イオンチャネル
本発明者らは、疼痛を治療、予防または軽減するために好適な分子を同定する方法であって、候補分子がKv9.2ポリペプチドのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを確認するステップを含んでなり、ここで、Kv9.2ポリペプチドが配列番号3もしくは配列番号5に示されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含む前記方法を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに同定された核酸、それらにコードされるポリペプチド、ならびにそれらの製造および使用に関する。さらに特別に、本発明の核酸およびポリペプチドは、以下に「Kv9.2」と称するイオンチャネルサブユニットに関する。本発明は、そのような核酸およびポリペプチドの作用を阻害または活性化することにも関する。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルは細胞の機能において重要な役割を果たすマルチサブユニット膜結合タンパク質である。これらは、ナトリウム、カリウム、塩素およびカルシウムを含むいくつかのイオンの細胞膜を横切る通過を調節する。イオンは電荷を運ぶので、イオンチャネルは、細胞静止電位を含む基本的な細胞電気特性の重要なメディエータである。これらの機能不全および欠陥は、癲癇、高血圧および嚢胞性線維症を含む多くの疾患および症候群において示唆されている。
【0003】
カリウムチャネルは細胞の表面膜に分布し、カリウムイオンが選択的に通過することを可能にするので、細胞の膜電位を制御する上で重要な役割を果たすと考えられる。特に、神経および筋肉細胞において、カリウムチャネルは、作用電位の頻度、持続および残留を制御することにより、中枢および末梢神経の神経伝達、心臓の歩調取り(ペースメイキング)、筋肉の収縮などに寄与する。さらに、これらはまた、ホルモンの分泌、細胞体積の調節および細胞の増殖にも関係のあることが示されている。
【0004】
カリウムチャネル遺伝子ファミリーは最大でかつ最も多様なイオンチャネルファミリーであると考えられる。これらは、膜貫通ドメインの数;例えば2つ、4つまたは6つのドメインに基づいていくつかのサブファミリーに分類されている。2つのドメインのものには、高度に保存された細孔ドメインを有するGIRK、IRK、CIRおよびROMKが含まれる。Twik-1およびTwik-様チャネルならびにTREK、TASK-1および2ならびにTRAAKは4つの膜貫通ドメインを有し、膜を横切る定常状態カリウムイオン電位の維持に関わる。Shaker様およびeag型チャネルは6つのドメインを有し、最大のサブファミリーである。Shaker型は極めて高度の多様性を有するファミリーであって、さらにいくつかのサブファミリーKv1、Kv2、Kv3、およびKv4に分割することができる。他方、eag型はeag、eag調節性遺伝子およびelkにより構成され、そしてその関係遺伝子には、KAT遺伝子クラスターに対応する過分極活性化型カリウムチャネルおよび環状ヌクレオチドにより活性化されるカチオンチャネルが含まれる。
【0005】
Kvチャネルをコードする最初の完全なヌクレオチド配列は、1987年にShakerチャネル(Kv1)のクローニングにより報じられている。Shaker cDNAを用いたcDNAライブラリーの低ストリンジェンシースクリーニングによってK+チャネルcDNAであるShab(Kv2)、Shaw(Kv3)およびShal(Kv4)の単離が行われ、そしてこれらは3つの異なる遺伝子から誘導された。これらの配列はShakerと相同的であり、ほぼ40%同一性を有する。コア領域でShakerとほぼ60%を超える相同性を有するKv1ファミリーは少なくとも7メンバーを伴う最大チャネルファミリーである。Shaker、Shab、Shal、およびShawに関係する哺乳動物サブファミリーに加えて、5つのさらなるサブファミリー(Kv5〜9)も記載されている。現在、30を越えるKvチャネルがクローニングされ、異種発現系で発現されている。これらのチャネルは異なる電圧感受性、電流動力学、および定常状態活性化および不活性化を提示することが多い。
【0006】
Kvチャネルは、結合して機能的チャネルを形成する4つの6回貫通膜にまたがるサブユニットにより形成される4量体として存在する。同一のサブユニットが結合して機能的チャネルを形成できるだけでなく、異なるサブユニットもin vitroおよびin vivo両方で結合して機能的ヘテロマーチャネルを形成できる。これらのヘテロマーチャネルは、対応するホモマーチャネルに観察される特性がブレンドされてユニークな特性を有することが多い。さらに、いくつかのKvサブユニットは、単独で発現されると非機能的である。例えば、最も新しく同定された哺乳動物KvファミリーのメンバーであるKv9.3サブユニットは、それ自体、機能的ホモマーチャネルを形成しないが、むしろ、ヘテロマー複合体でのみ機能して電圧感受性および動力学の変化を与える。
【0007】
アクセサリーサブユニットはKvサブユニットと結合してKvチャネル機能になおさらなる多様性を加えることができる。現在、4つのKvサブユニット遺伝子ファミリーが記載されている。それらは全て細胞質タンパク質であり、質量がほぼ40kDaで、保存されたコア配列と可変性NH2末端を有する。Kvサブユニットは、サブユニットに対して、速いおよび遅い不活性化、改変された電圧感受性、およびより遅い失活などの機能的影響を与えることが示されている。さらに、サブユニットは酸化還元センサーとしての役割を果たしうる、というのは、該サブユニットは異種発現系においてKv4.2チャネルにO2感受性を与えると思われるからである。
【0008】
カリウムゲートチャネル、遅延整流器、サブファミリーS、メンバー-2(Kv9.2)mRNAは先に、膵臓のランゲルハンス島で発現することが示されたが、これはインスリンと共局在しないことが示され、これがインスリン分泌の制御に関与しないことを示唆した(Yan, L.ら, Diabetes 2004. 53. 597-607)。
【発明の開示】
【0009】
概要
本発明の第1の態様によると、本発明者らは、疼痛を治療、予防または軽減するために好適な分子を同定する方法であって、候補分子がKv9.2ポリペプチドのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを確認するステップを含んでなり、ここで、Kv9.2ポリペプチドが配列番号3もしくは配列番号5に示されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含む前記方法を提供する。
【0010】
好ましくは、Kv9.2ポリペプチドは配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示された核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列によりコードされるかである。
【0011】
そのような方法は、候補分子をKv9.2ポリペプチドに暴露するステップおよび候補分子がKv9.2ポリペプチドと結合するかどうかを確認するステップを含んでいてもよい。
【0012】
そのような方法は、a)野生型動物または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を提供するステップ;(b)前記野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果として動物の生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップ
を含んでいてもよい。
【0013】
好ましくは、生物学的パラメーターは、刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答からなる群より選択され、好ましくは疼痛に対する応答である。
【0014】
そのような方法は、(a)細胞、好ましくは野生型細胞または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を含有する細胞、好ましくは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物から単離された細胞を提供するステップ;(b)前記細胞を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果としてコンダクタンスおよび/または動力学を含むKv9.2ポリペプチドの生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様によると、疼痛を治療、予防または軽減するためのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法における、野生型動物または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物の使用が提供される。
【0016】
本発明の第3の態様によると、本発明者らは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物、またはその単離された細胞もしくは組織の、疼痛に対するモデルとしての使用を提供する。
【0017】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物が、機能が破壊された、好ましくはKv9.2遺伝子またはその部分中に欠失を有するKv9.2遺伝子を含む。
【0018】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物が、野生型と比較すると、次の表現型:刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答の1以上、好ましくは疼痛に対する応答に変化を示す。
【0019】
好ましくは、トランスジェニック非ヒト動物が、野生型と比較すると、疼痛に対する感受性の増加または減少を示す。
【0020】
好ましくは、トランスジェニック非ヒト動物がげっ歯類、好ましくはマウスである。
【0021】
本発明の第4の態様によると、Kv9.2含有イオンチャネルのオープナー、モジュレーターまたはブロッカーを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法であって、候補化合物を請求項4〜12のいずれか1項に記載の野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物に投与するステップおよび請求項10に記載した生物学的パラメーターの変化を測定するステップを含む前記方法が提供される。
【0022】
本発明者らは、本発明の第5の態様によって、配列番号3もしくは配列番号5に示したアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリペプチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用を提供する。
【0023】
本発明は、第6の態様において、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示した核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリヌクレオチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用を提供する。
【0024】
好ましくは、疼痛は、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛からなる群より選択される。
【0025】
本発明の第7の態様においては、記載した方法または使用により同定されたKv9.2のアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)が提供される。
【0026】
本発明の第8の態様によると、本発明者らは、疼痛を治療、予防または軽減するための、そのような分子の使用を提供する。
【0027】
本発明者らは、本発明の第9の態様によると、疼痛または疼痛に対する感受性のための診断キットであって、次のもの:Kv9.2ポリペプチドまたはその部分;Kv9.2ポリペプチドに対する抗体;またはそれらをコードできる核酸の1以上を含む前記キットを提供する。
【0028】
本発明の第10の態様によると、疼痛を患う個体を治療する方法であって、個体におけるKv9.2ポリペプチドの活性または量を増加または減少させることを含む前記方法が提供される。
【0029】
好ましくは、前記方法は、個体に、Kv9.2ポリペプチド、オープナーまたはモジュレーターを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニスト、またはブロッカーを含むKv9.2のアンタゴニストを投与することを含む。
【0030】
本発明の第11の態様として、本発明者らは、疼痛を診断する方法であって、(a)そのような疾患を患うかまたは患うと疑われる動物におけるKv9.2ポリペプチドの発現のレベルまたはパターンを検出するステップ;および(b)該発現のレベルまたはパターンを正常な動物のそれと比較するステップを含む前記方法を提供する。
【0031】
本発明の実施は、特に断らない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用的技法を使いうるのであって、これらの技法は当業者の能力の範囲内にある。そのような技法は文献に記載されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch,およびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Books 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F. M.ら, (1995および定期的補充;Current Protocols in Molecular Biology, 第9、13および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.);B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons;J. M. PolakおよびJames O'D. McGee, 1990, In Situ Hybridization: Principles and Practice, Oxford University Press;M. J. Gait (編), 1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press;D. M. J. LilleyおよびJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press;Edward Harlow, David Lane, Harlow(編), Using Antibodies : A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7);Ed Harlow (編), David Lane (編), Antibodies : A Laboratory Manual (1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855;Lars-Inge Larsson “Immunocytochemistry: Theory and Practice”, CRC Press inc., Baca Raton, Florida, 1988, ISBN 0-8493-6078-1;John D. Pound (編), シリーズ:“Methods in Molecular Biology”中の“Immunochemical Protocols, vol 80”, Humana Press, Totowa, New Jersey, 1998, ISBN 0-89603-493-3;Ramakrishna Seethala, Prabhavathi B. Fernandes(編), Handbook of Drug Screening (2001, New York, NY, Marcel Dekker, ISBN 0-8247-0562-9);Jane RoskamsおよびLinda Rodgers(編), Lab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3;ならびに The Merck Manual of Diagnosis and Therapy (第17版, Beers, M. H.およびBerkow, R, Eds, ISBN: 0911910107, John Wiley & Sons)を参照されたい。これらの一般的教科書のそれぞれは本明細書に参照により組み入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
詳細な説明
Kv9.2
本発明は一般的に、イオンチャネルおよびそのサブユニット、特に、電圧ゲートカリウムチャネルのKv9.2サブユニット、ならびにその相同体、変異体または誘導体の使用であって、疼痛および疼痛関連疾患を含む、Kv9.2関連疾患および症状の治療、緩和または診断における前記使用に関する。
【0033】
本発明のこの実施形態および別の実施形態をさらに詳しく以下に説明する。
【0034】
Kv9.2の発現プロファイル
Kv9.2 cDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により、前立腺、肝臓、生殖器官、筋肉および脳を含むいくつかの器官における様々な存在量のKv9.2の発現を検出した。
【0035】
配列番号1のKv9.2 cDNAを用いてヒトESTデータソースをBLASTNによりサーチし、識別子をcDNAライブラリー中に見出した。これは、Kv9.2が
U69192 ヒト幼児脳
AA776703 ヒト精巣
A1681499 ヒト肺
AW292826 ヒト卵巣
などの正常または異常な組織中に発現されることを示した。
【0036】
従って、Kv9.2ポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクターおよびリガンドは、これらおよび他の組織中のKv9.2サブユニットの過剰、不足および異常な発現に関連する疾患および症候群に対する検出、診断、治療および他のアッセイにとって有用である。
【0037】
Kv9.2関連疾患および症候群
本明細書に記載の方法と組成によると、Kv9.2サブユニットは、ある範囲の疾患、特に様々なタイプの疼痛を治療および診断するのに好適である。これらの疾患は便宜上、Kv9.2関連疾患と呼ぶこととする。
【0038】
Kv9.2を欠損するノックアウトマウスは、実施例に実証するような、ある範囲の表現型を提示する。
【0039】
下記実施例5に記載のように、Kv9.2の発現は後角のラミナI、IIおよびIIIの神経細胞(感覚性知覚に関わる)の細胞体中に検出される。これは、Kv9.2が疼痛知覚に関わることを実証する。
【0040】
本発明者らは、従って、個体における疼痛の知覚を変える方法であって、個体におけるKv9.2のレベルまたは活性をモジュレートする前記方法を開示する。どこにも記載されているように、これはKv9.2の発現をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、またはKv9.2に対するアゴニストまたはアンタゴニストの使用により達成することができる。
【0041】
特に、そのような方法による疼痛のモジュレーションは、疼痛関連疾患の症候群の治療、軽減または低下のために利用することができる。従って、本明細書に記載の方法および組成物は、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)を診断、治療および軽減するのに好適である。疼痛の定義には、限定されるものでないが、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛が含まれる。
【0042】
便宜上、これらを「Kv9.2関連疾患および症候群」と呼ぶ。
【0043】
特に、本発明者らは、上に掲げたKv9.2関連疾患および症候群を治療または診断するための、核酸、Kv9.2サブユニット核酸を含むベクター、ポリペプチド(それらの相同体、変異体または誘導体を含む)、Kv9.2サブユニット核酸および/またはポリペプチドを含む医薬組成物、宿主細胞、およびトランスジェニック動物の使用を想定する。さらに、本発明者らは、Kv9.2関連疾患および症候群の診断または治療または軽減における、Kv9.2サブユニットと相互作用または結合可能な化合物、好ましくはKv9.2サブユニットのアンタゴニスト、ブロッカーまたはモジュレーター、Kv9.2サブユニットに対する抗体の使用、ならびにこれらを作製または同定する方法を想定する。特に、本発明者らは、Kv9.2関連疾患および症候群の治療または予防用のワクチンの製造における、これらの化合物、組成物、分子などのいずれかの使用を想定することを包含する。本発明者らは個体におけるKv9.2関連疾患および症候群を検出するための診断キットも開示する。
【0044】
Kv9.2サブユニットの使用により治療可能または診断可能な、かかるまたはさらなるKv9.2関連疾患および症候群を同定するための連鎖マッピングの方法は、当技術分野で公知であり、これも本明細書に別記する。
【0045】
疼痛
急性疼痛
急性疼痛は、短期の疼痛または容易に同定可能な原因を有する疼痛として定義される。急性疼痛は、組織への創傷または疾患の存在を身体が警告することである。急性疼痛は、迅速で鋭く、それにうずく痛みが続くことが多い。急性疼痛は、1つの領域に集中し、その後、幾分広がる。
【0046】
慢性疼痛
慢性疼痛は、医学的に、6か月以上持続した疼痛と定義される。この休みなく続く疼痛または間欠性の疼痛は、時を経てしばしばその目的を失っている。それは、慢性疼痛が、身体が損傷を防止するのを助けないからである。慢性疼痛は、急性疼痛よりも治療が困難であることが多い。慢性になったどのような疼痛の治療にも、専門家のケアが一般に必要である。オピオイドが長期間使用される場合は、薬物耐性、化学物質依存性、および心理学的嗜癖さえも起こりうる。オピオイドの使用者に薬物耐性および化学物質依存性はよくみられるが、心理学的嗜癖はまれである。
【0047】
発生源および関係する侵害受容体(疼痛を検出する神経)により、生理学的疼痛の経験を4つの種類に群分けできる。
【0048】
皮膚疼痛
皮膚疼痛は、皮膚または表在組織に対する損傷によって起こる。皮膚侵害受容体の終末は皮膚のすぐ下にあり、神経終末が高度に集中していることが原因で、持続時間の短い、明確な局所疼痛を生じる。皮膚疼痛を生じる例示的な損傷には、紙による切り傷、軽度(I度)の熱傷および裂傷がある。
【0049】
体性痛
体性痛は、靭帯、腱、骨、血管、および神経自体までをも起源とし、体性侵害受容体で検出される。これらの領域には疼痛受容体が不足しているので、皮膚疼痛よりも持続時間の長い、局在のはっきりしない鈍痛が生じる。その例には足首関節捻挫および骨折がある。
【0050】
内臓痛
内臓痛は、身体器官を起源とし、内臓侵害受容体は身体器官および内腔の中に局在する。これらの領域に侵害受容体がなお一層不足していることから、体性痛よりも通常うずき、持続時間の長い疼痛が生じる。内臓痛は局在をはっきりさせることが極めて困難であり、内臓組織への色々な損傷は「関連」痛を示す。関連痛では、感覚は損傷部位と全く関係しない領域に局在する。心筋虚血(心筋組織の部分への血流の欠如)は、おそらく関連痛の最も公知の例である。その感覚は、束縛感として上胸部で、または左肩、腕の、もしくはさらには手で、うずく痛みとして起こりうる。
【0051】
他の種類の疼痛
幻痛は、もはや有さない足またはもはや物理的シグナルを与えない肢からの疼痛感覚であり、これは肢切断者および四肢麻痺患者ほぼ全員で報告される経験である。神経障害性疼痛(神経痛)は、神経組織自体への損傷または疾患の結果として生じうる。これによって、知覚神経が視床に正しい情報を伝達する能力が破壊される場合があり、したがって、たとえ疼痛に関して明白な生理学的原因または立証された生理学的原因が存在しなくとも、脳は疼痛性刺激を演出する。
【0052】
三叉神経痛(「疼痛性チック」)は、三叉神経に対する損傷または創傷によって引き起こされる疼痛を指す。三叉神経は3分枝を有する。V1は額および眼の領域に感覚を与え、V2は鼻および顔に感覚を与え、V3は顎およびおとがい領域に感覚を与える。顔のそれぞれの側は、感覚を与える三叉神経を有する。三叉神経痛の片側疼痛は、頬、口、鼻、および/または顎の筋肉を経由して広がる場合がある。三叉神経痛は、一般に高齢者を冒すが、青少年または多発性硬化症を有する者も三叉神経痛を経験する場合がある。
【0053】
三叉神経痛の一次症状は、額、頬、おとがい、または下顎の輪郭のいずれかの疼痛である。重症な症例では、3つ全ての領域または左右両側が影響を受けうる。疼痛の発症は重症、けいれん性および短時間であり、電気ショックとして感じるであろう疼痛に類似していると記載されている。その疼痛は、歯磨き、会話、咀しゃく、飲水、ひげそりまたはさらにはキスなどの、よくある日常活動により誘発されうる。疼痛事象の頻度は時間と共に増加し、どんどん破壊的になり、能力を奪うようになる。
【0054】
舌咽神経痛は、第9脳神経の知覚分布における疼痛の爆発を特徴とする臨床病型である。発作は、疼痛の局在および疼痛についての刺激を除いて、三叉神経痛と同一である。典型的な疼痛は、片側の扁桃領域または舌の裏側に猛烈に突き刺すように繰り返す電撃様穿刺である。さらに、その疼痛は耳へ放散するか、または耳に生じうる。
【0055】
その疼痛を誘導する知覚刺激は嚥下であり、激しい発作の間に患者はじっと座り、頭を前方に曲げ、唾液が口から垂れるに任せる。心停止、失神(卒倒)、およびてんかん発作が舌咽神経痛の発作に関連してきた。舌咽神経痛の原因は、大部分の場合分からない。しかし、一部の症例は、腫瘍、椎骨動脈による第9神経の圧迫、および血管奇形に帰される。
【0056】
ヘルペス後神経痛は、帯状疱疹ウイルス感染の後に持続する慢性疼痛を指す。帯状疱疹とも知られている帯状ヘルペスは、水痘帯状疱疹(水痘)ウイルス感染の再発感染である。このウイルスは、患者の免疫が弱まるまで神経内に潜伏する。帯状ヘルペスの急性病変は疼痛を引き起こすが、その疼痛は通常癒える。しかし、若干の患者では疼痛は慢性的に続く。これがヘルペス後神経痛である。
【0057】
帯状疱疹の症状には、突き刺すような深い連続的な疼痛があり、その疼痛は胸部が65%で、顔が20%である。顔が影響を受ける場合、そのウイルスは三叉神経眼神経分枝(眉の上の顔の上端)に対する好発を示す。この疼痛は、通常は2から4週間で自然に消散する。しかし、少数の患者は持続性の疼痛を有することがある。その疼痛は以前の皮疹の領域に存在し、冒された皮膚をやさしくなでることで悪化し、その部分に圧を加えることで軽減する。衣服の摩擦は非常に痛いことが多い。この持続する疼痛は、ヘルペス後神経痛と呼ばれる。顔に影響を与える帯状疱疹の症例ではヘルペス後神経痛の発生率が高い。
【0058】
カウザルギーは、部分末梢神経損傷に続くまれな症候群である。カウザルギーは灼熱痛、自律神経機能異常、および栄養変化の三徴候を特徴とする。重症例は重症型カウザルギーと呼ばれる。軽症型カウザルギーは、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)に類似したあまり重症でない形態を示す。RSDは筋肉および関節の主症状を有し、骨粗鬆症がX線でよくみられる。
【0059】
カウザルギーは、末梢神経損傷、通例は腕神経叢損傷により起こる。神経切除は過敏を引き起こす結果として、疼痛の増加をもたらし、ノルエピネフリンの放出増加は交感神経の所見をもたらす。症状には疼痛、通常は灼熱痛があり、疼痛は手または足に顕著である。大多数での発症は損傷から24時間以内である。正中神経、尺骨神経、および坐骨神経が通常影響を受ける。ほとんどあらゆる知覚刺激がこの疼痛を悪化させる。すなわち、血管の変化、すなわち血管拡張(温、ピンク色)による血液増加または血管収縮(冷、まだらの青)による血液減少のいずれか、栄養変化、すなわち乾燥/鱗屑性皮膚、関節硬直、先細の指、溝のある切られていない爪、長い/固い髪または脱毛のいずれか、発汗の変化がある。
【0060】
Kv9.2との同一性および類似性
ヒトKv9.2をコードするcDNAの増幅産物を配列決定した結果が示すように、Kv9.2は他のイオンチャネルファミリーのタンパク質と構造的に関係がある。配列番号1のcDNA配列は、配列番号3に示される1104アミノ酸のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(配列番号2、ヌクレオチド番号41〜3352)を含有する。ヒトKv9.2は、ホモサピエンス染色体8q22にマッピングすることが見出される。
【0061】
HMM構造予測ソフトウェアpfam(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/search.shtml)を使用したKv9.2ポリペプチド(配列番号3)の解析から、Kv9.2ペプチドがイオンチャネルであることを確認した。
【0062】
ヒトKv9.2サブユニットのマウスホモログをクローニングし、その核酸配列およびアミノ酸配列を配列番号4および配列番号5としてそれぞれ示す。配列番号4のマウスKv9.2サブユニットのcDNAは、ヒトKv9.2サブユニット(配列番号2)の配列と高度の同一性を示し、一方でマウスKv9.2サブユニットのアミノ酸配列(配列番号5)はヒトKv9.2サブユニット(配列番号3)と高度の同一性および類似性を示す。ヒトおよびマウスKv9.2サブユニットは、したがって大きなイオンチャネルファミリーのメンバーである。
【0063】
Kv9.2サブユニットポリペプチド
本明細書で用いる「Kv9.2サブユニット」、「Kv9.2イオンチャネル」、および「Kv9.2ポリペプチド」という用語は、配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を意味する。好ましくは、該ポリペプチドは、配列番号3に示される配列の相同体、変異体または誘導体を含むかまたはそれである。
【0064】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質、あるいは修飾ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むもの、すなわちペプチドイソスターのいかなるものも指す。「ポリペプチド」は、短鎖のもの、および長鎖のもの両方を指し、前者は通常、ペプチド、オリゴペプチド、またはオリゴマーと呼ばれ、後者は通常、タンパク質と呼ばれる。ポリペプチドは、遺伝子によってコードされている20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含有してもよい。
【0065】
「ポリペプチド」には、翻訳後プロセシングなどの天然プロセスによって修飾されたアミノ酸配列も、当技術分野で周知の化学修飾技法によって修飾されたアミノ酸配列も含まれる。そのような修飾については、基礎的な教科書、およびより詳細な研究書、さらには多数の研究論文に詳細に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含めた、ポリペプチドのいかなる箇所でも起こりうる。同じタイプの修飾が、所与のポリペプチドのいくつかの部位に、同じ程度か、または異なった程度で存在しうることが理解されよう。また、所与のポリペプチドが、多くのタイプの修飾を含有することもある。
【0066】
ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分枝している場合があり、そして、ポリペプチドは、環状である場合があり、この場合、それらは分枝していることも、分枝していないこともある。環状ポリペプチド、分枝ポリペプチド、および環状分枝ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセスで生じることも、合成による方法で生成されることもある。修飾には、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニン化などの、タンパク質へのトランスファーRNA媒介型のアミノ酸付加、ならびにユビキチン化が含まれる。例えば、「Proteins - Structure and Molecular Properties」, 第2版, T. E. Creighton, W. H. Freeman and Company社, New York, 1993年, および, Wold, F., 「Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects(翻訳後のタンパク質修飾:展望と期待)」, pgs. 1-12 in Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson編, Academic Press, New York, 1983年;Seifterら, 「Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors(タンパク質修飾および非タンパク質補因子の分析)」, Meth Enzymol (1990), 182: 626-646、およびRattanら, 「Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging(タンパク質合成:翻訳後修飾と熟成)」, Ann NY Acad Sci (1992), 663:48-62を参照のこと。
【0067】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、ある配列からのまたはある配列への、1以上のアミノ酸のいかなる置換(substitution)、変異、修飾、置換除去(replacement)、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「Kv9.2」、「Kv9.2サブユニット」および「Kv9.2イオンチャネル」に関する言及には、そのようなKv9.2の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0068】
好ましくは、Kv9.2に適用される場合、得られるアミノ酸配列は発現されるとイオンチャネル活性を有し、ホモマーチャネルを形成するかまたは他のKvファミリーと結合してヘテロマーチャネルを形成する。好ましくは、得られる核酸は、配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2イオンチャネルサブユニットと同じ活性(または示された他のチャネルと結合して活性ポテンシャル)を有する。
【0069】
特に、「相同体」という用語は、得られるアミノ酸配列がイオンチャネル活性、好ましくはKv9.2イオンチャネル活性(示された他のチャネルと併用されるとき)を有する限り、構造および/または機能に関する同一性を包含する。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、Kv9.2サブユニット核酸配列の対立遺伝子変化であるアミノ酸から誘導されたポリペプチドを包含する。
【0070】
Kv9.2含有イオンチャネルなどのイオンチャネルの「チャネル活性」または「生物学的活性」について言及する場合、これらの用語は、Kv9.2含有イオンチャネルの代謝機能または生理学的機能を指すものとし、これらには、同様の活性もしくは改善された活性、または、付随の望ましくない副作用が軽減されているこれらの活性が含まれる。Kv9.2含有イオンチャネルの抗原性活性および免疫原性活性も含まれる。イオンチャネル活性、およびこれらの活性をアッセイおよび定量化する方法の例は、当技術分野で公知であり、本明細書の他の箇所に詳細に記述する。
【0071】
非常に好ましい実施形態において、生物学的活性はKv9.2のコンダクタンスおよび動力学を含む。そのようなアッセイは、本明細書の他の箇所に詳細に記述する。
【0072】
本明細書で使用する場合、「欠失」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のいずれかの変化であって、その際、それぞれ、1または複数のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が不在となる変化と定義する。本明細書で使用する場合、「挿入」または「付加」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化であって、天然に存在する物質と比較して、それぞれ、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらす変化である。本明細書で使用する場合、「置換(substituion)」は、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸を、それぞれ、異なるヌクレオチドまたはアミノ酸で置換除去(replacement)することによって起こる。
【0073】
本明細書に記載されるKv9.2ポリペプチドは、サイレントな変化を引き起こし、機能的に同等なアミノ酸配列をもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有するものでもよい。慎重なアミノ酸置換を、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて導入することができる。例えば、負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれ、正に荷電したアミノ酸には、リジンおよびアルギニンが含まれ、そして、同様の親水性度を有する非荷電の極性頭部基を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが含まれる。
【0074】
保存的置換は、例えば以下の表に従って行うことができる。2列目の同じブロックにおけるアミノ酸、好ましくは3列目の同じ行におけるアミノ酸を互いに置換しうる:
Kv9.2ポリペプチドは、典型的にはそのN末端またはC末端に、好ましくはそのN末端に、さらに異種のアミノ酸配列を含んでもよい。異種配列としては、細胞内または細胞外タンパク質ターゲティングに影響を及ぼす配列(リーダー配列など)が挙げられる。異種配列としてはまた、該ポリペプチドの免疫原性を高める、ならびに/または該ポリペプチドの同定、抽出および/もしくは精製を容易にする配列が挙げられる。特に好ましい別の異種配列は、好ましくはN末端に存在するポリアミノ酸配列(ポリヒスチジンなど)である。少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも17アミノ酸、但し50アミノ酸未満のポリヒスチジン配列が特に好ましい。
【0075】
Kv9.2ポリペプチドは、「成熟」タンパク質の形態であってもよいし、または融合タンパク質などの大きなタンパク質の一部であってもよい。分泌もしくはリーダー配列を含む付加的なアミノ酸配列、プロ配列、精製を補助する配列(複数のヒスチジン残基など)、または組換え産生時の安定性のための付加的配列を含むことが有利なこともある。
【0076】
Kv9.2ポリペプチドは、組換え手法により、既知の方法を用いて作製することが有利である。しかしながら、これらはまた、当業者に周知の技法、例えば固相合成などを用いて合成手法により作製することも可能である。そのようなポリペプチドはまた、例えば抽出および精製の補助のために、融合タンパク質として作製することも可能である。融合タンパク質のパートナーの例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、6xHis、GAL4(DNA結合および/または転写活性化ドメイン)およびβガラクトシダーゼが挙げられる。また、融合タンパク質のパートナーと目的のタンパク質配列との間にタンパク質分解性切断部位を含むことによって、融合タンパク質配列の除去が可能となることが都合がよい(例えばトロンビン切断部位)。好ましくは、融合タンパク質は目的のタンパク質配列の機能を妨害しない。
【0077】
Kv9.2ポリペプチドは、実質的に単離された形態で存在しうる。この用語は、天然状態から人工的に変化していることを意味する。「単離された」組成物または物質が天然に存在する場合には、その元々の環境から変化を受けているもしくは取り出されている、またはその両方である。例えば、生存生物に天然に存在するポリヌクレオチド、核酸またはポリペプチドは「単離された」ものではないが、天然状態で共存する物質から分離された同じポリヌクレオチド、核酸またはポリペプチドは、この用語が本明細書で使用されるように「単離された」ものである。
【0078】
しかしながら、Kv9.2イオンチャネルタンパク質は、タンパク質の意図する目的を妨害しない担体または希釈剤と混合してもよく、それでもなお実質的に単離されているとみなされると理解される。該ポリペプチドはまた、実質的に精製された形態であってもよく、この場合、調製物中の90%以上、例えば95%、98%または99%のタンパク質がKv9.2ポリペプチドである調製物中のタンパク質を一般的に含みうる。
【0079】
本発明者はまた、Kv9.2ポリペプチドの一部を含むペプチドを記載する。従って、Kv9.2サブユニットの断片、およびその相同体、変異体または誘導体を包含する。そのようなペプチドは、2〜200アミノ酸長、好ましくは4〜40アミノ酸長でありうる。ペプチドは、本明細書に記載するように、例えば適当な酵素(トリプシンなど)による消化によって、Kv9.2ポリペプチドから誘導することができる。あるいは、ペプチド、断片などは、組換え手法によりまたは合成手法により作製することも可能である。
【0080】
「ペプチド」という用語は、当技術分野で公知の種々の合成ペプチド変化、例えばレトロインベルソDペプチドを含む。ペプチドは、抗原決定基および/またはT細胞エピトープであってもよい。ペプチドはin vivoで免疫原性であってもよい。好ましくは、ペプチドはin vivoにおいて中和抗体を誘導可能である。
【0081】
様々な種に由来するKv9.2サブユニット配列のアライメントを行うことによって、異なる種間で保存されているアミノ酸配列の領域(相同領域(homologous region))、および異なる種間で異なる領域(非相同領域(heterologous region))を決定することが可能である。
【0082】
従ってKv9.2ポリペプチドは、相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含んでいてもよい。相同領域は、少なくとも2つの種間で高い相同性を示す。例えば、相同領域は、上述した試験を用いてアミノ酸レベルで少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を示しうる。相同領域に相当する配列を含むペプチドは、以下にさらに詳細に説明するように治療方法において用いることができる。あるいは、Kv9.2サブユニットペプチドは、非相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含んでもよい。非相同領域は、少なくとも2つの種間で低い相同性を示す。
【0083】
Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸
さらに、本明細書にさらに詳細に記載するように、Kv9.2ポリヌクレオチド、Kv9.2ヌクレオチドおよびKv9.2核酸、それらの製造方法、使用などを開示する。
【0084】
「Kv9.2ポリヌクレオチド」、「Kv9.2ヌクレオチド」および「Kv9.2核酸」という用語は相互互換的に用いられ、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示される核酸配列を含むポリヌクレオチド/核酸、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を意味することを意図する。好ましくは、ポリヌクレオチド/核酸は、配列番号1または配列番号2、最も好ましくは配列番号2の核酸配列の相同体、変異体または誘導体を含むかまたはそれである。
【0085】
これらの用語はまた、ポリペプチドおよび/またはペプチド、すなわちKv9.2ポリペプチドをコードすることができる核酸配列を包含することを意図する。従って、Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸は、配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。
【0086】
通常、「ポリヌクレオチド」は、いかなるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオシドも指し、これは、非修飾RNAもしくはDNA、または修飾RNAもしくはDNAでありうる。「ポリヌクレオチド」には、非限定的に、一本鎖DNAおよび二本鎖DNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、ならびに、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれ、これらのハイブリッド分子は、一本鎖であることもあるが、より典型的な場合、二本鎖であるか、もしくは一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であることもある。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域も指す。ポリヌクレオチドという用語には、1つまたは複数の修飾塩基を含有するDNAまたはRNA、および、安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含まれる。「修飾」塩基には、例えば、トリチル化塩基、および、イノシンなどの、通常とは異なる塩基が含まれる。DNAおよびRNAには、様々な修飾がなされており、したがって、「ポリヌクレオチド」は、ウイルスおよび細胞で特徴的な化学形態のDNAおよびRNAだけでなく、通常天然に見出される、化学修飾型、酵素修飾型、または代謝修飾型のポリヌクレオチドも包含する。「ポリヌクレオチド」は、しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる、比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0087】
遺伝暗号の縮重の結果として、同一のポリペプチドを多数のヌクレオチド配列がコードしうることが当業者には理解されよう。
【0088】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド配列」という用語は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびに、それらの変異体、相同体、断片、および誘導体(その一部など)を指す。ヌクレオチド配列は、ゲノム由来または化学合成由来または組換え体由来のDNAまたはRNAであってもよく、それは、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかを表す二本鎖または一本鎖またはそれらの組合せを表すものであってもよい。ヌクレオチド配列という用語は、組換えDNA技法の使用によって調製されるもの(例えば組換え体DNA)であってもよい。
【0089】
「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAを意味するのが好ましい。
【0090】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、Kv9.2ヌクレオチド配列の配列からの、またはKv9.2ヌクレオチド配列の配列への、1以上の核酸のいかなる置換、変異、修飾、置換除去、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「Kv9.2」、「Kv9.2サブユニット」および「Kv9.2イオンチャネル 」に関する言及には、そのようなKv9.2の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0091】
好ましくは、得られるヌクレオチド配列が、Kv9.2サブユニット活性を有するポリペプチド、好ましくは配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2サブユニットと少なくとも同じ活性を有するポリペプチドをコードする。好ましくは、「相同体」という用語は、構造および/または機能に関する同一性を包含することを意図する。好ましくは、これは、得られるヌクレオチド配列が発現されるとホモマーチャネルを形成するかまたは他のKvファミリーメンバーと結合してヘテロマーチャネルを形成するイオンチャネル活性を有するポリペプチドをコードするものである。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、上記配列の対立遺伝子変異を包含する。
【0092】
配列相同性の計算
本明細書に提示する配列のいずれかに関する配列同一性は、任意の1以上の配列と別の配列との単純な「眼球」比較(すなわち厳密な比較)によって求め、他の配列が、例えば当該配列(1もしくは複数)に対して少なくとも70%の配列同一性を有するかどうかを確認することができる。
【0093】
相対配列同一性はまた、例えばデフォルトパラメータを用いて同一性を求めるための任意の好適なアルゴリズムを用いて、2以上の配列間の同一性%を計算することができる市販のコンピュータプログラムによって求めることができる。そのようなコンピュータプログラムの典型的な例はCLUSTALである。2つの配列間の同一性および類似性を求める他のコンピュータプログラムの方法としては、限定されるものではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら 1984 Nucleic Acids Research 12: 387)およびFASTA(Atschulら 1990 J Molec Biol 403-410)が挙げられる。
【0094】
相同性%は、連続する配列にわたって計算しうる、すなわち1つの配列を他の配列と並べて、1つの配列における各アミノ酸を、1残基ずつ他の配列における対応するアミノ酸と直接比較する。これは「ギャップなし」アライメントと称する。典型的には、このようなギャップなしアライメントは、比較的小さな数の残基に対してのみ行われる。
【0095】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、例えば配列の他の同一な対において、アライメントに供したアミノ酸残基の後に1個の挿入または欠失が生じ、したがって全体的なアライメントを行った場合には相同性%が著しく低下する結果となる可能性があることを考慮していない。その結果、大部分の配列比較方法は、全体の相同性スコアに過度にペナルティを与えないように可能な挿入および欠失を考慮する最適アライメントを得るように設計されている。これは、配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局地的相同性が最大となるようにすることで行われる。
【0096】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アライメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を与え、同じ数の同一アミノ酸について、可能な限り少ないギャップを有する配列アライメント(2つの比較配列間のより高い関連性を反映する)が多くのギャップを有する配列よりも高いスコアとなるようになっている。「アフィンギャップコスト」が典型的に用いられ、これはギャップの存在について比較的高いコストを負荷し、ギャップにおける次の各残基にはより小さなペナルティを負荷するものである。これは最も一般的に使用されているギャップスコアシステムである。高いギャップペナルティはもちろんより少ないギャップで最適なアライメントを作成する。大部分のアライメントプログラムではギャップペナルティを変更することができる。しかしながら、そのような配列比較ソフトウエアを用いる場合には、デフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを用いる場合には、アミノ酸配列についてのデフォルトギャップペナルティは、ギャップについて-12、各伸長について-4である。
【0097】
従って、最大相同性%の計算は、最初にギャップペナルティを考慮して最適アライメントを行うことが必要である。そのようなアライメントを行うための好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereuxら., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウエアの例としては、限定されるものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel ら、1999、前掲、第18章)、FASTA(Atschul ら, 1990, J. Mol. Biol., 403-410)および比較ツールのGENEWORKSパッケージソフトが挙げられる。BLASTおよびFASTAはいずれもオフラインおよびオンラインサーチによって入手可能である(Ausubel ら、1999、前掲、p.7-58〜7-60)。
【0098】
最終相同性%は同一性の点で求めることができるが、アライメント工程そのものは典型的には「オールオアナッシング」の対比較に基づくものではない。代わりに、測定される(scaled)類似性スコアマトリックスが一般的に使用され、これは化学的類似性または進化距離に基づく各ペアワイズ比較に対してスコアを割り当てる。一般的に用いられるそのようなマトリックスの例はBLOSUM62マトリックスであり、これはプログラムのBLASTパッケージソフトのためのデフォルトマトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは、公共のデフォルト値または供給される場合にはカスタムシンボル比較表のいずれかを一般的に使用する。GCGパッケージには公共のデフォルト値を使用し、または他のソフトウエアの場合にはBLOSUM62などのデフォルトマトリックスを用いることが好ましい。
【0099】
BLASTアルゴリズムを、デフォルト値に設定したパラメータと共に用いることが有利である。BLASTアルゴリズムは、http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlに詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。サーチパラメータは定義することができ、定義されたデフォルトパラメータに対して設定することが有利でありうる。
【0100】
BLASTにより評価する場合、「実質的な同一性」は、EXPECT値が少なくとも約7、好ましくは少なくとも約9、最も好ましくは10以上で一致する配列に相当することが有利である。BLASTサーチにおけるEXPECTの閾値は通常10である。
【0101】
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxによって利用される発見を助けるサーチアルゴリズムであり、これらのプログラムは、KarlinおよびAltschul(KarlinおよびAltschul 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68;KarlinおよびAltschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7;http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlを参照)の統計学的方法にわずかな改良点を加えて用いた彼らの知見に対する有意性によるものである。BLASTプログラムは、例えばクエリー配列に対する相同性を同定するために、配列類似性サーチのために調整されたものである。配列データベースの類似性サーチにおける基本的問題の考察については、Altschul ら (1994) Nature Genetics 6:119-129を参照のこと。
【0102】
以下のタスクを実行する5つのBLASTプログラムがhttp://www.ncbi.nlm.nih.govから入手可能である:blastp-タンパク質配列データベースに対してアミノ酸クエリー配列を比較する;blastn-ヌクレオチド配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列を比較する;blastx-タンパク質配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列(両鎖)の6フレームの概念的翻訳産物を比較する;tblastn-ヌクレオチド配列データベースに対してタンパク質クエリー配列を、6つのリーディングフレーム全て(両鎖)に動的に翻訳して比較する;tblastx-ヌクレオチド配列データベースの6フレームの翻訳に対してヌクレオチドクエリー配列の6フレームの翻訳を比較する。
【0103】
BLASTは、以下のサーチパラメータを用いる。
【0104】
HISTOGRAMは各サーチについてスコアのヒストグラムを表示する。デフォルトはyesである(BLASTマニュアルのパラメータHを参照のこと)。
【0105】
DESCRIPTIONS:報告される一致配列の短い記述の数を特定された数値に限定する。デフォルト限界は100の記述である(マニュアルページのパラメータVを参照のこと)。
【0106】
EXPECTはデータベース配列に対して報告する一致についての統計学的有意性の閾値である。デフォルト値は10であり、これはKarlinおよびAltschul (1990)の確率論的モデルに従って10の一致が単に偶然起こると予想される。一致に与えられる統計学的有意性がEXPECT閾値よりも大きい場合には、その一致は報告されないことになる。EXPECT閾値が低いほど厳密性が増し、報告される一致の機会が少なくなる。小数値も許容される(BLASTマニュアルのパラメータEを参照のこと)。
