説明

イオントラップ装置

【課題】イオン発生時やイオントラップへのイオン導入時ではなくイオントラップにイオンを導入した後にイオン数の調整を可能とすることで、イオントラップ内の空間電荷効果の影響を低減して分析性能を高める。
【解決手段】イオントラップ2内にイオンを捕捉した後に、ソレノイドコイル26に電流を供給して直流磁場Bを形成すると共に捕捉用高周波電場を解除し、エンドキャップ電極22、24には反対極性の電圧を印加する。捕捉されていたイオンのほぼ半数は磁力線に沿って入口側エンドキャップ電極22に向かい消滅する。残りの約半数のイオンは磁力線に沿って出口側エンドキャップ電極24に向かい、電場により反射される。反射されたイオンが入口側エンドキャップ電極22に到達する前に直流磁場Bを解除して捕捉用電場を復活させることにより、イオンを約半分に減らすことができる。この操作の繰り返しによりさらにイオン数を減らすこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電場の作用によってイオンを捕捉するイオントラップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置においてイオントラップは、高周波電場の作用によりイオンを捕捉して閉じ込めたり、特定の質量電荷比m/zを持つイオンを選別したり、さらにはそうして選別したイオンを開裂させたりするために用いられる(特許文献1など参照)。典型的なイオントラップは、内面が回転1葉双曲面形状である1個のリング電極と、リング電極を挟んで対向して配置された内面が回転2葉双曲面形状である一対のエンドキャップ電極とからなる3次元四重極型の構成である。これ以外に、平行配置された4本のロッド電極から成るリニア型のイオントラップも知られている。本明細書では、便宜上、「3次元四重極型」を例に挙げてイオントラップの説明を行う。
【0003】
従来の一般的なイオントラップでは、通常、リング電極に高周波高電圧を印加することで、リング電極及びエンドキャップ電極で囲まれる空間に高周波電場を形成し、この高周波電場によりイオンを振動させながら閉じ込める。その後に、例えば対向するエンドキャップ電極間に所定周波数の高周波低電圧を印加し、その周波数に応じた特定の質量電荷比を有するイオンを励振させてイオントラップから排出し、その外側に設置した検出器で検出する。エンドキャップ電極間に印加する高周波低電圧の周波数を所定のシーケンスに従って走査することにより、イオントラップから排出するイオンの質量電荷比を走査し、それに伴って得られる検出信号に基づいてマススペクトルを作成することができる。
【0004】
或いは、上述したようにイオントラップ内にイオンを捕捉した後、エンドキャップ電極に所定の直流電圧を印加し、捕捉されているイオンに初期エネルギーを与えてイオントラップから一斉に排出する。そして、その外側に設置した飛行時間型質量分析器にイオンを導入し、該分析器中でイオンを質量電荷比に応じて分離した上で検出する。一般的に、このように飛行時間型質量分析器を用いた構成では、より高い分解能でマススペクトルを作成することができる。
【0005】
上述したようなイオントラップを用いた質量分析装置の性能は、イオントラップ内に捕捉されたイオンの密度に大きく影響される。即ち、イオントラップ内のイオン密度が増大して或る閾値を超えると、質量分解能及び質量精度が低下する。これは、イオントラップに捕捉されるイオン自体が形成する空間電荷が、イオンの空間分布及び軌道に影響を与えるためである。したがって、質量分解能や質量精度を向上させるには、イオントラップ内に捕捉されるイオンの数を適当な値になるように定量的に調節することが好ましい。
【0006】
特許文献2に記載の、エレクトロスプレイイオン源を備えた質量分析装置では、試料のイオン化が連続的に行われる。そこで、イオントラップにイオンを導入する導入時間幅を制御することにより、導入されるイオンの数、つまりはイオントラップ内の電荷密度を調整するようにしている。しかしながら、イオン源を発したイオンがイオントラップのイオン導入口に到達するまでに質量電荷比の大きなイオンほど時間が掛かるため、こうして遅れるイオンは設定された導入時間内にイオントラップに到達せず、イオントラップ内に導入されない。その結果、イオントラップに捕捉されるイオンの質量範囲が狭くなってしまうという問題がある。
【0007】
一方、MALDIイオン源を用いた質量分析装置では、試料に対しパルス的にレーザ光を照射することで間欠的にイオン化を行うため、照射するレーザ強度又は試料量の調整により発生するイオン量を調整してイオントラップに捕捉するイオンの数を調整することが考えられる。しかしながら、試料量の調整は非常に面倒で手間が掛かる作業である。また、一般に照射するレーザ強度とイオン発生量との関係にはばらつきが大きいため、レーザ強度を調整してもイオンの発生量を的確に調整することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2939952号明細書
