説明

イオンビームにより基板を加工するための方法、及び基板を加工するためのイオンビーム装置

【課題】改善されたイオンビームにより基板を加工するための方法、及び基板を加工するためのイオンビーム装置を提供する。
【解決手段】本発明は、イオンビーム装置(1) のイオンビーム源(1.1) によって発生し、基板(2) を加工するために基板(2) の表面(2.1) を向いたイオンビーム(I) により基板(2) を加工するための方法に関する。イオンビーム(I) は、炭素含有材料から少なくとも部分的に形成されたオリフィス板(1.3) によって導かれる。本発明によれば、炭素と反応する遊離体(E) が、イオンビーム(I) によってオリフィス板(1.3) から放出された炭素が酸化するように方向性のある流れでオリフィス板(1.3) と基板(2) との間に導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム装置のイオンビーム源によって発生し、基板を加工すべく基板の表面を向いたイオンビームにより基板を加工するための方法に関しており、イオンビームは、少なくとも部分的に炭素含有材料から形成されたオリフィス板によって導かれる。
【0002】
本発明は更に、イオンビームを発生するためのイオンビーム源と、イオンビーム源と基板との間に配置されイオンビームの断面を調整するための少なくとも1枚のオリフィス板とを備えており、イオンビームにより基板を加工するためのイオンビーム装置に関しており、該イオンビーム装置では、イオンビームはオリフィス板によって導かれることが可能であり、オリフィス板は炭素含有材料から形成されている。
【背景技術】
【0003】
先行技術から、特にはいわゆるマイクロテクノジー及びナノテクノロジーに関して基板の表面が精確に加工されることが一般的に知られている。薄膜技術によるいわゆる薄層化により意図的に予め決定可能な層厚の層を製造し、単原子厚の個々の層を削磨することにより意図的に厚く除去するだけでなく、いわゆる高品質表面のナノならい削りもイオンビームによって行われている。
【0004】
マイクロテクノロジー及びナノテクノロジーでは、削磨処理又はコーティングによって基板の表面トポグラフィを幾何学的に変化させることに加えて、表面の特性を局所的に変化させることが更に重要であることが知られている。イオンビームを用いた成膜方法では、基板上のコーティング中にイオンが同時に届くことにより、成膜される層の特性が変わる。従って、成膜される層の密度が可変的に予め決定されることが可能であり、非結晶状態から結晶状態への層の成長が変えられ得る。層の化学量論組成が同様に変えられ得る。
【0005】
先行技術から、イオンビームにより基板を加工するための方法、及び基板を加工するためのイオンビーム装置が一般的に知られている。イオンビーム装置は、イオンビームを発生するためのイオンビーム源を備えており、基板を加工するためにイオンビームは基板の少なくとも一表面上に導かれる。表面を加工する際、定められた表面構造が組み込まれるか、又は、表面が一部若しくは完全に平滑化されるか、又は表面形状の偏りが局所削磨によって低減される。用語「定められた表面構造」は、表面トポグラフィに加えて、表面の定められた二次元領域に関する全ての物理的特性及び化学的特性を意味すると理解される。表面上におけるイオンビームの位置及び大きさを精確に決めてイオンビームの断面を調整するために、オリフィス板が設けられており、イオンビーム源と基板との間に配置されている。
【0006】
このような基板の表面を加工するイオンビームのための一方法及び一装置が、欧州特許第1680800 号明細書に開示されており、そこでは、基板が、イオンビーム源によって発生したイオンビームに対向して配置されている。基板の表面の特性の既知のパターンが、特性の新たに技術的に定められたパターンが組み込まれるようにイオンビームによって部分的に加工される。基板の表面にイオンビームの作用により加工される実際の幾何学的パターンが、イオンビームの特性の変更及び/又はイオンビームの脈動によって、特性の既知のパターン及び特性の新たに技術的に定められたパターンの相関的要素として、更に方法の進捗の相関的要素としても調整される。イオンビームを用いて表面を加工する際に材料が削磨される体積が、イオンビームのドウェル時間、電流フロー及びイオンビームのエネルギー分布によって決定される。
【0007】
