イオンガン及びそれに用いるグリッド
【課題】グリッド交換時の出力特性の再現性、温度変化に伴う形状安定性、及び保管性に優れるハーフパイプ型グリッドを備えるイオンガンを提供する。
【解決手段】イオンガンにおいて、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが平板グリッドからなり、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される構成とした。
【解決手段】イオンガンにおいて、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが平板グリッドからなり、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンガンに関し、特に、プラズマからイオンビームを引き出す加速グリッド及びそれを用いるイオンガンに関する。
【背景技術】
【0002】
図11に従来のイオンガン100の構成を示す。イオンガン100は、内部にプラズマを発生させる本体110、多数のグリッド孔が設けられた遮蔽グリッド121及び加速グリッド122(これらをまとめてグリッド120という)、本体110に取り付けられたサポート112、並びに加速グリッド122をサポート112に固定するネジ140を備える。電源(不図示)から電圧が印加された加速グリッド122が本体110内部のプラズマからイオンを引き出し、これによりイオンビーム(矢印)が出射される。このイオンビームは圧電素子(不図示)等に照射され、その圧電素子の周波数調整等に使用される(例えば、特許文献1)。
【0003】
図11に示すグリッド120は平面状であるが、イオンビームの収束性を高めてハイレート化を目的とするためにグリッド120を湾曲させた構成が知られている。例えば、特許文献2には、本体(イオン源5)側に窪むように湾曲されたグリッド(電極8)が開示され、特許文献3にも本体(符号5)側に窪むように湾曲されたグリッド(複数の板7)が開示されている。これらのグリッドをハーフパイプ型グリッドと称す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4048254号
【特許文献2】特開平4−6272号公報
【特許文献3】実開昭63−18746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のハーフパイプ型グリッドを用いるイオンガンには以下の問題点があった。
第1に、特許文献2及び3とも、グリッド製造時に平面グリッド板が一方向に湾曲加工され、その後本体に取り付けられるが、この湾曲加工の精度を確保するのが難しく、その湾曲度に加工ばらつきが発生し易い。イオンガンにおいてグリッドは消耗品であり、比較的頻繁に交換されるものであるが、この湾曲加工ばらつきのために、グリッド交換の度に出射イオンビームの特性が変化してしまうという問題があった。従って、従来のハーフパイプ型グリッドではこの湾曲加工ばらつきのために出射イオンビームの再現性が悪いという問題があった。
【0006】
第2に、従来のイオンガンの構成では(特許文献2及び3のハーフパイプ型か特許文献1のフラット型かにかかわらず)、加速グリッドの形状安定性が悪く、イオンビーム出射開始後に出力特性が安定するまでに時間を要していた。即ち、イオンビーム出射開始後に加速グリッドの温度が上昇すると、熱膨張による変形によって他の部材に対するグリッド孔の位置が変化してしまうが、この変化が安定するまではイオンガンの使用開始(例えば、圧電素子の周波数調整の作業開始)を待たなくてはならなかった(例えば、特許文献1の場合で15分程度)。従って、形状安定性の低さから、このイオンビーム出射後安定するまでの間の電力や待ち時間が無駄となるという問題があった。
【0007】
第3に、上述したようにグリッドは消耗品であるので、イオンガンのユーザにおいて多数のストックを保管しておく必要がある。しかし、特許文献2及び3のような湾曲したグリッドは専有する体積が大きいために、さらに、その湾曲状態を保管時に損なわないためにも多数のグリッドを積載しておくことは好ましくないために広い保管収納場所を要していた。従って、従来のハーフパイプ型グリッドは保管性が悪いという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、グリッド交換時の出力特性の再現性、温度変化に伴う形状安定性、及び保管性に優れるハーフパイプ型グリッド、並びにそれを備えるイオンガンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0010】
本発明の第2の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、加速電極のグリッドに対向する端面が山折状の湾曲面を有し、グリッドが、加速電極とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0011】
本発明の第3の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体に固定する固定具を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0012】
本発明の第4の側面は、グリッド孔をグリッドの一端から対向する他端まで連続して形成し、前記連続形成したグリッド孔に垂直な方向にグリッドを湾曲させるイオンガンである。また、第4の側面のイオンガングリッドはイオンビーム有効エリアのみを開口させる遮蔽板と組み合わせて用いることが望ましい。グリッドは行方向に湾曲させるとよい。
【0013】
上記第1から第4の側面のイオンガンは、マトリクス状に配列した圧電素子の列方向に平行にグリッドのグリッド孔を配置し、行方向に搬送する圧電素子に列単位でイオンビームを照射して、圧電素子の共振周波数をイオンエッチングすることができる。
【0014】
上記第1から第4の側面で使用するグリッドは、材質がモリブデンであり、厚みが200μm〜20μmが好適であり、150μm〜50μmであればより好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例を示す鳥瞰図である。
【図2A】本発明の第1の実施例を示す側面図である。
【図2B】本発明の第1の実施例を示す上面図である。
【図3】本発明の第1の実施例で使用するグリッドを示す図である。
【図4A】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図4B】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図4C】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図5】本発明の第3の実施例を示す図である。
【図6A】本発明の第4の実施例を示す側面図である。
【図6B】本発明の第4の実施例を示す正面図である。
【図6C】本発明の第4の実施例を示す上面図である。
【図7】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図8】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図9】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図10A】本発明の第4の実施例を示す平面図である。
【図10B】本発明の第4の実施例を示す断面図である。
【図10C】従来のイオンガンを示す断面図である。
【図11】従来のイオンガンの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施例1.
