説明

イオントフォレシス用ナノ粒子及びその製造方法

【課題】経皮吸収率の高いイオントフォレシス用のナノ粒子を提供する。
【解決手段】解離性基を有する生分解性ポリマー、及び前記生分解性ポリマーの良溶媒である第一の溶剤を含む溶液と、前記第一の溶剤と相溶性であり、前記第一の溶剤のルイス酸又はルイス塩基であり、且つ前記生分解性ポリマーの貧溶媒である第二の溶剤とを、被送達物の存在下で混合して、前記被送達物及び前記生分解性ポリマーを含有し正又は負に帯電したナノ粒子の分散物を得る分散工程を含む、イオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレシス用ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の経皮吸収は、経口投与につきものの初回通過効果や消化管への副作用を回避できる点で有利な薬物吸収経路である。そのため、消炎や鎮痛などの局所作用を目的とするばかりでなく、全身作用を目的とする投与方法として注目されている。現在、実用に適う皮膚透過性及び生物学的安全性を有する経皮吸収製剤の開発が進められている。
また、薬物の経皮吸収を促進するシステムとして、イオントフォレシス(iontophoresis)が開発されている。イオントフォレシスは、電気エネルギーを利用して、イオン性薬物の皮膚透過を促進させるシステムである。具体的には、電極を有する2つのリザーバを皮膚に貼付し、アニオン性薬物であれば陰極槽に、カチオン性薬物であれば陽極槽に封入して両リザーバの電極をつなげ、電圧を印加する。すると、リザーバと皮膚との間でイオン交換が起き、イオン性薬物の皮膚吸収と皮膚透過が促進される。
【0003】
他方、薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)として、生分解性ポリマーに薬物を封入したナノサイズの粒子が開発されている。経皮DDSとしては、薬物の経皮吸収の主経路が角質細胞間の間隙(直径50〜70nm)と考えられていることから、粒子径100nm以下のナノサイズの粒子が有望視されている。
ナノサイズの粒子の調製方法としては、超音波乳化と液中乾燥とを組み合わせた方法(以下、「超音波法・液中乾燥法」という。)が知られている(例えば、特許文献1参照)。この調製方法は、粒子径の制御が容易であり、体積平均粒子径100nm以下の粒子の調製も可能である点で優れている。
ほかに、ナノサイズの粒子の調製方法としては、Nanoprecipitation法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方法は、操作が簡便な上に、数百nmオーダーのナノ粒子を得ることができる。
さらに、Nanoprecipitation法にPreferential Solvationの原理を応用した調製方法も知られている(例えば、非特許文献2及び3参照)。この方法によれば、分散安定剤を添加することなく、ナノサイズの粒子が形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−277220号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Fessi et. al., Int. J. Pharm., 55(1989)R1-R4
【非特許文献2】J.Y. Xiong et. al., J. Phys. Chem., 109(2005)13877-13882
【非特許文献3】J.Y. Xiong et. al., J. Chem. Phys., 121(2004)12626-12631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超音波法・液中乾燥法や、非特許文献1に開示のNanoprecipitation法では、ナノ粒子の凝集・融合を防ぐために、分散安定剤の添加を要する。分散安定剤は、生物学的安全性に懸念がある物もあり除去することが望ましいが、ナノ粒子又はその分散物から分散安定剤を除去することは容易ではない。特にナノ粒子の粒子径が100nm以下の場合、ナノ粒子を凝集させることなく分散安定剤を除去することは困難である。また、分散安定剤で被覆されたナノ粒子は、帯電度が低いため、イオントフォレシスを適用しても、経皮吸収がそれほど促進されない。
一方、Nanoprecipitation法にPreferential Solvationの原理を応用した調製方法であれば、分散安定剤なしでナノ粒子の形成が可能であるとされているが、本方法により生分解性ポリマーに薬物を封入したナノ粒子の形成が可能であるかは定かでない。
更に、生分解性ポリマーに薬物を封入したナノサイズの粒子について、イオントフォレシスにより経皮吸収率が向上するかは定かでない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、下記の課題を解決するためになされたものである。
本発明は、経皮吸収率の高いイオントフォレシス用のナノ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下のとおりである。
【0009】
<1> 解離性基を有する生分解性ポリマー、及び前記生分解性ポリマーの良溶媒である第一の溶剤を含む溶液と、前記第一の溶剤と相溶性であり、前記第一の溶剤のルイス酸又はルイス塩基であり、且つ前記生分解性ポリマーの貧溶媒である第二の溶剤とを、被送達物の存在下で混合して、前記被送達物及び前記生分解性ポリマーを含有し正又は負に帯電したナノ粒子の分散物を得る分散工程を含む、イオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<2> 前記溶液における前記生分解性ポリマーの濃度が、20w/v%以下である、前記<1>に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<3> 前記生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ(乳酸−グリコール酸)からなる群から選択される少なくとも1種である、前記<1>又は<2>に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<4> 前記溶液と前記第二の溶剤とを、体積比1:1〜1:20の範囲で混合する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<5> 二糖類の存在下で、前記ナノ粒子の分散物から、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤の少なくとも一部を除去する乾燥工程を更に含む、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<6> 前記二糖類は、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース及びセロビオースからなる群から選択される少なくとも1種である、前記<5>に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
<7> 被送達物及び生分解性ポリマーを含有し、正又は負に帯電し、体積平均粒子径が1μm未満であり、且つ水系分散物としたときのゼータ電位の絶対値が10mV以上である、イオントフォレシス用ナノ粒子。
<8> 被送達物及び生分解性ポリマーを含有し、正又は負に帯電し、体積平均粒子径が1μm未満であり、且つ分散安定剤の含有量が3質量%以下である、イオントフォレシス用ナノ粒子。
<9> 体積平均粒子径が100nm以下である、前記<7>又は<8>に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分散安定剤の使用を要せずに、ナノ粒子が安定に分散した分散物を調製することができ、正または負に帯電したナノ粒子を調製することができる。
したがって、本発明によれば、経皮吸収率の高いイオントフォレシス用のナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係るナノ粒子の体積平均粒子径の経時変化の一例を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に係るナノ粒子の体積平均粒子径の経時変化の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例に係るナノ粒子の粒子径分布の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例に係るナノ粒子の電子顕微鏡像の一例である。
【図5】本発明の比較例に係るナノ粒子の電子顕微鏡像の一例である。