【特許文献2】特表2005−500662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、イオントラップにイオンを導入した後にその数を適宜に減らして空間電荷効果を緩和し、ひいては質量分解能などの性能を改善することができるイオントラップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、複数の電極からなり、それら電極で囲まれる空間にイオンを捕捉するイオントラップ装置において、
a)イオントラップ内空間にイオン捕捉用の高周波電場を形成するべく、前記複数の電極の少なくとも1つに高周波電圧を印加する高周波電圧印加手段と、
b)イオントラップ内空間に直流磁場を形成する磁場形成手段と、
c)前記高周波電場の形成を停止又は該電場強度を弱めた状態とするとともに前記磁場形成手段により直流磁場を形成した状態で、該直流磁場の磁力線に交差する一対の電極の一方にイオンを反発させる電場を生成する電圧を印加し、一対の電極の他方にイオンを引きつける電場を生成する電圧を印加する補助電圧印加手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るイオントラップ装置は、三次元四重極型イオントラップ、リニア型イオントラップのいずれにも適用可能である。リング電極と該リング電極を挟んで対向配置された一対のエンドキャップ電極とを有する三次元四重極型イオントラップである場合に、前記高周波電圧印加手段はリング電極に高周波電圧を印加し、前記補助電圧印加手段は一対のエンドキャップ電極にそれぞれ異なる電圧を印加するものとすることができる。
【0012】
イオントラップに捕捉されているイオンによる空間電荷が略0Vである場合には、補助電圧印加手段は、直流磁場の磁力線に交差する一対の電極の一方にイオンと同極性の電圧を印加し、他方にイオンと逆極性の電圧を印加することにより、上述のようにイオンを反発させる電場及びイオンを引きつける電場をそれぞれ生成することができる。
【0013】
本発明に係るイオントラップ装置では、まずイオンをイオントラップ内に導入して高周波電場の作用により捕捉する。そのあとに、高周波電場の形成を停止するか又は高周波電場の強度を弱めるとともに磁場形成手段により直流磁場を形成し、さらに、補助電圧印加手段により、直流磁場の磁力線に交差する一対の電極の一方(第1電極)にイオンを反発させるような電場を生成する電圧を印加し、他方(第2電極)にイオンを引きつけるような電場を生成する電圧を印加する。荷電粒子であるイオンは高周波電場中で所定の軌道で運動しているが、直流磁場が形成される一方、高周波電場が弱まる(又はなくなる)と、イオンに作用するローレンツ力によってイオンは磁力線に沿って移動する。磁力線に沿った移動の方向は直流磁場形成時にイオンが持つ初期エネルギーにより決まり、イオントラップ内空間でのイオンの分布が理想的であれば、捕捉されていたイオンのうちの略半分ずつが磁力線に沿って相対する方向に進む。
【0014】
第1電極に向かったイオンは、第1電極の近傍で該電極に印加された電圧により生成される電場により反射される。これに対し、第2電極に向かったイオンは、第2電極との間での電荷の受け渡しにより中性粒子となる(つまりイオンは消滅する)。したがって、第1電極近傍で反射されたイオンが第2電極に到達して消滅するよりも前に高周波電場を元のイオン捕捉可能な状態に戻すことにより、イオントラップ内のイオンの数は第2電極にて消滅した分だけ減少することになる。これにより、イオントラップ内空間のイオンの数を減らし、空間電荷効果の影響を低減することができる。
【0015】
イオンの捕捉と上記のイオン数低減操作とを繰り返すことにより、イオントラップ内空間のイオンの数を段階的に減らすこともできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るイオントラップ装置によれば、イオンを発生させる時点やイオンをイオントラップに導入する時点ではなく、イオンを一旦イオントラップ内に導入した後に、その数を減らし、空間電荷効果の影響を低減することができる。それにより、質量分析における高い質量分解能、質量精度を確保することができる。また、イオントラップへのイオン導入時間幅の調整によるイオン数の調整ではないので、イオンの質量電荷比とは殆ど無関係にイオン数を減らすことができ、質量分析に供するイオンの質量範囲を広く確保することができる。さらにまた、イオン数の低減を確実に且つ高い再現性をもって行うことができるので、意図せずにイオン数が極端に減って感度が下がったり、逆にイオン数が意図したほど減らすに空間電荷効果が無視できなくなったりする、といった問題も起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例によるイオントラップ質量分析装置の要部の構成図。
