説明

イオントラップ質量分析計を走査するための方法および装置

イオントラップと下流の質量分析計とを有する質量分析計システムが提供される。複数のイオン群がイオントラップに提供され、第一の質量対電荷比が選択される。該下流の質量分析計は、(i)該第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該第一の質量対電荷比とは異なる該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去するように設定される。第一の質量対電荷比の第一のイオン群は、第一のイオントラップから下流の質量分析計まで排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントラップ質量分析計を走査するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントラップ質量分析計の性能は、捕捉されるイオンの数が最適な範囲を超えて増加するにつれ劣化し得る。その結果は、質量スペクトル特性の広がりであり得、見かけのm/zのシフトであり得、重大な場合には安定線図における予測されないβ−値における排出であり得る。予測されないa−値、q−値の組み合わせにおけるイオン排出は、m/z情報の完全な欠損を導き得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の実施形態の局面にしたがって、イオントラップと下流の質量分析計とを有する質量分析計を有する質量分析計システムを稼動する方法が提供される。上記方法は、(a)複数のイオン群をイオントラップに提供する工程と、(b)第一の質量対電荷比を選択する工程と、(c)(i)該第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと(ii)該第一の質量対電荷比とは異なる該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去するように、該下流の質量分析計を設定する工程と、(d)該イオントラップから該下流の質量分析計まで、該第一の質量対電荷比の第一のイオン群を排出する工程とを包含する。
【0004】
本発明のさらなる実施形態にしたがって、質量分析計システムが提供され、該システムは、(a)複数のイオン群を受け、捕捉するためのイオントラップと、(b)該イオントラップから排出されたイオンを受けるための下流の質量分析計と、(c)選択された質量対電荷比を受けるための入力手段と、(d)該入力手段からの、選択された質量対電荷比を受けるため、かつ該選択された質量対電荷比に基づいて該イオントラップと該下流の質量分析計との両方を制御するためのコントローラーであって、その結果、該イオントラップが、イオントラップから、選択された質量対電荷比の選択されたイオン群を排出するように稼動可能であり、該下流の質量分析計が(i)第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去するように設定される、コントローラーとを備える。コントローラーは、入力手段と、イオントラップと、下流の質量分析計との通信のために結合される。
【0005】
本出願人の教示のこれらの特徴および他の特徴が本明細書において記載される。
【0006】
当業者は、以下に記載される図面が例示目的のみであるということを理解する。図面は、いかなる方法においても本出願人の教示の範囲を限定することを意図しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1を参照すると、HagerおよびLeBlanc、Rapid Communications of Mass Spectrometry System 2003、17、1056〜1064によって記載される、QTRAP Q−q−Qリニアイオントラップ質量分析計システム10の概略図が示される。質量分析計システムの稼動中に、イオンは、オリフィス板14およびスキマー16を通って真空チャンバー12に入り得る。リニアイオントラップ質量分析計システム10は、ロッドQ0、Q1、Q2およびQ3の4つの伸長したセットと、ロッドのセットQ0の後のオリフィス板IQ1と、Q1およびQ2の間のIQ2と、Q2およびQ3の間のIQ3とを備える。スタビロッド(stubby rod)Q1aの追加のセットが、オリフィス板IQ1と伸長したロッドのセットQ1との間に提供される。
【0008】
一部の場合において、ロッドのセットの隣接する対の間のフリンジ電界は、イオンの流れを歪曲し得る。スタビロッドQ1aが、オリフィス板IQ1と伸長したロッドのセットQ1との間に提供され、イオンの流れを伸長したロッドのセットQ1に集める(focus)。
【0009】
