説明

イオンチャンネルの活性を調べるための方法

本発明は、
− イオンチャンネルを含む試料を提供; および
− イオンチャンネルの活性の指標としての測定パラメーターの値を測定;
の段階を含む、測定パラメーターの値の測定が約10℃以下の温度で実施される点で特徴づけられる、イオンチャンネルの活性を調べるための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンチャンネルの活性を調べるための方法に関する。
【0002】
生細胞の膜は、細胞および組織の完全性および活性に非常に重要であるさまざまな機能を果たす。細胞内容の境界設定および調節、物質の交換およびシグナルの伝達が、そのような機能の例である。荷電した分子および無機イオン(たとえばNa+、K+、Ca2+およびCl(イオン)は単純な拡散によって脂質二重層を通り膜を横切ることはできず、膜の特異的輸送系を必要とする。特に、そのような輸送系はイオンチャンネルを含み、イオンチャンネルのさまざまなものが、特にさまざまな臨床像に対しての非常に大きい重要性のために、特に生化学的および電気生理的性質に関して非常に良く特徴づけられている。そのようなイオンチャンネルは選択的に開閉できるため、イオンは常に通過することはできない。各イオンの正味の流量は、各イオンについての浸透性、イオンの濃度勾配、および膜の両側の間の電位差といった因子によって決定される。一般的に、電位の変化に反応するイオンチャンネルの種類(電位依存性イオンチャンネル)は、特異的なメッセンジャー、いわゆる伝達物質に反応するものと区別される。さらに、イオンポンプは、エネルギーの消費を伴って電気化学勾配に逆らって能動的イオン輸送を与えることが知られている。この方法で、細胞内と細胞外の空間の間のイオン濃度の特徴的な差が生成または維持される。ひとつの重要な例は、エネルギー源としてATPの消費を伴うナトリウムおよびカリウムの共役輸送を可能にするいわゆるナトリウム−カリウムポンプである。
【0003】
薬剤を用いてイオンチャンネルの活性に選択的に影響を与えることによって治療されるさまざまな臨床像が知られている。これらは特に、抗不整脈剤、すなわち、心不整脈の治療のための薬剤を含み、それは電気生理的作用機構に従って異なる分類にさらに分けられる。このように、たとえば、カルシウム拮抗剤ベラパミルはカルシウムチャンネルの遮断を通じて作用し、一方、アミオダロンおよびソタロールといったカリウム拮抗剤のメンバーは、カリウムチャンネルを遮断することによって活動電位の持続時間の選択的延長を引き起こす。イオンチャンネルを活性化または遮断することによって影響されうる他の臨床像は、たとえば、多数のCNS疾患(たとえばてんかん、疼痛、脳卒中、偏頭痛)、自己免疫疾患、がんまたは糖尿病を含む。
【0004】
医薬品として活性な物質についての研究の範囲内で、そのようなイオンチャンネルに対して医薬品として活性である可能性のある物質の影響を正確に監視できる試験方法があることが望ましい。これは、一方で、作用機構がイオンチャンネルの選択的影響に基づく物質の開発において、および他方で、副作用、すなわち、医薬候補によるイオンチャンネル活性の望ましくない影響の評価において、重要である。
【0005】
生細胞の膜電位は、細胞内および細胞外ナトリウム、カリウムおよび塩化物イオン濃度によって主に決定される。たとえば、カリウムチャンネルの遮断が生細胞の静止膜電位に及ぼす影響を調べる場合、膜を通るカリウムについての伝導率は基本的に、膜電位に影響するゴールドマン・ホジキン・カッツ式に従って変化する。細胞は、特に、膜を通る他のイオンについての伝導率を変化させて、カリウムチャンネル遮断が膜電位に及ぼす正味の影響を低減または防ぎさえすることによってこの変化に対応しうる。これは、細胞中の、イオンを能動的に輸送するポンプ系の活性化を介して行うことができる。
【0006】
現在、ある試験法で、候補のまたは公知の薬理的に活性な物質の影響下にある生細胞の膜電位を測定する場合、測定された電位値が、記載された対抗制御機構のために偏る危険性がある。この偏りは、シグナル対ノイズ比が不利に高い場合に膜電位の影響が検出できない可能性があるほど高くなりうる。
【0007】
したがって、上記の干渉を最小化する、イオンチャンネルの活性を調べるための試験法を提供することが本発明の目的である。
【0008】
この目的は、独立請求項1の特性を有する方法によって達成される。請求項1に従属する他の請求項は、本発明の好ましい実施形態に関する。他の請求項は、本発明に記載の方法を実施するための具体的な手段の使用を対象とする。
【0009】
本発明は、
− イオンチャンネルを含む試料を提供;および