独国特許出願公開第4108404 号明細書は、ブロードビームイオン源を使用して、固体状表面を加工するイオンビームを制御するための方法を開示している。ブロードビームイオン源と加工されるべき固体状表面との間に配置されたシステムが、互いに無関係に直線に沿って移動可能な少なくとも3枚のオリフィス板を備えている。前記システムは、シミュレーション加工方法を用いたデジタルコンピュータ及びアクチュエータシステムによる帯状及び局所表面加工のための位置決め時間、形成時間及び開き時間の点から、本発明に従って時間が最適化される方法で補正データ及び周辺状態の両方に基づいて変えられる。そのため、精度のための要件に応じて、任意の表面加工が行われ得る。
【0008】
欧州特許出願公開第2026373 号明細書は、オリフィス板をイオン注入システムのイオンビーム内に位置決めするための位置決め装置について述べている。位置決め装置は、少なくとも1つの位置決めドライブによって互いに対して調整可能な2つの部品を備えており、2つの部品の内の一方が、イオンビーム源に対して固定して設けられた接点に接続可能か又は接続されており、他方が、オリフィス板に接続可能か又は接続されている。第2の部品は、接地板、電極板、及び前記部品に配置されたオリフィス板と共に、電気的な位置決めドライブによってイオンビームに対して空間内で3方向に位置付けられ得る。オリフィス板は、イオンビームを通さない黒鉛を含有している。
【0009】
特開昭62−018030号公報から、イオンビームエッチング装置の作動を改善するための方法が知られており、該方法では、エッチング領域が、連続的なエッチング処理の合間に汚れを落とすためにクリーニング用プラズマに周期的にさらされる。クリーニング用プラズマとして酸素含有ガスが使用されており、イオンビームを発生するイオン源とイオンビームによって加工されるべき基板との間のエッチング領域に導かれる。エッチング領域に成膜された炭素が酸素含有ガスで酸化し、そのため、二酸化炭素又は一酸化炭素が生成され、吸込抽出口を通って運ばれる。
【0010】
米国特許第6394109 号明細書から、炭素汚染物質を除去するための装置及び方法が更に知られている。炭素汚染物質は、マスク上の荷電粒子を含むリソグラフィ処理による半導体ウエハの製造中、又は該製造を行なうための加工チャンバに生じる。炭素汚染物質は、オキシダントによりマスク又は加工チャンバから取り除かれる。荷電粒子の発生源が加工チャンバに配置されており、オキシダントは加工チャンバに無方向性で導入される。オキシダントには、酸素、オゾン、一酸化二窒素、水蒸気、ドープされた酸素化合物及びアルコールの化合物が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第1680800号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4108404号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2026373号明細書
【特許文献4】特開昭62-018030号公報
【特許文献5】米国特許第6394109号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、先行技術に対して改善されたイオンビーム装置を作動するための方法、及び基板を加工するための改善されたイオンビーム装置を開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本方法に関して、前記目的は請求項1に述べられた特徴によって本発明に従って達成し、本イオンビーム装置に関して、前記目的は請求項11に述べられた特徴によって本発明に従って達成する。
【0014】
本発明の有利な実施形態は従属クレームの主題である。
【0015】
イオンビームにより基板を加工する方法では、イオンビームは、イオンビーム装置のイオンビーム源によって発生し、基板を加工するために基板の表面に向けられる。イオンビームは、少なくとも一部分が炭素含有材料から形成されたオリフィス板によって導かれる。
【0016】