図1並びに図2A及び2Bに本発明の第1の実施例のイオンガン1を示す。図1はイオンガン1の鳥瞰図、図2Aは側面図、図2Bは上面図である。なお、各図面及び以降の実施例に示す図面は縮尺通りではなく、説明用に強調した態様で示してある。
イオンガン1は内部にプラズマを発生させる本体10、本体10の内部からプラズマを引き出すためのグリッド20、及びグリッド20を本体10との間に挟みこむ枠状(環状)の加速電極30を備え、本体10のグリッド20に対向する端面が谷折状の湾曲面を有している。加速グリッド22は加速電極30を介して電源50から電圧を印加され、その多数のグリッド孔によってプラズマからイオンを引き出す。これによりイオンビーム(矢印)が出射される。このイオンビームは圧電素子(不図示)等に照射され、その圧電素子の周波数調整等に使用されるが用途はこれに限られない。
【0017】
図2Aに示すように、本体10のグリッド20側の端面11は谷折状に一方向に湾曲し、加速電極30のグリッド20側の端面31は、端面11と同じ曲率で山折状に一方向に湾曲している。即ち、端面11と端面31はグリッド20を挟んで同一の一方向に湾曲している。なお、図においては、説明の便宜上、端面11と遮蔽グリッド21、及び加速グリッド22と端面31に隙間をあけて図示してあるが、実際にはこれらは密着配置されている。遮蔽グリッド21及び本体10は遮蔽電位に、加速グリッド22及び加速電極30は加速電位に維持され、遮蔽グリッド21と加速グリッド22は所定間隔離れて配置される。
【0018】
図2Bに示すように、加速電極30は加速グリッド22の中央部(グリッド孔22a)を露出させ、その周縁部でグリッド20を固定するように枠状(環状)の形状を有する。
また、加速電極30がイオンビームを囲む構成となっているため、加速電極30が静電レンズとして作用し、イオンビームの収束性を高めることができる。
【0019】
グリッド20は複数のグリッドからなり、本体10側のものを遮蔽グリッド21、加速電極30側のものを加速グリッド22という。ここでは、説明の簡明化のために2枚のグリッド21及び22を示すが、さらに多くのグリッドが重ねられてもよい。いずれの場合でも、これらのグリッドをまとめてグリッド20という。
【0020】
図3にグリッド20のうちの1枚のグリッド(装着前)を示す。図2Aではグリッド20は一方向に湾曲しているのに対し、図3に示すように装着前のグリッド20は平面をなしている。即ち、グリッド20は製造時は平面であるが、本体10に装着される際に、端面11に従って一方向に折り曲げられ、加速電極30によって押さえつけられる。従って、グリッド20は各特許文献に示したグリッドと同じ材質(例えば、モリブデン)であってもそれらよりも薄い平板であり、例えば、厚みが200μm〜20μmが好ましく、より好適には150μm〜50μmが望ましい。なお、装着前の平面グリッドとは、実質的に平らなグリッドを意味するものであり、グリッドのごく一部が平らでなかったり、全体的にわずかに曲がっていたりするものも含まれる。
【0021】
上記構成において、グリッド20を平板グリッドとして製造しておき、本体10への装着時(例えば、交換時)に本体10の端面11に合わせてグリッド20を湾曲させることにより、グリッド20の湾曲加工のばらつきという再現性低下要因を排除できる。従って、消耗品であるグリッドを交換しても、その前後で出射イオンビームの再現性を確保することができる。
【0022】
また、上記構成において、加速グリッド22が加速電極30に当接されているので、イオンビーム出射開始後の熱膨張によるグリッド20の変形は加速電極30の端面31に沿う方向のみの変形となる。同様に、遮蔽グリッド21は本体10に当接されているので、イオンビーム出射開始後の熱膨張によるグリッド21の変形は本体10の端面11に沿う方向のみの変形となる。従って、温度上昇に対する形状安定性に優れ、イオンビーム出射開始後に出力が安定するまでに要する時間が従来のものに比べて短縮される。具体的には、同じ出力パワーであっても、出力安定に要する時間は特許文献1の例では15分程度であるのに対し、本発明においては3分程度となることが確認された。
【0023】
またさらに、本発明のグリッド20は湾曲板ではなく平板として製造及び保管されるので、装着前のグリッド20の扱いが容易となる。特に、平板のグリッド20は保管時に積載することが可能であるから、保管場所が省スペース化され、保管性に優れる。
【0024】
実施例2.
図4A及び4Bは本発明の第2の実施例のイオンガン2を製作工程に従って示すものである。本実施例でも実施例1と同様に、使用するグリッド20は全て平板グリッドであるが、後述する各固定具等を通すための穴の位置は異なる。
【0025】
図4Aにおいて、遮蔽グリッド21が本体10の端面11に固定具(例えばネジ)41によって固定され、加速グリッド22が加速電極30の端面31に固定具(例えばネジ)42によって固定される。ここで、本体10の構成は基本的には実施例1のものと同様であるが、電極サポート12が本体10の一部に設けられている点、及びネジ穴の構成が異なる。また、加速電極30も基本的には実施例1のものと同様であるが、電極サポート12のための凹部32が設けられている点、及びネジ穴の構成が異なる。電極サポート12は本体10とは電気的に絶縁され、電源50から電圧印加される。同図では省略してあるが、電極サポート12は本体10の周縁に複数本配置され、加速電極30を上端で支持する。電極サポート12により、遮蔽グリッド21と加速グリッド22はグリッド間距離を保ちながら、電位差をもって配置される。グリッド間距離は電極サポート12の高さ及び凹部32の形状により調整すればよい。
【0026】
図4Bにおいて、本体10及び遮蔽グリッド21と加速電極30及び加速グリッド22とが、電極サポート12を凹部32に収斂させるようにして取り付けられ、これらが固定具(例えばネジ)43で固定される。なお、同図では固定具41及び42は図の明瞭化のために省略してある。図4Cに示すように、固定具42を用いてグリッド20を加速電極30に直接固定し、加速電極30と本体10を固定具43で固定してもよい。遮蔽グリッド21と加速グリッド22の間には絶縁材料からなるスペーサーを配置する。
【0027】
実施例3.