− イオンチャンネルの活性の指標としての測定パラメーターの値を設定;
の段階を含む、測定パラメーターの値の設定が通常の室温よりも有意に低い温度、特に約10℃以下で実施される点で特徴づけられる、イオンチャンネルの活性を調べるための方法に関する。
【0010】
本発明は、温度を低下させることによって、上述のポンプ系の活性化により膜電位に影響を与える可能性を細胞から奪うことが可能であるという認識に基づく。従来技術で示される、たとえば、カリウムチャンネル遮断剤の評価のための試験法は、典型的には、体温すなわち37℃にて、または室温にて実施される。温度を低下させることによって、上述のポンプ系の活性化により膜電位に影響を与える可能性が細胞から奪われるならば(またはそのような可能性が少なくとも有意に低下するならば)、細胞は、37℃にてまたは室温にて反応できるようには、カリウムまたはナトリウムチャンネルを遮断することによって膜電位の変化に効果的に反応できない。
【0011】
本発明によると、測定パラメーターの測定を、約10℃以下、特に約5℃以下の温度で実施することが好ましい。約2℃以下の温度が特に好ましい。温度下限は好ましくは0℃である。試験すべき試料(たとえば細胞試料)は典型的には等張緩衝溶液に含まれるため、原理的には、0℃よりわずかに下、典型的には−2℃または−4℃までで測定を実施することもまた可能である。
【0012】
典型的には、測定は、イオンチャンネルを含む細胞を利用して実施する。そのような細胞は、野生型細胞でよく、または試験中のイオンチャンネルを過剰発現している遺伝子組み換え細胞でもよい。しかし、本発明に記載の測定を、組織についてまたはミトコンドリアといった細胞小器官について実施することもまた可能である。別の一実施形態では、目的のイオンチャンネルを含む膜画分または小胞を調製すること、および本発明に記載の測定をそのような調製物について実施することもまた可能である。膜画分および小胞は、細胞分画の分野で公知である標準的方法に従って、典型的には、細胞の遠心分離から得られた細胞沈澱の、プロテアーゼ阻害剤を含む緩衝液中での溶解によって、調製されうる。溶解物を次いで典型的には再び遠心分離し細片および小器官を沈澱する。結果として生じる上清を、典型的には遠心して膜を回収する。その後、結果として生じる沈澱を適当な緩衝液中に再懸濁して、本発明に記載の測定を実施する。必要に応じて、均一なサイズを有する小胞を、短時間の超音波処理を経て得ることができる。別の選択肢として、本発明に記載の測定を、人工膜に埋め込まれたイオンチャンネルについて実施できる。
【0013】
本発明に記載の試験すべきイオンチャンネルは、典型的には、細胞の原形質膜、細胞小器官の膜、小胞膜または人工膜といった膜に結合している。典型的には、ヒトまたは動物細胞および細胞小器官がそのまま用いられ、または小胞または膜画分がそのような細胞および細胞小器官から調製される。本発明に教示される通り、そのようなイオンチャンネルは、室温または体温より低い温度にて、イオンチャンネルの活性の指標としての測定パラメーターの値を測定することによって調べられる。好ましくは、測定パラメーターは、細胞、細胞小器官、小胞または人工膜の膜電位、またはその指標である。別の一実施形態では、測定パラメーターはイオン濃度またはその指標でありうる。カリウム、ナトリウム、塩化物および/またはカルシウムといったイオンの濃度を調べることができる。好ましくは、測定パラメーターは、上述のイオンの細胞外および/または細胞内イオン濃度、またはその指標である。加えて、ルビジウム検定、特に非放射性Rb+流束検定は、新薬発見および開発においてカリウムおよび非選択的陽イオンチャンネルの分析のために製薬工業で広い用途を見出している。ルビジウムは、カリウムチャンネルについての理想的なトレーサーである。ルビジウムはカリウムと同じサイズおよび同じ電荷を有し、およびカリウムチャンネルを透過可能である。ルビジウムは生体系に存在しないため、好ましい検出標的である。従って、ルビジウムは実験設定に残存バックグラウンドノイズを加えない。
【0014】
特に、測定パラメーターの値を、試験中のイオンチャンネルの活性に影響する(可能性のある)被験物質の添加の前、間、および/または後に設定することが好ましい。特に、伝達物質依存性イオンチャンネルの活性を調べることができる。しかし、電位感受性イオンチャンネルの活性を設定することもまた可能である。これは、特に、カリウムチャンネル、ナトリウムチャンネル、塩化物チャンネルまたはカルシウムチャンネルの活性でありうる。
【0015】
前記イオン濃度または膜電位の指標の設定は、蛍光法、放射能法または原子吸光分析によって実施されうる。