【図6】本発明の実施例に係るナノ粒子のゼータ電位の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例に係るナノ粒子の電気移動度の一例を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例に係るナノ粒子を用いたときの、インドメタシン(IM)の皮膚透過量の一例を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例に係るナノ粒子を用いたときの、IMの皮膚内蓄積量の一例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例に係るナノ粒子を用いたときの、IMの血中移行量の一例を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例に係るナノ粒子を用いたときの、IMの皮膚内蓄積量の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例に係るナノ粒子を用いたときの、IMの筋肉内蓄積量の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本明細書において「w/v%」は、組成物の容積100mL当たりに含まれる各成分の質量(g)、即ち「各成分の質量(g)/組成物の容積100mL」を表す。
【0014】
本発明で粒子についていうナノサイズとは、粒子の体積平均粒子径が1μm未満であることをいう。本発明でいうナノ粒子とは、その体積平均粒子径が1μm未満の粒子である。ナノ粒子の体積平均粒子径は当該分野で公知の方法(例えば、市販の湿式粒子径測定装置)によって測定することができる。
【0015】
<イオントフォレシス用ナノ粒子>
本発明のイオントフォレシス用ナノ粒子(以下、「ナノ粒子」ともいう。)は、被送達物の少なくとも1種及び生分解性ポリマーの少なくとも1種を含み、その表面が正又は負に帯電しており、且つ体積平均粒子径が1μm未満である。
前記ナノ粒子は、イオントフォレシスによる経皮吸収に優れ、したがって被送達物の経皮吸収率を高めることができる。
前記ナノ粒子は、後述する本発明の製造方法によって製造することができる。
【0016】
[被送達物]
前記ナノ粒子は、被送達物の少なくとも1種を含む。被送達物としては、疎水性の化合物でもよく、親水性の化合物でもよい。親水性の化合物は、単独では経皮吸収されにくいが、前記ナノ粒子に包摂されることにより経皮吸収されやすくなる。疎水性の化合物は、前記ナノ粒子に包摂されることにより、より安定に経皮吸収され得る。疎水性の化合物及び親水性の化合物ともに、前記ナノ粒子に包摂され、イオントフォレシスにより経皮吸収率が向上する。
【0017】
前記ナノ粒子に含まれる被送達物としては、生物活性物質と診断薬とを挙げることができる。生物活性物質とは、生体内で所望の生物学的活性、例えば治療的活性、予防的活性、診断的活性、美容的活性などを有する化学物質である。また、診断薬とは疾病の診断や臓器の機能検査に用いられる化学物質である。これらの被送達物は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
生物活性物質の例としては、生物学的活性を有する、無機化合物、有機化合物、ペプチド、ポリペプチド、核酸、多糖、ビタミン等を挙げることができる。生物活性物質の生物学的活性としては、血管作用、向神経作用、ホルモン作用、抗凝血作用、免疫調節作用、消炎鎮痛作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、抗原作用、抗体作用、アンチセンス活性、抗酸化作用、保湿作用、等を挙げることができる。
【0019】
生物活性物質は、全身性作用及び局所性作用のいずれを有するものでもよい。特に有用な生物活性物質としては、各種のビタミン及びその誘導体、各種のホルモン(例えば、インスリン、エストラジオール等)、消炎鎮痛薬(例えば、インドメタシン、ケトプロフェン、フェルビナク等)、癌の治療薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、アドリアマイシン、5−FU、パクリタキセル等)、高血圧の治療薬(例えば、クロニジン、プラゾシン、プロプラノロール、ラベタロール、ブニトロロール、レセルピン、ニフェジピン、フロセミド等)、美白成分(ビタミンC誘導体、トラネキサム酸等)等を挙げることができる。
【0020】
前記ナノ粒子には、診断のために、分析対象物を検出するための生物活性物質を含有させることができる。例えば、抗原、抗体(モノクローナル又はポリクローナル)、レセプター、ハプテン、酵素、タンパク質、ポリペプチド、核酸(たとえば、DNA又はRNA)、ホルモン、ポリマーを挙げることができ、これらのうち少なくとも1種を含有させることができる。
また、前記ナノ粒子を容易に検出することができるように、前記ナノ粒子自体を標識することができる。標識の例としては、種々の酵素、蛍光物質、発光物質、生物発光物質及び放射性物質を挙げることができる。適当な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼを挙げることができる。適当な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド及びフィコエリスリンを挙げることができる。発光物質の例としては、ルミノールを挙げることができる。生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンを挙げることができる。適当な放射性物質の例としては、125I、131I、35S、及びHを挙げることができる。
【0021】
前記ナノ粒子には任意の診断薬を包含させることができる。診断薬の具体的な例としては、造影剤を挙げることができる。造影剤としては、ポジトロン断層撮影法(PET)、コンピュータ連動断層撮影法(CT)、シングルフォトンエミッションコンピュータ断層撮影法、X線、X線透視、磁気共鳴画像法(MRI)に使用される市販の薬剤を挙げることができる。診断薬は、当該分野で利用可能な標準技術及び市販の装置を用いて検出することができる。
【0022】
前記ナノ粒子中の被送達物の含有量は、特に制限されず、所望の効果、被送達物の放出速度・放出期間に依存して変化させることができる。ナノ粒子全体に対する被送達物の含有量は、ナノ粒子の安定性と被送達物の安定性の観点から、1〜50質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、3〜10質量%が更に好ましい。
【0023】
[生分解性ポリマー]
前記ナノ粒子は、生分解性ポリマーの少なくとも1種を含む。生分解性ポリマーを含んで形成されたナノ粒子は、酵素的分解又は生体中で水に曝されることにより、生体に無害な物質にまで分解され得る。
【0024】
本発明において生分解性ポリマーは、解離性基を有することが好ましい。これにより、前記ナノ粒子の表面を正又は負に帯電させることができる。解離性基は、アニオン性でもカチオン性でもよい。本発明において、アニオン性の解離性基とは、解離したときに負の電荷を有する基を意味し、カチオン性の解離性基とは、解離したときに正の電荷を有する基を意味する。
アニオン性の解離性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられ、ナノ粒子の生物学的安全性や分散安定性の観点から、上記に例示した基が好ましい。生分解性ポリマーは、1種又は2種以上のアニオン性の解離性基を有していてよい。
カチオン性の解離性基としては、例えば、4級アンモニウム基やアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の低級アルキル基で置換された1級〜3級アミノ基等が挙げられ、ナノ粒子の生物学的安全性や分散安定性の観点から、上記に例示した基が好ましい。生分解性ポリマーは、1種又は2種以上のカチオン性の解離性基を有していてよい。
【0025】
解離性基を有する生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、ポリビニル化合物、及び多糖類を挙げることができる。ポリエステル化合物の具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸及びこれらの共重合体を挙げることができる。ポリアミド化合物の具体例としては、ポリリシン、ポリグルタミン酸を挙げることができる。ポリビニル化合物の具体例としては、ポリアミノアルキルメタクリレートを挙げることができる。多糖類の具体例としては、キトサンを挙げることができる。これらの生分解性ポリマーは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
上記の生分解性ポリマーのうち、生体適合性、生分解性、溶液又は分散液中での安定性等の観点から、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)、キトサン及びポリアミノアルキルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましい。ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ(乳酸−グリコール酸)は、アニオン性の解離性基を有し、これらの生分解性ポリマーを含む前記ナノ粒子は、負に帯電する。キトサン及びポリアミノアルキルメタクリレートは、カチオン性の解離性基を有し、これらの生分解性ポリマーを含む前記ナノ粒子は、正に帯電する。
【0026】