実施例3では実施例1の変形例として加速電極30を用いない構成を示す。
図5に本実施例のイオンガン3の側面図を示す。図示するように、グリッド20が本体10に固定具44を用いて直接固定される。固定具44を適切に配置することにより、加速電極を用いなくてもグリッド20を本体10の湾曲に合わせて固定することができる。
この場合、加速グリッド22に電源50から電圧を直接印加する構成となる。
【0028】
上記構成では、加速グリッドによる効果(即ち、優れた形状安定性、静電レンズ作用等)が得られ難くなるものの、実施例1及び2と同様に、消耗品であるグリッドを交換してもその前後で出射イオンビームの再現性が確保され、グリッドの保管性にも優れる。
【0029】
実施例4.
図6乃至図9に本発明の第4の実施例のイオンガン4を示す。図6Aは側面図、図6Bは正面図、図6Cは上面図である。
イオンガン4は、第1の実施例に示すイオンガンであって、本体60、グリッド70、及び枠状の加速電極80が矩形であることを特徴とする。形状及びグリッド70を除き、その他の構成は第1の実施例に同じであるため説明を省略する。また、イオンガン4は第2の実施例に示すグリッドの固定手段を用いてもよいし、第3の実施例に示すように加速電極80を省略してもよい。矩形のイオンガンは、直線状に配列した複数の圧電素子を同時に周波数調整する場合に有効であるが、用途はこれに限られない。
【0030】
図6Aに示すように、本体60のグリッド70側の端面61は谷折状に一方向(同図では矩形の短辺方向)に湾曲し、加速電極80のグリッド70側の端面81は、端面61と同じ曲率で山折状に端面61と同じ方向に湾曲している。また、遮蔽グリッド71及び加速グリッド72には、矩形の一辺に沿って複数のグリッド孔71a、72aが形成される。同図においてグリッド孔71a、72aは、矩形の短辺方向中央部分に、長辺に沿って複数形成され、長辺に平行な帯状のイオンビーム照射エリアを得る。実施例ではグリッド全体でなく短辺方向中央部にのみ孔を形成するため、強度の大きい短辺方向両端部を本体及び加速電極に密着させることができ、グリッド板を本体及び加速電極の曲率を合わせやすい。また、面積の大きい短辺方向両端部が本体及び加速電極に密着するため、熱伝達が大きく、熱膨張による変形が生じ難い。
【0031】
図7は加速電極80と加速グリッド72の鳥瞰図を示す。湾曲形成した本体60及び加速電極80の周縁部によりグリッド70を固定するため、再現性及び形状安定性に優れること、及びイオンビームを囲む加速電極80が静電レンズとして作用してイオンビームの収束性を高める効果があることは第1の実施例に同じである。
【0032】
図8はグリッド70の他の実施例を示す鳥瞰図である。加速グリッド73はグリッド孔をグリッドの一端から対向する他端まで連続して形成し、グリッドの一端及び他端に平行な方向にグリッドを湾曲させることを特徴とする。図7ではグリッド孔の有る所と無い所で板の強度が異なるため、均一な曲率とならない場合があるが、図8ではグリッド孔をグリッド板の縁まで設け、遮蔽板75で覆うことによって、板の強度が等しくなり均一な曲率が得やすい。イオンビームの有効エリアは遮蔽板75の開口形状により決定されるため、開口は所望のエリアのみを露出するよう形成すればよい。遮蔽板75の開口は加速電極80の開口より小さく、遮蔽板75の開口から露出するグリッド孔からのみイオンが引出される。外縁に孔を形成したグリッド板と遮蔽板とをセットで用いることにより、均一な曲率を得ながらもイオンビームが有効エリア外から引き出されることを抑止する。
【0033】
遮蔽板75は加速グリッド73の本体60側に取付けるが、加速グリッド73の加速電極80側に加速グリッドに密着させて取付けてもよい。また、遮蔽板75は別部材とせず、イオンガン本体60と一体構造としてもよい。グリッド上いずれの位置においてもグリッド湾曲方向中央部に開口が形成されるため、グリッドの曲率を湾曲方向に垂直な方向の各位置において揃えることができる。これにより図7に示す加速グリッド72に比べて、加速グリッド73は板厚を厚くすることができるという利点がある。グリッドの板厚が厚いと、グリッドの長寿命化を図ることができる。また、実施例では方形のグリッドを用いるが、グリッド板の外縁まで孔を形成することは円形、楕円形その他の形状のグリッドであっても有効である。特に円形または楕円形のグリッド板であって中央部にのみ孔が形成される場合、端部における曲げ加工に強い力が必要になるが、端部に孔を形成することにより端部と中央部の差をなくし、均一な曲率を得ることができる。いずれの形状であっても、グリッドの一端から対向する他端まで連続してグリッド孔を形成し、連続形成したグリッド孔に垂直な方向にグリッドを湾曲させればよい。
【0034】
図9はグリッド70の他の実施例を示す鳥瞰図である。加速グリッド74は、遮蔽板75により遮蔽される部分をスリット状に形成する。均一な曲率を得ることができる効果は図8に同じであるが、イオン引出し孔とスリットを分けることにより、イオンビーム有効エリアと遮蔽領域との境界が明確となり区別し易い。
【0035】
図6に示す矩形のイオンガン4を用いれば、例えば図10に示すようなマトリクス状に配列した行方向(同図矢印方向)搬送の圧電素子200を列単位で順次周波数調整することができる。図10Aは平面図、図10Bは断面図を示す。イオンガン4は、マトリクス状の圧電素子200に対して、長辺が列方向に平行になるように配置する。イオンガン4のグリッド70は短辺方向に湾曲させる。グリッド孔群の長辺方向の幅及び短辺方向の幅(図8及び図9に示すグリッドを用いる場合は、遮蔽板75開口の縦方向の幅及び横方向の幅)は、同時調整する圧電素子200の行列数に合わせて調整すればよい。図10では圧電素子1列全てに均一なイオンビームを照射するものとする。
