説明

イオンガイドユニット及びそれを備えた質量分析装置

【課題】製造コストを抑えることができ、組立及び分解が容易であるイオンガイドユニット及びそれを備えた質量分析装置を提供する。
【解決手段】イオンガイドユニット10に、8本の電極を一方の端面からイオン光軸方向に押圧する導電性の板バネ13と、その8本の電極を他方の端面において支える絶縁性の第1支持部142を設ける。板バネ13と4本の第1電極11Aの間には絶縁スペーサを配置し、板バネ13と4本の第2電極11Bの間には導電スペーサを配置する。また、第1支持部142と第1電極11Aの間には導電性の薄板15を配置する。これにより、全ての電極を同方向に一度に押さえて固定することができるとともに、各電極に所定の電圧を印加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンの軌道を収束させつつイオンを後段に輸送するためのイオンガイドユニット及びそれを備えた質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、2つの四重極質量フィルタを用いてMS/MS法による測定を行うタンデム型質量分析装置の概略構成図である。この装置では、イオンの通過経路に沿って第1段の四重極質量フィルタ30、コリジョンセル31、第2段の四重極質量フィルタ33、検出器34が配置される。コリジョンセル31の内部には、飛行するイオンの軌道を電場により制御するイオンガイド40が配置される。
【0003】
図7において左方からイオンが導入されると、第1段の四重極質量フィルタ30により特定の質量電荷比を有するイオンのみが選択されてコリジョンセル31内のイオンガイド40に導入される。コリジョンセル31内には衝突誘起解離(CID)ガスが導入されており、前段で選択されたイオンはCIDガスと衝突して解離し、その解離の態様に応じて生じた各種のプロダクトイオンが第2段の四重極質量フィルタ33に導入される。そして第2段の四重極質量フィルタ33により特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンが選択され、検出器34にて検出される。
【0004】
イオンガイド40としては、複数のロッド電極をイオン光軸の周囲に回転対称に配置したマルチポール型のものが一般的であるが、ロッド電極の代わりにイオン光軸方向に延伸する金属板電極を用い、その端面でイオン光軸を取り囲むものも提案されている(特許文献1参照)。図8に、そのようなイオンガイド40を備えるイオンガイドユニット44の一例を示す。図8(a)はイオンガイドユニット44の側面図であり、図8(b)、(c)はそれぞれ図8(a)のA−A矢視断面図、B−B矢視断面図である。
【0005】
イオンガイド40はイオン光軸Cを取り囲む8枚の金属板電極41から成る。イオンガイド40の周囲には、それを取り巻くように略C字型の帯状金属板42、43が互いに接触しないように配置され、それぞれ異なる一つ置きの金属板電極41に接続している。これにより、一つ置きの金属板電極41は帯状金属板42、43を介して同電位になる。
【0006】
帯状金属板42、43には、同一の直流電圧に振幅が同一で位相を反転させた高周波電圧を重畳させた電圧が印加される。これにより、8枚の金属板電極41の端面で囲まれた空間に高周波電場が発生し、そこに導入されたイオンが所定の周期で振動しながら進む。
【0007】
【特許文献1】特開2007-128694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図9に、上記イオンガイドユニット44における1枚の金属板電極41の平面図(a)及び側面図(b)を示す。金属板電極41のイオン光軸側の反対側の辺には突出部411が設けられている。突出部411は先端が折り曲げられており、そこに貫通穴が設けられている。この貫通穴と一方の帯状金属板43に設けられた貫通穴にネジが通され、金属板電極41と帯状金属板43はネジで固定される。この金属板電極41から一つ置きに配置されている他の3枚の金属板電極41も同じ突出部を同じ位置に備えており、同様に帯状金属板43にネジで固定される。これら4枚の金属板電極41に隣接する他の4枚の金属板電極41には同形状の突出部が長手方向にずれた位置に設けられており、これらの金属板電極41はもう一方の帯状金属板42にネジで固定される。
【0009】
