説明

イオンビーム引出し用電極およびこれを備えたイオン源

【課題】電界の染み出し量を小さくして、イオン源より所望するイオンビームの引出しを容易に行うことのできるイオンビーム引出し用電極とこれを備えたイオン源を提供する。
【解決手段】イオン引出し用電極1は、中央に開口部3を有する電極枠体2と、開口部3内に少なくとも一方の端部が移動可能に支持されて、一方向に沿って互いに隙間を開けて並べられた複数のイオン引出し孔形成部材7とを有している。そして、イオン引出し孔形成部材7の少なくとも一つは、略棒状の本体部5と本体部5から延設された渡り部6とを有する構造体であって、1つのイオン引出し孔形成部材7を構成する渡り部6は隣りに配置された別のイオン引出し孔形成部材7に当接している。また、イオン源の構成としては、内部に陰極を備えたプラズマ容器に隣接して、上記のイオン引出し用電極1を少なくとも1枚以上備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ容器からイオンビームを引出す為に用いられるイオンビーム引出し用電極とこれを備えたイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ容器からイオンビームを引出す為の電極として、イオンを通過させる為の複数の円形状やスリット状のイオン引出し孔を有した電極が知られている。この電極は複数枚の電極を組にしてイオン源で使用されていて、イオンビームの引き出し方向に沿って、各電極に形成されたイオン引出し孔の位置が同じ位置になるようにしてイオン源のプラズマ容器に隣接して並べられている。
【0003】
イオン源の運転時には、各電極に適切な電圧を印加させてプラズマ容器内で発生したプラズマよりイオンビームの引き出しが行われる。この際、プラズマ容器より引出されたイオンの電極への衝突や高温に熱せられたプラズマ容器からの熱伝達等によって、各電極の温度も高温になる。この為、電極材料としては高温に耐えうる高融点材料が用いられている。
【0004】
しかしながら、このような高融点材料を用いても微量ではあるが熱変形が生じる。イオン源の運転時間が長時間になるほど、微量な熱変形量が積み重なってその変形量は大きなものになってしまう。電極の熱変形量が大きくなると、各電極に形成されたイオン引出し孔の位置がずれてしまうので、所望する引出角度や所望する電流量のイオンビームを引出すことが困難になってしまう。
【0005】
そこで、このような熱変形を抑制するために、特許文献1に記載の電極が使用されている。この電極のスリット状のイオンビーム引出し孔は、電極支持枠に形成された開口内に並べられた複数本のロッド間の隙間に形成されている。そして、当該ロッドの長さ方向における端部はその長さ方向に沿って移動可能となるように、電極支持枠に支持されている。具体的には、電極支持枠の側壁にロッドを通す為の穴を形成しておき、この穴にロッドを通したとき、ロッドの長さ方向における端部と穴の終端部との間に余裕部(空間)が設けられるようにしている。
【0006】
このようなロッドを用いた構成では、電極が高温となった際、ロッドの熱による伸縮は主にその長さ方向に発生する。しかしながら、熱伸縮が発生するロッドの長さ方向の端部を固定せずに、ロッドを電極支持枠に支持するようにしているので、見かけ上、ロッドの熱伸縮が生じていないようにすることができる。その結果、複数のロッド間に形成されるスリット状のイオン引出し孔の形状をほぼ一定に保つことができ、ひいてはイオンビームの引出し方向に沿って配置された各電極間でのイオン引出し孔の位置ずれを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−148106号公報(図3、図5〜図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオンビームは各電極間に適切な電位差を設定することによってプラズマ容器から引出される。この際、電極間に発生した電界は一方の電極に形成されたイオン引出し孔を通じて電極外部に染み出してしまう恐れがある。この電界の染み出し量はイオン引出し孔の開口面積に関連しており、開口面積が大きいほど電界の染み出し量が多くなる。
【0009】
スリット状のイオン引出し孔が形成された電極とこの電極のイオン引出し孔の短辺方向と同じ寸法の直径を有する円形状のイオン引出し孔が形成された電極とで電界の染み出し量を比較すると、次のようになる。
【0010】