【0107】
CUTOFFは高いスコアのセグメント対を報告するカットオフスコアである。デフォルト値はEXPECT値から計算される(上記参照)。HSPは、それらに与えられる統計学的有意性がCUTOFF値と等しいスコアを有する単一のHSPに与えられるのと少なくとも同じ程度に高い場合にのみ、データベース配列について報告される。CUTOFF値が高いほど厳密性が高くなり、報告される一致の機会が少なくなる(BLASTマニュアルにおけるパラメータSを参照のこと)。典型的には、有意性の閾値はEXPECTを用いてより直感的に管理されうる。
ALIGNMENTSはデータベース配列を高スコアのセグメント対(HSP)が報告される特定の数に限定する。デフォルト限界は50である。報告について統計学的有意性の閾値を満たすためにこれが生じるよりもデータベース配列が多い場合には、最大の統計学的有意性を与えられた一致のみが報告される(BLASTマニュアルのパラメータBを参照のこと)。
【0108】
MATRIXはBLASTP、BLASTX、TBLASTNおよびTBLASTXについて代替のスコアマトリックスを特定する。デフォルトマトリックスはBLOSUM62(Henikoff & Henikoff, 1992)である。有効な代替選択肢としては、PAM40、PAM120、PAM250およびIDENTITYが含まれる。BLASTNについては代替のスコアマトリックスは利用できず、BLASTNにおけるMATRIXの指令の特定によってエラー応答に戻る。
【0109】
STRANDはTBLASTNサーチをデータベース配列の上部または下部鎖のみに限定する;あるいはBLASTN、BLASTXまたはTBLASTXサーチをクエリー配列の上部または下部鎖におけるリーディングフレームのみに限定する。
【0110】
FILTERはWootton & Federhen (1993) Computers and Chemistry 17:149-163のSEGプログラムにより評価した場合の組成の複雑性が低いクエリー配列のセグメント、またはClaverie & States (1993) Computers and Chemistry 17:191-201のXNUプログラムによりもしくはBLASTNの場合にはTatusov and Lipman(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)のDUSTプログラムにより評価した場合の短い周期の内部反復配列からなるセグメントのマスクを除去する。フィルタリングは、blast出力から、統計学的に有意であるが生物学的に重要ではない報告(例えば共通の酸性、塩基性もしくはプロリンリッチ領域に対するヒット)を排除することができ、データベース配列に対する特異的一致について入手可能なクエリー配列のより生物学的に重要な領域をそのままにする。
【0111】
フィルタープログラムにより発見された複雑度の低い配列は、ヌクレオチド配列においては文字「N」を用いて(例えば、「NNNNNNNNNNNNN」)、タンパク質配列においては文字「X」を用いて(例えば、「XXXXXXXXX」)置き換えられる。
【0112】
フィルタリングは、クエリー配列(またはその翻訳産物)のみに適用され、データベース配列には適用されない。デフォルトフィルタリングはBLASTNについてはDUSTであり、他のプログラムについてはSEGである。
【0113】
SWISS-PROTにおける配列に適用する場合、SEG、XNUまたはその両方によって何もマスクされないことは異常ではなく、そのためフィルタリングは常に効果を生じるものと予測されるべきではない。さらに、事例によっては、配列の全体がマスクされることもあり、このことは、フィルタリングされていないクエリー配列に対して報告された一致のいずれかの統計学的有意性が疑わしい可能性がある。
【0114】
NCBI-giは受託番号および/または遺伝子座名に加えて、出力中にNCBI gi識別子が示されるようにする。
【0115】
最も好ましくは、配列比較は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTに提供されている単純なBLASTサーチアルゴリズムを用いて実施する。いくつかの実施形態において、配列同一性を決定する場合にはギャップペナルティを使用しない。
【0116】
ハイブリダイゼーション
本発明者らはまた、本明細書に提示する配列、またはその任意の断片もしくは誘導体、または上記のいずれかの相補配列に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。
【0117】
ハイブリダイゼーションとは、「核酸の1本の鎖が塩基対合によって相補鎖と結合するプロセス」(Coombs J (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York NY)、ならびにDieffenbach CWおよびGS Dveksler(1995, PCR Primer, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY)により記載されているポリメラーゼ連鎖反応技術において行われる増幅プロセスを意味する。
【0118】
ハイブリダイゼーション条件は、BergerおよびKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」をもたらす。
【0119】
本明細書に提示するヌクレオチド配列またはその相補配列に選択的にハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列は、一般的に、本明細書に提示する対応のヌクレオチド配列に対して、少なくとも20、好ましくは少なくとも25または30、例えば少なくとも40、60もしくは100またはそれ以上の連続するヌクレオチドの領域にわたって、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%または90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%または98%の相同性を有する。好ましいヌクレオチド配列は、配列番号1、2または4に対して相同的な領域を含み、これらの配列の1つに対して少なくとも70%、80%または90%、より好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。
「選択的にハイブリダイズ可能な」という用語は、標的ヌクレオチド配列が該プローブとバックグラウンドを有意に超えるレベルでハイブリダイズするのが見られる条件のもとで、プローブとして用いられるヌクレオチド配列を使用することを意味する。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、他のヌクレオチド配列、例えばスクリーニング対象のcDNAまたはゲノムDNAライブラリに存在する他のヌクレオチド配列の故に生じうる。この事象において、バックグラウンドはプローブとライブラリの非特異的DNAメンバーとの間の相互作用によって生じるシグナルのレベルを意味し、そのレベルは標的DNAを用いて観察される特異的相互作用と比較して10倍低い、好ましくは100倍低い強度である。相互作用の強度は、例えばプローブを放射性標識する(例えば32Pを用いて)ことにより測定しうる。
【0120】
また、中程度から最大のストリンジェンシー条件下にて本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列も包含する。ハイブリダイゼーション条件は、BergerおよびKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press、San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」を与える。
【0121】
典型的には、最大ストリンジェンシーはおよそTm-5℃(プローブのTmより5℃低い温度)にて、高ストリンジェンシーはTmの約5℃〜10℃低い温度にて、中程度のストリンジェンシーはTmの約10℃〜20℃低い温度にて、低ストリンジェンシーはTmの約20℃〜25℃低い温度にて起こる。当業者であれば理解しうるように、最大ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、同一のヌクレオチド配列を同定または検出するために用いることができ、中程度の(または低)ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、類似のまたは関連するヌクレオチド配列を同定または検出するために用いることができる。
【0122】
好ましい実施形態において、ストリンジェントな条件(例えば、65℃および0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mエン酸Na3 pH7.0})においてKv9.2サブユニットヌクレオチド配列の1以上とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。ヌクレオチド配列が二本鎖である場合、二本鎖の両方の鎖を個々にまたは組み合わせて本開示内に包含される。ヌクレオチド配列が一本鎖である場合、これは、ヌクレオチド配列の相補配列も含まれることを理解されたい。
【0123】
本発明者らはさらに、本明細書に提示する配列に対して相補的な配列、またはその任意の断片もしくは誘導体に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。同様に、本発明者らは、既に記載した配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的なヌクレオチド配列を開示する。これらのタイプのヌクレオチド配列は、変異体ヌクレオチド配列の例である。この点に関し、「変異体」という用語は、本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。しかしながら好ましくは、「変異体」という用語は、ストリンジェントな条件(例えば、65℃および0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Na3 pH7.0})において本明細書に提示するヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。
【0124】
Kv9.2サブユニットおよび相同体のクローニング
本発明者らはさらに、本明細書に提示する配列、またはその任意の断片もしくは誘導体に対して相補的なヌクレオチド配列を開示する。配列がその断片に対して相補的である場合には、その配列をプローブとして用いて、他の生物における類似のサブユニット配列を同定およびクローニングすることなどが可能である。
【0125】
本明細書の開示によりKv9.2、その相同体およびヒトおよび他の種(マウス、ブタ、ヒツジなど)に由来する他の構造的もしくは機能的に関連した遺伝子のクローニングを行うことが可能となる。配列番号1、配列番号2、配列番号4、またはそれらの断片に含まれるヌクレオチド配列と同一または十分に同一性を有するポリヌクレオチドは、適当なライブラリからKv9.2サブユニットをコードする全長または部分的cDNAおよびゲノムクローンを単離するための、cDNAおよびゲノムDNAのためのハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。そのようなプローブはまた、Kv9.2遺伝子に対して配列類似性、好ましくは高い配列類似性を有する他の遺伝子(ヒト以外の種に由来するホモログおよびオルソログをコードする遺伝子を含む)のcDNAおよびゲノムクローンを単離するために用いることができる。ハイブリダイゼーションスクリーニング、クローニングおよび配列決定技術は、当業者に公知であり、例えばSambrookら(前掲)に記載されている。
【0126】
典型的には、プローブとして使用するために好適なヌクレオチド配列は、対象の配列に対して70%の同一性、好ましくは80%の同一性、より好ましくは90%の同一性、よりさらに好ましくは95%の同一性を有する。プローブは、一般的に少なくとも15ヌクレオチドを含みうる。そのようなプローブは、好ましくは少なくとも30ヌクレオチドを有し、少なくとも50ヌクレオチドを有してもよい。特に好ましいプローブは、150〜500ヌクレオチドの範囲であり、より特には約300ヌクレオチドである。
【0127】
一実施形態において、Kv9.2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(ヒト以外の種に由来するホモログおよびオルソログを含む)を得るためには、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1、配列番号2、配列番号4またはそれらの断片を有する標識プローブを用いて適当なライブラリをスクリーニングするステップ、そのようなポリヌクレオチド配列を含む全長または部分的なcDNAおよびゲノムクローンを単離するステップを含む。そのようなハイブリダイゼーション技術は当業者に周知である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は上述の通りであり、またはあるいは50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中で42℃での一晩のインキュベーションと、その後の65℃での0.1 X SSCにおけるフィルターの洗浄での条件である。
【0128】
Kv9.2含有イオンチャネルの機能アッセイ
クローニングされた推定Kv9.2イオンチャネルポリヌクレオチドは、配列解析または機能アッセイによって検証することができる。特に、上述したようにトランスフェクトしたアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞のコンダクタンスは、以下に記載するスクリーニングアッセイにおいて有用な、Kv9.2活性を測定し定量する手段として検出することができる。そのようなアフリカツメガエル卵母細胞アッセイを、便宜上「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」と称する。
【0129】
推定Kv9.2イオンチャネルサブユニットまたは相同体は、以下のように「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」において活性についてアッセイすることができる。Kv9.2のcDNAをコードする線状化プラスミド鋳型からのキャップ付加RNA転写産物を標準的手法に従ってRNAポリメラーゼを用いてin vitroで合成する。in vitro転写産物を最終濃度0.2mg/mlとなるように水に懸濁する。葉卵巣を成体雌ヒキガエルから取り出し、ステージVの脱卵胞した卵母細胞を得、RNA転写産物(10ng/卵母細胞)をマイクロインジェクション装置を用いて50nlボーラス注射する。他のKvサブユニット、例えばKv2.1、Kv4.2をコードするRNAも注射してヘテロマーチャネルを形成させてもよい。2つの電極電圧クランプを用いて、アゴニスト暴露に応答した個々のアフリカツメガエル卵母細胞からの電流を測定する。電流の記録は、(単位mMで)NaCl 115、KCl 2.5、CaCl2 1.8、NaOH-HEPES 10、pH7.2からなる標準培地で室温にて行う。アフリカツメガエルの系はまた、以下にさらに詳述するようなリガンドの活性化について既知のリガンドおよび組織/細胞抽出物をスクリーニングするために用いることもできる。
【0130】
代わりの機能アッセイとしては、パッチクランプ電気生理学、Rbフラックス、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析およびFLIPR分析が挙げられ、それには、細胞の膜電圧を研究するための電圧感受性色素の使用が含まれる。FLIPR分析は、Whiteakerら, J Biomol Screen. 2001 Oct;6(5):305-1に記載される一方、FRETに基づくアッセイは、Falconerら, J Biomol Screen. 2002 Oct;7(5):460-5に記載されている。
【0131】
特に、本発明者らは、Rbフラックスを検出しならびにスクリーニングし、Rbフラックスの変化を検出してKv9.2のアゴニストとアンタゴニストを同定するアッセイを開示する。放射標識Rbフラックス(flux)を測定する方法は、Rezazadehら, J Biomol Screen. 2004 Oct;9(7):588-97に、かつ非放射標識Rbフラックスアッセイは、Assay Drug Dev Technol. 2004 Oct;2(5):525-34に概要が記載されている。好ましくは%Rb流出(efflux)を本アッセイにおいて測定する。
【0132】
そのような機能アッセイを、本明細書において「Kv9.2(Rbフラックス)の機能アッセイ」と呼ぶ。
【0133】
特に、本発明者らはKv9.2のアンタゴニストが好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を低下する方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアンタゴニストの存在のもとで10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。
【0134】
本発明者らはさらに、Kv9.2のアゴニストが好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を増加する方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアゴニストの存在のもとで10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増加する。
【0135】
細胞からの流出Rb+放出の動力学的分析は、次式を用いて残留R百分率として表現することができる:
R=[Rblysate/(Rbsupern+Rblysate)]x100。
【0136】
色々な時点における脱分極およびアゴニストに刺激されたRb+流出(Rs)は、次式によって決定することができる:
Rs=(1-[(Rtot-R-Rbasal)/-Rbasal])x100。
【0137】
Kv9.2ポリペプチドをさらに、活性化、失活(deactivation)および不活性化(inactivation)を含むその動力学についてアッセイすることができる。活性化時間は、全電流が標準条件のもとでKv9.2含有チャネル全体に確立されるのにかかる時間であり、その失活時間は標準条件のもとで全電流がゼロになる時間である。Kv9.2動力学のモジュレーション、増加または減少に言及する場合、これは、好ましくは、Kv9.2活性化時間、またはKv9.2失活時間、またはその両方のモジュレーション、増加または減少に言及すると理解されるべきである。
【0138】
好ましい実施形態においては、活性化時間定数を活性化時間の尺度として用い、かつ失活時間定数を失活時間の尺度として用いる。Kv9.2含有チャネルの典型的な活性化時間定数は21msである。典型的な半失活電位V1/2 inactは-33mVであり、V1/2 inactを失活のさらなるまたは代わりの動力学パラメーターとしてアッセイすることができる。
【0139】
Kv9.2含有チャネルのモジュレーター、例えばオープナー、アゴニスト、ブロッカーおよびアンタゴニストは、Kv9.2含有チャネルの動力学、好ましくは活性化時間、不活性化時間、失活時間、失活動力学、半不活性化時間の電位などのいずれか1以上を変えること、すなわち増加または減少させることができる。
【0140】
特にアゴニストおよびオープナーは、活性化時間および/または失活時間(好ましくは活性化時間および/または失活時間定数)を、例えば、活性化時間を20ms、18ms、16ms、または15msまたはそれ以下に減少させることにより、活性化時間を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上減少させることができる分子である。
【0141】
同様にKv9.2のアンタゴニストまたはブロッカーは、活性化時間および/または失活時間を、例えば、活性化時間を22ms、25msまたは27msまたはそれ以上に増加させることにより、活性化時間を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上増加させることができる。
【0142】
動力学そして特に活性化時間は、好ましくは、「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて、電流の時間経過をとり、かつ全電流が確立されるためにかかる時間を確立して測定する。同様に不活性化時間は、「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて、電流の時間経過をとり、かつ全電流がゼロに低下するためにかかる時間を確立して測定する。
【0143】
あるいは、失活動力学を測定してもよく、ここで、失活動力学はプレパルス(例えば、500msの間、+50MV)後の再分極化パルス(例えば-48mV)の後にチャネルが失活するのにかかる時間である。Kv9.2含有チャネルの失活動力学のための典型的な値は44msである。
【0144】
Kv9.2の発現アッセイ
Kv9.2サブユニット関連疾患および症候群を治療するのに有用な治療薬を設計するためには、Kv9.2(野生型または特定の突然変異体)の発現プロフィールの決定が有用である。したがって、Kv9.2が発現されている器官、組織、および細胞型(同様に発生ステージ)を決定するために、当技術分野で公知の方法が用いられるであろう。例えば、伝統的ノーザンまたは「電子式」ノーザンを行うことができる。逆転写酵素PCR(RT-PCR)も、Kv9.2遺伝子または突然変異体の発現をアッセイするのに利用できる。Kv9.2の発現プロフィールを決定するための、さらに感度が高い方法には、当技術分野で公知のRNAseプロテクションアッセイが含まれる。
【0145】
ノーザン分析は、遺伝子の転写産物の存在を検出するのに用いられる実験室技法であり、特定の細胞型または組織からのRNAが結合した膜への、標識されたヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを含む(Sambrook、前掲、第7章、ならびにAusubel、F.M.ら、前掲、第4および16章)。BLASTを利用した類似のコンピュータ技法(「電子ノーザン」)は、GenBankデータベース、またはLIFESEQデータベース(Incyte Pharmaceuticals社)などのヌクレオチドデータベース中にある同一もしくは関連の分子をサーチするのに用いることができる。このタイプの分析の利点は、それらが、複数の膜をベースにしたハイブリダイゼーションより速いことにある。加えて、コンピュータサーチでは、その感度を変更することによって、特定の一致が、正確であると分類されるものか、または相同であると分類されるものか判定することができる。
【0146】
上述のプローブを含むポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、本明細書の他の箇所でより詳細に説明するように、動物およびヒトの疾患に対する治療および診断を発見するための研究用の試薬および物質として利用することができる。
【0147】
Kv9.2ポリペプチドの発現
本発明者らはさらに、Kv9.2ポリペプチドの製造方法を開示する。該方法は、一般的に、他のKvファミリーを伴うまたは伴わないKv9.2ポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードする核酸を含む宿主細胞を好適な条件(すなわちKv9.2ポリペプチドが発現する条件)で培養することを含む。
【0148】
生物学的に活性なKv9.2含有イオンチャネルを発現するためには、Kv9.2サブユニットまたはその相同体、変異体、もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を、適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含有するベクターに挿入する。
【0149】
Kv9.2サブユニットをコードする配列と、適当な転写制御エレメントおよび翻訳制御エレメントとを含有する発現ベクターの構築は、当業者に周知の方法を用いて行う。これらの方法には、in vitroの組換えDNA技法、合成技法、およびin vivoの遺伝子組換えが含まれる。そのような技法は、Sambrook, J.ら(1989年;「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」, 第4, 8, および16〜17章, Cold Spring Harbor Press社, Plainview, N.Y.)、および、Ausubel, F. M.ら(1995年および定期補足;「Current Protocols in Molecular Biology」, 第9, 13, および16章, John Wiley & Sons社, New York、N.Y.)に記載されている。
【0150】
Kv9.2サブユニットをコードする配列を含有および発現するために様々な発現ベクター/宿主系を利用することができる。これらには、限定されるものでないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌などの微生物;酵母発現ベクターで形質転換された酵母;ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)もしくはタバコモザイクウイルス(TMV))、または細菌発現ベクター(例えばTiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換された植物細胞系;または、動物細胞系が含まれる。本開示は使用する宿主細胞により限定されるものでない。
【0151】
「制御エレメント」または「調節配列」は、ベクターの非翻訳領域(すなわち、エンハンサー、プロモーター、ならびに5'および3'の非翻訳領域)であって、それらの領域が宿主細胞タンパク質と相互作用することによって、転写および翻訳が実施される。そのようなエレメントの強度および特異性は様々でありうる。利用するベクター系および宿主に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターを含めた、いくつかの数の様々な適当な転写エレメントおよび翻訳エレメントを用いることができる。例えば、細菌系にクローニングする場合には、BLUESCRIPTファージミド(Stratagene社、La Jolla、Calif.)またはPSPORT1プラスミド(GIBCO/BRL社)のハイブリッドlacZプロモーター、および同様のものなどの誘導性プロモーターを用いることができる。昆虫細胞では、バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターを用いることができる。植物細胞のゲノムに由来するプロモーターもしくはエンハンサー(例えば、熱ショック、RUBISCO、および貯蔵タンパク質遺伝子)、または植物ウイルスに由来するもの(例えば、ウイルスのプロモーターまたはリーダー配列)を、ベクターにクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子または哺乳動物ウイルスからのプロモーターが好ましい。Kv9.2サブユニットをコードする配列を複数コピー含有する細胞系の作製が必要である場合には、適当な選択マーカーを有する、SV40またはEBVに基づくベクターを用いることができる。
【0152】
細菌系では、意図されているKv9.2サブユニットの用途に応じて、多数の発現ベクターを選択することができる。例えば、抗体を誘導するのに大量のKv9.2サブユニットが必要である場合、容易に精製される融合タンパク質の高レベル発現を指示するベクターを用いることができる。限定されるものではないが、そのようなベクターには、BLUESCRIPT(Stratagene社)、pINベクター(Van Heeke, G.およびS. M. Schuster (1989), J. Biol. Chem. 264: 5503〜5509)、および同様のものなどの、多機能性大腸菌クローニングベクターおよび発現ベクターが含まれ、前記BLUESCRIPTでは、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、β-ガラクトシダーゼのアミノ末端のMetおよびそれに続く7残基の配列とインフレームになるようにベクター中に連結させて、それによりハイブリッドタンパク質を生成させることができる。pGEXベクター(Promega社、Madison、Wis.)も、外来のポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現するのに使用できる。一般的には、そのような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン-アガロースビーズに吸着させて、それに続いて、遊離グルタチオンの存在下で溶出させることによって、溶解した細胞から容易に精製することができる。そのような系で生成されたタンパク質は、クローニングした目的のポリペプチドをGST部分から自在に放出できるように、へパリン、トロンビン、または第XA因子のプロテアーゼ切断部位を含むように設計することができる。
【0153】
酵母サッカロミセス・セレビシエでは、アルファ因子、アルコール酸化酵素、およびPGHなどの構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを用いることができる。概説には、Ausubel(前掲)およびGrantら(1987年; Methods Enzymol. 153: 516〜544)をされたい。
【0154】
植物発現ベクターを使用する場合、Kv9.2サブユニットをコードする配列の発現は、多数のプロモーターのうちの任意のものによって駆動させることができる。例えば、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーターなどのウイルスプロモーターを、単独で、あるいはTMVのオメガリーダー配列と組み合わせて用いることができる(Takamatsu, N. (1987), EMBO J. 6: 307〜311)。別法として、RUBISCOの小サブユニットプロモーターまたは熱ショックプロモーターのなどの植物プロモーターを用いることもできる(Coruzzi, G.ら(1984), EMBO J. 3: 1671〜1680;Broglie, R.ら(1984), Science 224: 838〜843;およびWinter, J.ら(1991), Results Probl. Cell Differ. 17: 85〜105)。これらの構築物は、直接的なDNA形質転換または病原体の媒介によるトランスフェクションによって、これらの植物細胞の中に導入することができる。そのような技法は、一般的に利用可能な多数の総説に記載されている(例えば、McGraw Hill Yearbook of Science and Technology (1992)におけるHobbs, S.またはMurry, L. E., McGraw Hill社, New York, N.Y.; 191〜196頁を参照)。
Kv9.2サブユニットを発現するのに、昆虫系を用いることもできる。例えば、そのような系の1つでは、外来遺伝子をスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞またはトリコプルシア(Trichoplusia)幼虫で発現するのに、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体ウイルス(AcNPV)をベクターとして用いる。Kv9.2サブユニットをコードする配列は、このウイルスにおけるポリヘドリン遺伝子など、必須ではない領域にクローニングして、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置くことができる。Kv9.2サブユニットの挿入に成功すれば、ポリヘドリン遺伝子を不活性化して、コートタンパク質を欠失した組換えウイルスを生成するであろう。この組換えウイルスは、その後、例えばS.フルギペルダ細胞またはトリコプルシア幼虫に感染させるのに用いることができ、それらの中でKv9.2含有イオンチャネルを発現させることができる(Engelhard, E. K.ら(1994), Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 3224〜3227)。
【0155】
哺乳動物宿主細胞では、多数のウイルスベースの発現系を利用することができる。発現ベクターとしてアデノウィルスを用いる場合、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、後期プロモーターおよびトリパータイトリーダー配列からなるアデノウィルス転写/翻訳複合体に連結することができる。このウイルスゲノムの非必須領域であるE1またはE3領域への挿入を利用して、感染した宿主細胞でKv9.2サブユニットを発現できる生存ウイルスを得ることができる(Logan, J.およびT. Shenk (1984), Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 3655〜3659)。加えて、哺乳動物宿主細胞での発現を増強するのに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーなどの転写エンハンサーを用いることもできる。
【0156】
従って、例えば、Kv9.2含有イオンチャネルを、ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞または付着性CHO細胞のいずれかで発現させる。最大のチャネル発現を達成するため、典型的には、pCDNまたはpCDNA3ベクターへの挿入前に全ての5'および3'非翻訳領域(UTR)をKv9.2 cDNAから除去する。細胞をリポフェクションにより個々のcDNAでトランスフェクトし、400mg/ml G418の存在下で選択する。3週間の選択後、個々のクローンを取り上げ、さらなる分析のために増殖させる。ベクター単独をトランスフェクトしたHEK293細胞またはCHO細胞を陰性対照として用いる。個々のチャネルを安定に発現する細胞系を単離するため、約24のクローンを典型的に選択し、ノーザンブロット分析で分析する。チャネルmRNAは一般的に分析したG418耐性クローンの約50%において検出可能である。
【0157】
プラスミド中に含有させて、発現させることのできるものより大きいDNA断片を送達させるために、ヒト人工染色体(HAC)を利用することもできる。治療目的には、約6kbから10MbのHACを構築して、慣用の送達方法(リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、または小胞)で送達する。
【0158】
Kv9.2サブユニットをコードする配列のより効率的な翻訳を実現するために、特定の開始シグナルを用いることもできる。そのようなシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。Kv9.2サブユニットをコードする配列と、その開始コドンおよび上流配列とを適切な発現ベクターに挿入する場合には、それらに追加して、いかなる転写制御シグナルも、あるいは翻訳制御シグナルも必要ないであろう。しかし、コード配列またはその断片のみを挿入する場合には、ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供するべきである。さらに、開始コドンは、挿入配列全体の翻訳を確実にするために、正しいリーディングフレームにあるべきである。外因性の翻訳エレメントおよび開始コドンは、天然のものおよび合成のもの両方の様々な由来のものでよい。発現の効率は、文献に記載されているものなど、使用される特定の細胞系に適したエンハンサーを含有させることによって増強することができる(Scharf, D.ら(1994), Results Probl. Cell Differ. 20: 125〜162)。
【0159】
加えて、宿主細胞株を、それが挿入配列の発現をモジュレートする能力、または、発現されたタンパク質を望ましい様式でプロセシングする能力によって選択することができる。そのようなポリペプチドの修飾には、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化が含まれるが、これらに限定されない。「プレプロ」型のタンパク質を切断する翻訳後プロセシングも、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促進するのに利用することができる。翻訳後活性のための特定の細胞機構および独特のメカニズムを有する様々な宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、HEK293、およびWI38)は、ATCC(American Type Culture Collection、Bethesda、Md.)から入手することができ、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングが確実となるように選択することができる。
【0160】
組換えタンパク質の長期的かつ高収率の生産には、安定した発現が好ましい。例えば、Kv9.2ホモもしくはヘテロマーのイオンチャネルを安定的に発現できる細胞系は、ウイルスの複製起点および/または内因性発現エレメントと、選択マーカー遺伝子とを、同一または別個のベクター上に含有するであろう発現ベクターを用いて形質転換することができる。細胞は、ベクターを導入した後、選択培地に切り換える前に、濃縮培地中で約1日から2日間増殖させることができる。選択マーカーの目的は、選択に対する耐性を付与することであり、それが存在することによって、導入された配列を良好に発現する細胞の増殖と、回収とを可能にする。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適した組織培養技法を用いて増殖させることができる。
【0161】
いくつかの数の選択系を、形質転換細胞系を回収するに用いることができる。限定されるものではないが、これらには単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(Wigler, M.ら(1977), Cell 11: 223〜32)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowy, I.ら(1980), Cell 22: 817〜23)が含まれ、これらはそれぞれ、tk-細胞またはapr-細胞で用いることができる。また、代謝拮抗物質、抗生物質、もしくは除草剤耐性も、選択の基礎として用いることができる。例えば、dhfrはメトトレキセートに対する耐性を付与し(Wigler, M.ら(1980), Proc. Natl. Acad. Sci. 77: 3567〜70);nptはアミノグルコシドネオマイシンおよびG-418に対する耐性を付与し(Colbere-Garapin, F.ら(1981), J. Mol. Biol. 150: 1〜14);そして、alsまたはpatはそれぞれ、クロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与する(Murry、前掲)。他の選択可能な遺伝子、例えば、trpBまたはhisDが既に記載されており、trpBは、トリプトファンの代わりに、細胞によるインドールの利用を可能にし、hisDは、ヒスチジンの代わりに、細胞によるヒスチノールの利用を可能にする(Hartman, S. C.およびR. C. Mulligan (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 8047〜51)。最近では、可視マーカーの使用が好まれるようになっており、そのようなマーカーには、アントシアニン、β-グルクロニダーゼおよびその基質GUS、ならびにルシフェラーゼおよびその基質ルシフェリンがある。これらのマーカーは、形質変換体を同定するのみでなく、特定のベクター系に起因する一過性または安定的なタンパク質発現の量を定量化するのにも使用できる(Rhodes, C. A.ら(1995), Methods Mol. Biol. 55: 121〜131)。
【0162】
マーカー遺伝子発現の存在/不在は、目的の遺伝子も存在することを示唆するが、その遺伝子の存在および発現を確認する必要がある場合もある。例えば、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、マーカー遺伝子配列中に挿入する場合、マーカー遺伝子機能の不在によって、Kv9.2サブユニットをコードする配列を含有する形質転換細胞を同定することができる。別法として、マーカー遺伝子を、Kv9.2サブユニットをコードする配列と直列にして、単一のプロモーターの制御下に配置することもできる。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は、通常、直列の遺伝子の発現も示す。
【0163】
別法として、Kv9.2サブユニットをコードする核酸配列を含有し、かつKv9.2サブユニットを発現する宿主細胞を、当業者に公知の様々な手法によって同定することもできる。これらの手法には、限定されるものでないが、核酸配列またはタンパク質配列を検出および/または定量するための、膜、溶液、またはチップベースの技法を含めた、DNA-DNAもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーション、およびタンパク質のバイオアッセイ技法またはイムノアッセイ技法が含まれる。
【0164】
Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチド配列の存在は、Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドのプローブまたは断片を用いた、DNA-DNAもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーション、または増幅によって検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイは、Kv9.2サブユニットをコードする配列に基づいたオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーを使用して、Kv9.2サブユニットをコードするDNAまたはRNAを含有する形質転換体を検出することを含む。
【0165】
タンパク質に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いて、Kv9.2サブユニットの発現を検出および測定するための様々なプロトコルが当技術分野で知られている。そのような技法の例には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)が含まれる。Kv9.2サブユニット上の2箇所の非干渉性エピトープに反応するモノクローナル抗体を利用した二部位(two-site)のモノクローナルに基づくイムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを利用することもできる。これらのアッセイおよび他のアッセイは、当技術分野で詳細に記載されており、例えば、Hampton, R.ら(1990年;「Serological Methods, a Laboratory Manual」, Section IV, APS Press社, St Paul、Minn.)、およびMaddox, D. E.ら(1983年; J. Exp. Med. 158: 1211〜1216)に記載されている。
【0166】
様々な標識および結合技法が、当業者に知られており、様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイで用いることができる。Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドに関連した配列の検出用に標識されたハイブリダイゼーションプローブまたはPCRプローブを生成する手段には、オリゴ標識、ニックトランスレーション法、末端標識法、または標識されたヌクレオチドを用いたPCR増幅が含まれる。別法として、mRNAプローブを生成するために、Kv9.2サブユニットまたは任意のその断片をコードする配列を、ベクターにクローニングすることもできる。そのようなベクターは、当技術分野で公知であり、市販されており、T7、T3、またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼと、標識されたヌクレオチドとを添加することによって、RNAプローブをin vitroで合成するのに用いることができる。これらの手法は、Pharmacia & Upjohn社(Kalamazoo、Mich.)、Promega(Madison、Wic.)、およびU.S. Biochemical Corp.社(Cleveland、Ohio)によって販売されているものなど、市販されている様々なキットを用いて実施することができる。適当なレポーター分子、または検出を容易にするのに用いることのできる標識には、放射性核種、酵素、蛍光、化学発光、または色素生成物質が含まれ、さらに基質、補因子、阻害因子、磁性粒子、および同様のものも含まれる。
【0167】
Kv9.2サブユニットをコードするヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現、および細胞培養物からのタンパク質の回収に適した条件下で培養することができる。形質転換細胞によって生成されたタンパク質は、用いられた配列および/またはベクターに応じて、細胞膜中に局在する場合も、分泌される場合も、細胞内に含有される場合もある。当業者ならば理解するであろうが、Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、原核細胞または真核細胞の細胞膜を通したKv9.2サブユニットの分泌を指示するシグナル配列を含有するように設計することができる。可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に、Kv9.2サブユニットをコードする配列を連結する、他の構築物を用いることもできる。精製を容易にするそのようなドメインには、限定されるものでないが、固定化された金属上での精製を可能にするヒスチジン-トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化された免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、および、FLAGS伸長/アフィニティ精製系(Immunex Corp.社、Seattle、Wash.)で用いられるドメインが含まれる。精製を容易にするために、精製用ドメインと、Kv9.2サブユニットをコードする配列との間に、第XA因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen社、San Diego、Calif.)に特異的なものなど、切断可能なリンカー配列を包含させることもできる。そのような発現ベクターの1つは、Kv9.2サブユニットと、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6ヒスチジン残基をコードする核酸とを含有する融合タンパク質の発現を提供する。ヒスチジン残基は、固定化された金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMIAC;Porath、J.、ら(1992)、Prot. Exp. Purif. 3: 263〜281に記載)での精製を容易にし、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質からKv9.2サブユニットを精製する手段を提供する。融合タンパク質を含有するベクターに関する考察は、Kroll, D. J.ら(1993年; DNA Cell Biol. 12: 441〜453)に提供さ
れている。
【0168】
Kv9.2サブユニットの断片は、組換え生成によって生成されるのみでなく、固相法を用いた直接的ペプチド合成によっても生成することができる(Merrifield J. (1963), J. Am. Chem. Soc. 85: 2149〜2154)。タンパク質合成は、手動の技法によっても、自動化によっても実施できる。自動化による合成は、例えば、Applied Biosystems 431Aペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer社)を用いて実現できる。Kv9.2サブユニットの様々な断片を別々に合成して、その後、結合させて全長分子を生成させることができる。
【0169】
バイオセンサー
Kv9.2ポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクターおよびリガンドはバイオセンサーとして(およびその作製のために)有用である。
【0170】
Aizawa (1988), Anal. Chem. Symp. 17: 683によると、バイオセンサーとは、分子認識のための標的、例えば選択層と、固定化された抗体またはタンパク質(Kv9.2など)との特有の組み合わせと、測定された値を伝達するトランスデューサであると定義される。そのようなバイオセンサーの1つのグループは、チャネルとその周囲の媒体との相互作用によって表面層の光学特性に生じる変化を検出するものである。そのような技術の中で、特に偏光解析法および表面プラズモン共鳴を挙げることができる。Kv9.2を組み込むバイオセンサーは、Kv9.2リガンドの存在またはレベルの検出に用いることができる。そのようなバイオセンサーの構築は当技術分野で周知である。
【0171】
スクリーニングアッセイ
Kv9.2ポリペプチド(相同体、変異体および誘導体を含む)は、それが天然または組換えであっても、Kv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルに結合し、Kv9.2を活性化する(アゴニスト)または活性化を阻害する(アンタゴニストもしくはブロッカー)化合物についてのスクリーニング方法において用いることができる。従って、そのようなポリペプチドはまた、例えば細胞、無細胞調製物、化学ライブラリおよび天然産物の混合物における、小分子基質およびリガンドの結合を評価するために用いることも可能である。これらの基質およびリガンドは、天然基質およびリガンドであってもよいし、または構造的もしくは機能的模倣物であってもよい。Coliganら, Current Protocols in Immunology 1(2):Chapter 5 (1991)を参照のこと。
【0172】
Kv9.2イオンチャネルポリペプチドは、多くの生物学的機能(疼痛および疼痛関連疾患などの多くの病理学を含む)に寄与する。従って、一方ではKv9.2含有イオンチャネルを刺激するが、他方ではKv9.2イオンチャネルの機能を阻害しうる化合物および薬剤を見出すことが望ましい。一般的に、Kv9.2関連疾患などの疼痛関連疾患のための治療および予防目的でアゴニストおよびアンタゴニストが用いられる。そのような化合物および薬物は、例えば、鎮痛薬または痛み軽減薬として用いることができる。
【0173】
Kv9.2イオンチャネルタンパク質と相互作用する可能性が高い候補化合物の合理的設計は、ポリペプチドの分子形状の構造的研究に基づいて行いうる。特異的な他のタンパク質と相互作用する部位を特定するための1つの手段は、物理的構造決定、例えばX線結晶学または二次元NMR技術である。これらによって、どのアミノ酸残基が分子接触領域を形成するかの示唆を得ることができる。タンパク質構造決定の詳細な説明については、例えばBlundellおよびJohnson (1976) Protein Crystallography, Academic Press、New Yorkを参照のこと。
【0174】
合理的設計に代わる方法は、Kv9.2イオンチャネルポリペプチドをその表面上に発現する適当な細胞を作製することを一般的に含むスクリーニング手法を利用する。そのような細胞としては、動物、酵母、ショウジョウバエ(Drosophila)または大腸菌由来の細胞が挙げられる。Kv9.2を発現する細胞(または発現されたタンパク質を含む細胞膜)を次に被験化合物と接触させて、結合、または機能的応答の刺激もしくは阻害を観察する。例えば、アフリカツメガエル卵母細胞にKv9.2 mRNAまたはポリペプチドを注入し、本明細書中に詳述するように電圧固定法を使用して被験化合物への暴露により誘導される電流を測定する。
【0175】
各候補化合物を個々にKv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルを用いて試験する代わりに、候補リガンドのライブラリまたはバンクを作製してスクリーニングすることが有利でありうる。従って、例えば200を超える推定リガンドのバンクがスクリーニング用に構築されている。バンクには、イオンチャネルを介して作用することが知られる伝達物質、ホルモンおよびケモカイン;イオンチャネルの推定アゴニストと考えられる天然化合物、哺乳動物由来の対応物がまだ同定されていない非哺乳動物由来の生物学的に活性なペプチド;ならびに天然には見出されないが未知の天然リガンドと共にイオンチャネルを活性化する化合物が含まれる。
【0176】
このバンクを用いて、本明細書に詳述するような、機能アッセイ(すなわち、Rbフラックスアッセイ、FRETアッセイ、FLIPRアッセイ、全細胞電気生理学、卵母細胞電気生理学など、他の箇所も参照)ならびに結合アッセイの両方を用いて、既知のリガンドについてKv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルをスクリーニングすることができる。しかしながら、多数の哺乳動物チャネルは、未だ対応する活性化リガンド(アゴニスト)または脱活性化リガンド(アンタゴニスト)がないままである。このように、これらの受容体に対する活性リガンドは、現在まで同定されたリガンドバンクに含まれてないかも知れない。従って、Kv9.2を組織抽出物に対して機能的にスクリーニングして、天然リガンドを同定してもよい(卵母細胞電気生理学など、機能的スクリーニングを用いる)。陽性の機能的応答をもたらす抽出物を逐次小分画化し、その画分を、活性化リガンドが単離および同定されるまで本明細書に記載のようにアッセイしてもよい。
【0177】
別の方法では、Kv9.2含有イオンチャネルの阻害または刺激を測定することによりイオンチャネル阻害剤をスクリーニングする。そのような方法では、Kv9.2サブユニットを、単独でホモマーチャネルを形成するようにまたは他のKvチャネルサブユニットと共にヘテロマーチャネルを形成するように、真核細胞にトランスフェクトして、その細胞表面上にイオンチャネルを発現させる。次に細胞をKv9.2含有イオンチャネルの存在下にてアンタゴニスト候補に暴露する。細胞は、全細胞電気生理学を用いて試験し、コンダクタンスまたは電流の動力学の変化を測定する。
【0178】
Kv9.2のアゴニストまたはアンタゴニストを検出するための別の方法は、米国特許第5,482,835号に記載のような酵母に基づく技術であり、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0179】
好ましい実施形態において、スクリーニングは、Kv9.2のアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングするためにコンダクタンスの変化の検出を利用する。特に、本発明者らは、Kv9.2のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のコンダクタンスを低下させるという方法を開示する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pSまたはそれ以上低下する。
【0180】
さらに、本発明者らは、Kv9.2のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のコンダクタンスを増大させるという方法を開示する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増大する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pSまたはそれ以上増大する。
【0181】
さらに好ましい実施形態において、スクリーニングは、Kv9.2のアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングするために放射標識したRbフラックス、好ましくは%Rb流出の変化の検出を利用する。好ましくは、スクリーニングは、「Kv9.2の機能アッセイ(Rbフラックス)」において上述した機能アッセイを利用する。
【0182】
特に、本発明者らは、Kv9.2のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を低下させるという方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。
【0183】
特に、本発明者らは、Kv9.2のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を増大させるという方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増大する。
【0184】