【0016】
膜電位またはイオン濃度を測定するためには、イオン感受性または電位感受性色素、キレート剤およびルビジウムを含むがそれらに限定されない、多数の異なる方法を用いることができる。
【0017】
たとえば、電位感受性蛍光色素、特に色素Dibac4(3)の蛍光放出は、下記により詳細に示す通り、膜電位の指標の役割を果たしうる。しかし、ルビジウム(交換イオンとして)の、特に非放射性ルビジウムのイオン濃度を測定することもまた好ましい可能性がある。さらに、たとえばカルシウムのイオン濃度を、キレート剤を用いて測定しうる。
【0018】
膜電位の測定は、本発明によると低温で実施すべきであるが、特に、それ自体が公知である蛍光検定によって、市販の蛍光リーダー(たとえば、モレキュラー・デバイス社(Molecular Devices)のFLIPR)、共焦点蛍光顕微鏡またはフローサイトメトリー装置を用いて実施しうる。典型的には、潜在的に感受性である蛍光色素、たとえば市販の分布色素 ビス(1,3−ジブチルバルビツール酸)トリメチンオキソノール(Dibac4(3))を用いることができる。Dibac4(3)はビスオキソノール型の色素であり、細胞質ゾル中でのその分布は膜が脱分極した際に増加する。この過程は、蛍光強度の増大を伴う。従って、たとえば電位依存性カリウムチャンネルの遮断のために、その色素が細胞の静止膜電位の脱分極に際して細胞に入る場合、蛍光活性の上昇が検出できる。加えて、このオキソノール誘導体の量子収量は、低温によって有利となる。従って、シグナル強度の随伴増大は、細胞ポンプ系の上記の阻害に加えて、さらに改善されたシグナル対ノイズ比を生じうる。
【0019】
別の長所は、読み取るべきシグナルの安定性に関する。試験が37℃または室温にて実施される場合、チャンネル遮断剤(カリウムチャンネル遮断剤のような)の細胞への添加によって最初に生じた蛍光シグナル(たとえば、Dibac4(3)蛍光)は、特に、内因性イオンポンプの活性によって、短い一過性の上昇後に最初の状態へ回復されうる。このことは、イオンチャンネルに対する物質の作用を測定するための時間枠が狭いことを意味し、そのため、被験物質の添加後に非常に短い時間枠内(典型的には2分未満)にオンライン測定を行うべきであり、このことは測定装置に高度な要求を与える。試験が低温で実施される場合、最初に生じたシグナルのそのような低下は観察されないか、またははるかに低い程度でしか見られない。このことは、調べるべきイオンチャンネルに対する物質の作用の測定を、数時間インキュベート後にも行うことができるという利点を有する。このことは今度は、多数の物質のスクリーニングを顕著に円滑化し、および従って処理量を高める。一過性シグナルの安定な読み出しパラメーターへの変換のためだけで、多数のイオンチャンネルがスクリーニング可能となる。
【0020】
上述のDibac4(3)色素以外に、市販の(たとえば供給元モレキュラー・プローブズ社(Molecular Probes)から)DiSBAC2(3)またはDiBAC4(5)といった、ビス−バルビツール酸オキソノール型の他の色素を使用できる。また、ビス−イソキサゾロンオキソノール色素(たとえばオキソノールVおよびオキソノールVI)といった他のオキソノール色素も使用しうる。他の電位感受性指示薬は、カルボシアニン誘導体(たとえばインド−、チア−、およびオキサ−カルボシアニンおよび、カルボシアニンのヨウ化物誘導体)、ローダミン色素、メロシアニン540およびスチリル色素を含む。スチリル色素の中でも、すべて市販されているジ−4−ANEPPS、ジ−8−ANEPPS、ジ−2−ANEPEQ、ジ−8−ANEPPQ、ジ−12−ANEPPQまたはジ−1−ANEPIA(モレキュラー・プローブズ社)といったアミノナフチルエテニルピリジニウム型の色素を用いうる。また、RH414、RH421、RH795またはRH237といった、この供給元または他の供給元のRH−色素を用いることができる。イオン感受性指示薬としては、よく知られたおよび市販のカルシウム指示薬(たとえばフルオ−カルシウム指示薬、ベンゾフラニル誘導体のようなフラ指示薬、インドール誘導体のようなインド指示薬、CAS番号186501−28−0のようなカルシウムグリーン(登録商標)またはCAS番号172646−19−4のようなオレゴングリーン(登録商標);モレキュラー・プローブズ社)またはナトリウム/カリウム指示薬(たとえばSBFI、PBFI、ナトリウムグリーンNa+指示薬、コロナグリーンNa+指示薬、コロナレッドNa+指示薬;モレキュラー・プローブズ社)を使用しうる。この供給元および他の供給元はまた、イオンチャンネル実験のコンダクタンスのためのキレート剤も供給する。さらに、下記に示す実験に用いられたFLIPR膜電位検定キット(モレキュラー・デバイス社(Molecular Devices))を用いることもできる。
