説明

イオントフォレーシス療法に用いる電極装置

【課題】薬物導入用の電極層を薬物貯留層に簡易な手法で強力に接着でき、薬物の導入時においても安定的に薬物貯留層を保持できる、イオントフォレーシス用の電極装置を提供する。
【解決手段】基材6上に、主電極層3と副電極層1を互いに絶縁した状態で固定する。主電極層3は薬物導入用であり、副電極層1は基材6上に薬物貯留層5を保持するために設けられている。薬物貯留層5は、主電極層3および副電極層1と接触して、基材6上に配置される。薬物貯留層5は、ハロゲン化合物を含有したゲルであり、副電極層1は、水素よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されていて、薬物貯留層5と副電極層1に通電することで当該両層が固定される。このようにして、薬物貯留層5を、主電極層3に接触した状態で基材6上にしっかりと保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電した薬物に電圧をかけることによって、体内に薬物を導入させるイオントフォレーシス療法に用いる電極装置に関する。さらに詳しくは、そのような電極装置において、電極層と薬物貯留層とを完全に密着させ、薬剤導入時に、薬物貯留層を適正に保持できる電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントフォレーシス療法は、一般に、薬物を含む液体やゲルを皮膚(皮および粘膜)に接触させて通電することにより、薬物をイオン泳動させて皮膚へ、あるいは皮膚を介して体内に導入する処置である。これに用いる電極装置は、電極層と薬物貯留層を含み、外部電源装置から電極層に電気が供給される。また、薬物貯留層には、イオン化薬物が存在し、それにより導電性を保ち、電極層と一体化して電極装置として機能する。
【0003】
薬物貯留層は、液体あるいはゲル、いずれの形態でも使用可能である。この薬物貯留層は、電極層に接触し、電極装置の一部として機能する一方、内部に保有する薬物を皮膚に浸透させる役割がある。このため、薬物貯留層は、電極装置にしっかりと固定されている必要があり、電極装置から薬物貯留層が漏出・剥離・落下することを防止する様々な試みが、従来よりなされてきた。
【0004】
特許文献1では、凹部をもつシート基材を使用し、その部分に液体あるいはゲル(薬物貯留層)を充填させている。しかし、イオントフォレーシスの実際の処理時には、凹部を逆さにする場合があるので、内部に充填したゲルが凹部から流れ落ちたり、落下したりする虞があった。
一方、特許文献2には、電極層に多孔性材料の不織布を積層し、ゲルを不織布に浸透させることによる、ゲルの落下を防ぐ方法、およびゲルを充填後、落下防止用のガイドを付けるという考え方を提案している。
【0005】
特許文献3では、円形カップの充填室に薬物貯留層を充填し、イオン透過被覆材で充填室を塞いでしまう方法を提案している。特許文献4では、粘着性ゲルを用い、電極層と薬物貯留層の接合強さを強める工夫を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−316991号
【特許文献2】WO2003/059442号
【特許文献3】特開平9−248344号
【特許文献4】WO2002/002182号(特表2004−501727)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の発明はいずれも、薬物貯留層を電極層に接着するために鋭意努力した結果と考えられるが、製造上、多孔性材料の積層行程やガイドの付与行程が煩雑であったり、薬物貯留層自体に粘着性を付与するための組成決定が困難であるといった問題が残る。
本発明は、上記各問題点に鑑み検討されたものであり、その目的は、薬物導入用の電極層を薬物貯留層に簡易な手法で確実に密着でき、その結果、薬物の導入時においても安定的に薬物貯留層を保持でき、薬物貯留層と皮膚とを確実に接触させ、安定的な薬物の体内への浸透を可能とするイオントフォレーシス用の電極装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、以下の特徴を備えた電極装置が提供される。
この電極装置は、イオン化薬物を含有した薬物貯留層を皮膚に接触させ、当該薬物貯留層に主電極層を介して通電することでイオントフォレーシス療法を行うのに使用する。
基材上に、「主電極層」と「当該主電極層から絶縁されるとともに基材上に薬物貯留層を保持する副電極層」とが固定されている。
さらに、基材上には、主電極層および副電極層と接触して、薬物貯留層が配置される。
