イオントラップ、質量分析計およびイオンモビリティ分析計

【課題】低真空での動作が可能であり、小型、安価、簡便なイオントラップを提供し、それを用いて計測精度を低下させることなく質量分析、イオンモビリティ分析を行う技術を提供する。
【解決手段】直流電圧によるポテンシャルと交流電圧によるポテンシャルとにより形成された1次元ポテンシャルにイオンを捕捉する。捕捉したイオンは、印加する直流電圧および交流電圧の少なくとも一方を変化させることにより電極に衝突させて電流値として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子の電荷質量比を測定することにより、試料中に含まれる分子種を同定する質量分析技術に関する。特に、荷電粒子の捕捉技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばイオンなどの電荷を帯びた試料の質量と電荷との比(質量電荷比:m/z)を電磁場内で計測することにより、試料を同定する質量分析と呼ばれる手法がある。現在、広く利用されている質量分析手法の代表的なものには、イオンを電極からなるトラップに捕捉し、トラップ内の電位を変化させることで選択的にイオンを放出するイオントラップを用いるものがある。
【0003】
イオントラップには、例えば、1つのドーナッツ形電極(リング電極とよばれる)を2つのお椀形の電極(end cap電極とよばれる)ではさんだ形状のPaul Trapを用い、リング電極に高周波電圧を印加することにより、その中心部の1点にイオンを集束する高周波イオントラップと呼ばれるものがある(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2参照。)。これは、イオンが空間的に3次元的に高周波電場で集束されていることから、3次元トラップとも呼ばれる。
【0004】
また、4本のロッド電極を四重極的に平行に並べ、合対面する2つの電極ペアのあいだに高周波電圧を印加して4本のロッド電極がつくる中心領域にイオンを捕捉する線形イオントラップがある。これは、高周波により2つの方向が集束されることから2次元イオントラップとも呼ばれている。
【0005】
また、四重極ロットからなる1組の中心電極と外部電極とで構成された空間に交流電界と直流電界を重畳させて印加する事で中心電極の回りに荷電粒子を捕獲する手法もある(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第2,939,952号明細書
【特許文献2】特開平9−61597号公報
【非特許文献1】Quadrupole Storage Mass Spectrometry: R.E. March and R. J. Hughes, John Wiley and Sons ISBN 0−471−85794−7
【非特許文献2】Quadrupole Ion Trap Mass Spectrometry: Raymond E. March and John F. Todd, Wiley−Interscience ISBN 0−471−488887
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いずれのイオントラップも、電磁場内でのイオンの正確な軌跡を確保するためにガスとの衝突を避ける必要があり、高真空の環境(例えば、10mTorr以下)が要求される。このような真空環境を実現するためには、排気量の大きな大型のターボ分子ポンプが必要であり、イオントラップを用いた質量分析装置の高価格化、大型化、保守管理頻度の高さを招き、利用可能性を制限している。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、使用環境の制約が少ないイオントラップを提供し、それを用いて、計測精度を低下させることなく、質量分析、イオンモビリティ分析を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直流電圧によるポテンシャルと交流電圧によるポテンシャルとにより形成された1次元ポテンシャルにイオンを捕捉する。捕捉したイオンは、印加する直流電圧および交流電圧の少なくとも一方を変化させることにより電極に衝突させて電流値として検出する。
【0010】
具体的には、直流電圧を印加する第一の直流電源および交流電圧を印加する交流電源に接続した第一の電極と、荷電粒子が通過可能な第二の電極と、を備え、前記直流電圧による直流ポテンシャルと交流電圧による交流ポテンシャルとにより前記第一の電極と前記第二の電極との間に形成される1次元ポテンシャルに荷電粒子を捕捉することを特徴とするイオントラップを提供する。
【発明の効果】
【0011】
使用環境の制約が少ないイオントラップにより、計測精度を低下させることなく、質量分析、イオンモビリティ分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<<第一の実施形態>>
以下、本発明を適用する第一の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の1次元イオントラップの電極構造と基本回路との一例を説明するための図である。ここでは、一例として円筒形状の1次元イオントラップ10を用い、その中心軸に直交する断面を用いて説明する。
【0013】
本図に示すように、本実施形態の1次元イオントラップ10は、第一の電極(円筒電極:半径r2)1と、第二の電極(メッシュ円筒電極:半径r1(r1<r2))8と、第二の電極の内側に配置される第三の電極(円柱電極)7と、を備える。円筒電極1とメッシュ円筒電極8と円柱電極7とは、それぞれ中空の円筒形状を有し、中心軸を共通とするよう配置される。円筒電極1には、交流電源3による高周波電圧(振幅Vrf、周波数:Ω/2π)と、直流電源4による直流(DC)電圧(Udc)とが印加される。メッシュ円筒電極8は接地される。円柱電極7には電流計5が接続される。
【0014】
本実施形態の1次元イオントラップ10は、円筒電極1に所定の高周波電圧Vrfと直流電圧(静電圧)Udcとを印加し、メッシュ円筒電極8を接地することにより、両電極間に1次元ポテンシャルを形成し、荷電粒子(ここでは、イオン)を捕捉する。以下、円筒電極1とメッシュ円筒電極8との間の空間を捕捉空間11と呼ぶ。