【0021】
下記において本発明をさまざまな実験例で説明する。
【実施例】
【0022】
実施例1:HERGチャンネル
電位依存性カリウムチャンネルHERGを安定にトランスフェクションしたCHO細胞をトリプシン処理しおよび遠心分離した。その後、細胞を4μM DiBAC4(3)(モレキュラー・プローブズ社(Molecular Probes))を含む1x緩衝液(10mM HEPES、pH 7.3、140mM Na+、2mM K+、1mM MgCl2、2mM CaCl2)に取り、および2×104/50μl/ウェルにて、底面が透明で下記の物質を予め加えてある384ウェルマイクロタイタープレートに加えた:5μlの緩衝液(2mM K+)、5μlの緩衝液+300mM K+、および5μlの緩衝液+10μM E4031/2mM K+
【0023】
Dibac4(3)は電位依存性蛍光色素として用いられ、細胞膜の脱分極(たとえば、細胞外カリウム濃度の上昇によってまたはカリウムチャンネルの遮断によって引き起こされる)に際して細胞膜を通って細胞に入り、そこで細胞内タンパク質および膜と結合し、その結果として蛍光の増大が生じる。
【0024】
上記のウェル内で、適当なストック溶液を加えることによってカリウム濃度を2mM(ゼロ検査)および30mM(対照脱分極)とした。HERGカリウムチャンネルの拮抗剤として、E4031をカリウム濃度2mMにて添加した。
【0025】
氷上での150分間のインキュベートおよび続いての30分間室温にてのインキュベート後、市販の蛍光リーダー(フルオスター(Fluostar)、bmg社)で、励起波長485nmおよび放出波長525nmにて読み取りを実施した。
【0026】
上記の試験方法の結果を下記の表1におよび図1に要約する。拮抗剤E4031によりHERGカリウムチャンネルを遮断することによって引き起こされた蛍光シグナルの増大は、室温と比較して氷上でのインキュベートで有意に強いことがわかる。シグナルの上昇は、室温にて41.76%から氷上で66.62%へ増加する。
【表1】

* rfu:相対蛍光強度
** Std.dev.:標準偏差
***ゼロ検査(2mMK+にての蛍光シグナル)と比較した、証明された蛍光シグナルの増大
【0027】
上記の実施例1に加えて、HERG−チャンネル以外のイオンチャンネルへの本発明の方法の一般的な適用可能性を示すために他の実験を実施した。実験は下記のイオンチャンネルを用いて実施した:Kv1.1(実施例2)、Kv1.5(実施例3)、KCNQ1/KCNE1(実施例4および6)、Kv1.3(実施例5および7)およびSCN5a(実施例8)。化学薬品、細胞培養、膜電位検定およびデータ解析の下記の概要は、これらの他の実施例2〜8のすべてに関係する。
【0028】
化学薬品
化学薬品はシグマ社(Sigma)、メルク社(Merck)およびカルビオケム(Calbiochem)社から購入した。DiBAC4(3)はモレキュラー・プローブズ社(Molecular Probes)からであった。FLIPR膜電位検定キット(FMP)はモレキュラー・デバイス社(Molecular Devices)からであった。毒素はアロモン・ラブズ社(Alomone Labs)から購入した。
【0029】
細胞培養
CHO細胞株およびHEK293細胞株(野生型および各イオンチャンネルを安定にトランスフェクションされた)は、エボテック(Evotec)OAI AG社(ドイツ・ハンブルク)にて維持および確立された。 CHO 細胞株は75 cm2フラスコ (ファルコン社(Falcon))で12 mlのMEMアルファ培地(ギブコ・インビトロジェン社(Gibco Invitrogen))中で培養した。HEK293細胞株はDMEM(ギブコ・インビトロジェン社)中で培養した。両方の培地に、10%(v/v)ウシ胎仔血清、1%(v/v)L−グルタミン溶液(ギブコ・インビトロジェン社)およびG−418(ジェネテシン)(800μg/ml)を添加し、および37℃および5%CO2にて培養した。細胞を標準的な細胞培養手順に従って分割した。
【0030】
下記により詳細に記載する膜電位検定の実施のために、細胞を384ウェルマイクロプレート(ファルコン社(Falcon)、ベクトン・ディッキンソン社(Becton Dickinson))に播種し(50μl/ウェル)一夜37℃および5%CO2にて上に記載の培地中でインキュベートしてから検定に供し、またはプレートに直接2・104細胞/ウェルの密度で検定緩衝液(下記参照)中へ播種した。