【図2】本実施例のイオントラップ質量分析装置におけるイオン低減操作時の概略タイミング図。
【図3】本実施例のイオントラップ質量分析装置におけるイオン低減操作の原理説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例であるイオントラップ質量分析装置について、添付図面を参照しつつ詳述する。
図1において、図示しない真空室の内部には、イオン化部1、イオントラップ2、及び検出部3が配設されている。イオン化部1はMALDIイオン源であり、レーザ照射部11からパルス状に出射されるレーザ光がサンプルプレート12上に載置されたサンプルSに照射される。サンプルSから発生したイオンは引き出し電極13により引き出され、イオン輸送光学系14を介しイオントラップ2に向けて送出される。
【0019】
イオントラップ2は、1個の円環状のリング電極21と、それを挟むように対向して設けられた一対のエンドキャップ電極22、24とから成る3次元四重極型のイオントラップである。入口側エンドキャップ電極22のほぼ中央にはイオン入射口23が穿設され、出口側エンドキャップ電極24のほぼ中央にはイオン入射口23とほぼ一直線上にイオン出射口25が穿設されている。また、特徴的な構成として、リング電極21の内部にはソレノイドコイル26が埋設されており、励磁駆動部7からソレノイドコイル26に直流電流が供給されることで、イオントラップ2内空間に直流磁場が形成される。
【0020】
検出部3はコンバージョンダイノード31と電子増倍管32とからなり、イオントラップ2のイオン出射口25を経て排出されたイオンを検出し、そのイオンの数に応じた検出信号を出力する。
【0021】
イオントラップ2のリング電極21には主電源部5が接続され、エンドキャップ電極22、24には補助電源部6が接続されている。主電源部5は例えばLC共振回路を利用した高周波(RF)高電圧発生部を含む。補助電源部6は、直流電圧発生部、及び高周波低電圧発生部を含み、これらの電圧が切り替えられてエンドキャップ電極22、24に印加される。CPUを中心に構成される制御部8は、所定のシーケンスに従って、主電源部5、補助電源部6、励磁駆動部7、レーザ照射部11などの動作を制御する。
【0022】
なお、図示しないが、イオントラップ2の内部にはヘリウム、アルゴン等のクーリングガスが適宜導入されるようになっており、イオントラップ2内に導入したイオンをクーリングガスに接触させることで、イオンが持つ運動エネルギーを奪う(つまりクーリングする)ことができるようになっている。
【0023】
本実施例のイオントラップ質量分析装置では、イオン化部1においてサンプルSにレーザ光を照射することにより発生させたイオンを、イオン入射口23を通してイオントラップ2内空間に導入する。導入されたイオンは、主電源部5からリング電極21に印加される高周波高電圧によりイオントラップ2内空間に形成される高周波電場の作用により捕捉される。こうした一旦捕捉したイオンを、エンドキャップ電極22、24に励振用の高周波低電圧を印加することで質量分離しつつイオントラップ2から排出し、これを検出部3で検出してデータ処理部4で処理することによりマススペクトルを作成する。
【0024】
本実施例のイオントラップ質量分析装置では、イオンをイオントラップ2内空間に捕捉した状態でその一部を消滅させることにより、捕捉するイオンの数を減らすことが可能である。次に、このイオン数低減のための操作について詳細に説明する。図3は本実施例のイオントラップ質量分析装置におけるイオン低減操作の原理説明図、図2は本実施例のイオントラップ質量分析装置におけるイオン低減操作時の概略タイミング図である。
【0025】
いま、イオントラップ2内の電場及び磁場がゼロであるとみなせる状態で、ソレノイドコイル26に直流電流が供給され、それによって、イオントラップ2内に、図3に示す磁力線が描けるような一様の直流磁場Bが形成された場合を考える。イオンは荷電粒子であり、直流磁場Bによりローレンツ力が作用するから、直流磁場Bが発生する直前にイオントラップ2内に捕捉されているイオンは直流磁場Bの磁力線を中心とした旋回軌道を描く。その軌道半径rLは次の(1)式で表される。
L=(Mibi1/2/eqB …(1)
ここで、Miはイオンの質量、kbはボルツマン係数、Tiはイオンの温度、qはイオンの電荷数、を示している。