イオンは、Q0(約8×10−3torrの圧力に維持され得る)で衝突によって(collisionally)冷却され得る。リニアイオントラップ質量分析計Q1および下流の透過質量分析計(transmission mass spectrometer)Q3の両方は、従来の透過RF/DC多重極質量分析計としての稼動が可能である。Q2は、衝突セル(collision cell)であり、この中で、イオンが衝突ガス(collision gas)と衝突し、より少ない質量の生成物にフラグメント化される。代表的に、イオンは、多重極ロッドに印加されるRF電圧および末端の開口レンズ18に印加される障壁電圧を使用して、リニアイオントラップ質量分析計Q1に捕捉され得る。
【0010】
多くのイオントラップ質量分析計システムは、1つの型のイオンゲーティング(ion gating)を使用し、これは、イオントラップがあまりにも多量のイオンで満ちることを防ぐ。これらのイオンゲーティング技術にともなう可能性のある1つの課題は、これらが、追加の質量走査を実施することによって、イオントラップを満たすイオンの適切な数を決定することである。この工程は、さらなる時間を必要とし、装置のデューティサイクル、有効な走査速度、および感度全体の低減をもたらす。本発明の一部の実施形態のいくつかの局面にしたがって、下流の透過質量分析計Q3は、質量差0で、リニアイオントラップQ1と組み合わせて稼動される。言い換えると、下流の透過質量分析計は、未選択のイオンを除くように構成され得る(一部の実施形態においては、構成される)。予期されないa−値、q−値でリニアイオントラップQ1から排出されるイオンは、それによって除かれ得、かつ下流の透過質量分析計Q3によって透過され得ない。
【0011】
図2a、2b、3aおよび3bの質量スペクトルを提供するために、図1の質量分析計システム10を使用した。Q1を、質量選択的な軸方向排出(axial ejection)を備えたリニアイオントラップとして稼動させた。衝突セルQ2を、リニアイオントラップQ1からQ3へイオンを移すための、衝突ガスを含まない単純なイオンパイプとして稼動させた。Q3を、標準的なRF/DC分解多重極質量分析計として使用した。
【0012】
次に、時折(i)分解せず、RFのみのモード、および時折(ii)0amuの質量差でのリニアイオントラップQ1と同時での分解モードの走査で下流の透過質量分析計Q3を稼動させて、空間電荷条件下で、種々の溶液についてスペクトルを取得した。
【0013】
図2aは、下流の透過質量分析計Q3が分解せずに、リニアトラップQ1および下流の透過質量分析計Q3を同時に走査することによって得られた、m/z=622、922および1522での優勢なイオンを含むAgilent試験溶液の質量スペクトルを示す。言い換えると、リニアイオントラップQ1を走査して、m/z 622、922および1522のイオンを逐次的にイオンパイプQ2へ排出し、そこから下流の透過質量分析計Q3へ排出した。これらの排出されたイオンは、下流の透過質量分析計Q3で分解されず、検出器30へ排出された。
【0014】
図2aの質量スペクトルは、空間電荷の問題(すなわち、至適範囲を超えて増加する捕捉されたイオンの数)から生じる重大な影響を示す。結果として、スペクトル特性は、図2aにおいて顕著に広がっている。
【0015】
図2bは、下流の透過質量分析計Q3をおよそ3amuの広い透過ウインドウ(transmission window)での分解モードにして、リニアトラップQ1および下流の透過質量分析計Q3を同時に走査することによって得られた、m/z=622、922および1522での優勢なイオンを含むAgilent試験溶液の質量スペクトルを示す。図2bの質量スペクトルについて、空間電荷の問題はリニアイオントラップQ1に残っている。結果として、選択した質量(仮に622)のイオンが軸方向に排出されるとき、選択していないa−値、q−値の多くの他のイオンもまた排出され得、それによって図2aの広がった質量スペクトル特性が説明され得る。しかしながら、図2bの質量スペクトルの場合において、リニアイオントラップQ1から排出されたイオンは、イオン検出器30に達する前に、まず分解モードの下流の透過質量分析計Q3を横切るはずである。結果的に、高品質の質量スペクトルに不適切なa−値、q−値に対応する、図2aに示される多くの質量シグナルが、下流の質量分析計Q3によって除去され、それによって質量スペクトル情報を回収することが可能になる。すなわち、不適切なa−値、q−値に対応する質量シグナルが、多くの場合、3amuの広い透過ウインドウを超え、それゆえ分解モードでのQ3の稼動によって除去される。
【0016】
図3aを参照すると、下流の透過質量分析計Q3が分解せずにリニアトラップQ1および下流の透過質量分析計Q3を同時に走査することによってポリプロピレングリコールのNa付加物溶液の質量スペクトルを取得した。言い換えると、リニアイオントラップQ1を走査して、ポリプロピレングリコールのNa付加物を逐次的にイオンパイプQ2へ排出し、そこから下流の透過質量分析計Q3へ排出した。図2aの質量スペクトルのように、これらの排出されたイオンは、下流の透過質量分析計Q3で分解されず、検出器30へ排出された。
【0017】