候補化合物がタンパク質、特に抗体またはペプチドである場合、候補化合物のライブラリを、ファージディスプレイ法を用いてスクリーニングすることが可能である。ファージディスプレイは、組換えバクテリオファージを用いる分子スクリーニング・プロトコルの1つである。この技術では、バクテリオファージを候補化合物のライブラリに由来する1つの化合物をコードする遺伝子で形質転換し、各ファージまたはファージミドが特定の候補化合物を発現するようにする。形質転換したバクテリオファージ(好ましくは固相支持体に連結している)は、適当な候補化合物を発現し、そのファージコート上にそれを提示する。Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドに結合することができる特異的候補化合物を、アフィニティ相互作用に基づく選抜手法で濃縮する。続いて良好に反応した候補薬剤の特性決定を行う。ファージディスプレイは、標準的なアフィニティリガンドスクリーニング技術よりも利点がある。ファージ表面は、より天然の構造に類似した三次元構造で候補薬剤を提示する。これにより、スクリーニング目的のためのアフィニティ結合がより特異的にかつより高くなる。
【0185】
化合物ライブラリをスクリーニングする別の方法は、化合物ライブラリを発現する組換えDNA分子で安定に形質転換した真核または原核宿主細胞を利用する。そのような細胞は、生存していてもまたは固定されていても、標準的な結合パートナーアッセイに用いることができる。また、細胞応答を検出する高感度の方法を記載するParceら, (1989) Science 246:243-247;およびOwickiら, (1990) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 87;4007-4011を参照されたい。競合アッセイが特に有用であり、これは、化合物ライブラリを発現する細胞を、Kv9.2ポリペプチドと結合することが知られる標識抗体(125I-抗体など)と接触させるかまたはそれと共にインキュベートし、結合組成物に対する結合アフィニティを有する試験サンプル(候補化合物など)を測定するものである。続いて、ポリペプチドに対して結合したおよび遊離の標識結合パートナーを分離して、結合の程度を評価する。結合した試験サンプルの量はポリペプチドに結合した標識抗体の量と反比例する。
【0186】
多数の技術のいずれか1つを用いて、遊離結合パートナーから結合した結合パートナーを分離し、結合の程度を評価することができる。この分離ステップは、典型的にはフィルターへの付着とその後の洗浄、プラスチックへの付着とその後の洗浄、または細胞膜の遠心分離などの手順を含む。
【0187】
また別の手法は、例えば形質転換した真核または原核宿主細胞から抽出された、可溶化、未精製または可溶化精製ポリペプチドまたはペプチドを用いる。これにより、特異性の増大、自動化可能性、および薬物試験ハイスループット(高速処理能力)の利点を有する「分子」結合アッセイが可能になる。
【0188】
候補化合物スクリーニングの別の手法は、例えばKv9.2ポリペプチドに対する好適な結合アフィニティを有する新規化合物をハイスループットでスクリーニングする方法を含み、詳細には、国際特許出願第WO84/03564号(Commonwealth Serum Labs.、1984年9月13日公開)に記載されている。最初に、多数の異なる小ペプチド試験化合物を固相基板、例えばプラスチックピンまたはいくつかの他の適当な表面上で合成する;Fodorら(1991)を参照されたい。続いて、全てのピンを可溶化Kv9.2ポリペプチドと反応させ、洗浄する。次のステップは、結合したポリペプチドの検出に関わる。そして、ポリペプチドと特異的に相互作用する化合物を同定しうる。
【0189】
リガンド結合アッセイによって、薬効薬理を解明するための直接的方法が提供され、またこれはハイスループット形式に適合可能なものである。精製されたリガンドを、結合試験のために高い比活性(50〜2000Ci/mmol)となるよう放射性標識しうる。続いて、放射性標識のプロセスがその標的に対するリガンドの活性を弱めないという確認を行う。バッファー、イオン、pHおよび他の修飾因子(ヌクレオチドなど)についてのアッセイ条件を最適化して、膜および全細胞受容体またはイオンチャネル供与源についての実行可能なシグナル対ノイズ比を確立する。これらのアッセイに対して、特異的結合は、全会合放射能から、過剰な無標識の競合リガンドの存在下で測定した放射能を差し引いたものとして定義される。可能であれば、2以上の競合リガンドを用いて、残りの非特異的結合を定義する。
【0190】
このアッセイは候補化合物の結合を簡便に試験することができ、その場合、受容体またはイオンチャネルを有する細胞に対する付着性を、候補化合物と直接もしくは間接的に会合した標識によってまたは標識競合物質との競合に関わるアッセイで検出する。さらに、これらのアッセイは、標的をその表面上に有する細胞に適当な検出系を用いて、候補化合物が標的の活性化により生じるシグナルをもたらすか否かを試験しうる。活性化の阻害剤は、一般的には既知のアゴニストの存在下でアッセイし、候補化合物の存在下でのアゴニストによる活性化に対する影響を観察する。
【0191】
さらに、アッセイは単に、候補化合物とKv9.2ポリペプチドを含有する溶液とを混合して混合物を生成するステップ、該混合物におけるKv9.2含有イオンチャネル活性を測定するステップ、および該混合物のKv9.2イオンチャネル活性を標準と比較するステップを含むものであってもよい。
【0192】
また、Kv9.2サブユニットcDNA、タンパク質および該タンパク質に対する抗体を用いて、細胞におけるKv9.2サブユニットmRNAおよびタンパク質の産生に対する添加した化合物の影響を検出するアッセイを設定しうる。例えば、ELISAは、当技術分野で公知の標準的な方法によってモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を用いてKv9.2サブユニットタンパク質の分泌レベルまたは細胞結合レベルを測定するために構築することができ、これを、好適に操作された細胞または組織からのKv9.2サブユニットの産生を阻害または増強しうる薬剤(それぞれアンタゴニストまたはアゴニストとも称する)を発見するために用いることができる。スクリーニングアッセイを実施するための標準的方法は当技術分野で周知である。
【0193】
可能性あるKv9.2イオンチャネルアンタゴニストおよびブロッカーの例としては、抗体、または場合によっては、ヌクレオチドおよびそれらの類似体(プリンおよびプリン類似体を含む)、オリゴヌクレオチドまたはKv9.2含有イオンチャネルのリガンドに非常に類縁のタンパク質(例えばリガンドの断片)、またはイオンチャネルに結合するが応答を引き起こさず、チャネルの活性を妨害する小分子が挙げられる。
【0194】
従って、Kv9.2ポリペプチドおよび/またはペプチドに特異的に結合可能な化合物もまた提供する。
【0195】
「化合物」という用語は、化学的化合物(天然もしくは合成)、例えば生体高分子(例えば核酸、タンパク質、非ペプチドもしくは有機分子)、または細菌、植物、真菌もしくは動物(特に哺乳動物)細胞もしくは組織などの生体材料から作製された抽出物、または無機元素もしくは分子などさえも意味する。好ましくは化合物は抗体である。
【0196】
そのようなスクリーニングの実施に必要な物質は、スクリーニングキットにパッケージングされてもよい。そのようなスクリーニングキットは、Kv9.2ポリペプチドに対するアゴニスト、アンタゴニスト、リガンド、受容体、基質、酵素など、またはKv9.2イオンチャネルポリペプチドの産生を低減もしくは増大する化合物を同定するために有用である。スクリーニングキットは、(a)Kv9.2ポリペプチド、(b)Kv9.2ポリペプチドを発現する組換え細胞、(c)Kv9.2ポリペプチド発現する細胞膜、または(d)Kv9.2ポリペプチドに対する抗体を含む。スクリーニングキットは、任意に使用説明書を含んでもよい。
【0197】
トランスジェニック動物
さらに、天然または組換えのKv9.2サブユニットおよび/またはKv9.2含有イオンチャネル、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を、正常なレベル、正常な発現レベルと比較して高レベルまたは低レベルで発現することができるトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、そのようなトランスジェニック動物は、非ヒト哺乳動物、例えばブタ、ヒツジまたはげっ歯動物である。最も好ましくは、トランスジェニック動物はマウスまたはラットである。
【0198】
また、天然Kv9.2遺伝子の全部または一部が別の生物由来のKv9.2配列で置き換わったトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、この生物は別の種であり、最も好ましくはヒトである。非常に好ましい実施形態において、その実質的に全長のKv9.2遺伝子がヒトKv9.2遺伝子で置き換わったマウスを開示する。そのようなトランスジェニック動物、ならびにKv9.2が野生型の動物は、Kv9.2のアゴニストおよび/またはアンタゴニストをスクリーニングするために用いることができる。
【0199】
例えば、そのようなアッセイは、野生型もしくはトランスジェニック動物、またはその一部(好ましくはトランスジェニック動物の細胞、組織もしくは器官)を候補物質に暴露するステップ、Kv9.2関連表現型、例えば、疼痛に対する感受性の変化についてアッセイするステップを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングを実施することも可能である。
【0200】
本発明者らはさらに、機能的に破壊されたKv9.2遺伝子を含むトランスジェニック動物であって、本明細書に開示されるKv9.2の1以上の機能が部分的にまたは完全に無効化されたトランスジェニック動物を開示する。例えば、Kv9.2遺伝子の1以上の機能喪失突然変異、例えば欠失の結果として機能的Kv9.2含有イオンチャネルを発現しないトランスジェニック動物(Kv9.2ノックアウト)が含まれる。
【0201】
また、例えばKv9.2遺伝子の選択された一部に欠失を有するような、部分的な機能喪失突然変異体、例えば不完全なノックアウトも含まれる。そのような動物は、Kv9.2配列の関連する部分、例えば機能的に重要なタンパク質ドメインを選択的に置換または欠失することにより作出しうる。
【0202】
そのような完全または部分的機能喪失突然変異体は、Kv9.2関連疾患、特に疼痛または疼痛関連疾患もしくは症候群のモデルとして有用である。部分的に機能喪失を示す動物を候補物質に暴露し、表現型を増強もしくは抑制する、すなわち観察される表現型の強度を増大もしくは低下させる(Kv9.2の場合)(すなわち、疼痛感受性を調節する)物質を同定することができる。他のパラメータ、例えばコンダクタンスもしくは動力学の低減も、本明細書で記載する方法を用いて検出することができる。
【0203】
野生型動物、ならびに部分的および完全ノックアウトはまた、Kv9.2の選択的アゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するために用いることができる。例えば、アゴニストおよび/またはアンタゴニストを、野生型およびKv9.2欠損動物(ノックアウト)に投与してもよい。Kv9.2の選択的アゴニストまたはアンタゴニストは、野生型動物に対して影響を及ぼすが、Kv9.2欠損動物には及ぼさないことが示されるだろう。詳細には、可能性ある薬剤(候補リガンドまたは化合物)を評価して、それがKv9.2含有イオンチャネルの不在下で生理学的応答を生じるか否かを決定するような特異的アッセイを設計する。これは、上述したように薬剤をトランスジェニック動物に投与し、続いて特定の応答について動物をアッセイすることによって達成しうる。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、類似の細胞に基づく方法を実施してもよい。そのような動物はまた、本明細書に記載のスクリーニングによって同定された薬剤の効力について試験するために用いることもできる。
【0204】
別の実施形態において、部分的な機能喪失表現型を有するトランスジェニック動物をスクリーニングに用いる。そのような実施形態において、スクリーニングは、野生型表現型への部分的または完全な回復または復帰についてアッセイすることを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングもまた実施しうる。そのような能力のあることがわかった候補化合物は、Kv9.2アゴニストまたは類似体とみなされうる。そのようなアゴニストは、例えば、個体が知覚する疼痛レベルを調節(増大または低下)するために用いることができる。
【0205】
好ましい実施形態において、トランスジェニックKv9.2動物、特にKv9.2ノックアウト(完全な機能喪失)は、好ましくは本明細書に記載の試験によって測定した場合に、実施例に示す表現型を示す。従って、前記Kv9.2動物、特にKv9.2ノックアウトは、好ましくは、増大した疼痛もしくは低下した疼痛レベルのいずれかの、調節された疼痛の知覚を示す。
【0206】
非常に好ましい実施形態において、トランスジェニックKv9.2動物、特にKv9.2ノックアウトは、対応の野生型マウスと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%高いまたは低い(場合による)測定パラメータを示す。従って、例えば、実施例に記載のテールフリック試験分析で試験すると、Kv9.2欠失マウスは好ましくは、野生型マウスと比較して、疼痛の統計的に増加または減少した知覚を有する。
【0207】
Kv9.2欠損トランスジェニック動物について本明細書で開示する表現型は、Kv9.2の機能喪失と類似の影響を引き起こす化合物を検出するために野生型動物を用いるスクリーニングにおいて有用に使うことができることは明らかである。言い換えると、野生型動物を候補化合物に暴露し、例えば疼痛レベルなどの関連するKv9.2表現型変化を観察し、Kv9.2機能のモジュレーター、特にアンタゴニストを同定することができる。細胞表現型、例えばコンダクタンスの低下または動力学の変化もしくは低下も、本明細書に記載の方法を用いて検出することができる。
【0208】
そのようなスクリーニングにより同定された化合物は、Kv9.2のアンタゴニストとして、特にKv9.2関連疾患の治療または緩和のために用いることができる。
【0209】
上述したスクリーニングは、好適なパラメータ、例えば行動応答、生理的応答または生化学的応答のいずれかの観察を含みうる。好ましい応答は生理的応答、好ましくは、外界刺激の知覚、さらに好ましくは疼痛の変化を含む。
【0210】
生化学パラメータもまた用いることができ、例えばコンダクタンスまたは動力学の変化がある。好ましくは、コンダクタンスは「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定し、そして動力学(活性化および/または失活時間、好ましくは活性化および/または失活時間定数)はその節に記載のとおり測定する。これは、細胞に基づくスクリーニングにおいて特に有用である。
【0211】
好ましい実施形態において、Kv9.2アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞または部分的機能喪失細胞)のコンダクタンスは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0212】
好ましい実施形態において、Kv9.2アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞または部分的機能喪失細胞)の動力学、例えば、活性化時間および/または失活時間、好ましくは活性化時間および/または失活時間定数は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0213】
好ましい実施形態において、Kv9.2のアンタゴニストは、そのようなアンタゴニストに暴露した野生型または部分的機能喪失動物がKv9.2部分的または完全機能喪失突然変異体と少なくとも部分的に同一の表現型を少なくとも部分的な程度にまで示すようなものである。すなわち、好ましいアンタゴニストは、疼痛知覚の調節、またはコンダクタンスの減少、または動力学の変化もしくは減少、あるいはこれらの任意の組み合わせを引き起こすものである。好ましくは、関連表現型は、Kv9.2ノックアウト動物と同程度にまで発現される。
【0214】
好ましい実施形態において、Kv9.2アンタゴニストに暴露した野生型細胞または部分的機能喪失細胞のコンダクタンスは、Kv9.2欠損細胞のコンダクタンスの+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0215】
好ましい実施形態において、Kv9.2アンタゴニストに暴露した野生型細胞またはKv9.2部分的機能喪失細胞の動力学、すなわち、活性化時間および/または失活時間、好ましくは活性化時間および/または失活時間定数は、Kv9.2欠損細胞の動力学(または関連時間)の+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0216】
Kv9.2ノックアウト動物から得た組織は、可能性ある薬剤(候補リガンドまたは化合物)が、Kv9.2に結合するかどうかを判定する結合アッセイで用いることができる。そのようなアッセイは、遺伝子操作されてKv9.2含有イオンチャネル産生が欠損しているトランスジェニック動物からの第1イオンチャネル調製物と、いずれかの同定されたKv9.2リガンドまたは化合物と結合することが知られる供給源からの第2イオンチャネル調製物とを取得することによって実施することができる。一般に、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物は、それらが取得された供給源を除けば、あらゆる点で類似しうる。例えば、トランスジェニック動物(上記のもの、および下記のものなど)から得た脳組織をアッセイに用いる場合、正常(野生型)動物から得た、比較しうる脳組織を、第2イオンチャネル調製物の供給源として用いる。それぞれのイオンチャネル調製物を、Kv9.2含有イオンチャネルに結合することが知られるリガンドとインキュベートし、その際、単独でのインキュベーション、および候補リガンドまたは化合物の存在下でのインキュベーションの両方を行う。候補リガンドまたは化合物は、好ましくは、いくつかの異なった濃度で試験しうる。
【0217】
既知リガンドによる結合が、試験化合物によって置き換わる程度を、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物の両方で測定する。トランスジェニック動物から得た組織は、アッセイに直接用いても、あるいはこの組織の加工を行って膜または膜タンパク質を単離してもよく、これらはそれ自体がアッセイに使用される。好ましいトランスジェニック動物はマウスである。リガンドは、結合アッセイと適合性のあるいかなる手段を用いて標識してよい。これらには、限定されることなく、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、または化学発光標識(ならびに、上にさらに詳細に記述した他の標識技術)が含まれるであろう。
【0218】
さらに、Kv9.2またはKv9.2含有イオンチャネルのアンタゴニストは、候補化合物などを、機能的なKv9.2を発現する野生型動物と、Kv9.2機能の発現の減少または消失に伴う任意の表現型の特徴を示すと同定された動物とに投与することによって同定することができる。
【0219】
トランスジェニック非ヒト動物を作製する詳細な方法を、以下に詳細に記述する。トランスジェニック哺乳動物を作製するために、動物の生殖細胞系にトランスジェニック遺伝子構築物を導入することができる。例えば、構築物の1または数コピーを、標準的なトランスジェニック技法によって、哺乳動物胚のゲノムに組み込むことができる。
【0220】
例示的な実施形態では、非ヒト動物の生殖細胞系にトランスジーンを導入することによって、トランスジェニック非ヒト動物を作製する。様々な発生ステージの標的胚細胞を、トランスジーンを導入するのに用いることができる。標的胚細胞の発生のステージに応じて、様々な方法が用いられる。いかなる動物についても、その動物の特定の系列を、全般的健康、胚収率の良好性、胚における前核可視度の良好性、および自己増殖性適応度の良好性によって選択する。加えて、ハプロタイプも重要な因子である。
【0221】
胚へのトランスジーンの導入は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクションなど、当技術分野で知られている任意の手段によって、実行することができる。例えば、Kv9.2トランスジーンは、哺乳動物受精卵の前核の中への構築物のマイクロインジェクションによって、哺乳動物に導入することができ、それによって、発生中の哺乳動物の細胞中における、1以上のコピーの構築物の維持が引き起こされる。受精卵にトランスジーン構築物を導入した後、卵を、様々な長さの時間にわたりin vitroでインキュベートするか、または代理宿主に再移植するか、あるいはそれら両方を行うことができる。成熟するまでのin vitroインキュベーションも実施しうる。一般的な方法の1つは、種に応じて約1〜7日間、胚をin vitroでインキュベートして、その後、代理宿主にそれらを再移植するものである。
【0222】
トランスジェニック手法によって操作された胚の子孫は、組織断片のサザンブロット解析によって、構築物が存在しているかどうか試験することができる。1以上のコピーのクローニングされた外因性構築物が、そのようなトランスジェニック胚のゲノム中に安定的に組み込まれている場合、追加された構築物をトランスジーンとして保持する恒久的なトランスジェニック哺乳動物系を確立することが可能である。
【0223】
構築物が子孫ゲノム中に取り込まれているかどうか、トランスジェニック技術によって改変された哺乳動物の同腹仔を、出産後にアッセイすることができる。このアッセイは、所望の組換えタンパク質産物をコードするDNA配列、またはそのセグメントに相当するプローブを、子孫からの染色体物質にハイブリダイズさせることによって実施できる。ゲノム中に少なくとも1コピーの構築物を含有することが判明した子孫哺乳動物を、成熟するまで育てる。
【0224】
本明細書の目的においては、接合子は、本質的には、完全な生物に発生することができる二倍体細胞の形成である。通常、接合子は、1以上の配偶子に由来する2つの半数体核の自然融合または人工的融合によって形成された1つの核を含有する卵から成るであろう。したがって、それらの配偶子核は、自然状態で適合性のあるもの、すなわち、分化、および機能性の生物への発生を行うことができる生きた接合子を生ずるものでなければならない。通常は、正倍数体接合子が好ましい。異数体接合子が得られた場合には、その染色体数は、いずれかの配偶子が由来した生物の正倍数体数に比べて、2以上の大きな相違を有するべきではない。
【0225】
同様の生物学的要件に加えて、物理的要件も、接合体の核に添加できる外因性遺伝物質、または接合体核の一部を形成する遺伝物質の量(例えば容積)を決定する。遺伝物質が除去されない場合には、添加することができる外因性遺伝物質の量は、物理的な破壊を起こさずに吸収されうる量に制限される。通常、挿入される外因性遺伝物質の容積は、約10ピコリットルを超えないであろう。添加の物理的影響は、接合子の生存を物理的に破壊するほど大きいものであってはならない。DNA配列の数および多様性の生物学的制限は、外因性遺伝物質を含めた、その結果得られる接合体の遺伝物質が、機能性の生物への接合体の分化および発生の開始および維持を生物学的に行えるものでなくてはならないので、特定の接合体、および外因性遺伝物質の機能によって異なるであろうし、それらは、当業者には容易に明らかであるだろう。
【0226】
接合子に添加されるトランスジーン構築物のコピー数は、添加される外因性遺伝物質の総量に依存するものであり、遺伝的形質転換の実現を可能にする量であろう。理論的には、必要なのは1コピーのみであるが、機能的なものが1コピーあることを保障するために、通常、多くのコピー、例えば、1,000〜20,000コピーのトランスジーン構築物が用いられる。外因性DNA配列の表現型発現を増強するために、挿入される各外因性DNA配列の複数の機能性コピーを有するものが有利であることが多いであろう。
【0227】
核遺伝物質への外因性遺伝物質の添加を可能にするいかなる技法も、それが細胞、核膜、または他の既存の細胞構造または遺伝子構造に対して破壊的でない限り、用いることができる。外因性遺伝物質は、マイクロインジェクションによって核遺伝物質に選択的に挿入する。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは、当技術分野で公知であり、かつ使用されている。
【0228】
再移植は、標準的な方法を用いて実施する。通常は、代理宿主を麻酔にかけ、胚を卵管に挿入する。特定の宿主に移植される胚の数は、種によって異なるが、通常は、その種が自然に生む子孫の数に匹敵するものであろう。
【0229】
代理宿主のトランスジェニック子孫のスクリーニングは、任意の適当な方法によって、トランスジーンの存在および/または発現に関して行うことができる。スクリーニングは、トランスジーンの少なくとも一部に相補的なプローブを用いたサザンブロット解析またはノーザンブロット解析によって行われることが多い。トランスジーンによってコードされているタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロット解析は、トランスジーン産物の存在に関するスクリーニングの代替または追加の方法として利用することができる。通常は、尾組織からDNAを調製して、トランスジーンに関するサザン解析またはPCRによって分析する。別法では、トランスジーンが最も高いレベルで発現されていると考えられる組織または細胞を、サザン解析またはPCRを用いて、トランスジーンの存在および発現に関して検査するが、いかなる組織または細胞型をこの分析に用いてもよい。
【0230】
トランスジーンの存在を評価する代替または追加の方法には、酵素アッセイおよび/または免疫学的アッセイなどの適当な生化学アッセイ、特定のマーカーおよび酵素活性の組織学的染色、フローサイトメトリー分析、ならびに同様のものが、制限なしに含まれる。血液の分析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するのに、そして、様々なタイプの血球および他の血液成分のレベルに対するトランスジーンの影響を評価するのに有用でありうる。
【0231】
トランスジェニック動物の子孫は、該トランスジェニック動物を好適なパートナーと交配することにより、あるいは該トランスジェニック動物から得られる卵子および/または精子のin vitro受精により得ることができる。パートナーと交配させる場合には、パートナーは、トランスジェニックおよび/またはノックアウトであってもよいしあるいはそうでなくてもよく、トランスジェニックである場合には、同じもしくは異なるトランスジーンまたはそれら両方を含んでいてよい。あるいは、パートナーは、親系統であってもよい。in vitro受精を用いる場合には、受精した胚を仮親宿主に移植するかもしくはin vitroでインキュベートするか、またはその両方を行う。いずれの方法を用いても、子孫は、上述した方法または他の適当な方法を用いてトランスジーンの存在について評価しうる。
【0232】
本明細書に記載の方法に従って作出されるトランスジェニック動物は、外因性の遺伝物質を含むことになる。上述したように、特定の実施形態において、外因性の遺伝物質は、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネルの産生をもたらすDNA配列である。さらに、そのような実施形態において、配列は、転写制御エレメント、例えばプロモーター、好ましくは特定の細胞型においてトランスジーン産物の発現を可能とするプロモーターを付加する。
【0233】
非ヒト動物にトランスジーンを導入するには、レトロウイルス感染を用いることができる。発生中の非ヒト胚は、胚盤胞期までin vitroで培養できる。この間に、卵割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich, R.(1976), PNAS 73: 1260〜1264)。透明帯を除去する酵素処理によって、卵割球の効率的な感染が達成される(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan(編), Cold Spring Harbor Laboratory Press社, Cold Spring Harbor, 1986年)。通常、トランスジーンを導入するのに使用されるウイルスベクター系は、トランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら(1985), PNAS 82: 6927〜6931;Van der Puttenら(1985), PNAS 82: 6148〜6152)。ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することによって、簡単かつ効率的にトランスフェクションを行うことができる(Van der Putten, 前掲;Stewartら(1987), EMBO J. 6: 383〜388)。別法では、さらに後のステージで感染を行うことができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を、卵割腔に注入することができる(Jahnerら(1982), Nature 298: 623〜628)。トランスジーンの取込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞の部分集団のみで起こるため、初代の大部分はトランスジーンのモザイクになるであろう。さらに、初代は、ゲノムにおける別々の位置で、トランスジーンの様々なレトロウイルスの挿入を含有しうるが、これらは通常、子孫では分離しているであろう。加えて、妊娠中の胚の子宮内レトロウイルス感染によって、トランスジーンを生殖細胞系に導入することも可能である(Jahnerら(1982)、前掲)。
【0234】
トランスジーンを導入するための、第3のタイプの標的細胞は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、in vitroで培養された未着床胚から得て、胚と融合させる(Evansら(1981), Nature 292: 154〜156;Bradley.ら(1984), Nature 309: 255-258;Gosslerら(1986), PNAS 83: 9065〜9069;およびRobertsonら(1986), Nature 322: 445〜448)。トランスジーンは、DNAトランスフェクションまたはレトロウイルス媒介性の形質導入によって、効率的にES細胞に導入することができる。その後は、そのような形質転換されたES細胞は、非ヒト動物から得られた胚盤胞と組み合わせることができる。ES細胞は、その後、胚でコロニーを形成し、その結果得られたキメラ動物の生殖細胞系に加わる。概説には、Jaenisch, R. (1988), Science 240: 1468〜1474を参照されたい。
【0235】
また、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル機能のモデルとしての、改変型Kv9.2遺伝子、好ましくは上述したような遺伝子を有することを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物を提供する。遺伝子の改変には、欠失もしくは他の機能欠損突然変異、ターゲティングもしくはランダム突然変異によるヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、別の種に由来する外来性遺伝子の導入、またはそれらの組み合わせが含まれる。トランスジェニック動物は、その改変についてホモ接合性であってもよいしまたはヘテロ接合性であってもよい。動物およびそれに由来する細胞は、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル機能をモジュレートする可能性のある生物学的に活性な因子のスクリーニングに有用である。スクリーニング方法は、特に、疼痛、疼痛に関連する疾患、およびKv9.2に関連する疾患全体に対する特異性および可能な治療法を確認するために有用である。
【0236】
動物は、正常組織および器官(脳、心臓、脾臓および肝臓など)におけるKv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネルの役割、ならびにそれらの機能に対する影響を研究するためのモデルとして有用である。
【0237】
別の態様は、機能的に破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するが、同時に異種Kv9.2タンパク質(すなわち別の種に由来するKv9.2)をコードするトランスジーンをそのゲノムに保持しかつ発現するトランスジェニック動物に関する。好ましくは、動物はマウスであり、異種Kv9.2はヒトKv9.2である。ヒトKv9.2で再構成された動物、またはそのような動物から誘導される細胞系は、in vivoおよびin vitroにおいてヒトKv9.2を阻害する薬剤を同定するために用いることができる。例えば、試験対象の薬剤の存在下および不在下にてヒトKv9.2を介してシグナル伝達を誘導する刺激を動物または細胞系に適用し、該動物または細胞系における応答を測定しうる。in vivoまたはin vitroでヒトKv9.2を阻害する薬剤は、該薬剤の不在下における応答と比較した場合の該薬剤の存在下における応答の低下に基づいて同定することができる。
【0238】
また、Kv9.2欠損トランスジェニック非ヒト動物(「Kv9.2サブユニットノックアウト」)を提供する。そのような動物は、好ましくは内因性Kv9.2サブユニットゲノム配列が破壊または欠失している結果として、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル活性を発現しないまたは低く発現するものである。好ましくは、そのような動物はKv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル活性を発現しない。より好ましくは、動物は、配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2含有イオンチャネルの活性を発現しない。Kv9.2イオンチャネルノックアウトは、以下にさらに詳述するように、当技術分野で公知の種々の手段により作製することができる。
【0239】
本開示は、宿主細胞においてKv9.2遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物にも関する。この核酸構築物は、a)非相同置換部分;b)非相同置換部分の上流に位置する第1の相同領域であって、第1のKv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域;およびc)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2のKv9.2遺伝子配列に対して実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2の相同領域(第2のKv9.2遺伝子配列は、天然の内因性Kv9.2遺伝子における第1のKv9.2遺伝子配列の下流に位置する)を含む。加えて、第1および第2相同領域は、これらの核酸分子が宿主細胞に導入されたとき、核酸構築物と、宿主細胞の内因性Kv9.2遺伝子との間で相同組換えが起こるのに十分な長さのものである。好ましい実施形態では、非相同置換部分は、好ましくはlacZを含む発現レポーターおよび好ましくは調節エレメントに機能的に連結したネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を含むポジティブ選択発現カセットを含むものである。
【0240】
好ましくは、第1および第2のKv9.2遺伝子配列は、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4、またはその相同体、変異体もしくは誘導体から誘導される。
【0241】
別の態様は、上述の核酸構築物が組み込まれた組換えベクターに関する。また別の態様は、核酸構築物が導入された宿主細胞であって、それにより該核酸構築物と宿主細胞の内因性Kv9.2遺伝子との間で相同組換えが起こり内因性Kv9.2遺伝子が機能的に破壊されている前記宿主細胞に関する。宿主細胞は、肝臓、脳、脾臓もしくは心臓、または分化多能性細胞(マウス胚性幹細胞など)に由来する、正常にKv9.2を発現する哺乳動物細胞でありうる。核酸構築物が導入されかつ内因性Kv9.2遺伝子と相同組換えした胚性幹細胞のさらなる発生によって、該胚性幹細胞の子孫であり、従ってそのゲノムにKv9.2遺伝子破壊を保持する細胞を有するトランスジェニック非ヒト動物を作出する。続いて、その生殖系列にKv9.2遺伝子破壊を保持する動物を選択し、交配して全ての体細胞および生殖細胞にKv9.2遺伝子破壊を有する動物を作出する。続いてそのようなマウスを交配してKv9.2遺伝子破壊についてのホモ接合性を得ることができる。
【0242】
抗体
本明細書の目的では、「抗体」という用語には、反対に指定されない限り、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリによって生成されるフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。そのようなフラグメントには、標的物質に対する結合活性を保持している、抗体全体のフラグメント、Fv、F(ab')、およびF(ab')2フラグメントが含まれ、同様に、抗体の抗原結合部位を含む一本鎖抗体(scFv)、融合タンパク質、および他の合成タンパク質が含まれる。抗体およびそれらのフラグメントはヒト化抗体、例えばEP-A-239400に記載のものでよい。さらに、完全にヒトの可変領域を有する抗体(またはそれらのフラグメント)、例えば米国特許第5,545,807号、および第6,075,181号に記載のものを用いてもよい。中和抗体、すなわち、対象のアミノ酸配列の生物学的活性を阻害するものが、診断用および治療用に特に好ましい。
【0243】
抗体は、免疫化、またはファージディスプレーライブラリの使用など、標準的な技法によって産生できる。
【0244】
ポリペプチドまたはペプチドは、既知の技法によって抗体を開発するのに用いることができる。そのような抗体は、Kv9.2タンパク質、または相同体、断片などに特異的に結合できるものでありうる。
【0245】
ポリクローナル抗体が望ましい場合、Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物で、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫しうる。免疫学的応答を増強するのに、宿主種に応じて様々なアジュバントを用いることができる。そのようなアジュバントには、フロイント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、スカシガイヘモシアニン、ジニトロフェノールが含まれるが、これらに限定されない。BCG(カルメット・ゲラン菌(Bacilli Calmette-Guerin))およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)は、対象のアミノ酸配列を精製して、全身性防御反応を刺激するために免疫不全の個体に投与する場合に利用できる潜在的に有用なヒトアジュバントである。
【0246】
免疫した動物から得られた血清は、公知の操作法に従って採取して、処理を行う。ポリペプチドから取得可能なエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他の抗原に対する抗体を含有する場合、免疫アフィニティクロマトグラフィーによってポリクローナル抗体を精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生して、処理する技法は、当技術分野で公知である。そのような抗体を作製できるように、本発明者はまた動物またはヒトにおいて免疫原として用いるための別のアミノ酸配列をハプテンとして結合した、Kv9.2アミノ酸配列またはその断片も提供する。
【0247】
当業者ならば、Kv9.2ポリペプチドから取得可能なエピトープに対して産生されるモノクローナル抗体を、容易に産生させることができる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製する一般的方法は周知である。不死性の抗体産生細胞系は、細胞融合によって、また、発癌性DNAを用いたBリンパ球の直接的な形質転換、またはエプスタイン-バーウイルスを用いたトランスフェクションなどの他の技法によっても生成することができる。周辺エピトープ(orbit epitope)に対して生成された一連のモノクローナル抗体を、様々な特性に関して、すなわちイソタイプおよびエピトープアフィニティに関してスクリーニングすることができる。
【0248】
モノクローナル抗体は、連続的な細胞培養系による抗体分子の産生を提供する任意の技法を用いて調製できる。これらには、元々KoehlerおよびMilstein(1975年、Nature 256: 495〜497)によって記載されたハイブリドーマ技法、トリオーマ技法、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技法(Kosborら(1983)、Immunol Today 4: 72; Coteら(1983)、Proc Natl Acad Sci 80: 2026〜2030)、およびEBVハイブリドーマ技法(Coleら、「Monoclonal Antibodies and 癌 Therapy」、77〜96頁、Alan R. Liss、Inc.社、1985年)が含まれるが、これらに限定されない。
【0249】
加えて、「キメラ抗体」の作製、すなわち、適切な抗原特異性および生物学的活性を備えた分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングするために、開発された技法を用いることもできる(Morrisonら、(1984) Proc Natl Acad Sci81: 6851〜6855; Neubergerら、(1984) Nature312: 604〜608; Takedaら(1985)、Nature 314: 452〜454)。別法として、一本鎖抗体の作製に関して記載された技法(米国特許第4,946,779号)を、対象の特異的一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。
【0250】
Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドから取得可能なエピトープに対して作製された抗体は、モノクローナル抗体も、ポリクローナル抗体も両方とも、診断にとりわけ有用であり、中和抗体は受動的免疫療法に有用である。モノクローナル抗体は、詳細には、抗イディオタイプ抗体を作製するために用いることができる。抗イディオタイプ抗体は、防御が望まれている物質および/または薬剤の「内部イメージ」を保持する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を作製する技法は、当技術分野で公知である。これらの抗イディオタイプ抗体も、治療に有用でありうる。
【0251】
抗体は、Orlandiら(1989年, Proc Natl Acad Sci 86: 3833〜3837)、ならびにWinter GおよびMilstein C(1991年, Nature 349: 293〜299)に記載の通りリンパ球集合におけるin vivo産生を誘導することによって、あるいは、特異性の高い結合をする物質を得るための、組換え免疫グロブリンライブラリまたはパネルのスクリーニングによって産生させることもできる。
【0252】
ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的な結合部位を含有する抗体フラグメントを作製することもできる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン消化によって生成することができるF(ab')2フラグメントと、F(ab')2フラグメントのジスルフィド架橋を還元させることによって生成することができるFabフラグメントとが含まれるが、これらに限定されない。別法として、望ましい特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ簡単な同定を可能にするために、Fab発現ライブラリを構築することもできる(Huse WDら, (1989), Science256: 1275〜1281)。
【0253】
一本鎖抗体を作製するための技法(米国特許第4,946,778号)を、Kv9.2ポリペプチドに対する一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。また、ヒト化抗体を発現させるのに、トランスジェニックマウス、または他の哺乳動物を含めた他の生物を用いることもできる。
【0254】
上述した抗体を用いて、ポリペプチドを発現するクローンを単離もしくは同定し、またはアフィニティクロマトグラフィによってポリペプチドを精製することができる。
【0255】
また、Kv9.2サブユニットポリペプチドに対する抗体を用いて、上記のKv9.2関連疾患および症候群のいずれかを治療、軽減または診断することもできる。
【0256】
診断アッセイ
本発明者らは、診断における診断試薬としての使用、または遺伝子解析における使用に供する、Kv9.2サブユニットポリヌクレオチドおよびポリペプチド(その相同体、変異体、および誘導体も同様)の使用も開示する。そのようなアッセイには、Kv9.2サブユニット核酸(相同体、変異体、および誘導体を含める)に相補的な核酸、またはそれに対しハイブリダイズ可能な核酸が有用であり、Kv9.2ポリペプチドに対する抗体も有用である。
【0257】
機能不全に関連したKv9.2サブユニット遺伝子の突然変異型の検出は、Kv9.2サブユニットの過小発現、過剰発現、または発現変化から生じる疾患または疾患に対する感受性の診断に追加するか、あるいはそれを規定することのできる診断ツールを提供するであろう。Kv9.2サブユニット遺伝子(制御配列を含める)の突然変異を有する個体は、様々な技法によってDNAレベルで検出することができる。
【0258】
例えば、患者からDNAを単離して、Kv9.2のDNA多型パターンを決定することができる。同定されたパターンを、Kv9.2の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患もしくは症候群を患っていることが既知の対照患者と比較する。その後、Kv9.2関連疾患に付随した遺伝的多型パターンを示す患者を同定することができる。Kv9.2サブユニット遺伝子の遺伝子解析は、当技術分野で公知の任意の技法で行うことができる。例えば、Kv9.2対立遺伝子のDNA配列決定により、RFLPまたはSNP分析などによって個体をスクリーニングすることができる。Kv9.2の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患もしくは症候群に対する遺伝的素因を有する患者を、Kv9.2遺伝子配列またはその発現を制御する任意の配列のDNA多型の存在を検出することによって同定することができる。
【0259】
そのように同定された患者は、Kv9.2関連疾患もしくは症候の発症を予防するように処置するか、あるいは、もっと積極的にKv9.2関連疾患もしくは症候の初期に、疾患もしくは症候のそれ以降の発症または進展を予防するように処置することができる。
【0260】
さらに、Kv9.2関連疾患もしくは症候に付随する、患者の遺伝的多型パターンを同定するためのキットを開示する。このキットは、DNAサンプルを採集する手段および遺伝的多型パターンを判定する手段を含み、これらは、次に対照サンプルと比較して、Kv9.2関連疾患もしくは症候に対する、患者の感受性を判定する。また、Kv9.2ポリペプチドおよび/または、そのようなポリペプチドに対する抗体(またはそのフラグメント)を含む、Kv9.2関連疾患もしくは症候の診断キットも提供する。
【0261】
診断用の核酸は、血液、尿、唾液、組織生検サンプル、または剖検物質など、被験体の細胞から得ることができる。好ましい実施形態では、患者の指の穿刺から吸取紙に収集した血液により得た血球からDNAを採取する。さらに好ましい実施形態では、血液をAmpliCard.TM.(University of Sheffield, Department of Medicine and Pharmacology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, England S10 2JF)に収集する。
【0262】
DNAは、直接検出に用いても、あるいは分析の前にPCRまたは他の増幅技法を用いて、酵素によって増幅してもよい。目的の遺伝子の特定の多型DNA領域を標的としたオリゴヌクレオチドDNAプライマーは、標的配列のPCR反応増幅が実現されるように調製することができる。RNAまたはcDNAも、同様に鋳型として用いることができる。鋳型DNAから増幅されたDNA配列は、次に、制限酵素を用いて分析して、増幅された配列中にその遺伝的多型が存在するかどうか判定することができ、それによって、患者の遺伝的多型プロフィールを提供する。制限断片の長さは、ゲル分析によって同定することができる。別法として、あるいはこれと組み合わせて、SNP(一塩基多型)分析などの技法を利用することもできる。
【0263】
欠失および挿入は、正常な遺伝子型と比較した、増幅された産物の大きさの変化によって検出することができる。点突然変異は、増幅されたDNAを、標識されたKv9.2サブユニットヌクレオチド配列にハイブリダイズさせることによって同定することができる。完全一致した配列は、RNAse消化または融解温度の相違によって、ミスマッチしている二本鎖分子と区別することができる。DNA配列の相違は、変性剤の存在下または非存在下における、ゲル中でのDNA断片の電気泳動における移動度の変化によって、あるいは直接DNA配列決定によって検出することもできる。例えば、Myersら, Science(1985), 230: 1242を参照のこと。特定の位置における配列の変化は、RNAseプロテクションおよびS1プロテクションなどのヌクレアーゼ保護アッセイによって、あるいは化学開裂法によって明らかにすることもできる。Cottonら, Proc Natl Acad Sci USA(1985), 85: 4397〜4401を参照のこと。別の実施形態では、例えば遺伝子変異の効率的なスクリーニングを行うために、Kv9.2サブユニットヌクレオチド配列またはその断片を含むオリゴヌクレオチドプローブのアレイを構築することができる。アレイ技法は周知であり、一般的な適用可能性を有し、遺伝子発現、遺伝子連鎖、および遺伝的変異性を含めた、分子遺伝学における様々な疑問に取り組むのに用いることができる(例えば、M.Cheeら, Science, Vol 274, pp610〜613 (1996)を参照)。
【0264】
一本鎖立体構造多型(SSCP法)は、突然変異体の核酸と野生型の核酸との間の電気泳動移動度の相違を検出するのに用いることができる(Oritaら(1989), Proc. Natl. Acad. Sci. USA : 86:2766;Cotton (1993), Mutat. Res 285:125〜144;およびHayashi (1992), Genet. Anal. Tech. Appl. 9:73〜79も参照)。サンプルおよび対照核酸の一本鎖DNA断片は、変性させ、そして復元させることができる。一本鎖の核酸の二次構造は、配列に応じて異なり、その結果生じる電気泳動移動度の変化によって、単一塩基の変化でさえ検出が可能となる。DNA断片は、標識しても、または標識されたプローブで検出してもよい。アッセイの感度は、(DNAよりむしろ)RNAを用いることによって増強することができ、RNAの二次構造は、配列の変化に、より敏感である。好ましい実施形態では、そのような方法はヘテロ二本鎖分析を用いて、電気泳動移動度の変化に基づいて二本鎖のヘテロ二重鎖分子を分離する(Keenら(1991), Trends Genet 7: 5)。
【0265】
診断アッセイは、記載の方法によるKv9.2サブユニット遺伝子の突然変異の検出により、疼痛もしくは疼痛関連疾患などの疾患に対する感受性(罹りやすさ)を診断または判定する方法を提供する。
【0266】
Kv9.2サブユニットポリペプチドおよび核酸の存在は、サンプル中で検出することができる。したがって、「Kv9.2サブユニット関連疾患および症候群」のもとで先に記載した感染症および疾患は、被験体に由来するサンプルから、Kv9.2サブユニットポリペプチドまたはKv9.2サブユニットmRNAのレベルの異常な低下または増大を判定することを含む方法によって診断することができる。サンプルは、Kv9.2サブユニット発現の増大、低下、または発現のレベルもしくはパターンの空間的もしくは時間的変化を含めた他の異常に関連した疾患もしくは症候を患っているか、患っている疑いのある生物からの細胞または組織サンプルを含むものでよい。疾患もしくは症候の診断の方法として、通常、そのような疾患もしくは症候を患っているか、または患っている疑いのある生物におけるKv9.2の発現のレベルまたはパターンを、正常な生物における発現のレベルまたはパターンと比較することができる。
【0267】
したがって全般的に、本発明者らは、サンプルにおけるKv9.2サブユニット核酸を含む核酸の存在を検出する方法であって、前記核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとサンプルとを接触させるステップ、および該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を開示する。例えば、この核酸プローブは、Kv9.2サブユニットサブユニット核酸またはその一部に特異的に結合するものでよく、これら2つの間の結合が検出され、複合体自体の存在も検出されうる。さらに、本開示は、Kv9.2サブユニットポリペプチドの存在を検出する方法であって、このポリペプチドに結合可能な抗体と細胞サンプルとを接触させるステップ、および該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を包含する。これは、抗体とポリペプチドとの間で形成された複合体の存在をモニターするか、あるいはポリペプチドと抗体との間の結合をモニターすることによって実現するのが好都合であろう。2つの物質の間の結合を検出する方法は、当技術分野で公知であり、これには、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)、および表面プラズモン共鳴法などが含まれる。
【0268】
発現の減少または増大は、例えば、PCR、RT-PCR、RNAseプロテクション、ノーザンブロット、および他のハイブリダイゼーション法など、ポリヌクレオチドを定量化するための、当技術分野で周知の任意の方法を用いてRNAレベルで測定することができる。宿主から得られたサンプルにおけるKv9.2サブユニットなどのタンパク質レベルを測定するのに用いることができるアッセイ技法は、当業者には周知である。そのようなアッセイ法には、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウエスタンブロット分析、およびELISAアッセイが含まれる。
【0269】
本開示はさらに、疾患もしくは症候、または疾患もしくは症候(感染症を含む)に対する感受性を診断するキットであって、特にKv9.2感染疾患もしくは症候に関するものである。診断キットは、Kv9.2サブユニットポリヌクレオチドもしくはその断片;相補的なヌクレオチド配列;Kv9.2サブユニットポリペプチドもしくはその断片、またはKv9.2サブユニットポリペプチドに対する抗体を含む。
【0270】
染色体アッセイ
本明細書に記載するヌクレオチド配列はまた、染色体同定のために価値がある。配列は、個々のヒト染色体上の特定の位置に特異的にターゲティングし、ハイブリダイズしうる。上述したように、ヒトKv9.2サブユニットは、ヒト(Homo sapiens)染色体8q22にマッピングすることが見出されている。
【0271】
染色体への関連配列のマッピングは、これらの配列を疾患もしくは症候に関連する遺伝子と相関させる際の最初の重要なステップである。配列が正確な染色体位置にマッピングされた後は、染色体上の配列の物理的位置を遺伝子マップデータと相関させうる。そのようなデータは、例えばV. McKusick, Mendelian heritance in Man(Johns Hopkins University Welch Medical Libraryによりオンラインで入手可能)に見出される。続いて、同じ染色体領域にマッピングされた遺伝子と疾患もしくは症候との関係は、連鎖解析(物理学的に隣接する遺伝子の同時遺伝)によって同定される。
【0272】
罹患個体と非罹患個体の間のcDNAまたはゲノム配列の相違もまた決定しうる。罹患個体の一部または全体に突然変異が観察され、正常個体には観察されない場合には、その突然変異がその疾患の原因因子である可能性がある。
【0273】
予防および治療方法
本明細書は、Kv9.2サブユニット活性の過剰に関連した異常な状態、およびその量が不十分であることに関連した異常な状態の両方を治療する方法を提供する。
【0274】
Kv9.2サブユニット活性が過剰である場合には、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、本明細書で上述した阻害剤化合物(ブロッカーまたはモジュレーター)(アンタゴニスト)を薬学的に許容される担体と共に有効な量で被験体に投与し、Kv9.2サブユニットに対するリガンドの結合をブロックすることによって、あるいは第2のシグナルを阻害することによって活性化を抑制し、それによって異常な状態を軽減することを含む。
