説明

イオンビームを用いた断面試料作製装置

【課題】 イオンビームと遮蔽材を用いる断面試料作製装置において、断面加工の進行状態を素早く簡単に判断し、断面作製位置の変更や修正を短時間に行えると共に、試料の内部構造を知ることができるようにする。
【解決手段】 イオンビームによって加工される試料6の断面を観察するための光学観察装置40(断面観察手段)備え、イオンビームを照射中若しくは照射を中断した時にシャッタ41を開けて、加工室18内の真空を保持したまま試料6の断面を観察できる。また、試料6と遮蔽材12の相対位置変更するための調整手段を備え、一回の断面加工が終了する毎に断面画像の取り込みと断面位置の微小移動を繰り返し、得られた複数の画像から試料6の立体画像を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームと遮蔽材を用いて平滑且つ清浄な試料断面を作製することのできる断面試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体内部の不良解析を行う時、集束イオンビーム(FIB)を用いて欠陥部位を断面加工し、走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)で観察することが広く行われている。FIBによる断面加工には試料の破壊を伴うという欠点が有る。こうしたFIBの欠点を補って、観察に適する断面が得られるようにする技術や欠陥部位の三次元構造を知ることができるようにする技術が、例えば特許文献1の特開平6−20638号公報、特許文献2の特開平8−115699号公報に開示されている。
【0003】
ところで、SEMやTEMで断面観察の対象となる試料には、半導体試料の他にも、柔らかい試料、熱に弱い試料、吸水性のある試料、樹脂埋め込みが困難な試料等の断面作製が難しい試料が多くある。これらの試料の断面作製方法として
ミクロトーム法、凍結割断法等が従来から使われている。ミクロトーム法(試料を冷却して行う「クライオミクロトーム法」を含む)は広く用いられてきた方法であるが、ガラスナイフやダイヤモンドナイフで試料面を切削するので試料によっては本来の形状を保つことが困難なことがあり、また精密な断面を作製するためには熟練した技術を要する。凍結割断法は液体窒素などで極低温に冷却した試料を割断する方法であるが、所望の位置で断面を得られるとは限らず、表面の清浄さは保たれても平滑にはならない。
【0004】
このため、数10μm以下の比較的小さい試料の場合は、冷却した試料に集束イオンビームを照射して断面加工を行うクライオFIB法が使用されている。しかし、クライオFIB法では数百μm以上の大きな試料を加工することが事実上難しい。そのため、試料の上に遮蔽物を置いて、イオンビームを集束させないで広げたまま試料に照射する試料作成方法(以下、「CP法」:Cross section Polisher法、と称す)が使われるようになっている(例えば、特許文献3の特許第3263920号公報を参照)。CP法は、特に硬さが異なる異種材料からなり複合材料あるいはポーラスな構造を有する材料において、FIB法よりも構造変化の少ない良好な断面得ることができるとされている。さらに、FIB法に比べて、加工前処理が簡単で、熟練を要する作業の必要も無いので、容易に短時間で断面作製が行えるという利点も有る。
【0005】
特許文献1の試料作製装置の改良技術として、特許文献4の特開2005−37164号公報には、断面作製位置を調節するための光学顕微鏡を備えた装置に関する技術が開示されている。以下に、特許文献4を参考にして従来の断面作製技術を簡単に説明する。
【0006】
なお、説明の理解を容易にするため、図面において、互いに直交する座標軸X,Y,Z軸を定義し、座標軸を図面上に表記する。この表記中、「〇」の中に「・」が記載されているものは、紙面裏から表に向かう矢印を表し、「〇」の中に「×」が記載されているものは、紙面表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0007】
