEP2とSTEP3を経ることで自然冷却されている点、及び、図4に示すように、予備的周波数FPが目的周波数FTに近い値に設定されており、STEP4でのエッチング量が小さくても足りる点にある。
【0036】
換言すれば、STEP4で各圧電共振子2の共振周波数を最終的な目的周波数FTへ調整する際に、自然冷却された後の温度状態からエッチングを開始でき、且つ各圧電共振子2をイオンビームに晒す時間を短くすることができるために、圧電共振子2の温度依存性の影響を受けずに正確な調整が実行できることになる。
【0037】
以上のようにして、STEP4で第1列目の各圧電共振子2について目的周波数FTへの調整が完了し、また第4列目の各圧電共振子2について予備的周波数FPへの調整が完了すると、制御モジュール70は昇降装置13を駆動させてコンタクトパッド20を上昇させ、電動モータ11を駆動させることで搬送用トレー30を距離dだけ前方へ移動させる。従って、第5列目の各圧電共振子2がイオンガン60の開口区間61に対応する位置に、予備的周波数FPに調整された第2列目の各圧電共振子2がイオンガン60の開口区間62に対応する位置にそれぞれ搬送されるが、前者に対しては予備的周波数FPへの調整手順が、後者に対しては目的周波数FTへの調整手順が同時に実行されることになる。
【0038】
以降、同様にして、各調整工程が完了する度に搬送用トレー30が距離dずつ前方へ移動せしめられ、第m列(但し、m=3,4,…,13)の各圧電共振子2の予備的周波数FPへの調整と、第(m+3)列の各圧電共振子2に対する目的周波数FTへの調整が同時に実行されてゆく。尚、m=14,15,16の場合にはイオンガン60の開口区間61に対応する列がなくなるため、予備的周波数FPへの調整が完了している第14列目から第16列目の各圧電共振子2に対する目的周波数FTへの調整だけになる。
【0039】
以上に本発明の実施形態を説明したが、その変形例として次のような構成にしてもよい。
【0040】
(1) 前記の実施形態では、コンタクトパッド20における各コンタクトピン21,22の列間の距離、マスク板40における各開口窓41,42の列間の距離、ビーム制御板50における各開口窓51,52の列間の距離、及びイオンガン60における各開口区間61,62の間隔がD=3dであり、搬送用トレー30における凹部31と孔32の行方向間隔dの3倍に設定されているが、Dは必ずしも3dとする必要はなく、dの2以上の整数倍であればよい。即ち、距離Dは、予備的周波数FPへの調整段階で温度が上昇した各列の圧電共振子2を目的周波数FTへの調整段階に達するまでに自然冷却させる時間を確保するものであるが、原理的には搬送用トレー30が2STEP以上移動せしめられる時間を設けておけば足りる。もっとも、距離Dは、dの2以上の整数倍という条件下に、前記の自然冷却が十分に行われることと、各列の圧電共振子2に対する調整時間も考慮して最も効率良く調整が進行するように設定される。
【0041】
(2) 前記の実施形態では、イオンガン60の各開口区間61,62から放射させるイオンビームの強度(ビーム密度)を同等に設定しているが、開口区間62でのビーム密度を開口区間61のそれよりも低く設定すれば、最終的な目的周波数FTへの調整精度を高めることができる。これは、ビーム密度はエッチング率に比例し、エッチング率を低下させると調整精度を向上させることができるためであり、各開口区間61,62に設けるガンのビーム密度を前記のように設定すればよい。また、基本的には圧電共振子2に対するエッチング率が問題であることから、イオンガン60の各開口区間61,62のビーム密度を同等に設定しながら、開口区間62側に対応した列のシャッター52aを全開状態とせずに、部分的に閉じる方法を採用してもよい。そして、それらの方法を採用しても、一般的に目的周波数FTへの調整時間は予備的周波数への調整時間と比較して遥かに短いため、各STEPでの調整時間が長くなることはなく、スループットは低下しない。
【0042】
(3) 前記の実施形態では、マスク板40の各開口窓41,42によって調整段階にある各圧電共振子2の電極3にのみイオンビームが当るようにしている。これは、電極3以外の部分(電極3と電気接続端子4,5を接続する導体部分やSMDパッケージ1等)にイオンビームが当ると、それらの部分が電極3の表面と同様に荒らされるためである。その機能からみれば、前記の実施形態のようにマスク板40を固定方式とせずに、搬送用トレー30の各孔32に対応する位置に前記の開口窓41,42に相当する孔を形成したマスク板を搬送用トレー30の下側面に密着させて取り付けておき、搬送用トレー30と共に移動するような構成であってもよい。更には、マスク板40の前記機能は、搬送用トレー30の孔32を電極3と同等の大きさか、又はそれよりも僅かに大きく形成しておくことで代替させることができ、その場合にはマスク板40が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る共振周波数調整装置の概略的構成図である。