前記ナノ粒子は、解離性基を有しない生分解性ポリマーを含んでいてもよい。このようなポリマーの例としては、ポリカーボネート化合物、ポリビニル化合物(例えば、ポリアルキルシアノアクリレート)、多糖類(例えば、セルロース)等が挙げられる。
【0027】
前記ナノ粒子は、生分解性ポリマーの種類及び分子量を適宜選択することで、被送達物の放出速度、ナノ粒子の生分解速度を制御することができる。例えば、前記生分解性ポリマーがポリ(乳酸−グリコール酸)である場合、好ましい分子量は1500〜150000であり、より好ましくは1500〜75000である。また、前記生分解性ポリマーが共重合体である場合には、モノマーの組成比率を適宜選択することで、被送達物の放出速度、ナノ粒子の生分解速度を制御することができる。
【0028】
前記ナノ粒子における生分解性ポリマーの含有量には特に制限はない。生分解性ポリマーの含有量は、ナノ粒子の全質量に対して、50〜99質量%であることが好ましく、80〜98質量%であることがより好ましく、90〜97質量%であることが更に好ましい。
【0029】
[イオントフォレシス用ナノ粒子の物性]
−粒子径−
前記ナノ粒子の粒子径は、被送達物の種類やイオントフォレシスを適用する生体部位に応じて、変更することができる。
前記ナノ粒子は、経皮吸収率の観点から、その体積平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることが更に好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。また、前記ナノ粒子は、被送達物の包摂量の観点から、その体積平均粒子径が10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましく、40nm以上であることが特に好ましい。
前記ナノ粒子の体積平均粒子径は、当該分野で公知の方法(例えば、市販の湿式粒子径測定装置)によって測定することができる。
前記ナノ粒子の体積平均粒子径は、後述する本発明の製造方法によって制御することができる。
【0030】
−ゼータ電位−
前記ナノ粒子は、水系分散物としたときのゼータ電位の絶対値が10mV以上であることが好ましい。
本発明においてゼータ電位は、リン酸緩衝液(イオン強度0.154mol/L、pH7.4)にナノ粒子を固形分濃度0.01w/v%で分散させた水系分散物を試料として、温度25℃の下で測定される。ゼータ電位は、市販の測定装置を用い当該分野で公知の方法(例えば、電気泳動光散乱法)によって測定することができる。
【0031】
前記ゼータ電位は、絶対値が10mV以上であると、イオントフォレシスによって前記ナノ粒子の経皮吸収率が増強される点で有利である。前記ゼータ電位の絶対値は、イオントフォレシス適用時の経皮吸収率の観点から、20mV以上であることがより好ましく、30mV以上であることが更に好ましく、40mV以上であることが特に好ましく、50mV以上であることが最も好ましい。前記ゼータ電位の絶対値は、その上限に特に制限はない。
前記ゼータ電位の絶対値は、前記ナノ粒子に含まれる解離性基を有する生分解性ポリマーの種類やその含有量によって制御することができる。
【0032】
−分散安定剤の含有量−
前記ナノ粒子は、ナノ粒子の全質量に対する分散安定剤の含有量が3質量%以下であることが好ましい。前記含有量が3質量%以下であると、粒子表面の正又は負の帯電度が良好であり、そのためイオントフォレシスによって前記ナノ粒子の経皮吸収率が増強される点で有利である。
また、前記ナノ粒子は、分散安定剤の含有量が3質量%以下と低く、生物学的安全性に優れる。
前記含有量は、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下である。前記ナノ粒子は、分散安定剤を実質的に含まないことが更に好ましく、含まないことが特に好ましい。
分散安定剤の含有量3質量%以下は、後述する本発明の製造方法によって達成することができる。
【0033】
本発明において、分散安定剤とは、超音波法・液中乾燥法などのナノ粒子調製方法において、液中のナノ粒子の分散状態を安定化させる目的で添加される、界面活性剤、乳化剤、懸濁安定剤などを指す。分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース等の高分子化合物;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、四級アンモニウム塩類等の陽イオン性界面活性剤;ベタイン型、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0034】
前記ナノ粒子における分散安定剤の含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いた従来公知の方法で測定することができる。
また、分散安定剤の種類によっては、色素との間で錯体を形成させ比色定量を行う、従来公知の比色定量法で測定することができる。例えば、PVAの場合、ヨウ素と錯体を形成させる比色定量法で含有量を測定できる(例えば、Journal of Controlled Release, 82(2002)105-114を参照)。本発明においては、前記ナノ粒子の全質量に対するPVAの含有量は、3質量%以下であることが好ましい。前記PVAの含有量は、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下である。前記ナノ粒子は、PVAを実質的に含まないことが更に好ましく、含まないことが特に好ましい。
【0035】
[イオントフォレシス]
本発明におけるイオントフォレシスは、直流式でも交流式でもよく、従来公知の方法を採用してよい。
イオントフォレシスを適用する生体部位は、特に制限されず、被送達物に期待される作用によって選択してよい。また、生体部位は、皮膚に限らず粘膜でもよい。
【0036】
<イオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法>
本発明のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法は、
解離性基を有する生分解性ポリマー、及び前記生分解性ポリマーの良溶媒である第一の溶剤を含む溶液(以下、「ポリマー溶液」ともいう。)と、
前記第一の溶剤と相溶性であり、前記第一の溶剤のルイス酸又はルイス塩基であり、且つ前記生分解性ポリマーの貧溶媒である第二の溶剤とを、
被送達物の存在下で混合して、前記被送達物及び前記生分解性ポリマーを含有し正又は負に帯電したナノ粒子の分散物を得る分散工程を含む。
本発明の製造方法によれば、分散安定剤の付加的な使用を要せずに、ナノサイズの粒子が安定に分散した分散物を調製することができ、被送達物を含み正または負に帯電したナノ粒子を調製することができる。したがって、本発明の製造方法によれば、経皮吸収率の高いイオントフォレシス用のナノ粒子を調製することができる。
本発明の製造方法によって製造されたナノ粒子は、付加的な分散安定剤を実質的に含まず、生物学的安全性に優れる。また、前記ナノ粒子は、付加的な分散安定剤によって粒子表面が被覆されておらず、且つナノサイズであるため、イオントフォレシスによる経皮吸収率が高い。
【0037】
本発明の製造方法は、二液の混合のみで体積平均粒子径数百nmの粒子を得ることができ、調製操作が非常に簡便である。また、使用する溶剤の種類や、前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤の体積比、前記ポリマー溶液に含まれる解離性基を有する生分解性ポリマーの濃度を変化させることで、粒子径の制御が容易に行える。更に、ナノ粒子の分散物に剪断力や超音波といった機械的エネルギーを加えることで、より小さな粒子を得ることも可能である。本発明の製造方法によれば、体積平均粒子径100nm以下のナノ粒子、更には体積平均粒子径50nm以下のナノ粒子を得ることができ、角質細胞間隙を介して効率的に吸収され得るナノ粒子を製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法における解離性基を有する生分解性ポリマー及び被送達物は、既述のイオントフォレシス用ナノ粒子における解離性基を有する生分解性ポリマー及び被送達物と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0039】
(分散工程)
本発明における分散工程は、前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とを被送達物の存在下で混合して、被送達物及び生分解性ポリマーを含有し正又は負に帯電したナノ粒子の分散物を得る工程である。
【0040】
前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とを混合する方法は、通常行なわれる溶液の混合方法を特に制限なく適用することができる。例えば、前記ポリマー溶液を前記第二の溶剤に一度に注入してもよく、滴下して注入してもよい。また、前記第二の溶剤を前記ポリマー溶液に一度に注入してもよく、滴下して注入してもよい。製造効率の観点からは、一方を他方に一度に注入することが好ましい。粒子径を制御する観点からは、前記ポリマー溶液を前記第二の溶剤に注入することが好ましい。前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とを混合する速度に特に制限はない。
