説明

イオンガン

【課題】複数のフィラメントを有するイオンガンにおいて、イオンビームの電流密度を均一にする。
【解決手段】カソードが長手方向に延在する複数のフィラメントからなり、グリッドが長手方向に延在するイオンビーム引出し孔を有するイオンガンにおいて、イオンビーム引出し孔の周辺に配置された複数の主磁石であって、各々がS極をイオンビーム出射方向に、N極をその逆方向に向けて配置された主磁石、複数の主磁石の端部に長手方向及び幅方向に関して対称配置された少なくとも4個の第1の補助磁石であって、各々がS極を長手方向内向きに、N極をその逆方向に向けて配置された第1の補助磁石、及び複数のフィラメント間の離隔部分に対応する位置に幅方向に対称配置された第2の補助磁石であって、各々がN極をイオンビーム出射方向に、S極をその逆方向に向けて配置された第2の補助磁石を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンガンに関し、特に、イオンガンにおけるイオンビームの引出し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンガンは一般に圧電素子の周波数調整装置等に使用され、その原理として、イオンガン内部にプラズマを生成し、そのプラズマにビーム出射方向の磁場を与えつつプラズマからイオンを引き出して加速し、それによってイオンビームが形成される。
【0003】
図1Aに一般的なイオンガンを示す(例えば、特許文献1)。イオンガンは一対のフィラメント11及び12からなるカソード10、カソード10に平行な長手方向を有する環状のアノード20、イオンビーム引出し孔31を有するグリッド30、並びにカソード10及びアノード20を内部に密閉するとともに複数のイオンビーム引出し孔31を露出させる本体40からなる。カソード10とアノード20がプラズマ生成手段を構成し、それぞれの電源(不図示)に接続されている。また、本体40は放電ガスを導入するためのガス導入口41及び冷却機構42を備える。
【0004】
図7A及び7Bは従来技術におけるアノード20周辺のそれぞれ側面図及び上面図である。図7Bに示すように、グリッド30は、アノード20の周縁で画定される領域に長手方向(x軸方向)に配列されるイオンビーム引出し孔31を有する。イオンビーム引出し孔31は複数の孔からなる。
【0005】
イオンガンの動作について、まず、ガス導入口41からアルゴン等の放電ガスが本体40の内部に導入される。フィラメント11及び12に負電圧、アノード20に正電圧がそれぞれ印加され、その電位差によって放電が行なわれてプラズマが生成される。グリッド30に電源から電圧が印加されると、イオンビーム引出し孔31によってプラズマからイオンが引き出されて加速され、イオンビームが形成される。
【0006】
図7A及び7Bに示すように、イオンビーム引出し孔31の周囲には、S極をイオンビーム出射方向(z軸正方向)に、N極をその逆に向けた複数の磁石55が配置されている。この磁石55によって、イオンビーム引出し孔31におけるz軸正方向の磁場を形成し、プラズマ密度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−311118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8はこの構成における、グリッド面から25mmの位置、即ち、処理基板が配置される位置におけるイオンビームの電流密度を示すものである。図8の横軸は図7A及び7Bのx軸方向に対応する位置を表し、位置0mmの点は図7A及び7Bにおけるx=0の位置に対応する。ここで、図8に示すように、イオン電流密度は一対のフィラメント11及び12に対応して高くなるとともにフィラメント間の離隔部分では低くなり、その分布が均一にならないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、複数のフィラメントを有するイオンガンにおいて、イオンビームの電流密度を均一にする構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するためのイオンガンは、カソード及びアノードからなるプラズマ生成手段並びにプラズマからイオンビームを引き出すグリッドを備え、長手方向及び幅方向を有し、カソードが長手方向に延在する複数のフィラメントからなり、グリッドが長手方向に延在するイオンビーム引出し孔を有する。