本発明によれば、炭素と反応する遊離体が、イオンビームによりオリフィス板から放出された炭素が酸化するように方向性のある流れでオリフィス板と基板との間に導かれる。結果として、イオンビームによってオリフィス板から分離した炭素を酸化することが可能になり、従って、基板の表面への炭素の浸透又は基板の表面への炭素の成膜を回避するか、又は少なくとも低減することが可能になる。そのため、特に表面が高品質である基板が製造され得ることが有利である。特にレンズのような光学的基板は、とりわけ高い表面品質及び材料の純度を必要とし、これは、本発明の方法の使用によって基板の表面が特に平滑化されるか及び/又は形状補正されることにより特に簡単、精確且つ効率的に保証され得る。
【0017】
オリフィス板に含まれる炭素と遊離体との反応、及びその後のオリフィス板に対する破損を回避すべく、遊離体は、オリフィス板を非接触で通過して移動することが更に好ましい。そのためには、遊離体は、オリフィス板と基板との間に方向性のある流れで導かれ、従ってイオンビームによりオリフィス板から放出された炭素が酸化する。
【0018】
特に有利な実施形態では、酸化した炭素が遊離体の流れで運ばれ、そのため、酸化した炭素が基板の表面に衝突することが防止される。その結果、表面の加工及び基板の表面品質が最適化される。
【0019】
遊離体として、プラズマ又はガスが特に使用され、各々の場合でオリフィス板と基板との間の空間に簡単且つ非常に精確に導かれ得る。
【0020】
炭素の実現し得る最も完全な酸化を達成するために、一実施形態では、酸素、オゾン、一酸化二窒素、水蒸気及び/又は酸素含有化合物及び/又は酸素含有プラズマがガスとして使用される。
【0021】
基板が加工された後、基板の表面に浸透したあらゆる炭素及び/又は基板の表面に成膜されたあらゆる炭素を除去するために、具体的な実施形態では、酸素含有プラズマ、例えば酸素プラズマが基板の表面に導かれる。その結果、酸化していない炭素又は部分的にのみ酸化した炭素が表面から放出され、従って基板の表面品質が更に改善される。
【0022】
残留炭素を表面から除去するために酸素含有プラズマを使用する特定の利点は、炭素が既に成膜されており、従って炭素自体があまり反応しない場合は常に、炭素が特に効果的に酸化することである。そのため基本的には、削磨される炭素、及び基板の表面の材料の更なる削磨も最小限度に抑えられる。
【0023】
代わりに又は加えて、イオンビームにより表面を加工した後、オリフィス板は外され、無炭素イオンビームが基板の表面に導かれる。そのため、表面を加工した後、基板の表面に浸透したあらゆる炭素及び/又は基板の表面に成膜されたあらゆる炭素が除去され得る。
【0024】
イオンビームにより基板を加工するためのイオンビーム装置は、イオンビームを発生するためのイオンビーム源と、イオンビーム源と基板との間に配置され、イオンビームの断面を調整するための少なくとも1枚のオリフィス板とを備えており、イオンビームはオリフィス板によって導かれることが可能であり、オリフィス板は炭素含有材料から形成されている。
【0025】
本発明によれば、炭素と反応する遊離体を送るための送出ユニットが設けられており、イオンビームによりオリフィス板から放出される炭素を酸化すべく、送出ユニットは、遊離体がオリフィス板と基板との間に方向性のある流れで導かれ得るように配置されている。送出ユニットは、材料、組立て及び経費の点で低コストで一体化されることが可能であり、そのため、特には労力及び費用をほとんどかけずに基板の表面を簡単、精確且つ効率的に加工することが可能であり、同時に、基板の表面への炭素のあらゆる浸透又は基板の表面上の炭素のあらゆる削磨を回避するか又は少なくとも低減することが可能である。
【0026】
本発明のイオンビーム装置の改良に関して、オリフィス板は外されるか及び/又はイオンビームの伝搬範囲の完全に外側まで回転させられることが可能である。従って、一方では、様々なオリフィス板がイオンビーム源と基板との間に簡単に配置されることが可能であり、そのため、様々なイオンビームが発生させられることが可能であり、基板に対する様々な表面加工処理が可能である。他方では、オリフィス板を外すこと及び/又は回転させることを可能にするために、このオリフィス板は、基板の表面上にイオンビームを適用するために、イオンビーム源と基板との間の領域の完全な外側に位置付けられ得ることが利点である。
【0027】
本発明のイオンビーム装置の特に有利な実施形態では、複数のオリフィス板が、イオンビーム源と基板との間に近接して旋回可能に配置されており、好ましくは回転可能に配置されている。その結果、基板に対する様々な表面加工処理のためにオリフィス板を交換する際の労力及び費用が低減される。