【0275】
別の手法では、内因性Kv9.2サブユニットと競合してさらにリガンドと結合できるKv9.2サブユニットポリペプチドの可溶型を投与してもよい。そのような競合物質の典型的な実施形態にはKv9.2ポリペプチドの断片が含まれる。
【0276】
なお別の手法では、発現をブロックする技法を用いて、内因性Kv9.2をコードする遺伝子の発現を阻害することができる。公知のそのような技法は、内部に生成されるか、あるいは別に投与されるアンチセンス配列を使用することを含む。例えば、O'Connor, J Neurochem (1991), 56: 560 in Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression、CRC Press、Boca Raton、Fla. (1988)を参照されたい。別法として、遺伝子と三重ヘリックスを形成するオリゴヌクレオチドを供給することもできる。例えば、Leeら, Nucleic Acids Res (1979), 6: 3073;Conneyら, Science (1988), 241: 456;Dervanら, Science (1991), 251: 1360を参照されたい。これらのオリゴマーは、それ自体で投与することもでき、あるいは適切なオリゴマーをin vivoで発現することもできる。
【0277】
Kv9.2サブユニットおよびその活性の過小発現に関した異常な状態の治療にも、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、Kv9.2サブユニットを活性化する化合物、すなわち上述のオープナーまたはモジュレーターまたはアゴニストを薬学的に許容される担体と共に、治療上有効な量で被験体に投与して、それによって異常な状態を軽減することを含む。別法では、被験体の関連する細胞によるKv9.2の内因性産生に作用するように、遺伝子療法を利用することができる。例えば、Kv9.2ポリヌクレオチドは、上記で考察した通り、複製欠損レトロウイルスベクターで発現するように構築することができる。レトロウイルス発現構築物は、次に単離して、Kv9.2ポリペプチドをコードするRNAを含有するレトロウイルスプラスミドベクターで形質導入されたパッケージング細胞に導入することができ、それによって、目的の遺伝子を含有する感染性ウイルス粒子を、パッケージング細胞が産生する。in vivoで細胞を操作して、in vivoでポリペプチドの発現を行うために、これらの産生細胞を被験体に投与することができる。遺伝子療法の概要に関しては、Human Molecular Genetics, T StrachanおよびA P Read、BIOS Scientific Publishers Ltd (1996)の第20章「Gene Therapy and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches(遺伝子療法と他の分子遺伝学に基づく治療手法)」(およびその中で引用されている参考文献)を参照のこと。
【0278】
製剤および投与
可溶型のKv9.2ポリペプチド、オープナーおよびモジュレーター、アゴニストペプチドおよびアンタゴニストペプチドなどのペプチド、または小分子は、適当な薬学的担体と組み合わせて処方することができる。そのような製剤は、治療上有効な量のポリペプチドまたは化合物と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。そのような担体には、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。製剤は、投与方法に適合しているべきであり、十分に当技術分野の技術の範囲内にある。本発明者らさらに、前述した組成物の1つまたは複数の成分で充填した1つまたは複数の容器を含む医薬品パックおよびキットを開示する。
【0279】
Kv9.2ポリペプチドおよび他の化合物は、単独で用いることも、または治療用化合物などの他の化合物と併用することもできる。
【0280】
これらの医薬組成物を全身投与するのに好ましい形態には、注射が含まれ、通常は、静脈内注射による。皮下、筋肉内、または腹腔内など、他の注射経路も用いることができる。全身投与の代替の方法には、胆汁酸塩もしくはフシジン酸、または他の界面活性剤などの浸透剤(penetrant)を用いた経粘膜投与および経皮投与が含まれる。加えて、腸溶製剤またはカプセル剤に適切に製剤した場合には、経口投与も可能であろう。これらの化合物の投与は、軟膏、ペースト、ゲル、および同様のものの形態で局所的および/または局在的に行うこともできる。
【0281】
必要な用量範囲は、ペプチドの選択、投与経路、製剤の性質、被験体の状態の性質、および担当医の判断による。但し、適当な用量は被験体の体重あたり0.1〜100μg/kgの範囲にある。しかし、利用可能な化合物が多様であること、および様々な投与経路の効率が相違していることを考えると、必要な用量は広い範囲にあることが予測される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与より高用量を必要とすることが予測されよう。これらの用量レベルの変動は、当技術分野で十分に理解されているように、最適化のための実証的な標準的ルーチンを用いて調整することができる。
【0282】
上述のように「遺伝子療法」としばしば呼ばれる様式の治療では、治療に使用されるポリペプチドを、被験体の体内で内在的に生成させることもできる。したがって、例えば、被験体から得られた細胞を、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドを用いてポリペプチドをコードするように、ex vivoで、例えばレトロウイルスプラスミドベクターの使用によって操作しうる。それらの細胞を次に被験体の体内に導入する。
【0283】
医薬組成物
本開示はさらに、Kv9.2ポリペプチド、そのポリヌクレオチド、ペプチド、ベクターまたは抗体と、任意に、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤(これらの組合せを含める)とを、治療上有効な量で投与することを含む医薬組成物も提供する。
【0284】
この医薬組成物は、ヒト医学および獣医学でヒトに使用するものでも、動物に使用するものでもよく、通常、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤のうちの任意の1つまたは複数を含むであろう。治療での使用に許容される担体または希釈剤は、製薬技術分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図されている投与経路と標準的な薬学の慣行とを考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として(あるいはそれに加えて)、任意の適当な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。
【0285】
保存剤、安定化剤、色素、およびさらに香料を、この医薬組成物中に提供することができる。保存剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。酸化防止剤および懸濁剤も使用できる。
【0286】
様々な送達系に応じて、様々な組成物/製剤の要件がありうる。例として、本明細書に記載の医薬組成物は、ミニポンプを用いて送達するように処方することも、あるいは粘膜経路によって、例えば、吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能な溶液として、あるいは組成物が注射可能な形態に処方されて非経口的に、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下経路によって送達されるように処方することもできる。別法として、製剤は、両方の経路で送達されるように設計することもできる。
【0287】
胃腸粘膜を通して薬剤を粘膜送達する場合、その薬剤は、一時的に胃腸管を通る間、安定した状態を維持できる必要があり、例えば、それは、タンパク分解性の分解に耐性を有し、酸性pHで安定であり、かつ胆汁の界面活性剤効果に耐性を有するべきである。
【0288】
必要に応じて、医薬組成物は、吸入によって、坐剤もしくは腟坐剤の形態で、局所的にローション、溶液、クリーム、軟膏、もしくは散布粉末の形態で、皮膚用パッチ剤の使用によって、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤の形態で経口的に、または単独で、もしくは賦形剤との混合物でカプセル剤または卵形剤(ovlue)の中に入れて、または、香料または着色剤を含有するエリキシール、溶液、もしくは懸濁液の形態で投与することができ、あるいは、非経口的に、例えば、静脈内に、筋肉内に、もしくは皮下にそれらを注入することもできる。非経口投与用には、組成物を無菌水溶液の形態で用いるのが最もよいであろう。この場合、無菌水溶液は、他の物質、例えば血液と等張な溶液を作製するのに十分な塩および単糖を含有することができる。口腔投与用または舌下投与用には、従来の方法で処方できる錠剤またはトローチの形態で、組成物を投与することができる。
【0289】
ワクチン
別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、前記動物をKv9.2関連疾患もしくは症候から防御する抗体および/またはT細胞免疫応答を生じるのに十分なKv9.2サブユニットポリペプチドまたはその断片を、該哺乳動物に接種することを含む前記方法に関する。
【0290】
また別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、in vivoでKv9.2サブユニットポリヌクレオチドの発現を指令するベクターを介してKv9.2サブユニットポリペプチドを送達し、該動物をそのような疾病もしくは症候群から防御する抗体を産生するための免疫学的応答を誘導することを含む方法に関する。
【0291】
さらなる実施形態は、免疫学的/ワクチン製剤(組成物)であって、哺乳動物宿主に導入した場合に、該哺乳動物においてKv9.2サブユニットポリペプチドに対する免疫学的応答を誘導するものであり、Kv9.2サブユニットポリペプチドまたはKv9.2サブユニット遺伝子を含む免疫学的/ワクチン製剤(組成物)に関する。ワクチン製剤はさらに好適な担体を含んでもよい。
【0292】
Kv9.2サブユニットポリペプチドは胃において分解されうるため、非経口投与(例えば皮下、筋肉内、静脈内、皮内などの注射)することが好ましい。非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、バッファー、静菌剤および製剤をレシピエントの血液と等張性にする溶質を含みうる水性および非水性滅菌注射溶剤、ならびに懸濁化剤または増粘剤を含みうる水性および非水性滅菌懸濁剤が挙げられる。製剤は、単位用量容器または複数用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れ、また使用直前に滅菌液体担体の添加のみが必要な凍結乾燥状態で保存することができる。ワクチン製剤はまた、製剤の免疫原性を高めるアジュバント系、例えば水中油系および当技術分野で公知の他の系を含んでもよい。投与量は、ワクチンの比活性に応じて異なり、これは通常の実験により容易に決定することができる。
【0293】
ワクチンは、1以上のKv9.2ポリペプチドまたはペプチドから調製することができる。
【0294】
免疫原性ポリペプチドまたはペプチド(1もしくは複数)を有効成分(1もしくは複数)として含むワクチンの調製は当業者に公知である。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶剤または懸濁剤として注射可能なように調製することができ、また注射前に液体で溶液または懸濁液とするのに好適な固形形態を調製することも可能である。調製物はまた、乳化してもよいし、またはリポソームに封入したタンパク質であってもよい。免疫原性の有効成分は、薬学的に許容されかつ有効成分と混和可能な賦形剤と混合してもよい。好適な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせがある。
【0295】
さらに、所望であれば、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝化剤、および/またはワクチンの有効性を高めるアジュバントなどの少量の補助物質を含んでもよい。有効なアジュバントの例としては、限定されるものではないが、2%スクアレン/Tween80エマルジョン中の、水酸化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノル-ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(CGP11637、nor-MDPと称する)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(CGP19835A、MTP-PEと称する)、および細菌から抽出された3つの成分、モノホルホリルリピドA、ジミコール酸トレハロース(trehalose dimycolate)および細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を含むRIBIが挙げられる。
【0296】
アジュバントのさらなる例および他の薬剤としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ベリリウム、シリカ、カオリン、炭素、油中水乳液、水中油乳液、ムラミルジペプチド、細菌エンドトキシン、リピドX、コリネバクテリウム・パルバム(プロピオノバクテリウム・アクネス)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ポリリボヌクレオチド、アルギン酸ナトリウム、ラノリン、リゾレシチン、ビタミンA、サポニン、リポソーム、レバミゾール、DEAE-デキストラン、ブロックコポリマーまたは他の合成アジュバントが挙げられる。そのようなアジュバントは、種々の供与源から市販されており、例えばMerck Adjuvant 65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.)またはフロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Michigan)がある。
【0297】
典型的には、Amphigen(水中油型)、Alhydrogel(水酸化アルミニウム)、AmphigenとAlhydrogelの混合物などのアジュバントを用いる。水酸化アルミニウムのみがヒトへの適用に承認されている。
【0298】
免疫原とアジュバントとの比率は、両方が有効な量で存在する限り広範に変動しうる。例えば、水酸化アルミニウムは、ワクチン混合物の約0.5%(Al2O3基準)の量で存在しうる。簡便には、ワクチンは最終濃度が0.2〜200μg/ml、好ましくは5〜50μg/ml、最も好ましくは15μg/mlの範囲で免疫原を含有するように製剤化する。
【0299】
製剤化後、ワクチンを滅菌容器に入れ、それを続いて密封し、低温、例えば4℃で保存するか、または凍結乾燥しうる。凍結乾燥によって、安定化形態で長期保存が可能になる。
【0300】
ワクチンは、慣用的には、注射による非経口投与、例えば皮下または筋肉内投与する。他の投与経路に好適な別の製剤としては、座剤、および場合によっては経口製剤が挙げられる。座剤については、慣用の結合剤および担体としては、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが挙げられ、そのような座剤は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。経口製剤は、通常用いられる賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の剤形をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合には、凍結乾燥材料を投与前に例えば懸濁液に再構成しうる。再構成は、好ましくはバッファー中で行う。
【0301】
患者に経口投与するためのカプセル剤、錠剤および丸剤は、例えばEudragit “S”、Eudragit “L”、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶性コーティングと共に提供しうる。
【0302】
ポリペプチドは、中性または塩形態でワクチンに製剤化しうる。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機塩と共に形成されるもの、酢酸、シュウ酸、酒石酸およびマレイン酸などの有機塩と共に形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウムまたは水酸化第二鉄など、ならびに有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジンおよびプロカインから誘導されるものであってもよい。
【0303】
投与
個々の被験体に最も適した実際の用量は、通常、医師が決定するであろう。そして、それは特定の患者の年齢、体重、および反応によって異なるであろう。以下の用量は、平均的な場合の例である。当然ながら、個々の場合には、さらに高い用量範囲、またはさらに低い用量範囲が有益となる場合もありうる。
【0304】
医薬およびワクチン組成物は、注射によって直接投与することができる。この組成物は、非経口投与用、粘膜投与用、筋肉内投与用、静脈内投与用、皮下投与用、眼内投与用、あるいは経皮投与用に処方することができる。通常、各タンパク質を、体重1kgあたり0.01〜30mgの用量で投与することができ、好ましくは0.1〜10mg/kg、より好ましくは体重1kgあたり0.1〜1mgで投与する。
【0305】
「投与される」という用語は、ウイルス性または非ウイルス性の技法による送達を含む。ウイルス性の送達機構には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルス性の送達機構には、脂質媒介性のトランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性表面両親媒性試薬(CFA)、およびそれらの組合せが含まれる。そのような送達機構のための経路には、粘膜、経鼻、経口、非経口、胃腸、局所、または舌下経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0306】
「投与される」という用語には、粘膜経路による送達、例えば吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能溶液としての送達、例えば静脈内、筋肉内もしくは皮下経路の注射可能な形態による送達を行う非経口経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0307】
「同時投与される」という用語は、例えばKv9.2ポリペプチド、およびアジュバントなどの追加の物質それぞれを投与する部位および時間が、必要な免疫系のモジュレーションを実現するようなものであることを意味する。したがって、ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ時間に、そして同じ部位に投与することもできるが、ポリペプチドを、アジュバントとは異なった時間に、そして、異なった部位に投与する方が有利であることもある。ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ送達媒体で送達することさえでき、また、ポリペプチドおよび抗原を、結合させて、かつ/または分離させて、かつ/または遺伝学的に結合させて、かつ/または遺伝的に分離させることができる。
【0308】
Kv9.2ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ペプチド、ヌクレオチド、抗体、および任意にアジュバントを、宿主被験体に別々に投与することも、あるいは単一用量として、もしくは複数用量で同時投与することもできる。
【0309】
本明細書に記載のワクチン組成物および医薬組成物は、注射(非経口、皮下、および筋肉内注射を含む)、鼻腔内、粘膜、経口、腟内、尿道、または眼投与など、多くの異なる経路によって投与することができる。
【0310】
本明細書に記載のワクチンおよび医薬組成物は、従来の方法によって非経口的に、例えば、皮下注射または筋肉内注射によって投与することができる。他の方法の投与に適した別の製剤には、坐剤、および、場合によって、経口製剤が含まれる。坐剤は、伝統的な結合剤および担体、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含むものでよく、そのような坐剤は、0.5%〜10%の範囲、場合によっては1%〜2%の範囲にある有効成分を含有する混合物から形成することができる。経口製剤は、通常、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、および同様のものなどの通常使用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の形態を取り、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含有する。ワクチン組成物が凍結乾燥である場合には、凍結乾燥物質は、投与前に、例えば、懸濁液として再構成することができる。再構成は、バッファー中で行うのが好ましい。
【0311】
さらなる態様
本発明のさらなる態様および実施形態を、以下の番号の項目に記載した。本発明はこれらの態様を包含すると理解されるべきである。
【0312】
第1項目:配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むKv9.2ポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体。
【0313】
第2項目:第1項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0314】
第3項目:配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示される核酸配列、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を含む、第2項目に記載の核酸。
【0315】
第4項目:第1項目に記載のポリペプチドの断片を含むポリペプチド。
【0316】
第5項目:配列番号3と配列番号5との間で相同性を有する1もしくはそれ以上の領域を含む、または配列番号3と配列番号5との間で異種である1もしくはそれ以上の領域を含む、第3項目に記載のポリペプチド。
【0317】
第6項目:第4または5項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0318】
第7項目:第2、3または6項目に記載の核酸を含むベクター。
【0319】
第8項目:第2、3もしくは6項目に記載の核酸、または第7項目に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0320】
第9項目:第2、3もしくは6項目に記載の核酸、または第7項目に記載のベクターを含むトランスジェニック非ヒト動物。
【0321】
第10項目:マウスである、第9項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0322】
第11項目:Kv9.2と特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第1、4または5項目に記載のポリペプチドの使用。
【0323】
第12項目:Kv9.2と特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第9または10項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【0324】
第13項目:Kv9.2のアンタゴニストを同定する方法であって、Kv9.2を発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、および該細胞におけるサイクリックAMP(cAMP)のレベルが上記接触の結果低下したか否かを判定するステップを含む方法。
【0325】
第14項目:細胞におけるサイクリックAMPの内因性レベルを低下可能な化合物の同定方法であって、Kv9.2サブユニットを含有するチャネルを発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、および上記接触の結果、該チャネルの動力学もしくはコンダクタンスが変化したか否かを判定するステップを含む方法。
【0326】
第15項目:Kv9.2ポリペプチドと結合可能な化合物を同定する方法であって、Kv9.2ポリペプチドと候補化合物とを接触させるステップ、および該候補化合物がKv9.2ポリペプチドと結合するか否かを判定するステップを含む方法。
【0327】
第16項目:第11〜15項目のいずれかに記載の方法によって同定された化合物。
【0328】
第17項目:第1、4または5項目に記載のポリペプチドに特異的に結合可能な化合物。
【0329】
第18項目:抗体の作製方法における第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、または第2、3もしくは6項目に記載の核酸の使用。
【0330】
第19項目:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、または第2、3もしくは6項目に記載のヌクレオチドもしくはその一部によりコードされるポリペプチドに特異的に結合可能な抗体。
【0331】
第20項目:以下のいずれか1以上と薬学的に許容される担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。
【0332】
第21項目:以下のいずれか1以上を含むワクチン組成物:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。.
第22項目:以下のいずれか1以上を含む、疾患または疾患の罹りやすさのための診断キット:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。
【0333】
第23項目:Kv9.2の活性増大に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にKv9.2のブロッカーまたはモジュレーターを投与するステップを含む方法。
【0334】
第24項目:Kv9.2の活性低減に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にKv9.2のオープナーまたはモジュレーターを投与するステップを含む方法。
【0335】
第25項目:Kv9.2が配列番号3もしくは配列番号5に示される配列を有するポリペプチドを含む、第23または24項目に記載の方法。
【0336】
第26項目:患者における疾患の治療および/または予防方法であって、該患者に以下のいずれか1以上を投与するステップを含む方法:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、第19項目に記載の抗体、第20項目に記載の医薬組成物、および第20項目に記載のワクチン。
【0337】
第27項目:疾患の治療または予防方法に使用するための、第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および/または第19項目に記載の抗体を含む薬剤。
【0338】
第28項目:疾患の治療または予防のための医薬組成物の製造のための、第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体の使用。
【0339】
第29項目:改変型Kv9.2遺伝子を含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物。
【0340】
第30項目:改変が、Kv9.2の欠失、機能欠損を生じるKv9.2の突然変異、Kv9.2へのターゲティングもしくはランダム突然変異を含むヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、Kv9.2への別の種由来の外因性遺伝子の導入、および上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される、第29項目に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【0341】
第31項目:機能的に破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物であって、そのゲノムに異種Kv9.2タンパク質をコードするトランスジーンを含みかつそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物。
【0342】
第32項目:宿主細胞においてKv9.2遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物であって、(a)非相同置換部分、(b)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1Kv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域、ならびに(c)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2Kv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2相同領域を含み、第2Kv9.2遺伝子配列は天然の内因性Kv9.2遺伝子において第1Kv9.2遺伝子配列の下流に位置する前記核酸構築物。
【0343】
第33項目:Kv9.2ポリペプチドの製造方法であって、第8項目に記載の宿主細胞を、Kv9.2ポリペプチドをコードする核酸が発現される条件下にて培養するステップを含む方法。
【0344】
第34項目:サンプルにおける第2、3または6項目に記載の核酸の存在を検出する方法であって、該サンプルと該核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとを接触させるステップ、および該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0345】
第35項目:サンプルにおける第1、4または5項目に記載のポリペプチドの存在を検出する方法であって、該サンプルと第19項目に記載の抗体とを接触させるステップ、および該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0346】
第36項目:Kv9.2発現の増大、低減または異常により引き起こされるまたはそれに関連する疾患または症候群を診断する方法であって、(a)そのような疾患に罹患したまたは罹患した疑いのある動物におけるKv9.2の発現レベルまたは発現パターンを検出するステップ、および(b)発現レベルまたは発現パターンを正常動物のものと比較するステップを含む方法。
【実施例】
【0347】
実施例1 トランスジェニックKv9.2ノックアウトマウス:Kv9.2遺伝子ターゲッティングベクターの構築
Kv9.2遺伝子を、ゲノムデータベースの相同性サーチを用いて生物情報科学手法によって同定した。226kbゲノムコンティグを種々のデータベースから構築した。このコンティグは、ターゲティングベクターにクローニングするための相同性アームの設計を可能にするのに十分なフランキング配列情報を提供した。
【0348】
マウスKv9.2遺伝子は、1つのコーディングエキソンを有する。ターゲッティング方法は、コーディングエキソンの大部分を除去するように設計する。除去する領域に隣接する1.7kbの5'相同性アームと、4.0kbの3'相同性アームとをPCRにより増幅して、断片をターゲッティングベクターにクローニングする。アームを増幅するのに使用した各オリゴヌクレオチドプライマーの5'末端は、ベクターポリリンカーのクローニング部位と適合性を有し、かつ、アーム自体には存在しない切断頻度の低い制限酵素に対する異なる認識部位を含有するように合成する。Kv9.2の場合には、下記のプライマー表に記載する通りプライマーを設計し、これらは、5'アームクローニング部位としてAgeI/NotIを、3'アームクローニング部位としてAscI/FseIを有する(用いたターゲティングベクターの構造を関連する制限部位も含めて図1に示す)。
【0349】
アームプライマー対(5'armF/5'armR)および(3'armF/3'armR)に加えて、Kv9.2遺伝子座に特異的なプライマーをさらに、以下の目的で設計する。5'および3'のプローブプライマー対(5'prF/5'prR、および3'prF/3'prR)は、各アームの外側にあって先に延びる非反復性のゲノムDNAの150〜300bpの2つの短い断片を増幅するためであり、また、単離された推定上の標的クローンにおける、標的遺伝子座のサザン解析を可能にするためでもある。マウス遺伝子型決定プライマー対(hetFおよびhetR)は、ベクター特異的プライマー(この場合、Asc403)による多重PCRに用いると、野生型、ヘテロ接合体、およびホモ接合体マウス相互の識別を可能にする。そして、最後に、標的スクリーニングプライマー(5'scr)は、5'アーム領域の末端の下流にアニールし、ベクター(TK5IBLMNL)の5'末端に特異的なプライマー(この場合DR1)と対にして用いた場合、標的事象に特有の2.0kbアンプリマーを生成する。このアンプリマーは、所望のゲノム変化が起こった細胞に由来する鋳型DNAからのみ得ることができ、無作為に組み込まれたベクターコピーを含有するバックグランドクローンからの、正しくターゲッティングされた細胞の同定を可能にする。ターゲッティングストラテジーで使用されたこれらのプライマーの位置および、Kv9.2遺伝子座のゲノム構造を配列番号19に示す。
【0350】
相同性アームの位置は、Kv9.2遺伝子を機能的に破壊するように選択する。調製されるターゲッティングベクターでは、発現促進されるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子がKv9.2遺伝子と同じ方向に配置されており、このneo遺伝子によって構成された選択カセットの上流にある内因性遺伝子発現レポーター(フレーム非依存性のlacZ遺伝子)によって構成された非相同性配列で、欠失されるべきKv9.2領域が置換除去される。
【0351】
5'および3'の相同性アームがターゲッティングベクターTK5IBLMNL(図5を参照)にクローニングされると、標準的な分子生物学技法を用いて、大きい高純度DNA調製物が調製される。20μgの新たに調製されたエンドトキシン非含有DNAは、別の低頻度切断制限酵素であるPmeIにより消化される。このPmeIは、アンピシリン耐性遺伝子と、細菌の複製起点との間のベクター骨格特有の部位に存在する。次に、線状化されたDNAを沈殿させて、100μlのリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁し、エレクトロポレーションの準備ができる。
【0352】
エレクトロポレーションの後、24時間置き、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養する。クローンを96ウェルプレート中に採取して、複製および増殖させ、その後、内因性Kv9.2遺伝子とターゲッティング構築物との間での相同組換えが起こっているクローンを同定するために、PCR(上述したプライマー5'prFおよびDR1を用いる)によってスクリーニングする。陽性クローンは、1%〜5%の割合で同定できる。すべて標準的操作法を用いて、これらのクローンを増殖させてレプリカを冷凍し、そしてターゲッティング事象を確認するための、上述の通りに調製された5'および3'の外部プローブを用いたサザンブロット用に十分に高品質なDNAを調製する(Russら, 2000年, Nature 2000 Mar 2; 404(6773): 95〜99)。診断制限酵素によって消化されたDNAのサザンブロットを、外部プローブでハイブリダイズさせたときに、突然変異体バンドおよび変化していない野生型バンドの存在によって、相同的にターゲッティングされたES細胞クローンが確認される。例えば、AflIIで消化した野生型ゲノムDNAは、5'外部プローブとハイブリダイズさせた場合に6.2kbおよび3'外部プローブとハイブリダイズさせた場合に7.0kbのバンドが生じる一方、同様に消化した標的対立遺伝子を含むゲノムDNAは、野生型バンドだけでなく約17kbのノックアウト特異的バンドが生じうる。
【0353】
実施例2 トランスジェニックKv9.2ノックアウトマウス:Kv9.2欠損マウスの作製
メスおよびオスのC57BL/6マウスを交配させ、妊娠3.5日に、胚盤胞を単離する。選択されたクローンから得た細胞を、胚盤胞1つにつき10〜12細胞注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠のF1のメスの子宮に移植する。何匹かの高レベル(最大100%)アグーチオスを含むキメラ子マウスの同腹仔が生まれる(アグーチ皮膚色は、ターゲッティングされたクローンの子孫である細胞の分布を示す)。これらのオスキメラをメスのMF1および129マウスと交配させ、アグーチ皮膚色によって、そしてPCRによるそれぞれのゲノム型決定によって生殖系列への伝達を判定する。
【0354】
溶解したテールクリップのPCR遺伝子型決定を、プライマーhetFおよびhetR、ならびに第3の、ベクター特異的プライマー(Asc403)を用いて行う。この多重PCRは、プライマーhetFおよびhetRから、野生型遺伝子座(存在していれば)からの増幅を可能にし、241bpのバンドを与える。ノックアウトマウスではhetFの部位が欠失されているため、ターゲッティングされた対立遺伝子からの増幅はないであろう。しかし、Asc403プライマーは、3'アームのすぐ中の領域にアニールするhetRプライマーと併せて、ターゲッティングされた遺伝子座から434bpのバンドを増幅するであろう。したがって、この多重PCRは、以下の同腹仔の遺伝子型を表す。野生型のサンプルは単一の241bpバンドを示す;ヘテロ接合DNAサンプルは241bpおよび434bpの2つのバンドを生じ、ホモ接合サンプルは、標的に特異的な434bpバンドのみを示すであろう。
【表1】
【0355】
実施例3 生物学的データ:遺伝子発現パターン(ヒトRT-PCR)
電子式ノーザンブロットを用いて、肺、脳、脾臓および低濃度の前立腺、肝臓、生殖器および筋肉における遺伝子の発現を示した(図2)。
【0356】
実施例4 生物学的データ:遺伝子発現パターン(LacZ染色構造)
LacZ染色
切除した組織のXgal染色を以下のように行う。
【0357】
代表的な組織切片を大きな器官から作製する。全ての小器官および管を切開し、固定剤および染色剤を浸透させる。組織をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で十分に洗浄して血液または消化管内容物を除去する。組織を固定剤(2%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒド、0.02% NP40、1mM MgCl2、デオキシコール酸ナトリウム0.23mMを含むPBS)中に30〜45分おく。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、30℃にて18時間にわたりXgal染色溶液(PBS中の4mMフェロシアン化カリ、4mMフェリシアン化カリ、2mM MgCl2、1mg/ml X-gal)中に組織をおく。組織をPBSで3回洗浄し、4%ホルムアルデヒド中で24時間かけて後固定処理を行い、PBSで再度洗浄した後、70%エタノール中で保存する。
【0358】
Xgal染色組織を同定するために、脱水した組織をワックス包埋し、そして7um切片に切り、0.01%サフラニンを用いて対比染色する(9〜10分間)。
【0359】
LacZ染色を用いると、Kv9.2は脳内、特に皮質、海馬、カエハ島、淡蒼球部(ventate pallidum)、中心扁桃核(CeL;central amydaloid nucleus)、視床核および皮質に発現されることが見出された。さらに、染色の確証はまた、心臓、脾臓、肺および精巣にも見られた。
【0360】
実施例5 脊髄におけるKv9.2の発現
Kv9.2発現が上記プロトコルを用いると図3に示したように脊髄で検出された。
【0361】
脊髄は運動および感覚機能に関係するシグナルを運ぶ。これらの機能は、脊髄の灰白質において、運動機能のための前角と感覚機能のための後角に分けられる。後角はさらにラミナ(ラミナ I〜VI)に細分することができる。これらのラミナ中の神経細胞は後根神経節(DRG)の色々な感覚細胞からの入力を受ける。DRGのAδおよびc繊維侵害性神経細胞は脊髄のラミナIおよびIIで終止する一方、感覚Aβ神経細胞はラミナIIIおよびIVで終止する。従って、ラミナIおよびIIの細胞は疼痛プロセシングに関わる。さらに、これらの細胞を、イオンチャネルなどの発現された薬物標的に対するリガンドを用いて改変することにより、疼痛シグナルの伝達を変えうる。
【0362】
図3はKv9.2-/-マウスからの後角の横断面を示す。青いLacZ染色がラミナI〜IIIからの神経細胞の細胞体に見られる。点線は白色と灰色物質の間の境界を表す。
【0363】
図4はKv9.2 -/- マウスからの脊髄の横断面のさらなる拡大図を示す。「A」はラミナIを、「B」はラミナIIを、「C」はラミナIIIを示す。ラミナの神経細胞の細胞体が、lacZにより青く染色された細胞の細区画を含むことを明瞭に見ることができる。
【0364】
Kv9.2はラミナI、IIおよびIIIの細胞に発現される。従って、これは疼痛知覚に関わっている。
【0365】
実施例6 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):テールフリック試験
テールフリック鎮痛試験を、テールフリック鎮痛メーターを用いて実施した。この装置は、げっ歯類において正確で再現性のある疼痛感受性を測定するための取扱容易な方法を提供する(D'Amour, F.E.およびD.L. Smith、1941、Expt. Clin. Pharmacol.、16: 179-184)。本計器は熱源としてシャッター制御されたランプを有する。ランプは動物の下に配置してなるだけ拘束しない環境を与えるようにする。テールフリックは自動検出回路網により検出して、使用者が手を出さずに動物を扱えるようにする。動物を換気したチューブ内に拘束し、そのテールを設備の頂上の感知溝上に置く。
【0366】
シャッターの開口部を通して強い光ビームをテールへ当てると、ある点で動物は不快感を生じてそのテールをはじいてビームから外すであろう。自動モードでは、光検出器がテールの動きを検出して時計を停止してシャッターを閉じる。シャッター開口と動物の反応の間に経過した全時間を記録する。
【0367】
変異トランスジェニックマウスの応答を、加齢と性の整合した野生型マウスと比較する。単一動物に、55℃以下のテール温度の上昇を与える色々な熱設定を課することができる。
【0368】
テールフリック試験で試験すると、Kv9.2変異体は、疼痛に対して、野生型対応と比較して調節された(増加または低下した)応答を示す。
【0369】
実施例7 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):ホルマリン試験
ホルマリン試験は、後足に注射された侵害性物質に対する応答を測定する。体積20mlの5%ホルマリン溶液を細ゲージ針を通して片方の後ろ足の背側表面中に皮下注射する。後足をなめたり、振ったりかつ噛んだりするのを、行動に関わる累積秒数として数値化する。次の評点尺度を用いる:1=ホルマリン注射された足を、体重をあまりかけないで床上に軽く置く;2=注射された足を上げる;3=注射された足をなめたり、噛んだりまたは振ったりする。
【0370】
ホルマリン試験では2つの応答期が見られる。第1期は注射後直ぐに始まってほぼ10分間続き、疼痛繊維からの活性の急性バーストを表す。第2期は注射後ほぼ20分間に始まってほぼ1時間続く。この期は、炎症性痛覚過敏を含む組織障害に対する応答を表すようである。
【0371】
Kv9.2は、ホルマリン試験で試験すると、疼痛に対して、その野生型対応と比較して調節された(増加または減少した)応答を示す。
【0372】
実施例8 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):Von Frey hair試験
本試験は疼痛閾値を測定するために用いられる接触試験であって、Von Frey hairを使用する。Von Frey hairは、一式の非常に細いゲージ較正されたワイヤである。機械的刺激の離脱閾値を測定する。動物は高いプラットフォーム上に立ち、そのプラットフォーム表面は広いゲージワイヤメッシュである。Von Frey hairを下側からメッシュの孔を通して上向きに挿入して後足の下面を突く。閾値において、マウスはその後足をVon Frey hairから離して応答し、通常続いて、足を上げたり、足をなめたり、および/または声を出す。機械的な離脱閾値は、3連続試験のうちの2つにおいて離脱反応を誘発する最小ゲージワイヤ刺激として定義する。
【0373】
Kv9.2変異体は、Von Freyで試験すると、その野生型対応と比較して、疼痛に対して調節された(増加または低下した)応答を示す。
【0374】
実施例9 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):神経障害性疼痛
神経障害性疼痛を、麻酔したマウスのL5脊髄神経の強い結紮(ligation)により誘導する(KimおよびChung 1992)。回復後、神経障害性疼痛の発生と維持を異痛症(非侵害性刺激に対する疼痛の知覚)または痛覚過敏(侵害性刺激に対する増加した応答)について測定する。
【0375】
異痛症はvon Frey繊維(実施例8に記載した)を用いて4週間にわたり測定した。それぞれの後足を試験し、同側(傷害側)の応答と対側(無処置側)の足応答を、ノックアウトと野生型マウスの間で比較した。痛覚過敏は侵害性熱、侵害性冷熱および侵害性機械刺激を用いて試験した。
【0376】
Kv9.2変異体は、神経障害疼痛、異痛症および痛覚過敏試験で試験すると、野生型対応と比較して、疼痛に対して調節された(増加または減少した)応答を示す。
【0377】
各特許出願および特許の手続き中のものを含めた、本明細書で言及した各特許出願および特許、ならびに上記の特許出願および特許のそれぞれで引用または参照された各文献(「特許出願引用文献」)、ならびに、各特許出願および特許、ならびに特許出願引用文献のいずれかで引用または言及したいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。さらに、本文中で引用されたすべての文献、および本文中で引用された文献中で引用または参照されたすべての文献、および本文中で引用または言及されたいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。
【0378】
本発明の記載した方法および系の種々の変更形態および変形形態は、本発明の範囲および精神から逸脱しないことは当業者には明らかであろう。特定の好ましい実施形態に関連して本発明を記述したが、本発明の特許請求の範囲は、そのような特定の実施形態に不当に制限されるべきではないこと、そして、本発明の範囲内において多くの変更および追加を加えることができることを理解されたい。実際に、本発明を実施するために記載した方法の種々の変更形態は、分子生物学あるいは関連分野の当業者には明らかであり、特許請求の範囲内に含まれるものである。さらに、独立形式請求項の特徴を用いて、本発明の範囲から逸脱せずに、従属請求項の特徴の様々な組合せを作ることができる
配列
配列番号1はヒトKv9.2 cDNA配列を示す。配列番号2は配列番号1から誘導されたオープンリーディングフレームを示す。配列番号3はヒトKv9.2アミノ酸配列を示す。配列番号4はマウスKv9.2 cDNAのオープンリーディングフレームを示す。配列番号5はマウスKv9.2 アミノ酸配列を示す。配列番号6〜18はノックアウトプラスミドを構築するために用いた遺伝子型判定プライマーを示す。配列番号19はノックアウトプラスミドベクター配列を示す。
【0379】
配列
【0380】
【0381】
【0382】
【図面の簡単な説明】
【0383】
【図1】Kv9.2欠失マウスを作製するためのノックアウトベクターを示す。
【図2】Kv9.2遺伝子がヒトRT-PCRスクリーニングから得られることを示す。
【図3】Kv9.2-/-マウスからの後角の横断面を示す。青いLacZ染色がラミナI〜IIIからの神経細胞の細胞体に見られる。点線は白色と灰色物質の間の境界を表す。
【図4】Kv9.2 -/- マウスからの脊髄のさらに高い拡大率の横断面を示す。「A」はラミナIを、「B」はラミナIIを、「C」はラミナIIIを示す。ラミナの神経細胞の細胞体はlacZにより青く染色された細胞のサブ区画を含むことを明瞭に見ることができる。
【図5A】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す。
【図5B】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Aの続き)。
【図5C】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Bの続き)。
【図5D】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Cの続き)。
【図5E】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Dの続き)。
【図5F】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Eの続き)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに同定された核酸、それらにコードされるポリペプチド、ならびにそれらの製造および使用に関する。さらに特別に、本発明の核酸およびポリペプチドは、以下に「Kv9.2」と称するイオンチャネルサブユニットに関する。本発明は、そのような核酸およびポリペプチドの作用を阻害または活性化することにも関する。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルは細胞の機能において重要な役割を果たすマルチサブユニット膜結合タンパク質である。これらは、ナトリウム、カリウム、塩素およびカルシウムを含むいくつかのイオンの細胞膜を横切る通過を調節する。イオンは電荷を運ぶので、イオンチャネルは、細胞静止電位を含む基本的な細胞電気特性の重要なメディエータである。これらの機能不全および欠陥は、癲癇、高血圧および嚢胞性線維症を含む多くの疾患および症候群において示唆されている。
【0003】
カリウムチャネルは細胞の表面膜に分布し、カリウムイオンが選択的に通過することを可能にするので、細胞の膜電位を制御する上で重要な役割を果たすと考えられる。特に、神経および筋肉細胞において、カリウムチャネルは、作用電位の頻度、持続および残留を制御することにより、中枢および末梢神経の神経伝達、心臓の歩調取り(ペースメイキング)、筋肉の収縮などに寄与する。さらに、これらはまた、ホルモンの分泌、細胞体積の調節および細胞の増殖にも関係のあることが示されている。
【0004】
カリウムチャネル遺伝子ファミリーは最大でかつ最も多様なイオンチャネルファミリーであると考えられる。これらは、膜貫通ドメインの数;例えば2つ、4つまたは6つのドメインに基づいていくつかのサブファミリーに分類されている。2つのドメインのものには、高度に保存された細孔ドメインを有するGIRK、IRK、CIRおよびROMKが含まれる。Twik-1およびTwik-様チャネルならびにTREK、TASK-1および2ならびにTRAAKは4つの膜貫通ドメインを有し、膜を横切る定常状態カリウムイオン電位の維持に関わる。Shaker様およびeag型チャネルは6つのドメインを有し、最大のサブファミリーである。Shaker型は極めて高度の多様性を有するファミリーであって、さらにいくつかのサブファミリーKv1、Kv2、Kv3、およびKv4に分割することができる。他方、eag型はeag、eag調節性遺伝子およびelkにより構成され、そしてその関係遺伝子には、KAT遺伝子クラスターに対応する過分極活性化型カリウムチャネルおよび環状ヌクレオチドにより活性化されるカチオンチャネルが含まれる。
【0005】
Kvチャネルをコードする最初の完全なヌクレオチド配列は、1987年にShakerチャネル(Kv1)のクローニングにより報じられている。Shaker cDNAを用いたcDNAライブラリーの低ストリンジェンシースクリーニングによってK+チャネルcDNAであるShab(Kv2)、Shaw(Kv3)およびShal(Kv4)の単離が行われ、そしてこれらは3つの異なる遺伝子から誘導された。これらの配列はShakerと相同的であり、ほぼ40%同一性を有する。コア領域でShakerとほぼ60%を超える相同性を有するKv1ファミリーは少なくとも7メンバーを伴う最大チャネルファミリーである。Shaker、Shab、Shal、およびShawに関係する哺乳動物サブファミリーに加えて、5つのさらなるサブファミリー(Kv5〜9)も記載されている。現在、30を越えるKvチャネルがクローニングされ、異種発現系で発現されている。これらのチャネルは異なる電圧感受性、電流動力学、および定常状態活性化および不活性化を提示することが多い。
【0006】
Kvチャネルは、結合して機能的チャネルを形成する4つの6回貫通膜にまたがるサブユニットにより形成される4量体として存在する。同一のサブユニットが結合して機能的チャネルを形成できるだけでなく、異なるサブユニットもin vitroおよびin vivo両方で結合して機能的ヘテロマーチャネルを形成できる。これらのヘテロマーチャネルは、対応するホモマーチャネルに観察される特性がブレンドされてユニークな特性を有することが多い。さらに、いくつかのKvサブユニットは、単独で発現されると非機能的である。例えば、最も新しく同定された哺乳動物KvファミリーのメンバーであるKv9.3サブユニットは、それ自体、機能的ホモマーチャネルを形成しないが、むしろ、ヘテロマー複合体でのみ機能して電圧感受性および動力学の変化を与える。
【0007】
アクセサリーサブユニットはKvサブユニットと結合してKvチャネル機能になおさらなる多様性を加えることができる。現在、4つのKvサブユニット遺伝子ファミリーが記載されている。それらは全て細胞質タンパク質であり、質量がほぼ40kDaで、保存されたコア配列と可変性NH2末端を有する。Kvサブユニットは、サブユニットに対して、速いおよび遅い不活性化、改変された電圧感受性、およびより遅い失活などの機能的影響を与えることが示されている。さらに、サブユニットは酸化還元センサーとしての役割を果たしうる、というのは、該サブユニットは異種発現系においてKv4.2チャネルにO2感受性を与えると思われるからである。
【0008】
カリウムゲートチャネル、遅延整流器、サブファミリーS、メンバー-2(Kv9.2)mRNAは先に、膵臓のランゲルハンス島で発現することが示されたが、これはインスリンと共局在しないことが示され、これがインスリン分泌の制御に関与しないことを示唆した(Yan, L.ら, Diabetes 2004. 53. 597-607)。
【発明の開示】
【0009】
概要
本発明の第1の態様によると、本発明者らは、疼痛を治療、予防または軽減するために好適な分子を同定する方法であって、候補分子がKv9.2ポリペプチドのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを確認するステップを含んでなり、ここで、Kv9.2ポリペプチドが配列番号3もしくは配列番号5に示されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含む前記方法を提供する。
【0010】
好ましくは、Kv9.2ポリペプチドは配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示された核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列によりコードされるかである。
【0011】
そのような方法は、候補分子をKv9.2ポリペプチドに暴露するステップおよび候補分子がKv9.2ポリペプチドと結合するかどうかを確認するステップを含んでいてもよい。
【0012】
そのような方法は、a)野生型動物または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を提供するステップ;(b)前記野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果として動物の生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップ
を含んでいてもよい。
【0013】
好ましくは、生物学的パラメーターは、刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答からなる群より選択され、好ましくは疼痛に対する応答である。
【0014】