図14(A)、図14(B)にはイオン引出し開口部22が形成されたプラズマ容器21とイオンビーム引出し用の4枚の電極23〜26を有するイオン源20が描かれている。図14(A)に示される電極23〜26にはスリット状のイオン引出し孔4が形成されていて、図14(B)に示される電極23〜26には円形状のイオン引出し孔4が形成されている。この際、図示される矢印A方向におけるイオンビーム引出し孔4の開口面積に着目すると、形状は異なるものの両図に描かれているイオン引出し孔4の寸法がほぼ同じであることから、矢印A方向での電界の染み出し量は両電極でほぼ同じになる。一方で、矢印Bの方向に着目すると、スリット状のイオン引出し孔4を備えた電極の方が円形状のイオン引き出し孔4を備えた電極と比較して、イオンビーム引出し孔4の開口面積は大きい。なお、プラズマ容器21内には、従来から知られているように図示されない陰極(フィラメント)とガス導入口が設けられている。
【0011】
プラズマ容器21内に生成されるプラズマの電極側端部の形状は、加速電極23と引出し電極24との間に発生する電界の強度に関係する。イオンビームを引出す際、引出されるイオンビームのエネルギーやイオンビームの引出角度等の条件に応じて、4枚の電極のうち、主に加速電極23と引出し電極24との間で発生する電界の強度が変更される。電界強度が弱いとプラズマの端部は加速電極23側に移動し、イオンビームが引出される方向に沿ってプラズマ端部の形状は凸状となる。一方、電界強度が強いとプラズマの端部はプラズマ容器21の内側に移動し、イオンビームが引出される方向とは反対方向に沿ってプラズマ端部の形状が凸状となる。
【0012】
前述したように特許文献1のようなスリット状のイオン引出し口4を有する電極では電極間で発生する電界の染み出し量が大きいので、プラズマ端部もそれに合わせて大きく膨らむ。その為、スリット状のイオン引出し口4を有する電極では、電界強度が弱い場合、プラズマの端部は加速電極23を越えて引出し電極24の表面にまで移動して電極間の短絡を引き起こしてしまい、イオンビームの引出しを行うことが出来なくなってしまう恐れがある。一方で、電界強度が強い場合、プラズマ端部がプラズマ容器21の内側に向けて突出する量が多くなるので、引出されるイオンビームの引出角度が過度に小さくなることが懸念される。引出角度が過度に小さくなった場合、イオン源20より引出されるイオンビームの幅が必要以上に小さなものになってしまい、所望する幅を有するターゲット(シリコンウェーハやガラス基板等)の全面に対してイオンビームの照射ができなくなってしまう恐れがある。
【0013】
そこで、本発明では電界の染み出し量を小さくして、イオン源より所望するイオンビームの引出しを容易に行うことのできるイオンビーム引出し用電極とこれを備えたイオン源を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るイオンビーム引出し用電極は、中央に開口部を有する電極枠体と、前記開口部内に少なくとも一方の端部が移動可能に支持されて、一方向に沿って互いに隙間を開けて並べられた複数のイオン引出し孔形成部材とを有するイオンビーム引出し用の電極であって、前記イオン引出し孔形成部材の少なくとも一つは、略棒状の本体部と前記本体部から延設された渡り部とを有する構造体であって、1つのイオン引出し孔形成部材を構成する前記渡り部は、当該イオン引出し孔形成部材の隣りに配置された別のイオン引出し孔形成部材に当接している。
【0015】
また、前記渡り部が当接する前記イオン引出し孔形成部材の場所には凹み部が形成されていることが望ましい。
【0016】
そのうえ、前記渡り部と前記凹み部は同じ本体部に設けられており、前記本体部の一端より前記渡り部が延設されているとともに、前記本体部の他端に前記凹み部が形成されていることが望ましい。
【0017】
また、前記開口部内に並べられた前記イオン引出し孔形成部材は、全て同一形状の部材であることが望ましい。
【0018】
一方、前記開口部内に並べられた前記イオン引出し孔形成部材の個数は4つ以上であり、このうち前記開口部の両端に位置する前記イオン引出し孔形成部材を除いては、前記イオン引出し孔形成部材の形状は全て同一形状の部材であることが望ましい。
【0019】
また、前記イオン引出し孔形成部材の前記渡り部と前記凹み部は、前記開口部内で複数のイオン引出し孔形成部材が並べられた方向に沿って設けられていることが望ましい。
【0020】
さらに、イオン源の構成としては、内部に陰極が配置されたプラズマ容器と、前記プラズマ容器に隣接配置された少なくとも1枚の上記したイオン引出し用電極とを備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