一方、イオンの平均速度vにあって直流磁場Bの磁力線方向の成分v’は次の(2)式で表される。
v’=(kbi/Mi1/2 …(2)
【0026】
本実施例におけるイオン数低減手法では、イオントラップ2内にイオンを導入・捕捉した後に、イオントラップ2内に直流磁場Bを形成する。そして、この直流磁場Bの磁力線と交差する一対の電極のうちの一方の電極近傍にイオンを反発させる、つまりイオンと同極性の電場を形成し、他方の電極近傍にはイオンを引きつける、つまりイオンとは逆極性の電場を形成する。このような電場をそれぞれ形成するために、例えばイオンが正イオンである場合に、出口側エンドキャップ電極24に正電圧VAを印加し、入口側エンドキャップ電極22に負電圧VBを印加する。
【0027】
イオントラップ2内で十分にクーリングされた状態にあるイオンの速度分布は、イオン入射口23とイオン出射口25を結ぶ線(中心軸)Cに沿ってマックスウェル分布に従うと考えることができる。イオンの速度分布がマックスウェル分布に従う場合、イオントラップ2の中心点を含み、上記中心軸Cに直交する面を境にして、入口側エンドキャップ電極22側と出口側エンドキャップ電極24側とに存在するイオンの数は同数であると考えることができる(図3(b)参照)。理論的には、上記中心軸Cに直交する面を境にして入口側エンドキャップ電極22側に存在するイオンは直流磁場Bにより入口側エンドキャップ電極22側に向かい、出口側エンドキャップ電極24側に存在するイオンは直流磁場Bにより出口側エンドキャップ電極24側に向かう。つまり、もともと捕捉されていたイオンのうちの50%が入口側エンドキャップ電極22に向かい、残りの50%が出口側エンドキャップ電極24に向かうことになる。
【0028】
出口側エンドキャップ電極24に向かった同種イオンのうち、次の(3)式で与えられるRr[%]が、イオンと同極性の電場により反射されてイオントラップ2の中心方向に戻ると考えられる。一方、入口側エンドキャップ電極22に到達したイオンの大部分はその電極面との相互作用で(電極に接触して又は電極との間で電荷を授受して)中性粒子となる。中性粒子となることはイオンとしての消滅を意味する。
r=[1−exp(−2eqVA/kbi)]×100 …(3)
【0029】
エンドキャップ電極22、24間の最短距離をLtrapとすると、イオントラップ2に捕捉されていたイオンのうち、質量の最も小さなイオン(質量:Mlight)が出口側エンドキャップ電極24付近で反射してから入口側エンドキャップ電極22に到達するまでに少なくとも1.5×Ltrapの距離を飛行する。これに要する時間は、
light=1.5Ltrap/v’light …(4)
となる。この時間Tlight内に入口側エンドキャップ電極22付近で消滅したイオンの最大質量Mheavyは、(2)式及び(4)式より、
heavy=9×Mlight …(5)
と求まる。即ち、Rrがほぼ100%であれば、イオントラップ2に捕捉されていたイオンのうち、質量Mlightから9×Mlightまでの質量範囲に含まれるイオンの総数を約50%に減らすことができる。
【0030】
但し、上述のイオンの挙動は全てのイオンが直流磁場Bによる磁力線に沿って(磁力線を中心とする旋回軌道をとって)移動することが前提である。つまり、イオンがリング電極21に接触して消滅する可能性をできるだけ排除する必要がある。そのためには、イオントラップ2内に捕捉したいイオンの質量電荷比に対して、次の(6)式の条件が成り立つように、直流磁場Bの強度を設定することが必要である。
L<Rtrap
ここで、Rtrapはイオントラップ2の内接円半径である。
【0031】
本実施例のイオントラップ質量分析装置において、上記のような原理に基づくイオン数低減操作を行う際の具体的な各部の制御について図2により説明する。
イオン入射口23を通してイオントラップ2内にイオンを導入する際には、補助電源部6より出口側エンドキャップ電極24に正の直流電圧を印加し、入口側エンドキャップ電極22に負の直流電圧を印加する。これにより、正イオンはイオン入射口23を円滑に通過するとともに、出口側エンドキャップ電極24近傍まで進むと、反射されてイオントラップ2中央側に戻るため、イオン出射口25を通してそのままイオンが排出されてしまうことを回避することができる。そうしてイオンをイオントラップ2内に導入した後に、主電源部5からリング電極21に高周波高電圧を印加し、イオンを捕捉する。この際に、上述したようにイオントラップ2内にクーリングガスを導入し、イオンのクーリングを行うことができる。
【0032】