このように従来のイオンガイドユニット44では、金属板電極41及び帯状金属板42、43に、両者を接続するための曲げ加工や穴あけ加工を施している。そのため、加工コストが掛かるほか、その組立及び分解の作業が煩雑である。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するために成されたものであり、その目的は、製造コストを抑えることができ、組立及び分解が容易であるイオンガイドユニット及びそれを備えた質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオンガイドユニットは、
イオン光軸を取り囲むように配置された、該イオン光軸方向に延伸する2n(nは2以上の自然数)本の電極をイオンガイドとして備え、該電極のうち、一つ置きに配置されたn本の電極を第1電極とし、該第1電極に隣接するn本の電極を第2電極とするイオンガイドユニットであって、
a)前記2n本の電極を一方の端面からイオン光軸方向に押圧するとともに、前記n本の第1電極に対応する位置に絶縁部を有し、前記n本の第2電極に対応する位置に導電部を有する押圧手段と、
b)前記2n本の電極を他方の端面において支えるとともに、前記n本の第1電極に対応する位置に導電部を有し、前記n本の第2電極に対応する位置に絶縁部を有する支持手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、上記イオンガイドユニットを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るイオンガイドユニット及びそれを備えた質量分析装置によれば、複数の電極を押圧手段と支持手段で両端から挟むようにして固定するため、それらの電極を同方向に一度に押さえて固定することができる。これにより、イオンガイドユニットの生産効率が従来よりも大幅に高まり、メンテナンス時の組立及び分解が容易になる。
押圧手段の導電部が一つ置きに配置されたn本の第2電極に接触し、支持手段の導電部が第2電極に隣接するn本の第1電極に接触するため、電極に特別な加工(例えば曲げ加工や穴あけ加工等)を施さなくてもそれぞれの電極に所定の電圧を印加することができる。従って、電極の加工コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るイオンガイドの一実施例を図面を参照して説明する。図1(a)は本実施例に係るイオンガイドを内部に備えるイオンガイドユニット10の側面図であり、図1(b)、(c)はそれぞれ図1(a)のA−A矢視断面図、B−B矢視断面図である。本実施例のイオンガイドユニット10は、図7に示したようなMS/MS分析を行うタンデム型質量分析装置のコリジョンセル31内に配置されるものであり、イオン光軸Cの方向に延伸した8枚の金属板を電極とするイオンガイド11と、それらを囲う円筒状のケース14を備える。
【0015】
イオンガイド11の各電極はその長手側の端面をイオン光軸Cに向け、イオン光軸Cの周りに互いに45°ずつの角度を保って回転対称に配置されている。8枚の電極のうち一つ置きに配置された4枚の電極を第1電極11Aとし、それらに隣接する4枚の電極を第2電極11Bとする。なお、ここでは、8枚の電極から成る8重極の構成であるが、多重極電場を形成する場合、4重極、6重極等、電極の枚数は4以上の偶数であればよい。
【0016】
図2(a)に1枚の第1電極11Aの斜視図を示す。第1電極11Aはイオン光軸Cに直交する面内でイオン光軸C側端縁が光軸に向けて凸の円弧状又は双曲線状である。また、イオン光軸C側の端面はイオンの進行方向(図1(c)及び図2(a)の右方向)に向かうに従ってイオン光軸Cから僅かに遠ざかるように傾斜している。この傾斜により多重極電場の強さをイオンガイド11の出口側ほど小さくして、飛行するイオンを減速させることができる。この第1電極11A以外の他の3枚の第1電極11A及びそれらに隣接する4枚の第2電極11Bも同じ形状を有する。
なお、第1電極11A及び第2電極11Bは図2(b)に示すように、端面加工が施されていない金属板111の端面に所定の断面形状を有する電極棒112を溶接等により固定したものであってもよい。この電極棒112はイオン光軸Cに直交する面内で、少なくともイオン光軸C側端縁が光軸に向けて凸の円弧状又は双曲線状であれば、丸棒に限らず断面が半円状のもの等でもよい。
【0017】
