説明

イオンガン

【課題】複数のイオンビーム引出し孔が整列されたイオンガンにおいて、イオンビーム電流密度を均一にする。
【解決手段】カソード(10)及びアノード(20)からなるプラズマ生成手段、並びにプラズマ生成手段によって生成されたプラズマからイオンビームを引き出すグリッド(30)を備えたイオンガンにおいて、カソードが、一対のフィラメント電極(13)間に架設されたフィラメント(12)からなり、グリッドが、フィラメントに平行に配列された複数のイオンビーム引出し孔(31)を有し、フィラメントの両端部(12a)を含む単位空間当たりの発熱量がフィラメントの中央部(12b)を含む単位空間当たりの発熱量のよりも大きくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンガンに関し、特に、イオンガンのカソードとなるフィラメントの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンガンは一般に圧電素子の周波数調整装置等に使用され、その原理として、イオンガン内部にプラズマを生成し、そのプラズマからイオンを引き出して加速し、それによってイオンビームが形成される。
特許文献1には、複数のイオンビーム引出し孔が配置され、対応する電流密度ピークを持つイオンビームを出射するイオンガンが開示されている。
【0003】
特許文献2には、複数のフィラメントを長手方向に配置する構成が開示されている。この構成によると、各フィラメントの発熱量が同じであれば、熱陰極であるカソードの熱分布が均一となり、出射されるイオンビームの電流密度も均一化されることが期待できる。
【特許文献1】特開2006−100205号公報
【特許文献2】特開2007−311118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2のような構成では複数の電源を複数のフィラメントに応じて設置しなければならず、イオンガンの構成が複雑化・大型化するとともに、高コストなものとなってしまうという問題があった。
そこで、上記のような、複数のイオンビーム引出し孔が整列されたイオンガンにおいて、イオンビーム電流密度が不均一となってしまう問題(特に、端部側の電流密度が小さくなってしまう)問題を簡素かつ安価な構成により解決することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面は、カソード(10)及びアノード(20)からなるプラズマ生成手段、並びにプラズマ生成手段によって生成されたプラズマからイオンビームを引き出すグリッド(30)を備えたイオンガンであって、カソードが、一対のフィラメント電極(13)間に架設されたフィラメント(12)からなり、グリッドが、フィラメントに平行に配列された複数のイオンビーム引出し孔(31)を有し、フィラメントの両端部(12a)を含む単位空間当たりの発熱量がフィラメントの中央部(12b)を含む単位空間当たりの発熱量のよりも大きいイオンガンである。
【0006】
ここで、フィラメントの両端部がコイル状に巻回される構成としてもよいし、両端部が屈曲される構成としてもよい。
【0007】
本発明の第2の側面は、カソード(10)及びアノード(20)からなるプラズマ生成手段、並びにプラズマ生成手段によって生成されたプラズマからイオンビームを引き出すグリッド(30)を備えたイオンガンであって、カソードが、一対のフィラメント電極間に架設されたフィラメント(12)からなり、グリッドが、フィラメントに平行に配列された複数のイオンビーム引出し孔(31)を有し、フィラメントの中央部に対して両端側が密に巻回されたイオンガンである。
【発明の効果】
【0008】
複数のイオンビーム引出し孔が整列されたイオンガンにおいて、イオンビーム端部側の電流密度が減少してしまうという問題を簡素かつ安価な構成により解決し、イオンビームの電流密度を均一化することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1のイオンガン100は、一対のフィラメント電極13の間に架設されたフィラメント11(カソード10)、フィラメント11に平行に対向配置されたアノード20、複数のイオンビーム引出し孔31を有するグリッド30、並びにカソード10及びアノード20を内部に密閉するとともに複数のイオンビーム引出し孔31を露出させる本体40を備える。カソード10とアノード20がプラズマ生成手段を構成し、それぞれの電源(不図示)に接続されている。また、本体40は放電ガスを導入するためのガス導入口41、及びカソード10とアノード20間の不要な放電を防止する遮蔽板42を備える。
【0010】
図2A及び2Bに示すように、グリッド30の複数のイオンビーム引出し孔31は環状のアノード20によって画定される領域内部にフィラメント11と同一方向に整列されている。
【0011】
イオンガンの動作として、まず、ガス導入口41からアルゴン等の放電ガスが本体40の内部に導入される。カソード10に負電圧、アノード20に正電圧がそれぞれ印加され、その電位差によって放電が行なわれてプラズマが生成される。グリッド30に電圧が印加されると、複数のイオンビーム引出し孔31によってプラズマからイオンが引き出され加速され、イオンビームが形成される。
【0012】
ここで、アノード20について補足する。図9(a)〜(d)はアノードの形状(いずれも上面図)のバリエーションを示すものである。図9(a)は図2に示した環状タイプのものであるが、他にも(b)のように長手方向に分割したもの、(c)のようにコの字形のもの、(d)のように幅方向に分割したもの等がある。また、方形に限らず楕円形でもよい。なお、アノード20を設けずに、本体4自体をアノードとしてもよい。
【0013】
また、複数のイオンビーム引出し孔31について補足する。図10(a)〜(e)は複数のイオンビーム引出し孔31のバリエーションを示すものである。このように、図2(即ち、図10(d))に示すものの他に、イオンビーム31は様々な形態をとり得る。本明細書及び特許請求の範囲で言う「複数のイオンビーム引出し孔」とは上記に例示した全ての態様及びその類似の態様を含む。
【0014】
ところで、図1のようなイオンガンでも実用に耐えるものではあるが、熱陰極であるフィラメント11の端部の温度がフィラメント電極13の放熱により低下し、これによって端部側のイオンビーム引出し孔31から出射されるイオンビームの電流密度が減少してしまう場合がある。