【0015】
なお、捕捉されたイオンは、高周波電圧Vrfと直流電圧(静電圧)Udcとを変化させることにより不安定状態となり、メッシュ円筒電極8のメッシュを通過し、円柱電極7に衝突する。本実施形態の1次元イオントラップ10は、円柱電極7に衝突した際、電流計5により、その電流を計測する。
【0016】
このため、メッシュ円筒電極8は、捕捉されたイオンが通過可能な穴81を多数備える。図2は、本実施形態のメッシュ円筒形電極8の一例を示す図である。穴81の大きさは、イオンが通過可能で、かつ、イオンの移動による空間電荷の変化の影響を円柱電極7に与えないものとする。形状は、円形以外に、線状、楕円、方形、メッシュ状などでもよい。また、円柱電極7は、荷電粒子が衝突可能な形状であればよい。中空でなくてもよいし、例えばネジ状形状であってもよい。ただし、全側面について、メッシュ円筒電極8の側面との距離が一定となる形状が最も望ましい。
【0017】
なお、円柱電極7は、さらに、直流電源6を備え、捕捉されているイオンと逆電位の直流電圧を、この直流電源6により印加するよう構成してもよい。この直流電圧の印加により、イオンをメッシュ円筒電極8の穴を通過させ、円柱電極7に衝突させやすくする。
【0018】
上記電極および電圧配置を有する本実施形態の1次元イオントラップ10の円筒電極1に高周波電圧Vrfと直流電圧(静電圧)Udcとを印加すると、交流電圧Vrfにより高周波ポテンシャルが、静電圧Udcにより直流(DC)ポテンシャルが形成される。高周波ポテンシャルは、両電極間のイオンに外向き(メッシュ円筒電極8から円筒電極1へ向かう方向)の力を与える。この力の向きは、イオンの極性(正イオンか負イオンか)には依存しない。DCポテンシャルは、イオンにこの外向きの力とは反対の内向き(円筒電極1からメッシュ円筒電極8へ向かう方向)の力を与える。静電圧Udcによりイオンに与える力の向きはイオンの極性に依存するため、正イオンを捕捉する際は、メッシュ円筒電極8に対し円筒電極1が正の電位を持つよう静電圧Udcを印加し、負イオンを捕捉する際は、逆に、メッシュ円筒電極8に対して円筒電極1が負の電位を持つよう静電圧Udcを印加する。
【0019】
この外向きの力と内向きの力とは、円筒電極1およびメッシュ円筒電極8の中心軸からの距離に依存する。そして、イオンの質量電荷比(m/z)により両力がつりあう位置が定まり、ここにイオンが捕捉される。円筒電極1とメッシュ円筒電極8との形状から、中心軸からの一定の距離を持つ円筒面上に、同じ質量電荷比(m/z)を有するイオンが集束する。
【0020】
以上の原理を数式を用いて説明する。捕捉空間11に形成される1次元ポテンシャルφは、中心軸からの距離rと時間tとの関数として以下の式(1)で与えられる。
【数1】

式(1)に示すポテンシャルφが与えられた場合、イオンに単位時間に作用する力を与える平均のポテンシャルΦは以下の式(2)で与えられる。
【数2】

なお、式(2)の算出には、高周波イオントラップの理論で一般的に用いられる擬ポテンシャルの方法を用いた。また、式内のZeは、質量電荷比(m/z)を表す(以下、同様)。式(2)の右辺第1項が高周波電圧Vrfによる高周波ポテンシャル(擬ポテンシャル)であり、第2項が静電圧UdcによるDCポテンシャルである。この高周波ポテンシャルとDCポテンシャルとを足し合わせた式(2)であらわされるポテンシャルΦが、本実施形態の1次元イオントラップ10によるポテンシャル(トータルポテンシャル)である。
【0021】
図3は、式(2)で与えられるポテンシャルを図示したものである。グラフ201は、式(2)の右辺第1項で示される高周波ポテンシャル、グラフ202は、第2項で示されるDCポテンシャル、グラフ203は、トータルポテンシャルである。本図に示すように、上述の外向きの力と内向きの力とがつりあう位置で、本実施形態の1次元イオントラップ10によるポテンシャル(トータルポテンシャル203)は、極小値を持つ。極小値を与える位置は、式(2)を微分することにより得られる式(3)で与えられる。
【数3】

なお、極小値を得るため、前述したようにイオンの極性に対して静電圧Udcの極性は予め決定しておく。
【0022】
式(3)より、極小値を与える位置rminで規定される、中心軸から一定の距離を持つ円筒面上に、イオンが安定的捕捉されることがわかる。また、安定的に捕捉される位置rminは、そのイオンの質量電荷比(m/z)に応じて異なることがわかる。このように、本実施形態の1次元イオントラップ10では質量電荷比(m/z)の異なるイオンは異なる半径(位置)で円筒状にトラップされる。本方式を1次元トラップとよぶ所以である。すなわち、大きい質量電荷比(m/z)を持つイオンは中心軸に近い内側に、小さい質量電荷比(m/z)を持つイオンは外側に捕捉される。
【0023】
ここで、本実施形態の1次元イオントラップ10に捕捉可能なイオンの質量の範囲について説明する。本実施形態の1次元イオントラップ10のイオンを捕捉可能な領域は、円筒電極1(半径r2)とメッシュ円筒電極8(半径r1)との間の捕捉空間11内である。従って、本実施形態の1次元イオントラップ10は、この間に安定点である極小値rminを有するイオンを捕捉することができる。この条件を式で表すと、式(4)のとおりである。
【数4】

【0024】
捕捉可能なイオンの質量の境界値(安定性境界)をmおよびmとする。mは、rminがrより大きい(イオンがメッシュ円筒電極8に衝突しない)との条件を満たすものとし、mは、rminがrより小さい(イオンが円筒電極1に衝突しない)との条件を満たすものとすると、mおよびmは、それぞれ以下の式(5)、式(6)で表される。
【数5】

【数6】

その質量がmとmとの間に入るイオンは、本実施形態の1次元イオントラップ10で捕捉可能であり、本実施形態の1次元イオントラップ10内にその安定領域が存在するといえる。なお、これらの式からわかるように、本実施形態の1次元イオントラップ10に捕捉されるイオンの質量範囲は、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの値に依存する。