そのような方法は、(a)細胞、好ましくは野生型細胞または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を含有する細胞、好ましくは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物から単離された細胞を提供するステップ;(b)前記細胞を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果としてコンダクタンスおよび/または動力学を含むKv9.2ポリペプチドの生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様によると、疼痛を治療、予防または軽減するためのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法における、野生型動物または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物の使用が提供される。
【0016】
本発明の第3の態様によると、本発明者らは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物、またはその単離された細胞もしくは組織の、疼痛に対するモデルとしての使用を提供する。
【0017】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物が、機能が破壊された、好ましくはKv9.2遺伝子またはその部分中に欠失を有するKv9.2遺伝子を含む。
【0018】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物が、野生型と比較すると、次の表現型:刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答の1以上、好ましくは疼痛に対する応答に変化を示す。
【0019】
好ましくは、トランスジェニック非ヒト動物が、野生型と比較すると、疼痛に対する感受性の増加または減少を示す。
【0020】
好ましくは、トランスジェニック非ヒト動物がげっ歯類、好ましくはマウスである。
【0021】
本発明の第4の態様によると、Kv9.2含有イオンチャネルのオープナー、モジュレーターまたはブロッカーを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法であって、候補化合物を請求項4〜12のいずれか1項に記載の野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物に投与するステップおよび請求項10に記載した生物学的パラメーターの変化を測定するステップを含む前記方法が提供される。
【0022】
本発明者らは、本発明の第5の態様によって、配列番号3もしくは配列番号5に示したアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリペプチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用を提供する。
【0023】
本発明は、第6の態様において、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示した核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリヌクレオチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用を提供する。
【0024】
好ましくは、疼痛は、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛からなる群より選択される。
【0025】
本発明の第7の態様においては、記載した方法または使用により同定されたKv9.2のアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)が提供される。
【0026】
本発明の第8の態様によると、本発明者らは、疼痛を治療、予防または軽減するための、そのような分子の使用を提供する。
【0027】
本発明者らは、本発明の第9の態様によると、疼痛または疼痛に対する感受性のための診断キットであって、次のもの:Kv9.2ポリペプチドまたはその部分;Kv9.2ポリペプチドに対する抗体;またはそれらをコードできる核酸の1以上を含む前記キットを提供する。
【0028】
本発明の第10の態様によると、疼痛を患う個体を治療する方法であって、個体におけるKv9.2ポリペプチドの活性または量を増加または減少させることを含む前記方法が提供される。
【0029】
好ましくは、前記方法は、個体に、Kv9.2ポリペプチド、オープナーまたはモジュレーターを含むKv9.2ポリペプチドのアゴニスト、またはブロッカーを含むKv9.2のアンタゴニストを投与することを含む。
【0030】
本発明の第11の態様として、本発明者らは、疼痛を診断する方法であって、(a)そのような疾患を患うかまたは患うと疑われる動物におけるKv9.2ポリペプチドの発現のレベルまたはパターンを検出するステップ;および(b)該発現のレベルまたはパターンを正常な動物のそれと比較するステップを含む前記方法を提供する。
【0031】
本発明の実施は、特に断らない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用的技法を使いうるのであって、これらの技法は当業者の能力の範囲内にある。そのような技法は文献に記載されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch,およびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Books 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F. M.ら, (1995および定期的補充;Current Protocols in Molecular Biology, 第9、13および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.);B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons;J. M. PolakおよびJames O'D. McGee, 1990, In Situ Hybridization: Principles and Practice, Oxford University Press;M. J. Gait (編), 1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press;D. M. J. LilleyおよびJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press;Edward Harlow, David Lane, Harlow(編), Using Antibodies : A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7);Ed Harlow (編), David Lane (編), Antibodies : A Laboratory Manual (1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855;Lars-Inge Larsson “Immunocytochemistry: Theory and Practice”, CRC Press inc., Baca Raton, Florida, 1988, ISBN 0-8493-6078-1;John D. Pound (編), シリーズ:“Methods in Molecular Biology”中の“Immunochemical Protocols, vol 80”, Humana Press, Totowa, New Jersey, 1998, ISBN 0-89603-493-3;Ramakrishna Seethala, Prabhavathi B. Fernandes(編), Handbook of Drug Screening (2001, New York, NY, Marcel Dekker, ISBN 0-8247-0562-9);Jane RoskamsおよびLinda Rodgers(編), Lab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3;ならびに The Merck Manual of Diagnosis and Therapy (第17版, Beers, M. H.およびBerkow, R, Eds, ISBN: 0911910107, John Wiley & Sons)を参照されたい。これらの一般的教科書のそれぞれは本明細書に参照により組み入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
詳細な説明
Kv9.2
本発明は一般的に、イオンチャネルおよびそのサブユニット、特に、電圧ゲートカリウムチャネルのKv9.2サブユニット、ならびにその相同体、変異体または誘導体の使用であって、疼痛および疼痛関連疾患を含む、Kv9.2関連疾患および症状の治療、緩和または診断における前記使用に関する。
【0033】
本発明のこの実施形態および別の実施形態をさらに詳しく以下に説明する。
【0034】
Kv9.2の発現プロファイル
Kv9.2 cDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により、前立腺、肝臓、生殖器官、筋肉および脳を含むいくつかの器官における様々な存在量のKv9.2の発現を検出した。
【0035】
配列番号1のKv9.2 cDNAを用いてヒトESTデータソースをBLASTNによりサーチし、識別子をcDNAライブラリー中に見出した。これは、Kv9.2が
U69192 ヒト幼児脳
AA776703 ヒト精巣
A1681499 ヒト肺
AW292826 ヒト卵巣
などの正常または異常な組織中に発現されることを示した。
【0036】
従って、Kv9.2ポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクターおよびリガンドは、これらおよび他の組織中のKv9.2サブユニットの過剰、不足および異常な発現に関連する疾患および症候群に対する検出、診断、治療および他のアッセイにとって有用である。
【0037】
Kv9.2関連疾患および症候群
本明細書に記載の方法と組成によると、Kv9.2サブユニットは、ある範囲の疾患、特に様々なタイプの疼痛を治療および診断するのに好適である。これらの疾患は便宜上、Kv9.2関連疾患と呼ぶこととする。
【0038】
Kv9.2を欠損するノックアウトマウスは、実施例に実証するような、ある範囲の表現型を提示する。
【0039】
下記実施例5に記載のように、Kv9.2の発現は後角のラミナI、IIおよびIIIの神経細胞(感覚性知覚に関わる)の細胞体中に検出される。これは、Kv9.2が疼痛知覚に関わることを実証する。
【0040】
本発明者らは、従って、個体における疼痛の知覚を変える方法であって、個体におけるKv9.2のレベルまたは活性をモジュレートする前記方法を開示する。どこにも記載されているように、これはKv9.2の発現をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、またはKv9.2に対するアゴニストまたはアンタゴニストの使用により達成することができる。
【0041】
特に、そのような方法による疼痛のモジュレーションは、疼痛関連疾患の症候群の治療、軽減または低下のために利用することができる。従って、本明細書に記載の方法および組成物は、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)を診断、治療および軽減するのに好適である。疼痛の定義には、限定されるものでないが、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛が含まれる。
【0042】
便宜上、これらを「Kv9.2関連疾患および症候群」と呼ぶ。
【0043】
特に、本発明者らは、上に掲げたKv9.2関連疾患および症候群を治療または診断するための、核酸、Kv9.2サブユニット核酸を含むベクター、ポリペプチド(それらの相同体、変異体または誘導体を含む)、Kv9.2サブユニット核酸および/またはポリペプチドを含む医薬組成物、宿主細胞、およびトランスジェニック動物の使用を想定する。さらに、本発明者らは、Kv9.2関連疾患および症候群の診断または治療または軽減における、Kv9.2サブユニットと相互作用または結合可能な化合物、好ましくはKv9.2サブユニットのアンタゴニスト、ブロッカーまたはモジュレーター、Kv9.2サブユニットに対する抗体の使用、ならびにこれらを作製または同定する方法を想定する。特に、本発明者らは、Kv9.2関連疾患および症候群の治療または予防用のワクチンの製造における、これらの化合物、組成物、分子などのいずれかの使用を想定することを包含する。本発明者らは個体におけるKv9.2関連疾患および症候群を検出するための診断キットも開示する。
【0044】
Kv9.2サブユニットの使用により治療可能または診断可能な、かかるまたはさらなるKv9.2関連疾患および症候群を同定するための連鎖マッピングの方法は、当技術分野で公知であり、これも本明細書に別記する。
【0045】
疼痛
急性疼痛
急性疼痛は、短期の疼痛または容易に同定可能な原因を有する疼痛として定義される。急性疼痛は、組織への創傷または疾患の存在を身体が警告することである。急性疼痛は、迅速で鋭く、それにうずく痛みが続くことが多い。急性疼痛は、1つの領域に集中し、その後、幾分広がる。
【0046】
慢性疼痛
慢性疼痛は、医学的に、6か月以上持続した疼痛と定義される。この休みなく続く疼痛または間欠性の疼痛は、時を経てしばしばその目的を失っている。それは、慢性疼痛が、身体が損傷を防止するのを助けないからである。慢性疼痛は、急性疼痛よりも治療が困難であることが多い。慢性になったどのような疼痛の治療にも、専門家のケアが一般に必要である。オピオイドが長期間使用される場合は、薬物耐性、化学物質依存性、および心理学的嗜癖さえも起こりうる。オピオイドの使用者に薬物耐性および化学物質依存性はよくみられるが、心理学的嗜癖はまれである。
【0047】
発生源および関係する侵害受容体(疼痛を検出する神経)により、生理学的疼痛の経験を4つの種類に群分けできる。
【0048】
皮膚疼痛
皮膚疼痛は、皮膚または表在組織に対する損傷によって起こる。皮膚侵害受容体の終末は皮膚のすぐ下にあり、神経終末が高度に集中していることが原因で、持続時間の短い、明確な局所疼痛を生じる。皮膚疼痛を生じる例示的な損傷には、紙による切り傷、軽度(I度)の熱傷および裂傷がある。
【0049】
体性痛
体性痛は、靭帯、腱、骨、血管、および神経自体までをも起源とし、体性侵害受容体で検出される。これらの領域には疼痛受容体が不足しているので、皮膚疼痛よりも持続時間の長い、局在のはっきりしない鈍痛が生じる。その例には足首関節捻挫および骨折がある。
【0050】
内臓痛
内臓痛は、身体器官を起源とし、内臓侵害受容体は身体器官および内腔の中に局在する。これらの領域に侵害受容体がなお一層不足していることから、体性痛よりも通常うずき、持続時間の長い疼痛が生じる。内臓痛は局在をはっきりさせることが極めて困難であり、内臓組織への色々な損傷は「関連」痛を示す。関連痛では、感覚は損傷部位と全く関係しない領域に局在する。心筋虚血(心筋組織の部分への血流の欠如)は、おそらく関連痛の最も公知の例である。その感覚は、束縛感として上胸部で、または左肩、腕の、もしくはさらには手で、うずく痛みとして起こりうる。
【0051】
他の種類の疼痛
幻痛は、もはや有さない足またはもはや物理的シグナルを与えない肢からの疼痛感覚であり、これは肢切断者および四肢麻痺患者ほぼ全員で報告される経験である。神経障害性疼痛(神経痛)は、神経組織自体への損傷または疾患の結果として生じうる。これによって、知覚神経が視床に正しい情報を伝達する能力が破壊される場合があり、したがって、たとえ疼痛に関して明白な生理学的原因または立証された生理学的原因が存在しなくとも、脳は疼痛性刺激を演出する。
【0052】
三叉神経痛(「疼痛性チック」)は、三叉神経に対する損傷または創傷によって引き起こされる疼痛を指す。三叉神経は3分枝を有する。V1は額および眼の領域に感覚を与え、V2は鼻および顔に感覚を与え、V3は顎およびおとがい領域に感覚を与える。顔のそれぞれの側は、感覚を与える三叉神経を有する。三叉神経痛の片側疼痛は、頬、口、鼻、および/または顎の筋肉を経由して広がる場合がある。三叉神経痛は、一般に高齢者を冒すが、青少年または多発性硬化症を有する者も三叉神経痛を経験する場合がある。
【0053】
三叉神経痛の一次症状は、額、頬、おとがい、または下顎の輪郭のいずれかの疼痛である。重症な症例では、3つ全ての領域または左右両側が影響を受けうる。疼痛の発症は重症、けいれん性および短時間であり、電気ショックとして感じるであろう疼痛に類似していると記載されている。その疼痛は、歯磨き、会話、咀しゃく、飲水、ひげそりまたはさらにはキスなどの、よくある日常活動により誘発されうる。疼痛事象の頻度は時間と共に増加し、どんどん破壊的になり、能力を奪うようになる。
【0054】
舌咽神経痛は、第9脳神経の知覚分布における疼痛の爆発を特徴とする臨床病型である。発作は、疼痛の局在および疼痛についての刺激を除いて、三叉神経痛と同一である。典型的な疼痛は、片側の扁桃領域または舌の裏側に猛烈に突き刺すように繰り返す電撃様穿刺である。さらに、その疼痛は耳へ放散するか、または耳に生じうる。
【0055】
その疼痛を誘導する知覚刺激は嚥下であり、激しい発作の間に患者はじっと座り、頭を前方に曲げ、唾液が口から垂れるに任せる。心停止、失神(卒倒)、およびてんかん発作が舌咽神経痛の発作に関連してきた。舌咽神経痛の原因は、大部分の場合分からない。しかし、一部の症例は、腫瘍、椎骨動脈による第9神経の圧迫、および血管奇形に帰される。
【0056】
ヘルペス後神経痛は、帯状疱疹ウイルス感染の後に持続する慢性疼痛を指す。帯状疱疹とも知られている帯状ヘルペスは、水痘帯状疱疹(水痘)ウイルス感染の再発感染である。このウイルスは、患者の免疫が弱まるまで神経内に潜伏する。帯状ヘルペスの急性病変は疼痛を引き起こすが、その疼痛は通常癒える。しかし、若干の患者では疼痛は慢性的に続く。これがヘルペス後神経痛である。
【0057】
帯状疱疹の症状には、突き刺すような深い連続的な疼痛があり、その疼痛は胸部が65%で、顔が20%である。顔が影響を受ける場合、そのウイルスは三叉神経眼神経分枝(眉の上の顔の上端)に対する好発を示す。この疼痛は、通常は2から4週間で自然に消散する。しかし、少数の患者は持続性の疼痛を有することがある。その疼痛は以前の皮疹の領域に存在し、冒された皮膚をやさしくなでることで悪化し、その部分に圧を加えることで軽減する。衣服の摩擦は非常に痛いことが多い。この持続する疼痛は、ヘルペス後神経痛と呼ばれる。顔に影響を与える帯状疱疹の症例ではヘルペス後神経痛の発生率が高い。
【0058】
カウザルギーは、部分末梢神経損傷に続くまれな症候群である。カウザルギーは灼熱痛、自律神経機能異常、および栄養変化の三徴候を特徴とする。重症例は重症型カウザルギーと呼ばれる。軽症型カウザルギーは、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)に類似したあまり重症でない形態を示す。RSDは筋肉および関節の主症状を有し、骨粗鬆症がX線でよくみられる。
【0059】
カウザルギーは、末梢神経損傷、通例は腕神経叢損傷により起こる。神経切除は過敏を引き起こす結果として、疼痛の増加をもたらし、ノルエピネフリンの放出増加は交感神経の所見をもたらす。症状には疼痛、通常は灼熱痛があり、疼痛は手または足に顕著である。大多数での発症は損傷から24時間以内である。正中神経、尺骨神経、および坐骨神経が通常影響を受ける。ほとんどあらゆる知覚刺激がこの疼痛を悪化させる。すなわち、血管の変化、すなわち血管拡張(温、ピンク色)による血液増加または血管収縮(冷、まだらの青)による血液減少のいずれか、栄養変化、すなわち乾燥/鱗屑性皮膚、関節硬直、先細の指、溝のある切られていない爪、長い/固い髪または脱毛のいずれか、発汗の変化がある。
【0060】
Kv9.2との同一性および類似性
ヒトKv9.2をコードするcDNAの増幅産物を配列決定した結果が示すように、Kv9.2は他のイオンチャネルファミリーのタンパク質と構造的に関係がある。配列番号1のcDNA配列は、配列番号3に示される1104アミノ酸のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(配列番号2、ヌクレオチド番号41〜3352)を含有する。ヒトKv9.2は、ホモサピエンス染色体8q22にマッピングすることが見出される。
【0061】
HMM構造予測ソフトウェアpfam(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/search.shtml)を使用したKv9.2ポリペプチド(配列番号3)の解析から、Kv9.2ペプチドがイオンチャネルであることを確認した。
【0062】
ヒトKv9.2サブユニットのマウスホモログをクローニングし、その核酸配列およびアミノ酸配列を配列番号4および配列番号5としてそれぞれ示す。配列番号4のマウスKv9.2サブユニットのcDNAは、ヒトKv9.2サブユニット(配列番号2)の配列と高度の同一性を示し、一方でマウスKv9.2サブユニットのアミノ酸配列(配列番号5)はヒトKv9.2サブユニット(配列番号3)と高度の同一性および類似性を示す。ヒトおよびマウスKv9.2サブユニットは、したがって大きなイオンチャネルファミリーのメンバーである。
【0063】
Kv9.2サブユニットポリペプチド
本明細書で用いる「Kv9.2サブユニット」、「Kv9.2イオンチャネル」、および「Kv9.2ポリペプチド」という用語は、配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を意味する。好ましくは、該ポリペプチドは、配列番号3に示される配列の相同体、変異体または誘導体を含むかまたはそれである。
【0064】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質、あるいは修飾ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むもの、すなわちペプチドイソスターのいかなるものも指す。「ポリペプチド」は、短鎖のもの、および長鎖のもの両方を指し、前者は通常、ペプチド、オリゴペプチド、またはオリゴマーと呼ばれ、後者は通常、タンパク質と呼ばれる。ポリペプチドは、遺伝子によってコードされている20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含有してもよい。
【0065】
「ポリペプチド」には、翻訳後プロセシングなどの天然プロセスによって修飾されたアミノ酸配列も、当技術分野で周知の化学修飾技法によって修飾されたアミノ酸配列も含まれる。そのような修飾については、基礎的な教科書、およびより詳細な研究書、さらには多数の研究論文に詳細に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含めた、ポリペプチドのいかなる箇所でも起こりうる。同じタイプの修飾が、所与のポリペプチドのいくつかの部位に、同じ程度か、または異なった程度で存在しうることが理解されよう。また、所与のポリペプチドが、多くのタイプの修飾を含有することもある。
【0066】
ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分枝している場合があり、そして、ポリペプチドは、環状である場合があり、この場合、それらは分枝していることも、分枝していないこともある。環状ポリペプチド、分枝ポリペプチド、および環状分枝ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセスで生じることも、合成による方法で生成されることもある。修飾には、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニン化などの、タンパク質へのトランスファーRNA媒介型のアミノ酸付加、ならびにユビキチン化が含まれる。例えば、「Proteins - Structure and Molecular Properties」, 第2版, T. E. Creighton, W. H. Freeman and Company社, New York, 1993年, および, Wold, F., 「Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects(翻訳後のタンパク質修飾:展望と期待)」, pgs. 1-12 in Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson編, Academic Press, New York, 1983年;Seifterら, 「Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors(タンパク質修飾および非タンパク質補因子の分析)」, Meth Enzymol (1990), 182: 626-646、およびRattanら, 「Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging(タンパク質合成:翻訳後修飾と熟成)」, Ann NY Acad Sci (1992), 663:48-62を参照のこと。
【0067】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、ある配列からのまたはある配列への、1以上のアミノ酸のいかなる置換(substitution)、変異、修飾、置換除去(replacement)、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「Kv9.2」、「Kv9.2サブユニット」および「Kv9.2イオンチャネル」に関する言及には、そのようなKv9.2の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0068】
好ましくは、Kv9.2に適用される場合、得られるアミノ酸配列は発現されるとイオンチャネル活性を有し、ホモマーチャネルを形成するかまたは他のKvファミリーと結合してヘテロマーチャネルを形成する。好ましくは、得られる核酸は、配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2イオンチャネルサブユニットと同じ活性(または示された他のチャネルと結合して活性ポテンシャル)を有する。
【0069】
特に、「相同体」という用語は、得られるアミノ酸配列がイオンチャネル活性、好ましくはKv9.2イオンチャネル活性(示された他のチャネルと併用されるとき)を有する限り、構造および/または機能に関する同一性を包含する。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、Kv9.2サブユニット核酸配列の対立遺伝子変化であるアミノ酸から誘導されたポリペプチドを包含する。
【0070】
Kv9.2含有イオンチャネルなどのイオンチャネルの「チャネル活性」または「生物学的活性」について言及する場合、これらの用語は、Kv9.2含有イオンチャネルの代謝機能または生理学的機能を指すものとし、これらには、同様の活性もしくは改善された活性、または、付随の望ましくない副作用が軽減されているこれらの活性が含まれる。Kv9.2含有イオンチャネルの抗原性活性および免疫原性活性も含まれる。イオンチャネル活性、およびこれらの活性をアッセイおよび定量化する方法の例は、当技術分野で公知であり、本明細書の他の箇所に詳細に記述する。
【0071】
非常に好ましい実施形態において、生物学的活性はKv9.2のコンダクタンスおよび動力学を含む。そのようなアッセイは、本明細書の他の箇所に詳細に記述する。
【0072】
本明細書で使用する場合、「欠失」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のいずれかの変化であって、その際、それぞれ、1または複数のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が不在となる変化と定義する。本明細書で使用する場合、「挿入」または「付加」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化であって、天然に存在する物質と比較して、それぞれ、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらす変化である。本明細書で使用する場合、「置換(substituion)」は、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸を、それぞれ、異なるヌクレオチドまたはアミノ酸で置換除去(replacement)することによって起こる。
【0073】
本明細書に記載されるKv9.2ポリペプチドは、サイレントな変化を引き起こし、機能的に同等なアミノ酸配列をもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有するものでもよい。慎重なアミノ酸置換を、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて導入することができる。例えば、負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれ、正に荷電したアミノ酸には、リジンおよびアルギニンが含まれ、そして、同様の親水性度を有する非荷電の極性頭部基を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが含まれる。
【0074】
保存的置換は、例えば以下の表に従って行うことができる。2列目の同じブロックにおけるアミノ酸、好ましくは3列目の同じ行におけるアミノ酸を互いに置換しうる:
Kv9.2ポリペプチドは、典型的にはそのN末端またはC末端に、好ましくはそのN末端に、さらに異種のアミノ酸配列を含んでもよい。異種配列としては、細胞内または細胞外タンパク質ターゲティングに影響を及ぼす配列(リーダー配列など)が挙げられる。異種配列としてはまた、該ポリペプチドの免疫原性を高める、ならびに/または該ポリペプチドの同定、抽出および/もしくは精製を容易にする配列が挙げられる。特に好ましい別の異種配列は、好ましくはN末端に存在するポリアミノ酸配列(ポリヒスチジンなど)である。少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも17アミノ酸、但し50アミノ酸未満のポリヒスチジン配列が特に好ましい。
【0075】
Kv9.2ポリペプチドは、「成熟」タンパク質の形態であってもよいし、または融合タンパク質などの大きなタンパク質の一部であってもよい。分泌もしくはリーダー配列を含む付加的なアミノ酸配列、プロ配列、精製を補助する配列(複数のヒスチジン残基など)、または組換え産生時の安定性のための付加的配列を含むことが有利なこともある。
【0076】
Kv9.2ポリペプチドは、組換え手法により、既知の方法を用いて作製することが有利である。しかしながら、これらはまた、当業者に周知の技法、例えば固相合成などを用いて合成手法により作製することも可能である。そのようなポリペプチドはまた、例えば抽出および精製の補助のために、融合タンパク質として作製することも可能である。融合タンパク質のパートナーの例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、6xHis、GAL4(DNA結合および/または転写活性化ドメイン)およびβガラクトシダーゼが挙げられる。また、融合タンパク質のパートナーと目的のタンパク質配列との間にタンパク質分解性切断部位を含むことによって、融合タンパク質配列の除去が可能となることが都合がよい(例えばトロンビン切断部位)。好ましくは、融合タンパク質は目的のタンパク質配列の機能を妨害しない。
【0077】
Kv9.2ポリペプチドは、実質的に単離された形態で存在しうる。この用語は、天然状態から人工的に変化していることを意味する。「単離された」組成物または物質が天然に存在する場合には、その元々の環境から変化を受けているもしくは取り出されている、またはその両方である。例えば、生存生物に天然に存在するポリヌクレオチド、核酸またはポリペプチドは「単離された」ものではないが、天然状態で共存する物質から分離された同じポリヌクレオチド、核酸またはポリペプチドは、この用語が本明細書で使用されるように「単離された」ものである。
【0078】
しかしながら、Kv9.2イオンチャネルタンパク質は、タンパク質の意図する目的を妨害しない担体または希釈剤と混合してもよく、それでもなお実質的に単離されているとみなされると理解される。該ポリペプチドはまた、実質的に精製された形態であってもよく、この場合、調製物中の90%以上、例えば95%、98%または99%のタンパク質がKv9.2ポリペプチドである調製物中のタンパク質を一般的に含みうる。
【0079】
本発明者はまた、Kv9.2ポリペプチドの一部を含むペプチドを記載する。従って、Kv9.2サブユニットの断片、およびその相同体、変異体または誘導体を包含する。そのようなペプチドは、2〜200アミノ酸長、好ましくは4〜40アミノ酸長でありうる。ペプチドは、本明細書に記載するように、例えば適当な酵素(トリプシンなど)による消化によって、Kv9.2ポリペプチドから誘導することができる。あるいは、ペプチド、断片などは、組換え手法によりまたは合成手法により作製することも可能である。
【0080】
「ペプチド」という用語は、当技術分野で公知の種々の合成ペプチド変化、例えばレトロインベルソDペプチドを含む。ペプチドは、抗原決定基および/またはT細胞エピトープであってもよい。ペプチドはin vivoで免疫原性であってもよい。好ましくは、ペプチドはin vivoにおいて中和抗体を誘導可能である。
【0081】
様々な種に由来するKv9.2サブユニット配列のアライメントを行うことによって、異なる種間で保存されているアミノ酸配列の領域(相同領域(homologous region))、および異なる種間で異なる領域(非相同領域(heterologous region))を決定することが可能である。
【0082】
従ってKv9.2ポリペプチドは、相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含んでいてもよい。相同領域は、少なくとも2つの種間で高い相同性を示す。例えば、相同領域は、上述した試験を用いてアミノ酸レベルで少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を示しうる。相同領域に相当する配列を含むペプチドは、以下にさらに詳細に説明するように治療方法において用いることができる。あるいは、Kv9.2サブユニットペプチドは、非相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含んでもよい。非相同領域は、少なくとも2つの種間で低い相同性を示す。
【0083】
Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸
さらに、本明細書にさらに詳細に記載するように、Kv9.2ポリヌクレオチド、Kv9.2ヌクレオチドおよびKv9.2核酸、それらの製造方法、使用などを開示する。
【0084】
「Kv9.2ポリヌクレオチド」、「Kv9.2ヌクレオチド」および「Kv9.2核酸」という用語は相互互換的に用いられ、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示される核酸配列を含むポリヌクレオチド/核酸、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を意味することを意図する。好ましくは、ポリヌクレオチド/核酸は、配列番号1または配列番号2、最も好ましくは配列番号2の核酸配列の相同体、変異体または誘導体を含むかまたはそれである。
【0085】
これらの用語はまた、ポリペプチドおよび/またはペプチド、すなわちKv9.2ポリペプチドをコードすることができる核酸配列を包含することを意図する。従って、Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸は、配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、Kv9.2ポリヌクレオチドおよび核酸は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。
【0086】
通常、「ポリヌクレオチド」は、いかなるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオシドも指し、これは、非修飾RNAもしくはDNA、または修飾RNAもしくはDNAでありうる。「ポリヌクレオチド」には、非限定的に、一本鎖DNAおよび二本鎖DNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、ならびに、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれ、これらのハイブリッド分子は、一本鎖であることもあるが、より典型的な場合、二本鎖であるか、もしくは一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であることもある。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域も指す。ポリヌクレオチドという用語には、1つまたは複数の修飾塩基を含有するDNAまたはRNA、および、安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含まれる。「修飾」塩基には、例えば、トリチル化塩基、および、イノシンなどの、通常とは異なる塩基が含まれる。DNAおよびRNAには、様々な修飾がなされており、したがって、「ポリヌクレオチド」は、ウイルスおよび細胞で特徴的な化学形態のDNAおよびRNAだけでなく、通常天然に見出される、化学修飾型、酵素修飾型、または代謝修飾型のポリヌクレオチドも包含する。「ポリヌクレオチド」は、しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる、比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0087】
遺伝暗号の縮重の結果として、同一のポリペプチドを多数のヌクレオチド配列がコードしうることが当業者には理解されよう。
【0088】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド配列」という用語は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびに、それらの変異体、相同体、断片、および誘導体(その一部など)を指す。ヌクレオチド配列は、ゲノム由来または化学合成由来または組換え体由来のDNAまたはRNAであってもよく、それは、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかを表す二本鎖または一本鎖またはそれらの組合せを表すものであってもよい。ヌクレオチド配列という用語は、組換えDNA技法の使用によって調製されるもの(例えば組換え体DNA)であってもよい。
【0089】
「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAを意味するのが好ましい。
【0090】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、Kv9.2ヌクレオチド配列の配列からの、またはKv9.2ヌクレオチド配列の配列への、1以上の核酸のいかなる置換、変異、修飾、置換除去、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「Kv9.2」、「Kv9.2サブユニット」および「Kv9.2イオンチャネル 」に関する言及には、そのようなKv9.2の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0091】
好ましくは、得られるヌクレオチド配列が、Kv9.2サブユニット活性を有するポリペプチド、好ましくは配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2サブユニットと少なくとも同じ活性を有するポリペプチドをコードする。好ましくは、「相同体」という用語は、構造および/または機能に関する同一性を包含することを意図する。好ましくは、これは、得られるヌクレオチド配列が発現されるとホモマーチャネルを形成するかまたは他のKvファミリーメンバーと結合してヘテロマーチャネルを形成するイオンチャネル活性を有するポリペプチドをコードするものである。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、上記配列の対立遺伝子変異を包含する。
【0092】
配列相同性の計算
本明細書に提示する配列のいずれかに関する配列同一性は、任意の1以上の配列と別の配列との単純な「眼球」比較(すなわち厳密な比較)によって求め、他の配列が、例えば当該配列(1もしくは複数)に対して少なくとも70%の配列同一性を有するかどうかを確認することができる。
【0093】
相対配列同一性はまた、例えばデフォルトパラメータを用いて同一性を求めるための任意の好適なアルゴリズムを用いて、2以上の配列間の同一性%を計算することができる市販のコンピュータプログラムによって求めることができる。そのようなコンピュータプログラムの典型的な例はCLUSTALである。2つの配列間の同一性および類似性を求める他のコンピュータプログラムの方法としては、限定されるものではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら 1984 Nucleic Acids Research 12: 387)およびFASTA(Atschulら 1990 J Molec Biol 403-410)が挙げられる。
【0094】
相同性%は、連続する配列にわたって計算しうる、すなわち1つの配列を他の配列と並べて、1つの配列における各アミノ酸を、1残基ずつ他の配列における対応するアミノ酸と直接比較する。これは「ギャップなし」アライメントと称する。典型的には、このようなギャップなしアライメントは、比較的小さな数の残基に対してのみ行われる。
【0095】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、例えば配列の他の同一な対において、アライメントに供したアミノ酸残基の後に1個の挿入または欠失が生じ、したがって全体的なアライメントを行った場合には相同性%が著しく低下する結果となる可能性があることを考慮していない。その結果、大部分の配列比較方法は、全体の相同性スコアに過度にペナルティを与えないように可能な挿入および欠失を考慮する最適アライメントを得るように設計されている。これは、配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局地的相同性が最大となるようにすることで行われる。
【0096】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アライメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を与え、同じ数の同一アミノ酸について、可能な限り少ないギャップを有する配列アライメント(2つの比較配列間のより高い関連性を反映する)が多くのギャップを有する配列よりも高いスコアとなるようになっている。「アフィンギャップコスト」が典型的に用いられ、これはギャップの存在について比較的高いコストを負荷し、ギャップにおける次の各残基にはより小さなペナルティを負荷するものである。これは最も一般的に使用されているギャップスコアシステムである。高いギャップペナルティはもちろんより少ないギャップで最適なアライメントを作成する。大部分のアライメントプログラムではギャップペナルティを変更することができる。しかしながら、そのような配列比較ソフトウエアを用いる場合には、デフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを用いる場合には、アミノ酸配列についてのデフォルトギャップペナルティは、ギャップについて-12、各伸長について-4である。
【0097】
従って、最大相同性%の計算は、最初にギャップペナルティを考慮して最適アライメントを行うことが必要である。そのようなアライメントを行うための好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereuxら., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウエアの例としては、限定されるものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel ら、1999、前掲、第18章)、FASTA(Atschul ら, 1990, J. Mol. Biol., 403-410)および比較ツールのGENEWORKSパッケージソフトが挙げられる。BLASTおよびFASTAはいずれもオフラインおよびオンラインサーチによって入手可能である(Ausubel ら、1999、前掲、p.7-58〜7-60)。
【0098】
最終相同性%は同一性の点で求めることができるが、アライメント工程そのものは典型的には「オールオアナッシング」の対比較に基づくものではない。代わりに、測定される(scaled)類似性スコアマトリックスが一般的に使用され、これは化学的類似性または進化距離に基づく各ペアワイズ比較に対してスコアを割り当てる。一般的に用いられるそのようなマトリックスの例はBLOSUM62マトリックスであり、これはプログラムのBLASTパッケージソフトのためのデフォルトマトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは、公共のデフォルト値または供給される場合にはカスタムシンボル比較表のいずれかを一般的に使用する。GCGパッケージには公共のデフォルト値を使用し、または他のソフトウエアの場合にはBLOSUM62などのデフォルトマトリックスを用いることが好ましい。
【0099】
BLASTアルゴリズムを、デフォルト値に設定したパラメータと共に用いることが有利である。BLASTアルゴリズムは、http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlに詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。サーチパラメータは定義することができ、定義されたデフォルトパラメータに対して設定することが有利でありうる。
【0100】
BLASTにより評価する場合、「実質的な同一性」は、EXPECT値が少なくとも約7、好ましくは少なくとも約9、最も好ましくは10以上で一致する配列に相当することが有利である。BLASTサーチにおけるEXPECTの閾値は通常10である。
【0101】
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxによって利用される発見を助けるサーチアルゴリズムであり、これらのプログラムは、KarlinおよびAltschul(KarlinおよびAltschul 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68;KarlinおよびAltschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7;http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlを参照)の統計学的方法にわずかな改良点を加えて用いた彼らの知見に対する有意性によるものである。BLASTプログラムは、例えばクエリー配列に対する相同性を同定するために、配列類似性サーチのために調整されたものである。配列データベースの類似性サーチにおける基本的問題の考察については、Altschul ら (1994) Nature Genetics 6:119-129を参照のこと。
【0102】
以下のタスクを実行する5つのBLASTプログラムがhttp://www.ncbi.nlm.nih.govから入手可能である:blastp-タンパク質配列データベースに対してアミノ酸クエリー配列を比較する;blastn-ヌクレオチド配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列を比較する;blastx-タンパク質配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列(両鎖)の6フレームの概念的翻訳産物を比較する;tblastn-ヌクレオチド配列データベースに対してタンパク質クエリー配列を、6つのリーディングフレーム全て(両鎖)に動的に翻訳して比較する;tblastx-ヌクレオチド配列データベースの6フレームの翻訳に対してヌクレオチドクエリー配列の6フレームの翻訳を比較する。
【0103】
BLASTは、以下のサーチパラメータを用いる。
【0104】
HISTOGRAMは各サーチについてスコアのヒストグラムを表示する。デフォルトはyesである(BLASTマニュアルのパラメータHを参照のこと)。
【0105】
DESCRIPTIONS:報告される一致配列の短い記述の数を特定された数値に限定する。デフォルト限界は100の記述である(マニュアルページのパラメータVを参照のこと)。
【0106】
EXPECTはデータベース配列に対して報告する一致についての統計学的有意性の閾値である。デフォルト値は10であり、これはKarlinおよびAltschul (1990)の確率論的モデルに従って10の一致が単に偶然起こると予想される。一致に与えられる統計学的有意性がEXPECT閾値よりも大きい場合には、その一致は報告されないことになる。EXPECT閾値が低いほど厳密性が増し、報告される一致の機会が少なくなる。小数値も許容される(BLASTマニュアルのパラメータEを参照のこと)。
【0107】
CUTOFFは高いスコアのセグメント対を報告するカットオフスコアである。デフォルト値はEXPECT値から計算される(上記参照)。HSPは、それらに与えられる統計学的有意性がCUTOFF値と等しいスコアを有する単一のHSPに与えられるのと少なくとも同じ程度に高い場合にのみ、データベース配列について報告される。CUTOFF値が高いほど厳密性が高くなり、報告される一致の機会が少なくなる(BLASTマニュアルにおけるパラメータSを参照のこと)。典型的には、有意性の閾値はEXPECTを用いてより直感的に管理されうる。
ALIGNMENTSはデータベース配列を高スコアのセグメント対(HSP)が報告される特定の数に限定する。デフォルト限界は50である。報告について統計学的有意性の閾値を満たすためにこれが生じるよりもデータベース配列が多い場合には、最大の統計学的有意性を与えられた一致のみが報告される(BLASTマニュアルのパラメータBを参照のこと)。
【0108】
MATRIXはBLASTP、BLASTX、TBLASTNおよびTBLASTXについて代替のスコアマトリックスを特定する。デフォルトマトリックスはBLOSUM62(Henikoff & Henikoff, 1992)である。有効な代替選択肢としては、PAM40、PAM120、PAM250およびIDENTITYが含まれる。BLASTNについては代替のスコアマトリックスは利用できず、BLASTNにおけるMATRIXの指令の特定によってエラー応答に戻る。
【0109】
STRANDはTBLASTNサーチをデータベース配列の上部または下部鎖のみに限定する;あるいはBLASTN、BLASTXまたはTBLASTXサーチをクエリー配列の上部または下部鎖におけるリーディングフレームのみに限定する。
【0110】
FILTERはWootton & Federhen (1993) Computers and Chemistry 17:149-163のSEGプログラムにより評価した場合の組成の複雑性が低いクエリー配列のセグメント、またはClaverie & States (1993) Computers and Chemistry 17:191-201のXNUプログラムによりもしくはBLASTNの場合にはTatusov and Lipman(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)のDUSTプログラムにより評価した場合の短い周期の内部反復配列からなるセグメントのマスクを除去する。フィルタリングは、blast出力から、統計学的に有意であるが生物学的に重要ではない報告(例えば共通の酸性、塩基性もしくはプロリンリッチ領域に対するヒット)を排除することができ、データベース配列に対する特異的一致について入手可能なクエリー配列のより生物学的に重要な領域をそのままにする。
【0111】
フィルタープログラムにより発見された複雑度の低い配列は、ヌクレオチド配列においては文字「N」を用いて(例えば、「NNNNNNNNNNNNN」)、タンパク質配列においては文字「X」を用いて(例えば、「XXXXXXXXX」)置き換えられる。
【0112】
フィルタリングは、クエリー配列(またはその翻訳産物)のみに適用され、データベース配列には適用されない。デフォルトフィルタリングはBLASTNについてはDUSTであり、他のプログラムについてはSEGである。
【0113】
SWISS-PROTにおける配列に適用する場合、SEG、XNUまたはその両方によって何もマスクされないことは異常ではなく、そのためフィルタリングは常に効果を生じるものと予測されるべきではない。さらに、事例によっては、配列の全体がマスクされることもあり、このことは、フィルタリングされていないクエリー配列に対して報告された一致のいずれかの統計学的有意性が疑わしい可能性がある。
【0114】
NCBI-giは受託番号および/または遺伝子座名に加えて、出力中にNCBI gi識別子が示されるようにする。
【0115】
最も好ましくは、配列比較は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTに提供されている単純なBLASTサーチアルゴリズムを用いて実施する。いくつかの実施形態において、配列同一性を決定する場合にはギャップペナルティを使用しない。
【0116】
ハイブリダイゼーション
本発明者らはまた、本明細書に提示する配列、またはその任意の断片もしくは誘導体、または上記のいずれかの相補配列に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。
【0117】
ハイブリダイゼーションとは、「核酸の1本の鎖が塩基対合によって相補鎖と結合するプロセス」(Coombs J (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York NY)、ならびにDieffenbach CWおよびGS Dveksler(1995, PCR Primer, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY)により記載されているポリメラーゼ連鎖反応技術において行われる増幅プロセスを意味する。
【0118】
ハイブリダイゼーション条件は、BergerおよびKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」をもたらす。
【0119】
本明細書に提示するヌクレオチド配列またはその相補配列に選択的にハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列は、一般的に、本明細書に提示する対応のヌクレオチド配列に対して、少なくとも20、好ましくは少なくとも25または30、例えば少なくとも40、60もしくは100またはそれ以上の連続するヌクレオチドの領域にわたって、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%または90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%または98%の相同性を有する。好ましいヌクレオチド配列は、配列番号1、2または4に対して相同的な領域を含み、これらの配列の1つに対して少なくとも70%、80%または90%、より好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。
「選択的にハイブリダイズ可能な」という用語は、標的ヌクレオチド配列が該プローブとバックグラウンドを有意に超えるレベルでハイブリダイズするのが見られる条件のもとで、プローブとして用いられるヌクレオチド配列を使用することを意味する。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、他のヌクレオチド配列、例えばスクリーニング対象のcDNAまたはゲノムDNAライブラリに存在する他のヌクレオチド配列の故に生じうる。この事象において、バックグラウンドはプローブとライブラリの非特異的DNAメンバーとの間の相互作用によって生じるシグナルのレベルを意味し、そのレベルは標的DNAを用いて観察される特異的相互作用と比較して10倍低い、好ましくは100倍低い強度である。相互作用の強度は、例えばプローブを放射性標識する(例えば32Pを用いて)ことにより測定しうる。
【0120】
また、中程度から最大のストリンジェンシー条件下にて本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列も包含する。ハイブリダイゼーション条件は、BergerおよびKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press、San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」を与える。
【0121】