図1は断面試料作製装置の概略構成例を示す側視図である。図1において、真空チャンバ1の上部にはイオン銃(イオンビーム照射手段)2が取り付けられている。イオン銃2から放出されるイオンビームIBの中心軸Oiはz軸に略平行である。試料ステージ引出機構3は真空チャンバ1に開閉可能に取り付けられている。図1aは試料ステージ引出機構3が開けられた状態(引き出された状態)、図1bは閉じられた状態を示している。試料ステージ引出機構3が閉じられた状態で加工室18は排気装置17によって真空排気される。試料ステージ引出機構3には試料ステージ4がy軸の周りに傾斜可能に取り付けられている。試料ステージ4上には試料位置調節機構5が配置され、試料位置調節機構5上に装着された試料ホルダ7及び試料ホルダ7に載置された試料6をx及びy軸方向に移動可能なように構成されている。遮蔽材保持機構13に保持された遮蔽材12は、遮蔽材傾倒機構11に傾倒可能に取り付けられている。遮蔽材保持機構13はx軸に平行な軸qの周りに回動して遮蔽材12を試料6上から退避させることができる。試料ステージ4上には遮蔽材位置調節機構10が配置され、y軸方向に移動可能に構成されている。光学顕微鏡15を保持する光学顕微鏡位置調節機構16は、光学顕微鏡傾倒機構14に傾倒可能に取り付けられている。図1bに示すように、試料ステージ引出機構3を閉じる場合、光学顕微鏡15と光学顕微鏡位置調節機構16は、x軸に平行な軸rの周りに回動して真空チャンバ1の外に位置するように構成されている。
【0008】
ここで、図1の構成の断面試料作製装置において、断面作製に先立って行われる断面作成位置決めの手順を簡単に説明する。先ず、試料ステージ引出機構3を閉じて加工室18を真空排気した図1bの状態で、イオンビームIBを試料6上の任意の位置に所定時間照射しイオンビーム痕を形成する。次に、試料ステージ引出機構3を開けて加工室18を大気開放した図1aの状態で、光学顕微鏡位置調節機構16を操作して、イオンビーム痕が光学顕微鏡15の視野中心に来るように光学顕微鏡15の位置調節を行う。これにより、光学顕微鏡15の光軸OLをイオンビーム照射軸Oiに一致させることができる。続いて、操作者は光学顕微鏡15で遮蔽材12を観察しながら、遮蔽材位置調節機構10に設けられた「遮蔽材y移動摘み」(図示せず)を操作することにより、遮蔽材12の端縁部位置を光軸OL上に位置するように調節する。続いて、操作者は光学顕微鏡15で試料6を観察しながら、試料位置調節機構5に設けられた「試料x移動摘み」と「試料y移動摘み」(図示せず)を操作することにより、試料6の断面作製位置が遮蔽材12の端縁部の真下に位置するように調節する。
【0009】
上記のように断面作製位置が決められたら、再び試料ステージ引出機構3を閉じて加工室18を真空排気した図1bの状態とし、イオンビームIBを照射して断面作製を行う。図2は、イオンビームIBの照射により、試料6の遮蔽材に遮蔽されない部分が徐々に切削され、断面が形成される様子を示す模式図である。図1aは切削が始まった直後、図2bは切削途中、図2cは断面作製がほほ完了した状態を示している。
【0010】
【特許文献1】特開平6−20638号公報
【特許文献2】特開平8−115699号公報
【特許文献3】特許第3263920号公報
【特許文献4】特開2005−37164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の特開2005−37164号公報に開示されている光学顕微鏡の役割は、遮蔽材と試料の位置を調節して断面作製位置を決める際に使用されるだけである。そのため、イオンビーム照射による加工中の断面の観察を行うことができず、加工完了後に加工室を大気開放してはじめて所望の断面が得られたか否かを知ることになる。切削が足りなければ、再度試料と遮蔽材の位置を調節して加工を行わなければならない。もし、削り過ぎてしまった場合は、試料そのものを別のものに交換してやり直す必要が有る。即ち、従来のCP法による断面試料作製装置では、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節することができない。仮に位置調整が行えたとしても、加工が進行中の断面を観察する手段が備えられていないため、適切な調節を行うことができないという問題が有る。
【0012】
また、背景技術の中で述べたように、FIBを用いて断面を作製できる大きさは精々数10μm程度であり、数百μm以上の大きな断面を作成することは実用上不可能である。従って、試料の内部構造を知るために試料の端部から輪切りするように試料を削る場合、FIBを用いることができないような大きさの試料は、例えばミクロトームによる断面作製とSEMによる断面観察という大変手間のかかる作業を何回も繰り返す必要があった。CP法によれば、大きな断面をイオンビームで一度に削ることができるが、従来の断面試料作製装置は、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節する機能と観察機能を備えていないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的は、CP法による断面作成において、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節する機能と観察機能をそなえることにより、断面加工の進行状態を素早く簡単に判断でき、断面作製位置の変更や修正を短時間に行える断面試料作製装置を提供することにある。また本発明のもう一つの目的は、CP法による断面試料作製装置において、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節する機能と観察機能をそなえることにより、FIBでは加工が困難な数百μm以上の大きな断面画像を複数枚取得し試料内部の三次元構造の情報を得ることができる断面試料作製装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題を解決するために、本発明は、