リニアイオントラップ内のポリプロピレングリコールのNa付加物溶液の数は高いままだった。結果として、選択されないa−値、q−値のイオンがリニアイオントラップQ1から排出され、それによって図3aの広くなった質量スペクトル特性を提供する。
【0018】
図3bは、ポリプロピレングリコールのNa付加物の質量スペクトルを示す。下流の透過質量分析計Q3をおよそ3amuの広い透過ウインドウでの分解モードにして、リニアトラップQ1および下流の透過質量分析計Q3を同時に走査することによって図3bの質量スペクトルを得た。選択されないa−値、q−値のイオンがリニアイオントラップQ1から排出されたように、リニアイオントラップQ1内のポリプロピレングリコールのNa付加物の数は高いままだった。しかしながら、図3bの質量スペクトルの場合、リニアイオントラップQ1から排出されたイオンは、イオン検出器30に達する前に、分解モードの下流の透過分析計Q3を横切った。結果的に、高品質の質量スペクトルに不適切なa−値、q−値に対応する、図3aに示される多くの質量シグナルが下流の質量分析計Q3によって除去され、図3bの質量スペクトルからなくなっている。それゆえ、図3bの質量スペクトルは、58amuで分離された一連の分解されたピークを示す。
【0019】
図4を参照して、本発明の一実施形態にしたがうリニアイオントラップ質量分析計システム400の概略図が示される。公知の様式で、システム400は、イオン源50(これは、例えば、エレクトロスプレー、イオンスプレー、コロナ放電デバイスまたは他の適切なイオン源であり得る)からイオンを受ける。イオン源50からのイオンは、開口プレート404の開口部402を通って導かれる。その後、イオンは、スキマープレート408の開口部406を通って、第一チャンバー410に入る。チャンバー410は、標準的なRFのみの多重極イオンガイド412を備える。この機能は、イオンを冷却し集めることであり、チャンバー410内に存在する比較的高圧のガスによってこの機能が補助される。チャンバー410はまた、大気圧のイオン源とより低い圧力の真空チャンバー414との間のインターフェイスを提供するのに役立ち、それによってさらなる処理の前に、イオン流からより多くのガスを除去するのに役立つ。オリフィス板413は真空チャンバー414からチャンバー410を分離する。真空チャンバー414において、短いまたは短く太いRFのみのロッド416は、Brubakerレンズとして役立つ。伸長したロッドのセット418もまた真空チャンバー414に配置される。以下でより詳細に記載されるように、伸長した多重極ロッドのセット418がトラップとして使用されるので、チャンバー414は約5×10−4Torrの圧力で維持される。
【0020】
多重極ロッドのセット418から、イオンは、オリフィス板420を通って衝突セル422へ軸方向に排出され得る。本発明の一部の実施形態において、衝突セル422は、単純に衝突ガスを含まないイオンパイプとして働き、多重極ロッドのセット418から下流の多重極ロッドのセット424へイオンを移す。本発明の他の実施形態において、衝突セル422は、他の中間的なイオン光学素子に置き換えられても、四重極ロッドのセット418からのイオンが下流の透過多重極ロッドのセット424へ直接排出されるようにその全体が排除されてもよい。
【0021】
図4に示される実施形態において、衝突セル422は、多重極ロッドのセット426(これは、オリフィス板428を通って多重極ロッドのセット424へイオンを軸方向に排出し得る)を備える。
【0022】
稼動中、複数のイオン群(このような各群は種々のm/zを有する)が、イオン源50によって、オリフィス板404、スキマー408、ロッドのセット412を含む真空チャンバー410、オリフィス板413およびスタビロッドのセット416を介して多重極ロッドのセット418に供給される。イオンは、ロッドのセット412(これは、図1のロッドのセットQ0と同様に、およそ8×10−3Torrの圧力で維持され得る)内で衝突によって冷却され得る。多重極ロッドのセット418は、m/zが異なる複数のイオン群のためのイオントラップとして働く。その後、使用者または自動的にかのいずれかによって第一の質量対電荷比が選択され、入力デバイス430に入力する。次に、入力デバイス430は、選択された第一の質量対電荷比をコントローラー432に伝達する。示されるように、多重極ロッドのセット418のための電源434は、RF、分解DC(resolving DC)および補助ACを多重極ロッドのセット418に提供し得る。さらに、電源436は、RFおよび分解DCを下流の透過ロッドのセット424に供給し得る。コントローラー432は電源436を制御し得、下流の透過ロッドのセット424に提供されるRFおよび分解DCを設定し得、選択されコントローラー432に提供された第一の質量対電荷比とは実質的に異なる質量対電荷比を有するイオンを除去し得る。同様に、コントローラー432は電源434を制御し、リニアイオントラップとして稼動する多重極ロッドのセット418にRFおよび分解DCおよび補助ACを提供し、リニアイオントラップ418からの第一の質量対電荷比の第一のイオン群を下流の質量分析計424へ排出し、一方で他のイオンを保持する。