前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とは、製造効率及び粒子径を制御する観点から、一度に注入して混合されることが好ましく、その際に、体積比(ポリマー溶液:第二の溶剤)1:1〜1:20の範囲で混合されることが好ましく、1:2〜1:15の範囲で混合されることがより好ましく、1:5〜1:10の範囲で混合されることが更に好ましい。
【0041】
前記分散工程においては、被送達物の存在下で、前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とを混合する。本発明においては、混合する二液の少なくとも一方に被送達物を添加しておけばよく、被送達物を添加する時期は問わない。例えば、前記ポリマー溶液の調製時に被送達物を添加してもよく、混合の直前に前記ポリマー溶液に被送達物を添加してもよい。また、前記第二の溶剤に被送達物を添加して溶液を調製し、この溶液を前記ポリマー溶液との混合に供してもよい。
混合する二液のいずれに被送達物を含有せしめるかは、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤に対する被送達物の溶解性によって決定することができる。被送達物が生分解性ポリマーに包摂されやすく、また、前記ナノ粒子において被送達物が安定に存在する観点からは、被送達物を前記ポリマー溶液に含有せしめるのが好ましい。
【0042】
前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とは、前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とが相溶性であることから、一方を他方に注入したとき瞬時に混和する。すると、両溶媒間の局所的な表面張力及び濃度変化によりマランゴニ対流が発生し、迅速な溶媒拡散が起こり、ナノ粒子が析出するものと推測される。
また、前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、互いにルイス酸とルイス塩基の関係にあるので、両溶剤間で電気的相互作用が起こる。それにより、生分解性ポリマーとその良溶媒(前記第一の溶剤)との間で優先的溶媒和(Preferential Solvation)が発生し、良溶媒の溶媒和殻が生分解性ポリマーを包み込み、ナノ粒子の分散安定性を向上させるものと推測される。したがって、本発明によれば、付加的な分散安定剤の存在を要せず、前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤との混合液中でナノ粒子の分散状態を安定に保持できるものと推測される。
【0043】
[第一の溶剤及び第二の溶剤]
前記第一の溶剤は、解離性基を有する生分解性ポリマーの良溶媒であり、前記第二の溶剤は、前記生分解性ポリマーの貧溶媒である。
本発明において、前記生分解性ポリマーの「良溶媒」及び「貧溶媒」とは、当技術分野で通常用いられる意味で使用される用語である。即ち、良溶媒とは、前記生分解性ポリマーの溶解度が大きい溶媒を意味し、貧溶媒とは、前記生分解性ポリマーの溶解度が小さい溶媒又は前記生分解性ポリマーを溶解しない溶媒を意味する。
例えば「良溶媒」及び「貧溶媒」は、温度25℃における溶媒100gに溶解し得る前記生分解性ポリマーの質量で規定することができる。本発明においては、良溶媒は、前記生分解性ポリマーを0.1g以上溶解し得る溶媒であることが好ましい。一方、貧溶媒は、前記生分解性ポリマーを0.05g以下しか溶解し得ない溶媒であることが好ましい。
【0044】
前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、相溶性である。本発明において「相溶性」とは、互いに溶け合い均一な溶液を形成できることを意味する。
【0045】
前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、互いにルイス酸とルイス塩基の関係にある。両者は、前記第一の溶剤がルイス酸で前記第二の溶剤がそのルイス塩基の組合せでもよく、前記第一の溶剤がルイス塩基で前記第二の溶剤がそのルイス酸の組合せでもよい。前記第一の溶剤と前記第二の溶剤は、互いの酸性度と塩基性度の強弱によって、一方がルイス酸となり、他方がルイス塩基となる。前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、塩基性度の高い溶剤と酸性度の高い溶剤との組合せが好ましい。
【0046】
前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、例えば以下のようにして選択すればよい。
先ず、ナノ粒子に含有せしめる生分解性ポリマーの種類によって、その良溶媒となる溶剤を前記第一の溶剤として選択する。そして、上記生分解性ポリマーの貧溶媒のなかから、前記第一の溶剤と相溶性を有する溶剤を前記第二の溶剤として選択する。
通常、生分解性ポリマーがアニオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤がルイス塩基で、前記第二の溶剤がルイス酸となる組合せにすればよい。生分解性ポリマーがカチオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤がルイス酸で、前記第二の溶剤がルイス塩基となる組合せにすればよい。
【0047】
ほかに、前記第一の溶剤と前記第二の溶剤とは、例えば以下のようにして選択すればよい。
先ず、本発明においては、水を第二の溶剤とすることが好ましい。水は、拡散速度が大きく、前記第一の溶剤と混合したとき速やかに拡散し、そのためナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。また、水は、後述する乾燥工程で使用する二糖類の溶解度が高い点でも有利である。
水は、両性溶媒であり、前記第一の溶剤の種類によって、そのルイス酸にもルイス塩基にもなる。通常、生分解性ポリマーがアニオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤は、水に対してルイス塩基となる溶媒を選択すればよい。生分解性ポリマーがカチオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤は、水に対してルイス酸となる溶媒を選択すればよい。
【0048】
前記生分解性ポリマーがアニオン性の解離性基を有する場合、ポリマーの種類によるが、前記第一の溶剤としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリル(MeCN)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルプロピルケトン、アセトン、イソプロピルアセテート、メチルアセテートル、エチルホルメート、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。この場合、前記第二の溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジエチルエーテル;酢酸、ギ酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸等のカルボン酸、乳酸、クエン酸、グリコール酸等のαヒドロキシ酸、フタル酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、塩酸、リン酸;酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記第一の溶剤としては、生分解性ポリマーの溶解度やナノ粒子の分散安定性の観点から、NMPが特に好ましい。NMPは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)等の溶解度が高い。また、NMPは、経皮吸収製剤の吸収促進効果を有するので、ナノ粒子の周囲に残存していると、経皮吸収率の向上が期待できる。
前記第二の溶剤としては、水及びエタノールが好ましく、水が特に好ましい。
前記生分解性ポリマーがアニオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤と前記第二の溶剤の組合せとしては、前記第一の溶剤として上に列挙した溶剤と、前記第二の溶剤として上に列挙した溶剤の組合せが好ましい。
【0049】