試料の一部を遮蔽材で覆い、当該遮蔽材の端縁部を含めて前記遮蔽材側から前記試料にイオンビームを照射することにより、前記試料の前記遮蔽材に遮蔽されない部分を前記イオンビームによって切削し、前記試料の断面を作製するための断面試料作製装置であって、
真空チャンバに取り付けられ、前記試料に前記イオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、
前記真空チャンバ内に格納され、前記遮蔽材の端縁部と前記試料との相対位置を調整するための位置調整機構と、
前記位置調整機構の位置移動を前記真空チャンバ外から制御可能とする移動制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また本発明の断面試料作製装置は、前記位置調整機構が前記遮蔽材の位置を前記試料に対して移動させて断面作製位置を調節する遮蔽材位置調整機構若しくは前記試料を載置する試料ホルダの位置を前記遮蔽材に対して移動させる試料移動機構のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする。
【0016】
また本発明の断面試料作製装置は、前記移動制御手段が前記試料と前記遮蔽材との相対位置の変化量を認識できる位置認識手段を備えることを特徴とする。
【0017】
また本発明の断面試料作製装置は、前記位置認識手段がリニヤスケール又はリニヤエンコーダ又はオプティカルエンコーダのうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする。
【0018】
また本発明の断面試料作製装置は、断面加工のために前記イオンビームを照射中又は照射を中断した時に、前記試料の断面を観察可能な断面観察手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
また本発明の断面試料作製装置は、前記断面観察手段が、光学像、二次電子像、反射電子像、赤外線放射分布像の各像観察手段のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする。
【0020】
また本発明の断面試料作製装置は、前記観察手段と前記試料の断面との間に、真空外から開閉制御可能に構成されたシャッタを備えることを特徴とする。
【0021】
また本発明の断面試料作製装置は、前記観察手段によって得られる断面観察画像を二次元のデジタルデータとして取り込み可能な画像取込手段を備えることを特徴とする。
【0022】
また本発明の断面試料作製装置は、前記画像取込手段によって取り込まれた複数枚の画像から三次元の立体画像を構築する画像処理手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前記真空チャンバ内の真空を保持したまま、断面加工中に若しくは加工を一時中断して前記試料と前記遮蔽材との相対的位置を調節することができるので、加工面の微細な位置の変更や修正を素早く容易に行うことができる。
【0024】
また本発明によれば、前記遮蔽材位置調整機構若しくは前記試料移動機構の少なくとも一つを操作して断面作製位置を調節できるので、加工面の微細な位置の変更や修正を素早く容易に行うことができる。
【0025】
また本発明によれば、前記試料と前記遮蔽材の絶対位置若しくは前記試料と前記遮蔽材との相対位置の何れかを認識できる位置認識手段を備えたことにより、断面作製位置の微細な調節を正確に行うことができる。
【0026】
また本発明によれば、前記位置認識手段がリニヤスケール又はリニヤエンコーダ又はオプティカルエンコーダのうちの少なくとも一つを備えたことにより、前記試料と前記遮蔽材との相対位置を精度良く変えることができる。
【0027】
また本発明によれば、加工が進行中の試料断面の状態を素早く把握できるので、加工面の微細な位置の変更や修正を正確に判断することができる。
【0028】
また本発明によれば、前記断面観察手段が、光学像、二次電子像、反射電子像、赤外線放射分布像(サーモビュアー像)の各像観察手段のうちの少なくとも一つを備えることにより、目的に応じた種類の断面情報を得ることができる。