【0028】
酸化した炭素を除去するために、本発明のイオンビーム装置の一実施形態では、吸込抽出ユニットが設けられている。その結果、酸化した炭素を効果的且つ完全に除去することが可能になり、特に遊離体との炭素の反応で生成された反応生成物を除去するために、反応生成物をフィルタ及び/又は触媒ユニットに意図的に送ることが可能になる。
【0029】
本発明の特定の実施形態では、炭素を含有するオリフィス板が冷却器によって冷却される。その結果、イオンビームによってオリフィス板の内面から放出される炭素の割合が低減される。更に、基板からオリフィス板の外側にスパッタリングで戻される材料がオリフィス板に効果的に付着し、そのため、基板上の汚染度が効果的に低減される。
【0030】
遊離体は、焦点を合わせるイオンビームの焦点の近く及び/又はイオンビームによって加工されるべき基板上の位置の近くに送られることが特に好ましい。
【0031】
速度が300 eV乃至1300eVであり、特には600 eV乃至1000eV又は700 eV乃至900eVである
イオンを有するイオンビームが使用されることが好ましい。その結果、エネルギー入力が、一方では効果的な表面加工を可能にすべく十分高く、他方では基板の表面を深く破壊することを防止すべく十分低い。イオンの速度は、イオンビームI のエネルギーを決定し、焦点調整ユニット1.1.2 の格子に印加される加速電圧の大きさによって調整され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】イオンビームにより基板を加工するための本発明に係るイオンビーム装置の第1の実施形態の1つの例示的な実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係るイオンビーム装置の第2の実施形態を示す部分正面略図である。
【図3】本発明のイオンビーム装置のオリフィス板の第1の実施形態の1つの例示的な実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の例示的な実施形態を、図面に関連して以下に更に詳細に説明する。
【0034】
図1には、イオンビームI により基板2 を加工するための本発明に係るイオンビーム装置1 の1つの例示的な実施形態が示されている。
【0035】
基板2 は、光学レンズ、ミラー等として具体化された加工品であり、イオンビームI によって、定められた構造がレンズの表面2.1に形成されるか、又は表面2.1 が平滑化され
るか及び/若しくは形状補正される。
【0036】
イオンビームI を発生させるために、イオンビーム装置1はイオンビーム源1.1 を備え
ており、イオンビーム源1.1 にアルゴンガスG が送られる。アルゴンガスG は、特には3scm3/s(標準立方センチメートル毎秒)乃至5scm3/sの流量で送られる。他のガスを代わりに使用することも可能である。或いは、他の流量も可能であり、流量は好ましくは個々に調整され得る。
【0037】
イオンビームI は、アルゴンガスG のイオンを加速することによって発生させられる。プラズマをポット1.1.3 内で発生させるために、電気コイル1.1.1 が設けられており、交番電界を発生させる。好ましくは3つの別々に帯電した湾曲状の格子により形成された焦点調整ユニット1.1.2によって、炭素のイオンがプラズマから抽出され、加工されるべき
基板2 の方向に加速されることによりイオンビームI が形成される。
【0038】
イオンビーム装置1 内に、いわゆる高真空が存在する。イオンビーム源1.1 及び基板2 は、更に詳細な図示はないが、高真空が生成される最大空間に配置されている。
【0039】
イオンビームI が基板2 の表面2.1 に衝突するとき、パルスが、イオンビームI内に存
在する高エネルギーイオンから基板2 に伝達され、そのため、分子及び/又は原子が基板2 の表面2.1 から抽出され、このようにして削磨によって除去される。この処理は、スパッタリングとして知られている。
【0040】
焦点調整ユニット1.1.2 の下流側でありイオンビームI の出口方向に、螺旋状に巻かれたフィラメント1.2 が更に設けられており、フィラメント1.2 により低エネルギーの電子が発生させられる。これらの電子は、表面2.1 に衝突した後、イオンビームI のアルゴンイオンと表面2.1 上で再結合する。このため、アルゴンイオンと表面2.1 との衝撃に起因する基板2 の表面2.1 の正帯電が防止される。これは、基板2 が電気的に中性のままであることを意味する。