【図2】調整手順の開始前におけるイオンガンと搬送用トレーの相対的位置関係を示す平面図である。
【図3】搬送用トレーにセットされた圧電共振子に対する共振周波数の調整状態におけるイオンガンと搬送用トレーの相対的位置関係を示す平面図である。但し、(A)は第1列目の圧電共振子に対する予備的周波数への調整状態、(B)は第2列目の圧電共振子に対する予備的周波数への調整状態、(C)は第3列目の圧電共振子に対する予備的周波数への調整状態、(D)は第4列目の圧電共振子に対する予備的周波数への調整と第1列目の圧電共振子に対する目的周波数への調整を行っている状態に相当する。
【図4】搬送用トレーの第1列目の各圧電共振子における最高の共振周波数を有するものが予備的周波数へ調整された段階での各圧電共振子の共振周波数の変化を示すグラフである。
【図5】圧電共振子が装着されたSMDパッケージの外観斜視図であり、(A)は表側面(開放側)を、(B)は裏側面(底部側)を示す。
【符号の説明】
【0044】
1…SMDパッケージ
2…圧電共振子
3…電極
4,5…電気接続端子
10…真空槽
11…電動モータ
12…減速機構等
13…昇降装置
20…コンタクトパッド
21,22…コンタクトピン
30…搬送用トレー
31…凹部
32…孔
40…マスク板
41,42…開口窓
50…ビーム制御板
51,52…開口窓
51a,52a…シャッター
60…イオンガン
60a…開口部
61,62…開口区間
70…制御モジュール
a…SMDパッケージにおける各電気接続端子の略中心の間隔
D…コンタクトピンの列間の距離
d…搬送用トレーの凹部の行方向間隔
w…搬送用トレーの凹部の列方向間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内で圧電共振子の共振周波数をイオンエッチングによって調整する装置において、圧電共振子を嵌合させる凹部がマトリクス状配列態様で多数形成されていると共に、その各凹部の底壁には前記圧電共振子が嵌合した際にその電極を露出させる孔が形成されており、前記マトリクス状配列の行方向へ移動可能に支持された搬送用トレーと、2つの直線状の開口部が前記マトリクス状配列に係る行方向間隔のN倍(但し、Nは2以上の整数)だけ離隔させて平行に配置されており、その各開口部を通じて前記搬送用トレーにおける2列の各孔の形成領域に対してイオンビームを放射するイオンガンと、前記搬送用トレーと前記イオンガンの間に設置され、前記搬送用トレーの2列の各孔が前記イオンガンの各開口部と平面的に対応する位置に移動した状態で、前記2列の各孔と平面的に対応する位置にシャッター付きの開口窓が設けられたビーム制御板と、前記搬送用トレーにおける各凹部の形成面側に、その形成面と垂直な方向へ移動可能に支持されており、前記搬送用トレーによって前記イオンガンの各開口部に対応する位置へ搬送された各圧電共振子の電気接続端子に接続せしめられる各コンタクトピンが配設されているコンタクトパッドと、前記コンタクトパッドの各コンタクトピンを介して各圧電共振子の共振周波数を個別に計測する周波数計測手段と、前記搬送用トレーを前記マトリクス状配列の行方向間隔を単位ステップとして移動させる搬送制御手段と、前記コンタクトパッドの位置を制御して各コンタクトピンと各圧電共振子の電気接続端子との接続/非接続状態を構成する接続制御手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて前記ビーム制御板の各シャッターを個別に開閉制御するシャッター制御手段とを具備し、前記コンタクトパッドのコンタクトピンを前記搬送用トレーによって前記イオンガンの各開口部に対応する位置へ搬送された2列の各圧電共振子の電気接続端子に接続せしめ、前記搬送用トレーにおける前記2列の各圧電共振子に対してそれらの共振周波数を計測しながら前記ビーム制御板の各シャッターを開閉制御してイオンビームによるエッチングを実行し、その2列の内、前記搬送用トレーの前進方向に関して後方側の列に属する圧電共振子の共振周波数が目的周波数よりも低く設定された予備的周波数に、また前方側の列に属する圧電共振子の共振周波数が前記目的周波数に達した段階で、前記コンタクトパッドのコンタクトピンと前記2列の各圧電共振子の電気接続端子とを非接続状態にして前記搬送用トレーを前記単位ステップ分だけ前進させる制御動作を繰り返すことを特徴としたイオンエッチングによる圧電共振子の共振周波数調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−228634(P2007−228634A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139051(P2007−139051)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【分割の表示】特願2002−103164(P2002−103164)の分割
【原出願日】平成14年4月5日(2002.4.5)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】