少なくとも1つのイオン引出し孔形成部材を略棒状の本体部とそこから延設された渡り部とで構成するとともに、この渡り部を隣りに配置されたイオン引出し孔形成部材に当接させるようにしたので、従来技術に開示されているロッドを用いた電極構成に比べて、イオン引出し孔より染み出す電界の染み出し量を小さくすることができる。その為、従来の構成に比べてイオン源より所望するイオンビームの引出しを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の一例を示す。
【図2】図1に記載のイオンビーム引出し用電極から蓋体を外したときの様子を表す。
【図3】図1に記載のイオン引出し孔形成部材の斜視図を表す。(A)はYZ平面における本体部の断面が円形状のイオン引出し孔形成部材で、(B)はYZ平面における本体部の断面が四角形状のイオン引出し孔形成部材で、(C)はYZ平面における本体部の断面が凸形状のイオン引出し孔形成部材である。
【図4】図1に記載のイオン引出し孔形成部材のX方向に沿った両端部の支持構造を表す。(A)はイオン引出し孔形成部材の両端部の様子を描いた斜視図で、(B)は(A)に記載のV1線における切断面を表し、(C)は(A)に記載のW1線における切断面を表す。
【図5】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第1の変形例を示す。
【図6】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第2の変形例を示す。
【図7】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第3の変形例を示す。
【図8】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第4の変形例を示す。
【図9】図6〜8に記載のイオン引出し孔形成部材の斜視図を表す。(A)は図6に記載の第2の変形例に対応し、(B)は図7に記載の第3の変形例に対応し、(C)は図8に記載の第4の変形例に対応する。
【図10】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第5の変形例を示す。
【図11】本発明で用いられるイオンビーム引出し用電極の第6の変形例を示す。
【図12】イオン引出し孔形成部材の一部を拡大したときの様子を表す。(A)は図10に記載の第5の変形例に対応し、(B)は図11に記載の第6の変形例に対応する。
【図13】図4に記載のイオン引出し孔形成部材のX方向に沿った両端部の支持構造の変形例である。(A)はイオン引出し孔形成部材の両端部の様子を描いた斜視図で、(B)は(A)に記載のV2線における切断面を表し、(C)は(A)に記載のW2線における切断面を表す。
【図14】従来から用いられているイオン源の例を表す。(A)はスリット状のイオン引出し孔がイオンビーム引出し用電極に形成された例を表し、(B)は円形状のイオン引出し孔がイオンビーム引出し用電極に形成された例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施形態において、各図に描かれているX、Y、Zの各軸は互いに直交している。
【0024】
図1、図2には、本発明で用いられるイオンビーム引き出し用電極1の例が描かれている。このイオンビーム引出し用電極1は、例えば、図14(A)に描かれたイオン源20を構成する複数枚の電極23〜26の1つに相当する。
【0025】
電極の構成について、図1、図2に基づいて具体的な説明を以下に行う。本発明のイオン引出し用電極1は中央に開口部3を有する電極枠体2を有している。この開口部3は図示されるZ方向に電極枠体2を貫通しており、開口部3内には複数のイオン引出し孔形成部材7がY方向に沿って互いに隙間を空けて並べられている。
【0026】
Y方向において、個々のイオン引出し孔形成部材7の間と両端に配置されたイオン引出し孔形成部材7と電極枠体2との間にはイオン引出し孔4が形成されていて、この孔を通してイオンビームの引出しが行われる。
【0027】
図2に開示されているように、この電極枠体2にはその表面よりZ方向側に凹んだ支持部10が形成されており、ここにイオン引出し孔形成部材7の両端部(X方向に沿う方向における端部)が支持されている。また、X方向に沿った方向において、イオン引出し孔形成部材7の両端部の少なくとも一方と支持部10との間には隙間が設けられている。このような構成にすることで、特許文献1に記載のように、X方向に沿った方向においてイオン引出し孔形成部材7の熱変形による伸縮を許容することができる。