【0023】
上記で議論したように、多重極ロッドのセット418に保存され捕捉されたイオンの数が至適範囲を超える場合、選択された質量対電荷比とは異なる質量対電荷比を有するイオンもまた排出され得る。小さな透過ウインドウ(仮に約3amu)で、多重極ロッドのセット418および下流の透過多重極ロッドのセット424の走査を結合することによって、下流の透過ロッドのセット424を使用し得、選択されない質量対電荷比のこれらの偶発的に排出されたイオンを除去し得る。図2bおよび3bに示されるように、このことは、失われたスペクトル情報を回収するのを補助し得る。なぜなら、選択した質量対電荷比のイオンはロッドのセット424によって除去されないが、代わりに出口の障壁(exit barrier)438を通って検出器440へ透過されるからである。
【0024】
図5を参照すると、本発明の第二の実施形態にしたがう下流の飛行時間型(TOF)質量分析計524を使用するリニアイオントラップ質量分析計システム500の概略図が示される。明確さのために、100を加えた、同一の参照番号が使用され、図4のシステム400の要素と類似するリニアイオントラップ質量分析計システム500の要素を指定する。簡潔さのための、図4の説明は、図5に関して繰り返さない。
【0025】
稼動中、複数のイオン群(このような各群は種々のm/zを有する)は、イオン源50によって、オリフィス板504、スキマープレート508、真空チャンバー510、オリフィス板513およびスタビロッドのセット516を介して多重極ロッドのセット518に供給される。その後、使用者または自動的にかのいずれかによって第一の質量対電荷比が選択され、入力デバイス530に入力する。次に、入力デバイス530は、選択された第一の質量対電荷比をコントローラー532に伝達する。示されるように、そしてシステム400と同様に、多重極ロッドのセット518のための電源534は、RF、分解DCおよび補助ACを多重極ロッドのセット518に提供し得る。
【0026】
コントローラー532は電源534を制御し、第一の質量対電荷比を有するイオン群を排出するように多重極ロッドのセット518を設定する。しかしながら、上記で議論されたように、多重極ロッドのセット518に保存され捕捉されたイオンの数が至適範囲を超える場合、選択された質量対電荷比とは異なる質量対電荷比を有するイオンもまた排出され得る。これらのイオンの全ては、既知の時間で、多重極ロッドのセット518および下流の衝突セル522または他の中間的なイオン光学素子から排出され、イオンは、既知の時間で、飛行時間型質量分析計524の入り口開口部523に入る。飛行時間型質量分析計524内で、全てのイオンは同一の電場に供され、一定の電気エネルギーの領域でドリフトされる(drift)。結果として、イオンは、一定の時間内にこのドリフト領域を横切り、それらのm/z比に依存する時間ウインドウ(time window)に検出器525に到達する。一部の実施形態において、コントローラー532は、飛行時間型質量分析計524の検出器525を制御し得、第一の選択したm/zのイオンが要する時間量で飛行時間型質量分析計524のドリフトゾーン(drift zone)527を横切るイオンのみを検出し得る。あるいは、検出器525は、選択したイオンおよび選択されていないイオンの両方を検出し得る。検出器525に達する選択したイオンのための時間ウインドウもまた決定される。次に、この時間ウインドウの外で受容したシグナルの全て(これらは、代表的に検出器525によって検出される選択されないm/zのイオンに対応する)は除去される。
【0027】
図6を参照すると、本発明の一実施形態の局面にしたがうイオントラップ質量分析計システムを走査する方法がフローチャートで示される。図4および5のいずれかの質量分析計システムが使用され得るか、または代替的に他の質量分析計システムもまた使用され得る(ただし、このような質量分析計システムは上流のイオントラップおよび下流の質量分析計を備える)。工程602において、複数のイオン群がイオン源によって上流のリニアイオントラップに提供され得る。これらのイオン群の各々は種々のm/zに対応する。次に、工程604において、第一の質量対電荷比(リニアイオントラップに保存されたイオン群のうちの一つに対応する)が選択される。工程606において、下流の質量分析計は、第一の質量対電荷比とは異なる質量対電荷比を有するイオンを除去するように設定される。代表的に、一部の範囲またはウインドウが許容され、特定の範囲(仮に3amu)内のイオンが除去されないが、この範囲外のイオンが除去される。もちろん、このウインドウは他のイオン群のm/zに依存して調整され得る。工程608において、第一の質量対電荷比の第一のイオン群が、リニアイオントラップから下流の質量分析計へ排出される。先に記載されるように、リニアイオントラップに保存され捕捉されたイオンの数が最適な数を超える場合、選択した質量対電荷比と異なる質量対電荷比を有するイオンもまた排出される可能性がある。次に、選択したイオンおよび選択されないイオンの両方が下流の質量分析計に提供される。