薬物貯留層は、ハロゲン化合物を含有したゲルであり、副電極層は、水素よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されていて、薬物貯留層と副電極層に通電することで当該両層が固定されている。これにより、薬物貯留層を、主電極層に接触した状態で基材上に保持している。
【0009】
ここで、「主電極層」とは、薬物導入のために使用する電極層を意味し、「副電極層」は、主電極層と薬物貯留層を密着させるために使用する電極層を意味する。すなわち、本発明では、薬物導入用の主電極層とは別に、薬物貯留層と主電極層を固定するための副電極層を設けている。
【0010】
「薬物貯留層」は、ハロゲン化合物を含有していることが必要であり、塩素化合物、臭素化合物あるいはヨウ素化合物を使用することが可能でるが、好ましいハロゲン化合物は塩素化合物である。また、薬物貯留層を形成するゲルは親水性ゲルであれば特に限定されるものではないが、イオン化薬物以外のイオンを含むゲルにおいては、薬剤輸率が低下するため、イオントフォレーシス用の薬物貯留層としては、好ましくない。好ましい親水性ゲルとしは、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ジェランガムあるいはアガロースなどが挙げられ、これらを1種、あるいは2種以上配合して用いられる。
【0011】
「副電極層」に用いられる金属種は、水素よりイオン化傾向が小さければ使用することが可能であり、例えば、アンチモン、ビスマス、銅、水銀、銀、パラジウム、イリジウム、白金、および金等が挙げられる。反応性と実用性から、銀を用いることが好ましい。特に、銀の薄膜あるいはその粒子が含まれるペーストで印刷した基材フィルムシートが好ましい。
【0012】
本発明において、「副電極層」と「主電極層」は、シート状の一の基材に配置することが望ましい。通電により薬物貯留層と副電極層が接着しても、主電極層が副電極層と別シート基材にあれば、主電極層と薬物貯留層が十分に密着せず、薬物導入の際に電流が流れなくなる可能性があるためである。シート基材に関しては特に限定されず、凹部または凸部あるいはその両方をもつシート基材にも、平らなシート基材のどちらも使用できる。
【0013】
本発明において、「薬物貯留層」と「副電極層」を接着固定するため、両者間に電流を流す必要があり、副電極層側を陽極に、薬物貯留層側を陰極に接続し、1.0mA・分/cm2以上通電する。電流量がこれより少ないと、薬物貯留層と副電極層が接着しないか、少しの衝撃で両者が剥離する可能性がある。より強固に接着させるためには、2.0mA・分/cm2以上通電するのが望ましい。
【0014】
上記の通り、「薬物貯留層」と「副電極層」を接着するには電流を流す必要があるが、電流の節約と、ゲルからなる薬物貯留層の性状変化防止のためには、副電極層はできる限り面積を小さくすることが望ましい。副電極層は2ヵ所以上設けることも可能であり、その形状は円形、矩形等の図形形状のみならず、線状、点状でもよい。要は、一定形状の薬物貯留層に対し、適切な位置に、適切な大きさの副電極層を配置することにより、薬物貯留層と主電極層を効果的に密着させることが大切である。
【0015】
また、「薬物貯留層」と「副電極層」との接着操作に際しては、薬物貯留層の裏側(すなわち副電極層と反対側)に補助電極を静置し、この補助電極と副電極層との間に電流を流すのであるが、通電により副電極層表面がハロゲン化するので、薬物貯留層中のハロゲン量が減少して生じゲルの性状が変化する。この性状変化を最小限に抑えるため、補助電極は、同様のハロゲンを含む金属、あるいはハロゲン化金属を被膜したもの、もしくはそれらの粒子を含むペーストで印刷された電極であることが望ましい。
【0016】
また、通電による接着操作の際には「副電極層」に流れた電流が「主電極層」にも流れるのを防止する必要がある。この電流が主電極層に流れた場合、薬物貯留層と副電極層との接着に要する電流量が不足し、接着が不完全となるためである。このため主電極層と副電極層は互いに絶縁される必要がある。この絶縁は適宜の方法で実現できるが、例えば、両者の間に間隙を設ける、あるいは絶縁層を設けることが望ましい。この絶縁層は、印刷によっても形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明者らは、先に述べた従来の課題について鋭意検討した結果、ハロゲン化合物を配合した親水性ゲルを薬物貯留層とし、これに、水素よりもイオン化傾向が小さい金属で構成された電極層を接触させて一定時間通電すると、当該薬物貯留層と電極層の間に引力が働き、両者を密着状態で接着できることを見出した。