【0031】
膜電位検定
本実施例では、この蛍光に基づく検定は、細胞の膜電位に依存して細胞内へまたは細胞外へ移動する蛍光色素(DiBAC4(3)およびFMP色素)を利用する。細胞の脱分極に際して、色素は細胞に入りおよび細胞内の疎水性部位へ結合し、それが今度は色素の光強度の増大に繋がる。
【0032】
マイクロタイタープレート中で培養した細胞から培地を除去した。細胞を次いで10μlのHEPES緩衝液(10 mM HEPES、pH 7.2、5mM K+、140mM Na+、5mM グルコース、1mM MgCl2、2mM CaCl2)で覆った。それぞれ、DiBAC4(3)を4μMの濃度で用い、およびFMPをほぼ取扱説明書通りに用いた。検定で試験すべき化合物を、適当なストック濃度でDMSOに溶解した。毒素は、1mg/mlウシ血清アルブミンを添加したPBS(リン酸緩衝生理食塩緩衝液:137mM NaCl、2.7mM KCl、4.3mM Na2HPO4・7H2O、1.4mM KH2PO4;pH〜7.3)に溶解した。
【0033】
接着細胞を使用した場合、培地を除去しおよび各検定緩衝液で置換した。化合物または毒素をその後に加えた。懸濁細胞を使用した場合、化合物および毒素をプレートに加え、およびトリプシン処理後に検定緩衝液に再懸濁した細胞をウェルに加えた。すべての実験で、細胞に加えた30mM カリウム(下記参照) が脱分極陽性対照の役割を果たす。
【0034】
DiBAC4(3)蛍光シグナルを、記載のインキュベート時間(主に数時間後−下記参照)およびインキュベート温度(0℃ないし4℃)の後に、DiBAC4(3)の場合はBMGフルオスター(FLUOstar)蛍光リーダー(BMGラブテクノロジーズ社(BMG Labtechnologies))またはサファイア(Safire)リーダー(テカン社(Tecan)):励起波長485nm(12nm帯域幅)、放出波長520nm(35nm帯域幅)、またはFMPの場合はサファイアリーダーで励起波長540nm(2.5nm帯域幅)および放出波長555nm(2.5nm帯域幅)を用いて測定した。蛍光は下記から測定した。
【0035】
データ分析
蛍光強度における相対変化は下記の通り計算した:
【数1】

0: 標準条件(ゼロ対照、2mMまたは5mMカリウム)下でイオンチャンネルを発現しているCHO細胞またはHEK293細胞の蛍光強度[rfu]
c: 化合物/毒素の存在下でのイオンチャンネルを発現しているCHO細胞またはHEK293細胞の蛍光強度[rfu]
【0036】
実施例2:Kv1.1
下記の表2は、95分間4℃にて5mMカリウム(ゼロ対照)、30mMカリウム(陽性対照)、および100nMの毒素デルタ−DTXおよびDTX−K(共にアロモン・ラブズ社(Alomone Labs)(イスラエル)から購入)の存在下での細胞のインキュベート後に得られた結果を示す:
【表2】

"Rfu"は相対蛍光強度を示す。
"Sdt.dev."は標準偏差を示す。
"[%]上昇"は、対照条件下での細胞の蛍光シグナルと比較した、各イオンチャンネル遮断剤の存在下での細胞の蛍光シグナルの上昇を示す(上式参照)。
【0037】
下記の表3は、同じプレート細胞の、95分間4℃にてインキュベート後さらに35分間37℃にて5mMカリウム(ゼロ対照)、30mMカリウム(陽性対照)、および100nMの毒素デルタ−DTXおよびDTX−K(共にアロモン・ラブズ社(Alomone Labs)(イスラエル)から購入)の存在下でのインキュベート後に得られた結果を示す。
【表3】

【0038】
細胞を阻害剤の存在下でインキュベートすることは、細胞が本発明に教示される通り低温でインキュベートされる場合に顕著により明瞭なシグナルに繋がる(毒素デルタDTxおよびDTX−Kの場合の[%]上昇を比較:37℃にて約14%から4℃にて〜40%への上昇)。図2aおよび2bも参照。
【0039】
実施例3:Kv1.5
Kv1.5カリウムチャンネルを有するセムリキ森林熱ウイルスを、ルンドストロム(Lundstrom)ら,1994,Eur.J.Biochem.224:917−921に記載の手順に従って調製し、および−20℃にて保存した。使用前に、アルファ−キモトリプシノーゲン(0.2 mg/ml)を用いて15 分 室温にてウイルスを活性化した。ウイルスの活性化を、1/50容のアプロチニン(20mg/ml)の添加によって停止した。CHO細胞を前日に、25cm2フラスコに播種し、培地(上記の細胞培養の項を参照)を除去し、および1mlの新しい培地、および450μlのウイルス含有上清、および20μlのHEPES−緩衝液(10mM N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N'−[2−エタンスルホン酸]pH6.9)で置換した。90分間インキュベート後、別の5mlの新しい培地を加え、および細胞を12時間インキュベートした。