【0028】
選択されない質量対電荷比のイオンを除去することにおける下流の質量分析計の稼動は使用されるシステムの型に依存して異なる。例えば、下流の質量分析計が四重極質量分析計、または選択されないイオンを物理的に除去する他の多重極質量分析計(一般的に、イオンガイドと呼ばれる)である場合、工程608において、適切なRFおよびDC駆動電圧が下流のイオンガイドに提供され、第一のイオン群を半径方向に制限および透過(transmit)させ、一方で選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する。その後、第一のイオン群が工程610において検出される。他方、下流の質量分析計が、例えば、飛行時間型質量分析計である場合、工程608は、第一のイオン群が飛行時間型質量分析計のドリフトゾーンを横切り、検出器に達するのに要する時間量を決定する工程を含む。その後、特定の時間ウインドウ(第一のイオン群が変化量の局限(margin of variation)に沿ってドリフトゾーンを横切るのに要する時間量に対応する)内に受ける検出器からの質量シグナルが受容され、一方で、この時間ウインドウの外で受ける検出器からの質量シグナルが除去される。
【0029】
本発明の他のバリエーションおよび改変が可能である。例えば、上記の説明で、リニアイオントラップへの参照がなされるが、リニアイオントラップではないイオントラップが使用され得ることが認識される。特に、空間電荷の問題が、リニアイオントラップではないイオントラップに生じる可能性がなおより高くあり得る。したがって、本発明の局面はまた、リニアイオントラップではないイオントラップに適用され得る。さらに、四重極質量分析計ではない質量分析計またはイオンガイドが使用され得、空間に基づくイオン分離を提供し得る。例えば、4本より多いロッドを有する質量分析計が使用され得る。全てのこのような改変またはバリエーションが特許請求の範囲に定義される本発明の範囲(sphere)および範囲(scope)内にあることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は先行技術に従うQTRAP Q−q−Qリニアイオントラップ質量分析計を、概略図で示す。
【図2】図2aは、リニアイオントラップを用いて得られた、m/z=622、922および1522での優勢なイオンを含むAgilent試験溶液の質量スペクトルを示す。図2bは、本発明の第一の局面にしたがった、リニアイオントラップを、下流の透過質量分析計(リニアイオントラップに対して0amuの質量差で稼動)とともに用いて得られた、m/z=622、922および1522での優勢なイオンを含むAgilent試験溶液の質量スペクトルを示す
【図3】図3aは、リニアイオントラップを用いて得られたポリプロピレングリコールのNa付加物溶液の質量スペクトルを示す。図3bは、本発明の第二の局面にしたがった、リニアイオントラップを、下流の透過質量分析計(リニアイオントラップに対して0amuの質量差で稼動)とともに用いて得られたポリプロピレングリコールのNa付加物溶液の質量スペクトルを示す。
【図4】図4は、本発明の実施形態にしたがったリニアイオントラップ質量分析計システムを、ブロック図で示す。
【図5】図5は、本発明の第二の実施形態にしたがったリニアイオントラップ質量分析計システムを、ブロック図で示す。
【図6】図6は、本発明の実施形態の局面にしたがった方法を、フローチャートで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップおよび下流の質量分析計を有する質量分析計システムを稼動する方法であって、該方法は、
(a) 複数のイオン群を該イオントラップに提供する工程と、
(b) 第一の質量対電荷比を選択する工程と、
(c) (i)該第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該第一の質量対電荷比とは異なる該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去するように、該下流の質量分析計を設定する工程と、
(d) 該第一の質量対電荷比の第一のイオン群を、該イオントラップから該下流の質量分析計まで排出する工程と
を包含する、方法。
【請求項2】
前記下流の質量分析計は、前記第一の質量対電荷比とは異なる前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するためのイオンガイドであり、
工程(c)は、第一のRFおよびDC駆動電圧を該イオンガイドに提供して、前記第一のイオン群を半径方向に制限および透過させ、該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)の後、前記第一のイオン群を、前記イオンガイドから検出器まで排出し、該検出器において該第一のイオン群を検出する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の質量対電荷比とは異なる第二の質量対電荷比を選択する工程と、