典型的には、最大ストリンジェンシーはおよそTm-5℃(プローブのTmより5℃低い温度)にて、高ストリンジェンシーはTmの約5℃〜10℃低い温度にて、中程度のストリンジェンシーはTmの約10℃〜20℃低い温度にて、低ストリンジェンシーはTmの約20℃〜25℃低い温度にて起こる。当業者であれば理解しうるように、最大ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、同一のヌクレオチド配列を同定または検出するために用いることができ、中程度の(または低)ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、類似のまたは関連するヌクレオチド配列を同定または検出するために用いることができる。
【0122】
好ましい実施形態において、ストリンジェントな条件(例えば、65℃および0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mエン酸Na3 pH7.0})においてKv9.2サブユニットヌクレオチド配列の1以上とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。ヌクレオチド配列が二本鎖である場合、二本鎖の両方の鎖を個々にまたは組み合わせて本開示内に包含される。ヌクレオチド配列が一本鎖である場合、これは、ヌクレオチド配列の相補配列も含まれることを理解されたい。
【0123】
本発明者らはさらに、本明細書に提示する配列に対して相補的な配列、またはその任意の断片もしくは誘導体に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。同様に、本発明者らは、既に記載した配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的なヌクレオチド配列を開示する。これらのタイプのヌクレオチド配列は、変異体ヌクレオチド配列の例である。この点に関し、「変異体」という用語は、本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。しかしながら好ましくは、「変異体」という用語は、ストリンジェントな条件(例えば、65℃および0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Na3 pH7.0})において本明細書に提示するヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。
【0124】
Kv9.2サブユニットおよび相同体のクローニング
本発明者らはさらに、本明細書に提示する配列、またはその任意の断片もしくは誘導体に対して相補的なヌクレオチド配列を開示する。配列がその断片に対して相補的である場合には、その配列をプローブとして用いて、他の生物における類似のサブユニット配列を同定およびクローニングすることなどが可能である。
【0125】
本明細書の開示によりKv9.2、その相同体およびヒトおよび他の種(マウス、ブタ、ヒツジなど)に由来する他の構造的もしくは機能的に関連した遺伝子のクローニングを行うことが可能となる。配列番号1、配列番号2、配列番号4、またはそれらの断片に含まれるヌクレオチド配列と同一または十分に同一性を有するポリヌクレオチドは、適当なライブラリからKv9.2サブユニットをコードする全長または部分的cDNAおよびゲノムクローンを単離するための、cDNAおよびゲノムDNAのためのハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。そのようなプローブはまた、Kv9.2遺伝子に対して配列類似性、好ましくは高い配列類似性を有する他の遺伝子(ヒト以外の種に由来するホモログおよびオルソログをコードする遺伝子を含む)のcDNAおよびゲノムクローンを単離するために用いることができる。ハイブリダイゼーションスクリーニング、クローニングおよび配列決定技術は、当業者に公知であり、例えばSambrookら(前掲)に記載されている。
【0126】
典型的には、プローブとして使用するために好適なヌクレオチド配列は、対象の配列に対して70%の同一性、好ましくは80%の同一性、より好ましくは90%の同一性、よりさらに好ましくは95%の同一性を有する。プローブは、一般的に少なくとも15ヌクレオチドを含みうる。そのようなプローブは、好ましくは少なくとも30ヌクレオチドを有し、少なくとも50ヌクレオチドを有してもよい。特に好ましいプローブは、150〜500ヌクレオチドの範囲であり、より特には約300ヌクレオチドである。
【0127】
一実施形態において、Kv9.2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(ヒト以外の種に由来するホモログおよびオルソログを含む)を得るためには、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1、配列番号2、配列番号4またはそれらの断片を有する標識プローブを用いて適当なライブラリをスクリーニングするステップ、そのようなポリヌクレオチド配列を含む全長または部分的なcDNAおよびゲノムクローンを単離するステップを含む。そのようなハイブリダイゼーション技術は当業者に周知である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は上述の通りであり、またはあるいは50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中で42℃での一晩のインキュベーションと、その後の65℃での0.1 X SSCにおけるフィルターの洗浄での条件である。
【0128】
Kv9.2含有イオンチャネルの機能アッセイ
クローニングされた推定Kv9.2イオンチャネルポリヌクレオチドは、配列解析または機能アッセイによって検証することができる。特に、上述したようにトランスフェクトしたアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞のコンダクタンスは、以下に記載するスクリーニングアッセイにおいて有用な、Kv9.2活性を測定し定量する手段として検出することができる。そのようなアフリカツメガエル卵母細胞アッセイを、便宜上「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」と称する。
【0129】
推定Kv9.2イオンチャネルサブユニットまたは相同体は、以下のように「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」において活性についてアッセイすることができる。Kv9.2のcDNAをコードする線状化プラスミド鋳型からのキャップ付加RNA転写産物を標準的手法に従ってRNAポリメラーゼを用いてin vitroで合成する。in vitro転写産物を最終濃度0.2mg/mlとなるように水に懸濁する。葉卵巣を成体雌ヒキガエルから取り出し、ステージVの脱卵胞した卵母細胞を得、RNA転写産物(10ng/卵母細胞)をマイクロインジェクション装置を用いて50nlボーラス注射する。他のKvサブユニット、例えばKv2.1、Kv4.2をコードするRNAも注射してヘテロマーチャネルを形成させてもよい。2つの電極電圧クランプを用いて、アゴニスト暴露に応答した個々のアフリカツメガエル卵母細胞からの電流を測定する。電流の記録は、(単位mMで)NaCl 115、KCl 2.5、CaCl2 1.8、NaOH-HEPES 10、pH7.2からなる標準培地で室温にて行う。アフリカツメガエルの系はまた、以下にさらに詳述するようなリガンドの活性化について既知のリガンドおよび組織/細胞抽出物をスクリーニングするために用いることもできる。
【0130】
代わりの機能アッセイとしては、パッチクランプ電気生理学、Rbフラックス、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析およびFLIPR分析が挙げられ、それには、細胞の膜電圧を研究するための電圧感受性色素の使用が含まれる。FLIPR分析は、Whiteakerら, J Biomol Screen. 2001 Oct;6(5):305-1に記載される一方、FRETに基づくアッセイは、Falconerら, J Biomol Screen. 2002 Oct;7(5):460-5に記載されている。
【0131】
特に、本発明者らは、Rbフラックスを検出しならびにスクリーニングし、Rbフラックスの変化を検出してKv9.2のアゴニストとアンタゴニストを同定するアッセイを開示する。放射標識Rbフラックス(flux)を測定する方法は、Rezazadehら, J Biomol Screen. 2004 Oct;9(7):588-97に、かつ非放射標識Rbフラックスアッセイは、Assay Drug Dev Technol. 2004 Oct;2(5):525-34に概要が記載されている。好ましくは%Rb流出(efflux)を本アッセイにおいて測定する。
【0132】
そのような機能アッセイを、本明細書において「Kv9.2(Rbフラックス)の機能アッセイ」と呼ぶ。
【0133】
特に、本発明者らはKv9.2のアンタゴニストが好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を低下する方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアンタゴニストの存在のもとで10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。
【0134】
本発明者らはさらに、Kv9.2のアゴニストが好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を増加する方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアゴニストの存在のもとで10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増加する。
【0135】
細胞からの流出Rb+放出の動力学的分析は、次式を用いて残留R百分率として表現することができる:
R=[Rblysate/(Rbsupern+Rblysate)]x100。
【0136】
色々な時点における脱分極およびアゴニストに刺激されたRb+流出(Rs)は、次式によって決定することができる:
Rs=(1-[(Rtot-R-Rbasal)/-Rbasal])x100。
【0137】
Kv9.2ポリペプチドをさらに、活性化、失活(deactivation)および不活性化(inactivation)を含むその動力学についてアッセイすることができる。活性化時間は、全電流が標準条件のもとでKv9.2含有チャネル全体に確立されるのにかかる時間であり、その失活時間は標準条件のもとで全電流がゼロになる時間である。Kv9.2動力学のモジュレーション、増加または減少に言及する場合、これは、好ましくは、Kv9.2活性化時間、またはKv9.2失活時間、またはその両方のモジュレーション、増加または減少に言及すると理解されるべきである。
【0138】
好ましい実施形態においては、活性化時間定数を活性化時間の尺度として用い、かつ失活時間定数を失活時間の尺度として用いる。Kv9.2含有チャネルの典型的な活性化時間定数は21msである。典型的な半失活電位V1/2 inactは-33mVであり、V1/2 inactを失活のさらなるまたは代わりの動力学パラメーターとしてアッセイすることができる。
【0139】
Kv9.2含有チャネルのモジュレーター、例えばオープナー、アゴニスト、ブロッカーおよびアンタゴニストは、Kv9.2含有チャネルの動力学、好ましくは活性化時間、不活性化時間、失活時間、失活動力学、半不活性化時間の電位などのいずれか1以上を変えること、すなわち増加または減少させることができる。
【0140】
特にアゴニストおよびオープナーは、活性化時間および/または失活時間(好ましくは活性化時間および/または失活時間定数)を、例えば、活性化時間を20ms、18ms、16ms、または15msまたはそれ以下に減少させることにより、活性化時間を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上減少させることができる分子である。
【0141】
同様にKv9.2のアンタゴニストまたはブロッカーは、活性化時間および/または失活時間を、例えば、活性化時間を22ms、25msまたは27msまたはそれ以上に増加させることにより、活性化時間を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上増加させることができる。
【0142】
動力学そして特に活性化時間は、好ましくは、「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて、電流の時間経過をとり、かつ全電流が確立されるためにかかる時間を確立して測定する。同様に不活性化時間は、「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて、電流の時間経過をとり、かつ全電流がゼロに低下するためにかかる時間を確立して測定する。
【0143】
あるいは、失活動力学を測定してもよく、ここで、失活動力学はプレパルス(例えば、500msの間、+50MV)後の再分極化パルス(例えば-48mV)の後にチャネルが失活するのにかかる時間である。Kv9.2含有チャネルの失活動力学のための典型的な値は44msである。
【0144】
Kv9.2の発現アッセイ
Kv9.2サブユニット関連疾患および症候群を治療するのに有用な治療薬を設計するためには、Kv9.2(野生型または特定の突然変異体)の発現プロフィールの決定が有用である。したがって、Kv9.2が発現されている器官、組織、および細胞型(同様に発生ステージ)を決定するために、当技術分野で公知の方法が用いられるであろう。例えば、伝統的ノーザンまたは「電子式」ノーザンを行うことができる。逆転写酵素PCR(RT-PCR)も、Kv9.2遺伝子または突然変異体の発現をアッセイするのに利用できる。Kv9.2の発現プロフィールを決定するための、さらに感度が高い方法には、当技術分野で公知のRNAseプロテクションアッセイが含まれる。
【0145】
ノーザン分析は、遺伝子の転写産物の存在を検出するのに用いられる実験室技法であり、特定の細胞型または組織からのRNAが結合した膜への、標識されたヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを含む(Sambrook、前掲、第7章、ならびにAusubel、F.M.ら、前掲、第4および16章)。BLASTを利用した類似のコンピュータ技法(「電子ノーザン」)は、GenBankデータベース、またはLIFESEQデータベース(Incyte Pharmaceuticals社)などのヌクレオチドデータベース中にある同一もしくは関連の分子をサーチするのに用いることができる。このタイプの分析の利点は、それらが、複数の膜をベースにしたハイブリダイゼーションより速いことにある。加えて、コンピュータサーチでは、その感度を変更することによって、特定の一致が、正確であると分類されるものか、または相同であると分類されるものか判定することができる。
【0146】
上述のプローブを含むポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、本明細書の他の箇所でより詳細に説明するように、動物およびヒトの疾患に対する治療および診断を発見するための研究用の試薬および物質として利用することができる。
【0147】
Kv9.2ポリペプチドの発現
本発明者らはさらに、Kv9.2ポリペプチドの製造方法を開示する。該方法は、一般的に、他のKvファミリーを伴うまたは伴わないKv9.2ポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体をコードする核酸を含む宿主細胞を好適な条件(すなわちKv9.2ポリペプチドが発現する条件)で培養することを含む。
【0148】
生物学的に活性なKv9.2含有イオンチャネルを発現するためには、Kv9.2サブユニットまたはその相同体、変異体、もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を、適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含有するベクターに挿入する。
【0149】
Kv9.2サブユニットをコードする配列と、適当な転写制御エレメントおよび翻訳制御エレメントとを含有する発現ベクターの構築は、当業者に周知の方法を用いて行う。これらの方法には、in vitroの組換えDNA技法、合成技法、およびin vivoの遺伝子組換えが含まれる。そのような技法は、Sambrook, J.ら(1989年;「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」, 第4, 8, および16〜17章, Cold Spring Harbor Press社, Plainview, N.Y.)、および、Ausubel, F. M.ら(1995年および定期補足;「Current Protocols in Molecular Biology」, 第9, 13, および16章, John Wiley & Sons社, New York、N.Y.)に記載されている。
【0150】
Kv9.2サブユニットをコードする配列を含有および発現するために様々な発現ベクター/宿主系を利用することができる。これらには、限定されるものでないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌などの微生物;酵母発現ベクターで形質転換された酵母;ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)もしくはタバコモザイクウイルス(TMV))、または細菌発現ベクター(例えばTiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換された植物細胞系;または、動物細胞系が含まれる。本開示は使用する宿主細胞により限定されるものでない。
【0151】
「制御エレメント」または「調節配列」は、ベクターの非翻訳領域(すなわち、エンハンサー、プロモーター、ならびに5'および3'の非翻訳領域)であって、それらの領域が宿主細胞タンパク質と相互作用することによって、転写および翻訳が実施される。そのようなエレメントの強度および特異性は様々でありうる。利用するベクター系および宿主に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターを含めた、いくつかの数の様々な適当な転写エレメントおよび翻訳エレメントを用いることができる。例えば、細菌系にクローニングする場合には、BLUESCRIPTファージミド(Stratagene社、La Jolla、Calif.)またはPSPORT1プラスミド(GIBCO/BRL社)のハイブリッドlacZプロモーター、および同様のものなどの誘導性プロモーターを用いることができる。昆虫細胞では、バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターを用いることができる。植物細胞のゲノムに由来するプロモーターもしくはエンハンサー(例えば、熱ショック、RUBISCO、および貯蔵タンパク質遺伝子)、または植物ウイルスに由来するもの(例えば、ウイルスのプロモーターまたはリーダー配列)を、ベクターにクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子または哺乳動物ウイルスからのプロモーターが好ましい。Kv9.2サブユニットをコードする配列を複数コピー含有する細胞系の作製が必要である場合には、適当な選択マーカーを有する、SV40またはEBVに基づくベクターを用いることができる。
【0152】
細菌系では、意図されているKv9.2サブユニットの用途に応じて、多数の発現ベクターを選択することができる。例えば、抗体を誘導するのに大量のKv9.2サブユニットが必要である場合、容易に精製される融合タンパク質の高レベル発現を指示するベクターを用いることができる。限定されるものではないが、そのようなベクターには、BLUESCRIPT(Stratagene社)、pINベクター(Van Heeke, G.およびS. M. Schuster (1989), J. Biol. Chem. 264: 5503〜5509)、および同様のものなどの、多機能性大腸菌クローニングベクターおよび発現ベクターが含まれ、前記BLUESCRIPTでは、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、β-ガラクトシダーゼのアミノ末端のMetおよびそれに続く7残基の配列とインフレームになるようにベクター中に連結させて、それによりハイブリッドタンパク質を生成させることができる。pGEXベクター(Promega社、Madison、Wis.)も、外来のポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現するのに使用できる。一般的には、そのような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン-アガロースビーズに吸着させて、それに続いて、遊離グルタチオンの存在下で溶出させることによって、溶解した細胞から容易に精製することができる。そのような系で生成されたタンパク質は、クローニングした目的のポリペプチドをGST部分から自在に放出できるように、へパリン、トロンビン、または第XA因子のプロテアーゼ切断部位を含むように設計することができる。
【0153】
酵母サッカロミセス・セレビシエでは、アルファ因子、アルコール酸化酵素、およびPGHなどの構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを用いることができる。概説には、Ausubel(前掲)およびGrantら(1987年; Methods Enzymol. 153: 516〜544)をされたい。
【0154】
植物発現ベクターを使用する場合、Kv9.2サブユニットをコードする配列の発現は、多数のプロモーターのうちの任意のものによって駆動させることができる。例えば、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーターなどのウイルスプロモーターを、単独で、あるいはTMVのオメガリーダー配列と組み合わせて用いることができる(Takamatsu, N. (1987), EMBO J. 6: 307〜311)。別法として、RUBISCOの小サブユニットプロモーターまたは熱ショックプロモーターのなどの植物プロモーターを用いることもできる(Coruzzi, G.ら(1984), EMBO J. 3: 1671〜1680;Broglie, R.ら(1984), Science 224: 838〜843;およびWinter, J.ら(1991), Results Probl. Cell Differ. 17: 85〜105)。これらの構築物は、直接的なDNA形質転換または病原体の媒介によるトランスフェクションによって、これらの植物細胞の中に導入することができる。そのような技法は、一般的に利用可能な多数の総説に記載されている(例えば、McGraw Hill Yearbook of Science and Technology (1992)におけるHobbs, S.またはMurry, L. E., McGraw Hill社, New York, N.Y.; 191〜196頁を参照)。
Kv9.2サブユニットを発現するのに、昆虫系を用いることもできる。例えば、そのような系の1つでは、外来遺伝子をスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞またはトリコプルシア(Trichoplusia)幼虫で発現するのに、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体ウイルス(AcNPV)をベクターとして用いる。Kv9.2サブユニットをコードする配列は、このウイルスにおけるポリヘドリン遺伝子など、必須ではない領域にクローニングして、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置くことができる。Kv9.2サブユニットの挿入に成功すれば、ポリヘドリン遺伝子を不活性化して、コートタンパク質を欠失した組換えウイルスを生成するであろう。この組換えウイルスは、その後、例えばS.フルギペルダ細胞またはトリコプルシア幼虫に感染させるのに用いることができ、それらの中でKv9.2含有イオンチャネルを発現させることができる(Engelhard, E. K.ら(1994), Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 3224〜3227)。
【0155】
哺乳動物宿主細胞では、多数のウイルスベースの発現系を利用することができる。発現ベクターとしてアデノウィルスを用いる場合、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、後期プロモーターおよびトリパータイトリーダー配列からなるアデノウィルス転写/翻訳複合体に連結することができる。このウイルスゲノムの非必須領域であるE1またはE3領域への挿入を利用して、感染した宿主細胞でKv9.2サブユニットを発現できる生存ウイルスを得ることができる(Logan, J.およびT. Shenk (1984), Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 3655〜3659)。加えて、哺乳動物宿主細胞での発現を増強するのに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーなどの転写エンハンサーを用いることもできる。
【0156】
従って、例えば、Kv9.2含有イオンチャネルを、ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞または付着性CHO細胞のいずれかで発現させる。最大のチャネル発現を達成するため、典型的には、pCDNまたはpCDNA3ベクターへの挿入前に全ての5'および3'非翻訳領域(UTR)をKv9.2 cDNAから除去する。細胞をリポフェクションにより個々のcDNAでトランスフェクトし、400mg/ml G418の存在下で選択する。3週間の選択後、個々のクローンを取り上げ、さらなる分析のために増殖させる。ベクター単独をトランスフェクトしたHEK293細胞またはCHO細胞を陰性対照として用いる。個々のチャネルを安定に発現する細胞系を単離するため、約24のクローンを典型的に選択し、ノーザンブロット分析で分析する。チャネルmRNAは一般的に分析したG418耐性クローンの約50%において検出可能である。
【0157】
プラスミド中に含有させて、発現させることのできるものより大きいDNA断片を送達させるために、ヒト人工染色体(HAC)を利用することもできる。治療目的には、約6kbから10MbのHACを構築して、慣用の送達方法(リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、または小胞)で送達する。
【0158】
Kv9.2サブユニットをコードする配列のより効率的な翻訳を実現するために、特定の開始シグナルを用いることもできる。そのようなシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。Kv9.2サブユニットをコードする配列と、その開始コドンおよび上流配列とを適切な発現ベクターに挿入する場合には、それらに追加して、いかなる転写制御シグナルも、あるいは翻訳制御シグナルも必要ないであろう。しかし、コード配列またはその断片のみを挿入する場合には、ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供するべきである。さらに、開始コドンは、挿入配列全体の翻訳を確実にするために、正しいリーディングフレームにあるべきである。外因性の翻訳エレメントおよび開始コドンは、天然のものおよび合成のもの両方の様々な由来のものでよい。発現の効率は、文献に記載されているものなど、使用される特定の細胞系に適したエンハンサーを含有させることによって増強することができる(Scharf, D.ら(1994), Results Probl. Cell Differ. 20: 125〜162)。
【0159】
加えて、宿主細胞株を、それが挿入配列の発現をモジュレートする能力、または、発現されたタンパク質を望ましい様式でプロセシングする能力によって選択することができる。そのようなポリペプチドの修飾には、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化が含まれるが、これらに限定されない。「プレプロ」型のタンパク質を切断する翻訳後プロセシングも、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促進するのに利用することができる。翻訳後活性のための特定の細胞機構および独特のメカニズムを有する様々な宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、HEK293、およびWI38)は、ATCC(American Type Culture Collection、Bethesda、Md.)から入手することができ、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングが確実となるように選択することができる。
【0160】
組換えタンパク質の長期的かつ高収率の生産には、安定した発現が好ましい。例えば、Kv9.2ホモもしくはヘテロマーのイオンチャネルを安定的に発現できる細胞系は、ウイルスの複製起点および/または内因性発現エレメントと、選択マーカー遺伝子とを、同一または別個のベクター上に含有するであろう発現ベクターを用いて形質転換することができる。細胞は、ベクターを導入した後、選択培地に切り換える前に、濃縮培地中で約1日から2日間増殖させることができる。選択マーカーの目的は、選択に対する耐性を付与することであり、それが存在することによって、導入された配列を良好に発現する細胞の増殖と、回収とを可能にする。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適した組織培養技法を用いて増殖させることができる。
【0161】
いくつかの数の選択系を、形質転換細胞系を回収するに用いることができる。限定されるものではないが、これらには単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(Wigler, M.ら(1977), Cell 11: 223〜32)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowy, I.ら(1980), Cell 22: 817〜23)が含まれ、これらはそれぞれ、tk-細胞またはapr-細胞で用いることができる。また、代謝拮抗物質、抗生物質、もしくは除草剤耐性も、選択の基礎として用いることができる。例えば、dhfrはメトトレキセートに対する耐性を付与し(Wigler, M.ら(1980), Proc. Natl. Acad. Sci. 77: 3567〜70);nptはアミノグルコシドネオマイシンおよびG-418に対する耐性を付与し(Colbere-Garapin, F.ら(1981), J. Mol. Biol. 150: 1〜14);そして、alsまたはpatはそれぞれ、クロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与する(Murry、前掲)。他の選択可能な遺伝子、例えば、trpBまたはhisDが既に記載されており、trpBは、トリプトファンの代わりに、細胞によるインドールの利用を可能にし、hisDは、ヒスチジンの代わりに、細胞によるヒスチノールの利用を可能にする(Hartman, S. C.およびR. C. Mulligan (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 8047〜51)。最近では、可視マーカーの使用が好まれるようになっており、そのようなマーカーには、アントシアニン、β-グルクロニダーゼおよびその基質GUS、ならびにルシフェラーゼおよびその基質ルシフェリンがある。これらのマーカーは、形質変換体を同定するのみでなく、特定のベクター系に起因する一過性または安定的なタンパク質発現の量を定量化するのにも使用できる(Rhodes, C. A.ら(1995), Methods Mol. Biol. 55: 121〜131)。
【0162】
マーカー遺伝子発現の存在/不在は、目的の遺伝子も存在することを示唆するが、その遺伝子の存在および発現を確認する必要がある場合もある。例えば、Kv9.2サブユニットをコードする配列を、マーカー遺伝子配列中に挿入する場合、マーカー遺伝子機能の不在によって、Kv9.2サブユニットをコードする配列を含有する形質転換細胞を同定することができる。別法として、マーカー遺伝子を、Kv9.2サブユニットをコードする配列と直列にして、単一のプロモーターの制御下に配置することもできる。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は、通常、直列の遺伝子の発現も示す。
【0163】
別法として、Kv9.2サブユニットをコードする核酸配列を含有し、かつKv9.2サブユニットを発現する宿主細胞を、当業者に公知の様々な手法によって同定することもできる。これらの手法には、限定されるものでないが、核酸配列またはタンパク質配列を検出および/または定量するための、膜、溶液、またはチップベースの技法を含めた、DNA-DNAもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーション、およびタンパク質のバイオアッセイ技法またはイムノアッセイ技法が含まれる。
【0164】
Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチド配列の存在は、Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドのプローブまたは断片を用いた、DNA-DNAもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーション、または増幅によって検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイは、Kv9.2サブユニットをコードする配列に基づいたオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーを使用して、Kv9.2サブユニットをコードするDNAまたはRNAを含有する形質転換体を検出することを含む。
【0165】
タンパク質に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いて、Kv9.2サブユニットの発現を検出および測定するための様々なプロトコルが当技術分野で知られている。そのような技法の例には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)が含まれる。Kv9.2サブユニット上の2箇所の非干渉性エピトープに反応するモノクローナル抗体を利用した二部位(two-site)のモノクローナルに基づくイムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを利用することもできる。これらのアッセイおよび他のアッセイは、当技術分野で詳細に記載されており、例えば、Hampton, R.ら(1990年;「Serological Methods, a Laboratory Manual」, Section IV, APS Press社, St Paul、Minn.)、およびMaddox, D. E.ら(1983年; J. Exp. Med. 158: 1211〜1216)に記載されている。
【0166】
様々な標識および結合技法が、当業者に知られており、様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイで用いることができる。Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドに関連した配列の検出用に標識されたハイブリダイゼーションプローブまたはPCRプローブを生成する手段には、オリゴ標識、ニックトランスレーション法、末端標識法、または標識されたヌクレオチドを用いたPCR増幅が含まれる。別法として、mRNAプローブを生成するために、Kv9.2サブユニットまたは任意のその断片をコードする配列を、ベクターにクローニングすることもできる。そのようなベクターは、当技術分野で公知であり、市販されており、T7、T3、またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼと、標識されたヌクレオチドとを添加することによって、RNAプローブをin vitroで合成するのに用いることができる。これらの手法は、Pharmacia & Upjohn社(Kalamazoo、Mich.)、Promega(Madison、Wic.)、およびU.S. Biochemical Corp.社(Cleveland、Ohio)によって販売されているものなど、市販されている様々なキットを用いて実施することができる。適当なレポーター分子、または検出を容易にするのに用いることのできる標識には、放射性核種、酵素、蛍光、化学発光、または色素生成物質が含まれ、さらに基質、補因子、阻害因子、磁性粒子、および同様のものも含まれる。
【0167】
Kv9.2サブユニットをコードするヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現、および細胞培養物からのタンパク質の回収に適した条件下で培養することができる。形質転換細胞によって生成されたタンパク質は、用いられた配列および/またはベクターに応じて、細胞膜中に局在する場合も、分泌される場合も、細胞内に含有される場合もある。当業者ならば理解するであろうが、Kv9.2サブユニットをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、原核細胞または真核細胞の細胞膜を通したKv9.2サブユニットの分泌を指示するシグナル配列を含有するように設計することができる。可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に、Kv9.2サブユニットをコードする配列を連結する、他の構築物を用いることもできる。精製を容易にするそのようなドメインには、限定されるものでないが、固定化された金属上での精製を可能にするヒスチジン-トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化された免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、および、FLAGS伸長/アフィニティ精製系(Immunex Corp.社、Seattle、Wash.)で用いられるドメインが含まれる。精製を容易にするために、精製用ドメインと、Kv9.2サブユニットをコードする配列との間に、第XA因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen社、San Diego、Calif.)に特異的なものなど、切断可能なリンカー配列を包含させることもできる。そのような発現ベクターの1つは、Kv9.2サブユニットと、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6ヒスチジン残基をコードする核酸とを含有する融合タンパク質の発現を提供する。ヒスチジン残基は、固定化された金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMIAC;Porath、J.、ら(1992)、Prot. Exp. Purif. 3: 263〜281に記載)での精製を容易にし、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質からKv9.2サブユニットを精製する手段を提供する。融合タンパク質を含有するベクターに関する考察は、Kroll, D. J.ら(1993年; DNA Cell Biol. 12: 441〜453)に提供さ
れている。
【0168】
Kv9.2サブユニットの断片は、組換え生成によって生成されるのみでなく、固相法を用いた直接的ペプチド合成によっても生成することができる(Merrifield J. (1963), J. Am. Chem. Soc. 85: 2149〜2154)。タンパク質合成は、手動の技法によっても、自動化によっても実施できる。自動化による合成は、例えば、Applied Biosystems 431Aペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer社)を用いて実現できる。Kv9.2サブユニットの様々な断片を別々に合成して、その後、結合させて全長分子を生成させることができる。
【0169】
バイオセンサー
Kv9.2ポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクターおよびリガンドはバイオセンサーとして(およびその作製のために)有用である。
【0170】
Aizawa (1988), Anal. Chem. Symp. 17: 683によると、バイオセンサーとは、分子認識のための標的、例えば選択層と、固定化された抗体またはタンパク質(Kv9.2など)との特有の組み合わせと、測定された値を伝達するトランスデューサであると定義される。そのようなバイオセンサーの1つのグループは、チャネルとその周囲の媒体との相互作用によって表面層の光学特性に生じる変化を検出するものである。そのような技術の中で、特に偏光解析法および表面プラズモン共鳴を挙げることができる。Kv9.2を組み込むバイオセンサーは、Kv9.2リガンドの存在またはレベルの検出に用いることができる。そのようなバイオセンサーの構築は当技術分野で周知である。
【0171】
スクリーニングアッセイ
Kv9.2ポリペプチド(相同体、変異体および誘導体を含む)は、それが天然または組換えであっても、Kv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルに結合し、Kv9.2を活性化する(アゴニスト)または活性化を阻害する(アンタゴニストもしくはブロッカー)化合物についてのスクリーニング方法において用いることができる。従って、そのようなポリペプチドはまた、例えば細胞、無細胞調製物、化学ライブラリおよび天然産物の混合物における、小分子基質およびリガンドの結合を評価するために用いることも可能である。これらの基質およびリガンドは、天然基質およびリガンドであってもよいし、または構造的もしくは機能的模倣物であってもよい。Coliganら, Current Protocols in Immunology 1(2):Chapter 5 (1991)を参照のこと。
【0172】
Kv9.2イオンチャネルポリペプチドは、多くの生物学的機能(疼痛および疼痛関連疾患などの多くの病理学を含む)に寄与する。従って、一方ではKv9.2含有イオンチャネルを刺激するが、他方ではKv9.2イオンチャネルの機能を阻害しうる化合物および薬剤を見出すことが望ましい。一般的に、Kv9.2関連疾患などの疼痛関連疾患のための治療および予防目的でアゴニストおよびアンタゴニストが用いられる。そのような化合物および薬物は、例えば、鎮痛薬または痛み軽減薬として用いることができる。
【0173】
Kv9.2イオンチャネルタンパク質と相互作用する可能性が高い候補化合物の合理的設計は、ポリペプチドの分子形状の構造的研究に基づいて行いうる。特異的な他のタンパク質と相互作用する部位を特定するための1つの手段は、物理的構造決定、例えばX線結晶学または二次元NMR技術である。これらによって、どのアミノ酸残基が分子接触領域を形成するかの示唆を得ることができる。タンパク質構造決定の詳細な説明については、例えばBlundellおよびJohnson (1976) Protein Crystallography, Academic Press、New Yorkを参照のこと。
【0174】
合理的設計に代わる方法は、Kv9.2イオンチャネルポリペプチドをその表面上に発現する適当な細胞を作製することを一般的に含むスクリーニング手法を利用する。そのような細胞としては、動物、酵母、ショウジョウバエ(Drosophila)または大腸菌由来の細胞が挙げられる。Kv9.2を発現する細胞(または発現されたタンパク質を含む細胞膜)を次に被験化合物と接触させて、結合、または機能的応答の刺激もしくは阻害を観察する。例えば、アフリカツメガエル卵母細胞にKv9.2 mRNAまたはポリペプチドを注入し、本明細書中に詳述するように電圧固定法を使用して被験化合物への暴露により誘導される電流を測定する。
【0175】
各候補化合物を個々にKv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルを用いて試験する代わりに、候補リガンドのライブラリまたはバンクを作製してスクリーニングすることが有利でありうる。従って、例えば200を超える推定リガンドのバンクがスクリーニング用に構築されている。バンクには、イオンチャネルを介して作用することが知られる伝達物質、ホルモンおよびケモカイン;イオンチャネルの推定アゴニストと考えられる天然化合物、哺乳動物由来の対応物がまだ同定されていない非哺乳動物由来の生物学的に活性なペプチド;ならびに天然には見出されないが未知の天然リガンドと共にイオンチャネルを活性化する化合物が含まれる。
【0176】
このバンクを用いて、本明細書に詳述するような、機能アッセイ(すなわち、Rbフラックスアッセイ、FRETアッセイ、FLIPRアッセイ、全細胞電気生理学、卵母細胞電気生理学など、他の箇所も参照)ならびに結合アッセイの両方を用いて、既知のリガンドについてKv9.2サブユニットまたはKv9.2含有イオンチャネルをスクリーニングすることができる。しかしながら、多数の哺乳動物チャネルは、未だ対応する活性化リガンド(アゴニスト)または脱活性化リガンド(アンタゴニスト)がないままである。このように、これらの受容体に対する活性リガンドは、現在まで同定されたリガンドバンクに含まれてないかも知れない。従って、Kv9.2を組織抽出物に対して機能的にスクリーニングして、天然リガンドを同定してもよい(卵母細胞電気生理学など、機能的スクリーニングを用いる)。陽性の機能的応答をもたらす抽出物を逐次小分画化し、その画分を、活性化リガンドが単離および同定されるまで本明細書に記載のようにアッセイしてもよい。
【0177】
別の方法では、Kv9.2含有イオンチャネルの阻害または刺激を測定することによりイオンチャネル阻害剤をスクリーニングする。そのような方法では、Kv9.2サブユニットを、単独でホモマーチャネルを形成するようにまたは他のKvチャネルサブユニットと共にヘテロマーチャネルを形成するように、真核細胞にトランスフェクトして、その細胞表面上にイオンチャネルを発現させる。次に細胞をKv9.2含有イオンチャネルの存在下にてアンタゴニスト候補に暴露する。細胞は、全細胞電気生理学を用いて試験し、コンダクタンスまたは電流の動力学の変化を測定する。
【0178】
Kv9.2のアゴニストまたはアンタゴニストを検出するための別の方法は、米国特許第5,482,835号に記載のような酵母に基づく技術であり、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0179】
好ましい実施形態において、スクリーニングは、Kv9.2のアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングするためにコンダクタンスの変化の検出を利用する。特に、本発明者らは、Kv9.2のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のコンダクタンスを低下させるという方法を開示する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pSまたはそれ以上低下する。
【0180】
さらに、本発明者らは、Kv9.2のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のコンダクタンスを増大させるという方法を開示する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増大する。好ましくは、コンダクタンスは、Kv9.2のアゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pSまたはそれ以上増大する。
【0181】
さらに好ましい実施形態において、スクリーニングは、Kv9.2のアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングするために放射標識したRbフラックス、好ましくは%Rb流出の変化の検出を利用する。好ましくは、スクリーニングは、「Kv9.2の機能アッセイ(Rbフラックス)」において上述した機能アッセイを利用する。
【0182】
特に、本発明者らは、Kv9.2のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を低下させるという方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下する。
【0183】
特に、本発明者らは、Kv9.2のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の%Rb流出を増大させるという方法を開示する。好ましくは、%Rb流出は、Kv9.2のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上増大する。
【0184】
候補化合物がタンパク質、特に抗体またはペプチドである場合、候補化合物のライブラリを、ファージディスプレイ法を用いてスクリーニングすることが可能である。ファージディスプレイは、組換えバクテリオファージを用いる分子スクリーニング・プロトコルの1つである。この技術では、バクテリオファージを候補化合物のライブラリに由来する1つの化合物をコードする遺伝子で形質転換し、各ファージまたはファージミドが特定の候補化合物を発現するようにする。形質転換したバクテリオファージ(好ましくは固相支持体に連結している)は、適当な候補化合物を発現し、そのファージコート上にそれを提示する。Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドに結合することができる特異的候補化合物を、アフィニティ相互作用に基づく選抜手法で濃縮する。続いて良好に反応した候補薬剤の特性決定を行う。ファージディスプレイは、標準的なアフィニティリガンドスクリーニング技術よりも利点がある。ファージ表面は、より天然の構造に類似した三次元構造で候補薬剤を提示する。これにより、スクリーニング目的のためのアフィニティ結合がより特異的にかつより高くなる。
【0185】
化合物ライブラリをスクリーニングする別の方法は、化合物ライブラリを発現する組換えDNA分子で安定に形質転換した真核または原核宿主細胞を利用する。そのような細胞は、生存していてもまたは固定されていても、標準的な結合パートナーアッセイに用いることができる。また、細胞応答を検出する高感度の方法を記載するParceら, (1989) Science 246:243-247;およびOwickiら, (1990) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 87;4007-4011を参照されたい。競合アッセイが特に有用であり、これは、化合物ライブラリを発現する細胞を、Kv9.2ポリペプチドと結合することが知られる標識抗体(125I-抗体など)と接触させるかまたはそれと共にインキュベートし、結合組成物に対する結合アフィニティを有する試験サンプル(候補化合物など)を測定するものである。続いて、ポリペプチドに対して結合したおよび遊離の標識結合パートナーを分離して、結合の程度を評価する。結合した試験サンプルの量はポリペプチドに結合した標識抗体の量と反比例する。
【0186】
多数の技術のいずれか1つを用いて、遊離結合パートナーから結合した結合パートナーを分離し、結合の程度を評価することができる。この分離ステップは、典型的にはフィルターへの付着とその後の洗浄、プラスチックへの付着とその後の洗浄、または細胞膜の遠心分離などの手順を含む。
【0187】
また別の手法は、例えば形質転換した真核または原核宿主細胞から抽出された、可溶化、未精製または可溶化精製ポリペプチドまたはペプチドを用いる。これにより、特異性の増大、自動化可能性、および薬物試験ハイスループット(高速処理能力)の利点を有する「分子」結合アッセイが可能になる。
【0188】
候補化合物スクリーニングの別の手法は、例えばKv9.2ポリペプチドに対する好適な結合アフィニティを有する新規化合物をハイスループットでスクリーニングする方法を含み、詳細には、国際特許出願第WO84/03564号(Commonwealth Serum Labs.、1984年9月13日公開)に記載されている。最初に、多数の異なる小ペプチド試験化合物を固相基板、例えばプラスチックピンまたはいくつかの他の適当な表面上で合成する;Fodorら(1991)を参照されたい。続いて、全てのピンを可溶化Kv9.2ポリペプチドと反応させ、洗浄する。次のステップは、結合したポリペプチドの検出に関わる。そして、ポリペプチドと特異的に相互作用する化合物を同定しうる。
【0189】
リガンド結合アッセイによって、薬効薬理を解明するための直接的方法が提供され、またこれはハイスループット形式に適合可能なものである。精製されたリガンドを、結合試験のために高い比活性(50〜2000Ci/mmol)となるよう放射性標識しうる。続いて、放射性標識のプロセスがその標的に対するリガンドの活性を弱めないという確認を行う。バッファー、イオン、pHおよび他の修飾因子(ヌクレオチドなど)についてのアッセイ条件を最適化して、膜および全細胞受容体またはイオンチャネル供与源についての実行可能なシグナル対ノイズ比を確立する。これらのアッセイに対して、特異的結合は、全会合放射能から、過剰な無標識の競合リガンドの存在下で測定した放射能を差し引いたものとして定義される。可能であれば、2以上の競合リガンドを用いて、残りの非特異的結合を定義する。
【0190】
このアッセイは候補化合物の結合を簡便に試験することができ、その場合、受容体またはイオンチャネルを有する細胞に対する付着性を、候補化合物と直接もしくは間接的に会合した標識によってまたは標識競合物質との競合に関わるアッセイで検出する。さらに、これらのアッセイは、標的をその表面上に有する細胞に適当な検出系を用いて、候補化合物が標的の活性化により生じるシグナルをもたらすか否かを試験しうる。活性化の阻害剤は、一般的には既知のアゴニストの存在下でアッセイし、候補化合物の存在下でのアゴニストによる活性化に対する影響を観察する。
【0191】
さらに、アッセイは単に、候補化合物とKv9.2ポリペプチドを含有する溶液とを混合して混合物を生成するステップ、該混合物におけるKv9.2含有イオンチャネル活性を測定するステップ、および該混合物のKv9.2イオンチャネル活性を標準と比較するステップを含むものであってもよい。
【0192】
また、Kv9.2サブユニットcDNA、タンパク質および該タンパク質に対する抗体を用いて、細胞におけるKv9.2サブユニットmRNAおよびタンパク質の産生に対する添加した化合物の影響を検出するアッセイを設定しうる。例えば、ELISAは、当技術分野で公知の標準的な方法によってモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を用いてKv9.2サブユニットタンパク質の分泌レベルまたは細胞結合レベルを測定するために構築することができ、これを、好適に操作された細胞または組織からのKv9.2サブユニットの産生を阻害または増強しうる薬剤(それぞれアンタゴニストまたはアゴニストとも称する)を発見するために用いることができる。スクリーニングアッセイを実施するための標準的方法は当技術分野で周知である。
【0193】
可能性あるKv9.2イオンチャネルアンタゴニストおよびブロッカーの例としては、抗体、または場合によっては、ヌクレオチドおよびそれらの類似体(プリンおよびプリン類似体を含む)、オリゴヌクレオチドまたはKv9.2含有イオンチャネルのリガンドに非常に類縁のタンパク質(例えばリガンドの断片)、またはイオンチャネルに結合するが応答を引き起こさず、チャネルの活性を妨害する小分子が挙げられる。
【0194】
従って、Kv9.2ポリペプチドおよび/またはペプチドに特異的に結合可能な化合物もまた提供する。
【0195】
「化合物」という用語は、化学的化合物(天然もしくは合成)、例えば生体高分子(例えば核酸、タンパク質、非ペプチドもしくは有機分子)、または細菌、植物、真菌もしくは動物(特に哺乳動物)細胞もしくは組織などの生体材料から作製された抽出物、または無機元素もしくは分子などさえも意味する。好ましくは化合物は抗体である。
【0196】
そのようなスクリーニングの実施に必要な物質は、スクリーニングキットにパッケージングされてもよい。そのようなスクリーニングキットは、Kv9.2ポリペプチドに対するアゴニスト、アンタゴニスト、リガンド、受容体、基質、酵素など、またはKv9.2イオンチャネルポリペプチドの産生を低減もしくは増大する化合物を同定するために有用である。スクリーニングキットは、(a)Kv9.2ポリペプチド、(b)Kv9.2ポリペプチドを発現する組換え細胞、(c)Kv9.2ポリペプチド発現する細胞膜、または(d)Kv9.2ポリペプチドに対する抗体を含む。スクリーニングキットは、任意に使用説明書を含んでもよい。
【0197】
トランスジェニック動物
さらに、天然または組換えのKv9.2サブユニットおよび/またはKv9.2含有イオンチャネル、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を、正常なレベル、正常な発現レベルと比較して高レベルまたは低レベルで発現することができるトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、そのようなトランスジェニック動物は、非ヒト哺乳動物、例えばブタ、ヒツジまたはげっ歯動物である。最も好ましくは、トランスジェニック動物はマウスまたはラットである。