前記生分解性ポリマーがカチオン性の解離性基を有する場合、ポリマーの種類によるが、前記第一の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジエチルエーテル;酢酸、ギ酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸等のカルボン酸、乳酸、クエン酸、グリコール酸等のαヒドロキシ酸、フタル酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、塩酸、リン酸;酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。この場合、前記第二の溶剤としては、例えば、水、ジエチルエーテル、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらの溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記第一の溶剤としては、生分解性ポリマーの溶解度やナノ粒子の分散安定性の観点から、エタノール等のアルコール類、酸が好ましい。前記第二の溶剤としては、水が好ましい。
前記生分解性ポリマーがカチオン性の解離性基を有する場合、前記第一の溶剤と前記第二の溶剤の組合せとしては、前記第一の溶剤として上に列挙した溶剤と、前記第二の溶剤として上に列挙した溶剤の組合せが好ましい。
【0050】
本発明においては、負に帯電した前記ナノ粒子を得たいとき、前記ポリマー溶液は、生分解性ポリマーとしてアニオン性の解離性基を有する生分解性ポリマーの少なくとも1種を含み、中でもポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリ(乳酸−グリコール酸)の少なくとも1種を含むことが好ましい。一方、正に帯電した前記ナノ粒子を得たいとき、前記ポリマー溶液は、生分解性ポリマーとしてカチオン性の解離性基を有する生分解性ポリマーの少なくとも1種を含み、中でもポリアミノアルキルメタクリレートを含むことが好ましい。上記の生分解性ポリマーは、生物学的安全性やナノ粒子の分散安定性、イオントフォレシス適用時の経皮吸収率の観点から、有利である。
また、正に帯電した前記ナノ粒子を得るために、前記ポリマー溶液にキトサンと、アニオン性の解離性基を有する生分解性ポリマー〔例えば、ポリ(乳酸−グリコール酸)〕とを含有せしめて、アニオン性の解離性基を有する生分解性ポリマーからなる核のまわりにキトサンが配置したナノ粒子を得てもよい。
【0051】
前記生分解性ポリマーがポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリ(乳酸−グリコール酸)の少なくとも1種である場合、製造効率やナノ粒子の分散安定性の観点から、前記第一の溶剤がNMPで、前記第二の溶剤が水及びエタノールのいずれかである組合せが好ましい。更に、ナノ粒子の経時安定性の観点から、前記第一の溶剤がNMPで、前記第二の溶剤が水である組合せがより好ましい。
【0052】
前記生分解性ポリマーがポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリ(乳酸−グリコール酸)の少なくとも1種で、前記第一の溶剤がNMPで、前記第二の溶剤が水である場合、前記ポリマー溶液における生分解性ポリマーの濃度(w/v%)は、体積平均粒子径100nm以下のナノ粒子を調製する観点から5%以下が好ましく、体積平均粒子径50nm以下のナノ粒子を調製する観点から1%以下が好ましい。
前記生分解性ポリマーがポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリ(乳酸−グリコール酸)の少なくとも1種で、前記第一の溶剤がNMPで、前記第二の溶剤がエタノールである場合、前記ポリマー溶液における生分解性ポリマーの濃度(w/v%)は、体積平均粒子径400nm以下のナノ粒子を調製する観点から10%以下が好ましく、体積平均粒子径300nm以下のナノ粒子を調製する観点から5%以下が好ましく、体積平均粒子径200nm以下のナノ粒子を調製する観点から2%以下が好ましく、体積平均粒子径100nm以下のナノ粒子を調製する観点から0.5%以下が好ましい。
【0053】
前記ポリマー溶液が被送達物を含むとき、前記ポリマー溶液中の解離性基を有する生分解性ポリマーと被送達物との質量比は、両者の種類に応じて選択してよく、特に制限されない。例えば、両者の質量比(生分解性ポリマー:被送達物)を99:1〜90:10の範囲にする。
【0054】
前記第二の溶剤に被送達物を添加して溶液を調製し、この溶液を前記ポリマー溶液との混合に供する場合、この溶液中の被送達物の濃度は特に制限されない。例えば、前記ポリマー溶液と混合したときに、解離性基を有する生分解性ポリマーと被送達物との質量比(生分解性ポリマー:被送達物)が99:1〜90:10の範囲になるように、前記第二の溶剤に添加する被送達物の量を選択する。
【0055】
前記ポリマー溶液を調製する方法としては、通常行なわれる溶液の調製方法を制限なく適用することができる。例えば、前記第一の溶剤に生分解性ポリマーを添加し攪拌して調製することができる。前記ポリマー溶液が被送達物も含むときは、前記第一の溶剤に生分解性ポリマー及び被送達物を添加し攪拌して調製することができる。
前記第二の溶剤に被送達物を添加して溶液を調製する場合も、上記に準じた方法で調製可能である。
【0056】
[その他の成分]
本発明において前記ポリマー溶液は、必要に応じて各種の添加剤を含有してもよい。例えば、ナノ粒子の分散性を向上させる目的で、アミノ酸又は脂質を含有してもよい。アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。脂質としては、例えば、リン脂質、コレステロール等が挙げられる。これらの添加剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、前記第二の溶剤に、必要に応じて上記の添加剤を添加してもよい。
【0057】
(乾燥工程)
本発明のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法は、二糖類の存在下で、前記ナノ粒子の分散物から、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤の少なくとも一部を除去する乾燥工程を、更に含むことが好ましい。前記乾燥工程によって、1個または複数個の前記ナノ粒子が二糖類に被覆され、前記ナノ粒子を含むマイクロサイズの粒子(以下、「ナノコンポジット粒子」という。)が形成される。
一般に、ナノサイズの粒子は、ナノサイズのままで取り扱うと、付着凝集性、不安定性、飛散性等の問題を生じやすい。また、ナノサイズの粒子を液体に分散させた分散物は、時間が経つと、粒子の凝集や粒子に含まれるポリマーの分解が起こる場合がある。ナノサイズの粒子と二糖類とを含むマイクロサイズの粒子を形成することで、上記の問題を回避することが可能である。
【0058】
前記ナノコンポジット粒子は、前記ナノ粒子の少なくとも1種と二糖類の少なくとも1種とを含む。前記ナノコンポジット粒子は、水及び水系溶媒に対して優れた溶解性を有する。前記ナノコンポジット粒子を水又は水系溶媒に溶解させたとき、ナノコンポジット粒子から前記ナノ粒子が溶出され、前記ナノ粒子の分散物を得ることができる。再分散した前記ナノ粒子は、ナノコンポジット粒子調製前のナノ粒子とほぼ同じ平均粒子径を有する分散物を与え得る。
【0059】
前記ナノコンポジット粒子は、体積平均粒子径が0.5μm〜500μmであることが好ましく、1μm〜200μmであることがより好ましい。ナノコンポジット粒子の体積平均粒子径は、例えば、乾式粒子径測定装置(例えば、東日コンピュータアプリケーションズ社製、LDSA3500A)を用いて常法により測定できる。
【0060】
前記乾燥工程においては、二糖類の存在下に、前記ナノ粒子の分散物から、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤の少なくとも一部を除去する。本発明においては、ナノ粒子の分散物から溶剤を除去する際に二糖類が存在していればよく、二糖類を添加する時期は問わない。例えば、ナノ粒子の分散物を得る工程において前記ポリマー溶液あるいは前記第二の溶剤に二糖類を添加してもよく、または前記ポリマー溶液と前記第二の溶剤とを混合した後に二糖類を添加してもよい。さらに乾燥工程において溶剤を除去する直前に、ナノ粒子の分散物に二糖類を添加してもよい。二糖類は、二糖類を溶解可能で、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤と相溶性を有する溶剤に溶かして添加してもよい。
【0061】
前記ナノ粒子の分散物から、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤の少なくとも一部を除去する方法は、これら溶剤の種類によって適宜選択してよい。前記溶剤が水を含む場合、ナノ粒子の再分散性や被送達物の安定性の観点から、凍結乾燥法及び噴霧乾燥法のいずれかであることが好ましい。凍結乾燥法としては、通常用いられる凍結乾燥装置を用いて、常法により行うことができる。噴霧乾燥法としては、特開2007−277220号公報に記載の方法を採用できる。
前記溶剤が有機溶剤を含む場合、例えば、ナノ粒子の分散物を攪拌する方法、窒素ガス等の不活性ガスや空気をバブリングする方法により有機溶剤を除去できる。
前記溶剤が水と有機溶剤とを含む場合、水と有機溶剤とを共に除去してもよく、先に有機溶剤を除去してから水を除去してもよい。
【0062】
[二糖類]