【0029】
また本発明によれば、前記観察手段と前記試料の断面との間に、真空外から開閉制御可能に構成されたシャッタを備えることにより、イオンビームの照射によって試料や遮蔽材から飛散した粒子が前記観察手段に付着して観察機能を損なうことを防止できる。
【0030】
また本発明によれば、前記観察手段によって得られる画像を二次元のデジタルデータとしてコンピュータに取り込み可能な画像取込手段を備えることにより、加工している途中の断面の画像を連続して取り込むことができる。
【0031】
また本発明によれば、複数枚の画像から三次元の立体画像を構築する画像処理手段を備えることにより、イオンビームで切削された部分の三次元構造に関する情報を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1の従来構成と同一又は類似の動作を行うものには共通の符号を付して説明の重複を避け、本発明で加えられた構成について以下に説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。
【0033】
図3に、本発明を実施する断面試料作製装置の概略構成例を示す。図3において、30と31はそれぞれ試料位置調節機構5と遮蔽材位置調節機構10を駆動するためのアクチュエータ、32と33はそれぞれアクチュエータ30と31を制御するためのコントローラである。34はイオン銃2からのイオンビーム照射を制御するコントローラである。40は光学観察装置(断面観察手段)で、画像取り込み装置42を経て制御演算装置36に画像データが送られる。41は開閉駆動機構を備えたシャッタで、イオンビーム照射によって試料6や遮蔽材12から飛散する粒子による光学観察装置の汚染を防止するために設けられている。シャッタ41はコントローラ43によって開閉が制御される。コントローラ32、33、34、43はインターフェース35を介して制御演算装置36に接続している。37はブラウン管や液晶モニタ等の表示装置、38はマウス、キーボード等の入力装置である。なお図3には図示していないが、図1の従来装置と同様に、試料位置調節機構5と遮蔽材位置調節機構10はアクチュエータ30、31と共に試料ステージ4の上に配置され、試料ステージ引出機構3によって真空チャンバ1に開閉可能に取り付けられている。
【0034】
試料6と遮蔽材12の相対位置の変更を精度良く行うために、試料位置調節機構5と遮蔽材位置調節機構10の少なくとも一つには、リニヤスケール又はリニヤエンコーダ又はオプティカルエンコーダのうちの一つが組み込まれていることが望ましい。これらデジタル制御機器を組み込むことによって、試料6と遮蔽材12の相対位置を微小に変更するときの正確な位置移動量の認識と制御が可能である。
【0035】
制御演算装置36は断面試料作製装置を制御するための各コントローラを制御すると共に、複数枚の二次元画像から三次元の立体画像を生成するソフトウェア(画像処理手段)を備えている。なお、この画像処理を制御演算装置36とは別の専用装置によって行うようにしても良い。
【0036】
図4は、本発明の概略を概念的に説明するための模式図である。イオンビームIBにより加工される試料6の断面に「A」というパターンが現われている。イオンビームを照射中又は照射を中断した時に、光学観察装置40(断面観察手段)によって得られる画像データを表示装置38に送って、試料6の断面をいつでも観察可能である。また、遮蔽材12と試料6との相対位置を移動幅dのステップで変更し、各位置における断面加工が終了する毎に画像データを収集し、複数枚の画像データから立体画像を構築すれば、試料6内部に存在する「A」の三次元構造の情報を得ることができる。
【0037】
次に、図5のフローを参照しながら、図3に示す本発明の断面試料作製装置において、断面加工の進行状態を素早く簡単に判断し、断面作製位置の変更や修正を短時間に行う場合の手順を説明する。
【0038】
ステップS1:試料ステージ引出機構3を開けた状態で、操作者は断面を作製する試料を試料ホルダ7に取り付け、断面作製位置を調節する。調節が完了したら試料ステージ引出機構3を閉じ、排気装置17により加工室18をイオンビーム照射に必要な真空度にまで排気する。
ステップS2:操作者はイオンビームIBの加速電圧、イオン電流、加工時間等の加工条件を入力装置38から指示し設定する。
ステップS3:制御演算装置36は光学観察装置の汚染を防止するために、コントローラ43を介してシャッタ41を閉じる。
ステップ4:制御演算装置36はコントローラ34を介して試料6の遮蔽材12に遮蔽されていない部分にイオンビームIBを照射する。