【0015】
図3はこの構成における、グリッド面から25mmの位置、即ち、処理基板が配置される位置におけるイオンビームの電流密度を示すものである。図示するように、各ピークは各イオンビーム引出し孔31に対応し、中心付近の電流密度ピークに対して端部側の電流密度ピークがやや減少している。このように、図1の構成にはイオンビーム電流密度が不均一なものとなってしまう場合があった。
【0016】
そこで、図4Aにさらに改良した本発明のイオンガン200を示す。イオンガン200におけるアノード20、グリッド30及び本体40の構成は前述した図1、図2、図9及び図10と同様であるので同一の符号を付しその説明を省略する。
【0017】
図4Aにおいて、熱陰極であるカソード10は、一対のフィラメント電極13の間に架設されたフィラメント12からなる。なお、図4Aにおいても、カソード10とアノード20がプラズマ生成手段を構成し、それぞれの電源(不図示)に接続されている。
説明の便宜上、図4Bに示すように、フィラメント12は端部12aと中央部12bからなるものとする。端部12aはコイル状に巻回され、従来のフィラメント11に比べて端部での発熱量が大きくなるようにしている。これによって、フィラメント12がフィラメント電極13によって放熱されたとしても端部12aの温度を所定の高温に維持することができる。
【0018】
図5は図4Aのイオンガン200における、グリッド面から25mmの位置、即ち、処理基板が配置される位置におけるイオンビームの電流密度を示すものである。図5においても、電流密度のピークが各イオンビーム引出し孔31に対応している。図3と比較して分かるように、イオンビーム中心付近の電流密度ピークに対する端部側の電流密度ピークの低下が軽減され、イオンビーム電流密度をその長手方向にわたってほぼ均一なものとすることができた。
【0019】
なお、端部12aでの巻数や巻密度を調節することにより、このイオンビーム電流密度の分布を調整することができる。
例えば、図6Aのように、コイル状に巻回されたフィラメント12がその巻回に粗密を有するようにして、より端部側の巻回が密に、より中心部の巻回が疎になるようにしてもよい。また、図6Bのように、フィラメント端部の巻回径がフィラメント中心部の巻回径よりも大きくなるようにしてもよい。また、図6Cのように、コイル状に巻回されたフィラメント12がその巻径に傾斜を有するようにして、より端部側の巻径が大きく、より中心部の巻径が小さくなるようにしてもよい。
【0020】
本発明の核心は、図7に示すように、フィラメントの端部12aを含む単位空間A当たりの発熱量がフィラメントの中央部12bを含む単位空間B当たりの発熱量のよりも大きいことにある。従って、実施形態は図4Bの構成に限られず、以下のような変形例も本発明に含まれる。
【0021】
例えば、図8A及び8Bに示すように、フィラメント端部12aを屈曲させるようにして端部側の発熱量を大きくするようにしてもよい。なお、各図は必ずしも寸法通りではない。
また、フィラメント12の抵抗値プロファイルを傾斜させ、端部側の抵抗値を中心部側の抵抗値よりも高くして端部側の発熱量を大きくするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のイオンガンを示す図である。
【図2A】グリッドの構成を説明する図である。
【図2B】グリッドの構成を説明する図である。
【図3】本発明を説明する図である。
【図4A】本発明のイオンガンを示す図である。
【図4B】本発明のフィラメントを示す図である。
【図5】本発明を説明する図である。
【図6A】本発明のフィラメントの変形例を示す図である。
【図6B】本発明のフィラメントの変形例を示す図である。
【図6C】本発明のフィラメントの変形例を示す図である。
【図7】本発明を説明する図である。
【図8A】本発明のフィラメントの変形例を示す図である。
【図8B】本発明のフィラメントの変形例を示す図である。
【図9】本発明を補足する図である。
【図10】本発明を補足する図である。
【符号の説明】
【0023】
10.カソード
11、12.フィラメント
12a.フィラメント端部
12b.フィラメント中央部
13.フィラメント電極
20.アノード
30.グリッド
31.イオンビーム引出し孔
40.本体
41.ガス導入口
42.遮蔽板
100、200.イオンガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード(10)及びアノード(20)からなるプラズマ生成手段、並びに該プラズマ生成手段によって生成されたプラズマからイオンビームを引き出すグリッド(30)を備えたイオンガンであって、
該カソードが、一対のフィラメント電極間に架設されたフィラメント(12)からなり、該グリッドが、該フィラメントに平行に配列された複数のイオンビーム引出し孔(31)を有し、
該フィラメントの両端部(12a)を含む単位空間当たりの発熱量が該フィラメントの中央部(12b)を含む単位空間当たりの発熱量のよりも大きいイオンガン。
【請求項2】
請求項1記載のイオンガンにおいて、前記フィラメントの両端部がコイル状に巻回されたイオンガン。
【請求項3】
請求項1記載のイオンガンにおいて、前記フィラメントの両端部が屈曲されたイオンガン。
【請求項4】
カソード(10)及びアノード(20)からなるプラズマ生成手段、並びに該プラズマ生成手段によって生成されたプラズマからイオンビームを引き出すグリッド(30)を備えたイオンガンであって、
該カソードが、一対のフィラメント電極間に架設されたフィラメント(12)からなり、該グリッドが、該フィラメントに平行に配列された複数のイオンビーム引出し孔(31)を有し、
該フィラメントの中央部に対して両端側が密に巻回されたイオンガン。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−153095(P2010−153095A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327618(P2008−327618)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】