工程(c)の後、該第二の質量対電荷比とは異なる第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するように、前記下流の質量分析計を再設定する工程と、
該第二の質量対電荷比の第二のイオン群を、前記イオントラップから該下流の質量分析計まで排出する工程と
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記下流の質量分析計は、前記第一の質量対電荷比とは異なる前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するためのイオンガイドであり、
工程(c)は、第一のRFおよびDC駆動電圧を該イオンガイドに提供して、前記第一のイオン群を半径方向に制限および透過させ、該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程を包含し、
前記第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するように該イオンガイドを再設定する工程は、該第一のRFおよびDC駆動電圧とは異なる第二のRFおよびDC駆動電圧を該イオンガイドに提供して、前記第二のイオン群を半径方向に制限および透過させ、該第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程を包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)の後に、前記第一のイオン群を、前記イオンガイドから検出器まで排出し、該検出器において該第一のイオン群を検出する工程と、
該イオンガイドを介して前記第二のイオン群を透過させた後、該第二のイオン群を該イオンガイドから検出器まで排出し、該検出器において該第二のイオン群を検出する工程と
をさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記下流の質量分析計はTOF質量分析計であって、検出器を備え、
工程(c)は、(i)該TOF質量分析計のドリフトゾーンを横切って該検出器まで到達する前記第一のイオン群に対する第一の飛行時間範囲を決定する工程と、(ii)該第一の飛行時間範囲内に受ける該検出器からの質量シグナルを受容する工程と、(iii)該第一の飛行時間範囲外に受けた該検出器からの質量シグナルを拒否することによって、前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程とを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記下流の質量分析計はTOF質量分析計であって、検出器を備え、
工程(c)は、(i)該TOF質量分析計のドリフトゾーンを横切って該検出器まで到達する前記第一のイオン群に対する第一の飛行時間範囲を決定する工程と、(ii)該第一の飛行時間範囲内に受ける該検出器からの質量シグナルを受容する工程と、(iii)該第一の飛行時間範囲外に受けた該検出器からの質量シグナルを拒否することによって、前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程とを包含し、
前記第二のイオン群を透過させるように前記下流の質量分析計を再設定する工程は、(i)該TOF質量分析計の該ドリフトゾーンを横切って該検出器まで到達する該第二のイオン群に対する第二の飛行時間範囲を決定する工程と、(ii)該第二の飛行時間範囲内に受ける該検出器からの質量シグナルを受容する工程と、(iii)該第二の飛行時間範囲外に受けた該検出器からの質量シグナルを拒否することによって、前記第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去する工程とを包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析計システムは、前記イオントラップと前記下流の質量分析計との間に位置する少なくとも1つの中間的なイオン光学素子をさらに備え、
工程(d)は、前記第一のイオン群を該少なくとも1つの中間的なイオン素子に排出する工程と、該少なくとも1つの中間的なイオン光学素子内に該第一のイオン群を制限する工程と、該少なくとも1つの中間的なイオン光学素子から該下流の質量分析計まで該第一のイオン群を透過させる工程とを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(i)前記下流の質量分析計内の前記第一のイオン群に由来する前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該下流の質量分析計内の該第一のイオン群に対する質量シグナルに由来する該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(i)前記下流の質量分析計内の前記第一のイオン群に由来する前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該下流の質量分析計内の該第一のイオン群に対する質量シグナルに由来する該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去する工程と、