イオンガンはさらに、イオンビーム引出し孔の周辺に配置された複数の主磁石であって、各々がS極をイオンビーム出射方向に、N極をその逆方向に向けて配置された主磁石(50)、複数の主磁石の端部に長手方向及び幅方向に関して対称配置された少なくとも4個の第1の補助磁石であって、各々がS極を長手方向内向きに、N極をその逆方向に向けて配置された第1の補助磁石(60)、及び複数のフィラメント間の離隔部分に対応する位置に幅方向に対称配置された第2の補助磁石であって、各々がN極をイオンビーム出射方向に、S極をその逆方向に向けて配置された第2の補助磁石(65)を備える。
【0011】
本発明の一実施例では、上記イオンガンにおいて、複数のフィラメントが一対のフィラメントからなる。
ここで、複数のフィラメントに通電する電流を個別に制御する電源をさらに備える構成としてもよい。
また、第1の補助磁石及び第2の補助磁石が複数の主磁石の外側に配置される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】イオンガンの基本構成を示す図である。
【図1B】アノードの例を示す図である。
【図1C】イオン引出し孔の例を示す図である。
【図2A】本発明の実施例によるイオンガンのアノード付近の側面図である。
【図2B】本発明の実施例によるイオンガンのアノード付近の上面図である。
【図2C】本発明の実施例によるイオンガンの断面図である。
【図3A】本発明の実施例によるイオンガンの磁石付近の側面図である。
【図3B】本発明の実施例によるイオンガンの磁石付近の上面図である。
【図4】本発明の実施例によるイオンビーム電流密度を示す図である。
【図5A】参照例のイオンガンのイオンビーム電流密度を示す図である。
【図5B】参照例のイオンガンのイオンビーム電流密度を示す図である。
【図5C】参照例のイオンガンのイオンビーム電流密度を示す図である。
【図6A】参照例の磁石配置を示す図である。
【図6B】参照例の磁石配置を示す図である。
【図6C】参照例の磁石配置を示す図である。
【図7A】従来のイオンガンのアノード付近の側面図である。
【図7B】従来のイオンガンのアノード付近の上面図である。
【図8】従来例のイオンガンのイオンビーム電流密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、複数のフィラメントがカソードとして設けられているイオンガンにおいて、そのイオンビーム電流密度の不均一性をアノード周辺の磁石配置を調整することにより改善するものである。
本発明の実施例によるイオンガンの基本構成は、上述した図1Aの構成と同様である。即ち、イオンガンはカソード10及びアノード20からなるプラズマ生成手段並びにプラズマからイオンビームを引き出すグリッド30を備える。カソード10は長手方向に延在する一対のフィラメント11及び12からなり、グリッド30は長手方向に延在するイオンビーム引出し孔31を有する。グリッド30は2枚重ねの構造であり、遮蔽グリッドと加速グリッドにより構成される。遮蔽グリッドはイオンガン本体と同電位であり、イオンガン本体のイオン引出し面に配置される。加速グリッドは遮蔽グリッドから所定距離離間してほぼ平行に配置され、加速電位が印加される。これにより電圧勾配を形成し、プラズマ中のイオンを引出す。加速グリッドの外側に接地電位の減速グリッドを配置して3枚重ねのグリッド構造としてもよい。減速グリッドは加速グリッドから所定距離離間してほぼ平行に配置すればよい。
【0014】
アノード20は、図1Bに示すように、上面図において(a)枠状、(b)中央が分離した枠状、(c)一端が開放された枠状、(d)2枚の板状等の形態をとり得る。
イオンビーム引出し孔31は、図1Cに示すように、上面図において(a)複数の複眼孔が分離して配列されたもの、(b)複数の複眼孔が連接配列されつつも個々の複眼孔の形が認識できるもの、(c)複数の複眼孔が連接配列されて個々の複眼孔の形が認識できないもの、(d)複数の単眼孔が分離して配列されたもの、(e)長手方向に延在する単一の孔等の形態をとり得る。