【0040】
翌日、細胞をトリプシン処理によって採取し、PBS(リン酸緩衝生理食塩緩衝液:137mM NaCl、2.7mM KCl、4.3mM Na2HPO4・7H2O、1.4mM KH2PO4;pH〜7.3)で1回洗浄し、およびFMPを含む検定緩衝液(10mM HEPES、pH 7.2、5mM K+、140mM Na+、5mM グルコース、1mM MgCl2、2mM CaCl2)に再懸濁してから、標準Kv1.5遮断剤を負荷した384ウェルへ加えた。プレートを15分間室温にてインキュベートし、および続いて1℃へ30分間冷却した。表4に見られる通り、Kv1.5特異的遮断剤の存在下での細胞の相対蛍光単位の相対上昇は、細胞が本発明で教示される通り低温でインキュベートされる場合に有意に高い(26%と比較して63%相対上昇)。
【表4】

【0041】
実施例4:KCNQ1/KCNE1
下記の表5は、上記の手順に従って懸濁細胞およびFMP色素を用いた、15分間室温にて、およびさらに180分間、2mMカリウム(ゼロ対照)、30mMカリウム(陽性対照)、および10μMの標準拮抗剤の存在下での細胞のインキュベート後に得られた結果を示す。ここでも、相対シグナル上昇は、細胞が本発明で教示される通り低温でインキュベートされる場合に有意に高い(室温にてインキュベートされる場合の24%上昇と比較して109%相対上昇)。
【表5】

【0042】
実施例5:Kv1.3
下記の表6は、上記の手順に従って懸濁細胞およびFMP色素を用いた、10分間室温にて、およびさらに110分間1℃にて5mMカリウム(ゼロ対照)、30mMカリウム(陽性対照)、および100nMマルガトキシン(アロモン・ラブズ社(Alomone labs))の存在下での細胞のインキュベート後に得られた結果を示す。相対シグナルは、細胞が本発明で教示される通り低温でインキュベートされる場合に有意に高い(10分間室温にてインキュベートされる場合の3%上昇と比較して68%相対上昇)。
【表6】

【0043】
実施例6:KCNQ1/KCNE1についてのスクリーニング応用
本発明に記載のイオンチャンネルの試験は、本分野で公知である方法と比較して高いシグナル対ノイズ比を提供する。これは、高処理量スクリーニング作戦に十分な統計データを結果として生じる。KCNQ1/KCNE1カリウムチャンネル(Iks)についての対照化合物の、HTS条件下で1536ウェルプレートでの試験は、0.6より大のz'因子を結果として生じた。本発明を応用した1536ウェルプレートでのIks拮抗剤の試験の例を図3および4に示す。図3は、拮抗剤の漸増濃度に伴う蛍光の増加を反映する。図3の最初の2行および最後の2行に対照値を示す(化合物無し)。これらの対照行での蛍光強度は、化合物が添加されているウェルの蛍光強度を示す行の値よりも有意に低い。3列目から、化合物の0.01から10μMの漸増濃度の結果を示す。化合物の濃度の漸増に伴って、蛍光強度は上昇する。各濃度/反応の関係の一例を図4に示す。
【0044】
実施例7:Kv1.3についてのスクリーニング応用
本発明は多数の化合物のスクリーニングに用いられた。本実施例では、25,000種類の化合物のKv1.3カリウムチャンネルに関する測定を384ウェルプレートで実施した。化合物の試験は、Kv1.3チャンネルの拮抗剤が細胞へ添加された場合に蛍光の増大を結果として生じた。Kv1.3カリウムチャンネルを発現する化合物の試験を図5に示す(紫=陽性対照マルガトキシン;青=低対照;緑=DMSO陰性対照;灰=化合物範囲;赤=選択されたヒット)。25,000種類の化合物のKv1.3に関する試験の平均z'の計算は、図6に示す通り、約0.6の値を結果として生じた。本発明に記載の方法を用いることによってヒットとして検出された化合物は、図7に示す通り電気生理的方法(パッチクランプ法)を用いてKv1.3拮抗剤と確認された。
【0045】
実施例8:SCN5a
本実施例では、哺乳類細胞株で発現されるナトリウムチャンネルSCN5aを調べる。細胞を標準検定緩衝液中へ、上記のモレキュラー・デバイス社(Molecular Devices)キットを用いて室温にて30分間負荷した。負荷後、テトロドトキシン(TTX)をさまざまな濃度で加え、およびさらに10分間インキュベートし、その後ベラトラジンを終濃度50μMで加え、およびプレートを氷上でまたは室温にてさまざまな長さの時間インキュベートした。