ただし、薬物導入用の「主電極層」に直接通電して接着させると、主電極層に電気が通ることで当該主電極自体に酸化反応が起こり、その分、当該主電極が有する薬物導入用の酸化反応能力が落ち、薬物導入時の電極として役に立たなくなる。そこで、電極層と薬物貯留層を接着するための別の「副電極層」を新たに設けることにより、上記課題を一挙に解決し得ることが判明した。
すなわち、まず副電極層に通電することで、薬物貯留層と副電極層が強力な力で接着でき、その力により主電極層と薬物貯留層も同時に密着し、その後の主電極層への通電時においても、薬物貯留層と主電極層が安定的に密着し続け、薬物を安定的に体内に浸透させることができる。
この方法は、副電極層と薬物貯留層との間に電流を流す簡単な行程のみで主電極層と薬物貯留層を密着できるものであり、電極層に多孔性材料を積層させる工程を省くことができ、ゲルを押さえたりするガイドが不要となる。さらに、ゲル自体に粘着性を付与する必要がないので、ゲルに粘着性を付与するための特別の組成について検討する必要がない。
【0018】
また、本発明においては、薬物貯留層を予めゲル化しているので、電極層を含む電極装置をゲルの形態化のために冷凍・解凍処置を行ったり、電子線、或いは紫外線照射処置等の必要がない。すなわち、冷凍・解凍による電極層とゲル接触面のズレ、及び電子線や紫外線照射処置による電極層の変性等を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の電極装置における主電極層、副電極層、および薬物貯留層の配置図。
【図2】図1における2−2’線断面図。
【図3】図1における3−3’線断面図。
【図4】実施例2の電極装置における主電極層、副電極層、および薬物貯留層の配置図。
【図5】図1の電極装置(実施例1)おいて、副電極層と薬物貯留層を通電により接着固定する操作を説明する図。
【図6】実験例3の模式図。
【図7】副電極層に流す電流と接着強度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施例および実験例によって更に詳細に説明するが、本発明は当該実施例等によって何ら制限されるものではない。尚、以下記載する%は特に断らない限り、重量%を意味する。
【実施例1】
【0021】
イオントフォレーシス用の薬物貯留層5を、以下の処方にて調製し、ゲル化した。

完全けん化型ポリビニルアルコール:15%
塩化ナトリウム:7.65%
水:77.35%
合 計:100%

上記各成分を撹拌加熱溶解し、厚さ約1mmに展延した。展延したものを−30℃で凍結、室温で解凍し、ゲルを架橋し形態化したのち、直径30mmの円盤に打ち抜き、薬物貯留層5とした。
【0022】
図1は、実施例1の電極装置における各構成要素の配置図である。図2は、図1中2−2線断面図であり、図3は、図1中3−3線断面図である。なお、図1では、図2、3中に示した補助電極7の図示を省略している。
【0023】
基材シート6は、厚さ100μm、幅100mm、長さ70mmのポリエチレンテレフタレートフィルムであり、この上に電極装置が構成される。まず、基材シート6上に、主電極層3および副電極層1を形成する。副電極層1は、後述するように電極装置の製造工程において通電し、基材シート6に対して、形態化したゲル状の薬物貯留層5をしっかりと固定する役割を有する。一方、主電極層3は、電極装置使用時に通電して、イオンを皮膚内部に送り込むための電極である。主電極層3と副電極層1は、電気的に絶縁する。
【0024】
主電極層3は、銀粒子配合のペーストで、直径27mmの円形にスクリーン印刷により基材シート6上に形成した。主電極層3は、薬物導入時にリード線4を介して外部電源(図示せず)に接続されるが、このリード線4は、主電極層3の一部から、幅1mm、長さ15mmに渡って延在するようスクリーン印刷により形成した。
リード線4と副電極層1との交差部分は絶縁インク8で被覆し、主電極層3と副電極層1とを絶縁している。
【0025】
副電極層1は、基材シート6上に、主電極層3の周囲1mmの間隔をおいて、銀粒子配合のペーストによるスクリーン印刷により、幅1mmのリング状に形成した。副電極層1は、リード線2を介して電源9(図5)に接続されるが、このリード線2は、副電極層1の一部分から、幅1mm、長さ30mmに渡って延在するようスクリーン印刷にて形成した。
リード線2は、電源9への接続部分を除き、絶縁層8で被覆している。
【0026】