【0041】
イオンビームI を方向性を有して導き、イオンビームI の断面を調整するために、特には基板2 の表面2.1 におけるイオンビームI の断面を調整するために、イオンビーム装置1 はオリフィス板1.3 を備えている。そのため、イオンビームI を表面2.1 上の定められた位置に導くことが可能になる。
【0042】
オリフィス板1.3 はイオンビーム源1.1 と基板2 との間に配置されており、定められた直径をオリフィス板1.3 の出口に有している。オリフィス板1.3 によりイオンビームI のパワーの低減、特にはイオンビームI の加工径が予め決定されることができ、従って、表面2.1 からの削磨が調整され得る。オリフィス板1.3 の出口開口部の直径は、例えば、アルゴンイオンの50%、90%又は99%が遮断されるか又はイオンビームI に接しないように選
択される。
【0043】
オリフィス板1.3 は、基板2 の表面2.1 の前に6mmの間隔を置いて配置されていることが好ましい。代わりに、他の間隔も可能であり、基板2 はオリフィス板1.3 に対して可変的に配置されることが可能であり、オリフィス板1.3 は基板2 に対して可変的に配置されることが可能であり、及び/又はオリフィス板1.3 はイオンビーム源1.1 に対して可変的に配置されることが可能である。オリフィス板1.3 と表面2.1 との間の間隔は、特には2mm乃至10mmである。更にイオンビーム源1.1 と基板2 との間の間隔は可変的に調整され得ることが好ましい。イオンビーム源1.1 とオリフィス板1.3 との間の間隔も、同様に可変的に調整され得ることが好ましい。
【0044】
更に詳細には示されていないが、例示的な実施形態では、イオンビーム装置1 は、回転可能に配置された複数のオリフィス板1.3 を有している。オリフィス板1.3 は、様々な断面のイオンビームI を発生させるために、様々な大きさの出口開口部を、特には様々な直径及び/又は形状の出口開口部を有している。
【0045】
オリフィス板1.3 は、イオンビーム源1.1 の前に回転可能に又は旋回可能に配置されており、そのため、タレットの簡単な回転と、基板2 の表面2.1 とイオンビーム源1.1 との間の夫々のオリフィス板1.3 の確実な位置決めとによって、イオンビームI の所望の特性が予め決定され得る。このような1つのタレットは、出口開口部の直径が異なることによって特徴付けられる4枚のオリフィス板1.3 を有している。直径は、3mm、1.5 mm、1mm及び0.5 mmとなる。代わりに、異なる数のオリフィス板1.3 及び/又は異なる直径のオリフィス板を有するタレットが可能である。オリフィス板がイオンビームI に全く影響を及ぼさない、特にはイオンビームI を減少させる位置が設定され得ることが好ましい。
【0046】
アルゴンイオンの遮断又は非接触を可能にするために、オリフィス板1.3 は、イオンビームI を通さない材料を含有することが必要である。黒鉛、すなわち炭素が、低スパッター速度を有するのでこのために特に適切である。しかしながら、炭素は、イオンビームI によってオリフィス板1.3 の固体組成物から放出され、基板2 の表面2.1 の方向にイオンビームI と共に部分的に運ばれる。
【0047】
オリフィス板1.3 から放出された炭素が約10eVの比較的低いエネルギーを有するので、炭素は、基板2 の表面2.1 に特によく付着する。炭素が付着することにより、基板2 の表面品質が悪化し、特にはレンズの透過性が悪化し、とりわけレンズの伝達性能が悪化する。従って、基板2 の表面2.1 への炭素の付着及び基板2 への炭素の浸透を回避するか又は少なくとも低減することが必要である。
【0048】
そのために、イオンビーム装置1 は送出ユニット1.4 を備えており、送出ユニット1.4 によって、炭素と反応する遊離体E が、基板2 の加工されるべき表面2.1 とオリフィス板1.3 との間に方向性のある流れで導かれる。遊離体E は、酸素含有ガスであり、炭素との化学反応で以下の式に従って炭素を酸化させる。
2C + O2 → 2CO [1]
【0049】
一酸化炭素が反応生成物として生じる。
【0050】