【0036】
図10Cに示すようにイオンガンのグリッドが平面である場合、照射対象であるワーク(圧電素子200)とイオンガンとの距離d1が大きくなるほどイオンビームが発散してエッチングレートが低下するため、エッチングレートを確保するためには圧電素子200とイオンガン100との距離d1を小さくする必要がある。しかし、距離が小さいと、マスク202やシャッタ201のスパッタ物がイオンガン及びその周辺に堆積、剥離し、スパッタ物によるグリッド間の短絡等の問題が生じる。
【0037】
これに対して、本発明のイオンガンはグリッドを湾曲させてイオンビームを収束させるために、圧電素子200とイオンガン4との距離d2を大きくとりながらも同等のレートを得ることができる。距離d2が大きいほど、イオンガン本体へのスパッタ物の堆積率が減少するため、装置の平均故障間隔(MTBF)を長くすることができる。図10A,Bに示す周波数調整装置にイオンガン4を搭載することで、再現性に優れた周波数調整を行うことが可能となる。更に、図8及び図9に示すグリッド70を用いることで、周波数調整精度がより向上する。
【0038】
上記各実施例は本発明の最も好適な形態を示すものであるが、上記は以下のように変更可能である。
(1)上記各実施例では、グリッド20を円板または矩形板としたが、本体10の端面11又は加速電極30の端面31に沿うように一方向に湾曲してそれらに固定できればよく、例えば、楕円、正方形等であってもよい。
(2)また、本発明において加速電極の形態を表現する「枠状」とは、少なくとも外縁と内縁を有し、その外縁又は内縁が円形、楕円、矩形、他の多角形等である形状を含むものとする。
(3)実施例1及び4では加速電極30、80及びグリッド20、70を本体10、60に固定する手段として固定具40、90を用いたが、(各図の通りの上下方向で使用する場合)加速電極30、80自体の重量を大きくし、又はその上部にウェイトを置く等して固定具40を省略することも可能である。
(4)上記実施例1、2及び4では、グリッド20を本体10との間に挟むための部材として加速電極30、80を示したが、その部材は加速電極30、80と同様の形状であれば電極でなくてもよい。なお、この場合、図5の場合と同様に加速グリッド22に電圧を直接印加する構成が必要となる。
(5)上記実施例2では電極サポートを用いてグリッド間距離を保ったが、絶縁材料よりなるスペーサー等を電極間に挿入して固定してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1、2、3、4.イオンガン
10、60.本体
11、61.端面
12.電極サポート
20、70.グリッド
21、71.遮蔽グリッド
22、72〜74.加速グリッド
75.遮蔽板
30、80.加速電極
31、81.端面
32、82.凹部
40〜44、90.固定具
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンガンに関し、特に、プラズマからイオンビームを引き出す加速グリッド及びそれを用いるイオンガンに関する。
【背景技術】
【0002】
図11に従来のイオンガン100の構成を示す。イオンガン100は、内部にプラズマを発生させる本体110、多数のグリッド孔が設けられた遮蔽グリッド121及び加速グリッド122(これらをまとめてグリッド120という)、本体110に取り付けられたサポート112、並びに加速グリッド122をサポート112に固定するネジ140を備える。電源(不図示)から電圧が印加された加速グリッド122が本体110内部のプラズマからイオンを引き出し、これによりイオンビーム(矢印)が出射される。このイオンビームは圧電素子(不図示)等に照射され、その圧電素子の周波数調整等に使用される(例えば、特許文献1)。
【0003】
図11に示すグリッド120は平面状であるが、イオンビームの収束性を高めてハイレート化を目的とするためにグリッド120を湾曲させた構成が知られている。例えば、特許文献2には、本体(イオン源5)側に窪むように湾曲されたグリッド(電極8)が開示され、特許文献3にも本体(符号5)側に窪むように湾曲されたグリッド(複数の板7)が開示されている。これらのグリッドをハーフパイプ型グリッドと称す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4048254号
【特許文献2】特開平4−6272号公報
【特許文献3】実開昭63−18746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のハーフパイプ型グリッドを用いるイオンガンには以下の問題点があった。
第1に、特許文献2及び3とも、グリッド製造時に平面グリッド板が一方向に湾曲加工され、その後本体に取り付けられるが、この湾曲加工の精度を確保するのが難しく、その湾曲度に加工ばらつきが発生し易い。イオンガンにおいてグリッドは消耗品であり、比較的頻繁に交換されるものであるが、この湾曲加工ばらつきのために、グリッド交換の度に出射イオンビームの特性が変化してしまうという問題があった。従って、従来のハーフパイプ型グリッドではこの湾曲加工ばらつきのために出射イオンビームの再現性が悪いという問題があった。
【0006】
第2に、従来のイオンガンの構成では(特許文献2及び3のハーフパイプ型か特許文献1のフラット型かにかかわらず)、加速グリッドの形状安定性が悪く、イオンビーム出射開始後に出力特性が安定するまでに時間を要していた。即ち、イオンビーム出射開始後に加速グリッドの温度が上昇すると、熱膨張による変形によって他の部材に対するグリッド孔の位置が変化してしまうが、この変化が安定するまではイオンガンの使用開始(例えば、圧電素子の周波数調整の作業開始)を待たなくてはならなかった(例えば、特許文献1の場合で15分程度)。従って、形状安定性の低さから、このイオンビーム出射後安定するまでの間の電力や待ち時間が無駄となるという問題があった。