【0025】
なお、荷電粒子が円筒電極1とメッシュ円筒電極8との形状は、本実施形態では、上述のように、それぞれ円筒形としているが、これに限られない。中心軸に対して垂直な面で切断した場合、その2つの電極の断面が同心円を形成する形状など、両者間でイオンにかかる力の密度が疎から密の分布を成すよう構成できればよい。
【0026】
次に、中心軸方向のイオンの捕捉について説明する。本実施形態の1次元イオントラップ10の各電極が、有限の長さを有する円柱および円筒である場合、上述の原理により半径方向の所定の位置に捕捉したイオンが、中心軸方向に漏出することを防ぐための構成について説明する。このための構成を図4に示す。
【0027】
本図(A)に示すように、中心軸方向の所定の位置にイオンを捕捉するため、本実施形態の1次元イオントラップ10は、円筒電極1の中心軸方向の両端に、端電極31を備える。円筒電極1と端電極71とは電気的に一体の構造とする。これにより、高周波電圧Vrfが変形されて、擬ポテンシャルとしてイオン集束力が発生する。また、本図(B)に示すように、円筒電極1の両端に、円盤状の端電極72を備え、直流電圧を印加して防ぐよう構成してもよい。
【0028】
以上のように捕捉したイオンを、円柱電極7に衝突させて電流計5により検出することにより、本実施形態の1次元イオントラップ10は、質量分析計、イオンモビリティ測定に用いることができる。これらは後述の実施形態で詳細を説明するが、その原理は以下のとおりである。
【0029】
上述のように、本実施形態の1次元イオントラップ10では、イオンは、質量電荷比(m/z)に応じて、式(3)で与えられる異なる半径rminの円筒面上に捕捉される。一方、半径rminは、式(3)に示すように、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの値に依存する。従って、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの少なくとも1つを変化させることにより、一旦捕捉されたイオンの捕捉位置rminを変化させることができる。
【0030】
本実施形態の1次元イオントラップ10では、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの少なくとも1つを変化させることにより、捕捉されたイオンの半径位置を変化させ、最終的にメッシュ円筒電極8を越えて、円柱電極7に衝突させる。これらの電圧の制御は、例えば、制御部(不図示)などにより行う。これにより、質量電荷比(m/z)に応じて異なる位置rminに捕捉されているイオンによる電流を順次検出でき、例えば、質量スペクトルを取得できる。
【0031】
なお、試料となるイオンは、円筒電極1に穴(不図示)をあけ、そこから導入する。この場合、本実施形態の1次元イオントラップ10の設置環境は、いわゆるあら引きポンプ(ロータリーポンプ、ダイアフラムポンプ、スクロールポンプなどの低真空用ポンプ)で容易に実現される1Torr(約133Pa)の真空度の環境であれば十分である。この場合の真空度と粘性抵抗の関係として、典型的なイオンモビリティKの値は0.8−2.4cm/V/sec(for 14−500amu @ ambient pressure)である。(例えば、非特許文献3参照。)
【0032】
【非特許文献3】“Ion Mobility Spectrometry” G.A.Eicemann & Z.Karpas CRC press. 2005)
【0033】
この条件下で、円筒電極1から導入されるイオンの軌道を計算すると、イオンは1ミリ秒以下で導入されるという結果が得られる。すなわち、本実施形態の1次元イオントラップ10によれば、約1ミリ秒でイオンが安定する。このため、高速なオペレーションが可能となる。
【0034】
なお、イオン導入をさらに早くするには、イオンの安定位置は変えないように、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcを大きくし、形成される1次元ポテンシャルを深くすればよい。式(3),式(5),式(6)で示されるように、Vrf∝Udcの関係を保てば形成される1次元ポテンシャルの形状は変わらないため、イオンは質量電荷比(m/z)に応じた半径位置に集束される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の1次元イオントラップ10は、イオンは、それぞれその質量電荷比(m/z)に応じて、式(3)で与えられる半径rminで規定される円筒面上に集束される。従って、本実施形態の1次元イオントラップ10によれば、イオンの質量電荷比(m/z)毎に容易に分離可能な状態で、イオンを捕捉することができる。また、用いる電極が円筒形、円柱形と加工のしやすいものであり、数も少ない。このため、容易かつ安価に製造することができる。
【0036】
また、イオンの移動による空間電荷の変化は、メッシュ円筒電極8にイオンと逆電位の電荷を生成するに留まり、電流を検出する円柱電極7には影響を与えない。従って、本実施形態によれば、円柱電極7において、空間電荷の変化の影響を受けることなくイオンの衝突による電流を正確に検出することができる。
【0037】
さらに、本実施形態の1次元イオントラップ10の構成では、電流を検出する円柱電極7には、高周波電圧を印加しない。電流を検出する電極に高周波電圧を印加する構成の場合、増幅用のトランスのコイルがノイズを拾い、検出する電流に影響を与える。しかし、本実施形態の構成によれば、円柱電極7は、高周波電圧によるノイズの影響を受けることなく、イオンの衝突による電流を正確に検出することができる。
【0038】
また、本実施形態の1次元イオントラップ10は、イオン電流を検知するイオン検出法である。すなわち、イオンの共鳴振動を伴わない静的原理により検出するため、低真空でも動作可能である。すなわち、上述のようなあら引きポンプで十分であり、高真空を実現するためのターボ分子ポンプなどは不要である。また、質量電荷比(m/z)に応じて、異なる半径の円筒面上に集束されるため、クーロン力による相互作用を回避することができる。このため、多量のイオンを捕捉することができ、その検出時も、電子増倍管などの増幅を必要としない。