なお、アノード及びイオンビーム引出し孔の形態には種々のバリエーションがあり、本発明のアノード20及びイオンビーム引出し孔31は図1B及び1Cに示すものに限定されない。
【0015】
本発明は、アノード20周辺の磁石配置の構成が従来例と異なる。図2A乃至2Cは本発明におけるアノード20周辺のそれぞれ側面図、上面図及び断面図である。説明の便宜上、イオンビーム引出し孔31の中心部を原点として、上記長手方向をx軸方向、幅方向をy軸方向、イオンビーム出射方向をz軸正方向とする。
【0016】
図2A乃至2Cに示すように、複数の主磁石50がイオンビーム引出し孔31の周辺に配置され、主磁石50の各々は、S極をz軸正方向に、N極をその逆方向に向けて配置される。複数の主磁石50によってイオンビーム引出し孔31にz軸正方向の磁場が与えられる。この主磁石50の構成は従来例(図7A及び7B)の磁石55と同様であってもよい。
本発明の実施例では、上記の主磁石50に加えて、第1の補助磁石60及び第2の補助磁石65を備える。
【0017】
補助磁石60は複数の主磁石50の端部にx軸及びy軸に関して対称配置される。補助磁石60は複数の主磁石50の外側に配置することが望ましいが、主磁石50と同一直線上若しくは主磁石50の内側に配置してもよい。補助磁石60の各々は、S極をx軸原点方向に、N極をその逆方向に向けて配置される。この4個の補助磁石60によってイオンビーム引出し孔31の端部に、x軸原点方向の磁場が与えられる。なお、本実施例では4個の補助磁石60を用いているが、補助磁石60のサイズや磁力の強さに応じて、その数は変更できる。例えば、図2Aにおいて、各位置の補助磁石60をz軸方向に複数段設ける等してもよい。
【0018】
補助磁石65は、一対のフィラメント11とフィラメント12の間の離隔部分に対応する位置にx軸対称配置される。補助磁石65は複数の主磁石50の外側に配置することが望ましいが、主磁石50と同一直線上上若しくは主磁石50の内側に配置してもよい。補助磁石65の各々は、N極をz軸正方向に、S極をその逆方向に向けて配置される。この2個の補助磁石65によって、イオンビーム引出し孔31の中央(フィラメント11とフィラメント12の離隔部分に対応する位置)にz軸負方向の磁場が与えられる。
【0019】
図3A及び3Bに主磁石50、補助磁石60及び補助磁石65の詳細説明図を示す。主磁石50のS極面及びN極面にはそれぞれ平板状磁性体70が取り付けられる。磁性体70はx−y平面に平行に配置される。実施例では、一対の磁性体板とその間に配列される複数の主磁石を1ユニットとして、2ユニットが準備され、アノード20外周のX軸に沿ってユニット夫々がイオンガン本体に固定される。補助磁石60にはS極面にのみ磁性体71が取り付けられる。磁性体71はL字状に形成され、一端は補助磁石に他端は取付け台73に固定される。取付け台73は非磁性材料により構成され、イオンガン本体に固定される。補助磁石65には両側面にL字状磁性体72の一端が取り付けられ、磁性体72の他端は取付け台73に固定される。L字状磁性体71及び72の磁石取付け面はy−z平面に平行に配置され、取り付け台への固定面はx−y平面に平行に配置される。主磁石50、補助磁石60、補助磁石65、磁性体70、磁性体71及び磁性体72により磁場が最適化され、所望のイオン電流密度分布が得られる。磁性体70乃至72は、鉄等の磁性材料から構成される。
【0020】
図4に本実施例におけるイオンビーム電流密度(グリッド面から25mmの位置、即ち、処理基板が配置される位置におけるイオンビームの電流密度)の分布を示す。図4においても、横軸は図2A及び2Bのx軸方向に対応する位置を表し、位置0mmの点は図2A及び2Bにおけるx=0の位置に対応する。
【0021】
また、参照として、図5A、5B及び5Cに、それぞれ、補助磁石60のみが設けられた場合(図6A)、補助磁石60及び補助磁石65が設けられるが補助磁石65の極性が図2A乃至2Cに示すものと逆である場合(図6B)、及び補助磁石65を長手方向に平行に配置した場合(図6C)のイオンビーム電流密度を示す。測定条件は、ビーム電圧:600V、放電電流:800mA、アルゴンガス流量(5.0sccm)、放電圧力:2.8×10−2Paである。