【0007】
第3に、上述したようにグリッドは消耗品であるので、イオンガンのユーザにおいて多数のストックを保管しておく必要がある。しかし、特許文献2及び3のような湾曲したグリッドは専有する体積が大きいために、さらに、その湾曲状態を保管時に損なわないためにも多数のグリッドを積載しておくことは好ましくないために広い保管収納場所を要していた。従って、従来のハーフパイプ型グリッドは保管性が悪いという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、グリッド交換時の出力特性の再現性、温度変化に伴う形状安定性、及び保管性に優れるハーフパイプ型グリッド、並びにそれを備えるイオンガンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0010】
本発明の第2の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体との間に挟みこむ枠状の加速電極を備え、加速電極のグリッドに対向する端面が山折状の湾曲面を有し、グリッドが、加速電極とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0011】
本発明の第3の側面は、イオンガンであって、内部にプラズマを発生させる本体、本体内部からプラズマを引き出すためのグリッド、及びグリッドを本体に固定する固定具を備え、本体のグリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、グリッドが、本体とグリッドとの接面において湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガンである。
【0012】
本発明の第4の側面は、グリッド孔をグリッドの一端から対向する他端まで連続して形成し、前記連続形成したグリッド孔に垂直な方向にグリッドを湾曲させるイオンガンである。また、第4の側面のイオンガングリッドはイオンビーム有効エリアのみを開口させる遮蔽板と組み合わせて用いることが望ましい。グリッドは行方向に湾曲させるとよい。
【0013】
上記第1から第4の側面のイオンガンは、マトリクス状に配列した圧電素子の列方向に平行にグリッドのグリッド孔を配置し、行方向に搬送する圧電素子に列単位でイオンビームを照射して、圧電素子の共振周波数をイオンエッチングすることができる。
【0014】
上記第1から第4の側面で使用するグリッドは、材質がモリブデンであり、厚みが200μm〜20μmが好適であり、150μm〜50μmであればより好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例を示す鳥瞰図である。
【図2A】本発明の第1の実施例を示す側面図である。
【図2B】本発明の第1の実施例を示す上面図である。
【図3】本発明の第1の実施例で使用するグリッドを示す図である。
【図4A】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図4B】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図4C】本発明の第2の実施例を示す側面図である。
【図5】本発明の第3の実施例を示す図である。
【図6A】本発明の第4の実施例を示す側面図である。
【図6B】本発明の第4の実施例を示す正面図である。
【図6C】本発明の第4の実施例を示す上面図である。
【図7】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図8】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図9】本発明の第4の実施例を示す鳥瞰図である。
【図10A】本発明の第4の実施例を示す平面図である。
【図10B】本発明の第4の実施例を示す断面図である。
【図10C】従来のイオンガンを示す断面図である。
【図11】従来のイオンガンの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施例1.
図1並びに図2A及び2Bに本発明の第1の実施例のイオンガン1を示す。図1はイオンガン1の鳥瞰図、図2Aは側面図、図2Bは上面図である。なお、各図面及び以降の実施例に示す図面は縮尺通りではなく、説明用に強調した態様で示してある。
イオンガン1は内部にプラズマを発生させる本体10、本体10の内部からプラズマを引き出すためのグリッド20、及びグリッド20を本体10との間に挟みこむ枠状(環状)の加速電極30を備え、本体10のグリッド20に対向する端面が谷折状の湾曲面を有している。加速グリッド22は加速電極30を介して電源50から電圧を印加され、その多数のグリッド孔によってプラズマからイオンを引き出す。これによりイオンビーム(矢印)が出射される。このイオンビームは圧電素子(不図示)等に照射され、その圧電素子の周波数調整等に使用されるが用途はこれに限られない。
【0017】
図2Aに示すように、本体10のグリッド20側の端面11は谷折状に一方向に湾曲し、加速電極30のグリッド20側の端面31は、端面11と同じ曲率で山折状に一方向に湾曲している。即ち、端面11と端面31はグリッド20を挟んで同一の一方向に湾曲している。なお、図においては、説明の便宜上、端面11と遮蔽グリッド21、及び加速グリッド22と端面31に隙間をあけて図示してあるが、実際にはこれらは密着配置されている。遮蔽グリッド21及び本体10は遮蔽電位に、加速グリッド22及び加速電極30は加速電位に維持され、遮蔽グリッド21と加速グリッド22は所定間隔離れて配置される。