【0039】
また、本実施形態の1次元イオントラップ10で捕捉可能なイオンの質量範囲は上述の式(5)および式(6)で規定される。例えば、電圧条件、サイズとして通常用いられる値である以下の値を与え、式(5)および式(6)により、本実施形態の1次元イオントラップ10で捕捉可能な質量電荷比(m/z)の範囲を算出すると、13〜1325(m/z)が得られる。
高周波振幅(周波数):200V(2MHz)
DC電圧:1V
=2mm
=20mm
円筒電極1、メッシュ円筒電極8、円柱電極7の中心軸方向の長さ=90mm
【0040】
すなわち、本実施形態の1次元イオントラップ10が捕捉可能な物質は、イオン価数zが1の場合、分子量が概ね13から1300の範囲のものとなる。イオントラップが一般に捕捉対象としている種々の環境汚染物質や不正薬物、危険物などは、イオンの価数zは1の場合が多く、その分子量も上記範囲である。従って、本実施形態の1次元イオントラップは、一般に捕捉対象としている物質を十分捕捉可能である。
【0041】
また、一般に、小さな質量電荷比(m/z)のイオンでは高周波による強制振動(いわいるマイクロモーション)が原因で、イオンの存在位置がぼけてしまい、質量分析応用での質量分解能に影響を与える。マイクロモーションを小さくするには、高周波周波数を大きくすること、および、静電圧Udcを小さくすることが有効である。本実施形態の1次元イオントラップ10は、上述のように、高周波周波数を2MHzと設定した場合、一般に捕捉対象としている物質を捕捉できる。すなわち、適正な周波数が十分大きいといえる。従って、高周波マイクロモーションの影響は少ない。
【0042】
なお、捕捉対象イオンに対して、捕捉空間11内の安定に捕捉される領域(安定領域)が小さい場合は、静電圧Udcを高くすることで静電圧ポテンシャルを深くする、高周波電圧Vrfの周波数を下げることで高周波ポテンシャルを深くする、あるいはその両方を行うことにより、その領域を広げることができる。例えば、高周波の周波数を2MHzから1.5MHzに下げることで、イオンの信号強度が高くなり、静電圧ポテンシャルと高周波ポテンシャルとに対するイオンの安定領域が広がる。これにより、捕捉されるイオンの量は増加する。
【0043】
また、捕捉対象とする荷電粒子に応じて、印加する交流電圧Vrfを変化させてもよい。例えば、荷電粒子がイオンである場合、交流電圧Vrfとして数100kHz〜10MHzの高周波電圧を用いる。一方、荷電粒子がほこり等である場合、イオンの場合より低い低周波電圧を用いる。
【0044】
なお、本実施形態の1次元イオントラップ10では、上述のように、補足するイオンの質量範囲は、高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの値によって定まる。この性質を利用し、捕捉空間11内に、特定の質量電荷比(m/z)を持つイオンを単離することも可能である。すなわち、ターゲットとなるイオンの質量電荷比(m/z)の質量mに対し、高周波電Vrfもしくは静電圧Udcを変化させて、m(重い側)またはm(軽い側)を接近させていく。式(3)から式(6)により、mがmに接近すると、ターゲットとなるイオンの質量電荷比(m/z)より大きな質量電荷比(m/z)のイオンが排除されていき、また、mがmに接近すると、それより小さな質量電荷比(m/z)を持つイオンが排除されていく。mを接近させる操作と、mを接近させる操作とを交互に繰り返すことにより、ターゲットとする質量電荷比(m/z)のイオンが単離される。単離の分解能は、ターゲットとなるイオンの質量電荷比(m/z)にどの程度安定境界を接近させるかに応じて決定される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の1次元イオントラップ10は、電極点が少なく、加工も容易な形状を有するため、安価に製造できる。また、電極および電圧の配置が、荷電粒子の移動による空間電荷の変化の影響やノイズの影響も少ない構成であるため、正確かつ効率的にイオン電流を検出することができる。従って、測定時間も短縮できる。さらに、イオン電流を検知するイオン検出法であるため、質量分析計に用いる場合、低真空での動作が可能であり、電子増倍管などの増幅を必要としない。このため、小型化が可能である。以上の特徴を有するため、本実施形態の1次元トラップ10は、使用場所、環境の制約が少なく、汎用的に幅広く用いることができる。
【0046】
<<第二の実施形態>>
次に、本発明を適用する第二の実施形態について説明する。ここでは、トラップ条件による不安定性を利用し、第一の実施形態の1次元イオントラップ10を質量分析計に用いる。すなわち、安定にトラップされていたイオンを、電圧条件を変化させて不安定な状態とし、質量電荷比(m/z)毎に(質量選択的に)円柱電極7に衝突させ、衝突により発生した電流を電流計5にて計測し、捕捉されたイオンの質量電荷比(m/z)と量とを測定する。
【0047】
1次元イオントラップ10に捕捉されたイオンを、質量選択的にメッシュ円筒電極8を通過させるためには、第一の実施形態で説明したように、高周波電圧Vrfで与える高周波の振幅と静電圧Udcとの少なくとも一方を変化させる。
【0048】
以上を実現する本実施形態の質量分析計40の構成図を図5に示す。ここでは、第一の実施形態の1次元イオントラップ10を1次元イオントラップに用いる。本図において、第一の実施形態と同じものには同じ番号を付す。本図に示すように、本実施形態の質量分析計40は、第一の実施形態の1次元イオントラップ10と、1次元イオントラップ10を支える絶縁体24、25と、1次元イオントラップ10を収める真空槽26と、真空ポンプ23と、イオン源21と、イオン源21で発生させたイオンを真空槽26に導入するためのパイプ22とを備える。1次元イオントラップ10のメッシュ円筒電極8には、例えば、直径0.5mmの格子穴81が格子状に無数開けられている。
【0049】