ケース14は第1電極11A及び第2電極11Bを取り巻く筒部141と、筒部141の一方の端部に取り付けられ各電極の一端面(図1(c)における左側の端面)を支える第1支持部142と、筒部141の他方の端部に取り付けられた第2支持部143と、第2支持部143との間に図3に示すような板バネ13を挟んで固定するための板バネ固定部144とを備える。第1支持部142及び第2支持部143はセラミックスやプラスチック等の絶縁体から成り、中央にイオンを通過させるための開口が設けられている。さらに第2支持部143には各電極に対応する位置に円筒状の貫通穴が設けられている。
【0018】
図3に示した板バネ13は金属製のリング状の枠部131と、枠部131から内側に突出する片持ちバネである8個のバネ部132から成る。バネ部132はT字形状にし、隣り合うバネ部132の左右端が近接するようにしておく。このような板バネ13は金属板をプレス加工することにより低コストで製造することができる。なお、バネ部132は枠部131から外側に突出する構成にしてもよい。
【0019】
第1支持部142における電極を支える面には金属製の薄板15が配置される。図4に薄板15の平面図を示す。薄板15はリング状の枠部151と、枠部151から内側に突出する4個の金属接点152から成る。薄板15もプレス加工により低コストで製造することができる。第1支持部142に配置された薄板15は金属接点152の位置が第1電極11Aの位置に対応する。これにより、薄板15は第1電極11Aのみに接触し、第2電極11Bには接触しない。
【0020】
図5に、イオンガイドユニット10の第2支持部143側の端部における、板バネ13及び板バネ固定部144を取り外した状態の端面図を示す。第2支持部143に設けられた8個の貫通穴のうち第1電極11Aに対応する4個の穴には絶縁体から成る絶縁スペーサ121が挿入され、第2電極11Bに対応する4個の穴には導電体から成る導電スペーサ122が挿入される。各スペーサは同じ長さを有する円筒状のものであり、その長さは一端が電極に接触した状態で他端が第2支持部143の表面から僅かに突出する程度にする。
【0021】
図6に、図5に示したイオンガイドユニット10に板バネ13及び板バネ固定部144を取り付けた状態の部分端面図を示す。板バネ13は隣り合うバネ部132の近接した左右端が1つの絶縁スペーサ121又は1つの導電スペーサ122の突出部を押さえるように配置される。これにより、板バネ13は第1電極11Aとは絶縁スペーサ121により絶縁され、第2電極11Bとは導電スペーサ122を介して電気的に接続する。このとき、各導電スペーサ122は2つのバネ部132と接触するため、各導電スペーサがそれぞれ1つのバネ部と接触する場合と比べ、それらの接点における汚れや埃等を原因とする接触不良の発生確率が低下する。
【0022】
以上の構成により、板バネ13のバネ部132が絶縁スペーサ121又は導電スペーサ122を介して第1電極11A及び第2電極11Bを第1支持部142側へ押さえる。これにより、各電極は板バネ13と第1支持部142により両側から挟まれて固定される。このとき、第1電極11Aの端面は絶縁スペーサ121又は金属製の薄板15に接触し、第2電極11Bの端面は導電スペーサ122又は絶縁体から成る第2支持部143に接触する。そして、図示しない電圧印加回路より、第1電極11Aには薄板15を介して直流電圧Vに高周波電圧v・cosωtが重畳された電圧V+v・cosωtが印加され、第2電極11Bには板バネ13及び導電スペーサ122を介して同じ直流電圧に位相が反転された(つまり180°ずれた)高周波電圧が重畳された電圧V−v・cosωtが印加される。これにより、8枚の電極の縁端面で囲まれた空間に多重極電場が形成され、そこに導入されるイオンが収束される。
【0023】
このとき、イオン光軸Cに直交する面内で、8枚の電極のイオン光軸C側端縁が光軸に向けて凸の円弧状又は双曲線状であるため、電極の近傍にはその曲線に沿うような形状の電場が発生する。これにより、各電極の端面で囲まれた空間に理想状態に近い電場を形成することができる。
【0024】
本実施例に係るイオンガイドユニットでは以下の効果も奏する。8枚の電極は仮に長手方向の寸法にばらつきがあったとしても、それぞれ板バネ13の弾性力により独立に押さえられるため、いずれも端面から適度な力で押さえられる。つまり、電極に無理な力が加わって電極が撓むおそれがない。
絶縁スペーサ121及び導電スペーサ122として同じ長さのものを用いることで、各電極と板バネ13の距離を同じにすることが可能となり、全ての電極を同一形状に統一することができる。