【0018】
図2Bに示すように、加速電極30は加速グリッド22の中央部(グリッド孔22a)を露出させ、その周縁部でグリッド20を固定するように枠状(環状)の形状を有する。
また、加速電極30がイオンビームを囲む構成となっているため、加速電極30が静電レンズとして作用し、イオンビームの収束性を高めることができる。
【0019】
グリッド20は複数のグリッドからなり、本体10側のものを遮蔽グリッド21、加速電極30側のものを加速グリッド22という。ここでは、説明の簡明化のために2枚のグリッド21及び22を示すが、さらに多くのグリッドが重ねられてもよい。いずれの場合でも、これらのグリッドをまとめてグリッド20という。
【0020】
図3にグリッド20のうちの1枚のグリッド(装着前)を示す。図2Aではグリッド20は一方向に湾曲しているのに対し、図3に示すように装着前のグリッド20は平面をなしている。即ち、グリッド20は製造時は平面であるが、本体10に装着される際に、端面11に従って一方向に折り曲げられ、加速電極30によって押さえつけられる。従って、グリッド20は各特許文献に示したグリッドと同じ材質(例えば、モリブデン)であってもそれらよりも薄い平板であり、例えば、厚みが200μm〜20μmが好ましく、より好適には150μm〜50μmが望ましい。なお、装着前の平面グリッドとは、実質的に平らなグリッドを意味するものであり、グリッドのごく一部が平らでなかったり、全体的にわずかに曲がっていたりするものも含まれる。
【0021】
上記構成において、グリッド20を平板グリッドとして製造しておき、本体10への装着時(例えば、交換時)に本体10の端面11に合わせてグリッド20を湾曲させることにより、グリッド20の湾曲加工のばらつきという再現性低下要因を排除できる。従って、消耗品であるグリッドを交換しても、その前後で出射イオンビームの再現性を確保することができる。
【0022】
また、上記構成において、加速グリッド22が加速電極30に当接されているので、イオンビーム出射開始後の熱膨張によるグリッド20の変形は加速電極30の端面31に沿う方向のみの変形となる。同様に、遮蔽グリッド21は本体10に当接されているので、イオンビーム出射開始後の熱膨張によるグリッド21の変形は本体10の端面11に沿う方向のみの変形となる。従って、温度上昇に対する形状安定性に優れ、イオンビーム出射開始後に出力が安定するまでに要する時間が従来のものに比べて短縮される。具体的には、同じ出力パワーであっても、出力安定に要する時間は特許文献1の例では15分程度であるのに対し、本発明においては3分程度となることが確認された。
【0023】
またさらに、本発明のグリッド20は湾曲板ではなく平板として製造及び保管されるので、装着前のグリッド20の扱いが容易となる。特に、平板のグリッド20は保管時に積載することが可能であるから、保管場所が省スペース化され、保管性に優れる。
【0024】
実施例2.
図4A及び4Bは本発明の第2の実施例のイオンガン2を製作工程に従って示すものである。本実施例でも実施例1と同様に、使用するグリッド20は全て平板グリッドであるが、後述する各固定具等を通すための穴の位置は異なる。
【0025】
図4Aにおいて、遮蔽グリッド21が本体10の端面11に固定具(例えばネジ)41によって固定され、加速グリッド22が加速電極30の端面31に固定具(例えばネジ)42によって固定される。ここで、本体10の構成は基本的には実施例1のものと同様であるが、電極サポート12が本体10の一部に設けられている点、及びネジ穴の構成が異なる。また、加速電極30も基本的には実施例1のものと同様であるが、電極サポート12のための凹部32が設けられている点、及びネジ穴の構成が異なる。電極サポート12は本体10とは電気的に絶縁され、電源50から電圧印加される。同図では省略してあるが、電極サポート12は本体10の周縁に複数本配置され、加速電極30を上端で支持する。電極サポート12により、遮蔽グリッド21と加速グリッド22はグリッド間距離を保ちながら、電位差をもって配置される。グリッド間距離は電極サポート12の高さ及び凹部32の形状により調整すればよい。
【0026】
図4Bにおいて、本体10及び遮蔽グリッド21と加速電極30及び加速グリッド22とが、電極サポート12を凹部32に収斂させるようにして取り付けられ、これらが固定具(例えばネジ)43で固定される。なお、同図では固定具41及び42は図の明瞭化のために省略してある。図4Cに示すように、固定具42を用いてグリッド20を加速電極30に直接固定し、加速電極30と本体10を固定具43で固定してもよい。遮蔽グリッド21と加速グリッド22の間には絶縁材料からなるスペーサーを配置する。
【0027】
実施例3.
実施例3では実施例1の変形例として加速電極30を用いない構成を示す。
図5に本実施例のイオンガン3の側面図を示す。図示するように、グリッド20が本体10に固定具44を用いて直接固定される。固定具44を適切に配置することにより、加速電極を用いなくてもグリッド20を本体10の湾曲に合わせて固定することができる。
この場合、加速グリッド22に電源50から電圧を直接印加する構成となる。
【0028】
上記構成では、加速グリッドによる効果(即ち、優れた形状安定性、静電レンズ作用等)が得られ難くなるものの、実施例1及び2と同様に、消耗品であるグリッドを交換してもその前後で出射イオンビームの再現性が確保され、グリッドの保管性にも優れる。
【0029】
実施例4.