1次元イオントラップ10に導入されるイオンは、イオン源21で生成され、パイプ22で真空槽26に導入される。円筒電極1は、試料となるイオンを導入するための穴を備える。導入されたイオンは、円筒電極1に開けた穴から1次元イオントラップ10内に入り、円筒電極1とメッシュ円筒電極8の間に形成される1次元ポテンシャルに捕捉される。
【0050】
また、交流電源3と直流電源4とそれらの印加を制御する制御部として、電源制御部30を備える。また、電流計5として、電流検出部50を備える。
【0051】
電源制御部30は、発信器36と、乗算器35と、高周波増幅器34と、ステップアップ高周波トランス33と、高周波振幅モニタ回路38と、コンデンサ31と、抵抗32と、フィードバックアンプ37と、DA/AD変換器42と、コンピュータ41とを備える。また、電流検出部50は、電流アンプ51と、DA/AD変換器42と、コンピュータ41と、を備える。コンピュータ41は、印加する高周波の振幅と静電圧Vdcとの制御および電流値の読み出しを行い、DA/AD変換器42は、コンピュータ21と検出部との間に配され、アナログとデジタルとの間で信号の変換を行う。ここでは、コンピュータ41とDA/AD変換器42とは、電源制御部30および電流検出部50で兼用される。
【0052】
なお、電流検出部50は、オシロスコープ52を備え、電流アンプ51で増幅された信号をオシロスコープ52で検出するよう構成してもよい。また、真空ポンプ23にはダイアフラムポンプ、ロータリーポンプ、スクロールポンプなどを用いる。例えば、ダイアフラムポンプを用い、真空度150Paで動作させる。
【0053】
ここで、電源制御部30による高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの印加について説明する。コンピュータ41からの指令に従いDA/AD変換器42によって生成された高周波振幅制御電圧は、フィードバックアンプ37を経て乗算器35において発信器36の信号と掛け合わされ、振幅制御された高周波信号となり、高周波アンプ34に入力される。高周波アンプ34において電力増幅された高周波信号はさらにトランス33により増幅されて、高周波電圧Vrfとして1次元イオントラップ10の円筒電極1に入力される。
【0054】
一方、トランス33の出力端の電圧の振幅は、低静電圧に変換され、高周波振幅モニタ回路38を経てフィードバックアンプ37に入力される。トランス33と高周波振幅モニタ回路38とフィードバックアンプ37とは負のフィードバック回路を構成し、トランス33の出力電圧が、常に、DA/AD変換器42が出力した制御電圧に比例するよう制御する。
【0055】
なお、発信器36からの出力信号は正弦波が好ましいが矩形波でもかまわない。なぜなら、トランス33と1次元イオントラップ10の電極とが構成する回路は共鳴回路であり、共鳴する正弦波成分のみが増幅されるので、矩形波であっても、実際に1次元イオントラップ10に印加される電圧は正弦波となるためである。
【0056】
また、DA/AD変換器42が生成した電圧は、抵抗32(1MΩ程度)とトランス33とを介して、静電圧Udcとして円筒電極1に入力される。このとき、高周波電力がDA/AD変換器42を通過しないようにするために、コンデンサ31を用いてトランス33に接続する。抵抗32とコンデンサ31とにより、高周波電力はトランス33と円筒電極1との間に局在する。
【0057】
1次元イオントラップ10のメッシュ円筒電極8はアースに接続されている為、電源制御部30により、メッシュ円筒電極8と円筒電極1との間に高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcが印加される。そして、これらにより、円筒電極1とメッシュ円筒電極8との間には、1次元ポテンシャルが形成される。
【0058】
次に、電流検出部50における電流の検出について説明する。円柱電極7に衝突したイオンによる電流は、円柱電極7に接続された電流アンプ51で増幅され、DA/AD変換器42によりコンピュータ41に記録される。オシロスコープ52を有する場合は、電流アンプ51で増幅された電流を、オシロスコープ52に表示するよう構成してもよい。
【0059】
以上の構成を有する本実施形態の質量分析計40での、イオンの導入から電流の検出までの流れを説明する。ここでは、捕捉したイオンを、質量選択的にメッシュ円筒電極8を通過させるために、高周波の振幅を変化させる場合を例にあげて説明する。
【0060】
まず、電源制御部30は、1次元イオントラップに所定の高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcを印加する。この直流電圧による静電圧ポテンシャルと高周波電圧による高周波ポテンシャルによって円筒電極1とメッシュ円筒電極8との間に1次元ポテンシャルが形成される。
【0061】
次に、イオン源21でイオンを生成し、パイプ22および真空槽26を介して1次元イオントラップ10内に導入する。規定量導入後、あるいは規定時間経過後、円筒電極1内へのイオンの導入を止める。イオンの導入の停止は、イオン源21でのイオンの生成を止める、または、パイプ22にイオンの電荷と逆の電位を印加する、等の方法による。すると、イオンは平衡状態になり、大きい質量電荷比(m/z)を持つイオンが中心軸に近い内側に、小さい質量電荷比(m/z)を持つイオンが外側に集束する。つまり、イオンは、質量電荷比(m/z)毎に異なる半径の同筒面上に捕捉される。
【0062】
次に、コンピュータ41により、円筒電極1に印加する高周波信号の高周波振幅を小さくする方向にスキャンする。すると、高周波電圧Vrfによる外向きの力が小さくなるため、イオンは中心方向に移動する。なお、このとき、イオンの移動により空間電荷が変化するため、メッシュ円筒電極8にイオンと逆の電荷が生成される。しかし、1次元イオントラップ10のメッシュ円筒電極8は接地されているため影響はメッシュ円筒電極8に留まり、電流を検出する円柱電極7には、影響を与えない。
【0063】
中心方向に移動したイオンは、メッシュ円筒電極8にあけられた無数の穴81を通過し、円柱電極7に衝突する。円柱電極7に衝突したイオンは、電流検出部50においてイオン電流として検出される。このとき、コンピュータ41により、高周波振幅の変化に対応づけてイオン電流を測定、記録し、イオンの質量電荷比(m/z)に応じたイオン電流(質量スペクトル)を得る。なお、高周波振幅からイオンの質量電荷比(m/z)への変換には式(3)を用いる。