前記乾燥工程で使用する二糖類は、単糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等)の2分子がグリコシド結合したものであれば、特に制限なく用いることができる。前記単糖類の組合せに制限はないが、ナノ粒子の再分散性の観点から、グルコース二分子、グルコースとフルクトース、ガラクトースとグルコースのいずれかであることが好ましい。また、グリコシド結合の態様には制限はなく、α−1,4結合、β−1,4結合、1,1結合等のいずれであってもよい。二糖類として、具体的には、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース等を挙げることができる。
本発明においては、これらの二糖類のうち、二糖類の水溶性とナノ粒子の再分散性とナノコンポジット粒子の取り扱い性の観点から、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、及びセロビオースのいずれか1種を用いることが好ましく、トレハロース又はラクトースを用いることがより好ましい。これらの二糖類は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
前記ナノコンポジット粒子における、前記ナノ粒子と二糖類の質量比(ナノ粒子:二糖類)は、前記ナノ粒子の再分散性の観点から、10:1〜1:10の範囲が好ましい。
【0064】
[その他の成分]
前記ナノコンポジット粒子には、必要に応じて各種の添加剤を含有させることができる。添加剤の例としては、緩衝塩、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン脂質、無機化合物、リン酸塩等を挙げることができる。これら添加剤は、前記乾燥工程において溶剤を除去する直前に、ナノ粒子の分散物に添加すればよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、本発明の製造方法を、Nanoprecipitation法と称する。
【0066】
(実施例1)Nanoprecipitation法によるナノ粒子の粒子径の調整
ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA、乳酸:グリコール酸=75:25、重量平均分子量10000、和光純薬工業社製)を、PLGAの良溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた。このとき、PLGA濃度が与える粒子径への影響を調べるため、PLGAの濃度(w/v%)を0.5%、1%、2%、5%及び10%とした。各濃度のPLGA溶液2mLを、PLGAの貧溶媒である水20mL又はエタノール20mLに注ぎ入れ、ナノ粒子を形成させた。
湿式粒子径測定装置(大塚電子株式会社製、ELS−800)を用いて、二液の混合後0時間、1時間、3時間、6時間、24時間の粒子径分布を測定し体積平均粒子径(nm)を求めた。水を使用したときの結果を表1及び図1に示し、エタノールを使用したときの結果を表2及び図2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1及び2並びに図1及び2からわかるとおり、NMP中のPLGAの濃度と粒子径との間に相関が認められ、PLGA濃度が高いほど粒子径が大きかった。
この結果から、Nanoprecipitation法において、良溶媒中の生分解性ポリマーの濃度を変化させることで、生分解性ポリマーからなる粒子の粒子径の制御が可能であることが示された。また、Nanoprecipitation法において、良溶媒中の生分解性ポリマーの濃度を調節することにより、体積平均粒子径100nm以下のナノ粒子を調製することが可能であることが示された。
【0070】
(実施例2)Nanoprecipitation法によるナノ粒子の調製
(1)ナノ粒子の調製
被送達物としてインドメタシン(IM、和光純薬工業社製)、及び生分解性ポリマーとしてPLGAをNMPに溶解させた。このとき、IMとPLGAの質量比をIM:PLGA=6:94とし、NMP中のIMとPLGAの合計濃度(w/v%)を5%とした。このIM/PLGA溶液2mLを水20mLに注ぎ入れ、ナノ粒子を形成させた。次いで、NMPと、ナノ粒子中に内包されなかったIMを除去するため、透析洗浄を行い、水にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物を得た。
【0071】
(2)ナノコンポジット粒子の調製
前記分散物にトレハロース二水和物を添加し、IM含有PLGAナノ粒子が分散しているトレハロース水溶液を得た。このとき、IM含有PLGAナノ粒子とトレハロース二水和物の質量比を、ナノ粒子:トレハロース二水和物=1 : 7.5とした。次いで、この水溶液を、凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−1200)を用いて凍結乾燥させ、残留物としてナノコンポジット粒子を得た。
【0072】
(比較例1)超音波法・液中乾燥法によるナノ粒子の調製
(1)ナノ粒子の調製
IM60mg及びPLGA940mgを、ジクロロメタン10mLとアセトン10mLの混合液に溶解させ、ポリビニルアルコール(PVA、重合度500)の水溶液(2w/v%PVA)に加えた。超音波発生装置を用いて、5分間超音波処理を行い、O/Wエマルションを調製した。次いで、O/Wエマルションを一昼夜攪拌し、有機溶剤を蒸散させた。その後、40000rpmで30分間遠心し、粒子を沈殿させた。上清を除き精製水を加え、超音波をかけながらピペッティングし、粒子を再分散させた。遠心、再分散の操作を合計3回繰り返し、PVAを洗浄除去した。凝集塊を取り除くため、遠心分離(10000rpm、10分)を行い、上清を回収し、水にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物を得た。
【0073】
(2)ナノコンポジット粒子の調製
前記分散物1mLに対して50mgのトレハロース二水和物を添加し、IM含有PLGAナノ粒子が分散しているトレハロース水溶液を得た。この水溶液を、凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−1200)を用いて凍結乾燥させ、残留物としてナノコンポジット粒子を得た。
【0074】
(実施例3)ナノ粒子の特性の評価
実施例2及び比較例1で得た各ナノコンポジット粒子をそれぞれ、水に添加しナノ粒子を再分散させ、水にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物を調製し、以下の(1)及び(2)の実験に供した。
【0075】
(1)粒子径分布と粒子の形態
湿式粒子径測定装置(大塚電子株式会社製、ELS−Z)を用いて、粒子径分布を測定した。その結果を図3に示す。
また、図4及び5に、ナノ粒子の走査電子顕微鏡像の一例を示す。図4がNanoprecipitation法によって得たナノ粒子の像であり、図5が超音波法・液中乾燥法によって得たナノ粒子の像である。
【0076】
図3からわかるとおり、Nanoprecipitation法によって得たIM含有PLGAナノ粒子と、超音波法・液中乾燥法によって得たIM含有PLGAナノ粒子とは、粒子径分布がほぼ一致していた。両者とも、体積平均粒子径は100nmであった。
図4及び5に示すとおり、Nanoprecipitation法、超音波法・液中乾燥法とも、ナノサイズの球形の粒子が調製できていた。
【0077】
(2)IM内包率
IM含有PLGAナノ粒子におけるIMの内包率を、HPLCを用いて測定した。Nanoprecipitation法によって得たナノ粒子はIM内包率4.15質量%であり、超音波法・液中乾燥法によって得たナノ粒子はIM内包率4.25質量%であった。
【0078】
(3)ゼータ電位
ナノコンポジット粒子を、リン酸緩衝液(pH7.4)に添加しナノ粒子を再分散させ、リン酸緩衝液にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物(ナノ粒子の濃度0.01w/v%)を調製した。このとき、リン酸緩衝液のイオン強度(mol/L)を、9通り(0.005、0.01、0.02、0.04、0.06、0.075、0.1、0.125、0.154)に変えて分散物を調製した。
電気泳動光散乱装置(大塚電子製、ELSZ2P)を用い温度25℃下、電気泳動光散乱法によりゼータ電位(mV)を測定した。その結果を表3及び図6に示す。また、測定したゼータ電位から電気移動度(μm・cm/sec・V)を算出した。その結果を図7に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3及び図6からわかるとおり、Nanoprecipitation法によって得たIM含有PLGAナノ粒子は、リン酸緩衝液に分散させた分散物としたときのゼータ電位の絶対値が50mV以上であった。
図7からわかるとおり、Nanoprecipitation法によって得たIM含有PLGAナノ粒子は、超音波法・液中乾燥法によって得たIM含有PLGAナノ粒子に比べ、電気泳動移動度が高く、負の帯電度が大きいことが確認された。
これらの結果から、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子は、超音波法・液中乾燥法で調製したナノ粒子に比べ、粒子表面の表面電荷が大きいことが示された。