【0025】
上述したイオンガイドユニット10はイオンの軌道を収束させつつイオンを後段に輸送する機能を備える様々な質量分析装置に適用することができ、MS/MS分析を行うタンデム型質量分析装置のように複数の質量分析部を有するものに限らず、例えば液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)のように単一の質量分析部を有するものにも適用することができる。
【0026】
上記実施形態は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば、第1支持部142を導電体から成るものとし、それと第2電極11Bの間に絶縁部材を介在させてもよい。第1電極11A及び第2電極11Bは板状に限らず、棒状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例であるイオンガイドユニットを説明する図であり、(a)は側面図、(b)、(c)はそれぞれ(a)のA−A矢視断面図、B−B矢視断面図である。
【図2】電極を説明する図であり、(a)は本実施例の電極の斜視図、(b)は変形例の電極の斜視図である。
【図3】板バネの平面図。
【図4】薄板の平面図。
【図5】板バネ及び板バネ固定部を取り付ける前のイオンガイドユニットの端面図。
【図6】板バネ及び板バネ固定部を取り付けた後のイオンガイドユニットの拡大端面図。
【図7】タンデム型質量分析装置の概略構成図。
【図8】従来のイオンガイドユニットを説明する図であり、(a)は側面図、(b)、(c)はそれぞれ(a)のA−A矢視断面図、B−B矢視断面図である。
【図9】従来のイオンガイドユニットの金属電極板の平面図。
【符号の説明】
【0028】
10、44…イオンガイドユニット
11、40…イオンガイド
111…金属板
112…電極棒
11A…第1電極
11B…第2電極
121…絶縁スペーサ
122…導電スペーサ
13…板バネ
131、151…枠部
132…バネ部
14…ケース
141…筒部
142…第1支持部
143…第2支持部
144…板バネ固定部
15…薄板
152…金属接点
30、33…四重極質量フィルタ
31…コリジョンセル
34…検出器
41…金属板電極
411…突出部
42、43…帯状金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン光軸を取り囲むように配置された、該イオン光軸方向に延伸する2n(nは2以上の自然数)本の電極をイオンガイドとして備え、該電極のうち、一つ置きに配置されたn本の電極を第1電極とし、該第1電極に隣接するn本の電極を第2電極とするイオンガイドユニットであって、
a)前記2n本の電極を一方の端面からイオン光軸方向に押圧するとともに、前記n本の第1電極に対応する位置に絶縁部を有し、前記n本の第2電極に対応する位置に導電部を有する押圧手段と、
b)前記2n本の電極を他方の端面において支えるとともに、前記n本の第1電極に対応する位置に導電部を有し、前記n本の第2電極に対応する位置に絶縁部を有する支持手段と、
を備えることを特徴とするイオンガイドユニット。
【請求項2】
前記押圧手段が、中央にイオンの通過部を有する枠部と、該枠部から放射方向に内側又は外側に突出して前記2n本の電極をイオン光軸方向に押圧する複数のバネ部からなる板バネであることを特徴とする請求項1に記載のイオンガイドユニット。
【請求項3】
前記支持手段が、中央にイオンの通過部を有し該通過部の周辺に前記2n本の電極を支える支持面が設けられている絶縁部材と、該支持面と前記n本の第1電極の間に介在する互いに電気的に接続されたn個の金属接点とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンガイドユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のイオンガイドユニットを備えることを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−118310(P2010−118310A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292430(P2008−292430)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】