【0064】
ここで、本実施形態で使用したイオン源21におけるイオン化方法について説明する。イオン源21では、試料に電荷を与えてイオン化する。本実施形態では、このイオン化方法に、コロナ放電を用いた。針状の電極に高電圧を印加することで、針の先端付近にコロナ放電が発生する。このコロナ放電により、空気中の窒素、酸素、水蒸気などがイオン化され、一次イオンとなる。生成された一次イオンが試料と反応することで試料がイオン化されて試料分子イオンとなる。この試料分子イオンがパイプ22を通って、真空槽26に導入され、1次元ポテンシャルに捕捉される。この捕捉されたイオンを質量分析する。なお、イオン化方法は、試料のイオンを生成できるものであれば、特に限定されない。例えば、放射線源や電子、光、レーザー、ペニング放電、エレクトロスプレーなどであってもよい。
【0065】
ここで、イオン源21で生成されたイオンを、1次元イオントラップ10に高効率にイオンを導入するための構成について説明する。図6は、1次元イオントラップ10へ高効率にイオンを導入するための電極構造と基本回路の一例を説明する図である。ここでは、円筒電極1は、真空槽26からイオンを導入するための導入電極61と、ゲート電極62と、平行電極63とを備える。なお、平行電極63は、円筒電極1と一体化したものとして構成される。以後、平行電極63付円筒電極1と呼ぶ。
【0066】
導入電極61は、直径約120μm、長さ10mmの細孔が開けられている。この細孔の大きさは、導入するイオン量及び1次元イオントラップの真空度、排気に使用する真空ポンプの排気量に応じて決定される。例えば、排気速度2.5m/hのロータリーポンプを用いる場合、真空度が約150Paになるように、細孔径を決定する。導入電極61の細孔を通ったイオンは、ゲート電極62を通って平行電極63付円筒電極1内に導入される。
【0067】
ゲート電極62は、導入電極63を通ったイオンが断熱膨張で拡がるのを防ぐ為の電位が印加される。例えば、負イオンを扱う場合は、導入電極61には−60V、ゲート電極62には導入電極61より低い電圧−30V、平行電極付63円筒電極1には−1Vの電圧を印加する。正イオンを扱う場合は負イオンと逆電位にする。
【0068】
平行電極付63円筒電極1は、導入電極61と円筒電極1との間に形成される1次元ポテンシャルにより、円筒電極1へのイオンの導入効率の悪化を防ぐために設置される。メッシュ円筒電極8との間に1次元イオントラップを形成するため、平行電極付63円筒電極1には静電圧Udcおよび高周波電圧Vrfが印加される。このとき、平行電極63付円筒電極1とメッシュ円筒電極8との間には静電圧ポテンシャルと高周波ポテンシャルとが生成され、さらに、導入電極61と平行電極63付円筒電極1の間にも同様に静電圧ポテンシャルと高周波ポテンシャルとが生成される。ここで、平行電極63付円筒電極1が通常の円筒電極であると、導入電極61の細孔を通過したイオンは、導入電極61と円筒電極との間に形成される1次元ポテンシャルの影響を大きく受け、円筒電極内へのイオンの導入効率が悪くなる。しかし、円筒電極1に平行電極63を付加すると、平行電極63付円筒電極1と導入電極61との間には平行電場が形成され、導入電極61の細孔を通過したイオンは1次元ポテンシャルの影響より、平行電場の影響をより大きく受ける。このため、イオンは直進して平行電極63付円筒電極1内にスムーズに導入される。従って、平行電極63付円筒電極1により、1次元イオントラップ10に高効率にイオンを導入することができる。
【0069】
また、1次元イオントラップ10に捕捉されたイオンの質量分析を行う場合、質量分析中に1次元イオントラップ10内に新たなイオンが導入されないようイオンの導入を遮断する構成が必要である。ここでは、ゲート電極62に、通過するイオンと逆電位を印加することにより、平行電極63付円筒電極1内へのイオンの注入を遮断する。例えば、負イオンの場合、+30Vの電圧をゲート電極62に印加し、負イオンが平行電極63付円筒電極1内に導入すること停止する。正イオンの場合はその逆電位を印加する。ゲート電極62でなく導入電極61に通過するイオンと逆電位を印加しても、同様の効果が得られる。
【0070】
なお、導入電極61の細孔を通ったイオンはエネルギーを持っているため、平行電極63付円筒電極1へのイオンの注入を遮断する際、ゲート電極62により逆電位を印加しても遮断し切れない場合がある。また、細孔内の気流によってイオンが運ばれてしまう可能性もある。そのため、導入電極61の細孔とゲート電極62をイオンが通過する穴と平行電極63付円筒電極1にあけられたイオンを導入する穴とを結ぶ延長線上に円柱電極7を配置しないよう構成してもよい。この場合の電極構造と基本回路との例を図7に示す。
【0071】
本図に示すように構成することにより、仮に、ゲート電極62の電位が不十分でイオンが通過した場合であっても、円柱電極7にイオンが衝突することを防ぐことができる。
【0072】
なお、ここでは、導入電極61の細孔と、ゲート電極62をイオンが通過する穴と、平行電極63付円筒電極1にあけられたイオンを導入する穴とを一直線上に配置している。しかし、イオンは電位で引っ張ることができるので、これらは一直線に配置する必要はない。この場合、平衡電極63付円筒電極1に開けられた穴のみ円柱電極7その穴の延長線上に円柱電極7が配されないよう構成すればよい。また、メッシュ円筒電極8にあける多数の穴81を、平行電極63付円筒電極1の穴からずらすことで、平行電極63付円筒電極1から入ったイオンが、メッシュ円筒電極8の穴81を通らずに、メッシュ円筒電極8に衝突する。これにより、円柱電極7に衝突することを防ぐこともできる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態の質量分析計40では、第一の実施形態の1次元イオントラップ10を用いる。従って、本実施形態によれば、質量分析にあたり、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、イオンの静的な安定条件を用いて質量分析を行うため、ガス圧に依存せず分析を行うことができる。従って、低真空でも動作可能である。ここで、低真空とは、一般的に1Torr〜10−6Torrを程度である。一方、従来法の質量分析操作法では、イオンの共鳴振動を利用するため、ガスとの衝突が分解能に大きく影響する。従って、低真空動作は不可能であり、10−6Torr〜10−8Torr程度の高真空とすることが必要である。従って、使用環境の制約が少なく、汎用的に幅広く用いることができる。