【0081】
(実施例4)被送達物の皮膚透過量のin vitro測定
実施例2及び比較例1で得た各ナノコンポジット粒子をそれぞれ、5mMのNaCl溶液に添加しナノ粒子を再分散させ、NaCl溶液にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物を調製した。このとき、分散物中のIM濃度が0.025質量%となるようにナノ粒子をNaCl溶液に添加した。また、各分散物のトレハロース濃度を揃えるため、超音波法・液中乾燥法で得たナノ粒子の分散物には、不足分の量のトレハロースを添加した。こうして調製した分散物を、ドナー溶液とした。
他方、生理食塩水を、レセプター溶液とした。
また、SDラット(雄、8週齢)の腹部をバリカンで除毛し、表皮(角質層を含む)及び真皮を含む厚さ約1mmの皮膚を摘出し、皮膚のモデルとした。
以下の受動拡散及びイオントフォレシスとも、実験回数は3回である。
【0082】
(1)受動拡散
フランツ型拡散セル(VIDREX社製)を準備し、表皮側がドナー側、真皮側がレセプター側となるようにラット皮膚を装着した(オリフィスの面積3.14cm)。レセプターチャンバーにはレセプター溶液30mLを満たし、ドナーチャンバーにはドナー溶液3mLを付与した。レセプター溶液は、ラットの皮膚の表面温度である32℃に維持した。
ドナー溶液の皮膚表面への付与後0時間、2時間、4時間、6時間、8時間ごとに、レセプター溶液1mLを採取した。レセプター溶液の採取ごとに生理食塩水1mLをレセプターチャンバーに加え、レセプター溶液を30mLに維持した。
【0083】
(2)イオントフォレシス
上記(1)受動拡散と同様にして、実験を行った。ただし、ドナー側とレセプター側にAg/AgCl電極をつなぎ、ドナー側を陰極、レセプター側を陽極にして、電圧3V/cmを印加した。
【0084】
(3)HPLCによるIM量の定量
採取したレセプター溶液1mLに、内標準溶液(フルフェナム酸(FM)をアセトニトリルに溶かした4.0×10−4w/v%FM溶液)0.5μLと、徐タンパクする目的でアセトニトリル0.5μLを加え、4000rpmで10分間遠心した。回収した上清1mLに移動相1mLを加え、IM定量用のサンプルとした。
内標準溶液、アセトニトリル、移動相、及び生理食塩水を、IM定量用のサンプルと同様の組成になるように混合し、さらにIMを所定量添加し、検量線用のサンプルとした。
HPLC(島津製作所製)の条件を下記のとおりに設定してIMを定量し、単位皮膚面積当りの累積透過量(IM量をオリフィスの面積で除した値)(μg/cm)を求めた。その結果を表4及び図8に示す。
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS−HG−5(4.6×150mm)
カラム温度:40℃
流量:1.5mL/分
分析時間:10分間
移動相:アセトニトリル/0.1M酢酸水溶液(体積比11:9)
洗浄溶液:アセトニトリル/水(体積比11:9)
【0085】
【表4】

【0086】
表4及び図8からわかるとおり、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子を用いたとき、超音波法・液中乾燥法で調製したナノ粒子を用いたときに比べ、イオントフォレシスを適用した場合のIMの皮膚透過量が顕著に高かった。
この結果から、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子は、イオントフォレシスにより皮膚透過性が著しく向上することが示された。
【0087】
(実施例5)被送達物の皮膚内蓄積量のin vitro測定
実施例4で使用した皮膚を、実験に供した後、液体窒素で凍結させた(受動拡散及びイオントフォレシスごとに3サンプル)。凍結した皮膚を、50mL共栓遠心沈殿管に粉砕して入れ、内標準溶液(FMをメタノールに溶かした4.0×10−3w/v%FM溶液)1mL及びメタノール10mLを入れ、60分間振とうした。3000rpmで10分間遠心し、上清を0.45μmフィルターを用いて、10mL共栓遠心沈殿管にろ過した。ろ液から、吹付け式試験管濃縮装置(EYELA社製、MGS−HEAT)を用いて60℃下、窒素ガスによりメタノールを留去した。留去後、残留物に0.5Mクエン酸緩衝液(pH5)1mL及びトルエン5mLを添加し、15分間振とうした。3000rpmで10分間遠心し、分離したトルエン層を採取し、吹付け式試験管濃縮装置を用いて60℃下、窒素ガスによりトルエンを留去した。留去後、残留物に移動相2mLを加え再分散させ、IM定量用のサンプルとした。
内標準溶液1mLと、IMを所定の濃度で溶かしたメタノール10mLを混合し、吹付け式試験管濃縮装置を用いて60℃下、窒素ガスによりメタノールを留去した。留去後、残留物に移動相2mLを加え再分散させ、検量線用サンプルとした。
HPLCの条件を実施例4と同じに設定してIMを定量し、皮膚内に蓄積したIM量(μg)を求めた。その結果を表5及び図9に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
表5及び図9からわかるとおり、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子を用いたとき、超音波法・液中乾燥法で調製したナノ粒子を用いたときに比べ、受動拡散及びイオントフォレシスともに、IMの皮膚内蓄積量が顕著に高かった。これは、Nanoprecipitation法で調製した場合、ナノ粒子の表面が分散安定剤で被覆されていないために、PLGAに起因する疎水性が発揮され、ナノ粒子と角質層との親和性が上昇したことによるものと考えられた。
【0090】
実施例4と実施例5の結果をまとめると、以下のとおりである。
IMの皮膚透過量は、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子にイオントフォレシスを適用すると顕著に増大した。
一方、IMの皮膚内蓄積量は、受動拡散及びイオントフォレシスともに、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子を用いた方が顕著に多かった。
【0091】
ところで、薬剤は、経皮吸収において、下記の挙動を示すものと考えられている。
(i)角質層への分配
(ii)角質層中での拡散
(iii)角質層から表皮(角質層を含まない)への分配
(iV)以下、各組織での拡散とより深部の組織への分配
角質層は脂溶性が高いため、脂溶性の高い薬剤は、脂溶性の低い薬剤に比べ、角質層への分配効率がはるかに高い。一方、角質層より内側の層は脂溶性が低いため、脂溶性の高い薬剤は、脂溶性の低い薬剤に比べ、角質層から内側への分配効率が低い。したがって、薬剤は、脂溶性が高すぎると、角質層に滞留しやすい。
【0092】
実施例5に明らかなとおり、IMの皮膚内蓄積量は、イオントフォレシス適用の有無にかかわらず、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子を用いた方が多かった。これは、超音波法・液中乾燥法で調製したPLGAナノ粒子がPVAで被覆されているため親水性であるのに対し、Nanoprecipitation法で調製したPLGAナノ粒子は疎水性であることよるものと考えられた。
そして、Nanoprecipitation法で調製したPLGAナノ粒子にイオントフォレシスを適用した場合、ナノ粒子表面の電荷が輸送駆動力となることで、受動拡散では起こりにくい角質層から内側への分配が著しく促進され、その結果、IMの皮膚透過量が顕著に多くなると考えられた。
【0093】
(実施例6)被送達物の血中移行量、皮膚内蓄積量及び筋肉内蓄積量のin vivo測定
実施例4と同様にして、NaCl溶液にIM含有PLGAナノ粒子が分散した分散物を調製し、ドナー溶液とした。
他方、生理食塩水を、レセプター溶液とした。
また、SDラット(雄、8週齢)を、生体モデルとして使用した。ラットは、大腿部皮下にペントバルビタールナトリウム(6.48mg/100g体重)を注射し、保定台の上に仰向けにのせ、四肢を紐で保定台に固定した。胸部から後肢付け根にかけた一帯の毛を、バリカンを用いて除毛した。
以下の受動拡散及びイオントフォレシスとも、実験回数は3回である。
【0094】
(1)受動拡散
ドナー溶液500μLを染み込ませた脱脂綿(2cm×2cm)を、ラット腹部に載置した。3時間経過後、ヘパリン処理した採血用シリンジ及び針を用い、ラットの心臓に針を挿入し、約1mLの血液を採取し、ヘパリン処理したエッペンドルフチューブに入れた。マイクロ冷却遠心機を用い4℃下、3000rpmで10分間遠心した。血漿を採取し、冷凍庫(−30℃)に保存した。
脱脂綿を載置した面下に位置する皮膚と筋肉をそれぞれ摘出し、冷凍庫(−30℃)に保存した。
【0095】
(2)イオントフォレシス