図6乃至図9に本発明の第4の実施例のイオンガン4を示す。図6Aは側面図、図6Bは正面図、図6Cは上面図である。
イオンガン4は、第1の実施例に示すイオンガンであって、本体60、グリッド70、及び枠状の加速電極80が矩形であることを特徴とする。形状及びグリッド70を除き、その他の構成は第1の実施例に同じであるため説明を省略する。また、イオンガン4は第2の実施例に示すグリッドの固定手段を用いてもよいし、第3の実施例に示すように加速電極80を省略してもよい。矩形のイオンガンは、直線状に配列した複数の圧電素子を同時に周波数調整する場合に有効であるが、用途はこれに限られない。
【0030】
図6Aに示すように、本体60のグリッド70側の端面61は谷折状に一方向(同図では矩形の短辺方向)に湾曲し、加速電極80のグリッド70側の端面81は、端面61と同じ曲率で山折状に端面61と同じ方向に湾曲している。また、遮蔽グリッド71及び加速グリッド72には、矩形の一辺に沿って複数のグリッド孔71a、72aが形成される。同図においてグリッド孔71a、72aは、矩形の短辺方向中央部分に、長辺に沿って複数形成され、長辺に平行な帯状のイオンビーム照射エリアを得る。実施例ではグリッド全体でなく短辺方向中央部にのみ孔を形成するため、強度の大きい短辺方向両端部を本体及び加速電極に密着させることができ、グリッド板を本体及び加速電極の曲率を合わせやすい。また、面積の大きい短辺方向両端部が本体及び加速電極に密着するため、熱伝達が大きく、熱膨張による変形が生じ難い。
【0031】
図7は加速電極80と加速グリッド72の鳥瞰図を示す。湾曲形成した本体60及び加速電極80の周縁部によりグリッド70を固定するため、再現性及び形状安定性に優れること、及びイオンビームを囲む加速電極80が静電レンズとして作用してイオンビームの収束性を高める効果があることは第1の実施例に同じである。
【0032】
図8はグリッド70の他の実施例を示す鳥瞰図である。加速グリッド73はグリッド孔をグリッドの一端から対向する他端まで連続して形成し、グリッドの一端及び他端に平行な方向にグリッドを湾曲させることを特徴とする。図7ではグリッド孔の有る所と無い所で板の強度が異なるため、均一な曲率とならない場合があるが、図8ではグリッド孔をグリッド板の縁まで設け、遮蔽板75で覆うことによって、板の強度が等しくなり均一な曲率が得やすい。イオンビームの有効エリアは遮蔽板75の開口形状により決定されるため、開口は所望のエリアのみを露出するよう形成すればよい。遮蔽板75の開口は加速電極80の開口より小さく、遮蔽板75の開口から露出するグリッド孔からのみイオンが引出される。外縁に孔を形成したグリッド板と遮蔽板とをセットで用いることにより、均一な曲率を得ながらもイオンビームが有効エリア外から引き出されることを抑止する。
【0033】
遮蔽板75は加速グリッド73の本体60側に取付けるが、加速グリッド73の加速電極80側に加速グリッドに密着させて取付けてもよい。また、遮蔽板75は別部材とせず、イオンガン本体60と一体構造としてもよい。グリッド上いずれの位置においてもグリッド湾曲方向中央部に開口が形成されるため、グリッドの曲率を湾曲方向に垂直な方向の各位置において揃えることができる。これにより図7に示す加速グリッド72に比べて、加速グリッド73は板厚を厚くすることができるという利点がある。グリッドの板厚が厚いと、グリッドの長寿命化を図ることができる。また、実施例では方形のグリッドを用いるが、グリッド板の外縁まで孔を形成することは円形、楕円形その他の形状のグリッドであっても有効である。特に円形または楕円形のグリッド板であって中央部にのみ孔が形成される場合、端部における曲げ加工に強い力が必要になるが、端部に孔を形成することにより端部と中央部の差をなくし、均一な曲率を得ることができる。いずれの形状であっても、グリッドの一端から対向する他端まで連続してグリッド孔を形成し、連続形成したグリッド孔に垂直な方向にグリッドを湾曲させればよい。
【0034】
図9はグリッド70の他の実施例を示す鳥瞰図である。加速グリッド74は、遮蔽板75により遮蔽される部分をスリット状に形成する。均一な曲率を得ることができる効果は図8に同じであるが、イオン引出し孔とスリットを分けることにより、イオンビーム有効エリアと遮蔽領域との境界が明確となり区別し易い。
【0035】
図6に示す矩形のイオンガン4を用いれば、例えば図10に示すようなマトリクス状に配列した行方向(同図矢印方向)搬送の圧電素子200を列単位で順次周波数調整することができる。図10Aは平面図、図10Bは断面図を示す。イオンガン4は、マトリクス状の圧電素子200に対して、長辺が列方向に平行になるように配置する。イオンガン4のグリッド70は短辺方向に湾曲させる。グリッド孔群の長辺方向の幅及び短辺方向の幅(図8及び図9に示すグリッドを用いる場合は、遮蔽板75開口の縦方向の幅及び横方向の幅)は、同時調整する圧電素子200の行列数に合わせて調整すればよい。図10では圧電素子1列全てに均一なイオンビームを照射するものとする。
【0036】
図10Cに示すようにイオンガンのグリッドが平面である場合、照射対象であるワーク(圧電素子200)とイオンガンとの距離d1が大きくなるほどイオンビームが発散してエッチングレートが低下するため、エッチングレートを確保するためには圧電素子200とイオンガン100との距離d1を小さくする必要がある。しかし、距離が小さいと、マスク202やシャッタ201のスパッタ物がイオンガン及びその周辺に堆積、剥離し、スパッタ物によるグリッド間の短絡等の問題が生じる。
【0037】
これに対して、本発明のイオンガンはグリッドを湾曲させてイオンビームを収束させるために、圧電素子200とイオンガン4との距離d2を大きくとりながらも同等のレートを得ることができる。距離d2が大きいほど、イオンガン本体へのスパッタ物の堆積率が減少するため、装置の平均故障間隔(MTBF)を長くすることができる。図10A,Bに示す周波数調整装置にイオンガン4を搭載することで、再現性に優れた周波数調整を行うことが可能となる。更に、図8及び図9に示すグリッド70を用いることで、周波数調整精度がより向上する。
【0038】
上記各実施例は本発明の最も好適な形態を示すものであるが、上記は以下のように変更可能である。
(1)上記各実施例では、グリッド20を円板または矩形板としたが、本体10の端面11又は加速電極30の端面31に沿うように一方向に湾曲してそれらに固定できればよく、例えば、楕円、正方形等であってもよい。
(2)また、本発明において加速電極の形態を表現する「枠状」とは、少なくとも外縁と内縁を有し、その外縁又は内縁が円形、楕円、矩形、他の多角形等である形状を含むものとする。