【0074】
<<第三の実施形態>>
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。ここでは、第一の実施形態の1次元イオントラップ10を、イオンモビリティ(イオン移動度)の測定に用いる。装置構成は、第二の実施形態の図5から図7に示したものと基本的に同様である。
【0075】
本実施形態の1次元イオントラップ10を用いたイオンモビリティの測定法は以下のとおりである。まず、第一の実施形態で説明した手法で、ターゲットとなる質量電荷比(m/z)のイオン種を単離する。なお、ターゲットとなるイオンの質量電荷比(m/z)は、予め第二の実施形態で説明した手法で質量分析を行い、測定してもよい。次に、この単離したイオンを1次元イオントラップ10の捕捉空間11内の外側近傍に捕捉するよう振幅を高く設定した高周波電圧Vrfを印加する。これは、単離したイオンのドリフト距離を長くするためである。
【0076】
捕捉後、瞬時に高周波電圧Vrfの印加を断つと、イオンモビリティKの大きいイオンからメッシュ円筒電極8の穴を通過し、円柱電極7に衝突する。高周波電圧Vrfを切った時間とイオン電流が計測される時間との差(時間差)がイオンモビリティを表す。
【0077】
以上により、試料イオンに対する電荷質量比(m/z)とイオンモビリティとの2次元測定ができる。すなわち、本実施形態の1次元イオントラップ10を用い、同じ質量電荷比(m/z)にもかかわらずイオンモビリティ値の異なるイオンを区別することができる。なお、イオンモビリティは、静電圧Udcを捕捉直後にOFFし、円柱電極7で電流を検出し、測定してもよい。なお、本実施形態においても、上記高周波電圧Vrfおよび静電圧Udcの印加、停止のタイミング、印加量は、コンピュータ41により制御される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態では、第一の実施形態の1次元イオントラップ10を用い、イオンモビリティを計測する。従って、本実施形態によれば、イオンモビリティ計測において、第一の実施形態同様の効果を得ることができ、使用環境の制約が少なく、汎用的に幅広く用いることができるイオンモビリティ計測手段を提供できる。
【0079】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、第一の実施形態の1次元イオントラップを用いることにより、低真空の圧力領域で、高い精度の質量分析を実現することができる。従って、イオンモビリティ計測による分析が主流であるこの圧力領域において、種々のアプリケーションに対し、質量分析とイオンモビリティ計測による分析とを併用したり、使い分けたりすることができる。従って、場合に応じて最適な分析を採用することができ、より高度な分析を行い、分析精度を向上させることができる。
【0080】
また、上記各実施形態によれば、環境分析、合成化合物の分析、医用分析、不正薬物・危険物の分析などの多岐にわたり、簡便かつ安価な分析手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第一の実施形態の1次元イオントラップの電極構造と基本回路との一例を説明するための図である。
【図2】第一の実施形態のメッシュ円筒形電極の一例を示す図である。
【図3】第一の実施形態の1次元ポテンシャルを説明するための図である。
【図4】第一の実施形態の1次元イオントラップの中心軸方向にイオンをトラップする電極構造を説明するための図である。
【図5】第二の実施形態の質量分析計の構成図である。
【図6】第二の実施形態のイオンを導入するための電極構造と基本回路の一例を説明する図である。
【図7】第二の実施形態のイオンを導入するための電極構造と基本回路の別の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0082】
1:円筒電極、3:交流電源、4:直流電源、5:電流計、6:直流電源、7:円柱電極、8:メッシュ円筒電極、10:1次元イオントラップ、11:捕捉空間、21:イオン源、22:パイプ、23:真空ポンプ、24:絶縁体、25:絶縁体、26:真空槽、30:電源制御部、31:コンデンサ、32:抵抗、33:ステップアップ高周波トランス、34:高周波増幅器、35:乗算器、36:発信器、37:フィードバックアンプ、38:高周波振幅モニタ回路、40:質量分析計、41:コンピュータ、42:DA/AD変換器、50:電流検出部、51:電流アンプ、52:オシロスコープ、61:導入電極、62:ゲート電極、63:平行電極、71:端電極、72:端電極、81:穴、201:高周波ポテンシャル、202:DCポテンシャル、203:トータルポテンシャル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を印加する第一の直流電源および交流電圧を印加する交流電源に接続した第一の電極と、
荷電粒子が通過可能な第二の電極と、を備え、
前記直流電圧と前記交流電圧とは、当該直流電圧による直流ポテンシャルと当該交流電圧による交流ポテンシャルとにより前記第一の電極と前記第二の電極との間に荷電粒子を捕捉可能な1次元ポテンシャルを形成するよう印加されること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項2】
請求項1記載のイオントラップであって、
前記1次元ポテンシャルが極小値を持つよう前記直流電圧および前記交流電圧は印加されること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項3】