ステップS5:指定した加工時間が経過したか若しくは操作者から加工中止の指示がなされるまでイオンビームIBの照射を続ける。
ステップS6:操作者から中断の指示があるまでイオンビームIBの照射を続ける。
ステップS7:照射の中断指示があったら、制御演算装置36はコントローラ34を介してイオン銃2によるイオンビームIBの照射を停止し、コントローラ43を介してシャッタ41を開ける。
ステップS8:操作者は光学観察装置40を用いて表示装置37に表示される試料6の加工面を観察する。なお、図示しない照明装置により試料6の加工面は照明されている。
ステップS9:操作者は加工面の観察結果に基づいて断面加工を継続するか否かを判断し、そのまま継続する場合はステップS3に戻る。
ステップS10:加工を継続しない場合、操作者は加工位置の変更を行うか否かを判断する。加工位置の変更を行わなければそのまま終了する。
ステップS11:加工位置を変更する場合は、入力装置38によって試料位置調節機構5又は遮蔽材位置調節機構10を制御し、試料6と遮蔽材12との相対位置を微小移動させステップ3に戻る。
【0039】
上記の手順ではイオンビーム照射中は必ずシャッタ41を閉じるようにしているが、必要に応じてイオンビーム照射中でもシャッタ41を開けて、加工面を観察できるようにしてもよい。
【0040】
次に、次に、図6のフローを参照しながら、図3に示す断面試料作製装置において、試料6の内部構造の情報を得るために断面画像を複数枚取得する手順について説明する。
【0041】
ステップS21:試料ステージ引出機構3が開いた状態で、操作者は断面を作製する試料を試料ホルダ7に取り付け、断面の作製位置を調節する。調節が完了したら試料ステージ引出機構3を閉じ、排気装置17により加工室18をイオンビーム照射に必要な真空度にまで排気する。
ステップS22:操作者はイオンビームIBの加速電圧、イオン電流、一つの断面を作成するための加工時間等の加工条件を入力装置38から指示し設定する。
ステップS23:複数枚の断面画像を収集するために、操作者は移動幅dと位置変更回数、位置移動の制御対象機構(試料6又は遮蔽材12)を入力装置38から指定する。
ステップS24:制御演算装置36は光学観察装置の汚染を防止するために、コントローラ43を介してシャッタ41を閉じる。
ステップS25:制御演算装置36はコントローラ34を介して試料6の遮蔽材12に遮蔽されていない部分にイオンビームIBを照射する。
ステップS26:操作者から終了の指示がなされたらイオンビームIBの照射を停止し断面画像の取得作業を終了する。
ステップS27:一つの断面を作成するための加工時間が経過したら、制御演算装置36はコントローラ34を介してイオン銃2によるイオンビームIBの照射を停止し、コントローラ43を介してシャッタ41を開ける。
ステップS28:画像取込装置42は光学観察装置40から試料6の断面画像を取り込み、制御演算装置36に送る。
ステップS29:指定された回数の位置変更とその位置における断面画像の取り込みが完了するまでステップS24に戻り、加工と断面画像の取得作業を続ける。
【0042】
上記の手順ではイオンビーム照射中は必ずシャッタ41を閉じるようにしているが、必要に応じてイオンビーム照射中でもシャッタ41を開けて、加工面を観察できるようにしてもよい。また、位置変更回数を予め指定せずに、操作者の指示によって作業の途中に終了するようにしてもよい。また、指定される移動幅dは必ずしも等間隔でなくてもよい。
【0043】
以上に説明した本発明の実施の形態は、光学観察装置により試料断面を観察する例であるが、試料の断面観察手段は必ずしも光学観察装置に限定される必要は無い。例えば、小型電子銃と二次電子検出器及び/又は反射電子検出器を加工室内に組み込み、イオンビーム照射を中断した時に二次電子像及び/又は反射電子像を観察するようにしてもよい。また例えば、赤外線検出器を組み込んで赤外線放射分布像(サーモビュアー像)を観察するようにしても良い。光学観察像、二次電子像、反射電子像、赤外線放射分布像のうちの複数像を同時観察できるようになっていても良い。
【0044】
以上述べたように、CP法による断面作成において、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節する機能と観察機能をそなえることにより、断面加工の進行状態を素早く簡単に判断でき、断面作製位置の変更や修正を短時間に行えるようになった。また、断面加工中に若しくは加工を一時中断して試料や遮蔽材の位置を調節する機能と観察機能をそなえることにより、FIBでは加工が困難な数百μm以上の大きな断面画像を複数枚取得し試料内部の三次元構造の情報を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0045】