【0046】
下記の表は17分間インキュベート後の結果を示す。
【表7】

【0047】
IC50値を両方のインキュベート条件について計算し、および図8に示す。本発明に記載の低温での化合物との細胞のインキュベートは、非常に改善された検出感度およびシグナル対ノイズ比に繋がる。低温インキュベートでは、報告されたIC50値は文献と大変良く一致する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1の結果を示す。
【図2】実施例2の結果を示す。
【図3】実施例6の結果を示す。
【図4】実施例6の結果を示す。
【図5】実施例7の結果を示す。
【図6】実施例7の結果を示す。
【図7】実施例7の結果を示す。
【図8】実施例8の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−イオンチャンネルを含む試料の提供; および
−イオンチャンネルの活性の指標としての測定パラメーターの値の測定;
の段階を含む、
測定パラメーターの値の測定が約10℃以下の温度で実施される点で特徴づけられる、イオンチャンネルの活性を調べるための方法。
【請求項2】
測定パラメーターの値の測定が、約5℃以下、特に約2℃以下の温度で実施される点で特徴づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定パラメーターの値の測定が、約10℃ないし−4℃、特に約5℃ないし−4℃、より好ましくは約5℃ないし0℃、さらにより好ましくは約2℃ないし0℃の温度で実施される点で特徴づけられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
試料が、イオンチャンネルを有する一つ以上の細胞または細胞小器官、特にヒトまたは動物細胞または細胞小器官を含む点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
試料が、イオンチャンネルを有する一つ以上の小胞を含む点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
試料が、膜結合イオンチャンネル、特に、細胞、細胞小器官、小胞の膜に埋め込まれた、または人工膜に埋め込まれたイオンチャンネルを含む点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
測定パラメーターが、膜電位、好ましく細胞、細胞小器官または小胞の膜電位、または前記膜電位の指標である点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
測定パラメーターがイオン濃度またはその指標である点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
測定パラメーターが、細胞外、細胞内、小胞外および/または小胞内イオン濃度またはその指標である点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
測定パラメーターの値が、イオンチャンネルの活性に影響する可能性のある被験物質の添加の前、間、および/または後に測定される点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
伝達物質依存性イオンチャンネルの活性が調べられる点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
電位感受性イオンチャンネルの活性が調べられる点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
カリウムチャンネル、塩化物チャンネル、ナトリウムチャンネルまたはカルシウムチャンネルの活性が調べられる点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
イオン濃度および/または膜電位の指標の測定が、蛍光法、放射能法または原子吸光分析によって実施される点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
(i)カルボシアニン誘導体、特にチア−、インド−、またはオキサ−カルボシアニンまたはカルボシアニンのヨウ化物誘導体、(ii)ローダミン色素、(iii)オキソノール色素、(iv)メロシアニン540、または(v)スチリル色素の光学反応が膜電位の尺度の役割を果たす点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