ドナー溶液500μLを染み込ませた脱脂綿(2cm×2cm)を、ラット腹部の前肢側に載置した。また、レセプター溶液500μLを染み込ませた脱脂綿(2cm×2cm)を、ラット腹部の後肢側に載置した。ドナー側脱脂綿とレセプター側脱脂綿にAg/AgCl電極をつなぎ、ドナー側を陰極、レセプター側を陽極にして、電圧3V/cmを3時間印加した。3時間経過後、ヘパリン処理した採血用シリンジ及び針を用い、ラットの心臓に針を挿入し、約1mLの血液を採取し、ヘパリン処理したエッペンドルフチューブに入れた。マイクロ冷却遠心機を用い4℃下、3000rpmで10分間遠心した。血漿を採取し、冷凍庫(−30℃)に保存した。
ドナー側脱脂綿を載置した面下に位置する皮膚と筋肉をそれぞれ摘出し、冷凍庫(−30℃)に保存した。
【0096】
(3)血漿中のIM量の定量
試験管に血漿0.3mL、内標準溶液としてフルフェナム酸1mLを入れた。0.5Mクエン酸緩衝液(pH5)1mL及びトルエン5mLを加え、15分間振とうした。3000rpmで10分間遠心し、分離したトルエン層を採取し、吹付け式試験管濃縮装置を用いて60℃下、窒素ガスによりトルエンを留去した。留去後、残留物に移動相0.5mLを加え再分散させ、IM定量用のサンプルとした。
HPLCの条件を下記のとおりに設定してIMを定量し、血漿中のIM濃度(血漿1mL当りのIM量)(μg/mL)を求めた。その結果を表6及び図10に示す。
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS−HG−5(4.6×150mm)
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/分
注入量:80μL
分析時間:45分間
移動相:アセトニトリル/0.1M酢酸水溶液(体積比11:9)
洗浄溶液:アセトニトリル/水(体積比11:9)
【0097】
(4)皮膚内及び筋肉内のIM量の定量
実施例5と同様にして、凍結した皮膚及び筋肉からIM定量用のサンプルを調製した。
HPLCの条件を下記のとおりに設定してIMを定量し、単位組織量当りのIM量(μg/g)を求めた。皮膚についての結果を表7及び図11に示し、筋肉についての結果を表8及び図12に示す。
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS−7(4.6×250mm)
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/分
注入量:80μL
分析時間:60分間
移動相:アセトニトリル/0.1M酢酸水溶液(体積比11:9)
洗浄溶液:アセトニトリル/水(体積比11:9)
【0098】
【表6】

【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
表6〜8及び図10〜12からわかるとおり、IMの血中移行量、皮膚内蓄積量及び筋肉内蓄積量すべてが、Nanoprecipitation法で調製したIM含有PLGAナノ粒子を用いイオントフォレシスを適用した場合に顕著に高かった。
この結果から、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子は、皮膚内の局所作用を目的としても、皮膚下の筋肉内の局所作用を目的としても、血流を介した全身作用を目的としても、優れたイオントフォレシス用DDSであることが示された。
【0102】
(実施例7)Nanoprecipitation法によるナノ粒子の調製
ポリアミノアルキルメタクリレート[EUDRAGIT(登録商標)E PO、エボニックデグサジャパン社製、平均分子量15万](ジメチルアミノエチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メチルメタクリレートのランダムコポリマー)を、本ポリマーの良溶媒であるエタノールに溶解させた。このとき、ポリマー濃度が与える粒子径への影響を調べるため、ポリマー濃度(w/v%)を0.5%、1.0%とした。
本ポリマーの貧溶媒である水を100mLビーカーに入れ、攪拌子を用いて穏やかに攪拌しながら(500rpm)、マイクロピペット(100〜1000μL用)を用いて、ポリマー溶液を一滴ずつ滴下した。0.5%溶液は400μL、1.0%溶液は1mLを滴下した。滴下終了後直ちに攪拌を停止し、ナノ粒子の分散物を得た。
ナノ粒子の分散物の粒子径分布を、湿式粒子径測定装置(大塚電子株式会社製、ELS−Z)を用いて、滴下終了直後と3時間後に測定した。その結果を表9に示す。
【0103】
【表9】

【0104】
0.5%溶液、1.0%溶液共に安定なナノ粒子を得ることができ、滴下終了直後の体積平均粒子径はそれぞれ114.5nm、172.8nmであった。エタノール中のポリアミノアルキルメタクリレートの濃度と粒子径との間に相関が認められ、ポリマー濃度が高いほど粒子径が大きかった。
この結果から、Nanoprecipitation法において、良溶媒中の生分解性ポリマーの濃度を変化させることで、生分解性ポリマーからなる粒子の粒子径の制御が可能であることが示された。
なお、ポリアミノアルキルメタクリレートからなるナノ粒子の分散物は、3時間経過後、凝集も沈殿もなく安定に存在していたが、粒子径の減少が認められた。
【0105】
(実施例8)ナノ粒子中の分散安定剤の含有量の測定
Nanoprecipitation法及び超音波法・液中乾燥法で調製したナノ粒子における、ポリビニルアルコール(PVA)の含有量を下記の方法で測定した。
実施例2及び比較例1で得た各ナノコンポジット粒子2mgに、0.5MのNaOHを2mL加え、60℃で15分間インキュベートした。この試料に1NのHClを900μL加え中和し、精製水で5mLにボリュームアップした。次いで、0.65Mホウ酸水溶液3mL、I/KI(0.05 M/0.15 M)溶液0.5mL、及び精製水1.5mLを加えた。37℃で15分間インキュベーションを行なった後、690nmで吸光度を測定した。PVA原液で同操作を行い、検量線を作成した。実験は3回行い、その平均を算出した。
【0106】
Nanoprecipitation法で調製したナノコンポジット粒子については、3回の実験とも検量線の範囲外であり、検出限界以下であった。3回の実験とも吸光度の測定値がゼロに極めて近いことから、実質的にPVAを含まないと判断された。
超音波法・液中乾燥法で調製したナノコンポジット粒子に含まれるPVA量は、3.40質量%(標準偏差0.20)であった。このナノコンポジット粒子は、ナノ粒子とトレハロースを質量比1:1で含むので、ナノ粒子に含まれるPVA量は、6.80質量%(標準偏差0.39)と算出された。
この結果から、Nanoprecipitation法で調製したナノ粒子と、超音波法・液中乾燥法で調製したナノ粒子との表面電荷の差は、ナノ粒子の表面を修飾するPVA量によるものであることが推察された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
解離性基を有する生分解性ポリマー、及び前記生分解性ポリマーの良溶媒である第一の溶剤を含む溶液と、
前記第一の溶剤と相溶性であり、前記第一の溶剤のルイス酸又はルイス塩基であり、且つ前記生分解性ポリマーの貧溶媒である第二の溶剤とを、
被送達物の存在下で混合して、前記被送達物及び前記生分解性ポリマーを含有し正又は負に帯電したナノ粒子の分散物を得る分散工程を含む、
イオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記溶液における前記生分解性ポリマーの濃度が、20w/v%以下である、請求項1に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ(乳酸−グリコール酸)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記溶液と前記第二の溶剤とを、体積比1:1〜1:20の範囲で混合する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
二糖類の存在下で、前記ナノ粒子の分散物から、前記第一の溶剤及び前記第二の溶剤の少なくとも一部を除去する乾燥工程を更に含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記二糖類は、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース及びセロビオースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
被送達物及び生分解性ポリマーを含有し、正又は負に帯電し、体積平均粒子径が1μm未満であり、且つ水系分散物としたときのゼータ電位の絶対値が10mV以上である、イオントフォレシス用ナノ粒子。
【請求項8】
被送達物及び生分解性ポリマーを含有し、正又は負に帯電し、体積平均粒子径が1μm未満であり、且つ分散安定剤の含有量が3質量%以下である、イオントフォレシス用ナノ粒子。
【請求項9】
体積平均粒子径が100nm以下である、請求項7又は請求項8に記載のイオントフォレシス用ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−10704(P2013−10704A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143382(P2011−143382)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】