(i)該下流の質量分析計内の前記第二のイオン群に由来する前記第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該下流の質量分析計内の該第二のイオン群に対する質量シグナルに由来する該第二の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去する工程と
をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
複数のイオン群を受け、捕捉するためのイオントラップと、
該イオントラップから排出されたイオンを受けるための下流の質量分析計と、
選択された質量対電荷比を受けるための入力手段と、
該入力手段から該選択された質量対電荷比を受けるため、かつ該選択された質量対電荷比に基づいて該イオントラップおよび該下流の質量分析計の両方を制御するためのコントローラーであって、
その結果、該イオントラップは、該イオントラップから、該選択された質量対電荷比の選択されたイオン群を排出するように稼動可能であり、
該下流の質量分析計は、(i)第一の質量対電荷比とは異なる第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンと、(ii)該第一の質量対電荷比とは異なる該第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンに対する質量シグナルとのうちの1つを除去するように設定される、コントローラーと
を備え、
該コントローラーは、該入力手段と該イオントラップと該下流の質量分析計との通信のために結合される、質量分析計システム。
【請求項13】
前記下流の質量分析計は、前記第一の質量対電荷比とは異なる前記第一の選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するためのイオンガイドであり、
前記コントローラーは、前記選択された質量対電荷比に基づいて該下流の質量分析計を制御することにより、対応するRFおよびDC駆動電圧が該下流の質量分析計に提供され、前記選択されたイオン群を半径方向に制限および透過させて、前記選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するように稼動可能である、請求項12に記載の質量分析計システム。
【請求項14】
前記選択されたイオン群を受け、検出するための検出器をさらに備え、前記下流の質量分析計は、該選択されたイオン群を、該下流の質量分析計から該検出器まで排出するように稼動可能である、請求項13に記載の質量分析計システム。
【請求項15】
前記下流の質量分析計はTOF質量分析計であり、検出器を備え、
前記選択された質量対電荷比に基づいて該下流の質量分析計を制御することにより、(i)前記選択されたイオン群が該TOF質量分析計のドリフトゾーンを横切って該検出器まで到達するための対応する飛行時間範囲を決定するように、(ii)該対応する飛行時間範囲内に受けた該検出器からの質量シグナルを受容するように、かつ(iii)該対応する飛行時間範囲外に受けた、該検出器からの質量シグナルを拒否することによって前記選択されない質量対電荷比を有するイオンを除去するように該下流の質量分析計が稼動可能であるように、前記コントローラーが稼動可能である、請求項12に記載の質量分析計システム。
【請求項16】
前記イオントラップからの前記選択されたイオン群を受けるため、および該選択されたイオン群を前記下流の質量分析計に透過させるための少なくとも1つの中間的なイオン光学素子をさらに備える、請求項12に記載の質量分析計システム。
【請求項17】
前記イオントラップはリニアイオントラップである、請求項12に記載の質量分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−516900(P2009−516900A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541553(P2008−541553)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001691
【国際公開番号】WO2007/059601
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(505123697)アプレラ コーポレイション (21)
【Fターム(参考)】