その後、励磁駆動部7からソレノイドコイル26に電流を供給して直流磁場をイオントラップ2内に形成する。このとき、リング電極21への印加電圧はゼロとするか、或いは、イオンに対するクーロン障壁を小さくして移動を容易にするために高周波高電圧の周波数を高くする。また、出口側エンドキャップ電極24には正の直流電圧を印加し、入口側エンドキャップ電極22に負の直流電圧を印加した状態を維持する。これにより、上述したように、その直前に捕捉されていたイオンのうちの半分程度が消滅するから、その残りが消滅する前に直流磁場を消失させ、捕捉用の高周波電場を復活させることにより、残ったイオンを確実に捕捉する。
【0033】
例えば、イオントラップ2のサイズが、内接円半径:10mm、エンドキャップ電極22、24間最短距離Ltrap:10mmであり、イオントラップ2内に捕捉するイオンの質量電荷比の範囲を(5)式を満たす120−1000Daと想定する。この場合、(1)式及び(6)式から、直流磁場Bの磁束密度を500Gauss程度にする必要がある。また、(4)式から、図2中のイオン数低減操作の時間は100μsec程度になる。
【0034】
なお、上記のようなイオン数低減操作を繰り返すことは可能であり、それによって捕捉されるイオン数をさらに減らすことができる。
【0035】
また、上記実施例では、空間電位が0[V]であると仮定して、エンドキャップ電極22、24にイオンと逆極性の電圧及び同極性の電圧をそれぞれ印加することにより、電極22にイオンをひきつけ、電極24でイオンを反発させるようにした。一方、イオントラップ2内の空間電位が0[V]でなく+Vs[V]である場合には、エンドキャップ電極22、24に印加する電圧値からVsを差し引いた値を、イオンと逆極性の電圧及び同極性の電圧とすることにより、上記と同様に、イオンを引きつける電場及びイオンを反発させる電場をそれぞれ生成することができる。
【0036】
上記実施例は本発明を三次元四重極型イオントラップに適用したものであるが、リニア型イオントラップでも同様の手法で捕捉するイオン数を減らすことができることは明白である。
【0037】
また、上記実施例は本発明の一実施例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜に修正、変更、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることも明らかである。例えば、イオン化部1や検出部3の構成は上記実施例のものに限定されず、イオントラップ2自体で質量分離を行うことなく外部に飛行時間型質量分析器などの質量分離部を設ける構成であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…イオン化部
11…レーザ照射部
12…サンプルプレート
13…引き出し電極
14…イオン輸送光学系
2…イオントラップ
21…リング電極
22…入口側エンドキャップ電極
23…イオン入射口
24…出口側エンドキャップ電極
25…イオン出射口
26…ソレノイドコイル
3…検出部
31…コンバージョンダイノード
32…電子増倍管
4…データ処理部
5…主電源部
6…補助電源部
7…励磁駆動部
8…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極からなり、それら電極で囲まれる空間にイオンを捕捉するイオントラップ装置において、
a)イオントラップ内空間にイオン捕捉用の高周波電場を形成するべく、前記複数の電極の少なくとも1つに高周波電圧を印加する高周波電圧印加手段と、
b)イオントラップ内空間に直流磁場を形成する磁場形成手段と、
c)前記高周波電場の形成を停止又は該電場強度を弱めた状態とするとともに前記磁場形成手段により直流磁場を形成した状態で、該直流磁場の磁力線に交差する一対の電極の一方にイオンを引きつける電場を生成する電圧を印加し、一対の電極の他方にイオンを反発させる電場を生成する電圧を印加する補助電圧印加手段と、
を備えることを特徴とするイオントラップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオントラップ装置であって、
リング電極と該リング電極を挟んで対向配置された一対のエンドキャップ電極とを有し、前記高周波電圧印加手段はリング電極に高周波電圧を印加し、前記補助電圧印加手段は一対のエンドキャップ電極にそれぞれ電圧を印加するものであることを特徴とするイオントラップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−54465(P2011−54465A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203477(P2009−203477)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】