次に、上で形成した円板状の薬物貯留層5を、リング状の副電極層1に均等に架かるように主電極層3の上に載せ、薬物貯留層5の上部に塩化銀粒子配合のペーストでスクリーン印刷された補助電極7を静置した。
その後、図5に示すように、補助電極7に電源装置の−端子を接続し、副電極層1に接続しているリード線2に電源装置の+端子を接続し、1.0mAの電流を1分間流して、副電極層1と薬物貯留層5とを接着固定した。
【実施例2】
【0027】
イオントフォレーシス用の薬物貯留層5を、以下の処方にて調製し、ゲル化した。

アガロース:3%
グリセリン:10%
塩化ナトリウム:0.8%
水:86.2%
合 計:100%

上記各成分を撹拌加熱溶解し、熱いうちに厚さ約1mmに展延した。展延したものを室温まで冷却し、ゲルを架橋し形態化したのち、直径30mmの円盤に打ち抜き、薬物貯留層5とした。
【0028】
図4は、実施例2の電極装置における各構成要素の配置図である。基材シート6は、実施例1の場合と同じく、厚さ100μm、幅100mm、長さ70mmのポリエチレンテレフタレートフィルムであり、この上に電極装置が構成される。
【0029】
主電極層3およびリード線4は、0.05mm厚の銀箔を切り抜いた一体物で構成されており、これを両面テープで基材シート6上に貼り着けている。主電極層3の部分は直径27mmの円形で、リード線4の部分は、主電極層3の一部から外側に延びる幅1mm、長さ15mmの矩形である。
【0030】
同様に、副電極層1も、厚さ0.05mm銀箔を切り抜いて、両面テープで基材シート6上に貼り着けている。
幅1mm、長さ15mmの矩形部分を4本切り抜き、これらを円形の主電極層3の外周より1mm間隔を開けた円周上、略四等分した各点から放射状に貼り付けている。そして、放射状に配置した4本の銀箔の外側端部を、幅1mmの銀箔でつなぎ合わせ、その一部から、電源9(図5)への接続用リード線2を分岐させている。
【0031】
副電極層1の主電極層3側の長さ2mmに渡る部分、およびリード線2の電源9への接続部分を除いて、副電極層1と電源9をつなぐ回路は、全てセロテープ(登録商標)で被覆して絶縁層8とした。
【0032】
次に、上で形成した円板状の薬物貯留層5を、4箇所の副電極層1の絶縁されていない端部に均等に架かるように主電極層3の上に載せ、薬物貯留層5の上に塩化銀粒子配合のペーストでスクリーン印刷された補助電極7を静置した。
その後、図5に示すように、この補助電極7に電源9の−端子を接続し、副電極層1のリード線2に電源9の+端子を接続し、1.0mAの電流を1分間流して、副電極層1と薬物貯留層5とを接着固定した。
【比較例1】
【0033】
通電による「副電極層」と「薬物貯留層」の接着処理をしなかった以外は、実施例1と同様の「薬物貯留層」を調製し、同様の電極装置を得た。
【比較例2】
【0034】
通電による「副電極層」と「薬物貯留層」の接着処理をしなかった以外は、実施例2と同様の「薬物貯留層」を調製し、同様の電極装置を得た。
【実験例1】
【0035】
≪接着力試験1≫
実施例1、2および比較例1、2の各電極装置を静かに上下に反転させた。その結果、比較例2では、薬物貯留層5が電極層から分離してシート基材6から剥がれ落ちた。
【0036】
一方、実施例1、2および比較例1では、薬物貯留層5はシート基材6に張り付いたままであった。これらの張り付いていた薬物貯留層5の端をピンセットでつまみ上げ、接着の程度を確認した結果、比較例1では、薬物貯留層5はシート基材6から容易に剥がれたが、実施例1、2では、シート基材ごと持ち上がる程度の接着力を示した。
【実験例2】
【0037】
≪接着力試験2≫
実施例1、2および比較例1について、それぞれ2つの電極装置を用意した。それぞれについて、片方をイオントフォレーシスのドナーパッチとし、もう片方をレファレンスパッチとして、ラットの背部に貼付した。そして両パッチの主電極層間を0.7mAの電流で通電した場合の電圧の揺れを観察した。
【0038】
その結果、実施例1、2に関しては、電圧の揺れは見られず、安定的な通電が観察された。一方、比較例1では、ラット背部へ貼り付けた時に、薬物貯留層が主電極層部分からズレて、実施例1、2よりも若干、電圧が高い状態で電流が流れた。また、通電終了後のパッチ剥離時に、比較例1はゲルが皮膚表面に残った。
さらに、ズレた主電極層において、ズレた結果、ゲルと非接触となった電極部分は機能してないことが確認された。この結果から、比較例1では、電極層と薬物貯留層とが十分に接着しておらず、薬物導入時において安定的に電流が流れない可能性があり、仮にズレた場合、主電極層の性能を十分に発揮できないことが示唆された。
【0039】