【0198】
また、天然Kv9.2遺伝子の全部または一部が別の生物由来のKv9.2配列で置き換わったトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、この生物は別の種であり、最も好ましくはヒトである。非常に好ましい実施形態において、その実質的に全長のKv9.2遺伝子がヒトKv9.2遺伝子で置き換わったマウスを開示する。そのようなトランスジェニック動物、ならびにKv9.2が野生型の動物は、Kv9.2のアゴニストおよび/またはアンタゴニストをスクリーニングするために用いることができる。
【0199】
例えば、そのようなアッセイは、野生型もしくはトランスジェニック動物、またはその一部(好ましくはトランスジェニック動物の細胞、組織もしくは器官)を候補物質に暴露するステップ、Kv9.2関連表現型、例えば、疼痛に対する感受性の変化についてアッセイするステップを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングを実施することも可能である。
【0200】
本発明者らはさらに、機能的に破壊されたKv9.2遺伝子を含むトランスジェニック動物であって、本明細書に開示されるKv9.2の1以上の機能が部分的にまたは完全に無効化されたトランスジェニック動物を開示する。例えば、Kv9.2遺伝子の1以上の機能喪失突然変異、例えば欠失の結果として機能的Kv9.2含有イオンチャネルを発現しないトランスジェニック動物(Kv9.2ノックアウト)が含まれる。
【0201】
また、例えばKv9.2遺伝子の選択された一部に欠失を有するような、部分的な機能喪失突然変異体、例えば不完全なノックアウトも含まれる。そのような動物は、Kv9.2配列の関連する部分、例えば機能的に重要なタンパク質ドメインを選択的に置換または欠失することにより作出しうる。
【0202】
そのような完全または部分的機能喪失突然変異体は、Kv9.2関連疾患、特に疼痛または疼痛関連疾患もしくは症候群のモデルとして有用である。部分的に機能喪失を示す動物を候補物質に暴露し、表現型を増強もしくは抑制する、すなわち観察される表現型の強度を増大もしくは低下させる(Kv9.2の場合)(すなわち、疼痛感受性を調節する)物質を同定することができる。他のパラメータ、例えばコンダクタンスもしくは動力学の低減も、本明細書で記載する方法を用いて検出することができる。
【0203】
野生型動物、ならびに部分的および完全ノックアウトはまた、Kv9.2の選択的アゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するために用いることができる。例えば、アゴニストおよび/またはアンタゴニストを、野生型およびKv9.2欠損動物(ノックアウト)に投与してもよい。Kv9.2の選択的アゴニストまたはアンタゴニストは、野生型動物に対して影響を及ぼすが、Kv9.2欠損動物には及ぼさないことが示されるだろう。詳細には、可能性ある薬剤(候補リガンドまたは化合物)を評価して、それがKv9.2含有イオンチャネルの不在下で生理学的応答を生じるか否かを決定するような特異的アッセイを設計する。これは、上述したように薬剤をトランスジェニック動物に投与し、続いて特定の応答について動物をアッセイすることによって達成しうる。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、類似の細胞に基づく方法を実施してもよい。そのような動物はまた、本明細書に記載のスクリーニングによって同定された薬剤の効力について試験するために用いることもできる。
【0204】
別の実施形態において、部分的な機能喪失表現型を有するトランスジェニック動物をスクリーニングに用いる。そのような実施形態において、スクリーニングは、野生型表現型への部分的または完全な回復または復帰についてアッセイすることを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、コンダクタンスまたは動力学に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングもまた実施しうる。そのような能力のあることがわかった候補化合物は、Kv9.2アゴニストまたは類似体とみなされうる。そのようなアゴニストは、例えば、個体が知覚する疼痛レベルを調節(増大または低下)するために用いることができる。
【0205】
好ましい実施形態において、トランスジェニックKv9.2動物、特にKv9.2ノックアウト(完全な機能喪失)は、好ましくは本明細書に記載の試験によって測定した場合に、実施例に示す表現型を示す。従って、前記Kv9.2動物、特にKv9.2ノックアウトは、好ましくは、増大した疼痛もしくは低下した疼痛レベルのいずれかの、調節された疼痛の知覚を示す。
【0206】
非常に好ましい実施形態において、トランスジェニックKv9.2動物、特にKv9.2ノックアウトは、対応の野生型マウスと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%高いまたは低い(場合による)測定パラメータを示す。従って、例えば、実施例に記載のテールフリック試験分析で試験すると、Kv9.2欠失マウスは好ましくは、野生型マウスと比較して、疼痛の統計的に増加または減少した知覚を有する。
【0207】
Kv9.2欠損トランスジェニック動物について本明細書で開示する表現型は、Kv9.2の機能喪失と類似の影響を引き起こす化合物を検出するために野生型動物を用いるスクリーニングにおいて有用に使うことができることは明らかである。言い換えると、野生型動物を候補化合物に暴露し、例えば疼痛レベルなどの関連するKv9.2表現型変化を観察し、Kv9.2機能のモジュレーター、特にアンタゴニストを同定することができる。細胞表現型、例えばコンダクタンスの低下または動力学の変化もしくは低下も、本明細書に記載の方法を用いて検出することができる。
【0208】
そのようなスクリーニングにより同定された化合物は、Kv9.2のアンタゴニストとして、特にKv9.2関連疾患の治療または緩和のために用いることができる。
【0209】
上述したスクリーニングは、好適なパラメータ、例えば行動応答、生理的応答または生化学的応答のいずれかの観察を含みうる。好ましい応答は生理的応答、好ましくは、外界刺激の知覚、さらに好ましくは疼痛の変化を含む。
【0210】
生化学パラメータもまた用いることができ、例えばコンダクタンスまたは動力学の変化がある。好ましくは、コンダクタンスは「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定し、そして動力学(活性化および/または失活時間、好ましくは活性化および/または失活時間定数)はその節に記載のとおり測定する。これは、細胞に基づくスクリーニングにおいて特に有用である。
【0211】
好ましい実施形態において、Kv9.2アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞または部分的機能喪失細胞)のコンダクタンスは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0212】
好ましい実施形態において、Kv9.2アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞または部分的機能喪失細胞)の動力学、例えば、活性化時間および/または失活時間、好ましくは活性化時間および/または失活時間定数は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0213】
好ましい実施形態において、Kv9.2のアンタゴニストは、そのようなアンタゴニストに暴露した野生型または部分的機能喪失動物がKv9.2部分的または完全機能喪失突然変異体と少なくとも部分的に同一の表現型を少なくとも部分的な程度にまで示すようなものである。すなわち、好ましいアンタゴニストは、疼痛知覚の調節、またはコンダクタンスの減少、または動力学の変化もしくは減少、あるいはこれらの任意の組み合わせを引き起こすものである。好ましくは、関連表現型は、Kv9.2ノックアウト動物と同程度にまで発現される。
【0214】
好ましい実施形態において、Kv9.2アンタゴニストに暴露した野生型細胞または部分的機能喪失細胞のコンダクタンスは、Kv9.2欠損細胞のコンダクタンスの+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0215】
好ましい実施形態において、Kv9.2アンタゴニストに暴露した野生型細胞またはKv9.2部分的機能喪失細胞の動力学、すなわち、活性化時間および/または失活時間、好ましくは活性化時間および/または失活時間定数は、Kv9.2欠損細胞の動力学(または関連時間)の+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「Kv9.2の機能アッセイ(電気生理学)」を用いて測定する。
【0216】
Kv9.2ノックアウト動物から得た組織は、可能性ある薬剤(候補リガンドまたは化合物)が、Kv9.2に結合するかどうかを判定する結合アッセイで用いることができる。そのようなアッセイは、遺伝子操作されてKv9.2含有イオンチャネル産生が欠損しているトランスジェニック動物からの第1イオンチャネル調製物と、いずれかの同定されたKv9.2リガンドまたは化合物と結合することが知られる供給源からの第2イオンチャネル調製物とを取得することによって実施することができる。一般に、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物は、それらが取得された供給源を除けば、あらゆる点で類似しうる。例えば、トランスジェニック動物(上記のもの、および下記のものなど)から得た脳組織をアッセイに用いる場合、正常(野生型)動物から得た、比較しうる脳組織を、第2イオンチャネル調製物の供給源として用いる。それぞれのイオンチャネル調製物を、Kv9.2含有イオンチャネルに結合することが知られるリガンドとインキュベートし、その際、単独でのインキュベーション、および候補リガンドまたは化合物の存在下でのインキュベーションの両方を行う。候補リガンドまたは化合物は、好ましくは、いくつかの異なった濃度で試験しうる。
【0217】
既知リガンドによる結合が、試験化合物によって置き換わる程度を、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物の両方で測定する。トランスジェニック動物から得た組織は、アッセイに直接用いても、あるいはこの組織の加工を行って膜または膜タンパク質を単離してもよく、これらはそれ自体がアッセイに使用される。好ましいトランスジェニック動物はマウスである。リガンドは、結合アッセイと適合性のあるいかなる手段を用いて標識してよい。これらには、限定されることなく、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、または化学発光標識(ならびに、上にさらに詳細に記述した他の標識技術)が含まれるであろう。
【0218】
さらに、Kv9.2またはKv9.2含有イオンチャネルのアンタゴニストは、候補化合物などを、機能的なKv9.2を発現する野生型動物と、Kv9.2機能の発現の減少または消失に伴う任意の表現型の特徴を示すと同定された動物とに投与することによって同定することができる。
【0219】
トランスジェニック非ヒト動物を作製する詳細な方法を、以下に詳細に記述する。トランスジェニック哺乳動物を作製するために、動物の生殖細胞系にトランスジェニック遺伝子構築物を導入することができる。例えば、構築物の1または数コピーを、標準的なトランスジェニック技法によって、哺乳動物胚のゲノムに組み込むことができる。
【0220】
例示的な実施形態では、非ヒト動物の生殖細胞系にトランスジーンを導入することによって、トランスジェニック非ヒト動物を作製する。様々な発生ステージの標的胚細胞を、トランスジーンを導入するのに用いることができる。標的胚細胞の発生のステージに応じて、様々な方法が用いられる。いかなる動物についても、その動物の特定の系列を、全般的健康、胚収率の良好性、胚における前核可視度の良好性、および自己増殖性適応度の良好性によって選択する。加えて、ハプロタイプも重要な因子である。
【0221】
胚へのトランスジーンの導入は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクションなど、当技術分野で知られている任意の手段によって、実行することができる。例えば、Kv9.2トランスジーンは、哺乳動物受精卵の前核の中への構築物のマイクロインジェクションによって、哺乳動物に導入することができ、それによって、発生中の哺乳動物の細胞中における、1以上のコピーの構築物の維持が引き起こされる。受精卵にトランスジーン構築物を導入した後、卵を、様々な長さの時間にわたりin vitroでインキュベートするか、または代理宿主に再移植するか、あるいはそれら両方を行うことができる。成熟するまでのin vitroインキュベーションも実施しうる。一般的な方法の1つは、種に応じて約1〜7日間、胚をin vitroでインキュベートして、その後、代理宿主にそれらを再移植するものである。
【0222】
トランスジェニック手法によって操作された胚の子孫は、組織断片のサザンブロット解析によって、構築物が存在しているかどうか試験することができる。1以上のコピーのクローニングされた外因性構築物が、そのようなトランスジェニック胚のゲノム中に安定的に組み込まれている場合、追加された構築物をトランスジーンとして保持する恒久的なトランスジェニック哺乳動物系を確立することが可能である。
【0223】
構築物が子孫ゲノム中に取り込まれているかどうか、トランスジェニック技術によって改変された哺乳動物の同腹仔を、出産後にアッセイすることができる。このアッセイは、所望の組換えタンパク質産物をコードするDNA配列、またはそのセグメントに相当するプローブを、子孫からの染色体物質にハイブリダイズさせることによって実施できる。ゲノム中に少なくとも1コピーの構築物を含有することが判明した子孫哺乳動物を、成熟するまで育てる。
【0224】
本明細書の目的においては、接合子は、本質的には、完全な生物に発生することができる二倍体細胞の形成である。通常、接合子は、1以上の配偶子に由来する2つの半数体核の自然融合または人工的融合によって形成された1つの核を含有する卵から成るであろう。したがって、それらの配偶子核は、自然状態で適合性のあるもの、すなわち、分化、および機能性の生物への発生を行うことができる生きた接合子を生ずるものでなければならない。通常は、正倍数体接合子が好ましい。異数体接合子が得られた場合には、その染色体数は、いずれかの配偶子が由来した生物の正倍数体数に比べて、2以上の大きな相違を有するべきではない。
【0225】
同様の生物学的要件に加えて、物理的要件も、接合体の核に添加できる外因性遺伝物質、または接合体核の一部を形成する遺伝物質の量(例えば容積)を決定する。遺伝物質が除去されない場合には、添加することができる外因性遺伝物質の量は、物理的な破壊を起こさずに吸収されうる量に制限される。通常、挿入される外因性遺伝物質の容積は、約10ピコリットルを超えないであろう。添加の物理的影響は、接合子の生存を物理的に破壊するほど大きいものであってはならない。DNA配列の数および多様性の生物学的制限は、外因性遺伝物質を含めた、その結果得られる接合体の遺伝物質が、機能性の生物への接合体の分化および発生の開始および維持を生物学的に行えるものでなくてはならないので、特定の接合体、および外因性遺伝物質の機能によって異なるであろうし、それらは、当業者には容易に明らかであるだろう。
【0226】
接合子に添加されるトランスジーン構築物のコピー数は、添加される外因性遺伝物質の総量に依存するものであり、遺伝的形質転換の実現を可能にする量であろう。理論的には、必要なのは1コピーのみであるが、機能的なものが1コピーあることを保障するために、通常、多くのコピー、例えば、1,000〜20,000コピーのトランスジーン構築物が用いられる。外因性DNA配列の表現型発現を増強するために、挿入される各外因性DNA配列の複数の機能性コピーを有するものが有利であることが多いであろう。
【0227】
核遺伝物質への外因性遺伝物質の添加を可能にするいかなる技法も、それが細胞、核膜、または他の既存の細胞構造または遺伝子構造に対して破壊的でない限り、用いることができる。外因性遺伝物質は、マイクロインジェクションによって核遺伝物質に選択的に挿入する。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは、当技術分野で公知であり、かつ使用されている。
【0228】
再移植は、標準的な方法を用いて実施する。通常は、代理宿主を麻酔にかけ、胚を卵管に挿入する。特定の宿主に移植される胚の数は、種によって異なるが、通常は、その種が自然に生む子孫の数に匹敵するものであろう。
【0229】
代理宿主のトランスジェニック子孫のスクリーニングは、任意の適当な方法によって、トランスジーンの存在および/または発現に関して行うことができる。スクリーニングは、トランスジーンの少なくとも一部に相補的なプローブを用いたサザンブロット解析またはノーザンブロット解析によって行われることが多い。トランスジーンによってコードされているタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロット解析は、トランスジーン産物の存在に関するスクリーニングの代替または追加の方法として利用することができる。通常は、尾組織からDNAを調製して、トランスジーンに関するサザン解析またはPCRによって分析する。別法では、トランスジーンが最も高いレベルで発現されていると考えられる組織または細胞を、サザン解析またはPCRを用いて、トランスジーンの存在および発現に関して検査するが、いかなる組織または細胞型をこの分析に用いてもよい。
【0230】
トランスジーンの存在を評価する代替または追加の方法には、酵素アッセイおよび/または免疫学的アッセイなどの適当な生化学アッセイ、特定のマーカーおよび酵素活性の組織学的染色、フローサイトメトリー分析、ならびに同様のものが、制限なしに含まれる。血液の分析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するのに、そして、様々なタイプの血球および他の血液成分のレベルに対するトランスジーンの影響を評価するのに有用でありうる。
【0231】
トランスジェニック動物の子孫は、該トランスジェニック動物を好適なパートナーと交配することにより、あるいは該トランスジェニック動物から得られる卵子および/または精子のin vitro受精により得ることができる。パートナーと交配させる場合には、パートナーは、トランスジェニックおよび/またはノックアウトであってもよいしあるいはそうでなくてもよく、トランスジェニックである場合には、同じもしくは異なるトランスジーンまたはそれら両方を含んでいてよい。あるいは、パートナーは、親系統であってもよい。in vitro受精を用いる場合には、受精した胚を仮親宿主に移植するかもしくはin vitroでインキュベートするか、またはその両方を行う。いずれの方法を用いても、子孫は、上述した方法または他の適当な方法を用いてトランスジーンの存在について評価しうる。
【0232】
本明細書に記載の方法に従って作出されるトランスジェニック動物は、外因性の遺伝物質を含むことになる。上述したように、特定の実施形態において、外因性の遺伝物質は、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネルの産生をもたらすDNA配列である。さらに、そのような実施形態において、配列は、転写制御エレメント、例えばプロモーター、好ましくは特定の細胞型においてトランスジーン産物の発現を可能とするプロモーターを付加する。
【0233】
非ヒト動物にトランスジーンを導入するには、レトロウイルス感染を用いることができる。発生中の非ヒト胚は、胚盤胞期までin vitroで培養できる。この間に、卵割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich, R.(1976), PNAS 73: 1260〜1264)。透明帯を除去する酵素処理によって、卵割球の効率的な感染が達成される(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan(編), Cold Spring Harbor Laboratory Press社, Cold Spring Harbor, 1986年)。通常、トランスジーンを導入するのに使用されるウイルスベクター系は、トランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら(1985), PNAS 82: 6927〜6931;Van der Puttenら(1985), PNAS 82: 6148〜6152)。ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することによって、簡単かつ効率的にトランスフェクションを行うことができる(Van der Putten, 前掲;Stewartら(1987), EMBO J. 6: 383〜388)。別法では、さらに後のステージで感染を行うことができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を、卵割腔に注入することができる(Jahnerら(1982), Nature 298: 623〜628)。トランスジーンの取込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞の部分集団のみで起こるため、初代の大部分はトランスジーンのモザイクになるであろう。さらに、初代は、ゲノムにおける別々の位置で、トランスジーンの様々なレトロウイルスの挿入を含有しうるが、これらは通常、子孫では分離しているであろう。加えて、妊娠中の胚の子宮内レトロウイルス感染によって、トランスジーンを生殖細胞系に導入することも可能である(Jahnerら(1982)、前掲)。
【0234】
トランスジーンを導入するための、第3のタイプの標的細胞は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、in vitroで培養された未着床胚から得て、胚と融合させる(Evansら(1981), Nature 292: 154〜156;Bradley.ら(1984), Nature 309: 255-258;Gosslerら(1986), PNAS 83: 9065〜9069;およびRobertsonら(1986), Nature 322: 445〜448)。トランスジーンは、DNAトランスフェクションまたはレトロウイルス媒介性の形質導入によって、効率的にES細胞に導入することができる。その後は、そのような形質転換されたES細胞は、非ヒト動物から得られた胚盤胞と組み合わせることができる。ES細胞は、その後、胚でコロニーを形成し、その結果得られたキメラ動物の生殖細胞系に加わる。概説には、Jaenisch, R. (1988), Science 240: 1468〜1474を参照されたい。
【0235】
また、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル機能のモデルとしての、改変型Kv9.2遺伝子、好ましくは上述したような遺伝子を有することを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物を提供する。遺伝子の改変には、欠失もしくは他の機能欠損突然変異、ターゲティングもしくはランダム突然変異によるヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、別の種に由来する外来性遺伝子の導入、またはそれらの組み合わせが含まれる。トランスジェニック動物は、その改変についてホモ接合性であってもよいしまたはヘテロ接合性であってもよい。動物およびそれに由来する細胞は、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル機能をモジュレートする可能性のある生物学的に活性な因子のスクリーニングに有用である。スクリーニング方法は、特に、疼痛、疼痛に関連する疾患、およびKv9.2に関連する疾患全体に対する特異性および可能な治療法を確認するために有用である。
【0236】
動物は、正常組織および器官(脳、心臓、脾臓および肝臓など)におけるKv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネルの役割、ならびにそれらの機能に対する影響を研究するためのモデルとして有用である。
【0237】
別の態様は、機能的に破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するが、同時に異種Kv9.2タンパク質(すなわち別の種に由来するKv9.2)をコードするトランスジーンをそのゲノムに保持しかつ発現するトランスジェニック動物に関する。好ましくは、動物はマウスであり、異種Kv9.2はヒトKv9.2である。ヒトKv9.2で再構成された動物、またはそのような動物から誘導される細胞系は、in vivoおよびin vitroにおいてヒトKv9.2を阻害する薬剤を同定するために用いることができる。例えば、試験対象の薬剤の存在下および不在下にてヒトKv9.2を介してシグナル伝達を誘導する刺激を動物または細胞系に適用し、該動物または細胞系における応答を測定しうる。in vivoまたはin vitroでヒトKv9.2を阻害する薬剤は、該薬剤の不在下における応答と比較した場合の該薬剤の存在下における応答の低下に基づいて同定することができる。
【0238】
また、Kv9.2欠損トランスジェニック非ヒト動物(「Kv9.2サブユニットノックアウト」)を提供する。そのような動物は、好ましくは内因性Kv9.2サブユニットゲノム配列が破壊または欠失している結果として、Kv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル活性を発現しないまたは低く発現するものである。好ましくは、そのような動物はKv9.2サブユニットもしくはKv9.2含有イオンチャネル活性を発現しない。より好ましくは、動物は、配列番号3または配列番号5に示されるKv9.2含有イオンチャネルの活性を発現しない。Kv9.2イオンチャネルノックアウトは、以下にさらに詳述するように、当技術分野で公知の種々の手段により作製することができる。
【0239】
本開示は、宿主細胞においてKv9.2遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物にも関する。この核酸構築物は、a)非相同置換部分;b)非相同置換部分の上流に位置する第1の相同領域であって、第1のKv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域;およびc)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2のKv9.2遺伝子配列に対して実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2の相同領域(第2のKv9.2遺伝子配列は、天然の内因性Kv9.2遺伝子における第1のKv9.2遺伝子配列の下流に位置する)を含む。加えて、第1および第2相同領域は、これらの核酸分子が宿主細胞に導入されたとき、核酸構築物と、宿主細胞の内因性Kv9.2遺伝子との間で相同組換えが起こるのに十分な長さのものである。好ましい実施形態では、非相同置換部分は、好ましくはlacZを含む発現レポーターおよび好ましくは調節エレメントに機能的に連結したネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を含むポジティブ選択発現カセットを含むものである。
【0240】
好ましくは、第1および第2のKv9.2遺伝子配列は、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4、またはその相同体、変異体もしくは誘導体から誘導される。
【0241】
別の態様は、上述の核酸構築物が組み込まれた組換えベクターに関する。また別の態様は、核酸構築物が導入された宿主細胞であって、それにより該核酸構築物と宿主細胞の内因性Kv9.2遺伝子との間で相同組換えが起こり内因性Kv9.2遺伝子が機能的に破壊されている前記宿主細胞に関する。宿主細胞は、肝臓、脳、脾臓もしくは心臓、または分化多能性細胞(マウス胚性幹細胞など)に由来する、正常にKv9.2を発現する哺乳動物細胞でありうる。核酸構築物が導入されかつ内因性Kv9.2遺伝子と相同組換えした胚性幹細胞のさらなる発生によって、該胚性幹細胞の子孫であり、従ってそのゲノムにKv9.2遺伝子破壊を保持する細胞を有するトランスジェニック非ヒト動物を作出する。続いて、その生殖系列にKv9.2遺伝子破壊を保持する動物を選択し、交配して全ての体細胞および生殖細胞にKv9.2遺伝子破壊を有する動物を作出する。続いてそのようなマウスを交配してKv9.2遺伝子破壊についてのホモ接合性を得ることができる。
【0242】
抗体
本明細書の目的では、「抗体」という用語には、反対に指定されない限り、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリによって生成されるフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。そのようなフラグメントには、標的物質に対する結合活性を保持している、抗体全体のフラグメント、Fv、F(ab')、およびF(ab')2フラグメントが含まれ、同様に、抗体の抗原結合部位を含む一本鎖抗体(scFv)、融合タンパク質、および他の合成タンパク質が含まれる。抗体およびそれらのフラグメントはヒト化抗体、例えばEP-A-239400に記載のものでよい。さらに、完全にヒトの可変領域を有する抗体(またはそれらのフラグメント)、例えば米国特許第5,545,807号、および第6,075,181号に記載のものを用いてもよい。中和抗体、すなわち、対象のアミノ酸配列の生物学的活性を阻害するものが、診断用および治療用に特に好ましい。
【0243】
抗体は、免疫化、またはファージディスプレーライブラリの使用など、標準的な技法によって産生できる。
【0244】
ポリペプチドまたはペプチドは、既知の技法によって抗体を開発するのに用いることができる。そのような抗体は、Kv9.2タンパク質、または相同体、断片などに特異的に結合できるものでありうる。
【0245】
ポリクローナル抗体が望ましい場合、Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物で、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫しうる。免疫学的応答を増強するのに、宿主種に応じて様々なアジュバントを用いることができる。そのようなアジュバントには、フロイント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、スカシガイヘモシアニン、ジニトロフェノールが含まれるが、これらに限定されない。BCG(カルメット・ゲラン菌(Bacilli Calmette-Guerin))およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)は、対象のアミノ酸配列を精製して、全身性防御反応を刺激するために免疫不全の個体に投与する場合に利用できる潜在的に有用なヒトアジュバントである。
【0246】
免疫した動物から得られた血清は、公知の操作法に従って採取して、処理を行う。ポリペプチドから取得可能なエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他の抗原に対する抗体を含有する場合、免疫アフィニティクロマトグラフィーによってポリクローナル抗体を精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生して、処理する技法は、当技術分野で公知である。そのような抗体を作製できるように、本発明者はまた動物またはヒトにおいて免疫原として用いるための別のアミノ酸配列をハプテンとして結合した、Kv9.2アミノ酸配列またはその断片も提供する。
【0247】
当業者ならば、Kv9.2ポリペプチドから取得可能なエピトープに対して産生されるモノクローナル抗体を、容易に産生させることができる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製する一般的方法は周知である。不死性の抗体産生細胞系は、細胞融合によって、また、発癌性DNAを用いたBリンパ球の直接的な形質転換、またはエプスタイン-バーウイルスを用いたトランスフェクションなどの他の技法によっても生成することができる。周辺エピトープ(orbit epitope)に対して生成された一連のモノクローナル抗体を、様々な特性に関して、すなわちイソタイプおよびエピトープアフィニティに関してスクリーニングすることができる。
【0248】
モノクローナル抗体は、連続的な細胞培養系による抗体分子の産生を提供する任意の技法を用いて調製できる。これらには、元々KoehlerおよびMilstein(1975年、Nature 256: 495〜497)によって記載されたハイブリドーマ技法、トリオーマ技法、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技法(Kosborら(1983)、Immunol Today 4: 72; Coteら(1983)、Proc Natl Acad Sci 80: 2026〜2030)、およびEBVハイブリドーマ技法(Coleら、「Monoclonal Antibodies and 癌 Therapy」、77〜96頁、Alan R. Liss、Inc.社、1985年)が含まれるが、これらに限定されない。
【0249】
加えて、「キメラ抗体」の作製、すなわち、適切な抗原特異性および生物学的活性を備えた分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングするために、開発された技法を用いることもできる(Morrisonら、(1984) Proc Natl Acad Sci81: 6851〜6855; Neubergerら、(1984) Nature312: 604〜608; Takedaら(1985)、Nature 314: 452〜454)。別法として、一本鎖抗体の作製に関して記載された技法(米国特許第4,946,779号)を、対象の特異的一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。
【0250】
Kv9.2ポリペプチドまたはペプチドから取得可能なエピトープに対して作製された抗体は、モノクローナル抗体も、ポリクローナル抗体も両方とも、診断にとりわけ有用であり、中和抗体は受動的免疫療法に有用である。モノクローナル抗体は、詳細には、抗イディオタイプ抗体を作製するために用いることができる。抗イディオタイプ抗体は、防御が望まれている物質および/または薬剤の「内部イメージ」を保持する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を作製する技法は、当技術分野で公知である。これらの抗イディオタイプ抗体も、治療に有用でありうる。
【0251】
抗体は、Orlandiら(1989年, Proc Natl Acad Sci 86: 3833〜3837)、ならびにWinter GおよびMilstein C(1991年, Nature 349: 293〜299)に記載の通りリンパ球集合におけるin vivo産生を誘導することによって、あるいは、特異性の高い結合をする物質を得るための、組換え免疫グロブリンライブラリまたはパネルのスクリーニングによって産生させることもできる。
【0252】
ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的な結合部位を含有する抗体フラグメントを作製することもできる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン消化によって生成することができるF(ab')2フラグメントと、F(ab')2フラグメントのジスルフィド架橋を還元させることによって生成することができるFabフラグメントとが含まれるが、これらに限定されない。別法として、望ましい特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ簡単な同定を可能にするために、Fab発現ライブラリを構築することもできる(Huse WDら, (1989), Science256: 1275〜1281)。
【0253】
一本鎖抗体を作製するための技法(米国特許第4,946,778号)を、Kv9.2ポリペプチドに対する一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。また、ヒト化抗体を発現させるのに、トランスジェニックマウス、または他の哺乳動物を含めた他の生物を用いることもできる。
【0254】
上述した抗体を用いて、ポリペプチドを発現するクローンを単離もしくは同定し、またはアフィニティクロマトグラフィによってポリペプチドを精製することができる。
【0255】
また、Kv9.2サブユニットポリペプチドに対する抗体を用いて、上記のKv9.2関連疾患および症候群のいずれかを治療、軽減または診断することもできる。
【0256】
診断アッセイ
本発明者らは、診断における診断試薬としての使用、または遺伝子解析における使用に供する、Kv9.2サブユニットポリヌクレオチドおよびポリペプチド(その相同体、変異体、および誘導体も同様)の使用も開示する。そのようなアッセイには、Kv9.2サブユニット核酸(相同体、変異体、および誘導体を含める)に相補的な核酸、またはそれに対しハイブリダイズ可能な核酸が有用であり、Kv9.2ポリペプチドに対する抗体も有用である。
【0257】
機能不全に関連したKv9.2サブユニット遺伝子の突然変異型の検出は、Kv9.2サブユニットの過小発現、過剰発現、または発現変化から生じる疾患または疾患に対する感受性の診断に追加するか、あるいはそれを規定することのできる診断ツールを提供するであろう。Kv9.2サブユニット遺伝子(制御配列を含める)の突然変異を有する個体は、様々な技法によってDNAレベルで検出することができる。
【0258】
例えば、患者からDNAを単離して、Kv9.2のDNA多型パターンを決定することができる。同定されたパターンを、Kv9.2の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患もしくは症候群を患っていることが既知の対照患者と比較する。その後、Kv9.2関連疾患に付随した遺伝的多型パターンを示す患者を同定することができる。Kv9.2サブユニット遺伝子の遺伝子解析は、当技術分野で公知の任意の技法で行うことができる。例えば、Kv9.2対立遺伝子のDNA配列決定により、RFLPまたはSNP分析などによって個体をスクリーニングすることができる。Kv9.2の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患もしくは症候群に対する遺伝的素因を有する患者を、Kv9.2遺伝子配列またはその発現を制御する任意の配列のDNA多型の存在を検出することによって同定することができる。
【0259】
そのように同定された患者は、Kv9.2関連疾患もしくは症候の発症を予防するように処置するか、あるいは、もっと積極的にKv9.2関連疾患もしくは症候の初期に、疾患もしくは症候のそれ以降の発症または進展を予防するように処置することができる。
【0260】
さらに、Kv9.2関連疾患もしくは症候に付随する、患者の遺伝的多型パターンを同定するためのキットを開示する。このキットは、DNAサンプルを採集する手段および遺伝的多型パターンを判定する手段を含み、これらは、次に対照サンプルと比較して、Kv9.2関連疾患もしくは症候に対する、患者の感受性を判定する。また、Kv9.2ポリペプチドおよび/または、そのようなポリペプチドに対する抗体(またはそのフラグメント)を含む、Kv9.2関連疾患もしくは症候の診断キットも提供する。
【0261】
診断用の核酸は、血液、尿、唾液、組織生検サンプル、または剖検物質など、被験体の細胞から得ることができる。好ましい実施形態では、患者の指の穿刺から吸取紙に収集した血液により得た血球からDNAを採取する。さらに好ましい実施形態では、血液をAmpliCard.TM.(University of Sheffield, Department of Medicine and Pharmacology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, England S10 2JF)に収集する。
【0262】
DNAは、直接検出に用いても、あるいは分析の前にPCRまたは他の増幅技法を用いて、酵素によって増幅してもよい。目的の遺伝子の特定の多型DNA領域を標的としたオリゴヌクレオチドDNAプライマーは、標的配列のPCR反応増幅が実現されるように調製することができる。RNAまたはcDNAも、同様に鋳型として用いることができる。鋳型DNAから増幅されたDNA配列は、次に、制限酵素を用いて分析して、増幅された配列中にその遺伝的多型が存在するかどうか判定することができ、それによって、患者の遺伝的多型プロフィールを提供する。制限断片の長さは、ゲル分析によって同定することができる。別法として、あるいはこれと組み合わせて、SNP(一塩基多型)分析などの技法を利用することもできる。
【0263】
欠失および挿入は、正常な遺伝子型と比較した、増幅された産物の大きさの変化によって検出することができる。点突然変異は、増幅されたDNAを、標識されたKv9.2サブユニットヌクレオチド配列にハイブリダイズさせることによって同定することができる。完全一致した配列は、RNAse消化または融解温度の相違によって、ミスマッチしている二本鎖分子と区別することができる。DNA配列の相違は、変性剤の存在下または非存在下における、ゲル中でのDNA断片の電気泳動における移動度の変化によって、あるいは直接DNA配列決定によって検出することもできる。例えば、Myersら, Science(1985), 230: 1242を参照のこと。特定の位置における配列の変化は、RNAseプロテクションおよびS1プロテクションなどのヌクレアーゼ保護アッセイによって、あるいは化学開裂法によって明らかにすることもできる。Cottonら, Proc Natl Acad Sci USA(1985), 85: 4397〜4401を参照のこと。別の実施形態では、例えば遺伝子変異の効率的なスクリーニングを行うために、Kv9.2サブユニットヌクレオチド配列またはその断片を含むオリゴヌクレオチドプローブのアレイを構築することができる。アレイ技法は周知であり、一般的な適用可能性を有し、遺伝子発現、遺伝子連鎖、および遺伝的変異性を含めた、分子遺伝学における様々な疑問に取り組むのに用いることができる(例えば、M.Cheeら, Science, Vol 274, pp610〜613 (1996)を参照)。
【0264】
一本鎖立体構造多型(SSCP法)は、突然変異体の核酸と野生型の核酸との間の電気泳動移動度の相違を検出するのに用いることができる(Oritaら(1989), Proc. Natl. Acad. Sci. USA : 86:2766;Cotton (1993), Mutat. Res 285:125〜144;およびHayashi (1992), Genet. Anal. Tech. Appl. 9:73〜79も参照)。サンプルおよび対照核酸の一本鎖DNA断片は、変性させ、そして復元させることができる。一本鎖の核酸の二次構造は、配列に応じて異なり、その結果生じる電気泳動移動度の変化によって、単一塩基の変化でさえ検出が可能となる。DNA断片は、標識しても、または標識されたプローブで検出してもよい。アッセイの感度は、(DNAよりむしろ)RNAを用いることによって増強することができ、RNAの二次構造は、配列の変化に、より敏感である。好ましい実施形態では、そのような方法はヘテロ二本鎖分析を用いて、電気泳動移動度の変化に基づいて二本鎖のヘテロ二重鎖分子を分離する(Keenら(1991), Trends Genet 7: 5)。
【0265】
診断アッセイは、記載の方法によるKv9.2サブユニット遺伝子の突然変異の検出により、疼痛もしくは疼痛関連疾患などの疾患に対する感受性(罹りやすさ)を診断または判定する方法を提供する。
【0266】
Kv9.2サブユニットポリペプチドおよび核酸の存在は、サンプル中で検出することができる。したがって、「Kv9.2サブユニット関連疾患および症候群」のもとで先に記載した感染症および疾患は、被験体に由来するサンプルから、Kv9.2サブユニットポリペプチドまたはKv9.2サブユニットmRNAのレベルの異常な低下または増大を判定することを含む方法によって診断することができる。サンプルは、Kv9.2サブユニット発現の増大、低下、または発現のレベルもしくはパターンの空間的もしくは時間的変化を含めた他の異常に関連した疾患もしくは症候を患っているか、患っている疑いのある生物からの細胞または組織サンプルを含むものでよい。疾患もしくは症候の診断の方法として、通常、そのような疾患もしくは症候を患っているか、または患っている疑いのある生物におけるKv9.2の発現のレベルまたはパターンを、正常な生物における発現のレベルまたはパターンと比較することができる。
【0267】
したがって全般的に、本発明者らは、サンプルにおけるKv9.2サブユニット核酸を含む核酸の存在を検出する方法であって、前記核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとサンプルとを接触させるステップ、および該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を開示する。例えば、この核酸プローブは、Kv9.2サブユニットサブユニット核酸またはその一部に特異的に結合するものでよく、これら2つの間の結合が検出され、複合体自体の存在も検出されうる。さらに、本開示は、Kv9.2サブユニットポリペプチドの存在を検出する方法であって、このポリペプチドに結合可能な抗体と細胞サンプルとを接触させるステップ、および該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を包含する。これは、抗体とポリペプチドとの間で形成された複合体の存在をモニターするか、あるいはポリペプチドと抗体との間の結合をモニターすることによって実現するのが好都合であろう。2つの物質の間の結合を検出する方法は、当技術分野で公知であり、これには、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)、および表面プラズモン共鳴法などが含まれる。
【0268】
発現の減少または増大は、例えば、PCR、RT-PCR、RNAseプロテクション、ノーザンブロット、および他のハイブリダイゼーション法など、ポリヌクレオチドを定量化するための、当技術分野で周知の任意の方法を用いてRNAレベルで測定することができる。宿主から得られたサンプルにおけるKv9.2サブユニットなどのタンパク質レベルを測定するのに用いることができるアッセイ技法は、当業者には周知である。そのようなアッセイ法には、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウエスタンブロット分析、およびELISAアッセイが含まれる。
【0269】
本開示はさらに、疾患もしくは症候、または疾患もしくは症候(感染症を含む)に対する感受性を診断するキットであって、特にKv9.2感染疾患もしくは症候に関するものである。診断キットは、Kv9.2サブユニットポリヌクレオチドもしくはその断片;相補的なヌクレオチド配列;Kv9.2サブユニットポリペプチドもしくはその断片、またはKv9.2サブユニットポリペプチドに対する抗体を含む。
【0270】
染色体アッセイ
本明細書に記載するヌクレオチド配列はまた、染色体同定のために価値がある。配列は、個々のヒト染色体上の特定の位置に特異的にターゲティングし、ハイブリダイズしうる。上述したように、ヒトKv9.2サブユニットは、ヒト(Homo sapiens)染色体8q22にマッピングすることが見出されている。
【0271】
染色体への関連配列のマッピングは、これらの配列を疾患もしくは症候に関連する遺伝子と相関させる際の最初の重要なステップである。配列が正確な染色体位置にマッピングされた後は、染色体上の配列の物理的位置を遺伝子マップデータと相関させうる。そのようなデータは、例えばV. McKusick, Mendelian heritance in Man(Johns Hopkins University Welch Medical Libraryによりオンラインで入手可能)に見出される。続いて、同じ染色体領域にマッピングされた遺伝子と疾患もしくは症候との関係は、連鎖解析(物理学的に隣接する遺伝子の同時遺伝)によって同定される。
【0272】
罹患個体と非罹患個体の間のcDNAまたはゲノム配列の相違もまた決定しうる。罹患個体の一部または全体に突然変異が観察され、正常個体には観察されない場合には、その突然変異がその疾患の原因因子である可能性がある。
【0273】
予防および治療方法
本明細書は、Kv9.2サブユニット活性の過剰に関連した異常な状態、およびその量が不十分であることに関連した異常な状態の両方を治療する方法を提供する。
【0274】
Kv9.2サブユニット活性が過剰である場合には、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、本明細書で上述した阻害剤化合物(ブロッカーまたはモジュレーター)(アンタゴニスト)を薬学的に許容される担体と共に有効な量で被験体に投与し、Kv9.2サブユニットに対するリガンドの結合をブロックすることによって、あるいは第2のシグナルを阻害することによって活性化を抑制し、それによって異常な状態を軽減することを含む。
【0275】
別の手法では、内因性Kv9.2サブユニットと競合してさらにリガンドと結合できるKv9.2サブユニットポリペプチドの可溶型を投与してもよい。そのような競合物質の典型的な実施形態にはKv9.2ポリペプチドの断片が含まれる。
【0276】
なお別の手法では、発現をブロックする技法を用いて、内因性Kv9.2をコードする遺伝子の発現を阻害することができる。公知のそのような技法は、内部に生成されるか、あるいは別に投与されるアンチセンス配列を使用することを含む。例えば、O'Connor, J Neurochem (1991), 56: 560 in Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression、CRC Press、Boca Raton、Fla. (1988)を参照されたい。別法として、遺伝子と三重ヘリックスを形成するオリゴヌクレオチドを供給することもできる。例えば、Leeら, Nucleic Acids Res (1979), 6: 3073;Conneyら, Science (1988), 241: 456;Dervanら, Science (1991), 251: 1360を参照されたい。これらのオリゴマーは、それ自体で投与することもでき、あるいは適切なオリゴマーをin vivoで発現することもできる。
【0277】
Kv9.2サブユニットおよびその活性の過小発現に関した異常な状態の治療にも、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、Kv9.2サブユニットを活性化する化合物、すなわち上述のオープナーまたはモジュレーターまたはアゴニストを薬学的に許容される担体と共に、治療上有効な量で被験体に投与して、それによって異常な状態を軽減することを含む。別法では、被験体の関連する細胞によるKv9.2の内因性産生に作用するように、遺伝子療法を利用することができる。例えば、Kv9.2ポリヌクレオチドは、上記で考察した通り、複製欠損レトロウイルスベクターで発現するように構築することができる。レトロウイルス発現構築物は、次に単離して、Kv9.2ポリペプチドをコードするRNAを含有するレトロウイルスプラスミドベクターで形質導入されたパッケージング細胞に導入することができ、それによって、目的の遺伝子を含有する感染性ウイルス粒子を、パッケージング細胞が産生する。in vivoで細胞を操作して、in vivoでポリペプチドの発現を行うために、これらの産生細胞を被験体に投与することができる。遺伝子療法の概要に関しては、Human Molecular Genetics, T StrachanおよびA P Read、BIOS Scientific Publishers Ltd (1996)の第20章「Gene Therapy and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches(遺伝子療法と他の分子遺伝学に基づく治療手法)」(およびその中で引用されている参考文献)を参照のこと。
【0278】
製剤および投与
可溶型のKv9.2ポリペプチド、オープナーおよびモジュレーター、アゴニストペプチドおよびアンタゴニストペプチドなどのペプチド、または小分子は、適当な薬学的担体と組み合わせて処方することができる。そのような製剤は、治療上有効な量のポリペプチドまたは化合物と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。そのような担体には、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。製剤は、投与方法に適合しているべきであり、十分に当技術分野の技術の範囲内にある。本発明者らさらに、前述した組成物の1つまたは複数の成分で充填した1つまたは複数の容器を含む医薬品パックおよびキットを開示する。
【0279】
Kv9.2ポリペプチドおよび他の化合物は、単独で用いることも、または治療用化合物などの他の化合物と併用することもできる。
【0280】
これらの医薬組成物を全身投与するのに好ましい形態には、注射が含まれ、通常は、静脈内注射による。皮下、筋肉内、または腹腔内など、他の注射経路も用いることができる。全身投与の代替の方法には、胆汁酸塩もしくはフシジン酸、または他の界面活性剤などの浸透剤(penetrant)を用いた経粘膜投与および経皮投与が含まれる。加えて、腸溶製剤またはカプセル剤に適切に製剤した場合には、経口投与も可能であろう。これらの化合物の投与は、軟膏、ペースト、ゲル、および同様のものの形態で局所的および/または局在的に行うこともできる。
【0281】
必要な用量範囲は、ペプチドの選択、投与経路、製剤の性質、被験体の状態の性質、および担当医の判断による。但し、適当な用量は被験体の体重あたり0.1〜100μg/kgの範囲にある。しかし、利用可能な化合物が多様であること、および様々な投与経路の効率が相違していることを考えると、必要な用量は広い範囲にあることが予測される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与より高用量を必要とすることが予測されよう。これらの用量レベルの変動は、当技術分野で十分に理解されているように、最適化のための実証的な標準的ルーチンを用いて調整することができる。
【0282】
上述のように「遺伝子療法」としばしば呼ばれる様式の治療では、治療に使用されるポリペプチドを、被験体の体内で内在的に生成させることもできる。したがって、例えば、被験体から得られた細胞を、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドを用いてポリペプチドをコードするように、ex vivoで、例えばレトロウイルスプラスミドベクターの使用によって操作しうる。それらの細胞を次に被験体の体内に導入する。
【0283】
医薬組成物
本開示はさらに、Kv9.2ポリペプチド、そのポリヌクレオチド、ペプチド、ベクターまたは抗体と、任意に、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤(これらの組合せを含める)とを、治療上有効な量で投与することを含む医薬組成物も提供する。
【0284】
この医薬組成物は、ヒト医学および獣医学でヒトに使用するものでも、動物に使用するものでもよく、通常、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤のうちの任意の1つまたは複数を含むであろう。治療での使用に許容される担体または希釈剤は、製薬技術分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図されている投与経路と標準的な薬学の慣行とを考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として(あるいはそれに加えて)、任意の適当な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。
【0285】
保存剤、安定化剤、色素、およびさらに香料を、この医薬組成物中に提供することができる。保存剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。酸化防止剤および懸濁剤も使用できる。
【0286】
様々な送達系に応じて、様々な組成物/製剤の要件がありうる。例として、本明細書に記載の医薬組成物は、ミニポンプを用いて送達するように処方することも、あるいは粘膜経路によって、例えば、吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能な溶液として、あるいは組成物が注射可能な形態に処方されて非経口的に、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下経路によって送達されるように処方することもできる。別法として、製剤は、両方の経路で送達されるように設計することもできる。
【0287】
胃腸粘膜を通して薬剤を粘膜送達する場合、その薬剤は、一時的に胃腸管を通る間、安定した状態を維持できる必要があり、例えば、それは、タンパク分解性の分解に耐性を有し、酸性pHで安定であり、かつ胆汁の界面活性剤効果に耐性を有するべきである。