【0028】
この例では、Z方向と反対側の方向において、支持部10に支持されたイオン引出し孔形成部材7の端部を覆うように蓋体6が設けられている(図1参照)。この蓋体6はZ方向反対側へのイオン引出し孔形成部材7の抜け落ちを防止する為に設けられていて、蓋体6に形成された図示されない貫通孔を通して電極枠体2に形成されたネジ穴11にネジ8が螺合されることで、蓋体6の電極枠体2への取り付けが行われている。このような構成を用いることにより、特許文献1に記載の構成に比べて、熱により変形したイオン引出し孔形成部材7(特許文献1のロッドに相当)の交換を簡単に行うことができる。
【0029】
図3(A)〜(C)には図1、図2に描かれたイオン引出し孔形成部材7の斜視図が描かれている。イオン引出し孔形成部材7はX方向に沿った略棒状の本体部5と本体部5から延設された渡り部6とを有している。また、渡り部6は隣りに配置されたイオン引出し孔形成部材7に物理的、電気的に当接していて、当接部分には渡り部6を収納し、これを支持する為の凹み部12が形成されている。このような構成を採用したので、特許文献1に開示されているロッドを用いた電極構成に比べて、イオン引出し孔より染み出す電界の染み出し量を小さくすることができる。その為、イオン源より所望するイオンビームの引出しを容易に行うことができる。
【0030】
また、Y方向において、凹み部12の側壁と渡り部6の先端部とは接触しないようにしておくことが望ましい。具体的には、凹み部12の側壁と渡り部6との間に隙間を設けておく。このような構成を用いることで、渡り部6の熱による伸縮を許容することができる。
【0031】
イオン引出し孔形成部材7のYZ平面における形状は、図3(A)に示されているような円形状のものであっても良いし、図3(B)に示されているような四角形状のものであっても良い。また、図3(C)に示されているような凸形状のものであっても良い。引出し時のイオンビームの形状制御や引出されるイオンビームの電流量の制御がやり易いような形状にしておけば良い。
【0032】
図4(A)には図2に記載のイオン引出し孔形成部材7のX方向に沿った両端部の支持構造が描かれている。また、図4(B)と図4(C)には、図4(A)に記載のV1線、W1線における断面の様子がそれぞれ描かれている。この図4(A)に記載されているように、X方向に沿った方向において、イオン引出し孔形成部材7の両端部は支持部10の側壁に接触していない。つまり、イオン引出し孔形成部材7の両端部と支持部10の側壁との間には隙間が設けられている。このような構成を採用することで、イオン引出し孔形成部材7のX方向における熱伸縮を許容することができる。なお、図示されている構成に限らず、先述したように、イオン引出し孔形成部材7の一方の端部と支持部10との間に隙間が形成されていれば良い。つまり、X方向に沿った方向においてイオン引出し孔形成部材7のいずれか一方の端部は、支持部10の側壁に当接していても良い。
【0033】
本発明のイオン引出し孔形成部材7の構成は、これまでに述べたものに限られない。図5には、イオン引出し孔形成部材7の第1の変形例が描かれている。
【0034】
図1、図2に描かれた複数のイオン引出し孔形成部材7では、Y方向に沿った方向おいて、電極枠体2に形成された開口部3内の両端に配置されたイオン引出し孔形成部材7とそれ以外の場所に配置されたイオン引出し孔形成部材7との形状が異なっていた。これに対して、図5に示す第1の変形例では全てのイオン引出し孔形成部材7の形状が同一である。このような構成を採用すると、部材を共通して使用することができるので、イオン引出し孔形成部材7の製造費用を安くすることができる。なお、この場合、紙面の最も下側に描かれているイオン引出し孔形成部材7の渡り部6は電極枠体2に形成された凹み部12によって支持されるように構成しておけば良い。
【0035】
図6には、イオン引出し孔形成部材7の第2の変形例が描かれている。この図6に描かれているように、各イオン引出し孔形成部材7の渡り部6の本数は2本でも良い。また、これに限らず、2本よりも多い本数にしても良い。例えば、何本にするかは、イオン引出し孔4からの電界の染み出し量と引出されるイオンビームの電流量との関係で、適宜、選択されるようにしておけば良い。
【0036】