電位感受性蛍光色素、好ましくはaDiBAC色素、より好ましくは色素Dibac4(3)の蛍光放出が膜電位の尺度の役割を果たす点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ルビジウムの、特に非放射性ルビジウムのイオン濃度が、イオンチャンネルの活性の指標として測定される点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
イオン濃度、特にカルシウムのイオン濃度が、キレート剤を用いて測定される点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
いくつかの測定パラメーターの値が測定される点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
医薬品として活性な物質についての研究における、特に候補のまたは確立された医薬活性物質の中処理量または高処理量スクリーニング、特に潜在的に活性な医薬物質の同定または、候補のまたは確立された医薬活性物質の副作用の測定における使用のための、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
農業研究における、特にたとえば殺虫剤といった農薬に関する研究における使用のための、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記請求項のいずれかに記載の方法のコンダクタンスについての、電位感受性またはイオン感受性指示薬の使用。
【請求項23】
イオン感受性指示薬がカルシウム指示薬、特にフルオ−カルシウム指示薬、フラ指示薬、インド指示薬、カルシウムグリーン(登録商標)、またはオレゴングリーン(登録商標)であることを特徴とする請求項22に記載の使用。
【請求項24】
イオン感受性指示薬がナトリウムまたはカリウム指示薬、好ましくは蛍光ナトリウムまたはカリウム指示薬、特にSBFI、PBFI、ナトリウムグリーンNa+指示薬、コロナグリーンNa+指示薬、またはコロナレッドNa+指示薬であることを特徴とする請求項22に記載の使用。
【請求項25】
電位感受性指示薬がカルボシアニン誘導体、特にインド−、チア−、またはオキサ−カルボシアニンまたはカルボシアニンのヨウ化物誘導体;ローダミン色素;オキソノール色素;メロシアニン540;またはスチリル色素であることを特徴とする請求項22に記載の使用。
【請求項26】
オキソノール色素がビス−イソキサゾロンオキソノール色素またはビス−バルビツール酸オキソノール(DiBAC)色素、特にDiBAC4(3)、DiSBAC2(3)またはDiBAC4(5)であることを特徴とする請求項25に記載の使用。
【請求項27】
スチリル色素がANEP(アミノナフチルエテニルピリジニウム)色素、特にジ−4−ANEPPS、ジ−8−ANEPPS、ジ−2−ANEPEQ、ジ−8−ANEPPQ、ジ−12−ANEPPQ、ジ−1−ANEPIA、またはジアルキルアミノフェニルポリエニルピリジニウム色素(RH色素)、特にRH414、RH421、RH795またはRH237であることを特徴とする請求項25に記載の使用。
【請求項28】
請求項1から21のいずれかに記載の方法のコンダクタンスのためのキレート剤の使用。
【請求項29】
請求項1から21のいずれかに記載の方法のコンダクタンスのための、ルビジウム、特に非放射性ルビジウムの使用。
【請求項30】
請求項1から21のいずれかに記載の方法のコンダクタンスのための、原子吸光分析装置、フローサイトメーター、蛍光顕微鏡または蛍光プレートリーダーの使用。
【請求項31】
請求項22から27のいずれかに記載の電位感受性またはイオン感受性指示薬、請求項28に記載のキレート剤、および/または請求項29に記載のルビジウムを用いる、請求項30の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−517513(P2007−517513A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548268(P2006−548268)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000301
【国際公開番号】WO2005/069008
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(500367403)エボテック・アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】Evotec AG
【Fターム(参考)】