【図1】従来の断面試料作製装置の概略構成例を示す側視図。
【図2】CP法による断面加工の様子を説明するための模式図。
【図3】本発明の断面試料作製装置の概略構成例を示すブロック図。
【図4】本発明の基本概念を説明するための図。
【図5】本発明において、加工の途中に断面観察を行う場合の手順例を示すフロー図。
【図6】本発明において、複数の断面画像を取り込む場合の手順例を示すフロー図。
【符号の説明】
【0046】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
IB イオンビーム q、r x軸に平行な軸
Oi イオンビーム照射軸 OL 光軸
1 真空チャンバ 2 イオン銃
3 試料ステージ引出機構 4 試料ステージ
5 試料位置調節機構 6 試料
7 試料ホルダ 10 遮蔽材位置調節機構
11 遮蔽材傾倒機構 12 遮蔽材
13 遮蔽材保持機構 14 光学顕微鏡傾倒機構
15 光学顕微鏡 16 光学顕微鏡位置調節機構
17 排気装置 18 加工室
30、31 アクチュエータ 32、33、34 コントローラ
35 インターフェース 36 制御演算装置
37 表示装置 38 入力装置
40 光学観察装置(断面観察手段) 41 シャッタ
42 画像取込装置 43 シャッタ駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の一部を遮蔽材で覆い、当該遮蔽材の端縁部を含めて前記遮蔽材側から前記試料にイオンビームを照射することにより、前記試料の前記遮蔽材に遮蔽されない部分を前記イオンビームによって切削し、前記試料の断面を作製するための断面試料作製装置であって、
真空チャンバに取り付けられ、前記試料に前記イオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、
前記真空チャンバ内に格納され、前記遮蔽材の端縁部と前記試料との相対位置を調整するための位置調整機構と、
前記位置調整機構の位置移動を前記真空チャンバ外から制御可能とする移動制御手段とを備えたことを特徴とする断面試料作製装置。
【請求項2】
前記位置調整機構が前記遮蔽材の位置を前記試料に対して移動させて断面作製位置を調節する遮蔽材位置調整機構若しくは前記試料を載置する試料ホルダの位置を前記遮蔽材に対して移動させる試料移動機構のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1に記載の断面試料作製装置。
【請求項3】
前記移動制御手段が前記試料と前記遮蔽材との相対位置の変化量を認識できる位置認識手段を備えることを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項4】
前記位置認識手段がリニヤスケール又はリニヤエンコーダ又はオプティカルエンコーダのうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項5】
断面加工のために前記イオンビームを照射中又は照射を中断した時に、前記試料の断面を観察可能な断面観察手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項6】
前記断面観察手段が、光学像、二次電子像、反射電子像、赤外線放射分布像の各像観察手段のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項7】
前記観察手段と前記試料の断面との間に、真空外から開閉制御可能に構成されたシャッタを備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項8】
前記観察手段によって得られる断面観察画像を二次元のデジタルデータとして取り込み可能な画像取込手段を備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の断面試料作製装置。
【請求項9】
前記画像取込手段によって取り込まれた複数枚の画像から三次元の立体画像を構築する画像処理手段を備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の断面試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−333682(P2007−333682A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168912(P2006−168912)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】