代わりに又は加えて、炭素が以下の式に従って酸化されて、二酸化炭素になる。
C + O2 → CO2 [2]
【0051】
炭素、酸素、オゾン、一酸化二窒素、水蒸気及び/又は他の酸素含有化合物が、遊離体E として、言い換えればガスとして使用され、オリフィス板1.3 と基板2 の表面2.1 との間で方向性のある流れで送出ユニット1.4 によって導かれる。オリフィス板1.3 の破損又は破壊を回避するために、遊離体E はオリフィス板1.3 を非接触で通過して移動させられる。
【0052】
特に、遊離体E は、0.3cm3/s乃至0.5cm3/sの流量で送られる。代わりに、他の流量も可能であり、流量は個々に調整され得ることが好ましい。有利には遊離体E の流量は、導入されるアルゴンガスの流量の5%乃至15%になり、好ましくは10%になる。
【0053】
基板2 の表面2.1 に成膜された酸化されていない炭素を基板2 から取り除くために、基板2 の表面2.1 をイオンビームI によって加工した後、酸素含有プラズマが基板2 の表面2.1 に導かれる。酸素含有プラズマによって炭素が酸化され、削磨によって表面2.1 から除去される。基板2 の表面2.1 自体は、処理中変わらないか、又は極僅かしか変わらない。
【0054】
このために代わりに又は加えて、イオンビームI により表面2.1 を加工した後、オリフィス板1.3 が外されるか又はイオンビームの伝搬範囲の完全に外側まで回転させられる。代わりに、基板2 が、酸素含有プラズマを放出する第2源に移動させられる。
【0055】
更に代わりに又は加えて、イオンビームI により基板2 の表面2.1 を加工した後、無炭素イオンビームI 又は少なくとも低炭素イオンビームI が導かれ、それによって、炭素は削磨によって表面2.1 から除去される。少なくとも低炭素イオンビームI は、炭素を含有するオリフィス板を使用せずに発生され得る。このようなイオンビームI は、焦点調整ユニット1.1.2 の炭素格子から抽出された炭素を僅かしか有していない。
【0056】
基板2 の表面2.1 に成膜された酸化されていない炭素を除去するために、焦点調整ユニット1.1.2を備えているがオリフィス板1.3 を備えていないイオンビーム装置を使用し、
送出ユニット1.4 により遊離体E を送ることが特に有効である。
【0057】
図2には、複数の送出ユニット1.4 がオリフィス板1.3 の近くに配置されている例示的な実施形態が示されている。
【0058】
図3は、特定のオリフィス板1.3 の例示的な実施形態を示しており、基板2の方を向い
たオリフィス板1.3 の外側領域は開口部の近くで傾斜しており、そのため、オリフィス板1.3 の開口部の外側領域が円錐台形状である。その結果、基板2 によって反射されオリフィス板1.3 に外側から衝突するイオンが、抽出されるとしても基板2 の方向ではない方向にのみ同一の炭素から抽出されるので、驚くほど加工されるべき基板2 上での炭素の成膜が更に低減される。
【0059】
本発明の更に独立した実施形態では、オリフィス板1.3 の内部に、イオンビームI に略垂直に延びる部分が複数設けられている。すなわち、それらの部分の垂直線は、イオンビームI の方向に対して30°未満の傾斜度、特に好ましくは20°未満の傾斜度を有している。そのため、オリフィス板1.3 のこれらの部分に衝突するイオンは、基本的には同様に基板2 の方向ではない方向に同一の炭素から抽出される。
【符号の説明】
【0060】
1 イオンビーム装置
1.1 イオンビーム源
1.1.1 コイル
1.1.2 焦点調整ユニット
1.1.3 ポット
1.2 螺旋状に巻かれたフィラメント
1.3 オリフィス板
1.4 送出ユニット
2 基板
2.1 表面
E 遊離体
G アルゴンガス
I イオンビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム装置のイオンビーム源によって発生し、基板を加工するために該基板の表面を向いており、炭素含有材料から少なくとも部分的に形成されたオリフィス板によって導かれるイオンビームにより前記基板の表面を加工するための方法において、
前記オリフィス板と前記基板との間に、炭素と反応する遊離体が、イオンビームによって前記オリフィス板から放出された炭素が酸化するように方向性のある流れで導かれることを特徴とする方法。
【請求項2】