図7には、イオン引出し孔形成部材7の第3の変形例が描かれている。この例に示されているように、渡り部6を有するイオン引出し孔形成部材7と渡り部6を有さないイオン引出し孔形成部材7を設けるようにしておいても良い。図7の例では、1つのイオン引出し孔形成部材7の本体部5から延設された渡り部6は、隣りに配置されたイオン引出し孔形成部材7の凹み部12に当接支持されているとともに、この凹み部12を越えて2つ隣りに配置されたイオン引出し孔形成部材7の凹み部12にまで、その先端が延設されている。
【0037】
図8には、イオン引出し孔形成部材7の第4の変形例が描かれている。この図に描かれているように、Y方向に沿って渡り部6が本体部5の両側に設けられているイオン引出し孔形成部材7を用いても良い。
【0038】
図9(A)〜(C)には、図6〜図8に描かれるイオン引出し孔形成部材7の斜視図が描かれている。図9(A)は図6に対応しており、イオン引出し孔形成部材7の本体部5より2つの渡り部6が延設され、隣りのイオン引出し孔形成部材7の凹み部12に支持されている様子が描かれている。図9(B)は図7に対応しており、1つのイオン引出し孔形成部材7の渡り部6が隣りのイオン引出し孔形成部材7の凹み部7を介して、2つ隣りのイオン引出し孔形成部材7の凹み部12に支持されている様子が描かれている。図9(C)は図8に対応しており、1つのイオン引出し孔形成部材7を構成する本体部5の両側に渡り部6が設けられている様子が描かれている。
【0039】
図10には、イオン引出し孔形成部材7の第5の変形例が描かれている。この例では、イオン引出し孔形成部材7の本体部5より延設された渡り部6の先端に凹み部12が形成されている。この構成の詳細については後述する図12(A)を基に説明する。
【0040】
図11には、Y方向に沿って並べられたイオン引出し孔形成部材7の渡り部6の本数が、イオン引出し孔形成部材7ごとに交互に異なっている様子が描かれている。このようなイオン引出し孔形成部材7を用いても良い。
【0041】
図12(A)、(B)には図10と図11に描かれるイオン引出し孔形成部材7の斜視図が描かれている。図12(A)は図10に対応しており、隣り合うイオン引出し孔形成部7の渡り部6の先端部に形成された凹み部12が、Z方向において、互いに重なっている様子が描かれている。また、図12(B)は図11に対応しており、隣り合うイオン引出し孔形成部材7の渡り部6の本数が異なっている様子が描かれている。
【0042】
これまでに説明した実施形態では、渡り部6の延設方向はY方向に沿ったものであったが、これに限らず、Y方向とある角度をもった方向に延設されていても良い。
【0043】
また、複数のイオン引出し孔形成部材7の渡り部6は一直線上に配置されている必要はなく、個々のイオン引出し孔形成部材7で、渡り部6の設けられるX方向における位置を変更しても良い。
【0044】
さらに、全てのイオン引出し孔形成部材7に渡り部6が形成されている必要はなく、例えば、開口部3の中央付近に並べられた数本のイオン引出し孔形成部材7にのみ渡り部6が形成されているようにしておいても良い。
【0045】
また、イオン源の構成としては、これまで述べてきたイオンビーム引出し用電極1を有するイオン源であれば良い。例えば、図14(A)に示した従来の構成のイオン源20で、複数の電極23〜26のそれぞれにイオンビーム引出し用電極1が用いられていてもいい。一方、加速電極23のみに本発明のイオンビーム引出し用電極1を用いるようにしても良い。加速電極23以外の電極に本発明のイオンビーム引出し用電極1を用いた場合、加速電極23を用いてプラズマより引出されたイオンが加速電極23以降の電極24〜26の渡り部6に衝突する可能性がある。イオンが衝突すると電極から2次電子が放出され、この2次電子によって放電が発生する恐れがある。その為、このような放電の発生を抑制する為に、加速電極23のみに本発明のイオンビーム引出し用電極1を用いることが考えられる。また、ここで述べたような4枚電極を備えたイオン源である必要はなく、このような電極を1枚以上備えた構成のイオン源であれば良い。
【0046】
さらに、本体部5の構成は略棒状であればよく、必ずしも棒のようにまっすぐになっている必要はない。つまり、若干、歪んでいるような形状のものであっても良い。
【0047】
一方、これまでの実施形態では、凹み部12に渡り部6を当接させる構成について説明してきたが、凹み部12を設けずに、渡り部6を隣接するイオン引出し孔形成部材7の上に直接乗せるようにしておいても良い。この際、イオン引出し孔形成部材7の姿勢が不安定となることから、渡り部6の先端を略コの字状にしておき、これを隣りに配置されたイオン引出し孔形成部材7の本体部5にひっかけるように構成しておくことが考えられる。