請求項1または2記載のイオントラップであって、
前記直流電圧は静電圧であり、
前記交流電圧は高周波電圧であること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載のイオントラップであって、
前記第二の電極を介して前記第一の電極に対向する第三の電極をさらに備え、
前記第三の電極は、当該第三の電極に衝突する荷電粒子による電流を計測する電流計測手段を備えること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項記載のイオントラップであって、
前記第二の電極は、複数の穴を備えること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項記載のイオントラップであって
前記第一の電極および前記第二の電極は、当該第一の電極と当該第二の電極との間で、前記荷電粒子にかかる力の密度が素から密に変化する形状であること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項7】
請求項6記載のイオントラップであって、
前記第二の電極は円筒形状を有し、
前記第一の電極は、前記第二の電極を囲み、前記第二の電極と中心軸を共通とする円筒形状を有すること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項8】
請求項7記載のイオントラップであって、
前記第一の電極は両端を短絡した端電極を備え、
前記第一の直流電源は、前記端電極に前記直流電圧をさらに印加すること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項9】
請求項7記載のイオントラップであって、
前記第一の電極は、両端に端電極を備え、
前記第一の直流電源は、前記端電極に前記直流電圧をさらに印加すること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項10】
請求項7記載のイオントラップであって、
前記第三の電極は、前記第一の電極および前記第二の電極と中心軸を共通とする円柱形状を有すること
を特徴とするイオントラップ。
【請求項11】
請求項4から10いずれか1項記載のイオントラップと、
前記イオントラップへ荷電粒子を導入する荷電粒子導入手段と、
前記直流電源および前記交流電源を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記荷電粒子導入手段を介して前記イオントラップへ荷電粒子が導入されると、前記1次元ポテンシャルを形成するよう前記直流電圧と前記交流電圧との印加を制御し、前記電流計測手段で電流を計測する際は、前記1次元ポテンシャルに捕捉された荷電粒子を前記第三の電極に衝突させるよう前記直流電圧および前記交流電圧の少なくとも一方の印加量を変化させるよう制御すること
を特徴とする質量分析計。
【請求項12】
請求項11記載の質量分析計であって、
前記制御手段は、前記衝突させるために変化させる前記直流電圧および交流電圧の少なくとも一方の印加量を、前記電流計測手段により計測する電流に対応づけて記録し、質量スペクトルを取得すること
を特徴とする質量分析計。
【請求項13】
請求項11記載の質量分析計であって、
前記制御手段は、前記1次元ポテンシャルに前記荷電粒子を捕捉後、前記イオントラップに捕捉可能な質量電荷比の範囲を検出対象の荷電粒子の質量電荷比に近づけるよう前記直流電圧および前記交流電圧の少なくとも一方の印加を制御すること
を特徴とする質量分析計。
【請求項14】
請求項11から13いずれか1項記載の質量分析計であって、
前記荷電粒子導入手段は、前記第三の電極に対し、直線状に衝突しないよう前記荷電粒子を導入すること
を特徴とする質量分析計。
【請求項15】
請求項11から14いずれか1項記載の質量分析計であって、
前記荷電粒子導入手段は、
導入電極と、
前記第一の電極と前記導入電極との間に平行電場を形成する平行電極とを備えること
を特徴とする質量分析計。
【請求項16】
請求項15記載の質量分析計であって、
前記荷電粒子導入手段は、前記導入電極と前記平行電極との間に前記荷電粒子の導入量を制御する制御手段をさらに備えること
を特徴とする質量分析計。
【請求項17】
請求項4から10いずれか1項記載のイオントラップと、
前記イオントラップへ荷電粒子を導入する荷電粒子導入手段と、
前記直流電源および前記交流電源を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記荷電粒子導入手段を介して前記イオントラップへ荷電粒子が導入されると、前記1次元ポテンシャルを形成するよう前記直流電圧と前記交流電圧との印加を制御し、捕捉後、前記1次元ポテンシャルに捕捉された荷電粒子を単離させるよう前記直流電圧および前記交流電圧の少なくとも一方の印加量を変化させるよう制御し、単離後、前記印加している直流電圧または前記交流電圧を遮断するよう制御するとともに、前記電流計測手段において電流が計測された時間と前記遮断時間との差を計測すること
を特徴とするイオンモビリティ分析計。
【請求項18】
請求項4から10いずれか1項記載のイオントラップと、前記イオントラップへ荷電粒子を導入する荷電粒子導入手段と、を備える質量分析計における質量分析方法であって、
前記1次元ポテンシャルを形成するよう前記直流電源および前記交流電源を制御し、前記荷電粒子導入手段を介して導入された荷電粒子を捕捉する捕捉ステップと、
前記直流電源および前記交流電源の少なくとも一方を制御し、前記1次元ポテンシャルに捕捉された荷電粒子を前記第三の電極に衝突させ、前記電流計で計測するステップと、を備えること
を特徴とする質量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−259463(P2009−259463A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104487(P2008−104487)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)