炭素と反応する遊離体は、送出ユニットによって前記オリフィス板を非接触で通過して移動させられ、
前記遊離体は、イオンビームによって前記オリフィス板から放出された炭素が酸化するように前記オリフィス板と前記基板との間に方向性のある流れで導かれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化した炭素は、前記遊離体の流れで運ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記遊離体として、ガス又は酸素含有プラズマが使用されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ガスとして、酸素、オゾン、一酸化二窒素、水蒸気及び/又は酸素含有化合物が使用されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イオンビームによる前記表面の加工後、酸素含有プラズマが前記基板の表面に導かれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
イオンビームによる前記基板の表面の加工後、前記オリフィス板は外され、遊離体の送り先である無炭素イオンビーム又は低炭素イオンビームが前記表面に導かれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記オリフィス板は冷却器によって冷却されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記遊離体は、イオンビームの焦点の近く及び/又はイオンビームによって加工されるべき基板上の位置の近くに送られることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
速度が300eV 及び1300eV間、特には600eV 及び1000eV間又は700eV 及び9000eV間であるイオンを有するイオンビームが使用されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
イオンビームを発生するためのイオンビーム源と、該イオンビーム源と基板との間に配置されイオンビームの断面を調整するための少なくとも1枚のオリフィス板とを備えており、イオンビームが前記オリフィス板によって導かれることが可能であり、前記オリフィス板は炭素含有材料から形成されており、イオンビームにより前記基板を加工するためのイオンビーム装置において、
炭素と反応する遊離体を送るための送出ユニットが設けられており、
イオンビームによって前記オリフィス板から放出される炭素を酸化すべく、前記送出ユニットは、遊離体が前記オリフィス板と前記基板との間に方向性のある流れで導かれ得るように配置されていることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項12】
前記オリフィス板は、外されるか、及び/又はイオンビームの伝搬範囲の完全に外側まで回転させられることが可能であることを特徴とする請求項11に記載のイオンビーム装置。
【請求項13】
前記オリフィス板は冷却器を有していることを特徴とする請求項11又は12に記載のイオンビーム装置。
【請求項14】
前記基板の方を向いた前記オリフィス板の領域が、傾斜しており、特には円錐台形状であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれかに記載のイオンビーム装置。
【請求項15】
前記オリフィス板の内部に、イオンビームに略垂直に延びる部分が少なくとも複数設けられていることを特徴とする請求項11乃至14のいずれかに記載のイオンビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−109865(P2013−109865A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252023(P2011−252023)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(511214864)アスフェリコン ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】asphericon GmbH
【Fターム(参考)】