【0048】
図13(A)には図4で説明したイオン引出し孔形成部材7のX方向に沿った両端部の支持構造についての変形例が描かれている。また、図13(B)と図13(C)には、図13(A)に記載のV2線、W2線における切断面の様子がそれぞれ描かれている。
【0049】
図13(B)に描かれているように、X方向と反対側に位置するイオン引出し孔形成部材7の端部のZ方向における寸法は、同方向における支持部10の寸法に比べて大きい。その為、イオン引出し孔形成部材7の一部が支持部10から突出している。また、支持部10の上方を覆う蓋体9の一部は、イオン引出し孔形成部材7の支持部10より突出した部分の形状に沿って形成されていて、電極枠体2に蓋体9が取り付けられることで、Z方向に向けてイオン引出し孔形成部材7を支持部10に押し付けるように構成されている。この為、X方向と反対側でのイオン引出し孔形成部材7の端部は固定された状態で支持部10に支持されることになる。一方、図13(C)に描かれているように、X方向側でのイオン引出し孔形成部材7の端部は、図4(C)の例で示したものと同様に、移動可能な状態で支持部10に支持されている。
【0050】
イオン引出し孔形成部材7の両端部を移動可能に支持する構成に代えて、上記例で示したようにイオン引出し孔形成部材7の一端部を固定し、他端部を移動可能に支持するようにしておくようにしても良い。このような構成を用いても、一方の端部が移動可能に支持されているので、イオン引出し孔形成部材7の熱伸縮を許容することができる。
【0051】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1・・・イオンビーム引出し用電極
2・・・電極枠体
3・・・開口部
4・・・イオン引出し孔
5・・・本体部
6・・・渡り部
7・・・イオン引出し孔形成部材
20・・・イオン源
21・・・プラズマ容器





【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に開口部を有する電極枠体と、
前記開口部内に少なくとも一方の端部が移動可能に支持されて、一方向に沿って互いに隙間を開けて並べられた複数のイオン引出し孔形成部材とを有するイオンビーム引出し用の電極であって、
前記イオン引出し孔形成部材の少なくとも一つは、略棒状の本体部と前記本体部から延設された渡り部とを有する構造体であって、1つのイオン引出し孔形成部材を構成する前記渡り部は隣りに配置された別のイオン引出し孔形成部材に当接していることを特徴とするイオンビーム引出し用電極。
【請求項2】
前記渡り部が当接する前記イオン引出し孔形成部材の場所には凹み部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム引出し用電極。
【請求項3】
前記渡り部と前記凹み部は同じ本体部に設けられており、前記本体部の一端より前記渡り部が延設されているとともに、前記本体部の他端に前記凹み部が形成されていることを特徴とする請求項2記載のイオンビーム引出し用電極。
【請求項4】
前記開口部内に並べられた前記イオン引出し孔形成部材は、全て同一形状の部材であることを特徴とする請求項1、2または3記載のイオンビーム引出し用電極。
【請求項5】
前記開口部内に並べられた前記イオン引出し孔形成部材の個数は4つ以上であり、このうち前記開口部の両端に位置する前記イオン引出し孔形成部材を除いては、前記イオン引出し孔形成部材の形状は全て同一形状の部材であることを特徴とする請求項1、2または3記載のイオンビーム引出し用電極。
【請求項6】
前記イオン引出し孔形成部材の前記渡り部と前記凹み部は、前記開口部内で複数のイオン引出し孔形成部材が並べられた方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1、2または3記載のイオンビーム引出し用電極。
【請求項7】
内部に陰極が配置されたプラズマ容器と、前記プラズマ容器に隣接配置された請求項1、2、3、4、5または6記載のイオンビーム引出し用電極を少なくともと1枚以上備えたイオン源。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−98003(P2013−98003A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239552(P2011−239552)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】