(3)実施例1及び4では加速電極30、80及びグリッド20、70を本体10、60に固定する手段として固定具40、90を用いたが、(各図の通りの上下方向で使用する場合)加速電極30、80自体の重量を大きくし、又はその上部にウェイトを置く等して固定具40を省略することも可能である。
(4)上記実施例1、2及び4では、グリッド20を本体10との間に挟むための部材として加速電極30、80を示したが、その部材は加速電極30、80と同様の形状であれば電極でなくてもよい。なお、この場合、図5の場合と同様に加速グリッド22に電圧を直接印加する構成が必要となる。
(5)上記実施例2では電極サポートを用いてグリッド間距離を保ったが、絶縁材料よりなるスペーサー等を電極間に挿入して固定してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1、2、3、4.イオンガン
10、60.本体
11、61.端面
12.電極サポート
20、70.グリッド
21、71.遮蔽グリッド
22、72〜74.加速グリッド
75.遮蔽板
30、80.加速電極
31、81.端面
32、82.凹部
40〜44、90.固定具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体との間に挟みこむ枠状の加速電極
を備え、
該本体の該グリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該本体と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項2】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体との間に挟みこむ枠状の加速電極
を備え、
該加速電極の該グリッドに対向する端面が山折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該加速電極と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項3】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体に固定する固定具
を備え、
該本体の該グリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該本体と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項4】
請求項1から3いずれか一項に記載のイオンガンであって、
グリッド孔が該グリッドの一端から対向する他端まで連続して形成され、
前記連続形成したグリッド孔に垂直な方向に該グリッドが湾曲されたイオンガン。
【請求項5】
請求項4に記載のイオンガンであって、イオンビーム有効エリアのみを開口させる遮蔽板が該グリッドに取付けられたイオンガン。
【請求項6】
請求項1から5いずれか一項に記載のイオンガンであって、該グリッドが方形に形成されたイオンガン。
【請求項7】
請求項1から5いずれか一項に記載のイオンガンであって、
マトリクス状に配列した圧電素子の列方向に平行に該グリッドのグリッド孔が配置され、
行方向に搬送する該圧電素子に列単位でイオンビームを照射して、該圧電素子の共振周波数をイオンエッチングするように構成されたイオンガン。
【請求項8】
請求項7に記載のイオンガンであって、該グリッドが前記行方向に湾曲されたイオンガン。
【請求項9】
請求項1から8いずれか一項に記載のイオンガンで使用されるグリッドであって、モリブデン(材質)からなり、厚さが200μm〜20μmであるグリッド。
【請求項10】
請求項9のグリッドにおいて、厚さが150μm〜50μmであるグリッド。
【請求項1】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体との間に挟みこむ枠状の加速電極
を備え、
該本体の該グリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該本体と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項2】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体との間に挟みこむ枠状の加速電極
を備え、
該加速電極の該グリッドに対向する端面が山折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該加速電極と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項3】
内部にプラズマを発生させる本体及び該本体内部からプラズマを引き出すためのグリッドを備えるイオンガンであって、
該グリッドを該本体に固定する固定具
を備え、
該本体の該グリッドに対向する端面が谷折状の湾曲面を有し、
該グリッドが、該本体と該グリッドとの接面において該湾曲面に一致する曲面をなすように装着される平板グリッドであるイオンガン。
【請求項4】
請求項1から3いずれか一項に記載のイオンガンであって、
グリッド孔が該グリッドの一端から対向する他端まで連続して形成され、
前記連続形成したグリッド孔に垂直な方向に該グリッドが湾曲されたイオンガン。
【請求項5】
請求項4に記載のイオンガンであって、イオンビーム有効エリアのみを開口させる遮蔽板が該グリッドに取付けられたイオンガン。
【請求項6】
請求項1から5いずれか一項に記載のイオンガンであって、該グリッドが方形に形成されたイオンガン。
【請求項7】
請求項1から5いずれか一項に記載のイオンガンであって、
マトリクス状に配列した圧電素子の列方向に平行に該グリッドのグリッド孔が配置され、
行方向に搬送する該圧電素子に列単位でイオンビームを照射して、該圧電素子の共振周波数をイオンエッチングするように構成されたイオンガン。
【請求項8】
請求項7に記載のイオンガンであって、該グリッドが前記行方向に湾曲されたイオンガン。
【請求項9】
請求項1から8いずれか一項に記載のイオンガンで使用されるグリッドであって、モリブデン(材質)からなり、厚さが200μm〜20μmであるグリッド。
【請求項10】
請求項9のグリッドにおいて、厚さが150μm〜50μmであるグリッド。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【公開番号】特開2011−82152(P2011−82152A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200874(P2010−200874)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】
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