【0022】
図4に示すように、実施例の構成によってほぼ均一なイオン電流密度が得られた。イオン引出し孔31の中心から±50mmの範囲(即ち、y=0、x=±50)で、イオン電流密度の平均値を基準として各位置における平均値からの差分をパーセンテージで表すと、従来例(図8)においては±6.9%であったものが、本実施例(図4)においては±2.4%となり、本実施例によって均一性が大幅に改善されたことが分かる。また、参照例の図5A、5B、5Cにおいては、それぞれ、±7.1 %、±6.9 %、±7.7 %であった。
【0023】
このように、図2A乃至2Cに示す実施例の構成によると、一対のフィラメント11及び12を有するイオンガンにおいて、主磁石50並びに補助磁石60及び65の相互作用によって均一なイオンビーム電流密度を得ることができる。
【0024】
また、イオンガンには、一対のフィラメント11及び12に通電する電流を制御する電源(不図示)が設けられる。ここで、電源は各フィラメントに対して個別に電流制御可能なものとしてもよい。各フィラメントを個別に電流制御することにより、フィラメント間の出力ばらつきや磁石間の磁力のばらつきを補償して、より均一なイオンビーム電流密度を得ることができる。
【0025】
なお、上記実施例では、長手方向に延在して配置された一対のフィラメント11及び12を有するイオンガンについて説明したが、当業者であれば、本発明の原理は、長手方向に延在して配置された3本以上のフィラメントを有するイオンガンにも適用できることが分かるはずである。例えば、n本のフィラメントがそれぞれ離隔部分をもって延在配置される場合、少なくとも合計4個の補助磁石60が上記実施例と同様にイオン引出し孔31の四隅に配置されるとともに、N極をz軸正方向に向けた合計(n−1)×2個の補助磁石65が、フィラメント間の離隔部分に対応する位置にx軸対称配置されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10.カソード
11、12.フィラメント
20.アノード
30.グリッド
31.イオンビーム引出し孔
40.本体
41.ガス導入口
50.主磁石
60、65.補助磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード及びアノードからなるプラズマ生成手段並びにプラズマからイオンビームを引き出すグリッドを備えた、長手方向及び幅方向を有するイオンガンであって、
前記カソードが前記長手方向に延在する複数のフィラメントからなり、
前記グリッドが前記長手方向に延在するイオンビーム引出し孔を有し、
さらに、
前記イオンビーム引出し孔の周辺に配置された複数の主磁石であって、各々がS極をイオンビーム出射方向に、N極をその逆方向に向けて配置された主磁石、
前記複数の主磁石の端部に前記長手方向及び前記幅方向に関して対称配置された少なくとも4個の第1の補助磁石であって、各々がS極を前記長手方向内向きに、N極をその逆方向に向けて配置された第1の補助磁石、及び
前記複数のフィラメント間の離隔部分に対応する位置に前記幅方向に対称配置された第2の補助磁石であって、各々がN極をイオンビーム出射方向に、S極をその逆方向に向けて配置された第2の補助磁石
を備えたイオンガン。
【請求項2】
請求項1のイオンガンにおいて、前記複数のフィラメントが一対のフィラメントからなるイオンガン。
【請求項3】
請求項1のイオンガンにおいて、前記第1の補助磁石及び前記第2の補助磁石が前記複数の主磁石の外側に配置されたイオンガン。
【請求項4】
請求項1乃至3のイオンガンであって、前記複数のフィラメントに通電する電流を個別に制御する電源をさらに備えたイオンガン。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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