【0288】
必要に応じて、医薬組成物は、吸入によって、坐剤もしくは腟坐剤の形態で、局所的にローション、溶液、クリーム、軟膏、もしくは散布粉末の形態で、皮膚用パッチ剤の使用によって、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤の形態で経口的に、または単独で、もしくは賦形剤との混合物でカプセル剤または卵形剤(ovlue)の中に入れて、または、香料または着色剤を含有するエリキシール、溶液、もしくは懸濁液の形態で投与することができ、あるいは、非経口的に、例えば、静脈内に、筋肉内に、もしくは皮下にそれらを注入することもできる。非経口投与用には、組成物を無菌水溶液の形態で用いるのが最もよいであろう。この場合、無菌水溶液は、他の物質、例えば血液と等張な溶液を作製するのに十分な塩および単糖を含有することができる。口腔投与用または舌下投与用には、従来の方法で処方できる錠剤またはトローチの形態で、組成物を投与することができる。
【0289】
ワクチン
別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、前記動物をKv9.2関連疾患もしくは症候から防御する抗体および/またはT細胞免疫応答を生じるのに十分なKv9.2サブユニットポリペプチドまたはその断片を、該哺乳動物に接種することを含む前記方法に関する。
【0290】
また別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、in vivoでKv9.2サブユニットポリヌクレオチドの発現を指令するベクターを介してKv9.2サブユニットポリペプチドを送達し、該動物をそのような疾病もしくは症候群から防御する抗体を産生するための免疫学的応答を誘導することを含む方法に関する。
【0291】
さらなる実施形態は、免疫学的/ワクチン製剤(組成物)であって、哺乳動物宿主に導入した場合に、該哺乳動物においてKv9.2サブユニットポリペプチドに対する免疫学的応答を誘導するものであり、Kv9.2サブユニットポリペプチドまたはKv9.2サブユニット遺伝子を含む免疫学的/ワクチン製剤(組成物)に関する。ワクチン製剤はさらに好適な担体を含んでもよい。
【0292】
Kv9.2サブユニットポリペプチドは胃において分解されうるため、非経口投与(例えば皮下、筋肉内、静脈内、皮内などの注射)することが好ましい。非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、バッファー、静菌剤および製剤をレシピエントの血液と等張性にする溶質を含みうる水性および非水性滅菌注射溶剤、ならびに懸濁化剤または増粘剤を含みうる水性および非水性滅菌懸濁剤が挙げられる。製剤は、単位用量容器または複数用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れ、また使用直前に滅菌液体担体の添加のみが必要な凍結乾燥状態で保存することができる。ワクチン製剤はまた、製剤の免疫原性を高めるアジュバント系、例えば水中油系および当技術分野で公知の他の系を含んでもよい。投与量は、ワクチンの比活性に応じて異なり、これは通常の実験により容易に決定することができる。
【0293】
ワクチンは、1以上のKv9.2ポリペプチドまたはペプチドから調製することができる。
【0294】
免疫原性ポリペプチドまたはペプチド(1もしくは複数)を有効成分(1もしくは複数)として含むワクチンの調製は当業者に公知である。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶剤または懸濁剤として注射可能なように調製することができ、また注射前に液体で溶液または懸濁液とするのに好適な固形形態を調製することも可能である。調製物はまた、乳化してもよいし、またはリポソームに封入したタンパク質であってもよい。免疫原性の有効成分は、薬学的に許容されかつ有効成分と混和可能な賦形剤と混合してもよい。好適な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせがある。
【0295】
さらに、所望であれば、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝化剤、および/またはワクチンの有効性を高めるアジュバントなどの少量の補助物質を含んでもよい。有効なアジュバントの例としては、限定されるものではないが、2%スクアレン/Tween80エマルジョン中の、水酸化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノル-ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(CGP11637、nor-MDPと称する)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(CGP19835A、MTP-PEと称する)、および細菌から抽出された3つの成分、モノホルホリルリピドA、ジミコール酸トレハロース(trehalose dimycolate)および細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を含むRIBIが挙げられる。
【0296】
アジュバントのさらなる例および他の薬剤としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ベリリウム、シリカ、カオリン、炭素、油中水乳液、水中油乳液、ムラミルジペプチド、細菌エンドトキシン、リピドX、コリネバクテリウム・パルバム(プロピオノバクテリウム・アクネス)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ポリリボヌクレオチド、アルギン酸ナトリウム、ラノリン、リゾレシチン、ビタミンA、サポニン、リポソーム、レバミゾール、DEAE-デキストラン、ブロックコポリマーまたは他の合成アジュバントが挙げられる。そのようなアジュバントは、種々の供与源から市販されており、例えばMerck Adjuvant 65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.)またはフロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Michigan)がある。
【0297】
典型的には、Amphigen(水中油型)、Alhydrogel(水酸化アルミニウム)、AmphigenとAlhydrogelの混合物などのアジュバントを用いる。水酸化アルミニウムのみがヒトへの適用に承認されている。
【0298】
免疫原とアジュバントとの比率は、両方が有効な量で存在する限り広範に変動しうる。例えば、水酸化アルミニウムは、ワクチン混合物の約0.5%(Al2O3基準)の量で存在しうる。簡便には、ワクチンは最終濃度が0.2〜200μg/ml、好ましくは5〜50μg/ml、最も好ましくは15μg/mlの範囲で免疫原を含有するように製剤化する。
【0299】
製剤化後、ワクチンを滅菌容器に入れ、それを続いて密封し、低温、例えば4℃で保存するか、または凍結乾燥しうる。凍結乾燥によって、安定化形態で長期保存が可能になる。
【0300】
ワクチンは、慣用的には、注射による非経口投与、例えば皮下または筋肉内投与する。他の投与経路に好適な別の製剤としては、座剤、および場合によっては経口製剤が挙げられる。座剤については、慣用の結合剤および担体としては、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが挙げられ、そのような座剤は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。経口製剤は、通常用いられる賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の剤形をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合には、凍結乾燥材料を投与前に例えば懸濁液に再構成しうる。再構成は、好ましくはバッファー中で行う。
【0301】
患者に経口投与するためのカプセル剤、錠剤および丸剤は、例えばEudragit “S”、Eudragit “L”、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶性コーティングと共に提供しうる。
【0302】
ポリペプチドは、中性または塩形態でワクチンに製剤化しうる。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機塩と共に形成されるもの、酢酸、シュウ酸、酒石酸およびマレイン酸などの有機塩と共に形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウムまたは水酸化第二鉄など、ならびに有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジンおよびプロカインから誘導されるものであってもよい。
【0303】
投与
個々の被験体に最も適した実際の用量は、通常、医師が決定するであろう。そして、それは特定の患者の年齢、体重、および反応によって異なるであろう。以下の用量は、平均的な場合の例である。当然ながら、個々の場合には、さらに高い用量範囲、またはさらに低い用量範囲が有益となる場合もありうる。
【0304】
医薬およびワクチン組成物は、注射によって直接投与することができる。この組成物は、非経口投与用、粘膜投与用、筋肉内投与用、静脈内投与用、皮下投与用、眼内投与用、あるいは経皮投与用に処方することができる。通常、各タンパク質を、体重1kgあたり0.01〜30mgの用量で投与することができ、好ましくは0.1〜10mg/kg、より好ましくは体重1kgあたり0.1〜1mgで投与する。
【0305】
「投与される」という用語は、ウイルス性または非ウイルス性の技法による送達を含む。ウイルス性の送達機構には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルス性の送達機構には、脂質媒介性のトランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性表面両親媒性試薬(CFA)、およびそれらの組合せが含まれる。そのような送達機構のための経路には、粘膜、経鼻、経口、非経口、胃腸、局所、または舌下経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0306】
「投与される」という用語には、粘膜経路による送達、例えば吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能溶液としての送達、例えば静脈内、筋肉内もしくは皮下経路の注射可能な形態による送達を行う非経口経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0307】
「同時投与される」という用語は、例えばKv9.2ポリペプチド、およびアジュバントなどの追加の物質それぞれを投与する部位および時間が、必要な免疫系のモジュレーションを実現するようなものであることを意味する。したがって、ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ時間に、そして同じ部位に投与することもできるが、ポリペプチドを、アジュバントとは異なった時間に、そして、異なった部位に投与する方が有利であることもある。ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ送達媒体で送達することさえでき、また、ポリペプチドおよび抗原を、結合させて、かつ/または分離させて、かつ/または遺伝学的に結合させて、かつ/または遺伝的に分離させることができる。
【0308】
Kv9.2ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ペプチド、ヌクレオチド、抗体、および任意にアジュバントを、宿主被験体に別々に投与することも、あるいは単一用量として、もしくは複数用量で同時投与することもできる。
【0309】
本明細書に記載のワクチン組成物および医薬組成物は、注射(非経口、皮下、および筋肉内注射を含む)、鼻腔内、粘膜、経口、腟内、尿道、または眼投与など、多くの異なる経路によって投与することができる。
【0310】
本明細書に記載のワクチンおよび医薬組成物は、従来の方法によって非経口的に、例えば、皮下注射または筋肉内注射によって投与することができる。他の方法の投与に適した別の製剤には、坐剤、および、場合によって、経口製剤が含まれる。坐剤は、伝統的な結合剤および担体、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含むものでよく、そのような坐剤は、0.5%〜10%の範囲、場合によっては1%〜2%の範囲にある有効成分を含有する混合物から形成することができる。経口製剤は、通常、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、および同様のものなどの通常使用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の形態を取り、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含有する。ワクチン組成物が凍結乾燥である場合には、凍結乾燥物質は、投与前に、例えば、懸濁液として再構成することができる。再構成は、バッファー中で行うのが好ましい。
【0311】
さらなる態様
本発明のさらなる態様および実施形態を、以下の番号の項目に記載した。本発明はこれらの態様を包含すると理解されるべきである。
【0312】
第1項目:配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むKv9.2ポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体。
【0313】
第2項目:第1項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0314】
第3項目:配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示される核酸配列、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を含む、第2項目に記載の核酸。
【0315】
第4項目:第1項目に記載のポリペプチドの断片を含むポリペプチド。
【0316】
第5項目:配列番号3と配列番号5との間で相同性を有する1もしくはそれ以上の領域を含む、または配列番号3と配列番号5との間で異種である1もしくはそれ以上の領域を含む、第3項目に記載のポリペプチド。
【0317】
第6項目:第4または5項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0318】
第7項目:第2、3または6項目に記載の核酸を含むベクター。
【0319】
第8項目:第2、3もしくは6項目に記載の核酸、または第7項目に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0320】
第9項目:第2、3もしくは6項目に記載の核酸、または第7項目に記載のベクターを含むトランスジェニック非ヒト動物。
【0321】
第10項目:マウスである、第9項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0322】
第11項目:Kv9.2と特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第1、4または5項目に記載のポリペプチドの使用。
【0323】
第12項目:Kv9.2と特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第9または10項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【0324】
第13項目:Kv9.2のアンタゴニストを同定する方法であって、Kv9.2を発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、および該細胞におけるサイクリックAMP(cAMP)のレベルが上記接触の結果低下したか否かを判定するステップを含む方法。
【0325】
第14項目:細胞におけるサイクリックAMPの内因性レベルを低下可能な化合物の同定方法であって、Kv9.2サブユニットを含有するチャネルを発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、および上記接触の結果、該チャネルの動力学もしくはコンダクタンスが変化したか否かを判定するステップを含む方法。
【0326】
第15項目:Kv9.2ポリペプチドと結合可能な化合物を同定する方法であって、Kv9.2ポリペプチドと候補化合物とを接触させるステップ、および該候補化合物がKv9.2ポリペプチドと結合するか否かを判定するステップを含む方法。
【0327】
第16項目:第11〜15項目のいずれかに記載の方法によって同定された化合物。
【0328】
第17項目:第1、4または5項目に記載のポリペプチドに特異的に結合可能な化合物。
【0329】
第18項目:抗体の作製方法における第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、または第2、3もしくは6項目に記載の核酸の使用。
【0330】
第19項目:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、または第2、3もしくは6項目に記載のヌクレオチドもしくはその一部によりコードされるポリペプチドに特異的に結合可能な抗体。
【0331】
第20項目:以下のいずれか1以上と薬学的に許容される担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。
【0332】
第21項目:以下のいずれか1以上を含むワクチン組成物:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。.
第22項目:以下のいずれか1以上を含む、疾患または疾患の罹りやすさのための診断キット:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体。
【0333】
第23項目:Kv9.2の活性増大に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にKv9.2のブロッカーまたはモジュレーターを投与するステップを含む方法。
【0334】
第24項目:Kv9.2の活性低減に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にKv9.2のオープナーまたはモジュレーターを投与するステップを含む方法。
【0335】
第25項目:Kv9.2が配列番号3もしくは配列番号5に示される配列を有するポリペプチドを含む、第23または24項目に記載の方法。
【0336】
第26項目:患者における疾患の治療および/または予防方法であって、該患者に以下のいずれか1以上を投与するステップを含む方法:第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、第19項目に記載の抗体、第20項目に記載の医薬組成物、および第20項目に記載のワクチン。
【0337】
第27項目:疾患の治療または予防方法に使用するための、第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および/または第19項目に記載の抗体を含む薬剤。
【0338】
第28項目:疾患の治療または予防のための医薬組成物の製造のための、第1、4もしくは5項目に記載のポリペプチドもしくはその一部、第2、3もしくは6項目に記載の核酸もしくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16もしくは17項目に記載の化合物、および第19項目に記載の抗体の使用。
【0339】
第29項目:改変型Kv9.2遺伝子を含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物。
【0340】
第30項目:改変が、Kv9.2の欠失、機能欠損を生じるKv9.2の突然変異、Kv9.2へのターゲティングもしくはランダム突然変異を含むヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、Kv9.2への別の種由来の外因性遺伝子の導入、および上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される、第29項目に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【0341】
第31項目:機能的に破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物であって、そのゲノムに異種Kv9.2タンパク質をコードするトランスジーンを含みかつそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物。
【0342】
第32項目:宿主細胞においてKv9.2遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物であって、(a)非相同置換部分、(b)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1Kv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域、ならびに(c)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2Kv9.2遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2相同領域を含み、第2Kv9.2遺伝子配列は天然の内因性Kv9.2遺伝子において第1Kv9.2遺伝子配列の下流に位置する前記核酸構築物。
【0343】
第33項目:Kv9.2ポリペプチドの製造方法であって、第8項目に記載の宿主細胞を、Kv9.2ポリペプチドをコードする核酸が発現される条件下にて培養するステップを含む方法。
【0344】
第34項目:サンプルにおける第2、3または6項目に記載の核酸の存在を検出する方法であって、該サンプルと該核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとを接触させるステップ、および該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0345】
第35項目:サンプルにおける第1、4または5項目に記載のポリペプチドの存在を検出する方法であって、該サンプルと第19項目に記載の抗体とを接触させるステップ、および該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0346】
第36項目:Kv9.2発現の増大、低減または異常により引き起こされるまたはそれに関連する疾患または症候群を診断する方法であって、(a)そのような疾患に罹患したまたは罹患した疑いのある動物におけるKv9.2の発現レベルまたは発現パターンを検出するステップ、および(b)発現レベルまたは発現パターンを正常動物のものと比較するステップを含む方法。
【実施例】
【0347】
実施例1 トランスジェニックKv9.2ノックアウトマウス:Kv9.2遺伝子ターゲッティングベクターの構築
Kv9.2遺伝子を、ゲノムデータベースの相同性サーチを用いて生物情報科学手法によって同定した。226kbゲノムコンティグを種々のデータベースから構築した。このコンティグは、ターゲティングベクターにクローニングするための相同性アームの設計を可能にするのに十分なフランキング配列情報を提供した。
【0348】
マウスKv9.2遺伝子は、1つのコーディングエキソンを有する。ターゲッティング方法は、コーディングエキソンの大部分を除去するように設計する。除去する領域に隣接する1.7kbの5'相同性アームと、4.0kbの3'相同性アームとをPCRにより増幅して、断片をターゲッティングベクターにクローニングする。アームを増幅するのに使用した各オリゴヌクレオチドプライマーの5'末端は、ベクターポリリンカーのクローニング部位と適合性を有し、かつ、アーム自体には存在しない切断頻度の低い制限酵素に対する異なる認識部位を含有するように合成する。Kv9.2の場合には、下記のプライマー表に記載する通りプライマーを設計し、これらは、5'アームクローニング部位としてAgeI/NotIを、3'アームクローニング部位としてAscI/FseIを有する(用いたターゲティングベクターの構造を関連する制限部位も含めて図1に示す)。
【0349】
アームプライマー対(5'armF/5'armR)および(3'armF/3'armR)に加えて、Kv9.2遺伝子座に特異的なプライマーをさらに、以下の目的で設計する。5'および3'のプローブプライマー対(5'prF/5'prR、および3'prF/3'prR)は、各アームの外側にあって先に延びる非反復性のゲノムDNAの150〜300bpの2つの短い断片を増幅するためであり、また、単離された推定上の標的クローンにおける、標的遺伝子座のサザン解析を可能にするためでもある。マウス遺伝子型決定プライマー対(hetFおよびhetR)は、ベクター特異的プライマー(この場合、Asc403)による多重PCRに用いると、野生型、ヘテロ接合体、およびホモ接合体マウス相互の識別を可能にする。そして、最後に、標的スクリーニングプライマー(5'scr)は、5'アーム領域の末端の下流にアニールし、ベクター(TK5IBLMNL)の5'末端に特異的なプライマー(この場合DR1)と対にして用いた場合、標的事象に特有の2.0kbアンプリマーを生成する。このアンプリマーは、所望のゲノム変化が起こった細胞に由来する鋳型DNAからのみ得ることができ、無作為に組み込まれたベクターコピーを含有するバックグランドクローンからの、正しくターゲッティングされた細胞の同定を可能にする。ターゲッティングストラテジーで使用されたこれらのプライマーの位置および、Kv9.2遺伝子座のゲノム構造を配列番号19に示す。
【0350】
相同性アームの位置は、Kv9.2遺伝子を機能的に破壊するように選択する。調製されるターゲッティングベクターでは、発現促進されるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子がKv9.2遺伝子と同じ方向に配置されており、このneo遺伝子によって構成された選択カセットの上流にある内因性遺伝子発現レポーター(フレーム非依存性のlacZ遺伝子)によって構成された非相同性配列で、欠失されるべきKv9.2領域が置換除去される。
【0351】
5'および3'の相同性アームがターゲッティングベクターTK5IBLMNL(図5を参照)にクローニングされると、標準的な分子生物学技法を用いて、大きい高純度DNA調製物が調製される。20μgの新たに調製されたエンドトキシン非含有DNAは、別の低頻度切断制限酵素であるPmeIにより消化される。このPmeIは、アンピシリン耐性遺伝子と、細菌の複製起点との間のベクター骨格特有の部位に存在する。次に、線状化されたDNAを沈殿させて、100μlのリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁し、エレクトロポレーションの準備ができる。
【0352】
エレクトロポレーションの後、24時間置き、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養する。クローンを96ウェルプレート中に採取して、複製および増殖させ、その後、内因性Kv9.2遺伝子とターゲッティング構築物との間での相同組換えが起こっているクローンを同定するために、PCR(上述したプライマー5'prFおよびDR1を用いる)によってスクリーニングする。陽性クローンは、1%〜5%の割合で同定できる。すべて標準的操作法を用いて、これらのクローンを増殖させてレプリカを冷凍し、そしてターゲッティング事象を確認するための、上述の通りに調製された5'および3'の外部プローブを用いたサザンブロット用に十分に高品質なDNAを調製する(Russら, 2000年, Nature 2000 Mar 2; 404(6773): 95〜99)。診断制限酵素によって消化されたDNAのサザンブロットを、外部プローブでハイブリダイズさせたときに、突然変異体バンドおよび変化していない野生型バンドの存在によって、相同的にターゲッティングされたES細胞クローンが確認される。例えば、AflIIで消化した野生型ゲノムDNAは、5'外部プローブとハイブリダイズさせた場合に6.2kbおよび3'外部プローブとハイブリダイズさせた場合に7.0kbのバンドが生じる一方、同様に消化した標的対立遺伝子を含むゲノムDNAは、野生型バンドだけでなく約17kbのノックアウト特異的バンドが生じうる。
【0353】
実施例2 トランスジェニックKv9.2ノックアウトマウス:Kv9.2欠損マウスの作製
メスおよびオスのC57BL/6マウスを交配させ、妊娠3.5日に、胚盤胞を単離する。選択されたクローンから得た細胞を、胚盤胞1つにつき10〜12細胞注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠のF1のメスの子宮に移植する。何匹かの高レベル(最大100%)アグーチオスを含むキメラ子マウスの同腹仔が生まれる(アグーチ皮膚色は、ターゲッティングされたクローンの子孫である細胞の分布を示す)。これらのオスキメラをメスのMF1および129マウスと交配させ、アグーチ皮膚色によって、そしてPCRによるそれぞれのゲノム型決定によって生殖系列への伝達を判定する。
【0354】
溶解したテールクリップのPCR遺伝子型決定を、プライマーhetFおよびhetR、ならびに第3の、ベクター特異的プライマー(Asc403)を用いて行う。この多重PCRは、プライマーhetFおよびhetRから、野生型遺伝子座(存在していれば)からの増幅を可能にし、241bpのバンドを与える。ノックアウトマウスではhetFの部位が欠失されているため、ターゲッティングされた対立遺伝子からの増幅はないであろう。しかし、Asc403プライマーは、3'アームのすぐ中の領域にアニールするhetRプライマーと併せて、ターゲッティングされた遺伝子座から434bpのバンドを増幅するであろう。したがって、この多重PCRは、以下の同腹仔の遺伝子型を表す。野生型のサンプルは単一の241bpバンドを示す;ヘテロ接合DNAサンプルは241bpおよび434bpの2つのバンドを生じ、ホモ接合サンプルは、標的に特異的な434bpバンドのみを示すであろう。
【表1】
【0355】
実施例3 生物学的データ:遺伝子発現パターン(ヒトRT-PCR)
電子式ノーザンブロットを用いて、肺、脳、脾臓および低濃度の前立腺、肝臓、生殖器および筋肉における遺伝子の発現を示した(図2)。
【0356】
実施例4 生物学的データ:遺伝子発現パターン(LacZ染色構造)
LacZ染色
切除した組織のXgal染色を以下のように行う。
【0357】
代表的な組織切片を大きな器官から作製する。全ての小器官および管を切開し、固定剤および染色剤を浸透させる。組織をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で十分に洗浄して血液または消化管内容物を除去する。組織を固定剤(2%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒド、0.02% NP40、1mM MgCl2、デオキシコール酸ナトリウム0.23mMを含むPBS)中に30〜45分おく。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、30℃にて18時間にわたりXgal染色溶液(PBS中の4mMフェロシアン化カリ、4mMフェリシアン化カリ、2mM MgCl2、1mg/ml X-gal)中に組織をおく。組織をPBSで3回洗浄し、4%ホルムアルデヒド中で24時間かけて後固定処理を行い、PBSで再度洗浄した後、70%エタノール中で保存する。
【0358】
Xgal染色組織を同定するために、脱水した組織をワックス包埋し、そして7um切片に切り、0.01%サフラニンを用いて対比染色する(9〜10分間)。
【0359】
LacZ染色を用いると、Kv9.2は脳内、特に皮質、海馬、カエハ島、淡蒼球部(ventate pallidum)、中心扁桃核(CeL;central amydaloid nucleus)、視床核および皮質に発現されることが見出された。さらに、染色の確証はまた、心臓、脾臓、肺および精巣にも見られた。
【0360】
実施例5 脊髄におけるKv9.2の発現
Kv9.2発現が上記プロトコルを用いると図3に示したように脊髄で検出された。
【0361】
脊髄は運動および感覚機能に関係するシグナルを運ぶ。これらの機能は、脊髄の灰白質において、運動機能のための前角と感覚機能のための後角に分けられる。後角はさらにラミナ(ラミナ I〜VI)に細分することができる。これらのラミナ中の神経細胞は後根神経節(DRG)の色々な感覚細胞からの入力を受ける。DRGのAδおよびc繊維侵害性神経細胞は脊髄のラミナIおよびIIで終止する一方、感覚Aβ神経細胞はラミナIIIおよびIVで終止する。従って、ラミナIおよびIIの細胞は疼痛プロセシングに関わる。さらに、これらの細胞を、イオンチャネルなどの発現された薬物標的に対するリガンドを用いて改変することにより、疼痛シグナルの伝達を変えうる。
【0362】
図3はKv9.2-/-マウスからの後角の横断面を示す。青いLacZ染色がラミナI〜IIIからの神経細胞の細胞体に見られる。点線は白色と灰色物質の間の境界を表す。
【0363】
図4はKv9.2 -/- マウスからの脊髄の横断面のさらなる拡大図を示す。「A」はラミナIを、「B」はラミナIIを、「C」はラミナIIIを示す。ラミナの神経細胞の細胞体が、lacZにより青く染色された細胞の細区画を含むことを明瞭に見ることができる。
【0364】
Kv9.2はラミナI、IIおよびIIIの細胞に発現される。従って、これは疼痛知覚に関わっている。
【0365】
実施例6 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):テールフリック試験
テールフリック鎮痛試験を、テールフリック鎮痛メーターを用いて実施した。この装置は、げっ歯類において正確で再現性のある疼痛感受性を測定するための取扱容易な方法を提供する(D'Amour, F.E.およびD.L. Smith、1941、Expt. Clin. Pharmacol.、16: 179-184)。本計器は熱源としてシャッター制御されたランプを有する。ランプは動物の下に配置してなるだけ拘束しない環境を与えるようにする。テールフリックは自動検出回路網により検出して、使用者が手を出さずに動物を扱えるようにする。動物を換気したチューブ内に拘束し、そのテールを設備の頂上の感知溝上に置く。
【0366】
シャッターの開口部を通して強い光ビームをテールへ当てると、ある点で動物は不快感を生じてそのテールをはじいてビームから外すであろう。自動モードでは、光検出器がテールの動きを検出して時計を停止してシャッターを閉じる。シャッター開口と動物の反応の間に経過した全時間を記録する。
【0367】
変異トランスジェニックマウスの応答を、加齢と性の整合した野生型マウスと比較する。単一動物に、55℃以下のテール温度の上昇を与える色々な熱設定を課することができる。
【0368】
テールフリック試験で試験すると、Kv9.2変異体は、疼痛に対して、野生型対応と比較して調節された(増加または低下した)応答を示す。
【0369】
実施例7 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):ホルマリン試験
ホルマリン試験は、後足に注射された侵害性物質に対する応答を測定する。体積20mlの5%ホルマリン溶液を細ゲージ針を通して片方の後ろ足の背側表面中に皮下注射する。後足をなめたり、振ったりかつ噛んだりするのを、行動に関わる累積秒数として数値化する。次の評点尺度を用いる:1=ホルマリン注射された足を、体重をあまりかけないで床上に軽く置く;2=注射された足を上げる;3=注射された足をなめたり、噛んだりまたは振ったりする。
【0370】
ホルマリン試験では2つの応答期が見られる。第1期は注射後直ぐに始まってほぼ10分間続き、疼痛繊維からの活性の急性バーストを表す。第2期は注射後ほぼ20分間に始まってほぼ1時間続く。この期は、炎症性痛覚過敏を含む組織障害に対する応答を表すようである。
【0371】
Kv9.2は、ホルマリン試験で試験すると、疼痛に対して、その野生型対応と比較して調節された(増加または減少した)応答を示す。
【0372】
実施例8 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):Von Frey hair試験
本試験は疼痛閾値を測定するために用いられる接触試験であって、Von Frey hairを使用する。Von Frey hairは、一式の非常に細いゲージ較正されたワイヤである。機械的刺激の離脱閾値を測定する。動物は高いプラットフォーム上に立ち、そのプラットフォーム表面は広いゲージワイヤメッシュである。Von Frey hairを下側からメッシュの孔を通して上向きに挿入して後足の下面を突く。閾値において、マウスはその後足をVon Frey hairから離して応答し、通常続いて、足を上げたり、足をなめたり、および/または声を出す。機械的な離脱閾値は、3連続試験のうちの2つにおいて離脱反応を誘発する最小ゲージワイヤ刺激として定義する。
【0373】
Kv9.2変異体は、Von Freyで試験すると、その野生型対応と比較して、疼痛に対して調節された(増加または低下した)応答を示す。
【0374】
実施例9 Kv9.2ノックアウトマウスにおける外部刺激と疼痛に対する感受性の試験(鎮痛試験):神経障害性疼痛
神経障害性疼痛を、麻酔したマウスのL5脊髄神経の強い結紮(ligation)により誘導する(KimおよびChung 1992)。回復後、神経障害性疼痛の発生と維持を異痛症(非侵害性刺激に対する疼痛の知覚)または痛覚過敏(侵害性刺激に対する増加した応答)について測定する。
【0375】
異痛症はvon Frey繊維(実施例8に記載した)を用いて4週間にわたり測定した。それぞれの後足を試験し、同側(傷害側)の応答と対側(無処置側)の足応答を、ノックアウトと野生型マウスの間で比較した。痛覚過敏は侵害性熱、侵害性冷熱および侵害性機械刺激を用いて試験した。
【0376】
Kv9.2変異体は、神経障害疼痛、異痛症および痛覚過敏試験で試験すると、野生型対応と比較して、疼痛に対して調節された(増加または減少した)応答を示す。
【0377】
各特許出願および特許の手続き中のものを含めた、本明細書で言及した各特許出願および特許、ならびに上記の特許出願および特許のそれぞれで引用または参照された各文献(「特許出願引用文献」)、ならびに、各特許出願および特許、ならびに特許出願引用文献のいずれかで引用または言及したいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。さらに、本文中で引用されたすべての文献、および本文中で引用された文献中で引用または参照されたすべての文献、および本文中で引用または言及されたいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。
【0378】
本発明の記載した方法および系の種々の変更形態および変形形態は、本発明の範囲および精神から逸脱しないことは当業者には明らかであろう。特定の好ましい実施形態に関連して本発明を記述したが、本発明の特許請求の範囲は、そのような特定の実施形態に不当に制限されるべきではないこと、そして、本発明の範囲内において多くの変更および追加を加えることができることを理解されたい。実際に、本発明を実施するために記載した方法の種々の変更形態は、分子生物学あるいは関連分野の当業者には明らかであり、特許請求の範囲内に含まれるものである。さらに、独立形式請求項の特徴を用いて、本発明の範囲から逸脱せずに、従属請求項の特徴の様々な組合せを作ることができる
配列
配列番号1はヒトKv9.2 cDNA配列を示す。配列番号2は配列番号1から誘導されたオープンリーディングフレームを示す。配列番号3はヒトKv9.2アミノ酸配列を示す。配列番号4はマウスKv9.2 cDNAのオープンリーディングフレームを示す。配列番号5はマウスKv9.2 アミノ酸配列を示す。配列番号6〜18はノックアウトプラスミドを構築するために用いた遺伝子型判定プライマーを示す。配列番号19はノックアウトプラスミドベクター配列を示す。
【0379】
配列
【0380】
【0381】
【0382】
【図面の簡単な説明】
【0383】
【図1】Kv9.2欠失マウスを作製するためのノックアウトベクターを示す。
【図2】Kv9.2遺伝子がヒトRT-PCRスクリーニングから得られることを示す。
【図3】Kv9.2-/-マウスからの後角の横断面を示す。青いLacZ染色がラミナI〜IIIからの神経細胞の細胞体に見られる。点線は白色と灰色物質の間の境界を表す。
【図4】Kv9.2 -/- マウスからの脊髄のさらに高い拡大率の横断面を示す。「A」はラミナIを、「B」はラミナIIを、「C」はラミナIIIを示す。ラミナの神経細胞の細胞体はlacZにより青く染色された細胞のサブ区画を含むことを明瞭に見ることができる。
【図5A】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す。
【図5B】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Aの続き)。
【図5C】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Bの続き)。
【図5D】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Cの続き)。
【図5E】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Dの続き)。
【図5F】ノックアウトプラスミドベクターのヌクレオチド配列を示す(図5Eの続き)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛を治療、予防または軽減するために好適な分子を同定する方法であって、候補分子がKv9.2ポリペプチドのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを確認するステップを含んでなり、ここで、Kv9.2ポリペプチドが配列番号3もしくは配列番号5に示されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含む前記方法。
【請求項2】
Kv9.2ポリペプチドが配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示された核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列によりコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
候補分子をKv9.2ポリペプチドに暴露するステップおよび候補分子がKv9.2ポリペプチドと結合するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(a)野生型または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を提供するステップ;(b)前記非ヒト動物を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果として動物の生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
生物学的パラメーターが、刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答からなる群より選択され、好ましくは疼痛に対する応答である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(a)野生型細胞または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を含有する細胞、好ましくは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物から単離された細胞を提供するステップ;(b)前記細胞を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果としてKv9.2ポリペプチドの生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
疼痛を治療、予防または軽減するためのKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定する方法における、野生型または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【請求項8】
機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物、またはその単離された細胞もしくは組織の、疼痛に対するモデルとしての使用
【請求項9】
トランスジェニック非ヒト動物が、機能が破壊された、好ましくはKv9.2遺伝子またはその部分中に欠失を有するKv9.2遺伝子を含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項10】
トランスジェニック非ヒト動物が、野生型動物と比較すると、次の表現型:刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答の1以上、好ましくは疼痛に対する応答に変化を示す、請求項4〜9のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項11】
トランスジェニック非ヒト動物が、野生型動物と比較すると、疼痛に対する感受性の増加または減少を示す、請求項4〜10のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項12】
トランスジェニック非ヒト動物がげっ歯類、好ましくはマウスである、請求項4〜11のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項13】
Kv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定する方法であって、候補化合物を請求項4〜12のいずれか1項に記載の野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物に投与するステップおよび請求項10に記載した生物学的パラメーターの変化を測定するステップを含む前記方法。
【請求項14】
配列番号3もしくは配列番号5に示したアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリペプチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用。
【請求項15】
配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示した核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリヌクレオチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用。
【請求項16】
疼痛が、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛、次のいずれかにより起こる疼痛:狼瘡、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛からなる群より選択される、請求項1〜15のいずれか1項による方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法または使用により同定されたKv9.2のアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)。
【請求項18】
疼痛を治療、予防または軽減するための、請求項17に記載の分子の使用。
【請求項19】
疼痛または疼痛に対する感受性のための診断キットであって、次のもの:Kv9.2ポリペプチドまたはその部分;Kv9.2ポリペプチドに対する抗体;またはそれらをコードできる核酸の1以上を含む前記キット。
【請求項20】
疼痛を患う個体を治療する方法であって、個体におけるKv9.2ポリペプチドの活性または量を増加または減少させることを含む前記方法。
【請求項21】
個体に、Kv9.2ポリペプチド、Kv9.2ポリペプチドのアゴニスト(オープナーを含む)またはKv9.2のアンタゴニスト(ブロッカーを含む)を投与することを含む、請求項20に記載の使用または方法。
【請求項22】
疼痛を診断する方法であって、(a)そのような疾患を患っているかまたは患っていると疑われる動物におけるKv9.2ポリペプチドの発現のレベルまたはパターンを検出するステップ;および
(b)該発現のレベルまたはパターンを正常な動物のそれと比較するステップを含む前記方法
【請求項23】
実質的に本明細書において参照により記載された、および添付図面の図1〜5に示された方法または使用。
【請求項1】
疼痛を治療、予防または軽減するために好適な分子を同定する方法であって、候補分子がKv9.2ポリペプチドのオープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含むアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを確認するステップを含んでなり、ここで、Kv9.2ポリペプチドが配列番号3もしくは配列番号5に示されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含む前記方法。
【請求項2】
Kv9.2ポリペプチドが配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示された核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列によりコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
候補分子をKv9.2ポリペプチドに暴露するステップおよび候補分子がKv9.2ポリペプチドと結合するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(a)野生型または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を提供するステップ;(b)前記非ヒト動物を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果として動物の生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
生物学的パラメーターが、刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答からなる群より選択され、好ましくは疼痛に対する応答である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(a)野生型細胞または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を含有する細胞、好ましくは、機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物から単離された細胞を提供するステップ;(b)前記細胞を候補分子に暴露するステップ;および(c)前記接触の結果としてKv9.2ポリペプチドの生物学的パラメーターが変化するかどうかを確認するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
疼痛を治療、予防または軽減するためのKv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定する方法における、野生型または機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【請求項8】
機能が破壊された内因性Kv9.2遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物、またはその単離された細胞もしくは組織の、疼痛に対するモデルとしての使用
【請求項9】
トランスジェニック非ヒト動物が、機能が破壊された、好ましくはKv9.2遺伝子またはその部分中に欠失を有するKv9.2遺伝子を含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項10】
トランスジェニック非ヒト動物が、野生型動物と比較すると、次の表現型:刺激に対する応答、熱に対する応答、光に対する応答、疼痛に対する応答の1以上、好ましくは疼痛に対する応答に変化を示す、請求項4〜9のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項11】
トランスジェニック非ヒト動物が、野生型動物と比較すると、疼痛に対する感受性の増加または減少を示す、請求項4〜10のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項12】
トランスジェニック非ヒト動物がげっ歯類、好ましくはマウスである、請求項4〜11のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項13】
Kv9.2ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定する方法であって、候補化合物を請求項4〜12のいずれか1項に記載の野生型動物またはトランスジェニック非ヒト動物に投与するステップおよび請求項10に記載した生物学的パラメーターの変化を測定するステップを含む前記方法。
【請求項14】
配列番号3もしくは配列番号5に示したアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリペプチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用。
【請求項15】
配列番号1、配列番号2もしくは配列番号4に示した核酸配列、またはそれに対して少なくとも90%同一である配列を含むKv9.2ポリヌクレオチドの使用であって、疼痛を治療、予防または軽減するためのそのアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)を同定するための前記使用。
【請求項16】
疼痛が、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛および神経障害性疼痛(神経痛)、損傷および疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎および末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛およびカウザルギーのような神経痛、次のいずれかにより起こる疼痛:狼瘡、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格および皮膚疾患、頭部外傷、および線維筋痛からなる群より選択される、請求項1〜15のいずれか1項による方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法または使用により同定されたKv9.2のアゴニストまたはアンタゴニスト(オープナー、ブロッカーまたはモジュレーターを含む)。
【請求項18】
疼痛を治療、予防または軽減するための、請求項17に記載の分子の使用。
【請求項19】
疼痛または疼痛に対する感受性のための診断キットであって、次のもの:Kv9.2ポリペプチドまたはその部分;Kv9.2ポリペプチドに対する抗体;またはそれらをコードできる核酸の1以上を含む前記キット。
【請求項20】
疼痛を患う個体を治療する方法であって、個体におけるKv9.2ポリペプチドの活性または量を増加または減少させることを含む前記方法。
【請求項21】
個体に、Kv9.2ポリペプチド、Kv9.2ポリペプチドのアゴニスト(オープナーを含む)またはKv9.2のアンタゴニスト(ブロッカーを含む)を投与することを含む、請求項20に記載の使用または方法。
【請求項22】
疼痛を診断する方法であって、(a)そのような疾患を患っているかまたは患っていると疑われる動物におけるKv9.2ポリペプチドの発現のレベルまたはパターンを検出するステップ;および
(b)該発現のレベルまたはパターンを正常な動物のそれと比較するステップを含む前記方法
【請求項23】
実質的に本明細書において参照により記載された、および添付図面の図1〜5に示された方法または使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【公表番号】特表2008−538907(P2008−538907A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508307(P2008−508307)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001595
【国際公開番号】WO2006/114647
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001595
【国際公開番号】WO2006/114647
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】
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