一般に、イオントフォレーシスで生理活性物質を経皮投与する場合、設定された電流量が規定の面積に流れるよう設計されることが多い。その理由として、電流の流れ方の偏りによる皮膚損傷の可能性が挙げられる。また、薬物貯留層と電極層とが剥離したり、薬物貯留層と電極層がズレると、主電極層がむき出しになる可能性があり、電流が薬物貯留層である薬物貯留層を介さずに直接、皮膚に流れ、結果的に薬剤導入効率の低下等、望ましくない影響が出る可能性がある。従って、比較例1、2はイオントフォレーシス用の電極装置としては不十分なものであると考えられる。
一方、実施例1、2の電極装置は、薬物貯留層と電極層との強固な接着により、安定的に通電できることが判明した。
【実験例3】
【0040】
≪接着力試験3≫
電流量と接着強度の関係を調べるために、レオメーターを使用した剥離試験を行った。その概略図を図6に示す。最初に、実施例1で使用したものと同一成分からなる薬物貯留層5を調製した。一方、別に2枚の矩形の銀箔10(0.05mm厚×10mm幅×20mm高さ)を準備し、それぞれ高さ10mm部分で直角に折り、折った片面を薬物貯留層5に接触させ、2枚の銀箔10で薬物貯留層5を挟むようにセットした。
【0041】
さらに、2枚の銀箔10に接触しないよう(接触すると短絡が起こり、ゲルと銀箔を接着できないため)に、薬物貯留層5に塩化銀皮膜を施した銀箔7を接触させた。銀箔10の一方に電源装置の陽極端子を、塩化銀皮膜銀箔7に陰極端子を接続し、電流を1分間流した。次に、銀箔10の他方に陽極端子をつなぎ替え、同じ量の電流を1分間流し、2枚の銀箔10をゲル5の表裏に接着固定した。この2枚の銀箔10について、レオメーター(型番CR−500DX:(株)サン科学)を用い、剥離試験を行い、その剥離強度を測定した。
同様に、電流量を変化させて薬物貯留層5に銀箔10を接着してなる試料について、その剥離強度を順次測定した。その結果を図7に示す。
【0042】
それによると、電流量を上げるに従い、薬物貯留層5(ゲル)と電極層の接着力は高まり、1mA・分/cm以上では、100〜200mNの剥離強度に達することが判明した。
なお、本実験に用いた実施例1相当のゲルの場合には、引っ張り力が約100mNを越えるとゲル自体が引き裂かれ、それ以上の接着強度は測定できなかった(これは、接着部が少なくとも100mN以上の接着強度を有していることを示している)。
【0043】
以上の接着力試験1〜3は、いずれも、本発明による通電を利用した「薬物貯留層」と「副電極層」の接着強度の有効性を示している。
【符号の説明】
【0044】
1 副電極層
2 副電極層用リード線
3 主電極層
4 主電極層用リード線
5 薬物貯留層
6 基材シート
7 接着用の補助電極
8 絶縁層
9 外部電源
10 銀箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化薬物を含有した薬物貯留層(5)を皮膚に接触させ、当該薬物貯留層に主電極層(3)を介して通電することでイオントフォレーシス療法を行うための電極装置であって、
基材(6)上に、主電極層(3)と、当該主電極層(3)から絶縁されるとともに基材(6)上に薬物貯留層(5)を保持する副電極層(1)と、が固定され、
基材(6)上に、主電極層(3)および副電極層(1)と接触して、薬物貯留層(5)が配置され、
薬物貯留層(5)は、ハロゲン化合物を含有したゲルであり、副電極層(1)は、水素よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されていて、薬物貯留層(5)と副電極層(1)に通電することで当該両層(1、5)を固定し、これにより、薬物貯留層(5)を、主電極層(3)に接触した状態で基材(6)上に保持していることを特徴とする、電極装置。
【請求項2】
上記ハロゲン化合物が塩素化合物である、請求項1記載の電極装置。
【請求項3】
上記副電極層(1)に薬物貯留層(5)を固定するのに使用する電流量が、1.0mA・分/cm以上である、請求項1または2記載の電極装置。
【請求項4】
上記副電極層(1)に薬物貯留層(5)を固定するのに使用する電流量が、2.0mA・分/cm以上である、請求項1または2記載の電極装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−130831(P2011−130831A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290943(P2009−290943)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【Fターム(参考)】